説明

耐ブロッキング性に優れたクリーニングシートおよびこれを用いたクリーニング方法

【解決手段】 本発明のクリーニングシートは、樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射して得られるクリーニングシートであって、(i)溶剤吸収量、(ii)貯蔵弾性率について特定の値を有していることを特徴としている。
【効果】 本発明のクリーニングシートによれば、クリーニングの対象物に損傷を与えたり、汚染したりすることなく確実に対象物のクリーニングを行うことができる。さらに、本発明のクリーニングシートによれば、単独でロール状に巻回した際のシート同士のブロッキングを有効に防止して、ロールからのシートの繰り出しを改善し、ロール形状での取り扱いの容易さや操作性をより一層向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブロッキング性に優れたクリーニングシート、とくにスクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版のクリーニングに好適なロール状に巻回されたクリーニングシート、および該クリーニングシートを用いたスクリーン印刷版のクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイとして液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)が登場し、その需要が伸び続けている。
PDPは、対向する2枚の電極付ガラス基板に挟まれた放電領域に希ガス、窒素などを単体あるいは混合ガスの状態で封入し、電圧を供給することにより、縦横に配置された細線電極の交点でガス放電を起こさせ、それにより発生した紫外線によって、各セルに塗布したR(赤)、G(緑)、B(青)用の蛍光体材料を励起させ可視光を放射する自発光型のディスプレイである。
【0003】
前記蛍光体材料の層は、一般にリブ(隔壁)が設けられた基板のリブとリブとの間に、スクリーン印刷法によって蛍光体インキペーストを印刷することにより形成される。
しかしながら、このようなスクリーン印刷法により、蛍光体インキペーストを印刷する場合、該インキペーストがスクリーン印刷版の裏面(被印刷物に当接する面)に回り込み、インキペーストカスとして付着し、次の印刷において、該インキペーストカスが被印刷物に転着してしまい、印刷精度が確保できなかったり、印刷の境界がぼやけたりするなどの問題点があった。
【0004】
また、カラーLCDにおいては、絶縁性基板上に色素層を平面的に分離配置して形成したカラーフィルタが使用されている。このカラーフィルタの色素層の形成方法として、種々の方法が知られているが、その1つとして基板上にR、G、Bの三原色のインキを印刷する印刷法がある。該印刷法の1つとして、スクリーン印刷法が用いられるが、この場合も前述したPDPと同様の問題が生じやすい。
【0005】
これに対して、スクリーン印刷版の裏面に付着したインキペーストカスの除去方法としては、従来、機械的に掻き取る方法、溶剤を用いてウエスや紙で拭き取る方法、粘着シートを貼り付けて剥がす方法などが知られている。
【0006】
これらのうち、粘着シートを用いる方法は、前2者の方法と比較して、スクリーン印刷版に過度の機械的な損傷を与えることがなく、ウエスや紙に由来するゴミや埃による印刷不良の発生がないと考えられており、該方法に用いる粘着シートとして種々の粘着シートが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、このような粘着シートを用いる方法では、スクリーン印刷版裏面のクリーニング作業を繰り返し行った場合に、粘着剤の一部が基材から剥離してスクリーン印刷版に付着したり、粘着剤層のタックにより、スクリーン印刷版を伸ばして変形させたりして、印刷不良の原因になるという問題があった。
【0008】
さらに、上記粘着シートは、基材と、基材の少なくとも一方の面に形成された粘着剤層とからなる積層構造を有し、製造には、基材の製造と粘着剤層の製造(基材に対する粘着加工工程)という少なくとも2種の製造工程を要するため、コストが嵩む上、より多量の
有機溶剤を使用する傾向があり、生産効率、コストダウンおよび環境問題の観点からも好ましくないという問題があった。
【0009】
また、上記粘着シートでは、ロール状に巻回する際、粘着剤層を保護するために、粘着剤層上に剥離ライナーを設けることが必要であり、その分の製造工程数や材料費が増し、生産効率が悪くコストがかかるほか、剥離ライナー由来の剥離剤が粘着剤層に移行して粘着剤の性能を劣化させるなどの不都合があった。
