説明

置換された4−フェニルテトラヒドロイソキノリン、それらの製造方法、薬剤としてのそれらの使用、及びそれらを含む薬剤

本発明は、式(I)
【化1】


(式中、R1〜R8は特許請求の範囲に記載された意味を有する)の化合物に関する。このタイプの化合物を含んでなる薬剤は、多様な障害の予防又は治療に有用である。例えば、化合物は、とりわけ腎臓障害、例えば急性又は慢性腎不全、胆管機能の障害及び呼吸障害、例えばいびき又は睡眠時無呼吸に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換された4−フェニルテトラヒドロイソキノリンに関する。このタイプのこれらの化合物を含む薬剤は、種々の障害の予防又は治療に有用である。例えば、これらの化合物は、とりわけ腎臓障害のイベント、例えば急性又は慢性腎不全、胆管機能障害のイベント、及び呼吸障害のイベント、例えばいびき又は睡眠時無呼吸に使用することができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、式Iの化合物並びにまたそれらの医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩に関する。
【化1】

式中:
R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、I、CN、NO2又はR11−(CmH2m)−An−であり;
mは0、1、2、3又は4であり;
nは0又は1であり;
R11は水素、メチル又はCpF2p+1であり;
Aは酸素、NH、N(CH3)又はS(O)qであり;
pは1、2又は3であり;
qは0、1又は2であり;
R5は水素、1、2、3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R6は水素、OH、F、CF3、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R7及びR8はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、CN、CO2R12、NR13R14又はR16−(CmmH2mm)−Enn−であり;
R12は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R13及びR14はそれぞれ独立して水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;又は
R13及びR14はそれらが結合している窒素原子と共に4、5、6若しくは7員環を形成し、その際、1つのCH2基はNR15、S又は酸素によって置き換えられていてもよく;
R15は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
mmは0、1、2、3又は4であり;
nnは0又は1であり;
R16は水素、メチル又はCppF2pp+1であり;
Eは酸素又はS(O)qqであり;
ppは1、2又は3であり;
qqは0、1又は2である。
【0003】
一実施態様において、式中、
R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、CN又はR11−(CmH2m)−An−であり;
mは0又は1であり;
nは0又は1であり;
R11は水素、メチル又はCpF2p+1であり;
Aは酸素、NCH3又はS(O)qであり;
pは1又は2であり;
qは0、1又は2であり;
R5は水素、メチル、エチル又はシクロプロピルであり;
R6は水素又はメチルであり;
R7及びR8はそれぞれ独立して水素、F、Cl、CN、CO2R12、NR13R14又はR16−(CmmH2mm)−Enn−であり;
R12は水素、メチル又はエチルであり;
R13及びR14はそれぞれ独立して水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;又は
R13及びR14はそれらが結合している窒素原子と共に、5、6若しくは7員環を形成し、その際、1つのCH2基はNR15、S若しくは酸素によって置き換えられていてもよく;
R15は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
mmは0、1又は2であり;
nnは0又は1であり;
R16は水素、メチル又はCppF2pp+1であり;
Eは酸素又はS(O)qqであり;
ppは1又は2であり;
qqは0、1又は2である;
式Iの化合物並びにまたそれらの医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩は好ましい。
【0004】
式中、R1及びR3はそれぞれ水素であり;
R2及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、NH2、NHCH3又はN(CH3)2であり;
R5は水素、メチル、エチル又はシクロプロピルであり;
R6は水素又はメチルであり;
R7及びR8はそれぞれ水素である;
式Iの化合物並びにまたそれらの医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩は特に好ましい。
【0005】
N−ジアミノメチレン−4−(6,8−ジクロロ−2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−4−イル)ベンゼンスルホンアミド並びにまたそれらの医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩は特に好ましい。
【0006】
一実施態様において、式中、R1、R2、R3及びR4基は、それぞれ独立して水素、F、Cl、Br、CN又はR11−(CmH2m)−An−によって記載され、ここでm及びnはそれぞれ独立して0又は1であり、R11は水素、メチル又はCpF2p+1であり、そしてAは酸素、NCH3又はS(O)qであり、ここで、pは1又は2であり、そしてqは0、1又は2である、式Iの化合物は好ましく;式中、R1及びR3はそれぞれ水素であり、そしてR2及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、NH2、NHCH3又はN(CH3)2、例えばClである、式Iの化合物は特に好ましい。一実施態様において、R2及びR4は水素でない式Iの化合物は好ましい。
【0007】
さらなる実施態様において、式中、R5は水素、メチル、エチル又はシクロプロピル、例えばメチルによって記載される式Iの化合物は好ましい。
【0008】
さらなる実施態様において、式中、R6は水素又はメチルによって記載される式Iの化合物は好ましい。
【0009】
さらなる実施態様において、式中、R7及びR8基はそれぞれ独立して水素、F、Cl、CN、CO2R12、NR13R14又はR16−(CmmH2mm)−Enn−によって記載され、ここでR12は水素、メチル又はエチルであり、R13及びR14はそれぞれ独立して水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;又はR13及びR14はそれらが結合している窒素原子と一緒になって5、6又は7員環を形成し、その際、1つのCH2基がNR15、S又は酸素によって置き換えられていてもよく、そしてここで、R15は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル、又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;そしてここで、mmは0、1又は2であり、nnは0又は1であり、そしてR16は水素、メチル又はCppF2pp+1であり、ここでEは酸素又はS(O)qqであり、ここで、ppは1又は2であり、そしてqqは0、1又は2である、式Iの化合物は好ましく;式中、R7及びR8がそれぞれ水素である式Iの化合物は特に好ましい。
【0010】
式Iの化合物が1つ又はそれ以上の不斉中心を含む時、それらはそれぞれ独立してS又はR配置を有しうる。化合物は、光学異性体、ジアステレオマー、ラセミ体又はそれらの全ての比率における混合物として存在することができる。
【0011】
本発明は、式Iの化合物の全ての可能な互変異性体形態を包含する。
【0012】
また、本発明は、式Iの化合物の誘導体、例えば式Iの化合物の溶媒和物、例えば水和物及びアルコール付加物、エステル、プロドラッグ及び他の生理学上許容しうる誘導体、並びにまた式Iの化合物の活性代謝物を包含する。本発明は、同様に式Iの化合物の全ての結晶の変態を包含する。
【0013】
アルキル基は直鎖又は分枝鎖であることができる。これは、それらが置換基を有するか、又は他の基、例えばフルオロアルキル基若しくはアルコキシ基の置換基として存在する場合にもあてはまる。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル(=1−メチルエチル)、n−ブチル、イソブチル(=2−メチルプロピル)、sec−ブチル(=1−メチルプロピル)、tert−ブチル(=1,1−ジメチルエチル)、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル及びヘキシルである。好ましいアルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル及びn−ブチルである。アルキル基では、1つ又はそれ以上の、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14個の水素原子がフッ素原子によって置換されていてもよい。このようなフルオロアルキル基の例は、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロイソプロピルである。置換されたアルキル基は、いずれの位置で置換されていてもよい。
【0014】
アルキレン基、例えばCmH2m、CmmH2mm又はCrH2rは、直鎖又は分枝鎖であることができる。これは、それが置換基を有するか又は他の基、例えばフルオロアルキレン基、例えばCpF2p及びCppF2ppの置換基として存在する場合にもあてはまる。アルキレン基の例は、メチレン、エチレン、1−メチルメチレン、プロピレン、1−メチルエチレン、ブチレン、1−プロピルメチレン、1−エチル−1−メチルメチレン、1,2−ジメチルエチレン、1,1−ジメチルメチレン、1−エチルエチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、ペンチレン、1−ブチルメチレン、1−プロピルエチレン、1−メチル−2−エチルエチレン、1,2−ジメチルプロピレン、1,3−ジメチルプロピレン、2,2−ジメチルプロピレン、ヘキシレン及び1−メチルペンチレンである。アルキレン基では、1つ又はそれ以上の、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の水素原子はフッ素原子によって置換されていてもよい。置換されたアルキレン基は、いずれの位置で置換されていてもよい。アルキレン基中、1つ又はそれ以上のCH2基は、酸素、S、NH、N−アルキル又はN−シクロアルキルによって置き換えられていてもよい。
【0015】
シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルである。シクロアルキル基では、1つ又はそれ以上の、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の水素原子は、フッ素原子によって置換されていてもよい。置換されたシクロアルキル基は、いずれの位置で置換されていてもよい。また、シクロアルキル基は、アルキルシクロアルキル又はシクロアルキルアルキル、例えばメチルシクロヘキシル又はシクロヘキシルメチルとして分枝鎖形態で存在することもできる。
【0016】
NR13R14(ここでR13及びR14はそれらが結合している窒素原子と共に4、5、6又は7員環を形成し、その際、1つのCH2基はNR15、硫黄又は酸素によって置き換えられていてもよい)の環の例は、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン及びN−メチルピペラジンである。
【0017】
変数が成分として1回よりも多く存在する場合、変数の定義は、それぞれの場合で相互に独立している。
【0018】
また、式Iの化合物が1つ若しくはそれ以上の酸性若しくは塩基性の基又は1つ若しくはそれ以上の塩基性の複素環を含む場合、対応する生理学上又は毒物学上許容しうる塩、特に医薬上使用しうる塩は、本発明に含まれる。例えば、式Iの化合物は、酸性基のところで脱プロトン化することができ、そして例えば、アルカリ金属塩、好ましくはナトリウム又はカリウム塩の形態で、又はアンモニウム塩の形態で、例えばアンモニア若しくは有機アミン又はアミノ酸との塩として使用される。また、式Iの化合物は常に少なくとも1つの塩基性基を含むため、それらは、例えば以下の酸:無機酸、例えば塩酸、硫酸若しくはホスホン酸、又は有機酸、例えば酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、メタンスルホン酸、フマル酸とのその生理学上許容しうる酸付加塩の形態で製造することもできる。有用な酸付加塩としては、全ての薬理学上許容しうる塩、例えばハロゲン化物、特に塩酸塩、乳酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、酒石酸、酢酸塩、リン酸塩、メチルスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、アジピン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸、グリセロールリン酸、マレイン酸塩及びパモ酸塩(また、この基は生理学上許容しうるアニオンに相当する);そしてまたトリフルオロ酢酸塩の塩が含まれる。
【0019】
また、本発明は、式Iの化合物を製造するため下に記載された方法を提供する。
【0020】
本明細書に記載された式Iの化合物は、式VIIIの化合物を当業者に知られた方法によってクロロスルホン化し、続いて当業者に知られた方法(例えば、Synthetic Communications, 33(7), 1073; 2003に記載された)によってグアニジンと反応させることによって製造することができる。
【化2】

