説明

繊維機械における糸の弛み取り装置

【課題】繊維機械の糸の弛み取り装置で、糸掛け部材の弛み取りローラの安定した回転抵抗を実現し、品質の安定したパッケージを形成できる装置の提供。
【解決手段】弛み取り装置12は、外周面に紡績糸10を巻き付かせて貯溜する、回転駆動される弛み取りローラ21と、前記弛み取りローラ21に対して同心で相対回転可能に取り付けられる糸掛け部材22と、を備える。糸掛け部材22のフライヤー軸33には、その軸線を回転軸心と一致させる円柱状部分35が備えられ、この円柱状部分35の外周面に永久磁石36が備えられ、それに径方向に対向するようにヒステリシス材37を備える。ヒステリシス材37が設置される筒状の調整ボルト32は、弛み取りローラ21側に固定されたナット部材31に螺合しており、回転させることで永久磁石36とヒステリシス材37との対向面積を変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機等の繊維機械において、紡績装置から巻取装置までの間に生じる糸の弛みを取る糸弛み取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機等の高速紡績機にあっては、糸欠陥を検出すると、その糸欠陥箇所をカッターで切断し除去した後、紡績装置から次々に送られてくる糸の先端とパッケージ側の糸端とを、糸継装置で糸継ぎするように構成されている。上記の糸継作業は糸の巻取りを停止した状態で行うため、糸の弛みを取り除く必要がある。
【0003】
この点に鑑み、特許文献1は、回転駆動される弛み取りローラと、回転式の糸掛け部材とを備えた弛み取り装置を開示する。この弛み取り装置では、糸掛け部材は弛み取りローラに対して同心で相対回転に取り付けられており、その相対回転に対しては、バネなどの付勢手段からなる伝達力付与部材の押圧力(摩擦力)によって、適宜の大きさの抵抗を付与できるようになっている。また、その押圧力(摩擦力)は、螺合部を有する伝達力調整操作部の締付け操作により、無段階に調整可能になっている。
【特許文献1】特開2004−277946号公報(図18、段落番号0024〜0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成は、伝達力付与部材の押圧力(摩擦力)によって糸掛け部材の相対回転抵抗を実現しているために、例えば摩擦面の傷付き等の意図せぬ要因、あるいは摩擦面の摩耗等の経時的な要因により、相対回転抵抗が安定して得られない場合が多かった。
【0005】
ここで、弛み取りローラから糸が解舒される場合において、前記の相対回転抵抗は糸の巻取張力を決定する一要素であり、糸種や糸太さに応じて適切な巻取張力が安定して得られないと、パッケージの形状や、後工程における糸の解舒性に悪影響が出てきてしまう。従って、上記特許文献1の構成の弛み取り装置では、安定して良好な品質のパッケージを得るという観点からは未だ改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、糸掛け部材の弛み取りローラに対する安定した回転抵抗を実現し、品質の安定したパッケージを形成できる糸弛み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
◆本発明の第1の観点によれば、以下のように構成する、繊維機械における糸の弛み取り装置が提供される。回転駆動される弛み取りローラと、前記弛み取りローラに対して同心で相対回転可能に取り付けられる糸掛け部材と、を備える。前記弛み取りローラと前記糸掛け部材のうち何れか一方に永久磁石を備え、他方にヒステリシス材を備える。
【0009】
なお、「永久磁石を備え」とは、弛み取りローラ又は糸掛け部材に永久磁石を備えることのほか、弛み取りローラ自体又は糸掛け部材自体を着磁して永久磁石とする場合も含む。
【0010】
これにより、回転抵抗の経時的な安定性、信頼性を高めることができ、形成されるパッケージの良好な形状を安定して得ることができる。特に、弛み取りローラから解舒される糸に適度な解舒張力を付与し得る小さな回転抵抗を安定して得ることができ、繊維機械の分野に非常に適合的である。
【0011】
◆前記の繊維機械における糸の弛み取り装置においては、以下のように構成することが好ましい。前記糸掛け部材は、その回転軸心と軸線を一致させた円柱状部分を備えている。その円柱状部分の外周面には前記永久磁石と前記ヒステリシス材の何れか一方が配置され、それに径方向に対向するように、前記永久磁石と前記ヒステリシス材の何れか他方が配置される。
【0012】
