説明

缶洗浄装置および缶洗浄方法

【課題】洗浄の不十分な缶体を排除でき、確実に洗浄された缶体の提供を可能にする。
【解決手段】成形工程により形成され缶体90を塗装工程の前に洗浄する缶洗浄装置10であって、開口部91を下方に向けた倒立状態で缶体90を搬送する搬送路11,12,13と、この搬送路上の缶体90に向けて薬液または純水からなる洗浄処理液を噴霧する噴霧装置21,31と、倒立状態ではない缶体90を搬送路11,12,13上から落下させて、缶体90を回収する缶体回収部50,60,70と、この缶体回収部において回収された缶体90の内部に溜まっていた洗浄処理液の水質を測定する水質測定部61,71と、この水質測定部61,71における測定結果に応じて、その洗浄処理液を溜めていた缶体90の周辺に配置されていた缶体90を塗装工程前に排除するための排除制御部80とを備える缶洗浄装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底筒状の缶体を倒立状態で洗浄する缶洗浄装置および缶洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の容器として使用される有底筒状の缶の形成工程においては、例えば、絞り・しごき加工(DI加工)によって成形された缶体の表面を外面塗装および内面塗装に適した状態にするために、缶底部を上方に向けた倒立状態で缶体を洗浄する缶洗浄装置が用いられている。
【0003】
この缶洗浄装置は、缶体が搬送される搬送路と、各工程において水、洗浄液等の処理液を噴霧する複数のスプレーを備えた洗浄部と、洗浄部で洗浄された缶体を乾燥させる乾燥部とを備えている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
この缶洗浄装置では、たとえば、水洗工程、脱脂工程、水洗工程、化成処理工程、水洗工程、純水工程、乾燥工程の順で、缶体の洗浄が行われる。洗浄部におけるこれらの工程では、メッシュ状の搬送路上で、倒立姿勢で複数の缶体を搬送しながら上下方向から洗浄液等の処理液を吹き付けることによって、缶体の表面洗浄を行う。
【0005】
このような缶洗浄装置において、径方向よりも缶軸方向に長く、倒立状態に配置された缶体は倒れやすいという問題がある。具体的には、搬送路に配置される缶体の位置がばらついて缶体同士の間隔が広い場合には、機械的な振動による倒缶が発生することがある。また、缶体に吹き付ける洗浄液や水等の処理液の圧力による倒缶が発生することもある。
【0006】
缶洗浄装置内において倒缶が発生すると、缶体の表面が十分洗浄されず、表面被膜の厚さも不十分となることから、缶体に表面に不具合が生じる。このため、従来の缶洗浄装置においては、倒れた缶体を次工程に流出させないために、洗浄部と乾燥部との間に、吸着搬送機(いわゆるバキュームトランスファー)が配設される。
【0007】
吸着搬送機は、倒立した有底円筒状の缶体の缶底部を吸着して搬送する。したがって、倒れた缶体は、吸着搬送機に吸着されず、搬送路から落下することにより排除され、乾燥部への流入が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−72930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸着搬送機を用いることにより、搬送路上に倒れた缶体を工程から排除することができる。また、缶底部を下方に向けて起立した缶体、つまり正立した缶体は、内部に溜まった処理液のために重く、吸着搬送機で吸着搬送できないため、やはり工程から排除される。しかしながら、正立した缶体が倒れて内部の処理液がこぼれた場合、周辺の缶体を汚染するおそれがある。
【0010】
このため、倒れた缶体や正立した缶体だけでなく、その周辺の缶体も汚染のおそれがあれば工程から排除することが求められる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、洗浄の不十分な缶体を排除でき、確実に洗浄された缶体の提供を可能にする缶洗浄装置および缶洗浄方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、成形工程により形成され開口部と底部とを有する缶体を、塗装工程の前に洗浄する缶洗浄装置であって、前記開口部を下方に向けた倒立状態で前記缶体を搬送する搬送路と、この搬送路上の前記缶体に向けて薬液または純水からなる洗浄処理液を噴霧する噴霧装置と、倒立状態ではない前記缶体を前記搬送路上から落下させて、前記缶体を回収する缶体回収部と、この缶体回収部において回収された前記缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の水質を測定する水質測定部と、この水質測定部における測定結果に応じて、その洗浄処理液を溜めていた前記缶体の周辺に配置されていた前記缶体を前記塗装工程前に排除するための排除制御部と、を備える。