【0021】
クロロスルホン化後に得た式XIIの中間体は単離する必要がなく、代わりにグアニジンとさらに直接反応させることができる。
【化3】

【0022】
式VIIIの出発化合物は、以下の通り製造することができる:
当業者に知られている方法によって、式VIの化合物中のカルボニル部分を、例えば水素化ホウ素ナトリウムで還元し、続いて生成した式VIIのアルコールを酸−又は塩基−接触環化することによって(Tetrahedron Lett. 1989, 30, 5837; Org. Prep. Proced. Int. 1995, 27, 513参照)、式VIIIaのテトラヒドロイソキノリンを製造することができ、ここで、R1〜R8はそれぞれ上記定義された通りである。
【化4】

【0023】
R6が水素でない式Iのアルキル分枝鎖化合物を製造するには、式IXの対応するジフェニル酢酸エステルを公知の方法によってアルファ位でR6によりアルキル化することができる。式Xの化合物は、標準方法によって式XIの対応するアミドに転化することができ、これをピクテ−スペングラー様反応で式VIIIbの所望のテトラヒドロイソキノリン(Tetrahedron 1987, 43, 439; Chem. Pharm. Bull. 1985, 33, 340参照)に転化し、ここで、R1〜R8はそれぞれ上記定義された通りであり、そしてLGはアルキル化に一般的な脱離基、例えばクロリド、ブロミド、トシレート又はメシレートに相当する。
【化5】

【0024】
上で使用した式VIの化合物は、当業者に公知のやり方で式IVのベンジルアミン及び式Vの適切なアミノ置換されたアルファ−ブロモアセトフェノン化合物から製造するのが好ましく、ここで、R1〜R8はそれぞれ上記定義された通りである。
【化6】

【0025】
式Vのアルファ−ブロモアセトフェノン化合物は、文献の方法で対応するアセトフェノン前駆体から臭素化によって得ることができる。
【0026】
商業的に入手できない場合、式IVのベンジルアミン前駆体は、当業者に公知の標準方法によって式IIIの対応するベンジルハライド、例えばベンジルクロリド又はブロミド、及び対応するアミンR5−NH2から合成することができ、ここで、R1〜R5はそれぞれ上記定義された通りであり、そしてXはF、Cl、Br又はI、特にCl又はBrである。
【化7】

【0027】
また、別法として、式IVの化合物は、当業者に公知の標準方法によって式IIIaのアルデヒドを還元的アミノ化によって入手可能であり、ここで、R1〜R5はそれぞれ上記定義された通りである。
【化8】

