説明

耐溶剤性シリコーンゴム組成物

【課題】硬化させて、シリコーンゴムの特徴である耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性のみならず、耐溶剤性においても良好な硬化物を形成する耐溶剤性シリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)式(I)で示される直鎖状ポリオルガノシロキサン 100重量部;(B)ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に2個を越える数で有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜10.0になる量;(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量;並びに(D)平均粒径 1〜100μmであり、かつアスペクト比10〜500であるマイカ粉 20〜200重量部 を含む、耐溶剤性シリコーンゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオルガノシロキサンの付加反応によって硬化する耐溶剤性シリコーンゴム組成物、及び当該組成物の硬化物からなる耐溶剤性シリコーンゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性に優れた材料として知られており、種々の産業分野において、O−リング、パッキン、ガスケット等の部品に使用されている。しかしながら、シリコーンゴムは、溶剤に浸漬すると膨張しやすく、耐溶剤性に劣るため、用途が制限されていた。特に、近年では、自動車のエンジンオイルは寒冷地でも使用可能なように低粘度化している。そのため、エンジンオイルと接触する部分にシリコーンゴムを用いるといっそう膨張しやすくなってきており、このことは、自動車産業におけるシリコーンゴムの使用の大きな障害になっていた。
【0003】
上記の欠点を克服するために、シリコーンゴムにペルフルオロアルキル含有基を導入し、フッ素化シリコーンゴムとすることが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、フッ素化によって、非極性溶剤やエンジンオイルに対する耐性は得られるが、ケトン、低級アルコール等の極性溶剤には膨張しやすくなるという問題が新たに発生する。また、フッ素化シリコーンゴムは作業性に劣る上、環境の観点からも、フッ素のようなハロゲンの使用は好ましいとはいえない。
【0004】
一方、フッ素化せずに、シリコーンゴムの耐溶剤性を改善する試みとして、多孔性シリカの使用が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、十分な改善の効果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−205359号公報
【特許文献2】特開平5−186700号公報
【特許文献3】特開平7−3161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、加熱硬化により、良好な耐溶剤性を有する硬化物を形成する耐溶剤性シリコーンゴム組成物を提供することである。本発明のさらなる課題は、このような組成物の硬化物からなる耐溶剤性シリコーンゴム製品を提供することである。なお、本明細書において、耐溶剤性とは、極性溶剤、非極性溶剤及びエンジンオイル等の燃料油に接触した場合に、膨張しにくい性質をいう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ベースポリマーの直鎖状ポリオルガノシロキサンのシロキサン単位数の平均値を特定の範囲内とし、かつ特定の平均粒径及びアスペクト比を有するマイカ粉を併用した、シリコーンゴム組成物によって、その課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明のシリコーンゴム組成物においては、ベースポリマーのシロキサン単位数の平均値を特定の範囲内にすることで、硬化物の架橋点間の平均長さを小さくすることができ、これに加えて、層状構造のマイカを配合することで、硬化物の見掛け上の架橋密度を上げることができる。これらが相俟って、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物中への溶剤の侵入が防止され、耐溶剤性が発揮されると考えられる。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)式(I):
【化2】


(式中、
Rは、独立して、R又はRであり、Rのうち、少なくとも2個はRであり、
は、独立して、C−Cアルケニル基であり、
は、独立して、C−Cアルキル基又はフェニル基であり、
nは、平均値で10〜2000である)で示される直鎖状ポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に2個を越える数で有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜10.0になる量;
(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量;並びに
(D)平均粒径1〜100μmであり、かつアスペクト比10〜500であるマイカ粉 20〜200重量部