これにより、回転抵抗を付与する部分を小さなスペースに収納できるので、弛み取り装置をコンパクトに構成できる。また、糸掛け部材の前記永久磁石又は前記ヒステリシス材の設置部分を回転軸心と同心の円柱状に構成することで、糸掛け部材の慣性モーメントを小さくすることができ、糸の引出速度の変動に対し良好に追従させることができる。
【0013】
◆前記の繊維機械における糸の弛み取り装置においては、前記永久磁石と前記ヒステリシス材とは軸方向に相対移動可能に構成されており、この相対移動によって前記永久磁石と前記ヒステリシス材との対向面積を変更できるように構成されていることが好ましい。
【0014】
これにより、永久磁石とヒステリシス材との磁気的結合強度を変更できるので、糸種や糸太さの変更にも柔軟に対応できる構成とすることができる。
【0015】
◆前記の繊維機械における糸の弛み取り装置においては、以下のように構成することが好ましい。前記円柱状部分の外周側に筒状部材を備え、この筒状部材の内周面に前記永久磁石又は前記ヒステリシス材が配置されている。この筒状部材と前記弛み取りローラとの間にはネジ部が構成されており、前記筒状部材を前記弛み取りローラに対して回転させることにより当該筒状部材を軸方向にネジ移動させることが可能に構成されている。
【0016】
これにより、糸掛け部材の回転抵抗を、筒状部材の回転操作により容易に変更できる。また、ネジ部によるネジ移動により筒状部材の位置の微調整が容易であり、糸掛け部材の回転抵抗の微妙な調整に好適である。
【0017】
◆本発明の第2の観点によれば、上記の構成の糸の弛み取り装置を備える繊維機械が提供される。
【0018】
これにより、弛み取りローラからの解舒張力を長期的にも安定した信頼性の高い構成とすることができ、形成されるパッケージの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の一実施形態に係る繊維機械としての紡績機について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流・下流」とは、紡績時における糸の走行方向を基準として上流・下流を指すものとする。図1は本発明の弛み取り装置を適用した紡績機の全体的な構成を示した正面図、図2は紡績機の縦断側面図である。
【0020】
図1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えた紡績機1を示している。この紡績機1には、紡績ユニット2が並べられる方向に走行自在に設けられた糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5とが装備される。
【0021】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として有している。ドラフト装置7は紡績機1本体のケーシング6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、巻取装置13によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。
【0022】
ドラフト装置7は図2に示すように、スライバ15を引き伸ばして繊維束8にするためのものであり、例えば、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラから構成されている。
【0023】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8から紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0024】
また、糸送り装置11は、紡績機1本体のケーシング6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40とからなる。この構成で、紡績装置9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置13側へ送るようになっている。
【0025】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動自在に枢支されたクレードルアーム71を備え、このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するボビンを回転自在に支持できるようになっている。また巻取装置13は、前記ボビンやそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の周面に当接して駆動可能な巻取ドラム72や、図示しないトラバース装置を備えている。この巻取ドラム72が図略の電動モータによって駆動されることで、それに接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を巻き取るようになっている。
