説明

耐摩耗性被覆を有する物品及びその製造方法

スクリーン(10)のような耐摩耗性の製品が、前面と、後面と、前面からスクリーンを通して後面に延在する開口部とを有するスクリーンを設け、スクリーンの少なくとも一部分を、強磁性又は常磁性の硬質粒子及びろう付け材料を含む被覆材料(24)と接触させ、接触ステップの少なくとも一部分の間にスクリーンの少なくとも一部分を磁場にさらし、そして被覆材料を、ろう付け材料内に分布された硬質粒子を含む耐摩耗性被覆(18)に転換する方法によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2005年2月7日に出願された米国特許出願第11/052,144号の一部継続出願である。
本発明は、耐摩耗性被覆を有するスクリーン及び管のような物品、ならびにこのような耐摩耗性物品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーンは、微粒子が随伴される流体から微粒子を分離することが望ましい高腐食性の工業環境に使用されることが多い。スクリーンは、典型的に、格子、穿孔プレート又は織られたメッシュの形態である。例えば、鋼製スクリーンは、高温ガスストリームから粗いフライアッシュ粒子を捕捉して分離するために、石炭燃焼発電所で使用される。このような高腐食性の環境にさらされる従来のスクリーンは、相当の摩耗を示し、しばしば交換するか又は修理しなければならず、摩耗したスクリーンを操業から取り除く間に生産性の損失が生じる。
【0003】
ホール(Hall)への米国特許出願公開第2006/0210721A1号明細書は、金属スクリーンを被覆するための熱噴霧方法を開示しており、この方法では、被覆材料が多数の噴霧ヘッドによって異なる角度からスクリーン上に方向付けられる。ホールの‘721号特許の熱的に噴霧される被覆は、スクリーンの耐摩耗性を増すと思われるが、耐摩耗性材料の過度の浪費のような問題を蒙る。
【0004】
参照により本明細書に援用されるブレトン(Breton)らへの米国特許第6,649,682B1号明細書は、ファンブレード、管、ポンプ及びバルブのような金属面をハードフェーシング(hardfacing)するための塗装系及び方法を開示している。ブレトンらの‘682号特許では、硬質粒子の分散を含む塗料が被覆として基材の表面に最初に適用される。次に、ろう付け合金の分散を含む塗料が硬質粒子の層にわたって適用される。次に、基材が加熱されて、ろう付け合金が溶融し、硬質粒子内に溶浸するようにさせ、これによって、硬質粒子を金属製の表面に結合する。ブレトンらの‘682号特許はまた、第1の層の接着剤が基材に適用され、次に、ハードフェーシング粉末が接着剤に適用される方法の実施形態を開示している。第2の層の接着剤が適用され、次に、ろう付け合金粉末が第2の接着剤に適用される。次に、基材が加熱され、これによって、ろう付け合金が溶融して、硬質粒子を金属製の表面に結合するように硬質粒子内に溶浸する。ブレトンらの‘682号特許の第3の実施形態では、沈殿した金属間の硬質化合物を含むハードフェーシング合金粉末が、塗料に加工され、保護されるべき表面に適用される。乾燥後、塗料が加熱されて被覆を形成する。第4の実施形態では、ハードフェーシング粒子及びろう付け合金粉末が塗料に加工されて、保護されるべき表面に適用される。次に、塗料が乾燥かつ加熱されて被覆を形成する。
【0005】
ブレトンらの‘682号特許に開示されたような方法では、十分な厚さを有する硬質材料の分散を含む塗料層を獲得するために、基材の多数の被覆(又は浸漬(dips))を塗料に取り入れて、必要な被覆厚さを達成する。基材の鋭角の隅部又は縁部において、塗料が離れる傾向を有し、基材の鋭角の隅部又は縁部に隣接するこれらの領域に、より薄い被覆及び予定より早い摩耗をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0210721A1号明細書
【特許文献2】米国特許第6,649,682B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
著しく有効な耐摩耗性被覆をスクリーンのような物品に製造する被覆方法を提供することが望ましいであろう。
【0008】
