肝成長及び肝保護のための組成物と方法
【課題】肝臓の成長を促進し、肝臓の病理状態を治療し、肝臓を障害から保護するためにVEGFRアゴニストを利用する方法、およびVEGFR調節剤の診断及び治療用途の提供。
【解決手段】肝成長を促進させることが可能な、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含むVEGFR調節剤。さらに、KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である血管新生剤を更に含む組成物。
【解決手段】肝成長を促進させることが可能な、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含むVEGFR調節剤。さらに、KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である血管新生剤を更に含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の成長を促進し、肝臓の病理状態を治療し、肝臓を障害から保護するためにVEGFRアゴニストを利用する方法を含む、VEGFR調節剤の診断及び治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓
肝臓は、その器官の機能単位として何千もの微細な小葉(肝小葉)を含む人体の主要な代謝調節器官である。肝臓組織は、2種の主要な識別できる細胞型、即ち、実質細胞(つまり、肝細胞)と非実質細胞を含んでいる。肝臓の複雑な機能は、大部分は肝細胞の作用による一方、クッパー細胞、伊東細胞、肝類洞内皮細胞(LSEC)などの非実質細胞は肝細胞を支持し肝細胞に補給物を提供する点において重要な役割を担っている。モチダら(Mochida et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィ・リス・コム(Biochem. Biophy. Res. Comm.)」、226、p. 176−179。
【0003】
肝臓は、消化管と他の身体部位の間に位置し、監視役の機能を果たしている。主な肝機能として、摂取、貯蔵、新陳代謝を効率的に実行し、更に、糖質、脂質、アミノ酸、ビタミン、微量元素などの物質を多量に血中や胆汁へ効率的に分配することを挙げることができる。別の肝機能は、第1相(酸化/還元)機構と第2相(接合)機構を通じて、生体異物の汚染物質や薬物、内因性代謝産物を解毒することである。
【0004】
肝臓は生命に不可欠な役割を果すため、肝機能障害や肝臓疾患は多くの場合、身体の衰弱を招き生命を脅かす。多くの急性又は慢性の病理状態は、肝臓の構造上の異常及び/又は機能上の異常に関係している。これらの病理状態として、限定はされないが、肝不全、肝炎(急性、慢性又はアルコール性)、肝硬変、中毒性肝障害、薬物性肝障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死が挙げられる。
【0005】
治療用の、又は文字通り有害な多くの化学薬剤や生物薬剤は肝臓障害を引き起こし、肝細胞に対して毒性を有することがある。肝臓が肝毒性剤により障害を受け易いのは、その本来の新陳代謝の役割に関係するためか、もしくは、超過敏反応の結果によるからである。劇症肝炎の事例中、25%までが薬剤による拒絶反応が原因である。また、肝毒性化合物も、脂肪肝、肝炎や肝臓の血管腫瘍性病変をはじめ、慢性肝臓疾患の主要な原因である。(シンクレアーら(Sinclair et al.)著、「テキストブック・オブ・インターナル・メディスン(Textbook of Internal Medicine)」、p. 569−575、1992年、(編集者、ケリー(Kelley);出版社、ジェイ・ビー・リッピンコット・カンパニー(J. B. Lippincott Co.))。
【0006】
肝毒性剤は、細胞障害を介して肝臓に対して直接的に、あるいは中毒性代謝産物の生成を通じて肝臓障害を引き起こす(この部類には、薬物アレルギーに似た症状を呈する超過敏反応が含まれる)。即ち、上記の中毒性代謝産物の生成とは、胆汁鬱滞、胆管の閉塞による胆汁流れの停止、並びに、血管内皮が損傷して肝血管血栓症を起こすような肝内性肝静脈閉塞症(VOD)に見られる血管の病変である。個々の病変について、肝毒性剤によって引き起こされる肝臓障害に罹り易いかどうかは、遺伝因子、年齢、性別、栄養状態、他種薬剤への露呈や全身性疾患に左右される(前記のシンクレアーら(Sinclair et al.)著、「テキストブック・オブ・インターナル・メディスン(Textbook of Internal Medicine)」)。
【0007】
肝臓組織は、初期発育時の正常な成長に加えて、成人期では独特の再生能力を備える。肝組織喪失後の肝臓再生は、肝毒性、ウイルス感染、血管損傷や部分肝切除術などによる各種の形態の肝臓障害に応じて、肝臓を回復させる過程での基本的要因である。例えば、部分肝切除術後、肝臓の寸法は通常約6日以内に当初の質量にまで回復せしめられる。肝臓の成長と再生には、肝細胞と、類洞内皮細胞などの非実質細胞の双方を増殖させることが必要である。典型的には、肝細胞が最初に増殖し、その後、約24時間を経て肝臓の他の細胞がDNA合成を始める。ミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)共著、1997年、「サイエンス(Science)」、276、p. 60−65。
【0008】
肝臓増殖のための因子
何種類かの成長因子及びサイトカインが肝臓の再生を導き得ることが示唆されており、その中で最も注目に値するのは、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、塩基性及び酸性線維芽細胞成長因子、CTGF、HB−EGF、及びノルエピネフリンである。フジワラら(Fujiwara et al.)著、1993年、「ヘパトル(Hepatol.)」、18、p. 1443−9;バルヒら(Baruch et al.)著、1995年、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol.)」、23、p. 328−32;イトーら(Ito et al.)著、1994年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コミュン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、198、p. 25−31;スズマら(Suzuma et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 40725−31;前記のミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)、1997年。最も有効な肝臓有糸分裂促進因子の一つとして、HGFが最初に、培養肝細胞内でDNA合成を刺激できる因子であるとして同定されたが、現在では、HGFは様々な内皮細胞に対して多様の別個の機能を有していることが知られている。ナカムラら(Nakamura et al.)著、1984年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コム(Biochem. Biophys. Res. Comm.)」、122、p. 1450;ラッセルら(Russell et al.)著、1984年、「ジェイ・セル・フィジオル(J. Cell Physiol.)」、119、p. 183−192。ある細胞型の運動性や侵襲性を向上させる散乱因子(SF)がHGFと同じアミノ酸配列を有し、HGF/SFとして表されることが判明している。ストカー(Stoker)とペリーマン(Perryman)共著、1985年、「ジェイ・セル・サイ(J. Cell Sci.)」,77,p. 209−223;ゲラルディ(Gherardi)とストカー(Stoker)共著、1990年、「ネイチャー(Nature)」、346、p. 228。HGF/SFは単鎖の不活性酵素源として合成され、その酵素源は以後の開裂により、単一のジスルフィド結合を介して一体に保持された69−kDaのα−サブユニットと34−kDaのβ−サブユニットからなる活性な二量体糖タンパク質を産生する。ナカムラら(Nakamura et al.)著、1989年、「ネイチャー(Nature)」、342、p. 440−443;ルースら(Roos et al.)著、1995年、「アム・ジェイ・フィジオル(Am. J. Physiol.)」、268、p. G380−6。
【0009】
HGFの既知生物作用はいずれも、Metプロトオンコジーンの産物である単一のチロシンキナーゼレセプターMetを介して伝達される。HGF/SFは、内分泌及び/又はパラ分泌の形でMet発現性内皮細胞に主に作用し、増殖、分岐、細胞移動、遺伝子導入やルーメン形成などの多種多様な生物活動を媒介する。ファン・デル・フールトら(van der Voort et al.)著、「アドブ・キャンサー・リス(Adv. Cancer Res.)」、79、p. 39−90、2000年。肝臓では、HGFは伊東細胞やLSECなどの非肝性細胞内で発現される一方、met転写物は肝細胞中で強く発現される。ヒューら(Hu et al.)著、「アム・ジェイ・パソル(Am. J. Pathol.)」、142、p. 1823−1830、1993年。肝臓が化学的損傷もしくは機械的損傷を被った場合、HGFのレベルが急激に高まり、結果として肝細胞の増殖を強める。ホリモトら(Horimoto et al.)著、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol.)」、23、p. 174−183、1995年。HGFの肝臓特異的過剰発現を示すトランスジェニックマウスの肝臓は、対照動物の肝臓の2倍の寸法を有し、部分肝切除術後の再生が非常に速い。サカタら(Sakata et al.)著、1996年、「セル グロース・ディファ(Cell Growth Differ.)」、7、p.1513−1523;シオタら(Shiota et al.)著、1994年、「ヘパトル(Hepatol.)」、19、p. 962−972。また、HGFのない変異マウス胎仔は十分な機能性の肝臓を発育できず、肝臓の発育時にHGFの役割が不可欠であると立証されている。シュミットら(Schmidt et al.)著、1995年、「ネイチャー(Nature)」、373、p. 699−702。マウスにおいて、HGFを多量(5mg/kg/日)に門脈に連続して直接注入した結果、肝臓の相対質量を有意に増加させることが判明している。パチインら(Patijn et al.)著、1998年、「ヘパトル(Hepatol.)」、28、p. 707−16。HGFは肝細胞の有糸分裂を誘導するのに有効な物質と判明しているが、類洞内皮細胞などの非実質細胞の増殖を誘導することには失敗している。前記のパチインら(Patijn et al.)。反対に、その他の生物学的観点では、HGFは内皮細胞の強力な有糸分裂促進因子であることが判明している。ローゼン(Rosen)とゴールドバーグ(Goldberg)共著、1997年、「血管新生の調整(Regulation of Angiogenesis)」、イー・ローゼン(E.Rosen)とアイディー・ゴールドバーグ(ID Goldberg)編、スプリンゲル・フェルラーク(Springer Verlag)出版、p. 193−208。
【0010】
インビボで肝成長を促進させるためには、相当に高濃度のHGF血漿濃度が必要であることが示唆されている。ルースら(Roos et al.)著、1995年、「アム・ジェイ フィジオル(Am. J. Physiol.)」、268、p. G380−6。HGFは、強いヘパリン結合特性を有するので、静脈投与された後は肝外組織内に主として隔離され(チオンチェックら(Zioncheck et al.)著、1994年、「エンドクリノロジー(Endocrinology)」、134、p. 1879−87)、肝促進作用を効果的に実行するには、硫酸デキストランを同時に投与することが必要である(ルースら(Roos et al.)、1995年)。
【0011】
血管新生と肝臓
血管新生とは、血管内皮細胞が増殖し、その不要部が除去され、再組織化することにより、先在の血管網から新生の血管が生成される重要な細胞性事象である。既存の有力な証拠によれば、血管の供給の進行は正常なまた病理学的な増殖過程にとって必須である(フォークマン(Folkman)とクラグスブルン(Klagsbrun)共著、1987年、「サイエンス(Science)」、235、p. 442−447)。酸素と栄養分を運搬し、代謝分解産物を除去することは、多細胞生物で起こる成長過程の大部分での律速段階を意味する。従って、血管の区画化は、たとえ十分でないにしろ、胚生成時の器官発生や分化のためには勿論のこと、成体の場合での創傷治癒機能や再生機能のためにも必要であると、一般に思われていた。しかし、最近の証拠が示唆しているところでは、少なくともマウス胎仔では、血管内皮は、血流樹立前でさえ肝臓に対して誘導効果を有し(マツモトら(Matsumoto et al.)著、2001年、「サイエンス(Science)」、294、p. 559−563)、また膵臓器官形成に対して誘導効果を有する(ラムマートら(Lammert et al.)著、2001年、「サイエンス(Science)」、294、p. 564−567)。このような誘導効果の機構は未だ知られていない。
【0012】
血管新生は、限定はされないが、増殖性網膜症、加齢性黄班変性症、腫瘍、リウマチ様関節炎(RA)、乾癬などの各種疾患の病原にも関与する。フォークマン(Folkman)著、1995年、「ナト・メド(Nat. Med.)」、1、p. 27−31。肝臓を再生させるには、急速に進行する腫瘍の場合と同様に、新生の間質と血管を合成することが必要である。それ故に、驚くことではないが、多くの研究が、肝臓の発生や再生での血管新生、並びに、そこでの諸々の既知の血管新生因子が果たす役割に着目して行われている。前記のミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)、1997年;モチダら(Mochida et al.)、1996年。
【0013】
血管内皮細胞成長因子(VEGF)は、血管内皮細胞の強力な有糸分裂促進因子であるが、血管新生や脈管形成のための重要な調節因子として報告されている。フェラーラ(Ferrara)とデイビス−スマイス(Davis−Smyth)共著、1997年、「エンドクライン・レブ(Endocrine Rev.)」、18、p. 4−25;フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「ジェイ・モル・メド(J. Mol. Med.)」、77、p. 527−543。VEGFは、血管形成の過程に貢献できる他の成長因子と比べて、血管系内の内皮細胞に対して実に特異的である点で無類の因子である。最近の証拠によれば、VEGFは胚性脈管形成や血管新生にとって必須であることが示されている。カーメリットら(Carmeliet et al.)著、1996年、「ネイチャー(Nature)」、380、p. 435−439;フェラーラら(Ferrara et al.)著、1996年、「ネイチャー(Nature)」、380、p. 439−442。更に、VEGFは、雌性生殖管での血管の周期的増殖や、骨成長や軟骨形成にも必要とされている。フェラーラら(Ferrara et al.)著、1998年、「ネイチャー・メド(Nature Med.)」、4、p. 336−340;ガーバーら(Gerber et al.)著、1999年、「ネイチャー・メド(Nature Med.)」、5、p. 623−628。
【0014】
VEGFは、血管新生や脈管形成での血管新生因子として作用するのに加えて、多面的な成長因子として他の生理過程において、内皮細胞の生存、血管透過と血管拡張、単球の化学走化性、カルシウム流入などの多くの生物学的作用を発揮する。前記のデイビス−スマイス(Davis−Smyth)、1997年。更には、最近の研究では、VEGFは、網膜色素内皮細胞、膵管細胞、シュワン細胞など幾つかの非内皮細胞型に対しても有糸分裂誘導作用を有することが報告されている。グェリーンら(Guerrin et al.)著、1995年、「ジェイ・セル・フィジオル(J. Cell Physiol.)」、164、p. 385−394;オバーグ−ウェルシュら(Oberg−Welsh et al.)著、1997年、「モル・セル・エンドクリノル(Mol. Cell Endocrinol.)」、126、p. 125−132;ゾンデルら(Sondell et al.)著、1999年、「ジェイ・ニューロサイ(J. Neurosci.)」、19、p. 5731−5740。
【0015】
加えて、実質的証拠によれば、VEGFは、病理的血管新生に関与する病状又は疾病の進行において重要な役割を果たしていることが示されている。VEGFのmRNAは、調べられたヒト腫瘍の大部分で過剰発現されている(バークマンら(Berkman et al.)著、「ジェイ・クリン・インベスト(J. Clin. Invest.)」、91,p. 153−159、1993年;ブラウンら(Brown et al.)著、「ヒューマン・パソル(Human Pathol.)」、26、p. 86−91、1995年;ブラウンら(Brown et al.)著、「キャンサー レス(Cancer Res.)」、53、p. 4727−4735、1993年;マターンら(Mattern et al.)著、「ブリト・ジェイ・キャンサー(Brit. J. Cancer)」、73、p. 931−934、1996年;ドボラクら(Dvorak et al.)著、「アム・ジェイ・パソル(Am. J. Pathol.)」、146、p. 1029−1039、1995年)。その上、眼液中のVEGF濃度は、糖尿病や他の虚血関連網膜症の患者における血管の活発な増殖と密接に相関している(アイエロら(Aiello et al.)著、「エヌ・イングル・ジェイ・メド(N. Engl. J. Med.)」、331、p. 1480−1487、1994年)。更に、最近の研究で立証されたところでは、VEGFは、AMDに冒された患者の脈絡叢新生血管膜内に局在化する(ロペスら(Lopez et al.)著、「インベスト・オフタルモ・ビス・サイ(Invest. Ophthalmo. Vis. Sci.)」、37、p. 855−868、1996年)。抗VEGF中和抗体は、ヌードマウスの場合において、様々なヒト腫瘍細胞株の増殖を抑制し(キムら(Kim et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、362、p. 841−844、1993年;ワーレンら(Warren et al.)著、「ジェイ・クリン・インベスト(J. Clin. Invest.)」、95、p. 1789−1797、1995年;ボルグストレームら(Borgstroem et al.)著、「キャンサー・リス(Cancer Res.)」、56、p. 4032−4039、1996年;メルニークら(Melnyk et al.)著、「キャンサー・リス(Cancer Res.)」、56、p. 921−924、1996年)、更には虚血性網膜疾患モデルの場合では、眼内血管新生を抑制する(アダミスら(Adamis et al.)著、「アーチ・オフタルモル(Arch. Ophthalmol.)」、114、p. 66−71、1996年)。従って、抗VEGFモノクローナル抗体、又は他のVEGF作用抑制剤は、固形腫瘍や種々の眼内新生血管疾患を治療するための有望な候補物質である。
【0016】
ヒトVEGFは、ヒト細胞から調製したcDNAライブラリーを、ウシVEGFのcDNAをハイブリダイゼーションプローブとして用いてスクリーニングすることにより最初に得られた。ロイングら(Leung et al.)著、1989年、「サイエンス(Science)」、246、p. 1306。そこで同定された一つのcDNAは、ウシVEGFに対する相同性が95%を越える165−アミノ酸タンパク質をコード化する。この165−アミノ酸タンパク質は、一般にはヒトVEGF(hVEGF)又はVEGF165と呼ばれる。ヒトVEGFの有糸分裂誘起活性は、哺乳類宿主細胞内でヒトVEGFのcDNAを発現させることで確認された。ヒトVEGFのcDNAで形質移入された細胞で馴化された培地は、毛細管内皮細胞の増殖を促進できたのに反し、対照細胞ではそのような作用は認められなかった。前記のロイングら(Leung et al.)、1989年。
【0017】
血管内皮細胞成長因子を、天然源から単離して精製した後に治療目的に使用することが可能であろうが、VEGFを回収するに当っての労力と費用の両点に鑑み、濾胞上皮細胞中のタンパク質の濃度が比較的低く、しかもコストが嵩むことから、商業化が見込めないこととが判明した。従って、組換えDNA法を通じてVEGFのクローン化と発現を行うことに更なる努力がなされている(例えば、フェラーラ(Ferrara)著、1995年、「ラボラトリー・インベスティゲイション(Laboratory Investigation)」、72、p. 615−618、1995年、並びに、そこで引用された複数の文献を参照)。
【0018】
VEGFは、選択的RNAスプライシングに起因した複数のホモ二量体形態(モノマー当り121、145、165、189、206個のアミノ酸)として様々な組織中で発現される。VEGF121はヘパリンとは結合しない可溶性分裂促進因子であり、VEGFの長鎖型は漸次高まるヘパリンとの親和性を伴ってヘパリンと結合する。VEGFのヘパリン結合型をカルボキシ末端でプラスミンにより開裂させ、拡散性形態のVEGFを放出することができる。プラスミン開裂後に同定されたカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸配列はArg110〜Ala111である。アミノ末端「コア」タンパク質、つまり、ホモ二量体として単離されたVEGF(1〜110)は、中和モノクローナル抗体(4.6.1や3.2E3.1.1と呼称される抗体など)と、また無傷のホモ二量体VEGF165と比べて同様の親和性を有するVEGFレセプターの可溶型と結合する。
【0019】
最近、構造上の観点からVEGFに関連した数種の分子も同定されており、その中には胎盤成長因子(P1GF)、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−Eが含まれる。前記のフェラーラ(Ferrara)とデイビス−スマイス(Davis−Smyth)著、1987年、「エンドクル・レブ(Endocr. Rev.)」;オガワら(Ogawa et al.)著、1998年、「ジェイ・バイオロジカル・ケム(J. Biological Chem.)」、273、p. 31273−31281;マイヤーら(Meyer et al.)著、1999年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、18、p. 363−374。チロシンキナーゼレセプター、即ち、Flt−4(VEGFR−3)はVEGF−CやVEGF−Dのレセプターとして同定されている。ジュウコフら(Joukov et al.)著、1996年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、15、p. 1751;リーら(Lee et al.)著、1996年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、93、p. 1988−1992;アチェンら(Achen et al.)著、1998年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、95、p. 548−553。最近、VEGF−Cがリンパ性血管新生の調節に関与していることが証明されている。ジェルテッシュら(Jeltsch et al.)著、1997年、「サイエンス(Science)」、276、p. 1423−1425。
【0020】
2種類のVEGFレセプター、Flt−1(VEGFR−1とも呼ばれる)とKDR(VEGFR−2とも呼ばれる)が同定されている。シブヤら(Shibuya et al.)著、1990年、「オンコジーン(Oncogene)」、8、p. 519−527;ド・フリースら(de Vries et al.)著、1992年、「サイエンス(Science)」、255、p. 989−991;ターマンら(Terman et al.)著、1992年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コムン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、187、p. 1579−1586。ニューロピリン−1が、ヘパリン結合性VEGFアイソフォームに結合できる選択的VEGFレセプターであることが証明されている(ソーカーら(Soker et al.)著、1998年、「セル(Cell)」、92、p. 735−45)。Flt−IとKDRは、双方ともレセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーに属する。RTKには、多様の生物活性を有する数多くの膜貫通型レセプターの一群が含まれている。RTKに関しては、現在のところ、明確に区分された少なくとも19のサブファミリーが同定されている。レセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーは、各種の細胞型を増殖、分化させるのに重要なレセプターを含んでいる(ヤーデン(Yarden)とウーリッヒ(Ullrich)共著、「アン・レブ・バイオケム(Ann. Rev. Biochem.)」、57、p. 433−478、1988年;ウーリッヒ(Ullrich)とシュレシンガー(Schlessinger)共著、「セル(Cell)」、61、p. 243−254、1990年)。RTKの本来の機能は、リガンド結合時に活性化され、結果としてレセプターと複数の細胞基質とのリン酸化を導き、ついで各種の細胞応答を引き出す(ウーリッヒ(Ullrich)とシュレシンガー(Schlessinger)共著、1990年、「セル(Cell)」、61、p. 203−212)。従って、レセプターチロシンキナーゼにより媒介されるシグナル伝達は、特異的成長因子(リガンド)との細胞外相互作用によって開始され、その後、一般的には、レセプターが二量化され、タンパク質チロシンキナーゼの本来の活性が刺激され、レセプターのトランスリン酸化が遂行される。そのようにして、細胞内シグナル伝達分子のための結合部位が形成され、適切な細胞性応答を容易にするある範囲の細胞質シグナル伝達分子と複合体を生成する。(例えば、細胞の分裂や分化、代謝作用、細胞外微環境での変化)。シュレシンガー(Schlessinger)とウーリッヒ(Ullrich)共著、1992年、「ニューロン(Neuron)」、9、p. 1−20を参照。構造的に見ると、Flt−1とKDRの両方とも、細胞外ドメインに存在する7つの免疫グロブリン様ドメインと、1つの膜貫通領域と、キナーゼ挿入ドメインにより遮断された1つのチロシンキナーゼコンセンサス配列を有している。マシューズら(Matthews et al.)著、1991年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、88、p.9026−9030;ターマンら(Terman et al.)著、1991年、「オンコジーン(Oncogene)」、6、p. 1677−1683。
