説明

耐スクラッチ性を向上させた熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物

以下を含む熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物:(A)熱可塑性樹脂約100重量部;および(B)シラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部。本発明に係る熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、樹脂マトリックスと有機表面処理された金属(酸化物)ナノ粒子と樹脂との間のハイブリッド結合によって、ナノ粒子が樹脂マトリックスに均一に分散され、これによって性京浜の表面損傷に対して優れた耐スクラッチ性を示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐スクラッチ性を向上させた熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、表面有機化処理されたコロイド金属(酸化物)ナノ粒子と熱可塑性樹脂とのハイブリッド結合により、既存の熱可塑性樹脂の固有な物性をそのまま維持しつつ、成形品表面の損傷に対する耐スクラッチ性を顕著に向上させた熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱可塑性樹脂は、ガラスや金属に比べて、比重が小さく、成形性および耐衝撃性などの物性に優れるが、表面における耐スクラッチ性は比較的弱い。
【0003】
特に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体樹脂(ABS)の場合、耐衝撃性、耐化学性、および加工性、ならびに機械的特性に優れているため、電化製品用および電子機器用ハウジング、自動車の内装材および外装材、事務機器などの多様な用途で広く用いられている。しかしながら、樹脂の耐衝撃性向上のために用いられたブタジエン系ゴムによって耐スクラッチ性がかなり低下するため、最終成形品の輸送や使用中にスクラッチが生じ、このスクラッチによって最終成形品の外観が損なわれやすいという短所を有している。
【0004】
該問題点を克服するために、最終成形された樹脂表面に有機−無機ハイブリッド材料をドーピングした後、熱又は紫外線を用いて該有機−無機ハイブリッド材料を硬化させることによって、樹脂表面の耐スクラッチ性を向上させるハードコート法が広く用いられている。しかしながら、かかるハードコート法は、コーティング工程という追加工程が必要となるので、長い工程時間、コストの上昇、環境問題の増大といった欠点を有する。
【0005】
このため、近年、環境問題やコスト問題が課題となる中で、ハードコートによらずに耐スクラッチ性を発現できるノン−コート樹脂への要求が高まっている。また、耐スクラッチ性に優れた樹脂の開発は、外装材産業において常に求められている。
【0006】
したがって、本発明者らは、上記問題点を解決するために、表面有機化処理されたコロイド金属(酸化物)ナノ粒子を、物理的吸着および化学的吸着を通じて押出成形/射出成形工程時に熱可塑性樹脂マトリックス内に該ナノ粒子を均一に分散させることによって、成形品表面の耐スクラッチ性を向上させた樹脂組成物を開発するに至った。
【発明の概要】
【0007】
[開示]
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[技術課題]
本発明の目的は、耐スクラッチ性を向上させた熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、耐スクラッチ性を向上させつつも、加工性、耐衝撃性および耐熱性などの樹脂本来の物性が低下しない熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
本発明のまた他の目的は、従来の無機フィラーの分散と比べて無機フィラーの含量を減らすことができる熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、無機フィラーの含量を減らすことによって、複合体の比重を低減することができる熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、押出加工のみによって金属(酸化物)ナノ粒子が熱可塑性樹脂マトリックスに均一に分散された熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明のまた他の目的は、電化製品および電子機器、自動車の内装材および外装材、ならびに事務機器などの耐スクラッチ性が要求される製品に用いることができる熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の上記およびその他の目的は、以下に説明する本発明によって達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[技術的解決法]
本発明によると、(A)熱可塑性樹脂約100重量部と、(B)シラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部とを含む熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を提供される。
【0016】
本発明の好ましい形態によると、前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)は、金属(酸化物)ナノ粒子とシラン化合物とをゾル−ゲル反応させて製造される。