【0026】
紡績機1のケーシング6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下流の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するようになっている。
【0027】
このユニットコントローラは、上記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッター57で糸を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止し、糸継台車3に当該紡績ユニット2の前まで自走させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、上記糸継台車3に糸継ぎを行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。
【0028】
糸継台車3は図1に示すように、紡績機1本体のケーシング6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。この台車3には、糸継装置(例えばスプライサ)43と、この台車3に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、紡績装置9から排出される糸端を吸い込みながら捕捉して糸継装置43へ案内するサクションパイプ44と、台車3に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、巻取装置13に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引捕捉して糸継装置43へ案内するサクションマウス46と、を備えている。
【0029】
複数の紡績ユニット2のそれぞれに設けられる弛み取り装置12は、紡績糸10と係合したり、係合することがないようにしたりできるように構成されている。
【0030】
具体的には図3に示すように、弛み取り装置12は、紡績糸10をその外周に巻き付けて貯溜するための弛み取りローラ21と、条件に応じて弛み取りローラ21と一体的に又は独立して同心回転する糸掛け部材22と、弛み取りローラ21のやや上流側に配置される上流側ガイド23と、上流側ガイドを進退駆動するエアシリンダ(進退手段)24と、弛み取りローラ21を駆動する電動モータ(駆動手段)25と、弛み取りローラ21の下流側に設けられる下流側ガイド26と、を主要な構成として備えている。
【0031】
なお、上記弛み取りローラ21、上流側ガイド23、エアシリンダ24、電動モータ25、下流側ガイド26等は、ブラケット27等の固定部材を介して紡績ユニット2に支持されている。
【0032】
図4の拡大図に示すように、弛み取りローラ21は、ローラ本体42と、その内部に一体的に固着されるナット部材31とを、主要な構成として備えている。ローラ本体42の外周面42aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25に接続される側を基端とすると、基端から先端に向かって、テーパ部a、円筒部b、テーパ部cとなるように構成されている。上記テーパ部a・cは、端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。円筒部bはほぼ一様な径を有する形状に構成されており、両側のテーパ部a・cに対し継ぎ目なく連続する形状になっている。
【0033】
またローラ本体42は、ローラ本体42に径方向に螺入された適宜の固定ネジ28によって、電動モータ25のモータ軸25aに固定されている。
【0034】
そして弛み取り装置12は、前記糸継台車3による糸継作業時に、糸掛け部材22によって、紡績装置9側からの紡績糸10を基端側から弛み取りローラ21(ローラ本体42)の外周面42aに巻き付けるように構成している。そして、糸継作業の終了後は、外周面42aに巻き付けられ貯溜されていた紡績糸10を、糸掛け部材22を介して、先端側から巻取装置13側へ向かって解舒するように構成されている。
【0035】
