説明

繊維構造物及びこれを用いてなる繊維強化樹脂組成物

【課題】 成形用樹脂との高い接着性が得られるように改良された補強用繊維構造物及びこれを含有する繊維強化樹脂組成物の開発。
【解決手段】 繊維構造物の表面及び/または表層において、セルロース産生菌を培養するかまたはバクテリアセルロースを表面及び/または表層に被覆せしめることにより、バクテリアセルロースが付着浸透して、成形用樹脂と補強用繊維構造物との接着性が向上する。このような繊維構造物を熱可塑性または熱硬化性の成形用樹脂の補強材として用い、繊維強化樹脂組成物の成形材料やその成形品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用樹脂の補強に供する繊維構造物に関し、殊に繊維構造物の表面または表面に近い表層部位がバクテリアセルロースによって被覆(浸透)された繊維構造物およびこれを用いてなる繊維強化樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂またはナイロン等の熱可塑性樹脂の成形材料の補強材として用いられる高強力繊維からなる繊維構造物が、その表面の少なくとも一部においてバクテリアセルロースによって被覆・付着されているため、前記成形用樹脂との高い接着性が得られるように改良された繊維構造物およびこれを用いてなる繊維強化樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、芳香族ポリアミド繊維等の高強力繊維は優れた耐熱性、高強度、高弾性率、耐薬品性を生かして繊維強化複合材料の補強材として幅広く使用されている。しかしながら、一般に高強力繊維は表面が不活性であり、樹脂との親和性が低いために補強用繊維と成形用樹脂との接着強力が低く、補強用繊維構造物として使用される用途が限定されているのが現状である。
【0003】
繊維強化複合材料の補強繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維が多用されているが、例えばガラス繊維はシランカップリング剤による表面処理を行うことにより樹脂との接着強力を向上させる技術が確立されている。また炭素繊維であれば、プラズマ処理や陽極酸化等による表面処理が一般に施されている。
【0004】
一方、芳香族ポリアミド繊維等の高強力繊維に関しても、これまで表面改質に向けた多くの検討がなされている。例えば、特開2002−194669号公報(特許文献1)では、アラミド繊維をフィルムフォーマー、シランカップリング剤および界面活性剤で処理することにより繊維表面及び内部に親和性を付与する方法が報告されている。
【0005】
この方法では、結晶サイズがある一定よりも小さく、紡出後の水分率をある一定値以上に維持した芳香族ポリアミド(アラミド)繊維に対して、フィルムフォーマー、シランカップリング剤または界面活性剤により処理を施すことにより、繊維表面のみではなく、繊維内部にまで処理剤を浸透せしめ、マトリックス樹脂との接着性を付与することができる。もっとも、この方法では、処理を施す芳香族ポリアミド繊維に対して、結晶サイズや紡出後の水分率等においてかなりの制約があり、例えば既製のアラミド繊維に対して適用することが困難であるため、この技術の適用には汎用性に欠く問題点が指摘できる。
【0006】
また、例えば特開2004−360113号公報(特許文献2)では、イソシアネート化合物ガス雰囲気下でプラズマ処理を施し、アラミド繊維の表面を改質する方法が報告されている。しかしながら、このような方法では、高価な装置が必要となる上、繊維自身に劣化が見られたり、改質された繊維表面の活性が経時的に変化(減殺)したりするなどの問題が未解決である。
【0007】
以上のように、芳香族ポリアミド繊維等の高強力繊維の表面を簡便に改質し、マトリックス樹脂との樹脂接着性を向上させる有効な手段は未だ見つかっておらず、そのような技術開発が強く求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−194669号公報
【特許文献2】特開2004−360113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、芳香族ポリアミド繊維等の高強力繊維の優れた耐熱性、高強度、高弾性率、耐薬品性を生かして繊維強化複合材料の補強材として用いられる繊維構造物であって、その表面及び(または)表面層の少なくとも一部をバクテリアセルロースによって被覆(バクテリアセルロースを付着)せしめることによって、成形用樹脂との高い接着性が得られる繊維構造物およびこれを用いてなる繊維強化樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、芳香族ポリアミド繊維に代表される高強力繊維からなる繊維構造物と、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂および脂肪族ポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂との樹脂接着性を簡便に向上させる方法について鋭意検討を重ねた結果、繊維径が非常に細く、比表面積が大きいバクテリアセルロースを繊維構造物に作用せしめることにより、樹脂と繊維構造物との親和性を改良できることを知見し、これを応用したものである。すなわち、バクテリアセルロースは繊維構造物の表面部分に容易に絡みついて固着し、更にこの繊維構造物を樹脂の補強材として用いたところ、マトリックス樹脂との接着性が大幅に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0011】
