説明

耐震壁

【課題】鉄鋼製部材を使用し施工性に優れかつ耐力および剛性を確保でき、また、開口部の配置が可能な耐震壁を提供する。
【解決手段】この耐震壁10は、柱梁架構内に設けられて構造物の剛性および耐力を増加させる耐震壁であって、人力にて取り扱い可能なサイズを有しかつフランジ部を有する形鋼部材11,12と、鉄鋼製の補剛プレート13と、柱梁架構内に配置される鉄鋼製の枠部材14と、から構成され、形鋼部材の少なくとも一部が複数のピースに分割されており、補剛プレートはピースに分割されて隣り合う形鋼部材12,12の間に配置可能な程度の大きさを有し、枠部材は複数のピースに分割され、形鋼部材11,12をフランジ部が面内方向となる状態で水平方向および鉛直方向に配置し、隣り合う形鋼部材の間に補剛プレートを配置し、形鋼部材と補剛プレートとを互いにボルト接合して壁体を枠部材の周囲に構成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁架構内に設けられて構造物の耐力および剛性を増加させる耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
躯体の柱梁架構内に設けられて建物等の構造物の耐力および剛性を増加させて耐震性向上を図る構造壁として、例えば、小口面が面外方向を向くように配置された板材から構成されるピースを組み合わせることにより構築される鋼製構造壁が公知であり、各ピースは溶接、接着剤、ボルト接合などによって組み立てられる(特許文献1)。
【0003】
また、鋼製の短い角形鋼管を小口面が面外となる方向に積み重ねて構築される鋼製構造壁が公知である(特許文献2)。また、軽量形鋼ブロックを積み重ねてフランジ同士をボルト接合して構成される鋼製構造壁が公知である(特許文献3)。さらに、鋼製ピース以外のものでは、FRPブロック、ダクタル(繊維補強コンクリート)製ブロックを用いた構造壁が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270598号公報
【特許文献2】特開平11−71907号公報
【特許文献3】特開平11−293950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の構造壁の場合、いずれもピースや角形鋼管の小口が面外方向を向くように配置される壁であるため、ブロックだけでは曲げ変形が大きくなり、変形を抑えるために中空部にモルタルを充填したり、リブとなるプレートを設ける必要があり、手間がかかるといった問題がある。また、モルタルを充填すると、壁の重量増も問題となる。
【0006】
また、特許文献3の場合、軽量形鋼ブロックの小口が面内方向を向くように配置され、変形は抑えられるが、1種類の部材で構成されるため、開口部を設けることができず、また、全面を塞ぐためボルト本数が多くなるといった問題がある。
【0007】
さらに、鋼製ピース以外のものを用いる場合、FRPブロック、ダクタル製ブロックともに高価であり、また、成形するための型が決まっているため、設計の自由度が低い。定型サイズのブロックを配置可能な数だけ配置するため、板厚の変更などによる耐力の調整が難しい。また、コンクリートブロック製の壁などもあるが、施工が湿式であること、重量増などの問題がある。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、鉄鋼製部材を使用し施工性に優れかつ耐力および剛性を確保でき、また、開口部の配置が可能な耐震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための耐震壁は、柱梁架構内に設けられて構造物の剛性および耐力を増加させる耐震壁であって、人力にて取り扱い可能なサイズを有しかつフランジ部を有する形鋼部材と、鉄鋼製の補剛プレートと、前記柱梁架構内に配置される鉄鋼製の枠部材と、から構成され、前記形鋼部材の少なくとも一部が複数のピースに分割されており、前記補剛プレートは前記ピースに分割されて隣り合う形鋼部材の間に配置可能な程度の大きさを有し、前記枠部材は複数のピースに分割され、前記形鋼部材を前記フランジ部が面内方向となる状態で水平方向および鉛直方向に配置し、前記隣り合う形鋼部材の間に前記補剛プレートを配置し、前記形鋼部材と前記補剛プレートとを互いにボルト接合して壁体を前記枠部材の周囲に構成することを特徴とする。