【0017】
本発明の他の形態によると、前記金属(酸化物)ナノ粒子は、平均粒子径が約1〜300nmの範囲であり、コロイド型のものである。
【0018】
本発明の一形態によると、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ゴム変性グラフト共重合体(g−ABS)約15〜80重量部と、スチレン−アクリロニトリル(SAN)共重合体約20〜85重量部との混合物を含む熱可塑性樹脂約100重量部およびシラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を含む。
【0019】
本発明の一形態によると、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ASTM D790によって測定した厚さ1/4”の試験片の曲げ弾性率が約24,000kgf/cm以上であり、荷重1000g、75mm/minのスクラッチ速度、および直径0.7mmの球形の金属チップを使用した、長さ50mm×幅40mm×厚さ3mmの硬度測定用試験片のボール−タイプ スクラッチ プロファイル テスト(ball−type scratch profiletest)で測定されたスクラッチ プロファイルの、スクラッチ幅が約335μm以下、スクラッチ深さが約15μm以下、スクラッチ領域(Range)が約21μm以下、スクラッチ面積が約4450μm以下である。
【0020】
本発明の一形態によると、前記シラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)が、熱可塑性樹脂(A)マトリックス内に実質的に均一に分散されている。
【0021】
さらに、本発明は、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を押出加工されてなるペレットならびに該ペレットが成形されてなる電化製品および電子機器ならびに自動車の内装材および外装材を含む。
【0022】
本発明は、熱可塑性ナノ複合体樹脂の製造方法を含む。前記方法は、pHが約1〜4であるコロイド金属(酸化物)ナノ粒子(b1)約40〜99.9重量%に、シラン化合物(b2)約0.1〜60重量%を投入して、ゾルゲル反応を通じて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を製造する段階と、前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を熱可塑性樹脂(A)と共に押出加工する段階とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
[図面の説明]
【図1】図1(a)は、実施例3で製造されたナノ複合体樹脂の透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、図1(b)は、比較例3で製造されたナノ複合体樹脂の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】図2は、測定されたスクラッチ プロファイルから耐スクラッチ性の基準を決定するダイヤグラムである。
【図3】図3(a)は、実施例4で製造されたナノ複合体樹脂のスクラッチ プロファイルであり、図3(b)は、比較例4で製造されたナノ複合体樹脂のスクラッチ プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[最良の形態]
(A)熱可塑性樹脂
本発明に係る熱可塑性樹脂(A)は、マトリックス樹脂として用いられ、また、熱可塑性樹脂は特に制限はない。前記熱可塑性樹脂の例には、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエステル、ポリアミド、(メタ)アクリレートの共重合体、芳香族ビニル化合物の(共)重合体樹脂、ゴム変性芳香族ビニルグラフト共重合体樹脂、芳香族ビニル−シアン化ビニル共重合体樹脂などが含まれうるが、これらに制限されるものではない。前記熱可塑性樹脂は、単独で或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0025】
前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−、m−、又はp−メチルスチレン、o−、m−、又はp−エチルスチレン、o−、m−、又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−、又はp−クロロスチレン、ジクロロスチレン、o−、m−、又はp−ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼンなどが含まれるが、これらに制限されるものではない。前記芳香族ビニル化合物は、単独で或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0026】
前記シアン化ビニル系化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルおよびこれらの混合物からなる群から選択されうる。
【0027】
前記ゴムは、ブタジエンゴム、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)などのジエン系ゴム、前記ジエン系ゴムに水素を添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエン単量体の3元共重合体(EPDM)などが含まれるが、これらに制限されるものではない。前記ゴムは、単独で或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