かくして、本発明によれば、その表面の全部または一部に、バクテリアセルロースが付着または被覆されてなる繊維構造物およびこれを用いてなる繊維強化樹脂組成物であって、マトリックス樹脂との樹脂接着性に優れた、繊維構造物およびこれを用いてなる繊維強化樹脂成形品が提供される。
【0012】
本発明のうち、請求項1に係る発明は、成形用樹脂の補強材として用いられる繊維構造物であって、その表面の全部または一部に、バクテリアセルロースが付着または被覆されてなる繊維構造物である。
【0013】
そして、請求項2に係る発明は、請求項1において特定した繊維構造物を構成する繊維が、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維及びポリベンザゾール繊維の群から選ばれる少なくとも1種を含むか、または2種以上の繊維の組合せたものである。繊維構造物に供する有機繊維を高性能・高機能のものに特定している。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の繊維構造物において、この繊維構造物の表面においてセルロース産生菌を培養することにより、産生したバクテリアセルロースによって、該繊維構造物の表面の全部または一部にバクテリアセルロースが存在し、これに伴い成形用樹脂と繊維構造物との接着性・親和性が改良されるものである。
【0015】
請求項4に係る発明は、繊維構造物の表面及び表面を含む層(表層部分)において、セルロース産生菌を培養するか、または表層部分にバクテリアセルロースを付着せしめることにより、バクテリアセルロースが繊維構造物に付着浸透して、表面及び/または表層の全部または一部にバクテリアセルロースが存するようにしたものである。
【0016】
さらに、請求項5に係る発明は、繊維構造物に対するバクテリアセルロースの付着量が、0.5〜20重量%の範囲となる用に調整すべきことを規定する。
【0017】
加えて、請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造物を、成形用樹脂の補強材として用いてなる繊維強化樹脂組成物からなる成形用素材及び成形・加工された成形品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面が不活性な高強力繊維からなる繊維構造物の表面の少なくとも一部をバクテリアセルロースで被覆することにより、これを繊維強化樹脂組成物の補強材として用いた場合、マトリックス樹脂との接着性が向上し、機械的物性が改善された繊維強化樹脂組成物を簡便に得ることができるので、繊維強化樹脂組成物が使用されている様々な用途に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明について詳細に説明する。
本発明でいう高強力繊維とは、一般に樹脂の補強材として用いられる、剛直な分子構造を有し耐熱性、高強度、高弾性率、耐薬品性に優れた有機繊維を示し、例えば芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維等を挙げることができる。
さらに詳しく述べると、芳香族ポリアミド繊維としては、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−p−ベンズアミド、ポリ−p−アミドヒドラジド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどを紡糸して繊維化したものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
また、芳香族ポリエステルは芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを組み合わせて、組成比を変えて合成される。例えばp−ヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸との共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。芳香族ポリエステル繊維は、このようなポリマーを紡糸して繊維化したものである。
【0021】
ポリベンザゾール繊維はポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)ホモポリマー、および実質的に85%以上のPBO成分を含みポリベンザゾール類とのランダム、シーケンシャルあるいはブロック共重合ポリマーを紡糸して繊維化したものである。
【0022】
本発明における繊維構造物とは繊維およびその集合体であり、例えば長繊維、合糸、撚糸、コード、紐等の1次元のもの、布帛、不織布、織編物、繊維を一方向に引き揃えた所謂UDシート等2次元的なもの及び網状、袋状などの3次元的な構造物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また構成する繊維の繊度、フィラメント数、繊維径、断面形状など特に限定されるものではない。
【0023】
