説明

耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とした塗料及びこれらを用いたコーティング用塗料、該コーティング用塗料を用いた缶又はチューブ

【課題】 安全衛生性が要求され、かつ様々な形状へ加工されるアルミエアゾール缶やアルミチューブの内面コーティング用に、柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を形成することのできる耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とした塗料、及びこの塗料を用いたコーティング用塗料、該コーティング用塗料を用いた缶又はチューブを提供する。
【解決手段】 (A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とした塗料、及びこの塗料を用いたコーティング用塗料、該コーティング用塗料を用いた缶又はチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とした塗料及びこれらを用いたコーティング用塗料、該コーティング用塗料を用いた缶又はチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全面、安全衛生面、経済性、塗装作業性等の面から有機溶剤に代わり媒体に水を使用する水性樹脂溶液が注目され、樹脂末端に残存するカルボキシル基と塩基性化合物を作用させるポリアミドイミド樹脂の水溶化方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この水系ポリアミドイミド樹脂組成物は、その安全性の点から様々な用途に適用されているが、アルミエアゾール缶やアルミチューブの内面コーティングのような塗膜焼成後に基材が加工される用途において、加工の際に塗膜が硬すぎるため基材の変形に追従できず塗膜に剥離又は亀裂が生じるという問題がおきており、柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を形成可能な水系ポリアミドイミド樹脂の開発が強く望まれている。
現在、下記一般式(II)
【0004】
【化1】

(式中、nは0〜24の整数を示し、繰り返し単位中の複数個のRはそれぞれ独立に−H、−OH、−CH、−CHCH又は−OCHを示し、複数個のXはそれぞれ独立に、−NCO、−NH、−OH又は−COOHを示す)で表される群から選ばれた少なくとも一種類以上のモノマを共重合させることで塗膜の加工性を向上させる方法が報告されている。
【0005】
しかしながら、この方法で得られた塗膜では加工性の向上が不十分であり、例えば、アルミエアゾール缶やアルミチューブにおけるねじ口を絞る、長く引き伸ばす等の様々な形状への加工に際して塗膜の割れや剥離を起こしてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2002−284993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、安全衛生性が要求され、かつ様々な形状へ加工されるアルミエアゾール缶やアルミチューブの内面コーティング用に、柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を形成することのできる耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とした塗料、及びこの塗料を用いたコーティング用塗料、該コーティング用塗料を用いた缶又はチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を形成することのできる耐熱性樹脂組成物に関して検討した結果、特定の脂肪族構造をアミドイミド樹脂構造中に導入することによって従来の水系ポリアミドイミド樹脂からなる塗膜と比較して加工性を大きく向上させることが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(B)成分の塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量配合されたものである上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合されたものである上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000であり、かつ、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が1〜100(mgKOH/g)である上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入させたものである上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂に導入される脂肪族構造が、カーボネート結合を含有したものである上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、ポリカーボネートジオール又はそれらの誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合したものである上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【0013】
【化2】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を含有してなる上記の耐熱性樹脂組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、上記の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料に関する。
また、本発明は、上記の耐熱性樹脂組成物又は上記の塗料を用いてなるコーティング用塗料に関する。
また、本発明は、コーティング用塗料が、アルミ製の缶又はチューブの内面コーティングに用いられる上記のコーティング用塗料に関する。
【0015】
また、本発明は、アルミ製の缶が、アルミエアゾール缶である上記のコーティング用塗料に関する。
さらに、本発明は、上記のコーティング用塗料を用いた缶又はチューブに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明になる耐熱性樹脂組成物を用いることにより、従来の水系ポリアミドイミド樹脂から得られる塗膜と比較して柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を得ることが可能となる。これらは、アルミエアゾール缶、アルミチューブ等のように安全衛生性が要求され、かつ塗膜焼成後に基材が加工される様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明になる耐熱性樹脂組成物は、塩基性極性溶媒中で、アミン成分として芳香族のジアミン化合物及び/又はジイソシアネート化合物と酸成分として芳香族のジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び/又は四塩基酸無水物とを共重合させて得られる芳香族構造からなるポリアミドイミド樹脂に、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入したものである。上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
【0018】
まず、ジアミン化合物及びジイソシアネート化合物としては、トリジン、ジヒドロキシベンジジン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノジフェニル、トリジンスルホン、ジアミノベンゾフェノン、チオジアニリン、スルホニルジアニリン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ジアミノベンジジン、ヘキサメチレンジアミン、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
また、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物としては、ナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシナフトエ酸、オキシナフトエ酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド、セバシン酸、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシビフェニルカルボン酸、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ドデカン二酸、12−アミノドデカン酸、ブラシル酸、シュウ酸(無水物)、イタコン酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸、3,3’−チオジプロピオン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DL−リンゴ酸、キシリトール、D−ソルビトール、DL−アラニン、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0020】
なお、本発明になる耐熱性樹脂組成物の製造に使用されるジアミン化合物、ジイソシアネート化合物、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物は、上記の化合物に制限するものではなく、主骨格となる芳香族構造を形成するため及び加工性を向上させるための脂肪族構造を導入するために多種多様な化合物を使用出来ることは言うまでもない。
【0021】
本発明になる耐熱性樹脂組成物は、脂肪族構造を導入することでジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなる従来の水系ポリアミドイミド樹脂又は下記一般式(II)
【0022】
【化3】

