説明

耐震補強工事における補強鋼板の地中貫入方法及び補強鋼板貫入装置

【課題】橋脚等の柱状構造物の耐震補強工事における地中部を対象とした非開削方式による鋼板圧入工法において、転石やコンクリート片等の障害物がある場合でも容易に対応でき、あらゆる条件の施工現場に適用できる補強鋼板の地中貫入方法・補強鋼板貫入装置を提供する。
【解決手段】既設RC橋脚1の周囲を取り囲む形状の補強鋼板2の下端部における内面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板41の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先42を有する摺動刃40を水平方向に往復動させながら、橋脚1に分割クランプ方式の反力受け部材60を介して盛替え可能に取り付けられた圧入用の油圧シリンダ31により補強鋼板2を地中部に圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚等の柱状構造物の耐震補強工事における地中部を対象とした非開削による鋼板補強工事に適用される補強鋼板の地中貫入方法及び補強鋼板貫入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線高架橋などの橋脚耐震補強工事に適用される鋼板補強工法において、地中部を対象とした非開削による補強鋼板設置方法として、現在は油圧ジャッキによる鋼板圧入工法が用いられている。
【0003】
図7は、従来の鋼板圧入工法の一例を示したものであり、RC橋脚1の地上部における各側面(4面)にホールアンカーを打設し、鋼板圧入用の油圧ジャッキ10を4箇所(各面1箇所)配置し、ロッド先端の圧入治具11が下に位置する下向きとなるように基部を固定している。
【0004】
補強鋼板2は、左右に2分割の状態で搬入し、RC橋脚1を挟むように建て込み、半自動溶接などで併合する。RC橋脚1と補強鋼板2との一体化用のモルタル充填スペースを各側面均等に例えば5cmずつ確保できるように、補強鋼板2の内側の各内面にはスペーサーとして縦リブが設けられている。4面の油圧ジャッキ10を作動させ、押し当てた圧入治具11を介して補強鋼板2を圧入し、これを順次繰り返して地中に圧入していく。
【0005】
地盤の抵抗が大きく、油圧圧入のみで所定の深さまで貫入できない場合には、摩擦低減補助工法としてウォータージェット装置20を併用する。RC橋脚1と補強鋼板2との間に高圧水パイプ21を挿入し、補強鋼板2の下端のノズルから高圧水を噴射する。
【0006】
ウォータージェット装置20を併用しても圧入が不可能な場合は、土留またはオープンカットにより、開削設置工法に変更する。
【0007】
圧入設置完了後は、RC橋脚1と補強鋼板2の間の土砂を洗浄除去した後、5cmの空隙部にモルタルを充填し、RC橋脚1と補強鋼板2を一体化させる。
【0008】
また、橋脚耐震補強工事における鋼板補強に関する先行技術文献として特許文献1〜4がある。特許文献1の発明は、橋脚の地中部に装着する筒状の地下枠を橋脚の周囲に配置し、地下枠を振動させると共に、地下枠と橋脚との間に高圧水を圧送して、地下枠を沈下打設するものである。
【0009】
特許文献2の発明は、2つの分割鋼板部材を橋脚の外面に当てがい、各分割鋼板部材の継手部を接合することで鋼板ブロックを組み立て、橋脚の上部に固定した圧入装置の圧入用ジャッキにより鋼板ブロックを押下げて地中に進入させ、鋼板ブロックの組立てと、その押下げ動作の繰り返しにより、複数の鋼板ブロックで橋脚の外面を被覆するものである。
【0010】
特許文献3の発明は、引張力を伝達する継手を両側に有する鋼板を用い、柱状構造物の地中部の周囲の地中に、鋼板を挿入した後、隣接して鋼板を継手で係合しながら挿入していくことにより併合するものである。
【0011】
特許文献4の発明は、柱状構造物の地中部の周囲を包囲する補強枠と、柱状構造物の地中部と補強枠との間に充填される砂から地中部における補強構造を構成するものである。
【0012】
【特許文献1】特開平9−53208号公報
【特許文献2】特開2000−336946号公報
【特許文献3】特開2005−248613号公報
【特許文献4】特開2006−144270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
