説明

耐酸着色性の優れたフッ化ビニリデン重合体の製造方法

【課題】安定な懸濁重合を通じて、良好な初期着色性に加えて、優れた耐酸着色性を有するフッ化ビニリデン重合体を得る。
【解決手段】フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを懸濁剤を含む水性媒体中に分散させて懸濁重合を行うに際して、N−ビニルカルボン酸アミド重合体を懸濁剤として用いることを特徴とするフッ化ビニリデン重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸との接触による着色性の少ない、すなわち耐酸着色性の優れたフッ化ビニリデン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁剤を含む水性懸濁媒体中でのフッ化ビニリデン単独又はフッ化ビニリデンを主成分とするモノマー混合物の懸濁重合によるフッ化ビニリデン重合体(フッ化ビニリデンの単独又は共重合体)の製造方法は良く知られている。懸濁剤としては、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール等が公知であり、なかでもメチルセルロース等のセルロース誘導体が最も汎用的に用いられている(特許文献1,2)。しかしながら、セルロース誘導体を用いた懸濁重合で得られたフッ化ビニリデン重合体は、酸と接触したときに、茶褐色ないし黒色に着色するという問題があった。
【0003】
他方、上記問題を解決するために、アクリルコポリマーの塩を懸濁剤として用いることが提案されている(特許文献3)。これにより耐酸着色性の改善は、ある程度得られるものの不十分であり、アクリルコポリマーの塩はフッ化ビニリデンモノマーの懸濁粒子の保護力が不充分であり、重合条件の設定が困難であるという問題ならびに生成する重合体の初期着色が劣るという問題がある。
【特許文献1】特開昭59−174605号公報
【特許文献2】特開昭63−264603号公報
【特許文献3】特開平11−80216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の主たる目的は、安定な懸濁剤性能を示す化合物を用い、耐酸着色性が優れ、また初期着色性も良好なフッ化ビニリデン重合体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的で研究した結果、本発明者らは、従来、増粘剤、あるいは無機粒子や顔料の分散安定化剤として知られていたN−ビニルカルボン酸アミド重合体をフッ化ビニリデン重合体の懸濁重合における懸濁剤として用いることにより、著しく耐酸着色性が改善され、また初期着色性も良好なフッ化ビニリデン重合体が得られることを見出した。すなわち、本件発明のフッ化ビニリデン重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを懸濁剤を含む水性媒体中に分散させて懸濁重合を行うに際して、N−ビニルカルボン酸アミド重合体を懸濁剤として用いることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好ましい実施の形態を逐次説明する。
【0007】
本発明でいうフッ化ビニリデン重合体には、フッ化ビニリデン(臨界温度Tc=30.1℃、臨界圧力Pcr=4.38MPa)の単独重合体、およびフッ化ビニリデンを主成分、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、とするフッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとの共重合体が含まれる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとして、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、などが挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。また、フッ素を含まない単量体として、エチレン、マレイン酸モノメチル、アリルグリシジルエーテル、等も使用可能であるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。
【0008】
本発明法に従い、上述したようなフッ化ビニリデン単独またはこれと共重合可能なモノマーとの混合物(以下、これらを総称して「フッ化ビニリデン系モノマー」と称する)懸濁剤としてN−ビニルカルボン酸アミド重合体を含む水性媒体中に分散させ、更に重合開始剤および生成するフッ化ビニリデン重合体の分子量調節のための連鎖移動剤等を加えて、懸濁重合を行う。
【0009】
水性媒体としては、水または水を主成分70質量%以上とする水とハロゲン化炭化水素媒体との混合媒体が好ましく用いられ、上記したフッ化ビニリデン系モノマー100質量部に対して、200〜500質量部、好ましくは250〜350質量部の水性媒体が用いられる。
【0010】