【0010】
この耐震壁によれば、形鋼部材、補剛プレートおよび枠部材は鉄鋼製であり、形鋼部材は、人力にて取り扱い可能なサイズであり、少なくとも一部が複数のピースに分割され、補剛プレートは、上記分割されて隣り合う形鋼部材の間に配置可能な程度の大きさを有し、枠部材は複数のピースに分割されているので、いずれも人力にて取り扱い可能であるので、施工が簡単になり、施工性に優れる。また、上記分割されて隣り合う形鋼部材の間に補剛プレートを配置し、形鋼部材と補剛プレートとを互いにボルト接合することで、耐力および剛性を確保することができる。
【0011】
上記耐震壁において、前記形鋼部材は、縦材および横材として配置され、前記縦材または前記横材のいずれかが通し部材とされるとともに他方が前記複数のピースに分割されるように構成できる。これにより、耐震壁を、縦材を通し部材とし横材を分割部材とする構造(柱通しタイプ)または横材を通し部材とし縦材を分割部材とする構造(梁通しタイプ)に構成できる。
【0012】
この場合、前記補剛プレートは、前記通し部材とされた形鋼部材と、前記ピースに分割された形鋼部材とに接続されるように構成できる。
【0013】
また、前記形鋼部材は、縦材および横材として配置され、前記縦材および前記横材が前記複数のピースに分割されており、前記補剛プレートは、リブプレートによって2枚が対向配置されて一体化されており、前記一体化された補剛プレートと前記ピースに分割された形鋼部材とを接続するように構成できる。これにより、縦材および横材を分割部材とし、2枚の補剛プレートとリブ部材とによりユニット化し補剛ユニットを構成できる。この補剛ユニットにより、分割されて隣り合う分割部材をボルト接合できる。
【0014】
また、前記補剛プレートは等辺四角形の平面形状を有し、隣り合う前記補剛プレートが前記等辺四角形の隅部同士が突き合うように配置されて、前記補剛プレートの等辺四角形の各辺により開口が形成されるように構成できる。これにより、壁体に通風や採光のために開口部を設けることができる。また、開口を設けたことによる耐震壁における耐力および剛性の低下はない。
【0015】
また、前記枠部材は、2枚のウェブとフランジとからなりかつ複数のピースに分割された鉄鋼製の溝状部材から構成され、前記溝状部材は前記フランジが前記柱梁架構に接着接合され、前記複数のピースに分割された溝状部材の前記ウェブに外周補剛プレートを配置して前記ウェブにボルト接合することで連続した前記枠部材を構成することができる。
【0016】
この場合、前記2枚のウェブに縦長または横長のルーズ孔が設けられ、前記外周補剛プレートに横長または縦長のルーズ孔が設けられ、前記各ルーズ孔を通して前記ウェブと前記外周補剛プレートとをボルト接合するように構成できる。これにより、壁体の施工時に壁体の縦方向および横方向に寸法の多少のずれが生じても、縦長または横長のルーズ孔と横長または縦長のルーズ孔との組み合わせにより寸法ずれを吸収することができる。
【0017】
なお、上記耐震壁によれば、形鋼部材と補剛プレートの板厚および隣り合う形鋼部材の配置ピッチを調整することにより、耐力の調整を行い易く、かつ、壁体全体の寸法を耐震壁設置対象の柱梁架構の寸法に適合可能で、柱梁架構内に容易に耐震壁を構築することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の耐震壁によれば、鉄鋼製部材を使用し施工性に優れかつ耐力および剛性を確保することができ、また、開口部の配置が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態による耐震壁の要部を示す立面図(a)および耐震壁を側面から見た断面図(b)である。
【図2】図1の耐震壁の補剛プレートとH形鋼部材との位置関係を示す要部斜視図である。