【0013】
また、本発明は、成形工程により形成され開口部と底部とを有する缶体を、塗装工程前に、前記底部を上方に向けた倒立状態で搬送路上で搬送しながら薬液または純水からなる洗浄処理液により洗浄する缶洗浄方法であって、倒立状態ではない前記缶体を前記搬送路上から回収するとともに、この缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の水質を測定して、回収された前記缶体の前記薬液による汚染の有無を検知し、前記回収の際に前記薬液による汚染が検知された前記缶体の周辺に配置されていた前記缶体を前記塗装工程前に排除する。
【0014】
本発明によれば、倒立状態ではない缶体を工程から排除するとともに、排除した缶体の内部に溜まっていた洗浄処理液が薬液か純水かに応じて、その周辺に配置されていた缶体を排除する。つまり、排除した缶体の内部に溜まっていた洗浄処理液が純水である場合には、その周辺の缶体は汚染されていないと判断できるので排除する必要がない。したがって、洗浄の不十分な缶体を排除するとともに、その周辺の缶体については、汚染がある場合には排除して塗装不良品の発生を防止し、汚染がない場合には排除せずに生産性の低下を防止することができる。
【0015】
この缶洗浄装置は、前記水質測定部において、前記洗浄処理液の電気導通性の有無が測定されることが好ましい。すなわち、純水にはほとんど電気導通性がないことから、前記缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の電気導通性の有無を測定し、電気導通性がある場合には、回収された缶体が保持していた洗浄処理液が薬液であると判断できる。
【0016】
前記缶体回収部は、前記搬送路上の前記缶体の上部を吸着保持して搬送する吸着搬送機を備えることが好ましい。この場合、倒立状態の缶体は吸着搬送機により搬送可能であるのに対し、倒れた缶体は吸着できないため、また正立状態の缶体は内部に溜まった洗浄処理液の重量のために搬送が困難であることから、倒立状態の缶体のみを吸着搬送機に保持させることにより、正立状態の缶体や倒れた缶体を搬送路上から容易に排除することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の缶洗浄装置および缶洗浄方法によれば、洗浄の不十分な缶体を効率よく容易にかつ確実に排除でき、洗浄された缶体を塗装工程に送ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る缶洗浄装置を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示す缶洗浄装置の薬液洗浄部を模式的に示す側面図である。
【図3】図1に示す缶洗浄装置の缶体回収部および水質測定部を模式的に示す側面図である。
【図4】図1に示す缶洗浄装置の搬送路を示す模式に示す上面図である。
【図5】本発明に係る缶洗浄装置の缶体回収部の他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【図6】本発明に係る缶洗浄装置の水質測定部の他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る缶洗浄装置10について、図面を参照して説明する。
缶洗浄装置10は、図1に示すように、缶体90を薬液(洗浄処理液)により洗浄する薬液洗浄部20と、薬液洗浄後の缶体90を純水(洗浄処理液)により洗浄する純水洗浄部30と、洗浄後の缶体90を乾燥させる乾燥部40とを備え、成形工程(DI工程)により形成された開口部91と底部92とを有する円筒状の缶体90を、底部92を上方に向けた倒立状態で洗浄および乾燥する装置である。
【0020】
この缶洗浄装置10には、缶体90を移動させる装置として、缶体90をメッシュ状コンベア上に載置させて搬送する搬送路11,12,13と、これら搬送路間で缶体90を移送するバキュームトランスファー(吸着搬送機)14,15と、缶体90を次工程(塗装工程)へ移送するバキュームターンオーバー(吸着搬送機)16とが備えられている。バキュームトランスファー14,15は、缶体90をほぼ水平に移送する装置であり、バキュームターンオーバー16は、缶体90の上下を反転させるように移送する装置であって、倒立状態ではない缶体90を回収する缶体回収部50,60,70を構成している。
