義歯床用材料
【課題】 適合性に優れた義歯を、常温〜55℃の温度で、容易かつ安価に製作することのできる義歯床用材料を提供する。
【解決手段】 メチルメタクリレート、分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤、必要に応じ、分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレートの共重合体、および/または、架橋剤として水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする。
【解決手段】 メチルメタクリレート、分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤、必要に応じ、分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレートの共重合体、および/または、架橋剤として水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、義歯床用材料(床用レジン)に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、適合性の良好な義歯床を製作するのに有用な義歯床用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノマー中に粉末状ポリマーを含む重合性床用レジンを成形型に充填し、床用レジンを重合させて義歯を製作する場合、床用レジンの重合収縮は避けられず、義歯が全体的に小さくなり、そのため義歯と患者の粘膜面との適合性が不良となり易い。
そこで、例えば、ビスパーオキシカーボネート等の低温分解重合開始剤をポリマーと混ぜたものを、モノマーと混合し、モノマーを重合させることで義歯床の適合性を向上させる提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−191844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、重合温度を60℃以上とした実施例が開示されているに過ぎず、また、混合するポリマー、モノマーが具体的に特定されたものとはなっていない。
この発明の発明者等は、鋭意研究の結果、特定の分子量で特定の粒子径の粉末状ポリマーと、これを膨潤させるモノマーとを組み合わせてスラリー状ないしペースト状とし、成形型内で重合させたものは、成形型との適合性(従って、患者の粘膜面との適合性)が優れていることを見出し、この発明を完成させたものであり、スラリー状ないしペースト状であることから流し込み成形が可能で、常温〜55℃の温度で重合可能であって、適合性の良好な義歯を製作するのに有用な義歯床用材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、この発明の義歯床用材料は、(1)レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料であって、前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする。
これによれば、粉末状ポリマーがレジンマトリックスモノマーによって膨潤したスラリー状ないしペースト状の状態において、成形型に流し込んで常温〜55℃で重合させることができ、操作性が良好で、安全であり、適合性に優れた義歯床を得ることができる。なお、常温重合開始剤としては、常温〜55℃でモノマーの重合を開始させる後述するものであることが好ましい。
【0005】
(2)前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることが好ましい。
これによれば、気泡等の巻き込みを起こすことなく成形型への流し込みが容易にでき、常温〜55℃で重合させることで気泡等の欠損がなく、しかも、適合性に優れた義歯床を得ることができる。
(3)前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることが好ましい。
これによれば、適合性に加え、耐衝撃性の良好な義歯床を得ることができる。
(4)前記メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体は、メチルメタクリレートが95mol%、エチルメタクリレートが5mol%の共重合体であることが好ましい。
(5)さらに、架橋剤を含むことが好ましい。
架橋剤は、単官能(メタ)アクリレートと反応し、得られた義歯床は3次元網目構造を有することになり、強度、硬度において優れることになる。
(6)前記(5)において、前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。
これによれば、さらに、適合性の良好な義歯床を得ることができる。水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートのうち、(7)前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることが適合性と耐衝撃性の観点から望ましい。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、常温〜55℃で重合させることで、適合性に優れた義歯床を得ることができ、70〜100℃といった加熱重合レジンのような加熱を必要とせず、製作時の操作性が良好であり、製作時に火傷等の恐れが少なく安全であり、加熱に要するエネルギーも低く、経済的でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、発明を実施するための最良の形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
レジンマトリックスモノマーとしての単官能(メタ)アクリレートを具体的に例示すると、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、イソプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、およびこれらのアクリレートを挙げることができる。
これらは、単独であっても、複数を併用してもよい。
【0008】
この発明で使用するポリメチルメタクリレート(PMMA)は、分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmである。
PMMAは、懸濁重合(パール重合ともいう。)によって得られたものが通常使用される。
分子量が60,000未満では、重合硬化させた義歯床の耐衝撃性等の物性が低下して好ましくなく、100,000を超えると、ポリマーの分子量が大きすぎてモノマーによる湿潤性が低下したり、均一に膨潤しないためにモノマーリッチな部位ができるため、残留応力が残りやすく経時での変形が起き易すく、またモノマーリッチな部位ではモノマーの重合反応が集中するため反応熱が多く温度上昇による微細な気泡発生につながり好ましくない。
【0009】
平均粒径が30μm未満では粉末状ポリマーが凝集し易く、かつ、モノマーと混合したときに膨潤が早く粘度上昇を起こしやすいため成形型の細部まで流れにくくなり、義歯床としたときの適合性が不良となり好ましくない。平均粒径が50μmを超えると、レジンマトリックスモノマーによる粉末状ポリマーの膨潤に長時間を要するとともに、義歯床としたときの適合性が不良となる。さらに、義歯床中に粒子の形状がパール状となって顕れ表面の光沢を低下させ、審美性に劣ることからも好ましくない。平均粒径が30〜50μmの粉末状ポリマーで適合性の良好な義歯床が得られるのは、義歯床用材料が成形型の細部にまで流れ込むこと、また、その重合硬化時のモノマーの重合収縮によっても義歯床表面に凹凸が表れにくいことから、義歯床の辺縁において、粘膜面との間に空気の導入の可能性が低く、義歯と粘膜面との分離が生じにくくなることによると考えられるがはっきりしていない。
【0010】
この義歯床用材料によって、適合性に優れた義歯が得られるのは、ポリマー粒子径と分子量の影響が大きく関与しており、物性的にも分子量の影響が大きく関与しているものと考えられる。また、双方のバランスを取ることで適合性に優れ、かつ一般的物性を有することができるものと考えられる。
【0011】
前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記PMMAであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であると、モノマーと混合した際のスラリー状またはペースト状のものは流し込み成形に適した粘度であり、かつ流し込んだ後の粘性上昇も適正であって、義歯床と粘膜面との適合性が良好となるととも、耐衝撃性においても良好となる。
【0012】
該共重合体が10重量%未満では粉末状ポリマーのモノマーによる膨潤に長時間かかり、流し込み後の粘性上昇が低く好ましくなく、20重量%を超えると流し込み後の粘度上昇が大きく、型に流し込む操作の余裕時間が短くなり好ましくない。
該共重合体としては、MMA95mol%、EMA5mol%の共重合体であることが好ましい。MMAが95mol%未満の共重合体では、粉液の混合時の粘度が急激に上昇してしまい、成形型の細部まで流れなかったり、操作時間が短すぎて好ましくなく、95mol%を超える共重合体では、粉液の混合時の粘度が低すぎて重合時に均一になりにくく好ましくない。
【0013】
前記共重合体の分子量が分子量が60,000未満では、重合硬化させた義歯床の耐衝撃性等の物性が低下しすぎて好ましくなく、100,000を超えると、ポリマーの分子量が大きすぎてモノマーによる湿潤性が低下したり、均一に膨潤しないためにモノマーリッチな部位ができるため、残留応力が残りやすく経時での変形が起き易すく、またモノマーリッチな部位ではモノマーの重合反応が集中するため反応熱が多く、温度上昇による微細な気泡発生につながり好ましくない。
平均粒径が30μm未満では粉末状ポリマーが凝集し易く、かつ、モノマーと混合したときに膨潤が早く、粘度上昇を起こしやすいため成形型の細部まで流れにくくなり、義歯床としたときの適合性が不良となり好ましくない。平均粒径が50μmを超えると、レジンマトリックスモノマーによる粉末状ポリマーの膨潤に長時間を要するとともに、義歯床としたときの粘膜面側の平滑性が失われ好ましくない。
【0014】
常温〜55℃でモノマーの重合を開始させる常温重合開始剤としては、有機過酸化物と芳香族第3級アミンとの組合せが使用できる。
有機過酸化物は、通常、粉末状ポリマー内に配合され、芳香族第3級アミンはモノマー中に配合され、モノマーと粉末状ポリマーが混和された状態において、モノマーを重合させる機能が発揮される。
【0015】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ{(o−ベンゾイル)ベンソイルパーオキシ}ヘキサンを挙げることができる。
芳香族第3級アミンとしては、N,N―ジメチル−p−トルイジン、N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N―ジメチルアニリン、N−メチル−N―β―ヒドロキシアニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシエチル)―アニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシエチル)―p―トルイジン、N,N―ジ(β―ヒドロキシプロピル)―アニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシプロピル)―p―トルイジン、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸イソアミルを挙げることができる。
【0016】
常温重合開始剤としては、前記した化合物に加えて以下のような化合物も使用することができる。例えば、ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物、有機ハロゲン化合物の組合せを挙げることができる。これ等は、レジンマトリックスモノマーまたは粉末状ポリマーの一方にピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物とを、他方に有機ハロゲン化合物を配合するようにして使用する。
ピリミジントリオン誘導体としては、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、1−ベンジル−5−フェニルピリミジントリオン、5−ブチルピリミジントリオン、5−フェニルピリミジントリオン、1,3−ジメチルピリミジントリオン、5−エチルピリミジントリオンを挙げることができる。
【0017】
有機金属化合物としては、アセチルアセトン銅、4−シクロヘキシル酪酸銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトンリチウム、酢酸リチウム、アセチルアセトン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトンニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンクロム、アセチルアセトン鉄、ナフテン酸ナトリウム、レアアースオクトエートを挙げることができる。
有機ハロゲン化合物としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライドを挙げることができる。
【0018】
常温重合開始剤は、レジンマトリックスモノマーの種類、粉末状ポリマーに応じ適宜決定すればよい。MMAと前記PMMAとの組合せにおいて、常温重合開始剤は、MMAとPMMAの合計100重量部に対し0.1〜0.5重量部とすることで十分な重合を得られる。
【0019】
架橋剤としては、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビスフェノールA型エポキシジアクリレート、ビスフェノールA型エポキシジメタクリレート、フェノールノA(PO)(EO)変性ジアクリレート、フェノールノA(PO)(EO)変性ジメタクリレート、(EO)変性エチレングリコールジアクリレート、(EO)変性エチレングリコールジメタリレート、1,4−ブタジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、グリセロールアクリレート/メタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート及びこれらのアクリレート、また分子中にウレタン結合を有するメタクリレート及びアクリレートを挙げることができる。上記架橋剤において、(EO)はエチレンオキサイド、(PO)はプロピレンオキサイドを意味する。
【0020】