同様に、高腐食性の環境にさらされるときに物品の耐摩耗性を高める耐摩耗性被覆をスクリーンのような物品に設けることが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、耐摩耗性の製品であって、その少なくとも一部分を覆うろう付け合金マトリックス内に実質的に均一に分布された強磁性又は常磁性の硬質粒子を含む磁気蒸着された耐摩耗性被覆を備え、硬質粒子が耐摩耗性被覆の少なくとも20パーセントの面積を占める耐摩耗性の製品を提供することである。一実施形態において、耐摩耗性被覆の硬質粒子は、耐摩耗性被覆の少なくとも25パーセントの面積を占めることが可能である。
【0010】
本発明の他の態様は、耐摩耗性被覆を製品に形成する方法を提供することである。この方法は、製品の少なくとも一部分を、強磁性又は常磁性の硬質粒子及びろう付け材料を含む被覆材料と接触させるステップと、接触ステップの少なくとも一部分の間に製品の少なくとも一部分を磁場にさらすステップと、被覆材料を、ろう付け材料内に分布された硬質粒子を含む耐摩耗性被覆に転換するステップとを含み、被覆材料は、耐摩耗性被覆内のろう付け材料に対する硬質粒子の比率よりも低い、ろう付け材料に対する硬質粒子の比率を有する。ある実施形態において、耐摩耗性被覆内の硬質粒子の面積割合は、少なくとも20又は25パーセントである。
【0011】
本発明の別の態様は、耐摩耗性被覆をスクリーンのような物品に形成する方法であって、前面と、後面と、前面からスクリーンを通して後面に延在する開口部とを有するスクリーンを設けるステップと、スクリーンの少なくとも一部分を、強磁性又は常磁性の硬質粒子及びろう付け材料を含む被覆材料と接触させるステップと、接触ステップの少なくとも一部分の間にスクリーンの少なくとも一部分を磁場にさらすステップと、被覆材料を、ろう付け材料内に分布された硬質粒子を含む耐摩耗性被覆に転換するステップとを含む方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の態様は、耐摩耗性スクリーンであって、前面と、後面と、前面からスクリーンを通して後面に延在する開口部とを有するスクリーンと、スクリーンの少なくとも一部分を覆うろう付け合金マトリックス内に実質的に均一に分布された強磁性又は常磁性の硬質粒子を含む磁気蒸着された耐摩耗性被覆と、を含む耐摩耗性スクリーンを提供することである。
【0013】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による耐摩耗性被覆で被覆可能な格子の形態のスクリーンの等角図である。
【図2】本発明の実施形態による耐摩耗性被覆で被覆された図1に示したスクリーンの格子棒の1つの断面図である。
【図3】本発明の実施形態による被覆蒸着工程を改良するために、スクリーンの後面に固定された磁石を有する耐摩耗性被覆で被覆されるべき当該スクリーンの等角図である。
【図4】本発明の実施形態による粘性の耐摩耗性被覆材料に浸漬された図3に示したのと同様のスクリーン及び磁石組立体の部分概略端面図である。
【図5】本発明の実施形態による磁場の影響下で粘性の耐摩耗性材料に沈められた図4に示したようなスクリーンの格子棒の1つの断面図である。
【図6】磁場なしに鋼格子基材に蒸着されたろう付け合金マトリックスのタングステン炭化物粒子を含む複合被覆材料を示した顕微鏡写真であり、ろう付け合金のマトリックス内に不均一に分布されたタングステン炭化物粒子の比較的低い濃度を示している。
【図7】本発明の実施形態による磁場の下で鋼格子基材に蒸着されたろう付け合金マトリックスのタングステン炭化物粒子を含む耐摩耗性の複合被覆材料を示した顕微鏡写真であり、図6に示した被覆と比較して、増大した被覆厚さ、増大したタングステン炭化物濃度、及びろう付け合金マトリックス全体にわたるより均一なタングステン炭化物分布を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態による耐摩耗性被覆を有するスクリーン10の等角図である。スクリーン10は、2つの水平の支持棒14によって接続された複数の垂直の格子棒12を含む格子の形態である。図1に示したスクリーン10は、複数の垂直の棒12及び2つの水平の支持部14を含むが、他の任意の適切な数、向き及び形状の棒12及び支持部14を利用してもよい。例えば、各々の格子棒12の断面形状は、図1に示した長方形の代わりに正方形又は円形でもよい。さらに、スクリーン10は、孔又は穿孔を有する材料のシート又はプレートから製造してもよい。例えば、スクリーンは、所望のサイズ及び間隔の円形、正方形又は他の形状の孔を有する鋼プレートを備えることが可能である。スクリーンはまた、織られたメッシュ構造を備えてもよい。したがって、本明細書に使用されているように、「スクリーン」という用語は、このような様々な格子、穿孔シート及びメッシュ構造を含むように意図される。スクリーンに加えて、管のような他の製品に、本発明による耐摩耗性被覆を設けてもよい。例えば、管又は管エルボの内径の少なくとも一部分を耐摩耗性被覆で被覆してもよい。