【0021】
缶洗浄装置10において、缶体90は、まず搬送路11に供給され、搬送路11により搬送された後、バキュームトランスファー14によって搬送路12へと移送される。そして、搬送路12により搬送された缶体90は、バキュームトランスファー15によって搬送路13へと移送され、バキュームターンオーバー16によって搬送姿勢を変えながら、次工程へと移送される。
【0022】
缶体90は、これらの搬送路11,12,13、バキュームトランスファー14,15およびバキュームターンオーバー16によって搬送されながら、薬液洗浄部20および純水洗浄部30で洗浄され、乾燥部40で乾燥される。
【0023】
薬液洗浄部20は、図2に示すように、各種の洗浄処理液をそれぞれ噴霧する噴霧装置21A,21B,21C,21D,21E,21Fと、各噴霧装置間に配置されてエアを噴出するブロア22とを複数備える。缶体90は、この薬液洗浄部20を通過することにより、各洗浄処理液による洗浄と、上方を向く底部92に溜まった洗浄処理液のブロア22による除去とが繰り返し行われて洗浄される。
【0024】
より具体的には、搬送路11上を搬送される缶体90は、まず、噴霧装置21A,21Bから硫酸を含む洗浄液を噴霧されて洗浄される。そして、缶体90の底部92に溜まった洗浄液は、次のブロア22から噴出するエアによって吹き飛ばされる。この工程によりDI工程で缶体90に付着した潤滑油等が除去される。
【0025】
次に、缶体90は、噴霧装置21Cから噴霧される硫酸を含む脱脂処理液により脱脂される。この脱脂処理液により、缶体90に付着した油分が完全に除去されるとともに、缶体90の表面に下地処理が施される。そして、缶体90の底部92に溜まった脱脂処理液は、次のブロア22から噴出するエアによって吹き飛ばされる。
【0026】
さらに、缶体90は、噴霧装置21Dから軟水等からなるリンス液を噴霧され、脱脂処理液を洗い流される。そして、缶体90の底部92に溜まったリンス液は、次のブロア22から噴出するエアによって吹き飛ばされる。
【0027】
次いで、缶体90は、噴霧装置21Eからリン酸を含む化成処理液を噴霧される。この化成処理液により、缶体90の表面に、次工程の印刷工程で用いられるインキとの密着性を向上させる化成被膜が形成される。そして、缶体90に付着した化成処理液は、次のブロア22から噴出するエアによって吹き飛ばされる。
【0028】
さらに、缶体90は、噴霧装置21Fから軟水等からなるリンス液を噴霧され、化成処理液を洗い流される。そして、缶体90の底部92に溜まったリンス液は、次のブロア22から噴出するエアによって吹き飛ばされる。
【0029】
このように薬液洗浄部20を通過して薬液洗浄がなされた缶体90は、バキュームトランスファー14により搬送路12へ移送される。しかしながら、搬送路11上の缶体90は、開口部91を上方に向けた正立状態となったり倒れたりして、十分に薬液洗浄が行われていないものが含まれている場合がある。また、洗浄液等で満たされた正立状態の缶体90に向けてブロア22からエアが噴出すると、この洗浄液が飛び散り、周囲の缶体90を汚染するおそれがある。
【0030】
一方、倒れた缶体90や正立状態の缶体90を、バキュームトランスファー14は確実に吸着搬送することができないので、この移送工程において、倒立状態ではない缶体90の多くが、搬送路11と搬送路12との間に設けられた缶体回収部50に落下して回収され、工程から排除される。
つまり、薬液洗浄部20と純水洗浄部30との間にバキュームトランスファー14を設けることにより、倒立状態ではない缶体90の多くを工程から排除することができるので、洗浄の不十分な缶体90を工程から排除できるとともに、塗装工程で形成される塗膜の品質を劣化させる洗浄処理液(脱脂処理液、化成処理液等)が純水洗浄工程に持ち込まれるのを防止できる。
【0031】
バキュームトランスファー14によって搬送路12へ移送された缶体90は、純水洗浄部30を通過しながら純水により洗浄される。純水洗浄部30は、図1に示すように、純水を噴霧する噴霧装置31と、エアを噴出するブロア32とを備え、搬送路12上の缶体90を純水により洗浄した後、付着した純水をエアにより吹き飛ばして除去する。