を含む、耐溶剤性シリコーンゴム組成物に関し、当該組成物の硬化物からなる耐溶剤性シリコーンゴム製品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーンゴム組成物を加熱硬化させて、良好な耐溶剤性を有する硬化物を得ることができる。本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム製品は、優れた耐溶剤性を有し、かつシリコーンゴム本来の耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性も期待できるため、有用性が高い。特に、エンジンオイル等の燃料油と接触しても膨張しにくいことから、自動車、車輌、船舶、飛行機や化学プラント等の部品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】キシレン浸漬前後の比較例1、実施例2及び5の試験片
【図2】n−ヘキサン浸漬前後の比較例1、実施例2及び5の試験片
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられる(A)成分は、式(I):
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、
Rは、独立して、R又はRであり、Rのうち、少なくとも2個はRであり、
は、独立して、C−Cアルケニル基であり、
は、独立して、C−Cアルキル基又はフェニル基であり、
nは、平均値で10〜2000である)で示される直鎖状ポリオルガノシロキサンである。
【0014】
この(A)成分は、本発明の耐溶剤性シリコーンゴム組成物においてベースポリマーとなる成分であり、式(I)中のRと(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応により、網状構造を形成して硬化物を形成することができる。(A)成分のシロキサン単位数の平均値nを10〜2000とすることにより、架橋点間の平均長さを小さくすることができる。nは、より好ましくは、20〜1500であり、さらに好ましくは30〜1200である。
【0015】
式(I)において、RはC−Cアルケニル基であり、これらは、分岐状であっても、直鎖状であってもよく、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示される。合成が容易で、組成物の流動性や、硬化物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が最も好ましい。Rは、式(I)中に、少なくとも2個存在する。このとき、Rは分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、良好な反応性を得るために、Rの少なくとも一部は、分子末端に存在することが好ましく、それぞれの末端に1個ずつ、合計2個のRが存在することがより好ましい。
【0016】
式(I)において、RはC−Cアルキル基又はフェニル基である。C−Cアルキル基は、分岐状であっても、直鎖状であってもよく、メチル、エチル、プロピルなどが例示され、合成及び取扱いが容易で、熱的性質及び機械的性質の優れた硬化物を与えることから、メチル基が特に好ましい。
【0017】
耐溶剤性向上の点から、(A)成分は、Rのうち、フェニル基が10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは30〜50モル%である。
【0018】
(A)成分は、23℃における粘度が0.01〜500Pa・sであることが好ましい。粘度がこの範囲にあると、組成物の流動性が良好で、優れた作業性を示す一方、優れた機械的強度、及び適度の弾性と硬さを示す硬化物を与えることができる。粘度は、シロキサン単位数の平均値n及びRの種類を変化させることにより調節できる。一般に、nが大きい程、粘度は高くなり、Rに導入されるフェニル基が多い程、粘度は高くなる。(A)成分の粘度は、より好ましくは、0.05〜100Pa・sであり、さらに好ましくは0.1〜20Pa・sである。
【0019】
本発明で用いられる(B)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、分子中に含まれるヒドロシリル基が、(A)成分中のRとの間で付加反応することにより、(A)成分の架橋剤として機能するものである。そのような、架橋剤として機能する(B)成分は、硬化物を網状化するために、該付加反応に関与するケイ素原子に結合した水素原子を、分子中に2個を越える数、好ましくは3個以上有している。
【0020】
(B)成分は、代表的には、一般式(II):
(RSiO(4−c−d)/2 (II)
(式中、
は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基を表し;
cは、0〜2の整数であり;
dは、1又は2であり、ただし、c+dは1〜3の整数である)
で示される単位を、分子中に2個を越える数、好ましくは3個以上有する。
【0021】
及び(B)成分の他のシロキサン単位のケイ素原子に結合した有機基としては、前述の(A)成分におけるRと同様のものが例示され、それらの中でも、合成が容易な点から、メチル基が最も好ましい。また、合成が容易なことから、dは1が好ましい。
【0022】
(B)成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよい。また、これらの混合物を用いてもよい。
【0023】
(B)成分の重合度は特に限定されないが、同一のケイ素原子に2個以上の水素原子が結合したポリオルガノハイドロジェンシロキサンは合成が困難なので、3個以上のシロキサン単位からなることが好ましく、硬化温度に加熱しても揮発せず、かつ流動性に優れて(A)成分と混合しやすいことから、シロキサン単位の数は、6〜200個がさらに好ましく、10〜150個が特に好ましい。
【0024】