(式中、nは0〜24の整数を示し、繰り返し単位中の複数個のRはそれぞれ独立に−H、−OH、−CH、−CHCH又は−OCHを示し、複数個のXはそれぞれ独立に、−NCO、−NH、−OH又は−COOHを示す)で表される群から選ばれた少なくとも一種類以上のモノマを共重合させてなる従来の水系ポリアミドイミド樹脂と比較して飛躍的に加工性を向上させるものである。
【0023】
このポリアミドイミド樹脂を製造するにあたり、上記の化合物のいずれを使用してもよいが、加工性を向上させるためにはカーボネート結合を含有する脂肪族構造を導入することが好ましい。
【0024】
また、カーボネート結合を含有する脂肪族構造を導入するためには、ポリカーボネートジオール又はそれらの誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合させることがより好ましい。
さらに、加工性を向上させるためには、ポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【0025】
【化4】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を含有してなることがより好ましい。
【0026】
上記一般式(I)で表される繰り返し単位を導入するために使用されるポリカーボネートジオールの配合量は特に規定されるものではないが、加工性の向上のためには、ポリアミドイミド樹脂が原料の全酸成分中にポリカーボネートジオールを1〜50モル%含んで重合されていることが好ましい。ポリカーボネートジオールの量が1モル%未満では従来のポリアミドイミド樹脂と比較して加工性および密着性の向上が見られず、また50モル%をこえる量では硬化後の塗膜の耐溶剤性が低下する。
【0027】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂を重合するために使用されるポリカーボネートジオール類としては、例えば、ダイセル化学(株)製、商品名、PLACCEL CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HLとして市販されているものが挙げられ、これらを単独又は2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
前記アミン成分と酸成分の配合量は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量、架橋度の観点から酸成分の総量1.0モルに対してアミン成分を0.8〜1.2モルとすることが好ましく、0.95〜1.1モルとすることがより好ましい。
【0029】
ポリアミドイミド樹脂の重合に使用される塩基性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等を用いることが出来るが、アミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N−メチル−2−ピロリドンなどの高沸点溶媒を用いることが好ましい。
【0030】
また、溶媒の使用量には得に制限はないが、イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の総量100重量部に対して50〜500重量部とすることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、通常、80〜170℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0031】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が5,000〜50,000のものが好ましい。数平均分子量が5,000未満では塗膜としたときに加工性をはじめ耐熱性、耐溶剤性又は機械的特性等の諸特性が低下する傾向があり、50,000を超えると水溶性が低下し、また粘度が高くなることから塗装時の作業性に劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は10,000〜40,000とすることがより好ましい。
【0032】
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプルリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0033】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が1〜100であることが好ましい。1未満であると塩基性化合物と反応するカルボキシル基が不足するため、水溶化が困難となり、100を超えると最終的に得られる耐熱性樹脂組成物が経日にてゲル化しやすくなる。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が5〜70とすることがより好ましく、10〜50とすることがさらに好ましい。
【0034】
なお、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は、以下の方法で得ることができる。
先ず、ポリアミドイミド樹脂を約0.5gとり、これに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを約0.15g加え、さらにN−メチル−2−ピロリドンを約60g及びイオン交換水を約1ml加え、ポリアミドイミド樹脂が完全に溶解するまで攪拌する。
【0035】
これを0.05モル/lエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価を得る。
【0036】
本発明において、塩基性化合物としてはトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルフォリン等のアルキルアミン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等のアルキルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、シクロヘキサノールアミン、N−メチルシクロヘキサノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等のアルカノールアミン類が適しているが、これら以外の塩基性化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の苛性アルカリ又はアンモニア水などを使用してもよく特に制限はない。好ましくは、トリエチルアミン、N−メチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンが使用される。
【0037】
塩基性化合物は、上記の有機溶媒中で反応させて得られるポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及び開環させた酸無水物基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量用いられる。0.1当量未満では樹脂の水溶化が困難となり、20当量を超えると樹脂の加水分解が促進され、長期の保存により粘度又は特性低下をきたすことがある。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜10当量とすることが好ましい。
【0038】
塩基性化合物は、ポリアミドイミド樹脂の末端にあるカルボキシル基と塩を形成して親水性基となる。塩形成に際しては水の共存下に行ってもよく、塩基性化合物を添加した後、水を加えてもよい。塩を形成させる温度は0℃〜150℃、好ましくは30℃〜100℃の範囲で行われる。
【0039】
塩基性化合物の種類と量及び水の添加方法によって、得られる水性樹脂組成物の形態はエマルジョン状、半透明溶液、透明溶液等となるが、貯蔵安定性、塗装作業性の点から、半透明又は透明溶液にすることが好ましい。
【0040】
水としてはイオン交換水が好ましく用いられ、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して好ましくは5〜99重量%配合される。この配合量が5重量%未満では含有する水が少ないことから一般に水溶性ポリマーとして称されず、99重量%を超えると塗料として機能しなくなる傾向がある。このことから、10〜60重量%とすることがより好ましい。
【0041】
このようにして得られた水系耐熱性樹脂組成物は、使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、水又はジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、γ‐ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒が主として使用されるが、水系ポリアミドイミドに要求される環境保全面および安全衛生面の点から、水を使用することが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂を硬化して得られる塗膜を十分な加工性を有するために、加熱硬化時における樹脂同士の重合反応及び架橋反応を促進させる目的で、種々の硬化剤を併用することができる。反応性及び得られる塗膜特性の点から、特に水系の多官能型エポキシ化合物の併用が好ましい。
【0043】
水系の多官能型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、アミン型、アルコール型、ビフェニル型、エステル型等、特に制約はなく使用することができ、複数のものを同時に併用することができる。
【0044】
