耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法およびUO鋼管
【課題】溶接金属の化学組成には何ら制限を加えず、しかも製造工程の効率を下げることなく、UO鋼管のシーム溶接部の溶接金属に発生する低温割れを防止するUO鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】先行するシーム溶接と後続するシーム溶接により形成されるUO鋼管のシーム溶接部において、先行するシーム溶接部の拡散性水素量の上限を制限すると共に、先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1の比を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5に規定することにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減する。
【解決手段】先行するシーム溶接と後続するシーム溶接により形成されるUO鋼管のシーム溶接部において、先行するシーム溶接部の拡散性水素量の上限を制限すると共に、先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1の比を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5に規定することにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス・原油輸送用ラインパイプ等に用いられる、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正して製造するUO鋼管において、シーム溶接部に低温割れのないUO鋼管の製造方法とその製造方法により製造されたUO鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等を輸送するラインパイプ用の大型サイズの鋼管として、一般にはUO鋼管が使用される。UO鋼管は、鋼板をU型に成形した後、さらにO型に成形して円筒状に成形し、その突き合わせ部を溶接によりつなぎあわせて円筒の鋼管とする。この溶接を一般にはシーム溶接と呼ぶ。この突き合わせ部の溶接には溶接速度が速く、かつ溶接部の品質も良好なサブマージアーク溶接が使用される。しかし、それ以外にガスシールドアーク溶接やレーザービーム溶接を使用しても問題がない。また、一般には、円筒状に成形された鋼管の内面から先ず先行するシーム溶接を行い、その後外面から後続するシーム溶接を行うことにより内面側および外面側から各々1層ずつ溶接を行いシーム溶接を完了するが、逆の順番で外面から先行するシーム溶接を行い、内面から後続するシーム溶接を行うこともできる。さらに、一般には、先行するシーム溶接に先立ち、円筒状に成形した鋼板の突き合わせ部を、ガスシールド溶接等により予め仮止めの溶接を行う。この際には、一般に仮止めの溶接部はシーム溶接により溶融され、最終的なシーム溶接部には残らない。
【0003】
以上の様にして円筒に成形・溶接された鋼管は、さらに拡管あるいは縮管などの矯正加工を施して最終的に製品としてのUO鋼管が製造される。そのため、UOE鋼管と呼ばれることもある。
【0004】
従来では、X65やX80グレード(米国石油協会規格、API規格)のものが使用されてきたが、近年輸送効率の向上、ラインパイプの建設コストの低減あるいは輸送コストの低減を目的として、母材の引張強度が850MPa以上のX100からX120級の高強度のUO鋼管の開発が進められている。
【0005】
これらの高強度UO鋼管のシーム溶接に使用される溶接金属は当然母材と同等以上の引張強度を有する事が要求されるため高強度の溶接金属が採用される。
【0006】
しかし、高強度の溶接金属では溶接後に溶接金属の硬さ、溶接金属に含まれる拡散性水素及び溶接時に溶接部に発生する引張の溶接残留応力の3者により起こる低温割れが発生する。そのため、高強度UO鋼管のシーム溶接部にも低温割れが発生する。
【0007】
このような低温割れの問題に対しては、例えば特許文献1では使用する溶接金属の化学組成、溶接金属の化学組成から計算により得られるPcmおよび、溶接金属部の100℃までの冷却時間をPcmと拡散性水素から計算される冷却時間以上に制限して低温割れ防止する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、溶接金属の引張強度あるいは溶接金属の化学組成から計算により得られる変態温度の上限を375℃以下に制限して低温割れを防ぐ方法が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献3では、UO鋼管のシーム溶接を終了後、拡散成形するまでの時間を30分以上にすることにより低温割れを防ぐ方法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−33876号公報
【特許文献2】特開2001−71176号公報
【特許文献3】特開2003−311321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1あるいは特許文献2で開示されている方法は、何れも低温割れを防ぐため制御する必要があるPcmあるいは変態温度は、溶接金属の化学組成で決まり、これは溶接金属の化学組成を設計する上で制限となる。すなわち、溶接金属には強度や低温靭性あるいは変形能等の特性も要求され、溶接金属の化学組成を決める上で、不要の制限を加えるのは好ましくはない。
【0012】
また、特許文献1では100℃までの冷却時間をPcmと拡散性水素から計算される冷却時間以上に長くする、また、特許文献3ではシーム溶接後の拡管成形までの時間を30分以上にするなど、何れも製造工程の時間を長くすることになり、これは生産効率の向上が要求される工業生産に適用するには問題がある。
【0013】
本発明は、溶接金属の化学組成には何ら制限を加えることなく、さらに製造工程においても効率を下げることなく、UO鋼管のシーム溶接部の溶接金属に発生する低温割れを防ぐ製造方法を提供し、また、その製造方法により製造されたUO鋼管を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するためにUO鋼管のシーム溶接時における低温割れの発生状況を詳細に検討した結果、シーム溶接金属に発生する低温割れは先行するシーム溶接の溶接金属で発生することが判明した。さらに、詳細に検討した結果、先行するシーム溶接の溶接金属に存在する拡散性水素量の上限を規定すると共に、先行するシーム溶接の溶接金属に発生する残留応力を溶接条件あるいは開先形状を制御して低減することによりUO鋼管のシーム溶接部に発生する低温割れを防止できることを見いだした。
【0015】
すなわち、本発明の第1の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.4≦W2/W1≦2.5に規定してシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管製造方法、である。
【0016】
本発明の第2の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ後続するシーム溶接を実施する際に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高到達温度をT1、先行するシーム溶接の溶接金属のAc1変態温度をAc1とする時、T1/Ac1が0.65≦T1/Ac1≦1.2を満足させてシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法、である。
【0017】
本発明の第3の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に、0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管、である。
【0018】
本発明の第4の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、先行するシーム溶接により形成された溶接金属内において、後続するシーム溶接により形成された溶接熱影響部の幅をfとする場合に、0.1≦f/W1≦1.0の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管、である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、天然ガス・原油輸送用ラインパイプ等に用いられる、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて内外面からシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、溶接金属の化学組成に対して何ら制限を加えることなく、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素の上限と、シーム溶接の溶接金属の厚さの比、あるいは先行するシーム溶接金属の表面温度、あるいはシーム溶接金属と溶接熱影響部の比を制御することのみで、シーム溶接金属に発生する低温割れを防止するものである。そのため、溶接金属に必要な特性を得るための成分設計の自由度が増す。さらにシーム溶接を行った後の工程の開始までの時間を何ら制限することもないため、製造工程に対する影響もない。これらのことから、本発明により、シーム溶接部に低温割れがなく、性能の高い溶接部を持つUO鋼管を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明では、適用する母材および溶接金属の強度の範囲を850MPa以上1200MPaに限定した。この理由は、溶接金属の引張強度が850MPa未満の場合は強度が低く溶接金属で低温割れは起こらず、母材の溶接熱影響部に発生し易くなるため、本発明の適用範囲外である。一方、1200MPa以上の高強度になると、UO鋼管に必要な低温靭性が得られにくいためである。
【0022】
本発明を適用するUO鋼管の母材となる鋼板、溶接金属の化学組成、溶接方法、溶接金属を作成する溶接材料は以下に説明するものを使用することが望ましい。
【0023】
母材となる鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.01〜0.6%、Mn:1.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0.15〜0.60%、Nb:0.001〜0.10%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0.06%以下を含有し、さらに必要に応じてB:0.0001〜0.005%、N:0.006%以下、V:0.10%以下、Cu:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Zr:0.005%以下、Ta:0.005%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下、Mg:0.006%以下の1種または2種以上含有し、残部はFeおよび不可避の不純物からなる鋼を熱間圧延して得られたものである。
【0024】
また、溶接金属の化学組成は、質量%でC:0.03〜0.10%、Si:0.04〜0.4%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Cr:0.01〜1.5%、Ni:4.5%以下、Mo:2.0%以下、Nb:0.020%以下、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.05%以下、O:0.0100〜0.0500%、B:0.005%以下、N:0.010%以下、V:0.04%以下、Cu:0.40%以下を含有し、残部はFeおよび不可避の不純物からなるものである。
【0025】
また、溶接金属を形成するための溶接方法は、UO鋼管においては生産性や品質を考えるとサブマージアーク溶接が望ましいが、これ以外にもガスシールドアーク溶接やレーザービームアーク溶接等の使用可能である。
【0026】
また、溶接金属の化学組成は、溶接方法とその溶接条件により決まる母材の稀釈率と、母材および溶接材料の化学組成により決まる。従って、用いる母材、溶接方法および溶接条件が決まれば、望ましい溶接金属の化学組成が得られるような化学組成を有する溶接材料を準備することにより、望ましい溶接金属の化学組成を得ることが出来る。
【0027】
サブマージアーク溶接では、溶接材料として溶接ワイヤとフラックスを使用する。その溶接において複数のワイヤを電極に用いて溶接を行うことが容易にできるため、既存の溶接ワイヤを適当に選択することにより、望ましい溶接金属を得ることができる。しかし、当然専用の溶接ワイヤを使用することにより、より的確に望ましい溶接金属を得ることができる。
【0028】
そのためサブマージアーク溶接では、望ましい溶接材料の化学組成は、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.01〜0.40%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Cr:3.5%以下、Ni:12.0%以下、Mo:4.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.005〜0.05%、Al:0.03%以下、O:0.010%以下B:0.005%以下、N:0.010%以下、残部はFeおよび不可避の不純物からなるものである。
【0029】
また、サブマージアーク溶接では溶接金属の酸素量は使用するフラックスで制御できるが、望ましいフラックスの組成は、質量%で、CaF2:15〜55%、SiO2:2〜25%、Al2O3:15〜45%、MgO:1〜8%、CaO:5〜30%、必要に応じて、Li2O:3.0%以下、K2O:2.0%以下、残部は不可避の不純物からなるものである。
【0030】
本発明者らは、これらの母材、溶接材料を用いて実際に鋼板に両面1層づつのサブマージアーク溶接を実施して溶接継手を作成する。本発明者らは、次いで実際にUO鋼管を試験的に造管し、低温割れの防止方法について検討した。