【0016】
図1に示したように、スクリーン10は、図1の矢印IとOによって示した流体ストリームに配置するために構造化されかつ配置される。入口流体ストリームIは、スクリーン10の前面に方向付けられ、一方、出口流体ストリームOは、格子棒12の間に形成されたスクリーン10の開口部を通過した後にスクリーン10の背面から方向付けられる。一実施形態において、入口流体ストリームIは、例えば石炭燃焼発電所からの高温ガスストリーム内に随伴されたフライアッシュ(flyash)粒子を有する当該高温ガスストリームを含む可能性がある。細かい及び粗い粒子の両方を有するフライアッシュ粒子が随伴した約500°F(約260℃)を超える温度を有するガスストリームは、このような発電所において見られる。典型的な動作温度範囲は、約580°F〜700°F(約304
℃〜371℃)である。本実施形態では、スクリーン10は、格子10の後側から出る細かいフライアッシュ粒子及び高温ガス出口ストリームOから、入口ストリームIに含まれる粗いフライアッシュ粒子を分離する。スクリーンを通過する細かいフライアッシュ粒子は、かなりの腐食を引き起こす。さらに、スクリーンに衝撃を加える粗いフライアッシュ粒子及びスラグ破片も、かなりの摩耗を引き起こす可能性がある。
【0017】
スクリーン10は、高さH、幅W及び深さDを有する。スクリーン10の高さH及び幅Wは、特定の用途に応じて変更してもよい。例えば、高さHは、典型的に、約0.3m〜約6mであり得、幅Wは、典型的に、約0.3m〜約6mであり得、深さDは、約0.03cm〜約4cmであり得る。
【0018】
図1〜図3に示した実施形態では、各々の格子棒12は厚さTを有し、その隣接する格子棒12から離間距離Sだけ離隔される。各々の格子棒12の厚さTは、典型的に、約0.1cm〜約2cmであり得る。隣接する格子棒12の間の間隔Sは、典型的に、約0.4cm〜約6cmである。
【0019】
スクリーンが穿孔プレートの形態で設けられる場合、典型的な高さ及び幅は上述の通りであり、プレートの典型的な深さ又は厚さは、約0.025cm〜約1.3cmである。各々の孔の直径は、典型的に、約0.4cm〜約6cmであり、隣接する孔の間の中心から中心の距離は、典型的に、約0.6cm〜約8cmである。開口部は、典型的に、4メッシュ以上のメッシュサイズを有し、少なくとも4.76mmのシーブ(sieve)開口部に対応する。
【0020】
スクリーンが織られたメッシュの形態で設けられる場合、典型的な高さ及び幅は上述の通りであり、ワイヤ直径に対応する厚さは、典型的に、約0.15cm〜約0.5cmである。隣接するワイヤの間の中心から中心の距離は、典型的に、約0.6cm〜約1.3cmである。ワイヤメッシュの開口部は、少なくとも4メッシュのサイズを有し、少なくとも4.76mmのシーブ開口部に対応する。
【0021】
スクリーン10は、典型的に、例えば強磁性材料又は常磁性材料のような磁気透過性材料から製造される。例示的な適切なスクリーン材料としては、炭素鋼と合金鋼、工具鋼及びマルテンサイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼が挙げられる。
【0022】
図2は、図1に示した被覆された格子棒12の1つの断面図である。格子棒12は、耐摩耗性被覆18で少なくとも部分的に被覆された基材材料16を含む。格子棒基材16は厚さTSを有し、一方、被覆18は、その側面の各々において被覆厚さTCSを有し、ならびにその前面において前部の被覆厚さTCFを有する。したがって、被覆された格子棒12の全体の厚さTは、基材厚さTSと2つの側面厚さTCSとの合計に等しい(T=TS+2TCS)。前部の被覆厚さTCFは、典型的に、約0.1mm〜約3mmの範囲にあり、側面の被覆厚さTCSは、典型的に、約0.1mm〜約1.3mmの範囲にある。一実施形態において、前部及び側面の被覆厚さTCFとTCSは、実質的に同一である。あるいは、前部及び側面の被覆厚さTCFとTCSは、異なってもよく、例えば、前部の被覆厚さTCFは、側面の被覆厚さTCSよりも大きくてもよい。さらに、両側の被覆厚さTCSは、スクリーンの厚さ又は深さに沿って均一でもよく、あるいは変更されてもよい。例えば、スクリーンの前面に隣接する側面の被覆厚さは、先細りの被覆を設けるために、スクリーンの後面に隣接する側面の被覆厚さよりも大きくてもよい。このような可変の被覆厚さは、以下により詳細に説明するように、被覆工程中にスクリーンによって発生される磁場により形成され得る。