【0028】
式III及びIIIa、IX及びR6−LG及びR5−NH2の化合物は、商業的に入手可能であるか、又は文献に記載され、そして当業者に公知の方法に従って若しくは同様にして製造することができる。
【0029】
生成物及び/又は中間体を後処理し、そして所望により、慣用の方法、例えば抽出、クロマトグラフィ又は結晶化及び慣用の乾燥工程によって精製する。
【0030】
式Iの化合物は、ナトリウム−水素交換体(NHE)、特にサブタイプ3のナトリウム−水素交換体(NHE3)の優れた阻害剤であることを示すことができた。さらにまた、式Iの化合物は、サブタイプ5のナトリウム−水素交換体(NHE5)の優れた阻害剤でもある。
【0031】
これまで知られているNHE3阻害剤は、例えば、アシルグアニジンタイプ(EP825178)、ノルボルニルアミンタイプ(WO0144164)、2−グアニジノ−キナゾリンタイプ(WO0179186)又はベンズアミジンタイプ(WO0121582、WO0172742)の化合物から誘導される。NHE3阻害剤として同様に記載されているスクアラミン(M. Donowitz et al., Am. J. Physiol. 276 (Cell Physiol. 45): C136−C144)は、現状の知識によれば、式Iの化合物のように直ちに作用せず、むしろ間接的な機構を経ることで、その最大作用強度を1時間後にしか得られない。
【0032】
サブタイプ3のナトリウム−水素交換体(NHE3)の阻害剤としてのテトラヒドロイソキノリンは、特許出願WO03048129、WO2004085404並びにドイツ特許出願第102004046492.8号及び同第102005001411.9号にすでに記載されている。特許出願WO03055880は、NHE3阻害剤としてテトラヒドロイソキノリニウム塩の関連化合物類を記載している。ここで、驚くべきことに、本明細書に記載された式Iの化合物は、NHE3及びNHE5の強力阻害剤を同様に構成し、そして有益な薬理学的及び薬理動態的性質を有することが見出された。
【0033】
NHE3は、多様な種の体内で、優先的に胆嚢中、腸及び腎臓中で見出されており(Larry Fliegel et al., Biochem. Cell. Biol. 76: 735−741, 1998)、そしてまた脳内にも見出されている(E. Ma et al., Neuroscience 79: 591−603)。NHE5は、ニューロン中でしか発現されず、そのため脳特異的である(Am. J. Physiol. Cell. Physiol. 281: C1146−C1157, 2001)。
【0034】
式Iの化合物は、それらのNHE阻害性のため、NHEの活性化又は活性化されたNHEによって生じる障害、そしてまた二次的原因としてNHE関連の損傷を有する障害の予防及び治療に適している。
【0035】
また、式Iの化合物は、例えば低用量の使用によってNHEが部分的にしか阻害されない障害の治療及び予防に用いることができる。
【0036】
本発明の化合物の使用は、獣医学及びヒト医学における急性及び慢性障害の予防及び治療に関する。
【0037】
式Iの化合物は、それらの薬理作用のため、呼吸駆動の改善に特に適している。従って、それらは呼吸状態の障害の治療に使用することができる、例えば以下:中枢神経系の呼吸駆動障害(例えば中枢神経系の睡眠時無呼吸、乳児突然死、手術後の低酸素症)、筋肉関連の呼吸障害、長期的な人工呼吸後の呼吸障害、高山で順応中の呼吸障害、睡眠時無呼吸の閉塞性及び混合形態、低酸素症及び高炭酸ガス血症による急性及び慢性肺障害の臨床的な状態及び障害の場合に生じうる。
【0038】
さらに、その化合物は、いびきを抑制するように上気道の筋緊張を高める。従って、記載された化合物は、睡眠時無呼吸及び筋肉関連の呼吸障害を予防及び治療する薬剤の製造、並びにいびきを予防及び治療する薬剤の製造に使用するのが好都合であることがわかった。
【0039】
式IのNHE阻害剤と炭酸アンヒドラーゼ阻害剤(例えばアセタゾールアミド)との組み合わせは、有益であることがわかり、後者は代謝性アシドーシスをもたらすため、それ自体で呼吸活性を高め、その結果、作用が高められて活性成分の使用を減らすことができる。
【0040】
本発明の化合物は、それらのNHE3−阻害作用のため、毒性及び病原性イベントで急速に減少して細胞損傷又は細胞死に至る細胞エネルギーの蓄えを保護する。近位尿細管中のエネルギー集約型のATPを消耗するナトリウム吸収は、NHE3阻害剤の影響を受けて一時的にシャットダウンされるため、細胞は急性の病原性、虚血性又は毒性状態で生き残ることができる。従って、本発明の化合物は、例えば、虚血性病毒(noxae)、例えば急性腎不全を治療する薬剤として適している。さらに、化合物は、全ての慢性腎臓障害及び高められた蛋白沈着症の結果として慢性腎不全に至る腎炎の形態の治療にも適している。従って、式Iの化合物は、後期糖尿病障害(late diabetic damage)、糖尿病性腎症及び慢性腎臓障害、特に高められたタンパク質/アルブミン沈着と関連する全ての腎臓炎症(腎炎)を治療する薬剤の製造に適している。
【0041】
また、本発明により使用される化合物は、軽度の緩下効果を有し、従って、緩下剤として又は切迫した便秘の場合に都合よく使用できることがわかった。
【0042】
さらに、本発明の化合物は、例えば腸領域の虚血性状態によって及び/又はその後の再灌流によって又は炎症性状態及びイベントによって誘発された腸管の急性及び慢性障害の予防及び治療に都合よく使用することができる。このような合併症は、例えば腸の不十分な蠕動運動の結果生じることがあり、これは、例えば外科的処置後、便秘又は腸活性が非常に低下した場合に頻繁に見られる。
【0043】
本発明の化合物には、胆石形成を防止する可能性がある。
【0044】
本発明のNHE阻害剤は、一般に虚血及び再灌流によって生じる障害の治療に適している。
【0045】
本発明の化合物は、それらの薬理学的性質のため、抗不整脈薬として適している。
【0046】
NHE阻害剤は、それらの心臓保護成分のため、梗塞予防及び梗塞治療、並びにまた狭心症の治療に著しく適しており、またこれらの場合、それは虚血により誘発された状態の発現、特に虚血により誘発された心不整脈の始動における病態生理学的プロセスを阻害するか又は非常に軽減する。本発明により使用される式Iの化合物は、病理学的低酸素性の及び虚血性状態に対する保護作用のため、細胞のNa+/H+交換機構を阻害する結果、虚血によって誘発された全ての急性若しくは慢性損傷又はそれによって一次的に若しくは二次的に誘発された疾患を治療する薬剤として使用することができる。
【0047】
また、これは、外科的処置の薬剤としてのそれらの使用に関する。例えば、本発明の化合物は、器官移植に使用することができ、この場合、化合物は、除去の前及び間のドナーにおける器官の保護、除去された器官の保護の両方、例えば生理学的な浴液で処置する又は浴液中に保存する間、そしてまた、式Iの化合物で前処理されたレシピエントの生体中に移植する間に使用することができる。
【0048】
化合物は、同様に、血管形成の外科的処置を実施する際、例えば心臓、並びにまた末梢器官及び血管における有益な保護薬剤である。
【0049】
さらに、本発明の化合物は、バイパス手術、例えば冠血管のバイパス手術及び冠動脈バイパス移植(CABG)を実施する際に使用することができる。
【0050】
また、式Iの発明化合物は、虚血により誘発された損傷に対するそれらの作用に従って、心停止後の蘇生にも使用することができる。
【0051】
化合物は、虚血により誘発された損傷に対するそれらの保護作用に従って、神経系、特にCNSの虚血を治療する薬剤としても適しており、この場合、それらは、例えば脳卒又は脳水腫の治療に適している。
【0052】
NHE阻害剤は、虚血及び再灌流によって生じる損傷に対してだけでなく、特に癌治療及び自己免疫性障害の治療に使用が見出されるような薬剤の細胞毒性の作用に対してもヒト組織及び器官を効果的に保護するため、式Iの化合物とそれらの組み合わせ投与は、治療の細胞毒性作用の軽減又は抑制に適している。また、NHE阻害剤との共投薬による細胞毒性作用、特に心毒性が軽減されることで、細胞毒性の治療剤の用量を高める及び/又はこのような薬剤の投薬を延長することが可能となる。このような細胞毒性治療の治療上の利点は、NHE阻害剤との組み合わせによってかなり高めることができる。式Iの化合物は、望ましくない心臓毒性成分を有する薬剤を用いた治療を改善するのに特に適している。
【0053】
一般に、本明細書に記載されたNHE阻害剤は、細胞内pHを同様に調節する他の化合物と都合よく組み合わせることができ、その場合、可能な組み合わせパートナーは、炭酸脱水酵素の酵素群の阻害剤、重炭酸イオンを輸送する系、例えば重炭酸ナトリウム共輸送体(NBC)の阻害剤又はナトリウム依存性塩素−重炭酸交換体(NCBE)の阻害剤であり、そしてまた、他のNHEサブタイプに阻害作用を有する他のNHE阻害剤と都合よく組み合わせることができ、その理由は、それらが本明細書に記載されたNHE阻害剤の薬理学上関連するpH調節作用を高める又は調節することができるからである。
【0054】
本発明化合物は、虚血により誘発された損傷に対するその保護作用に従って、神経系、特に中枢神経系の虚血を治療する薬剤としても適しており、その場合、それらは脳卒中又は脳水腫の治療に適している。
【0055】
また、式Iの化合物は、中枢神経系の過剰興奮(overexcitability)により誘発された疾患及び障害の治療及び予防、特にてんかん障害、中枢的に誘発された間代性及び強直性痙攣、心理的うつ病の状態、不安障害及び精神病の治療に適している。これらの場合、本発明のNHE阻害剤は、単独で又は他の抗てんかん活性物質若しくは抗精神病活性物質、若しくは炭酸脱水酵素阻害剤、例えばアセタゾールアミド、そしてまたNHE若しくはナトリウム依存性塩素−重炭酸交換体(NCBE)のさらなる阻害剤と組み合わせて使用することができる。
【0056】
さらに、式Iの本発明の化合物は、同様にショックのタイプ、例えばアレルギー性、心臓性、血液量減少性及び細菌性のショックの治療に適している。
【0057】
式Iの化合物は、NHE阻害剤として、それら自体血小板凝集を阻害することもできるため、血栓障害の予防及び治療に同様に使用することができる。また、それらは、虚血及び再灌流後に起こる、炎症及び凝固メディエータ、特にフォン・ウィルブランド因子及び血栓形成のセレクチンタンパク質の過剰放出を阻害又は防止することができる。これにより、血栓形成及び炎症関連要因の病原作用を軽減及び除去することができる。従って、本発明のNHE阻害剤は、さらなる抗凝固性の及び/又は血栓溶解活性成分、例えば組換え型又は自然型の組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、アセチルサリチル酸、トロンビン拮抗剤、第Xa因子拮抗剤、線維素溶解活性な薬剤、トロンボキサン受容体拮抗剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、第VIIa因子拮抗剤、クロピドグレル、チクロピジン、などと組み合わせることが可能である。本発明のNHE阻害剤とNCBE阻害剤及び/又は炭酸脱水酵素の阻害剤、例えばアセタゾールアミドとの組み合わせ使用は、特に望ましい。
【0058】
さらにまた、本発明のNHE阻害剤は、細胞増殖、例えば線維芽細胞増殖及び血管平滑筋細胞の増殖に関して強い阻害作用を特徴とする。従って、式Iの化合物は、細胞増殖が一次的な又は二次的な原因を構成する障害に有益な治療剤として有用であり、そのため慢性腎不全、癌に対して抗アテローム性硬化症の薬剤として使用することができる。そして、それらは、例えば心臓及び前立腺の器官肥大及び過形成の治療に使用することができる。このように、式Iの化合物は、心不全(鬱血性心不全=CHF)の予防及び治療、そしてまた前立腺過形成又は前立腺肥大の治療及び予防に適している。
【0059】
また、NHE阻害剤は、線維形成障害の遅滞又は予防を特徴とする。従って、それらは、心臓の線維症、そしてまた肺線維症、肝線維症、腎線維症及び他の線維形成障害を治療する優れた薬剤として適している。
【0060】
本態性高血圧患者ではNHEにおける有意な上昇があるため、式Iの化合物は、高血圧および心臓血管障害の予防及び治療に適している。これらの場合、それらは、単独で又は高血圧の治療及び心臓血管障害の治療に適した組み合わせパートナーと共に使用することができる。例えば、チアジドのような作用を有する1つ又はそれ以上の利尿薬、ループ利尿薬、アルドステロン及び偽性アルドステロン拮抗剤、例えばヒドロクロロチアジド、インダパミド、ポリチアジド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、ブメタニド、アミロリド、トリアムテレン、スピロノラクトン又はエプロランは、式Iの化合物と組み合わせることができる。さらに、本発明のNHE阻害剤は、カルシウム拮抗剤、例えばベラパミル、ジルチアゼム、アムロジピン又はニフェジピン、及びACE阻害剤、例えばラミプリル、エナラプリル、リシノプリル、フォシノプリル又はカプトプリルと組み合わせて使用することができる。また、さらに望ましい組み合わせパートナーは、β−遮断剤、例えばメトプロロール、アルブテロールなど、アンギオテンシン受容体及びその受容体サブタイプの拮抗剤、例えばロサルタン、イルベサルタン、バルサルタン、オマパトリラット、ゲマパトリラット、エンドセリン拮抗剤、レニン阻害剤、アデノシン受容体作動剤、カリウムチャネルの阻害剤及び活性化剤、例えばグリベンクラミド、グリメピリド、ジアゾキシド、クロマカリム、ミノキシジル及びそれらの誘導体、ミトコンドリアATP感受性のカリウムチャネル(mitoK(ATP)チャネル)の活性化剤、さらなるカリウムチャネル、例えばKv1.5などの阻害剤である。
【0061】
本発明のNHE阻害剤は、その抗炎症効果のため、抗炎症剤として使用することができる。機構的なことでは、これに関して炎症メディエータの放出阻害が注目に値する。従って、本発明の化合物は、慢性及び急性の炎症性障害の予防又は治療において単独で又は抗炎症剤と組み合わせて使用することができる。使用する組み合わせパートナーは、ステロイド性及び非ステロイド性抗炎症剤が好都合である。
【0062】
さらに、NHE阻害剤は、血清リポタンパク質において有益効果を示すことがわかった。そのため、それらは、原因となる危険因子を除去することによりアテローム硬化性病変の予防及び退縮に使用することができる。これらには、原発性高脂血症だけでなく、また例えば、糖尿病の場合に生じるようなある種の続発性高脂血症が含まれる。さらに、NHE阻害剤は、代謝異常により誘発される梗塞を明らかに減少させ、そして特に誘発される梗塞のサイズ及びその重篤性を明確に減少させる。従って、式IのNHE阻害剤は、高コレステロール血症を治療する薬剤の製造;アテローム発生を予防する薬剤の製造;アテローム性動脈硬化症を予防及び治療する薬剤の製造、高コレステロールレベルにより誘発される疾患を予防及び治療する薬剤の製造、内皮機能不全により誘発される疾患を予防及び治療する薬剤の製造、アテローム性動脈硬化症−誘発性高血圧症を予防及び治療する薬剤の製造、アテローム性動脈硬化症−誘発性血栓症を予防及び治療する薬剤の製造、高コレステロール血症−誘発性及び内皮機能不全−誘発性虚血性障害及び虚血後の再灌流障害を予防及び治療する薬剤の製造、心肥大及び心筋症及び鬱血性心不全(CHF)を予防及び治療する薬剤の製造、高コレステロール血症−誘発性及び内皮機能不全−誘発性の冠状動脈血管痙攣及び心筋梗塞を予防及び治療する薬剤の製造、降圧性物質、好ましくはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤及びアンギオテンシン受容体拮抗剤と組み合わせて前記障害を治療する薬剤の製造における使用が有利に見出される。式IのNHE阻害剤と、血液脂肪レベルを低下させる活性成分、好ましくはHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、例えばロバスタチン又はプラバスタチンとの組み合わせでは、後者は脂質低下効果をもたらし、そのため、式IのNHE阻害剤の脂質低下性を高めることで活性成分の高められた効果及び軽減された使用を伴う望ましい組み合わせを構成する。
【0063】
従って、NHE阻害剤は、原因の異なる内皮障害に対する有効な保護となる。内皮機能不全の症候群に対する血管のこの保護は、NHE阻害剤が冠状動脈血管痙攣、末梢血管疾患、特に間欠跛行、アテローム発生及びアテローム性動脈硬化症、左室肥大及び拡張型心筋症及び血栓障害を予防及び治療する有益な薬剤であることを意味する。
【0064】
さらに、NHE阻害剤は、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)の治療に適していることが見出され、この場合、例えばインスリン耐性は抑制される。この場合、本発明の化合物を、ビグアニド、例えばメトホルミン、抗糖尿病性スルホニル尿素、例えばグリブリド、グリメピリド、トルブタミドなど、グルコシダーゼ阻害剤、PPARアゴニスト、例えばロシグリタゾン、ピオグリタゾンなど、異なる投与形態のインスリン生成物、DB4阻害剤、インスリン増感剤又はメグリチニドと組み合わせることによって本発明の化合物の抗糖尿病活性及び効果の質を高めることは望ましい。
【0065】