【0031】
表1に用いた母材の化学組成を示した。表2に用いた溶接ワイヤの化学組成を示した。表3に用いたフラックスの化学組成を示した。表4に用いた開先形状の条件を示した。表5に用いた溶接条件を示した。本発明においては、溶接は全て3電極のサブマージアーク溶接法を用いた。表6に用いた溶接金属の化学組成を示した。表6に示した溶接金属は、表2に示したワイヤと表3に示したフラックスを組み合わせて表6の入熱で作成したものである。溶接金属の化学組成は、入熱が同じでも溶接条件により若干異なるが、表5に示した溶接条件の範囲では著しい差がないことは確認しており、表6にはその化学組成の一例を示してある。
【0032】
低温割れは、従来から言われているように、溶接金属の硬さ、溶接金属中の拡散性水素量及び溶接金属に加わる引張応力の3種類の要因が重なり発生する。このため、3種類の要因でいずれか1種類以上の要因を緩和することにより低温割れの発生を防止することができる。
【0033】
この3種類の要因のうち、溶接金属の硬さは溶接金属の機械的特性を左右する重要な因子であり、安易に規制することは好ましくはない。そのため、拡散性水素と引張残留応力の両者を低減する方法を検討した。
【0034】
先ず、本発明者らは、低温割れの発生状況と拡散性水素量および応力の関係を調査した。溶接金属は、表6に示す溶接金属の中で、引張強度が855MPaの溶接金属Iおよび引張強度が1015MPaの溶接金属Vを使用した。母材は、表6に示した溶接金属の対応した母材を使用した。また溶接条件は、溶接金属Iに対しては表4に示す開先形状ヌおよび表5に示す溶接条件33を使用した。溶接金属Vに対しては表4に示す開先形状ホおよび表5に示す溶接条件25を使用した。
【0035】
作成した溶接金属から接線方向と引張軸が平行になるように切り出した丸棒型試験片に電解チャージにより水素を封入した。この丸棒型引張試験を種々の応力で引張り、72時間後の低温割れの発生状況を調べた。図1に1015MPaの溶接金属の結果を示した。負荷される応力が高いほどより少ない拡散性水素でも割れが発生することが判る。図2に855MPaの溶接金属についての結果を示したが、傾向は1015MPaの溶接金属と同様であった。
【0036】
次に本発明者らは、種々の条件で溶接したUO鋼管のシーム溶接部に発生した低温割れを詳細に観察し検討した。その結果、両面から1層づつ溶接するシーム溶接部では、低温割れは必ず先行するシーム溶接金属の内部から発生することが判明した。低温割れが発生し易い条件では後続するシーム溶接金属内でも低温割れは観察されたが、詳細に低温割れの発生点を調査すると、何れの場合においても低温割れの発生点は先行するシーム溶接の溶接金属内に有り、これが後続するシーム溶接の溶接金属に伝搬していることが判明した。また、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する低温割れは溶接線方向と垂直方向に進展していることも判明した。
【0037】
さらに、本発明者らは、シーム溶接金属内の引張残応力の発生状況を検討した。UO鋼管のシーム溶接金属内に発生する応力は、溶接時の熱サイクルに起因する溶接残留応力(以後、本発明では単に残留応力と呼ぶ)である。シーム溶接金属内に発生する残留応力の分布を実測することは困難であるため、有限要素法(以後、本発明ではFEMと呼ぶ)による数値解析シミュレーションにより、溶接ビード幅中央の位置における溶接線方向に発生する残留応力の板厚方向における分布を推定した。溶接線方向の残留応力を求めたのは、先に述べた様にUO鋼管のシーム溶接部に発生する低温割れが溶接線と直角方向に進展するため、溶接線方向の応力が低温割れに寄与すると判断したためである。計算の前提となるシーム溶接は、板厚20mmの鋼板に両面から1層づつサブマージアーク溶接を行った溶接部である。鋼板の引張強度は950MPa、溶接金属の引張強度は1000MPaとした。また、溶接入熱は、先行するシーム溶接が3.4kJ/mm、後続するシーム溶接は3.4kJ/mmである。さらに、表1に示した鋼板Bを母材と、溶接金属が表6に示す溶接金属Vの組み合わせで、両面1層ずつのシーム溶接部を作成し、その溶接ビード表面の残留応力を測定し、数値解析の妥当性を検証した。溶接条件は数値計算で用いたもの同じ入熱で、開先形状は表4の開先形状ホ、溶接条件は表5の溶接条件25を使用した。
【0038】
図3は、数値解析および実測の結果である。引張の残留応力を正の値として図示してある。以後、本発明では引張方向の応力を正とする。溶接金属表面の数値計算の結果は、実測値と一致していることから数値解析は妥当である判断できる。
【0039】
図3から、引張の残留応力は先行するシーム溶接金属内に最大値を示し、その位置は低温割れの起点の位置と一致していた。
【0040】
以上の調査結果から、本発明者らは、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する低温割れを防止すれば、UO鋼管に発生する低温割れを防止できるとの結果に至った。このことは、先行するシーム溶接に続き後続するシーム溶接を実施する2層溶接において、低温割れを防止する施策を先行するシーム溶接にのみ集中して実施すれば良いことを意味し、低温割れを防止する上で非常に簡便にできることを意味する。
【0041】
そこで、本発明者らは、さらに詳細に数値解析を行い先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力の変化を調査した。その結果、図4で図示した、先行するシーム溶接の溶接金属の厚さW1と後続するシーム溶接の溶接金属の厚さW2の比により、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力が変化することが判った。図5に、数値解析により求めた、W2/W1と先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最大残留応力の関係を示す。両面の溶接金属の引張強度は1000MPaの場合を想定している。溶接線方向の最大引張応力はW2/W1により変化し、W2/W1が約0.9で最大値を示した。図6は両面の溶接金属の引張強度が850MPaの仮定で計算した結果であるが、1000MPaと同様の傾向を示した。
【0042】
W2/W1の違いにより、溶接線方向の応力に相違がある理由について考察した。その結果、以下の様に推論した。先行するシーム溶接は後続するシーム溶接の熱により加熱される。そのため、先行するシーム溶接には後続するシーム溶接の熱により熱膨張、収縮が起こり、再度溶接線方向に引張応力が発生する。これに起因する引張応力は、W2/W1が大きくなるに従い増加する。しかし、一方では、後続するシーム溶接内には溶接線方向に引張の残留応力が発生する。この引張の応力により先行するシーム溶接は圧縮され、先行するシーム溶接の溶接金属に発生している溶接線方向の引張応力は緩和される。そのためW2/W1が大きくなるに従い先行するシーム溶接内の溶接線方向の引張応力は低減される。この両者の和が、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力となるため、W2/W1が増加するに従い、最初は前者の効果のため溶接線方向の引張応力は増加するが、W2/W1が1付近で、後者の効果が強くなり溶接線方向の引張応力が低減されると考えられる。
【0043】
本発明者らは、さらに後続するシーム溶接に発生する溶接線方向の引張応力を低減する方法を検討した。その結果、高強度溶接金属は冷却時に変態膨張を起こすことに注目し、これを効果的に利用することで先行するシーム溶接の溶接金属に発生する溶接線方向の引張応力を低減することを考えた。
【0044】
変態膨張を効果的に起こすためには、先行するシーム溶接の溶接金属の温度が重要である。そこで、先行するシーム溶接の溶接金属の表面温度と溶接線方向の残留応力の関係について検討した。図7に両面の溶接金属の引張強度が1000MPaの場合について、数値解析により求めた、後続するシーム溶接を行っている際の先行するシーム溶接の溶接金属最高表面温度と先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する軸方向の最大引張応力の関係を示した。ここで言う、先行するシーム溶接の溶接金属表面の温度とは図4で示した先行するシーム溶接の溶接金属の頂点であるH1の位置での温度のことである。図7においては、先行するシーム溶接の溶接金属表面温度は先行するシーム溶接の溶接金属表面温度T1を溶接金属のAc1温度で無次元化してある。Ac1温度は数値計算で用いた値を使用している。図7からT1/Ac1が大きくなるに従い、先行するシーム溶接の溶接金属内の溶接線方向の引張応力は小さくなっていることが分かる。図8に両面の引張強度が850MPaの溶接金属についての数値解析結果を示した。図8から分かるように、850MPaの場合でも1000MPaの溶接金属の場合と同様の傾向を示した。
【0045】
次に本発明者らは、シーム溶接後の溶接部の形状からT1/Ac1が0.65以上に保持されたかどうかを判断することが出来ないか検討をした。その結果、T1/Ac1を0.65以上にすることはAc1以上に加熱された領域の面積を多くすることを目的としているため、溶接熱影響を受けた領域を知ることによりT1/Ac1が0.65以上に加熱されているかどうかを判断することができることを見いだした。具体的には、先行するシーム溶接の溶接金属内の後続するシーム溶接による溶接熱影響の幅と、先行するシーム溶接の厚さW1の比を測定することにより、T1/Ac1が0.65以上であるか否かを知ることが可能であるとの知見に至った。ここで、溶接熱影響部の幅とは図4で示すfの長さのことである。fは溶接金属をナイタール等の腐食液で腐食することにより、容易に測定できる。
【0046】
図9に、T1/Ac1とf/W1の関係を示した。図9からT1/Ac1が0.65未満の場合は、f/W1は0.1未満となることが分かる。すなわち、f/W1が0.1以上の場合はT1/Ac1が0.65以上であることが判明する。この事実より、製造後のマクロ組織からも本発明が確実に実施されたか判定できる。
【0047】
次に、本発明者らは、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力の最小値に注目した。図10は溶接金属の強度を変化させて、先行するシーム溶接部の溶接金属に発生する溶接線方向の最小の応力を数値解析により計算した結果を示した。数値解析の結果、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最小の引張応力は約520MPa〜550MPaであった。また、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最大の引張応力は最大で約830MPaであると考えられた。
【0048】
以上の検討結果を総合して、本発明者らは溶接金属の化学組成に制限を加えることなく、またシーム溶接後の行程に影響を加えることのない、低温割れの防止方法を考案した。
【0049】
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
【0050】
先ず、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量を溶接金属100g当たり2.0cc以下と制限した。これは、図10に示したように先行するシーム溶接の溶接金属内には最低でも約520MPa〜550MPaの溶接線方向の引張応力が発生する。この引張応力においても低温割れを起こさせないためには、図1および図2から溶接金属の拡散性水素量を溶接金属100g当たり2.0cc以下とする必要がある。尚、拡管あるいは縮管によりUO鋼管のシーム溶接部には大きな塑性変形が加わり応力の再分布が行われ、その結果、溶接線方向の引張応力は500MPa以下に低下することが判っている。すなわち、拡管あるいは縮管などの矯正を行った後は、低温割れが起こることはない。
【0051】
シーム溶接部の拡散性水素を溶接金属100gあたり2.0cc以下にする方法としては、溶接材量の乾燥、開先の洗浄、溶接時の予熱あるいは後熱等があげられる。本発明で望ましいとしたサブマージアーク溶接においては、フラックスを使用するため、フラックスの乾燥は拡散性水素の低減に有効である。例えば、フラックスを厚さ30mm程度に拡げて250℃〜350℃に加熱した炉内で2時間乾燥することで、フラックスから溶接金属に持ち込まれる拡散性水素は低減できる。しかし、溶接施工時にも溶接金属の拡散性水素が増加する場合もある。すなわち、開先面の汚れや周囲の湿気も溶接金属中への拡散性水素の供給源となる。これに対応して、溶接施工時における拡散性水素の低減方法としては次の様な方法ある。溶接行う開先面の汚れとしては鉄粉やゴミがあるが、これらは水の洗浄で除去できる。また、水溶性の液体や水に懸濁できる油脂類あるいは水には懸濁しない少量の油脂も水あるいは高圧水を開先面い吹き付けることにより除去できるが、多量の油脂類は、例えばアセトン等の揮発性の溶剤やアルコールで除去すれは完全に開先面汚れは除去できる。また、溶接後に250℃で20分から30分後熱することにより、雰囲気から持ち込まれた場合に増加する拡散性水素も低減することができ、溶接金属中の拡散性水素をさらに安定して低減できる。溶接金属中の拡散性水素料は、用いる溶接材料の吸湿のし易さや、溶接時の周囲の湿度等でも変わるが、これらの対策を組み合わせることにより、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。
【0052】
次に、本発明で使用した先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素の測定方法について説明する。一般に溶接の分野において、低温割れを議論するときの拡散性水素の測定方法は、JIS Z 3118で鋼溶接部の水素量測定方法があるが、これは溶着金属の拡散性水素を測定する方法である。本発明ではより現実に近くするため、溶接金属の拡散性水素量を基準とした。この方法では、実際に鋼板を両面から一層ずつ溶接した後、シーム溶接部が100℃に達した時点で、先行するシーム溶接部から約5mm×40mmの拡散性水素測定用の試験片を切り出し、JIS Z3118で記載されているガスクロマトグラフ法による拡散性水素測定方法に準拠して測定した。もちろん、後続するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量も同様にして測定できる。