【0023】
本発明によれば、耐摩耗性被覆18は、磁場の影響下で被覆棒基材16に適用される。「磁場」という用語は、地上の周囲磁場を上回る磁場を意味するように意図される。
【0024】
図3は、図1に示した等角図と同様のスクリーン10の等角図であり、永久磁石20がスクリーン10の後面に設けられている。図3に示した実施形態では、3つの磁石20が示され、その各々は、実質的にスクリーン10の全体高H、及びその幅Wの部分にわたって延在する。3つの永久磁石20が図3に示されているが、他の任意の適切な数、形状、サイズ及び構造の永久磁石を使用してもよい。さらに、永久磁石の代わりに、スクリーンの部分を囲む一連のワイヤコイル(図示せず)のような他の任意の適切な手段によって磁場をスクリーン10に印加してもよく、これらのワイヤコイルを通して電流が発生され、磁気透過性のスクリーンに磁場を生成する。
【0025】
図3に示したスクリーン及び磁石組立体は、図4に概略的に示したような浸漬被覆(dip−coating)工程に使用してもよい。トレイ又はパン22は、以下により詳細に説明するような組成を有する粘性の耐摩耗性被覆材料24で部分的に満たされる。被覆されるべき格子棒基材16及びバッキング磁石20は、パン22内に、例えば、格子棒基材16が粘性の耐摩耗性被覆材料24にほぼ完全に沈められるレベルに下げられ、磁石20は、粘性の被覆材料の表面の上方に僅かに留まる。
【0026】
粘性の耐摩耗性被覆材料24は、焼結炭化物、窒化物、ホウ化物及び/又は炭窒化物のような強磁性又は常磁性の硬質粒子を含有する。適切な硬質粒子の1つの好ましい例は、コバルト焼結タングステン炭化物粒子である。焼結タングステン炭化物に加えて、適切な焼結硬質粒子の他の例としては、焼結バナジウム炭化物、焼結ニオブ炭化物、焼結クロム炭化物、焼結チタン炭化物、焼結タンタル炭化物、焼結モリブデン炭化物、焼結ハフニウム炭化物、焼結シリコン炭化物及び焼結ボロン炭化物の任意の1つ以上が挙げられる。酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムのような焼結酸化物を硬質粒子としても使用してもよい。焼結硬質粒子は、ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの合金、ならびに銅ベースの合金又はアルミニウムベースの合金の任意の1つ以上によって共に結合してもよい。
【0027】
硬質粒子に加えて、粘性の耐摩耗性被覆材料24は、ろう付け材料を含有する。ろう付け材料は、粘性の被覆材料の強磁性又は常磁性の成分を含むことができる。1つの例示的なろう付け材料は、ニッケル・クロム・ボロンのろう付け合金である。粘性の被覆材料24は、基材に対する被覆の流動性及びその適用を補助する追加の成分(例えば、高分子剤)を含有することができる。硬質粒子、ろう付け材料及び他の成分の追加の説明を以下に示す。
【0028】
図5は、粘性の耐摩耗性被覆材料24に沈められた図4に示した格子棒基材16の1つの断面図である。磁気透過性の格子棒基材16を通した磁石20によって発生される磁場の影響下で、粘性の耐摩耗性被覆材料24の成分が格子棒基材16の側面及び下面に優先的に蒸着されて、耐摩耗性粒子とろう付け合金粒子との組み合わせを含む被覆26を形成する。以下により詳細に説明するように、耐摩耗性粒子は磁場によって引き付けられ、粘性の耐摩耗性被覆材料24の耐摩耗性粒子の濃度と比較して比較的高い濃度で格子棒基材16に蒸着される。この結果得られる蒸着された材料被覆26は、比較的厚く、蒸着された被覆の厚さ全体にわたって均一に分布された比較的高い濃度のタングステン炭化物粒子を有する。基材16に対する耐摩耗性粒子の磁気引力のため、蒸着された被覆のろう付け合金の濃度は、粘性の耐摩耗性被覆材料24の濃度よりも低い。
【0029】
耐摩耗性被覆26がスクリーン10に蒸着された後、耐摩耗性被覆は容器22から取り除かれ、被覆は乾燥して固化することが可能である。被覆空気が乾燥させることが典型的である。熱を被覆に加えてその乾燥を補助できることも考えられる。以下の説明から明らかになるように、スクリーン10が粘性の耐摩耗性被覆材料24から取り除かれた後に磁石20をスクリーン10から直ちに取り除くことができるか、あるいは被覆が乾燥する、すなわち堅くなるまで、磁石20はスクリーン10に留まることが可能である。
【0030】
