説明

織編物の製造方法

【課題】耐磨耗性、保温性、毛羽立ち防止性といった物性面での特性と、軽量感、ソフト感といった風合い面での特性との両者を備えてなる、新規な織編物を製造する方法を提供する。
【解決手段】芯成分として水溶性ビニロン短繊維Aを、鞘成分としてフィブリル化防止加工されてなる溶剤紡糸セルロース繊維Bを配し、両繊維の質量比率(A/B)が10/90〜40/60である複重層糸を用いて製織編した後、前記水溶性ビニロン短繊維Aを溶出除去する織編物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空紡績糸を使用した織編物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アウター、インナー用途に供される素材としてポリエステル繊維やナイロン繊維などの合成繊維が多用されている。しかしながら、近年、消費者の間で、ファッションへの関心が高まると共に環境保全への意識も高まり、一時は需要が低迷していた天然繊維及び再生繊維が再び注目されるようになってきた。
【0003】
特に、セルロース系繊維は、他の繊維より取り扱いやすいことから需要の伸びが顕著であり、中でもレーヨン繊維は、織編物に対し独特の風合いや優れた吸放湿特性などを付与できることから、汎用衣料から高級衣料に至る幅広い範囲で需要が伸びている。
【0004】
しかしながら、レーヨン繊維を多用した織編物では、物性面での問題として、耐磨耗性や保温性が低下する、繰り返して使用するにより表面が毛羽立つなどの問題があり、加えて風合い面においても、重量感を感じる、繰り返して使用することによりソフト感が失われるといった問題がある。
【0005】
かかる問題を解決するため、レーヨン繊維の中でも特に溶剤紡糸セルロース繊維を使用した上で同繊維を構成するセルロース分子を改質するなどの試みがあるが、織編物の物性を改善する点については一定の効果が認められるものの、風合い面において、特に重量感の軽減がほとんど認められない点が大きな課題として残されている。
【0006】
そこで、紡績糸に嵩高性を付与して織編物の重量感を軽減する手段が提案されている。具体的には、ポリビニルアルコール系繊維と共に他の繊維を均一紡績し、製織編後、染色加工の過程でポリビニルアルコール系繊維を除去することで、軽量感、ソフト感などに富む織編物の得る技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2006−16698号公報
【特許文献2】特開2002−161449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献に記載された技術によれば、確かに織編物の風合いを改善することはできる。
【0008】
しかし、かかる織編物を構成する紡績糸は、嵩高性を有していることから非常に開繊し易い構造をなしており、このため、紡績糸自体の結束力が低減する結果、かえって織編物の物性が損なわれてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、耐磨耗性、保温性、毛羽立ち防止性といった物性面での特性と、軽量感、ソフト感といった風合い面での特性との両者を備えてなる、新規な織編物を製造する方法を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、芯成分として水溶性ビニロン短繊維Aを、鞘成分としてフィブリル化防止加工されてなる溶剤紡糸セルロース繊維Bを配し、両繊維の質量比率(A/B)が10/90〜40/60である複重層糸を用いて製織編した後、前記水溶性ビニロン短繊維Aを溶出除去することを特徴とする織編物の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物性・風合いの両面で優れた特性を持つ、衣料用途全般に適した織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明では、まず特定の2成分からなる複重層糸を用意し、これを製織編する。そして、後に複重層糸中の芯成分を溶出除去することで、中空状の紡績糸(中空紡績糸)を得る。これにより、得られる織編物は、当該中空紡績糸から構成されることとなり、その結果、織編物へ物性・風合いの両面で優れた特性が付与される。中でも顕著な特性として、保温性、軽量感があげられる。これは、中空紡績糸が内部に空洞を包含していることに起因するものであり、紡績糸の内部に空気を溜め込むことが可能となる結果、優れた保温性が発揮され、同時に、中空紡績糸が見かけより細い番手を有することから、優れた軽量感が発揮されるのである。なお、当然のことながら、これら保温性と軽量感との間には相関関係があり、保温性が増すと軽量感も増し、保温性が低下すると軽量感も低下する。
