説明

缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法および缶蓋用アルミニウム合金塗装板

【課題】膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良が発生せず、しかも、塗膜密着性および耐食性等の塗膜性能にも優れる塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板、及び、缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法を提供する。
【解決手段】反応型化成処理を施したアルミニウム合金板を、100〜150℃の雰囲気温度で1秒間以上、乾燥を行う加熱乾燥工程と、乾燥後のアルミニウム合金板を、10秒以上の時間をかけて60℃以下の温度まで冷却する冷却工程と、冷却後のアルミニウム合金板の表面に水性塗料を塗布し、さらに該水性塗料を前記アルミニウム合金板の表面に焼付けることにより、アルミニウム合金板の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法および缶蓋用アルミニウム合金塗装板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム合金塗装板は、コイル状にしたアルミニウム合金条に連続的に塗料を塗布し、当該塗料を金属表面に焼付けるコイルコーティング法により製造される。このコイルコーティング法によれば、高い生産効率でアルミニウム合金塗装板を製造可能であるため、缶蓋用材料、建築用材料、家庭電化製品用外板等の工業的な需要量が大量となる材料に広く用いられている。
【0003】
従来、アルミニウム合金条に塗布する塗料としては、塗膜密着性や耐食性などの塗膜性能に優れることから、有機溶剤を溶媒に使用した溶剤系塗料が用いられていた。しかしながら、溶剤系塗料は、塗装時の作業環境の保護・保全や、乾燥時に発生する有機系の有害物を含む排気ガスの処理に高額な設備を必要とするため、近年では、環境負荷低減の観点から、溶剤系塗料の代わりに水を主成分とする水性塗料が使用されつつある。
【0004】
缶蓋用材料としてのアルミニウム合金塗装板においても、環境問題に対する規制、世論の高まりから、従来の溶剤系塗料から水性塗料への切り替えが着実に進みつつある。しかしながら、水性塗料は溶剤系塗料と比較して、塗膜密着性や耐食性などの塗膜性能が劣っている。そこで、炭酸含有酸性液や果汁液などの酸性の溶液を収容する飲料缶用途の缶蓋用アルミニウム合金塗装板においては、耐食性を高めるため、塗膜を厚膜化する必要がある。こうした水性塗料(塗膜)の厚膜化に伴って、「アワ」や「ワキ」と称される塗膜の膨れ状欠陥、及び、金属基材が表面に露出する凹み状欠陥の外観不良や、塗膜剥離などの塗膜不良が生じ易くなる問題が従来から指摘されている。
【0005】
このような問題に対して、環境に無害な水性塗料を用い、缶蓋用アルミニウム合金塗装板をコイルコーティング法で製造する方法として、化成処理等の前処理後のアルミニウム合金板の表面を150℃以上に加熱することで表面を乾燥して安定化させ、さらに100℃以下に冷却した後、水性塗料を塗布する方法が知られている。この方法によれば、塗膜密着性が低下するものの、アルミニウム合金板の表面での水性塗料の流動性が確保されることで塗膜の膨れ状欠陥が防止され、優れた外観を有するアルミニウム合金塗装板が得られることが報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、同じく水性塗料を用い、且つ、塗膜が比較的厚い(塗膜量が40〜200mg/dm)缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法において、塗料の塗装後に連続して塗料の焼付けを行う際に、アルミニウム合金板の昇温速度を5〜120℃/秒に調整することで、塗膜を厚くする必要がある水性塗料を用いても外観不良などの塗膜不良がない缶蓋用アルミニウム合金塗装板が得られることが報告されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
