説明

耐油コーティング膜及びその形成方法並びに耐油紙

【課題】 耐油性、柔軟性、及び生分解性を併せ持つ耐油コーティング膜を提供する。
【解決手段】 基材上に、セラックのアンモニア水溶液を塗工した後、溶媒を蒸発させることにより、セラックから成るアンダーコート層を形成する。次に、再び、セラックのアンモニア水溶液を塗工した後、溶媒を蒸発させることにより、セラックから成るオーバーコート層を形成し、2層構造を持つ耐油コーティング膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、耐油紙の表面に形成される耐油コーティング膜及びその形成方法並びに耐油紙に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】セラックは、ラックカイガラ虫が分泌する天然樹脂であり、耐油性等の性質を有するので、従来より、塗料用、食品用のコーティング剤として広く使用されている。
【0003】しかし、紙の表面にセラックからなる耐油コーティング膜を形成する場合、膜厚を非常に厚くしないと充分な耐油性が得られないという問題があった。又、耐油性を高めるために膜厚を厚くした場合、セラックは硬く柔軟性に乏しいため、紙を折り曲げた際に、コーティング膜が割れるという問題があった。
【0004】ところで、従来より、一般に紙の耐油コーティング膜として使用されていたのは、合成樹脂系の材料であり、それらには生分解性がなかったため、焼却時における有害ガスの発生の問題があった。特に、フッ素系耐油コーティング剤の場合には、腐食性ガスであるフッ酸が発生することがあった。
【0005】又、合成樹脂系の耐油コーティング層を備えた紙を再生紙とする場合、脱墨工程で排出される廃棄物中には耐油コーティング剤が含まれており、その耐油コーティング剤は生分解性を持たないため、廃棄物の処理等において、環境及び安全性の面で問題があった。
【0006】上記の理由から、生分解性のある耐油コーティング膜が望まれていた。本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、十分な耐油性を持ちながら、同時に柔軟性があり、折り曲げても割れず、従来より生分解性及び安全性に優れた耐油コーティング膜及びその形成方法並びに耐油紙の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】(1)請求項1の発明は、基材の表面側に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面側に形成され、セラックを含有するオーバーコート層とを備えた多層積層膜であることを特徴とする耐油コーティング膜を要旨とする。
【0008】a)本発明の耐油コーティング膜においては、基材の表面側にアンダーコート層を備えるため、セラックを含有するオーバーコート層が薄くても、十分な耐油性を発現する。そのため、セラックを含有するオーバーコート層を薄く(例えば、膜厚0.1〜0.5ミクロン)することができる。
【0009】セラックを含有するオーバーコート層を、例えば上記の範囲の様に、適度に薄くした場合、本発明の耐油コーティング膜は、十分な耐油性を持ちながら、同時に柔軟性に優れており、基材を折り曲げても割れることがない。又、折り曲げた部分でも耐油性に優れている。しかも、オーバーコート層にセラックを含有しているので、従来の合成樹脂から成る耐油コーティング膜よりも生分解性及び安全性の点で優れている。
【0010】b)更に、本発明の耐油コーティング膜においては、アンダーコート層の材料を選択することにより、その特性(例えば、耐水性、吸水性、透気抵抗度、透湿度)を制御することができる。例えば、以下の様に、アンダーコート層の材料に応じて、本発明の耐油コーティング膜の特性は変化する。
【0011】■アンダーコート層の材料として、例えば、セラック又は天然ラテックスゴムを使用した場合には、耐水性に優れる。
■アンダーコート層の材料として、例えば、カゼインを使用した場合には、吸水性を持つ。
【0012】■アンダーコート層の材料として、例えば、セラック、カゼイン、又は天然ゴムラテックスを使用した場合には、透気抵抗度が大きくなり、透湿度が小さくなる。
従って、本発明においては、アンダーコート層の材料を選択することにより、耐油性に加えて、例えば、耐水性、吸水性、高透気抵抗度、低透湿度等の特性を持つ耐油コーティング膜を形成することができる。
【0013】c)又、セラックは、生分解性がある材料であるため、例えば、オーバーコート層をセラックから成る層とし、他の層も生分解性のある材料(例えば、セラック、カゼイン、天然ゴムラテックス)から成るものとすれば、本発明の耐油コーティング膜は生分解性を持つ。そのため、焼却時における有害ガスの発生が無い。(例えば、フッ素系耐油コート剤の様に、腐食性ガスであるフッ酸が発生することはない。)又、本発明の耐油コーティング膜を備えた紙を再生紙とする場合、脱墨工程で排出される廃棄物中には、本発明の耐油コーティング膜の成分が含まれるが、それら成分は生分解性を有するため、廃棄物の処理において環境破壊の問題がない。
【0014】d)更に、セラックは、食品に使用可能な材料であるため、例えば、オーバーコート層をセラックから成る層とし、他の層も食品に使用可能な材料(例えば、セラック、カゼイン、天然ゴムラテックス)から成るものとすれば、本発明の耐油コーティング膜は食品の耐油コーティング膜として使用できる。