【0053】
また、本発明では100℃に達した時点での拡散性水素を測定している。これは、低温割れは約100℃以下で発生するために、100℃での拡散性水素を測定した。UO鋼管の造管においては、先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素は溶接後から単調に減少する。そのため、シーム溶接後、溶接部が100℃に冷却した時点の拡散性水素が2.0cc以下であれば低温割れは発生しないので、この温度での拡散性水素を測定した。
【0054】
上述の方法を用いれば、より実施工に近い溶接部に残留している拡散性水素量が測定できる。さらに、溶接材量の乾燥、開先の洗浄、予熱、後熱等の方法により先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素を制御する方法を採用しても、その効果を直接確認できるため、有効な方法である。
【0055】
次に、先行するシーム溶接の溶接金属の高さW1と後続するシーム溶接の溶接金属の高さW2の比である、W2/W1の範囲の限定理由について述べる。図1および図2より溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下の場合、引張応力が約700MPa未満では低温割れは起こらないと推定できる。図5および図6から、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力はW2/W11≦0.8、および1.2≦W2/W1の範囲では700MPa未満にすることが出来ることが判る。
【0056】
次に、W2/W1の上限と下限についての限定理由を以下に述べる。UO鋼管のシーム溶接部には優れた低温靭性が要求される。しかし、高強度UO鋼管の両面1層のシーム溶接部では後続のシーム溶接により再加熱された先行シーム溶接の熱影響部の靭性を測定すると、溶接条件等が適切でないと、靭性に低値が発生し易くなるという問題がある。図11は表1に示す鋼板Bを、表3に示す溶接金属Vを持つ両面1層のシーム溶接部の、溶接金属W2/W1と溶接熱影響部の−30℃の吸収エネルギーの低値の発生率の関係を示す。衝撃試験片は図12に示すように、衝撃試験片のノッチを、先行するシーム溶接の熱影響部と後続するシーム溶接の熱影響部が重なった位置に来るように採取した。衝撃試験片は一つのW2/W1の条件で、27本実施し、その内40J以下の吸収エネルギーの発生率を百分率で示した。W2/W1は表4および表5の開先形状および溶接条件を選択して調整した。図12が示す様に、W2/W1が0.6未満と2.5超で低値の発生頻度が急激に増加している。また、W2/W1が2.5超の場合は、先行するシーム溶接が後続するシーム溶接により加熱されすぎて高温になり、先行するシーム溶接の溶接金属が溶けてしまうメルトダウン現象(以後、本発明ではMDと略する)が起こる危険性が高くなる。この観点からもW2/W1は2.5以下が望ましい。
【0057】
以上の検討から、W2/W1の範囲を、0.6≦W2/W1≦0.8、および1.2≦W2/W1≦2.5、とした。
【0058】
このW2/W1の制御に仕方について述べる。W1およびW2は溶接金属の大きさおよび形状を制御することで制御できる。ここで言う大きさとは、図13で示す溶接金属の断面積Sであり、形状とは溶接方向と垂直の断面で溶接金属を見た場合の高さhと幅bである。W1は先行するシーム溶接の溶接金属のhから先行するシーム溶接の溶接金属と、後続するシーム溶接の溶接金属との交差する長さを差し引いた値となる。一方、W2は後続するシーム溶接の溶接金属のhと同じ値である。
【0059】
一般に、溶接では開先をアーク等の熱源により溶融した溶接材料で充分埋めることが出来るように溶接条件を決める。そのため、断面積の大きな開先形状を作成すれば断面積の大きな溶接金属Sを得ることができる。一方、断面積の小さい開先を作成すれば小さな断面積Sの溶接金属を得ることが出来る。すなわち、溶接金属の面積は溶接入熱で容易に制御できるため、W2/W1を必要な範囲内の値にすることは、両面の開先形状を所要のW2/W1になるように設計すれば容易に可能である。
【0060】
図14はこれを模式図で図示したものである。図14(b)は、先行するシーム溶接の開先を後続のシーム溶接の開先をほぼ同じに加工した例である。そのため、W1とW2はほぼ同じ値になっている。それに対して図14(a)は、先行するシーム溶接の開先が後続するシーム溶接の開先よりも大きくなるように加工してある。このためW1はW2よりも大きくなりW2/W1は1未満となる。一方、図14(c)は逆に、先行するシーム溶接の開先が後続するシーム溶接の開先より小さい場合の例であるが、この場合、W1はW2よりも小さくなりそのためW2/W1は1を超える値となる。開先の寸法の比率が重要であるため、使用する鋼板の厚さが異なっても同様に設計できる。
【0061】
さらに、同じ溶接金属の面積でも高さhを大きくして幅bを小さくすることも溶接条件で可能である。すなわち、溶接電流が大きいほど図13で示す溶け込みdが大きくなる。当然高さhも大きくなる。溶接電流が大きくなると溶接入熱が大きくなるが、溶接入熱を一定にしたい場合は溶接速度を速くすることにより溶接入熱は一定となり、溶接入熱を変えることなく、高さhを大きくすることができる。入熱を一定にして溶接速度を早くすると一般に幅bは小さくなる。図14(d)は、この方法によりW2/W1を大きくした例の模式図である。開先形状は図14(b)と同じでも、溶接電流を高くすることにより、dの大きい溶け込みの深い溶接金属が得られ、入熱を一定にして溶接速度を早くした場合、図14(d)の様に縦長の溶接金属が得られる。
【0062】
このようにして、W2/W1は溶接条件および開先形状を適切に選択することにより容易に制御できる。また、溶接金属の化学組成は溶接条件により決まる母材の稀釈率、溶接材料の化学組成および母材の化学組成により予測できる。溶接金属の強度や靭性はこの化学組成でほぼ決定される。そのため、溶接条件および母材が固定されても、溶接材料を適切に選択することにより自由に溶接金属の化学組成は調整することができるため、何ら溶接金属の特性に対してW2/W1の設計は支障を与えない。
【0063】
次に、T1/Ac1の限定理由について述べる。T1/Ac1を限定する目的は、1.4≦W2/W1の限定と同じ目的で、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力の低減することである。すなわち、T1/Ac1を大きくして先行するシーム溶接の溶接金属内の変態膨張する領域を増加させることにより、軸方向に発生するの引張応力を低減するのである。
【0064】
先に述べたように、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力が700MPa未満であれは、溶接金属100gあたり拡散性水素量が2.0cc以下の場合、低温割れの発生を防ぐことができる。図7および図8を参照すると、T1/Ac1を0.65以上にすることにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力が700MPa未満にすることが出来る。従って、T1/Ac1を0.65以上とした。次に、上限であるが、W2/W1の上限の限定理由と同様に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の温度が高くなりすぎると、後続するシーム溶接により再加熱された先行するシーム溶接の熱影響部の靭性に低値の発生する頻度が高くなる。また、後続するシーム溶接を行っている際に、先行するシーム溶接の溶接金属が溶けてしまうMDが起こる危険性が高くなるため、上限を1.2とした。
【0065】
次にf/W1の限定理由を述べる。図9で示したように、T1/Ac1を0.65以上にするためにはf/W1は0.1以上とする必要がある。T1がAc1以上の場合は、シーム溶接部の断面からはfは測定出来ないため、f/W1の上限は1.0となる。そのため、シーム溶接部の断面からT1/Ac1が1.2以上に達し、溶接熱影響部の靭性低下さらにはMDが起こる危険性があるかどうかの制御は、W1/W2≦2.5の条件を採用することになる。
【0066】
次に具体的に、T1/Ac1の制御の方法について述べる。T1は後続するシーム溶接を実施している時の溶接金属表面の最高加熱温度であり、W2と比較してW1が小さいほど高くなる。すなわち、T1の制御方法はW2/W1の制御方法と同じく、溶接条件および開先形状により容易に制御できる。一方、Ac1は溶接金属の化学組成により決まる測定可能な値である。溶接金属の化学組成は先に述べた様に溶接条件とは独立に調整できるため、先ず、溶接金属に必要な特性を得るための溶接金属の化学組成を決定した後、そのAc1を測定し、この値からT1/Ac1が本発明の範囲に含まれる様に溶接条件あるいは開先形状を設計すれば容易に本発明は実施することができる。さらに、先行するシーム溶接部をバーナー等の補助熱源で加熱する等の方法で熱処理を併用する、あるいは保温材で先行するシーム溶接部を保護する等の方法で保熱する方法も有効である。先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高加熱温度の確認は、事前に設定した開先形状、溶接条件あるいは熱処理を用いて試験的に溶接を実施し確認すれば良く、実際のシーム溶接時にはこれらの設定した溶接条件等を再現すれは、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高加熱温度も再現できる。当然、実際の造管に個々に測温して確認しても良く、品質管理の上ではより望ましい方向である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【実施例】
【0073】
次に、実施例を用いて詳細に本発明の効果について説明する。
【0074】
表1で示した鋼板と、表2および表3で示したサブマージアーク溶接用の溶接材料を用いて、UO鋼管を製造した。その時に用いた開先形状は既に表4に示してある。また、用いた溶接条件も既に表5に示してある。これらの開先形状および溶接条件を組み合わせて、W1/W1およびT1を調整した。また、サブマージアーク溶接に使用するフラックスは、先行するシーム溶接用には300℃×2時間で乾燥させたものを使用したが、後続するシーム溶接用には特に乾燥はせずに、購入ままで使用した。開先面は、アセトンを含ませた布で拭きゴミや油脂を除去し、その後、開先面に汚れが付着しない様に維持して、溶接行程に移った。そのため、基本的には予熱、後熱処理は行わなかったが、一部の造管では後続するシーム溶接を実施する際に先行するシーム溶接部を100℃から150℃に予熱した。これは、先行するシーム溶接の溶接金属表面温度を高くするためであるが同時に拡散性水素を低減する効果もあった。
【0075】
一方、拡散性水素を意図的に増加させた鋼管も造管した。一部の造管においては、先行するシーム溶接用のフラックスを吸湿させて溶接金属中の拡散性水素量を増加させた。また、さらに実製造では開先面に油等の付着も考えられるため、それらも模擬して洗浄した開先面に造管時に使用する水溶性の潤滑油を意図的に塗布して、UO鋼管を製造した。
【0076】
シーム溶接は、先ず市販の50kg級のCO2溶接ワイヤで仮付け溶接を実施した後、内面からサブマージアーク溶接により先行するシーム溶接を行い、その後、外面からサブマージアーク溶接により後続するシーム溶接を行った。本実施例では、後続するシーム溶接時の先行するシーム溶接の溶接金属表面温度は、先行するシーム溶接の溶接金属表面に熱電対を抵抗溶接により接合して測温した。
【0077】
溶接金属中の拡散性水素量は、UO鋼管造管後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点で測定用の試験片を採取し、溶接金属中の拡散性水素量を測定した。
【0078】
その後、拡管の矯正を行った。拡管の矯正を終了後、X線によりシーム溶接部全線に対して非破壊検査を実施し、低温割れの発生の有無を確認した。その後、UO鋼管の両端および中央部から図12に示した要領で衝撃試験片を採取し、溶接熱影響部の靭性を測定した。溶接金属の引張強度は先行するシーム溶接の溶接金属から溶接線方向にJISの丸棒型A2号引張試験片を採取し測定した。溶接金属のAc1温度は、溶接金属の化学組成から推定できるが、本実施例では正確を期するため、先行するシーム溶接部の溶接金属から試験片を採取し、加熱・冷却中の膨張収縮量を測定してAc1温度を測定した。表7、表8(表7のつづき)に本発明によるUO鋼管の発明例を示す。
【0079】
発明例1〜発明例7まではW1/W2が0.6以上0.8以下の範囲の発明例である。溶接金属の強度は855MPa〜1195MPaまで変化している。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下であり、また開先形状および溶接条件を適正に選択することによりW1/W2が本発明の範囲内であるため低温割れは発生してない。さらに、溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度も低く良好である。
【0080】
発明例1および発明例2は、母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の強度が異なる発明例である。
【0081】
発明例3は、板厚が20mmで、溶接金属の強度が1000MPa超の発明例である。
【0082】
発明例4および発明例5は、母材、開先形状および溶接金属は同じであるが、溶接条件が異なる発明例である。そのためW2/W1が相違している。
【0083】
発明例6は、発明例4および発明例5と、母材および開先形状は同じであるが、溶接条件および溶接金属の強度が異なる発明例である。
【0084】
発明例7は、溶接条件は発明例4と同じであるが、母材、開先形状および溶接金属が異なり、高強度のシーム溶接部についての発明例である。
【0085】
発明例8〜発明例26までは、W1/W2が1.2〜2.5の範囲で、しかもf/W1が0.1以上の範囲の発明例である。