これら架橋剤は、単独、または、複数を併用できる。
前記架橋剤は、前記レジンマトリックスモノマーに配合することが好ましい。
これらの架橋剤のうち、水酸基を有する架橋剤が、義歯床としての適合性を更に良好とすることから好ましい。水酸基を有する架橋剤が、義歯床としての適合性を更に良好とする根拠は、石膏型表面との接触において水酸基が表面張力を低下させるものと考えられるが、はっきりしていない。
水酸基を有する架橋剤のうち、とりわけ、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパンが好ましい。2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンは、レジンマトリックスモノマー100重量部に対し5〜10重量部であることが、義歯床の適合性と耐衝撃性の観点から好ましい。5重量部未満では、親水性付与が不十分であり適合性が不良となり、10重量部を超えるモノマーと比較して重合しにくいので部分的未重合が発生しやすくなり物性低下が見られ好ましくない。
【0021】
義歯床用材料には、必要に応じ重合禁止剤、酸化防止剤、変色防止剤、可塑剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、義歯血管繊維等を添加させることができる。
このうち、顔料、染料、疑似血管繊維等は、粉末状ポリマーに添加することができる。
【0022】
この発明の義歯床用材料は、スラリー状ないしペースト状であることから、義歯を製作する方法には流し込み成形が適している。
以下、この発明の義歯床用材料を用いた流し込み成形方法による義歯の製作の一例を説明する。本願発明は、この成形方法によることが好ましい。
【0023】
この流し込み成形方法は、義歯製作において、常温重合によるレジン義歯床の重合収縮補償を簡便に行うことができるものである。
すなわち、(i)人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、この発明の義歯床用材料(床用レジン)を前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填し、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、前記通路シール材が前記通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動するようにしたことを特徴とする流し込み成形方法、または、(ii)人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記各通路の所定位置にまでそれぞれ充填し、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに各通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、前記通路シール材が前記各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動するようにしたことを特徴とする流し込み成形方法である。
【0024】
(iii)前記通路シール材が、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることが好ましい。
そして、上記(iii)において、(iv)前記通路シール材が、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物であることが好ましい。
(v)前記成形型が石膏埋没材で形成されていることが好ましい。
(vi)前記成形型は、前記床用空洞面から成形型の外面までの厚さが、前記床用空洞と前記通路の連通部から遠方部が肉薄とされたものであり、該成形型を圧力容器内に供給された温湯に浸漬し、前記圧力容器内を加圧して、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることが好ましい。
【0025】
この流し込み成形方法は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏するものである。
すなわち、
(i)によると、人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、前記床用レジンを、前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填することは、特別な装置や技術を必要とせず容易である。また、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して、前記通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに、通路を密封させることも特別な装置や技術を必要とせず容易であり、そして、前記床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動し重合収縮の補償が行われる。その際、易変形性の通路シール材は、重合収縮補償に追従して、通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。
【0026】
(i)によって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯を得ることのできる根拠ははっきりしていないが、床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンに先だって重合させるだけで、前記したように重合に伴う重合収縮補償が行われるが、その際、通路内の床用レジンが易変形性の通路シール材によって外部と隔離された状態で重合収縮補償を担うことと、重合収縮補償に追従して、易変形性の通路シール材が床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することが主な要因と解される。
従って、(i)によれば、大型で、複雑な構造で、高価な冷却装置、加圧装置等を備えた装置を必要とせず、そのため、広いスペースを必要とせず、操作性が良好であって、生産性が高く、冷却のためのエネルギーコストを必要とせず、また、義歯製作後に廃棄する床用レジンも殆どなく、易変形性通路シール材を廃棄するとしても僅かで済むことから、原料の無駄を少なくすることができ、廃棄物の処理コストも低く、結局、適合性が優れ、欠損等の少ない良好な義歯を容易かつ安価に製造することができる。
【0027】
(ii)によると、人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを、前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記レジン注入通路およびベント通路の所定位置にまで充填することは、特別な装置や技術を必要とせず容易であり、また、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して、前記各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに、各通路を密封させることも特別な装置や技術を必要とせず容易である。そして、前記床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、各通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動し重合収縮の補償が行われる。その際、易変形性の通路シール材は、重合収縮補償に追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したままそれぞれ移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。
【0028】
(iii)によると、前記通路シール材は、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることから、床用レジンが重合しても、通路シール材には影響がなく、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られることになる。
【0029】
(iv)によると、重合前の前記床用レジンと前記通路シール材は、類似した組成であることから、通路内の床用レジンの端面との密接性と、通路の密封性が良好であり、また、床用レジンと異なって重合しないことから、床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動して重合収縮補償が行なわれる際、通路シール材は、重合収縮補償に追従して、確実に通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られることになる。ここで使用される床用レジンと通路シール材を構成する素材は、歯科医院や歯科技工所において通常備えられているものであり、別途新たに導入する必要がない。
【0030】
(v)によると、成形型が安価であり、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯を安価に製作することができる。
【0031】
(vi)によると、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることが容易であり、重合時間の短縮が可能であり、また、圧力容器内の加圧によって、床用レジンの重合時の気泡の発生を確実に抑制できる。
【0032】
従って、本願発明の義歯床用材料とこの成形方法を併用することにより、より適合性の良好な義歯を簡便に、経済的に得ることができることになる。
【0033】
さらに詳しく、この成形方法を説明する。
ここで使用される通路シール材としては、易変形性、すなわち、床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動できるものであればよいが、床用レジンの重合条件下で重合等しないものであることが好ましく、更には、成形型に充填された床用レジンの組成と類似し、粘度を近似でき、断熱性があり、温湯に溶解しないことが後述するように好ましいが、これに限定されるものではない。
【0034】
そのような条件を満たすものとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物、例えば、メチルメタクリレート(MMA)等の液体状のモノマーと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の粉末状ポリマーとを主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物を挙げることができる。
前記した以外のものとしては、例えば、液体状モノマーがエチレングリコールジメタクリレート、粉末状ポリマーがポリメタクリル酸エチル(PEMA)を主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物を挙げることができる。
【0035】
ここで使用できる重合禁止剤としては、6−tert−2,4−キシレノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール等を挙げることができる。これら重合禁止剤は、単独でも、また、複数を併用してもよい。
【0036】
前記した液体状のモノマーと粉末状ポリマーとを主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物における重合禁止剤と主成分とは、重合禁止剤が0.1〜10重量%、主成分が90〜99.9重量%であることが好ましい。重合禁止剤が0.1重量%未満では、常温重合型の床用レジンと接触する部分において、床用レジン中の重合開始剤の影響が発生し始めることから好ましくなく、10重量%を超えても重合不能性がそれ以上向上しないことから好ましくない。
通路シール材は、上記したものに限られず、例えば、寒天、ゼラチン、ペクチン、ワックス、シリコンゴム、ラテックス等が例示できる。
【0037】
以下、図面に基づき更に詳細に説明する。
図1は、義歯の製作に使用する成形型の一実施の形態を示す説明図、図2は、図1に示す成形型の斜視図である。
この成形型1は、埋没材を石膏とする上顎の全部床義歯製作用であって、流し込み用に調製された前記床用レジンを、レジン注入通路2を介して成形型1に流し込み、重合させるのに使用するものである。成形型1は、人工歯3の歯冠部が石膏内に埋没される一方、基底部が床用空洞4に露出しており、床用空洞4にはレジン注入通路2とベント通路5が連通している。より具体的には、レジン注入通路2は、床用空洞4と右側最後臼歯より遠心側位置で連通して連通部4aを形成し、ベント通路5は、床用空洞4と左側最後臼歯より遠心側位置で連通して連通部4bを形成している。そして、レジン注入通路2とベント通路5は、いずれも成形型1の頂面において開口している。
【0038】
成形型1の底面側には前歯部の人工歯3の歯冠部が埋没されている。成形型1は、底面で縦置きできるようになっている。レジン注入通路2とベント通路5は、成形型1の前面からほぼ等距離に、裏面からもほぼ等距離に、そして、レジン注入通路2と右側面、ベント通路5と左側面もほぼ等距離に設けられている。
成形型1は、分割面によって上型1aと下型1bに分割できるようになっている。上型1aの空洞側は義歯床の口腔側に対応する形状となっており、空洞側に人工歯3の基底部が露出している。下型1bの空洞側は粘膜面に対応する形状となっている。床用空洞4は上型1aと下型1bとを合体させることで形成されることになる。レジン注入通路2とベント通路5は、上型1aと下型1bの分割面に設けられたそれぞれ一対の対向した凹溝によって形成されることになる。
【0039】
床用空洞4と成形型1の外面との厚さは、床用空洞4とレジン注入通路2、ベント通路5の連通部4a、4bから遠方部で肉薄、すなわち、床用空洞4の前歯部と成形型の底面との厚さが最も肉薄となっている。この構造の成形型1は、前記した肉薄の部分を設けることにより、後述するように床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることができ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、通路シール材が各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動することになる。
【0040】
このような成形型1は、以下のようにして製作すればよい。
通法に従って作業模型8上に人工歯3が排列された蝋義歯9を、図3に示すようにゴム製のフラスコ下部10a内に設置し、石膏で一次埋没する。ここにおいて、蝋義歯9は、その前歯部とフラスコ下部10aの内側面との間隔tが最も短くなるように設置する。そして、石膏表面に分離剤を塗布した後、ワックス製のスプルー11a、11bを取り付ける(図4参照)。スプルー11aはレジン注入通路2を形成するためのものであり、スプルー11bはベント通路5を形成するためのものである。スプルーの径や長さは、床用レジンの重合収縮率、通路シール材に必要な充填量等を踏まえて適宜決定すればよい。