【0021】
既存の有力証拠からの示唆では、Flt−1とKDRは別異のシグナル伝達特性を有し、別異の機能を媒介し得る。また、Flt−1とKDRを通じて媒介されたシグナルは、細胞型に対して特異的であると思われる。最近の研究結果として提出された相当数の実験データが示すところでは、KDRは、VEGFの有糸分裂、血管新生、透過性向上作用の主要なメディエーターである(フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「キドニー・イント(Kidney Int.)」、56、p. 794−814)。VEGF刺激により、KDRの強力な自己リン酸化反応が誘起されるとともに、MAPKカスケードが活性化され、内皮細胞の増殖に直接的に貢献する(クロール(Kroll)とウォルテンバーガー(Waltenberger)共著、1997年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、272、p. 32521−7)。これに対して、VEGFR−1の機能は未だ明瞭ではないが、その機能に関して明らかに矛盾している多数の報告が文献中に見られる。この分子は、VEGFに応答して、内皮細胞内で非常に微弱な又は検知不能なチロシン自己リン酸化反応を示す(ギレら(Gille et al.)著、2000年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、19、p. 4064−4073)。Flt−1は、VEGFがVEGFR−2と結合するのを妨げる「デコイ」レセプターとして作用するか、あるいはVEGFR−2の活性を直接的に抑制することによって、早期の胚発達を含み、幾つかの生物学的文脈において内皮有糸分裂に対して抑制作用を有することが証明されている。パークら(Park et al.)著、1994年、「ジェイ・バイオ・ケム(J. Bio. Chem.)」、269、p. 25646−54;米国特許第6,107,046号(アリタロら(Alitalo et al.));フォンら(Fong et al.)著、1999年、「デベロップメント(Development)」、126、p. 3015−25;ツェングら(Zeng et al.)著、2001年、「ジェイ・バイオル・ケム(J.Biol. Chem.)」、276、p. 26969−79。その他の研究から、VEGFR−1は、腫瘍脈管構造に対して単球や内皮細胞前駆体の補充を媒介しうることが示唆される(バーレオンら(Barleon et al.)著、1996年、「ブラッド(Blood)」、87、p. 3336−43)(ライデンら(Lyden et al.)著、2001年、「ナト・メド(Nat. Med.)」、7、p. 1194−201)。従って、血管内皮細胞内におけるVEGFR−1のシグナル伝達の重要性は概して明らかにされていない。
【0022】
最近の研究では、肝臓、特に肝臓再生における様々な生理学的過程や病理学的過程の分子機構を解明する試みがなされている。肝細胞と、類洞内皮細胞などの非実質細胞との間の肝組織内に存在する2種の相互のパラ分泌シグナル伝達系が提案されている。一方向において、HGF/SFなどの成長因子が、類洞内皮細胞やクッパー細胞などの非実質細胞から放出され、ついで肝細胞上のそのレセプター(c−Metレセプターなど)と結合し、その後に肝細胞増殖を誘導し促進させる。反対方向においては、肝細胞内で発現され肝細胞から分泌されたVEGFが、類洞内皮細胞上のVEGFレセプター(KDRとFlt−1)と結合する刺激因子として作用し、それによって肝臓内における類洞内皮細胞の増殖及び維持を刺激する。ヤマネら(Yamane et al.)著、1994年、「オンコジーン(Oncogene)」、9、p. 2683−2690に記載の観察によると、VEGFやVEGFレセプター(FltとKDR)、並びに、HGFやc−Metの内因性発現は、肝臓内で細胞型特異的な形で厳格に調節される。即ち、プローブとしてflt−1 cDNAを使用して、flt−1 mDNAが、正常なラットの肝臓中の類洞内皮細胞内で非常に高いレベルで発現されるが、肝細胞内では殆ど検知不可能であった。KDRの場合にも、同様の発現パターンが見出されたが、発現レベルは非常に低かった。更に、ヤマネら(Yamane et al.)の観察によると、インビトロ培養系において、VEGFは類洞内皮細胞に対して著しく特異的な増殖刺激活性と維持活性を示す。
【0023】
モチダら(Mochida et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィ・リス・コム(Biochem. Biophy. Res. Comm.)」、226、p. 176−179のインビトロ実験では、正常な肝臓又は部分切除した肝臓から単離された肝細胞内でのVEGFやVEGFR類の発現レベルがモニターされた。上記筆者らは、70%切除したラット肝臓において、VEGF、Flt−1、KDRの発現は全て有意に増加することを見出した。また、Flt−1とKDRによる発現ピークに達する時間から、VEGFR類のアップレギュレーションが肝臓再生時の類洞内皮細胞の増殖に関与していることが示唆される。
【0024】
つい最近の研究として、アジオカら(Ajioka et al.)著、1999年、「ヘパトロジー(Hepatology)」、29、p. 396−402では、外因性VEGFの存在下での移植肝組織の結末が検査された。成体マウスから単離した肝細胞にインビトロでVEGF遺伝子を形質移入し、ついでマウスの膵臓に隣接する領域に腹腔内移植(i.p.)された。移植された肝細胞は、インビボで多数の組織凝集体を形成した。インビトロ染色の結果、VEGF形質移入組織は大幅な増殖を受け、有意な血管網をそこに発生させることが分かった。従って、これらの結果から、VEGFの発現により血管網の形成がなされ、これが組織形成を促進しうることが示唆される。しかし、当該結果から判明したことは、VEGF形質移入の移植肝組織では、非実質細胞、又はその細胞から誘導される成長因子が存在しないことである。
アシーら(Assy et al.)著、1999年、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol)」、30、p. 911−915では、ラットの場合の部分切除術後の肝臓再生で、血管新生因子としてのVEGFの作用が検討された。30%部分切除術を施したラットにVEGFを静脈内投与(i.v.)した後、術後の24、36、48時間目に解剖が行われた。この実験結果から、PHx後36時間目と48時間目の、VEGF処理ラットの場合、肝細胞のDNA合成活性が増大すると判明し、VEGFによる新脈管形成の刺激が肝臓再生時に重要であることが示唆されたが、VEGF処理ラットでは、VEGF処理を省いた対照ラットと比べて、回復した肝質量に統計的に有意な変化は認められなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Li, B., et al., J. Biol. Chem., 2000, Vol. 275, No. 38, pp. 29823-8
【発明の概要】
【0026】
本発明は、対象に対して有効量のVEGFR調節剤を投与する工程を含む、対象における肝成長を促進させるための方法を提供する。本発明に用いられるVEGFR調節剤とは、Flt−1アゴニストなどのVEGFレセプターの一つに対して特異的なアゴニストである。Flt−1アゴニストとしては、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)、P1GF又はVEGF−BなどのFlt−1と結合してこれを活性化させる成長因子、抗Flt−1アゴニスト抗体、あるいは、小分子アゴニストであることが好ましい。一つの好ましい実施態様では、Flt−1アゴニストは、そのVEGF又はそのKDR選択的変異体と併用して投与される。
【0027】
別の態様では、本発明は、対象の病的肝状態を治療する方法であって、病的肝状態を軽減するのに効果的な形で、対象に対してVEGFR調節剤を投与する工程を含む方法を提供する。本発明により治療可能な病的肝状態として、限定はされないが、肝不全、肝炎、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死が挙げられる。好ましくは、VEGFR調節剤はFlt−1アゴニストを含むが、場合によってはFlt−1アゴニストを血管形成剤と組み合わせて含む。
【0028】
加えて、本発明は、対象の肝臓を肝毒性剤への曝露による障害から保護する方法であって、対象に対してVEGFR調節剤を投与する工程を含み、そのVEGFR調節剤が肝臓を障害から効果的に保護する方法を提供する。好ましくは、VEGFR調節剤はFlt−1アゴニストを含むが、場合によってはFlt−1アゴニストを血管形成剤と組み合わせて含む。一態様では、VEGFR調節剤は、対象が肝毒性剤に曝露される以前に、又は、曝露と同時に投与され、該肝毒性剤は、癌治療用の化学療法薬又は放射線治療薬などの治療剤である。しかして、本方法は、高用量の治療剤に対して対象の許容性をもたらすことによって治療効果を向上させるのに役立つ。別の態様では、VEGFR調節剤は、対象が肝毒性剤に曝露された後で、対象内において検出可能な肝臓障害が生じる前に投与される。このような方法は、対象が偶発的に肝毒性剤に曝露されて生じる肝臓障害を治療するのに特に役に立つものである。
【0029】
本発明の様々な方法において、主題の薬剤は、主題薬剤の遺伝子組換え形態を発現する哺乳類細胞(例えば、CHO細胞)を含有する細胞製剤などの全身送達系を通じて対象に投与することが可能である。全身送達系には、精製薬剤とポリマーマトリックスを含有する徐放製剤が含まれる。あるいは、本発明の主題薬剤は、その主題薬剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与することが可能である。本発明による肝標的遺伝子運搬ベクターとして、遺伝子治療用として確立されたウイルスの、又は非ウイルスのベクターを使用することができる。
【0030】
更に、VEGFR調節剤を含む製造品とキットまたも提供される。
【0031】
[好適な実施態様の詳細な説明]
概要
本発明は、全身に送達されたVEGFR調節剤がパラ分泌の形で作用して、肝成長を促進させる協奏系を初めて提供するものである。本発明の協奏系は、特定の作用機序に拘束されることなく、VEGFレセプター活性化後に類洞内皮細胞から生じるシグナル事象の局部カスケードを形成し、このカスケードは、肝細胞増殖や肝成長を促進させる点で、肝臓の主な分裂促進因子であるHGFの全身性送達と比べて遥かに有効で有利である。脈管構造は、栄養物と酸素の運搬や分解物の除去を通して、増殖過程に対して十分ではないが必要であると長年に亘って考えられてきた。本発明により立証されたことは、適切な指示シグナル伝達後は、血管内皮が成長/生存過程を開始させ増幅させるのに十分であって、最終の器官サイズの目標点を打開し、実質を損傷から保護できることである。
【0032】
特に注目に値するのは、LSECの重要なパラ分泌活性の調節におけるVEGFR−1(Flt−1)RTKの新規な機能についての驚くべき発見であり、その新規機能は肝臓を増殖させ保護する。目覚しいことに、VEGFR−1は活性化されると、血管新生の刺激を欠いても、肝臓の実質組織を中毒性損傷から実質的に保護するのに十分である。実際に、本発明は、内皮により媒介された実質細胞に対する保護作用と、血管新生の刺激とを切り離して考えることが可能なことの証拠を初めて提示する。
【0033】
VEGFに関する既知の用量制限作用(例えば、低血圧、水腫)(ヤングら(Yanget al.)著、1998年、「ジェイ・ファーマコル・エクスプ・セル(J. Pharmacol. Exp. Ther.)」、284、p. 103−10)がKDRの活性化と関連するならば(クライチェ(Kliche)とウォルテンバーガー(Waltenberger)共著、2001年、「アイユービーエムビー・ライフ(IUBMB Life)」、52、p. 61−6)、Flt−1選択的VEGF変異体などのFlt−1アゴニストを基に、肝保護向けの治療計画を立てることができると考えられる。KDRアゴニストや他の血管新生因子を一層低い比率で添加することにより、血管新生を刺激すれば、最大の治療効果が達成される。また別法として、KDRに対してFlt−1を優先的に活性化させるVEGF変異体は、安全性と有効性の最適特性を兼備するかもしれない。潜在的適応症として、様々な薬物、化学療法又は毒素から生じる急性肝臓障害、並びに、肝硬変を含めた慢性損傷が挙げられる。
【0034】
発明の組成物とその製造
本発明は、肝臓内でVEGFRの活性を調節することが可能な種々の薬剤を使用することに関する。本明細書中での「VEGFレセプター」又は「VEGFR」という用語は、VEGFのための細胞性レセプター、通常は、血管内皮細胞上に見出される細胞表面レセプター、並びに、VEGFを結合する能力を保持している当該レセプターの断片や変異体(細胞外ドメインの断片又は切断型)を意味する。VEGFRの数例を挙げると、文献中でFlt−1やKDR/Flk−1と呼ばれているタンパク質キナーゼレセプターがある。ドフリ−スら(DeVries et al.)著、「サイエンス(Science)」、255、p. 989、1992年;シブヤら(Shibuya et al.)著、「オンコジーン(Oncogene)」、5、p. 519、1990年;マシュウズら(Matthews et al.)著、「プロク・ナト・アカド・サイ(Proc. Nat. Acad. Sci.)」、88、p. 9026、1991年;ターマンら(Terman et al.)著、「オンコジーン(Oncogene)」、6、p. 1677、1991年;並びに、ターマンら(Terman et al.)著、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コミュン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、187、p.1579、1992年。Flt−1(fms様チロシンキナーゼ)やKDR(キナーゼドメイン領域)のレセプターは、高い親和性でVEGFと結合する。KDRのマウスホモログのFlk−1(胎児肝キナーゼ−1)では、配列の85%がヒトKDRと同一である。フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「キドニー・イント(Kidney Intl.)」、56、p. 794−814。Flt−1とKDR/Flk−1は、両方とも細胞外ドメイン(ECD)に7つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインと、1つの膜貫通領域と、キナーゼ挿入ドメインにより遮断された1つのチロシンキナーゼ(TK)コンセンサス配列を有している。Flt−1はrhVEGF165に対して最も高い親和性を有し、そのKdは約10〜20pMである。KDRのVEGFに対する親和性は一層低く、そのKdは約75〜125pMである。
【0035】
その他のVEGFレセプターとして、VEGFで架橋標識できるもの、あるいはKDR又はFlt−1と共免疫沈降できるものが挙げられる。VEGF121には結合しないがVEGF165に結合する別のVEGFレセプターが同定されている。ソーカーら(Soker et al.)著、1998年、「セル(Cell)」、92、p. 735−45。アイソフォーム特異的VEGF結合部位は、神経細胞の誘導を媒介するコラプシン/セマホリンファミリーのレセプターであるヒトニューロピリン−1と相等しい。
Flt−1レセプターやKDRレセプターは非内皮細胞中にも存在するが、主として血管内皮細胞の表面に結合レセプターとして存在する。また、数種の可溶型のVEGFRも見出されている。例えば、Flt−1の選択的スプライシング可溶型(sFlt−1)をコードするcDNAであって、7番目のIg様ドメインと、膜貫通配列と、細胞質ドメインとが欠如しているcDNAがヒトの臍静脈内皮細胞(HUVEC)で同定されている。ケンダルら(Kendall et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コム(Biochem. Biophys. Res. Comm.)」、226、p. 324−328。
【0036】
本明細書中の「薬剤」、あるいは、代替の「化合物」という用語は、広義に、同定し得る分子構造と生理化学特性を有するいかなる物質をも指す。VEGFR活性を調節することが可能な薬剤の非限定的な例を挙げると、抗体、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、多糖類、オリゴ糖、核酸、生物有機化学分子、ペプチドミメティック、薬理学的薬剤とその代謝産物、転写及び翻訳調節配列等がある。
【0037】
本発明に含まれるVEGFR調節剤はVEGFRのアゴニスト又はアンタゴニストである。「アゴニスト」とは、その標的の生物活性を媒介又は活性化させる薬剤である。例えば、VEGFRアゴニストは、VEGFRの細胞外ドメインに結合し、シグナル伝達活性を惹起させる成長因子リガンド又は抗体でありうる。その代替として、VEGFRアゴニストは、VEGFRの細胞質ドメインに結合し、そのチロシンリン酸化を媒介する小分子化合物である。他方、「アンタゴニスト」とは、その標的の生物活性を阻止し、抑制し、又は減少させるものである。このような抑制作用は、例えば、レセプターに対するリガンド結合、レセプター複合体生成、レセプター複合体内でのチロシンキナーゼレセプターのチロシンキナーゼ活性、及び/又は、レセプター内での、又はレセプターによるチロシンキナーゼ残基のリン酸化を、阻害するような、任意の手段で生じうる。
【0038】
一つの好ましい実施態様では、本発明のアゴニスト又はアンタゴニストは、Flt−1に対して「選択的」であるか、又は「特異的」である。即ち、当該アゴニスト又はアンタゴニストは、KDRなどの他のレセプターチロシンキナーゼではなくてFlt−1を専ら又は好ましくは調節する。別の実施態様では、本発明のアゴニスト又はアンタゴニストは、KDRに対して「選択的」であるか、又は「特異的」である。即ち、当該アゴニスト又はアンタゴニストは、Flt−1などの他のレセプターチロシンキナーゼではなくてKDRを専ら又は好ましくは調節する。
【0039】
一つの態様では、本発明のVEGFRアゴニストは、Flt−1(以下、「Flt−1選択的VEGF変異体」、又は「Flt−sel」、又は「Fltsel」と呼ぶ)に選択的に結合可能なVEGF変異体ポリペプチドを含む。本明細書中での「VEGF」という用語は、ロイングら(Leung et al.)著、「サイエンス(Science)」、246、p. 1306、1989年、並びに、フックら(Houck et al.)著、「モル・エンドクリン(Mol. Endocrin.)」、5、p. 1806、1991年に記載されているように、165−アミノ酸の血管内皮細胞成長因子と、関連する121−、189−、206−アミノ酸の血管内皮細胞成長因子と、それらの自然発生的なアレル形態や加工形態を意味する。また、「VEGF」という用語は、アミノ酸8〜109個、又は165−アミノ酸ヒト血管内皮細胞成長因子1〜109個を含むポリペプチドの切断形態を示すのに用いられている。本発明では、このような形態のVEGFは、例えば、「VEGF(8〜109)」、「VEGF(1〜109)」又は「VEGF165」として確認できる。「切断型」天然VEGFのアミノ酸の位置には、天然VEGF配列に示されている通りに番号が付される。例えば、切断型天然VEGFのアミノ酸の位置17(メチオニン)は天然VEGFの場合も位置17(メチオニン)である。切断型天然VEGFは、KDRレセプターやFlt−1レセプターに対して、天然VEGFに匹敵した結合親和性を有する。
【0040】
本明細書中での「VEGF変異体」という用語は、天然VEGF配列内に1個又はそれ以上のアミノ酸の突然変異を含むVEGFポリペプチドを意味する。場合によっては、上記の1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異にはアミノ酸置換(群)が含まれる。ここに記載されるVEGF変異体を手短に表示する目的で、番号は、推定天然VEGFのアミノ酸配列に沿ったアミノ酸残基位置を意味することに留意されたい(前記のロイングら(Leung et al.)、並びに、前記のフックら(Houck et al.)に記載されている)。
【0041】
本発明に使用されるVEGFとその変異体は、当該分野でよく知られた様々な方法により調製することが可能である。好ましくは、本発明の方法に用いられるVEGFには、組換えVEGF165が含まれる。VEGFのアミノ酸配列変異体は、VEGF DNAの突然変異により調製できる。例えば、これらの変異体として、前記のロイングら(Leung et al.)、並びに、前記のフックら(Houck et al.)に示されているように、アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入、又は置換が挙げられる。欠失と挿入と置換とを組み合わせれば、所望の活性を有する最終コンストラクトに到達できる。明白なことに、変異体をコード化するDNA中でなされる変異は、配列をリーディングフレームから外してはならず、また二次mRNA構造を産生することもある相補領域を作り出さないことが好ましい。欧州特許出願公開公報第75,444A。
【0042】
場合によっては、VEGF変異体は、天然VEGFをコード化するDNA中でのヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により、又はファージディスプレイ法によって、変異体をコードするDNAを産生し、そのDNAを組換え細胞培養物中で発現させることにより、調製される。
【0043】
アミノ酸配列の変異を導入する部位は予め決められるが、突然変異それ自体を事前に決定する必要はない。例えば、所定部位での突然変異の性能を最適化するために、ランダムな突然変異誘発を標的コドン又は領域で実施することができ、発現されたVEGF変異体をスクリーニングして所望の活性の最適な組み合わせを得る。既知の配列を有するDNA中で置換変異を予め定められた部位で行う技術は周知であり、例えば部位特異的突然変異誘発が知られている。
【0044】
好ましくは、ここに記載のVEGF変異体の調製は、PCT公報WO00/63380号に記載されているもののような、ファージディスプレイ法により達成される。
【0045】
このようなクローンを選択した後、変異せしめられたタンパク質領域が除去され、タンパク質の生産に適したベクター中、一般には、適切な宿主の形質転換に用いうるタイプの発現ベクター中に配される。
【0046】
アミノ酸配列欠失は一般には約1〜30個の残基、より好ましくは1〜10個の残基であり、典型的には近接したものである。
【0047】
アミノ酸配列挿入は、一残基から本質的に非制限長のポリペプチドのアミノ-及び/又はカルボキシル-末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。配列内挿入(つまり、天然VEGF配列内への挿入)は一般には約1から10残基、より好ましくは1から5残基の範囲でありうる。末端への挿入の例は組換え宿主からの分泌を容易にするためにN末端へ、宿主細胞に異種であろうと相同であろうと、シグナル配列を融合させることを含む。
【0048】
更なるVEGF変異体は、天然VEGFの少なくとも一のアミノ酸残基が取り除かれ、その場所に異なった残基が挿入されたものである。そのような置換は表1に示されたものに従ってなすことができる。
【0049】
表1
元の残基 例示的置換
Ala (A) gly; ser
Arg (R) lys
Asn (N) gln; his
Asp (D) glu
Cys (C) ser
Gln (Q) asn
Glu (E) asp
Gly (G) ala; pro
His (H) asn; gln
Ile (I) leu; val
Leu (L) ile; val
Lys (K) arg; gln; glu
Met (M) leu; tyr; ile
Phe (F) met; leu; tyr
Ser (S) thr
Thr (T) ser
Trp (W) tyr
Tyr (Y) trp; phe
Val (V) ile; leu
【0050】
機能又は免疫学的同一性のある変化は、表1のものより少ない保存性の置換を選択することにより、つまり(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩を維持するのにその効果が有意に異なる残基を選択することにより、なされる。一般にVEGF変異体特性に最も大きな変化をもたらすことが期待される置換は、(a)グリシン及び/又はプロリン(P)を、他のアミノ酸に置換し又は欠失又は挿入し;(b)親水性残基、例えばセリル又はスレオニルを、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、又はアラニルに(又はそれによって)置換し;(c)システイン残基を、任意の他の残基に(又はそれによって)置換し;(d)電気陽性側鎖を持つ残基、例えばリジル、アルギニル又はヒスチジルを、電気陰性電荷を有する残基、例えばグルタミル又はアスパルチルに(又はそれによって)置換し;(e)電気陰性側鎖を有する残基を、電気陽性電荷を有する残基に(又はそれによって)置換し;又は(f)嵩のある側鎖を持つ残基、例えばフェニルアラニンを、そのような側鎖を持たないもの、例えばグリシンに(又はそれによって)置換するものである。
【0051】
置換、欠失又は挿入の効果は常套的なスクリーニングアッセイ法を使用して当業者が即座に評価することができる。例えば、ファージディスプレイ選択VEGFは組換え細胞培養中に発現され、場合によっては細胞培養物から精製することができる。ついで、VEGF変異体について、KDR又はFlt-1レセプター結合親和性及び本出願に開示されたもののような他の生物学的活性を評価することができる。細胞可溶化物又は精製VEGF変異体の結合特性又は活性は、所望される特性についての適切なスクーニングアッセイでスクリーニングすることができる。例えば、与えられた抗体の親和性のような、天然VEGFと比較した場合のVEGF変異体の免疫学的特性の変化が望ましいものでありうる。そのような変化は当該分野で知られている技術に従って実施することができる競合タイプの免疫アッセイによって測定することができる。VEGF変異体の各レセプター結合親和性は、当該分野で知られ以下の実施例に更に記載されているELISA、RIA及び/又はBIAコアアッセイによって決定することができる。本発明の好適なVEGF変異体はまたKDRレセプターのリン酸化を誘導する能力を反映するKIRAアッセイ(例えば実施例に記載のもの)において活性を示す。本発明の好適なVEGF変異体は(例えば実施例のHUVEC増殖アッセイのような既知の方法によって決定することができる)内皮細胞増殖を付加的に又は別に誘導する。ここに開示された特異的VEGF変異体に加えて、キ−トら(Keyt et al.)著、1996年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、271、p. 5638−5646に記載のVEGF変異体も、本発明で使用できると考えられる。