本発明におけるバクテリアセルロースとは、微生物が産生するバクテリアセルロースのことを指す。このバクテリアセルロースは、セルロースおよびセルロースを主鎖とするヘテロ多糖を含むものおよびβ−1,3 または β−1,2等のグルカンを含むものである。ヘテロ多糖の場合、セルロース以外の構成成分はマンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸等の六炭糖、五炭糖および有機酸等である。これらの多糖は単一物質で構成される場合もあるが、2種以上の多糖が水素結合などで結合して構成されている場合も本発明に含まれ、何れも利用できる。
【0024】
本発明におけるバクテリアセルロースを産生する微生物としては、アセトバクター・アセチ・サブスピーシス・キシリナム(Acetobacter aceti subsp. xylinum)、ATCC 10821、同パストリアン(A.pasteurian)、同ランセンス(A.rancens)、サルシナ・ベントリクリ(Sarcina ventriculi)、バクテリウム・キシロイデス(Bacterium xyloides)、ジュードモナス属細菌、アグロバクテリウム属細菌等でバクテリアセルロースを産生するものを利用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
バクテリアセルロースの培養方法としては、まずフルクトースなどの単糖類やミネラル等を含んだ培地にセルロース産生菌を添加した培養液を、バクテリアセルロースの生育に最適な条件下で産生させる。通常セルロース産生菌は好気性であるため、培養中においては培養器を機械的に撹拌・震とうさせたり、またエアポンプ等で空気や酸素を送ってバブリングさせたりして、バクテリアセルロースの産生のために培養液と酸素を絶えず接触させる必要がある。
この際、繊維構造物を培養液に浸漬し、繊維構造物存在下でバクテリアセルロースを産生させる場合についても同様に行うことができる。
【0026】
なお、分散したバクテリアセルロースを得るために、例えば寒天やポリビニルアルコールに代表される水溶性高分子を分散安定剤として、バクテリアセルロースの物性を変質させない程度の量を、あるいは後の目的で使用する際に支障とならない程度の量を、培養液等に添加してもよい。得られたバクテリアセルロースを含む培養液はそのまま用いることもできるが、培養液中にはセルロース産生菌やその老廃物等が含まれるため、アルカリで洗浄し精製することが望ましい。
【0027】
バクテリアセルロースの培養量は、培養成分の濃度やセルロース産生菌の添加量、培養温度、培養時間、混合撹拌方法により自在に適宜調製することができる。
セルロース産生菌が産生するバクテリアセルロースは、通常繊維径が10〜100nm、繊維長さは0.1〜100μmである。もっとも、これらの形状に限定されるものではない。
【0028】
次に、本発明の繊維構造物の製造方法を説明する。
繊維構造物の表面の少なくとも一部をバクテリアセルロースで被覆させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0029】
長繊維や繊維構造物を培養液に浸漬し、繊維構造物存在下でバクテリアセルロースを産生させるか、或いはセルロース産生菌を培養することにより予め作製したバクテリアセルロースの分散液に繊維構造物を浸漬する方法、また公知の装置により長繊維や織編み物、UDシートなどをバクテリアセルロースの培養液に連続的に浸漬させる方法によっても、繊維構造物の表面をバクテリアセルロースで被覆することができる。この際、特にUDシートのように繊維が開繊され(展張され)ている場合、バクテリアセルロースの分散液との接触面積が大きい方が繊維状にバクテリアセルロースを一層多く固着することができる。
【0030】
なお前記のような方法で予めバクテリアセルロースが付着した長繊維を用いて、コード、織編物、UDシートなどの繊維構造物に加工する方法も可能であるが、製織や製編等の工程を通過する際、長繊維表面に被覆・付着したバクテリアセルロースが脱落する可能性があるため、繊維構造物に対してバクテリアセルロースを不¥被覆・付着する際には、予め作製した繊維構造物に対してバクテリアセルロースを被覆・付着する方法が好ましい。
【0031】
繊維構造物の表面に被覆・付着するバクテリアセルロースの量は、繊維構造物の重量に対して0.5〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
被覆・付着するバクテリアセルロースの量が繊維構造物の重量に対して0.5重量%未満である場合、繊維構造物表面に対するバクテリアセルロースの付着がほとんどないため、マトリックス樹脂との接着性にあまり大きく寄与しない。
【0032】
また、被覆・付着するバクテリアセルロースの量が繊維構造物の重量に対して20重量%を超える場合、繊維構造物表面の広い部分がバクテリアセルロースで被覆されるためにマトリックス樹脂との樹脂接着性が大幅に向上するが、他方でバクテリアセルロースの全体に占める割合が高くなることにより、この繊維構造物を含む繊維強化樹脂成形物の耐熱性は著しく低下するため、結果的に多量付着は好ましくないと言える。
【0033】
次に、表面をバクテリアセルロースで被覆された繊維構造物に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含浸し、繊維構造物を補強材として用いた繊維強化樹脂組成物を得る。含浸する熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂については、特に限定されるものではなく、一般に供される繊維強化熱可塑性樹脂や成型用に使う公知の熱硬化性樹脂に適用できる。
