説明

繊維材料処理のための組成物

リン酸のトリエステルと、カルボン酸及び芳香族を含まないアルコールをベースとするポリエステルとを含む組成物は、繊維材料を処理するのに有用である。本処理により、繊維材料、例えば、ポリエステルを含む織布に難燃性が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料、特に織物繊維、毛糸又は布地を処理するための組成物に関する。本発明による組成物で処理することにより、繊維材料に難燃性特性が付与される。
【背景技術】
【0002】
リン化合物で処理することにより、繊維材料からなる織物又は裏無しプラスチックフィルムに難燃性を付与することが知られている。これは、とりわけUS3374292号、DE-A2509592、及びChemical Abstracts (AN 141 :175439 CA and AN 141 :175 440 CA)記載のJP2004-225175A2及びJP2004-225176A2の要約からも明らかである。
【0003】
繊維材料に難燃性を付与するために使用する従来技術の組成物は、不都合な点を有する。例えば、許容可能な防炎性を達成するためには、しばしば、比較的高いリン化合物量が必要とされる。これは、繊維材料が、全て又は主としてポリエステルである場合にも、当てはまる。
【0004】
本発明は、現行のリン化合物による仕上げよりも、繊維材料上の組成物の少ない付加量で、全て又は主にポリエステルからなる繊維材料に優れた難燃仕上げを付与するための組成物を提供することを目的とする。本発明は、処理された繊維材料の優れた難燃特性を導く、繊維材料、特にポリエステル繊維材料を処理するプロセスを開発することをさらなる目的とする。
【0005】
発明者らは、少なくとも1つの成分A及び少なくとも1つの成分Bを含む組成物であって、成分Aが、リン酸のトリエステルであり、成分Bが、アルコールから誘導される単位に芳香族基を含まず、酸から誘導される単位の0%〜10%に芳香族基を含むポリエステルである、組成物により、また、上記の種類の組成物を繊維材料に適用することを含む繊維材料を処理するためのプロセスによりこの目的が達成されることを見出した。
【0006】
繊維材料のための優れた難燃性特性は、本発明による組成物で処理することにより得ることができる。繊維材料は、繊維又は毛糸であることができる;好ましくは、織布又は不織布の形態の織物である。本発明による組成物は、80%〜100重量%の範囲に至るポリエステル、特にポリエチレンテレフタラート又はポリブチレンテレフタラートからなる繊維材料にさえ、優れた難燃性特性を付与する。このようなポリエステル材料の処理は、本発明による組成物の好ましい使用となる。しかし、他の繊維材料にも難燃性を付与することができる、その例は、羊毛又はポリエステルを80重量%未満含む混合繊維からなる繊維材料である。
【0007】
繊維材料の処理に使用すると、従来技術における慣用のリン化合物よりも低い含浸量で繊維材料に優れた難燃性特性を実現することができることが、本発明による組成物の特に有利な点である。これは、達成される難燃性効果が、成分A単独又は成分B単独の使用による効果よりも際立って高いことから、明らかに、本発明による組成物の2つの成分(成分A及びB)のプラスの相乗効果によるものである。このプラスの相乗効果は、特に成分B単独では難燃性効果が全くないことから、当業者にとり予想外であり驚きである。
【0008】
成分A及び成分Bの両方を、ハロゲンを含まない化合物から選択することができ、なおかつ優れた難燃性効果を実現できることは、本発明による組成物のさらなる利点である。従来技術、ハロゲン含有組成物は、これに比べ、当業者に公知の不都合な点を付与する場合がある。
【0009】
本発明による組成物は、少なくとも1つの成分A及び少なくとも1つの成分Bを含む。本組成物は、下記の成分Aの定義に該当する化合物の混合物及び/又は下記の成分Bの定義に該当する化合物の混合物をさらに含んでよい。本組成物は、さらに加えて、成分Aの定義にも成分Bの定義にも含まれない製品をも含んでよい。このような製品には、例えば、公知の織物用柔軟剤、界面活性剤、担体、拡散促進剤等が含まれる。しかし、好ましくは、本発明による組成物は、ハロゲン化合物も、好ましくは下記の成分Bの定義に該当しないポリエステルを一切含まない。
【0010】