【0052】
Flt−1とその製造方法は既知であって、後の実施例に記載されている。Flt−1に関する更なる開示は、PCT公報WO00/63380と、リーら(Li et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 29823−29828に見出せる。好ましいFlt−1突然変異体は、1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異体を含み、Flt−1レセプターに対する結合親和性を発現する。その結合親和性は、天然VEGFのFlt−1レセプターに対する結合親和性に等しいか、大きい(≧)。より好ましくは、このようなVEGF変異体は、天然VEGFのKDRに対して示される結合親和性に比較し、KDRに対して小さい(<)結合親和性を示す。そのVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べほぼ等しいか(変化なし)、大きい場合(増加)、またVEGF変異体のKDRレセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べて小さいか、ほぼ除去されている場合、VEGF変異体の結合親和性は本発明の目的では、Flt−1レセプターに対して「選択的」と見なされる。本発明の好ましいFlt−1選択的VEGF変異体は、KDRに対して少なくとも10倍以下の結合親和性を有し(天然VEGFに比べて)、より好ましくは、KDRに対して少なくとも100倍以下の結合親和性を有する(天然VEGFに比べて)。VEGF変異体の各結合親和性は、当該分野で知られPCT公報WO00/63380に記載されているELISA、RIA、及び/又はBIAコアアッセイによって決定することができる。
【0053】
本発明の幾つかの態様では、様々な肝臓治療方法は、KDR活性を調節することが可能な薬剤を投与する工程を更に含む。例えば、KDRアゴニストをFlt−1アゴニストと併用して投与し、肝成長又は肝再生を促進させることができる。KDRは、内皮細胞増殖でのVEGFの活性を媒介する主要なレセプターチロシンキナーゼとして同定されている。よって、KDRとFlt−1のアゴニストは、SECと肝細胞の双方の協奏的な増殖を誘発し、その結果、協調的肝成長を促進させる。
【0054】
一態様によると、KDRアゴニストは、KDRに選択的に結合可能なVEGF変異体ポリペプチドを含む(以下、「KDR選択的VEGF変異体」、又は「KDR−sel」、又は「KDRsel」と呼ぶ」。KDR−selVEGF変異体と、その製造方法は後の実施例中に詳述してある。KDR−selに関する更なる開示は、PCT公報WO00/63380と、リーら(Li et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 29823−29828に見出せる。好ましいKDR−selは、1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異を含み、KDR−selレセプターに対する結合親和性を示し、その結合親和性は、天然VEGFのKDR−selレセプターに対する結合親和性に等しいか、大きい(≧)。より好ましくは、VEGF変異体は、天然VEGFのFlt−1に対して示される結合親和性に比較し、KDRに対して小さい(<)結合親和性を示す。そのVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べほぼ等しいか(変化なし)、大きい場合(増加)、またVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べて小さいか、ほぼ除去された場合、VEGF変異体の結合親和性は本発明の目的では、KDRレセプターに対して「選択的」と見なされる。本発明の好ましいKDR−sel選択的VEGF変異体は、Flt−1レセプターに対して少なくとも10倍以下の結合親和性を有し(天然VEGFに比べて)、より好ましくは、Flt−1レセプターに対して少なくとも100倍以下の結合親和性を有する(天然VEGFに比べて)。VEGF変異体の各結合親和性は、当該分野で公知のELISA、RIA及び/又はBIAコアアッセイにより決定される。本発明の好適なKDR−selはKDRレセプターのリン酸化を誘導する能力を反映するKIRAアッセイにおいて活性をまた示す。更には、又は代替的に、本発明の好ましいKDR−sel選択的VEGF変異体は、内皮細胞の増殖を誘発する(実施例に記載のHUVEC増殖検査法などの当該分野で公知の方法で測定される)。
【0055】
一態様では、本発明において使用されるVEGFとその変異体は組換え法によって製造される。これらの方法で使用される単離されたDNAはここでは化学的に合成されたDNA、cDNA、染色体、又は染色体外DNAで、3'-及び/又は5'-フランキング領域を持つか持たないものを意味するものと理解される。好ましくは、ここに記載されるVEGF及びその変異体は組換え細胞培養での合成によって作製される。
【0056】
そのような合成においては、VEGF又はVEGF変異体をコードする核酸を確保することが先ず必要である。VEGF分子をコードするDNAは、ウシ下垂体濾胞上皮細胞から、(a)これらの細胞からcDNAライブラリーを調製し、(b)相同性配列を含むライブラリー中のクローンを検出するためにVEGF又はその断片をコードする標識DNA(100塩基対長まで又はそれ以上)を用いてハイブリダイゼーション分析を行い、(c)制限酵素分析及び核酸配列決定によってクローンを分析して完全長クローンを同定することによって、得ることができる。完全長クローンがcDNAライブラリーに存在しないならば、そのときは、初めてここに開示された核酸配列情報を使用して様々なクローンから適切な断片を回収し、クローンに共通の制限部位でライゲーションさせて、VEGFをコードする完全長クローンを構築することができる。別法では、ゲノムライブラリーが所望のDNAを提供する。
【0057】
このDNAがライブラリーからひとたび同定され単離されたならば、それを更なるクローニングのため又は発現のために複製可能ベクター中にライゲートさせる。
【0058】
組換え発現系の一例では、VEGFコード化遺伝子はVEGFをコードするDNAを含む発現ベクターでの形質転換によって細胞系中に発現される。培養培地又は宿主細胞のペリプラズム中にVEGFを得るように、つまり分泌分子を得るように、そのようなプロセシングを達成可能な宿主細胞を形質転換させることが好ましい。
【0059】
「形質移入」とは、任意のコード化配列が実際に発現されるかどうかにかかわらず、宿主細胞が発現ベクターを取り込むことを意味する。例えばCaPO4及びエレクトロポレーションのように、数多くの形質移入法が当業者に知られている。このベクターの作用の任意の徴候が宿主細胞内に生じた場合に成功裡の形質移入が一般に認められる。
【0060】
「形質転換」とは、染色体外成分として又は染色体全体によってDNAが複製可能であるように、生物体中にDNAを導入することを意味する。使用される宿主細胞に応じて、そのような細胞に適した標準的な方法を使用して形質転換はなされる。コーヘン(Cohen)著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA))」、69、p. 2110、1972年、並びに、マンデルら(Mandel et al.)著、「ジェイ・モル・バイオル(J. Mol. Biol.)」、53、p. 154、1970年に記載されたような塩化カルシウムを用いるカルシウム処理が原核生物又は実質的な細胞壁障壁を含む他の細胞に一般的に使用される。そのような細胞壁を持たない哺乳動物細胞に対しては、グラハム(Graham)とファン・デル・エブ(van der Eb)共著、「ウィロロジー(Virology)」、52、p. 456−457、1978年に記載されたカルシウムリン酸沈降法が好ましい。哺乳動物細胞の宿主系の形質転換の一般的観点は、1983年8月16日に発行の米国特許第4,399,216号にアクセル(Axel)により記載されている。酵母菌中への形質転換は、典型的には、ファン・ゾーリンゲンら(Van Solingen)著、「ジェイ・バクト(J. Bact.)」、130、p. 946、1977年、並びに、シャオら(Hsiao et al.)著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA))」、76、p. 3829、1979年の方法に従って実施される。しかしながら、核注入又はプロトプラスト融合のようなDNAを細胞に導入する他の方法もまた使用することができる。
【0061】
ここに開示したベクターと方法は、広範囲の原核生物や真核生物の宿主細胞に適用できる。
【0062】
一般には、もちろん、原核生物が本発明に有用なDNA配列の初期クローニング及びベクターの構築に好適である。例えば、大腸菌K12株MM294(ATCC番号31446) が特に有用である。使用することができる他の微生物株には、大腸菌株、例えば大腸菌B及び大腸菌X1776(ATCC番号31537)が含まれる。これらの例はもちろん限定ではなく例示のためのものである。
【0063】
原核生物もまた発現に使用することができる。上述の株、並びに大腸菌株W3110(F-、ラムダ-、原栄養菌、ATCC番号27325)、K5772(ATCC番号53635)、及びSR101、桿菌、例えば枯草菌、及び他の腸内細菌科、例えばネズミチフス菌又はセラチア・マルセセン(Serratia marcesans)、及び様々なシュードモナス種を使用することができる。
【0064】
一般に、宿主細胞と適合性のある種から取り出されたレプリコン及びコントロール配列を含むプラスミドベクターがこれらの宿主との関連で使用される。ベクターは、通常、複製部位並びに形質転換細胞中において表現型の選択を提供可能であるマーキング配列を担持する。例えば大腸菌は、典型的には、大腸菌種から誘導されたプラスミドのpBR322を使用して形質転換される(例えば、ボリバーら(Bolivar et al.)著、「ジーン(Gene)」、2、p.95、1977年を参照)。pBR322はアンピシリン及びテトラサイクリン耐性の遺伝子を含み、よって形質転換された細胞を同定するための容易な手段を提供する。pBR322プラスミド又は他の微生物プラスミド又はファージは、それ自身のタンパク質の発現のために微生物が使用することができるプロモーターをまた含まなければならず、あるいはこれを含むように改変されなければならない。
【0065】
組換えDNAの構築に最も一般的に使用されるプロモーターには、β−ラクタマーゼ(ぺニシリナーゼ)とラクトースのプロモーター系が含まれ(チャンら(Chang etal.)著、「ネイチャー(Nature)」、375、p. 615、1978年;イタクラら(Itakura et al.)著、「サイエンス(Science)」、198、p. 1056、1977年;ゲーデルら(Goeddel et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、281、p. 544、1979年」、更にトリプトファン(trp)のプロモーター系が含まれる(ゲーデルら(Goeddel et al.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、8、p.4057、1980年;欧州特許公開公報第0,036,776号)。これらは最も一般的に使用されるプロモーターであるが、他にも微生物プロモーターが発見されて利用されている。そのヌクレオチド配列の詳説が公表されているので、当業者であれば、上述の微生物プロモーターをプラスミドベクターに機能的に結合させることができる(例えば、シーベンリストら(Siebenlist et al.)著、「セル(Cell)」、20、p. 269、1980年を参照)。
【0066】
原核生物に加えて、酵母菌培養物のような、真核微生物もまた使用することができる。多くの他の株が一般的に入手可能であるが、出芽酵母又は一般的なパン酵母が、真核微生物のなかで最も一般的に使用されている。酵母菌属での発現に対しては、例えばプラスミドYRp7(スチンヒコムら(Stinchcome et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、282、p. 39、1979年;キングスマンら(Kingsman et al.)著、「ジーン(Gene)」、7、p. 141、1979年;ツヘンパーら(Tschemper et al.)著、「ジーン(Gene)」、10、p. 157、1980年)が一般的に使用される。このプラスミドは、例えばATCC番号44076又はPEP4-1のような、トリプトファン中で成長する能力を欠く酵母変異株に対して選択マーカーを提供するtrp1遺伝子を既に含んでいる(ジョーンズ(Johnes)著、「ジェネティックス(Genetics)」、85、p. 12、1977年)。酵母宿主細胞ゲノムに特徴的なものとしてのtrp1破壊の存在は、ついでトリプトファンの不存在下での成長による形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。
【0067】
酵母ベクターにおける好適なプロモーター配列には、3-ホスホグリセレートキナーゼ (ヒッツェマンら(Hitzeman et al.)著、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、255、p. 2073、1980年) 又は他の糖分解酵素(ヘスら(Hess et al.)著、「ジェイ・アドブ・エンザイム・リグ(J. Adv. Enzyme Reg.)」、7、p. 149、1968年;ホーランドら(Holland et al.)著、「バイオケミストリー(Biochemistry)」、17、p. 4900、1978年)、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-ホスファートイソメラーゼ、3-ホスホグリセラートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのプロモーターが含まれる。適切な発現プラスミドの構築では、これらの遺伝子に関連する終結配列がまた発現が望まれる配列の発現ベクター3’中に結合されて、mRNAのポリアデニル化及び終結がもたらされる。成長条件によって制御される転写の更なる利点を有する他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解性酵素、及び上述のグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用の原因酵素のプロモーター領域である。酵母適合性プロモーター、複製起点及び終結配列を含む任意のプラスミドベクターが適している。
【0068】
微生物に加えて、多細胞生物から誘導された細胞の培養物もまた宿主として使用することができる。原理的には、脊椎動物か無脊椎動物の培養物かによらず、任意のそのような細胞培養物が作用可能である。しかし、脊椎動物細胞が最も興味深く、培養(組織培養)中の脊椎動物細胞の増殖が近年において常套的な手順となっている (「ティッシュ・カルチャー(Tissue Culture)」、出版社:アカデミック・プレス(Academic Press)、編集者:クル−ス(Kruse)とパターソン(Patterson)、1973年)。そのような有用な宿主細胞株の例はVERO及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、及びW138、BHK、COS−7、293、及びMDCK細胞株である。そのような細胞に対する発現ベクターは、通常は(必要ならば)複製起点、発現される遺伝子の前に位置するプロモーターを、任意の必要なリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結因子配列と共に含む。
【0069】
哺乳動物細胞での使用に対しては、発現ベクター上のコントロール機能はしばしばウイルス材料によってもたらされる。例えば、一般的に用いられるプロモーターはポリオーマ、アデノウイルス2、そして最も頻繁にはサルウイルス40(SV40)から誘導される。SV40の初期及び後期プロモーターは、双方ともSV40ウイルス複製起点を含む断片としてウイルスから簡単に得られるから、特に有用である(ファイヤースら(Fiers et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、273、p. 113、1978年)。ウイルス複製起点に位置するBg1I部位に向けてHindIII部位から伸展するおよそ250塩基対の配列が含まれているならば、より小さい又は大きいSV40断片をまた使用することができる。更に、そのようなコントロール配列が宿主細胞系と適合性があるならば、所望の遺伝子配列に通常は関連したプロモーター又はコントロール配列を利用することがまたでき、しばしばそれが望ましい。
【0070】
複製起点は、例えばSV40又は他のウイルス(例えばポリオーマ、アデノ、VSV、BPV)源から誘導することができるもののような、外因性起点を含ませるベクターの構築によってもたらされるか、又は宿主細胞染色体複製メカニズムによってもたらされうる。ベクターが宿主細胞染色体中に組み込まれたならば、後者がしばしば十分である。
【0071】
満足できる量のタンパク質が細胞培養によって産生される;しかしながら、二次コード化配列を使用する精製は生産量を更に向上させるのに役立つ。一つの二次コード化配列は、例えばメトトレキセート(MTX)のような、外部から制御されるパラメーターによって影響を受けるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を含み、よってメトトレキセート濃度の制御によって発現の制御が可能になる。
【0072】
VEGF及びDHFRタンパク質双方をコードするDNA配列を含む本発明のベクターによる形質移入のための好適な宿主細胞を選択する場合、用いられるDHFRタンパク質のタイプに応じて宿主を選択することが適切である。野生型DHFRタンパク質が用いられる場合、DHFRに欠損がある宿主細胞を選択することが好ましく、よってヒポキサンチン、グリシン及びチミジンを欠く選択培地中での成功裏の形質移入のためのマーカーとしてDHFRコード化配列を使用することが可能になる。この場合の適切な宿主細胞は、ウルローブ(Urlaub)とチャシン(Chasin))共著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Pro. Natl. Acd. Sci. (USA))」、77、p. 4216、1980年によって調製され記載されたDHFR活性を欠くチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。
【0073】
他方、MTXに対する結合親和性が低いDHFRタンパク質が調節配列として使用されるならば、DHFR欠失細胞を使用する必要はない。変異体DHFRはメトトレキセートに耐性があるので、宿主細胞がそれ自体でメトトレキセート感受性であると仮定して、MTX含有培地を選択手段として使用することができる。MTXを吸収可能な殆どの真核生物細胞はメトトレキセート感受性であると思われる。そのような有用な細胞株の一つはCHO株のCHO-K1(ATCC番号CCL61)である。
【0074】
所望のコード化及びコントロール配列を含む適切なベクターの構築には標準的なライゲーション技術を用いる。単離されたプラスミド又はDNA断片は切断され、仕立てられ、必要とされるプラスミドを調製するのに望ましい形態に再結合される。
【0075】
平滑末端が必要とされる場合は、調製物は、10ユニットのポリメラーゼI(クレノー)で15℃にて15分間処理し、フェノール-クロロホルムで抽出し、エタノール沈殿されうる。
【0076】
切断された断片のサイズ分離は、例示すると、ゲーデルら(Goeddel etal.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、8、p. 4057、1980年に記載された6パーセントのポリアクリルアミドゲルを使用して、実施することができる。
【0077】
正しい配列がプラスミドに作製されたかを確認するために、典型的にはライゲーション混合物を用いて大腸菌K12株294(ATCC31446)又は他の適切な大腸菌株を形質転換し、成功裏の形質転換体を適当な場合はアンピシリン又はテトラサイクリン耐性によって選択する。形質転換体からのプラスミドを調製し、メシングら(Messing et al.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、9、p. 309、1981年に記載の方法又はマキサムら(Maxam et al.)著、「メソッズ・オブ・エンザイモロジー(Methods of Enzymology)」、65、p. 499、1980年に記載の方法によって、制限酵素マッピング及び/又はDNA配列決定をして分析する。
【0078】
哺乳動物細胞宿主中へのDNAの導入と安定な形質移入体の培地中での選択後に、DHFR-タンパク質-コード化配列の増幅を、DHFR活性の競合インヒビターであるおよそ20000−500000nM濃度のメトトレキセート(MTX)の存在下で宿主細胞培養物を成長させることによって実施する。効果的な濃度範囲は、もちろんDHFR遺伝子の性質と宿主の特性に非常に依存する。明らかに、一般的に定まる上限及び下限は確認できない。適した濃度の他の葉酸類似体又はDHFRを阻害する他の化合物もまた使用できる。しかし、MTX自体が簡便で、直ぐに利用でき、効果的である。
【0079】
本発明の幾つかの態様では、Flt−1アゴニストは、Flt−1に選択的に結合してFlt−1を活性化させる成長因子を含む。Flt−1に特異的に結合するが、KDRには結合しない何種類かの天然に生じるVEGF相同体が同定されており、その相同体には、限定はされないが、胎盤成長因子(P1GF)とVEGF−Bが含まれる。P1GFのアミノ酸配列はその53%までがVEGFの血小板由来成長因子様ドメインと同一である。パークら(Park et al.)著、1994年、「ジェイ・バイオ・ケム(J. Bio. Chem.)」、269、p. 25646−54;マグリオンら(Maglione et al.)著、1993年、「オンコジーン(Oncogene)」、8、p.925−31。VEGFの場合と同様に、mRNAの選択的スプライシングにより、P1GFの別種が誘導でき、そのタンパク質は二量体形態で存在する。前記のパークら(Park et al.)。P1GF−1とP1GF−2は、両方とも高い親和性でFlt−1に結合するが、両方ともKDRと相互作用することはできない。前記のパークら(Park et al.)。
【0080】
VEGF−Bは、またFlt−1に特異的に結合するように思われる2種のアイソフォーム(167と185残基)として生産される。ペッパーら(Pepper et al.)著、1998年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、95、p. 11709−11714。VEGFの長鎖型のように、VEGF−Bは、ヘパリン添加後に可溶形態で放出され得る膜結合タンパク質として発現される。また、VEGF−BとVEGFは、同時発現されるとヘテロ二量体を形成することができる。オロフッソンら(Olofsson et al.)著、1996年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、93、p. 2576−2581。
【0081】
本発明において有用な化合物には、RTKの細胞内チロシンキナーゼドメインにおいてその調節機能を作用させる小有機分子が含まれる。ある好適な実施態様では、小分子アゴニストを使用してチロシンリン酸化を刺激することで、対応するシグナル伝達経路を活性化させる。別の実施態様では、小分子インヒビター又はアンタゴニストを使用することで、RTKの活性を阻止及び/又は失活させている。本発明の目的では、多数の小分子化合物を使用することができる。これらには、限定されるものではないが、ビス単環式、二環式、又は複素環式アリール化合物、ビニレン-アザインドール誘導体(PCT公報WO94/14808)、1−シクロプロピル−4−ピリジル−キノロン類(米国特許第5330992号)、スチリル化合物(米国特許第5217999号)、スチリル置換ピリジル化合物(米国特許第5302606号)、ある種のキナゾリン誘導体(欧州特許出願公開第0566266A1号)、セレノインドール類及びセレン化物(PCT公報WO94/03427号)、三環式ポリヒドロキシ化合物(PCT公報WO92/21660号)、並びにベンジルホスホン酸化合物(PCT公報WO91/15495号)が含まれる。
【0082】
本発明に使用される化合物は、アゴニスト抗体又はアンタゴニスト抗体を含む。本発明の抗体は、それが必要なアゴニスト又はアンタゴニスト活性を発揮する限り、レセプター(Flt−1など)に対して特異的であるか、又はレセプターのリガンドに対して特異的なものである。本発明の好ましい抗体には、抗Flt−1抗体が含まれる。更に好ましくは、抗Flt−1抗体が、KDR機能に影響を及ぼすことなく、Flt−1に選択的に結合してそれを調節する。
【0083】
「抗体」という用語は広義で使用され、モノクローナル抗体(完全長の、又は無傷のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、並びに、所望の生物活性を発揮する限り抗体断片を含む。本発明の目的では、非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいは、ヒト抗体も使用できることが考慮される。本発明に適した様々な抗体を製造する方法は、当業者にとって周知である。
【0084】