土留掘削あるいはオープンカット等の開削を伴うと、工期が延び、同時に不経済でもある。従って、非開削方式の補強対策工法が望ましい。
【0014】
しかし、障害物(転石やコンクリート片など)の状況確認が極めて困難であるため、油圧ジャッキによる油圧圧入装置及びウォータージェット装置で対応可能かどうかの定量的な判断ができない。前述した従来の鋼板圧入工法では、あらゆる条件の施工現場に対応することができなかった。
【0015】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたもので、橋脚等の柱状構造物の耐震補強工事における地中部を対象とした非開削方式による鋼板圧入工法において、転石やコンクリート片等の障害物がある場合でも容易に対応することができ、あらゆる条件の施工現場に適用することができる補強鋼板の地中貫入方法及び補強鋼板貫入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、柱状構造物(橋脚など)の周囲を取り囲むように配置される補強鋼板を地上部から地中部へ貫入して柱状構造物の地中部を補強する耐震補強工事における補強鋼板の地中貫入方法において、補強鋼板の下端部における内面または外面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先を有する摺動刃を水平方向に往復動させながら、補強鋼板の上方に設置された圧入装置により補強鋼板を地中部に圧入することを特徴とする耐震補強工事における補強鋼板の地中貫入方法である。
【0017】
本発明は、非開削方式であり、現行の圧入工法(油圧ジャッキやその他の圧入装置)に、鋸歯状の刃先を有する摺動刃を付加し、この摺動刃を水平方向に往復動させながら補強鋼板を地中部に圧入する圧入工法である。これにより、油圧圧入及びウォータージェット併用で対応不可能であった転石やコンクリート片といった障害物に対し、摺動刃による鋸断や破砕、外側への押し出しなどで対応することができる。
【0018】
なお、補強鋼板は左右に2分割などのセパレート構造とし、左右に分割した状態で搬入し、橋脚等を挟むように建て込み、半自動溶接などで併合する。作業ヤードが狭隘で、かつ、上空制限があるため、大型の機械装置や重機は使用することができないため、小分割可能な補強鋼板とすることで、小型の重機械で組立てが可能となる。
【0019】
本発明の請求項2に係る発明は、柱状構造物(橋脚など)の周囲を取り囲むように配置される補強鋼板を地上部から地中部へ貫入するための補強鋼板貫入装置であって、柱状構造物に反力を取って補強鋼板を油圧により地中部に圧入する油圧圧入装置と、補強鋼板の下端部における内面または外面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先が形成され、補強鋼板の周方向に分割されて間隔をおいて複数配置された摺動刃と、補強鋼板の上部に設置され、各摺動刃を水平方向に往復動させる摺動刃駆動装置から構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置である。
【0020】
例えば図1に示すように、既設橋脚等の水平断面が矩形の場合には、油圧圧入装置の油圧シリンダ(ジャッキ)を橋脚等の4つの側面の中央にそれぞれ配置し、反力受け部材を介して橋脚等の側面に着脱可能・盛替え可能に取付ける。油圧シリンダのピストンロッド先端には圧入治具を設け、これを補強鋼板の上端部に上から係合させる。摺動刃は、橋脚等の4つの側面に独立して配置される4つの直線状の板状刃とし、角鋼管からなる補強鋼板の下端部における内面または外面に水平摺動可能に取付け、補強鋼板の上部に配置した摺動刃駆動装置の油圧シリンダ等により直接水平移動させ、あるいは楔等を介して上下移動を水平移動に変換するなどして、各摺動刃を水平方向に往復動させる。
【0021】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項2に記載の補強鋼板貫入装置において、摺動刃駆動装置は、隣り合う摺動刃の隙間に挿入され、上下動により前記隙間を拡縮して摺動刃を水平移動させる拡縮部材と、補強鋼板の上部に取付けられ、前記拡縮部材を上下移動させる油圧シリンダから構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置である。
【0022】
