説明

耐衝撃性に優れた血液浄化器

【課題】慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する血液浄化器であって、臨床現場で想定されうる繰り返し衝撃に対して、中空糸膜が損傷しない、かつ性能の変動がないことを特徴とする血液浄化器を提供する。
【解決手段】本発明は、中空糸膜を内蔵した血液浄化器において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後、血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて同一方向に50回の衝撃を加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の血漿系で測定したβ2−ミクログロブリンのクリアランスが、衝撃を加える前の該クリアランスに対して80%以上の保持率を有する血液浄化器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非常に高い透水性を有しながら、耐衝撃性を兼ね備えた中空糸膜を内蔵した血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全治療などにおける血液浄化法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などの血液浄化器が広く使用されている。特に中空糸型の膜を分離材として用いた血液浄化器は体外循環にかかわる循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらに血液浄化器組立ての生産性などの利点から血液浄化分野での重要度が高い。
【0003】
中空糸膜を用いた血液浄化器は、通常中空糸膜中空部に血液を流し、外側部に透析液を向流に流し、血液から透析液への拡散に基づく物質移動により尿素、クレアチニンなどの低分子量物質を血中から除くことを主眼としている。さらに、長期透析患者の増加に伴い、透析合併症が問題となり、近年では透析による除去対象物質は尿素、クレアチニンなどの低分子量物質のみでなく、分子量数千の中分子量から分子量1〜2万の高分子量の物質まで拡大し、これらの物質も除去できることが血液浄化膜に要求されている。特に分子量11700のβ2ミクログロブリンは手根管症候群の原因物質であることがわかっており除去ターゲットとなっている。このような高分子量物質除去の治療に用いられる膜はハイパフォーマンス膜と呼ばれ、従来の透析膜より膜の細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたり、空孔率を上げたり、膜厚を薄くするなどにより、高分子量物質の除去効率の向上を可能としている。
【0004】
ところが、このような高性能を追求した膜は、上記のごとく、膜の細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたり、空孔率を上げたり、膜厚を薄くするなど、中空糸膜の強度を犠牲にしながら開発が進められている。中空糸膜の強度が弱いと、運搬中の衝撃や使用前に誤って落下させてしまうことにより中空糸膜が損傷する危険性が高くなる。
【0005】
中空糸膜の強度を上げる方法としては、膜の構造を非対称構造にしたり、網目構造と球状構造にするなど、性能発現層と支持層とに分ける膜構造からのアプローチがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0006】
紡糸条件からのアプローチとしては、低延伸にて構造破壊を抑制し、リーク率を下げる方策が開示されている(例えば、特許文献3参照)。また、中空形成剤を精製することで、中空糸膜の欠点を減らし、破断強度、破断伸度、バースト圧を向上させる方法がある(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
モジュール化技術からのアプローチとして、中空糸膜の接着部付近にコーティングすることで耐衝撃性を向上させる方法(例えば、特許文献5参照)や、スペーサーフィラメントを使用する方法(例えば、特許文献6参照)がある。
【0008】
以上のように膜の構造を大きく変化させてしまうことは、目標性能を持つ中空糸膜の設計を根本から見直さなければならなくなったり、強度アップのために支持層を厚くしなければならなくなるなど一長一短がある。また、紡糸条件の工夫により膜構造破壊を抑制する方法は、バースト圧評価などで評価される膜の欠点を少なくすることには効果的ではあるが、衝撃などのように膜全体の強さに対する評価メジャーについては十分ではなかった。さらに、モジュール化におけるコーティングやスペーサーフィラメントの使用は工程数アップやコストアップにつながる問題がある。
【0009】
一般的に、糸の強度を向上させる方法として、紡糸中に延伸をかける方法がある(例えば、特許文献7参照)。しかしながら、血液浄化器などのような血液と接触する中空糸膜の場合、わずかな延伸でも膜構造破壊が無視できず、血液適合性が著しく低下する。特に高透水性の中空糸膜では、延伸の影響で、血液系において高いクリアランスが出にくいと考えられており、できるだけ延伸をかけずに、構造破壊をできるだけ抑制した製膜方法がとられている(例えば、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開平10−263375号公報
【特許文献2】WO03/106545号公報
【特許文献3】特開2005−125131号公報
【特許文献4】特開2007−105700号公報
【特許文献5】特開2005−52716号公報
【特許文献6】特開2004−254941号公報
【特許文献7】特開2003−210954号公報
【特許文献8】特開2006−340977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い透水性を有しながら、プライミング操作等における脱泡操作における衝撃に対しても十分な強度を有する中空糸膜を内蔵した血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ついに本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)中空糸膜を内蔵した血液浄化器において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後、血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて同一方向に50回の衝撃を加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の血漿系で測定したβ2−ミクログロブリンのクリアランスが、衝撃を加える前の該クリアランスに対して80%以上の保持率を有する血液浄化器。
(2)中空糸膜の剪断破壊率が70%以下である(1)に記載の血液浄化器。
(3)中空糸膜を湿潤状態で測定したときの降伏強力が8g/filament以上である(1)または(2)に記載の血液浄化器。
(4)中空糸膜の平均膜厚が10μm以上50μm以下である(1)〜(3)いずれかに記載の血液浄化器。
(5)中空糸膜の空孔率が70〜90%である(1)〜(4)いずれかに記載の血液浄化器。
(6)中空糸膜の平均細孔半径が95Å以上300Å以下である(1)〜(5)いずれかに記載の血液浄化器。
