説明

耐熱性金属鋼板接合用組成物

【課題】 金属鋼板材料を600〜900℃で接合でき、更にその接合物が700〜1000℃での耐熱性を有するような金属鋼板接合用組成物が望まれている。
【解決手段】 実質的にPbOを含まず、SiO−B−KO−RO(R=Mg,Ca,Sr,Ba)系からなるガラスと、セラミックスフィラーとの複合体。組成中のガラス部が50〜85質量%、セラミックスフィラー部が15〜50質量%であり、金属鋼板材料を600〜900℃で接合でき、更にその接合物が700〜1000℃での耐熱性を有する特徴も有す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鋼板材料を600〜900℃で接合でき、更にその接合物が700〜1000℃での耐熱性を有した金属鋼板接合用ガラス複合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は、耐熱性、易成形性に優れ、各種の構造用部材に使用されている。金属材料を構造用部材として使用する場合、形状によっては分割した形状の金属耐を接合した金属接合体とすることが必要となる。また、金属材料の損傷を極力抑制するために900℃以下で接合可能な事が必要である。金属接合体はその良好な耐熱性を生かし、通常のガラスでは耐えられないような高温雰囲気で使用される事が多く、耐熱温度としては700℃以上、場合によっては1000℃以上での耐熱性を有することが望ましい。
【0003】
金属接合体の耐熱性は接合部分であるガラス乃至はガラス複合体に左右され、接合後にこれらが熔解しないように設計しなければならない。つまり、焼成時にガラスが結晶化もしくはセラミックスフィラーと融合することで耐熱性が確保されるが、通常はガラスが軟化流動した際、結晶の析出もしくはセラミックスフィラーを浸食し、浸食部が結晶化するように設計しなければならない。これによって短時間に耐熱性に優れ、高強度の接合材料が得られる事になる。
【0004】
また、金属材料を接合する場合、接合用ガラス組成物の熱膨張係数は被対象物と近似していなければ残留歪が発生するため、金属と同程度の高い熱膨張係数が要求される。
【0005】
さらに接合部の強度、鋼板との反応抑制も要求される。
【0006】
セラミックス材料を接合する材料としては、PbO−Bを主成分とするハンダガラスが多種知られており、ICのセラミックスパッケージの封止用などに実際に使用されている。しかし、これらのPbO−B系のハンダガラスは耐熱性が低く、燃料電池など600℃以上の高温箇所に使用した場合、封着部分に融解が起きること、また、有害物質であるPbOを多量に含有するなどの欠点があった。
【0007】
この問題を解決するために、MgOを含有しZnOを主成分とした材料が知られている。これはPbOを含有せず、600℃における耐熱性の確認がされているものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−236844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上述したMgOを含有しZnOを主成分とした特開平10−236844では、600℃における耐熱性の確認がされているが、それ以上の温度での耐熱性については示されていない。さらにB−ZnOを主成分とするために耐熱性向上を目的に析出させた結晶が高温で再熔融し、耐熱性が損なわれる。
【0009】
また、SiO含有量が少ないために金属材料との反応性が高く接合界面で発泡が生じ、剥離しやすい。
【0010】
さらに、膨張係数も低く金属材料とマッチングしないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
金属材料を接合するための組成物において、その組成物が実質的にPbOを含まず、SiO−B−KO−RO(R=Mg,Ca,Sr,Ba)系からなるガラスと、セラミックスフィラーとの複合体を呈することにより、上述の課題を解決することができる。
【0012】
すなわち、組成物中のガラス組成を質量%表示で、SiO 40〜60、B 5〜20、KO 20〜35、MgO,CaO,SrO,BaOから選択される少なくとも一種 10〜20からなるSiO−B−KO−RO系ガラスを用いることにより対応することができる。
【0013】
また、組成中のガラス部が50〜85質量%、セラミックスフィラー部が15〜50質量%であることも有用である。
【0014】
本発明の金属鋼板材料接合用組成物は、材料の接合が600〜900℃ででき、更に接合した接合物が、700〜1000℃で変形する事無く接合を維持することが可能となる。
【0015】
すなわち、本発明は、SiO−B−KO−RO系からなるガラスと、セラミックスフィラーとの複合体を用いることにより、焼成時に結晶を析出させることにより接合後の充分な耐熱性を確保する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明における接合用組成物として好ましいガラスの組成範囲について、以下に説明する。
【0017】
ガラスは質量%表示で以下のような組成範囲を持つ。環境上の問題から鉛を使えない場合に特に有用となる。
SiO−B−KO−RO系
SiO 40〜60
5〜20
O 20〜35
RO(R=Mg,Ca,Sr,Ba) 10〜20
SiOは必須成分であり、ガラスの骨格を形成するためにガラス中に導入される。質量%で表して、SiOの含有量は40〜60%であることが好ましい。SiOのガラス組成が40%未満では、ガラス状態が不安定となって失透などが生じやすく、安定したガラスとならない。一方、60%を超えると、熱膨張係数が低くなりすぎる。より好ましくは、45〜57%の範囲である。
【0018】
は必須成分であり、ガラス状態を安定化させる効果があるとともに、熔解性を向上し、熱膨張係数の調整をガラス組成の加減で行うためにガラスに導入される。質量%で表して、Bの含有量は5〜20%であることが好ましい。5%未満ではその効果を期待できず、20%を超えると、熱膨張係数が低くなりすぎる。より好ましくは、7〜15%の範囲である。
【0019】
