説明

缶体の製造方法および缶体

【課題】 印刷層の表面積の大小にかかわらず、光の乱反射状態を均一にすることが可能になるとともに、色調の調整が容易にできる。
【解決手段】 缶基体1の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成された缶体の製造方法であって、缶基体1の外周面側に、インキを印刷してインキ膜12を形成し、該インキ膜12を被覆するように、発泡性マイクロカプセル13が混入されたオーバーコート塗料を塗布してオーバーコート塗装膜14を形成した後に、これらを加熱し、発泡性マイクロカプセル13を発泡させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水等を充填する缶体の製造方法およ缶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の缶体は、缶基体の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成されている。印刷層は、着色インキが印刷されてなるインキ膜を硬化させることにより形成され、オーバーコート層はオーバーコート塗料が塗装されてなるオーバーコート塗装膜を硬化させることにより形成される。
印刷層は、缶基体の外表面側に、文字、図形、記号等を表して、需要者に内容物を識別させたり、缶体に優れた美観を具備させるためのものである。なお、この印刷層は、缶基体外周面側の全域に形成されるものばかりでなく、文字等の表示位置や色等に応じて、複数箇所に分散されて形成される場合があり、また、図形等に濃淡を付けるために霧吹き状の印刷層を形成する、いわゆる網点印刷により形成される場合がある。さらに、缶基体の外周面側における同一部分に2色のインキを各別に網点印刷を行い、該部分でこれらの2色を混合して、新たな色を表示させることもなされている。
オーバーコート層は、前記印刷層を保護したり、複数の缶体を連立させた状態で搬送する際に、互いに接触し合う缶体の外周面同士の滑りを良好にして搬送障害が生じないようにするためのものである。
【0003】
ところで近年では、缶体にさらに優れた美観を具備させる等のために、例えば下記特許文献1に示されるような、前記塗膜に、加熱により発泡させられた発泡マイクロカプセルを含有させることによって、この塗膜表面に微細な凹凸を形成し、光を乱反射させて、マット感(艶消し感)を表現する構成が開示されている。このような缶体は、缶基体の外周面側に、発泡性マイクロカプセルを含有する着色インキを印刷してインキ膜を形成した後に、該インキ膜を被覆するようにオーバーコート塗料を塗布してオーバーコート塗装膜を形成し、その後、これらを加熱して、前記インキ膜内で前記発泡性マイクロカプセルを発泡させて発泡マイクロカプセルにするとともに、前記インキ膜および前記オーバーコート塗装膜を硬化させて印刷層およびオーバーコート層に形成することにより製造されている。
【特許文献1】特開平10−250209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の缶体では、着色インキに発泡性マイクロカプセルを含有させ、該カプセルを前記インキ膜内で発泡させていたので、前記発泡性マイクロカプセルが発泡する前に該カプセルの外径が前記インキ膜の厚さと同等であっても、発泡後には、前記発泡マイクロカプセルの外径は前記印刷層の平均厚さよりも大きくなるため、発泡性マイクロカプセルの外表面に近接している硬化前の着色インキは、該カプセルの膨張(発泡)に追従するように、オーバーコート層側へ向けて流動させられることになる。その結果、印刷層の表面が、発泡マイクロカプセルが配置されていないレベル面と、前記流動によって該レベル面よりも前記オーバーコート層側に位置させられた膨出部とからなる凹凸形状になる。このため、前記発泡前のインキ膜の色調と、前記発泡後の得られた印刷層の色調とが異なる場合があり、色調の調整が困難であるという問題があった。
【0005】
また、例えば、缶基体外周面側に、複数の印刷層を分散させて形成した場合に、これら複数の印刷層毎で前記凹凸の状態がばらつき、光の乱反射状態が異なる場合があった。すなわち、小さい文字等を表示する表面積の比較的小さいインキ層、特に前記網点印刷により形成されたインキ膜では、発泡性マイクロカプセルの含有量が少なくなり過ぎて前記光の乱反射が生じず、マット感を十分に表現できない場合があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、印刷層の表面積の大小にかかわらず、光の乱反射状態を均一にすることが可能になるとともに、色調の調整が容易にできる缶体の製造方法および缶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の缶体の製造方法は、缶基体の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成された缶体の製造方法であって、前記缶基体の外周面側に、インキを印刷してインキ膜を形成し、該インキ膜を被覆するように、発泡性マイクロカプセルが混入されたオーバーコート塗料を塗布してオーバーコート塗装膜を形成した後に、これらを加熱し、前記発泡性マイクロカプセルを発泡させることを特徴とする。