天然に生じる抗体は、4本のポリペプチド鎖と、ジスルフィド結合により相互に接続された2本の同一重鎖(H)と2本の同一の軽鎖(L)を含んでいる。各重鎖は、1つの重鎖可変領域(VH)と1つの重鎖定常領域で構成されている。その重鎖定常領域は、天然形状では3つの領域CH1、CH2、CH3で構成されている。各軽鎖は、1つの軽鎖可変領域(VL)と1つの軽鎖定常領域で構成されている。その軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成されている。VHとVLの領域を更に、一段と保存的であるフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域と共に散在した、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に分割することができる。VHとVLのそれぞれは、次の順、即ち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRと4つのFRで構成されている。任意の脊椎動物種に由来した抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれて峻別される2つのタイプの一方に割り当てることができる。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)を種々のクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5つの主要クラスがあり、その中の幾つかは、例えば、IgG−1、IgG−2、IgA−1、IgA−2等のサブクラス(アイソタイプ)に更に分割される。異なったクラスの免疫グロブリンに相当する重鎖定常領域はそれぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。免疫グロブリンの異なったクラスのサブユニット構造や三次元立体構造は周知であり、例えば、アバスら(Abbas et al.)著、「セルラー・アンド・モル・イムノロジー(Cellular and Mol. Immunology)」、4版、2000年に概説されている。抗体は、抗体又は抗体部分と、1つ又はそれ以上の別のタンパク質又はペプチドとの共有結合又は非共有結合により形成されたより大きな融合分子の一部分でありうる。そのような融合タンパク質の例として、ストレプトアビジンのコア領域を使用し、四量体scFv分子を形成すること(キプリヤノフら(Kipriyanov et al.)著、1995年、「ヒューマン・アンチボディズ・アンド・ハイブリドマス(Human Antibodies and Hybridomas)」、6、p. 93−101)、並びに、システイン残基と、マーカーペプチドと、C末端ポリヒスチジンタグとを使用し、二価のビオチン化scFv分子を形成すること(エス・エム・キプリヤノフら(S. M. Kipriyanov et al.)著、1994年、「モル・イムノル(Mol. Immunol.)」、31、p. 1047−1058)を挙げることができる。
【0085】
Flt−1又はKDRの活性を調節し得る他の薬剤には、限定はされないが、例えば、Flt−1又はKDRの可溶性細胞外ドメインペプチド、Flt−1又はKDR結合ペプチド、Flt−1又はKDR特異的リボザイム、アンチセンスポリヌクレオチド、並びに、RNAリガンドがある。例えば、アンタゴニストとしてのFlt−1の可溶型細胞外断片が米国特許第6100071号に記載されている。
【0086】
発明のアッセイ方法
一態様では、本発明は、肝作用の調節に重要な因子の遺伝子発現を上方制御するために、VEGFRアゴニストを使用する方法を提供する。一つの好ましい実施態様では、非実質細胞中でのHGFの発現が上方制御される。標的細胞/組織中でのmRNA発現やタンパク質発現のレベルを検出するための方法及び技術は、当業者には既知である。例えば、HGF遺伝子発現レベルは、ハイブリダイゼーションと、その後に続く検出と測定に適した条件の下で、HGFポリヌクレオチドにハイブリダイズし得るプローブを使用し、既知の核酸ハイブリダイゼーションアッセイ法により検出することができる。HGF遺伝子発現の検出に使用される方法としては、限定はされないが、サザンハイブリダイゼーション(サザン(Southern)著、1975年、「ジェイ・モル・バイオル(J. Mol. Biol.)」、98、p. 503−517)、ノーザンハイブリダイゼーション(例えば、フリーマンら(Freeman et al.)著、1983年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、80、p. 4094-4098を参照)、制限エンドヌクレアーゼマッピング(サムブルークら(Sambrook et al.)、1989年、「モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリ・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、RNアーゼ保護アッセイ法(カレント・プロトコルス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・ニューヨーク出版(John Wiley and Sons,New York)、1997年)、DNA配列分析、並びに、ポリメラーゼ連鎖反応増幅(ピーシーアール(PCR);米国特許第4683202号、第4683195号及び第4889818号;ギィレンスタインら(Gyllenstein et al.)著、1988年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、85、p. 7652-7657;オーキマンら(Ochman et al.)著、1988年、「ジェネティックス(Genetics)」、120、p. 621-623;ローら(Loh et al.)著、1989年、「サイエンス(Science)」、243、p. 217−220)で、引き続いて、様々な細胞型中で、HGF遺伝子に対して特異的なプローブを使用してのサザンハイブリダイゼーションを行う方法が挙げられる。また、当該分野で一般に知られているその他の増幅法を用いてもよい。ノーザン又はサザンブロット分析のためのハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、使用する特異的プローブに対して所望の度合いの関連性を持つ核酸を確実に検出することができるように操作できる。加えて、例えば、(カレント・プロトコルス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・ニューヨーク出版(John Wiley and Sons,New York)、1997年)に基づくインサイツハイブリダイゼーション技術を用い、細胞又は組織試料中でのHGFの発現を検出して定量することもできる。
【0087】
HGFに対して特異的な抗体を用いたイムノアッセイ法により、HGFタンパク質レベルを検出することができる。当該分野で既知の様々なイムノアッセイ法を使用することができ、その中には、限定はされないが、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応法、免疫拡散法、インサイツイムノアッセイ(コロイド状金、酵素又は放射性同位元素の標識を使用)、ウェスタンブロット分析法、沈降反応法、凝集アッセイ(例えば、ゲル凝集アッセイ、赤血球凝集アッセイ)、補体結合アッセイ、免疫蛍光アッセイ、プロテインAアッセイ、免疫電気泳動アッセイ等のような技術を用いた競合的又は非競合的アッセイが含まれる。一実施態様では、一次抗体上の標識を検出することにより、抗体結合が検出される。別の実施態様では、一次抗体に対する二次抗体又は試薬の結合を検出することにより、一次抗体が検出される。更に別の実施態様では、二次抗体が標識される。イムノアッセイにおいて結合を検出する多数の手段が当該分野で知られており、それらの手段も本発明の範囲内である。
【0088】
本発明は、有効量のVEGFRアゴニストを投与することにより、肝成長と肝細胞増殖を促進させる方法を提供する。本発明による促進効果は、当該分野で知られている方法を使用し、インビトロ又はインビボのいずれかで評価できる。ドレイクスら(Drakes et al.)著、1997年、「ジェイ・イムノル(J. Immunol.)」、159、p. 4268;オモリら(Omori et al.)著、1997年、「ヘパトロジー(Hepatology)」、26、p. 720;米国特許第5227158号。
【0089】
本発明の一実施態様では、肝細胞と他の非実質肝細胞を標的肝臓から単離した後、適切な組織培養培地中に再懸濁させて細胞付着を誘導する。必要ならば、速度と時間を変動させた遠心分離により、異なった細胞画分を更に分離することができる(例えば、非実質細胞から実質細胞を)。限定はされないが、DNA合成速度の測定(例えば、前記のナカムラら(Nakamura et al.)、1984年を参照)、トリパンブルー染料排除/血球計計数(例えば、前記のオミリら(Omiri et al.)、1997年を参照)、あるいは、フローサイトメトリー(例えば、前記のドレイクス(Drakes)、1997年を参照)を含む、当該分野で既知の技術を使用し、培養時に細胞増殖を評価する。
【0090】
別の実施態様では、例えば、肝組織試料の組織化学アッセイ法を使用して、肝細胞と肝臓器官全体に対するVEGFRアゴニストの増殖効果がインビボで測定される。一つの好ましい態様では、肝細胞のインビボ増殖は、非増殖細胞中におけるよりも増殖している細胞中に高濃度で存在することが知られているタンパク質、例えば、増殖性細胞核抗原(PCNA又はサイクリン)に対する抗体に対する反応性から評価される。ロジャースら(Rodgers et al.)著、1997年、「ジェイ・バーン・ケアー・リハビル(J. Burn Care Rehabil.)」、18、p. 381−388。より好ましい方法は、前記のガーバーら(Gerber et al.)著、1999年、「デベロップメント(Development)」、126、p.1149−1159に記載されているBrdU免疫組織化学アッセイである。
【0091】
病的肝臓状態の治療
一実施態様によると、本発明は、対象体の病的肝臓状態を治療する方法を提供する。ここで使用されるところの「治療」は、治療されている個体又は細胞の天然の過程を改変するための臨床的介入を意味し、予防のため又は臨床的病理の過程中に実施することができる。治療の望ましい効果には、疾病の発生又は再発の防止、症状の軽減、疾病の任意の直接的又は間接的病理的結果の低減、転移の防止、疾病の進行速度の低減、疾病状態の回復又は緩和、及び寛解又は改善された予後が含まれる。
【0092】
「有効量」とは所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。抗体の「治療的有効量」は、例えば個体の疾病状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体に所望の応答を誘発する抗体の能力のような因子に従って変わりうる。治療的有効量はまた抗体の任意の毒性又は有害な効果よりも治療的に恩恵のある効果が上回るものである。「予防的有効量」とは所望の予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。典型的には、予防的量は疾患の初期段階又はその前において患者に用いられるので、予防的有効量は治療的有効量よりも少ないであろう。
【0093】
「病的肝状態」という語句は「肝疾患」又は「肝臓疾病」と置き換え自在に用いられ、構造上及び/又は機能的なあらゆる肝臓の異常を示している。病的肝臓状態の非限定的な例には、肝不全、肝炎(急性、慢性又はアルコール性)、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死に関連した状態が含まれる。
【0094】
肝臓障害からの保護
一態様では、本発明は、肝臓障害を引き起こす状態又は要因に曝露され易い対象において肝臓を障害から保護する方法を提供する。ここでは、「肝臓障害」という語句は広義に用いられ、内的又は外的因子、あるいはその組み合わせから直接的又は間接的に生じる構造上又は機能的な肝臓損傷を示す。肝臓障害は、限定はされないが、肝毒性化合物への暴露、放射線暴露、機械的肝臓損傷、遺伝的素因、ウイルス感染、自己免疫慢性肝炎などの自己免疫疾患を含む様々な要因によって、またアクチビンやTGF−βのようなタンパク質のインビボでのレベルの上昇による結果として誘発される。
【0095】
肝毒性化合物によって誘発される肝臓障害として、薬物超過敏反応、胆汁鬱滞、血管内皮細胞損傷を含む直接的な細胞毒性を挙げることができる。
【0096】
多数の肝毒性化合物が細胞毒性を招くが、その化合物にはある種の治療薬が含まれる。肝毒性化合物は、直接的な化学的攻撃により、あるいは、毒性代謝産物の生成により肝毒性を生じる。肝毒性の正確な機構は明らかではないが、還元性代謝産物は細胞性高分子に結合する高い反応性種であり、脂質の過酸化を生じ、薬物代謝や他の酵素を失活させる。膜の損傷により、ミトコンドリアと平滑な小胞体からカルシウムが放出され、カルシウムの細胞質ゾルの蓄積を通常は防止するカルシウムイオンポンプを妨害すると思われる。細胞代謝に及ぼす悪影響が、それに伴うカルシウムの蓄積、細胞質からのカリウムと酵素の消失、ミトコンドリアの損傷に起因した必須エネルギーの損失と一体となって肝組織の壊死を引き起こす。
【0097】
予測は不可能であるが、多様の肝毒性化合物がレシピエントの少数で肝臓障害を生じさせる。何人かの患者では、その肝臓障害は超過敏反応と呼ばれ、患者が発熱、発疹、好酸球増加症兆候を呈し、薬物を再服用すると、兆候を再発する薬物反応に似ている。別の事例では、損傷の機構は不明であるが、敏感な患者は異常なメタボリズムを呈し、肝毒性代謝産物の生成又は蓄積を招いている。
【0098】
直接の化学的攻撃により細胞毒性を誘発する薬物は次の物質、即ち、エンフルラン、フルオキセン、ハロタン、メトキシフルランなどの麻酔薬;コカイン、ヒドラジド、メチルフェニデート、三環系剤などの神経向精神薬;フェニトイン、バルプロ酸などの抗痙攣薬;アセトアミノフェン、クロルゾキサゾン、ダントロレン、ジクロフェナック、イブプロフェン、インドメタシン、サリチル酸塩、トルメチン、ゾキザゾラミンなどの鎮痛剤;アセトヘキサミド、カルブタミド、グリピジド、メタへキサミド、プロピルチオウラシル、タモキシフェン、ジエチルスチルベストロ−ルなどのホルモン;アンホテリシンB、クリンダマイシン、ケトコナゾール、メベンダゾール、メトロニダゾール、オキサシリン、パラアミノサリチル酸、ペニシリン、リファンピシン、スルホンアミド、テトラサイクリン、ジドブジンなどの抗菌剤;アミオダロン、ジリチアゼム、a−メチルドーパ、メキシレチン、ヒドラザリン、ニコチン酸、パパベリン、ペルへキシリン、プロカインアミド、キニジン、トカインアミドなどの心血管作動薬;アスパラキナーゼ、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、メトトレキセート、ミトラマイシン、6−MP、ニトロソ尿素、タモキシフェン、チオグアニン、ビンクリスチンなどの免疫抑制剤;ジスルフィラム、ヨウ素イオン、オキシフェニサチン、ビタミンA、パラアミノ安息香酸などのその他の薬剤を含む。
【0099】
肝臓内で超過敏応答を引き起こす肝毒性化合物は次の物質、即ち、フェニトイン、パラアミノサリチル酸、クロルプロマジン、スルホンアミド、エリスロマイシンエストレート、イソニアジド、ハロタン、メチルドーパ、バルプロ酸を含む。
【0100】
胆汁鬱滞、つまり、胆汁流の停止を含む肝毒性化合物は幾通りかの形を取る。中枢管状胆汁鬱滞には門脈炎症性変化を伴う。エリスロマイシンなどの何種かの薬剤を使った場合、胆管に変化を来すことが報告されている一方、純然たる細管状胆汁鬱滞は、同化ステロイドホルモンなどの他の薬剤に対して特徴的な性質を示す。慢性胆汁鬱滞は、メチルテストステロンやエストラジオールなどの薬剤に関連している。
【0101】
胆汁鬱滞障害を含む肝毒性化合物は次の物質、即ち、避妊用ステロイド、男性ホルモン性ステロイド、同化ステロイド、アセチルサリチル酸、アザチオプリン、ベンゾジアゼピン、ケノデオキシコール酸、クロルジアゼポキシド、エリスロマイシンエストレート、フルフェナジン、フロセミド、グリセオフルビン、ハロペリドール、イミプラミン、6−メルカプトプリン、メチマゾール、メトトレキセート、メチルドーパ、メチレンジアミン、メチルテストステロン、ナプロキセン、ニトロフラントイン、ペニシルアミン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、プロマジン、チオベンダゾール、チオリダジン、トルブタミド、トリメトプリムスルファメトキサゾール、砒素、銅、パラコートを含む。
【0102】
主として胆汁鬱滞性であるが、何種かの薬剤も肝毒性を誘発することがあるので、それらが引き起こす肝臓損傷が混ざり合う。混合肝臓損傷を起こす薬剤には、例えば、次の物質、即ち、クロルプロマジン、フェニルブタゾン、ハロタン、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、アロプリノール、フェノバルビタール、ナプロキセン、プロピルチオウラシル、クロラムフェニコール、トリメトプリムスルファメトキサゾール、アムリノン、ジソピラミド、アザチオプリン、シメチジン、ラニチジンが含まれる。
【0103】
肝臓静脈血栓症、肝臓小静脈閉塞症、つまり肝内性肝静脈閉塞症(VOD)、肝臓紫斑病を含む肝臓血管障害は薬物により引き起こされうる。更に、類洞膨張、類洞周囲線維症、肝門硬化症を含む病変も発生する。中央帯状類洞膨張や中心静脈周囲類洞膨張は、経口避妊治療の合併症として初めて報告された。肝臓紫斑病とは、内皮障壁から赤血球が漏れ出し、ついで類洞周囲線維症を起こした大きな血液充満の空洞からなる状態を指す。肝臓紫斑病は、経口避妊薬や男性ホルモン性ステロイド、アザチオプリン、ダナゾールを服用した患者について記述されている。中心肝臓小静脈の損傷や閉塞も、マリファナ茶葉などのピロリジジンアルカロイドの摂取に関係することが知られている。その初期の病変は、小静脈の径が次第に縮小する中心壊死である。これらの病変は全て、投薬を停止した場合に部分的にだけ可逆的であって、肝硬変に進行することがある。
【0104】
良性及び悪性肝腫瘍の幾つかのタイプは肝毒性化合物の投与の結果、生じうる。出産可能年齢の女性に限られた病変である腺腫は避妊用ステロイドの使用と関連し、使用期間が長くなれば危険率も高まる。形成不全貧血又は下垂体機能低下が原因で男性ホルモンを服用した患者には、肝細胞癌も見受けられる。
【0105】
肝臓の病変を引き起こすことが知られている肝毒性化合物は次の物質、即ち、避妊用ステロイド、ピリオリジジンアルカロイド、ウレタン、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、マイトマイシン、BCNU、ビンクリスチン、アドリアマイシン、点滴用ビタミンE、同化ホルモン−男性ホルモンステロイド、アザチオプリン、メドロキシプロゲステロン酢酸塩、硫酸エストロン、タモキシフェン、無機砒素剤、二酸化トリウム、ビタミンA、メトトレキセート、メチルアンフェタミン塩酸塩、ビタミンA、コルチコステロイド、二酸化トリウム、ラジウム療法を含む。
【0106】
その他の要因から生じる肝臓障害も同様の形態を取るのが通常である。肝臓障害は、それが化合物の肝毒性、放射線治療、遺伝的素因、機械的損傷又は当該要因と他の要因の任意の組み合わせに起因していても、幾つかの手段により検出することができる。生化学的検査が、肝毒性の標準手段として長年に亘り臨床上使用されている。一般に、大部分の生化学的検査は二つの部類の範疇に収まる。一つは、例えば、プロトロンビン凝固時間、及び/又は、肝臓血流などの特異的肝臓マーカーを測定する試験である。別の一つは、壊死や胆汁鬱滞、進行性腺維神経膠症又は肝臓癌を検出するための血清マーカーを分析する試験である(シー・コルネリウス(C. Cornelius)著、「ヘパトトキシコロジー(Hepatotoxicology)」、ミークスら(Meeks et al.)編、p.181−185、1991年)。上記の試験の重要性は簡便なことと非侵襲性にある。肝臓障害を評価する際に血清酵素を使用することの理論的根拠は、通常は肝細胞中に含まれるその酵素が、肝細胞に損傷が生じた時点で、全身循環するためである。
【0107】
血清酵素活性の上昇は壊死及び/又は胆汁鬱滞を示唆する。血清ビリルビン結合物のレベル上昇は肝臓内又は肝臓外の胆汁鬱滞を示唆する。しかし、肝臓損傷を診断するための単一の手段として血清酵素レベルを使用するには、ある種の制約を受ける。血清酵素レベルは、化学薬品に起因した特異的肝臓損傷よりは、むしろ薬物の全身作用により透過性が改変されて細胞から漏洩する結果として上昇する。肝臓を組織病理学的に検査することが、肝臓損傷の性状と範囲を同定かつ定量するに当っての次の論理的ステップである。
【0108】
肝臓損傷のマーカーとしての血清酵素は、肝臓損傷に対する特異性と感受性に基づいて4グループに分類することができる(前記のコダバンチら(Kodavanti etal.))。
【0109】
グループI:このグループの酵素は上昇した場合、より選択的な肝胆汁鬱滞を示す。例えば、アルカリホスファターゼ(AP)、5´−ヌクレオチダーゼ(5´−ND)、a−グルタミルトランスペプチダーゼ(G−GT)、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)。
【0110】
グループII:このグループの酵素は上昇した場合、実質性損傷を示す。例えば、アスパルテートトランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、フラクトース−1,6−ジホスフェートアルドラーゼ(ALD)、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(ICDH)、オルニチン−カルバモイル−トランスフェラーゼ(OCT)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SDH)アルギナーゼ及びグアナ―ゼ。
【0111】
グループIII:このグループの酵素は上昇した場合、その他の組織の損傷を示す。例えば、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)。
【0112】
グル−プIV:このグループの酵素は肝損傷に抑圧される。例えば、コリンステアラーゼ(ChE)。
【0113】
その他の血清マーカーには、肝線維形成が活性かどうか、肝胆汁性脳症におけるアンモニア血中濃度;壊死と肝臓癌におけるリガンドレベル;肝内皮細胞障害によるヒアルロン酸塩レベルを評価するためのプロコラーゲンIII型ペプチドレベル(PIIIP)、肝臓癌検出のためのa−1−フェトプロテイン(AFP)レベル;肝臓への癌転移を検出するための癌胎児抗原(CEA)レベル;ミトコンドリアや、細胞核の特異的肝臓膜タンパク質などの各種の細胞成分に対する抗体の上昇;アルブミン、グロビン、アミノ酸、コレステロール、その他の脂質などのタンパク質の検出が含まれる。加えて、肝臓バイオプシーから得た各種の無機質、代謝産物、酵素についての生化学分析も、先天的、後天的、及び実験的に導き出した肝臓疾患における特定の生化学上の欠陥を研究するのに役に立つ。
【0114】
肝機能検査により、肝損傷を評価することができる。肝機能検査には、次の事項が含まれる。
【0115】
ビリルビン、インドシアニングリーン(ICG)、スルホブロモフタレイン(BSP)、胆汁酸などの有機陰イオンの肝クレアランスに関するグループIの評価と、
ガラクトースとICGのクレアランス測定による肝血流に関するグループIIの評価と、
アミノピリン吸気試験とカフェインクレアランス試験による肝ミクロソーム機能に関するグループIIIの評価。例えば、血清ビリルビンを測定することで、実質肝臓疾患に見られるような黄疸の存否と重症度を確認し、高ビリルビン血症の程度を決定する。アミノトランスフェラーゼ(トランスアミラーゼ)の上昇は活性な肝細胞障害の重症度を示す一方、アルカリホスファターゼの上昇は胆汁鬱滞と肝浸潤物について見出される(ケイ・イッセルバッハー(K. Isselbacher)とディー・ポドルスキー(D. Podolsky)共著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1301−1308、1991年)。血清酵素分析を実施する方法は当該分野で知られており、例えば、前記のコダバンチら(Kodavanti et al.)に記載されている。
【0116】
肝損傷が大きい場合、アルブミン、プロトロンビン、フィブリノーゲン、肝細胞で専ら合成される他のタンパク質の血中濃度が低くなるため、これらのタンパク質を肝臓障害の指標として測定することができる。血清酵素の測定とは対照的に、血清タンパク質のレベルは細胞障害そのものよりは、むしろ肝臓の総合的な機能を反映する(ディー・ポドルスキー(D. Podolsky)著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1308−1311、1991年)。
【0117】
多くの患者において、肝臓疾患の性状を決定するために、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波、シンチスキャン又は肝臓生検が必要である(前記のケイ・イッセルバッハー(K. Isselbacher)とエル・フリードマン(L. Friedman)とエル・ニードルマン(L. Needleman)共著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1303−1307、1991年)。
【0118】
本発明は、対象における癌の化学療法効果を向上させる方法を提供し、当該方法は、対象の肝臓を肝毒性化合物によって引き起こされる障害から保護するのに効果的な形で、化学療法の前段階又はその療法と同時に、対象に対してVEGFR調節剤を投与し、それによって化学療法に対する対象の許容度を増大させる工程を含む。化学療法時に使用される化学療法薬は、肝細胞に対して細胞毒性作用を及ぼしうるので、患者に対して投与される化学療法薬の投与量及び/又は投与期間を制限しなければならない。肝臓をVEGF、Flt−1又はKDR−selなどのVEGFRアゴニストを含有する組成物に暴露させることにより、上記毒性作用を防止又は低減することができる。しかして、化学療法薬の投与量を増加させることができるから、癌治療効果の向上が可能になる。
【0119】