【0086】
溶接金属の強度は856MPa〜1179MPaまで変化している。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下であり、また、開先形状および溶接条件を適正に選択することにより、W1/W2が本発明の範囲内であるため低温割れは発生してない。さらに、T1/Ac1の値も、0.65以上、1.2以下である。また、f/W1の値も0.1以上である。さらに、過剰に溶接部が加熱されていないため、溶接部熱影響部の低値の発生頻度も低く良好である。
【0087】
発明例8、発明例9および発明例10は、母材、溶接金属および開先形状は同じであるが、溶接条件が異なる発明例である。そのため、W2/W1は異なっているが、何れも本発明の範囲内である。また、T1/AC1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0088】
発明例11は、母材、溶接金属および溶接条件は発明例8と同じであるが、開先形状が異なる。先行するシーム溶接の開先を深くしたため、W2/W1の値は小さくなっている。しかし、本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0089】
発明例12および発明例13は、母材Aと溶接金属Iの組み合わせに本発明を適用した例である。溶接条件および開先形状も発明例8から発明例11とは異なるが何れも適正な溶接条件や開先形状を選択しているためW1/W2、T1/Ac1およびf/W1は本発明の範囲に含まれ、低温割れの無い健全な溶接部が得られている。
【0090】
発明例14、発明例15、発明例16および発明例17は、母材および溶接金属は同じであるが、溶接条件あるいは開先形状が異なる発明例である。W2/W1は溶接条件や開先形状により変化しているが、本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0091】
発明例18は、発明例15と、母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の引張強度が約940MPaの例である。この引張強度でも割れは発生していない。
【0092】
発明例19は、発明例18と溶接条件が異なり、W2/W1の値が高くなった発明例であるが、低温割れは発生せず、また溶接熱影響部の靭性も良好である。T1/Ac1も0.65以上、1.2以下の範囲に含まれている。また、f/W1は0.1以上である。
【0093】
発明例20、発明例21および発明例22は、母材、溶接金属および開先形状は同じで、溶接条件が異なる発明例である。そのため、W2/W1は異なるが、何れの溶接条件においても、W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、2.5以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0094】
発明例23は、発明例21と母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の引張強度が1185MPaと高強度である。しかし、W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、2.5以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0095】
発明例24は、発明例23の開先形状および溶接条件を変化させた発明例である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0096】
発明例25は母材Dを使用した発明例である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0097】
発明例26も母材Dを使用した発明例である。溶接金属の強度は1194MPaでさらに高強度である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0098】
発明例27〜発明例32は、W1/W2が1.2未満であるが、熱処理を行いT1温度を高くすることにより、低温割れを防止した例である。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下である。
【0099】
発明例27は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を150℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.74としている。f/W1も0.1以上である。
【0100】
発明例28は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を100℃で予熱し、さらに後続するシーム溶接を実施中に、先行するシーム溶接部を断熱材で保温することにより、T1/Ac1を0.69としている。f/W1も0.1以上である。
【0101】
発明例29は、溶接金属の引張強度が865MPaの場合の実施例である。後続するシーム溶接を実施する直前に、先行するシーム溶接部を150℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.70としている。f/W1も0.1以上である。
【0102】
発明例30は後続するシーム溶接を実施中に先行するシーム溶接部をバーナーで加熱することにより、T1/Ac1を0.71としている。f/W1も0.1以上である。
【0103】
発明例31は、後続するシーム溶接を実施中に先行するシーム溶接部を断熱材で保温することにより、T1/Ac1を0.68としている。f/W1も0.1以上である。
【0104】
発明例32は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を100℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.70としている。f/W1も0.1以上である。
【0105】
これらの手段により、発明例27〜発明例32は低温割れが発生していない。また、T1/Ac1は2.5以下、また、W1/W2は2.5以下で、過剰に溶接部が加熱されていないため、溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度も低く良好であり、MDも発生していない。さらに、これらの熱処理により、先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量も低減している。
【0106】
次に、比較例について説明する。表9、表10(表9のつづき)に本発明の比較例を示す。
【0107】
比較例1〜比較例7まではW2/W1が0.8超、1.2未満の例である。溶接金属の強度は862MPaから1184MPaまで変化させてある。また、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下である。しかし、何れも開先に対して溶接条件が不適切のため、W2/W1が本発明の範囲から外れている。また保熱や熱処理等も実施していないため、T1/Ac1も0.65未満で、f/W1は0.1未満である。これらのことから、溶接金属中の拡散性水素量は少ないのにもかかわらず、先行するシーム溶接の溶接金属内に低温割れが発生している。
【0108】
比較例8〜比較例10までは、W2/W1が0.6未満の例である。溶接金属の強度は860MPaから1181MPaまで変化させてある。W2/W1の値が小さいため、低温割れは発生していないが、溶接熱影響部の靭性の低値の発生率が15%以上で多発している。
【0109】
比較例11〜比較例15までは、W2/W1が2.5超の例である。溶接金属の強度は865MPaから1178MPaまで変化させてある。何れも開先に対して、溶接条件が不適切のため、W2/W1が2.5超となっている。さらに、T1/Ac1も1.2超となっている。そのため、先行するシーム溶接金属内に低温割れは発生していないが、溶接熱影響部の靭性に低値が多発している。さらに、比較例12、比較例14および比較例15においては先行するシーム溶接の溶接金属が過剰に加熱されたため、MDが起こっている。
【0110】
比較例16〜比較例22は溶接金属中の拡散性水素量が多い場合の比較例である。
【0111】
比較例16は、発明例1と同条件であるが、開先面に汚れが付着し、さらにフラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。さらに、この低温割れは、後続するシーム溶接の溶接金属内にまで伝播していた。
【0112】
比較例17は、発明例4と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0113】
比較例18は、発明例7と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0114】
比較例19は、発明例9と同条件であるが、開先面に汚れが付着し、さらにフラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。さらに、この低温割れは、後続するシーム溶接の溶接金属内にまで伝播していた。
【0115】
比較例20は、発明例20と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0116】
比較例21は、発明例15と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0117】
比較例22は、発明例24と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
【表9】
【0121】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】有限要素法による数値解析の結果を示す図。
【図2】W1およびW2を説明する図。
【図3】W2/W1とシーム溶接の溶接金属内に発生する残留応力の関係を示す図。
【図4】シーム溶接部の模式図。
【図5】引張強度が1000MPaの溶接金属における、W2/W1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図6】引張強度が850MPaの溶接金属における、W2/W1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図7】引張強度が1000MPaの溶接金属におけるT1/AC1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図8】引張強度が850MPaの溶接金属におけるT1/AC1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図9】T1/Ac1とf/W1の比の関係を示す図。
【図10】溶接金属の引張強度と先行するシーム溶接金属内に発生する溶接線方向の最大および最小の引張応力残留応力の関係を示す図。
【図11】W2/W1と溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度の関係を示す図。
【図12】シーム溶接部の衝撃試験片採取位置を示す図。
【図13】溶接部の形状の模式図。
【図14】W2/W1の調整方法を示す模式図。
【符号の説明】
【0123】
B1 先行するシーム溶接の溶接金属
B2 後続するシーム溶接の溶接金属
a 先行するシーム溶接の溶接金属表面からの距離
W1 本発明でいう先行するシーム溶接の溶接金属の高さ
W2 本発明でいう後続するシーム溶接の溶接金属の高さ
H1 先行するシーム溶接の溶接金属の最高加熱温度測定位置
S 溶接金属の面積
h 溶接金属ののど厚
b 溶接金属の幅
d 溶け込み深さ
f 先行するシーム溶接の熱影響部の幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス・原油輸送用ラインパイプ等に用いられる、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正して製造するUO鋼管において、シーム溶接部に低温割れのないUO鋼管の製造方法とその製造方法により製造されたUO鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等を輸送するラインパイプ用の大型サイズの鋼管として、一般にはUO鋼管が使用される。UO鋼管は、鋼板をU型に成形した後、さらにO型に成形して円筒状に成形し、その突き合わせ部を溶接によりつなぎあわせて円筒の鋼管とする。この溶接を一般にはシーム溶接と呼ぶ。この突き合わせ部の溶接には溶接速度が速く、かつ溶接部の品質も良好なサブマージアーク溶接が使用される。しかし、それ以外にガスシールドアーク溶接やレーザービーム溶接を使用しても問題がない。また、一般には、円筒状に成形された鋼管の内面から先ず先行するシーム溶接を行い、その後外面から後続するシーム溶接を行うことにより内面側および外面側から各々1層ずつ溶接を行いシーム溶接を完了するが、逆の順番で外面から先行するシーム溶接を行い、内面から後続するシーム溶接を行うこともできる。さらに、一般には、先行するシーム溶接に先立ち、円筒状に成形した鋼板の突き合わせ部を、ガスシールド溶接等により予め仮止めの溶接を行う。この際には、一般に仮止めの溶接部はシーム溶接により溶融され、最終的なシーム溶接部には残らない。
【0003】
以上の様にして円筒に成形・溶接された鋼管は、さらに拡管あるいは縮管などの矯正加工を施して最終的に製品としてのUO鋼管が製造される。そのため、UOE鋼管と呼ばれることもある。
【0004】
従来では、X65やX80グレード(米国石油協会規格、API規格)のものが使用されてきたが、近年輸送効率の向上、ラインパイプの建設コストの低減あるいは輸送コストの低減を目的として、母材の引張強度が850MPa以上のX100からX120級の高強度のUO鋼管の開発が進められている。
【0005】
これらの高強度UO鋼管のシーム溶接に使用される溶接金属は当然母材と同等以上の引張強度を有する事が要求されるため高強度の溶接金属が採用される。
【0006】