【図3】図1の耐震壁の枠部材を構成する溝状部材を示す斜視図である。
【図4】図3の溝状部材の別の例を示す斜視図である。
【図5】上梁に配置した図3の溝状部材を示す図である。
【図6】図3の溝状部材に配置した図1の耐震壁の外周補剛プレートを示す要部立面図(a)および外周補剛プレートを溝状部材にボルト接合をした状態を示す断面図(b)である。
【図7】図1〜図6の耐震壁の施工工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【図8】図1(a)と同様の立面図で、図7の耐震壁の施工工程S03〜S07にそれぞれ対応した図(a)〜(e)である。
【図9】本実施形態の別の構成例を説明するための要部立面図である。
【図10】本実施形態のさらに別の構成例を説明するための要部立面図である。
【図11】図10の構成例の補剛ユニットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による耐震壁の要部を示す立面図(a)および耐震壁を側面から見た断面図(b)である。図2は図1の耐震壁の補剛プレートとH形鋼部材との位置関係を示す要部斜視図である。
【0021】
図1(a)(b)に示すように、本実施形態の耐震壁10は、既存のRCまたはSRC造建物の耐震補強のために、既存のRCまたはSRC柱C(反対側の柱は図示省略)、既存のRCまたはSRC下梁B1、上梁B2から構成される躯体の柱梁架構内に設けられて建物の剛性および耐力を増加させるものである。
【0022】
図1(a)(b)のように、耐震壁10は、H形鋼からなり鉛直方向に縦材(柱)として配置される通し部材を構成する比較的長めのH形鋼部材(以下、「縦通し部材」という。)11と、H形鋼からなり水平方向に横材(梁)として配置され複数のピースに分割された比較的短めのH形鋼部材(以下、「分割部材」という。)12と、梁としての分割部材12全体の剛性を補うように分割部材12,12間に配置されて縦通し部材11および分割部材12に接続される鉄鋼製の補剛プレート13と、既存の躯体(RC柱C、既存のRC下梁B1、上梁B2)に配置されて壁体の端部を構成する鉄鋼製の枠部材14と、を備える。
【0023】
縦通し部材11は、図2のように、フランジ11a、11cと、フランジ11a、11cを連結するウェブ11bと、を有し、同様に、分割部材12は、フランジ12a、12cと、フランジ12a、12cを連結するウェブ12bと、を有する。縦通し部材11および分割部材12は、同一サイズのH形鋼から構成することができる。
【0024】
耐震壁10において、図1(a)のように、複数の縦通し部材11が水平方向に所定の間隔で配置され、複数の分割部材12が水平方向に全体として一列に並べられ、この一列になった複数の分割部材12がさらに鉛直方向に所定の間隔で多段に配置されている。水平方向の隣り合う分割部材12,12間に縦通し部材11が位置し、隣り合う分割部材12,12を連結するように補剛プレート13が配置される。
【0025】
本実施形態の耐震壁10は、上述のように、水平方向の隣り合う2つの分割部材12,12間に柱としての縦通し部材11が位置する構造であり、本明細書では、この構造を柱通しタイプとよぶ。
【0026】
図2をさらに参照して、柱通しタイプについて説明する。柱通しタイプでは、縦通し部材11の水平方向両側に間隔をおいて分割部材12,12が位置する。このとき、縦通し部材11のフランジ11aおよび分割部材12,12のフランジ12a,12aは面内方向に位置し、同一平面を構成する。
【0027】
補剛プレート13は、図1(a)、図2のように、正四角形状であり、その四隅が切り欠かれており、切り欠かれた隅部近傍にボルト15のためのボルト孔が形成されている。補剛プレート13がフランジ11a,フランジ12a,12aの各面に配置され、ボルト15により縦通し部材11および分割部材12,12に取り付けられて固定される。
【0028】