【0010】
これに対して、本発明者らは、上記問題点を解決すべく検討し、特定の物性値を有する単層構造のクリーニングシートによれば、上記問題点を解決することが可能であることを見出した(特許文献3)。
【0011】
しかしながら、このクリーニングシートを単独で巻回し、ロール状態で使用する際に、巻回されたシート間でブロッキングが発生し、ロールからシートを繰り出すのに力を要する場合があった。
【特許文献1】特許第3280367号公報
【特許文献2】特許第3281323号公報
【特許文献3】特願2004−065826号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、スクリーン印刷版のクリーニングに好適で、生産効率、コスト面および環境面でも有利な単層構造のクリーニングシートの優れたクリーニング性能を維持しつつ、該クリーニングシートを単独でロール状に巻回したときのブロッキングの発生を有効に防止して、ロールからのシートの繰り出しをスムーズに行えるように改善し、ロール状態で使用する際の取り扱いの容易さや操作性をより一層向上させたクリーニングシートを提供することを目的としている。
【0013】
また、本発明は、該クリーニングシートを用いたスクリーン印刷版のクリーニング方法を提供することをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、たとえば以下の事項に関する。
本発明に係るクリーニングシートは、樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射して得られるクリーニングシートであって、下記物性(i)および(ii)を有することを特徴としている;(i)ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに1秒間浸漬させた後の溶剤吸収量が5g/m2以上であり、(ii)23℃、11Hzにおいて測定した貯蔵弾性率が5.00×106〜3.00×108Paの範囲にある。
【0015】
前記クリーニングシートは、その片面をステンレス板に圧着させた後に測定した引張りせん断接着強度(JIS K 6850に準拠)が0.01〜1.0N/mm2の範囲にあることが好ましい。
【0016】
さらに、前記クリーニングシートは、90°剥離力(JIS Z 0237に準拠)が2.0N/
25mm以下であることが好ましい。
前記クリーニングシートは、厚さが30〜1000μmの範囲であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記クリーニングシートは、単独で巻回されたロール状であることが望ましい。
前記クリーニングシートは、スクリーン印刷版のクリーニングに好適に用いられる。
【0018】
また、本発明に係るスクリーン印刷版のクリーニング方法は、前記クリーニングシートと、スクリーン印刷版の裏面とを圧接することにより、該裏面に付着していたインキペーストカスを該クリーニングシートに転着させ、
次いで、該クリーニングシートをインキペーストカスとともにスクリーン印刷版の裏面から剥離することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のクリーニングシートによれば、クリーニングの対象物に損傷を与えたり、汚染したりすることなく確実に対象物のクリーニングを行うことができる。たとえば、クリーニングの対象物がスクリーン印刷版の場合には、スクリーン印刷版の損傷、ゴミや埃さらにはシート材の付着などによる印刷不良の発生を防止し、スクリーン印刷版の裏面に裏回りしたインキペーストカスを確実に除去することができる。すなわち、本発明のクリーニングシートは、単層構造であるため、基材上に粘着剤層を設けたいわゆる粘着シートと異なり、スクリーン印刷版裏面のクリーニング作業を繰り返し行っても、粘着剤が剥離してスクリーン印刷版裏面に付着し印刷不良を発生させることがなく、取り扱いが容易で、製造工程を簡素化でき、生産効率、コスト面および環境面でも有利である。
【0020】
また、本発明のクリーニングシートによれば、単独でロール状に巻回した際のシート同士のブロッキングを有効に防止して、ロールからのシートの繰り出しをよりスムーズにし、ロール形状での取り扱いの容易さや操作性を一層向上させることができる。
【0021】
また、本発明のスクリーン印刷版のクリーニング方法によれば、スクリーン印刷版の損傷、スクリーン印刷版へのゴミや埃さらにはシート材の付着などによる印刷不良の発生を防止できる上、スクリーン印刷版の裏面に裏回りしたインキペーストカスを確実に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