前記(メタ)アクリレートは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。前記(メタ)アクリレートは、単独で或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ゴム変性ポリスチレン(HIPS:耐衝撃性ポリスチレン)樹脂、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体樹脂(ASA樹脂)、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル−エチルアクリレート−スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)およびこれらの混合物からなる群から選択されうる。
【0030】
(B)表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子
表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)は、金属(酸化物)ナノ粒子(b1)とシラン化合物(b2)とをゾルゲル反応させて製造されうる。
【0031】
前記表面有機処理された金属(酸化物)ナノ粒子は、好ましくは約40〜99.9重量%、より好ましくは約70〜99重量%、最も好ましくは約75〜95重量%のコロイド金属(酸化物)ナノ粒子(b1)を、好ましくは約0.1〜60重量%、より好ましくは約1〜30重量%、最も好ましくは約5〜25重量%のアルコキシシラン化合物(b2)とゾルゲル反応させることによって製造できる。なお、本明細書において「コロイド金属ナノ粒子」は、「コロイド金属酸化物ナノ粒子」を含みうる。
【0032】
前記金属(酸化物)ナノ粒子(b1)の例には、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(A1)、酸化チタニウム(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化鉄(Fe)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(CeO)、酸化リチウム(LiO)、酸化銀(AgO)および酸化アンチモン(Sb)などの金属酸化物や、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)などの金属が含まれうる。前記金属(酸化物)ナノ粒子としては、これらが単独で用いられてもよいし、又は2種以上の混合物が用いられてもよい。
【0033】
本発明の金属(酸化物)ナノ粒子(b1)は、平均粒子径が約1〜300nmの範囲であり、より好ましくは約5〜100nmの範囲である。
【0034】
前記金属(酸化物)ナノ粒子(b1)は、球形であってもよく、またコロイド型であってもよい。
【0035】
前記金属(酸化物)ナノ粒子(b1)は、該粒子が実質的に凝集されていない状態であることが好ましく、凝集されていない粒子であることがより好ましい。これは、粒子の凝集が、樹脂マトリックス内での分散性を低下させ、この結果耐スクラッチ性が低減するためである。
【0036】
塩基性(pH8〜12)または酸性(pH1〜4)のコロイド金属の粒子は、金属塩又は金属イオンでカウンターイオンの量を調節することによって安定化されており、これを金属(酸化物)ナノ粒子(b)として用いることができる。好ましくは、pH約1〜4の範囲のコロイド金属ナノ粒子が用いられる。
【0037】
前記シラン化合物(b2)は、コロイド金属ナノ粒子の表面に有機官能基を提供し、疎水性を与え、そして、樹脂組成物内でナノ粒子の分散性を増大させる。
【0038】
前記シラン化合物(b2)は、加水分解性シラン残基およびシラン残基以外の有機残基を一つ以上有するものであって、アクリルオキシアルキルトリメトキシシラン、メタクリロキシアルキルトリメトキシシラン、メタアクリルオキシアルキルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、パーフルオロアルキルトリアルコキシシラン、パーフルオロメチルアルキルトリアルコキシシラン、グリシドオキシアルキルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、メルカプトプロピルトリフェノキシシラン、メルカプトプロピルトリブトキシシランからなる群から選択される一つ以上でありうる。
【0039】
一形態によると、凝集物およびその溶媒相分散体は前記表面有機化処理によって製造されうる。このとき、溶媒約100重量部に対して、金属ナノ粒子(b1)約40〜99.9重量%およびシラン化合物(b2)約0.1〜60重量%を室温で混合し、約40〜80℃の温度で縮合反応させた。この時、溶媒は、水および炭素原子数1〜4のアルコール類のうちの少なくとも1種を含む。縮合反応時間は、好ましくは約1〜6時間行われる。
【0040】
前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)は、脱水および乾燥を通じて粉末状の粒子として製造されうる。前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)は、実質的に凝集されていない状態であることが好ましい。これは、ナノ粒子の凝集が樹脂マトリックス内でのナノ粒子の分散性を低下させるために耐スクラッチ性が弱まるからである。
【0041】
ナノ複合体樹脂組成物の製造