ローラ本体42の外周面42aにおいて、基端側のテーパ部aは、供給されて巻き付いた紡績糸10を、大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部bへ到達させることにより、紡績糸10を円筒部bの表面に規則正しく巻き付かせるように構成されている。また、先端側のテーパ部cは、解舒の際に、巻き付かせた紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引き出しを確保する機能を有している。
【0036】
弛み取りローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3や図4に示すように、前記弛み取りローラ21に対し同心回転可能に取り付けて構成される。具体的には、この糸掛け部材22は、相対回転自在に支持されるフライヤー軸33と、その先端に固着されるフライヤー38とで構成されている。
【0037】
上記糸掛け部材22の取付構成について、図4を参照して詳細に説明する。前記弛み取りローラ21のローラ本体42の先端側には凹部42bが形成されており、その凹部42bの内部に、上記ローラ本体42と軸心を一致させたナット部材31が、圧入などの適宜の方法により一体的に固着されている。
【0038】
前記ナット部材31には調整ボルト32が、ローラ本体42の先端面側から螺合される。この調整ボルト32は貫通状の筒孔を有する形状に構成されており、その頭部は六角形状の公知の形状とされている。また、調整ボルト32の軸部と前記ナット部材31との間には、ネジ部29が構成される。
【0039】
そして、前記ナット部材31の筒孔にフライヤー軸33を挿通して、このフライヤー軸33が、前記前記ナット部材31及び前記調整ボルト32の内周面に対し、軸受34・34を介して回転自在に支持されている。このフライヤー軸33の先端は調整ボルト32及び弛み取りローラ21の先端面から突出し、その先端にフライヤー38が固定されている。
【0040】
このフライヤー38は前記フライヤー軸33と一体的に回転するよう構成されており、紡績糸10と係合して(紡績糸10を掛けて)、紡績糸10を前記ローラ本体42の外周面42aに確実に巻き付かせるために、ローラ本体42の先端面の周縁から外周面42aに向かって適宜湾曲する形状を呈している。
【0041】
また、フライヤー軸33はその軸方向中途部に若干の大径とされた円柱状部分35を備えており、この円柱状部分35の外周面が、前記調整ボルト32の内周面に対し、径方向で対面可能になっている。なお、この円柱状部分35の径は、糸の引出速度の変動に良好に追従させる観点からは、できるだけ小さくすることが好ましい。
【0042】
そして、前記円柱状部分35の外周面には永久磁石36が配置されており、この永久磁石36は、周方向にN極、S極、N極、S極、・・・と交互に着磁されている。一方、前記調整ボルト32の内周面にはヒステリシス材(半硬質磁性材料)37が配置されている。
【0043】
前記永久磁石36とヒステリシス材37とは、筒状の適宜の隙間をおいて(即ち、非接触で)径方向に対面している。また、糸種や糸太さの変更時には、前記調整ボルト32の頭部を手で掴んで(あるいは適宜の工具を用いて)回転させて、ナット部材31に対し螺進させ、フライヤー軸33の前記円柱状部分35に対して調整ボルト32を軸方向にネジ移動させることで、ヒステリシス材37を永久磁石36に対し相対的に移動させ、両者37・36の対向面積を変更できるようになっている。なお、図4の状態から調整ボルト32とともにヒステリシス材37を移動させた状態が図5に示されている。
【0044】
上記のように永久磁石36とヒステリシス材37との対向面積を変更することにより、フライヤー38の弛み取りローラ21に対する回転抵抗の大きさを無段階に調節することができる。即ち、図4のように永久磁石36とヒステリシス材37とが大面積で対向している場合は、永久磁石36とヒステリシス材37との磁気的結合の度合いが強いので、フライヤー38と弛み取りローラ21との相対回転に抗する強い抵抗が発生する。一方、図5のように永久磁石36とヒステリシス材37との対向面積がほぼゼロの場合は、フライヤー38は弛み取りローラ21に対しほぼフリーで回転することができる。このように本実施形態では、調整ボルト32を回転させて軸方向に移動させることにより、フライヤー38の弛み取りローラ21に対する相対回転抵抗の大きさを自在に調整することができる。
【0045】
前記の上流側ガイド23は、エアシリンダ24によって前進・後退駆動されるように構成されている。そして、上流側ガイド23が前進位置(図3の実線の位置)にあるときは、紡績糸10が弛み取り装置12と係合することのないようにその糸道が上流側ガイド23によって保持される。一方、上流側ガイド23が後退位置(図3の鎖線の位置)にあるときは、紡績糸10が弛み取り装置12と係合して弛み取りローラ21に巻き取られる位置まで、糸道を移動させるように構成されている。