【0041】
次いで、蝋義歯9に排列した人工歯3、スプルー11a、11bが隠れる程度に筆、スパチュラ等を用いて石膏を盛りつけて2次埋没する。
そして、図5に示すように、フラスコ下部10aにゴム製のフラスコ上部10bを嵌合させ、フラスコ内を石膏で3次埋没する。なお、必要に応じ、3次埋没後に蝋義歯9の前歯部と成形型1の底面とが最も肉薄となるように成形型を後から削り取るようにしてもよい。
石膏が硬化した後、フラスコ上部10b、フラスコ下部10aを取り除き、流蝋することで、図1に示す成形型1が得られる。
【0042】
次に、図1に示す成形型1を用いた上顎全部床義歯の具体的製作方法を説明する。
上型1aは人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型1bは空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型1aと下型1bを合体させ、輪ゴム13で固定する。
【0043】
床用レジン14を、レジン注入通路2を介して成形型1内に流し込み、成形型1の床用空洞4に充填するとともに、レジン注入通路2とベント通路5の所定位置にまで充填する。床用レジン14の成形型1への流し込みは、ビーカー等を使用して行えばよいが、シリンジを用いて行ってもよい。レジン注入通路2とベント通路5の充填位置は、成形型1内に充填された床用レジン14の重合収縮率等を見越して安全な位置であるとともに、各通路内に充填された床用レジン14の端面と密接し通路を密封する通路シール材が、前述したようにその機能を果たすことのできる量を充填できる位置であればよい。
なお、ここで使用する床用レジンの重合収縮は、8〜9%の体積収縮率である。
【0044】
床用レジンが充填されたレジン注入通路2、ベント通路5の残りの空間には、前記した通路シール材がその機能を果たすことができる充填量を充填するだけの容積が確保されており、各通路にスラリー状の通路シール材を充填して、通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封した状態とする。
通路シール材のレジン注入通路2、ベント通路5への充填は、ビーカーでもシリンジでもよいが、レジン注入通路2、ベント通路5を満たしたとしても大した量ではないことからシリンジによることが好ましい。
【0045】
通路シール材としては、前記したスラリー状ないしペースト状のものは、成形型1に充填された床用レジンの組成と類似しており、粘度等を近似でき、断熱性があり、温湯に溶解しないことが好ましいが、これに限定されるものではない。
図6は、床用レジン14が、成形型1の床用空洞4に充填されるとともに、レジン注入通路2とベント通路5の所定位置にまで充填され、次いで、通路シール材15によってレジン注入通路2とベント通路5が密封された状態を示す。
【0046】
図6に示す状態において、床用レジンの重合は常温で進行するが、重合用の圧力容器内において、成形型1を温湯中に浸漬して重合を行うことが、義歯の製作時間を短縮したり、重合に伴う床用レジン中の気泡の発生を抑制したりすることができることから好ましい。
【0047】
図7は、図6に示す成形型1を圧力容器20内において、温湯中に浸漬した状態を示す。
重合用の圧力容器20は、既製のものが使用でき、容器本体21と蓋22を有し、蓋22には、加圧空気導入管23、圧力計24、安全弁25が設けられている。
【0048】
圧力容器内の温湯の水面位置は、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できるように設定すればよいが、前記した成形型の構造等から、成形型を温湯中に全没しても(2点鎖線で示す水面位置参照)、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できる。
【0049】
もちろん、成形型内の前歯部近傍までが温湯に浸漬される程度に成形型が浸漬されるだけでも(実線で示す水面位置参照)、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できる。
【0050】
温湯の水温としては、前記した床用レジンでは、40〜55℃が好ましい。40℃未満では、重合の完了までにかなりの時間を要することから、実用的には、40℃以上であり、55℃を超えると、重合の進行が速く、内部歪みや、気泡が発生しやすい。
容器内への加圧は、0.1〜0.3MPaとすることが好ましい。圧力が0.1MPa未満では、上記水温での重合時に気泡が発生しやすくなり、容器の安全性から0.3MPaを超えると好ましくない。
重合時間は、容器中に収納する成形型の数、成形型内に充填する床用レジンの体積、重合開始剤等により異なるが、通常は20〜40分程度である。
【0051】
圧力容器内で成形型の床用空洞内に充填された床用レジンをレジン注入通路とベント通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで(通常、床用レジンの重合は前歯部の床から始まって口腔奥側の床へと進むことになる。)、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、各通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて各通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動し重合収縮の補償が行われる。その際、通路シール材は、易変形性であり、重合収縮補償に追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま移動することになる。これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。圧力容器内に収納される成形型は、単数の場合もあるが、複数収納し同時に重合させることが可能であり、その場合、成形型の大きさによっては、水中に全没されるものもあるが、その場合でも、前記したように良好な義歯が製作されることから、水面位置等の調整もラフでよく、熟練を要せず容易である。
圧力容器に、複数の成形型を収納して床用レジンの重合を行わせれば、義歯の生産効率を向上させることができる。
【0052】
なお、床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンをレジン注入通路とベント通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるのに、成形型の床用空洞と外面との厚さを調整するだけでなく、又は、厚さを調整しないでも、成形型の外面に断熱材を配設するようにしてもよい。
床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるのに、成形型を温湯中に浸漬して行う方法に限られず、例えば、成形型を熱盤上に載置して行ってもよく、成形型の前歯部に熱風を吹き付けたり、赤外線を照射したりしてもよい。
【0053】
重合が完了した後、成形型1を圧力容器20から取り出し、通法に従い成形型1を徐冷する。次いで、輪ゴム13を取り外し、石膏鉗子等の道具を用いて、成形型1から義歯を取り出した後、レジン注入通路2、ベント通路5に残った床用レジンの硬化物を取り除き、仕上げ研磨する。図8は、仕上げ研磨された義歯26の斜視図である。図8においては、参考のため、重合収縮補償した後でもレジン注入通路、ベント通路に残った硬化物を2点鎖線で示している。
【0054】
上記においては、フラスコとしてゴム製のものを使用したことから、フラスコを取り除いた成形型を使用したが、これに限られず、例えば、金属製のフラスコは熱伝導性が良好なことから、フラスコを取り除かないでそのまま使用してもよい。
【0055】
上記では、成形型として石膏埋没材を使用したものとして説明したが、これに限られず、成形型として、寒天、シリコンゴム、アルジネート等の埋没材を使用してもよい。成形型に、寒天、シリコンゴム等を使用する場合は、成形型は通常使用される金属製のフラスコ中において重合等させることになる。寒天、シリコンゴム等の埋没材を用いる義歯の製作は、前記した石膏埋没材を用いた義歯の製作に準じて行えばよく、詳細な説明は省略する。
【0056】
また、例えば、左側下顎部分床義歯のような場合には、ベント通路を必要とせず、レジン注入通路だけの成形型を用いて義歯を製作することもできる。これは、例えば、図9に示される成形型31となる。この成形型31では、ベント通路を形成しなくても、レジン注入通路32を介して床用レジンの注入をゆっくり行うことで、床用空洞33に空気溜まり等を生じさせることなく床用レジンを床用空洞33に充填すること等ができることから、図1に示す全部床義歯製作用の成形型1のようなベント通路を省略することができるものである。なお、レジン注入通路32の径を図1のそれより稍太くして、床用レジンの注入時に空気溜まり等を生じないようにすることが好ましい。
その他は、図1に示した成形型1と同様なことから、成形型31の構造の詳細、成形型31を用いた義歯の製作方法の詳細な説明は省略する。
【0057】
なお、部分床義歯の場合は、蝋義歯から部分床義歯に必要な部分だけを切り出し、床用空洞にレジン注入通路を連通させた成形型を製作し、該成形型を利用して義歯を製作するようにしてもよい。このような場合は、部分床義歯用の成形型は、温湯に全没した状態で重合させることになる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例を比較例とともに示しさらに詳しく説明する。
(実施例1)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重量部、粉末状ポリマーとして分子量100,000で平均粒径が40μmのPMMAを100重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したものを使用した。
義歯床用材料は、スラリー状であり、粉液比は10:7である
石膏埋没材を使用した上顎の全部床義歯製作用の成形型(図1参照)を用いて、前記した製作方法に従って全部床義歯を製作した。
【0059】
以下、概要を示す。
通法に従って製作された上顎の全部床義歯用の蝋義歯をゴムフラスコ内で石膏埋没材で埋没して成形型を作成した。石膏埋没は1次埋没後、石膏表面に分離剤を塗布し、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーを蝋義歯に接続し、3次埋没までを行った。レジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
【0060】
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0061】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
【0062】
次いで、別途用意した通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材は、エチレングリコールジメタクリレート75重量部、PEMA25重量部、重合禁止剤である6−tert−2,4−キシレノール1重量部からなるスラリー状のものを使用した。通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認したが、別途、ガラス板等に少量の床用レジンを載せ、床用レジンの変化を確認してもよい。
【0063】
そして、成形型を圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた(図7参照)。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
冷却後、水中から取り出した成形型を横方向に切断した後、義歯の適合性を以下の試験方法により評価した。
【0064】
<適合性試験方法>
成形型の上下型の石膏埋没材を除去して、作業模型上に義歯が設置された状態にし、作業模型から義歯を分離し、義歯のバリ取りをした後、義歯を作業模型に戻した際の作業模型と義歯床との間に生じたa〜eの5箇所の間隙、すなわち、浮き上がり量(図10参照)をデジタルマイクロスコープで測定する。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0065】
また、ここで使用した床用レジンの耐衝撃性を以下の試験方法により評価した。
<耐衝撃性試験方法>
床用レジンを65×40×5mmの成形型に流し込み、次いで、成形型を圧力容器内の温湯(55℃)に全没し、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却して得られた重合硬化物から15×10×2.5mmの試験片を切り出し、試験片をダインシュタット衝撃破壊試験機(No.500:東洋精機社製)にてエネルギー0.49Jで衝撃破壊試験を行った。測定環境は,恒温恒湿室で温度23℃,湿度50%である。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0066】
(実施例2)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重量部、粉末状ポリマーとして分子量が100,000で平均粒径が40μmのPMMAを90重量部、分子量が100,000で平均粒径が40μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体を10重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したものを使用した。
この共重合体はMMA95mol%、EMA5mol%のものである。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は、10:7である。
【0067】
この床用レジンを用いて、実施例1と同様にして義歯を製作した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0068】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
次いで、実施例1と同じ通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認した。
【0069】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0070】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0071】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0072】