【0008】
本発明の缶体は、缶基体の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成された缶体であって、前記塗膜は、加熱により発泡させられた発泡マイクロカプセルを含有し、該発泡マイクロカプセルは、前記印刷層の表面側に配置されるとともに、前記オーバーコート層により該カプセルの外表面の略全面が被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
これらの発明によれば、オーバーコート塗装膜の中で発泡性マイクロカプセルを発泡させることが可能になり、形成する印刷層の表面積の大小にかかわらず、特に印刷層が網点印刷により形成された場合であっても、該印刷層が位置する塗膜に良好な凹凸状態を具備させる、つまり光の乱反射状態を実現させることができ、マット感に優れた缶体を形成することができる。すなわち、前記オーバーコート塗装膜は塗装により形成されて、その表面積は前記インキ膜と比べて大きいため、このオーバーコート塗装膜には、前記光の乱反射を生じさせ得るのに必要十分な量の発泡性マイクロカプセルを確実に含有させることができる。
【0010】
特に、前記インキ膜が缶基体の外周面側に複数分散された状態で形成され、これらの一部が他のインキ膜と比べて表面積が非常に小さい場合でも、これらのインキ膜全体を被覆するようにオーバーコート塗装膜を塗装により形成することにより、形成された缶体において、分散された複数の印刷層毎で、前記凹凸状態がばらつくことを抑制することができる。すなわち、前記凹凸状態は、オーバーコート塗装膜内における発泡性マイクロカプセルの分散状態でのみ決定されるので、この塗装膜内で発泡性マイクロカプセルが均一に分散されていれば、インキ膜および印刷層の表面積の大小とは無関係にこれらの凹凸状態は均一になる。
【0011】
また、前記オーバーコート塗装膜内で発泡性マイクロカプセルを発泡させると、該発泡させられた発泡マイクロカプセルは、前記印刷層の表面側に配置されるとともに、前記オーバーコート層により該カプセルの外表面の略全面が被覆されることになる。つまり、形成された印刷層の表面の全域が略平坦面となる。すなわち、該印刷層表面のうち、発泡マイクロカプセルとの接触部分若しくは対向部分が、この発泡マイクロカプセルが配置されていないレベル面に対して凹形状若しくは同一平面となり、レベル面からオーバーコート層側に位置する発泡マイクロカプセルの外周面に沿って立上がるような凸形状とはならない。
従って、前記発泡前のインキ膜の色調と、前記発泡後の得られた印刷層の色調とを略同一に維持することが可能になり、色調を容易に調整することができる。
【0012】
ここで、前記発泡性マイクロカプセルは、前記オーバーコート塗料に該塗料に対して0.05重量%以上4.00重量%以下混入されていることが望ましい。
この場合、前記塗膜に良好な凹凸状態を具備させることができるとともに、剥離強度の低下を抑制することができる。すなわち、0.05重量%未満の場合、十分なマット感を表現することができず、4.00重量%を超えると、複数の缶体を梱包して輸送する際に、隣合う缶体の外周面同士が摺接することにより、前記塗膜が剥れ易くなり、また、前記印刷層の表面積が小さくされた、細かい文字等が発泡マイクロカプセルにより遮断されて良好に視認することができない虞がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る缶体の製造方法および缶体の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
まず、アルミニウム、スチール等からなる金属板に絞り加工、しごき加工を施して有底筒状の缶基体1を形成した後に、該缶基体1の内面および外面にそれぞれ図示しない内面塗膜および外面塗膜11を形成する。なお、内面塗膜は、周知の方法により形成されるものであるのでその説明は省略する。
【0014】