【0046】
次に、上記の構成の紡績機1の運転について以下に説明する。紡績機1の各紡績ユニット2は、繊維束8をドラフト装置7で紡績装置9へ送り込む。そして、紡績装置9において紡績され生成された紡績糸10は、糸送り装置11で下流側へ送給され、カッター57、ヤーンクリアラ52を通過し、弛み取り装置12を経由して、最終的には巻取装置13に送られてパッケージ45として巻き取られる。
【0047】
そして、何れかの紡績ユニット2のヤーンクリアラ52が紡績糸10の欠陥を検出すると、当該紡績ユニット2の図示しないユニットコントローラは、カッター57で紡績糸10を切断し、それとほぼ同時に、ドラフト装置7のバックローラ16とサードローラ17の回転を停止させる。繊維束8は、停止したサードローラ17と回転を継続中のミドルローラ19との間で引きちぎられるように切断され、切断箇所より下流の部分の紡績糸10は図示しないサクション手段によって吸引除去される。
【0048】
そして、紡績ユニット2のユニットコントローラは、糸継要求信号を糸継台車3に送信し、糸継台車3は当該紡績ユニット2に対面する位置まで移動して停止する。するとユニットコントローラは、適宜のタイミングで弛み取り装置12の弛み取りローラ21の回転を開始する。また、これと同時に、弛み取り装置12の上流側ガイド23をエアシリンダ24によって前進させ、次に紡績される紡績糸10が必要時以外に弛み取り装置12の糸掛け部材22と係合することのないように糸道を保持する。
【0049】
そして、糸継台車3のサクションパイプ44が上方へ回動されると、それとほぼ同期してドラフト装置7及び紡績装置9の駆動を開始し、紡績装置9から紡出される紡績糸10が上記サクションパイプ44で吸引捕捉されるようにする。また同時に巻取装置13側では、糸継台車3のサクションマウス46が下方へ回動し、パッケージ45に巻き付いている糸端を吸引して捕捉する。そして、サクションパイプ44とサクションマウス46は、吸引されたそれぞれの糸端を糸継装置43へ案内して糸継ぎを行う。
【0050】
そして、この糸継装置43での糸継作業が開始される直前に、弛み取り装置12においてエアシリンダ24が後退し、上流側ガイド23を後退位置に移動させる。すると、紡績糸10の糸道が、図3の鎖線に示すように、フライヤー38の回転軌跡に重なるように変更される。この結果、紡績糸10はフライヤー38によって弛み取りローラ21の外周面42aに巻き付けられる。
【0051】
即ち、糸継装置43での糸継作業の間も紡績装置9からの紡績糸10の紡出は継続しているのであり、このままでは糸継装置43の上流側で紡績糸10が大量に滞留してしまう。弛み取り装置12は、糸継装置43での糸継作業の間に弛み取りローラ21に紡績糸10を巻き付かせることで、紡績糸10の弛みや滞留を防止し、円滑な糸継作業および紡績再開作業を実現するものである。
【0052】
前述したようにフライヤー38及びフライヤー軸33は、弛み取りローラ21とは独立に回転可能であるが、前述の永久磁石36及びヒステリシス材37からなる機構により、一定の大きさ以上の負荷(永久磁石36とヒステリシス材37との磁気的結合に打ち克つ負荷)が作用しない限り、フライヤー38は弛み取りローラ21と一体的に回転する。前述の糸継作業時は、紡績糸10は下流側が止まっており、フライヤー38に加わる負荷は小さいので、フライヤー38は弛み取りローラ21と一体回転して、弛み取りローラ21の外周に紡績糸10を巻き付けることになる。
【0053】
糸継装置43による糸継作業の終了後は、巻取装置13においてパッケージ45を巻取ドラム72によって回転させ、紡績糸10の巻取りを再開する。
【0054】
上述したように、紡績装置9から紡出された紡績糸10は、糸継装置43による糸継作業の開始時から巻取りの再開までの間は、回転を継続している弛み取りローラ21の外周面42aに巻き取られる。しかし、巻取装置13による巻取作業が再開されると、紡績糸10に適宜の張力を付与するように糸送り装置11の送出速度と巻取装置13での巻取速度の比が設定されているので、弛み取りローラ21に巻き付く糸速度よりも、弛み取りローラ21から引き出される糸速度の方が大きい。従って、弛み取り装置12のフライヤー38は、巻取方向に回転を継続する弛み取りローラ21とは独立して回転するようになり、弛み取りローラ21に巻き取られて貯溜されている紡績糸10が次第に解舒されてゆく。
【0055】
この弛み取りローラ21の解舒の際、前記フライヤー38は、紡績糸10の輪抜けを防止して、弛み取りローラ21から紡績糸10が平均的に巻き出されるように案内するとともに、紡績糸10と接触することにより適度の抵抗を付与して糸張力を適正化し、パッケージ45に糸が好適に巻き取られるようにしている。