<クリーニングシート>
本発明に係るクリーニングシートは、樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射して得られるクリーニングシートであって、下記物性(i)および(ii)を有することを特徴としている。
【0023】
すなわち、該クリーニングシートは、(i)ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに1秒間浸漬させた後の溶剤吸収量が5g/m2以上であり、(ii)23℃、11Hzにおいて測定した貯蔵弾性率が5.00×106〜3.00×108Paの範囲にある。
【0024】
つまり、本発明のクリーニングシートは、樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射して得られる、特定の物性値を有する単層構造のシートであり、基材と該基材の少なくとも一方の面に形成された粘着剤層とからなる積層構造を有する従来公知のスクリーン印刷版クリーニング用粘着シートとは明らかに異なる構成を有している。
【0025】
まず、上記物性(i)および(ii)について説明する。
本発明のクリーニングシートは、スクリーン印刷版に裏回りしたインキペーストカス、とくに、スクリーン印刷版に裏回りしたインキペーストから溶剤の少なくとも一部が揮発したペースト状あるいは半固形物化したインキペーストカスなどの溶剤含有物を除去する
のに好適な溶剤吸収能を有している。
【0026】
一般に、PDPあるいはLCD製造におけるスクリーン印刷に用いられるインキペーストの溶剤としては、種々の溶剤が知られている。PDPの蛍光体インキペーストに用いられる溶剤の一例を挙げると、たとえば、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのジアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0027】
したがって、本発明のクリーニングシートは、これらの溶剤に対して適度な溶剤吸収能を有することが好ましいが、便宜上、本明細書では、これらのうちジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートとの関係で溶剤吸収量を定義する。
【0028】
すなわち、本明細書において溶剤吸収量とは、クリーニングシートを、大気雰囲気下、23℃で、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに1秒間浸漬させた後の溶剤吸収量を意味し、該溶剤吸収量は5g/m2以上であることが好ましく、6g/m2以上がより好ましい。なお、上限値はとくに限定されないが通常50g/m2以下である。
【0029】
溶剤吸収量が上記下限値以上であると、該クリーニングシートがインキペーストカスなどの溶剤含有物に含まれる溶剤を充分に吸収できるため、該クリーニングシートに対するインキペーストカスなどの溶剤含有物の転着が容易となる。
【0030】
さらに、上記クリーニングシートは、上述した溶剤吸収量を有することに加えて、23℃、11Hzにおいて測定した貯蔵弾性率が通常5.00×106〜3.00×108Pa、好ましくは8.00×106〜1.00×108Pa、より好ましくは1.00×107
〜8.00×107Paの範囲にある。
【0031】
23℃、11Hzにおいて測定した貯蔵弾性率が上記範囲内にあると、クリーニングシートの凝集力が適度に高く、該クリーニングシートと、クリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版の裏面とを圧接後、剥離する際にクリーニングシートの伸び破けを防止するのに充分な強度を有し、クリーニングシート剥離後のスクリーン印刷版にシート材(クリーニングシートの一部)などの付着物を残すことがない。さらに、貯蔵弾性率が上記範囲内の値であると、クリーニングシートの柔軟性および形状保持能のバランスが良好で、クリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版への追従性に優れる上、該クリーニングシート単独での取り扱いが可能である。
【0032】
さらに、本発明のクリーニングシートは、上記(i)(ii)の物性に加えて他の物性も有していることが好ましい。
より具体的には、本発明のクリーニングシートは、該クリーニングシートの片面をステンレス板に圧着させた後に測定した引張りせん断接着強度(JIS K 6850に準拠)が通常0.01〜1.0N/mm2、好ましくは0.03〜0.5N/mm2の範囲にあることが望ましい。