(7)同一方向に50回衝撃を加えた後の血液浄化器(膜面積1.5m2)を用いて測定した血漿系のβ2−ミクログロブリンのクリアランスが45ml/min以上である(1)〜(6)いずれかに記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血液浄化器は耐衝撃性を有し、かつ高透水性能である。そのため運搬や過度な操作による衝撃を受けても中空糸膜が損傷しにくく、血液リークなどの臨床現場におけるリスクが少ない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために、血液浄化器に用いられる中空糸膜の製造工程と性能、品質について検討した。高透水性を目指した中空糸膜は、先に記載したように膜の孔径を大きくするなど、膜全体の空孔部分を多くしたり、膜厚を薄くしたりする方向で開発されている。このような高い透水性能のみに着目した中空糸膜は、強度という点を犠牲にせざるを得ない。中空糸膜の強度が従来のものよりも弱くなった場合、製造加工工程、輸送工程、臨床現場での取り扱いにおいて、中空糸膜が損傷するリスクが高くなる。高透水性を達成しつつ、ハンドリング性に支障のない十分な強度を持った中空糸膜を得るためには、製造工程において、膜構造が形成する前の積極的な延伸と、膜構造が形成した後の無延伸が密接に関係していることを見出し本発明に至った。
【0015】
本発明において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器端部を固定し、反対側の血液浄化器端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方の血液浄化器端部から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に50回加えた後に、中空糸膜部分に損傷部位がないことが好ましい。血液浄化器の使用において、プライミング時の泡かみが起こった場合には、血液浄化器に生理食塩水を流しながら血液浄化器を叩くなどの衝撃を与えて泡を抜く作業が行われることが多く、このときの衝撃回数は数回から数十回におよぶことから、繰り返し衝撃回数は50回以上が好ましい。
【0016】
さらに、繰り返し衝撃を加えた後の血漿系で測定したβ2−ミクログロブリンのクリアランスが、衝撃を加える前の値と比較して80%以上の保持率であることが好ましい。より好ましくは85%以上である。衝撃後の該クリアランスβ2−ミクログロブリンの保持率が80%未満の場合には、繰り返し衝撃を与えることによって、血液浄化器に内蔵されている中空糸膜が損傷まで至らなかったとしても、一部が伸張して片端部に寄って撓んだりするなどの変形や膜構造の変化が起こり、血液適合性が悪くなった結果と考えられる。血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは後述するが、透析医学会の定めた方法に準じた方法で測定することができる。
【0017】
本発明において、中空糸膜の平均膜厚は10μm以上50μm以下が好ましい。平均膜厚が大きすぎると、比較的透水性が高く、耐衝撃性の高い中空糸膜を得ることができるが、中〜高分子量物質の透過性が不足することがある。また、血液浄化器の設計上、膜面積を大きくする際に膜厚が大きいと、血液浄化器の大きさが大きくなってしまい適切ではない。膜厚は薄い方が物質透過性が高まるため好ましく、45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。平均膜厚が薄すぎると、バースト圧などの欠点評価などにおいて血液浄化器に必要な最低限の膜強度を維持するのが困難になることがある。したがって、平均膜厚は12μm以上がより好ましく、13μm以上がさらに好ましい。ここでいう平均膜厚とは、ランダムにサンプリングした中空糸膜5本を測定したときの平均値である。この時、それぞれの値と平均値との差が、平均値の2割を超えないこととする。
【0018】
また、中空糸膜の内径は100〜300μmであることが好ましい。内径が小さすぎると、中空糸膜の中空部を流れる流体の圧力損失が大きくなるため、溶血の恐れがある。また、内径が大きすぎると、中空糸膜の中空部を流れる血液のせん断速度が小さくなるため、血液中のタンパク質が経時的に膜の内面に堆積しやすくなる。中空糸膜内部を流れる血液の圧力損失やせん断速度が適度な範囲となる内径は150〜250μmである。
【0019】
本発明において、中空糸膜の平均細孔半径は95Å以上300Å以下であることが好ましい。より好ましくは150Å以上300Å以下、さらに好ましくは150Å以上280Å以下である。この範囲に設定することで、血液と接触した後の見かけの細孔径ダウンが起きてもβ2-ミクログロブリンなどの除去対象物質の透過性能への影響は小さいと考えられる。平均細孔半径が小さすぎると、血液成分による性能低下が顕著になる、経時変化が大きくなるなどの可能性がある。また、平均細孔半径が大きすぎると、アルブミンリーク量が多くなり過ぎることがある。ここで、本発明において、中空糸膜の平均細孔半径は後述する熱分析(DSC)を用いて測定された細孔半径を平均細孔半径と定義したものであり、たとえば、アルブミン(ストークス半径35Å)の篩係数などから求めたものとは別のものであり、膜内での細孔の大きさを膜内の水の状態から定義、算出したものである。
DSCで求める孔径は、LaplaceとGibbs-Duhemの式の組み合わせである。
r=(2σiw×Vm×To×cosθ)/(ΔT×ΔHm)
r:細孔半径
σiw:水と氷の界面エネルギー(0.01N/m)
Vm:水のモル体積
To:バルク水の融点
θ:接触角
ΔT:融点降下度
ΔHm:モル融解エンタルピー
であり、ここで、σiwには0.01N/mを用いた。また、本発明で取り扱った、ΔTは、DSC測定で観察された、凝固点降下した水のピークトップであり、厳密には平均値ではない。また、凝固点降下した水の量より細孔体積空孔率を求める。このようにDSC測定における細孔とは、膜内の水の状態から定義、算出したものである。
【0020】
本発明において、中空糸膜の37℃における純水の透水性は200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下の範囲が好ましい。透水性が200ml/m2/hr/mmHg未満では本発明の目的とする高透水性とは言えず、一般に血液系における中分子量物質の透過性能も低い。透水性が大きすぎると、細孔径が大きくなり、タンパクリーク量が多くなることがある。したがって、透水性のより好ましい範囲は200ml/m2/hr/mmHg以上1200ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは200ml/m2/hr/mmHg以上1000ml/m2/hr/mmHg以下である。
【0021】
本発明において、中空糸膜の剪断破壊率は70%以下が好ましい。65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。剪断破壊率は、樹脂で一部固定された中空糸膜の破壊試験において、樹脂固定部の界面で破壊する確率を評価したものである。樹脂固定部の界面での破壊は、その破壊断面を観察すると、中空糸膜が伸びで細くなる伸張変形を伴わない剪断破壊が起こっていることから剪断破壊の評価となる。逆に樹脂固定部ではない中空糸膜の中央付近で破壊した中空糸膜の破壊断面は、中空糸膜の径が小さくなっており伸張変形を伴う伸張破壊である。衝撃などによる中空糸膜の破壊は剪断破壊であり、剪断破壊率が70%を超える場合には、剪断破壊が起こりやすく、軽微な繰り返し衝撃によって中空糸膜が損傷を受ける可能性が高い。
【0022】
本発明において、湿潤状態の中空糸膜の降伏強力は8g/filament以上が好ましい。さらには8.5g/filament以上が好ましい。軽微な繰り返し衝撃による中空糸膜の損傷メカニズムは、中空糸膜の破壊部分断面の観察などから、伸張せずにダメージを受ける剪断破壊である。剪断破壊率はヤング率と相関関係がある。さらに、ヤング率は降伏強力の関数である。このことから1つには、ある一定以上の降伏強力を保持していれば軽微な衝撃による剪断破壊に耐えることができると考えられる。血液浄化器に内蔵されている中空糸膜に水が充填された時の血液浄化器の総重量を考慮すると、小さな衝撃であっても乾燥状態よりは大きな重力加速度がかかることになり、湿潤状態の降伏強力が8g/filament未満では軽微な繰り返し衝撃により剪断破壊が起こるリスクが高くなる。通常、湿潤状態の中空糸膜の降伏強力は、乾燥状態における降伏強力より小さな値となるが、水には多少なりとも可塑化作用があり膜素材や膜構造によってその減少率は一概に一定でなく、乾燥状態の降伏強力から湿潤状態の降伏強力を予測することは困難である。