【0056】
即ち、本実施形態のフライヤー38は、糸継装置43での糸継作業の開始直前に紡績糸10を弛み取りローラ21へ導入する糸掛機能と、弛み取りローラ21に巻き付いた紡績糸10を解舒するにあたって所定の解舒張力を付与する機能を有している。そして本実施形態では、上記の解舒張力の付与は、フライヤー軸33(フライヤー38)の弛み取りローラ21に対する相対回転に対し、永久磁石36とヒステリシス材37との磁気的結合に基づく抵抗を付与することにより行われる。
【0057】
このように、非接触の磁気結合によってフライヤー38の弛み取りローラ21に対する相対回転抵抗を付与する構成になっているので、回転抵抗の経時的な安定性、信頼性を高めることができ、巻取装置13で形成されるパッケージ45の良好な形状を安定して得ることができる。
【0058】
即ち、前記特許文献1の弛み取り装置の構成では、伝達力付与部材の押圧力(摩擦力)によって糸掛体の相対回転抵抗を実現しているために、摩擦力の安定性が満足できるものではなく、回転抵抗のイレギュラーな変動が生じたり、長期間の使用につれて回転抵抗が変化してしまうことが頻発していた。
【0059】
特に、糸を巻き取ってパッケージを形成する繊維機械の分野では、糸に適当な解舒張力(巻取張力)を付与するために必要な糸掛け部材22(フライヤー38)の回転抵抗は、相当に小さなものとされる。従って、上述するような回転抵抗の変動の悪影響は大きく、伝達力付与部材の摩擦状態が少々変わるだけで、パッケージに端面落ちが生じたり、端面に段が形成されてしまう等、パッケージ品質を低下させてしまっていたのである。
【0060】
この点、本実施形態の弛み取り装置12では、フライヤー38の回転抵抗を非接触で付与する構成となっているので、上述のような相当に小さな回転抵抗を安定して付与することができる。この結果、弛み取りローラ21からの紡績糸10の解舒時の張力を良好に安定させることができ、パッケージ45の品質を顕著に向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態の弛み取り装置12では、前記糸掛け部材22のフライヤー軸33に、その軸線を回転軸心と一致させる円柱状部分35を備えている。そして、その円柱状部分35の外周面に永久磁石36が配置されるとともに、この永久磁石36に径方向に対向するようにしてヒステリシス材37が配置されている。従って、回転抵抗を付与する部分を小さなスペースに収納できるので、弛み取り装置12をコンパクトに構成できる。また、糸掛け部材22の前記永久磁石36の設置部分を回転軸心と同心の円柱状に構成することで、糸掛け部材22の慣性モーメントを小さくすることができ、紡績糸10の引出速度の変動に対し良好に追従させることができる。
【0062】
また、図4と図5の比較から明らかであるとおり、本実施形態では、前記永久磁石36と前記ヒステリシス材37とは軸方向に相対移動可能に構成されており、この相対移動によって、前記永久磁石36と前記ヒステリシス材37との対向面積を変更できるように構成されている。従って、永久磁石36とヒステリシス材37との磁気的結合の度合いを変更することで、糸掛け部材22(フライヤー38)の回転抵抗を自在に変更することが可能であり、糸種や糸太さの変更に柔軟に対応可能な構成とすることができる。
【0063】
また本実施形態では、円柱状部分35の外周側を覆うように筒状の調整ボルト32を備え、この調整ボルト32の内周面に前記ヒステリシス材37が配置されている。また、この調整ボルト32と弛み取りローラ21側のナット部材31との間にはネジ部29が構成されており、調整ボルト32を弛み取りローラ21に対して回転させることにより当該調整ボルト32を軸方向にネジ移動させることが可能に構成されている。これにより、糸掛け部材22の回転抵抗を、調整ボルト32の回転操作により容易に変更できる。また、ネジ部29が構成されていることにより、調整ボルト32の微細な位置調整が容易であり、糸掛け部材22(フライヤー38)の回転抵抗の微調整も容易である。
【0064】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は例えば下記のように変更することもできる。
【0065】
(1)永久磁石36に関しては、筒状の永久磁石を円柱状部分35に外嵌して固着しても良いし、円柱状部分35の外周面を直接着磁して永久磁石を構成しても良い。
【0066】
