説明

置換ベンジルアミドおよび置換ベンジルアミンの選択的分解

第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法に関し、この場合には、第1アミンを得ることができる。
【0002】
第1アミンは、工業化学薬品のための重要な出発化合物または中間体である。アミンの取得のためには、一連の反応が使用される。このための例は、ホフマンのアルキル化、カルボニル化合物の還元的アミン化、ニトロ化合物の還元またはガブリエル合成である。
【0003】
光学活性形のキラルアミンは、特に重要である。それというのも、このキラルアミンは、医薬品または植物保護剤を中間生成物として製造するための数多くの方法で使用されるからである。従って、殊に光学活性アミンの製造は、著しく重要である。
【0004】
E. Lee-Ruff, F. J. Ablenos, Can. J. Chem., 1989, 第699〜702頁の記載から、次の反応式による電子富有の芳香族化合物の選択的酸化は、公知である。この場合、第1の反応工程で電子貧有の2,3−ジクロロ−5,6−シアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)と電子富有の基質との間で電荷移動錯体が形成され、この場合生じるカチオン種は、求核性試薬と反応されうる:
【化1】

【0005】
R. Daniel Little, Kevin D. Moeller, The Electrochemical Society Interface, Winter 2002, 第36〜41頁の記載から、一般式(I)の中性化合物の電気化学的陽極酸化は、公知である。
【0006】
【化2】

【0007】
この場合には、中間体として最初に反応性カチオンラジカル(II)が形成され、この反応性カチオンラジカル(II)は、さらに脱離によって第2のカチオン中間体(III)に変換される。最終的に、カチオン中間体(III)は、求核性試薬、例えばメタノールで捕獲される。従って、化合物(I)中の置換基Yは、形式的には求核基によって置換される:
【化3】

【0008】
上記方法により酸化されうる化合物の例は、陽極酸化下および引続く求核性試薬での捕獲下で一般式(V)のN−アセチル化アミナールに変換される一般式(IV)のN−アセチル化アミドである:
【化4】

【0009】
2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを用いての電気化学的酸化または湿式化学的酸化によるN−アセチル化アミドのレジオ選択的分解および引続く、例えば求核性試薬との後反応によるアミンの製造は、公知ではない。
【0010】
従って、本発明には、特に第1アミンを第2アミンまたは第2アミドから出発して電気化学的陽極酸化によって製造するための方法を提供するという課題が課された。この場合、本発明による方法は、特に光学活性エダクトを使用しながら光学活性の維持下に進行し、したがってエダクトのジアステレオマー純度を生成物にもたらすことができるように形成されるべきである。
【0011】
この課題の解決は、第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法から出発する。
【0012】
更に、本発明による方法は、第1の実施態様において、次の処理工程を示す:
(a’)溶剤中の少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する少なくとも1つの第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドを準備し;
(b’)第2アミンまたは第2アミドを導電性塩の存在下で電気化学的に酸化し、電解中間体を求核性試薬と反応させ、電解生成混合物を生じさせ;
(c’)この電解生成混合物を後処理し;
(d’)後処理された電解生成混合物を加水分解する。
【0013】
第1アミンは、本発明による方法により効果的な方法で製造されうる。
【0014】
本発明による方法の第1の処理工程において、溶剤中の少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する少なくとも1つのビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドが準備される。
【0015】
本発明による方法で使用されるアミンまたはアミドは、例えば一般式(VI)のビスベンジルアミンまたは一般式(VII)のビスベンジルアミドである:
【化5】

【0016】
上記式中、R7、R8、R10、R11は、同一かまたは異なり、HまたはC1〜C5アルキルであり、R9は、H(VI)であるかまたはR9は、アシル(VII)であり、この場合ビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドは、少なくとも1個のベンジル系水素原子を有し、したがって少なくともR7またはR8またはR10またはR11は、水素である。
【0017】
第2アミンとしては、特にビスベンジルアミンが使用され、この場合ビスベンジルアミンの置換されていない窒素官能基は、保護基を備えている。この場合、保護基は、特にアシル基、スルホン基、ホスホリル基またはシリル基からなる群から選択されている。保護基としてアシル基を使用する場合には、一般式(VII)の既述されたビスベンジルアミドがエダクトとして使用される。
【0018】