上述のように、図2の柱通しタイプにおいては、一枚の補剛プレート13が縦通し部材11にボルト接合するとともに、水平方向に縦通し部材11を間にして隣り合う2つの分割部材12,12にボルト接合している。このようにして、水平方向に配置された2つの分割部材12,12が縦通し部材11に固定された補剛プレート13により連結される。補剛プレート13により、複数のピースに分割された分割部材12を連結するとともに連結された分割部材12全体の梁としての剛性を補うことができる。
【0029】
耐震壁10は、図2の1枚の補剛プレート13と2つの分割部材12,12と縦通し部材11との関係を1ユニットとして、図1(a)のように、多数枚の補剛プレート13が図2と同様にして分割部材12,12と縦通し部材11とに配置されてボルト接合されることで構成される。
【0030】
また、図1(a)のように、各補剛プレート13は、その正四角形の隅部同士が突き合うように配置され、4枚の補剛プレート13の正四角形の各一辺が正方形状の空き領域を形成するが、この空き領域には縦通し部材11も分割部材12,12も位置しないことから、開口19が形成される。この開口19は、耐震壁10において通風や採光のための開口部として適宜利用することができる。
【0031】
また、図1(a)のように、耐震壁10の外周端部では、縦通し部材11または分割部材12と枠部材14との間に鉄鋼製の外周補剛プレート16が配置される。外周補剛プレート16は、補剛プレート13の略半割形状とされ、縦通し部材11または分割部材12と枠部材14とを連結する。また、耐震壁10の四隅には、隅部の形状に合わせた形状の隅部プレート17が配置される。
【0032】
耐震壁10は、反対面側も同様に構成され、図2のように、補剛プレート13が反対面側にも同様に配置される。すなわち、縦通し部材11の反対側のフランジ11cおよび分割部材12,12の反対側のフランジ12c,12cは面内方向に位置し、反対側で同一平面を構成し、補剛プレート13がフランジ11c,フランジ12c,12cの各面に配置され、ボルト15により縦通し部材11および分割部材12,12に取り付けられて固定される。
【0033】
次に、耐震壁10の外周端部を構成するための枠部材14について図3〜図6を参照して説明する。
【0034】
図3は図1の耐震壁の枠部材を構成する溝状部材を示す斜視図である。図4は図3の溝状部材の別の例を示す斜視図である。図5は上梁に配置した図3の溝状部材を示す図である。図6は図3の溝状部材に配置した図1の耐震壁の外周補剛プレートを示す要部立面図(a)および外周補剛プレートを溝状部材にボルト接合をした状態を示す断面図(b)である。
【0035】
図1の耐震壁10の枠部材14は、複数のピースに分割されており、例えば、図3のような溝状部材21から構成される。溝状部材21は、接着幅wを有するフランジ21aと、フランジ21aから所定間隔をおいて直立するようにフランジ21aに溶接により取り付けられた2つのウェブ21b、21cと、を備える。ウェブ21b、21cには横長の長円形状のプレート接合用ルーズ孔21dが形成され、フランジ21aにはウェブ21b、21cの外側部分に長円形状のアンカー用ルーズ孔21eが形成されている。フランジ21aの接着幅wは、躯体に設置される壁体の幅を考慮して決められる。
【0036】
また、枠部材14として、図4のような溝形鋼29を用いてもよい。溝形鋼29には、その底部29aに長円形状のアンカー用ルーズ孔29eが長手方向に一直線上から互い違いにずれるように千鳥配置で形成され、両側部29b、29cには横長の長円形状のプレート接合用ルーズ孔29dが形成されている。
【0037】
溝状部材21は、図5のように、既存のRCまたはSRC上梁B2にエポキシ樹脂によって接着接合される。すなわち、溝状部材21は、既存のRCまたはSRC上梁B2に、アンカー用ルーズ孔21eを通してアンカーボルト22により取り付けられてその位置が固定される。このとき、溝状部材21と上梁B2との間に樹脂厚確保用スペーサ23が配置される。溝状部材21のフランジ21aの両端部にはシール材からシール部24が形成されることで、躯体と枠部材14との接着接合部の端部がシールされる。
【0038】
