説明

繊維複合体及びその製造方法

【課題】軽量性及び剛性に優れた繊維複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の繊維複合体の製造方法は、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第1ウェブを形成する第1ウェブ形成工程と、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第2ウェブを形成する第2ウェブ形成工程と、第1ウェブ及び第2ウェブの少なくとも一方の表面に、熱膨張性カプセルを静電塗布する塗布工程と、第1ウェブ及び第2ウェブを、熱膨張性カプセルを挟持するように積層し、積層物とする積層物形成工程と、積層物を交絡し、交絡物とする交絡工程と、交絡物を加熱し、第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、交絡物を加熱し、熱膨張性カプセルの殻壁を軟化させて膨張させる膨張工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合体及びその製造方法に関し、更に詳しくは、植物性繊維と、熱可塑性樹脂とを含み、軽量性及び剛性に優れた繊維複合体及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のドアのトリム等車両用部材に用いられる繊維基材として、特許文献1には、天然繊維及び熱可塑性樹脂繊維からなり、これらの配合比率が、厚み方向に変化している繊維基材が開示されている。
また、天然繊維及び熱可塑性樹脂繊維の混合物を交絡し、圧縮成形させてなる繊維基材も知られている。この繊維基材は、例えば、エアレイ装置により、搬送コンベア上に各繊維を供給し、交絡及び加熱圧縮等の工程を経て製造されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−105824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境問題を考慮して、車両用部材等の軽量化の要望が高まっている。そのためには、例えば、繊維基材の目付を小さくする等の方法があるが、十分な剛性が得られないといった問題がある。また、基材の目付が小さい領域、例えば、1,500g/m以下の領域では、深絞り成形が困難である場合があった。
本発明は、熱可塑性樹脂により結着された植物性繊維どうしの間に、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルが分散されており、軽量性及び剛性に優れた繊維基材である繊維複合体及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、植物性繊維の集積体において、上記植物性繊維どうしが、熱可塑性樹脂により結着されてなり、且つ、植物性繊維どうしの間で発泡(膨張)状態にある高分子カプセルにより、該植物性繊維どうしが固定されてなる繊維複合体を、乾式法で効率よく製造できることを見出した。即ち、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む1のウェブに、熱膨張性カプセルを静電塗布し、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む他のウェブを積層する方法を備える方法である。この方法によれば、熱膨張性カプセルのロスを抑制しつつ、繊維複合体を効率よく製造することができ、また得られた繊維複合体は、上記熱膨張性カプセルが発泡(膨張)してなる高分子カプセルが均一に分散し、軽量性及び剛性に優れた繊維基材であった。これらの知見をもとに、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1)植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第1ウェブを形成する第1ウェブ形成工程と、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第2ウェブを形成する第2ウェブ形成工程と、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブの少なくとも一方の表面に、熱膨張性カプセルを静電塗布する塗布工程と、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブを、上記熱膨張性カプセルを挟持するように積層し、積層ウェブとする積層ウェブ形成工程と、上記積層ウェブを交絡し、交絡物とする交絡工程と、上記交絡物を加熱し、上記第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、上記第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、上記交絡物を加熱し、上記熱膨張性カプセルの殻壁を軟化させて膨張させる膨張工程と、を備えることを特徴とする繊維複合体の製造方法。
(2)上記交絡工程において、上記積層ウェブの両面側から交絡する上記(1)に記載の繊維複合体の製造方法。
(3)上記溶融工程及び上記膨張工程を同時に行う上記(1)又は(2)に記載の繊維複合体の製造方法。
(4)上記加熱工程及び上記膨張工程において、上記交絡物を圧縮しながら加熱する上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
(5)植物性繊維が集積し且つ一体化してなる繊維複合体において、上記植物性繊維どうしが、該植物性繊維どうしの間の空隙で発泡している高分子カプセルと、熱可塑性樹脂とにより結着していることを特徴とする繊維複合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維複合体の製造方法によれば、植物性繊維どうしが、該植物性繊維どうしの間の空隙において、熱膨張性カプセルが発泡(膨張)してなる高分子カプセルと、溶融した熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂とにより結着されており、且つ、複数の高分子カプセル(の殻壁)に挟まれ固定化されてなる、繊維複合体を乾式法により効率よく製造することができる。また、静電塗布工程を備えることから、熱膨張性カプセルが第1ウェブの空隙及び第2ウェブの空隙から漏れ出すことなく、そのロスを抑制することができ、繊維複合体を効率よく製造することができる。この方法により得られる繊維複合体において、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルが、その全体に渡って均一に分散していることから、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルが含まれない、植物性繊維と、熱可塑性樹脂とからなる繊維基材に比べて、軽量性及び剛性に優れる。また、ガラス繊維等の強化材を配合しなくても、十分な剛性を有する。