更に、特にビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドのベンジル環の少なくとも1つは、置換されており、この場合置換された少なくとも1つのベンジル環が電子押込み置換基で置換されていることは、さらに好ましい。電子押込み置換基は、この置換基が+I効果および/または+M効果をベンジル環上で発揮する場合に理解される。
【0019】
この場合、電子押込み置換基は、特にアルコキシ基、アルキル基、チオアルキル基またはハロゲンからなる群から選択されており、この場合アルキル基は、特にC1〜C5アルキルの群から選択されている。
【0020】
アルコキシ基を電子押込み置換基として使用する場合には、この電子押込み置換基は、特にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基または第三ブトキシ基からなる群から選択されている。
【0021】
ビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドの第2のベンジル基は、特に置換されていないか、または電子吸引基と置換されている。電子押込み置換基は、この置換基が+I効果および/または+M効果をフェニル環上で発揮する場合に理解される。適当な電子吸引置換基の例は、シアノ基、ニトロ基、エステル基ならびにハロゲン化物、弗素、塩素、臭素および沃素からなる群から選択されている。
【0022】
+I効果および−I効果を有する置換基ならびに+M効果および−M効果を有する置換基への芳香族置換基の分類は、当業者に自体公知である。十分な実施のためには、Beyer/Walter, "Lehrbuch der Organischen Chemie", 1998, 23. 改訂最新版, 第515〜518頁が指摘され、この刊行物の本件に関連する開示は、本発明に含まれる。
【0023】
処理工程(a’)において、溶剤中の第2アミンまたは第2アミドは、準備される。特に好ましい実施態様において、有機溶剤、特に有機求核性溶剤は、重要である。この場合、溶剤がプロトン性極性溶剤、例えばアルコール、脂肪族カルボン酸、例えば酢酸および水からなる群から選択されていることは、好ましい。
【0024】
溶剤としてアルコールを使用する場合には、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノール、またはブタノールは、重要である。好ましいのは、メタノールである。
【0025】
更に、本発明の実施態様において、前記溶剤の混合物が使用されてもよい。
【0026】
場合によっては、電解溶液に通常の助溶剤が添加される。この場合には、高い酸化電位を有する、有機化学において一般に常用される不活性溶剤が重要である。例示的には、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタンまたはアセトニトリルが挙げられる。
【0027】
処理工程(b’)で第2アミンまたは第2アミドの電気化学的酸化および求核性試薬と電解中間体との反応が行なわれ、この場合電解生成混合物が得られる。
【0028】
電気化学的酸化のために減極剤としての導電性塩が必要とされ、この導電性塩は、処理工程(a’)で準備された溶液に添加される。
【0029】
電解溶液中に含有されている導電性塩としては、一般にアルカリ金属アンモニウム塩、アルカリ土類金属アンモニウム塩、テトラ(C1〜C6アルキル)アンモニウム塩、有利にトリ(C1〜C6アルキル)メチルアンモニウム塩が重要である。対イオンとしては、硫酸塩、硫酸水素塩、アルキル硫酸塩、アリール硫酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩、炭酸塩、アルキル燐酸塩、アルキル炭酸塩、硝酸塩、アルコラート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートまたは過塩素酸塩がこれに該当する。
【0030】
更に、前記アニオンに由来する酸は、導電性塩として当てはまる。
【0031】
それと共に、導電性塩としてイオン性液体も適している。適当なイオン性液体は、"Ionic Ligands in Synthesis", 編者Peter Wasserscheid, Tom Welton, Verlag Wiley VCH社刊, 2003, 第1〜3章ならびにドイツ連邦共和国特許出願公開第10 2004 011427号明細書中に記載されている。
【0032】
殊に、本発明の場合には、強力な鉱酸およびスルホン酸は、導電性塩として適している。例は、H2SO4、H3PO4、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸である。本発明の範囲内で、H2SO4の使用は、特に好ましい。
【0033】
導電性塩の濃度は、一般に0.0001〜モル/l、特に0.001〜1モル/l、特に有利に0.001〜0.1モル/l、殊に有利に0.005〜0.05モル/lである。
【0034】
温度、電解時間、電流強さならびに第2アミンまたは第2アミドの濃度に関連する電気化学的酸化の処理条件は、使用されるエダクト、殊にビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドならびに使用される溶剤に依存する。
【0035】
電気分解は、当業者に公知の通常の電解セル中で実施される。適した電解セルは、当業者に公知である。特に、連続的には、分割されていない貫流セル中で作業され、非連続的には、100ml未満の反応体積でビーカー型セル中で作業される。
【0036】