しかし、高強度の溶接金属では溶接後に溶接金属の硬さ、溶接金属に含まれる拡散性水素及び溶接時に溶接部に発生する引張の溶接残留応力の3者により起こる低温割れが発生する。そのため、高強度UO鋼管のシーム溶接部にも低温割れが発生する。
【0007】
このような低温割れの問題に対しては、例えば特許文献1では使用する溶接金属の化学組成、溶接金属の化学組成から計算により得られるPcmおよび、溶接金属部の100℃までの冷却時間をPcmと拡散性水素から計算される冷却時間以上に制限して低温割れ防止する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、溶接金属の引張強度あるいは溶接金属の化学組成から計算により得られる変態温度の上限を375℃以下に制限して低温割れを防ぐ方法が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献3では、UO鋼管のシーム溶接を終了後、拡散成形するまでの時間を30分以上にすることにより低温割れを防ぐ方法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−33876号公報
【特許文献2】特開2001−71176号公報
【特許文献3】特開2003−311321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1あるいは特許文献2で開示されている方法は、何れも低温割れを防ぐため制御する必要があるPcmあるいは変態温度は、溶接金属の化学組成で決まり、これは溶接金属の化学組成を設計する上で制限となる。すなわち、溶接金属には強度や低温靭性あるいは変形能等の特性も要求され、溶接金属の化学組成を決める上で、不要の制限を加えるのは好ましくはない。
【0012】
また、特許文献1では100℃までの冷却時間をPcmと拡散性水素から計算される冷却時間以上に長くする、また、特許文献3ではシーム溶接後の拡管成形までの時間を30分以上にするなど、何れも製造工程の時間を長くすることになり、これは生産効率の向上が要求される工業生産に適用するには問題がある。
【0013】
本発明は、溶接金属の化学組成には何ら制限を加えることなく、さらに製造工程においても効率を下げることなく、UO鋼管のシーム溶接部の溶接金属に発生する低温割れを防ぐ製造方法を提供し、また、その製造方法により製造されたUO鋼管を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するためにUO鋼管のシーム溶接時における低温割れの発生状況を詳細に検討した結果、シーム溶接金属に発生する低温割れは先行するシーム溶接の溶接金属で発生することが判明した。さらに、詳細に検討した結果、先行するシーム溶接の溶接金属に存在する拡散性水素量の上限を規定すると共に、先行するシーム溶接の溶接金属に発生する残留応力を溶接条件あるいは開先形状を制御して低減することによりUO鋼管のシーム溶接部に発生する低温割れを防止できることを見いだした。
【0015】
すなわち、本発明の第1の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.4≦W2/W1≦2.5に規定してシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管製造方法、である。
【0016】
本発明の第2の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ後続するシーム溶接を実施する際に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高到達温度をT1、先行するシーム溶接の溶接金属のAc1変態温度をAc1とする時、T1/Ac1が0.65≦T1/Ac1≦1.2を満足させてシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法、である。
【0017】
本発明の第3の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に、0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管、である。
【0018】
本発明の第4の特徴は、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、先行するシーム溶接により形成された溶接金属内において、後続するシーム溶接により形成された溶接熱影響部の幅をfとする場合に、0.1≦f/W1≦1.0の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管、である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、天然ガス・原油輸送用ラインパイプ等に用いられる、引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて内外面からシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、溶接金属の化学組成に対して何ら制限を加えることなく、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素の上限と、シーム溶接の溶接金属の厚さの比、あるいは先行するシーム溶接金属の表面温度、あるいはシーム溶接金属と溶接熱影響部の比を制御することのみで、シーム溶接金属に発生する低温割れを防止するものである。そのため、溶接金属に必要な特性を得るための成分設計の自由度が増す。さらにシーム溶接を行った後の工程の開始までの時間を何ら制限することもないため、製造工程に対する影響もない。これらのことから、本発明により、シーム溶接部に低温割れがなく、性能の高い溶接部を持つUO鋼管を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明では、適用する母材および溶接金属の強度の範囲を850MPa以上1200MPaに限定した。この理由は、溶接金属の引張強度が850MPa未満の場合は強度が低く溶接金属で低温割れは起こらず、母材の溶接熱影響部に発生し易くなるため、本発明の適用範囲外である。一方、1200MPa以上の高強度になると、UO鋼管に必要な低温靭性が得られにくいためである。
【0022】
本発明を適用するUO鋼管の母材となる鋼板、溶接金属の化学組成、溶接方法、溶接金属を作成する溶接材料は以下に説明するものを使用することが望ましい。
【0023】
母材となる鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.01〜0.6%、Mn:1.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0.15〜0.60%、Nb:0.001〜0.10%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0.06%以下を含有し、さらに必要に応じてB:0.0001〜0.005%、N:0.006%以下、V:0.10%以下、Cu:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Zr:0.005%以下、Ta:0.005%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下、Mg:0.006%以下の1種または2種以上含有し、残部はFeおよび不可避の不純物からなる鋼を熱間圧延して得られたものである。
【0024】
また、溶接金属の化学組成は、質量%でC:0.03〜0.10%、Si:0.04〜0.4%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Cr:0.01〜1.5%、Ni:4.5%以下、Mo:2.0%以下、Nb:0.020%以下、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.05%以下、O:0.0100〜0.0500%、B:0.005%以下、N:0.010%以下、V:0.04%以下、Cu:0.40%以下を含有し、残部はFeおよび不可避の不純物からなるものである。
【0025】
また、溶接金属を形成するための溶接方法は、UO鋼管においては生産性や品質を考えるとサブマージアーク溶接が望ましいが、これ以外にもガスシールドアーク溶接やレーザービームアーク溶接等の使用可能である。
【0026】
また、溶接金属の化学組成は、溶接方法とその溶接条件により決まる母材の稀釈率と、母材および溶接材料の化学組成により決まる。従って、用いる母材、溶接方法および溶接条件が決まれば、望ましい溶接金属の化学組成が得られるような化学組成を有する溶接材料を準備することにより、望ましい溶接金属の化学組成を得ることが出来る。
【0027】
サブマージアーク溶接では、溶接材料として溶接ワイヤとフラックスを使用する。その溶接において複数のワイヤを電極に用いて溶接を行うことが容易にできるため、既存の溶接ワイヤを適当に選択することにより、望ましい溶接金属を得ることができる。しかし、当然専用の溶接ワイヤを使用することにより、より的確に望ましい溶接金属を得ることができる。
【0028】
そのためサブマージアーク溶接では、望ましい溶接材料の化学組成は、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.01〜0.40%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Cr:3.5%以下、Ni:12.0%以下、Mo:4.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.005〜0.05%、Al:0.03%以下、O:0.010%以下B:0.005%以下、N:0.010%以下、残部はFeおよび不可避の不純物からなるものである。
【0029】
また、サブマージアーク溶接では溶接金属の酸素量は使用するフラックスで制御できるが、望ましいフラックスの組成は、質量%で、CaF2:15〜55%、SiO2:2〜25%、Al2O3:15〜45%、MgO:1〜8%、CaO:5〜30%、必要に応じて、Li2O:3.0%以下、K2O:2.0%以下、残部は不可避の不純物からなるものである。
【0030】
本発明者らは、これらの母材、溶接材料を用いて実際に鋼板に両面1層づつのサブマージアーク溶接を実施して溶接継手を作成する。本発明者らは、次いで実際にUO鋼管を試験的に造管し、低温割れの防止方法について検討した。
【0031】
表1に用いた母材の化学組成を示した。表2に用いた溶接ワイヤの化学組成を示した。表3に用いたフラックスの化学組成を示した。表4に用いた開先形状の条件を示した。表5に用いた溶接条件を示した。本発明においては、溶接は全て3電極のサブマージアーク溶接法を用いた。表6に用いた溶接金属の化学組成を示した。表6に示した溶接金属は、表2に示したワイヤと表3に示したフラックスを組み合わせて表6の入熱で作成したものである。溶接金属の化学組成は、入熱が同じでも溶接条件により若干異なるが、表5に示した溶接条件の範囲では著しい差がないことは確認しており、表6にはその化学組成の一例を示してある。
【0032】
低温割れは、従来から言われているように、溶接金属の硬さ、溶接金属中の拡散性水素量及び溶接金属に加わる引張応力の3種類の要因が重なり発生する。このため、3種類の要因でいずれか1種類以上の要因を緩和することにより低温割れの発生を防止することができる。
【0033】
この3種類の要因のうち、溶接金属の硬さは溶接金属の機械的特性を左右する重要な因子であり、安易に規制することは好ましくはない。そのため、拡散性水素と引張残留応力の両者を低減する方法を検討した。
【0034】
先ず、本発明者らは、低温割れの発生状況と拡散性水素量および応力の関係を調査した。溶接金属は、表6に示す溶接金属の中で、引張強度が855MPaの溶接金属Iおよび引張強度が1015MPaの溶接金属Vを使用した。母材は、表6に示した溶接金属の対応した母材を使用した。また溶接条件は、溶接金属Iに対しては表4に示す開先形状ヌおよび表5に示す溶接条件33を使用した。溶接金属Vに対しては表4に示す開先形状ホおよび表5に示す溶接条件25を使用した。
【0035】
作成した溶接金属から接線方向と引張軸が平行になるように切り出した丸棒型試験片に電解チャージにより水素を封入した。この丸棒型引張試験を種々の応力で引張り、72時間後の低温割れの発生状況を調べた。図1に1015MPaの溶接金属の結果を示した。負荷される応力が高いほどより少ない拡散性水素でも割れが発生することが判る。図2に855MPaの溶接金属についての結果を示したが、傾向は1015MPaの溶接金属と同様であった。
【0036】
次に本発明者らは、種々の条件で溶接したUO鋼管のシーム溶接部に発生した低温割れを詳細に観察し検討した。その結果、両面から1層づつ溶接するシーム溶接部では、低温割れは必ず先行するシーム溶接金属の内部から発生することが判明した。低温割れが発生し易い条件では後続するシーム溶接金属内でも低温割れは観察されたが、詳細に低温割れの発生点を調査すると、何れの場合においても低温割れの発生点は先行するシーム溶接の溶接金属内に有り、これが後続するシーム溶接の溶接金属に伝搬していることが判明した。また、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する低温割れは溶接線方向と垂直方向に進展していることも判明した。
【0037】
さらに、本発明者らは、シーム溶接金属内の引張残応力の発生状況を検討した。UO鋼管のシーム溶接金属内に発生する応力は、溶接時の熱サイクルに起因する溶接残留応力(以後、本発明では単に残留応力と呼ぶ)である。シーム溶接金属内に発生する残留応力の分布を実測することは困難であるため、有限要素法(以後、本発明ではFEMと呼ぶ)による数値解析シミュレーションにより、溶接ビード幅中央の位置における溶接線方向に発生する残留応力の板厚方向における分布を推定した。溶接線方向の残留応力を求めたのは、先に述べた様にUO鋼管のシーム溶接部に発生する低温割れが溶接線と直角方向に進展するため、溶接線方向の応力が低温割れに寄与すると判断したためである。計算の前提となるシーム溶接は、板厚20mmの鋼板に両面から1層づつサブマージアーク溶接を行った溶接部である。鋼板の引張強度は950MPa、溶接金属の引張強度は1000MPaとした。また、溶接入熱は、先行するシーム溶接が3.4kJ/mm、後続するシーム溶接は3.4kJ/mmである。さらに、表1に示した鋼板Bを母材と、溶接金属が表6に示す溶接金属Vの組み合わせで、両面1層ずつのシーム溶接部を作成し、その溶接ビード表面の残留応力を測定し、数値解析の妥当性を検証した。溶接条件は数値計算で用いたもの同じ入熱で、開先形状は表4の開先形状ホ、溶接条件は表5の溶接条件25を使用した。