【0033】
なお、本明細書において、引張りせん断接着強度とは、JIS K 6850に準拠して測定した値を意味するが、測定対象物が単層構造の場合には、測定対象物自体の伸びの影響を取り
除くため、測定対象物のステンレス板に圧着させる面とは反対の面に、粘着フィルム(厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に粘着剤層が設けられたもの)を貼り合せたものを測定試料として用いて、JIS K 6850に準拠して測定した値を意味する。
【0034】
クリーニングシートの引張りせん断接着強度が上記範囲内にあると、クリーニングの対象物に対し、優れたクリーニング性能を発揮できるため好ましい。たとえば、クリーニングの対象物がスクリーン印刷版である場合には、スクリーン印刷版の裏面に付着したインキペーストカスの除去に充分な貼着性を発揮でき、かつ、スクリーン印刷版を伸ばして変形させることがない。ここで、貼着性とは、粘着剤のいわゆる迅速粘着性(タック性)とは異なり、クリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版の裏面に対する追従性とせん断方向の力に対する保持力とを有することを意味する。
【0035】
なお、上記引張りせん断接着強度の値は、本発明のクリーニングシートの少なくとも一方の面、すなわち、クリーニングシートの片面あるいは両面で達成されていることが好ましいが、実際にはクリーニングに用いる面、たとえば、スクリーン印刷版のクリーニングの場合には、スクリーン印刷版の裏面に圧接してクリーニングに用いる面について達成されていればよく、この面のみについて該物性値が達成されていれば、他方の面の引張りせん断接着強度が該物性値に届かなくても使用上の不都合はなく、単独で巻回しロール状にする点からはブロッキング防止などの意味でむしろ後者の態様が望ましい。
【0036】
さらに、本発明のクリーニングシートは、タイプAデュロメータ硬度(JIS K 6253に準拠)が通常70〜96、好ましくは75〜93、より好ましくは80〜90の範囲にあることが望ましい。
【0037】
タイプAデュロメータ硬度が上記範囲内にあると、クリーニングシートの凝集力低下に起因してクリーニングシートの一部(シート材)がクリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版に付着し残留することがなく、さらにスクリーン印刷版に対する追従性にも優れる。
【0038】
このようなクリーニングシートは、樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射することによって得ることができる。
前記樹脂としては、とくに限定されないが、たとえば、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のアイオノマー、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、ABS樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて樹脂組成物あるいは共重合体として用いてもよい。
【0039】
これらのうちでは、シート状に成形した場合にクリーニングの対象物に対する追従性に優れる点からは、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂が好ましく、ポリウレタン系樹脂がより好ましい。
【0040】
ポリウレタン系樹脂としては、ポリウレタンエラストマーが挙げられ、なかでも熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましく挙げられる。
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下、単にTPUともいう。)は、一般に長鎖ポリオール、鎖延長剤、ジイソシアネートを反応させて得られ、長鎖ポリオールから誘導さ
れる構成単位を有するソフトセグメントと、鎖延長剤とジイソシアネートとの反応から得られるポリウレタン構造を有するハードセグメントとからなる。
【0041】
TPUを、そのソフトセグメント成分として用いる長鎖ポリオールの種類によって分類すると、ポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート系ポリウレタンエラストマーなどに分けられる。本発明では、これらのうち、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーが好ましく用いられる。