外面塗膜11は、まず、着色インキを缶基体1の外周面側に印刷してインキ膜12を形成した後に、該インキ膜12を被覆するように、発泡性マイクロカプセル13が混入されたオーバーコート塗料を塗布してオーバーコート塗装膜14を塗装により形成する。その後、これら1、12、13および14を同時に加熱し(例えば180℃〜200℃)、インキ膜12およびオーバーコート塗装膜14を硬化させて印刷層15およびオーバーコート層16を形成するとともに、発泡性マイクロカプセル13を発泡させて発泡マイクロカプセル17にすることにより形成される。なお、インキ膜12はオフセット印刷により文字等を表すように形成されることが好ましく、オーバーコート塗装膜14はロール塗装で形成されることが好ましい。
【0015】
以上により、缶基体1の外周面側に、印刷層15と該印刷層15を被覆するようにオーバーコート層16とを備える塗膜11が形成された缶体10が形成される。前記発泡マイクロカプセル17は、印刷層15の表面側に配置されるとともに、オーバーコート層16により該カプセル17の外表面の略全面が被覆される。つまり、印刷層15の表面は、発泡性マイクロカプセル13が発泡する前後にかかわらず、その全域が略平坦面に維持される。すなわち、印刷層15の表面のうち、発泡マイクロカプセル17との接触部分若しくは対向部分が、このカプセル17が配置されていないレベル面15aに対して凹形状若しくは図示のような同一平面となり、レベル面15aからオーバーコート層16側に位置する発泡マイクロカプセル17の外周面に沿って立上がるような凸形状とはならない。なお、前記接触部分等が凹形状となるのは、発泡性マイクロカプセル13が発泡する際に、その外周面がインキ膜14の表面を厚さ方向に押圧する場合に生じ得る。
【0016】
ここで、インキ膜12および印刷層15を形成する着色インキは、例えば金属粉末、顔料等が含有されるとともに、必要に応じて、染料等の他の添加剤が配合されており、光の透過を妨げる性質を有している。
オーバーコート塗装膜14およびオーバーコート層16を形成するオーバーコート塗料は、実質的に顔料を含まない透明性のあるクリヤーニスとされ、印刷層15の表面に発泡マイクロカプセル17とともに接合でき、かつ缶体10を外方から見たときに、オーバーコート層16を介して印刷層15が視認できるようになっている。また、オーバーコート塗装膜14の厚さは、前記発泡した発泡マイクロカプセル17の外表面を十分に覆うような厚さに設定される。この厚さは、発泡マイクロカプセル17の粒径等に依存するが、4〜20μmであることが望ましい。4μm未満であると、発泡性マイクロカプセル17を十分に覆うことができないし、20μmを超えると、発泡マイクロカプセル17の発泡倍率が抑制される等の問題がある。
【0017】
発泡性マイクロカプセル13は、気体または低沸点の液体が封入され加熱により体積膨脹する性質を持つ小球である。発泡後の発泡マイクロカプセル17は気泡を含み、光を拡散させる性質を有する。発泡性マイクロカプセル13は、平均粒径が6〜30μm、特に6〜15μmであることが好ましい。6μm未満であると、発泡による泡が小さ過ぎるので、塗膜11でマット感を表現できない。15μmを超えると、ロール塗装等において発泡性マイクロカプセル13の転写性が悪くなり、発泡性マイクロカプセル13がロール上に残留して塗装不良を招き易い。また、15μmを超えるとオーバーコート層16の強度が低下し易い。
【0018】
発泡性マイクロカプセル13としては、樹脂からなる外殻を有し、その中空に低沸点の気体または低沸点の液体、例えば低沸点の炭化水素(ブタン、プロパン等)を封入したものが好ましい。このようなカプセルは加熱されると外殻の樹脂が熱軟化するので、封入されている気体が熱膨脹して、その粒径が数倍(例えば4倍)になり体積膨脹する(発泡する)という性質を有する。
【0019】
また、発泡性マイクロカプセル13は、オーバーコート塗料に対して、0.05重量%以上4.00重量%以下混入されることが好ましい。0.05重量%未満の場合、塗膜11上で光が十分に乱反射しないため、マット感を表現することができず、4.00重量%を超えると、複数の缶体を梱包して輸送する際に、隣合う缶体の外周面同士が摺接することによって、前記塗膜が剥れ易くなり、また、印刷層15の表面積が小さい、細かい文字等が発泡マイクロカプセル17により遮蔽されて良好に視認することができない虞がある。
【0020】
以上説明したように本実施形態による缶体の製造方法および缶体10によれば、オーバーコート塗装膜14の中で発泡性マイクロカプセル13を発泡させることが可能になり、形成する印刷層15の表面積の大小にかかわらず、特に印刷層15が網点印刷により形成された場合であっても、該印刷層15が位置する塗膜11に良好な凹凸状態を具備させる、つまり光の乱反射状態を実現させることができ、マット感に優れた缶体10を形成することができる。すなわち、オーバーコート塗装膜14は塗装により形成されて、その表面積はインキ膜12と比べて大きいため、このオーバーコート塗装膜14には、前記光の乱反射を生じさせ得るのに必要十分な量の発泡性マイクロカプセル13を確実に含有させることができる。