本発明の組成物中の成分Aは、オルトリン酸のトリエステルである。すなわち、オルトリン酸の3つのすべてのヒドロキシル基O=P(OH)は、アルコール化合物でエステル化される。これらの3つのアルコール単位は、同一又は異なってよい。好ましくは、3つのアルコール単位すべてが、一価又は二価の芳香族アルコールから選択される。フェノール及びレゾルシノールは、リン酸トリエステルのアルコール単位として特に有用である。本発明による組成物の特に好ましい実施態様において、成分Aは、式(I)又は式(II)の化合物又はそれらの混合物である:
【化1】


(式中Arは、一価の芳香族基、好ましくはフェニルである。)
【0011】
Arがフェニルである式(II)の化合物(以下「RDP」と称する)は、市販されており、かつUS5457221で教示されているように得ることができる。
【0012】
芳香族基を含有する上述の好ましいトリエステルに代えて又はそれに加えて、本発明による組成物は、芳香族基を含有しないオルトリン酸のトリエステルをさらに含んでよい。トリ−n−ブチルホスフェートを例に挙げる。
【0013】
本発明による組成物中の成分Bは、酸及びアルコールから誘導される単位で構成されたポリエステルである。アルコールから誘導される単位が、芳香族基を一切含有しないことが非常に重要である。さもなければ、完成品の織物に優れた難燃効果を実現することは不可能であるか/又は他の不都合が生じる。
【0014】
好ましくは、成分Bとして使用するポリエステルは、芳香族基を全く含有しない;すなわち、酸から誘導される単位も、好ましくは芳香族基を含有しない。しかし、アルコールの単位とは異なり、酸の単位は、ごくわずかな芳香族基を含有してもよい。しかし、酸単位のポリエステル中のこのごくわずかな量は、酸から誘導される単位の総数に基づき、10%を超えてはならない。
【0015】
本発明による組成物の特に好ましい実施態様において、成分Bは、脂肪族α,ω−ジカルボン酸及び脂肪族二価又は多価のアルコールで構成されたポリエステルであり、二価又は多価のアルコールは、好ましくは、2つの鎖末端のそれぞれに結合するヒドロキシル基を有する。
【0016】
4〜10個の炭素原子を有する脂肪族α,ω−ジカルボン酸、特に上述の種類の非分岐鎖のジカルボン酸は、本明細書の好ましい実施態様との関連における酸として非常に有用である。成分Bとして使用されるポリエステルがアジピン酸とアルコールとで構成されている場合、とりわけ優れた結果を得ることができる。成分Bとして有用なポリエステルのアルコール単位は、好ましくは、2つの鎖末端のそれぞれにヒドロキシル基を有する脂肪族二価又は多価のアルコールから誘導される。この二価又は多価のアルコールは、分岐鎖又は直鎖の構造を有してよい。ポリエステルに非常に有用なアルコールには、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールが含まれる。
【0017】
成分Bとして使用されるポリエステルは、上記のとおり、ジカルボン酸及び脂肪族二価又は多価のアルコールから構成されることができる。別の可能性は、ヒドロキシカルボン酸から、好ましくは、酸及びアルコール単位が同じ分子中に存在するω−ヒドロキシ 1−カルボン酸から誘導されるポリエステルを使用することである。適切なポリエステルの調製は、ω−ヒドロキシ 1−カルボン酸又はそのラクトンから開始することができる。上述のポリエステルのうち、好ましいのは、カプロラクトンから誘導されるものである。
【0018】
成分Bとして有用なポリエステルは、単一種類のカルボン酸から及び単一種類のアルコールから構成されることができる。しかし、複数の異なる種類のカルボン酸及び/又は複数の異なる種類のアルコールから構成されることもできる。好ましくは、使用されるカルボン酸のすべて及びアルコールのすべてが、上述の化合物類から選択される。カプロラクトンと多価のアルコールとの混合物から誘導されるポリエステル、例えば、ネオペンチルグリコールもまた、成分Bとして非常に有用である。
【0019】
成分Bとして使用されるポリエステルの分子量は、好ましくは200〜8000の範囲にある。500〜4000の範囲の分子量を有するポリエステルが、特に有用である。
【0020】
本発明の組成物中の成分A対成分Bの混合比率は、幅広い範囲の中で変更可能である。完成品の繊維材料に優れた難燃性効果を実現するには、A対Bの重量比を0.8:1〜1.5:0.4の範囲、好ましくは1.2:1〜1.5:0.5の範囲で選択することが有利である。