「化学療法薬」とは、癌治療に有用な化学的化合物である。化学療法薬の例としては、チオテパ、シクロホスファミド(CYTOXAN(商標))などのアルキル化剤と、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファンなどのスルホン酸アルキルと、ベンゾドーパ、カルボクオン、メツレドーパ(meturedopa)、ウレドーパなどのアジリジンと、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスファオラミド、トリメチロールメラミンを含むメチルアメラミンとエチレンイミン、アセトゲニン(特に、ブラタシン、ブラタシノン)と、カンプトセシン(合成類似体トポテカンを含む)と、ブリオスタチンと、カリスタチンと、CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、ビゼレシン合成類似体を含む)と、クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1、クリプトフィシン8)と、ドラスタチンと、デュオカルマイシン(合成類似体のKW−2189、CBI−TMIを含む)と、エレウテロビンと、パンクラティスタチン(pancratistatin)と、サルコジクチン(sarcodictyin)と、スポンジスタチンと、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタードと、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素と、エネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ11、カリケアマイシンθ11、例えば、「アグニュウ・ケミストリー・インターナショナル・エデション(Agnew Chemistry, International Edition)、英語版、33、p.183−186、1994年、ダイネミシンAを含むダイネミシン、エスペラミシン、並びに、ネオカルチノスタチン発色団と関連する色素蛋白エネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、デオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、プロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメックス、チノスタチン、ゾルビシンと、メトトレキセート、5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗剤と、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレセキセートなどの葉酸類似体と、フルダルアビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体と、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、5−FUなどのピリミジン類似体と、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲンと、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗アドレナルと、フローリー酸などの葉酸補充物と、アセグラトンと、アルドホスファミドグリコシドと、アミノレブリン酸と、アムサクリンと、ベストラブシルと、ビサントレンと、エダトラキセートと、デホファミンと、デメコルシンと、ジアジクオンと、エルフォルニチン(elfornithine)と、酢酸エリプチニウムと、エポチロンと、エトグルシドと、硝酸ガリウムと、ヒドロキシ尿素と、レンチナンと、ロニダミンと、メイタンシン、アンサミトシンなどのメイタンシノイドと、ミトグアゾンと、ミトキサントロンと、モピダモールと、ニトラクリンと、ペントスタチンと、フェナメトと、ピラルビシンと、ポドフィリン酸と、2−エチルヒドラジドと、プロカルバジンと、PSK(商標)と、ラゾキサンと、リゾキシンと、シゾフィランと、スピロゲルマニウムと、テヌアゾン酸と、トリアジクオンと、2,2′,2″−トリクロロトリエチレンアミンと、トリコテセン(特に、T−2トキシン、フェラクリンA、ロリジンA、アングイジン(anguidine))と、ウレタンと、ビンデシンと、デカルバジンと、マンノムスチンと、ミトブロニトールと、ミトラクトールと、ピポブロマンと、ガシトシンと、アラビノシド(″Ara−C″)と、シクロホスファミドと、チオテパと、例えばパクリタキセル(TAXOL (商標)、Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)、ドキセタキセル(TAXOTERE (商標)、Rhone−Poulenc Rorer, Anthony, France)などのタキソイドと、クロラムブシルと、ゲムシタビンと、6−チオグアニンと、メルカプトプリンと、メトトレキセートと、シスプラチン、カルボプラチンなどの白金類似体と、ビンブラスチンと、白金と、エトポシド(VP−16)と、イフォスファミドと、ミトマイシンCと、ミトキサントロンと、ビンクリスチンと、ビノレルビンと、ナベルビンと、ノバントロンと、テニポシドと、ダウノマイシンと、アミノプテリンと、キセローダと、イバンドロネートと、CPT−11と、トポイソメラーゼ抑制剤RFS2000と、ジフルオロメチルオルニチン(DMFO)と、レチノイン酸と、カペシタバインと、上記の何れかの医薬的に許容される塩、酸又は誘導体が含まれる。ここに規定したなかには、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は抑制する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ抑制4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、トレミフェン(Fareston)を含む抗エストロゲンと、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、ゴセレリンなどの抗アンドロゲンと、上記物質の医薬的に許容される塩、酸又は誘導体も含まれる。
【0120】
医薬組成物及び治療的/予防的投与
本発明の方法によるインビボ用途のために、本発明の治療化合物は当該分野で知られ特定の用途に適した方法及び技術を使用して患者に投与される。好適な実施態様では、化合物は医薬的に許容可能な用量で医薬組成物の形態で投与される。
【0121】
一態様では、本発明は、治療用タンパク質剤(VEGF、Flt−sel、KDR−selなど)を投与するために、哺乳動物の細胞製剤を使用することを意図としている。ここで使用される哺乳動物細胞は、前段で詳述した通り、タンパク質をコード化する異種遺伝子で形質転換したものである。好ましい実施態様では、投与のために使用される宿主細胞はCHO細胞である。
【0122】
本発明の別の態様によれば、治療剤は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合により調製されるマイクロカプセル中、コロイド薬物送達系(例えば、ミクロスフェアやマイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)、又はマクロエマルジョンに封入される。そのような技術は、当該分野で知られており、ジェイ・レミントン(J. Remington)編、「ザ・サイエンス・アンド・プラクテス・ファマシー(The Science and Practice of Pharmacy)」、20版、2000年に開示されている。
【0123】
本発明の一つの局面によると、治療剤は徐放製剤によりインビボ投与され得る。徐放製剤の好適な例には、多価抗体を含む固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは成形物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態である。徐放マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸のようなポリマーは100日にわたる分子の放出を可能にするが、ある種のヒドロゲルはより短時間の間、タンパク質を放出する。カプセル化抗体は長い間体内に残るが、37℃の水分に暴露される結果、それらは変性し又は凝集する可能性があり、生物学的活性の消失及び免疫原性の変化のおそれが生じる。関与するメカニズムに応じて安定化のために合理的な方策を考案できる。例えば、凝集メカニズムがチオ-ジスルフィド交換を通しての分子間S-S結合の形成であることが発見された場合には、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分量を制御し、適切な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することにより、達成することができる。
【0124】
本発明の治療用組成物は任意の適切な手段を通して投与されるが、その手段には、限定はされないが、非経口、皮下、腹腔内、肺内、鼻腔内投与が含まれる。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下投与を含む。更に、治療用組成物は、特に抗体用量を減少させての、パルス注入によって好適に投与される。投与が短期か長期かをある程度考慮し、治療用組成物の投与は注射によるのが好ましく、静脈又は皮下注射によるのが最適である。
【0125】
更に、本発明の治療用タンパク質剤(VEGF、Flt−sel、KDR−selなど)を遺伝子療法により、対象に導入することができると考えられる。遺伝子療法とは、対象に対して核酸を投与することによって実施される治療法を指す。遺伝子療法の方法に関する概説としては、例えばゴールドスピルら(Goldspiel)著、1993年、「クリニカル・ファマシー(Clinical Pharmacy)」、12、p. 488−505、ウー(Wu)とウー(Wu)共著、1991年、「バイオセラピー(Biotherapy)」、3、p.87−95と、トルストシェブ(Tolstoshev)著、1993年、「アニュアル・レビュウ・オブ・ファマコロジー・トキシコロジー(Annual Review of Pharmacology, Toxicology)」、32、p. 573−596と、ムリガン(Mulligan)著、1993年、「サイエンス(Science)」、260、p. 926−932と、モルガン(Morgan)とアンダーソン(Anderson)共著、1993年、「アニュアル・レビュウ・オブ・バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」、62、p. 191−217と、メイ(May)著、1993年、「チブテク(TIBTECH)」、11、p. 155−215を参照のこと。使用可能な組換えDNA技術の当該分野で一般に知られている方法は、オースベルら(Ausubel et al.)編、1993年、「カレント・プロトコル・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocol in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons NY出版と、クリーグラー(Kriegler)著、1990年、「ジーン・トランスファー・アンド・エクスプレション・ラボラトリー・マニュアル(Gene Tranfer and Expression, A Laboratory Manual)」、Stockton Press NY出版に記載されている。
【0126】
対象の細胞中に核酸(場合によってはベクターに含まれる)を導入する二つの主要なアプローチ法がある;インビボとエキソビボである。インビボ送達では、核酸は、対象の、通常はタンパク質が必要とされている部位に、直接注射される。エキソビボ治療では、対象の細胞が除去され、これらの単離された細胞中に核酸が導入され、改変された細胞が対象に直接的に投与されるか、又は例えば対象に移植される多孔性膜内に封入される(例えば米国特許第4892538号及び第5283187号を参照)。生存細胞中に核酸を導入するために利用できる様々な技術が存在する。その技術は、核酸がエキソビボで培養された細胞中に移されるか、又は意図された宿主の細胞にインビボで移されるかどうかに応じて変わる。エキソビボでの哺乳動物細胞中への核酸の移動に好適な方法には、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法等々の使用が含まれる。遺伝子のエキソビボ送達のために一般的に使用されるベクターはレトロウイルスである。
【0127】
現在好ましいインビボ核酸トランスファー法には、脂質ベース系(遺伝子の脂質媒介トランスファーのために有用な脂質は例えばDOTMA、DOPE及びDC−Cholである)及びウイルスベクター(例えばアデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、又はアデノ随伴ウイルス)での形質移入が含まれる。遺伝子療法におけるウイルスベクターの使用例は、クロウスら(Clowes et al.)著、1994年、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスチゲーション(Journal of Clinical Investigations)」、93、p. 644−651と、キームら(Kiem et al.)著、1994年、「ブラッド(Blood)」、83、p.1467−1473と、サーモンズ(Salmons)とグンズバーグ(Gunzberg)共著、1993年、「ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)」、4、p. 129−141と、グロスマン(Grossman)とウイルソン(Wilson)1993年、「カレント・オピニオンズ・イン・ジェネティックス・デベッロプメンンツ(Current Opinions of Genetics Developments)」、3、p. 110−114と、ボウトら(Boutet al.)著、1994年、「ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)」、5、p. 3−10と、ロゼンフェルドら(Rosenfeld etal.)著、1991年、「サイエンス(Science)」、252、p. 431−434、ローゼンフェルドら(Rosenfeld et al.)著、1992年、「セル(Cell)」68:p143−155;マストランゲリら(Mastrangeli et al.)著、1993年、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスチゲーション」Journal of Clinical Investigations)」、91,p. 225−234と、ワルシュら(Walsh et al.)著、1993年、「プロシーデングス・オブ・ソサエテー・オブ・エックスペリメンタル・バイオロジカル・メディスン(Proceedings of Society of Experimental Biological Medicine)」、204、p. 289−300に見出すことができる。
【0128】
ある状況では、標的細胞上の細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターのためのリガンド等々のような、標的細胞を標的とする薬剤を核酸源に提供することが望ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、例えばキャプシドタンパク質又は特定の細胞タイプに対して向性のあるその断片、循環中にインターナリゼーションを受けるタンパク質及び細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を増大させるタンパク質のための抗体を標的とし、及び/又はその取り込みを容易にするために使用することができる。レセプター媒介エンドサイトーシスの方法は例えばウーら(Wu et al.)著、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」、262、p. 4429−4432、1987年と、ワグナーら(Wagner et al.)著、「プロシーデングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science,USA)」、87、p. 3410−3414、1990年に記載されている。既知の遺伝子マーキングや遺伝子療法のプロトコルの概説については、アンダーソンら(Anderson et al.)著、「サイエンス(Science)」、250、p. 808−813、1992年を参照できる。
【0129】
更に、本発明は医薬用組成物を提供する。そのような組成物は、治療的に有効な量のVEGFR調節剤と、医薬的に許容された担体とを含む。特定の実施態様では、「医薬的に許容可能」という用語は、動物、より詳細にはヒトへの使用について、連邦又は州政府の規制機関によって承認されるか、アメリカ合衆国薬局方又は他の一般的に認められた薬局方に掲載されることを意味する。「担体」という用語はそれと共に治療剤が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを意味する。このような医薬担体は、滅菌液、例えば限定しないがピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等を含む、石油系、動物、植物又は合成由来のものを含む油及び水でありうる。水は医薬組成物が経口投与される場合の好適な担体である。生理食塩水及び水性デキストロースは医薬組成物が静脈内投与される場合の好適な担体である。生理食塩水溶液及び水性デキストロース及びグリセロール溶液は、好適には注射可能な溶液のための液体担体として用いられる。好適な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、粉乳(chalk)、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等々が含まれる。組成物は、所望されるならば、少量の湿潤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含みうる。これらの組成物は溶液懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放製剤等々の形態をとりうる。組成物は、伝統的なバインダーとトリグリセリドのような担体を用いて座薬として処方できる。経口製剤は、標準的な担体、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等々を含みうる。適切な医薬担体の例は、マーチン(E. W. Martin)著、「レミントンズ・ファーマセテュカル・サイエンセス(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。そのような組成物は、好ましくは精製形態の治療的有効量の治療剤を、患者への適切な投与のための形態となるように好適な量の担体と共に含む。製剤は投与態様に適応しなければならない。
【0130】
好ましい実施態様では、組成物は、常套的な手法により、人体に静脈投与するための医薬組成物として処方される。一般に、静脈投与用組成物は、滅菌した等張水性緩衝液の溶液である。必要ならば、組成物に可溶化剤と、注射部位の痛みを和らげるために、リグノカインなどの局部麻酔剤を加えてもよい。通常、成分は個別に、あるいは、投薬単位形態として混合された状態で、例えば、凍結乾燥粉末又は無水濃縮物をアンプルなどの密封容器、又は活性剤の数量を示した袋物などに収めた状態で供給される。注入による投与の場合、組成物は、医薬品等級の無菌水又は生理食塩水を入れた注入瓶を使用して分配される。組成物が注射により投与される場合は、注射用無菌水又は生理食塩水入りアンプルが提供され、投与前に成分を混合する。
【0131】
本発明の治療剤は中性又は塩形態として処方することができる。医薬的に許容可能な塩には、遊離のカルボキシル基で形成されたもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等々から誘導されたもの、遊離のアミン基で形成されたもの、例えばイソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等々から誘導されたもの、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、及び水酸化第二鉄等々から誘導されるものが含まれる。特定の疾患又は症状の治療に効果的である本発明の治療剤の量は疾患又は症状の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定することができる。また、インビトロアッセイ法を場合によっては用いて、最適な用量範囲を特定するのに役立てることができる。製剤に用いられる正確な用量はまた投与経路、及び疾病又は疾患の重篤度に依存し、 実務者の判断及び各患者の環境に従って決定されなければならない。しかしながら、静脈内投与のための好適な用量範囲は一般には1キログラム体重当たり約20−500マイクログラムの活性化合物である。鼻腔内投与のための好適な用量範囲は一般には約0.01pg/kg体重からImg/kg体重である。効果的な用量はインビトロ又は動物モデル試験系から得られた用量応答曲線から外挿することができる。座薬は一般には0.5重量%から10重量%の範囲の活性成分を含み、経口製剤は好ましくは10%から95%の活性剤を含む。
【0132】
本発明はまた本発明の医薬組成物の一又は複数の成分が満たされた一又は複数の容器を含んでなる医薬パック又はキットを提供する。場合によってそのような容器に付随させることができるものは、医薬又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって指示された形態の注意書きで、ヒトへの投与のために製造し、使用し、又は販売することに対する機関の承認を反映する注意書きである。
【0133】
下記の実施例は、本発明の実施を例示したもので、限定を意図とするものではない。本明細書中で引用した全ての特許明細書並びに科学技術文献による開示を、出典明示により全体を明示的に取り込む。
【実施例】
【0134】
実施例1:VEGFのVEGFR選択的変異体
特定のVEGFレセプター(KDR又はFlt−1など)に選択的に結合して、それを活性化するVEGF変異体の生成と特徴付けは、当該分野で既知であり、例えばLi et al.,(2000), Journal of Biological Chemistry,275:29823と、Gille et al.,(2001),Journal of Biological Chemistry 276:3222−3230と、PCT公報第WO00/63380号とPCT公報第WO97/08313号と米国特許第6057428号に記載されており、その開示内容は、本明細書に出典明示によりここに取り込む。
【0135】
具体的には、Flt−1レセプターに対して高い選択性を有するVEGF変異体は、KDRに大きな影響を及ぼすが、Flt−1との結合には影響を及ぼさない4つの突然変異を組み合わせて生成した。Ile43、Ile46、Gln79、Ile83のアラニンへの突然変異は、これらの残基の側鎖がKDRに緊密に結合するのに重要であるが、Flt−1結合には重要でないことが判明した。前記のLi et al.,(2000)。Flt−sel変異体を、Kunkel et al.(1991),Methods Enzymology,204:125−139に記載の部位特異的突然変異誘発法を使用して、Ile43、Ile46、Gln79、Ile83の位置にアラニン置換を有するように構築した。この特定のFlt−sel変異体は、I43A/I46A/Q79A/I83Aの標示でも表すことができる。43、46、79、83の位置でのこれら4つのアラニン置換に対応するコドンはそれぞれGCC/GCC/GCG/GCCである。
【0136】
様々なアッセイを行い、I43A/I46A/Q79A/I83AのFlt−sel変異体の性質と生物学活性を調べた。前記のLi et al.,(2000)。例えば、可溶性放射免疫レセプター結合測定法(RIA)を使用し、定量的結合アッセイを行った。このアッセイにおいて、天然VEGF(8−109)は、KDRとFlt−1に対してそれぞれ0.5nMと0.4nMの親和性を有していた。このアッセイで、Flt−selの親和性は、KDR結合親和性より少なくとも470倍も低いことが分かった。多少の驚きは、ELISAでの個別の点突然変異から、Flt−1結合における低下が少ないことが認められたので、Flt−1に対するFlt−sel変異体の親和性は天然タンパク質の親和性と本質的に同じであったことである。
【0137】
実施例2:肝成長の促進
方法と材料
ヒトVEGF165をコード化する完全長cDNA(Leung et al.(1989),Science,246:1306−9)を、バイシストロン性ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)イントロン発現ベクターSV.DI(Lucas et al.(1996),Nucleic Acids Researches,24:1774−9)に挿入し、SV.DI.VEGF165.H8のコンストラクトを得た。挿入物としてハカタ抗原(HAg)をコード化するcDNAを使用して、対照コンストラクトSV.DI.HAg.H8を同様にして構築した。HAgは、全身性狼蒼紅斑患者における自己抗原として最近になって判明した血清糖タンパク質である。Sugimotoetal.(1998),Journal of Biological Chemistry,273:20721−7。このタンパク質は、Tie−2レセプターと相互作用を起こすことはないが、アンジオポエチンファミリーと構造的な相同性を有している。
【0138】
上記のいずれかのコンストラクトを使用して、バイシストロン性mRNAを、SV40初期遺伝子プロモーターで制御しながら転写させ、DHFRと対象の挿入遺伝子の双方をコード化し、それにより、双方を一定の等モル比で発現させた。また、両方のオープンリーディングフレームを、8つのヒスチジン残基からなる短いカルボキシル末端ペプチドタグをコード化するDNA配列と融合させ、検出と精製を簡便に行うことができるようにした。直鎖状にした発現プラスミドSV.DI.VEGF165.H8と、SV.DI.HAg.H8と、空きベクターSV.DI.H8を、DHFR―CHO細胞中に電気穿孔させた。形質移入を行う前に、これらの細胞を、高濃度のアミノ酸、10%FBS補充インスリン、L−グルタミン(2mM)、グリシン(10μg/ml)、ヒドロキサンチン(15μg/ml)、チミジン(5μg/ml)(GHT)を含んだF12/DMEM主体の媒体からなる増殖培地中で増殖させた。安定に形質移入させたDHFR+CHO細胞のプールを導き出し、GHTを含まず栄養分の培地中に選択的に保持させた(Lucas et al.(1996),Nucleic Acids Researches,24:1774−9)。VEGF165を形質移入したCHO細胞(CHO−VEGF165)によるVEGF165タンパク質の発現を、免疫ブロット法とELISAにより確認した。VEGF165モノマーの期待分子量に相当する〜23kDaバンドを、CHO−VEGF165細胞の馴化培地から免疫沈降させた。このバンドは、CHO−DHFR対照細胞の培養上澄液中には存在しなかった。
【0139】