【0023】
本発明において、中空糸膜の空孔率は70%以上90%以下であることが好ましい。より好ましくは、空孔率は72%以上89%以下、さらに好ましくは空孔率は74%以上88%以下である。通常、空孔率は中空糸膜の透水性と相関関係にあり、高い透水性を得るためには空孔率を高くする。空孔率が低くなれば、それだけポリマーの占める部分が多くなるので中空糸膜の強度は高まるが、本発明で目標とする高い透水性を得ることができない可能性がある。一方、空孔率が高くなれば、それだけポリマーの占める部分が少なくなるため、中空糸膜の強度が低下しハンドリング性が悪くなったり、モジュール化工程に支障が出る可能性がある。
【0024】
本発明において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器端部を固定し、反対側の血液浄化器端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方の血液浄化器端部から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に50回以上加えた後の、膜面積1.5m2の血液浄化器のクリアランスβ2−ミクログロブリンの値は45ml/min以上であることが好ましい。50ml/minであることがより好ましく、55ml/min以上がさらに好ましい。
【0025】
本発明における中空糸膜の素材としては、再生セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロース系高分子、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系高分子、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、透水性が200ml/m2/hr/mmHg以上の中空糸膜を得ることが容易なセルロース系やポリスルホン系が好ましい。特にセルロース系ではセルロースジアセテートやセルローストリアセテート、ポリスルホン系ではポリスルホン、ポリエーテルスルホンが膜厚を薄くすることが容易なため好ましい。
【0026】
本発明の血液浄化器は、血液透析や血液透析濾過、血液濾過など、腎不全の治療に用いる血液浄化器として好適である。さらに、高い透水性を有しているにも関わらず、使用中に軽微な繰り返し衝撃を受けても、中空糸膜の損傷が無く、また中空糸膜のたわみなどによる性能変化もないため、ハンドリング性に優れ、安全な治療ができるという点で優れている。
【0027】
このような血液浄化器に用いる中空糸膜の製造方法としては、以下に示す条件が好ましい。高い透水性を得るためには紡糸溶液のポリマー濃度を低くすればよく、ポリマーの種類などにもよるが前述のポリマーの場合、20質量%以下、より好ましくは19.5質量%以下とするのが好ましい。紡糸溶液は、紡糸溶液中の不溶成分やゲルを取り除く目的でノズル吐出直前にフィルターにかけるのが好ましい。フィルターの孔径は小さい方がよく、具体的には中空糸膜の膜厚以下のものが好ましく、中空糸膜の膜厚の1/2以下がより好ましい。フィルターが無い場合やフィルターの孔径が中空糸膜の膜厚を超える場合、ノズルスリットの一部に詰まりが生じ、偏肉糸の発生を招くことがある。さらに、フィルター無しやフィルター孔径が中空糸膜の膜厚を超えると、紡糸溶液中の不溶解成分やゲルなどの混入が原因で部分的なボイドや、数十μm単位での表面構造のきめの細かさが乱れる(ひきつれたり、部分的にシワがよるなどの)原因となりやすい。高い空孔率を有する中空糸膜において部分的なボイドの発生は、中空糸膜の強度を低下させる原因になり得、本願発明を達成するための具体的要件の1つである。また、数十μm単位での中空糸膜表面のきめの細かさを著しく乱すことは、血液を活性化させることにつながり、血栓、残血を招く可能性が高まる。血液を活性化させてしまうことは、性能発現に大きな影響を与えると考えられる。紡糸原液の濾過は、吐出するまでの間に複数回実施してもよく、フィルターの寿命を延ばすことができるので好ましい。
【0028】
上記のように処理した紡糸原液を、外側に環状部、内側に中空形成材吐出孔を有するチューブインオリフィス型ノズルを用いて吐出する。ノズルのスリット幅(紡糸原液を吐出する環状部の幅)のばらつきを小さくすることで、紡糸された中空糸膜の偏肉を減らすことができる。具体的には、ノズルのスリット幅の最大値と最小値の差を10μm以下にすることが好ましい。スリット幅は用いる紡糸原液の粘度や、得られる中空糸膜の膜厚、中空形成材の種類によって異なるが、ノズルスリット幅のばらつきが大きいと、偏肉を招き、通常の血圧でも肉厚の薄い部分が裂けたり破裂したりしてリークの原因になる。
【0029】
紡糸原液を吐出する流速(ドープ吐出速度)は1.2ml/min以上が好ましい。さらには1.25ml/min以上がより好ましい。紡糸原液の吐出量が1.2ml/minである場合には、膜構造がより緻密な傾向になると考えられ、この後の凝固工程における凝固条件との組み合わせにより剪断破壊に対してより強い特性を獲得することができる。紡糸原液を吐出する流速が1.2ml/minに達しない場合は、剪断破壊に対して弱く、耐衝撃性に劣るとか、衝撃を受けた後の性能保持率が低下するなどの可能性がある。
【0030】
また、ドラフト比は小さい方が好ましい。具体的には1以上10以下が好ましく、さらには8以下が好ましい。ここで言うドラフト比は、中空糸膜引取り速度に対するノズルから吐出される紡糸原液の吐出線速度の比である。ドラフト比が大きすぎると、膜の細孔形成時に張力がかかり、中空糸膜の形状をコントロールすることが困難となる。
【0031】
紡糸原液を吐出する際のノズルの温度は、次工程の空中走行部分での効果を十分に得るために一般的な中空糸膜製造条件よりは低い温度にすることが好ましい。具体的には、50℃以上130℃以下、55℃以上120℃以下がより好ましい。ノズル温度が低過ぎるとドープの粘度が高くなるため、ノズルにかかる圧力が高くなり紡糸原液を安定に吐出できないことがある。また、ノズル温度が高過ぎると相分離による膜構成に影響し孔径が大きくなりすぎる可能性がある。これらも中空糸膜の強度(剪断破壊)に影響を与える一因となり得る。
【0032】
吐出した紡糸原液は、空中走行部を経て凝固液に浸漬させる。この時の空中走行部は、外気と遮断する部材(紡糸管)で囲み、低温にすることが好ましい。具体的には、実測で15℃以下にするのが好ましく、さらには13℃以下にするのが好ましい。空中走行部を比較的低温にコントロールする方法として、紡糸管に冷媒を循環させる方法や冷却した風を流し込む方法などがある。冷媒の冷却や風の冷却は液体窒素やドライアイスなどを用いて制御することが可能であるが、作業性を考慮した場合、空中走行部の温度は−20℃以上が好ましく、−10℃以上がより好ましく、0℃以上がさらに好ましく、5℃以上がさらにより好ましい。また、空中走行部の雰囲気は、紡糸原液の相分離に影響を与えるため均一に保たれることが望ましく、囲いなどで覆うことにより温度や風速にムラが生じないようにするのが好ましい。空中走行部分の雰囲気、温度や風速にムラがあると、ミクロな膜構造にばらつきができる原因となり、性能発現や強度(剪断破壊)に問題が生じるため適切でない。後述するが、空中走行部を低温にすることで、ゲル化を促進し、後の工程の凝固過程の凝固速度を適度にコントロールすることができる。
【0033】