【0042】
長鎖ポリオールとしては、具体的には、ラクトン系ポリエステルポリオール、アジペート系ポリエステルポリオールなどのポリエステルポリオール;ポリプロピレン(エチレン)ポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。本発明では、これらのうち、ポリエーテルポリオールが好ましく用いられ、その数平均分子量は、通常600〜5000である。
【0043】
ジイソシアネートとしては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ヘキ
サメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのうちでは、ピュアMDIが好ましく用いられる。
【0044】
鎖延長剤としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの低分子多価アルコール、芳香族ジアミンなどが挙げられる。
このような長鎖ポリオール、ジイソシアネート、鎖延長剤の配合量を調節し、そのソフトセグメント量とハードセグメント量を調整することによって、所望の物性値を有するTPUを製造することが可能である。この際、一般的な傾向として、TPUを構成するハードセグメント量が多くなると、貯蔵弾性率および硬度は増す一方、引張りせん断接着強度は低下し、ソフトセグメント量が多くなると、これとは逆の傾向が見られる。
【0045】
なお、前記樹脂には、必要に応じて、本発明の効果を損ねない範囲内の量で、種々の添加剤、溶剤などをさらに配合してもよい。
添加剤としては、たとえば、有機粉体または無機粉体などの充填剤;芳香族エステル、塩素化パラフィンなどの可塑剤;UV吸収剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
溶剤としては、公知の溶剤のうち、上述した樹脂や添加剤を、充分に溶解あるいは分散させることができるものであればよく、とくに限定されない。
上述した樹脂、あるいは上記各成分を公知の方法で適宜、混合、加熱、溶解、溶融等して得られた樹脂組成物を、押出成形、圧縮成形、インフレーション成形、カレンダー成形、キャスト法などの公知の成形方法によって単層シートに成形する。次いで、得られた単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射することによって、本発明のクリーニングシートを得ることができる。
【0047】
また、上記樹脂あるいは樹脂組成物を適当な溶剤に溶解して得た溶液を、基材上にディップコートやスピンコートなどによって塗布、乾燥してフィルムを形成し、その後、基材を剥離し、単層シートを得た後、少なくともその片面に1〜50Mradの電子線を照射することによって、本発明のクリーニングシートを得てもよい。
【0048】
電子線の照射処理は、上記単層シートの片面あるいは両面に、通常、窒素気流下で、熱電子の加速電圧130〜300kV、ビーム電流10〜30mAの条件下で、1〜50Mradの電子線を照射することによって行われる。
【0049】
好ましくは、窒素気流下で、熱電子の加速電圧150〜250kV、ビーム電流15〜25mAの条件下で、3〜40Mradの電子線を照射する。
なお、20Mradを超える電子線を単層シートに照射する場合には、20Mradを超える電子線を1回で照射してもよいが、20Mrad以下の電子線を数回にわけて総照射線量が所定の量となるまで照射してもよい。
【0050】
このような条件で電子線の照射処理を単層シートに施すと、照射された面の表層が架橋され、引張りせん断接着強度、貯蔵弾性率、タイプAデュロメータ硬度、溶剤吸収量などについて上記所定の値を満たしつつも、ブロッキングが有効に防止され、単独でロール状に巻回した際のシートの繰り出しが改善され、ロール形状での取り扱いの容易さや操作性を一層向上させたクリーニングシートを得ることが可能となる。なお、該電子線照射処理は、単層シートの両面に行ってもよいが、ブロッキング防止の観点からは、通常は片面のみ、とくにクリーニングに使用する面とは反対の面について行えば充分である。
【0051】
このようにして得られたクリーニングシートを用いて、スクリーン印刷版のクリーニングを好適に行うことができる。通常、スクリーン印刷版のクリーニングに用いられるシートは、既に印刷版のクリーニングに使用したシートを回収し、未使用のシートを新たにクリーニングに使用するために、該シートをロール状に巻回した状態で、該シートを繰り出しながら使用するのが効率的である。