【0015】尚、本発明の耐油コーティング膜において、アンダーコート層とオーバーコート層がともにセラックから成り、且つそれら2層が接している場合でも、それら2層は別々に形成される層であるので、上記2層の合計膜厚と等しい膜厚のセラック単層膜を形成した場合に比べて、柔軟性や折り曲げた部分での耐油性に優れている。
【0016】・本発明の耐油コーティング膜の構成としては、例えば、図1(a)に示す様に、基材の上に形成されたアンダーコート層と、その上に形成されたセラックを含有するオーバーコート層とからなる2層積層膜がある。
・又は、本発明の耐油コーティング膜の構成として、例えば、図2(b)に示す様に、前記アンダーコート層と前記オーバーコート層に加えて、前記2層の間に別の層(例えば、アンダーコート層とオーバーコート層の密着性を高めるための密着層)を備えていてもよく、又は前記オーバーコート層の上に、更に別の層(例えば、オーバーコート層を保護するための保護層)を備えていてもよい。
【0017】・アンダーコート層の材料としては、例えば、合成樹脂被膜剤(例えば、パラフィン、パラフィンEm、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂及びその誘導体)、脂質、タンパク質、糖質(例えば、ゼラチン、デキストリン、分岐デキストリン、天然ゴムラテックス、カゼイン、デンプン)、ワックス(例えば、ロジン、コーパル、サンダラック、ダンマル、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、ミツロウ、セラックロウ、ラノリン)、セルロール及びその誘導体がある。
【0018】・基材としては、例えば、紙、板紙、不織布、紙容器(トレー含む)がある。
・セラックとしては、3種類のセラック(セラック、脱色セラック、白ラック)のいずれでもよい。
(2)請求項2の発明は、基材の表面に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の上に積層され、セラックを含有するオーバーコート層とからなることを特徴とする前記請求項1に記載の耐油コーティング膜を要旨とする。
【0019】本発明は、耐油コーティング膜の構成を例示しており、アンダーコート層とオーバーコート層の2層から構成される。本発明の耐油コーティング膜は、請求項1に記載の耐油コーティング膜と同様に、耐油性及び柔軟性を有するとともに、特に本発明の耐油コーティング膜は2層のみからなるため、膜の形成が容易であるという特長を有する。
【0020】又、アンダーコート層の材料を選択することにより、例えば、耐水性、吸水性、高透気抵抗度、低透湿度等の特性をもつ耐油コーティング膜とすることができる。更に、本発明の耐油コーティング膜は、生分解性のあるものとすることができ、又、食品に使用可能なものとすることができる。
【0021】(3)請求項3の発明は、前記アンダーコート層及び前記オーバーコート層が、生分解性のある材料からなることを特徴とする前記請求項2に記載の耐油コーティング膜を要旨とする。アンダーコート層及びオーバーコート層が共に生分解性を有するため、本発明の耐油コーティング膜は、生分解性を有する。そのことにより、焼却時における有害ガスの発生が無い。
【0022】又、本発明の耐油コーティング膜を備えた紙を再生紙とする場合に、脱墨工程で排出される廃棄物が生分解性を有するため、環境破壊の問題がない。本発明の耐油コーティング膜におけるアンダーコート層としては、例えば、セラック、カゼイン、天然ゴムラテックス等の生分解性のある材料から成るものがあり、オーバーコート層としては、例えば、セラック単独から成るもの、又はセラックと他の生分解性のある材料とから成るものがある。
(4)請求項4の発明は、前記アンダーコート層及び前記オーバーコート層が、食品に使用可能な材料からなることを特徴とする前記請求項2に記載の耐油コーティング膜を要旨とする。
【0023】アンダーコート層及びオーバーコート層が共に食品に使用可能な材料から成るため、本発明の耐油コーティング膜は、食品に使用可能である。本発明の耐油コーティング膜におけるアンダーコート層としては、例えば、セラック、カゼイン、天然ゴムラテックス等の食品に使用可能な材料から成るものがあり、オーバーコート層としては、例えば、セラック単独から成るもの、又はセラックと、食品に使用可能な他の材料とから成るものがある。
(5)請求項5の発明は、前記請求項1〜4のいずれかに記載の耐油コーティング膜を、表面に備えることを特徴とする耐油紙を要旨とする。
【0024】本発明の耐油紙は、その表面に備える耐油コーティング膜の持つ耐油性によって、耐油性に優れている。又、本発明の耐油紙が備える耐油コーティング膜は、柔軟性に富むため、本発明の耐油紙を折り曲げた場合にも、耐油コーティング膜が割れることはない。そのため、本発明の耐油紙は、折れ目においても、耐油性に優れている。
【0025】更に、本発明の耐油紙が備える耐油コーティング膜は、アンダーコート層の材料を選択することにより、例えば、耐水性、高吸水性、高透気抵抗度、低透湿度等の特性を持つものとできる。そのため、本発明の耐油紙は、例えば、上記の特性を持つ耐油紙とすることができる。