中空形成材は使用する紡糸原液にもよるが、不活性な液体や気体を用いるのが好ましい。このような中空形成材の具体例としては、流動パラフィンやミリスチン酸イソプロピル、窒素、アルゴンなどが挙げられる。これらの中空形成材には、必要に応じてグリセリンやエチレングリール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非溶媒を加えることもできる。中空形成材は膜構造に影響を与える重要な要素であり、膜性能や膜強度に対する影響も大きいといえる。紡糸原液に対して不活性な中空形成材を用いるということは、中空糸膜の膜性能と膜強度とのバランスという面では若干不利に働くことも懸念されるが、本発明においては膜強度アップのための配慮をすることにより不利を克服している。
【0034】
空中走行部を経てゲル化した膜は、凝固浴中を通過させることにより凝固工程を経る。凝固浴は紡糸原液を調製する際に使用した溶媒の水溶液が好ましい。凝固浴が水である場合には、急激に凝固し本発明の達成手段の一つである凝固浴中での強度付与のコントロールが困難である。凝固浴を溶媒と水との混合液にすることで、凝固時間のコントロールが調節しやすくなるので好ましい。凝固浴の溶媒濃度は70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。ただし、凝固浴の溶媒濃度が低すぎると紡糸時の濃度コントロールが困難であるため、溶媒濃度の下限は1質量%以上が好ましい。凝固浴の温度は凝固速度のコントロールのため4℃以上50℃以下が好ましい。さらには10℃以上45℃以下が好ましい。凝固浴には、必要に応じてグリセリンやエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、400などの非溶媒、また酸化防止剤や潤滑剤などの添加剤を加えることもできる。
【0035】
このような条件の凝固浴を経た中空糸膜について、引っ張り試験を実施したところ、S-Sカーブにうねり(y軸値が低下する傾向)がみられ、膜構造が完成した中空糸膜で見られる、破断点に至る直前まで試験力(S-Sカーブ縦軸)が増加し続けるという傾向が見られなかった。さらに破断までの伸び(破断伸度)が同条件の水洗浴を経た中空糸膜と比較して高かった。すなわち、凝固浴を出た直後ではまだ完全に膜構造が決定していないと考えられる。高透水性の血液浄化膜の製造工程としては、血液適合性を向上させるために膜構造を破壊しないことが重要と考えられており、工程中の積極的な延伸は避けられてきた。しかしながら、凝固浴中で膜構造が完全に決定していない場合の延伸は、膜構造破壊すなわち血液性能の低下には影響を及ぼさず、その上、高透水性能を有する中空糸膜の弱点であった強度を付与することができることを見出した。凝固浴での延伸率は高い方が強度付与効率が良い。具体的には、5%以上が好ましく、さらには8%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。膜構造が決定する前に凝固浴において延伸をかけることにより、ポリマー鎖のネットワークがより強固に形成させるために強度が向上すると考えられる。延伸率を上げすぎると可紡性が低下するので、上限は50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下がさらにより好ましい。ここでいう延伸率とは、第二凝固浴入口ローラー速度と第二凝固浴出口ローラー速度との比である。
【0036】
また、同じ延伸率でも前工程の空中走行部での温度により凝固浴を出た直後の膜の形成度合いが異なる。すなわち、空中走行部で冷却をしなかった場合、凝固浴を出た後の中空糸膜を用いた引っ張り試験において、破断点に至る直前のS-Sカーブのうねりが非常に大きく(破断点が第一ピークを超える)、破断伸度も100%を超えて大きい(S-Sカーブ横軸)。ところが、同条件で、空中走行部での冷却を加えた場合、凝固浴を出た後の中空糸膜の引っ張り試験において、破断点に至る直前のS-Sカーブのうねりは小さく(破断点は第一ピークを越えない)、伸度も100%以下である。本発明者らは凝固浴を出た状態の中空糸膜がこのようなS-Sカーブで示される特徴を持つ構造決定直前の状態であることが透過性能発現のポイントであることを見出した。空中走行部での冷却がない場合のように、凝固浴を出た直後の構造がほとんど確定していない状態の中空糸膜(S-Sカーブがうねるとともに、破断伸度が100%以上ある)が水洗浴に突入すると、外表層からの凝固が瞬時に起こり、外表層に緻密な構造が形成されるとともに、外表層から内表層に向けての凝固反応も素早く起こり、膜の孔は緻密化する方向に行くため、目的とする高い透過性能を達成できないと考えられる。
【0037】
凝固浴を経た中空糸膜は洗浄工程を経て溶媒などの不要な成分を洗い流す。このときに用いる洗浄液は水が好ましく、温度は20℃〜80℃が洗浄効果が高くなるため好ましい。20℃未満では洗浄効率が悪く、80℃超では熱効率が悪いことと、中空糸膜への負担が大きく、保存安定性や性能に影響を与えることがある。また、先述したように、中空糸膜は凝固浴工程を出た直後も膜構造が確定しておらず、洗浄浴中で膜構造がほぼ確定する。構造確定後の中空糸膜は、外部から力を加えると膜構造や表面形状、孔形状が変形してしまうことがあるので、洗浄浴を走行する中空糸膜になるべく抵抗がかからないような工夫を施すのが好ましい。中空糸膜から溶媒や添加剤等の不要な成分を除去するためには、液更新を高めるのが好ましく、従来は、例えば洗浄液のシャワーの中を中空糸膜を走行させるとか、洗浄液の流れと中空糸膜の走行を向流にするなどして洗浄効率を高めていた。しかし、このような洗浄方法を採用すると中空糸膜の走行抵抗が大きくなるため、中空糸膜に延伸をかけて弛んだり縺れたりすることを防ぐ必要があった。
【0038】
中空糸膜の変形抑制と洗浄性の両立をはかるためには、洗浄液と中空糸膜を並流で流すことが有効である。洗浄工程の具体的な態様としては、例えば、洗浄浴に傾きをつけ中空糸膜がその傾斜を下っていくような設備がよい。具体的には、浴の傾斜は1〜3度が好ましい。3度以上では洗浄液の流速が早くなりすぎ中空糸膜の走行抵抗を抑えることができないことがある。1度未満では、洗浄液の滞留による中空糸膜の洗浄不良が発生することがある。このように洗浄浴での中空糸膜への抵抗を抑制することで、洗浄浴入り口の中空糸膜の走行速度と出口の走行速度をほぼ同じにすることができる。具体的には凝固浴を出てから最終巻き取り工程までの延伸率は10%以下が好ましい。8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。ここでの延伸率は、具体的には、凝固浴出口の中空糸膜走行速度と、紡糸工程最後の巻き取り速度との比である。また、洗浄効率をより高めるために、洗浄浴は多段に配置されるのが好ましい。段数については洗浄性や糸質との兼合いにより適宜設定する必要があり、例えば、本発明に使用される溶媒、非溶媒、親水化剤等の除去を目的とするのであれば、3〜30段程度あれば足りるといえる。
【0039】
洗浄工程を経た中空糸膜は必要に応じてグリセリン処理を行なう。たとえば、セルロース系高分子からなる中空糸膜の場合はグリセリン浴を通過させた後、乾燥工程を経て巻き取る。この場合グリセリン濃度は30〜80質量%が好ましい。グリセリン濃度が低すぎると、乾燥時に中空糸膜が縮み易く、保存安定性が悪くなることがある。また、グリセリン濃度が高すぎると、中空糸膜に余分なグリセリンが付着しやすく、血液浄化器に組み立てる時に中空糸膜端部の接着性が悪くなることがある。グリセリン浴の温度は、40℃以上80℃以下が好ましい。グリセリン浴の温度が低すぎると、グリセリン水溶液の粘度が高く、中空糸膜の細孔の隅々までグリセリン水溶液が行き渡らない可能性がある。グリセリン浴の温度が高すぎると、中空糸膜が熱で変性、変質してしまう可能性がある。
【0040】