特に好適なのは、電極が板として形成されおりかつ板状に平行に配置されている、双極性に接続された毛管間隙セルまたは板状スタックセルである(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1999 electronic release, 第6版, VCH-Verlag Weinheim, Volume Electrochemistry, 第3.5章 special cell designsならびに第5章, Organic Electrochemistry, 第5.4.3.2節 Cell Design)。
【0037】
本方法を実施する電流密度は、一般に1〜1000mA/cm2、特に10〜100mA/cm2である。温度は、通常−20〜60℃、特に10〜60℃である。一般には、常圧で作業される。よりいっそう高い圧力は、有利によりいっそう高い温度で作業する場合に使用され、出発化合物または助溶剤の沸騰が回避される。
【0038】
陽極材料としては、例えば黒鉛、炭素、貴金属、例えば白金、金属酸化物、例えば酸化ルテニウムまたは酸化クロム、型RuOxTiOxの混合酸化物ならびにダイヤモンド電極が適している。好ましいのは、黒鉛電極または炭素電極である。
【0039】
陰極材料としては、例えば鉄、鋼、特殊鋼、ニッケル、貴金属、例えば白金、黒鉛、炭素材料ならびにダイヤモンド電極がこれに該当する。好ましいのは、陽極としての黒鉛と陰極としての黒鉛との系、陽極としての黒鉛と陰極としてのニッケル、特殊鋼または鋼との系ならびに陽極として白金と陰極としての白金との系である。
【0040】
更に、電気化学的酸化は、エダクトとして使用されるベンジルアミドが完全に反応されるかまたは大部分反応されるまで実施される。"大部分"の概念は、本発明によれば、特に90%を上廻る反応度である。反応の進行は、実験室で常用の方法(例えば、ガスクロマトグラフィーまたは薄膜クロマトグラフィー)で追跡される。通常、完全な反応のためには、2F/mol アミドの理論的電荷量の数倍が必要とされる。
【0041】
更に、電解すべき溶液中での酸化すべきエダクトの濃度は、特に0.00001〜5mol/l、特に有利に0.0001〜3mol/l、殊に0.001〜2mol/lである。
【0042】
処理工程(b’)に設けられた電気化学的酸化によって、第2アミンまたは第2アミドの窒素官能基は、酸化され、この場合には、ラジカルカチオンが形成される。この場合、電気化学的酸化は、特に安定なラジカルが形成されるアミンまたはアミドの側で行なわれる。これは、電子押込み置換基を有するベンジル環が存在する第2アミンまたは第2アミドの側である。レジオ選択性は、殊にアルコキシ基、チオアルキル基またはアルキルを有する置換基の場合に達成される。
【0043】
処理工程(b’)においては、電気化学的酸化後に直ちに電解中間体と求核性試薬との反応も行なわれる。
【0044】
電解生成混合物は、特にメタノール、酢酸および水からなる群から選択される求核性試薬と反応される。
【0045】
求核性試薬としては、特に処理工程(a’)で使用される溶剤が使用され、したがって他の求核性試薬の添加を省略することができる。
【0046】
第1の実施態様に記載の本発明による方法は、特に光学活性、即ちジアステレオマーのビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドの電気化学的酸化に適している。それというのも、電気化学的酸化によって、生じる生成物の立体化学的純度は、変化されないからである。本発明の範囲内で、"本質的に変化しない"とは、生成物の光学的純度がエダクトの光学的純度から最大で10%、特に有利に最大で5%、殊に最大で3%ずれていることであると理解される。
【0047】
処理工程(c’)において、電解生成混合物は、後処理される。
【0048】
この場合、処理工程(b)から生じる電解生成混合物は、特に次の処理工程によって後処理される:
(c’1)溶剤を除去し、水、ジクロロメタン;クロロホルム;エーテル、例えばジエチルエーテル、第三ブチルメチルエーテル;エステル、例えばエチルアセテート;炭化水素、例えばトルエン、キシレンまたはシクロヘキサンからなる群から選択された有機溶剤および酸を添加し;
(c’2)処理工程(c’1)から生じる混合物を、ジクロロメタン;クロロホルム;エーテル、例えばジエチルエーテル、第三ブチルメチルエーテル;エステル、例えばエチルアセテート;炭化水素、例えばトルエン、キシレンまたはシクロヘキサンからなる群から選択された有機溶剤で抽出し;
(c’3)生じる有機相を乾燥し;
(c’4)有機溶剤を除去する。
【0049】
この場合には、処理工程(c’1)で全ての適当な酸を使用することができる。適当な酸は、当業者に公知である。例は、塩酸、硫酸、燐酸または硝酸である。好ましいのは、10%の塩酸を使用することである。
【0050】
処理工程(c’3)での有機相の乾燥は、例えば炭酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウム上で行なわれる。しかし、選択的に全ての他の乾燥剤が使用されてもよい。
【0051】
処理工程(c’4)において、有機溶剤は、特に蒸留によって除去される。
【0052】
処理工程(d’)で、後処理された電解生成混合物は、加水分解される。
【0053】
この場合、後処理された電解生成混合物は、特に水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液とトリエタノールアミンとの混合物で加水分解される。この場合、好ましいのは、50%の水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液を使用することである。この場合、前記混合物中の50%の水酸化ナトリウム溶液の含量は、特に10〜50質量%、特に有利に20〜40質量%、殊に25〜35質量%である。前記混合物中のトリエタノールアミンの含量は、特に10〜50質量%、特に有利に20〜40質量%、殊に25〜35質量%である。加水分解の場合には、第1アミンが形成される。