【0015】
本発明における複重層糸では、芯成分として水溶性ビニロン短繊維Aが配される。水溶性ビニロン短繊維としては、市販のものが使用でき、例えば、(株)クラレ製「クラロンK−2(商品名)」などが好ましく採用できる。
【0016】
水溶性ビニロン短繊維Aの単糸繊度としては、0.5〜3.0dtexが好ましく、平均繊維長としては30〜50mmが好ましい。
【0017】
一方、複重層糸の鞘成分には、フィブリル化防止加工された溶剤紡糸セルロース繊維Bが配される。
【0018】
溶剤紡糸セルロース繊維とは、原料たるパルプを所定の溶剤に溶解し、濾過後、乾式又は湿式紡糸することで得られる繊維であり、セルロース系繊維の中でも特に織編物へソフトな風合いを与えうる点で有利である。
【0019】
フィブリル化防止加工の方法としては、特に限定されないが、好ましい加工方法の一例として、クロルヒドリン基を有する化合物やクロルヒドリン基を有する化合物などと共に所定の助剤を含有する水溶液を調製し、パッケージ染色機など繊維染めに適した染色機を用いて溶剤紡糸セルロース繊維を加工する方法があげられる。この場合、加工時間としては、繊維の加工量、機種、機械の回転速度などにもよるが、一般には10〜90分間が好ましい。加工時間が10分間を下回ると、織編物において所望の耐磨耗性、毛羽立ち防止性が得られ難く、一方、90間分を上回ると、架橋反応が略完了してしまうため耐磨耗性及び毛羽立ち防止性の向上が期待できず、これ以上の加工継続は製造コストを上昇させることにもなりかねず、いずれも好ましくない。また、加工温度としては、40℃以上が好ましく、60〜100℃がより好ましい。40℃未満になると反応速度が遅くなるので、加工時間が延びる傾向にあり、一方、100℃を超えると反応ムラが生じ易くなり、いずれも好ましくない。
【0020】
フィブリル化防止加工は、織編物に所望の耐磨耗性、毛羽立ち防止性を与え点で有利である。
【0021】
フィブリル化防止加工されてなる溶剤紡糸セルロース繊維Bの単糸繊度としては、0.5〜1.5dtexが好ましく、平均繊維長としては30〜50mmが好ましい。
【0022】
本発明における複重層糸は、上記の2繊維からなり、両繊維の質量比率(A/B)としては10/90〜40/60である必要がある。質量比率が10/90を下回ると、織編物に保温性、軽量感を付与できなくなり、一方、40/60を上回ると、中空紡績糸の構造が不安定になると同時に織編物の強度も低下する。
【0023】
また、複重層糸の太さとしては、織編物の用途に応じて任意に設定してよいが、一般には20〜80番手が好ましく、生産ロットの観点から40/1、50/1、60/1がより好ましい。
【0024】
本発明では、既述したように、まず所定の複重層糸を用意する。具体的には、上記した繊維A、Bをそれぞれ別口で一連の紡績工程に投入し、途中の粗紡工程又は精紡工程において、繊維Aからなる繊維束の周囲に繊維Bからなる繊維束を捲回させれば、目的の複重層糸を得ることができる。
【0025】
その後は、複重層糸を製織編して生機を得、続く染色加工の途中又は加工の前もしくは後のいずれかにおいて繊維Aを溶出除去すれば、目的の織編物が得られる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例・比較例における各特性値は、下記の方法に準じて測定した。
(1)耐磨耗性
JIS L1096(マーチンデール試験機による摩擦、9KPa)に基づいて摩擦強力を測定することで、耐磨耗性を評価した。
(2)保温性
保温性評価は、精密迅速熱物性測定装置(カトーテック(株)製、「KES−F7サーモラボ2B型(商品名)」を使用し、試料設置の有無による熱板からの熱量消失の差を測定し、保温率(%)を算出した。なお、既述したように、保温性と軽量感との間には相関関係がある。
(3)毛羽立ち防止性
JIS L0217 103法に準じて洗濯を30回繰り返した後の織編物の表面変化を、目視にて下記3段階で評価し、これを毛羽立ち防止性の評価とした。
○:洗濯前と略同等であった。
△:白化、ピリングなどがやや認められる。
×:白化、ピリングなどが大いに認められる。
(4)ソフト感
JIS L0217 103法に準じて洗濯を30回繰り返した後の織編物の手触り感を、ハンドリングにて下記3段階で評価し、これをソフト感の評価とした。