【0052】
しかしながら、このようなシートとして、従来公知のいわゆる粘着シートを用いた場合には、ロール状に巻回する際に、粘着剤層とこれに重なる基材との粘着から粘着剤層を保護するために、粘着剤層上に剥離ライナーを設けることが必要であった。
【0053】
また、特許文献3に記載されている単層シートからなるクリーニングシートは、形状保持能が高いため、剥離ライナーを設けることなく、単独でロール状に巻回することが可能であるが、ロール状態で使用する際に、巻回されたシート間でブロッキングが発生し、ロールからシートの繰り出しがスムーズに行かずに力を要する場合があった。
【0054】
これに対して、本発明のクリーニングシートでは、シート同士のブロッキングが有効に防止され、単独でロール状に巻回した際の、シートの繰り出しが改善され、ロール形状での取り扱いの容易さや操作性がより向上している。
【0055】
クリーニングシートを単独でロール状に巻回した場合のロールからのクリーニングシートの繰り出しの容易さは、クリーニングシートの90°剥離力(JIS Z0237に準拠)を測
定することによって、評価することができる。
【0056】
クリーニングシートの90°剥離力は、該シート表面に対するシート裏面の90°剥離力をJIS Z0237の90度引き剥がし法に準拠して測定することで求めることができる。具
体的には、図1に示すように、2枚のクリーニングシートの表面と裏面とを重ね合わせた状態で24時間放置後、一方のクリーニングシート(固定側試験片3)を基板1に固定し、他方の基板1に固定されていないクリーニングシート(可動側試験片5)を引き剥がしながら持ち上げ、双方のシートがなす角度が90°となるように引き剥がすのに必要な力(N/25mm)として測定される。
【0057】
本発明のクリーニングシートの90°剥離力(JIS Z0237に準拠)は2.0N/25mm以下であることが好ましく、0.01〜1.5N/25mmの範囲にあることがより好ま
しい。クリーニングシートの90°剥離力(JIS Z0237に準拠)が上記値以下であると、
ロール状に巻回したクリーニングシートからスムーズにシートを繰り出せるため、ロール形状での取り扱いの容易さや操作性が向上する。
【0058】
なお、該クリーニングシートの厚さは、ロール状に巻回しうると共に、クリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版に圧接し剥離する動作に耐え得る適度の破断強度を有する点から、通常30〜1000μm、好ましくは50〜600μmの範囲であることが望ましい。該クリーニングシートの幅は、クリーニングの対象物、たとえばスクリーン印刷版のサイズに応じて適宜選定することができる。
<スクリーン印刷版のクリーニング方法>
本発明のスクリーン印刷版のクリーニング方法は、前記クリーニングシートと、スクリーン印刷版の裏面とを圧接することにより、該裏面に付着していたインキペーストカスを該クリーニングシートに転着させ、
次いで、該クリーニングシートをインキペーストカスとともにスクリーン印刷版の裏面から剥離することを特徴としている。
【0059】
より具体的には、たとえば、単独で巻回したロール状のクリーニングシートを繰り出しながら、スクリーン印刷版の裏面と圧接させて、該裏面に付着していたインキペーストカスをクリーニングシートに転着させて、クリーニングシートごと剥離することにより、該裏面からインキペーストカスを除去する。
【0060】
なお、シートの成形方法や処理によっては、得られたクリーニングシートの表裏で引張りせん断接着強度が異なる場合がありうる。この場合には、前述した引張りせん断接着強度(JIS K 6850に準拠)が0.01〜1.0N/mm2の範囲にある面と、スクリーン印刷版の裏面とが当接するようにして使用する方がよい。
【0061】
この際、(i)スクリーン印刷版を固定し、クリーニングシートを圧接するためのロールを、クリーニングシートを介して印刷版裏面に圧接させながら移動させて、クリーニングシートを繰り出してもよく、逆に(ii)該ロールを固定し、クリーニングシートを介してスクリーン印刷版を移動させ、スクリーン印刷版裏面と該ロール上のクリーニングシートとを圧接させながら、クリーニングシートを繰り出してもよく、あるいは、(iii)ク
リーニングシートを圧接するためのロールとスクリーン印刷版の双方を、クリーニングシートを介して圧接させながら移動させることによりクリーニングシートを繰り出してもよい。
【0062】