【0054】
第2の実施態様において、本発明は、第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解するための"湿式化学的"方法に関する。
【0055】
更に、この第2の実施態様の本発明による方法は、次の処理工程を示す:
(a’’)溶剤中の少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する少なくとも1つの第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドを準備し、この場合この溶剤は、場合によっては求核性試薬を含み;
(b’’)第2アミンまたは第2アミドを2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)によって酸化し、この場合酸化生成混合物を得ることができ;
(c’’)この酸化生成混合物を求核性試薬と反応させる。
【0056】
処理工程(a’’)で溶剤中の少なくとも1つの第2アミンまたは第2アミドを準備し、この場合この溶剤は、場合によっては求核性試薬を含む。
【0057】
使用すべきエダクト−第2アミンまたは第2アミド−に関連して、第1の実施態様に記載の本発明による方法に関連しての上記実施が指摘される。しかし、好ましいのは、エダクトとして特に使用されるビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドの少なくとも1つのベンジル環がアルコキシ置換基を有することである。この場合、特に好ましくは、アルコキシ置換基がメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシおよび第三ブトキシからなる群から選択されている。
【0058】
処理工程(a’’)で使用される溶剤は、特にジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、第三ブチルメチルエーテル、アセトニトリル、トルエンおよびキシレンからなる群から選択される。
【0059】
更に、溶剤が求核性試薬、例えば水、例えば蒸留水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはブタノールとの混合物で使用されることは、好ましい。例えば、100:1〜1:1、特に有利に20:1〜5:1、殊に12:1〜8:1の比での1,2−ジクロロエタンと水との混合物は、適している。
【0060】
処理工程(b’’)は、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)による第2アミンまたは第2アミドの酸化を含み、この場合には、酸化生成混合物を得ることができる。処理工程(b’’)に設けられた、第2アミンまたは第2アミドの酸化は、特に酸化すべきエダクトへのDDQの添加によって行なわれ、この場合このエダクトは、前記溶剤中に、場合によっては求核性試薬の存在下で存在する。
【0061】
この場合、酸化は、有利に撹拌下に−10℃〜150℃、特に有利に20〜100℃、殊に60〜90℃の温度で実施される。前記の好ましい条件下での反応時間は、特に0.2〜24時間、特に有利に1〜12時間、殊に5〜10時間である。
【0062】
処理工程(c’’)で前記の酸化生成混合物は、求核性試薬と反応される。これは、場合によっては溶解された求核性試薬を酸化生成混合物に添加することによって行なわれる。
【0063】
適当な求核性試薬は、例えば水、アルコール、例えばメタノール、エタノールまたはプロパノールである。
【0064】
既述したように、処理工程(a’’)で酸化すべきアミンまたはアミドは、溶剤中で求核性試薬との混合物で準備されることができる。それによって、酸化されたアミンまたはアミドは、直接に処理工程(b’’)でその酸化後に存在する求核性試薬によって捕獲され、したがって求核性試薬のさらなる添加は、省略することができる。
【0065】
処理工程(c’’)から生じる生成物の後処理は、例えば飽和炭酸ナトリウム溶液および/または飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、生じる水相を有機溶剤で抽出し、合わせた有機相を、例えば硫酸ナトリウム上で乾燥し、例えば真空中で濃縮することによって行なうことができる。
【0066】
また、第2の実施態様に記載の本発明による方法は、エダクトとして使用される第2アミンまたは第2アミドのレジオ選択的な分解を導く。即ち、電子貧有のベンジル環に対する第2の実施態様の本発明による方法に記載のレジオ選択的な酸化が行なわれる。
【0067】
それによって、第2の実施態様に記載の本発明による方法は、同様に、特に光学活性、即ちジアステレオマーのビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドの電気化学的酸化に適している。それというのも、DDQによる酸化によって、生じる生成物の立体化学的純度は、本質的に変化されないからである。本発明の範囲内で、"本質的に変化しない"とは、生成物の光学的純度がエダクトの光学的純度から最大で10%、特に有利に最大で5%、殊に最大で2%ずれていることであると理解される。
【0068】