また、同じく水性塗料を用い、且つ、塗膜が比較的厚い缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法として、以下のものが知られている。この方法によれば、クロメート処理を行ったアルミニウム合金板の表面に水性塗料の固形分量20〜40mass(重量)%、有機溶剤量が10〜30mass%、残部が水性媒体からなり、かつ表面張力が26〜29mN/mである水性塗料を、乾燥後の重量が90〜150mg/dmとなるように塗布する。その後の焼付け乾燥工程において、アルミニウム合金板の温度を、焼付け乾燥の開始後、5秒までを100℃以下とし、5秒から10秒までは150℃以下になるようにして塗膜をアルミニウム合金板の表面に焼付け乾燥する方法である。この方法によれば、耐食性及び塗装表面性に優れた塗膜が得られることが報告されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0008】
さらに、同じく水性塗料を用いた缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法として、以下のものが知られている。この方法によれば、水性塗料100mass%に対して、5〜40mass%の樹脂、5〜20mass%の溶剤、40〜90mass%の水をそれぞれ含有し、溶剤のうち沸点が140℃以下の低沸点溶剤成分の含有量が2mass%以下、沸点が50℃未満の高揮発性成分が実質的に0mass%である水性塗料を用いる。この水性塗料をアルミニウム合金板に塗布し、塗膜の焼付け開始後、15〜45秒後にアルミニウム合金板の表面が200〜280℃となるように焼付けを行うことにより、泡状欠陥の発生を抑制する。この方法によれば、耐食性などの塗膜性能に優れた塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板が得られることが報告されている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−290774号公報
【特許文献2】特開平11−319705号公報
【特許文献3】特開2002−219405号公報
【特許文献4】特開2007−126549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したいずれの水性塗料を用いた缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法によっても、化成処理工程から連続的に塗装を施す場合、膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良がなく、しかも、塗膜密着性および耐食性等の塗膜性能をも満足される缶蓋用アルミニウム合金塗装板を安定して得ることはできなかった。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良がなく、しかも、塗膜密着性および耐食性等の塗膜性能にも優れる塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板、及び、缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法は、
反応型化成処理を施したアルミニウム合金板を、100〜150℃の雰囲気温度で1秒間以上、乾燥を行う乾燥工程と、
前記加熱乾燥後のアルミニウム合金板を、10秒以上の時間をかけて60℃以下の温度まで冷却する冷却工程と、
前記冷却後のアルミニウム合金板の表面に水性塗料を塗布し、さらに該水性塗料を前記アルミニウム合金板の表面に焼付けることにより、前記アルミニウム合金板の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、を有する、
ことを特徴とする。
【0013】
前記塗膜形成工程では、アルミニウム合金板の温度を、前記水性塗料の前記アルミニウム合金板の表面への焼付け開始後20〜60秒の時間をかけて230〜280℃まで上昇させるとともに、当該温度上昇にあたり、前記アルミニウム合金板の温度が100℃に達するまでの時間を10秒以上とし、かつ、前記アルミニウム合金板の温度が100℃から200℃に達するまでの昇温速度を20℃/秒以下とすることが好ましい。
【0014】