ナノ複合体樹脂組成物は、前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)と熱可塑性樹脂(A)とを混練および押出加工する工程を通じて製造することができる。前記押出加工工程において、表面有機化処理された金属ナノ粒子表面の官能基は、マトリックス樹脂と物理的および化学的に結合し、耐スクラッチ性を向上させた樹脂組成物を製造することができるのである。
【0042】
本発明の一形態は以下の工程を含む;pHが約1〜4であるコロイド金属(酸化物)ナノ粒子(b1)約40〜99.9重量%に、シラン化合物(b2)約0.1〜60重量%を加えて、ゾルゲル反応を通じて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を製造する工程;前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を熱可塑性樹脂(A)と共に押出加工する工程。
【0043】
本発明では、ゾルゲル反応(加水分解による縮合反応)を通じてコロイド金属酸化物の表面を有機化処理することによって、コロイド金属酸化物の熱可塑性樹脂との相溶性が増大する。したがって、表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)が熱可塑性樹脂(A)のマトリックス内に実質的に均一に分散されたナノ複合体構造が形成され、そして、このナノ粒子複合体の構造は、TEM(透過型電子顕微鏡)とSEM(走査型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡によって確認することができる。
【0044】
本発明の一形態によると、ゴム変性グラフト共重合体(g−ABS)約15〜80重量部とスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)約20〜85重量部との混合物を含む熱可塑性樹脂約100重量部と、表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部とを、約200〜270℃で押出加工することによってペレットが製造されうる。前記ゴム変性グラフト共重合体(g−ABS)は、ゴム質重合体約25〜70重量部、芳香族ビニル化合物約40〜90重量部、およびシアン化ビニル系単量体約10〜60重量部をグラフト重合させたグラフト共重合体であり、前記スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)は、芳香族ビニル化合物約40〜90重量部およびアクリロニトリル系単量体約10〜60重量部をグラフト重合させた共重合体である。本発明の一形態によると、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ASTMD790により測定した厚さ1/4”の試験片の曲げ弾性率が約24000Kgf/cm以上であり、荷重1000g、75mm/minのスクラッチ速度、および直径0.7mmの球形の金属チップを使用した、長さ50mm×幅40mm×厚さ3mmの硬度測定用試験片のボールタイプ スクラッチ プロファイル テスト(Ball−type Scratch Profile)testで測定されたスクラッチ プロファイルにおいて、スクラッチ幅が約335μm以下、スクラッチ深さが約15μm以下、スクラッチ領域(Range)が約21μm以下、スクラッチ面積が約4450μm以下のものである。
【0045】
本発明の他の形態によると、ゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS)約100重量部および表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を約200〜270℃で押出加工して、ペレットを製造する。マトリックス樹脂としてゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS)を用いる場合、TEMによって、ナノ粒子が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができ、また、優れた耐スクラッチ性を有することを確認することができる。
【0046】
本発明の他の形態によると、重量平均分子量(M)が約10,000〜約200,000であるポリカーボネート(PC)樹脂約100重量部および表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を約200〜270℃で押出加工して、ペレットを製造する。マトリックス樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いる場合、TEMによってナノ粒子等が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができ、耐スクラッチ性が向上したことを確認することができる。
【0047】
本発明の他の形態によると、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体樹脂(ASA樹脂)約100重量部および表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を約200〜270℃で押出加工して、ペレットを製造する。マトリックス樹脂としてアクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体樹脂を用いる場合、TEMによってナノ粒子が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができ、耐スクラッチ性が向上したことを確認することができる。
【0048】