(実施例3)
粉末状ポリマーとして、実施例2で使用したと同じ粉末状ポリマーを用いた。
レジンマトリックスモノマーとしてMMAを65重量部、粉末状ポリマーを100重量部、架橋剤として2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパンを5重量部使用した。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は10:7である(なお、架橋剤を液としてカウントした。)。
【0073】
この床用レジンを用いて、実施例1と同様にして義歯を製作した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0074】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
次いで、実施例1と同じ通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認した。
【0075】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0076】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0077】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0078】
(実施例4)
実施例1と同組成の義歯床用材料(床用レジン)を用い、通路シール材は使用しないで義歯を製作した。
具体的には、実施例1と同様にして製作した成形型を使用した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0079】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
床用レジンをレジン注入通路を介して成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、レジン注入通路とベント通路の開口に至るまで充填した。
【0080】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0081】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0082】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0083】
(比較例1)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを43重量部、粉末状ポリマーとして分子量100,000で平均粒径が40μmのPMMAを100重量部、加熱重合開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を0.4重量部混和したものを使用した。
義歯床用材料は、粉液比は10:4.3であり、粉液混合後に餅状のレジンとなった状態において、加熱重合用の金属フラスコ内に作製した上顎の全部床義歯製作用の成形型を用いて、通法に従って、餅状レジンを加熱重合させて全部床義歯を製作した。
【0084】
以下、概要を示す。
通法に従って製作された上顎の全部床義歯用の蝋義歯を金属フラスコ内で石膏埋没材で埋没して加熱重合用の成形型を作成した。石膏埋没は1次埋没後、石膏表面に分離剤を塗布し、3次埋没までを行った。
石膏の硬化後、成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝の石膏面、下型は空洞側と凹溝の石膏面に分離剤を塗布した後、前記した餅状のレジンを成形型内に填入し、フラスコプレスで締め付け、水中にフラスコを没入して、加熱重合させた。
加熱重合は、30分で沸騰させ、100℃を40分間維持した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0085】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、床辺縁部(図10のaとe)、歯槽部(図10のbとd)、口蓋部(図10のc)の全体が0.3mm以上浮き上がり、適合性に難がある。
【0086】
耐衝撃性試験のため前記餅状レジンを65×40×5mmの成形型に填入した後、成形型をプレスで締め付け、水中で、加熱重合させた。
加熱重合、冷却等は、餅状レジンを加熱重合させた全部床義歯の製作に準じて行った。
得られた重合硬化物から15×10×2.5mmの試験片を切り出し、耐衝撃性を実施例1に記載した耐衝撃性試験方法に従って行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0087】
(比較例2)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重郎部、粉末状ポリマーとして分子量が850,000で平均粒径が60μmのPMMAを100重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したスラリー状のものを使用した。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は10:7である。
【0088】
実施例4と同様に通路シール材を使用しないで、義歯を製作した。
具体的には、実施例1と同様にして製作した成形型を使用した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0089】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
床用レジンをレジン注入通路を介して成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、レジン注入通路とベント通路の開口に至るまで充填した。
【0090】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0091】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり床辺縁部(図10のaとe)、歯槽部(図10のbとd)、口蓋部(図10のc)の全体が0.2から0.3mm浮き上がり、適合性に難がある。
【0092】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0093】
以上のことから、この発明の義歯床用材料を用いた流し込みによる義歯の製作方法は、以下のように整理することができる。
すなわち、
(a)人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、義歯床用材料(床用レジン)を前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填し、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、前記通路シール材が前記通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動するようにした義歯の製作方法であって、前記床用レジンが、レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料で、前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする義歯の製作方法。
【0094】
(b)人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記各通路の所定位置にまでそれぞれ充填し、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに各通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、前記通路シール材が前記各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動するようにしたことを特徴とする前記(a)記載の義歯の製作方法。
【0095】
(c)前記通路シール材が、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることを特徴とする前記(a)または(b)記載の義歯の製作方法。
(d)前記通路シール材が、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物であることを特徴とする前記(c)記載の義歯の製作方法。
(e)前記成形型が石膏埋没材で形成されていることを特徴とする前記(a)ないし(d)いずれかに記載の義歯の製作方法。
(f)前記成形型は、前記床用空洞面から成形型の外面までの厚さが、前記床用空洞と前記通路の連通部から遠方部が肉薄とされたものであり、該成形型を圧力容器内に供給された温湯に浸漬し、前記圧力容器内を加圧して、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させること特徴とする前記(a)ないし(e)いずれかに記載の義歯の製作方法。
【0096】
(g)前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることを特徴とする前記(a)ないし(f)のいずれかに記載の義歯の製作方法。
(h)前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることを特徴とする前記(a)ないし(g)のいずれかに記載の義歯の製作方法。
(i)さらに、架橋剤を含むことを特徴とする前記(a)ないし(h)記載の義歯の製作方法。
(j)前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする前記(i)記載の義歯の製作方法。
(k)前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、
該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることを特徴とする前記(j)記載の義歯の製作方法。
これらの義歯の製作方法による作用・効果は、前記した記載から明らかであることから省略する。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】この発明で使用する成形型の一実施の形態を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図、(d)はA−A線断面図である。
【図2】図1に示す成形型の斜視図である。
【図3】図1に示す成形型の製作における一工程を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)はB−B線断面図である。
【図4】図1に示す成形型の製作における他の工程を示す説明図である。
【図5】図1に示す成形型の製作における更に他の工程を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)はC−C線断面図である。
【図6】図1に示す成形型を使用して義歯を製作する一工程を示す説明のための一部破断正面図である。
【図7】図1に示す成形型を使用して義歯を製作する他の工程を示す部分断面説明図である。
【図8】図1に示す成形型を使用して製作された義歯の斜視図である。
【図9】この発明で使用する成形型の他の実施の形態を示す正面図である。
【図10】義歯床用材料を使用して製作された義歯の適合性試験方法の説明図である。
【図11】義歯床用材料を使用して製作された義歯の適合性試験の結果を示す図である。
【図12】義歯床用材料の耐衝撃性試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1 成形型
2 レジン注入通路
3 人工歯
4 床用空洞
5 ベント通路
8 作業模型
9 蝋義歯
10a フラスコ下部
10b フラスコ上部
【技術分野】
【0001】
この発明は、義歯床用材料(床用レジン)に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、適合性の良好な義歯床を製作するのに有用な義歯床用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノマー中に粉末状ポリマーを含む重合性床用レジンを成形型に充填し、床用レジンを重合させて義歯を製作する場合、床用レジンの重合収縮は避けられず、義歯が全体的に小さくなり、そのため義歯と患者の粘膜面との適合性が不良となり易い。
そこで、例えば、ビスパーオキシカーボネート等の低温分解重合開始剤をポリマーと混ぜたものを、モノマーと混合し、モノマーを重合させることで義歯床の適合性を向上させる提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−191844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、重合温度を60℃以上とした実施例が開示されているに過ぎず、また、混合するポリマー、モノマーが具体的に特定されたものとはなっていない。
この発明の発明者等は、鋭意研究の結果、特定の分子量で特定の粒子径の粉末状ポリマーと、これを膨潤させるモノマーとを組み合わせてスラリー状ないしペースト状とし、成形型内で重合させたものは、成形型との適合性(従って、患者の粘膜面との適合性)が優れていることを見出し、この発明を完成させたものであり、スラリー状ないしペースト状であることから流し込み成形が可能で、常温〜55℃の温度で重合可能であって、適合性の良好な義歯を製作するのに有用な義歯床用材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、この発明の義歯床用材料は、(1)レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料であって、前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする。
これによれば、粉末状ポリマーがレジンマトリックスモノマーによって膨潤したスラリー状ないしペースト状の状態において、成形型に流し込んで常温〜55℃で重合させることができ、操作性が良好で、安全であり、適合性に優れた義歯床を得ることができる。なお、常温重合開始剤としては、常温〜55℃でモノマーの重合を開始させる後述するものであることが好ましい。
【0005】
(2)前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることが好ましい。