【0021】
本発明による組成物は、適切であれば、幾分高い温度及び/又は機械による均質化を用いて個々の成分を混合することにより、一般に簡単な方法で製造することができる。
【0022】
用途によっては、本発明による組成物を溶解した形態又は拡散した形態で使用することが有利である。この目的のために考えられているのは、特に、有機溶媒中の溶液か水性分散液のいずれかであり、水に分散させるために、1以上の分散剤を使用することができる。有用な分散剤は、当業者に公知の製品から選択することができ、例えば、非イオン性のエトキシ化化合物が適切である。
【0023】
本発明による組成物は、他の物を混ぜ合わせない形態、又は溶解もしくは分散形態で、当業者に公知の織物処理又は織物染色の方法により繊維材料に適用してよい。これらには、パジング法及び吸尽法が含まれる。本発明の組成物及び染料が単一の工程で繊維材料に適用される特に有利な適用方法は、多くの場合に可能である。
【0024】
繊維材料に適用する本発明による組成物の量は、難燃性処理分野の当業者に公知の範囲である。適用後、繊維材料は、一般に公知の条件下で乾燥させ、さらに、適切であれば、より高い温度で処理することができる。
【0025】
以下、実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0026】
平方メートル重量310gを有する100%ポリエチレンテレフタラートの織布を複数のサンプルに細分し、各々を以下の溶液の1つで処理した:
【0027】
シリーズa)(比較シリーズ)発明性なし:
RDP(上記式II)参照)、メタノール中のRDP2.5重量%〜6.0重量%(段階的に0.5%ずつ増加)の溶液(8つの溶液)。
【0028】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336(1986年11月発行)燃焼試験に付した。RDP含浸量(布地上の、重量%でのRDP量)約5%から上のサンプルだけが、0秒の後燃焼時間を有し、他のサンプルは、燃焼試験に合格しなかった。
【0029】
シリーズb)(発明性あり):
メタノール中のRDP及びLUPRAPHEN(登録商標)1010(重量比1:1)4%〜12%(段階的に1%ずつ増加)の溶液(8つの溶液)。
【0030】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336燃焼試験に付した。RDP含浸量約2.5%より上、すなわち、シリーズa)の場合に比べてかなり低いリン含有量での全サンプルだけが、0秒の後燃焼時間を有していた。
(LURAPHEN(登録商標)1010は、BASF Groupから販売されている分子量が1000までの二官能基脂肪族ポリエステルポリオールである。)
【実施例2】
【0031】
180度30秒でセットした、蛍光増白剤なしのトリコットニット(約200−205g/m2)のポリエチレンテレフタラート100%のサンプルを複数のサンプルに細分し、各々を以下の溶液の1つで処理した:
【0032】
シリーズa)(比較シリーズ)発明性なし:
メチルイソブチルケトン中のRDP2.5%〜6.0重量%(段階的に0.5%ずつ増加)の溶液(8つの溶液)。
【0033】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336燃焼試験に付した。RDP含浸量約4.5%から上のサンプルだけが、0秒の後燃焼時間を有していた。
【0034】
シリーズb)(発明性あり):
【0035】
メチルイソブチルケトン中のRDP及びCAPA(登録商標)2200(重量比0.7:0.3)2.5%〜6.5%(段階的に1%ずつ増加)(9つの溶液)。
【0036】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336燃焼試験に付した。RDP含浸量3%から上だけが、0秒の後燃焼時間を有していた。すなわち、シリーズa)に比べて低い布地上のリン含有量では、後燃焼時間がなかった。
【0037】
CAPA(登録商標)2200は、SOLVAY社から販売されている、カプロラクトン及びネオペンチルグリコールをベースとするポリマー(最大分子量2000)。
【実施例3】
【0038】
180度30秒でセットした、蛍光増白剤なしのトリコットニット(約200−205g/m2)のポリエチレンテレフタラート100%のサンプルを2個のサンプルに細分し、各々を以下の溶液の1つで処理した:
【0039】
a)比較試験(発明性なし):
メチルイソブチルケトン60g中のトリブチルホスフェート7g。
【0040】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336燃焼試験に付した。サンプルは燃焼試験に合格しなかった。すなわち、火炎は消えなかった。
【0041】
b)(発明性あり):
メチルイソブチルケトン60g中トリブチルホスフェート7g及びCAPA(登録商標)2200 3g。
【0042】
それぞれの布地を適切な溶液に浸漬し、絞って、約100重量%のウェットピックアップとした。その後室温で10分間、次に温風を用いて110℃で10分間乾燥させた。このサンプルを、火炎を端に3秒間当てることを伴うDIN54336燃焼試験に付した。このサンプルは、0秒の後燃焼時間を有しており、すなわち、燃焼試験に合格した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの成分A及び少なくとも1つの成分Bを含む組成物であって、
成分Aが、リン酸のトリエステルであり、及び
成分Bが、アルコールから誘導される単位に芳香族基を含まず、酸から誘導される単位の0%〜10%に芳香族基を含むポリエステルである、組成物。
【請求項2】
成分Aがリン酸から誘導される単位及び一価又は二価の芳香族アルコールから誘導される単位から構成されるトリエステルである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分Aが、式(I)又は式(II)の化合物あるいはその混合物である請求項1又は2記載の組成物:
【化2】


(式中Arは、一価の芳香族基、好ましくはフェニルである。)
【請求項4】
成分Bが、脂肪族α,ω−ジカルボン酸及び脂肪族二価又は多価のアルコールで構成されたポリエステルであり、二価又は多価のアルコールが、好ましくは、2つの鎖末端のそれぞれに結合するヒドロキシル基を有する、請求項1〜3の1項以上に記載の組成物。
【請求項5】
脂肪族ジカルボン酸が、4〜10個の炭素原子を有する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ジカルボン酸がアジピン酸である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
脂肪族アルコールが、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールから選択される、請求項4〜6の1項以上に記載の組成物。
【請求項8】
成分Bが、ω−ヒドロキシ 1−カルボン酸又はそのラクトン、好ましくは、カプロラクトンから誘導されるポリエステルである、請求項1から3の1項以上に記載の組成物。
【請求項9】
成分Bが、200〜8000の範囲、及び好ましくは、500〜4000の範囲の分子量を有する、請求項1〜8の1項以上に記載の組成物。
【請求項10】
成分A対成分Bの重量比が、0.8:1〜1.5:0.4の範囲、及び好ましくは1.2:1〜1.5:0.5の範囲である、請求項1〜9の1項以上に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10の1項以上に記載の組成物を繊維材料に適用することを含む、繊維材料を処理する方法。
【請求項12】
繊維材料が80重量%〜100重量%の範囲でポリエステルからなる、請求項11記載の方法。

【公表番号】特表2010−513615(P2010−513615A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541860(P2009−541860)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011088
【国際公開番号】WO2008/074454
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(507324968)ハンツマン・テキスタイル・エフェクツ(ジャーマニー)・ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】HUNTSMAN TEXTILE EFFECTS(GERMANY)GMBH
【Fターム(参考)】