本発明の他の形態によると、ポリプロピレン(PP)約100重量部および表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を約200〜270℃で押出加工して、ペレットを製造する。マトリックス樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、TEMによってナノ粒子が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができ、耐スクラッチ性が向上したことを確認することができる。
【0049】
本発明のまた他の形態によると、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)共重合体樹脂および表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を約200〜270℃で押出加工して、ペレットを製造する。マトリックス樹脂としてメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂共重合体樹脂を用いる場合、TEMによってナノ粒子が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができ、耐スクラッチ性が向上したことを確認することができる。
【0050】
本発明に係る熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ナノ粒子の表面処理を通じて樹脂マトリックスと有機化処理されたナノ粒子との間のハイブリッド結合による分散性を増大させるため、従来のフィラーよりもサイズの小さいフィラーを少量使用することによって優れた物性を得ることができる。したがって、無機フィラー含量を減らして複合体の比重を小さくし、ナノ粒子表面に有機官能基を導入することによって、熱可塑性樹脂の加工性を維持しながら機械的特性および耐スクラッチ性を向上させる効果を得ることができる。
【0051】
本発明においては、前記熱可塑性複合体樹脂に、任意に添加剤を添加することによって押出加工および射出成形のための熱可塑性複合樹脂が製造される。前記添加剤は、界面活性剤、核形成剤、カップリング剤、フィラー、可塑剤、衝撃緩和剤、混和剤、着色剤、安定剤、潤滑剤、静電気防止剤、顔料、難燃剤およびこれらの混合物が含まれる。
【0052】
本発明に係る熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ナノレベルでの分散を実現することによって、従来の分散よりも無機フィラーの含量を減らし、熱可塑性樹脂の加工性をそのまま維持しつつ、顕著な耐スクラッチ性を有するので、電化製品および電子機器、自動車の内装材および外装材、ならびに事務機器などの耐スクラッチ性が要求される製品に用いられることができる。
【0053】
本発明の一形態によると、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を成形して、テレビ、オーディオ、洗濯機、カセットプレーヤー、MP3、電話機、ビデオプレーヤー、コンピューター、コピー機などの電化製品および電子機器のハウジングとして用いる。
【0054】
本発明の他の形態によると、前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物を成形して、自動車のダッシュボード、インストルメントパネル、ドアパネル、クォーターパネル、ホイールカバーなどの自動車の内装材および外装材に適用する。
【0055】
前記成形方法は、特に制限はないが、押出加工、射出成形、またはキャスティングを含む。また、前記成形方法は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者により容易に実施されうる。
【0056】
本発明は、下記実施例によってさらによく理解される。しかしながら、下記実施例は、本発明の例示目的のためのものであり、添付された特許請求の範囲によって規定される保護範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0057】
[発明の様式]
実施例
下記実施例および比較例で用いられた各成分の仕様は、次のとおりである。
【0058】
(A)熱可塑性樹脂
ポリブタジエン50重量%、スチレン35重量%、およびアクリロニトリル15重量%をグラフト重合したグラフト共重合体(g−ABS)25重量部と、スチレン71.5重量%およびアクリロニトリル28.5重量%を共重合した重量平均分子量が125,000である共重合体(SAN)75重量部とを混合することによって樹脂を調製した。
【0059】
(B)表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子
ナノ粒子の表面積が150m/gであり、pHが1〜4であるコロイドシリカゾル87重量%に、アミノプロピルトリメトキシシラン13重量%を加えて、ゾルゲル反応を通じて粒子表面を有機化処理することによって調製した表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子を用いた。
【0060】
(C)ヒュームド(Fumed)シリカ
ヒュームド(Fumed)シリカは、ナノ粒子の表面積が135+25m/gであるDeggusa社のAerosil 130を用いた。
【0061】
実施例1〜4