このようにして得られた中空糸膜の構造は、平均細孔径が95Å以上300Å以下でありかつ、37℃における純水の透水性は200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下であり、かつ湿潤状態の降伏強力は8g/filament以上であり、繰り返し衝撃試験50回以上後も中空糸膜に損傷がなく、クリアランスβ2-ミクログロブリンの保持率が80%以上である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0042】
1.繰り返し衝撃試験
血液浄化器を純水でプライミングし、中空糸膜内側(血液側)にはキャップをし、中空糸膜外側(透析液側)の水を血液浄化器を立てた状態で自然に脱液しキャップする。この状態の血液浄化器を高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばしモジュール端部を固定し、反対側のモジュール端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方のモジュール端部から床までの高さ20cmの位置からモジュールを自由落下させて与える衝撃を同一方向に50回加える。その後血液側の充填水を脱液し、血液浄化器を水没させた状態で、透析液側から1.5kgf/cm2でエアーを流し、血液側から気泡が出た場合、中空糸膜が損傷を受けた状態であると判定する。
【0043】
2.中空糸膜の内径、外径、膜厚の測定
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得ることができる。測定には中空形成材を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察することが好ましい。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-V-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、膜厚とした。
【0044】
3.膜面積の計算
血液浄化器の膜面積は中空糸膜の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは血液浄化器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは血液浄化器内の中空糸膜の有効長(m)である。
【0045】
4.β2-ミクログロブリンのクリアランス(CLβ2MG)
ACD加牛血液から、遠心分離にてタンパク濃度6〜7g/dlの血漿を分離する。透析実験に用いる血漿には、ヘパリンナトリウム(2000〜4000unit/L)、β2-ミクログロブリン(遺伝子組み換え品 和光純薬社製)を約0.05mg/dl添加する。循環用血漿には、ヘパリンナトリウムのみを添加する。循環用血漿は測定する血液浄化器1本あたりに少なくとも2L準備する。透析液でプライミングし湿潤化した血液浄化器に循環用血漿を200ml/minの流量で流す。この時Qf15ml/minで濾過をかけながら透析液側にろ液を充填する。ろ液が充填された後、キャップをして血液側のみに血漿を1時間循環させる。循環後、透析実験用血漿に切り替え、膜面積1.5m2の血液浄化器であればQbin200ml/min、Qbout185ml/minとなるよう濾過をかけながらシングルパスで血漿を流しつつ、透析液をQdin500ml/minで流す(濾過流量は、10ml/min/m2)。透析開始4分後にQboutをサンプリングする。血漿原液のβ2MG濃度(Cbin)と血液浄化器を通って出てきた液のβ2MG濃度(Cbout)、流量から、血液浄化器のクリアランス(CLβ2、ml/min)を算出する。全ての操作は37℃で実施する。
CLβ2MG=(Cbin×Qbin−Cbout×Qbout)/Cbin
【0046】
5.保持率
同種類、同ロット、同膜面積の血液浄化器を2本準備し、1本は、上記の方法でCLβ2MGを測定する。もう1本は先に記載した方法で繰り返し衝撃試験を実施した後、CLβ2MGを測定する。衝撃試験による性能変化が全く無かった場合は、2本の血液浄化器のCLβ2MG値は等しく、保持率は100%となる。
保持率(%)=衝撃試験後のCLβ2MG/衝撃試験をしていないCLβ2MG×100
【0047】
6.中空糸膜の細孔体積空孔率と平均細孔半径の測定
純水で充分に湿潤状態にした中空糸膜数十本を約5mmにカットし、ろ紙で余分な水分を取り除き、密閉パンにつめ、DSC(示差走査熱量計 Perkin-Elmer社製 DSC-7 もしくは Pyris1)で融解曲線を測定する。測定は、−45℃〜15℃の範囲を昇温速度2.5℃/minで実施する。細孔に存在する水は基材の影響を受けて凝固点降下し、自由水(0℃付近で融解)とは異なるところ(自由水よりも低い温度領域)でピークを示す。凝固点降下している部分のピークとベースラインとで囲まれる領域の融解熱量(ΔHp)を求め、水の単位重量あたりの融解熱量(ΔHm)から細孔水量(Wp)を算出する。DSC測定したサンプルを絶乾し、蒸発した水分の重量(全水分量 Wt)を求める。これらの値からVp(細孔体積空孔率)を次式によって算出する。
Wp=ΔHp/ΔHm
Vp(%)=Wp/(Wt+Mp/ρp)×100
Mp:ポリマー重量 = サンプル重量 −全水分量
ρp:ポリマー比重
上記のようにして得られた融解曲線から、凝固点降下した方のピークのピークトップを読み取り、細孔中の水の毛管凝縮による凝固点(氷点)降下度から次式を用いて簡易的に細孔半径(r)を算出することができる。本発明においては、本測定方法により得られた値を平均細孔半径と定義する。
r(Å)=氷点降下度(℃)/164
【0048】
7.透水性
血液浄化器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子で挟んで封止した。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した血液浄化器の血液流路側へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量を測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは血液浄化器入口側圧力、Poは血液浄化器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性(ml/hr/mmHg)を算出した。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.99以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水性は膜面積と血液浄化器の透水性から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水性(ml/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は血液浄化器の透水性(ml/hr/mmHg)、Aは血液浄化器の膜面積(m2)である。
【0049】
8.降伏強力
東洋ボールドウイン社製テンシロンUTMIIを用いて測定した。
水で湿潤状態にした中空糸膜は、引っ張り速度20mm/min、チャック間距離20mmで、凝固浴直後の中空糸膜は、引っ張り速度200mm/min、チャック間距離100mmの条件で測定した。
【0050】
9.剪断破壊率
乾燥状態の中空糸膜約150mmの中央部に5mmの幅で樹脂を中空糸膜に均一に塗布し乾燥させる。樹脂は2液混合タイプのウレタン樹脂やエポキシ樹脂もしくは1液型のウレタン樹脂を使用する。乾燥時間は24時間とする。乾燥および破壊試験は20℃、湿度65%で実施する。樹脂を乾燥させた中空糸膜を東洋ボールドウイン社製テンシロンUTMIIを用いて引っ張り試験した。引っ張り速度200mm/min、チャック間距離100mmの条件で測定し、破壊した部位を記録する。サンプル数は10本以上測定する。