CHO−HGF細胞を生成するために、HGFをコード化する完全長cDNAを、過去に記載された通りにして(Zioncheck et al.(1955),Journal of Biological Chemistry,270:16871−8)、pRK5発現ベクター中に挿入し、CHO細胞中に形質移入させた。HGFは、肝細胞のための重要な分裂促進因子であって、プラスミノーゲンと配列類似性を有する。Nakamura et al.(1987),FEBS Letters,224:311−6。HGFを、短鎖82−84kDaプロマイトジェンとして分泌させる。そのプロマイトジェンは内部タンパク質分解的な処理により、69kDaのα鎖と32kDaのβ鎖からなる生物活性ヘテロ二量体とされる。Nakamura et al.(1987),FEBS Letters,224:311−6。69kDaのHGFα鎖と分子量の点で一致したバンドを、CHO−DHFR対照中ではなく、CHO−HGF細胞の馴化培地中で検出できた。対照コンストラクトSV.DI.HAg.H8を使用したところ、安定に形質移入された別のCHO細胞プールも生成できた。そのプールは、HAgを多量に分泌するものである。還元条件下で、HAgモノマーは〜32kDaバンドとして、CHO−HAg馴化培地中で検出された。
【0140】
VEGF−PLGAミクロスフェアを、VEGFの徐放製剤として使用した。VEGF−PLGAは、VEGF165タンパク質を生物分解性のポリ(乳酸・グリコール酸)ポリマー(J. Cleland and A. Daugherty,Genentechにより提供)中にカプセル化することで生成した。そのミクロスフェアに含有の約10%のVEGFタンパク質が、循環中に放出された。
【0141】
未成体(3〜4週齢)又は成体胸腺欠損ベージュのヌードxidマウス(Hsd:NIHS-bg-nu-xid, Harlan Sprague Dawley(Indianapolis, IN))を、イソフルオラン吸気により麻酔させた。5匹のマウスで、1つのグループを構成した。完全培養培地中で安定に形質移入された又は対照のCHO細胞の懸濁液を、各動物の両脚に筋肉内注射した。約3×106の細胞を含む全容量100μlの懸濁液を、各脚部の前大腿部筋肉の3つの異なった部位に注射した。注入14日目に、マウスを屠殺し、血清試料を単離して分析した。
【0142】
VEGF−PLGA処理動物には、各脚部にPLGA−VEGFミクロスフェア100μlを1、7、10日目に合計で3回の筋肉内注射を施した。各注射当り、放出されたVEGFの用量は約4.5mg/kgであった。VEGF−PLGA注入後15日目に、動物を屠殺した。屠殺1時間前に、100mg/kgのブロモデオキシウリジン(BrdU)(Sigma,St.Louis,MO))を腹腔内注射した。肝臓、腎臓、心臓、脚部、脳を取り出し、秤量した。収集した組織を、組織学評価の目的でホルマリンに浸漬した。
【0143】
増殖を検討するために、動物を屠殺する1時間前に、BrdU(100mg/kg)を注射した。パラフィン包理前、組織を10%中性緩衝ホルマリン中に12〜16時間固定した。過去に記載されたようにして、BrdU免疫組織化学測定を行った。Gerber et al.(1999)。F4/80(Serotec,Raleigh,NC)に対するモノクローナルラット抗マウス抗体を、10μg/ml(1:1000希釈)の量で5μmのパラフィン包理肝臓切片上に使用した。4℃で一晩、インキュベーションを行った。この抗体は、マウスマクロファージにより発現された160kD糖タンパク質を認識する。Leenen et al.(1994), Journal of Immunological Methods,174:5−19。この抗原は、リンパ球又は多形球細胞によっては発現されない。特異性を証明するために、負の対照としてマウスIgG2B(Pharmingen,San Diego,CA)を使用した。二次抗体として、ビオチン化ウサギ抗ラットIgGを使用した。その抗体を、Vectastain Elite ABC試薬(Vector Labs,Burlingame,CA)を使用し、次に金属強化DAB(Pierce,Rockford,IL)を使用して検出した。この切片を、マイヤーのヘマトキシリンを使用して対比染色させた。
【0144】
CHO細胞が筋肉内注射されたヌードマウスに、100μlのネンブタール(Abbott Laboratories,Chicago,IL)を腹腔内注射し、10mlの灌流緩衝液(NaCl 142mM、KCl 6.7mM、HEPES 10mM)で灌流した。動物を解剖した後、肝臓を取り出して細かく切り刻んだ。50μg/mlのLiberase RH(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)を補填した消化緩衝液(67mM NaCL、6.7mM KCl、HEPES 100mM、CaCl2 5mM)中で、組織片のコラゲナーゼ消化を37℃で30分間行った。消化肝臓懸濁液を70μm細胞ストレーナー(Falcon,Bedford,MA)に通過させた後、単一細胞の懸濁液を得た。BrdU染色後、製造メーカー(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)の推奨に従い、インサイツ細胞増殖キットを使用した。要するに、細胞を洗浄し、エタノールで固定し、DNAをHCl処理により変性させた。DNA組み込みBrdUを、抗BrdU−FLUOS抗体(抗BrdU−F(ab′)2−FITC結合物)で染色して検出した。フローサイトメトリーのために、光輝の自己蛍光単球細胞を、前方/側面分散ゲイテングにより分析から除外した。10,000ゲイトの細胞が得られ、Becton Dickinson(San Jose,CA)のFACS Calilburフローサイトメトリーを使用して分析した。
【0145】
マウス血清試料中で組換えヒトVEGFを検出するために、過去に記載されたようにして、蛍光定量抗VEGF酵素結合免疫吸着測定(ELISA)を行った。Rodriguez et al.(1998),Journal of Immunological Methods,219:45−55。マウス血清の存在下での、測定感度の限度は200pg/mlであった。この測定法はヒトVEGFに対して特異的であって、マウスVEGFと交差反応を起こさない。
【0146】
組換えヒトHGFを検出するために、過去に記載されたELISA(Koch et al.(1996),Arthr.Rheum.,39:1566−75)に多少の変更を加えて使用した。簡単に述べると、抗ヒトHGFモノクローナル抗体を使用して、96ウェルマイクロタイタープレートを被覆した。室温で1時間インキュベーション後、ウェルを洗浄し、血清試料の連続希釈液を添加した。rHGFを、参照標準として使用した。2時間インキュベーションし、洗浄した後、ビオチン化ヒツジ抗HGFを加えて1時間インキュベーションした。洗浄後、西洋わさびペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Amdex)を加え、30分間のインキュベーションを行った。洗浄後、基質溶液であるテトラメチルベンジジン(Sigma)を添加した。マイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices)を用いて、650nmを減算ブランクにした状態で450nmでプレートを読み取った。4−パラメーター曲線適合プログラムを使用して、標準曲線を作成し、標準曲線範囲での補間を介し、試料濃度を引き出した。
【0147】
動物全体に対して、殺処分する1時間前に、BrdU(100mg/kg)を注射した。パラフィン包理に先立ち、組織を、中性緩衝化した10%ホルマリン中で12〜16時間固定した。Flt−1を発現させるためのH&E染色と免疫組織化学測定を、過去に記載されたようにして行った(Gerber et al.(1999))。手短に言えば、Trilogy抗原回収溶液(Cell Marque,Austin,TX)を使用して、組織切片を99℃で1時間予備処理し、ついでラット抗マウスFlk−1(mAb MALK−1,Genentech)の3.9mg/mlで4℃で一晩培養した。Vectastain Elite ABCキット(Vector Laboratories,Burlingame,CA)と、原色体としてジアミノベンジジンとを使用し、アビジン−ビオチン錯体により、免疫反応性を可視化した。対比染色剤として、ヘマトキシリンを使用した。過去に記載された通りにして、BrdU免疫組織化学測定を行った(Gerber et al.(1999))。
【0148】
結果
CHO−VEGF細胞の移植がインビボ肝成長を誘引する
マウスでのVEGFタンパク質の持続レベルの効果を検討するために、CHO−VEGF細胞を3〜4週齢、6〜8週齢、12〜14週齢のベージュのヌードマウスの両脚部に筋肉内注射した。対照動物に、同数のCHO−DHFR細胞、CHO−HAg細胞、又はCHO−HGF細胞を注射した。2週間後の、CHO−VEGF動物体内でのヒトVEGFの血清濃度は3.3±1.7ng/ml(0.8〜5.4ng/mlの範囲)であった。hVEGFは、CHO−DHFRやCHO−HAgの対照動物での血清中では検出不可能であった。CHO−HGF動物について、血清中でのHGFのレベルは1.25±0.87ng/ml(0.50〜2.00の範囲)であった。
【0149】
図1A〜1Dに示したように、CHO−VEGFのグループにおいて、実質的に増大した肝臓サイズが認められた。2つの週齢グループで、酷似した結果が得られた。従って、3〜4週齢のグループで得たデータのみを示した。処理グル−プでの脳重量は不変であったので(図1D)、他の器官重量を脳重量基準で標準化した。CHO−VEGFグループ(4.73±0.39)での肝臓/脳の比、つまり、相対肝質量は、CHO−DHFR(3.18±0.25、p<0.0001)の対照、並びに、CHO−HAg(3.00±0.45、p<0.0001)の対照(図1A、B)と比べて極めて大幅に増加した。この結果により、相対肝質量がそれぞれ49、59%増加することが示された。CHO−VEGFグループでの心臓/脳の比も大幅に増加した(0.376±0.052:CHO−DHFRの0.304±0.022と、CHO−HAgの0.304±0.017と対比して。即ち、CHO−VEGF対CHO−DHFRはp<0.05である)。同様にして、腎臓/脳の比も大幅に増大した(0.976±0.071:CHO−DHFRグループの0.860±0.070、p<0.05と、CHO−HAgグループの0.822±0.097、p<0.02と対比して)(図1C)。しかし、これらの効果は、肝寸法の増大と比べればさほど顕著とは言えなかった。VEGF処理動物での絶対肝質量と相対肝質量の極めて大幅な増加は、5通りの独立した実験で首尾一貫して観察された。これらの各種の実験の中で、CHO−VEGFグループでの相対肝質量は、CHO−DHFRグループと比べて30〜69%増加した。肝質量の更なる増加は、CHO−VEGF細胞移植後の3週間目に認められた。しかし、この場合、苦痛の兆候や死亡を伴うことが多かった。興味を惹いた点は、CHO−HGFグループでは感知できるほどの肝成長効果が認められなかったことである(図1B)。
【0150】
徐放製剤中のVEGFもまた肝成長を促進する
上記の効果は、徐放製剤とした高精製ヒト組換えVEGF165タンパク質の注射によって再現された。マウスの足にVEGF−PLGAミクロスフェアを、1日目,7日目,および10日目に筋肉内注射した。放出型VEGFタンパク質の投与量は、約4.5mg/kg/個体であった。CHO−VEGF処理したマウスで認められたように、VEGF−PLGAを注射されたマウスにおける肝/脳の比(4.057±0.274,n=3)は、対照群(3.396±0.302,n=4)に比べ、有意(p<0.05)に増大した(図1E)。ここで認められた肝成長の増強は、CHO−VEGF細胞移植において得られたものほど顕著なものではなかった。しかしながら、VEGF−PLGA処置した動物の血清中のヒトVEGF濃度は、屠殺時において、200pg/mlであった。この知見から、精製した組換えVEGFも肝成長を促進しうることが示された。
【0151】
全身性VEGFは肝臓中に多数の分裂細胞を出現させる
CHO−VEGF注射を施した動物の肝臓の標準組織分析を行ったところ、BrdU免疫組織化学分析において認められたものと同様に、多数の肝細胞が有糸分裂像を示したことが判明した。有糸分裂活動は、CHO−VEGF処置した肝臓の、実質細胞および非実質細胞の両方で認められた。CHO−DHFR対照群の動物の肝臓においては、ただ1つの有糸分裂肝細胞が、合計10箇所の高倍率(40倍)顕微鏡検査によって、5個体中1個体にのみ認められただけであった。それに対し、CHO−VEGF群においては、100%の肝臓で、10箇所の高倍率鏡検あたり少なくとも5個(5〜11個の範囲)の有糸分裂像が認められた。さらに、増殖中の肝細胞の区画は、BrdU注射したCHO−VEGFマウスから単離した肝細胞をFACS分析によって定量したところ、6.44±0.96%を占めた(CHO−DHFRでは1.02±0.74%,およびCHO−HGFでは1.55±1.48%)。
【0152】
VEGFは、血管透過性を亢進しうることが判っている〔ドボラクら(Dvorak et. al.)著、1995年、「アメリカン ジャーナルオブ パソロジー(Am.J.Pahol)」、146、p.1029−39〕ので、肝臓の大きさが増大したのは、幾分かは、体液が鬱滞した結果として肝細胞が膨張したことによるものである可能性が存在する。しかしながら、肝細胞の面密度の分析結果からはCHO−DHFR群とCHO−VEGF群との間に全く相違は認められなかったので、その増大効果は、全て肝細胞の有糸分裂に帰するものであることが示された。
【0153】
VEGFへの曝露後の肝臓における類洞内皮細胞のより複雑な分岐
肝細胞の有糸分裂活動の亢進、類洞細胞の過形成、および骨髄外造血活性の亢進が、CHO−VEGF細胞を注入した全ての動物において認められた。しかしながら、血管腫の形跡や他の異常な血管増殖が認められた例は無かった。CHO−DHFR、CHO−HAgおよびCHO−HGFが注入された動物の肝臓は、正常範囲内であった。末端肝細静脈の回りのFlk−1を調べる免疫組織化学分析では、CHO−DHFR動物の肝臓において、類洞内皮についても非類洞内皮細胞についても正常な染色パターンが得られた。CHO−VEGF動物の肝臓においては、類洞は、より複雑な分岐構造を有しているようであり、内皮染色において著明な増幅が認められた。
【0154】
実施例3:肝細胞の有糸分裂の刺激
方法
過去に記載された手法により、肝臓の逆方向潅流を施したヌードマウスから、肝細胞を分離した。ハーマンら(Harman et al.)著、1987年、「ジャーナル オブ ファーマコロジカル メソッズ(J.Phamacol.Methods)」、17、p.157−63。下大静脈に、22ゲージのアボカテTカテーテル〔アボット ラボ(Abbott Lab)社製〕を挿入し、門脈を切断した。肝臓をインサイツにて、0.1%コラゲナーゼ、2mMCaCl2を含むPBS溶液を用いて、3ml/分の流速で、10〜15分間潅流した。肝細胞は、24ウェルプレートに、10%の熱不活化したウシ胎児血清(GIBCO BRL社製),1μg/mlのインシュリン,10μg/mlのトランスフェリン,1μg/mlのアプロチニン(Sigma社製),2mMのl−グルタミン,100U/mlペニシリン,および100μg/mlのストレプトマイシンを補填したウィリアムのE培養液(GIBCO BRL社製)中で、5×104個/ウェルの密度となるように播種し、一晩吸着させた。次に、培養液を注意深く各ウェルから除去し、成長因子(ネズミEGF,ネズミHGF,組換えヒトVEGF,ネズミPlGF,VEGF−E,KDRselもしくはFltsel)を含有する培養液を加えた。24時間インキュベーションした後、細胞を1μCi/ウェルのメチル−3H−チミジン(47Ci/mmol,Amersham Pharmacia Biotech社製)でパルスし、一晩インキュベーションした。翌日、プレートは、冷却PBS中でリンスし、続いて15分間冷却10%TCAでインキュベーションして回収した。次に、ウェルを水で洗い流し、200μlの0.2N NaOH溶液を加えた。それから、これをシンチレーション液に加え、Beckman社製液体シンチレーションシステムによって分析した。
【0155】
トランスウェル培養物を得るために、予め0.002%フィブロネクチン溶液(F1141,Sigma社製)でコートした24ウェルプレートに孔径0.4μmポリエステルメンブレン(Costar社製)を置き、5×104の肝細胞を上室に、1×105LSECを下室に播種し、細胞を一晩吸着させた。培養液を除去し、成長因子を、0.2%FCSおよび0.1%BSAで補填したCSC培養液(Cell Systems社製)と共に加えた。24時間インキュベーションした後、細胞を1μCi/ウェルのメチル−3H−チミジンでパルスし、一晩インキュベーションした。結合にあずかったものの計数は、上述の方法で行った。
【0156】
類洞内皮細胞は、ヌードマウスもしくはC57Bl6マウスから分離した。上述した逆方向灌流を施した後、肝臓を取り出し、細分化し、2度の低速遠心分離を行って実質細胞の含量を低減させた。残った非実質細胞は、ビオチンを結合させた内皮細胞特異性抗CD31抗体(Pharmingen社製 MEC13.3)の2mM EDTAおよび0.5%BSAを含むPBS溶液で、氷上にて5〜10分間インキュベーションし、洗浄した後、25μlのストレプトアビジンを結合させたマグネティックマイクロビーズ液(Milteny biotech社製)と共にインキュベーションした。それから、ストレプトアビジン修飾された内皮細胞を、LS+/VS+カラムに供し、Variro MACS分離装置(Milteny biotech社製)で磁場を印加することにより回収した。細胞を洗浄した後、カラムを磁場から取り出すことにより溶離した。内皮細胞の同定と純度測定は、CD31,CD34(Pharmingen社製)およびFlk−1(Genentech社製)についてのFACS分析、およびDiI標識したAc−LDL(Biomedical Technologies Inc.,社製,Stoughton,MA)の取り込みの計測により行った。精製した内皮細胞は、予め0.002%フィブロネクチン溶液でコートされ、血清と成長因子(Cell Systems社製)を含み、さらに5ng/mlの組換えヒトVEGFを加えてあるCSC培養液を入れた、6ウェルプレートおよび24ウェルプレートにプレーティングした。
【0157】
初代培養LSECの継代物1を6ウェルプレート中に1×106/ウェルの密度でプレーティングした。一晩インキュベーションした後、細胞を、0.2%FCS,0.1%BSAを含むCSC培養液中に12から18時間置いて飢餓状態とした。培養液を、0.1%BSAを含むCSC培養液に交換して90分置き、それから因子(20ng/ml)を加えて5分間インキュベーションした。試料を素早く冷却PBSですすぎ、プロテアーゼインヒビター混合物(Roche社製 MB1836145)およびホスファターゼインヒビター混合液(Sigma社製)を含む0.8mlRIPA緩衝液(150mm NaCl,1%Nonidet P−40,0.5%オルトバナジン酸ナトリウム,50mM Tris pH8.0)に溶解した。抗ホスホERK抗血清は、Cell Signaling Technology社より購入し、汎ERK抗血清は、Signal Transduction Laboratoriesから購入した。
【0158】
結果
VEGFは肝細胞の分裂促進因子ではない
VEGFは、その標的選択性が血管内皮細胞に強く限定される分裂促進因子として特徴づけられてきた〔コンら(Conn et al.)、1990年、フェラーラとヘンツェル(Ferrara and Henzel)、1989年、プロウエトら(Plouet et al.)1989年〕。しかしながら、最近の研究では、VEGFの有糸分裂作用はある種の非内皮細胞にも認められることが報告されており、そのような細胞には、網膜色素細胞や〔グエリンら(Guerrin et al.)、1995年〕シュワン細胞〔ソンデルら(Sondell et al.)、1999年〕が含まれる。従って、VEGFが肝細胞に何らかの直接的な分裂促進的作用を有するかどうかを試験することは重要であった。図2Aに示す通り、新鮮な単離マウス肝細胞においては、VEGFを広範な濃度範囲について検査したが、何ら3H−チミジンの取り込み増強を誘導することはなかった。同様に、VEGFR選択的VEGF変異体であるFltselおよびKDRselや、天然のVEGFR選択的アゴニストPlGF(VEGFR−1に作用)及びVEGF−E(VEGFR−2に作用)は、いずれも肝細胞の増殖を誘発しなかった。これに対して、HGFは、用量依存性の刺激を誘発し、〜50ng/mlで最大の増強を示した。EGFも、10ng/mlの濃度での試験において、3H−チミジン取り込みの有意な増強を誘発した。このことは、インサイツでのリガンド結合の研究結果と合致しており、それらの研究では、肝臓部においては、VEGF結合部位は、肝細胞ではなく内皮細胞に局在していることが示されている。ジェイクマンら(Jakeman et al.)著、1992年、「ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(J.Clin.Invest.)」、89、p.244。従って、VEGFの肝細胞増殖促進作用は、内皮細胞由来のパラ分泌メディエータ活性を必要としている。
【0159】
肝細胞と類洞内皮細胞の共培養
肝細胞の有糸分裂の分子メカニズムをさらに探究するために、肝細胞および類洞内皮細胞(LSEC)の初代培養を、単離で、もしくはトランスウェル方式による共培養系で確立させた。
【0160】
単離及びトランスウェル共培養の両方において、VEGF,KDRselおよびVEGF−Eは、初代培養LSEC培養物に対して、2−2.4倍に増強された3H−チミジン取り込みを誘導し(図2Bおよび2C)、また、リン酸特異的抗体を用いた測定によれば、ERK1/2リン酸化の強い活性化も誘導していた(図3上)。これに対して、FltselやPlGFでは、LSEC増殖においても(図2Bおよび2C)ERK1/2リン酸化反応(図3上)においても、陰性対照との差異は認められなかった。HGFは、LSEC増殖に殆ど影響を及ぼさなかった(図2B)。このことは、HGFがLSECのような非実質細胞と比べて肝細胞に対してより分裂促進能力を持つ〔パティンら(Patijn et al.)、1998年、「ヘパトール(Hepatol.)」28:p707−16〕一方、別の生物学的状況ではHGFは強い効力を有する内皮細胞の分裂促進因子である〔ローゼンとゴールドベルグ(Rosen and Goldberg)著、1997年、ローゼン(Rosen),E、ゴールドベルグ(Goldberg),ID編、Springer出版社 p.193−208〕ことを示すこれまでの研究と合致する。
【0161】
しかしながら、トランスウェル培養においては、wt−VEGF,Fltsel,もしくはPlGFは、組換えmHGFによって誘導されたものと同等の肝細胞増殖を示した(図2D)。これらの分子は、肝細胞に対する直接的な分裂促進作用を持たない(図2A)ため、これらの知見は、それらのリガンドに反応してLSECが刺激されてパラ分泌因子を放出することを示している。KDRselもVEGF−Eも何ら有意な肝細胞刺激作用を示さなかったことから、VEGFR−2活性化は、少なくともLSECにおいては、そのようなパラ分泌効果を誘導するのには効率的ではないものと思われる(図2D)。
【0162】
HGFは、肝細胞に対する重要な分裂促進因子であり、初めの実験においては、CHO−VEGFを移植したマウスの類洞内皮細胞でのインサイツハイブリダイゼーションにおいて、対照に比し、HGFmRNA発現を強力に上方制御することが認められた。このことから、HGFがVEGF効果に対するパラ分泌メディエータである可能性を持つかどうか、LSEC−肝細胞共培養物において試験した。50μg/mlの濃度で50ng/mlの組換えマウスHGFの活性を〜50%中和する能力を有する、ヒトHGFに対して産生させたポリクローナル抗体は、共培養物において、その添加により、VEGF,Fltsel,もしくはPlGFが誘導した3H−チミジン取り込みを有意に阻害した(それぞれ30±2%,29±2.4%,および30±1.3%)。このように完全な阻害ではなかったのは、HGF中和が部分的だったことだけではなく、LSECによって産生された付加的なパラ分泌因子が存在したことを反映しているものと思われる。
【0163】
実施例4:向肝性因遺伝子の差次的誘導
過去に記載されたようにおそらくパラ分泌作用に寄与している内皮細胞内で誘発される因子をさらに特定するために、多くのサイトカインやレセプターについて、RNA転写レベルを、初代培養LSECを用いて調べた。集密の初代内皮細胞培養物を、トリプシン処理して解離し、6ウェルプレートに、2.5%FBSを含み成長因子を含まないCSC培養液中に2×106個/ウェルの密度となるように播種した。10−12時間後、培養液を交換し、細胞を24時間、rhVEGF,KDRsel,Fltsel,mPlGFおよびVEGF−Eをそれぞれ10ng/mlの濃度で含む組換え因子を加えてインキュベーションした。細胞を、氷冷PBSで2度洗浄し、RNeasyキット(Qiagen社製)を用い、製造会社の使用説明書に準拠して、全RNAを分離した。1反応当り50ngの全RNAをPerkin−Elmer社のRT−PCRキットを用い、製造会社(PE Applied Biosystems,Foster City,CA)の使用説明書に則って分析した。反応は、96ウェルプレートを用い、モデル7700シークエンス検出器(PE Applied Biosystems社製)において実行し、反応生成物を、シークエンス検出ソフト(PE Applied Biosystems社製)を用いて分析した。RT−PCRの条件は、48℃30分,95℃10分と、95℃30秒と58℃90秒を40サイクルであった。データは、GAPDHレベルについて標準化し、全肝RNAを全ての検量線を得るために用いた。各試料につき2重に分析を行い、実験は、遺伝子のフルセットついては2回、HGFについては5回行った。
【0164】
用いたプライマーおよびプローブは以下の通りである:
表2
【0165】
図4は、VEGFもしくはVEGFR選択的アゴニストによる向肝性遺伝子の差次的な誘導を示す。分析に供した中で、可能性のある遺伝子標的のパネルは、HGF,ヘパリン結合EGF(HB−EGF),IL−6,結合組織成長因子(CTGF),TGFα,TGFβ,aFGF,bFGF,PlGF,Flt−1,Flk−1,およびc−Metであった。特筆すべきは、VEGF処理した培養物とFlt選択的VEGF処理した培養物中おける、再現性のある特異的な5.5±2.3倍ものHGFの誘導であり、これは、HGFがFlt−1媒介性のシグナル伝達過程における標的遺伝子であることを示している。IL−6も、無処理LSEC培養物に比べ、3.3±0.6倍の誘導を示したことから、Flt−1シグナル伝達の選択的な標的であると思われた。HB−EGFとCTGFは、VEGF,Fltsel,またはKDRselによって同程度の誘導が認められたことから、VEGFR−1およびVEGFR−2シグナルの重複標的であることを示すものと考えられる。2つの独立した実験では、TGFα,PlGF,およびFlk−1は、KDRsel処理した培養物中で高い値を示した。従って、これらの遺伝子は、VEGFR−2反応性標的であると考えられる。TGFαや酸性および塩基性FGFなどの他の転写物の発現レベルはどの処理によっても増加を示さなかったが、これらの転写物のレベルは、培養LSECにおいては高いものであった(すなわち、Taqman法の閾値の濃度は23未満)。