○:嵩高で温かみのある感触であった。
△:嵩高ではあるが、ややフラット感の残る感触であった。
×:フラット感ある感触であった。
【0027】
(実施例1)
まず、溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製「マイクロリヨセルKF(商品名)」をパッケージ染色機でフィブリル化防止加工して、単糸繊度0.9dtex、平均繊維長38mmの、フィブリル化防止加工されてなる溶剤紡糸セルロース繊維Bを得た。次いで、予め準備しておいた単糸繊度1.7dtex、平均繊維長38mmの水溶性ビニロン短繊維A((株)クラレ製「クラロンK−2(商品名)」)と、上記繊維Bとをそれぞれ別口で一連の紡績工程に投入した。そして、途中の粗紡工程において、繊維Aからなる繊維束の周囲に繊維Bからなる繊維束を捲回させ、複重層粗糸を得た。この複重層粗糸では、芯成分として繊維Aが、鞘成分として繊維Bが配され、両繊維の質量比率(A/B)は20/80であり、また、太さは0.69g/m、撚数は0.78回/2.54cmであった。続いて、この複重層粗糸を精紡し、質量比率(A/B)が20/80で太さが40番手の複重層糸となした。
【0028】
次に、釜径86cm、針密度28ゲージ、総針本数2976本、口数102口のベア天竺丸編機を使用して、得られた複重層糸と、予め準備しておいた22dtex1fのポリウレタン弾性糸とを同時に編成し、プレーティングによるベア天竺組織の生機となした。
【0029】
そして、この生機を、繊維Aを溶出除去するための工程を途中に含む、一連の染色加工工程に投入し、目的の編地を得た。すなわち、まず、生機をプレセットし、次に浴比を1:30に設定して60℃で30分間熱水処理することにより、繊維Aを溶出除去し、その後、洗い、精練、染色(反応染料使用)、柔軟仕上げセットの順で加工した。得られた編地の巾は150cm、目付けは165g/m、密度は62コース・48ウェールであった。
【0030】
(比較例1)
まず、実施例1で使用した繊維Bを一連の紡績工程に投入し、40番手の紡績糸を得た。なお、途中の粗紡工程により得られた粗糸の太さは0.69g/m、撚数は0.78回/2.54cmであった。
【0031】
そして、この紡績糸と、実施例1と同一のポリウレタン弾性糸とを同例と同一の条件で編成し、以降は熱水処理及び洗いを省く以外は、同例と同様に染色加工して編地を得た。得られた編地の巾は150cm、目付けは200g/m、密度は61コース・47ウェールであった。
【0032】
(比較例2)
繊維Bに代えて、単糸繊度1.7dtex、平均繊維長38mmの綿繊維を用いる以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地の巾は150cm、目付けは170g/m、密度は61コース・48ウェールであった。
【0033】
以上の実施例・比較例で得られた編地の各特性値を下記表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、本発明により得られた実施例1にかかる編地は、耐磨耗性、保温性、毛羽立ち防止性と共に、軽量感、ソフト感も併せ持つものであった。この結果から、本発明により、汎用衣料から高級衣料に至る幅広い範囲に適用できる織編物が提供できることが理解できる。
【0036】
これに対し、比較例1には、中空紡績糸を形成できなかったため、十分な保温性及び軽量感が得られなかった。また、比較例2では、紡績糸を構成する繊維として溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維を使用したため、ソフト感が十分には得られず、しかもその繊維をフィブリル化防止加工しなかったことから、耐磨耗性及び毛羽立ち防止性に劣る結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分として水溶性ビニロン短繊維Aを、鞘成分としてフィブリル化防止加工されてなる溶剤紡糸セルロース繊維Bを配し、両繊維の質量比率(A/B)が10/90〜40/60である複重層糸を用いて製織編した後、前記水溶性ビニロン短繊維Aを溶出除去することを特徴とする織編物の製造方法。


【公開番号】特開2010−138511(P2010−138511A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314466(P2008−314466)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】