【0026】その上、本発明の耐油紙が備える耐油コーティング膜においては、オーバーコート層の必須成分であるセラックが生分解性を有する。従って、オーバーコート層が、セラック、又はセラックと生分解性のある他の材料とから成り、他の層も生分解性のある材料から成る場合には、耐油コーティング膜は生分解性を持ち、本発明の耐油紙は、生分解性を持つものとなる。そのため、焼却時における有害ガスの発生が無い。
【0027】又、本発明の耐油紙を再生紙とする場合に、脱墨工程で排出される廃棄物が生分解性を有するため、環境破壊の問題がない。又、セラックは食品に使用可能な材料であるため、オーバーコート層が、セラック、又はセラックと食品に使用可能な他の材料とから成り、他の層も、食品に使用可能な材料から成る場合には、耐油コーティング膜は食品に使用可能であり、本発明の耐油紙は、食品に使用可能なものとなる。
【0028】尚、耐油コーティング膜は、紙の片面のみに形成してもよく、両面に形成してもよい。
(6)請求項6の発明は、耐油コーティング膜の形成方法であって、(1)アンダーコート層を形成する工程と、(2)セラックを含有するオーバーコート層を形成する工程とを含むことを特徴とする耐油コーティング膜の形成方法を要旨とする。
【0029】本発明において、アンダーコート層を形成する工程としては、例えば、アンダーコート層の材料の溶液(例えば水溶液、アルカリ水溶液(例えば、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液等)、アルコール溶液、又はその他の有機溶媒の溶液)を、基材の上に塗布し、その後溶媒を蒸発させる方法がある。
【0030】又、前記溶液を塗布する方法としては、例えば、バーコーターを使用する方法、ディップ法、スピンコート法、又はスプレーによる塗工法等がある。そして、セラックを含有するオーバーコート層を形成する工程としては、例えば、上記アンダーコート層の形成方法と同様の工程がある。
【0031】本発明の耐油コーティング膜の形成法としては、例えば、上記アンダーコート層の形成工程と、上記オーバーコート層の形成工程から成る形成法がある。又、上記アンダーコート層の形成工程と、上記オーバーコート層の形成工程に加えて、上記2工程の間に、別の層(例えば、前記2層の密着性を向上させるための層)を形成する工程を備えていてもよく、又は、オーバーコート層の形成工程の後に、別の層(例えば、オーバーコート層を保護するための層)を形成する工程を備えていてもよい。
【0032】本発明により形成される耐油コーティング膜は、アンダーコート層を備えているため、セラックを含有するオーバーコート層が薄くても、十分な耐油性を持つ。そのため、オーバーコート層を薄くすることが出来る。又、オーバーコート層を適度に薄くした場合、本発明により形成される耐油コーティング膜は、耐油性と同時に柔軟性を有し、基材を折り曲げても割れることがない。
【0033】更に、アンダーコート層の材料の選択により、例えば、耐水性、高吸水性、高透気抵抗度、低透湿度等の特性を持つ耐油コーティング膜を形成することができる。その上、本発明により形成される耐油コーティング膜は、材料として、セラックのみを選択することにより、又は、セラックと、生分解性のある他の材料を選択することにより、生分解性のある耐油コーティング膜とすることができる。
【0034】又、本発明により形成される耐油コーティング膜は、材料として、セラックのみを選択することにより、又はセラックと、食品に使用可能な他の材料を選択することにより、食品に使用可能な耐油コーティング膜とすることができる。
【0035】
【発明の実施の形態】以下に本発明の耐油コーティング膜及びその形成方法並びに耐油紙の実施の形態の例(実施例)を説明する。
イ)まず、実施例における耐油コーティング膜及びその形成方法並びに耐油紙について説明する。
(実施例1)
a)本実施例1の耐油紙(耐油コーティング膜を表面に備えた紙)の構成は、図2に示す様に、純白ロール紙1の片面に、脱色セラックから成るアンダーコート層3と、同じ脱色セラックから成るオーバーコート層5を積層して成るものである。尚、アンダーコート層3とオーバーコート層5の面密度は、共に2.6g/cm2である。
【0036】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙1の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
【0037】■熱風乾燥機を用い、120℃の条件下で、30秒間加温して溶媒を蒸発させ、アンダーコート層3を形成した。
■前記■と同様に、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工量は、9.14g/m2とした。
【0038】■前記■と同様に、溶媒を蒸発させ、オーバーコート層5を形成した。
c)本実施例1の耐油紙は、耐油性があること、折り曲げても耐油コーティング膜が割れないこと、生分解性があること、食品に使用可能であること、耐水性があること、透気抵抗度が大きく、透湿度が小さいこと、という特長を有する。
(実施例2)