更に、本発明の対象は、少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドをレジオ選択的に酸化するための2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンの使用である。
【0069】
第1の実施態様および第2の実施態様に記載の本発明による方法でエダクトとして使用される第2ビスベンジルアミドは、例えば第2ビスベンジルアミンを無水酢酸と反応させることによって製造されることができる。
【0070】
この場合には、特に次の処理工程に言及することができる:
(1)無水酢酸を第2アミンに添加するかまたは第2アミンを無水酢酸に添加し、この場合には、反応混合物Iが生じ;
(2)生じる反応混合物を特に0.5〜24時間、特に有利に1〜15時間、殊に1〜2時間で攪拌し、この場合には、反応混合物IIを生じ;
(3)処理工程(2)から生じる反応混合物IIを加水分解し、生じる水溶液を有機溶剤で抽出し、この場合には、有機相が生じ;
(4)場合によっては、有機相中に存在する無水酢酸を除去する。
【0071】
この場合、第2アミンへの無水酢酸の添加は、特に0〜100℃、特に有利に10〜50℃、殊に20〜30℃の温度で行なうことができる。
【0072】
生じる反応混合物は、特に0〜150℃、特に有利に50〜120℃、殊に80〜100℃の温度で攪拌される。
【0073】
有機相中の存在する無水酢酸は、例えば塩基の添加によって除去することができ、この場合塩基は、特に水溶液中に存在する。塩基は、例えば炭酸ナトリウムであることができる。
【0074】
場合によっては、処理工程(3)または場合により処理工程(4)になお次の処理工程(5)および(6)を続けることができる:
(5)有機相に攪拌しながら、エーテルまたは場合によってはハロゲン化された炭化水素からなる群から選択された有機溶剤および水からなる混合物を、特に0.1〜24時間、特に有利に0.5〜4時間、殊に0.5〜2時間で添加し、および
(6)有機相と水相を分離し、場合によってはこの水相を有機溶剤と一緒に数回振出し、合わせた有機相を乾燥し、この有機溶剤を除去する。
【0075】
更に、本発明の対象は、少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドをレジオ選択的に酸化するための2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンの使用である。
【0076】
本発明を次の実施例につき詳説するが、しかし、本発明の制限を表わすものではない。
【0077】
実施例:
1.第2アミドを製出するための一般的方法
アミン23.5mmolに無水酢酸5.5mlを滴下法で室温で添加する。完全に添加してから20分後、温度を30分間で撹拌下に90℃に上昇させる。この溶液を冷たい水20ml中に入れ、エーテル20mlを添加し、生じる相を分離する。合わせた抽出液をNa2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮する。
【0078】
反応されていない無水酢酸を除去するために、Na2CO3の飽和水溶液10mlを精製されていない反応生成物に添加する。次に、エーテル15mlおよび水10mlを添加し、30分間攪拌し、ならびに生じる水相を数回エーテル(3〜15ml)で抽出する。合わせた抽出液をNa2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮する。
【0079】
ジアステレオマーの純度をガスクロマトグラフィーにより測定する。
【0080】
a)N−[1−(4−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
R,R−異性体:92.7%、R,S−異性体:7.3%。
【0081】
b)N−[1−(2−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
R,R−異性体:96.0%、R,S−異性体:4.0%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.6(3H,m);1.8(3H,m);2.4(3H,s);3.7(3H,s);4.2(1H,q);5.4(1H,q);6.4〜7.4(9H,芳香族)。
【0082】
c)N−[1−フェニル−エチル]−N−(1−o−トリル−エチル)−アセトアミド
R,R−異性体:87.0%、R,S−異性体:13.0%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.4〜1.6(6H,m);1.8(3H,m);2.4(3H,s);4.1(1H,q);4.2(1H,q);6.5〜7.5(9H,芳香族)。
【0083】
d)N−[1−(2,4−ジメトキシ−フェニル)−エチル]−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
R,R−異性体:96.6%、R,S−異性体:3.4%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.6(3H,m);1.8(3H,m);2.3(3H,s);3.6(3H,s);4.3(1H,q);5.3(1H,q);6.3〜7.4(8H,芳香族)。
【0084】
e)N−[1−(4−クロロ−フェニル)−エチル]−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
f値(シリカゲル):0.44(酢酸エステル:シクロヘキサン=1:1)。
【0085】