【0021】
特に、インキ膜12が缶基体1の外周面側に複数分散された状態で形成され、これらの一部が他のインキ膜12と比べて表面積が非常に小さい場合でも、これらのインキ膜12全体を被覆するようにオーバーコート塗装膜14を塗装により形成することにより、形成された缶体10において、分散された複数の印刷層15毎で、前記凹凸状態がばらつくことを抑制することができる。すなわち、前記凹凸状態は、オーバーコート塗装膜14内における発泡性マイクロカプセル13の分散状態でのみ決定されるので、この塗装膜14内で発泡性マイクロカプセル13が均一に分散されていれば、インキ膜12および印刷層15の表面積の大小とは無関係にこれらの凹凸状態は均一になる。
【0022】
また、オーバーコート塗装膜14内で発泡性マイクロカプセル13を発泡させるので、印刷層15の表面を、発泡性マイクロカプセル13が発泡する前後にかかわらず、その全域を略平坦面に維持することが可能になる。従って、前記発泡前のインキ膜12の色調と、前記発泡後の得られた印刷層15の色調とを略同一に維持することが可能になり、色調を容易に調整することができる。なお、印刷層15の表面のうち、発泡マイクロカプセル17との接触部分が前記レベル面15aに対して凹形状となったとしても、この凹曲面は、光の透過を妨げる性質を有する発泡マイクロカプセル17と接触しているので、該凹曲面上からの反射光を視認することはあり得ず、このため、印刷層15の表面は視覚的には実質的に平坦面となる。
【0023】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記実施形態では、インキ膜12を缶基体1の外周面に形成したが、例えば該外周面にサイズコート塗装膜を形成しておき、該塗装膜の表面にインキ膜12を形成してもよい。
缶体10の内容物は、特に限定されるものではなく、また、缶体10は、開口部に缶蓋が巻き締められたいわゆる缶や、口金部にキャップが螺着されるボトル缶を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
印刷層の表面積の大小にかかわらず、光の乱反射状態を均一にすることが可能になるとともに、色調の調整が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る缶体の製造方法の第1工程を示す拡大断面側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る缶体の製造方法の第2工程を示す拡大断面側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る缶体の斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 缶基体
10 缶体
11 塗膜
12 インキ膜
13 発泡性マイクロカプセル
14 オーバーコート塗装膜
15 印刷層
16 オーバーコート層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶基体の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成された缶体の製造方法であって、
前記缶基体の外周面側に、インキを印刷してインキ膜を形成し、該インキ膜を被覆するように、発泡性マイクロカプセルが混入されたオーバーコート塗料を塗布してオーバーコート塗装膜を形成した後に、これらを加熱し、前記発泡性マイクロカプセルを発泡させることを特徴とする缶体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の缶体の製造方法において、
前記発泡性マイクロカプセルは、前記オーバーコート塗料に、該塗料に対して0.05重量%以上4.00重量%以下混入されていることを特徴とする缶体の製造方法。
【請求項3】
缶基体の外周面側に、印刷層と該印刷層を被覆するオーバーコート層とを備える塗膜が形成された缶体であって、
前記塗膜は、加熱により発泡させられた発泡マイクロカプセルを含有し、該発泡マイクロカプセルは、前記印刷層の表面側に配置されるとともに、前記オーバーコート層により該カプセルの外表面の略全面が被覆されていることを特徴とする缶体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−110409(P2006−110409A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297540(P2004−297540)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】