NHE阻害剤は、急性の抗糖尿病性効果に加えて、糖尿病の後期合併症の発現を防止し、そのため、糖尿病による後期障害、例えば糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症及び糖尿病の結果として生じる他の障害を予防及び治療する薬剤として使用することができる。それらは、NIDDM治療下で上記の抗糖尿病性薬剤と都合よく組み合わせることができる。これに関して、インスリンの有益な剤形との組み合わせは、特に重要であるといえる。
【0066】
また、NHE阻害剤は、急性の虚血性イベント及びその後の同様に急激に圧力のかかる再灌流イベントに対する保護効果に加えて、慢性的に進行する老化現象の発現と関連する並びに急性の虚血性状態及び正常な非虚血性状態下で独立して生じることもある全哺乳動物の生体の疾患及び障害に対して直接治療上利用できる効果を示す。現在、NHE阻害剤による治療が受け入れられている、疾病、病弱及び死のような長い老化期間にわたって誘発されるこれらの病理学的な加齢に伴う症状は、生体器官及びその機能における加齢による変化によって本質的に生じる疾患及び障害であり、そして老化した生体においてますます重要になる。
【0067】
加齢に伴う機能障害又は加齢に伴う器官の損耗発現と関係がある障害は、例えば収縮及び弛緩反応に対する血管の不十分な応答及び反応性である。心血管系、そしてさらに生活及び健康の必須過程である、収縮及び弛緩刺激に対する血管の反応性におけるこの加齢に伴う低下は、NHE阻害剤によって有意に除去又は軽減することができる。一つの重要な機能及び血管反応性の維持の尺度は、加齢に伴う内皮機能不全における進行の遮断又は遅滞であり、それはNHE阻害剤によってかなり有意に除去することができる。従って、NHE阻害剤は、加齢に伴う内皮機能不全における進行、特に間欠跛行の治療及び予防に著しく適している。従って、また、NHE阻害剤は、心筋梗塞、鬱血性心不全(CHF)の予防及び治療、そしてまた加齢に伴う癌形態の治療及び特に予防に著しく適している。
【0068】
これに関して、有用な組み合わせは、降圧性の薬剤、例えばACE阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤、利尿薬、Ca2+拮抗剤、など又は代謝を正常化する薬剤、例えばコレステロール低下薬との組み合わせである。従って、式Iの化合物は、加齢に伴う組織変化の予防するため、そして高い生活の質を保持しながら健康を維持して寿命を延長するために適している。
【0069】
本発明の化合物は、多くの障害(本態性高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、など)において、測定に容易に適する細胞中、例えば赤血球、血小板又は白血球中でも高められる細胞のナトリウム−プロトンアンチポーター(Na/H交換体)の有効な阻害剤である。従って、本発明により使用される化合物は、例えば種々の形態の高血圧症、そしてまたアテローム性動脈硬化症、糖尿病及び糖尿病の後期合併症、増殖性障害などを測定及び判別する診断薬として使用する際に優れた単純な科学的手段として適している。
【0070】
さらに、NHE阻害剤は、細菌及び原生動物により誘発される障害(ヒト及び獣医学)の治療に適している。原生動物により誘発される疾患は、特にヒトにおけるマラリア障害、そして家禽におけるコクシジウム症である。
【0071】
また、化合物は、ヒト及び獣医学、そしてまた作物保護において吸血寄生虫を防除する薬剤として適している。ヒト及び獣医学において吸血寄生虫に対する薬剤として使用するのが好ましい。
【0072】
従って、記載された化合物は、呼吸駆動の障害の、呼吸器障害、睡眠関連の呼吸器障害、睡眠時無呼吸の、いびきの、急性及び慢性腎臓障害の、急性腎不全の及び慢性腎不全の、腸機能の障害の、高血圧の、本態性高血圧症の、中枢神経系の障害の、CNS過剰興奮、てんかん及び中枢的に誘発される痙攣から生じる障害の又は不安、うつ病及び精神病状態の、末梢若しくは中枢神経系の虚血状態の又は脳卒中の、虚血性イベント若しくは再灌流イベントによって生じる末梢器官若しくは四肢の急性及び慢性損傷及び障害の、アテローム性動脈硬化症の、脂質代謝障害の、血栓症の、胆管機能の障害の、外部寄生虫による侵襲の、内皮機能不全によって生じる障害の、原生動物の障害の、マラリアの治療又は予防のための、外科的手技の移植片の保存及び貯蔵のための、外科手術及び臓器移植に使用するための、又はショック状態若しくは糖尿病及び糖尿病による後期障害、若しくは細胞増殖が一次的若しくは二次的原因を構成する疾患の治療のための、並びに健康を維持して寿命を延ばすための薬剤の製造における単独の又は他の薬剤若しくは活性成分と組み合わせた使用を見出すことは好都合である。
【0073】
痴呆なる用語は、知的能力における低下のことである。特に記憶及び思考能力における低下を意味することが理解される。高齢者又は老年痴呆における痴呆は、中枢神経系の構造的及び/又は代謝的異常に起因する高齢者における進行性の後天的な知性の低下のことである。65歳を超える人口の約7%は、重篤度の異なる痴呆を患っている。痴呆の原因は、様々である。アルツハイマー病は、50%までを占める最も一般的な形態であり、その後に多発脳梗塞性痴呆のような血管性痴呆及びこれらの2つの形態の組み合わせが続く。非常にまれな原因は、タウ突然変異、プリオン病、ポリグルタミン伸張障害、例えばハンチントン舞踏病及び脊髄小脳性運動失調、並びにパーキンソニズムである。また、さらに知られているのが、感染症(例えばHIVによる)、脳外傷、脳腫瘍又は中毒(例えばアルコールによる)の後に続く及び/又はそれらと関連する二次性痴呆である。
【0074】
記憶固定の概念は、新しい記憶が時間の経過をかけて安定化し、それにより新しい情報及び脳の機能障害による干渉に対してあまり敏感ではなくなる能力に基づいている。長期増強(LTP)の一般の細胞モデルを用いると、記憶形成及び強化の必須態様及び機構を研究することができる(Neuroscientist. 9: 463−474. 2003; Brain Res Brain Res Rev. 45:
30−37, 2004; Physiol Rev. 84: 87−136, 2004)。
【0075】
情報が保存され、処理される脳の最も重要な領域の一つは、海馬体である。海馬におけるある種のパターンの電気刺激(強直誘発)は、シナプス効率の変化を導くことが長い間知られており(Bliss and Lomo, J Physiol. 232: 331−356, 1973)、それは現在「長期増強」又は「LTP」と称し、そして生体外及び生体内の両方で、様々な哺乳動物の脳の他の領域で続いて確認されている。LTPは、現在、学習及び記憶の根底にあるニューロン機構の重要な成分とみなされている。さらに、弱いLTPは短期記憶、そして強いLTPは長期記憶と相関関係があることが知られている(J Neurosci. 20: 7631−7639, 2000; Proc Natl Acad Sci U S A. 97: 8116−8121, 2000)。
【0076】
海馬は、エピソード的、空間的及び宣言的な学習及び記憶プロセスに中心的な役割を果たしており、それは空間的定位及び空間的構造の想起に必須であり、そして自律的な及び自律神経機能の制御に重要な役割を果たしている(McEwen 1999, Stress and hippocampal plasticity, Annual Review of Neuroscience 22: 105 122)。ヒト痴呆性障害では、通常、海馬が関与する学習及び記憶プロセスに障害がある。他の哺乳類の動物実験では、類似の結果が示されている。
【0077】
従って、老齢のマウスは、若いマウスと比較して空間記憶及びLTPに欠陥を有し、そしてLTPを改善する物質は、同時に記憶欠陥を軽減することを示すことができた(Bach et al. 1999, Age−related defects in spatial memory are correlated with defects in the late phase of hippocampal long−term potentiation in vitro and are attenuated by drugs that enhance the cAMP signaling pathway. Proc Natl Acad Sci U S A. 27;96:5280−5; Fujii & Sumikawa 2001, Acute and chronic nicotine exposure reverse age−related declines in the induction of long−term potentiation in the rat hippocampus. Brain Res. 894: 347−53, Clayton et al. 2002, A hippocampal NR2B deficit can mimic age−related changes in long−term potentiation and spatial learning in the Fischer 344 rat. J Neurosci.22: 3628−37)。
【0078】
トランスジェニック動物においてβ−アミロイドペプチドの投与により、生体内及び生体外でペプチドがLTPに悪影響を及ぼす又はその維持を妨げることを示すことができた(Ye & Qiao 1999, Suppressive action produced by beta−amyloid peptide fragment 31−35 on long−term potentiation in rat hippocampus is N−methyl−D aspartate receptor−independent:it's offset by (−)huperzine A. Neurosci Lett. 275:187 90. Rowan et al 2003, Synaptic plasticity in animal models of early Alzheimer's disease. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 358: 821−8, Gureviciene et al. 2004, Normal induction but accelerated decay of LTP in APP + PS1 transgenic mice. Neurobiol Dis15: 188−95)。ヒトアルツハイマー病の治療にも使用されるようなロリプラム及びコリンエステラーゼ阻害剤によってLTP及び記憶機能の障害を矯正することができた(Ye & Qiao 1999, Gong et al. 2004, Persistent improvement in synaptic and cognitive functions in an Alzheimer mouse model after rolipram treatment.J Clin Invest. 114:1624−34.)。
【0079】
従って、また、LTPを改善する物質は、認知障害及び痴呆と関連する障害において有益効果を有することが期待される。
【0080】
驚くべきことに、細胞のNHE5の阻害剤はLTPを高めることが見出された。従って、アルツハイマー病及びアルツハイマー様痴呆形態のような痴呆障害において、この阻害剤の記憶改善効果が期待される。NHE5阻害剤の使用は、全身効果がわずかしか又は全く期待されないアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のような現在までこれらの障害に使用される活性成分よりも利点を有しており、その理由はNHE5がニューロン中でしか発現されず、その結果、脳特異的であるためである(Am. J. Physiol. Cell. Physiol. 281: C1146−C1157, 2001)。
【0081】
従って、NHE5阻害剤は、神経変性障害、記憶障害及び痴呆性障害、例えば高齢者の痴呆、アルツハイマー病、血管性痴呆、例えば多発脳梗塞性痴呆、アルツハイマー病及び脳血管障害の組み合わせ、タウ突然変異、プリオン病、ポリグルタミン伸張障害、例えば、ハンチントン舞踏病及び脊髄小脳性運動失調、及びパーキンソニズムの治療、並びに記憶の改善に適している。さらに、NHE5阻害剤は、例えばHIVのような感染症、脳外傷、脳腫瘍又は例えばアルコールによるような中毒の後に続く及び/又はそれらと関連する二次性痴呆の治療に適している。
【0082】
さらに、本発明は、薬剤として使用するための式Iの化合物及びその医薬上許容しうる塩の使用に関する。
【0083】
また、本発明は、式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の有効量を含んでなる、ヒト、獣医学又は植物保護に使用するための医薬品、そしてまた、式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の有効量を、単独で又は1つ若しくはそれ以上の他の薬理学的活性成分若しくは薬剤と組み合わせて含んでなる、ヒト、獣医学又は植物保護に使用するための医薬品に関する。
【0084】
式Iの化合物又はその医薬上許容しうる塩を含んでなる薬剤は、例えば経口的に、非経口的に、筋内に、静脈内に、直腸に、鼻内に、吸入によって、皮下に又は適切な経皮的な投与形態によって投与することができ、好ましい投与は、障害の具体的な特性に左右される。式Iの化合物は、獣医学及びヒト医学の両方、並びに作物保護において単独で又は医薬賦形剤と共に使用することができる。薬剤は、一般に投薬単位当たり0.01mgから1gまでの量で式Iの活性成分及び/又はそれらの医薬上許容しうる塩を含む。
【0085】
所望の医薬製剤に適切な賦形剤は、専門知識に基づいて当業者によく知られている。溶媒、ゲル形成剤、坐剤基剤、錠剤賦形剤及び他の活性成分担体に加えて、例えば抗酸化剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、香味剤、保存剤、可溶化剤又は着色剤を使用することができる。
【0086】
経口投与の形態では、活性化合物は、この目的に適した添加剤、例えば担体、安定剤又は不活性希釈剤と混合し、そして慣用の方法によって適切な剤形、例えば錠剤、コーティング錠、硬質ゼラチンカプセル、水性、アルコール性又は油性の液剤に転化される。有用な不活性担体の例としては、アラビアゴム、マグネシア、炭酸マグネシウム、リン酸カリウム、ラクトース、グルコース又はデンプン、特にコーンスターチが含まれる。製剤は、乾式顆粒剤の形態又は湿式顆粒剤の形態のいずれかであることができる。有用な油性担体又は有用な溶媒の例は、野菜又は動物油、例えばひまわり油又はタラ肝油である。
【0087】
皮下、経皮的又は静脈内投与では、活性化合物は、所望により、この目的に慣用の物質、例えば可溶化剤、乳化剤又はさらなる賦形剤と共に使用され、液剤、懸濁剤又は乳剤に転化される。有用な溶媒の例は、水、生理食塩水若しくはアルコール、例えばエタノール、プロパノール、グリセロールそしてさらにまた糖溶液、例えばグルコース若しくはマンニトール溶液、又は記載された種々の溶媒の混合物である。
【0088】
エアロゾル又はスプレー形態の投与に適した医薬製剤の例は、医薬上許容しうる溶媒、特にエタノール若しくは水、又はこのような溶媒の混合物中の式Iの活性成分の液剤、懸濁剤又は乳剤である。また、必要に応じて、製剤は、他の医薬賦形剤、例えば界面活性剤、乳化剤及び安定剤、そしてまた、噴射性の気体を含むこともできる。このような製剤は、典型的に活性成分を約0.1〜10質量%、特に約0.3〜3質量%の濃度で含む。
【0089】
投与する式Iの活性成分の投与量及び投与回数は、使用する化合物の効力及び作用持続時間;さらにまた、治療する疾患の性質及び重篤性、そしてまた、治療する哺乳動物の性別、年齢、体重及び個々の反応性に左右される。
【0090】
平均して、体重約75kgの患者の場合、式Iの化合物の日用量は、少なくとも0.001mg/kg、好ましくは0.1mg/kg、多くとも30mg/kgまで、好ましくは1mg/kg体重である。急性状態、例えば高山で無呼吸状態を患った直後では、さらにより高い投与量が必要でありうる。特に静脈内投与の場合、例えば集中治療室の心臓発作患者では、1日当たり300mg/kgまでが必要でありうる。日用量は、1つ又はそれ以上、例えば4回までの個々の用量に分割することができる。
【0091】
実験的な説明及び実施例
使用する略語のリスト:
AMPA α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソオキサゾール−4−プロピオネートによって活性化することができる受容体−結合チャネル
CA 1 CA=アンモン角(海馬角)、海馬中のCA領域1
EA 酢酸エチル
EPSP 興奮性シナプス後電位
ES+ 電子スプレー
HEP n−ヘプタン
conc. NH3 飽和NH3水溶液
LTP 長期増強
LTP1 初期LTP(LTPの段階)
MeOH メタノール
mp 融点
MS 質量分析
NMDA N−メチル−D−アスパルテートによって活性化されうる受容体−結合チャネル
RT 室温
STP 短期増強(LTPの段階)
THF テトラヒドロフラン
【0092】
実施例1:N−ジアミノメチレン−4−(6,8−ジクロロ−2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−4−イル)ベンゼンスルホンアミド,二塩酸塩
【化9】

