説明

耐コークス化性が要求される用途におけるオーステナイト系ステンレス鋼の使用

【課題】耐コークス化性が要求される適用におけるオーステナイト系ステンレス鋼の使用を提供する。
【解決手段】装置または装置の要素に改善されたコークス化耐性特性を提供するために、ステンレス鋼は、多くとも0.15%のC、2〜10%のMn、多くとも2%のNi、多くとも4%のCu、0.1〜0.4%のN、10〜20%のCr、多くとも1%のSi、多くとも3%のMoおよび多くとも0.7%のTiを含む組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐コークス化(耐コーキング)性が要求される用途におけるオーステナイト系ステンレス鋼の使用に関する。
【0002】
本発明によれば、これらステンレス鋼は、例えば炉、反応器もしくはダクトのような装置、またはそのような装置を製造するための要素を製造するために、あるいは炉、反応器もしくはダクトの内壁をコーティングするために使用される。該装置は、温度350〜1100℃で行われ、かつその間にコークスが形成されうる石油化学プロセスを実施するために、特に使用される。
【0003】
本発明はまたこれらのステンレス鋼から製造されるか、あるいは該ステンレス鋼でコーティングされる反応器、炉、ダクトまたはそれらの要素にも関する。
【背景技術】
【0004】
炭化水素の転換中に炉内で拡大しうる炭質堆積物は、通常コークスとして公知である。このコークス堆積物は、工業装置において有害である。管および反応器の壁上にコークスが形成されることによって、熱交換の減少と、大きな詰まりが引き起こされ、それ故に、圧力損失の増加がもたらされる。反応温度を一定に保つために、壁の温度は上昇されねばならないこともあり、これによって、壁の構成要素である合金を損傷させるリスクが生じる。装置の選択率の低減も認められ、これは収率の低減をまねく。
【0005】
特許文献1には、エチレンのクラッキング管炉用の耐火性耐コークス化性ステンレス鋼が記載されている。しかしながら、該ステンレス鋼は、クロムおよびニッケルを15%以上含む。それは、エチレンクラッキングについて750〜900℃でのコークス形成を制限するために開発されたものである。
【0006】
特許文献2は、ケイ素を5%まで添加することによって、弱コークス化性にされたステンレス鋼を用いる石油化学方法に関する。そのようなステンレス鋼は、ニッケルを少なくとも10%含んでおり、このことはそれらをコスト高にする。
【0007】
さらに、特許文献3には、低ニッケル含有量を有するオーステナイト系ステンレス鋼が記載されている。このオーステナイト系ステンレス鋼は、標準グレード(AISI 304)と比較して割安であるが、同等の機械特性および溶接特性を有する。
【0008】
該ステンレス鋼は、下記組成:
・0.1〜1%のケイ素、
・5〜9%のマンガン、
・0.1〜2%のニッケル、
・13〜19%のクロム、
・1〜4%の銅、
・0.1〜0.40%の窒素、
・5×10−4〜50×10−4%のホウ素、
・多くとも0.05%の燐、および
・多くとも0.01%の硫黄
を有する。
【0009】
本明細書において、すべての含有物は、重量%として表示される。
【0010】
上述の型のステンレス鋼が、優れた耐コークス化性を有しかつ有利には例えば炉、反応器もしくはダクトのような装置、あるいは例えば管、プレート、シート、スクリーン、型材もしくはリングのような装置の要素の製造に使用されうるし、あるいは炉、反応器もしくはダクトの内壁をコーティングするために使用されうることが見出された。前記装置は、温度350〜1100℃で行われ、かつその間にコークスが形成されうる石油化学方法を実施することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平03−104843号公報
【特許文献2】米国特許第5693155号明細書
【特許文献3】仏国特許発明第2766843号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、優れたコークス化耐性を生ぜしめるための特殊な組成を有するが、削減されたニッケル含有量にも拘わらずオーステナイト系構造を留めるステンレス鋼の使用に関する。オーステナイト系構造を有するステンレス鋼の高い温度挙動によって、優れた耐腐食性と、溶接性が含まれる優れた機械的挙動とが組み合わされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、コーキングに付された表面と接触させて行われる石油化学方法におけるコーキング現象を減少させる方法であって、該表面に、少なくとも一部においてオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを含む、方法であって、該ステンレス鋼が、下記:
・多くとも0.15重量%のC、
・2〜10重量%のMn、
・多くとも2重量%のNi、
・多くとも4重量%のCu、
・0.1〜0.4重量%のN、
・10〜20重量%のCr、
・多くとも1重量%のSi、および
・残部鉄
を含む、方法である。
【0014】
そのようなステンレス鋼がオーステナイト系構造を保持するために、AISI304、316または321ステンレス鋼のような標準グレードと比較したニッケル含有量の低下は、マンガンおよび窒素の含有量を増加させかつ銅を導入することによって本質的に補償されねばならない。ニッケルのように、これらの元素は、ガンマ組織生成元素である。オーステナイト系構造に対応する領域は、ニッケル当量およびクロム当量の作用に応じてシェフラー(Schaeffler)状態図に示される。そのような状態図は、例えばP.Lacombe、B.BarouxおよびG.Berangerによる"Les Aciers Inoxydables"(Stainless Steels)、Les Editions de Physique、16章、572〜573頁に見出されうる。
【0015】
好ましくは、本発明において使用されるステンレス鋼はまた、下記:
・多くとも0.01%、好ましくは多くとも0.030%のS、
・多くとも0.05%、好ましくは多くとも0.045%のPおよび
・多くとも0.005%のB
を含む。
【0016】
これらステンレス鋼がホウ素を含む場合、それらは、例えば0.0005〜0.005%を含む。
【0017】
それらはまた、下記:
・多くとも1.1%のNb、
・多くとも0.40%のV、
・多くとも0.05%のAlおよび
・多くとも0.002%のCa
を含んでもよい。
【0018】
本発明の第1変形例において、次の組成を有するステンレス鋼が使用されてよい:
・約0.05%のC、
・約7.5%のMn、
・約1.5%のNi、
・約2.5%のCu、
・約0.15%のN、
・約18%のCrおよび
・約0.5%のSi。
【0019】
本発明の別の変形例において、次の組成を有するステンレス鋼が使用されてよい:
・約0.04%のC、
・約10%のMn、
・約1.5%のNi、
・約4%のCu、
・約0.1%のN、
・約17%のCr、
・約0.5%のSiおよび
・約0.7%のTi。
【0020】
本発明のさらに別の変形例において、次の組成を有するステンレス鋼が使用されてよい:
・約0.05%のC、
・約8.5%のMn、
・約1.5%のNi、
・約3%のCu、
・約0.2%のN、
・約17%のCr、
・約0.5%のSiおよび
・約2.1%のMo。
【0021】
これら3つの組成の変形例によって、シェフラーのダイヤグラム(Ni当量−Cr当量)による、ステンレス鋼のオーステナイト系構造が保持される。
【0022】
本発明において使用されるステンレス鋼は、従来の溶融方法および注型方法を用いて製造されてもよい。それらは、管、プレート、シート、スクリーン、型材、リング等のような要素を製造する通常の技術によって成形されてよい。この場合、要素または半製品はいずれも、1つの部材で成形される。それらは、炉、反応器またはダクトのような装置の主要部分、あるいは該装置の付属部分または補助部分のみを構成するために使用されてもよい。
【0023】
本発明によれば、ステンレス鋼はまた、炉、反応器またはダクトの内壁にコーティングを形成するために粉体形態で使用されてもよい。 コーティングは、例えば共遠心処理、プラズマ、PVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)、電着、オーバーレイおよび鍍金から選ばれる少なくとも1つの技術を用いて行われる。このような発明的なステンレス鋼から製造される装置を備える設備は、温度350〜1100℃で行われかつその間にコークスが形成されうる石油化学方法の実施における使用を目的とする。これらの方法には、例えば接触クラッキングまたは熱クラッキング、接触リフォーミングおよび飽和炭化水素の脱水素が含まれる。
【0024】
例として、450〜650℃で改質ガソリン(リフォーメート)が製造される接触リフォーミングの間に、二次反応により、コークス形成がもたらされる。これはまたイソブタンの脱水素の間の場合にも起こる。この反応によって、550〜700℃でイソブテンが製造されうる。
【0025】