Oは必須成分であり、熱膨張係数を高くするためにガラスに導入され、鋼板との反応を過度に促進させない。質量%で表して、KOの含有量は20〜35%であることが好ましい。20%未満では、ガラスの熱膨張係数を高くする効果は得られない。一方、35%を超えるとガラス状態が不安定になり、失透しやすくなるとともに、耐水性が損なわれヤケが発生しやすい。より好ましくは、22〜35%の範囲である。
【0020】
RO(R=Mg,Ca,Sr,Ba)は必須成分であり、熱膨張係数を高くするためにガラスに導入される。質量%で表して、MgO,CaO,SrO,BaOのうちから選択される少なくとも一種の含有量は10〜20%であることが好ましい。10%未満ではその効果は期待できず、20%を超えると耐水性が損なわれるという問題が発生する。より好ましくは、13〜18%の範囲である。
【0021】
また、質量%で表して、LiOが0〜5%、Alが0〜10%であることが好ましい。
【0022】
LiOは、必ずしも必須とはしないが、熱膨張係数の調整のために導入することが好ましい。しかし、5%を超えると、ガラスが不安定になり、失透などを発生しやすくなる。より好ましくは、0.5〜4%の範囲である。
【0023】
Alは、必ずしも必須とはしないが、粘性調整のためにガラスに導入することが好ましい。しかし、10%を超えると、失透傾向が強くなる。より好ましくは、1〜8%の範囲である。
【0024】
この他にも、In、TiO、SnO、ZrO、V、Fe、CuO、Nbなどを添加しても良い。
【0025】
上述のガラスにセラミックスフィラーを積極的に導入し、焼成、接合時に結晶化させることにより、接合後の充分な耐熱性を確保する。セラミックスフィラーとしては、シリカ、アルミナ、ムライト、チタニア、ジルコンフラワーなどが良いが、これらの物質にこだわる必要はない。セラミックスフィラーの混入については、ガラス部が50〜85質量%、セラミックスフィラー部が15〜50質量%とすべきである。セラミックスフィラーが50質量%を上回ると、接合出来なくなるもしくは接合部の濡れ性が劣化する。15%を下回ると高温化での耐熱性が低下する傾向にある。
【0026】
さらにまた、上記の金属接合用材料を使用することを特徴とする燃料電池用部品に好適である。
【0027】
さらにまた、上記の金属接合用材料と有機ビヒクルとからなるガラスペーストである。有機ビヒクルとしてはエチルセルロースなどの樹脂をαテルピネオールやブチルカルビトールアセテートなどの有機溶剤に溶かしたものに代表される。有機ビヒクルと混合し、ガラスペーストとして提供することで様々な分野におけるガラス材料として使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0029】
ガラス原料を調合・混合し、1000〜1400℃の温度にて熔融し、軟化点測定の後、表1および表2に示すガラスとセラミックスフィラーの混合品を得た。
【0030】
その後、上記組成物の接合性、耐熱性についての実用試験を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
(軟化点の測定)
ガラスの粉末を作製し、DTA曲線のセカンドショルダーから軟化点を見積もった。
【0034】
(接合性および耐熱性、反応性の評価)
上述の組成物を20mm×20mm×3mmの2枚の金属鋼板で挟み込み、600〜900℃で2時間維持して焼成し、室温まで冷却した後、2枚の金属鋼板が組成物を介し接合している場合を接合性について合格とした。
【0035】
次にその接合物を傾斜角45度になるように傾け、再度700〜1000℃まで昇温し、1時間維持した後再び室温まで冷却した後、変形の無い場合を耐熱性について合格とした。
【0036】
さらに接合部の外観から泡発生、変色の有無を確認し、反応性を判定した。
(結果)
組成および、各種試験結果を表に示す。
【0037】
表1における実施例に示すように、本発明の組成範囲内においては、熱膨張係数が好ましい値であり、接合性及び耐熱性も良好である。すなわち、金属鋼板材料が600〜900℃で接合し、接合体が700〜1000℃で変形すること無く接合を維持できるような耐熱性接合用組成物を得ることができた。
【0038】
他方、本発明の組成範囲を外れる表2における比較例は、熱膨張係数や接合性及び耐熱性において良好な特性を示さず、耐熱性接合用組成物としては適していない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鋼板材料を接合するための組成物において、30〜300℃における平均熱膨張係数が(90〜130)×10−7/℃であり、さらに質量%で表して、
SiO 40〜60
5〜20
O 20〜35
MgO,CaO,SrO,BaOのうちから選択される少なくとも一種 10〜20
からなるガラスであることを特徴とする耐熱性接合用組成物。
【請求項2】
セラミックスフィラーと請求項1に記載のガラスとの複合体であることを特徴とする金属鋼板接合用ガラス複合体組成物。
【請求項3】
ガラス部が50〜85質量%、セラミックスフィラー部が15〜50質量%であることを特徴とする請求項2に記載の金属鋼板接合用ガラス複合体組成物。
【請求項4】
金属鋼板材料が600〜900℃で接合できることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属接合用ガラス複合体組成物。
【請求項5】
接合体が700〜1000℃で変形すること無く接合を維持できることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接合用ガラス複合体組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物を使用することを特徴とする燃料電池用部品。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物と有機ビヒクルとからなることを特徴とするガラスペースト。


【公開番号】特開2009−96673(P2009−96673A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270153(P2007−270153)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】