これによれば、気泡等の巻き込みを起こすことなく成形型への流し込みが容易にでき、常温〜55℃で重合させることで気泡等の欠損がなく、しかも、適合性に優れた義歯床を得ることができる。
(3)前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることが好ましい。
これによれば、適合性に加え、耐衝撃性の良好な義歯床を得ることができる。
(4)前記メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体は、メチルメタクリレートが95mol%、エチルメタクリレートが5mol%の共重合体であることが好ましい。
(5)さらに、架橋剤を含むことが好ましい。
架橋剤は、単官能(メタ)アクリレートと反応し、得られた義歯床は3次元網目構造を有することになり、強度、硬度において優れることになる。
(6)前記(5)において、前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。
これによれば、さらに、適合性の良好な義歯床を得ることができる。水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートのうち、(7)前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることが適合性と耐衝撃性の観点から望ましい。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、常温〜55℃で重合させることで、適合性に優れた義歯床を得ることができ、70〜100℃といった加熱重合レジンのような加熱を必要とせず、製作時の操作性が良好であり、製作時に火傷等の恐れが少なく安全であり、加熱に要するエネルギーも低く、経済的でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、発明を実施するための最良の形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
レジンマトリックスモノマーとしての単官能(メタ)アクリレートを具体的に例示すると、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、イソプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、およびこれらのアクリレートを挙げることができる。
これらは、単独であっても、複数を併用してもよい。
【0008】
この発明で使用するポリメチルメタクリレート(PMMA)は、分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmである。
PMMAは、懸濁重合(パール重合ともいう。)によって得られたものが通常使用される。
分子量が60,000未満では、重合硬化させた義歯床の耐衝撃性等の物性が低下して好ましくなく、100,000を超えると、ポリマーの分子量が大きすぎてモノマーによる湿潤性が低下したり、均一に膨潤しないためにモノマーリッチな部位ができるため、残留応力が残りやすく経時での変形が起き易すく、またモノマーリッチな部位ではモノマーの重合反応が集中するため反応熱が多く温度上昇による微細な気泡発生につながり好ましくない。
【0009】
平均粒径が30μm未満では粉末状ポリマーが凝集し易く、かつ、モノマーと混合したときに膨潤が早く粘度上昇を起こしやすいため成形型の細部まで流れにくくなり、義歯床としたときの適合性が不良となり好ましくない。平均粒径が50μmを超えると、レジンマトリックスモノマーによる粉末状ポリマーの膨潤に長時間を要するとともに、義歯床としたときの適合性が不良となる。さらに、義歯床中に粒子の形状がパール状となって顕れ表面の光沢を低下させ、審美性に劣ることからも好ましくない。平均粒径が30〜50μmの粉末状ポリマーで適合性の良好な義歯床が得られるのは、義歯床用材料が成形型の細部にまで流れ込むこと、また、その重合硬化時のモノマーの重合収縮によっても義歯床表面に凹凸が表れにくいことから、義歯床の辺縁において、粘膜面との間に空気の導入の可能性が低く、義歯と粘膜面との分離が生じにくくなることによると考えられるがはっきりしていない。
【0010】
この義歯床用材料によって、適合性に優れた義歯が得られるのは、ポリマー粒子径と分子量の影響が大きく関与しており、物性的にも分子量の影響が大きく関与しているものと考えられる。また、双方のバランスを取ることで適合性に優れ、かつ一般的物性を有することができるものと考えられる。
【0011】
前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記PMMAであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であると、モノマーと混合した際のスラリー状またはペースト状のものは流し込み成形に適した粘度であり、かつ流し込んだ後の粘性上昇も適正であって、義歯床と粘膜面との適合性が良好となるととも、耐衝撃性においても良好となる。
【0012】
該共重合体が10重量%未満では粉末状ポリマーのモノマーによる膨潤に長時間かかり、流し込み後の粘性上昇が低く好ましくなく、20重量%を超えると流し込み後の粘度上昇が大きく、型に流し込む操作の余裕時間が短くなり好ましくない。
該共重合体としては、MMA95mol%、EMA5mol%の共重合体であることが好ましい。MMAが95mol%未満の共重合体では、粉液の混合時の粘度が急激に上昇してしまい、成形型の細部まで流れなかったり、操作時間が短すぎて好ましくなく、95mol%を超える共重合体では、粉液の混合時の粘度が低すぎて重合時に均一になりにくく好ましくない。
【0013】
前記共重合体の分子量が分子量が60,000未満では、重合硬化させた義歯床の耐衝撃性等の物性が低下しすぎて好ましくなく、100,000を超えると、ポリマーの分子量が大きすぎてモノマーによる湿潤性が低下したり、均一に膨潤しないためにモノマーリッチな部位ができるため、残留応力が残りやすく経時での変形が起き易すく、またモノマーリッチな部位ではモノマーの重合反応が集中するため反応熱が多く、温度上昇による微細な気泡発生につながり好ましくない。
平均粒径が30μm未満では粉末状ポリマーが凝集し易く、かつ、モノマーと混合したときに膨潤が早く、粘度上昇を起こしやすいため成形型の細部まで流れにくくなり、義歯床としたときの適合性が不良となり好ましくない。平均粒径が50μmを超えると、レジンマトリックスモノマーによる粉末状ポリマーの膨潤に長時間を要するとともに、義歯床としたときの粘膜面側の平滑性が失われ好ましくない。
【0014】
常温〜55℃でモノマーの重合を開始させる常温重合開始剤としては、有機過酸化物と芳香族第3級アミンとの組合せが使用できる。
有機過酸化物は、通常、粉末状ポリマー内に配合され、芳香族第3級アミンはモノマー中に配合され、モノマーと粉末状ポリマーが混和された状態において、モノマーを重合させる機能が発揮される。
【0015】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ{(o−ベンゾイル)ベンソイルパーオキシ}ヘキサンを挙げることができる。
芳香族第3級アミンとしては、N,N―ジメチル−p−トルイジン、N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N―ジメチルアニリン、N−メチル−N―β―ヒドロキシアニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシエチル)―アニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシエチル)―p―トルイジン、N,N―ジ(β―ヒドロキシプロピル)―アニリン、N,N―ジ(β―ヒドロキシプロピル)―p―トルイジン、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N―ジメチルアミノ安息香酸イソアミルを挙げることができる。
【0016】
常温重合開始剤としては、前記した化合物に加えて以下のような化合物も使用することができる。例えば、ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物、有機ハロゲン化合物の組合せを挙げることができる。これ等は、レジンマトリックスモノマーまたは粉末状ポリマーの一方にピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物とを、他方に有機ハロゲン化合物を配合するようにして使用する。
ピリミジントリオン誘導体としては、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、1−ベンジル−5−フェニルピリミジントリオン、5−ブチルピリミジントリオン、5−フェニルピリミジントリオン、1,3−ジメチルピリミジントリオン、5−エチルピリミジントリオンを挙げることができる。
【0017】
有機金属化合物としては、アセチルアセトン銅、4−シクロヘキシル酪酸銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトンリチウム、酢酸リチウム、アセチルアセトン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトンニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンクロム、アセチルアセトン鉄、ナフテン酸ナトリウム、レアアースオクトエートを挙げることができる。
有機ハロゲン化合物としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライドを挙げることができる。
【0018】
常温重合開始剤は、レジンマトリックスモノマーの種類、粉末状ポリマーに応じ適宜決定すればよい。MMAと前記PMMAとの組合せにおいて、常温重合開始剤は、MMAとPMMAの合計100重量部に対し0.1〜0.5重量部とすることで十分な重合を得られる。
【0019】
架橋剤としては、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビスフェノールA型エポキシジアクリレート、ビスフェノールA型エポキシジメタクリレート、フェノールノA(PO)(EO)変性ジアクリレート、フェノールノA(PO)(EO)変性ジメタクリレート、(EO)変性エチレングリコールジアクリレート、(EO)変性エチレングリコールジメタリレート、1,4−ブタジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、グリセロールアクリレート/メタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート及びこれらのアクリレート、また分子中にウレタン結合を有するメタクリレート及びアクリレートを挙げることができる。上記架橋剤において、(EO)はエチレンオキサイド、(PO)はプロピレンオキサイドを意味する。
【0020】
これら架橋剤は、単独、または、複数を併用できる。
前記架橋剤は、前記レジンマトリックスモノマーに配合することが好ましい。
これらの架橋剤のうち、水酸基を有する架橋剤が、義歯床としての適合性を更に良好とすることから好ましい。水酸基を有する架橋剤が、義歯床としての適合性を更に良好とする根拠は、石膏型表面との接触において水酸基が表面張力を低下させるものと考えられるが、はっきりしていない。
水酸基を有する架橋剤のうち、とりわけ、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパンが好ましい。2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンは、レジンマトリックスモノマー100重量部に対し5〜10重量部であることが、義歯床の適合性と耐衝撃性の観点から好ましい。5重量部未満では、親水性付与が不十分であり適合性が不良となり、10重量部を超えるモノマーと比較して重合しにくいので部分的未重合が発生しやすくなり物性低下が見られ好ましくない。
【0021】
義歯床用材料には、必要に応じ重合禁止剤、酸化防止剤、変色防止剤、可塑剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、義歯血管繊維等を添加させることができる。
このうち、顔料、染料、疑似血管繊維等は、粉末状ポリマーに添加することができる。
【0022】
この発明の義歯床用材料は、スラリー状ないしペースト状であることから、義歯を製作する方法には流し込み成形が適している。
以下、この発明の義歯床用材料を用いた流し込み成形方法による義歯の製作の一例を説明する。本願発明は、この成形方法によることが好ましい。
【0023】
この流し込み成形方法は、義歯製作において、常温重合によるレジン義歯床の重合収縮補償を簡便に行うことができるものである。
すなわち、(i)人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、この発明の義歯床用材料(床用レジン)を前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填し、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、前記通路シール材が前記通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動するようにしたことを特徴とする流し込み成形方法、または、(ii)人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記各通路の所定位置にまでそれぞれ充填し、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに各通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、前記通路シール材が前記各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動するようにしたことを特徴とする流し込み成形方法である。
【0024】
(iii)前記通路シール材が、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることが好ましい。
そして、上記(iii)において、(iv)前記通路シール材が、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物であることが好ましい。
(v)前記成形型が石膏埋没材で形成されていることが好ましい。
(vi)前記成形型は、前記床用空洞面から成形型の外面までの厚さが、前記床用空洞と前記通路の連通部から遠方部が肉薄とされたものであり、該成形型を圧力容器内に供給された温湯に浸漬し、前記圧力容器内を加圧して、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることが好ましい。