本発明で使用するN−ビニルカルボン酸アミド重合体は、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオンアミド、N−(プロペニル−2−イル)ホルムアミド、N−(プロペニル−2−イル)アセトアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドンなどのN−ビニルカルボン酸アミドの単独または共重合体であり、中でも親水性と親油性のバランスの点からN−ビニルアセトアミドの単独または共重合体、特に単独重合体であるポリ−N−ビニルアセトアミドが好ましく用いられる。懸濁重合系には水溶液として添加することが好ましく、例えば、5〜40質量%水溶液として約1500〜約30,000mPa・sの粘度、特に約8〜25質量%水溶液として約10,000〜25,000mPa・sの粘度、を示すものが好ましく用いられる。
【0011】
N−ビニルカルボン酸アミド重合体は、上記したフッ化ビニリデン系モノマー100質量部当り、固形分として0.01〜2質量部、特に0.01〜1質量部、の割合で用いることが好ましい。N−ビニルカルボン酸アミド重合体が0.01質量部未満では、フッ化ビニリデン系モノマーの懸濁粒子の保護力が不十分であり、他方2質量部を超えると、初期着色性が悪化しがちである。
【0012】
N−ビニルカルボン酸アミド重合体の使用による耐酸着色性の改善効果を阻害しない範囲で他の懸濁剤を併用することが可能であり、特に初期着色の低減に効果的なメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系懸濁剤をN−ビニルカルボン酸アミド重合体の1〜30質量%の範囲で併用することも好ましい。
【0013】
重合開始剤としては、10時間半減期温度T10が30℃(ほぼフッ化ビニリデンの臨界温度)〜90℃のものが好ましく用いられ、その好ましい例としてはジイソプロピルパーオキシジカーボネート(T10=40.5℃)、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート(T10=40.3℃)、ターシャリーブチルパーオキシピバレート(T10=54.6℃)が挙げられる。
【0014】
重合開始剤の使用量は、できるだけ少ないことが熱安定性の良いフッ化ビニリデン重合体を得るためには好ましいが、余り少ないと重合時間が極端に長くなるので、懸濁重合系に加える全フッ化ビニリデン系モノマー量(分割添加の場合には初期添加量と後期添加量の合計量)に対し、0.001〜5質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.001〜3質量%、更に好ましくは0.001〜1質量%の範囲が用いられる。0.001質量%未満では重合の完了が困難となり、5質量%を超えると、重合反応で有効に使い切ることが困難になり、結果的に得られる重合体の溶融成形物の着色性や溶出性が悪化しがちである。
【0015】
本発明の重合においては、得られる重合体の分子量を調節する目的で、公知の連鎖移動剤の使用でき、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトン、炭酸ジエチル、等が使用可能である。フッ化ビニリデン重合体は、成形用途に適した分子量とするため、インヘレント粘度(樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度)が0.6dl/g以上、特に0.8〜1.5dl/gの範囲とすることが好ましい。
【0016】
重合温度T(℃)は、重合開始剤の10時間半減期温度T10(℃)に対し、
10−25≦T≦T10+25の条件を満足する温度に設定することが好ましい。
【0017】
重合温度TがT10−25より低い場合は、重合開始剤からのラジカル生成速度が遅いので、重合体の合理的な生産性(例えば、重合時間30時間以内で重合体収率80%以上)を確保するために重合開始剤の使用量を多くせざるを得ない。一方、重合温度TがT10+25(℃)より高い場合はラジカル生成速度が速くなりすぎ、副反応も多くなるため、重合途中で重合速度の急激な低下を招き、途中で重合を停止せざるを得なくなる。いずれの場合も、開始剤の利用効率が悪くなり、初期または高温着色性が増加する。
【0018】
重合温度T(℃)を上昇させ、特にT10≦T≦T+25の範囲とし、高圧下での重合を行うことにより、重合開始剤の利用効率を増大させて熱安定性(耐熱着色性)の良いフッ化ビニリデン重合体を得ることが好ましい。
【0019】
本件発明の特に好ましい態様によれば、WO2006/061988A公報に記載される「フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを懸濁重合するに際して、該モノマーを、重合開始剤を含む重合系に、まずフッ化ビニリデンの臨界圧力Pcr(=4.38MPa)未満の圧力で供給して重合を開始させ、Pcr以上の圧力で追加供給して重合を継続することを特徴とするフッ化ビニリデン重合体の製造方法」が採用される。
【0020】