次の限定されない実施例と、テストと、添付図面1および添付図面2とによって、本発明がよりよく理解され、またその利点がより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】イソブタンの脱水素反応の間の異なるステンレス鋼についてのコークス重量取得曲線を示すグラフである。
【図2】接触リフォーミング反応の間の異なるステンレス鋼についてのコークス重量取得曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施例]
使用されるステンレス鋼は、
・比較を目的としてテストされるもので、反応器または反応器の要素の製造において一般に使用される高ニッケル含有量を有する3つの標準オーステナイト系ステンレス鋼(ステンレス鋼A、BおよびC)と、
・本発明に従って、削減されたニッケル含有量を有するオーステナイト系ステンレス鋼(ステンレス鋼D)とであった。
【0028】
次の表1には、これらステンレス鋼の組成と、各々のステンレス鋼について下記式を用いて計算される、Ni当量およびCr当量の値とが示される:
Ni当量=%Ni+%Co+0.5(%Mn)+30(%C)+0.3(%Cu)+25(%N)および
Cr当量=%Cr+2.0(%Si)+1.5(%Mo)+5.5(%Al)+1.75(%Nb)+1.5(%Ti)+0.75(%W)。
【表1】

【0029】
さらにステンレス鋼A、BおよびCは、硫黄多くとも0.3%と、燐多くとも0.045%とを含んでいた。ステンレス鋼Dは、硫黄多くとも0.01%と、燐多くとも0.05%とを含んでいた。
【0030】
表からわかるように、ステンレス鋼Dの組成は、オーステナイト系ステンレス鋼A、BおよびCのNi当量およびCr当量の値に非常に近似するNi当量およびCr当量の値を生じた。
【0031】
[実施例1]
表1の異なるステンレス鋼を、イソブタン脱水素反応器においてテストした。
【0032】
テストを行うために次の操作マニュアルを用いた:
・ステンレス鋼の試料を、放電加工によって切り取り、ついで標準表面状態を生じるために、かつ切り取りの際に形成されたかもしれない酸化物膜を除去するために、SiC#180ペーパーを用いて磨いた。
【0033】
・脱脂を、CCl浴、アセトン浴ついでエタノール浴中において行った。
【0034】
・試料を、熱天秤のアームに吊した。
【0035】
・管状反応器を閉鎖し、ついで温度をアルゴン中において上昇させた。
【0036】
・反応混合物を、反応器に注入された。
【0037】
微量天秤によって、1単位時間当たりおよび試料1単位表面積当たりの試料の重量取得を連続的に測定した。
【0038】
表1の異なるステンレス鋼を、アルゴン10%の存在下に水素/イソブタンモル比50/50で温度約650℃で行われる脱水素反応においてテストした。
【0039】
図1は、異なるステンレス鋼A、B、CおよびDについての時間(t、時間(h)における)に応じてコークス化による取得重量(g/m)の変化を示すグラフである。この図は、低ニッケル含有量を有するステンレス鋼Dのコークス化が、標準ステンレス鋼A、BおよびCのコークス化よりも実質的に少なかったことを示す。
【0040】
[実施例2]
表1の異なるステンレス鋼を、接触ナフサリフォーミング反応器においてテストした。ステンレス鋼の試料を準備するためのマニュアルは、上述のマニュアルと同じであった。テスト用マニュアルは、実施例1について記載されたマニュアルと同じであった。
【0041】
接触リフォーミング反応を、水素/炭化水素のモル比6/1で650℃で行った。二次反応は、コークス形成であった。このプロセスにおいて使用される温度で、コークス堆積は、主として触媒源のコークスからなっていた。
【0042】
図2は、異なるステンレス鋼A、B、CおよびDについての時間(t、時間(h)における)に応じてコークス化による取得重量(g/m)の変化グラフを示す。この図は、低ニッケル含有量を有するステンレス鋼Dのコークス化が、標準ステンレス鋼A、BおよびCのコークス化よりも実質的に少なかったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーキングに付された表面と接触させて行われる石油化学方法におけるコーキング現象を減少させる方法であって、該表面に、少なくとも一部においてオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを含む、方法であって、該ステンレス鋼が、下記:
・多くとも0.15重量%のC、
・2〜10重量%のMn、
・多くとも2重量%のNi、
・多くとも4重量%のCu、
・0.1〜0.4重量%のN、
・10〜20重量%のCr、