【0025】
この流し込み成形方法は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏するものである。
すなわち、
(i)によると、人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、前記床用レジンを、前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填することは、特別な装置や技術を必要とせず容易である。また、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して、前記通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに、通路を密封させることも特別な装置や技術を必要とせず容易であり、そして、前記床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動し重合収縮の補償が行われる。その際、易変形性の通路シール材は、重合収縮補償に追従して、通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。
【0026】
(i)によって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯を得ることのできる根拠ははっきりしていないが、床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンに先だって重合させるだけで、前記したように重合に伴う重合収縮補償が行われるが、その際、通路内の床用レジンが易変形性の通路シール材によって外部と隔離された状態で重合収縮補償を担うことと、重合収縮補償に追従して、易変形性の通路シール材が床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することが主な要因と解される。
従って、(i)によれば、大型で、複雑な構造で、高価な冷却装置、加圧装置等を備えた装置を必要とせず、そのため、広いスペースを必要とせず、操作性が良好であって、生産性が高く、冷却のためのエネルギーコストを必要とせず、また、義歯製作後に廃棄する床用レジンも殆どなく、易変形性通路シール材を廃棄するとしても僅かで済むことから、原料の無駄を少なくすることができ、廃棄物の処理コストも低く、結局、適合性が優れ、欠損等の少ない良好な義歯を容易かつ安価に製造することができる。
【0027】
(ii)によると、人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを、前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記レジン注入通路およびベント通路の所定位置にまで充填することは、特別な装置や技術を必要とせず容易であり、また、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して、前記各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに、各通路を密封させることも特別な装置や技術を必要とせず容易である。そして、前記床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、各通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動し重合収縮の補償が行われる。その際、易変形性の通路シール材は、重合収縮補償に追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したままそれぞれ移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。
【0028】
(iii)によると、前記通路シール材は、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることから、床用レジンが重合しても、通路シール材には影響がなく、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られることになる。
【0029】
(iv)によると、重合前の前記床用レジンと前記通路シール材は、類似した組成であることから、通路内の床用レジンの端面との密接性と、通路の密封性が良好であり、また、床用レジンと異なって重合しないことから、床用空洞内に充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動して重合収縮補償が行なわれる際、通路シール材は、重合収縮補償に追従して、確実に通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま移動することになり、これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られることになる。ここで使用される床用レジンと通路シール材を構成する素材は、歯科医院や歯科技工所において通常備えられているものであり、別途新たに導入する必要がない。
【0030】
(v)によると、成形型が安価であり、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯を安価に製作することができる。
【0031】
(vi)によると、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることが容易であり、重合時間の短縮が可能であり、また、圧力容器内の加圧によって、床用レジンの重合時の気泡の発生を確実に抑制できる。
【0032】
従って、本願発明の義歯床用材料とこの成形方法を併用することにより、より適合性の良好な義歯を簡便に、経済的に得ることができることになる。
【0033】
さらに詳しく、この成形方法を説明する。
ここで使用される通路シール材としては、易変形性、すなわち、床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動できるものであればよいが、床用レジンの重合条件下で重合等しないものであることが好ましく、更には、成形型に充填された床用レジンの組成と類似し、粘度を近似でき、断熱性があり、温湯に溶解しないことが後述するように好ましいが、これに限定されるものではない。
【0034】
そのような条件を満たすものとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物、例えば、メチルメタクリレート(MMA)等の液体状のモノマーと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の粉末状ポリマーとを主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物を挙げることができる。
前記した以外のものとしては、例えば、液体状モノマーがエチレングリコールジメタクリレート、粉末状ポリマーがポリメタクリル酸エチル(PEMA)を主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物を挙げることができる。
【0035】
ここで使用できる重合禁止剤としては、6−tert−2,4−キシレノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール等を挙げることができる。これら重合禁止剤は、単独でも、また、複数を併用してもよい。
【0036】
前記した液体状のモノマーと粉末状ポリマーとを主成分とし、重合禁止剤を含むスラリー状ないしペースト状の組成物における重合禁止剤と主成分とは、重合禁止剤が0.1〜10重量%、主成分が90〜99.9重量%であることが好ましい。重合禁止剤が0.1重量%未満では、常温重合型の床用レジンと接触する部分において、床用レジン中の重合開始剤の影響が発生し始めることから好ましくなく、10重量%を超えても重合不能性がそれ以上向上しないことから好ましくない。
通路シール材は、上記したものに限られず、例えば、寒天、ゼラチン、ペクチン、ワックス、シリコンゴム、ラテックス等が例示できる。
【0037】
以下、図面に基づき更に詳細に説明する。
図1は、義歯の製作に使用する成形型の一実施の形態を示す説明図、図2は、図1に示す成形型の斜視図である。
この成形型1は、埋没材を石膏とする上顎の全部床義歯製作用であって、流し込み用に調製された前記床用レジンを、レジン注入通路2を介して成形型1に流し込み、重合させるのに使用するものである。成形型1は、人工歯3の歯冠部が石膏内に埋没される一方、基底部が床用空洞4に露出しており、床用空洞4にはレジン注入通路2とベント通路5が連通している。より具体的には、レジン注入通路2は、床用空洞4と右側最後臼歯より遠心側位置で連通して連通部4aを形成し、ベント通路5は、床用空洞4と左側最後臼歯より遠心側位置で連通して連通部4bを形成している。そして、レジン注入通路2とベント通路5は、いずれも成形型1の頂面において開口している。
【0038】
成形型1の底面側には前歯部の人工歯3の歯冠部が埋没されている。成形型1は、底面で縦置きできるようになっている。レジン注入通路2とベント通路5は、成形型1の前面からほぼ等距離に、裏面からもほぼ等距離に、そして、レジン注入通路2と右側面、ベント通路5と左側面もほぼ等距離に設けられている。
成形型1は、分割面によって上型1aと下型1bに分割できるようになっている。上型1aの空洞側は義歯床の口腔側に対応する形状となっており、空洞側に人工歯3の基底部が露出している。下型1bの空洞側は粘膜面に対応する形状となっている。床用空洞4は上型1aと下型1bとを合体させることで形成されることになる。レジン注入通路2とベント通路5は、上型1aと下型1bの分割面に設けられたそれぞれ一対の対向した凹溝によって形成されることになる。
【0039】
床用空洞4と成形型1の外面との厚さは、床用空洞4とレジン注入通路2、ベント通路5の連通部4a、4bから遠方部で肉薄、すなわち、床用空洞4の前歯部と成形型の底面との厚さが最も肉薄となっている。この構造の成形型1は、前記した肉薄の部分を設けることにより、後述するように床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させることができ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、通路シール材が各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動することになる。
【0040】
このような成形型1は、以下のようにして製作すればよい。
通法に従って作業模型8上に人工歯3が排列された蝋義歯9を、図3に示すようにゴム製のフラスコ下部10a内に設置し、石膏で一次埋没する。ここにおいて、蝋義歯9は、その前歯部とフラスコ下部10aの内側面との間隔tが最も短くなるように設置する。そして、石膏表面に分離剤を塗布した後、ワックス製のスプルー11a、11bを取り付ける(図4参照)。スプルー11aはレジン注入通路2を形成するためのものであり、スプルー11bはベント通路5を形成するためのものである。スプルーの径や長さは、床用レジンの重合収縮率、通路シール材に必要な充填量等を踏まえて適宜決定すればよい。
【0041】
次いで、蝋義歯9に排列した人工歯3、スプルー11a、11bが隠れる程度に筆、スパチュラ等を用いて石膏を盛りつけて2次埋没する。
そして、図5に示すように、フラスコ下部10aにゴム製のフラスコ上部10bを嵌合させ、フラスコ内を石膏で3次埋没する。なお、必要に応じ、3次埋没後に蝋義歯9の前歯部と成形型1の底面とが最も肉薄となるように成形型を後から削り取るようにしてもよい。
石膏が硬化した後、フラスコ上部10b、フラスコ下部10aを取り除き、流蝋することで、図1に示す成形型1が得られる。
【0042】
次に、図1に示す成形型1を用いた上顎全部床義歯の具体的製作方法を説明する。
上型1aは人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型1bは空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型1aと下型1bを合体させ、輪ゴム13で固定する。
【0043】
床用レジン14を、レジン注入通路2を介して成形型1内に流し込み、成形型1の床用空洞4に充填するとともに、レジン注入通路2とベント通路5の所定位置にまで充填する。床用レジン14の成形型1への流し込みは、ビーカー等を使用して行えばよいが、シリンジを用いて行ってもよい。レジン注入通路2とベント通路5の充填位置は、成形型1内に充填された床用レジン14の重合収縮率等を見越して安全な位置であるとともに、各通路内に充填された床用レジン14の端面と密接し通路を密封する通路シール材が、前述したようにその機能を果たすことのできる量を充填できる位置であればよい。
なお、ここで使用する床用レジンの重合収縮は、8〜9%の体積収縮率である。
【0044】
床用レジンが充填されたレジン注入通路2、ベント通路5の残りの空間には、前記した通路シール材がその機能を果たすことができる充填量を充填するだけの容積が確保されており、各通路にスラリー状の通路シール材を充填して、通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封した状態とする。
通路シール材のレジン注入通路2、ベント通路5への充填は、ビーカーでもシリンジでもよいが、レジン注入通路2、ベント通路5を満たしたとしても大した量ではないことからシリンジによることが好ましい。
【0045】
通路シール材としては、前記したスラリー状ないしペースト状のものは、成形型1に充填された床用レジンの組成と類似しており、粘度等を近似でき、断熱性があり、温湯に溶解しないことが好ましいが、これに限定されるものではない。
図6は、床用レジン14が、成形型1の床用空洞4に充填されるとともに、レジン注入通路2とベント通路5の所定位置にまで充填され、次いで、通路シール材15によってレジン注入通路2とベント通路5が密封された状態を示す。
【0046】
図6に示す状態において、床用レジンの重合は常温で進行するが、重合用の圧力容器内において、成形型1を温湯中に浸漬して重合を行うことが、義歯の製作時間を短縮したり、重合に伴う床用レジン中の気泡の発生を抑制したりすることができることから好ましい。
【0047】
図7は、図6に示す成形型1を圧力容器20内において、温湯中に浸漬した状態を示す。
重合用の圧力容器20は、既製のものが使用でき、容器本体21と蓋22を有し、蓋22には、加圧空気導入管23、圧力計24、安全弁25が設けられている。
【0048】