前記各成分を下記表1に記載のとおりに混合し、該混合物を溶融し、L/D=29、φ=45mmの二軸押出機を用いて押出成形してペレットとした。該ペレットを80℃で6時間乾燥した。乾燥したペレットを6oz射出成形機を用いて射出成形して、試験片とした。実施例3で得られた熱可塑性ナノ複合体樹脂の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1(a)に示す。ナノ粒子がマトリックス内に均一に分散されている図1から、ナノ粒子が樹脂マトリックス内にナノレベルで均一に分散されている形態(Morphology)を確認することができた。
【0062】
比較例1〜5
比較例1〜4は、表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子の代わりに表面処理されていないヒュームド(Fumed)シリカを用いたことを除いては、前記実施例と同様の方法で製造した。比較例3で製造した熱可塑性ナノ複合体樹脂の形態(Morphology)を透過型電子顕微鏡(TEM)写真により確認し、これを図1(b)に示した。図1(b)に示すように、表面処理されていないヒュームド(Fumed)シリカの場合は、樹脂マトリックス内で凝集が生じることが確認できた。比較例5は、熱可塑性樹脂のみで試験片を製造した。
【0063】
耐スクラッチ性評価
耐スクラッチ性は、ボールタイプ スクラッチ プロファイル(Ball−type Scratch Profile)BSPテストによって測定した。BSPテストは、樹脂表面に一定の荷重と速度で長さ10〜20mmのスクラッチを施した後、施されたスクラッチのプロファイルを表面プロファイル分析器を用いて測定して、耐スクラッチ性の指標となるスクラッチ幅、スクラッチ深さ、スクラッチ領域(Range)、スクラッチ面積から耐スクラッチ性を評価する方法である。スクラッチ プロファイルを測定する表面プロファイル分析器は、接触式の表面プロファイル分析器および非接触式の表面プロファイル分析器のいずれも使用することができる。接触式表面プロファイル分析器は、直径1〜2μmの金属スタイラスチップを用いた表面スキャンによってスクラッチのプロファイルを提供し、非接触式の表面プロファイル分析器は、3次元顕微鏡およびAFMのような光学分析器を含む。本発明では、Ambios社の接触式表面プロファイル分析器(XP−1)を用い、直径が2μmの金属スタイラスのチップを用いた。測定された図2に開示されたダイヤグラムによるスクラッチ プロファイルから、耐スクラッチ性の指標となるスクラッチ幅、スクラッチ深さ、最大ピーク間の領域、スクラッチ面積を決定した。この時、測定されたスクラッチ幅、スクラッチ深さ、最大ピーク間の領域、スクラッチ面積が減少するほど、耐スクラッチ性は増加する。幅、スクラッチ深さ、最大ピーク間の領域の単位は、μmであり、スクラッチ面積の単位は、μmである。スクラッチ測定時、加えられた荷重は、1000g、スクラッチ速度は、75mm/minであり、スクラッチを発生させる金属球状チップは、直径0.7mmのものを使用した。耐スクラッチ性測定に用いられる試験片は、長さ50mm×幅40mm×厚さ3mmサイズの硬度測定用試験片を用いた。図3(a)は、実施例4で測定されたスクラッチ プロファイル写真を示すものであり、図3(b)は、比較例4で測定されたスクラッチ プロファイル写真を示すものである。図2を参照し、実施例および比較例のスクラッチ プロファイル写真から、スクラッチ幅、スクラッチ深さ、最大ピーク間の領域、およびスクラッチ面積を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0064】
曲げ弾性率評価
実施例および比較例の試験片の曲げ弾性率は、ASTM D790に規定された方法により測定し、その結果を下記表1に示した。なお、試験片厚さは1/4”であり、曲げ弾性率の単位はKgf/cmである。
【0065】
【表1】

【0066】
前記表1に示すように、実施例1〜4および比較例1〜4は、無機ナノ粒子を含有しない比較例5に比べて、改善された耐スクラッチ性を示したが、実施例1〜4で製造された本発明の樹脂組成物は、比較例1〜4で製造された樹脂組成物に比べて、同じ含量の無機ナノ粒子を含有時、さらに優れた耐スクラッチ性を示すことが分かった。これは、ナノ粒子の表面処理を通じて樹脂マトリックスと有機化処理されたナノ粒子との間のハイブリッド結合によって分散性を増大させることによって、従来の無機フィラーの分散より小さいサイズのフィラーを少量用いて優れた物性を得ることができるためである。また、図1(b)に示すように、比較例3の表面処理されていないヒュームド(Fumed)シリカの場合は、樹脂マトリックス内で凝集が発生することが確認された。一方、実施例3の表面有機化処理されたシリカを用いた場合には、樹脂マトリックス内によく分散されていることを確認することができた。すなわち、シラン化合物を用いて表面有機化処理された本発明の金属酸化物ナノ粒子使用すると、曲げ弾性率を維持しつつ耐スクラッチ性が顕著に改善されたことを確認することができた。
【0067】
本発明にしたがい、本発明に単なる改良や変形を加えうことはこの分野における通常の知識を有する者であれば容易に相当されうる。これらの改良や変更もまた、本発明の領域に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)および(B)を含む、耐スクラッチ性が改善された熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物;
(A)熱可塑性樹脂約100重量部;
(B)シラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエステル、ポリアミド、(メタ)アクリレート共重合体、芳香族ビニル(共)重合体樹脂、ゴム変性芳香族ビニルグラフト共重合体樹脂、芳香族ビニル−シアン化ビニル共重合体樹脂又はこれらの混合物である、請求項1に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項3】