【0166】
実施例5:VEGFRアゴニストの遺伝子送達
肝成長に及ぼすVEGFの効果がVEGFの産生様式及び/又は部位に依存しないことを確認するため、また、VEGF活性のメカニズムをさらに探究するため、アデノウィルスベクターが、wt−VEGF(Av−VEGF)やレセプター選択的アゴニスト(Av−KDRselもしくはAv−Fltsel)を導入するために使用された〔ジルら(Gille et al.)、2001年〕。肝臓は、アデノウィルスの血中からの除去を担う主要な器官であり、経IV投与による感染の自然な部位でもある。
【0167】
Ad−VEGF,Av−FltselとAv−KDRsel,およびAd−lacZを、本質的に製造者によって記載されたようにしてAdEasyアデノウィルスベクター系(Stratagene社製)を用いて生成した。コード領域は、pShuttleCMVベクターのNotIとHindIII部位の間にクローン化した。これらのベクターを、提供されたpShuttleCMV−lacZと一緒に、BJ5183エレクトロコンピテントバクテリア(Stratagene社製)中で、E1およびE3領域を欠損させたAd5ゲノムを含むAdEasyベクターでの組換えに供した。初代培養のウィルス株は、組換えAdEasyプラスミドを宿主HEK293細胞に一過性に形質移入することにより調製した。アデノウィルス株は、HEK293細胞中でさらに増幅し、Virakitアデノ精製キット(Virapur社製;Carlsbad,CA)を用いて精製した。アデノウィルス力価は、アガロースオーバーレイプラークアッセイにより求めた。
【0168】
アデノウィルスは、直接マウスの尾静脈に注入した。ウィルスは、Virapur社製キット製剤緩衝液に保存し、PBSで適当な濃度に希釈した。注入したウィルスとPBSの容量は、各動物につき、100μlであった。投与されたウィルスの用量は、次の通りであった:Av−VEGF 107,Av−LacZ 5×108,Av−Fltsel 5×108,およびAv−KDRsel 5×108。実験、すなわち、7日から14日をウィルスのみとし、そして6日から10日をCCl4で処置する後述の実験が終了した際に血清を回収した。殺処分する1時間前に、全ての動物について100mg/kgのブロモデオキシウリジン(BrdU)(Sigma社製,St.Louis,MO)を腹腔内注入した。肝臓,腎臓,心臓,足,および脳を取り出して計量した。回収した組織は、組織学的評価に供するためホルマリンに浸漬した。統計学的分析はANOVAによって行った。
【0169】
Av−VEGF注入後1週間以内に、肝質量は、平均33.5+/−18.1%(23%から54%)増加した。明確な血管形成応答が、107pfuという低い用量において認められた。しかしながら、107を超えるAv−VEGFの用量ではわずかな増量に対しても耐性が十分ではなく、毒性に結びつき、多くの場合、注入後4日で病態を呈した。
【0170】
Av−VEGFに加えて、KDRsel又はFltselをコード化するアデノウィルスも、動物への注入に用いた。各アデノウィルスの導入で、同等レベルの組換えタンパク質が認められた。108pfu導入7日後、KDRselやFltselの血漿濃度は、それぞれ15±8ng/mlおよび31±18ng/mlであった(n=6)。Av−KDRselウィルスは、1週間以内に肝質量の22.3±7.6%(15%−30%の範囲)の増加を惹起した。質量の増加は小規模なものであったが、Av−KDRselによって誘発された形態学的変化は、Av−VEGFによって誘発された変化と定性的な差は認められず、類洞の巣状膨張を伴った、大静脈や類洞の内張りとなっている内皮細胞の過形成を特徴としていた。さらに、肝細胞板の再複製、すなわち肝細胞再生が最近活性化したことを示す指標、が認められ、また、Av−VEGF投与群では、多少の骨髄外造血が認められた。Av−FltselVEGFでは、少量ながら再現性のある(平均5%)肝質量の増加が認められた。しかしながら、これらの動物では、組織学的評価においては、血管形成の形跡は認められなかった。従って、Fltselは、インビトロでの肝細胞増殖は刺激し得るが、インビボにおける血管区画化の増加を伴わないため、全体的な器官成長は実質的に減弱もしくは制約されており、血管形成を刺激することが成体肝を最大限成長させるために必要である可能性があることを示している。対照ウィルスであるAv−LacZの尾静脈注入では、試験したどの用量(最高109pfu)においても肝成長には結びつかず、また肝組織像は、基本的に正常であった。
【0171】
肝成長の根本的なメカニズムをさらに調べるため、増殖している細胞の数を、Av−KDRselもしくはAv−Fltsel導入10日後の肝臓切片について、ブロモデオキシウリジン(BrdU)免疫組織化学的評価法により求めた。図5Aおよび図5Bに示されたように、Av−Fltselは、肝細胞増殖において、Av−KDRselやAv−LacZに比べて有意な増強を示した(図5A)。これに対して、Av−KDRselは、類洞細胞について最も強く増殖を誘導した(図5B)。Av−Fltsel処置肝臓では、類洞細胞の増殖は殆ど認められず、この点では、Av−LacZ対照群と殆ど相違がなかった(図5B)。
【0172】
実施例6:肝障害からの保護
初めの肝保護実験として、成体ヌードマウスに上述の方法でCHO−DHFRもしくはCHO−VEGF細胞を移植した。10日後、動物に与えられた物質に基づいて、両群をさらに2つのサブグループ(n=7)に分けた:すなわち、ビヒクル(オリブオイル)もしくは強力な肝毒性剤である四塩化炭素CCl4である。ビヒクルやCCl4は共に、経口胃管投与(gauvage)により4ml/kg与えられた。48時間後、動物を殺処分し、血液を集め、組織を回収して上述の方法で固定した。5μmパラフィン切片を、CCl4処置CHO−DHFR群(n=7)及びCHO−VEGF群(n=7)の動物のホルマリン固定肝臓から得た。切片は、ギルのヘマトキシリンのみで染色し、盲検分析を行うまでかぶせガラスを施した。ニコン社製Eclipse TE300顕微鏡に取り付けた浜松ホトニクス社製デジタルカメラで明視野像を撮影し、各試料の全組織面積と壊死面積を、MetaMorph画像診断ソフト(Universal Imaging社製,West Chester,PA)により測定した。全組織面積は、分析した切片の合計面積から静脈洞面積を差し引いたものと定義され、分析に供した各試料において、おおよそ20mm2であった。データは、全組織面積に対する壊死面積の比+/−SEで表した。
【0173】
CHO−DHFR動物は、典型的なCCl4中毒の特徴を呈しており、末端肝細静脈の周囲に広範な肝細胞壊死が認められた。CHO−VEGF動物では、壊死の程度は大幅に低く抑えられていた。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清濃度、すなわち肝障害の程度の主要な指標は、CHO−DHFR群に比べてCHO−VEGF群では、それぞれ85.3%および66.3%減少していた(表3)。
【0174】
表3 CCL4急性肝毒性モデルにおけるVEGFおよびVEGFR選択的変異体による保護効果
a:%減少度は、対照群に対する各実験の割合である。Iでは、CHO−DHFRを対照とし、IIやIIIではAv−LacZを対照群とした。
b:アデノウィルスは、IIにおいてはCCl4処置の4日前に投与し、IIIでは、CCl4の8日前に投与した。各グループとも、少なくとも6匹のマウスからなる。
【0175】
CCl4実験は、幾つかの研究において、アデノウィルス処置マウスについて繰り返し行った。アデノウイルスベクターの構築と形質移入は、前述の通りである。アデノウィルスは、CCl4を投与する4日又は8日前に与えられた。Av−VEGF処置肝臓においては、ALT濃度は、一つの実験ではAv−LacZに比べ、平均36.5%低減していた。しかしながら、この知見を再現することは困難であり、一つの実験ではCCl4処置Av−VEGF群のALT濃度が、Av−LacZよりも高い場合もあった。この場合では、VEGF送達は深刻な血管変化を導き、甚大な類洞の拡張につながり、高死亡率を伴うものであった。これらの実験や関連実験から、Av送達野生型VEGFは肝細胞へ保護メカニズムをもたらし得るが、非常に狭い用量反応を示し、ウィルス力価の小さな変化で毒性障害や効果無しという結果になるため、少なくともVEGFがこの様式で導入される場合には、治療応用的には魅力に乏しく狭い展望しかないことが示されたものと考えられる。
【0176】
インビトロで観察された差次的反応の観点から、Av−KDRselやAv−FltselがCCl4処置マウスの肝機能を回復させる能力を調べるために、さらに実験を行った。Av−KDRselをCCl4処置の4日前に投与した場合、ALT濃度は、Av−LacZの場合に比べ、約45%減少していた(表3)。保護効果は、Av−KDRselが毒性障害の8日前に導入されていた場合により大きなものとなり、トランスアミナーゼ濃度については85%減少まで達した。Av−Fltsel投与群の動物でも著明な保護効果が認められ、血清ALT濃度は、CCl4処置Av−LacZ群に比べ、約64%減少していた。Av−FltselがCCl4処置の4日前に投与されたかあるいは8日前に投与されたかに関しては、有意な差異は認められなかった(表3)。
【0177】
CCl4処理の8日前にアデノウィルスベクターを投与した群について肝臓の形態学的観察を行ったところ、Av−LacZ投与群では広範囲の集密的な静脈周囲壊死が認められ、それは全肝細胞質量の30%〜50%に及んでいた。Av−KDRsel投与群では、静脈周囲壊死は、重度なものではなく、単一の細胞壊死や、限られた領域での集密的な壊死に留まっていた。門脈周辺の領域では、CCl4処理を受けていない動物と同様の変化しか認められなかった。Av−Fltsel投与群では、肝細胞の壊死は同様に低減されており、末端肝細静脈における中等度の混合炎症性細胞の浸潤と、軽度の内皮細胞過形成が認められた。内皮細胞の変化は、KDRsel投与群で認められたものより、まったく著明なものではなかった。
【0178】
従って、Av−Fltselは、成体動物において内皮細胞の増殖や肝臓質量の実質的な増加は誘発しなかったが、急性肝障害時の肝機能維持について、本質的にKDRselと同等の効果を有していた。さらに、Av−Fltselは、109の用量でウイルスを投与した場合にも、動物の14日を超える経過観察において、明かな毒性を示すことは無かった。
【0179】
CCl4を用いた肝毒性実験により、KDRselとFltselには、その作用態様に、明かな差異があることが確認された。両方の分子とも、その導入によって同等の肝保護作用を示したが、病変は形態学的に全く異なった様相を呈しており、このことは保護メカニズムが異なっていることと合致するものである。興味深いことに、KDRselによる保護効果には時間依存性が認められ、ウィルスが毒性障害の8日前に導入された場合、最大の保護効果を示した。このことは、KDRselによる保護効果が、パラ分泌生存因子カスケードを増幅すると思われる内皮細胞の増殖に主として依存しているという仮説と合致するものである。これに対して、Fltselは、両方の時点の投与でも等しく効果的で、非増殖LSECからの生存/分裂促進因子の放出に基づく保護メカニズムと整合性があり、血管新生や非増殖LSECからの生存因子の放出に対する依存性は非常に低いかもしくは非依存性であった。
【0180】
アデノウィルスを用いたこの実験により、Av送達VEGFは、血管新生や肝成長を強く誘導することができるが、非常に厳しい用量応答性/毒性を有するので、ウィルス力価によっては、肝機能に対する穏やかな救助作用を呈したり、横ばいの変化しかもたらさずむしろ有害な影響を与えてしまうことも示唆された。1/2−1/4倍低い用量では効果を示さないが、2−4倍高い用量は、毒性や罹患率を惹起してしまう。VEGFの全身毒性や厳しい用量応答特性については、既に指摘されている〔サーストンら(Thurston et al.)著、2000年、「ネイチャー メディスン(Nat.Med.)」、6、p.460−63、ウォンら(Wong et al.)著、2001年、「プロシーディングス オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ USA(Proc.Natl.Acd.Sci.USA)」、98、p.7481−6〕。
【0181】
Av−KDRselは、最も高用量(109)で付与されると毒性を示すが、それはVEGFよりも良好な安全性特性を示し、Av−VEGFによるよりも有意に高い血漿中濃度であっても、より低い毒性しか惹起しなかった。KDRselがIL−6のような炎症性サイトカインを含むVEGF標的遺伝子の完全相補鎖を誘導することができないことが、そのような相違を生じさせているのではないかと考えられる。逆に、Fltselは、急性肝毒性モデルにおいて目覚しい程度にまで肝細胞や肝機能を救助したが、血管新生や有意な肝成長を誘導することはなかった。実際、この実験で最も特筆すべき結論の一つは、適切なシグナルを受けると、静止期の内皮細胞が、障害から実質組織を強く保護することができる因子を産生するように指示されうることである。これは、内皮細胞によって媒介される実質組織の細胞に対する保護効果が、血管新生の刺激とは切り離して考え得ることを最初に証明するものである。
【0182】
VEGFの既知の用量制約作用(例えば低血圧や水腫)〔ヤングら(Yang et al.)、1998年〕がVEGFR−2の活性化に関連している〔クリシェとウォルテンベルガー(Kliche and Waltenberger)、2001年〕とすれば、FltselのようなVEGFR−1アゴニストは、肝臓保護を目的とした治療計画の基礎づくりに有用であると考えられる。VEGFR−2アゴニストや他の血管新生因子を低い割合で加えることで、血管新生刺激が付与されるので、最大の治療効果をもたらすことができる。あるいは、VEGFR−2に対してVEGFR−1を優先的に活性化するVEGF変異体は、安全性と効能を最適に合わせ持つものになるかも知れない。考えられる適応症としては、肝硬変を含む慢性障害の他に、様々な薬物、化学療法、毒素によって誘発される急性肝障害が挙げられる。
【0183】
興味深いことに、心臓や腎臓などの器官の重量は、VEGFを発現させた動物では、対照群よりも重かったが、この効果は肝臓で認められたよりも小さく、重要と思われたのは、肝臓組織のみがDNA合成にあずかった細胞の比率について有意な上昇を呈したことが示されたことである。注目すべきことは、本研究で明かとなったHGF、IL−6、および他の幾つかの遺伝子のVEGF又はVEGFR−1アゴニストによる誘導は、内皮細胞の全てについて認められる反応ではないと言うことであり、HUVEC又はマウス肺内皮細胞では、このような遺伝子の誘導が全く認められなかった。従って、このような、VEGFのような遍在分子に反応する内皮細胞依存性パラ分泌成長促進メカニズムは、少なくとも部分的には、LSECに限定され、器官の多様性に対する「微小環境」の影響という別の側面であると思われる〔デリアンら(Dellian et al.)著、1996年、「アメリカン ジャーナル オブ パソロジー(Am.J.Pathol.)」、149、p.59−71〕。以前には、特定の種類の内皮細胞に対して選択性を持つ血管新生分裂促進因子の存在が報告されている〔ルコーターら(LeCouter et al.)著、2001年、「ネイチャー(Nature)」、412、p.877−884〕。他の器官の血管内皮細胞は、VEGFよりもより選択的な「カギ」に反応して惹起されて組織特異的成長因子を放出するのではないかと考えられる。
【0184】
最後に、最近の研究によれば、肝臓器官形成は、血流や血管機能の確立に先立つ、内皮細胞を起源とする潜在的な誘導シグナルと関連づけられている〔松本ら(Matsumoto et al.)、2001年〕。ここに記載したメカニズムは、少なくとも部分的には、そのような誘導事象についての説明になり得るものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1A】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Aは、DHFR,VEGF165,HGF,もしくはHAg(Hakata抗原)を発現するCHO細胞を移植された動物における、肝臓/脳比の比較である。
【図1B】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Bは、DHFR,VEGF165,HGF,もしくはHAg(Hakata抗原)を発現するCHO細胞を移植された動物における、肝臓/脳比の比較である。
【図1C】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Cは、DHFR,VEGF165,もしくはHGFを発現するCHO細胞を移植された動物における、腎臓/脳比を示す。
【図1D】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Dは、1Cと同じ群における脳重量を示す。誤差バーは、平均値の標準誤差を表している。
【図2A】種々のタンパク質剤が、単独で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Aは、EGF,HGF,VEGF,もしくはVEGFR選択的アゴニストが、単独培養の初代肝細胞における3H−チミジンの取り込みに及ぼす効果を示す。EGF(10ng/ml)およびHGF(50ng/ml)は、3H−チミジンの取り込みを刺激したが、VEGF,KDRsel,VEGF−E,Fltsel及びPlGFは、そこに示した濃度(ng/ml)での試験では、肝細胞における3H−チミジンの取り込みを誘発しなかった。
【図2B】種々のタンパク質剤が、単独で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Bでは、野生型のVEGFとKDRアゴニストであるKDRsel及びVEGF−Eが、LSEC初代培養物において3H−チミジンの取り込みを誘発したことが示されている。一方、Flt−1選択性アゴニストであるFltselおよびPlGFは、LSECの増殖を促進しなかった。50ng/mlであったHGF以外では、リガンドは10ng/mlの濃度で添加された。
【図2C】種々のタンパク質剤が、トランスウェル方式で培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Cは、トランスウェルによるLSEC/肝細胞共培養物において、VEGF,KDRsel及びVEGF−Eが、LSECでの3H−チミジンの取り込みを誘発し、一方、Flt−1アゴニストでは効果が無かったことを示す。リガンドの濃度は2Bにおけるものと同じである。
【図2D】種々のタンパク質剤が、トランスウェル方式で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Dは、トランスウェルによるLSEC/肝細胞共培養物において、PlGFもしくはFltselが、HGF処理した細胞と同等のレベルで初代培養肝細胞での3H−チミジンの取り込みを誘発したことを示す。一方、KDRselもしくはVEGF−Eとインキュベーションした場合には、殆どもしくは全く、肝細胞の増殖刺激は認められなかった。リガンドの濃度は2Bにおけるものと同じである。誤差バーは、標準偏差を表している。
【図3】VEGF及びVEGFR選択的アゴニストが、LSECにおけるMAPキナーゼ活性化に及ぼす効果を示す。上部パネルは、野生型のVEGF(V)とKDRsel及びVEGF−E(V−E)のERK活性化能を示し、リン酸化されたERK1/2が免疫ブロット法で表されている。Fltsel及びPlGFは、図の下部パネルに汎ERK免疫ブロット法で示すように同等レベルのERK1/2は存在したものの、ERKのリン酸化を誘発しなかった。リガンドは全て20ng/mlで添加された。
【図4】Flt−1とKDR選択的アゴニストが、LSECにおいて、独立的な、及び重なった遺伝子の発現を誘発することを示す。LSEC内における12の独立的な遺伝子の転写産物をTaqman分析した典型的な実験では、10ng/mlのVEGF,KDRsel,もしくはFltselで24時間処理し、非処理の細胞を任意に値1として、対照に対して正規化した。発現特性から、VEGFによって誘発されたHGFおよびIL−6は、Flt−1によって選択的に媒介されたものであり、また、HB−EGFやCTGFは、Flt−1とKDRの両方に反応性があることが示されている。TGFαやPlGFは、KDR活性化に対してより高い反応性を示している。棒グラフの符号については右上角の凡例を参照のこと。
【図5】図5Aおよび5Bは、選択的VEGFR活性化に応答して生じるインビボでの増殖を肝細胞と類洞内皮細胞で対比して示したものである。増殖肝細胞(5A)及び類洞細胞(5B)の定量分析は、Av−LacZ,AV−KDRsel,もしくはAV−Fltselで処理した動物の、AV投与10日後の肝臓切片をBrdU免疫組織化学処理した後に実行した。値は平均値±標準誤差で示している。有意性レベルは、不対t検定で検証し、P値を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の成長を促進し、肝臓の病理状態を治療し、肝臓を障害から保護するためにVEGFRアゴニストを利用する方法を含む、VEGFR調節剤の診断及び治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓
肝臓は、その器官の機能単位として何千もの微細な小葉(肝小葉)を含む人体の主要な代謝調節器官である。肝臓組織は、2種の主要な識別できる細胞型、即ち、実質細胞(つまり、肝細胞)と非実質細胞を含んでいる。肝臓の複雑な機能は、大部分は肝細胞の作用による一方、クッパー細胞、伊東細胞、肝類洞内皮細胞(LSEC)などの非実質細胞は肝細胞を支持し肝細胞に補給物を提供する点において重要な役割を担っている。モチダら(Mochida et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィ・リス・コム(Biochem. Biophy. Res. Comm.)」、226、p. 176−179。
【0003】
肝臓は、消化管と他の身体部位の間に位置し、監視役の機能を果たしている。主な肝機能として、摂取、貯蔵、新陳代謝を効率的に実行し、更に、糖質、脂質、アミノ酸、ビタミン、微量元素などの物質を多量に血中や胆汁へ効率的に分配することを挙げることができる。別の肝機能は、第1相(酸化/還元)機構と第2相(接合)機構を通じて、生体異物の汚染物質や薬物、内因性代謝産物を解毒することである。
【0004】
肝臓は生命に不可欠な役割を果すため、肝機能障害や肝臓疾患は多くの場合、身体の衰弱を招き生命を脅かす。多くの急性又は慢性の病理状態は、肝臓の構造上の異常及び/又は機能上の異常に関係している。これらの病理状態として、限定はされないが、肝不全、肝炎(急性、慢性又はアルコール性)、肝硬変、中毒性肝障害、薬物性肝障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死が挙げられる。
【0005】
治療用の、又は文字通り有害な多くの化学薬剤や生物薬剤は肝臓障害を引き起こし、肝細胞に対して毒性を有することがある。肝臓が肝毒性剤により障害を受け易いのは、その本来の新陳代謝の役割に関係するためか、もしくは、超過敏反応の結果によるからである。劇症肝炎の事例中、25%までが薬剤による拒絶反応が原因である。また、肝毒性化合物も、脂肪肝、肝炎や肝臓の血管腫瘍性病変をはじめ、慢性肝臓疾患の主要な原因である。(シンクレアーら(Sinclair et al.)著、「テキストブック・オブ・インターナル・メディスン(Textbook of Internal Medicine)」、p. 569−575、1992年、(編集者、ケリー(Kelley);出版社、ジェイ・ビー・リッピンコット・カンパニー(J. B. Lippincott Co.))。
【0006】
肝毒性剤は、細胞障害を介して肝臓に対して直接的に、あるいは中毒性代謝産物の生成を通じて肝臓障害を引き起こす(この部類には、薬物アレルギーに似た症状を呈する超過敏反応が含まれる)。即ち、上記の中毒性代謝産物の生成とは、胆汁鬱滞、胆管の閉塞による胆汁流れの停止、並びに、血管内皮が損傷して肝血管血栓症を起こすような肝内性肝静脈閉塞症(VOD)に見られる血管の病変である。個々の病変について、肝毒性剤によって引き起こされる肝臓障害に罹り易いかどうかは、遺伝因子、年齢、性別、栄養状態、他種薬剤への露呈や全身性疾患に左右される(前記のシンクレアーら(Sinclair et al.)著、「テキストブック・オブ・インターナル・メディスン(Textbook of Internal Medicine)」)。
【0007】
肝臓組織は、初期発育時の正常な成長に加えて、成人期では独特の再生能力を備える。肝組織喪失後の肝臓再生は、肝毒性、ウイルス感染、血管損傷や部分肝切除術などによる各種の形態の肝臓障害に応じて、肝臓を回復させる過程での基本的要因である。例えば、部分肝切除術後、肝臓の寸法は通常約6日以内に当初の質量にまで回復せしめられる。肝臓の成長と再生には、肝細胞と、類洞内皮細胞などの非実質細胞の双方を増殖させることが必要である。典型的には、肝細胞が最初に増殖し、その後、約24時間を経て肝臓の他の細胞がDNA合成を始める。ミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)共著、1997年、「サイエンス(Science)」、276、p. 60−65。
【0008】
肝臓増殖のための因子
何種類かの成長因子及びサイトカインが肝臓の再生を導き得ることが示唆されており、その中で最も注目に値するのは、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、塩基性及び酸性線維芽細胞成長因子、CTGF、HB−EGF、及びノルエピネフリンである。フジワラら(Fujiwara et al.)著、1993年、「ヘパトル(Hepatol.)」、18、p. 1443−9;バルヒら(Baruch et al.)著、1995年、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol.)」、23、p. 328−32;イトーら(Ito et al.)著、1994年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コミュン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、198、p. 25−31;スズマら(Suzuma et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 40725−31;前記のミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)、1997年。最も有効な肝臓有糸分裂促進因子の一つとして、HGFが最初に、培養肝細胞内でDNA合成を刺激できる因子であるとして同定されたが、現在では、HGFは様々な内皮細胞に対して多様の別個の機能を有していることが知られている。ナカムラら(Nakamura et al.)著、1984年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コム(Biochem. Biophys. Res. Comm.)」、122、p. 1450;ラッセルら(Russell et al.)著、1984年、「ジェイ・セル・フィジオル(J. Cell Physiol.)」、119、p. 183−192。ある細胞型の運動性や侵襲性を向上させる散乱因子(SF)がHGFと同じアミノ酸配列を有し、HGF/SFとして表されることが判明している。ストカー(Stoker)とペリーマン(Perryman)共著、1985年、「ジェイ・セル・サイ(J. Cell Sci.)」,77,p. 209−223;ゲラルディ(Gherardi)とストカー(Stoker)共著、1990年、「ネイチャー(Nature)」、346、p. 228。HGF/SFは単鎖の不活性酵素源として合成され、その酵素源は以後の開裂により、単一のジスルフィド結合を介して一体に保持された69−kDaのα−サブユニットと34−kDaのβ−サブユニットからなる活性な二量体糖タンパク質を産生する。ナカムラら(Nakamura et al.)著、1989年、「ネイチャー(Nature)」、342、p. 440−443;ルースら(Roos et al.)著、1995年、「アム・ジェイ・フィジオル(Am. J. Physiol.)」、268、p. G380−6。