(B)成分の配合量は、優れた機械的性質を有する硬化物が得られることから、(A)成分中のR基に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の比(H/Vi)が、0.5〜10.0、好ましくは1.0〜5.0となるような量である。H/Viが0.5未満では、硬化物の機械的強度が不足し、10.0を越えると、硬化の際に発泡する傾向があり、硬化物の耐熱性が著しく悪化する。
【0025】
本発明で用いられる(C)成分の白金族金属化合物は、(A)成分中のRと(B)成分中のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させるための触媒である。白金族金属化合物としては、白金、ロジウム、パラジウムのような白金族金属原子の化合物が用いられ、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物;ロジウム−ホスフィン錯体、ロジウム−スルフィド錯体のようなロジウム化合物;パラジウム−ホスフィン錯体のようなパラジウム化合物などが例示される。
【0026】
これらのうち、触媒活性が良好な点から、塩化白金酸とアルコールの反応生成物及び白金−ビニルシロキサン錯体が好ましく、短時間に硬化して接着性を発現する必要がある場合には、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体及び白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。しかし、必要な硬化速度は、硬化物を設ける部位の形状や、それに伴って必要な作業時間によっても異なるので、(C)成分と硬化遅延剤との組合せで、任意に選択することができる。
【0027】
(C)成分の配合量は、優れた硬化速度が得られることから、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、白金族金属原子換算で通常0.1〜1,000重量ppmであり、好ましくは0.5〜200重量ppmである。0.1重量ppm未満では硬化速度が遅く、1,000重量ppmをこえても、それに見合う硬化速度の上昇が得られない。
【0028】
本発明で用いられる(D)成分は、(A)成分と相俟って、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物の耐溶剤性を向上させる成分である。(D)成分は、耐溶剤性向上の観点から、平均粒径は1〜100μmであり、アスペクト比は10〜500である。作業性の点から、平均粒径は1〜60μmであることが好ましく、溶剤への膨潤性抑制や作業性の点から、アスペクト比は、20〜250が好ましい。マイカは、一般に扁平な粉末であり、ここで、マイカ粉の平均粒径は、扁平面の最大径の平均値をいい、アスペクト比は、マイカ粉の長径と厚みの割合の値をいう。(D)成分としては、白雲母、金雲母、黒雲母のような天然マイカのほか、合成マイカを挙げることができる。不純物が少なく、硬化物たるゴム状弾性体に優れた機械的性質を与えることから、白雲母が好ましい。
【0029】
(D)成分の配合量は、硬化物に十分な耐溶剤性と適切な硬さを付与する点から、(A)成分100重量部に対して20〜200重量部であり、40〜200重量部が好ましい。
【0030】
本発明のシリコーンゴム組成物には、必要に応じて、(C)成分の触媒能を阻害しない範囲で、接着性付与剤を配合することができる。接着性付与剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3−グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピルアルコキシシラン類;ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記一般式(III):
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、Qは、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Qは、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Rは、炭素数1〜6の非置換又は置換のアルキル基を表す)で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物;アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド;ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシド;マレイン酸ジアリル、トリアリルイソシアナートのような極性基含有有機化合物などが例示される。
【0033】
上記一般式(III)で示される側鎖において、Qとしては、エチレン、トリメチレン、2−メチルエチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成及び取扱いが容易なことから、エチレン基及び2−メチルエチレン基が好ましい。Qとしては、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレン基が好ましい。Rとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルなどのアルキル基;及び2−メトキシエチル等のアルコキシで置換されたアルキル基が例示され、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。このような側鎖を有する有機ケイ素化合物として、式(IV):
【0034】
【化5】

【0035】
で示される環状シロキサン化合物が例示される。接着性付与剤の配合量は、接着性付与剤の種類及び基材によっても異なるが、(A)成分100重量部に対して通常0.5〜20重量部の範囲であり、特に接着性の観点から1〜20重量部が好ましく、2〜15重量部がさらに好ましい。