この好ましい態様によれば、上述したフッ化ビニリデン系モノマーの初期仕込量100質量部と、比較的少量の重合開始剤、例えば0.001〜0.12質量部、好ましくは0.001〜0.06質量部とを、水性媒体(および懸濁剤、連鎖移動剤等の各種助剤)200〜500質量部、より好ましくは250〜350質量部中に分散させて、重合温度T(℃)まで昇温しつつ、懸濁重合を開始させる。
【0021】
上記のように系が重合温度Tまで上昇すると初期添加フッ化ビニリデン系モノマーにより系内の圧力がPcrを超えるが、重合の進行に従い系内圧力が低下傾向を示す。ここで、好ましくは系内圧力(重合圧力)がPcrを下回らないうちに、系内圧力Pをほぼ一定に保つように追加のフッ化ビニリデン系モノマーを継続的に供給する。なお、温度上昇に伴い系内圧力が最初にPcrに到達する時点での初期添加モノマーの重合転化率は20%未満とすること、すなわち、Pcr未満の圧力での重合進行を抑制することが、高圧重合の効果を増大する上で好ましい。
【0022】
フッ化ビニリデン系モノマーの途中添加時の重合圧力Pは、フッ化ビニリデンの臨界圧力(4.38MPa)以上とすることが好ましい。すなわち超臨界状態でモノマーを供給、重合させることで、モノマーの反応場への移動が速まり、ラジカルに対し効率的な重合が進行できると考えられる。重合圧力Pがフッ化ビニリデンの臨界圧力+5(MPa)を超えた場合は、いわゆる詰め込みすぎの状態となり、重合体同士の合一など造粒に影響するばかりか、高圧での危険性が高まる。したがって、追加モノマーの途中添加中は重合圧力Pを上記したPcr〜Pcr+5(MPa)の範囲内でほぼ一定(±10%以内、より好ましくは±7%以内)とすることが好ましい。
【0023】
フッ化ビニリデン系モノマーの途中添加は、初期仕込みモノマーがある程度重合して、重合核が生成し安定な粒子が形成してからが好ましい。より具体的には、初期仕込みモノマーの重合転化率が0.1〜70%、より好ましくは0.5〜50%、更に好ましくは1〜40%に達した時点で添加することが好ましい。
【0024】
フッ化ビニリデン系モノマーの途中添加量は、初期仕込み量100質量部に対し、好ましくは20〜200質量部、より好ましくは、50〜150質量部とする。
【0025】
重合終了時点は、未反応モノマー量の減少と、重合時間の長時間化とのバランス(すなわち製品ポリマーの生産性)を考慮して、適宜選択される。重合完了後は、重合体スラリーを脱水、水洗、乾燥して、重合体粉末を得る。
【0026】
このようにして得られた本発明のフッ化ビニリデン重合体は、その優れた耐酸着色性及び良好な初期着色性を利用して、各種成形体形成用原料樹脂、特に強酸との接触の可能性のある成形体の形成用樹脂、として好ましく使用される。ここで強酸とは、塩酸、硫酸等に代表される酸およびそれらの混合物を意味するが、必ずしもそれに限定されない。
【0027】
以下、実施例、比較例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において、量比を表す「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0028】
(実施例1)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1016g(254部)、懸濁剤としてポリ−N−ビニルアセトアミドの約10質量%水溶液(昭和電工(株)製「GE191−103」;粘度=約16,000mPa・s、以下「PVAA1」と略記することがある)40g(固形分として4g=1部)、連鎖移動剤として酢酸エチル(EA)18.4g(4.6部)、開始剤としてジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート(IPP)0.4g(0.1部、50質量%フロン225cb中溶液として0.2部)、フッ化ビニリデン400g(100部)を仕込み、29℃で圧力が初期圧力4.2MPaから2.76MPaに下るまで、27時間の懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを95℃で30分間熱処理した後、脱水・水洗し、更に80℃で20時間乾燥して重合体粉末を得た。重合率は81%で、得られた重合体のインヘレント粘度は、0.92dl/gであった。
【0029】
(比較例1)
懸濁剤として、ゼラチン粉末(関東化学(株)製)0.4g(0.1部)、開始剤としてジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(NPP)4.8g(1.2部−50質量%メタノール中溶液として2.4部)、連鎖移動剤として酢酸エチル8.8g(2.2部)を用い、重合温度が28℃である以外は、実施例1と同様にして圧力が2.2MPaに下るまで23時間の懸濁重合を行った。重合率は80%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.90dl/gであった。
【0030】
(比較例2)