多官能型エポキシ化合物の配合量は、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して1〜100重量部とすることが好ましい。エポキシ化合物の量が1重量部未満であると重合反応及び架橋反応の促進効果が十分に得られず、100重量部を超えると得られる塗膜の耐溶剤性が低下する傾向がある。このことから、多官能型エポキシ化合物の配合量は、10〜60%とすることがより好ましい。
【0045】
本発明になる耐熱性樹脂組成物、この耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料は、被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に塗膜を形成する。特に、本発明になる耐熱性樹脂組成物は、従来の水系ポリアミドイミド樹脂と比較して柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を形成することができることから、アルミエアゾール缶やアルミチューブのように塗膜焼成後に基材を加工する必要のある様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
実施例1
アミン成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート0.9モル、o−トリジンジイソシアネート0.1モル、酸成分として無水トリメリット酸0.9モル、ポリカーボネートジオール(ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−220)0.1モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量は、イソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま5時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0047】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は、28重量%及び粘度(30℃)は1.5Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は18,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約18であった。なお、数平均分子量は次の条件で測定した。
機種:日立 L6000
検出器:日立 L4000型UV
波長:270nm
【0048】
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5×2
カラムサイズ:8mm(φ)×300mm
溶媒:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1ml
注入量:5μl
圧力:49kgf/cm(4.8×10Pa)
流量:1.0ml/min
【0049】
このポリアミドイミド樹脂溶液1,000gを温度計、攪拌機及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを54.5g(6当量)添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が451.9g(30重量%)になるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0050】
このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対して水系ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名エピレッツWD510)を30重量部添加した。
【0051】
実施例2
アミン成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート0.9モル、ヘキサメチレンジイソシアネート0.1モル、酸成分として無水トリメリット酸0.8モル、ポリカーボネートジオール(ダイセル化学(株)製、商品名PLACCEL CD−220PL)0.2モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量は、イソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま4時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0052】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は、29重量%及び粘度(30℃)は1.2Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は16,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は20であった。
【0053】
このポリアミドイミド樹脂溶液1,000gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでN−メチルモルフォリンを45.0g(5当量)添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が447.9g(30重量%)になるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0054】
このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対して水系ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名エピレッツWD510)を30重量部添加した。
【0055】
比較例1
アミン成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量は、イソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0056】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は、31重量%及び粘度(30℃)は3.0Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は20,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は27であった。
【0057】
このポリアミドイミド樹脂溶液1,000gを温度計、攪拌機及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでN−メチルモルフォリンを104.0g(8当量)添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が473.1g(30重量%)になるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0058】
このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対して水系ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名エピレッツWD510)を30重量部添加した。
【0059】
比較例2
アミン成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート0.7モル、ヘキサメチレンジイソシアネート0.3モル、酸成分として無水トリメリット酸0.7モル、セバシン酸0.3モル及び合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量は、イソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま5時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0060】
このポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃−2h)は、30重量%及び粘度(30℃)は2.5Pa・sであった。
また、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は18,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は29であった。
【0061】
このポリアミドイミド樹脂溶液1,000gを温度計、攪拌機及び冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを109.8g(7当量)添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が475.6g(30重量%)となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0062】
このポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミド樹脂100重量部に対して水系ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名エピレッツWD510)を30重量部添加した。
【0063】
試験例
実施例1及び2並びに比較例1及び2で得られたポリアミドイミド樹脂溶液からそれぞれポリアミドイミドフィルムを作製し、硬化性、初期及びエリクセン試験機で5mm押し出した後の密着性及び曲げ性に関して試験を実施した。その試験結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