・多くとも1重量%のSi、および
・残部鉄
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステンレス鋼のC、MnおよびCr量が、
・C;多くとも0.1重量%、
・Mn;5〜10重量%および
・Cr;15〜18重量%
である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステンレス鋼が、下記:
・0.03重量%のC、
・7.5重量%のMn、
・1.6重量%のNi、
・2.8重量%のCu、
・0.2重量%のN、
・16.7重量%のCr
・0.8重量%のSiおよび
・残部鉄
を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼が、下記:
・多くとも0.01重量%のS、
・多くとも0.05重量%のPおよび
・多くとも0.005重量%のB
を含むことを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ステンレス鋼が、0.0005〜0.005重量%のBを含むことを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ステンレス鋼が、下記:
・多くとも0.030重量%のSおよび
・多くとも0.045重量%のP
を含むことを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
さらに前記ステンレス鋼が、
・多くとも1.1重量%のNb、
・多くとも0.40重量%のV、
・多くとも0.05重量%のAl
・多くとも0.002重量%のCa
・多くとも3重量%のMoおよび
・多くとも0.7重量%のTi
を含むことを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ステンレス鋼が、下記:
・0.04重量%のC、
・10重量%のMn、
・1.5重量%のNi、
・4重量%のCu、
・0.1重量%のN、
・17重量%のCr、
・0.5重量%のSi、
・0.7重量%のTiおよび
・残部鉄
を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ステンレス鋼が、下記:
・0.05重量%のC、
・8.5重量%のMn、
・1.5重量%のNi、
・3重量%のCu、
・0.2重量%のN、
・17重量%のCr、
・0.5重量%のSi、
・2.1重量%のMoおよび
・残部鉄
を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれか1項において定義されるステンレス鋼で製造されることを特徴とする、装置。
【請求項11】
請求項1〜9のうちのいずれか1項において定義されるステンレス鋼でコーティングされることを特徴とする、装置。
【請求項12】
請求項1〜9のうちのいずれか1項において定義されるステンレス鋼で製造されることを特徴とする、装置の要素。
【請求項13】
請求項1〜9のうちのいずれか1項において定義されるステンレス鋼でコーティングされることを特徴とする、装置の要素。
【請求項14】
前記装置の要素がすべて、1つの部材で作製されることを特徴とする、請求項12記載の装置の要素の製造方法。
【請求項15】
共遠心処理、プラズマ、PVD、CVD、電着、オーバーレイおよび鍍金から選ばれる少なくとも1つの技術を用いることを特徴とする、請求項13記載の装置の要素の製造方法。
【請求項16】
温度350〜1100℃で行われる石油化学方法の実施における請求項10または11記載の装置の使用方法。
【請求項17】
前記石油化学方法が、温度450〜650℃で改質ガソリンを製造する接触リフォーミング方法であることを特徴とする、請求項16記載の使用方法。
【請求項18】
前記石油化学方法が、温度550〜700℃でイソブテンを製造するためのイソブタンの脱水素であることを特徴とする、請求項16記載の使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−149994(P2009−149994A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40470(P2009−40470)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【分割の表示】特願2002−5437(P2002−5437)の分割
【原出願日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】