図5のように、シール部24を貫通して空気抜き兼エポキシ樹脂注入用パイプ50が樹脂厚確保用スペーサ23の内部に接続されている。このパイプ50は施工時のエポキシ樹脂注入・空気抜きのために用いるため、施工後には取り除かれる。
【0039】
図1(a)のRCまたはSRC下梁B1およびRCまたはSRC柱Cに対しても溝状部材21を上述と同様にして配置することで、耐震壁10の設置対象の柱梁架構内に枠部材14を設置することができる。
【0040】
図6(a)のように、外周補剛プレート16は、溝状部材21のウェブ21bとの連結のために、縦長の長円状のルーズ孔16aが複数設けられている。また、円形状の孔16bは縦通し部材11または分割部材12,12に取り付けるためのものである。ウェブ12bには上述のように横長の長円形状のプレート接合用ルーズ孔21dが設けられている。縦通し部材11および分割部材12,12に補剛プレート13を連結した後に、縦通し部材11または分割部材12,12と溝状部材21とを連結するために外周補剛プレート16を溝状部材21のウェブ21bに位置決めするとき、多少の寸法のずれがあっても、縦長のルーズ孔16aと横長のルーズ孔21dとにより吸収できるので、その位置決めが容易である。
【0041】
上記位置決め後、図6(b)のように、外周補剛プレート16が溝状部材21のウェブ21bにボルト18により接合される。このとき、外周補剛プレート16は、複数のピースに分割された溝状部材21の隣り合うウェブ21b,21b間にまたがるように配置することが好ましい。同様にして反対面側でも、外周補剛プレート16がウェブ21cにボルト18により接合される。
【0042】
次に、図1〜図6の耐震壁の施工例について図7、図8を参照して説明する。図7は図1〜図6の耐震壁の施工工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。図8は図1(a)と同様の立面図で、図7の耐震壁の施工工程S03〜S07にそれぞれ対応した図(a)〜(e)である。
【0043】
まず、耐震壁設置対象の既存躯体の接着接合面の仕上げを除去し、ひび割れや断面欠損がある場合には修復を行い、接着接合面の平滑度を確保する(S01)。また、躯体の精度に合わせて鉄骨の割り付け計画を行う(S02)。割付寸法は、割付条件に従って決め、例えば、図2の1ユニットの大きさを450〜600mm程度、枠部材14の高さを140mm以上にする。
【0044】
次に、図8(a)〜(c)のように内部の鉄骨壁の組み立てを行う。すなわち、図8(a)のように、枠部材14を構成する溝状部材21を所定の位置に配置し、図5,図6(b)のアンカーボルト22により位置固定し、躯体全体に枠部材14を設置し、次に、図6(a)(b)のように枠部材14に外周補剛プレート16をボルト18により仮締めする(S03)。
【0045】
次に、図8(b)のように、縦通し部材11を例えばチェーンブロックで建て起こし、上下の外周補剛プレート16に図6(b)のようにボルト15により接合する(S04)。
【0046】
次に、図8(c)のように、補剛プレート13と分割部材12とをボルト15を用いて接合する(S05)。縦通し部材11にも補剛プレート13をボルト接合する。この段階で全てのボルト15,18を本締めする。
【0047】
上述のようにして内部の鉄骨壁を組み立てた後、図5の枠部材14の端部と躯体表面との間の接着接合部をシール材で充填し、図8(d)のように、シール部24でシールする(S06)。
【0048】
次に、図5のように樹脂厚確保用スペーサ23により枠部材14と躯体との間に確保されたスペース内へ図5の空気抜き兼エポキシ樹脂注入用パイプ50を通してエポキシ樹脂を注入し、図8(e)のように、枠部材14と躯体との間に接着接合部27を形成する(S07)。
【0049】
次に、必要に応じて壁面パネルの設置等により仕上げ工事を行う(S08)。このとき、図1(a)、図8の複数の開口19を適宜利用して壁面に採光や通風のための開口部を設けることができる。
【0050】