【0038】
図3は、数値解析および実測の結果である。引張の残留応力を正の値として図示してある。以後、本発明では引張方向の応力を正とする。溶接金属表面の数値計算の結果は、実測値と一致していることから数値解析は妥当である判断できる。
【0039】
図3から、引張の残留応力は先行するシーム溶接金属内に最大値を示し、その位置は低温割れの起点の位置と一致していた。
【0040】
以上の調査結果から、本発明者らは、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する低温割れを防止すれば、UO鋼管に発生する低温割れを防止できるとの結果に至った。このことは、先行するシーム溶接に続き後続するシーム溶接を実施する2層溶接において、低温割れを防止する施策を先行するシーム溶接にのみ集中して実施すれば良いことを意味し、低温割れを防止する上で非常に簡便にできることを意味する。
【0041】
そこで、本発明者らは、さらに詳細に数値解析を行い先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力の変化を調査した。その結果、図4で図示した、先行するシーム溶接の溶接金属の厚さW1と後続するシーム溶接の溶接金属の厚さW2の比により、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力が変化することが判った。図5に、数値解析により求めた、W2/W1と先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最大残留応力の関係を示す。両面の溶接金属の引張強度は1000MPaの場合を想定している。溶接線方向の最大引張応力はW2/W1により変化し、W2/W1が約0.9で最大値を示した。図6は両面の溶接金属の引張強度が850MPaの仮定で計算した結果であるが、1000MPaと同様の傾向を示した。
【0042】
W2/W1の違いにより、溶接線方向の応力に相違がある理由について考察した。その結果、以下の様に推論した。先行するシーム溶接は後続するシーム溶接の熱により加熱される。そのため、先行するシーム溶接には後続するシーム溶接の熱により熱膨張、収縮が起こり、再度溶接線方向に引張応力が発生する。これに起因する引張応力は、W2/W1が大きくなるに従い増加する。しかし、一方では、後続するシーム溶接内には溶接線方向に引張の残留応力が発生する。この引張の応力により先行するシーム溶接は圧縮され、先行するシーム溶接の溶接金属に発生している溶接線方向の引張応力は緩和される。そのためW2/W1が大きくなるに従い先行するシーム溶接内の溶接線方向の引張応力は低減される。この両者の和が、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力となるため、W2/W1が増加するに従い、最初は前者の効果のため溶接線方向の引張応力は増加するが、W2/W1が1付近で、後者の効果が強くなり溶接線方向の引張応力が低減されると考えられる。
【0043】
本発明者らは、さらに後続するシーム溶接に発生する溶接線方向の引張応力を低減する方法を検討した。その結果、高強度溶接金属は冷却時に変態膨張を起こすことに注目し、これを効果的に利用することで先行するシーム溶接の溶接金属に発生する溶接線方向の引張応力を低減することを考えた。
【0044】
変態膨張を効果的に起こすためには、先行するシーム溶接の溶接金属の温度が重要である。そこで、先行するシーム溶接の溶接金属の表面温度と溶接線方向の残留応力の関係について検討した。図7に両面の溶接金属の引張強度が1000MPaの場合について、数値解析により求めた、後続するシーム溶接を行っている際の先行するシーム溶接の溶接金属最高表面温度と先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する軸方向の最大引張応力の関係を示した。ここで言う、先行するシーム溶接の溶接金属表面の温度とは図4で示した先行するシーム溶接の溶接金属の頂点であるH1の位置での温度のことである。図7においては、先行するシーム溶接の溶接金属表面温度は先行するシーム溶接の溶接金属表面温度T1を溶接金属のAc1温度で無次元化してある。Ac1温度は数値計算で用いた値を使用している。図7からT1/Ac1が大きくなるに従い、先行するシーム溶接の溶接金属内の溶接線方向の引張応力は小さくなっていることが分かる。図8に両面の引張強度が850MPaの溶接金属についての数値解析結果を示した。図8から分かるように、850MPaの場合でも1000MPaの溶接金属の場合と同様の傾向を示した。
【0045】
次に本発明者らは、シーム溶接後の溶接部の形状からT1/Ac1が0.65以上に保持されたかどうかを判断することが出来ないか検討をした。その結果、T1/Ac1を0.65以上にすることはAc1以上に加熱された領域の面積を多くすることを目的としているため、溶接熱影響を受けた領域を知ることによりT1/Ac1が0.65以上に加熱されているかどうかを判断することができることを見いだした。具体的には、先行するシーム溶接の溶接金属内の後続するシーム溶接による溶接熱影響の幅と、先行するシーム溶接の厚さW1の比を測定することにより、T1/Ac1が0.65以上であるか否かを知ることが可能であるとの知見に至った。ここで、溶接熱影響部の幅とは図4で示すfの長さのことである。fは溶接金属をナイタール等の腐食液で腐食することにより、容易に測定できる。
【0046】
図9に、T1/Ac1とf/W1の関係を示した。図9からT1/Ac1が0.65未満の場合は、f/W1は0.1未満となることが分かる。すなわち、f/W1が0.1以上の場合はT1/Ac1が0.65以上であることが判明する。この事実より、製造後のマクロ組織からも本発明が確実に実施されたか判定できる。
【0047】
次に、本発明者らは、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力の最小値に注目した。図10は溶接金属の強度を変化させて、先行するシーム溶接部の溶接金属に発生する溶接線方向の最小の応力を数値解析により計算した結果を示した。数値解析の結果、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最小の引張応力は約520MPa〜550MPaであった。また、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の最大の引張応力は最大で約830MPaであると考えられた。
【0048】
以上の検討結果を総合して、本発明者らは溶接金属の化学組成に制限を加えることなく、またシーム溶接後の行程に影響を加えることのない、低温割れの防止方法を考案した。
【0049】
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
【0050】
先ず、先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量を溶接金属100g当たり2.0cc以下と制限した。これは、図10に示したように先行するシーム溶接の溶接金属内には最低でも約520MPa〜550MPaの溶接線方向の引張応力が発生する。この引張応力においても低温割れを起こさせないためには、図1および図2から溶接金属の拡散性水素量を溶接金属100g当たり2.0cc以下とする必要がある。尚、拡管あるいは縮管によりUO鋼管のシーム溶接部には大きな塑性変形が加わり応力の再分布が行われ、その結果、溶接線方向の引張応力は500MPa以下に低下することが判っている。すなわち、拡管あるいは縮管などの矯正を行った後は、低温割れが起こることはない。
【0051】
シーム溶接部の拡散性水素を溶接金属100gあたり2.0cc以下にする方法としては、溶接材量の乾燥、開先の洗浄、溶接時の予熱あるいは後熱等があげられる。本発明で望ましいとしたサブマージアーク溶接においては、フラックスを使用するため、フラックスの乾燥は拡散性水素の低減に有効である。例えば、フラックスを厚さ30mm程度に拡げて250℃〜350℃に加熱した炉内で2時間乾燥することで、フラックスから溶接金属に持ち込まれる拡散性水素は低減できる。しかし、溶接施工時にも溶接金属の拡散性水素が増加する場合もある。すなわち、開先面の汚れや周囲の湿気も溶接金属中への拡散性水素の供給源となる。これに対応して、溶接施工時における拡散性水素の低減方法としては次の様な方法ある。溶接行う開先面の汚れとしては鉄粉やゴミがあるが、これらは水の洗浄で除去できる。また、水溶性の液体や水に懸濁できる油脂類あるいは水には懸濁しない少量の油脂も水あるいは高圧水を開先面い吹き付けることにより除去できるが、多量の油脂類は、例えばアセトン等の揮発性の溶剤やアルコールで除去すれは完全に開先面汚れは除去できる。また、溶接後に250℃で20分から30分後熱することにより、雰囲気から持ち込まれた場合に増加する拡散性水素も低減することができ、溶接金属中の拡散性水素をさらに安定して低減できる。溶接金属中の拡散性水素料は、用いる溶接材料の吸湿のし易さや、溶接時の周囲の湿度等でも変わるが、これらの対策を組み合わせることにより、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。
【0052】
次に、本発明で使用した先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素の測定方法について説明する。一般に溶接の分野において、低温割れを議論するときの拡散性水素の測定方法は、JIS Z 3118で鋼溶接部の水素量測定方法があるが、これは溶着金属の拡散性水素を測定する方法である。本発明ではより現実に近くするため、溶接金属の拡散性水素量を基準とした。この方法では、実際に鋼板を両面から一層ずつ溶接した後、シーム溶接部が100℃に達した時点で、先行するシーム溶接部から約5mm×40mmの拡散性水素測定用の試験片を切り出し、JIS Z3118で記載されているガスクロマトグラフ法による拡散性水素測定方法に準拠して測定した。もちろん、後続するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量も同様にして測定できる。
【0053】
また、本発明では100℃に達した時点での拡散性水素を測定している。これは、低温割れは約100℃以下で発生するために、100℃での拡散性水素を測定した。UO鋼管の造管においては、先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素は溶接後から単調に減少する。そのため、シーム溶接後、溶接部が100℃に冷却した時点の拡散性水素が2.0cc以下であれば低温割れは発生しないので、この温度での拡散性水素を測定した。
【0054】
上述の方法を用いれば、より実施工に近い溶接部に残留している拡散性水素量が測定できる。さらに、溶接材量の乾燥、開先の洗浄、予熱、後熱等の方法により先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素を制御する方法を採用しても、その効果を直接確認できるため、有効な方法である。
【0055】
次に、先行するシーム溶接の溶接金属の高さW1と後続するシーム溶接の溶接金属の高さW2の比である、W2/W1の範囲の限定理由について述べる。図1および図2より溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下の場合、引張応力が約700MPa未満では低温割れは起こらないと推定できる。図5および図6から、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力はW2/W11≦0.8、および1.2≦W2/W1の範囲では700MPa未満にすることが出来ることが判る。
【0056】
次に、W2/W1の上限と下限についての限定理由を以下に述べる。UO鋼管のシーム溶接部には優れた低温靭性が要求される。しかし、高強度UO鋼管の両面1層のシーム溶接部では後続のシーム溶接により再加熱された先行シーム溶接の熱影響部の靭性を測定すると、溶接条件等が適切でないと、靭性に低値が発生し易くなるという問題がある。図11は表1に示す鋼板Bを、表3に示す溶接金属Vを持つ両面1層のシーム溶接部の、溶接金属W2/W1と溶接熱影響部の−30℃の吸収エネルギーの低値の発生率の関係を示す。衝撃試験片は図12に示すように、衝撃試験片のノッチを、先行するシーム溶接の熱影響部と後続するシーム溶接の熱影響部が重なった位置に来るように採取した。衝撃試験片は一つのW2/W1の条件で、27本実施し、その内40J以下の吸収エネルギーの発生率を百分率で示した。W2/W1は表4および表5の開先形状および溶接条件を選択して調整した。図12が示す様に、W2/W1が0.6未満と2.5超で低値の発生頻度が急激に増加している。また、W2/W1が2.5超の場合は、先行するシーム溶接が後続するシーム溶接により加熱されすぎて高温になり、先行するシーム溶接の溶接金属が溶けてしまうメルトダウン現象(以後、本発明ではMDと略する)が起こる危険性が高くなる。この観点からもW2/W1は2.5以下が望ましい。
【0057】
以上の検討から、W2/W1の範囲を、0.6≦W2/W1≦0.8、および1.2≦W2/W1≦2.5、とした。
【0058】
このW2/W1の制御に仕方について述べる。W1およびW2は溶接金属の大きさおよび形状を制御することで制御できる。ここで言う大きさとは、図13で示す溶接金属の断面積Sであり、形状とは溶接方向と垂直の断面で溶接金属を見た場合の高さhと幅bである。W1は先行するシーム溶接の溶接金属のhから先行するシーム溶接の溶接金属と、後続するシーム溶接の溶接金属との交差する長さを差し引いた値となる。一方、W2は後続するシーム溶接の溶接金属のhと同じ値である。