【0034】
さらに、繊維構造物に対して熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含浸する方法については特に限定されるものではなく、例えば熱可塑性樹脂に関しては公知の方法で溶融した熱可塑性樹脂を繊維構造物に公知の装置で塗布したり浸漬したりして含浸し、その後冷却して熱可塑性樹脂を固化させて繊維強化組成物を得る。
【0035】
熱硬化性樹脂に関しては、例えば繊維構造物を、硬化触媒(硬化剤)を含んだ主剤に浸漬させる方法や、公知の装置を用いて連続的に含浸した後プリプレグを得、ついで、このプリプレグを加熱・加圧して樹脂を硬化させることにより繊維強化樹脂成型物を得る。
【0036】
ここに、注意すべき点は、基本的に高強力繊維の熱分解温度は450℃以上であるが、バクテリアセルロースの熱分解温度は300〜350℃である。したがって、繊維構造物表面を被覆したバクテリアセルロースの分解をなるべく抑制するために、溶融した熱可塑性樹脂の温度、あるいは熱硬化性樹脂の硬化温度等の加工温度は、300℃を超えないことが特に好ましい。
【0037】
このようにして得られた繊維強化熱可塑性樹脂組成物成形物または繊維強化熱硬化性樹脂成型品は、目的や用途に応じて切削等の加工を施すことができる。
このように本発明の製造加工方法により、繊維構造物の表面をバクテリアセルロースで被覆・付着することにより、この繊維構造物を樹脂の補強材として用いた場合、マトリックス樹脂との接着性に優れた繊維強化樹脂組成物を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
(バクテリアセルロースの培養)
1000mlの三角フラスコに、フルクトースを主成分として硫酸マグネシウムなどの塩類、イノシトール等の水溶性ビタミン類を含む培養液を40g/L添加し、これにセルロース産生菌としてAcetobacter xylinum(BPR2001)を10ml植菌して培養液を得た。さらにバクテリアセルロースの分散安定剤として、寒天を培養液に対して0.2重量%添加した。この培養液のpHを酸及びアルカリでpH4〜6に保ちながら、30℃で120時間震とう培養を行った。この際、震とう速度は180rpmで行った。
【0040】
その後、セルロース産生菌および老廃物等の除去のために、得られた培養液をアルカリで洗浄・精製した後、バクテリアセルロースの分散液を得た。
この分散液中のバクテリアセルロースの濃度を乾燥重量法より算出したところ、3.9重量%であった。
【0041】
(繊維構造物への処理)
高強力繊維としてパラ型芳香族ポリアミド繊維のテクノーラT−241J(帝人テクノプロダクツ(株)製、繊度:1670dtex、フィラメント数:1000)を5本合糸した糸を、開繊バーを有する開繊装置を用いて開繊した後、ドラムワインダー(直径=50cm、幅=40cm)により巻き取った。これにより、幅=30cm、長さ=150cm、目付けが120g/mのUDシートを得、これを繊維構造物とした。
【0042】
得られたUDシートを、公知の連続処理装置を用いて、前記の通り得られたバクテリアセルロース分散液へのディップ処理を行い、UDシートにバクテリアセルロースを固着させた。この際、処理の工程速度=1m/分で行った。ディップ処理後のUDシートを、90℃で1時間乾燥した。
【0043】
UDシートへのバクテリアセルロースの付着量は熱重量分析で測定した。
バクテリアセルロースの熱分解温度は300〜350℃であるのに対し、パラ型芳香族ポリアミド繊維は450℃以下の温度では分解せず、重量減少は起こらない。この現象を応用して、付着処理後のUDシートの熱重量分析において、300〜400℃の温度領域における重量減少分をほぼバクテリアセルロースと看做すことができる。このようにして測定したUDシート上のバクテリアセルロース含有量は、2.1重量%であった。
【0044】
(繊維強化樹脂の成型)
主剤(品名:エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部と、硬化剤(品名:エピキュアZ、ジャパンエポキシレジン社製)20重量部とを混合したエポキシ樹脂を、メチルエチルケトン(以下MEKと略記する)にて希釈した濃度が60重量%のエポキシ樹脂MEK溶液を作製し、これに前記工程で得られたバクテリアセルロースを被覆したUDシートを浸漬してエポキシ樹脂を含浸せしめた。エポキシ樹脂を含浸せしめたUDシートを80℃で1時間乾燥しプリプレグシートを得た。
【0045】
次に、このプリプレグシートを10cm角に裁断し、これをそれぞれ10枚および20枚積層して、真空プレスにより200℃、面圧が50kgf/cmの加熱・加圧条件で2.5時間真空プレスを行って樹脂を硬化させた。この処理により、それぞれ厚みが2mmおよび4mmの繊維強化樹脂組成物を得た。なお、得られた繊維強化樹脂組成物における繊維の体積分率は共に60体積%であった。
【0046】
[実施例2]
まず実施例1と同様の手法で、幅=30cm、長さ=150cm、目付けが120g/mの「テクノーラ」のUDシートを得た。
次にこのUDシートの両端を繊維が動かないように固定した後筒状のかせに巻き付けた。これを1000mLの三角フラスコに入れ、実施例1と同様の処方によりUDシート存在下でバクテリアセルロースの培養を行った。