上記交絡工程において、上記積層ウェブの両面側から交絡する場合には、熱膨張性カプセルを第1ウェブ内の空隙、及び、上記第2ウェブ内の空隙に広く分布させることができ、後に熱膨張性カプセルを膨張させたときに、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルも広く分布し、軽量性及び剛性に優れた繊維複合体を製造することができる。
上記溶融工程及び上記膨張工程を同時に行う場合には、繊維複合体の厚さを制御しながら軽量化を図ることができ、更には製造時間の短縮化及び効率化を図ることができる。
上記溶融工程において、上記交絡物を圧縮しながら加熱する場合には、所望の形状、厚さ及び目付を有し、剛性に優れた繊維複合体を製造することができる。
本発明の繊維複合体は、軽量性及び剛性に優れ、目付が1,500g/m以下の領域においても、深絞り成形が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維複合体の製造方法は、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第1ウェブを形成する第1ウェブ形成工程と、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第2ウェブを形成する第2ウェブ形成工程と、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブの少なくとも一方の表面に、熱膨張性カプセルを静電塗布する塗布工程と、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブを、上記熱膨張性カプセルを挟持するように積層し、積層ウェブとする積層ウェブ形成工程と、上記積層ウェブを交絡し、交絡物とする交絡工程と、上記交絡物を加熱し、上記第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、上記第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、上記交絡物を加熱し、上記熱膨張性カプセルの殻壁を軟化させて膨張させる膨張工程と、を備える。
【0009】
上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程で用いられる植物性繊維は、植物に由来する繊維である。この植物性繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物性繊維が挙げられる。この植物性繊維は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかではケナフ(即ち、植物性繊維としてはケナフ繊維)が好ましい。ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できるからである。
また、上記植物性繊維として用いる植物体の部位は、特に限定されず、木質部、非木質部、葉部、茎部及び根部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0010】
上記ケナフは、木質茎を有し、アオイ科に分類される植物である。このケナフには、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等が含まれ、通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が含まれる。
また、上記ジュートは、ジュート麻から得られる繊維である。このジュート麻には、黄麻(コウマ、Corchorus capsularis L.)、及び、綱麻(ツナソ)、シマツナソ並びにモロヘイヤ、を含む麻及びシナノキ科の植物を含むものとする。
【0011】
上記植物性繊維の形状は、直線状、曲線状、螺旋状等のいずれでもよい。また、これらの形状を有する繊維は、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。
上記植物性繊維の繊維長は、通常、10mm以上である。この繊維長が10mm以上であると、より高い強度(曲げ強さ及び曲げ弾性率等、以下同様)を有する繊維複合体を製造することができる。この繊維長は、好ましくは10〜150mm、より好ましくは20〜100mm、更に好ましくは30〜80mmである。また、繊維径は、通常、1mm以下、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.7mm、更に好ましくは0.07〜0.5mmである。この繊維径が上記範囲にあると、特に高い強度を有する繊維複合体を得ることができる。
尚、上記植物性繊維として、上記の形状及び大きさを外れる繊維を含んでもよいが、該繊維の含有量は、植物性繊維の全体に対して10質量%以下であることが好ましい。これにより得られる繊維複合体の強度を高く維持することができる。
上記第1ウェブ形成工程で用いられる植物性繊維、及び、上記第2ウェブ形成工程で用いられる植物性繊維について、種類、繊維長及び繊維径は、各々、同一であってよいし、異なってもよい。
【0012】
また、上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程で用いられる熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂のみからなる繊維、又は、熱可塑性樹脂及び添加剤(酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防かび剤、着色剤等)の混合物からなる繊維である。