【0036】
本発明のシリコーンゴム組成物の保存性や作業性を改善するために、硬化抑制剤を配合することができる。上記マレイン酸ジアリルは、接着性付与剤としてだけでなく、硬化抑制剤としても有効である。そのほか、硬化抑制剤としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサン−1−オールのようなアセチレンアルコール類が例示される。
【0037】
本発明のシリコーンゴム組成物は、硬化して、耐溶剤性に優れた硬化物を形成するが、硬化前の段階で適度の流動性を与え、硬化物に、その用途に応じて要求される高い機械的強度を付与するために、(D)成分以外にも無機質充填剤を添加することができる。無機質充填剤としては、平均粒径0.1μm未満、比表面積30mm2/g以上の補強性充填剤;及び平均粒径0.1〜50μmの非補強性充填剤が挙げられる。補強性充填剤としては、煙霧質シリカ、アークシリカのような乾式法シリカ;及び沈殿シリカのような湿式法シリカなどが例示され、これらはそのまま用いてもよく、ヘキサメチルジシラザンのような疎水化剤で表面処理を行って用いてもよい。非補強性充填剤としては、けいそう土、粉砕石英、溶融石英、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルミノケイ酸、炭酸カルシウム、有機酸表面処理炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、タルク、酸化第二鉄などが例示され、押出し作業性と、硬化物に必要な物性に応じて選択される。また、目的に応じてカーボンブラックのような導電性充填剤を配合してもよい。
【0038】
さらに、本発明のシリコーンゴム組成物に、目的に応じて、顔料、チクソトロピー性付与剤、押出し作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線防止剤、防かび剤、耐熱性向上剤、難燃化剤など、各種の添加剤を加えてもよい。また、場合によっては、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させた形態としてもよい。
【0039】
本発明のシリコーンゴム組成物は、(A)〜(D)成分、及びさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。また、長期間安定して貯蔵するために、(B)成分と(C)成分が別個の予備配合物に含まれるように、適宜、2個の予備配合物を調製して保存しておき、使用直前に定量混合器のミキシングヘッドのような混合手段によって均一に混合してシリコーンゴム組成物を調製し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0040】
本発明のシリコーンゴム組成物は、加熱硬化させて、ゴム状弾性体である硬化物を得ることができる。硬化物の形成方法は、特に限定されず、例えば、適切な型中に、本発明のシリコーンゴム組成物を注入した後、加熱硬化させて硬化物を形成することができる。あるいは適切な基材の上に、本発明のシリコーンゴム組成物を塗布し、加熱硬化させて硬化物を形成してもよい。本発明のシリコーンゴム組成物の硬化条件は、主に(C)成分と反応抑制剤の種類及び添加量によって、室温から250℃の間の温度で任意に設定できる。加熱時間は、120分以下とすることが好ましく、より好ましくは60分以下、さらに好ましくは30分以下である。しかしながら、部材の大きさや加熱炉の能力によって、硬化条件は適宜調整することができる。
【0041】
本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム製品は、優れた耐溶剤性を有し、かつシリコーンゴム本来の耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性も期待できるため、有用性が高い。特に、エンジンオイル等の燃料油と接触しても膨張しにくいため、自動車、車輌、船舶、飛行機や化学プラント等の部品に好適に用いることができる。具体的には、O−リング、パッキン、ガスケット等のシール材やオイルタンクの内貼り材、電気電子基板へのコーティング材、電子部品のポッティング材への応用が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
実施例及び比較例に、(A)及び(B)成分として、下記のポリシロキサンを用いた。以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。単位式において、中間シロキサン単位は単に単位数を示すものであり、複数の種類の中間シロキサン単位を含む場合、中間シロキサン単位はランダムに配列されている。
単位: (CH3)2HSiO1/2
単位: (CH3)2(CH2=CH)SiO1/2
D単位: −(CH3)2SiO−
ff単位: −(CSiO−
Q単位: SiO4/2(4官能性)
A−1:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が3Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(シロキサン単位数の平均値550);
A−2:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位60モル%とDff単位40モル%からなり、粘度が3Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルフェニルシロキサン(シロキサン単位の平均値30);
B−1:単位式Mで示される分岐状ポリメチルハイドロジェンシロキサン
【0044】
実施例及び比較例に、(C)成分として、下記の白金錯体を用いた。