上述のようにして、図1〜図6の耐震壁10を既存のRCまたはSRC柱C、既存のRCまたはSRC下梁B1、上梁B2から構成される建物の躯体の柱梁架構内に設置することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、H形鋼からなる縦通し部材11と、同じくH形鋼からなる短い分割部材12と、鉄鋼製の補剛プレート13と、外周補剛プレート16と、をボルト接合により組み合わせることで耐震壁10を躯体のRCまたはSRC柱梁架構内に構築することができ、既存の建物の剛性および耐力を増加させることができる。
【0052】
また、柱梁架構と耐震壁10の壁体との接合を接着剤による接着とすることにより、低振動・低騒音の施工が可能な耐震壁構造を実現できる。また、建物を使用しながらの施工も可能である。
【0053】
また、H形鋼からなる横部材(梁)は分割部材12として分割され、枠部材14は溝状部材21に分割され、補剛プレート13および外周補剛プレート16は分割部材12の長さよりもやや大きい程度であり、H形鋼からなる縦通し部材11は人力で施工できる程度の長さである。このように、各部材11,12,13,16,21はともに人力で施工できる程度のサイズで搬入・組立を行うことができるので、施工条件に左右されず、簡単な施工が可能な耐震壁構造を実現できる。このため、エレベータなどを用いて各部材を搬入し、重機を使用せずに組立を行うことができる。
【0054】
各部材の板厚とユニットのピッチ(分割部材の配置ピッチ)を自在に調整可能であるので、壁体の寸法によらず半端寸法を吸収することができ、壁体全体の寸法を耐震壁設置対象の柱梁架構の寸法に適合可能で、かつ、耐力の調整を行いやすく、設計の自由度が高い。
【0055】
また、耐震壁10に開口部を設けることができ、この開口部を設けたことによる耐震壁における耐力や剛性の低下はない。また、開口部を設けた耐震壁であるので、通風・採光が要求される場合にも対応可能である。また、従来のRCまたはSRC造耐震壁に比較して、意匠性が高く、軽量化を図ることができる。
【0056】
また、特許文献1のように小口面が面外方向を向くように配置された板材から構成されるピースを組み合わせて構築される鋼製構造壁は、各ピースを溶接して製作する必要があり、手間がかかり、ピース数も多く、接着剤でピース同士を接続する場合は接着剤の使用量が増え、高コストになるのに対し、本実施形態の耐震壁によれば、人力で施工できる程度の大きさの範囲内で1つ1つの構成部材のサイズをなるべく大きいものとしてピース数を減らし、施工手間を省くことができる。また、部材同士の接合はボルト接合であるため、施工精度も確保しやすい。
【0057】
また、特許文献2のように、鋼製の短い角形鋼管を小口面が面外となる方向に積み重ねて構築される鋼製構造壁は、充填材がない場合は変形が大きくなり、剛性の高い壁を構築しにくいし、モルタルを充填した場合は重量が増加するのに対し、本実施形態の耐震壁によれば、小口面を面内方向になるように配置するため、小変形で耐力を発揮することができ、また、すべて鉄鋼製の部材であり、モルタル充填等が不要であるため重量が増加しない。
【0058】
また、特許文献3のように軽量形鋼を積み重ねてフランジ同士をボルト接合して構成される鋼製構造壁は開口を形成できず、また美観が得られないのに対し、2種類の構成部材を組み合わせるため、美観・開口を確保することができる。
【0059】
さらに、FRPブロック、ダクタル(繊維補強コンクリート)製ブロックは、成形品でありサイズがある程度決まっているので設計の自由度が低く、板厚の変更などによる耐力の調整が難しく、コンクリートブロックは重量が増加し現場での湿式施工を要するのに対し、本実施形態の耐震壁によれば、各構成部材のサイズは適宜変更可能であるので設計の自由度は高く、耐力の調整が可能で、重量増加もなく、また、現場での湿式施工が不要である。
【0060】
次に、図9〜図11を参照して耐震壁の別の構成例について説明する。図9は、本実施形態の別の構成例を説明するための要部立面図である。図10は、本実施形態のさらに別の構成例を説明するための要部立面図である。図11は、図10の構成例の補剛ユニットを示す斜視図である。
【0061】