被覆が乾燥すると、熱を加えて又は熱を加えることなく、乾燥した被覆を有するスクリーン10は、硬質粒子をろう付け材料に冶金接合するために、ろう付け材料の固相線を超える温度に加熱される。この加熱ステップは、粘性の耐摩耗性被覆をスクリーンの耐摩耗性被覆内に固化する(又は転換する)工程の最終ステップである。理解できるように、温度は、ろう付け材料の特性に応じて変化し得るが、例示的な温度は、約875℃に等しい下限から約1,230℃に等しい上限の範囲にある。冶金接合を行う加熱工程は、多数のステップを含んでもよいことも認識されるべきである。冶金接合を行うための例示的な加熱工程は、ブレトンらへの米国特許第6,649,682号明細書に記載されている。
【0031】
1つ以上の磁石がスクリーンの表面に位置決めされる特定の実施形態では、各々の磁石により、スクリーンの少なくとも一部分は磁場の影響下に置かれる。しかし、各々の磁石により、典型的に、スクリーン全体は磁場の影響下に置かれず、このことは、スクリーンの他の部分が磁場の影響下にないことを意味する。このような状態では、磁場の影響下にあるスクリーンの部分の近傍の耐摩耗性被覆の厚さが、磁場の影響下にないスクリーンのそれらの部分の近傍の耐摩耗性被覆の厚さよりも厚くなることを予想できる。したがって、磁石の配置及び強度により、選択的な位置に所定の厚さを有することができる耐摩耗性被覆(すなわち、選択的に可変の厚さを有する被覆)を有するスクリーンが製造されることを理解できる。例えば、スクリーンの前部の被覆厚さTCFは、スクリーンを通した開口部の側面被覆厚さTCSよりも大きいことが可能であり、例えば、前部の被覆厚さTCFは、側面の被覆厚さTCSよりも10〜100パーセント大きいことが可能である。さらに、側面被覆厚さTCSは、スクリーンの厚さ又は深さに沿って変化することが可能であり、例えば、スクリーンの前面に隣接する側面被覆厚さは、スクリーンの後面に隣接する側面被覆厚さよりも10〜100パーセント大きいことが可能である。
【0032】
粘性の耐摩耗性被覆材料を参照すると、好ましい硬質粒子は、コバルト焼結タングステン炭化物粒子を含む。コバルト焼結タングステン炭化物粒子の組成に関し、これらの粒子は、約5.5重量%〜約6.8重量%のコバルトと、約93.2重量%〜約94.5重量%のタングステン炭化物とを含む。他の組成範囲では、これらの粒子は、約5.5重量%〜約10.5重量%のコバルトと、約89.5重量%〜約94.5重量%のタングステン炭化物とを含む。焼結タングステン炭化物粒子は、約37ミクロン〜約53ミクロンのサイズを有する。
【0033】
ろう付け材料は、ニッケル、クロム、ボロン、シリコン、鉄、アルミニウム、金、銅、マンガン、銅ベースの合金、アルミニウムベースの合金、他の貴金属及びそれらの合金の任意の1つ以上を含むことができる。好ましいろう付け材料は、4.0重量%のB、15.5重量%のCr及び残りはNiの組成を有するニッケル・クロム・ボロンろう付け合金である。
【0034】
粘性の耐摩耗性被覆材料は、高分子剤をさらに含んでもよい。高分子剤は、架橋されたアクリルエマルジョンの1つ以上を含む群から選択することができる。好ましい高分子剤は、Acrysol ASE−60という名称でロームアンドハース(Rohm and Haas)によって販売されているアクリレートポリマーである。耐摩耗性被覆材料の粘度は、スクリーン上の当該被覆材料の蒸着を促進するために変更してもよい。
【0035】
本発明の方法を評価するために、試験を実行した。これらの試験について、結果と共に以下に記載する。試験の全体に関し、粘性の被覆材料は、コバルト焼結タングステン炭化物粒子及びニッケル・クロム・ボロンろう付け合金と、粒子を懸濁液に保持するためのアクリレートポリマーとを含有する水ベースの塗料を含んでいた。塗料はチキソトロープ性であった。塗料は、1分当たり0.5回転で回転するブルックフィールド粘度メータで測定した際に160,000cPの粘度(ASTM標準D2196に準拠)を有し、またASTM標準D1475に従って測定した際に1立方センチメートル当たり約5.0グラムの密度を有した。塗料のpHは、ASTM標準E70に従って測定した際に中性から弱塩基性であった。試験に使用した塗料は、米国特許第6,649,682号明細書に略述されているような方法に従って作製された。より詳しくは、次の成分、すなわち、1890mlの水、42グラムのスルフィノール(Surfynol)DF−75、51グラムのスルフィノールCT131、エアプロダクツ社(Air Products,Inc)によって販売されている51グラムのスルフィノール420、水内の27mlの5重量%のKOH、44ミクロンに等しい平均粒径を有する9630グラムの焼結タングステン炭化物(6重量%のコバルト及び残りの重量%はタングステン炭化物)、及びニッケル(残りの重量%)−クロム(15.5重量%)−ボロン(4.0重量%)の共晶ろう付け合金の8667グラムを共に混合した。次に、混合物を攪拌するときに、78mlのAcrysol(アクリゾル)60の増粘剤を混合物内に滴定した。結果として得られた粘度は、上述の通りであった。