剪断破壊率(%)=樹脂付近で破壊(剪断破壊)した本数/伸張破壊した本数×100
【0051】
10.空孔率
1時間以上純水に浸漬した中空糸膜束を900rpmの回転数で5分間遠心脱液し、重量を測定する。その後、乾燥機中で絶乾し重量を測定する(Mp)。
Wt(空孔に詰まっている水の重量)=遠心後の糸束の重量−Mp
体積空孔率(Vt)%=Wt/(Wt+Mp/ポリマー密度)×100
【0052】
(実施例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.5質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.5質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、45℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.3ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は10%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は60%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は4%であった。
【0053】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16μm、空孔率は80%、湿潤状態の降伏強力は9.0g、剪断破壊率は40%、平均細孔半径は280Åであった(表1)。
【0054】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5mとなるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(50回)を実施し、その後中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは63ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは75ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は84%と計算できる。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0055】
(実施例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)16質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)58.8質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.2質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、98℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.3ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は8μmであった。また、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は11%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は55%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は4%であった。
【0056】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16μm、空孔率は78%、湿潤状態の降伏強力は10.0g、剪断破壊率は30%、平均細孔半径は270Åであった(表1)。
【0057】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。繰り返し衝撃試験後の中空糸損傷は認められなかった。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは67.5ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは71ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は95%であった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0058】
(実施例3)
ポリエーテルスルホン(住友化学社製 高重合度ポリエーテルスルホン7300P)20質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製 PVP K-90)2質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)48質量%およびポリエチレングリコール(PEG200、第一工業製薬製)30質量%を均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、110℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として窒素ガスとともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断され、10℃に調整された5mmの乾式部を通過後、40℃の40質量%NMP/PEG200(6/4)水溶液中で凝固させ、50℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.4ml/min、製膜溶液のドラフト比は5であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は5段とした。凝固浴延伸は20%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は60%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は5%であった。
【0059】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は20μm、空孔率は76%、湿潤状態の降伏強力は15.0g、剪断破壊率は0%、平均細孔半径は170Åであった(表1)。
【0060】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。繰り返し衝撃試験後の中空糸損傷は認められなかった。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは55ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは64ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は86%であった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0061】
(実施例4)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)19質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)56.7質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.3質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.4ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は12%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は50%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は4%であった。