図9の構成例は、H形鋼部材であり水平方向に配置される横材(梁)を横通し部材32とし、H形鋼部材であり鉛直方向に配置される縦材(柱)を複数のピースに分割された比較的短めの分割部材31としたもので、これら以外は、図1〜図6と同様の構成である。
【0062】
図9の構成例による耐震壁は、上述のように、鉛直方向の隣り合う2つの分割部材31,31間に梁としての横通し部材32が位置する構造であり、本明細書では、この構造を梁通しタイプとよぶ。
【0063】
図9の梁通しタイプにおいては、一枚の補剛プレート13が横通し部材32にボルト15で接合するとともに、鉛直方向に横通し部材32を間にして隣り合う2つの分割部材31,31にボルト15で接合する。このようにして、鉛直方向に配置された2つの分割部材31,31が横通し部材32に固定された補剛プレート13により連結される。補剛プレート13により、複数のピースに分割された分割部材31を連結するとともに連結された分割部材31全体の柱としての剛性を補うことができる。
【0064】
図9の構成例では、耐震壁は、図9の一枚の補剛プレート13と2つの分割部材32,32と横通し部材31との関係を1ユニットとして、多数枚の補剛プレート13が図9と同様にして分割部材32,32と横通し部材31とに配置されてボルト接合されることで構成される。耐震壁の外周端部では、図1〜図6と同様にして、外周補剛プレート16と躯体に配置された枠部材14とを介して接着接合により躯体に固定される。
【0065】
図9の構成例によれば、図7,図8と同様にして、施工することができ、同様の効果を得ることができる。
【0066】
図10,図11の構成例は、縦材および横材ともにH形鋼からなり複数のピースに分割された分割部材31,12とし、分割部材31,12を補強された補剛ユニット33により連結したもので、これら以外は、図1〜図6と同様の構成である。
【0067】
図11のように、補剛ユニット33は、2枚の鉄鋼製の補剛プレート34,34と、2枚の鉄鋼製のリブプレート35,35と、から構成される。各補剛プレート34の中央部でリブプレート35,35が直交方向に配置され溶接で接合され、2枚の補剛プレート34,34が対向配置されて一体化されることで補剛ユニット33が構成されている。補剛プレート34は、図1,図2の補剛プレート13と同じサイズであってよい。図10,図11の補剛ユニット33を用いた構造を、本明細書では、ユニットタイプとよぶ。
【0068】
図10,図11のユニットタイプにおいては、1つの補剛ユニット33が水平方向に隣り合う分割部材12,12にボルト15で接合するとともに、鉛直方向に隣り合う2つの分割部材31,31にボルト15で接合する。このようにして、水平方向に配置された2つの分割部材12,12および鉛直方向に配置された2つの分割部材31,31が補剛ユニット33により連結される。補剛ユニット33により、複数のピースに分割された分割部材12,31を連結するとともに連結された分割部材12,31全体の梁、柱としての剛性を補うことができる。
【0069】
図10,図11の構成例では、耐震壁は、図11の1つの補剛ユニット33と2つの分割部材12,12と2つの分割部材31,31との関係を1ユニットとして、多数の補剛ユニット33が図10と同様にして分割部材12,12と分割部材31,31に配置されてボルト接合されることで構成される。耐震壁の外周端部では、図1〜図6と同様にして、外周補剛プレート16と躯体に配置された枠部材14とを介して接着接合により躯体に固定される。
【0070】
図10,図11の構成例によれば、図7,図8と同様にして、施工することができ、同様の効果を得ることができる。なお、図11の補剛ユニット33は、人力で施工できる程度の大きさであり、あらかじめ外部の工場で完成させてから、搬入し耐震壁の組立に供することができる。
【0071】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施形態では、本発明の耐震壁を既存のRCまたはSRC造建物の柱梁架構に適用したが、新築のRCまたはSRC造建物に適用してもよいことはもちろんである。また、建物以外のRCまたはSRC造構造物にも適用可能である。
【0072】