f)N−[1−フェニル−エチル]−N−(1−p−トリル−エチル)−アセトアミド
S,S−異性体:87.5%、S,R−異性体:12.5%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.6〜1.7(6H,d);1.9(3H,s);2.3(3H,s);4.8(1H,br);5.8(1H,br);6.8〜7.5(9H,芳香族)。
【0086】
g)N−[1−(4−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−ピリジン−3−イル−エチル)−アセトアミド
R,R−異性体:88.0%、R,S−異性体:12.0%。
【0087】
2.電気化学的酸化
第1項で製造されたアミド8.4mmolをメタノール47g中に溶解し、この溶液に濃硫酸0.5g(96%)を添加し、2個の黒鉛電極(20×70mm、浸漬深さ50mm、型:MKUS F04、製造業者SGL Carbon, Meitingen, Deutschland)が10mmの間隔で設けられている、分割されていないビーカー型セル中に移す。この混合物を撹拌下に40℃に加熱し、34mA/cm2の電流密度で、アミドの大部分が反応するまで電気分解する(1.0〜4.5時間、約2F/molアミド〜約16F/molアミドに相当、理論的電流需要の約100%〜800%に相当)。メタノールを減圧下に除去し、水25ml、ジクロロメタン50mlおよび10%の塩酸10mlを添加する。水相を数回ジクロロメタンで抽出する(3・20ml)。合わせた抽出液をNa2SO4上で乾燥し、溶剤を除去する。アミドの粗製収率は、80%である。
【0088】
アミド混合物6.7mmolにトリエタノールアミン12mmolおよび50%のNaOH22.5mmolを添加し、120℃で3時間攪拌する。この混合物にエーテル20mlおよび水15mlを添加する。水相をエーテルで抽出する(3〜15ml)。合わせた抽出液をNa2SO4上で乾燥し、溶剤を減圧下で除去し、残留物をGCおよび1H−NMRにより試験する。
【0089】
a)N−[1−(4−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド(dr=93.7)
N−1−フェニルエチルアセトアミド77.5%、
p−メトキシアセトフェノン10.9%、
1−メトキシ−4−(1−メトキシエチル)−ベンゼン、
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.4(3H,d);1.5(3H,d);2.0(3H,s);2.6(3H,s);3.8(3H,s);3.9(3H,s);4.2(1H,q);5.2(1H,q);5.7(1H,br);6.9〜8.0(13H,芳香族)。
光学的純度:
R−1−フェニル−エチルアミン92%、
S−1−フェニル−エチルアミン8%。
【0090】
b)N−[1−(2−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド(dr=87:13)
N−1−フェニルエチルアセトアミド100%
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.35(3H,m);2.0(3H,s);5.1(1H,q);5.8(1H,br);7.2〜7.3(5H,芳香族)。
【0091】
c)N−[1−フェニル−エチル]−N−(1−o−トリル−エチル)−アセトアミド(dr=87:13)
1−フェニル−エチルアミン65%、1−p−トリル−エチルアミン35%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.3(6H,m);1.6(4H,br);2.3(3H,s);4.2(1H,q);4.4(1H,q);7.1〜7.5(9H,芳香族)。
光学的純度:
R−1−フェニル−エチルアミン89.3%、
S−1−フェニル−エチルアミン10.7%。
【0092】
d)N−[1−(2,4−ジメトキシ−フェニル)−エチル]−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
1−フェニル−エチルアミン100%。
【0093】
e)N−[1−(4−クロロ−フェニル)−エチル]−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド
1−フェニル−エチルアミン74.8%、
1−(4−クロロフェニル)−エチルアミン25.2%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.4〜1.5(6H,m);1.6(4H,br);4.1(2H,m);7.2〜7.4(9H,芳香族)。
【0094】
f)N−[1−フェニル−エチル]−N−(1−p−トリル−エチル)−アセトアミド(dr=87.5:12.5)
1−フェニル−エチルアミン90%、
1−p−トリル−エチルアミン10%。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):
δ=1.5(3H,d);2.0(3H,s);5.2(1H,q);5.7(1H,br);7.3〜7.4(5H,芳香族)。
光学的純度:
R−1−フェニル−エチルアミン89.3%、
S−1−フェニル−エチルアミン10.7%。
【0095】
3.酸化剤DDQ