【0059】
一般に、溶接では開先をアーク等の熱源により溶融した溶接材料で充分埋めることが出来るように溶接条件を決める。そのため、断面積の大きな開先形状を作成すれば断面積の大きな溶接金属Sを得ることができる。一方、断面積の小さい開先を作成すれば小さな断面積Sの溶接金属を得ることが出来る。すなわち、溶接金属の面積は溶接入熱で容易に制御できるため、W2/W1を必要な範囲内の値にすることは、両面の開先形状を所要のW2/W1になるように設計すれば容易に可能である。
【0060】
図14はこれを模式図で図示したものである。図14(b)は、先行するシーム溶接の開先を後続のシーム溶接の開先をほぼ同じに加工した例である。そのため、W1とW2はほぼ同じ値になっている。それに対して図14(a)は、先行するシーム溶接の開先が後続するシーム溶接の開先よりも大きくなるように加工してある。このためW1はW2よりも大きくなりW2/W1は1未満となる。一方、図14(c)は逆に、先行するシーム溶接の開先が後続するシーム溶接の開先より小さい場合の例であるが、この場合、W1はW2よりも小さくなりそのためW2/W1は1を超える値となる。開先の寸法の比率が重要であるため、使用する鋼板の厚さが異なっても同様に設計できる。
【0061】
さらに、同じ溶接金属の面積でも高さhを大きくして幅bを小さくすることも溶接条件で可能である。すなわち、溶接電流が大きいほど図13で示す溶け込みdが大きくなる。当然高さhも大きくなる。溶接電流が大きくなると溶接入熱が大きくなるが、溶接入熱を一定にしたい場合は溶接速度を速くすることにより溶接入熱は一定となり、溶接入熱を変えることなく、高さhを大きくすることができる。入熱を一定にして溶接速度を早くすると一般に幅bは小さくなる。図14(d)は、この方法によりW2/W1を大きくした例の模式図である。開先形状は図14(b)と同じでも、溶接電流を高くすることにより、dの大きい溶け込みの深い溶接金属が得られ、入熱を一定にして溶接速度を早くした場合、図14(d)の様に縦長の溶接金属が得られる。
【0062】
このようにして、W2/W1は溶接条件および開先形状を適切に選択することにより容易に制御できる。また、溶接金属の化学組成は溶接条件により決まる母材の稀釈率、溶接材料の化学組成および母材の化学組成により予測できる。溶接金属の強度や靭性はこの化学組成でほぼ決定される。そのため、溶接条件および母材が固定されても、溶接材料を適切に選択することにより自由に溶接金属の化学組成は調整することができるため、何ら溶接金属の特性に対してW2/W1の設計は支障を与えない。
【0063】
次に、T1/Ac1の限定理由について述べる。T1/Ac1を限定する目的は、1.4≦W2/W1の限定と同じ目的で、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力の低減することである。すなわち、T1/Ac1を大きくして先行するシーム溶接の溶接金属内の変態膨張する領域を増加させることにより、軸方向に発生するの引張応力を低減するのである。
【0064】
先に述べたように、先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力が700MPa未満であれは、溶接金属100gあたり拡散性水素量が2.0cc以下の場合、低温割れの発生を防ぐことができる。図7および図8を参照すると、T1/Ac1を0.65以上にすることにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の引張応力が700MPa未満にすることが出来る。従って、T1/Ac1を0.65以上とした。次に、上限であるが、W2/W1の上限の限定理由と同様に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の温度が高くなりすぎると、後続するシーム溶接により再加熱された先行するシーム溶接の熱影響部の靭性に低値の発生する頻度が高くなる。また、後続するシーム溶接を行っている際に、先行するシーム溶接の溶接金属が溶けてしまうMDが起こる危険性が高くなるため、上限を1.2とした。
【0065】
次にf/W1の限定理由を述べる。図9で示したように、T1/Ac1を0.65以上にするためにはf/W1は0.1以上とする必要がある。T1がAc1以上の場合は、シーム溶接部の断面からはfは測定出来ないため、f/W1の上限は1.0となる。そのため、シーム溶接部の断面からT1/Ac1が1.2以上に達し、溶接熱影響部の靭性低下さらにはMDが起こる危険性があるかどうかの制御は、W1/W2≦2.5の条件を採用することになる。
【0066】
次に具体的に、T1/Ac1の制御の方法について述べる。T1は後続するシーム溶接を実施している時の溶接金属表面の最高加熱温度であり、W2と比較してW1が小さいほど高くなる。すなわち、T1の制御方法はW2/W1の制御方法と同じく、溶接条件および開先形状により容易に制御できる。一方、Ac1は溶接金属の化学組成により決まる測定可能な値である。溶接金属の化学組成は先に述べた様に溶接条件とは独立に調整できるため、先ず、溶接金属に必要な特性を得るための溶接金属の化学組成を決定した後、そのAc1を測定し、この値からT1/Ac1が本発明の範囲に含まれる様に溶接条件あるいは開先形状を設計すれば容易に本発明は実施することができる。さらに、先行するシーム溶接部をバーナー等の補助熱源で加熱する等の方法で熱処理を併用する、あるいは保温材で先行するシーム溶接部を保護する等の方法で保熱する方法も有効である。先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高加熱温度の確認は、事前に設定した開先形状、溶接条件あるいは熱処理を用いて試験的に溶接を実施し確認すれば良く、実際のシーム溶接時にはこれらの設定した溶接条件等を再現すれは、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高加熱温度も再現できる。当然、実際の造管に個々に測温して確認しても良く、品質管理の上ではより望ましい方向である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【実施例】
【0073】
次に、実施例を用いて詳細に本発明の効果について説明する。
【0074】
表1で示した鋼板と、表2および表3で示したサブマージアーク溶接用の溶接材料を用いて、UO鋼管を製造した。その時に用いた開先形状は既に表4に示してある。また、用いた溶接条件も既に表5に示してある。これらの開先形状および溶接条件を組み合わせて、W1/W1およびT1を調整した。また、サブマージアーク溶接に使用するフラックスは、先行するシーム溶接用には300℃×2時間で乾燥させたものを使用したが、後続するシーム溶接用には特に乾燥はせずに、購入ままで使用した。開先面は、アセトンを含ませた布で拭きゴミや油脂を除去し、その後、開先面に汚れが付着しない様に維持して、溶接行程に移った。そのため、基本的には予熱、後熱処理は行わなかったが、一部の造管では後続するシーム溶接を実施する際に先行するシーム溶接部を100℃から150℃に予熱した。これは、先行するシーム溶接の溶接金属表面温度を高くするためであるが同時に拡散性水素を低減する効果もあった。
【0075】
一方、拡散性水素を意図的に増加させた鋼管も造管した。一部の造管においては、先行するシーム溶接用のフラックスを吸湿させて溶接金属中の拡散性水素量を増加させた。また、さらに実製造では開先面に油等の付着も考えられるため、それらも模擬して洗浄した開先面に造管時に使用する水溶性の潤滑油を意図的に塗布して、UO鋼管を製造した。
【0076】
シーム溶接は、先ず市販の50kg級のCO2溶接ワイヤで仮付け溶接を実施した後、内面からサブマージアーク溶接により先行するシーム溶接を行い、その後、外面からサブマージアーク溶接により後続するシーム溶接を行った。本実施例では、後続するシーム溶接時の先行するシーム溶接の溶接金属表面温度は、先行するシーム溶接の溶接金属表面に熱電対を抵抗溶接により接合して測温した。
【0077】
溶接金属中の拡散性水素量は、UO鋼管造管後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点で測定用の試験片を採取し、溶接金属中の拡散性水素量を測定した。
【0078】
その後、拡管の矯正を行った。拡管の矯正を終了後、X線によりシーム溶接部全線に対して非破壊検査を実施し、低温割れの発生の有無を確認した。その後、UO鋼管の両端および中央部から図12に示した要領で衝撃試験片を採取し、溶接熱影響部の靭性を測定した。溶接金属の引張強度は先行するシーム溶接の溶接金属から溶接線方向にJISの丸棒型A2号引張試験片を採取し測定した。溶接金属のAc1温度は、溶接金属の化学組成から推定できるが、本実施例では正確を期するため、先行するシーム溶接部の溶接金属から試験片を採取し、加熱・冷却中の膨張収縮量を測定してAc1温度を測定した。表7、表8(表7のつづき)に本発明によるUO鋼管の発明例を示す。
【0079】
発明例1〜発明例7まではW1/W2が0.6以上0.8以下の範囲の発明例である。溶接金属の強度は855MPa〜1195MPaまで変化している。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下であり、また開先形状および溶接条件を適正に選択することによりW1/W2が本発明の範囲内であるため低温割れは発生してない。さらに、溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度も低く良好である。
【0080】
発明例1および発明例2は、母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の強度が異なる発明例である。
【0081】
発明例3は、板厚が20mmで、溶接金属の強度が1000MPa超の発明例である。
【0082】
発明例4および発明例5は、母材、開先形状および溶接金属は同じであるが、溶接条件が異なる発明例である。そのためW2/W1が相違している。
【0083】
発明例6は、発明例4および発明例5と、母材および開先形状は同じであるが、溶接条件および溶接金属の強度が異なる発明例である。
【0084】
発明例7は、溶接条件は発明例4と同じであるが、母材、開先形状および溶接金属が異なり、高強度のシーム溶接部についての発明例である。
【0085】
発明例8〜発明例26までは、W1/W2が1.2〜2.5の範囲で、しかもf/W1が0.1以上の範囲の発明例である。
【0086】
溶接金属の強度は856MPa〜1179MPaまで変化している。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下であり、また、開先形状および溶接条件を適正に選択することにより、W1/W2が本発明の範囲内であるため低温割れは発生してない。さらに、T1/Ac1の値も、0.65以上、1.2以下である。また、f/W1の値も0.1以上である。さらに、過剰に溶接部が加熱されていないため、溶接部熱影響部の低値の発生頻度も低く良好である。
【0087】
発明例8、発明例9および発明例10は、母材、溶接金属および開先形状は同じであるが、溶接条件が異なる発明例である。そのため、W2/W1は異なっているが、何れも本発明の範囲内である。また、T1/AC1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0088】
発明例11は、母材、溶接金属および溶接条件は発明例8と同じであるが、開先形状が異なる。先行するシーム溶接の開先を深くしたため、W2/W1の値は小さくなっている。しかし、本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0089】
発明例12および発明例13は、母材Aと溶接金属Iの組み合わせに本発明を適用した例である。溶接条件および開先形状も発明例8から発明例11とは異なるが何れも適正な溶接条件や開先形状を選択しているためW1/W2、T1/Ac1およびf/W1は本発明の範囲に含まれ、低温割れの無い健全な溶接部が得られている。
【0090】
発明例14、発明例15、発明例16および発明例17は、母材および溶接金属は同じであるが、溶接条件あるいは開先形状が異なる発明例である。W2/W1は溶接条件や開先形状により変化しているが、本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1は何れも、0.65以上、1.2以下の値となっている。また、f/W1は0.1以上である。
【0091】
発明例18は、発明例15と、母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の引張強度が約940MPaの例である。この引張強度でも割れは発生していない。
【0092】
発明例19は、発明例18と溶接条件が異なり、W2/W1の値が高くなった発明例であるが、低温割れは発生せず、また溶接熱影響部の靭性も良好である。T1/Ac1も0.65以上、1.2以下の範囲に含まれている。また、f/W1は0.1以上である。
【0093】
発明例20、発明例21および発明例22は、母材、溶接金属および開先形状は同じで、溶接条件が異なる発明例である。そのため、W2/W1は異なるが、何れの溶接条件においても、W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、2.5以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0094】
発明例23は、発明例21と母材、開先形状および溶接条件は同じであるが、溶接金属の引張強度が1185MPaと高強度である。しかし、W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、2.5以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0095】
発明例24は、発明例23の開先形状および溶接条件を変化させた発明例である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0096】
発明例25は母材Dを使用した発明例である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0097】