前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子は、金属(酸化物)ナノ粒子とシラン化合物とをゾルゲル反応させて製造された、請求項1に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項4】
前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子は、約40〜約99.9重量%の金属(酸化物)ナノ粒子と約0.1〜約60重量%のシラン化合物とをゾルゲル反応させて製造された、請求項3に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項5】
前記金属(酸化物)ナノ粒子は、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(A1)、酸化チタニウム(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化鉄(Fe)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(CeO)、酸化リチウム(LiO)、酸化銀(AgO)および酸化アンチモン(Sb)を含む金属酸化物、ならびに銀(Ag)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属(酸化物)ナノ粒子は、平均粒子径が約1〜300nmの範囲であり、コロイド型のものである、請求項3に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項7】
前記シラン化合物は、アクリルオキシアルキルトリメトキシシラン、メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン、メタアクリルオキシアルキルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、パーフルオロアルキルトリアルコキシシラン、パーフルオロメチルアルキルトリアルコキシシラン、グリシドオキシアルキルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、メルカプトプロピルトリフェノキシシランおよびメルカプトプロピルトリブトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ゴム変性グラフト共重合体(g−ABS)約15〜80重量部とスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)約20〜85重量部との混合物を含む熱可塑性樹脂約100重量部およびシラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子約0.1〜約50重量部を含む、請求項1に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、ASTM D790により測定した厚さ1/4”を有する試験片の曲げ弾性率が約24,000kgf/cm以上であり、荷重1000g、75mm/minのスクラッチ速度及び直径0.7mmの球形の金属チップを使用した長さ50mm×幅40mm×厚さ3mmの硬度測定用試験片のボールタイプ スクラッチ プロファイル テストにより測定されたスクラッチ プロファイルにおいて、スクラッチ幅が約335μm以下、スクラッチ深さが約15μm以下、最大ピーク間の領域が約21μm以下、スクラッチ面積が約4,450μm以下である、請求項8に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項10】
前記シラン化合物を用いて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)が、熱可塑性樹脂(A)マトリックス内に実質的に均一に分散されている、請求項1に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物は、界面活性剤、核形成剤、カップリング剤、フィラー、可塑剤、衝撃緩和剤、混和剤、着色剤、安定剤、潤滑剤、静電気防止剤、顔料、難燃剤及びこれらの混合物からなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性ナノ複合体樹脂組成物から製造されてなる成形品。
【請求項13】
以下の工程を含む熱可塑製なの複合体樹脂の製造方法;
pHが約1〜4であるコロイド金属(酸化物)ナノ粒子(b1)約40〜99.9重量%に、シラン化合物(b2)約0.1〜60重量%を加えて、ゾルゲル反応を通じて表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を製造する段階と、
前記表面有機化処理された金属(酸化物)ナノ粒子(B)を熱可塑性樹脂(A)と共に押出加工する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−514893(P2010−514893A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543961(P2009−543961)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006996
【国際公開番号】WO2008/082225
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】