a)本実施例2の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、天然ゴムラテックスから成るアンダーコート層と、脱色セラックから成るオーバーコート層を積層して成るものである。尚、本実施例2における耐油紙の基本的な構成は、前記実施例1における耐油紙と同じであるため、構成を示す図面は省略する。(以下実施例3についても同じ。)又、アンダーコート層とオーバーコート層の面密度はそれぞれ、4.4g/cm2と2.6g/cm2である。
【0039】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、天然ゴムラテックス水溶液(濃度48重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
■前記実施例1における■〜■の工程と同様に、乾燥、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)の塗工、及び乾燥を行った。
【0040】c)本実施例2の耐油紙は、耐油性があること、折り曲げても耐油コーティング膜が割れないこと、生分解性があること、食品に使用可能であること、耐水性があること、透気抵抗度が大きく透湿度が小さいこと、という特長を有する。
(実施例3)
a)本実施例3の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、カゼインから成るアンダーコート層と、脱色セラックから成るオーバーコート層を積層して成るものである。尚、アンダーコート層とオーバーコート層の面密度はそれぞれ、1.4g/cm2と2.6g/cm2である。
【0041】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、カゼイン水溶液(濃度15重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
■前記実施例1における■〜■の工程と同様に、乾燥、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)の塗工、及び乾燥を行った。
【0042】c)本実施例3の耐油紙は、耐油性があること、折り曲げても耐油コーティング膜が割れないこと、生分解性があること、食品に使用可能であること、吸水性があること、透気抵抗度が大きく透湿度が小さいこと、という特長を有する。
ロ)次に、後に実験例に使用する比較例について説明する。
(比較例1)
a)本比較例1の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、脱色セラックの単層膜を、2.6g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0043】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
【0044】■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例2)
a)本比較例2の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、天然ゴムラテックスの単層膜を、4.4g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0045】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、天然ゴムラテックス水溶液(濃度48重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例3)
a)本比較例3の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、カゼインの単層膜を、1.8g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0046】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、カゼイン水溶液(濃度15重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例4)
a)本比較例4の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、合成樹脂系耐油コート剤から成るアンダーコート層と、同一の合成樹脂系耐油コート剤から成るオーバーコート層を積層して成るものである。尚、アンダーコート層とオーバーコート層の面密度は共に、1.5g/cm2である。
【0047】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工液量は、9.14g/m2とした。
■熱風乾燥機を用い、120℃の条件下で、30秒間加温することにより溶媒を蒸発させ、アンダーコート層を形成した。
【0048】■前記■と同様に、前記■と同一の合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工量は、9.14g/m2とした。
■前記■と同様に、溶媒を蒸発させ、オーバーコート層を形成した。
(比較例5)