グアニジン0.36gを、アルゴン下で無水THF30ml中に懸濁し、そして4−(6,8−ジクロロ−2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−4−イル)ベンゼンスルホニルクロリド(WO2003048129)0.40gを加えた。混合物を室温で24時間撹拌し、次いでTHFを留去した。水10mlを残留物に加え、そして沈殿を濾去した。それを水10mlで洗浄し、そして真空下で乾燥した。次いで、固形物をEA10ml中に懸濁し、そしてジエチルエーテル中のHCl飽和溶液10mlを加えた。揮発性成分を真空下で除去し、そして残留物をEA10ml中に懸濁して室温で5時間撹拌した。次いで、沈殿を濾去して真空下で乾燥した。0.45gを得た、融点140℃(分解)。
Rf(EA/HEP/CH2Cl2/MeOH/conc. NH3 =10:5:5:5:1) =0.30 MS(ES+):412
【0093】
薬理学的データ:
NHE3及びNHE5の試験説明:
この試験では、異なるサブタイプのナトリウム−プロトン交換体(NHE)を安定に発現するLAP1細胞の酸性化後の細胞内pH(pHi)における回復を測定した。この回復は、機能化NHEの場合、重炭酸を含まない条件下でも設定される。このために、pH感受性蛍光染料BCECFを用いてpHiを測定した(Molecular Probes, Eugene, OR, USA;前駆体BCECF AMを使用)。最初に、NH4Cl緩衝液(NH4Cl緩衝液:115mMコリンCl、20mM NH4Cl、5mM KCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2、20mM Hepes、5mMグルコース;1M KOHを用いてpH 7.4にした)中のBCECF(5μM BCECF−AM)で細胞をインキュベートした。NH4Cl緩衝液中でインキュベートした細胞を、NH4Clを含まない緩衝液(133.8mM塩化コリン、4.7mM KCl、1.25mM CaCl2、1.25mM MgCl2、0.97mM K2HPO4、0.23mM KH2PO4、5mM Hepes、5mMグルコース;1M KOHを用いてpH7.4にした)で洗浄することによって細胞内の酸性化を誘発した。洗浄操作の後、NH4Clを含まない緩衝液90μlを細胞上に残した。分析機器(FLIPR, “Fluorometric Imaging Plate Reader”, Molecular Devices, Sunnyvale, Ca., USA)中でNa+を含む緩衝液(133.8mM NaCl、4.7mM KCl、1.25mM CaCl2、1.25mM MgCl2、0.97mM Na2HPO4、0.23mM NaH2PO4、10mM Hepes、5mMグルコース;1M NaOHを用いてpH 7.4にした)90μlを添加することによってpHの回復を開始した。BCECF蛍光を498nmの励起波長及びFLIPR発光フィルタ(emission filter)1(510から570nmへのバンドギャップ)で測定した。NHE3及びNHE5について、pH回復の尺度として蛍光におけるその後の変化を2分間記録した。試験物質のNHE−阻害能力を算出するため、最初に、完全なpH回復が起こる、又は全く起こらない緩衝液中で細胞を試験した。完全なpH回復(100%)では、細胞をNa+を含む緩衝液(上記参照)、そして0%の値を測定するためNa+を含まない緩衝液(上記参照)中でインキュベートした。試験物質をNa+を含む緩衝液中で調製した。物質のそれぞれの試験濃度での細胞内pHの回復を最大回復のパーセントで示した。pH回復のパーセンテージから、個々のNHEサブタイプについて具体的な物質のIC50値をプログラムXLFit (idbs, Surrey, UK)によって算出した。
【0094】
【表1】