前記塗膜形成工程において前記アルミニウム合金板の表面に形成される塗膜は、その乾燥重量が30〜160mg/dmであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板は、本発明の第1の観点に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法において、塗膜形成工程では、アルミニウム合金板の温度を、前記水性塗料の前記アルミニウム合金板の表面への焼付け開始後20〜60秒の時間をかけて230〜280℃まで上昇させるにあたり、アルミニウム合金板の温度が100℃に達するまでの時間を10秒以上とし、かつ、アルミニウム合金板の温度が100℃から200℃に達するまでの昇温速度を20℃/秒以下とし、かつ、塗膜形成工程においてアルミニウム合金板の表面に形成される塗膜は、その乾燥重量が30〜160mg/dmとすることによって製造された缶蓋用アルミニウム合金塗装板であって、その塗膜表面に存在する直径50μm以上の膨れ状欠陥が1個/cm以下、かつ、基材であるアルミニウム合金板が塗装板の表面に露出する凹み状欠陥が存在しないものである、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良がなく、しかも、塗膜密着性および耐食性等の塗膜性能にも優れる塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】缶蓋用アルミニウム合金塗装板(樹脂被覆アルミニウム材)を用いたフェザリング試験方法の一ステップを示す図である。
【図2】図1に続く、フェザリング試験方法の一ステップを示す図である。
【図3】図2に続く、フェザリング試験方法の一ステップを示す図である。
【図4】図3に続く、フェザリング試験方法の一ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法および缶蓋用アルミニウム合金塗装板について説明する。ここで、「缶蓋用」とアルミニウム合金塗装板に用途を設定したのは、本発明の実施形態で製造されるアルミニウム合金塗装板が、飲料用缶の蓋部材として使用されるからである。なお、本明細書中における「アルミニウム合金板」は、アルミニウム金属を主体とする金属板又は合金板の総称であり、いわゆるアルミニウム合金製の板材だけでなく、純アルミニウム製の板材をも含む概念である。
【0019】
本実施形態に係るアルミニウム合金板には、純アルミニウム材又はアルミニウム合金材が用いられる。ここで、アルミニウム合金材には、5000系合金、例えば、5021、5052、5182等が好適に用いられる。
【0020】
本実施形態では、反応型化成処理を施したアルミニウム合金板の表面に水性塗料をロールコーターにより塗布し、さらに該水性塗料をアルミニウム合金板の表面に焼付けることにより、合金板の表面に塗膜を形成する。
この反応型化成処理としては、例えば、従来の化成処理方法、すなわち、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、リン酸チタニウム処理、酸化ジルコニウム処理などが特に限定されずに採用できる。
【0021】
以下、缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法について詳細に説明する。本実施形態の缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法は、アルカリ脱脂処理工程、化成処理工程、乾燥工程、冷却工程、及び、塗膜形成工程、を有する。
【0022】
A.アルカリ脱脂処理工程
アルミニウム基材は、化成処理の前処理としてアルカリ脱脂処理を行なうのが好ましい。このようなアルカリ脱脂処理は、従来技術に基づいた脱脂液及び脱脂方法をそのまま適用することができる。アルカリ脱脂液としては、アルカリ性脱脂剤を例えば0.5〜2.0重量%の濃度で水等の溶媒に溶解又は分散した溶液であって、エッチング性を有するpHが9〜13程度のものが用いられる。アルカリ性脱脂剤は、アルカリビルダー、界面活性剤及びキレート化剤等を含むものが好ましい。
【0023】
アルカリビルダーとしては、炭酸Na、炭酸K等の炭酸アルカリ金属塩;苛性Na等のアルカリ金属水酸化物;リン酸Naやリン酸水素Na等のアルカリ金属リン酸塩;ケイ酸Na等のアルカリ金属ケイ酸塩等;或いは、これらの混合物;が用いられる。