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体等のポリオレフィン;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂;ポリスチレン;メタクリレート、アクリレート等を用いて得られたアクリル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアセタール樹脂;ABS樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、植物性繊維の表面に対する親和性を高めるために、変性された樹脂であってもよい。
上記熱可塑性樹脂は、1種のみを用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
上記熱可塑性樹脂のうち、好ましくはポリオレフィン及びポリエステル樹脂であり、より好ましくはポリオレフィンである。
【0013】
上記ポリオレフィンは、未変性のポリオレフィンであってよいし、変性されたポリオレフィンであってもよい。
上記ポリオレフィンが、未変性のポリオレフィンである場合、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン(ランダム)共重合体等のプロピレン系重合体が好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
また、上記ポリオレフィンが、変性されたポリオレフィンである場合、例えば、カルボキシル基又はその誘導体(無水物基等)を有する化合物により酸変性されたポリオレフィン等が挙げられる。
尚、上記ポリオレフィンとして、未変性のポリオレフィンと、変性されたポリオレフィンとを組み合わせて用いてもよい。
【0014】
一方、上記ポリエステル樹脂としては、生分解性を有するポリエステル樹脂(以下、単に「生分解性樹脂」ともいう)が好ましい。この生分解性樹脂は、以下に例示される。
(1)乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体;これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等のヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル。
(2)ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種と、カプロラクトンとの共重合体等のカプロラクトン系脂肪族ポリエステル。
(3)ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル。
これらのうち、ポリ乳酸、乳酸と、乳酸以外の他の上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、及び、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種と、カプロラクトンとの共重合体が好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。これらの生分解性樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、上記乳酸は、L−乳酸及びD−乳酸を含むものとし、これらの乳酸は単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0015】
上記熱可塑性樹脂繊維の形状は、直線状、曲線状、螺旋状等のいずれでもよい。また、これらの形状を有する繊維は、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。
上記熱可塑性樹脂繊維の繊維長は、通常、10mm以上である。この繊維長が10mm以上であると、熱可塑性樹脂繊維どうしの十分な絡合、並びに、熱可塑性樹脂繊維及び植物性繊維の十分な絡合を得やすく、より高い曲げ強度を有する繊維複合体を製造することができる。この繊維長は、好ましくは10〜150mm、より好ましくは20〜100mm、更に好ましくは30〜80mmである。また、繊維径は、通常、0.001〜1.5mm、好ましくは0.005〜0.7mm、より好ましくは0.008〜0.5mm、更に好ましくは0.01〜0.3mmである。この繊維径が上記範囲にあると、各ウェブ形成工程において、熱可塑性樹脂繊維が切断されることなく、熱可塑性樹脂繊維及び植物性繊維が均一に混合された第1ウェブ及び第2ウェブを得ることができる。特に、熱可塑性樹脂繊維の質量、及び、植物性繊維の質量を調整することにより、熱可塑性樹脂繊維を切断することなく、熱可塑性樹脂繊維及び植物性繊維を満遍なく分散させることができる。
尚、上記熱可塑性樹脂繊維として、上記の形状及び大きさを外れる繊維を含んでもよいが、該繊維の含有量は、熱可塑性樹脂繊維の全体に対して10質量%以下であることが好ましい。これにより得られる繊維複合体の強度を高く維持することができる。
上記第1ウェブ形成工程で用いられる熱可塑性樹脂繊維、及び、上記第2ウェブ形成工程で用いられる熱可塑性樹脂繊維について、種類、繊維長及び繊維径は、各々、同一であってよいし、異なってもよい。
【0016】
上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程において、予め、所定の割合で混合された、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維からなる混合繊維を、乾式法の混綿法に供する。この乾式法としては、エアレイ法及びカード法が挙げられる。乾式法の理由は、本発明の製造方法において用いる植物性繊維は、吸水性を有するため、湿式法を適用すると、高度な乾燥工程を要することになるからである。更に、乾式法のなかでは、特にエアレイ法が好ましい。このエアレイ法は、解きほぐされた混合繊維を、空気流によって、例えば、搬送コンベアの面上に分散、投射し、搬送コンベアの面上で、繊維シート、即ち、ウェブを形成する方法である。
【0017】
上記第1ウェブ形成工程において、使用する植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の割合は、特に限定されない。植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の好ましい割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、植物性繊維が好ましくは10〜95質量%、より好ましくは20〜90質量%、更に好ましくは30〜80質量%である。上記植物性繊維の割合を上記範囲とすることにより、繊維複合体の補強効果を改良することができる。