例えば図2に示すように、摺動刃駆動装置を楔状の拡縮部材とこれを上下動させる油圧シリンダから構成した場合であり、既設橋脚等の水平断面が矩形の場合には、4つのコーナー部にそれぞれ配置する。橋脚等のコーナー部における隣り合う一対の摺動刃の隙間に楔を挿入し、前記隙間を拡大して2つの摺動刃を互いに遠ざかる方向に水平移動させる。楔を前記隙間から上昇退避させれば、前記隙間を縮小させることができ、左右両隣の摺動刃駆動装置の2つの楔の下降により前記2つの摺動刃が互いに接近する方向に水平移動する。4つの油圧シリンダの対向配置の2つずつを時間差をおいて作動させることにより、4つの摺動刃を水平方向に往復動させることができる。楔の上下動で水平移動させるため、硬い転石やコンクリート片などに対して容易に鋸断や破砕、外側への押し出しなどを行うことができる。
【0023】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3のいずれかに記載の補強鋼板貫入装置において、油圧圧入装置が柱状構造物に反力受け部材を介して取付けられ、前記反力受け部材は、柱状構造物を水平状態で抱持する左右に2分割されたクランプ部材と、それぞれのクランプ部材の端部同士を緊締し、かつ、解放する油圧シリンダから構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置である。
【0024】
例えば図1に示すように、既設橋脚等の水平断面が矩形の場合、四角枠のクランプ部材を対向するコーナー部で2分割し、この2つのコーナー部にクランプ用の油圧シリンダを配置する。油圧シリンダのピストンロッドを収縮させることにより、2つのクランプ部材を締め付けて橋脚等に強固に固定することができる。ピストンロッドを伸長させれば、2つのクランプ部材を緩めて橋脚等から解放することができる。分割型のクランプ部材を油圧シリンダで締め付け・解放を行うため、盛替えを容易に短時間に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0026】
(1)現行の圧入工法に、鋸歯状の刃先を有する摺動刃を付加し、この摺動刃を水平方向に往復動させながら補強鋼板を地中部に圧入する圧入工法であるため、土留掘削やオープンカット等の大規模な開削が不要となり、施工途中において工種を大幅に変更する必要がなく、工期の短縮及びコストの低減が図られる。
【0027】
(2)摺動刃を水平方向に往復動させながら圧入するため、比較的簡易でコンパクトな装置により、転石やコンクリート片等の障害物がある場合でも容易に対応することができ、あらゆる条件の施工現場に適用することができる。
【0028】
(3)摺動刃を水平方向に往復動させる摺動刃駆動装置に楔方式を用いることにより、硬い転石やコンクリート片などに対して容易に鋸断や破砕、外側への押し出しなどを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。これは、橋脚の耐震補強工事に適用した例である。図1は、本発明に係る補強鋼板の地中貫入方法に用いる補強鋼板貫入装置の一例を示す水平断面図・鉛直断面図である。図2は、図1の補強鋼板貫入装置の下部を示す水平断面図・鉛直断面図・部分拡大鉛直断面図である。図3は、図2の下端部の摺動刃を示す平面図・正面図である。図4は、図3の装置のケーシング部品を示す平面図・正面図である。図5は、図3の装置の取付部品を示す正面図・断面図である。図6は、本発明に係る補強鋼板の地中貫入方法の一例を工程順に示す水平断面図と鉛直断面図である。
【0030】
図1の実施形態において、既設のRC橋脚1は水平断面が正方形の場合であり、補強鋼板2は各側面(4面)で均等なモルタル充填スペースをおいてRC橋脚1の外周を覆う角鋼管が用いられ、この角鋼管によりRC橋脚1の地中部が非開削で補強される。なお、補強鋼板2は、例えば対向するコーナー部において左右に2分割されたセパレート構造であり、左右に分割した状態で搬入し、2つのアングル材形状の補強鋼板をRC橋脚1を挟むように建て込み、半自動溶接などで併合する。作業ヤードが狭隘で、かつ、上空制限があるため、大型の機械装置や重機は使用することができないため、小分割可能な補強鋼板2とすることで、小型の重機械で組立てが可能となる。
【0031】