C−1:塩化白金酸−ビニルテトラマー錯体(白金原子換算2重量%)。
【0045】
実施例及び比較例に、下記の充填剤を用いた。
D−1:平均粒径5μm、アスペクト比65の白雲母粉
D−2:平均粒径22μm、アスペクト比70の白雲母粉
D−3:平均粒径50μm、アスペクト比80の白雲母粉
D−4:平均粒径2μm、不定形の石英粉
【0046】
硬化抑制剤として、以下を用いた。
E−1:1−エチニル−1−シクロヘキサノール
【0047】
実施例1〜6及び比較例1
(予備配合物Iの調製)
撹拌装置を付した容器に、表1に示すA−1〜A−2の量の半分と、表1に示すD−1〜D−4の量の半分とを配合し、ついで表1に示すC−1及びE−1の全量を添加し、均一になるまで混合して、予備配合物Iを調製した。
【0048】
(予備配合物IIの調製)
同様の装置に、A−1〜A−2の残りの量と、表1に示すB−1の全量と、D−1〜D−4の残りの量を配合し、均一になるまで混合して、予備配合物IIを調製した。
【0049】
(組成物の調製及びシリコーンゴムシートの作製)
定量混合機の2個の容器に、予備配合物I及び予備配合物IIをそれぞれ仕込み、ミキシングへッドに等量の両予備配合物を供給して、均質に混合し、減圧下で脱泡してシリコーンゴム組成物を調製した。ついでシリコーンゴム組成物を、表面にポリテトラフルオロエチレン処理を施したステンレス鋼製金型に注型し、150℃で30分加熱して硬化させることにより、厚さ1.0mmのシリコーンゴムシートを作製した。
【0050】
実施例1〜2、比較例1のシリコーンゴムシート(厚さ1.0mm)を、JISK6249に準じて2号ダンベルで打ち抜き、各試験片を作成した後、23℃でキシレン、n−ヘキサン、2−プロパノール又はアセトン中に浸漬した。72時間後に各試験片を取り出し、浸漬前後の体積変化率を測定した。測定結果を表1に示す。また、比較例1、実施例2及び5について、キシレン及びn−ヘキサンへの浸漬前後の写真を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されるように、実施例1〜6は、比較例1に比べて体積変化率が小さく、優れた耐溶剤性を示した。実施例1〜3と実施例4〜6との対比から、同じ種類のマイカを使用した場合には、Rにフェニル基が導入されたベースポリマーを使用することにより、体積変化率の抑制効果を一層向上できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシリコーンゴム組成物を加熱硬化させて、良好な耐溶剤性を有する硬化物を得ることができる。本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム製品は、優れた耐溶剤性を有し、かつシリコーンゴム本来の耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性も期待できるため、有用性が高い。特に、エンジンオイル等の燃料油と接触しても膨張しにくいことから、自動車、車輌、船舶、飛行機や化学プラント等の部品に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(I):
【化1】


(式中、
Rは、独立して、R又はRであり、Rのうち、少なくとも2個はRであり、
は、独立して、C−Cアルケニル基であり、
は、独立して、C−Cアルキル基又はフェニル基であり、
nは、平均値で10〜2000である)で示される直鎖状ポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に2個を越える数で有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜10.0になる量;
(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量;並びに
(D)平均粒径1〜100μmであり、かつアスペクト比10〜500であるマイカ粉 20〜200重量部
を含む、耐溶剤性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(A)におけるRが、ビニル基である、請求項1記載の耐溶剤性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(A)におけるnが、20〜1500である、請求項1又は2記載の耐溶剤性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(A)におけるRのうち、10〜50モル%がフェニル基である、請求項1〜3のいずれか1項記載の耐溶剤性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の耐溶剤性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる耐溶剤性シリコーンゴム製品。
【請求項6】
自動車用、車輌用、船舶用、飛行機用又は化学プラント用の部品である、請求項5記載の耐溶剤性シリコーンゴム製品。
【請求項7】
O−リング、パッキン又はガスケットである、請求項5又は6記載の耐溶剤性シリコーンゴム製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237007(P2012−237007A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176819(P2012−176819)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【分割の表示】特願2007−313117(P2007−313117)の分割
【原出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】