【0024】
界面活性剤としては、HLB(親水性/親油性の比)=8〜11程度のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシエチレン系界面活性剤や高級アルコール系界面活性剤等の界面活性剤が用いられる。また、キレート化剤としては、EDTA・2Na塩やナフチルアミン等が用いられる。
【0025】
アルカリ脱脂処理によるアルミニウム基材表面のエッチング量は、60〜300mg/m程度が好ましい。圧延により生じるアルミニウム基材上の酸化皮膜の量は、およそ2〜20nm程度であり、しかもその厚みは不均一である。これを完全に除去し、かつ基材表面の残存圧延油およびアルミニウム磨耗粉等の汚染物質を完全に除去するためには、エッチング量が60mg/m以上であることが望ましい。ただしエッチング量が300mg/mを超えたのでは酸化皮膜除去の効果が向上しないだけでなく、スラッジ生成も加速されるので好ましくない。
【0026】
アルカリ脱脂処理は、例えば、50〜80℃のアルカリ脱脂液を1〜20秒間にわたってアルミニウム基材にスプレー噴射するか、或いは、50〜90℃のアルカリ脱脂液に10〜60秒間にわたってアルミニウム基材を浸漬する方法が採用される。
【0027】
アルカリ脱脂処理の終了後は、直ちに水による洗浄を行うのが好ましい。これは、後続の処理液の汚染を防ぐとともに、アルミニウム基材表面のアルカリ成分、界面活性剤及び反応残渣等を除去するためである。このよう水洗工程は、例えば、1〜20秒間にわたってイオン交換水又は工業用水をアルミニウム基材表面にスプレー噴射する方法が採用される。
【0028】
水洗工程が終了した後は、アルミニウム基材表面が乾燥しないうちに、直ちに次の工程である化成処理工程に移ることが望ましい。アルミニウム基材表面がいったん乾燥してしまうと、たちまちアルミニウム自然酸化皮膜が形成されるからである。このようなアルミニウム自然酸化皮膜の形成により、リン酸クロメート皮膜形成の反応速度が低下し又は不均一になる。その結果、アルミニウム基材表面全体にわたって均質なリン酸クロメート皮膜が形成されないことになる。
【0029】
また、水洗工程の終了後、次の工程である化成処理工程の前に、酸洗浄および水洗を施してもよい。この酸洗浄工程により、アルミニウム基材表面に存在するMgOを除去することができる。酸洗浄としては、例えば、2〜5mass%の希硫酸を1〜30秒間にわたって30〜60℃でアルミニウム基材にスプレー噴射するか、10〜60秒間にわたってアルミニウム基材を浸漬する方法が採用できる。この酸洗浄終了後は、アルカリ脱脂処理終了後と同様、直ちに水による洗浄を行うことが好ましい。
【0030】
B.化成処理工程
ここでは、反応型化成処理工程として、リン酸クロメート処理を行う場合について説明する。従来技術に基づいて行われるリン酸クロメート処理のうち、処理液の温度を30〜60℃、当該処理液中におけるフッ酸濃度を500〜3000ppm、かつ、Cr6+濃度(A)とリン酸濃度(B)の比A/Bを0.03〜0.7に制御する処理条件を採用することができる。
【0031】
なお、リン酸クロメート皮膜の付着量が金属Crに換算して5〜50mg/mであることについては、処理液についての上記条件を維持する範囲において、処理液におけるCr成分濃度及びフッ酸濃度、ならびに、処理液温度及び処理時間を適宜設定することにより容易に達成できるものである。
【0032】
ところで、リン酸クロメート処理液の劣化が進行すると処理液中にCr3+イオンが増加する。Cr3+イオンは極力低い範囲で管理することが望ましく、具体的には全Crイオンに対するCr3+イオンの存在比を50%未満に制御することが望ましい。これは、リン酸クロメート形成反応には主としてCr6+イオンが関与するが、Cr3+はアルミニウム基材表面への析出速度が極端に速く、そのためCr3+が一定量以上存在すると部分的に不均質なリン酸クロメート皮膜が形成され易くなる。そして、全Crイオンに対するCr3+イオンの存在比が50%を超えると、上記不均質性がより顕著に現れる。なお、Cr6+イオンやCr3+イオンの濃度制御については、各種オンライン分析を実施し、必要に応じて処理液の一部又は全量の入れ換えを適宜行うことで実施できる。
【0033】