a)本比較例5の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、脱色セラックの単層膜を、9.0g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0049】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、32g/m2とした。
【0050】■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例6)
a)本比較例6の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、脱色セラックの単層膜を、5.8g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0051】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、20.6g/m2とした。
【0052】■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例7)
a)本比較例7の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、脱色セラックの単層膜を、3.8g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0053】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、13.7g/m2とした。
【0054】■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例8)
a)本比較例8の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、脱色セラックの単層膜を、1.9g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0055】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、脱色セラックのアンモニア水溶液(濃度28重量%)を塗工した。この時、塗工液量は、6.87g/m2とした。
【0056】■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例9)
a)本比較例9の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、合成樹脂系耐油コート剤の単層膜を、5.4g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0057】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工液量は、32g/m2とした。
■前記実施例1における■と同様に、溶媒を蒸発させた。
(比較例10)
a)本比較例10の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、合成樹脂系耐油コート剤の単層膜を、3.5g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0058】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工液量は、20.6g/m2とした。
(比較例11)
a)本比較例11の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、合成樹脂系耐油コート剤の単層膜を、2.3g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0059】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工液量は、13.7g/m2とした。
(比較例12)
a)本比較例12の耐油紙の構成は、純白ロール紙の片面に、合成樹脂系耐油コート剤の単層膜を、1.2g/m2の面密度で形成して成るものである。
【0060】b)以下のようにして、耐油紙を製造した。
■純白ロール紙の表面に、バーコーターを用い、合成樹脂系耐油コート剤を塗工した。この時、塗工液量は、6.87g/m2とした。尚、脱色セラックとしては、岐阜セラツク製造所製 PEARL−N811を使用し、合成樹脂系耐油コート剤としては、市販されているフッ素系耐油コート剤を使用した。
【0061】又、耐油コーティング膜は、片面のみに形成した。
ハ)次に、本実施例で製造した耐油紙の耐油性を確認するために行った試験について説明する。実施例1〜3及び比較例1〜12における耐油紙について、J.TAPPINo.41 キット法により、撥油度試験を行った。
【0062】尚、実施例1〜3、及び比較例4〜12については、耐油コーティング膜を設けた面が重なるように、紙を指で強く押さえて折り目をつけた部分(折り曲げ部分)と、折り曲げない部分(通常部分)それぞれについて測定を行った。その他の実施例及び比較例については、通常部分のみについて測定を行った。
【0063】その結果を表1に示す。
・表1において、×は、キット数1以下を示す。
・表1において、−は、測定していないことを示す。
・耐油紙においては、8以上のキット数を持つ場合に、十分な耐油性があるといえる。