【0062】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は17μm、空孔率は76%、湿潤状態の降伏強力は13.0g、剪断破壊率は0%、平均細孔半径は250Åであった(表1)。
【0063】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。繰り返し衝撃試験後の中空糸損傷は認められなかった。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは65ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは65ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は100%であった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0064】
(実施例5)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)18質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)57.4質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.6質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、110℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.25ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は15%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は50%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は5%であった。
【0065】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μm、空孔率は78%、湿潤状態の降伏強力は12.0g、剪断破壊率は70%、平均細孔半径は270Åであった(表1)。
【0066】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。繰り返し衝撃試験後の中空糸損傷は認められなかった。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは56.5ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは69ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は82%であった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0067】
(実施例6)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)18.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)57.1質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.4質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、102℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.3ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は15%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりがややあるものの破断点において強力ピークは超えておらず、破断伸度は50%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は4%であった。
【0068】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16μm、空孔率は78%、湿潤状態の降伏強力は12.5g、剪断破壊率は60%、平均細孔半径は270Åであった(表1)。
【0069】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。繰り返し衝撃試験後の中空糸損傷は認められなかった。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは59ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは68ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は87%であった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0070】
(比較例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)16質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)58.8質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.2質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.1ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は4%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりが大きく、破断点において強力第一ピークを超えていた。さらに破断伸度は100%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は5%であった。
【0071】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16μm、空孔率は80%、湿潤状態の降伏強力は6.0g、剪断破壊率は90%、平均細孔半径は300Åであった(表2)。
【0072】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には多数の中空糸損傷が認められた。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは71ml/minと高性能であったが、繰り返し衝撃に対して十分な強度を有していなかった。
【0073】
(比較例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)17.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)57.75質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.75質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、30℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.1ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は10μmであった。また、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが逆方向に流れる向流とした。水洗浴は5段とした。凝固浴延伸は4%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりが大きく、破断点において強力第一ピークを超えていた。さらに破断伸度は120%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は20%であった。