発明例26も母材Dを使用した発明例である。溶接金属の強度は1194MPaでさらに高強度である。W2/W1は本発明の範囲に含まれ、T1/Ac1も0.65以上、1.2以下で、f/W1も0.1以上である。そのため、低温割れはなく、また溶接熱影響部の靭性も良好である。
【0098】
発明例27〜発明例32は、W1/W2が1.2未満であるが、熱処理を行いT1温度を高くすることにより、低温割れを防止した例である。シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下である。
【0099】
発明例27は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を150℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.74としている。f/W1も0.1以上である。
【0100】
発明例28は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を100℃で予熱し、さらに後続するシーム溶接を実施中に、先行するシーム溶接部を断熱材で保温することにより、T1/Ac1を0.69としている。f/W1も0.1以上である。
【0101】
発明例29は、溶接金属の引張強度が865MPaの場合の実施例である。後続するシーム溶接を実施する直前に、先行するシーム溶接部を150℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.70としている。f/W1も0.1以上である。
【0102】
発明例30は後続するシーム溶接を実施中に先行するシーム溶接部をバーナーで加熱することにより、T1/Ac1を0.71としている。f/W1も0.1以上である。
【0103】
発明例31は、後続するシーム溶接を実施中に先行するシーム溶接部を断熱材で保温することにより、T1/Ac1を0.68としている。f/W1も0.1以上である。
【0104】
発明例32は、後続するシーム溶接を実施する直前に先行するシーム溶接部を100℃で予熱することにより、T1/Ac1を0.70としている。f/W1も0.1以上である。
【0105】
これらの手段により、発明例27〜発明例32は低温割れが発生していない。また、T1/Ac1は2.5以下、また、W1/W2は2.5以下で、過剰に溶接部が加熱されていないため、溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度も低く良好であり、MDも発生していない。さらに、これらの熱処理により、先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量も低減している。
【0106】
次に、比較例について説明する。表9、表10(表9のつづき)に本発明の比較例を示す。
【0107】
比較例1〜比較例7まではW2/W1が0.8超、1.2未満の例である。溶接金属の強度は862MPaから1184MPaまで変化させてある。また、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量は溶接金属100g中に2.0cc以下である。しかし、何れも開先に対して溶接条件が不適切のため、W2/W1が本発明の範囲から外れている。また保熱や熱処理等も実施していないため、T1/Ac1も0.65未満で、f/W1は0.1未満である。これらのことから、溶接金属中の拡散性水素量は少ないのにもかかわらず、先行するシーム溶接の溶接金属内に低温割れが発生している。
【0108】
比較例8〜比較例10までは、W2/W1が0.6未満の例である。溶接金属の強度は860MPaから1181MPaまで変化させてある。W2/W1の値が小さいため、低温割れは発生していないが、溶接熱影響部の靭性の低値の発生率が15%以上で多発している。
【0109】
比較例11〜比較例15までは、W2/W1が2.5超の例である。溶接金属の強度は865MPaから1178MPaまで変化させてある。何れも開先に対して、溶接条件が不適切のため、W2/W1が2.5超となっている。さらに、T1/Ac1も1.2超となっている。そのため、先行するシーム溶接金属内に低温割れは発生していないが、溶接熱影響部の靭性に低値が多発している。さらに、比較例12、比較例14および比較例15においては先行するシーム溶接の溶接金属が過剰に加熱されたため、MDが起こっている。
【0110】
比較例16〜比較例22は溶接金属中の拡散性水素量が多い場合の比較例である。
【0111】
比較例16は、発明例1と同条件であるが、開先面に汚れが付着し、さらにフラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。さらに、この低温割れは、後続するシーム溶接の溶接金属内にまで伝播していた。
【0112】
比較例17は、発明例4と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0113】
比較例18は、発明例7と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0114】
比較例19は、発明例9と同条件であるが、開先面に汚れが付着し、さらにフラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。さらに、この低温割れは、後続するシーム溶接の溶接金属内にまで伝播していた。
【0115】
比較例20は、発明例20と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0116】
比較例21は、発明例15と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0117】
比較例22は、発明例24と同条件であるが、フラックスが吸湿していたため、シーム溶接後にシーム溶接部が100℃に冷却した時点での先行するシーム溶接の溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100g中に2.0cc超である。そのため先行するシーム溶接金属内に低温割れが発生している。
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
【表9】
【0121】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】有限要素法による数値解析の結果を示す図。
【図2】W1およびW2を説明する図。
【図3】W2/W1とシーム溶接の溶接金属内に発生する残留応力の関係を示す図。
【図4】シーム溶接部の模式図。
【図5】引張強度が1000MPaの溶接金属における、W2/W1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図6】引張強度が850MPaの溶接金属における、W2/W1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図7】引張強度が1000MPaの溶接金属におけるT1/AC1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図8】引張強度が850MPaの溶接金属におけるT1/AC1と溶接線方向の残留応力の関係を示す図。
【図9】T1/Ac1とf/W1の比の関係を示す図。
【図10】溶接金属の引張強度と先行するシーム溶接金属内に発生する溶接線方向の最大および最小の引張応力残留応力の関係を示す図。
【図11】W2/W1と溶接熱影響部の靭性の低値の発生頻度の関係を示す図。
【図12】シーム溶接部の衝撃試験片採取位置を示す図。
【図13】溶接部の形状の模式図。
【図14】W2/W1の調整方法を示す模式図。
【符号の説明】
【0123】
B1 先行するシーム溶接の溶接金属
B2 後続するシーム溶接の溶接金属
a 先行するシーム溶接の溶接金属表面からの距離
W1 本発明でいう先行するシーム溶接の溶接金属の高さ
W2 本発明でいう後続するシーム溶接の溶接金属の高さ
H1 先行するシーム溶接の溶接金属の最高加熱温度測定位置
S 溶接金属の面積
h 溶接金属ののど厚
b 溶接金属の幅
d 溶け込み深さ
f 先行するシーム溶接の熱影響部の幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、
先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100g当たり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5に規定してシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法。
【請求項2】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、
先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100g当たり2.0cc以下であり、かつ後続するシーム溶接を実施する際に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高到達温度をT1、先行するシーム溶接の溶接金属のAc1変態温度をAc1とした時、T1/Ac1が0.65≦T1/Ac1≦1.2を満足させてシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法。
【請求項3】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、
先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に、0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管。
【請求項4】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、
先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、先行するシーム溶接により形成された溶接金属内において、後続するシーム溶接により形成された溶接熱影響部の幅をfとする場合に、0.1≦f/W1≦1.0の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管。
【請求項1】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、
先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100g当たり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接の溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接の溶接金属の厚さをW2とした時、W2/W1を0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5に規定してシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法。
【請求項2】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の鋼板を円筒状に成形した後に、その鋼板の突き合わせ部を引張強度が850MPa以上1200MPa以下の溶接金属を用いて鋼板の突き合わせ部の内外面両側から各々1層づつ順番にシーム溶接をした後、拡管あるいは縮管などの矯正加工を施してUO鋼管を製造する方法において、
先行するシーム溶接の溶接金属の拡散性水素量が溶接金属100g当たり2.0cc以下であり、かつ後続するシーム溶接を実施する際に、先行するシーム溶接の溶接金属表面の最高到達温度をT1、先行するシーム溶接の溶接金属のAc1変態温度をAc1とした時、T1/Ac1が0.65≦T1/Ac1≦1.2を満足させてシーム溶接を行うことにより先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する引張応力を低減することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管の製造方法。
【請求項3】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、
先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、後続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に、0.6≦W2/W1≦0.8、あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管。
【請求項4】
引張強度が850MPa以上1200MPa以下の母材部と、内外面両側から各々1層づつのシーム溶接により形成された引張強度が850MPa以上1200MPa以下のシーム溶接部からなるUO鋼管において、
先行するシーム溶接により形成された溶接金属中の拡散性水素量が溶接金属100gあたり2.0cc以下であり、かつ先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1、先行するシーム溶接により形成された溶接金属内において、後続するシーム溶接により形成された溶接熱影響部の幅をfとする場合に、0.1≦f/W1≦1.0の関係を満足することを特徴とする耐低温割れ性に優れたUO鋼管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−44710(P2007−44710A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229695(P2005−229695)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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