以上の化成処理の終了後は、直ちに水による洗浄を行うことが好ましい。これは、アルミニウム基材表面の化成処理剤成分および反応残渣等を除去するためである。この水洗工程では、例えば、1〜20秒間にわたってイオン交換水又は工業用水をアルミニウム基材表面にスプレー噴射する方法が採用される。なお、水洗工程の仕上げには、アルミニウム基材表面に不純物の付着を抑制するためにイオン交換水を用いることが望ましい。また、乾燥促進のために、水洗水を加温してもよい。
【0034】
C.乾燥工程
反応型化成処理後、アルミニウム合金板の表面に付着した水洗水を除くために乾燥を行う。この乾燥工程では、必ずしもアルミニウム合金板の加熱が必要なものではなく、風乾、又はエアーブロー等の空気を利用した除去方法でもよい。しかし、本実施形態では、一例として前処理から塗装まで連続して実施するコイルコーティング法を採用することから、生産性向上のために短時間で乾燥を行う必要があるため、加熱による乾燥を行う。この乾燥が不十分である場合、合金板表面に残っている水分が塗膜の焼付け時にガスとなって、膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良を生じる原因となるので好ましくない。
【0035】
そのため、アルミニウム合金板の表面への水性塗料の塗布前に十分な乾燥を行う必要がある。ここで、合金板の表面温度を高温にしすぎると、化成皮膜中の水和物まで脱水してしまい、密着性が低下してしまう。そこで、鋭意探求の結果、100〜150℃の雰囲気温度で1秒以上の時間、加熱乾燥を行うことで、良好な乾燥状態が得られることを見いだした。雰囲気温度が100℃未満では乾燥時間を長くする必要があり、本実施形態で採用するようなコイルコーティング法などの連続塗装設備では良好な乾燥状態が得られにくい。一方、雰囲気温度が150℃を超えると、アルミニウム合金板の温度が高くなりすぎ、上述したように、化成皮膜中の水和物が脱水し、密着性が低下するという不具合が生じるため、やはり好ましくない。また、乾燥時間は、合金板上の水洗水をほぼ完全に除去するためには、少なくとも1秒以上は必要である。乾燥時間が1秒未満では良好な乾燥状態が得られない。さらに、乾燥時間は20秒以下とするのが望ましい。乾燥時間を長くし過ぎることは生産性の低下や連続塗装設備の大型化を招くためである。この場合の乾燥方法としては、電気炉、ガス炉などによる熱風乾燥が好ましく用いられる。
【0036】
D.冷却工程
アルミニウム合金板の表面乾燥後、10秒以上の時間をかけて、アルミニウム合金板を60℃以下の温度まで冷却する。このように60℃以下の温度まで冷却するのは、冷却後に合金板表面の温度が60℃を超えると、水性塗料を塗布した後の塗料の乾燥が速く進行しすぎ、合金板表面での水性塗料の流動性が妨げられ、均一な塗膜表面が得られないからである。このような観点から、アルミニウム合金板は、室温20℃程度まで冷却することが好ましい。また、ここでの冷却には10秒以上の時間をかける必要がある。10秒未満の場合では、アルミニウム合金板の表面に存在する水分が蒸発しきれず、膨れ状欠陥や凹み状欠陥が生じ易くなるためである。このような観点から、冷却には好ましくは15秒以上かけることがよい。ここでの60℃以下の温度までの冷却は自然冷却が好ましい。なお、連続塗装設備の構成上、自然冷却が難しい場合には、別途、冷却装置を設けることもできる。
【0037】
E.塗膜形成工程
アルミニウム合金板の冷却後、ロールコーターで当該合金板の表面に水性塗料を塗布し、さらに塗布した水性塗料を合金板の表面に焼付けることにより、当該表面に塗膜を形成する。
【0038】
ここで用いる水性塗料は、分散質としての樹脂成分及び有機溶剤、並びに、分散媒としての水からなる分散系を構成している。ここで、樹脂成分としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を使用することが好ましい。有機溶剤としてはイソブチルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等が使用できる。
【0039】
この塗膜形成工程では、アルミニウム合金板の温度を焼付け開始後20〜60秒の時間をかけて230〜280℃まで上昇させるにあたり、アルミニウム合金板の温度が100℃に達するまでの時間を10秒以上とし、かつ、アルミニウム合金板の温度が100℃から200℃に達するまでの昇温速度を20℃/秒以下とすることが好ましい。