(2)永久磁石36及びヒステリシス材37は逆に配置されていても良い。即ち、永久磁石を調整ボルト32の内周面側に配置し、ヒステリシス材をフライヤー軸33の円柱状部分35の外周面に配置しても良い。また、フライヤー軸33の中途に円柱状ではなく円板状部分を構成する等して、永久磁石とヒステリシス材とを軸方向に対向させるように配置するレイアウトであっても良い。
【0067】
(3)図1ではストレートボビンに巻回されたチーズパッケージ45を例示しているが、コーンボビンに糸を巻回したコーン状のパッケージを形成する場合でも、上記弛み取り装置12を適用することができる。コーン状のパッケージの場合、巻取装置13での前記トラバース装置による綾振りに伴って巻取速度が周期的に変動することになるが、弛み取り装置12は、永久磁石とヒステリシス材とを備える上述の構成とすることによって、上記の巻取速度の変動に良好かつ安定的に追従することができる。
【0068】
(4)弛み取りローラ21の具体的な構成は上記に限定されず、例えばローラ本体42とナット部材31が一体の部材として構成されていても良い。また、ローラ本体42をモータ軸25aに固定する方法も、固定ネジ28を用いるものに限られない。
【0069】
(5)本実施形態では円柱状部分35は中実円柱状としているが、中空円柱状として慣性モーメントを低減しても良い。
【0070】
(6)上記実施形態では弛み取り装置12を紡績機1に設置する構成としたが、本発明はこれに限定するものではなく、糸継装置などを備える繊維機械一般にこれを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の弛み取り装置を適用した紡績機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】紡績機の縦断側面図。
【図3】弛み取り装置の全体構成を示す一部断面側面図。
【図4】弛み取りローラと糸掛け部材の構成を示す断面拡大図。
【図5】図4の状態から調整ボルトを回転させて移動させた様子を示す断面拡大図。
【符号の説明】
【0072】
1 紡績機(繊維機械)
2 紡績ユニット
12 弛み取り装置
21 弛み取りローラ
22 糸掛け部材
29 ネジ部
31 ナット部材
32 調整ボルト
33 フライヤー軸
36 永久磁石
37 ヒステリシス材
38 フライヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される弛み取りローラと、
前記弛み取りローラに対して同心で相対回転可能に取り付けられる糸掛け部材と、を備え、
前記弛み取りローラと前記糸掛け部材のうち何れか一方に永久磁石を備え、他方にヒステリシス材を備えることを特徴とする、繊維機械における糸の弛み取り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸の弛み取り装置であって、
前記糸掛け部材は、その回転軸心と軸線を一致させた円柱状部分を備えており、
その円柱状部分の外周面には前記永久磁石と前記ヒステリシス材の何れか一方が配置され、それに径方向に対向するように、前記永久磁石と前記ヒステリシス材の何れか他方が配置されることを特徴とする、繊維機械における糸の弛み取り装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸の弛み取り装置であって、
前記永久磁石と前記ヒステリシス材とは軸方向に相対移動可能に構成されており、この相対移動によって前記永久磁石と前記ヒステリシス材との対向面積を変更できるように構成されていることを特徴とする、繊維機械における糸の弛み取り装置。
【請求項4】
請求項3に記載の糸の弛み取り装置であって、
前記円柱状部分の外周側に筒状部材を備え、この筒状部材の内周面に前記永久磁石又は前記ヒステリシス材が配置されており、
この筒状部材と前記弛み取りローラとの間にはネジ部が構成されており、前記筒状部材を前記弛み取りローラに対して回転させることにより当該筒状部材を軸方向にネジ移動させることが可能に構成されていることを特徴とする、繊維機械における糸の弛み取り装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の糸の弛み取り装置を備える繊維機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−306588(P2006−306588A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132522(P2005−132522)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】