懸濁剤として、以下に述べるようにして調製したアクリルコポリマーNa塩1.2g(0.3部)を用い、重合温度が28℃である以外は、実施例1と同様にして40時間の懸濁重合を行った。フッ化ビニリデンの造粒性がやや悪く、重合は可能であるものの、速度はやや遅かった。得られた重合体粉末中には、パール状の球形粒子が少なく、異形粒子や破砕粒子が含まれていた。重合率は73%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.85dl/gであった。
【0031】
<アクリルコポリマー塩の調製>
上記比較例2で用いたアクリルコポリマー塩は、次のようにして調製したものである。すなわち、500ml三角フラスコに酢酸エチル150g、開始剤としてNPP0.1g(50質量%メタノール中溶液として0.2g)、アクリル酸45g、2−エチルヘキシルアクリレート5gを入れ、40〜50℃で85分間攪拌した。その後段階的に温度を上げながら、50〜55℃で2時間、55〜70℃で45分間、攪拌を続けた反応終了後、酢酸エチルを留去し、真空乾燥機を用いて60℃で一夜乾燥し、アクリルコポリマーをほぼ定量的に得た。このアクリルコポリマー2.7gを300mlフラスコに入れ、水180g、水酸化ナトリウムの10%水溶液11gを入れ、60℃で加熱攪拌してアクリルコポリマーのカルボキシル基の95%をNaOHで中和した。その後、全量が200gになるように水を加えて調整し、アクリルコポリマーの塩の1.5質量%水溶液を得た.
(比較例3)
懸濁剤として、メチルセルロース(メチル置換数1.8、2%溶液の20℃粘度として100mPa・sのもの;信越化学(株)製「SM−100」)0.2g(0.05部)、連鎖移動剤として酢酸エチル10.8g(2.7部)を用い、重合温度を26℃とする以外は、比較例1と同様にして圧力が2.5MPaに下るまで23時間の懸濁重合を行った。重合率は83%で得られた重合体のインヘレント粘度は0.97dl/gであった。
【0032】
[実施例2〜5、比較例4〜5]
重合開始剤の利用効率改善を通じて、耐熱着色性の良好なフッ化ビニリデン重合体の製造が可能な、モノマー分割添加−高温重合系によるフッ化ビニリデン重合体の懸濁重合を、以下のようにして行った。
【0033】
(実施例2)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g(260部)、懸濁剤として実施例1で用いたポリ−N−ビニルアセトアミドの約10質量%水溶液(「PVAA1」)20g(固形分として2g=0.5部)、連鎖移動剤としてジエチルカーボネート(DEC)8.4g(2.1部)、開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート(PB−PV)0.48g(0.12部、50質量%フロン225cb中溶液として0.24部)、フッ化ビニリデン400g(100部)を仕込み、65℃まで3時間で昇温後、65℃を維持した。最高到達圧は8.07MPaであった。さらに1時間後から、重合圧7.6MPaを維持するようにフッ化ビニリデン400g(100部)を徐々に添加した。その後も約15時間65℃で重合を続け、圧力が2.5MPaに下がるまで、昇温開始から合計24時間の懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを95℃で30分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して重合体粉末を得た。重合率は92%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.96dl/gであった。
【0034】
(実施例3)
懸濁剤として「PVAA1」添加量を8g(固形分として0.8g=0.2部)、後添加フッ化ビニリデンモノマー量を75部にそれぞれ減量する以外は、実施例2と同様にして、合計24時間の懸濁重合を行った。重合率は93%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.92dl/gであった。
【0035】
(実施例4)
懸濁剤として「PVAA1」添加量を40g(固形分として4g=1部)に増量する以外は、実施例2と同様にして、合計23時間の懸濁重合を行った。重合率は90%で、得られた重合体のインヘレント粘度は1.00dl/gであった。
【0036】
(実施例5)
懸濁剤としてポリ−N−ビニルアセトアミドの約20質量%水溶液(昭和電工(株)製「GE191−203」;粘度=約12,000mPa・s、以下「PVAA2」と略記することがある)40g(固形分として4g=1部)を用い、後添加フッ化ビニリデンモノマー量を80部に減量する以外は、実施例4と同様にして、合計24時間の懸濁重合を行った。重合率は93%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.96dl/gであった。
【0037】
(比較例4)