【0036】
炭素鋼から製造した図1に示したのと同様の格子を基材スクリーンとして使用した。格子は、約2フィート(約61cm)の高さ、約4フィート(約122cm)の幅、及び約1インチ(約2.54cm)の深さであった。格子は、3つの垂直の支持棒によって共に取り付けられた27の平行の水平格子棒を含んでいた。各々の水平格子棒は、1/8インチ(約0.318cm)の厚さであり、隣接する格子棒の間の間隔は5/16インチ(約0.794cm)であった。格子をグリットブラーストし(grit blasted)かつ化学的に洗浄して、すべての不純物汚染を除去した。格子を洗浄した後で、格子を2つの等しい部片に切断した。第1の試験では、格子全体が覆われる深さまで格子の前面が粘性の被覆材料に沈められる浸漬被覆方法を使用して、格子の1つの部片を粘性の被覆材料で被覆した。2分後、格子を粘性の被覆材料から取り除き、空気乾燥した。この試験中、磁場は使用しなかった。
【0037】
第2の試験中、図3に示した構成と同様の格子の背面に市販の汎用磁石を配置することによって、格子の他の部片を均一に磁化した。格子を磁化した後、格子の大部分は沈められるが、磁石が表面に留まる深さまで、格子を粘性の被覆材料内に浸漬することによって粘性の被覆材料を適用した。2分後、格子を粘性の被覆材料から取り除き、空気乾燥した。塗料が完全に乾燥した後、磁石を取り除いた。両方の試験は、大気条件で実行され、塗料の粘度は160,000cPに維持された。
【0038】
両方の部片の塗料を完全に乾燥した後、部片を2,060°Fで真空炉でろう付けした。小さなクラッド部分(cladded portion)を格子の両方の部片から切断し、顕微鏡を使用して検査した。
【0039】
図6は、第1の試験に対応する磁場なしに格子に適用された被覆の微細構造を示している。図7は、第2の試験に対応する磁場の影響下で格子に適用された被覆の微細構造を示している。約0.0085インチ(約0.0216cm)の最終の被覆厚さが、磁場を使用しなかった第1の試験で達成された。約0.0194インチ(約0.0493cm)の最終の被覆厚さが、磁場を印加した第2の試験で達成された。図7に示した被覆厚さは、図6に示した被覆厚さの約2倍である。
【0040】
同様に、図6と図7は、被覆用のろう付け合金マトリックスのタングステン炭化物粒子の分布の差を示している。磁場(図7)を使用して適用された被覆は、磁場なしに適用された被覆と比較して(図6)、ろう付け合金マトリックス内に実質的に均一な分布のタングステン炭化物粒子を有する。したがって、耐摩耗性被覆全体にわたる均一な分布のタングステン炭化物は、粘性の被覆材料の適用中に格子を磁化することによって達成することができ、一方、磁石を使用せずに適用した被覆は、不均一な分布のタングステン炭化物を有する。
【0041】
第1及び第2の試験によって製造された被覆内のタングステン炭化物の割合は、顕微鏡写真を使用してタングステン炭化物、ろう付けマトリックス、有孔度等のような様々な成分の割合領域を計算する市販の画像分析ソフトウェアによって測定した。試験1及び試験2で適用した被覆について顕微鏡写真を取り、磁石を使用してまた磁石を使用しないで適用した被覆の両方について、タングステン炭化物の面積割合を、画像分析ソフトウェアを使用して測定した。表1は、被覆の各々に存在するタングステン炭化物の面積割合を示している。
【表1】

【0042】
格子を磁化することによって適用した被覆に存在するタングステン炭化物の面積割合は、格子を磁化しないで適用した被覆に存在するタングステン炭化物の面積割合のほぼ二倍である。各々の被覆の残りは、ろう付け合金マトリックスを含む。
【0043】
本発明の耐摩耗性被覆は、未被覆のスクリーンと比較してかなり大きな耐摩耗性を提供する。例えば、本発明に従って被覆したスクリーンのASTM G65試験規格に従って測定されたような耐摩耗性係数は、同様の未被覆のスクリーンよりも5、10倍又はさらには20倍も大きい可能性がある。
【0044】