【0095】
試験の説明:海馬切片標本の長期試験(生体外)
実験的なアプローチ
CA 1領域中のLTPは、生体外で最良の特徴を表すLTPである。この領域の階層構造(stratification)及び入力構造は、生体外で数時間にわたって電場電位測定が可能である。NHE研究では、シータ律動に基づく、3時間以内に最初の値に戻る初期LTP(early LTP)を誘発する弱い強縮を用いた(Journal of Neuroscience, 18(16), 6071(1998); Eur J Pharmacol. 502: 99−104, 2004)。連続シータバースト(theta burst trains)の回数を高めると規模及び持続性の高いLTPを誘発し(J Neurophysiol. 88:249−255, 2002)、すなわち単一の弱い刺激は、LTPの最大達成可能な飽和タイプでない不飽和LTPを誘発することが最近確認されている。このLTPの規模(Behnisch, Reymann et al., Neurosci. Lett. 1998, 253(2): 91−94)及び持続性(例えばNeuropeptides 26: 421−427, 1994)の両方は、物質によって改善することもできるし、又は悪影響を及ぼすこともできる。本発明者らが研究で生成する初期LTPは、同様に不飽和である。従って、初期LTPでは、物質に誘発された改善又は劣化を確認することができる。研究された初期LTPは、約30分間持続することが知られているSTP成分(Nature 335: 820−824, 1988)、及び通常、LTP誘発後、最初の1〜2時間持続するLTP 1成分(Learn Mem. 3: 1−24, 1996)で構成される。
【0096】
強縮前の初期値の短期(30−60分)記録からは、調査すべき正常な刺激されていないシナプス伝達における物質の初期作用を調べることができる。主な興奮性シナプスは、グルタミン酸作動性であるため(J Clin Neurophysiol. 9: 252−263, 1992)、すなわち単シナプス領域のEPSPは、AMPAによって非常に実質的に、そしてNMDA受容体によって僅かな程度しか測定されないため、従ってグルタミン酸作動性伝達に対する効果を同時に間接的に試験する。
【0097】
方法:海馬切片標本の長期試験(生体外)
動物の種類:ラット
週齢:7〜8週
系統:ウィスター(Shoe Wist, Shoe)
性別:雄
ブリーダー:ハーラン・ヴィンケルマン社(Harlan Winkelmann GmbH)、人工光(6−18.00時間)及び日周リズム
調製:
スタニング:鉄の棒で頚部の後ろを殴打
屠殺:断頭
脳の露出:頭蓋の矢状縫合に沿って背側から腹側に切断することによって頭蓋を切開した。
海馬の露出:脳の半球の間に切り込み、右半球から始めて海馬をとがってない道具を使って引っ張り出した。
切片標本の調製:露出した海馬を、湿ったろ紙を用いて冷却台へ移し、そして別のろ紙を用いて過剰の水分を抜いた。このようにして冷却台に固定したこの海馬をチョッパー上に置き、そして切断する刃に対して海馬が適切な角度になるまで水平に回転させた。
切断角度:海馬の層状構造を維持するため切断する刃(チョッパー)に対して約70度の角度で海馬を切断する必要があった。
切片標本:海馬を400μmの間隔でスライスした。切片標本を非常に柔らかい完全に湿らせたブラシ(テン毛)を用いて刃から切片標本を取り、そして95%O2/5%CO2でガス処理して冷やした栄養液の入ったガラス容器に移した。調製の合計時間は、5分を超えることはなかった。
切片標本の貯蔵:浸漬した切片標本:切片標本を温度制御された容器(33℃)中で液面下1〜3mmに置いた。流速は2.5ml/分であった。予備容器中、わずかに高められた圧力(約1気圧)下で極微針を通して前ガス処理を行った。小循環を維持できるように切片標本容器を予備容器につなげた。極微針を通して95%O2/5%CO2を流すことによって小循環を行った。
切片標本の順応:新たに調製した海馬の切片標本を切片標本容器中、33℃で少なくとも1時間順応させた。
試験刺激レベルの測定:
刺激レベル:fEPSP:最大EPSPの30%
限局電位の測定
刺激:ラッカー塗装ステンレス鋼及び定電流二相刺激発生装置(WPI A 365)からなる単極刺激電極をシャファー側枝の局所刺激に用いた(電圧:1〜5V、一極性のパルス幅0.1ms、合計パルス0.2ms)。
測定:標準栄養液を充填したガラス電極(フィラメント付きのホウケイ酸ガラス、1−5MOhm、直径:1.5mm、先端径:3〜20μm)を用いて海馬の放射線維層からの興奮性シナプス後電位(fEPSP)を記録した。電場電位は直流電圧増幅器を用いて切片標本容器の端に位置する塩化銀の参照電極に対して測定した。電場電位は、低域通過フィルタ(5kHz)を通してフィルタにかけた。
電場電位の測定:fEPSPの傾き(fEPSP slope)を実験の統計分析のために測定した。神経生理学機関で開発されたソフトウェアプログラム(PWIN)を用いて実験の記録、分析及び制御を行った。図のそれぞれの時点及び構造における平均的なfEPSPの傾きの形成を、Excelソフトウェアを用いて、適切なマクロによる自動的なデータ記録で行った。
【0098】
栄養培地(リンゲル液):
【表2】