【0040】
このように水性塗料をアルミニウム合金板の表面への焼付けるにあたり、合金板の最高到達温度(PMT)を230〜280℃とすることが好ましい。ここで、最高到達温度が230℃未満であると、焼付け不足が生じることがあり、一方、280℃を超えると焼き過ぎとなり、いずれも十分な塗膜性能が得られない。
【0041】
また、ここでの焼付け時間は、20〜60秒とすることが好ましい。焼付け時間が20秒未満であると、水性塗料の塗布直後のアルミニウム合金板の温度から230〜280℃の範囲内の所定の焼付け温度に到達するまでの昇温速度が速くなり過ぎ、塗料中の水分の突沸跡である「ワキ」が発生し易くなる。一方、焼付け時間が60秒を超えると、焼付け時間が長くなり過ぎ、特に高速塗装において生産性が低下するので好ましくない。また、この焼付け処理においては、アルミニウム合金板の温度が100℃に達するまでの時間を10秒以上とすることが好ましい。アルミニウム合金板の温度を、10秒未満で100℃まで到達させると、アルミニウム合金板の表面での水性塗料の流動性が妨げられ、凹み状欠陥や筋状のむらが発生し易くなる。さらにアルミニウム合金板の温度が100℃から200℃に達するまでの昇温速度を20℃/秒以下とすることが好ましい。昇温速度が20℃/秒を超えると、塗料中の水分や溶剤成分の突沸が発生し、膨れ状欠陥が発生し易くなる。
【0042】
前記塗膜形成工程において、アルミニウム合金板の表面に形成される塗膜は、乾燥塗膜重量が30〜160mg/dmとなるように形成することが好ましい。30mg/dm未満では耐食性が不十分であり、一方、160mg/dmを超えると、アルミニウム合金板の加工性の低下を招くとともに、缶蓋を開口(プル)する際の塗膜切れが悪くなる。また、コスト高にもなってしまい、好ましくない。
【0043】
本発明の実施形態の製造方法により得られるアルミニウム合金塗装板は、その塗膜表面に存在する直径50μm以上の膨れ状欠陥は1個/cm以下となる。また、アルミニウム合金板が塗装板の表面に露出するような凹み状欠陥は皆無となる。ここで、直径が50μm以上の膨れ状欠陥が2個/cm以上存在する場合や、基材であるアルミニウム合金板が塗装板の表面に露出するような凹み状欠陥が存在する場合には、耐食性等の塗膜性能に影響を及ぼすので好ましくない。また、膨れ状欠陥が2個/cm以上存在しても、各欠陥の直径が50μm未満の場合では、上記塗膜性能に影響を及ぼさない。
【0044】
本実施形態に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法によれば、膨れ状欠陥や凹み状欠陥などの外観不良が発生せず、しかも、塗膜密着性および耐食性等の塗膜性能にも優れる塗膜を有する塗膜を有する缶蓋用アルミニウム合金塗装板、及び、缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例、比較例及び参考例を用いて、本発明の好適な実施形態を具体的に説明する。なお、本発明の技術的思想はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1〜13、比較例1〜4、参考例1〜4)
各実施例、各比較例、各参考例においては、アルミニウム合金板として、板状のJIS A5182−H19合金(板厚0.25mm)を用いた。このアルミニウム合金板の両面に、前処理として、市販のアルカリ脱脂液(日本ペイント社製、サーフクリーナー420N−2)を用いて脱脂処理を行った。その後、市販のリン酸クロメート液(日本ペイント社製、アルサーフ48およびアルサーフ408)を用い、リン酸クロメート皮膜(化成処理皮膜)の付着量として金属Cr換算で20mg/mの化成処理を施した後、アルミニウム合金板を水洗した。
【0047】