圧力容器内の温湯の水面位置は、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できるように設定すればよいが、前記した成形型の構造等から、成形型を温湯中に全没しても(2点鎖線で示す水面位置参照)、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できる。
【0049】
もちろん、成形型内の前歯部近傍までが温湯に浸漬される程度に成形型が浸漬されるだけでも(実線で示す水面位置参照)、床用空洞内に充填された床用レジンを各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって各通路内の床用レジンが各通路を床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動できる。
【0050】
温湯の水温としては、前記した床用レジンでは、40〜55℃が好ましい。40℃未満では、重合の完了までにかなりの時間を要することから、実用的には、40℃以上であり、55℃を超えると、重合の進行が速く、内部歪みや、気泡が発生しやすい。
容器内への加圧は、0.1〜0.3MPaとすることが好ましい。圧力が0.1MPa未満では、上記水温での重合時に気泡が発生しやすくなり、容器の安全性から0.3MPaを超えると好ましくない。
重合時間は、容器中に収納する成形型の数、成形型内に充填する床用レジンの体積、重合開始剤等により異なるが、通常は20〜40分程度である。
【0051】
圧力容器内で成形型の床用空洞内に充填された床用レジンをレジン注入通路とベント通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるだけで(通常、床用レジンの重合は前歯部の床から始まって口腔奥側の床へと進むことになる。)、重合に伴う重合収縮が床用空洞内の床用レジンに発生し、各通路内の床用レジンが床用空洞内に充填された床用レジンに引っ張られて各通路を床用空洞内の床用レジンに向かって移動し重合収縮の補償が行われる。その際、通路シール材は、易変形性であり、重合収縮補償に追従して、各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま移動することになる。これによって、適合性に優れ、人工歯の変位、欠損等の少ない良好な義歯が得られる。圧力容器内に収納される成形型は、単数の場合もあるが、複数収納し同時に重合させることが可能であり、その場合、成形型の大きさによっては、水中に全没されるものもあるが、その場合でも、前記したように良好な義歯が製作されることから、水面位置等の調整もラフでよく、熟練を要せず容易である。
圧力容器に、複数の成形型を収納して床用レジンの重合を行わせれば、義歯の生産効率を向上させることができる。
【0052】
なお、床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンをレジン注入通路とベント通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるのに、成形型の床用空洞と外面との厚さを調整するだけでなく、又は、厚さを調整しないでも、成形型の外面に断熱材を配設するようにしてもよい。
床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させるのに、成形型を温湯中に浸漬して行う方法に限られず、例えば、成形型を熱盤上に載置して行ってもよく、成形型の前歯部に熱風を吹き付けたり、赤外線を照射したりしてもよい。
【0053】
重合が完了した後、成形型1を圧力容器20から取り出し、通法に従い成形型1を徐冷する。次いで、輪ゴム13を取り外し、石膏鉗子等の道具を用いて、成形型1から義歯を取り出した後、レジン注入通路2、ベント通路5に残った床用レジンの硬化物を取り除き、仕上げ研磨する。図8は、仕上げ研磨された義歯26の斜視図である。図8においては、参考のため、重合収縮補償した後でもレジン注入通路、ベント通路に残った硬化物を2点鎖線で示している。
【0054】
上記においては、フラスコとしてゴム製のものを使用したことから、フラスコを取り除いた成形型を使用したが、これに限られず、例えば、金属製のフラスコは熱伝導性が良好なことから、フラスコを取り除かないでそのまま使用してもよい。
【0055】
上記では、成形型として石膏埋没材を使用したものとして説明したが、これに限られず、成形型として、寒天、シリコンゴム、アルジネート等の埋没材を使用してもよい。成形型に、寒天、シリコンゴム等を使用する場合は、成形型は通常使用される金属製のフラスコ中において重合等させることになる。寒天、シリコンゴム等の埋没材を用いる義歯の製作は、前記した石膏埋没材を用いた義歯の製作に準じて行えばよく、詳細な説明は省略する。
【0056】
また、例えば、左側下顎部分床義歯のような場合には、ベント通路を必要とせず、レジン注入通路だけの成形型を用いて義歯を製作することもできる。これは、例えば、図9に示される成形型31となる。この成形型31では、ベント通路を形成しなくても、レジン注入通路32を介して床用レジンの注入をゆっくり行うことで、床用空洞33に空気溜まり等を生じさせることなく床用レジンを床用空洞33に充填すること等ができることから、図1に示す全部床義歯製作用の成形型1のようなベント通路を省略することができるものである。なお、レジン注入通路32の径を図1のそれより稍太くして、床用レジンの注入時に空気溜まり等を生じないようにすることが好ましい。
その他は、図1に示した成形型1と同様なことから、成形型31の構造の詳細、成形型31を用いた義歯の製作方法の詳細な説明は省略する。
【0057】
なお、部分床義歯の場合は、蝋義歯から部分床義歯に必要な部分だけを切り出し、床用空洞にレジン注入通路を連通させた成形型を製作し、該成形型を利用して義歯を製作するようにしてもよい。このような場合は、部分床義歯用の成形型は、温湯に全没した状態で重合させることになる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例を比較例とともに示しさらに詳しく説明する。
(実施例1)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重量部、粉末状ポリマーとして分子量100,000で平均粒径が40μmのPMMAを100重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したものを使用した。
義歯床用材料は、スラリー状であり、粉液比は10:7である
石膏埋没材を使用した上顎の全部床義歯製作用の成形型(図1参照)を用いて、前記した製作方法に従って全部床義歯を製作した。
【0059】
以下、概要を示す。
通法に従って製作された上顎の全部床義歯用の蝋義歯をゴムフラスコ内で石膏埋没材で埋没して成形型を作成した。石膏埋没は1次埋没後、石膏表面に分離剤を塗布し、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーを蝋義歯に接続し、3次埋没までを行った。レジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
【0060】
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0061】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
【0062】
次いで、別途用意した通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材は、エチレングリコールジメタクリレート75重量部、PEMA25重量部、重合禁止剤である6−tert−2,4−キシレノール1重量部からなるスラリー状のものを使用した。通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認したが、別途、ガラス板等に少量の床用レジンを載せ、床用レジンの変化を確認してもよい。
【0063】
そして、成形型を圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた(図7参照)。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
冷却後、水中から取り出した成形型を横方向に切断した後、義歯の適合性を以下の試験方法により評価した。
【0064】
<適合性試験方法>
成形型の上下型の石膏埋没材を除去して、作業模型上に義歯が設置された状態にし、作業模型から義歯を分離し、義歯のバリ取りをした後、義歯を作業模型に戻した際の作業模型と義歯床との間に生じたa〜eの5箇所の間隙、すなわち、浮き上がり量(図10参照)をデジタルマイクロスコープで測定する。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0065】
また、ここで使用した床用レジンの耐衝撃性を以下の試験方法により評価した。
<耐衝撃性試験方法>
床用レジンを65×40×5mmの成形型に流し込み、次いで、成形型を圧力容器内の温湯(55℃)に全没し、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却して得られた重合硬化物から15×10×2.5mmの試験片を切り出し、試験片をダインシュタット衝撃破壊試験機(No.500:東洋精機社製)にてエネルギー0.49Jで衝撃破壊試験を行った。測定環境は,恒温恒湿室で温度23℃,湿度50%である。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0066】
(実施例2)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重量部、粉末状ポリマーとして分子量が100,000で平均粒径が40μmのPMMAを90重量部、分子量が100,000で平均粒径が40μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体を10重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したものを使用した。
この共重合体はMMA95mol%、EMA5mol%のものである。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は、10:7である。
【0067】
この床用レジンを用いて、実施例1と同様にして義歯を製作した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0068】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
次いで、実施例1と同じ通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認した。
【0069】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0070】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0071】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0072】
(実施例3)
粉末状ポリマーとして、実施例2で使用したと同じ粉末状ポリマーを用いた。
レジンマトリックスモノマーとしてMMAを65重量部、粉末状ポリマーを100重量部、架橋剤として2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパンを5重量部使用した。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は10:7である(なお、架橋剤を液としてカウントした。)。
【0073】
この床用レジンを用いて、実施例1と同様にして義歯を製作した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0074】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
前記したスラリー状の床用レジンを、レジン注入通路を介して、成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、床用レジンの重合収縮率を見越してレジン注入通路とベント通路の所定位置(頂面から約0.7cmの深さを残した状態)にまで充填した。
次いで、実施例1と同じ通路シール材をレジン注入通路とベント通路の残りの空間に注入して充填した。通路シール材のレジン注入通路への充填量は約0.27cm3 であり、ベント通路への充填量も約0.27cm3 である。
通路シール材のレジン注入通路、ベント通路への注入は、先に充填したスラリー状の床用レジンが稍ペースト状等に変化するまで待って行った。床用レジンが稍ペースト状等に変化したかどうかは、成形型を傾けて通路内の床用レジンの状態を確認した。
【0075】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0076】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0077】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0078】
(実施例4)
実施例1と同組成の義歯床用材料(床用レジン)を用い、通路シール材は使用しないで義歯を製作した。
具体的には、実施例1と同様にして製作した成形型を使用した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0079】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
床用レジンをレジン注入通路を介して成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、レジン注入通路とベント通路の開口に至るまで充填した。
【0080】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0081】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、適合性は良好である。
なお、義歯床には気泡等の発生もなく、人工歯の変位も確認されなかった。
【0082】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0083】
(比較例1)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを43重量部、粉末状ポリマーとして分子量100,000で平均粒径が40μmのPMMAを100重量部、加熱重合開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を0.4重量部混和したものを使用した。