本発明に係る補強鋼板貫入装置は、図1に示すように、RC橋脚1に反力を取って補強鋼板2を油圧により地中部に圧入する4本の油圧シリンダ31を有する油圧圧入装置30と、補強鋼板2の下端部における内面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板41の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先42が形成され、補強鋼板2の四辺に分割配置される4つの摺動刃40と、補強鋼板2の上部に設置され、各摺動刃40を水平方向に往復動させる2つの摺動刃駆動装置50から構成されている。摺動刃40を摺動刃駆動装置50により水平方向に往復動させながら、油圧圧入装置30により補強鋼板2を地中部に圧入するものである。
【0032】
油圧圧入装置30の油圧シリンダ(ジャッキ)31は、RC橋脚1の地上部における各側面(4面)の中央に配置され、4本の油圧シリンダ31のそれぞれのシリンダ本体の上端部が平面視で四角枠状の反力受け部材60の下面にピンヒンジを介して接続され、この反力受け部材60がRC橋脚1の側面に着脱可能に固定される。
【0033】
反力受け部材60は、図1に示すように、四角枠を左右に2分割した2つのクランプ部材61と、RC橋脚1を水平状態で抱持する2つクランプ部材61の端部同士を連結する水平配置の2つの油圧シリンダ62から構成され、盛替えを容易に短時間に行えるようにしている。反力受け部材60の分割位置は、対向する2つのコーナー部とし、圧入用の油圧シリンダ31による荷重点を避けるようにしている。平面視で山形(アングル材)形状の各クランプ部材61には、縦配置の溝形鋼を用い、油圧シリンダ31の荷重点には縦リブ63を配置して補強する。
【0034】
コーナー部における2つのクランプ部材61の間隔をおいて対向する端部には、それぞれ縦配置の取付板64、64を平行に設け、一方の取付板64には、クランプ用の油圧シリンダ62のシリンダ本体をボルトで取付け、他方の取付板64には、ピストンロッドの先端をナットで固定する。
【0035】
油圧シリンダ62のピストンロッドを収縮させることにより、一対の取付板64の間隔が狭まり、2つのクランプ部材61を締め付けてRC橋脚1に強固に固定することができる。ピストンロッドを伸長させれば、一対の取付板64の間隔が広がり、2つのクランプ部材61を緩めてRC橋脚1から解放することができる。なお、クランプ部材61の溝形鋼の橋脚側の裏面にはゴムパッド付きの平板65を取付け、ゴムパッドによりRC橋脚1に損傷を与えることなく上方向の圧入反力に対して強固に固定されるようにする。
【0036】
圧入用の油圧シリンダ31のピストンロッド先端には、図1に示すように、補強鋼板2の上端部に係合する圧入治具70が設けられている。この圧入治具70は、水平配置のH形鋼からなる取付部材71と、この取付部材71の下面に取付けられる補強鋼材キャップ72から構成されている。各油圧シリンダ31のピストンロッド先端がピンヒンジを介して取付部材71に接続される。補強鋼材キャップ72には、補強鋼材2の上端部が挿入される挿入溝が形成され、また橋脚側の内側面には滑り板73が取付けられ、RC橋脚1と補強鋼板2との間の隙間が適正に保持される。なお、この圧入治具70は、クランプ部材61と同様に四角枠状のものを左右2分割としてよいし、補強鋼板2の四辺に独立して配置してもよい。
【0037】
図1、図2に示すように、4つの摺動刃40をそれぞれ水平方向に往復動させる摺動刃駆動装置50は、補強鋼板2の4つのコーナー部にそれぞれ配置されている。各摺動刃駆動装置50は、隣り合う摺動刃40、40の間の隙間に挿入され、上下動により前記隙間を拡縮して摺動刃40を水平移動させる拡縮部材51と、補強鋼板2の上部に取付けられ、拡縮部材51を上下移動させる油圧シリンダ52から構成されている。
【0038】
図2に示すように、補強鋼板2のコーナー部における上端には、上端から上方に突出する縦配置の取付板53が取付けられており、この取付板53に摺動用の油圧シリンダ52が下向きに取付けられている。油圧シリンダ52のピストンロッド先端には、コーナー部におけるRC橋脚1と補強鋼板2の間に挿入されるロッド54が接続され、このロッド54の下端に拡縮部材51が設けられる。
【0039】