その後、表1に示す雰囲気温度(℃)、乾燥時間(秒)でアルミニウム合金板を乾燥し、表1に示す冷却時間(秒)、冷却後の板温度(℃)で、合金板を冷却した。さらに表1に示す水性塗料を、表1に示す塗膜量になるように、ロールコーターを用いてアルミニウム合金板の表面に塗布した。その後、表1に示す最高到達温度(PMT)(℃)、焼付時間(秒)、100℃到達時間(秒)、100℃〜200℃昇温速度(℃/秒)にて、ガスオーブン加熱方式の乾燥炉で塗膜の乾燥・焼付け処理を行い、アルミニウム合金塗装板を得た。ここでの水性塗料の塗膜量(mg/dm)は、硫酸脱膜による皮膜質量試験法で測定した。具体的には、100mm×100mmのアルミニウム合金塗装板を濃硫酸に浸漬して、その表面の塗膜を溶解し、その溶解前後の重量の差から塗膜の乾燥重量としての塗膜量を求めた。なお、各実施例、各比較例、各参考例では、得られたアルミニウム合金塗装板について、後述する方法で膨れ状欠陥、凹み状欠陥、耐食性、密着性、開口性(フェザリング試験)を評価した。その評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】


略語対照)PMT:最高到達温度、
Ep-Acr:エポキシアクリル樹脂系水性塗料、
PlyEst:ポリエステル系樹脂水性塗料、
Ep-Phe:エポキシフェノール樹脂系水性塗料、
【0049】
〔膨れ状欠陥〕
塗膜の焼付け後のアルミニウム合金塗装板の表面を光学顕微鏡にて50倍の倍率で観察し、直径が50μm以上の膨れ状欠陥が塗装面1cm当たりに発生した個数を計測した。その発生個数が1個以下の場合を合格(○)、2個以上の場合を不合格(×)と評価した。
【0050】
〔凹み状欠陥〕
塗膜の焼付け後のアルミニウム合金塗装板の表面を加速電圧20keVの反射電子像にて100倍の倍率で観察し、基材であるアルミニウム合金板が塗装板の表面に露出するように白く観察される凹み状欠陥が塗装面1cm当たりに発生した個数を計測した。その発生個数が0個の場合を合格(○)、1個以上の場合を不合格(×)と評価した。
【0051】
〔耐食性〕
塗膜の焼付け後のアルミニウム合金塗装板から切り出した試験片の周縁をポリエステルテープを用いて評価面積が100mm×100mmとなるようにマスキングしたものを、モデルジュース(0.5wt%NaCl+1wt%クエン酸水溶液)に浸漬し、70℃で72時間保持した。その後の腐食状態を光学顕微鏡にて観察した。その結果、目視観察によって、腐食が認められないものを合格(○)、腐食が認められるものを不合格(×)と評価した。
【0052】
〔密着性〕
塗膜の焼付け後のアルミニウム合金塗装板から切り出した5mm×150mmの試験板2枚の間にナイロンフィルム(ダイセルファインケム社製、ダイアミド7000(型番)、膜厚30μm)を挟み込み、さらにホットプレスを用いて210℃で30秒間圧着することで試験片を作成した。この試験片について、引張り試験機にて速度200mm/minで剥離した時の剥離強度を測定した。その結果、剥離強度が1.5kgf/5mm以上を合格(◎)、1.0kgf/5mm以上1.5kgf/5mm未満を合格(○)、0.5kgf/5mm以上1.0kgf/5mm未満を不合格(△)、0.5kgf/5mm未満を不合格(×)と評価した。
【0053】
〔開口性(フェザリング試験)〕
開口性は、フェザリング試験によって評価した。具体的には、図1に示すように、塗膜の焼付け後のアルミニウム合金塗装板の試験片1(100mm×100mm)の一辺から内部に向け、離間間隔が50mmの左右一対の切れ込み2a(上端から10mmの屈曲部の角度が内側に150°、屈曲部より下方の直線部の長さが66mmの直線状の切れ込み2a)を形成した。次に、図2に示すように、一対の切れ込み2a,2aの間に形成された矩形状の切れ込み部2を、評価面の反対の表面(缶蓋外面側に相当する面)側に折り曲げた。その折り曲げた状態で100℃の沸騰水中に30分間浸漬させた。その後、引っ張り試験機にて速度200mm/minで切り込み部2を上方(「プル」の方向)に引っ張り、図3に示すように、切り込み部2を試験片の本体から引き裂き、三角形の引き裂き部3を形成した。引き裂き部3には、図4に示すように、評価面(缶蓋内面側に相当する面)から剥離した塗膜4が残存した。図4を参照して、この残存した塗膜4の幅(高さ)の最大値Wmaxを測定し、その最大値Wmaxが0.2mm未満の場合を合格(◎)、0.2mm以上0.5mm未満の場合を合格(○)、0.5mm以上1.0mm未満の場合を不合格(△)、1.0mm以上の場合を不合格(×)と評価した。
【0054】
表1に示すように、実施例1〜13は、全ての評価項目(膨れ状欠陥、凹み状欠陥、耐食性、密着性、開口性)において、いずれも良好な結果を示した。