義歯床用材料は、粉液比は10:4.3であり、粉液混合後に餅状のレジンとなった状態において、加熱重合用の金属フラスコ内に作製した上顎の全部床義歯製作用の成形型を用いて、通法に従って、餅状レジンを加熱重合させて全部床義歯を製作した。
【0084】
以下、概要を示す。
通法に従って製作された上顎の全部床義歯用の蝋義歯を金属フラスコ内で石膏埋没材で埋没して加熱重合用の成形型を作成した。石膏埋没は1次埋没後、石膏表面に分離剤を塗布し、3次埋没までを行った。
石膏の硬化後、成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝の石膏面、下型は空洞側と凹溝の石膏面に分離剤を塗布した後、前記した餅状のレジンを成形型内に填入し、フラスコプレスで締め付け、水中にフラスコを没入して、加熱重合させた。
加熱重合は、30分で沸騰させ、100℃を40分間維持した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0085】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり、床辺縁部(図10のaとe)、歯槽部(図10のbとd)、口蓋部(図10のc)の全体が0.3mm以上浮き上がり、適合性に難がある。
【0086】
耐衝撃性試験のため前記餅状レジンを65×40×5mmの成形型に填入した後、成形型をプレスで締め付け、水中で、加熱重合させた。
加熱重合、冷却等は、餅状レジンを加熱重合させた全部床義歯の製作に準じて行った。
得られた重合硬化物から15×10×2.5mmの試験片を切り出し、耐衝撃性を実施例1に記載した耐衝撃性試験方法に従って行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0087】
(比較例2)
義歯床用材料(床用レジン)に、レジンマトリックスモノマーとしてMMAを70重郎部、粉末状ポリマーとして分子量が850,000で平均粒径が60μmのPMMAを100重量部、常温重合開始剤としてジメチルパラトルイジンを0.4重量部、過酸化ベンゾイル(BPO)を0.1重量部混和したスラリー状のものを使用した。
義歯床用材料(床用レジン)はスラリー状であって、粉液比は10:7である。
【0088】
実施例4と同様に通路シール材を使用しないで、義歯を製作した。
具体的には、実施例1と同様にして製作した成形型を使用した。
すなわち、ワックス製のレジン注入通路用スプルー、ベント通路用スプルーの径は約7mm、長さは約20mmである。
石膏の硬化後、ゴムフラスコから成形型を取り出した。得られた成形型の蝋を流蝋して、分割面で上型、下型に分離した。床用空洞の前歯部と底面の厚さは、約0.5cmである。上型の前歯部における分割面から前面までの厚さは約2cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から前面までの厚さは約1.65cmである。下型の前歯部における分割面から裏面までの厚さは約1cm、レジン注入通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。また、ベント通路と床用空洞との連通部に対応する箇所の分割面から裏面までの厚さは約0.65cmである。
【0089】
上型は人工歯の基底部を除き空洞側と凹溝、下型は空洞側と凹溝に分離剤を塗布し、上型と下型を合体させ、輪ゴムで固定した。
床用レジンをレジン注入通路を介して成形型内に流し込み、成形型の床用空洞に充填するとともに、レジン注入通路とベント通路の開口に至るまで充填した。
【0090】
成形型を図7に示す圧力容器内の温湯(55℃)に全没して、0.2MPaの圧力下において、30分床用レジンを重合させた。30分後の水温は50℃であった。
床用レジンの混和開始から成形型に充填し、床用レジンの圧力容器内への収納までの時間は5分と設定した。
重合完了後、23℃、湿度50%の恒温槽で30分放置して冷却した後、20℃の水中で30分冷却した。
【0091】
得られた義歯の適合性試験は、実施例1に記載の試験方法に従って行った。
試験結果は、図11に示すとおりであり床辺縁部(図10のaとe)、歯槽部(図10のbとd)、口蓋部(図10のc)の全体が0.2から0.3mm浮き上がり、適合性に難がある。
【0092】
耐衝撃性試験は、実施例1と同条件で床用レジンを重合硬化させて行った。
耐衝撃性試験結果は、図12に示すとおりである。
【0093】
以上のことから、この発明の義歯床用材料を用いた流し込みによる義歯の製作方法は、以下のように整理することができる。
すなわち、
(a)人工歯の基底部が露出した床用空洞にレジン注入通路が連通した成形型の前記通路を介して、義歯床用材料(床用レジン)を前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記通路の所定位置にまで充填し、易変形性の通路シール材を、前記通路に充填して通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記通路内の床用レジンが通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かって移動するのに追従して、前記通路シール材が前記通路内の床用レジンの端面と密接し通路を密封したまま通路を移動するようにした義歯の製作方法であって、前記床用レジンが、レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料で、前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする義歯の製作方法。
【0094】
(b)人工歯の基底部が露出した床用空洞に更にベント通路が連通した成形型の前記レジン注入通路を介して、前記床用レジンを前記床用空洞内に流し込んで充填するとともに前記各通路の所定位置にまでそれぞれ充填し、易変形性の通路シール材を、前記各通路にそれぞれ充填して各通路内の床用レジンの端面と密接させるとともに各通路を密封させた後、前記床用空洞内に充填された床用レジンを前記各通路内の床用レジンの重合に先立って重合させ、床用空洞内の床用レジンの重合に伴う重合収縮によって前記各通路内の床用レジンが各通路を前記床用空洞内の床用レジンに向かってそれぞれ移動するのに追従して、前記通路シール材が前記各通路内の床用レジンの端面と密接し各通路を密封したまま各通路をそれぞれ移動するようにしたことを特徴とする前記(a)記載の義歯の製作方法。
【0095】
(c)前記通路シール材が、前記床用レジンの重合条件下では重合しないものであることを特徴とする前記(a)または(b)記載の義歯の製作方法。
(d)前記通路シール材が、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマー、及び、重合禁止剤を含有し、スラリー状ないしペースト状の組成物であることを特徴とする前記(c)記載の義歯の製作方法。
(e)前記成形型が石膏埋没材で形成されていることを特徴とする前記(a)ないし(d)いずれかに記載の義歯の製作方法。
(f)前記成形型は、前記床用空洞面から成形型の外面までの厚さが、前記床用空洞と前記通路の連通部から遠方部が肉薄とされたものであり、該成形型を圧力容器内に供給された温湯に浸漬し、前記圧力容器内を加圧して、前記床用空洞内に流し込んで充填された床用レジンを前記通路内の床用レジンの重合に先立って重合させること特徴とする前記(a)ないし(e)いずれかに記載の義歯の製作方法。
【0096】
(g)前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることを特徴とする前記(a)ないし(f)のいずれかに記載の義歯の製作方法。
(h)前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることを特徴とする前記(a)ないし(g)のいずれかに記載の義歯の製作方法。
(i)さらに、架橋剤を含むことを特徴とする前記(a)ないし(h)記載の義歯の製作方法。
(j)前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする前記(i)記載の義歯の製作方法。
(k)前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、
該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることを特徴とする前記(j)記載の義歯の製作方法。
これらの義歯の製作方法による作用・効果は、前記した記載から明らかであることから省略する。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】この発明で使用する成形型の一実施の形態を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図、(d)はA−A線断面図である。
【図2】図1に示す成形型の斜視図である。
【図3】図1に示す成形型の製作における一工程を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)はB−B線断面図である。
【図4】図1に示す成形型の製作における他の工程を示す説明図である。
【図5】図1に示す成形型の製作における更に他の工程を示す説明図であって、(a)は正面図、(b)はC−C線断面図である。
【図6】図1に示す成形型を使用して義歯を製作する一工程を示す説明のための一部破断正面図である。
【図7】図1に示す成形型を使用して義歯を製作する他の工程を示す部分断面説明図である。
【図8】図1に示す成形型を使用して製作された義歯の斜視図である。
【図9】この発明で使用する成形型の他の実施の形態を示す正面図である。
【図10】義歯床用材料を使用して製作された義歯の適合性試験方法の説明図である。
【図11】義歯床用材料を使用して製作された義歯の適合性試験の結果を示す図である。
【図12】義歯床用材料の耐衝撃性試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1 成形型
2 レジン注入通路
3 人工歯
4 床用空洞
5 ベント通路
8 作業模型
9 蝋義歯
10a フラスコ下部
10b フラスコ上部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料であって、
前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする義歯床用材料。
【請求項2】
前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、
該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることを特徴とする請求項1記載の義歯床用材料。
【請求項3】
前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の義歯床用材料。
【請求項4】
前記メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体は、メチルメタクリレートが95mol%、エチルメタクリレートが5mol%の共重合体であることを特徴とする請求項3記載の義歯床用材料。
【請求項5】
さらに、架橋剤を含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の義歯床用材料。
【請求項6】
前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項5記載の義歯床用材料。
【請求項7】
前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、
該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることを特徴とする請求項6記載の義歯床用材料。
【請求項1】
レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料であって、
前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであることを特徴とする義歯床用材料。
【請求項2】
前記単官能(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、
該メチルメタクリレートが前記粉末状ポリマー100重量部に対し、60〜80重量部であることを特徴とする請求項1記載の義歯床用材料。
【請求項3】
前記粉末状ポリマーの80〜90重量%が前記ポリメチルメタクリレートであり、10〜20重量%が分子量60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmのメチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の義歯床用材料。
【請求項4】
前記メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体は、メチルメタクリレートが95mol%、エチルメタクリレートが5mol%の共重合体であることを特徴とする請求項3記載の義歯床用材料。
【請求項5】
さらに、架橋剤を含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の義歯床用材料。
【請求項6】
前記架橋剤が水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項5記載の義歯床用材料。
【請求項7】
前記水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンであり、
該2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパンが、前記単官能(メタ)アクリレート100重量部に対し5〜10重量部であることを特徴とする請求項6記載の義歯床用材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−332044(P2007−332044A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162684(P2006−162684)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000181228)株式会社ジーシーデンタルプロダクツ (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000181228)株式会社ジーシーデンタルプロダクツ (15)
【Fターム(参考)】
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