本発明のクリーニングシートおよびクリーニング方法は、クリーニング対象物から溶剤を含有する付着物(ペースト状あるいは半固形物化したインキペーストカスなどの溶剤含有物)を除去するのに好適であり、とくに精密電子部品、光学部品などの製造工程に用いられるスクリーン印刷版のクリーニングに好ましく適用される。該精密電子部品、光学部品としては、製造工程中にスクリーン印刷工程を有するものであればよく、とくに制限されないが、たとえばPDPやLCDなどに適用することができ、とくにPDPに使用するスクリーン印刷版に好ましく用いることができる。
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例中、(1)引張りせん断接着強度の測定、(2)貯蔵弾性率の測定、(3)タイプAデュロメータ硬度の測定、(4)溶剤吸収量の測定、(5)クリーニング性試験、(6)90°剥離力の測定は下記の方法で行った。
(1)引張りせん断接着強度の測定
JIS K 6850に準拠し、測定対象物を25mm×100mmにカットして得た試験片を、SUS430BAの端面に2kgゴムロールで圧着面積が25mm×12.5mmになるように圧着させ、50mm/minの引張り速度でせん断方向に引張り、剥離に至るまでの最大荷
重を測定し、該最大荷重から引張りせん断接着強度を算出した。
【0064】
ただし、測定対象物が単層構造のシートの場合には、測定時における測定対象物の伸びの影響を取り除くため、測定対象物のSUS430BAに圧着させる面とは反対の面に、厚さ25μmのPETフィルムの片面に20μm厚の粘着剤層と剥離シートとが設けられた粘着フィルム(商品名「PET25(A)PLシン 8LK」;リンテック(株)社製)から剥離シートを剥がして貼り合せ、25mm×100mmにカットしたものを試験片として用いた。
(2)貯蔵弾性率の測定
貯蔵弾性率は、23℃、11Hzの条件下で、粘弾性測定装置(商品名「レオバイブロンDDV−II−EA」;オリエンテック(株)社製)を用いて測定した。
(3)タイプAデュロメータ硬度の測定
タイプAデュロメータ硬度は、JIS K 6253.5.4に従い測定した。
(4)溶剤吸収量の測定
溶剤吸収量は、クリーニングシートの重量を測定した後、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用い、該クリーニングシートを大気雰囲気下、23℃で該溶剤に1秒間浸漬後、ろ紙(商品名「キムワイプ ワイパー S200」;(株)クレシア社製)で挟み、表面に付着している該溶剤を除去して浸漬後の重量を測定し、浸漬前後の重量差を求めることにより算出した。
(5)クリーニング性試験
インキペーストが裏回りしたスクリーン印刷版(東京プロセスサービス(株)社製、ステンレス版)の裏面に、実施例および比較例で得られたクリーニングシートを、2kgゴムローラーを用いて圧接した後、剥離し、印刷版へのインキペースト残りの有無、版へのシート材の残留物の有無、使用後のクリーニングシートの破けおよびシワの有無を目視で確認した。なお、片面に電子線照射処理がなされたクリーニングシートについては、電子線照射処理面とは反対側の面が印刷版に接するようにしてクリーニングに使用した。
(6)90°剥離力の測定
JIS Z0237の90度引き剥がし法に準拠し、測定対象物を25mm×250mmにカッ
トして得た2枚の試験片を図1に示すように、試験片の表面と裏面とを重ね合わせた状態で24時間放置後、一方の試験片(固定側試験片3)を基板1に固定し、他方の基板1に固定されていない試験片(可動側試験片5)を引き剥がしながら持ち上げ、双方の試験片がなす角度が90°となるように引き剥がすのに必要な力(N/25mm)を測定した。
【実施例1】
【0065】
ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー(商品名「レザミンP−2283」;大日精化工
業(株)社製)を200℃に加熱して溶融し、Tダイを用いて工程フィルム(商品名「PET50 AL-5」;リンテック(株)社製)上に厚さ80μmのシート状に溶融押し出しを行い、得られたシートの片面(工程フィルムとは反対側の面)に、冷却ドラムを押し当て冷却した後、工程フィルムと共にロール状に巻回した。次いで、該ロールからシートを繰り出しながら、工程フィルムを剥がし、その片面(冷却ドラムを押し当てた面)に、電子線照射装置を用いて、窒素気流下、加速電圧200kV、ビーム電流20mA、線量5Mrad、被照射体までの距離20mmの条件で、電子線の照射を行い(総照射線量5Mrad)、再びロール状に巻回し、ロール状のクリーニングシートを得た。
【0066】
得られたクリーニングシートを用いて、引張りせん断接着強度、貯蔵弾性率、タイプAデュロメータ硬度、溶剤吸収量の測定、クリーニング性試験、90°剥離力の測定を行った。