説明の目的で本発明の特定の実施形態について上述してきたが、添付の特許請求の範囲に規定されるような本発明から逸脱することなしに本発明の細部の多数の変更を行うことが可能であることが、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐摩耗性被覆をスクリーンに形成する方法であって、
前面と、後面と、前記前面から前記スクリーンを通して前記後面に延在する開口部とを有するスクリーンを設けるステップと、
前記スクリーンの少なくとも一部分を、強磁性又は常磁性の硬質粒子及びろう付け材料を含む被覆材料と接触させるステップと、
前記接触ステップの少なくとも一部分の間に前記スクリーンの少なくとも一部分を磁場にさらすステップと、
前記被覆材料を、前記ろう付け材料内に分布された前記硬質粒子を含む耐摩耗性被覆に転換するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記スクリーンが実質的に平坦であり、約0.3m〜約6mの高さ、約0.3m〜約6mの幅、及び約0.03cm〜約4cmの深さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スクリーンが、互いに離間した複数の実質的に平行の棒を含む格子を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記棒が、前記スクリーンの前面と平行の平面で測定して約0.15cm〜約0.8cmの断面厚さを有し、前記棒が互いに約0.4cm〜約6cmの距離離間している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記スクリーンが、磁気的に透過性の鋼を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被覆材料が、前記硬質粒子と前記ろう付け材料の粒子とを含む粘性液体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記硬質粒子が焼結炭化物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記硬質粒子がコバルト焼結タングステン炭化物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ろう付け材料が、強磁性又は常磁性のろう付け合金を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ろう付け材料が、Ni、Cr及びBを含む合金を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記粘性被覆材料が、前記耐摩耗性被覆内の前記ろう付け材料に対する前記硬質粒子の比率よりも低い、前記ろう付け材料粒子に対する前記硬質粒子の比率を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記接触させるステップが、前記スクリーンを前記被覆材料内に浸漬するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記スクリーンが前記被覆材料に部分的に沈められる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記さらすステップが、前記スクリーンに隣接して少なくとも1つの永久磁石を配置するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの永久磁石が前記スクリーンの後面に取り付けられる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの永久磁石が前記スクリーンの後面全体を実質的に覆う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記スクリーンの前面が前記被覆材料に沈められ、前記スクリーンの後面及び前記少なくとも1つの永久磁石が前記被覆材料に沈められない、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記被覆材料が、前記ろう付け材料の固相線温度を超える温度に前記被覆材料を加熱することによって、前記耐摩耗性被覆に転換される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記耐摩耗性被覆が約0.1mm〜約3mmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記耐摩耗性被覆が、前記ろう付け材料のマトリックス内に前記硬質粒子の実質的に均一な分布を