純水洗浄部30を通過し、純水洗浄された缶体90は、搬送路12によりさらに移送されながら乾燥部40により乾燥される。
乾燥部40を通過した缶体90は、バキュームトランスファー15により搬送路12から搬送路13へ移送される。
【0032】
この純水洗浄工程および乾燥工程において、缶体90は搬送路12上で倒れたり、開口部91を上方に向けた正立状態となったりする場合がある。また、正立状態のまま搬送路11から移送された缶体90が、正立状態を保ったまま純水洗浄装置30を通過している場合がある。このような缶体90は洗浄が十分ではないため、工程から排除する必要がある。
ここで、倒立状態ではない缶体90は、バキュームトランスファー15による搬送が困難であるので、搬送路12と搬送路13との間に設けられた缶体回収部60に落下して回収され、工程から排除される。
【0033】
さらに、内部に薬液を保持している缶体90においては、ブロア32から噴出されたエアにより、内部に保持した洗浄処理液が周辺に飛散して、周辺の缶体90を汚染しているおそれがある。このため、正立状態の缶体90については、周辺の缶体90も工程から排除することが求められる。
【0034】
しかしながら、正立状態の缶体90の内部に保持されていた液体が純水のみである場合、周辺の缶体90に汚染は生じていないと考えられる。生産性低下を抑制するために、純水のみを保持していた正立状態の缶体90の周辺の缶体90については、工程から排除しないことが望ましい。つまり、バキュームトランスファー15を用いた缶体90の選別の際に、缶体回収部60に回収された缶体90が保持していた液体が薬液を含んでいるか純水かを判断しておく必要がある。
【0035】
このため、この缶洗浄装置10の缶体回収部60には、図3に示すように、回収された缶体90が保持していた液体の水質を測定する水質測定部61が設けられている。この缶体回収部60において、搬送路12と搬送路13との間の下方に設けられたコンベア62により、コンベア62の下流端に設けられた缶体回収箱63に缶体90を投入するとともに、缶体90とともにコンベア62上に落下した液体を液体回収部64に流し込み、水質測定部61に到達させる。
【0036】
より具体的には、コンベア62は、進行方向前方に向かって下がるように傾斜する搬送面62aを有し、この搬送面62a上に落下した缶体90および液体を液体回収部64および缶体回収箱63へと搬送する。このコンベア62の下流端にはシート状のスクレーパ62bが取り付けられており、搬送面62a上の液体を効率よく液体回収部64へ回収させる。液体回収部64は、雨樋状の流路を有し、コンベア部62から流れ落ちる液体を回収する。
【0037】
水質測定部61は、液体回収部64の流路の一端部に設置された1対の電極棒(図示略)を備え、この電極棒間を流通する液体による電気導通性の有無を検知する。すなわち、純水には電気導通性がほぼないことから、液体による電気導通性が検知されることにより、落下した缶体90が薬液を保持していたと判断できる。なお、この水質測定部61で電気導通性が検知された後、液体回収部64の流路に純水が供給されることによりここを流下した薬液が除去され、流路および電極棒が洗浄される。
【0038】
一方、バキュームトランスファー15によって搬送路13へと移送された缶体90は、図1に示すように、バキュームターンオーバー16によって上下が反転するように搬送される。このとき、倒れた缶体90は吸着保持されず、また正立状態の缶体90はバキュームターンオーバー16から確実に落下して、缶体回収部70に回収される。
【0039】
また、ここで回収された缶体90が薬液を保持していた場合には、汚染のおそれのある周辺の缶体90を工程から排除するために、缶体90が保持していた液体が薬液を含んでいるか純水かを判断する。このため、バキュームターンオーバー16の下方に設けられた缶体回収部70には、缶体回収部60の水質測定部61と同様の水質測定部71が備えられている。
【0040】
そして、各水質測定部61,71による検知結果に応じて薬液を保持していた缶体90の周辺で汚染のおそれのある缶体90を工程から排除するために、排除制御部80が設けられている。
排除制御部80は、搬送路13、バキュームターンオーバー16、および缶体除去装置17の駆動を制御することにより、バキュームターンオーバー16に吸着保持されている任意の缶体90をバキュームターンオーバー16から落下させる。缶体除去装置17は、搬送方向に交差するように延びるアーム17bをシリンダ17aによりバキュームターンオーバー16に対して進退させることにより、バキュームターンオーバー16に吸着保持されている缶体90を落下させる装置である。また、バキュームターンオーバー16のバキュームを停止することにより、缶体90をバキュームターンオーバー16から落下させることもできる。