【0099】
実施例1をDMSOに溶解し、そしてリンゲル液で希釈して実験用の最終濃度にした(最終濃度DMSO 0.01%)。
【0100】
実験の概要:
対照実験では、最初にベースラインのシナプス伝達を60〜120分間記録した。続いて、ダブルパルスについてはインターパルス間隔10ms、そして個々のパルス(弱い強縮)については幅0.2msで、2つのダブルパルスを200ms間隔で4回与えた。生じたEPSPの増強を、少なくとも60分間記録した。
NHE5阻害剤の効果を試験する実験では、再び最初にベースラインを60〜120分間記録した。NHE5阻害剤(10μM)を刺激前に20分間フラッシュした。対照実験のように、ダブルパルスについてはインターパルス間隔10ms、そして個々のパルスについて幅0.2msで2つのダブルパルスを200ms間隔で4回与えた。刺激の20分後に物質を洗浄し、そしてEPSPの増強を少なくとも60分間記録した。
結果:実施例1の化合物は、使用した濃度でシナプス伝達に対する固有の効果を有しなかった。
【0101】
実施例1の投与後の増強は、刺激後の80分に、なおベースラインの137%であったが、対照条件下の増強は、ベースラインの113%でほとんどベースラインレベルに戻った。これは、実施例1の化合物の10μMでも、弱いLTPの維持を改善することを明白に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