また、上記第2ウェブ形成工程において、使用する植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の割合は、特に限定されず、上記第1ウェブ形成工程における割合と同様とすることができ、その効果も同様である。尚、上記第1ウェブ形成工程において形成される第1ウェブの構成、及び、上記第2ウェブ形成工程において形成される第2ウェブの構成は、同じであってよいし、目的、用途等に応じて、異なっていてもよい。
【0018】
上記第1ウェブ形成工程において形成される第1ウェブの目付は、特に限定されないが、好ましくは200〜1,500g/m、より好ましくは300〜1,000g/mである。また、第1ウェブの厚さは、好ましくは100〜500mm、より好ましくは150〜400mmである。
上記第2ウェブ形成工程において形成される第2ウェブの目付もまた、特に限定されないが、好ましくは200〜1,500g/m、より好ましくは300〜1,000g/mである。また、第2ウェブの厚さは、好ましくは100〜500mm、より好ましくは150〜400mmである。
【0019】
上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程の順序は、特に限定されず、同時に行ってよいし、順次行ってもよい。これらのうち、上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程を同時に行うことが好ましい。尚、上記第1ウェブ形成工程及び上記第2ウェブ形成工程を、順次、行う場合には、例えば、後述する積層ウェブ形成工程において、上記第1ウェブ形成工程において形成した第1ウェブの上に、熱膨張性カプセルを静電塗布した後、この熱膨張性カプセルを覆うように、エアレイ法等により第2ウェブ形成工程を行い、積層ウェブを形成すると同時に、第2ウェブを形成してもよい。
【0020】
次に、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブの少なくとも一方の表面に、熱膨張性カプセルを静電塗布する塗布工程、並びに、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブを、上記熱膨張性カプセルを挟持するように積層し、積層ウェブとする積層ウェブ形成工程について説明する。
上記第1ウェブを構成する植物性繊維、及び、上記第2ウェブを構成する植物性繊維は、ガラス繊維等と異なり、平均10%程度の水分率を有することから、容易に帯電させることができる。その結果、熱膨張カプセルの静電塗布を容易なものとすることができる。
【0021】
上記熱膨張性カプセルは、加熱により軟化される殻壁と、この殻壁に内包された発泡剤とを有し、加熱されて体積膨張を生じる成分である。
上記熱膨張性カプセルの構成材料は、特に限定されず、目的、用途等に応じて、適宜、選択される。上記熱膨張性カプセルを構成する殻壁の形成材料は、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物からなる単位と、不飽和酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び架橋性単量体から選ばれた少なくとも1種の化合物からなる単位とを有する重合体である。また、発泡剤としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等のハロゲン化炭化水素等の有機系発泡剤;酸素、窒素、二酸化炭素、空気等の無機系発泡剤に例示される物理発泡剤等が挙げられる。上記物理発泡剤として、好ましくは、脂肪族炭化水素であり、特に好ましくは炭素数4〜10の炭化水素である。
上記熱膨張性カプセルにおける物理発泡剤の質量割合は、軽量性及び剛性に優れた繊維複合体とするために、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、更に好ましくは20〜30質量%である。
【0022】
上記熱膨張性カプセルの殻壁の軟化温度(発泡開始温度)は、殻壁の構成材料に依存し、特に限定されないが、第1ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度、及び、第2ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度の両方と同じであるかあるいはそれより高い温度であることが好ましい。これにより、後の溶融工程において、第1ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維、及び、第2ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維が溶融した際に、植物性繊維どうしの接合を十分なものとすることができ、同時に又はその後、植物性繊維どうしの間の空隙で、熱膨張性カプセルが膨張し、植物性繊維と、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルと、接着剤として作用する熱可塑性樹脂とが一体化し、剛性に優れた繊維複合体を得ることができる。
例えば、第1ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂、及び、第2ウェブに含まれる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、いずれも、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のプロピレン系重合体である場合には、上記熱膨張性カプセルの熱膨張温度(発泡開始温度)は、好ましくは110℃〜230℃、より好ましくは140℃〜210℃である。
【0023】
上記熱膨張性カプセルは、通常、球形であり、その平均径は、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜60μmである。平均径が上記範囲にあると、最終的に得られる繊維複合体が軽量性に優れるとともに、剛性にも優れる。
【0024】