N−[1−(4−メトキシ−フェニル)−エチル]−N−(1−フェニル−エチル)−アセトアミド1.8g(6mmol)(dr=82:18)を1,2−ジクロロエタン:水/10:1(v/v)20ml中に溶解する。2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン2.1g(9mmol)を添加し、生じる混合物を還流下に7時間加熱する。この混合物を飽和Na2CO3溶液20mlおよび飽和NaCl溶液15mlで洗浄する。合わせた水相を数回1,2−ジクロロエタン(3×15ml)で抽出する。合わせた有機相をNa2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮する。
【0096】
残留物は、N−1−フェニルエチルアセトアミド(37GC面積%)と4−メトキシアセトフェノン(63GC面積%)との混合物からなる。N−1−フェニルエチルアセトアミドの光学的純度は、次の通りである:
R−N−1−フェニルエチルアセトアミド:81.8%、S−N−1−フェニルエチルアセトアミド:18.2%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法において、次の処理工程:
(a’)溶剤中の少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する少なくとも1つの第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドを準備し;
(b’)第2アミンまたは第2アミドを導電性塩の存在下で電気化学的に酸化し、電解中間体を求核性試薬と反応させ、電解生成混合物を生じさせ;
(c’)この電解生成混合物を後処理し;
(d’)後処理された電解生成混合物を加水分解することを特徴とする、第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法。
【請求項2】
第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法において、次の処理工程:(a’’)溶剤中の少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する少なくとも1つの第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドを準備し、この場合この溶剤は、場合によっては求核性試薬を含み;
(b’’)第2アミンまたは第2アミドを2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)によって酸化し、この場合酸化生成混合物を得ることができ;
(c’’)この酸化生成混合物を求核性試薬と反応させることを特徴とする、第2アミンまたは第2アミドをレジオ選択的に分解する方法。
【請求項3】
ビスベンジルアミンまたはビスベンジルアミドの少なくとも1つのベンジル環は、電子押込み置換基を有し、この置換基が+I効果および/または+M効果をベンジル環上で発揮する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
処理工程(a)でメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびブタノールからなる群から選択される求核性溶剤を使用する、請求項1または3記載の方法。
【請求項5】
電気化学的酸化を次の条件:
−20〜60℃の温度;
1〜1000mA/cm2の電流密度;
0.0001〜5mol/lの導電性塩の濃度の少なくとも1つで実施する、請求項1、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
電解溶液を処理工程(c’)で次のように:
(c’1)溶剤を除去し、水、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、エステルおよび炭化水素からなる群から選択された有機溶剤、および酸を添加し;
(c’2)処理工程(c’1)から生じる混合物を、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、エステルおよび炭化水素からなる群から選択された有機溶剤で抽出し;
(c’3)生じる有機相を乾燥し;
(c’4)有機溶剤を除去することにより後処理する、請求項1または3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
加水分解を処理工程(d’)で水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液とトリエタノールアミンとの混合物で行なう、請求項1または3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ジアステレオマーの第2アミンまたは第2アミドを使用し、この場合酸化によって、生じる生成物の立体化学的純度は、本質的に変化しない、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1個のベンジル系水素原子を有する第2ビスベンジルアミンまたは第2ビスベンジルアミドをレジオ選択的に酸化するための2,3−ジクロロ−5,6−ベンゾキノンの使用。

【公表番号】特表2008−530368(P2008−530368A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555593(P2007−555593)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050915
【国際公開番号】WO2006/087321
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】