【0064】・ブランクとは、耐油コーティング膜を形成していない紙である。
【0065】
【表1】


【0066】表1に示す様に、実施例1〜3における耐油紙ついては、通常部分と折り曲げ部分の両方において、キット数が大きく、耐油性に優れる。比較例1〜3の耐油紙については、通常部分において、十分な耐油性がない。比較例4、9〜12の耐油紙については、セラックを含まない材料を使用しているため、生分解性及び安全性の点で劣っている。
【0067】比較例5の耐油紙は、通常部分での耐油性には優れるが、折り曲げ部での耐油性は非常に劣っている。尚、現在紙メーカーで使用されている塗付機においては、一般に、塗工液量は10g/m2であり、本比較例5における液量を塗工することは困難である。
【0068】比較例5〜8の耐油紙は、折り曲げ部分において、耐油性が非常に劣っている。上記比較例5〜8の結果から、セラック単層の耐油コーティング膜では、非常に膜厚を厚くしないと耐油性が劣り、又、たとえ膜厚を厚くしても、折れ目部での耐油性は劣ることが示されている。
【0069】ハ)次に、本実施例で製造した耐油紙の吸水度、透気抵抗度、及び透湿度を確認するために行った試験について説明する。試験は、実施例1〜3及び比較例4における耐油紙と、ブランクについておこなった。結果を表2に示す。
【0070】・吸水度の試験は、JIS8140のコッブ法と、JIS8122のステキヒト・サイズ度試験法により行い、透気抵抗度の試験は、JIS P8117:1998の方法により行い、透湿度の試験は、JIS Z0208:1976の方法により行った。
【0071】その結果を表2に示す。
・表2における表面とは、耐油コーティング膜を形成した面をいい、裏面とは、耐油コーティング膜を形成していない面をいう。
・表2における△は、吸水度が非常に大きいため、紙の反対側の面まで水が染み込み、測定不可であることを示す。
【0072】・コッブ法の測定結果の単位はg/m2であり、ステキヒト・サイズ法の測定結果の単位は秒であり、透気抵抗度の測定結果の単位は秒であり、透湿度の測定結果の単位は、g/cm・24hrである。
・ブランクとは、耐油コーティング膜を形成していない紙である。
【0073】
【表2】


【0074】表2に示す様に、実施例1と実施例2の耐油紙は、吸水性が非常に小さい。従って、耐水性に優れている。実施例3の耐油紙は、比較例4と同程度の吸水性を持つ。又、実施例1〜3の耐油紙は、いずれも、透気抵抗度が非常に大きく、透湿度が非常に小さい。
【0075】尚、本発明は上記の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、耐油コーティング膜を形成する基材としては、紙の他に、板紙、不織布、紙容器(トレー含む)がある。
【0076】又、アンダーコート層及びオーバーコート層を塗工する方法は、例えば、ディップ法、スピンコート法、又はスプレーによる塗工法であっても良い。更に、アンダーコート層及びオーバーコート層を塗工する際の溶媒は、例えば、アルコール又はその他の有機溶媒であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 耐油コーティング膜の説明図である。
【図2】 実施例1における耐油コーティング膜の説明図である。
【符号の説明】
1・・・純白ロール紙
3・・・アンダーコート層
5・・・オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材の表面側に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面側に形成され、セラックを含有するオーバーコート層と、を備えた多層積層膜であることを特徴とする耐油コーティング膜。
【請求項2】 基材の表面に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の上に積層され、セラックを含有するオーバーコート層と、からなることを特徴とする前記請求項1に記載の耐油コーティング膜。
【請求項3】 前記アンダーコート層及び前記オーバーコート層が、生分解性のある材料からなることを特徴とする前記請求項2に記載の耐油コーティング膜。
【請求項4】 前記アンダーコート層及び前記オーバーコート層が、食品に使用可能な材料からなることを特徴とする前記請求項2に記載の耐油コーティング膜。
【請求項5】 前記請求項1〜4のいずれかに記載の耐油コーティング膜を、表面に備えることを特徴とする耐油紙。
【請求項6】 耐油コーティング膜の形成方法であって、(1)アンダーコート層を形成する工程と、(2)セラックを含有するオーバーコート層を形成する工程と、を備えることを特徴とする耐油コーティング膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−1864(P2002−1864A)
【公開日】平成14年1月8日(2002.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−189503(P2000−189503)
【出願日】平成12年6月23日(2000.6.23)
【出願人】(392036094)株式会社岐阜セラツク製造所 (3)
【Fターム(参考)】