その一方、各比較例、各参考例については、以下に述べる理由でそれぞれ不合格となった。比較例1は、化成処理後の乾燥時の雰囲気温度が100℃未満で低く、アルミニウム合金板表面の乾燥が不十分となり、膨れ状欠陥や凹み状欠陥が発生し、さらに耐食性が不足した。また、比較例2は、化成処理後の乾燥時の雰囲気温度が150℃を超えて高くなり過ぎたため、塗膜密着性や開口性に劣り、さらに、冷却も不十分となり、膨れ状欠陥も多発した。また、比較例3は、乾燥時間が1秒未満と短く、アルミニウム合金板表面の乾燥が不十分となり、膨れ状欠陥や凹み状欠陥が発生し、耐食性が不足した。また、比較例4は、冷却時間が10秒未満と短く、アルミニウム合金板表面に水分が残存し、凹み状欠陥が多発した。また、比較例5は、冷却が不十分なため、膨れ状欠陥が多発した。また、参考例1は、塗料の塗装後の塗膜焼付けにおける初期の昇温速度(100℃到達時間)が10秒未満と速くなり過ぎたため、膨れ状欠陥が多発した。また、参考例2は、塗料の塗装後の焼付けにおける100℃からの昇温速度が20℃/秒を超えて速くなり過ぎたため、膨れ状欠陥が抑制しきれなかった。また、参考例3は、塗膜量が30mg/dm未満と少ないため、耐食性が不足した。さらに、参考例4は、塗膜量が160mg/dmを超えて厚くなり過ぎたため、膨れ状欠陥が発生し易くなり、また、開口性にも劣っていた。
【0055】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態や実施例が可能とされるものである。また、上述した実施形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 缶蓋用アルミニウム合金塗装板(樹脂被覆アルミニウム材)の試験片
2 切り込み部
2a 切れ込み
3 引き裂き部
4 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応型化成処理を施したアルミニウム合金板を、100〜150℃の雰囲気温度で1秒間以上、乾燥を行う乾燥工程と、
前記加熱乾燥後のアルミニウム合金板を、10秒以上の時間をかけて60℃以下の温度まで冷却する冷却工程と、
前記冷却後のアルミニウム合金板の表面に水性塗料を塗布し、さらに該水性塗料を前記アルミニウム合金板の表面に焼付けることにより、前記アルミニウム合金板の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、を有する、
ことを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜形成工程では、アルミニウム合金板の温度を、前記水性塗料の前記アルミニウム合金板の表面への焼付け開始後20〜60秒の時間をかけて230〜280℃まで上昇させるとともに、当該温度上昇にあたり、前記アルミニウム合金板の温度が100℃に達するまでの時間を10秒以上とし、かつ、前記アルミニウム合金板の温度が100℃から200℃に達するまでの昇温速度を20℃/秒以下とすることを特徴とする請求項1に記載の缶蓋用アルミニウム合金塗装板の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜形成工程において前記アルミニウム合金板の表面に形成される塗膜は、その乾燥重量が30〜160mg/dmであることを特徴とする請求項2に記載の缶蓋用アルミニウム塗装板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により製造された缶蓋用アルミニウム合金塗装板であって、その塗膜表面に存在する直径50μm以上の膨れ状欠陥が1個/cm以下、かつ、基材であるアルミニウム合金板が塗装板の表面に露出する凹み状欠陥が存在しないものであることを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金塗装板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−5916(P2012−5916A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141494(P2010−141494)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】