【0074】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μm、空孔率は79%、湿潤状態の降伏強力は8.0g、剪断破壊率は50%、平均細孔半径は280Åであった(表2)。
【0075】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には中空糸損傷が認められなかったが、繰り返し衝撃試験後の血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは41ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器の血漿クリアランスβ2−ミクログロブリンは54ml/minであったので、血漿クリアランスβ2−ミクログロブリン保持率は76%であった。凝固浴後の延伸が高かったために、湿潤状態の降伏強力は向上し、繰り返し衝撃試験にも耐えたが、構造形成後の延伸であったために、血液性能、保持率ともに低値であった。
【0076】
(比較例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.5質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.5質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.3ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は4%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりが大きく、破断点において強力第一ピークを超えていた。さらに破断伸度は100%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は5%であった。
【0077】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μm、空孔率は79%、湿潤状態の降伏強力は6.5g、剪断破壊率は80%、平均細孔半径は290Åであった(表2)。
【0078】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には10本実施中9本で中空糸損傷が認められた。構造形成前の延伸が低かったために、繰り返し衝撃に対する強度は弱かった。中空糸への損傷が見られなかった1本について、血漿クリアランスを測定したところ、保持率は59%であった。
【0079】
(比較例4)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)17質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)58.1質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.9質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、ドライアーで乾燥し、巻き上げた。ドープ吐出速度は1.1ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴延伸は20%、凝固浴直後の中空糸のS-Sカーブは、うねりが少なかった。さらに破断伸度は80%であった。凝固浴後から巻取りまでの延伸は5%であった。
【0080】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μm、空孔率は78%、湿潤状態の降伏強力は7.5g、剪断破壊率は80%、平均細孔半径は270Åであった(表2)。
【0081】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には中空糸損傷が認められた。構造形成前の延伸を高くしたがドープ供給量が十分でなかったために、繰り返し衝撃に対する強度は弱かった。
【0082】
(比較例5)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)19質量%、NMP56.7質量%、TEG24.3質量%を均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断され、30℃の均一な雰囲気に調整された50mmの乾式部を通過後、50℃の30質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させた。凝固浴延伸を60%としたところ、糸切れが発生し紡糸ができなかった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の中空糸型血液浄化器はプライミングなどを想定した繰り返し衝撃を受けても中空糸膜に損傷を受けないこと、なおかつ、衝撃を受けた後も血液系透過性能の変動がないこと、さらに高透水性能である特性を持つ。そのため、臨床現場での取り扱いにおいて、血液リークのリスクが少ない、かつ衝撃を受けても安定した性能であることが期待できるという利点がある。したがって、産業の発展に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本願発明の衝撃試験の一方法を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜を内蔵した血液浄化器において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後、血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて同一方向に50回の衝撃を加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の血漿系で測定したβ2−ミクログロブリンのクリアランスが、衝撃を加える前の該クリアランスに対して80%以上の保持率を有する血液浄化器。
【請求項2】
中空糸膜の剪断破壊率が70%以下である請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
中空糸膜を湿潤状態で測定したときの降伏強力が8g/filament以上である請求項1または2に記載の血液浄化器。
【請求項4】
中空糸膜の平均膜厚が10μm以上50μm以下である請求項1〜3いずれかに記載の血液浄化器。
【請求項5】
中空糸膜の空孔率が70〜90%である請求項1〜4いずれかに記載の血液浄化器。
【請求項6】
中空糸膜の平均細孔半径が95Å以上300Å以下である請求項1〜5いずれかに記載の血液浄化器。
【請求項7】
同一方向に50回衝撃を加えた後の血液浄化器(膜面積1.5m2)を用いて測定した血漿系のβ2−ミクログロブリンのクリアランスが45ml/min以上である請求項1〜6いずれかに記載の血液浄化器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−63605(P2010−63605A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232052(P2008−232052)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】