この拡縮部材51は、正面視では、図2に示すように、下に向かって狭まる楔状であり、また平面視では、例えば山形(アングル材)形状(図示せず)とされ、図3に示す隣り合う摺動刃40、40のコーナー部の隙間に対応できるようにしている。図2に示すように、このような拡縮部材51を油圧シリンダ52で下降させれば、左右の摺動刃40、40が互い遠ざかる方向に水平移動する。拡縮部材51を引き上げれば、左右両隣の摺動刃駆動装置50、50の拡縮部材の下降により、左右の摺動刃40、40が互いに接近する方向に水平移動する。4つの摺動刃駆動装置50の対向配置の2つずつを時間差をおいて作動させることにより、4つの摺動刃40を水平方向に往復動させることができる。
【0040】
摺動刃40は、図3、図4に示すように、補強鋼板2の角鋼管の4辺にそれぞれ独立して配置され、角鋼管と同じ形状の四角枠で所定の高さのケーシング80の内面に添接される。このケーシング80は、補強鋼板2の下端に溶接等で接続され、補強鋼板2の下部を構成する。また、補強鋼板2と同様に左右に2分割され、補強鋼板2とケーシング80の平面視で山形(アングル材)形状の2部材がRC橋脚1を挟むように建て込まれ、半自動溶接などで併合される。
【0041】
摺動刃40の長さは、角鋼管の一辺の長さよりも小さく、所定の水平往復ストローク(例えば900mm角の橋脚に対して55mm)が得られる。摺動板41は、RC橋脚1と補強鋼板2の間の隙間に位置できる板厚で、水平方向に長い長孔43が水平方向に所定の間隔をおいて複数(図示例では3つ)形成されており、ピン44と止め輪45によりケーシング80の内面に取付けられる。ピン44はケーシング80の内面に溶接で直角に固定され、長孔43に挿入したピン44の先端に止め輪45を溶接で固定する。長孔43の長さは水平往復ストロークに対応した長さであり、摺動板41はケーシング80の内面に添って摺動自在に支持される。
【0042】
また、摺動板41の外面には、水平配置の鋼棒による突起46が溶接で取付けられており、この突起46が補強鋼板2の下端に係止めされ、圧入時の荷重を負担し、かつ、ガイドとして機能することにより、圧入時に摺動刃40を円滑に水平摺動させることができる。
【0043】
鋸歯状の刃先42は、摺動板41の下部に形成されており、三角形の鋸歯が所定のピッチで多数配置され、水平方向に連続したノコギリが形成される。また、この鋸歯状の刃先42には、ケーシング80の下端から下へ突出するようにされている。
【0044】
このような摺動刃40の両側の上部には、拡縮部材51の楔の傾斜面と同じ傾斜の傾斜面47が形成されており、直角に隣り合う2つの摺動刃40の2つの傾斜面47により、拡縮部材51の楔が挿入される楔空間が形成される。摺動用の油圧シリンダ52の上下動ストロークにより水平往復ストロークが得られるように、寸法等が設定される。
【0045】
以上の圧入用の油圧シリンダ31、摺動用の油圧シリンダ52、クランプ用の油圧シリンダ62は、図1に示す制御盤付きの油圧ポンプユニット90により作動する。例えば、圧入用の油圧シリンダ31は、圧入・引き上げが手動切換えで行われる。摺動用の油圧シリンダ52は、昇降操作がタイマー切換えで行われる。クランプ用の油圧シリンダ62は、締め・緩めが手動切換えで行われる。
【0046】
以上のような構成の補強鋼板貫入装置を用いて、次のような手順で鋼板圧入工法を実施する(図6参照)。
【0047】
(1)盛替えにより2つのクランプ部材61は開いた状態であり、また圧入用の油圧シリンダ31はピストンロッド収縮状態であり、クランプ用の油圧シリンダ62により2つのクランプ部材61を締め付け、RC橋脚1に固定する。
【0048】
(2)この状態から摺動刃40を摺動用の油圧シリンダ52で水平方向に往復移動させながら、圧入用の油圧シリンダ31のピストンロッドを伸長させて補強鋼板2を圧入する。転石やコンクリート片等の障害物があっても摺動刃40の鋸断や破砕、外側への押し出しなどで対応することができる。
【0049】
(3)クランプ用の油圧シリンダ62により2つのクランプ部材61を開いてRC橋脚1から解放し、圧入用の油圧シリンダ31のピストンロッドを収縮させてクランプ部材61を下降させて盛替えを行う。
【0050】
以上のような工程を順次繰り返すことにより補強鋼板2を地中部に貫入する。貫入が完了すると、RC橋脚1と補強鋼板2の間の土砂を洗浄除去した後、約5cmの空隙部にモルタルを充填し、RC橋脚1と補強鋼板2を一体化させる。
【0051】
なお、以上は既設橋脚の水平断面が矩形の場合を示したが、円形の場合も同様の構造で対応することができる。また、橋脚に限らず、その他の柱状構造物の地中部鋼板補強にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る補強鋼板の地中貫入方法に用いる補強鋼板貫入装置の一例を示す(a)は水平断面図、(b)は鉛直断面図である。