上記塗布工程において、熱膨張性カプセルを静電塗布する場合、上記の第1ウェブ及び第2ウェブのいずれか一方に塗布してよいし、両方に塗布してもよい。静電塗布する方法及びその条件は、特に限定されない。好ましい方法は、直流高電圧により帯電させた熱膨張性カプセルを、接地した、第1ウェブ及び第2ウェブの少なくとも一方の表面に対してスプレー(吐出)し、静電引力により付着させる方法である。また、静電塗布に際して、上記第1ウェブを移動させながら塗布してよいし、上記第1ウェブを固定しながら塗布してもよい。
【0025】
上記塗布工程における、熱膨張性カプセルの塗布方法について説明する。
塗布する前の熱膨張性カプセルは、陽極及び陰極のいずれに帯電させてもよいが、陽極に帯電させた場合、第1ウェブ及び/又は第2ウェブは、対極である陰極に帯電させる。
また、上記熱膨張性カプセルの塗布に際して、その吐出量、上記ウェブへのエア流量、塗布時間等は、適宜、調整される。このうち、一方のウェブへスプレー(吐出)されるエア流量として、好ましくは1〜10m/時間、より好ましくは3〜6m/時間とすることができる。エア流量が上記範囲にあると、上記熱膨張性カプセルを、ロスを低減させつつ上記ウェブに保持させることができ、最終的に得られる繊維複合体が軽量性に優れるとともに、剛性にも優れる。尚、両方のウェブに対して塗布する場合も同様に、熱膨張性カプセルの塗布量(保持量)が、上記範囲に入るように、塗布条件が設定される。
上記塗布工程の後、塗布された熱膨張性カプセルを、上記ウェブの内部に分散させるため、必要に応じて、振動、吸引等の工程を行うことができる。尚、振動工程は、上記ウェブに対して、振動を与えるものである。また、吸引工程は、上記ウェブにおける、熱膨張性カプセルが塗布されていない面の側から吸引するものである。これらの工程の具体的方法は、特に限定されないが、通常、上記ウェブの帯電を解除してから行われる。帯電解除の方法としては、塗布工程の前に設定した接地を解除する方法等が挙げられる。
【0026】
上記塗布工程において、熱膨張性カプセルを、一方のウェブ、例えば、第1ウェブに塗布した場合、その後の、積層ウェブ形成工程において、第1ウェブにおける、熱膨張性カプセルが塗布された側の面を被覆するように、第2ウェブを配設又は形成し、積層ウェブとする。また、上記塗布工程において、熱膨張性カプセルを、両方のウェブに塗布した場合、その後の、積層ウェブ形成工程において、両方のウェブにおける、熱膨張性カプセルが塗布された側の面どうしを当接させて、積層ウェブとする。
これらの方法により、上記第1ウェブ及び上記第2ウェブを、上記熱膨張性カプセルを挟持するように積層してなる積層ウェブが得られる。
【0027】
上記積層ウェブにおける熱膨張性カプセルの質量割合は、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは3〜12質量%、更に好ましくは5〜10質量%である。上記熱膨張性カプセルの質量割合が、この範囲にあると、熱膨張性カプセルの発泡倍率を、容易に、1.2〜5倍程度とすることができ、この倍率で発泡(膨張)状態にある高分子カプセルの複数が、それらの殻壁をもって植物性繊維どうしを挟み、該植物性繊維どうしを固定し、繊維複合体の軽量化及び改良された剛性が達成される。
【0028】
上記積層ウェブ形成工程により得られる積層ウェブの概略断面を図2に示す。図2の積層ウェブ3は、第1ウェブ310と、第2ウェブ320と、第1ウェブ310及び第2ウェブ320の間に配された熱膨張性カプセル315とを備える。尚、上記積層ウェブ形成工程の前に、振動工程及び吸引工程を行った場合には、通常、熱膨張性カプセル315が、第1ウェブ310の内部、及び、第2ウェブ320の内部、即ち、積層ウェブの内部全体に広く分散している。
【0029】
上記積層ウェブ形成工程の後、積層ウェブは、必要に応じて、加圧処理等した後、交絡工程に送られ、交絡物が形成される。
上記交絡工程において、積層ウェブを交絡する方法としては、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、ウォーターパンチ法等が挙げられる。これらのうち、積層ウェブに含まれる熱膨張性カプセルを、効率よく積層ウェブの内部全体に分散させることができることから、ニードルパンチ法が好ましい。
【0030】
上記積層ウェブが、ニードルパンチ法により交絡される場合、熱膨張性カプセルを効率よく積層ウェブの内部全体に分散させるための交絡条件は、以下に示される。
針密度は、針の種類及びその形状によって選択される。針深度(パンチング時のベッドプレート表面から更に突き刺した針の先端までの距離)が1〜8mmの場合、針密度(パンチング時に積層ウェブの単位面積当たりに打ち込む針本数)は、好ましくは20〜80本/cm、より好ましくは30〜50本/cmである。パンチングは、積層ウェブの片面側からのみであってよいし、両面側からであってもよいが、両面側から行うことが好ましい。この針密度が、上記範囲にあると、第1ウェブの繊維、及び、第2ウェブの繊維の間の十分な絡合を得ることができる。尚、上記針密度が小さすぎると、第1ウェブの繊維、及び、第2ウェブの繊維の絡合が十分でない場合があり、接合性が悪く、実用に供することができないことがある。一方、上記針密度が大きすぎると、得られる交絡物は、緻密なものとなるが、第1ウェブの繊維、及び、第2ウェブの繊維の大半が切断する場合があり、得られる交絡物の強度が低下することがある。
【0031】
上記交絡工程の後、交絡物は、必要に応じて、加圧、振動、吸引、裁断等の工程を経た後、溶融工程に送られ、第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維が溶融される。尚、振動工程及び吸引工程とは、第1ウェブの内部、及び、第2ウェブの内部に分散された熱膨張性カプセルを、更に均一に分散させるための処理である。
【0032】
上記交絡工程により得られる交絡物の概略断面を図3に示す。図3の交絡物4は、第1ウェブ310の第2ウェブ320の境界が判別しにくくなるほど、双方の繊維が絡み合っており、内部全体に、均一に分散した熱膨張性カプセル315を備える。
【0033】
上記溶融工程において、交絡物は、少なくとも、第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維が溶融する温度に加熱される。この溶融工程における加熱条件は、上記の各熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の種類、及び、熱膨張性カプセルの構成材料により選択される。
【0034】