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記耐摩耗性被覆内の前記ろう付け材料マトリックスに対する前記硬質粒子の重量比が、前記被覆材料内の前記ろう付け材料に対する前記硬質粒子の重量比よりも大きい、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記耐摩耗性被覆が、前記スクリーンの前面に、前記スクリーンを通した開口部の厚さよりも大きい厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記耐摩耗性被覆が、前記スクリーンを通した開口部に、前記スクリーンの深さに沿って変化する厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記開口部の前記耐摩耗性被覆の厚さが、前記スクリーンの後面に隣接してよりも前記スクリーンの前面に隣接してより大きい、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の方法によって製造される耐摩耗性スクリーン。
【請求項26】
耐摩耗性スクリーンであって、
前面と、後面と、前記前面から前記スクリーンを通して前記後面に延在する開口部とを有するスクリーンと、
前記スクリーンの少なくとも一部分を覆うろう付け合金マトリックス内に実質的に均一に分布された強磁性又は常磁性の硬質粒子を含む磁気蒸着された耐摩耗性被覆と、
を含む耐摩耗性スクリーン。
【請求項27】
耐摩耗性の製品であって、
前記製品の少なくとも一部分を覆うろう付け合金マトリックス内に実質的に均一に分布された強磁性又は常磁性の硬質粒子を含む磁気蒸着された耐摩耗性被覆を備え、前記硬質粒子が、前記耐摩耗性被覆の少なくとも20パーセントの面積を占める耐摩耗性の製品。
【請求項28】
前記硬質粒子が、前記耐摩耗性被覆の少なくとも25パーセントの面積を占める、請求項27に記載の耐摩耗性の製品。
【請求項29】
耐摩耗性被覆を製品に形成する方法であって、
前記製品の少なくとも一部分を、強磁性又は常磁性の硬質粒子及びろう付け材料を含む被覆材料と接触させるステップと、
前記接触させるステップの少なくとも一部分の間に前記製品の少なくとも一部分を磁場にさらすステップと、
前記被覆材料を、前記ろう付け材料内に分布された前記硬質粒子を含む耐摩耗性被覆に転換するステップであって、前記被覆材料が、前記耐摩耗性被覆内の前記ろう付け材料に対する前記硬質粒子の比率よりも低い、前記ろう付け材料に対する前記硬質粒子の比率を有するステップと、
を含む方法。
【請求項30】
前記製品が、磁気的に透過性の鋼を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記被覆材料が、前記硬質粒子と前記ろう付け材料の粒子とを含む粘性液体を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記硬質粒子が焼結炭化物を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記硬質粒子がコバルト焼結タングステン炭化物を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ろう付け材料が、強磁性又は常磁性のろう付け合金を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記ろう付け材料が、Ni、Cr及びBを含む合金を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記耐摩耗性被覆内の前記硬質粒子の面積割合が少なくとも20パーセントである、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記耐摩耗性被覆内の前記硬質粒子の面積割合が少なくとも25パーセントである、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−523826(P2010−523826A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503197(P2010−503197)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/059848
【国際公開番号】WO2008/127965
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【Fターム(参考)】