【図2】図1の補強鋼板貫入装置の下部を示す(a)は水平断面図、(b)は鉛直断面図、(c)は部分拡大鉛直断面図である。
【図3】図2の下端部の摺動刃を示す(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】図3の装置のケーシング部品を示す(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図5】図3の装置の取付部品を示す(a)は正面図、(b)は断面図、(c)は正面図、(d)は断面図である。
【図6】本発明に係る補強鋼板の地中貫入方法の一例を工程順に示す水平断面図と鉛直断面図である。
【図7】従来の鋼板圧入工法を示す斜視図であり、(a)は油圧圧入工法、(b)はウォオータージェット併用工法である。
【符号の説明】
【0053】
1……RC橋脚
2……補強鋼板
10…油圧ジャッキ(従来法)
11…圧入治具(従来法)
20…ウォータージェット装置(高圧水噴射装置)
21…高圧水パイプ
30…油圧圧入装置
31…圧入用の油圧シリンダ(ジャッキ)
40…摺動刃
41…摺動板
42…鋸歯状の刃先
43…長孔
44…ピン
45…止め輪
46…突起
47…傾斜面
50…摺動刃駆動装置
51…拡縮部材
52…摺動用の油圧シリンダ
53…取付板
54…ロッド
60…反力受け部材
61…クランプ部材
62…クランプ用の油圧シリンダ
63…縦リブ
64…取付板
70…圧入治具
71…取付部材
72…補強鋼材キャップ
73…滑り板
80…ケーシング
90…制御盤付きの油圧ポンプユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状構造物の周囲を取り囲むように配置される補強鋼板を地上部から地中部へ貫入して柱状構造物の地中部を補強する耐震補強工事における補強鋼板の地中貫入方法において、
補強鋼板の下端部における内面または外面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先を有する摺動刃を水平方向に往復動させながら、補強鋼板の上方に設置された圧入装置により補強鋼板を地中部に圧入することを特徴とする耐震補強工事における補強鋼板の地中貫入方法。
【請求項2】
柱状構造物の周囲を取り囲むように配置される補強鋼板を地上部から地中部へ貫入するための補強鋼板貫入装置であって、
柱状構造物に反力を取って補強鋼板を油圧により地中部に圧入する油圧圧入装置と、補強鋼板の下端部における内面または外面に添接して水平方向に摺動可能に設けられた水平配置の摺動板の下部に水平方向に連続する鋸歯状の刃先が形成され、補強鋼板の周方向に分割されて間隔をおいて複数配置された摺動刃と、補強鋼板の上部に設置され、各摺動刃を水平方向に往復動させる摺動刃駆動装置から構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置。
【請求項3】
請求項2に記載の補強鋼板貫入装置において、摺動刃駆動装置は、隣り合う摺動刃の隙間に挿入され、上下動により前記隙間を拡縮して摺動刃を水平移動させる拡縮部材と、補強鋼板の上部に取付けられ、前記拡縮部材を上下移動させる油圧シリンダから構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3のいずれかに記載の補強鋼板貫入装置において、油圧圧入装置が柱状構造物に反力受け部材を介して取付けられ、前記反力受け部材は、柱状構造物を水平状態で抱持する左右に2分割されたクランプ部材と、それぞれのクランプ部材の端部同士を緊締し、かつ、解放する油圧シリンダから構成されていることを特徴とする補強鋼板貫入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−167735(P2009−167735A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8695(P2008−8695)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【出願人】(593171673)広成建設株式会社 (8)
【出願人】(000141956)株式会社コプロス (18)
【Fターム(参考)】