【0067】
結果を表1に示す。
【実施例2】
【0068】
電子線の線量を40Mrad(20Mradを2回照射して、総照射線量40Mrad)に変更したほかは実施例1と同様にして、ロール状のクリーニングシートを得た。
得られたクリーニングシートを用いて、引張りせん断接着強度、貯蔵弾性率、タイプAデュロメータ硬度、溶剤吸収量の測定、クリーニング性試験、90°剥離力の測定を行った。
【0069】
結果を表1に示す。
[比較例1]
電子線の線量を60Mrad(30Mradを2回照射して、総照射線量60Mrad)に変更したほかは実施例1と同様にして、ロール状のクリーニングシートを得た。
【0070】
得られたクリーニングシートを用いて、引張りせん断接着強度、貯蔵弾性率、タイプAデュロメータ硬度、溶剤吸収量の測定、クリーニング性試験、90°剥離力の測定を行った。
【0071】
結果を表1に示す。
[比較例2]
電子線の照射処理を行わなかったほかは実施例1と同様にしてロール状のクリーニングシートを得た。
【0072】
得られたクリーニングシートを用いて、引張りせん断接着強度、貯蔵弾性率、タイプAデュロメータ硬度、溶剤吸収量の測定、クリーニング性試験、90°剥離力の測定を行った。
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、特定量の電子線の照射処理を施した実施例1〜2では、そのような処理をしていない比較例2と比較して、同等のクリーニング性能を有すると共に、シート同士のブロッキングが防止され、ロールからのシートの繰り出しが改善されていることが分かる。また、電子線の照射量が特定量から外れた比較例1では、クリーニング性能が劣っている上に、ロールからのシートの繰り出しが不可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、90°剥離力測定のイメージ図である。
【符号の説明】
【0077】
1:基板
3:固定側試験片
5:可動側試験片
7:表面と裏面とを重ね合わせた試験片組

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含有してなる単層シートの少なくとも片面に1〜50Mradの電子線を照射して得られるクリーニングシートであって、下記物性(i)および(ii)を有することを特徴とするクリーニングシート;
(i)ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに1秒間浸漬させた後の溶剤吸収量が5g/m2以上であり、
(ii)23℃、11Hzにおいて測定した貯蔵弾性率が5.00×106〜3.00×
108Paの範囲にある。
【請求項2】
前記クリーニングシートの片面をステンレス板に圧着させた後に測定した引張りせん断接着強度(JIS K 6850に準拠)が0.01〜1.0N/mm2の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のクリーニングシート。
【請求項3】
90°剥離力(JIS Z 0237に準拠)が2.0N/25mm以下であることを特徴とする
請求項1または2に記載のクリーニングシート。
【請求項4】
厚さが30〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクリーニングシート。
【請求項5】
単独で巻回されたロール状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクリーニングシート。
【請求項6】
スクリーン印刷版のクリーニングに用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のクリーニングシート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のクリーニングシートと、スクリーン印刷版の裏面とを圧接することにより、該裏面に付着していたインキペーストカスを該クリーニングシートに転着させ、
次いで、該クリーニングシートをインキペーストカスとともにスクリーン印刷版の裏面から剥離することを特徴とするスクリーン印刷版のクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−223562(P2006−223562A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40831(P2005−40831)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】