その後、バクテリアセルロースが付着したUDシートを90℃において1時間乾燥し、UDシート上のバクテリアセルロースの付着量を熱重量分析で測定した。その結果、UDシートに対するバクテリアセルロースの付着量は2.5重量%であった。
【0047】
次に、実施例1と同様の処方により、それぞれの厚みが2mmおよび4mmの繊維強化樹脂組成物を得た。なお、得られた繊維強化樹脂組成物の繊維の体積分率は共に60体積%であった。
【0048】
[比較例1]
実施例1と同様の手法により作製したUDシートを、バクテリアセルロース培養液で処理しなかったこと以外は実施例1と同様の処方により、それぞれの厚みが2mmおよび4mmの繊維強化樹脂組成物を得た。なお、この場合も、得られた繊維強化樹脂組成物の繊維の体積分率は共に60体積%であった。
【0049】
(試験方法)
以下に述べる測定方法に従って各種の物性測定試験を実施した。
1.繊維強化樹脂組成物成形品の曲げ物性
JIS K7171(プラスチック−曲げ特性の試験方法)に準拠し、厚みが4mmの繊維強化樹脂組成物成形品について、下記条件により曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
温度:室温
試験機:INSTRON 5565型(INSTRON社製)
試験片:厚みが4mmの繊維強化樹脂組成物成形品を80mm×10mmに裁断したしたものを試験片として用いた。
支点間距離:60mm
圧子半径:5mm
試験速度:2mm/分
【0050】
2.層間剪断強度
JIS K 7057(繊維強化プラスチック−ショートビーム法による見掛けの層間剪断強さの求め方)に準拠し、厚みが2mmの繊維強化樹脂組成物成形品について、下記条件により層間剪断強度を測定した。
温度:室温
試験機:INSTRON 5565型(INSTRON社製)
試験片:厚みが2mmの繊維強化樹脂組成物成形品を20mm×10mmに裁断したしたものを試験片として用いた。
支点間距離:10mm
圧子半径:5mm
試験速度:1mm/分
【0051】
(試験結果)
各試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0052】
実施例1および2では、比較例1に比べ曲げ強度・曲げ弾性率が約2割向上した。また層間剪断強度については、比較例1に比べ約4割向上した。
これは、繊維構造物をバクテリアセルロースで被覆することにより、エポキシ樹脂との親和性が向上し、その結果樹脂との接着性が向上したためであると考えられる。
また実施例1と実施例2において、明瞭な差が見られないことから、バクテリアセルロースを繊維構造物に被覆する手段については、予め作製したバクテリアセルロースの分散液に繊維構造物を処理する方法でも、繊維構造物存在下でバクテリアセルロースを培養する方法でも、ほぼ同様の効果が得られることが確認できた。
【0053】
以上のように、一般に表面が不活性な高強力繊維からなる繊維構造物の表面の少なくとも一部をバクテリアセルロースで被覆・付着することにより、これを補強材として用いた繊維強化樹脂組成物成形品は、樹脂との接着性および機械的物性が向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、表面が不活性な高強力繊維からなる繊維構造物の表面の少なくとも一部をバクテリアセルロースで被覆することにより、これを繊維強化樹脂組成物の補強材として用いた場合、マトリックス樹脂との接着性が向上し、機械的物性が改善された繊維強化樹脂組成物を簡便に得ることができるので、繊維強化樹脂組成物が使用されている様々な用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用樹脂の補強材として用いられる繊維構造物であって、その表面の全部または一部に、バクテリアセルロースが付着または被覆されてなる繊維構造物。
【請求項2】
繊維構造物を構成する繊維が、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維及びポリベンザゾール繊維の群から選ばれる少なくとも1種を含むかまたは2種以上の繊維の組合せである請求項1記載の繊維構造物。
【請求項3】
繊維構造物の表面においてセルロース産生菌を培養することにより、産生したバクテリアセルロースが、該繊維構造物の表面の全部または一部に存することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
繊維構造物の表面及び表面を含む層に、セルロース産生菌を培養するかまたはバクテリアセルロースを付着せしめることにより、バクテリアセルロースが付着浸透して、該表面及び該表層の全部または一部にバクテリアセルロースが存することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項5】
繊維構造物に対するバクテリアセルロースの付着量が、0.5〜20重量%である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の繊維構造物を成形用樹脂の補強材として用いてなる繊維強化樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−63709(P2007−63709A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251028(P2005−251028)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】