【0041】
より具体的には、水質測定部61により電気導通性が検知された場合、搬送路13による搬送速度を考慮し、汚染のおそれのある缶体90の一群がバキュームターンオーバー16を通過する際に、バキュームターンオーバー16のバキュームを停止するか缶体除去装置17を駆動することにより、缶体90をバキュームターンオーバー16から落下させて缶体回収部70で回収する。
【0042】
この場合、図4に示すように、搬送路13を複数のコンベア13A,13B,13Cで構成し、各コンベアの駆動を制御することにより、排除すべき缶体90を他の缶体90から離し、排除しやすくすることができる。具体的には、水質測定部61による電気導通性の検知信号を受けると、排除制御部80がコンベア13Bを適切なタイミングで5秒間停止させ、排除すべき缶体90の前方に間隔を設ける。次いで、前方に間隔を空けて搬送されてきた缶体90の一群がバキュームターンオーバー16により吸着保持されたら、缶体除去装置17のアーム17bをバキュームターンオーバー16に向けて前進させ、またはコンベア13Cの駆動およびバキュームターンオーバー16のバキュームを停止させ、汚染のおそれのある缶体90をバキュームターンオーバー16から脱落させて缶体回収部70に回収させる。
【0043】
また、バキュームターンオーバー16に吸着保持されずに缶体90が缶体回収部70に落下した際に、水質測定部71により電気導通性が検知された場合、バキュームターンオーバー16のバキュームと搬送路13のコンベア13Cを停止するか、缶体除去装置17のアーム17bを前進させて缶体90を脱落させることにより、汚染のおそれのある缶体90を排除する。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、倒立状態ではない缶体90を搬送路11,12,13上から回収するとともに、この缶体90の内部に溜まっていた洗浄処理液の水質を水質測定部61,71により測定して、回収された缶体90の薬液による汚染の有無を検知するので、薬液による汚染が検知された缶体90の周辺に配置されていたために汚染のおそれの高い缶体90を塗装工程前に確実に効率よく排除しながら、正立状態であっても薬液を保持していなかった缶体90の周辺に配置されていた汚染のおそれのない缶体90を工程から排除せずに次工程に送ることができる。したがって、生産性の低下を抑えながら、次工程での塗膜形成不具合を防止することができる。
【0045】
ここで、各洗浄処理液と電気導通性との関係を示す実験結果について、表1を参照して説明する。この実験結果から、純水には電気導通性がなく、薬液または薬液と純水との混合液には電気導通性があることを確認できた。したがって、水質測定部61,71における電気導通性を検知することにより、工程から排除された缶体90が薬液を保持していたことを検知できる。
【0046】
【表1】

【0047】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
たとえば、図5に缶体回収部の他の構成例を示す。缶体回収部100は、バキュームトランスファー15の下方に配置された略筒状のガイド103の内部に、ダンパー板101と、ダンパー板101の端部に設けられた水質測定部102とを有し、バキュームトランスファー15から脱落する缶体90および液体を回収する。ダンパー板101は、一端部が回動可能に支持され、ガイド部103を閉鎖した状態で待機するように設定されている。水質測定部102は、図6に示すようにダンパー板101の他端部に設けられ、水質測定部61,71と同様に、一対の電極板102a,102bを備え、これら電極板102a,102b間を流れる液体による電気導通性を検知する。また、搬送路12,13間には、缶体90の落下を検知する光電センサ104が設けられている。
【0048】
この缶体回収部100では、バキュームトランスファー15に吸着保持されずに落下してくる缶体90をダンパー板101が受け止めると、缶体90の内部に保持されていた液体が水質測定部102へと流れ、この液体の電気通電性を検知する構造となっている。なお、光電センサ104が缶体90の落下を検知してから一定時間後に、ダンパー板101が図の鎖線で示すように回動させることにより、ダンパー板101に保持されていた缶体90を落下させて回収することができる。