懸濁剤としてメチルセルロース(比較例3で用いた信越化学(株)製「SM−100」)0.4g(0.1部)、および開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート(BP−PV)0.4g(0.1部、50質量%フロン225cb中溶液として0.2部)を用いる以外は、実施例2と同様にして、合計24時間の懸濁重合を行った。重合率は92%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.99dl/gであった。
【0038】
(比較例5)
懸濁剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒドロキシプロピル置換数0.20、メチル置換数1.4、2%溶液の20℃粘度が100mPa・sのもの;信越化学(株)製「SH−100」)0.4g(0.1部)を用いる以外は、比較例4と同様にして、合計23時間の懸濁重合を行った。重合率は91%で、得られた重合体のインヘレント粘度は0.97dl/gであった。
【0039】
<耐酸性試験>
上記実施例および比較例で得られたフッ化ビニリデン重合体試料粉末の各々について、プレス成型機((株)神藤金属工業製「AYSR−5」)を用い、240℃で6分間予備加熱の後、プレス圧10MPaで2分間保持して11×6.4×0.6cmの試験片を作成した。このようにして作成した試験片を35質量%塩酸に浸漬し、60℃で1週間保持した。
【0040】
<色調評価>
上記の塩酸浸漬前後の試験片の色調を色差計(日本電色工業(株)製「ZE6000」)を用いて測定し、JIS Z7815に従う白色度W、ならびにASTM D1925に従う黄色度YI値およびb値を測定した。W値は大なる程、白色でW=100が真白を、またW=0が真黒を示す。YI値は小なる程、黄色度が低いことを、またb値は+(プラス)の値が大なるほど黄色度が高く、−(マイナス)の値が大なるほど青色度が高いことを示す。
【0041】
重合の概要および色調の評価結果を表1(実施例1および比較例1〜3)ならびに表2(実施例2〜5および比較例4〜5)にまとめて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
上記表1および表2を見れば分るように、本発明によれば、フッ化ビニリデン系モノマーの懸濁重合に際して、懸濁剤としてN−ビニルカルボン酸アミド重合体を用いることにより、懸濁重合の安定な進行を可能にしつつ、良好な初期着色性に加えて、優れた耐酸着色性を有する(むしろ酸浸漬後に白色度Wが増加する傾向を示す)フッ化ビニリデン重合体が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを懸濁剤を含む水性媒体中に分散させて懸濁重合を行うに際して、N−ビニルカルボン酸アミド重合体を懸濁剤として用いることを特徴とするフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項2】
N−ビニルカルボン酸アミド重合体が、ポリ−N−ビニルアセトアミドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
モノマー100質量部に対して、0.01〜2質量部のN−ビニルカルボン酸アミド重合体を用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
10時間半減期温度T10が30〜90℃である重合開始剤を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを懸濁重合するに際して、該モノマーを、重合開始剤を含む重合系に、まずフッ化ビニリデンの臨界圧力Pcr(=4.38MPa)未満の圧力で供給して重合を開始させ、Pcr以上の圧力で追加供給して重合を継続する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
重合系に添加する全モノマー量の0.001〜5質量%の重合開始剤を使用して懸濁重合する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
重合系圧力が最初にPcrに到達する時点での重合系への当初供給モノマーの重合転化率が20%未満である請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、圧力PがPcr(MPa)〜Pcr+5(MPa)の範囲内を維持するように途中添加して、T10〜T10+25(℃)の範囲内の重合温度Tで懸濁重合する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
モノマーがフッ化ビニリデンのみからなる請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−90298(P2010−90298A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262621(P2008−262621)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】