上記溶融工程における加熱により、上記の各熱可塑性樹脂繊維が溶融し、溶融物が植物性繊維の表面に濡れて、植物性繊維どうしが接合される。また、この溶融物が熱膨張性カプセルの殻壁に付着する場合がある。これにより、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の混合繊維の集合体(交絡物)から、互いに接合された植物性繊維の集積体に変化する。
【0035】
上記溶融工程において、熱膨張性カプセルの膨張を抑制しつつ、第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融するために、交絡物を圧縮しながら加熱する方法が挙げられる。この方法によると、後の膨張工程において、所定の厚さを有する繊維複合体とすることが容易である。即ち、交絡物を圧縮しながら加熱することにより、上記熱膨張性カプセルの膨張をできるだけ抑制し、植物性繊維の表面に対する、溶融物の濡れ性を十分なものとし、植物性繊維どうしの接着性を向上させることができる。そして、その後、膨張工程を経て最終的に得られる繊維複合体の形状安定性を改良することができる。
【0036】
上記膨張工程において、加熱することにより、熱膨張性カプセルが膨張(発泡)する。この膨張工程における加熱条件は、熱膨張性カプセルの構成材料及びその組成により選択される。尚、上記溶融工程を、交絡物を圧縮しながら、且つ、熱膨張性カプセルを膨張させずに行った場合には、圧縮を中止して開放し、そのままの加熱状態で、あるいは、更に昇温する等により、熱膨張性カプセルを膨張させることができる。これを利用して、所望の厚さを有する繊維複合体を製造することができる。例えば、固定型及び可動型を備える平板金型を用い、交絡物と密着した状態あるいは圧縮した状態で、溶融工程を行い、その後、金型にてコアバック動作をとり、冷却状態で、又は、加熱状態で、又は、必要に応じて更に加熱することにより、熱膨張性カプセルを膨張させ、所望の厚さを有する繊維複合体を製造することができる。
熱膨張性カプセルの発泡倍率は、その構成材料及び組成、溶融工程における加熱条件、膨張工程における加熱条件等に依存するが、通常、1.2〜5倍程度である。
【0037】
尚、上記溶融工程において、交絡物の内部に分散している熱膨張性カプセルが、熱可塑性樹脂繊維の溶融とともに膨張してもよい。即ち、上記溶融工程と、上記熱膨張性カプセルを膨張させる膨張工程とを、同時に行ってもよい。このとき、加熱により、上記熱可塑性樹脂繊維が溶融し、その溶融物が植物性繊維の表面に濡らせて、植物性繊維どうしを接合させると同時に、植物性繊維どうしの間の空隙に、発泡(膨張)状態にある高分子カプセルが配され、繊維複合体が形成される。
【0038】
本発明の繊維複合体の製造方法を、製造装置の一例である図1を用いて説明する。尚、図1の繊維複合体製造装置は、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第1及び第2ウェブを形成するために配設された第1及び第2エアレイ装置を備える装置である。
初めに、所定の割合で混合された、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維からなる混合繊維等を、貯蔵手段より供給し、必要に応じて振動を与える等により、混合繊維を解きほぐしつつ、第1混合繊維供給部111及び第2混合繊維供給部112に供給する。次いで、各混合繊維は、それぞれ、第1エアレイ装置121及び第2エアレイ装置122により、搬送コンベア180の面上で第1ウェブ(下層側ウェブ)310及び第2ウェブ(上層側ウェブ)320が形成される。その後、第1ウェブ(下層側ウェブ)310及び第2ウェブ(上層側ウェブ)320は積層状態となるが、積層する前に、予め、接地しておいた搬送コンベア180の面上で第1ウェブを流しながら、静電塗布装置170により、直流高電圧により帯電させた熱膨張性カプセルをスプレー(吐出)し、静電引力により付着させる。そして、第2ウェブ(上層側ウェブ)320を、塗布された熱膨張性カプセルを被覆するように配置し、積層ウェブ3を得る。
尚、上記静電塗布装置170としては、例えば、熱膨張性カプセルを帯電させるための帯電手段と、帯電された熱膨張性カプセルを第1ウェブ等に吹き付けるための吐出手段とを備える装置や、帯電していない熱膨張性カプセルを吐出するための吐出手段と、吐出した熱膨張性カプセルに、上記吐出手段の外部に設けられた、熱膨張性カプセルを帯電させるための帯電手段とを備える装置等を用いることができる。帯電手段としては、コロナ帯電装置、摩擦帯電装置等が挙げられる。
【0039】
次に、搬送コンベア180の面上を流れる積層ウェブ3は、必要に応じて、加圧手段、振動手段、吸引手段等により各処理に供される。そして、積層ウェブ3の上方から、第1交絡手段(ニードルパンチ加工装置)140により交絡され、更に、その下方から、第2交絡手段(ニードルパンチ加工装置)150により交絡され、交絡物4を得る。尚、第1交絡手段140及び第2交絡手段150の後、交絡物4の内部に、熱膨張性カプセル315をより均一に分散させるために、振動手段、吸引手段等を備えることもできる。
その後、交絡物4は、必要に応じて、加圧手段、裁断手段等により各処理に供される。そして、ギャップ調整、温度調整等の可能な平板金型等(図示せず)を用いて、熱処理を行い、熱可塑性樹脂繊維を溶融させる。次いで、溶融と同時に、又はその後、熱膨張性カプセル315を膨張(発泡)させて、植物性繊維11どうしが、該植物性繊維11どうしの間の空隙で発泡(膨張)状態にある高分子カプセル15(の殻壁)と、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂とにより結着して、所望の形状、厚さ及び目付を有し、剛性に優れた繊維複合体1(図4)を得ることができる。
【0040】
上記本発明の製造方法により得られた繊維複合体1は、上記のように、植物性繊維11と、物理発泡剤を内包する高分子カプセル15と、植物性繊維どうし、並びに、植物性繊維及び高分子カプセル(の殻壁)を接合する熱可塑性樹脂と、を備える(図4)。高分子カプセル及び熱可塑性樹脂の質量割合は、植物性繊維を100質量部とした場合に、それぞれ、好ましくは2〜30質量部及び30〜250質量部、より好ましくは5〜25質量部及び50〜200質量部、更に好ましくは10〜20質量部及び80〜120質量部である。上記質量割合を満たすことで、軽量性及び剛性に優れ、目付が1,500g/m以下の領域においても、深絞り成形が可能である。