1)旧JIS K 5400(%、クロスカット残率)に準拠し、クロスカット後にテープ剥離(1回)を行った後の残率。
N=2の基板にて各2回測定し、計4つの測定値を範囲で示す。
(100は全てのデータが100であったことを示し、0は全てのデータが0であったことを示す。)
【0065】
2)エリクセン試験機により押し出し。
3)Tベント法。t=0.5mmのアルミ基板に塗布硬化させ、T=0.5mmのアルミ板を間に挟んで折り曲げた際の塗膜の剥離及び亀裂の発生を確認。
5)間にアルミ基板を挟まずそのまま折り曲げても、塗膜の剥離及び亀裂は発生せず。
6)間にアルミ基板を2枚挟んで折り曲げると塗膜に剥離および亀裂が生じた。
3枚では塗膜の剥離及び亀裂は発生せず。
また、ポリアミドイミドフィルム作製条件を表2に示す(アルミ基板厚みt:mm)。
【0066】
【表2】

【0067】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られた水系ポリアミドイミド樹脂溶液から作製された塗膜は、比較例1及び2で得られた従来の水系ポリアミドイミド樹脂溶液から作製された塗膜と比較して、加工性が大きく向上していることが明らかである。
【0068】
また、本結果から、本発明の水系ポリアミドイミド樹脂組成物を用いることで、従来の水系ポリアミドイミド樹脂から得られる塗膜と比較して柔軟で密着力の高い加工性に優れる塗膜を得ることが可能となることが明らかである。このことから、アルミエアゾール缶やアルミチューブのように、安全衛生性が要求され、かつ、塗膜焼成後に基材を加工する必要のある様々な用途向けに、多大な有益性を有していることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物及び(C)水を含有してなる耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分の塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、0.1〜20当量配合されたものである請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合されたものである請求項1又は2記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000であり、かつ、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が1〜100である請求項1、2又は3記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、加工性を向上させるために脂肪族構造を導入させたものである請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂に導入される脂肪族構造が、カーボネート結合を含有したものである請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、ポリカーボネートジオール又はそれらの誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のモノマを共重合したものである請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基を示し、複数個のXは、それぞれ独立に炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜20の整数を示し、Yは三価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を含有してなる請求項1〜7のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性樹脂組成物又は請求項9記載の塗料を用いてなるコーティング用塗料。
【請求項11】
コーティング用塗料が、アルミ製の缶又はチューブの内面コーティングに用いられる請求項10記載のコーティング用塗料。
【請求項12】
アルミ製の缶が、アルミエアゾール缶である請求項10又は11記載のコーティング用塗料。
【請求項13】
請求項10、11又は12記載のコーティング用塗料を用いた缶又はチューブ。

【公開番号】特開2008−260800(P2008−260800A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102727(P2007−102727)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】