また、図2,図9,図10の補剛プレート13,34は正四角形の平面形状としたが、これに限定されず、等辺四角形の平面形状であればよい。
【0073】
また、形鋼部材として、本実施形態では、H形鋼を用いたが、これに限定されず、他の部材を使用してもよく、例えば、I形鋼などを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の耐震壁によれば、例えば既存RCまたはSRC造建物において耐震壁増設を可搬型の各部材を使用する簡単施工により低騒音・低振動で行うことが可能であるので、既存RCまたはSRC造建物の耐震補強を簡単かつ確実に行うことができる。また、開口部を設けた耐震壁とすることで通風・採光を確保でき、用途範囲が広い。
【符号の説明】
【0075】
10 耐震壁 11 H形鋼部材、縦通し部材 12 H形鋼部材、分割部材 13 補剛プレート 14 枠部材 16 外周補剛プレート 16a ルーズ孔 19 開口 21 溝状部材 21d ルーズ孔 24 シール部 27 接着接合部 29 溝形鋼 31 H形鋼部材、分割部材 32 H形鋼部材、横通し部材 33 補剛ユニット 34 補剛プレート 35 リブプレート B1 下梁 B2 上梁 C 柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁架構内に設けられて構造物の剛性および耐力を増加させる耐震壁であって、
人力にて取り扱い可能なサイズを有しかつフランジ部を有する形鋼部材と、鉄鋼製の補剛プレートと、前記柱梁架構内に配置される鉄鋼製の枠部材と、から構成され、
前記形鋼部材の少なくとも一部が複数のピースに分割されており、
前記補剛プレートは前記ピースに分割されて隣り合う形鋼部材の間に配置可能な程度の大きさを有し、
前記枠部材は複数のピースに分割され、
前記形鋼部材を前記フランジ部が面内方向となる状態で水平方向および鉛直方向に配置し、
前記隣り合う形鋼部材の間に前記補剛プレートを配置し、
前記形鋼部材と前記補剛プレートとを互いにボルト接合して壁体を前記枠部材の周囲に構成することを特徴とする耐震壁。
【請求項2】
前記形鋼部材は、縦材および横材として配置され、前記縦材または前記横材のいずれかが通し部材とされるとともに他方が前記複数のピースに分割される請求項1に記載の耐震壁。
【請求項3】
前記補剛プレートは、前記通し部材とされた形鋼部材と、前記ピースに分割された形鋼部材とに接続される請求項2に記載の耐震壁。
【請求項4】
前記形鋼部材は、縦材および横材として配置され、前記縦材および前記横材が前記複数のピースに分割されており、
前記補剛プレートは、リブプレートによって2枚が対向配置されて一体化されており、
前記一体化された補剛プレートと前記ピースに分割された形鋼部材とを接続する請求項1に記載の耐震壁。
【請求項5】
前記補剛プレートは等辺四角形の平面形状を有し、隣り合う前記補剛プレートが前記等辺四角形の隅部同士が突き合うように配置されて、前記補剛プレートの等辺四角形の各辺により開口が形成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐震壁。
【請求項6】
前記枠部材は、2枚のウェブとフランジとからなりかつ複数のピースに分割された鉄鋼製の溝状部材から構成され、
前記溝状部材は前記フランジが前記柱梁架構に接着接合され、
前記複数のピースに分割された溝状部材の前記ウェブに外周補剛プレートを配置して前記ウェブにボルト接合することで連続した前記枠部材を構成する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の耐震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−154132(P2012−154132A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15983(P2011−15983)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】