尚、本発明の繊維複合体1に含まれる、熱膨張性カプセル315の発泡体(膨張体)である高分子カプセル15は、通常、殻壁が閉じているが、溶融工程及び膨張工程における加熱条件等により、破裂している場合がある。また、高分子カプセル15に内包されている物理発泡剤は、通常、時間と共に揮発する。
【0041】
本発明の繊維複合体は、同一厚さで見た場合に、植物性繊維どうしを上記熱可塑性樹脂や、他の接着剤等により接合し、一体化させてなる集積体(発泡した高分子カプセルが含まれない、植物性繊維のみからなる繊維基材)と比較して、10〜200%の軽量化を実現できる。
また、本発明の繊維複合体は、同一目付で見た場合に、植物性繊維どうしを接着剤等により接合し、一体化させてなる集積体と比較して、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率で評価される剛性が著しく優れる。本発明の繊維複合体において、目付700〜1,500g/mの領域において、最大曲げ荷重では、1.2〜2倍程度高い性能が得られ、また、曲げ弾性率では、1.1〜1.6倍程度高い性能が得られる。後述される用途においては、目付750〜1,000g/mの範囲にある繊維複合体を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の繊維複合体は、車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、建築関連分野等において広く利用される。本発明の繊維複合体は、上記分野における内装材、外装材、構造材等として好適である。
車両関連分野では、自動車用で、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等が挙げられる。
船舶関連分野、航空機関連分野では、パッケージトレー、アームレストの芯材、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル等が挙げられる。
また、建築関連分野では、家具用で、机、椅子、棚、箪笥等の表装材、構造材や、住宅用で、ドア表装材、ドア構造材等が挙げられる。
その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材等として用いることもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
植物性繊維として、平均径0.09mm及び平均繊維長65mmのケナフ繊維、及び、熱可塑性樹脂繊維として、平均径0.02mm及び平均繊維長50mmのポリプロピレン製繊維を、質量比50:50で混合し、第1繊維貯蔵部(図示せず)及び第2繊維貯蔵部(図示せず)に収容した。上記の植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の各繊維長は、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。
その後、混合繊維を、第1繊維貯蔵部及び第2繊維貯蔵部に、それぞれ、接続された第1繊維供給部111(図1)及び第2繊維供給部112(図1)から、第1エアレイ装置121(図1)及び第2エアレイ装置122(図1)に一定量で連続的に供給し、厚さがいずれも約200mmである、第1ウェブ(下層側ウェブ)310及び第2ウェブ(上層側ウェブ)320を形成した。
次いで、接地された搬送コンベアの面上で流れる第1ウェブ(下層側ウェブ)310に対して、オプティフレックス1S(撹拌式)ハンドガンユニットを用い、大日精化社製熱膨張性カプセル(商品名「ダイフォーム H1100D」、平均粒径46μm、発泡開始温度196℃、最大発泡温度208℃)を静電塗布した。塗布条件は、ガンヘッド先端部から第1ウェブ(下層側ウェブ)310までの距離が30cm、塗布ガン印可電圧が−100kV、電流値が22μA、エア流量が4.0m/時間、吐出量が40%、リンスエアーが0.1m/時間、搬送コンベアの移動速度3m/分である。
静電塗布の後、第1ウェブ(下層側ウェブ)310における熱膨張性カプセルの塗布面に対して、第2ウェブ(上層側ウェブ)320を積層し、上から、第2ウェブ320、及び、熱膨張性カプセルが塗布された第1ウェブ310で構成される積層ウェブ3(厚さ約400mm)を形成した(図2参照)。尚、上記熱膨張性カプセルの塗布量は、上記混合繊維100質量部に対して3質量部である。
その後、積層ウェブ3の上方から、即ち、第2ウェブ320の表面側から、積層ウェブ3の送り速度0.05m/秒、針密度40本/cm、針深度1mm及びパンチング速度5回/秒の条件下、ニードルパンチを行い、更に、同じ条件で、積層ウェブ3の下方から、即ち、第1ウェブ320の表面側(底面側)からニードルパンチすることにより交絡し、厚さが約20mm及び目付700g/mである交絡物4を得た(図3参照)。この交絡物4の内部において、熱膨張性カプセル315が広く均一に分散されている。
次いで、図1に示していない裁断機により交絡物4を所定の大きさ及び形状に加工し、交絡マットとした。この交絡マットを、加熱プレス装置の平板金型内にセットし、温度235℃(60秒後の交絡マットの内部温度200℃)及び圧力14kgf/cmの条件で、60秒間加圧した。加熱プレスの後、交絡マットを加熱することなく、同じ平板金型内に8秒間留めて、交絡マット内の熱膨張性カプセルを十分に発泡(膨張)させ、脱型し、繊維複合体を得た(図4参照)。この繊維複合体において、熱可塑性樹脂繊維は、加熱プレスにより溶融し、植物性繊維11、及び、熱膨張性カプセル315の発泡体(膨張体)である高分子カプセル15の殻壁を、並びに、植物性繊維11どうしを接合している。
その後、冷間プレス装置の平板金型内にセットし、圧力14kgf/cmの条件で、30秒間加圧することにより、厚さ4mm及び目付700g/mの繊維ボード(繊維複合体)を得た。また、同様にして、目付1,000g/mの繊維ボード、及び、目付1,500g/mの繊維ボードを製造した。
【0044】
上記で得られた繊維ボードの機械的特性を評価するために、JIS K7171に準じて、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率を測定した。この測定に際しては、含水率約10%の状態における試験片(長さ150mm、幅50mm及び厚さ4mm)を用いた。そして、試験片を支点間距離(L)100mmとした2つの支点(曲率半径5.0mm)で支持しながら、支点間中心に配置した作用点(曲率半径3.2mm)から速度50mm/分にて荷重の負荷を行い、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率を測定した。得られた結果を、図5及び図6に示した。