の化合物並びにまたその医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩。
式中、
R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、I、CN、NO2又はR11−(CmH2m)−An−であり;
mは0、1、2、3又は4であり;
nは0又は1であり;
R11は水素、メチル又はCpF2p+1であり;
Aは酸素、NH、N(CH3)又はS(O)qであり;
pは1、2又は3であり;
qは0、1又は2であり;
R5は水素、1、2、3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R6は水素、OH、F、CF3、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R7及びR8はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、CN、CO2R12、NR13R14又はR16−(CmmH2mm)−Enn−であり;
R12は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
R13及びR14は、それぞれ独立して水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;又は
R13及びR14はそれらが結合している窒素原子と共に4、5、6若しくは7員環を形成し、その際、1つのCH2基はNR15、S又は酸素によって置き換えられていてもよく;
R15は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
mmは0、1、2、3又は4であり;
nnは0又は1であり;
R16は水素、メチル又はCppF2pp+1であり;
Eは酸素又はS(O)qqであり;
ppは1、2又は3であり;
qqは0、1又は2である。
【請求項2】
式中、
R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、Br、CN又はR11−(CmH2m)−An−であり;
mは0又は1であり;
nは0又は1であり;
R11は水素、メチル又はCpF2p+1であり;
Aは酸素、NCH3又はS(O)qであり;
pは1又は2であり;
qは0、1又は2であり;
R5は水素、メチル、エチル又はシクロプロピルであり;
R6は水素又はメチルであり;
R7及びR8はそれぞれ独立して水素、F、Cl、CN、CO2R12、NR13R14又はR16−(CmmH2mm)−Enn−であり;
R12は水素、メチル又はエチルであり;
R13及びR14はそれぞれ独立して水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;又は
R13及びR14はそれらが結合している窒素原子と共に5、6若しくは7員環を形成し、その際、1つのCH2基はNR15、S若しくは酸素によって置き換えられていてもよく;
R15は水素、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルキル又は3、4、5若しくは6個の炭素原子を有するシクロアルキルであり;
mmは0、1又は2であり;
nnは0又は1であり;
R16は水素、メチル又はCppF2pp+1であり;
Eは酸素又はS(O)qqであり;
ppは1又は2であり;
qqは0、1又は2である、
請求項1に記載の式Iの化合物並びにまたその医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩。
【請求項3】
R1及びR3はそれぞれ水素であり;
R2及びR4はそれぞれ独立して水素、F、Cl、NH2、NHCH3又はN(CH3)2であり;
R5は水素、メチル、エチル又はシクロプロピルであり;
R6は水素又はメチルであり;
R7及びR8はそれぞれ水素である、
請求項1及び/又は2に記載の式Iの化合物並びにまたその医薬上許容しうる塩及びトリフルオロ酢酸塩。
【請求項4】
薬剤として使用するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及びその医薬上許容しうる塩。
【請求項5】
呼吸駆動の障害の、呼吸障害、睡眠関連の呼吸障害、睡眠時無呼吸の、いびきの、急性及び慢性腎臓障害の、急性腎不全の及び慢性腎不全の、腸機能の障害の、高血圧症の、本態性高血圧症の、中枢神経系の障害の、CNS過剰興奮、てんかん及び中枢的に誘発される痙攣から生じる障害の又は不安、うつ病及び精神病状態の、末梢性若しくは中枢神経系の虚血性状態の又は脳卒中の、虚血性イベント若しくは再灌流イベントによって生じる末梢器官若しくは四肢への急性及び慢性損傷並びに障害の、アテローム性動脈硬化症の、脂質代謝障害の、血栓症の、胆管機能の障害の、外部寄生虫による侵襲の、内皮機能不全によって生じる障害の、原生動物障害の、マラリアの治療若しくは予防のための、外科的処置の移植片の保存及び貯蔵するための、外科手術及び臓器移植に使用するための、心停止後の蘇生において、バイパス手術に使用するための、又はショック状態若しくは糖尿病及び糖尿病の後期障害、若しくは細胞増殖が一次的若しくは二次的原因を構成する疾患を治療するための、並びに健康を維持して寿命を延ばすための薬剤の製造における請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及びその医薬上許容しうる塩の使用。
【請求項6】
呼吸駆動の障害の、呼吸障害、睡眠関連の呼吸障害、睡眠時無呼吸の、いびきの、急性及び慢性腎臓障害の、急性腎不全の及び慢性腎不全の、腸機能の障害の、高血圧症の、本態性高血圧症の、中枢神経系の障害の、CNS過剰興奮、てんかん及び中枢的に誘発される痙攣から生じる障害の又は不安、うつ病及び精神病状態の、末梢若しくは中枢神経系の虚血性状態の又は脳卒中の、虚血性イベント若しくは再灌流イベントによって生じる末梢器官若しくは四肢の急性及び慢性損傷及び障害の、アテローム性動脈硬化症の、脂質代謝障害の、血栓症の、胆管機能の障害の、外部寄生虫による侵襲の、内皮機能不全によって生じる障害の、原生動物の障害の、マラリアの治療若しくは予防のための、外科的処置の移植片を保存及び貯蔵するための、外科手術及び臓器移植に使用するための、心停止後の蘇生において、バイパス手術に使用するための、又はショック状態若しくは糖尿病及び糖尿病の後期障害、若しくは細胞増殖が一次的若しくは二次的原因を構成する疾患を治療するための、並びに健康を維持して寿命を延ばすための薬剤の製造における請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及びその医薬上許容しうる塩の他の薬剤又は活性成分と組み合わせた使用。
【請求項7】
呼吸駆動の障害及び/又は睡眠関連の呼吸障害、例えば睡眠時無呼吸を治療又は予防する薬剤を製造するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の単独の又は他の薬剤若しくは活性成分と組み合わせた使用。
【請求項8】
いびきを治療又は予防する薬剤を製造するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の単独の又は他の薬剤若しくは活性成分と組み合わせた使用。
【請求項9】
急性若しくは慢性腎臓障害、急性腎不全又は慢性腎不全を治療又は予防する薬剤を製造するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の単独の又は他の薬剤若しくは活性成分と組み合わせた使用。
【請求項10】
腸機能の障害を治療又は予防する薬剤を製造するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の単独の又は他の薬剤若しくは活性成分と組み合わせた使用。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の有効量を含む、ヒト、獣医学又は植物保護に使用するための医薬製剤。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の式Iの化合物及び/又はその医薬上許容しうる塩の有効量を、他の薬理学的活性成分又は薬剤と組み合わせて含む、ヒト、獣医学又は植物保護に使用するための医薬製剤。

【公表番号】特表2009−508889(P2009−508889A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531569(P2008−531569)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008770
【国際公開番号】WO2007/033773
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】