【0049】
また、缶体90からこぼれた液体が薬液を含む洗浄処理液か純水かを測定する方法としては、電気導通性の有無を検知する上述の方法の他、水素イオン濃度や電気伝導率を測定する方法等を採用することができる。これらの場合も、水質測定部は、測定用の電極等を備える構成とすることができる。
【0050】
また、前記実施形態における排除制御部80は、水質測定部61の測定結果に応じて、バキュームターンオーバー16や缶体除去装置17の駆動を制御し、汚染のおそれのある缶体90を工程から排除している。しかしながら、排除制御部はこのような構成に限らず、たとえば、倒立状態ではなく洗浄処理水等で満たされた缶体90の存在を表示や音声等で警告する警告器のみの構成等であってもよい。この場合、警告を確認した作業者が、装置を操作または手作業で、対象の缶体90を出荷までのラインから取り除くことができる。
【符号の説明】
【0051】
10 缶洗浄装置
11 搬送路
12 搬送路
13 搬送路
13A−13C コンベア
14 バキュームトランスファー(吸着搬送機)
15 バキュームトランスファー(吸着搬送機)
16 バキュームターンオーバー(吸着搬送機)
17 缶体除去装置
17a シリンダ
17b アーム
20 薬液洗浄部
21A−21F 噴霧装置
22 ブロア
30 純水洗浄部
31 噴霧装置
32 ブロア
40 乾燥部
50 缶体回収部
60 缶体回収部
61 水質測定部
62 コンベア
62a 搬送面
62b スクレーパ
63 缶体回収箱
64 液体回収部
70 缶体回収部
71 水質測定部
80 排除制御部
90 缶体
91 開口部
92 底部
100 缶体回収部
101 ダンパー板
102 水質測定部
102a,102b 電極板
103 ガイド部
104 光電センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形工程により形成され開口部と底部とを有する缶体を、塗装工程の前に洗浄する缶洗浄装置であって、
前記開口部を下方に向けた倒立状態で前記缶体を搬送する搬送路と、
この搬送路上の前記缶体に向けて薬液または純水からなる洗浄処理液を噴霧する噴霧装置と、
倒立状態ではない前記缶体を前記搬送路上から落下させて、前記缶体を回収する缶体回収部と、
この缶体回収部において回収された前記缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の水質を測定する水質測定部と、
この水質測定部における測定結果に応じて、その洗浄処理液を溜めていた前記缶体の周辺に配置されていた前記缶体を前記塗装工程前に排除するための排除制御部と、
を備えることを特徴とする缶洗浄装置。
【請求項2】
前記水質測定部において、前記洗浄処理液の電気導通性の有無が測定されることを特徴とする請求項1に記載の缶洗浄装置。
【請求項3】
前記缶体回収部は、前記搬送路上の前記缶体の上部を吸着保持して搬送する吸着搬送機を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の缶洗浄装置。
【請求項4】
成形工程により形成され開口部と底部とを有する缶体を、塗装工程前に、前記底部を上方に向けた倒立状態で搬送路上で搬送しながら薬液または純水からなる洗浄処理液により洗浄する缶洗浄方法であって、
倒立状態ではない前記缶体を前記搬送路上から回収するとともに、この缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の洗浄処理液の水質を測定して、回収された前記缶体の前記薬液による汚染の有無を検知し、
前記回収の際に前記薬液による汚染が検知された前記缶体の周辺に配置されていた前記缶体を前記塗装工程前に排除することを特徴とする缶洗浄方法。
【請求項5】
前記缶体の内部に溜まっていた前記洗浄処理液の水質を測定する際に、電気導通性の有無を検知し、電気導通性がある場合に前記薬液による汚染があると判断することを特徴とする請求項4に記載の缶洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−110532(P2011−110532A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271916(P2009−271916)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】