【0045】
実施例2
実施例1において熱膨張性カプセルの塗布量を、上記混合繊維100質量部に対して6質量部とした以外は、実施例1と同様にして、厚さが4mmであり、目付がそれぞれ、700g/m、1,000g/m及び1,500g/mの繊維ボードを製造した。
その後、実施例1と同様にして、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率を測定した。得られた結果を、図5及び図6に示した。
【0046】
比較例1
実施例1において熱膨張性カプセルを塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さが4mmであり、目付がそれぞれ、700g/m、1,000g/m及び1,500g/mの繊維ボードを製造した。
その後、実施例1と同様にして、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率を測定した。得られた結果を、図5及び図6に示した。
【0047】
図5及び図6から明らかなように、実施例1及び実施例2で得られた繊維ボードは、比較例1で得られた繊維ボードに比べて、同じ目付で見た場合に、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率の両方に優れていた。特に、目付が1,000g/mの場合、実施例1における最大曲げ荷重は、比較例1のそれの約1.5倍高く、実施例2における最大曲げ荷重は、同じく約1.8倍高く、剛性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の繊維複合体及びその製造方法は、車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、建築関連分野等において広く利用される。本発明の繊維複合体は、上記分野における内装材、外装材、構造材等として好適である。
車両関連分野では、自動車用で、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等が挙げられる。
船舶関連分野、航空機関連分野では、パッケージトレー、アームレストの芯材、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル等が挙げられる。
また、建築関連分野では、家具用で、机、椅子、棚、箪笥等の表装材、構造材や、住宅用で、ドア表装材、ドア構造材等が挙げられる。
その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材等として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1で用いた製造装置を示す模式的説明図である。
【図2】本発明の製造方法に係る積層ウェブを示す概略断面図である。
【図3】本発明の製造方法に係る交絡物を示す概略断面図である。
【図4】本発明の繊維複合体を示す概略断面図である。
【図5】実施例1及び実施例2で得られた繊維複合体及び比較例1で得られた繊維基材について測定した、目付と最大曲げ荷重との相関を示すグラフである。
【図6】実施例1及び実施例2で得られた繊維複合体及び比較例1で得られた繊維基材について測定した、目付と曲げ弾性率との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1;繊維複合体、10;混合繊維、11;植物性繊維、111;第1繊維供給部、112;第2繊維供給部、121;第1エアレイ装置、122;第2エアレイ装置、15;発泡(膨張)状態にある高分子カプセル、140;第1交絡手段、150;第2交絡手段、170;静電塗布手段、180;搬送コンベア、3;積層ウェブ、310;第1ウェブ、315;熱膨張性カプセル、320;第2ウェブ、4;交絡物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第1ウェブを形成する第1ウェブ形成工程と、
植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含む第2ウェブを形成する第2ウェブ形成工程と、
上記第1ウェブ及び上記第2ウェブの少なくとも一方の表面に、熱膨張性カプセルを静電塗布する塗布工程と、
上記第1ウェブ及び上記第2ウェブを、上記熱膨張性カプセルを挟持するように積層し、積層ウェブとする積層ウェブ形成工程と、
上記積層ウェブを交絡し、交絡物とする交絡工程と、
上記交絡物を加熱し、上記第1ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維、及び、上記第2ウェブを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、
上記交絡物を加熱し、上記熱膨張性カプセルの殻壁を軟化させて膨張させる膨張工程と、を備えることを特徴とする繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
上記交絡工程において、上記積層ウェブの両面側から交絡する請求項1に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項3】
上記溶融工程及び上記膨張工程を同時に行う請求項1又は2に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項4】
上記加熱工程及び上記膨張工程において、上記交絡物を圧縮しながら加熱する請求項1乃至3のいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項5】
植物性繊維が集積し且つ一体化してなる繊維複合体において、
上記植物性繊維どうしが、該植物性繊維どうしの間の空隙で発泡している高分子カプセルと、熱可塑性樹脂とにより結着していることを特徴とする繊維複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−179894(P2009−179894A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18288(P2008−18288)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】