【0009】
HGFの既知生物作用はいずれも、Metプロトオンコジーンの産物である単一のチロシンキナーゼレセプターMetを介して伝達される。HGF/SFは、内分泌及び/又はパラ分泌の形でMet発現性内皮細胞に主に作用し、増殖、分岐、細胞移動、遺伝子導入やルーメン形成などの多種多様な生物活動を媒介する。ファン・デル・フールトら(van der Voort et al.)著、「アドブ・キャンサー・リス(Adv. Cancer Res.)」、79、p. 39−90、2000年。肝臓では、HGFは伊東細胞やLSECなどの非肝性細胞内で発現される一方、met転写物は肝細胞中で強く発現される。ヒューら(Hu et al.)著、「アム・ジェイ・パソル(Am. J. Pathol.)」、142、p. 1823−1830、1993年。肝臓が化学的損傷もしくは機械的損傷を被った場合、HGFのレベルが急激に高まり、結果として肝細胞の増殖を強める。ホリモトら(Horimoto et al.)著、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol.)」、23、p. 174−183、1995年。HGFの肝臓特異的過剰発現を示すトランスジェニックマウスの肝臓は、対照動物の肝臓の2倍の寸法を有し、部分肝切除術後の再生が非常に速い。サカタら(Sakata et al.)著、1996年、「セル グロース・ディファ(Cell Growth Differ.)」、7、p.1513−1523;シオタら(Shiota et al.)著、1994年、「ヘパトル(Hepatol.)」、19、p. 962−972。また、HGFのない変異マウス胎仔は十分な機能性の肝臓を発育できず、肝臓の発育時にHGFの役割が不可欠であると立証されている。シュミットら(Schmidt et al.)著、1995年、「ネイチャー(Nature)」、373、p. 699−702。マウスにおいて、HGFを多量(5mg/kg/日)に門脈に連続して直接注入した結果、肝臓の相対質量を有意に増加させることが判明している。パチインら(Patijn et al.)著、1998年、「ヘパトル(Hepatol.)」、28、p. 707−16。HGFは肝細胞の有糸分裂を誘導するのに有効な物質と判明しているが、類洞内皮細胞などの非実質細胞の増殖を誘導することには失敗している。前記のパチインら(Patijn et al.)。反対に、その他の生物学的観点では、HGFは内皮細胞の強力な有糸分裂促進因子であることが判明している。ローゼン(Rosen)とゴールドバーグ(Goldberg)共著、1997年、「血管新生の調整(Regulation of Angiogenesis)」、イー・ローゼン(E.Rosen)とアイディー・ゴールドバーグ(ID Goldberg)編、スプリンゲル・フェルラーク(Springer Verlag)出版、p. 193−208。
【0010】
インビボで肝成長を促進させるためには、相当に高濃度のHGF血漿濃度が必要であることが示唆されている。ルースら(Roos et al.)著、1995年、「アム・ジェイ フィジオル(Am. J. Physiol.)」、268、p. G380−6。HGFは、強いヘパリン結合特性を有するので、静脈投与された後は肝外組織内に主として隔離され(チオンチェックら(Zioncheck et al.)著、1994年、「エンドクリノロジー(Endocrinology)」、134、p. 1879−87)、肝促進作用を効果的に実行するには、硫酸デキストランを同時に投与することが必要である(ルースら(Roos et al.)、1995年)。
【0011】
血管新生と肝臓
血管新生とは、血管内皮細胞が増殖し、その不要部が除去され、再組織化することにより、先在の血管網から新生の血管が生成される重要な細胞性事象である。既存の有力な証拠によれば、血管の供給の進行は正常なまた病理学的な増殖過程にとって必須である(フォークマン(Folkman)とクラグスブルン(Klagsbrun)共著、1987年、「サイエンス(Science)」、235、p. 442−447)。酸素と栄養分を運搬し、代謝分解産物を除去することは、多細胞生物で起こる成長過程の大部分での律速段階を意味する。従って、血管の区画化は、たとえ十分でないにしろ、胚生成時の器官発生や分化のためには勿論のこと、成体の場合での創傷治癒機能や再生機能のためにも必要であると、一般に思われていた。しかし、最近の証拠が示唆しているところでは、少なくともマウス胎仔では、血管内皮は、血流樹立前でさえ肝臓に対して誘導効果を有し(マツモトら(Matsumoto et al.)著、2001年、「サイエンス(Science)」、294、p. 559−563)、また膵臓器官形成に対して誘導効果を有する(ラムマートら(Lammert et al.)著、2001年、「サイエンス(Science)」、294、p. 564−567)。このような誘導効果の機構は未だ知られていない。
【0012】
血管新生は、限定はされないが、増殖性網膜症、加齢性黄班変性症、腫瘍、リウマチ様関節炎(RA)、乾癬などの各種疾患の病原にも関与する。フォークマン(Folkman)著、1995年、「ナト・メド(Nat. Med.)」、1、p. 27−31。肝臓を再生させるには、急速に進行する腫瘍の場合と同様に、新生の間質と血管を合成することが必要である。それ故に、驚くことではないが、多くの研究が、肝臓の発生や再生での血管新生、並びに、そこでの諸々の既知の血管新生因子が果たす役割に着目して行われている。前記のミカロポウロス(Michalopoulos)とドフランセス(DeFrances)、1997年;モチダら(Mochida et al.)、1996年。
【0013】
血管内皮細胞成長因子(VEGF)は、血管内皮細胞の強力な有糸分裂促進因子であるが、血管新生や脈管形成のための重要な調節因子として報告されている。フェラーラ(Ferrara)とデイビス−スマイス(Davis−Smyth)共著、1997年、「エンドクライン・レブ(Endocrine Rev.)」、18、p. 4−25;フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「ジェイ・モル・メド(J. Mol. Med.)」、77、p. 527−543。VEGFは、血管形成の過程に貢献できる他の成長因子と比べて、血管系内の内皮細胞に対して実に特異的である点で無類の因子である。最近の証拠によれば、VEGFは胚性脈管形成や血管新生にとって必須であることが示されている。カーメリットら(Carmeliet et al.)著、1996年、「ネイチャー(Nature)」、380、p. 435−439;フェラーラら(Ferrara et al.)著、1996年、「ネイチャー(Nature)」、380、p. 439−442。更に、VEGFは、雌性生殖管での血管の周期的増殖や、骨成長や軟骨形成にも必要とされている。フェラーラら(Ferrara et al.)著、1998年、「ネイチャー・メド(Nature Med.)」、4、p. 336−340;ガーバーら(Gerber et al.)著、1999年、「ネイチャー・メド(Nature Med.)」、5、p. 623−628。
【0014】
VEGFは、血管新生や脈管形成での血管新生因子として作用するのに加えて、多面的な成長因子として他の生理過程において、内皮細胞の生存、血管透過と血管拡張、単球の化学走化性、カルシウム流入などの多くの生物学的作用を発揮する。前記のデイビス−スマイス(Davis−Smyth)、1997年。更には、最近の研究では、VEGFは、網膜色素内皮細胞、膵管細胞、シュワン細胞など幾つかの非内皮細胞型に対しても有糸分裂誘導作用を有することが報告されている。グェリーンら(Guerrin et al.)著、1995年、「ジェイ・セル・フィジオル(J. Cell Physiol.)」、164、p. 385−394;オバーグ−ウェルシュら(Oberg−Welsh et al.)著、1997年、「モル・セル・エンドクリノル(Mol. Cell Endocrinol.)」、126、p. 125−132;ゾンデルら(Sondell et al.)著、1999年、「ジェイ・ニューロサイ(J. Neurosci.)」、19、p. 5731−5740。
【0015】
加えて、実質的証拠によれば、VEGFは、病理的血管新生に関与する病状又は疾病の進行において重要な役割を果たしていることが示されている。VEGFのmRNAは、調べられたヒト腫瘍の大部分で過剰発現されている(バークマンら(Berkman et al.)著、「ジェイ・クリン・インベスト(J. Clin. Invest.)」、91,p. 153−159、1993年;ブラウンら(Brown et al.)著、「ヒューマン・パソル(Human Pathol.)」、26、p. 86−91、1995年;ブラウンら(Brown et al.)著、「キャンサー レス(Cancer Res.)」、53、p. 4727−4735、1993年;マターンら(Mattern et al.)著、「ブリト・ジェイ・キャンサー(Brit. J. Cancer)」、73、p. 931−934、1996年;ドボラクら(Dvorak et al.)著、「アム・ジェイ・パソル(Am. J. Pathol.)」、146、p. 1029−1039、1995年)。その上、眼液中のVEGF濃度は、糖尿病や他の虚血関連網膜症の患者における血管の活発な増殖と密接に相関している(アイエロら(Aiello et al.)著、「エヌ・イングル・ジェイ・メド(N. Engl. J. Med.)」、331、p. 1480−1487、1994年)。更に、最近の研究で立証されたところでは、VEGFは、AMDに冒された患者の脈絡叢新生血管膜内に局在化する(ロペスら(Lopez et al.)著、「インベスト・オフタルモ・ビス・サイ(Invest. Ophthalmo. Vis. Sci.)」、37、p. 855−868、1996年)。抗VEGF中和抗体は、ヌードマウスの場合において、様々なヒト腫瘍細胞株の増殖を抑制し(キムら(Kim et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、362、p. 841−844、1993年;ワーレンら(Warren et al.)著、「ジェイ・クリン・インベスト(J. Clin. Invest.)」、95、p. 1789−1797、1995年;ボルグストレームら(Borgstroem et al.)著、「キャンサー・リス(Cancer Res.)」、56、p. 4032−4039、1996年;メルニークら(Melnyk et al.)著、「キャンサー・リス(Cancer Res.)」、56、p. 921−924、1996年)、更には虚血性網膜疾患モデルの場合では、眼内血管新生を抑制する(アダミスら(Adamis et al.)著、「アーチ・オフタルモル(Arch. Ophthalmol.)」、114、p. 66−71、1996年)。従って、抗VEGFモノクローナル抗体、又は他のVEGF作用抑制剤は、固形腫瘍や種々の眼内新生血管疾患を治療するための有望な候補物質である。
【0016】
ヒトVEGFは、ヒト細胞から調製したcDNAライブラリーを、ウシVEGFのcDNAをハイブリダイゼーションプローブとして用いてスクリーニングすることにより最初に得られた。ロイングら(Leung et al.)著、1989年、「サイエンス(Science)」、246、p. 1306。そこで同定された一つのcDNAは、ウシVEGFに対する相同性が95%を越える165−アミノ酸タンパク質をコード化する。この165−アミノ酸タンパク質は、一般にはヒトVEGF(hVEGF)又はVEGF165と呼ばれる。ヒトVEGFの有糸分裂誘起活性は、哺乳類宿主細胞内でヒトVEGFのcDNAを発現させることで確認された。ヒトVEGFのcDNAで形質移入された細胞で馴化された培地は、毛細管内皮細胞の増殖を促進できたのに反し、対照細胞ではそのような作用は認められなかった。前記のロイングら(Leung et al.)、1989年。
【0017】
血管内皮細胞成長因子を、天然源から単離して精製した後に治療目的に使用することが可能であろうが、VEGFを回収するに当っての労力と費用の両点に鑑み、濾胞上皮細胞中のタンパク質の濃度が比較的低く、しかもコストが嵩むことから、商業化が見込めないこととが判明した。従って、組換えDNA法を通じてVEGFのクローン化と発現を行うことに更なる努力がなされている(例えば、フェラーラ(Ferrara)著、1995年、「ラボラトリー・インベスティゲイション(Laboratory Investigation)」、72、p. 615−618、1995年、並びに、そこで引用された複数の文献を参照)。
【0018】
VEGFは、選択的RNAスプライシングに起因した複数のホモ二量体形態(モノマー当り121、145、165、189、206個のアミノ酸)として様々な組織中で発現される。VEGF121はヘパリンとは結合しない可溶性分裂促進因子であり、VEGFの長鎖型は漸次高まるヘパリンとの親和性を伴ってヘパリンと結合する。VEGFのヘパリン結合型をカルボキシ末端でプラスミンにより開裂させ、拡散性形態のVEGFを放出することができる。プラスミン開裂後に同定されたカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸配列はArg110〜Ala111である。アミノ末端「コア」タンパク質、つまり、ホモ二量体として単離されたVEGF(1〜110)は、中和モノクローナル抗体(4.6.1や3.2E3.1.1と呼称される抗体など)と、また無傷のホモ二量体VEGF165と比べて同様の親和性を有するVEGFレセプターの可溶型と結合する。
【0019】
最近、構造上の観点からVEGFに関連した数種の分子も同定されており、その中には胎盤成長因子(P1GF)、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−Eが含まれる。前記のフェラーラ(Ferrara)とデイビス−スマイス(Davis−Smyth)著、1987年、「エンドクル・レブ(Endocr. Rev.)」;オガワら(Ogawa et al.)著、1998年、「ジェイ・バイオロジカル・ケム(J. Biological Chem.)」、273、p. 31273−31281;マイヤーら(Meyer et al.)著、1999年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、18、p. 363−374。チロシンキナーゼレセプター、即ち、Flt−4(VEGFR−3)はVEGF−CやVEGF−Dのレセプターとして同定されている。ジュウコフら(Joukov et al.)著、1996年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、15、p. 1751;リーら(Lee et al.)著、1996年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、93、p. 1988−1992;アチェンら(Achen et al.)著、1998年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、95、p. 548−553。最近、VEGF−Cがリンパ性血管新生の調節に関与していることが証明されている。ジェルテッシュら(Jeltsch et al.)著、1997年、「サイエンス(Science)」、276、p. 1423−1425。
【0020】
2種類のVEGFレセプター、Flt−1(VEGFR−1とも呼ばれる)とKDR(VEGFR−2とも呼ばれる)が同定されている。シブヤら(Shibuya et al.)著、1990年、「オンコジーン(Oncogene)」、8、p. 519−527;ド・フリースら(de Vries et al.)著、1992年、「サイエンス(Science)」、255、p. 989−991;ターマンら(Terman et al.)著、1992年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コムン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、187、p. 1579−1586。ニューロピリン−1が、ヘパリン結合性VEGFアイソフォームに結合できる選択的VEGFレセプターであることが証明されている(ソーカーら(Soker et al.)著、1998年、「セル(Cell)」、92、p. 735−45)。Flt−IとKDRは、双方ともレセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーに属する。RTKには、多様の生物活性を有する数多くの膜貫通型レセプターの一群が含まれている。RTKに関しては、現在のところ、明確に区分された少なくとも19のサブファミリーが同定されている。レセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーは、各種の細胞型を増殖、分化させるのに重要なレセプターを含んでいる(ヤーデン(Yarden)とウーリッヒ(Ullrich)共著、「アン・レブ・バイオケム(Ann. Rev. Biochem.)」、57、p. 433−478、1988年;ウーリッヒ(Ullrich)とシュレシンガー(Schlessinger)共著、「セル(Cell)」、61、p. 243−254、1990年)。RTKの本来の機能は、リガンド結合時に活性化され、結果としてレセプターと複数の細胞基質とのリン酸化を導き、ついで各種の細胞応答を引き出す(ウーリッヒ(Ullrich)とシュレシンガー(Schlessinger)共著、1990年、「セル(Cell)」、61、p. 203−212)。従って、レセプターチロシンキナーゼにより媒介されるシグナル伝達は、特異的成長因子(リガンド)との細胞外相互作用によって開始され、その後、一般的には、レセプターが二量化され、タンパク質チロシンキナーゼの本来の活性が刺激され、レセプターのトランスリン酸化が遂行される。そのようにして、細胞内シグナル伝達分子のための結合部位が形成され、適切な細胞性応答を容易にするある範囲の細胞質シグナル伝達分子と複合体を生成する。(例えば、細胞の分裂や分化、代謝作用、細胞外微環境での変化)。シュレシンガー(Schlessinger)とウーリッヒ(Ullrich)共著、1992年、「ニューロン(Neuron)」、9、p. 1−20を参照。構造的に見ると、Flt−1とKDRの両方とも、細胞外ドメインに存在する7つの免疫グロブリン様ドメインと、1つの膜貫通領域と、キナーゼ挿入ドメインにより遮断された1つのチロシンキナーゼコンセンサス配列を有している。マシューズら(Matthews et al.)著、1991年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、88、p.9026−9030;ターマンら(Terman et al.)著、1991年、「オンコジーン(Oncogene)」、6、p. 1677−1683。
【0021】
既存の有力証拠からの示唆では、Flt−1とKDRは別異のシグナル伝達特性を有し、別異の機能を媒介し得る。また、Flt−1とKDRを通じて媒介されたシグナルは、細胞型に対して特異的であると思われる。最近の研究結果として提出された相当数の実験データが示すところでは、KDRは、VEGFの有糸分裂、血管新生、透過性向上作用の主要なメディエーターである(フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「キドニー・イント(Kidney Int.)」、56、p. 794−814)。VEGF刺激により、KDRの強力な自己リン酸化反応が誘起されるとともに、MAPKカスケードが活性化され、内皮細胞の増殖に直接的に貢献する(クロール(Kroll)とウォルテンバーガー(Waltenberger)共著、1997年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、272、p. 32521−7)。これに対して、VEGFR−1の機能は未だ明瞭ではないが、その機能に関して明らかに矛盾している多数の報告が文献中に見られる。この分子は、VEGFに応答して、内皮細胞内で非常に微弱な又は検知不能なチロシン自己リン酸化反応を示す(ギレら(Gille et al.)著、2000年、「エンボ・ジェイ(EMBO J.)」、19、p. 4064−4073)。Flt−1は、VEGFがVEGFR−2と結合するのを妨げる「デコイ」レセプターとして作用するか、あるいはVEGFR−2の活性を直接的に抑制することによって、早期の胚発達を含み、幾つかの生物学的文脈において内皮有糸分裂に対して抑制作用を有することが証明されている。パークら(Park et al.)著、1994年、「ジェイ・バイオ・ケム(J. Bio. Chem.)」、269、p. 25646−54;米国特許第6,107,046号(アリタロら(Alitalo et al.));フォンら(Fong et al.)著、1999年、「デベロップメント(Development)」、126、p. 3015−25;ツェングら(Zeng et al.)著、2001年、「ジェイ・バイオル・ケム(J.Biol. Chem.)」、276、p. 26969−79。その他の研究から、VEGFR−1は、腫瘍脈管構造に対して単球や内皮細胞前駆体の補充を媒介しうることが示唆される(バーレオンら(Barleon et al.)著、1996年、「ブラッド(Blood)」、87、p. 3336−43)(ライデンら(Lyden et al.)著、2001年、「ナト・メド(Nat. Med.)」、7、p. 1194−201)。従って、血管内皮細胞内におけるVEGFR−1のシグナル伝達の重要性は概して明らかにされていない。
【0022】
最近の研究では、肝臓、特に肝臓再生における様々な生理学的過程や病理学的過程の分子機構を解明する試みがなされている。肝細胞と、類洞内皮細胞などの非実質細胞との間の肝組織内に存在する2種の相互のパラ分泌シグナル伝達系が提案されている。一方向において、HGF/SFなどの成長因子が、類洞内皮細胞やクッパー細胞などの非実質細胞から放出され、ついで肝細胞上のそのレセプター(c−Metレセプターなど)と結合し、その後に肝細胞増殖を誘導し促進させる。反対方向においては、肝細胞内で発現され肝細胞から分泌されたVEGFが、類洞内皮細胞上のVEGFレセプター(KDRとFlt−1)と結合する刺激因子として作用し、それによって肝臓内における類洞内皮細胞の増殖及び維持を刺激する。ヤマネら(Yamane et al.)著、1994年、「オンコジーン(Oncogene)」、9、p. 2683−2690に記載の観察によると、VEGFやVEGFレセプター(FltとKDR)、並びに、HGFやc−Metの内因性発現は、肝臓内で細胞型特異的な形で厳格に調節される。即ち、プローブとしてflt−1 cDNAを使用して、flt−1 mDNAが、正常なラットの肝臓中の類洞内皮細胞内で非常に高いレベルで発現されるが、肝細胞内では殆ど検知不可能であった。KDRの場合にも、同様の発現パターンが見出されたが、発現レベルは非常に低かった。更に、ヤマネら(Yamane et al.)の観察によると、インビトロ培養系において、VEGFは類洞内皮細胞に対して著しく特異的な増殖刺激活性と維持活性を示す。
【0023】
モチダら(Mochida et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィ・リス・コム(Biochem. Biophy. Res. Comm.)」、226、p. 176−179のインビトロ実験では、正常な肝臓又は部分切除した肝臓から単離された肝細胞内でのVEGFやVEGFR類の発現レベルがモニターされた。上記筆者らは、70%切除したラット肝臓において、VEGF、Flt−1、KDRの発現は全て有意に増加することを見出した。また、Flt−1とKDRによる発現ピークに達する時間から、VEGFR類のアップレギュレーションが肝臓再生時の類洞内皮細胞の増殖に関与していることが示唆される。
【0024】
つい最近の研究として、アジオカら(Ajioka et al.)著、1999年、「ヘパトロジー(Hepatology)」、29、p. 396−402では、外因性VEGFの存在下での移植肝組織の結末が検査された。成体マウスから単離した肝細胞にインビトロでVEGF遺伝子を形質移入し、ついでマウスの膵臓に隣接する領域に腹腔内移植(i.p.)された。移植された肝細胞は、インビボで多数の組織凝集体を形成した。インビトロ染色の結果、VEGF形質移入組織は大幅な増殖を受け、有意な血管網をそこに発生させることが分かった。従って、これらの結果から、VEGFの発現により血管網の形成がなされ、これが組織形成を促進しうることが示唆される。しかし、当該結果から判明したことは、VEGF形質移入の移植肝組織では、非実質細胞、又はその細胞から誘導される成長因子が存在しないことである。
アシーら(Assy et al.)著、1999年、「ジェイ・ヘパトル(J. Hepatol)」、30、p. 911−915では、ラットの場合の部分切除術後の肝臓再生で、血管新生因子としてのVEGFの作用が検討された。30%部分切除術を施したラットにVEGFを静脈内投与(i.v.)した後、術後の24、36、48時間目に解剖が行われた。この実験結果から、PHx後36時間目と48時間目の、VEGF処理ラットの場合、肝細胞のDNA合成活性が増大すると判明し、VEGFによる新脈管形成の刺激が肝臓再生時に重要であることが示唆されたが、VEGF処理ラットでは、VEGF処理を省いた対照ラットと比べて、回復した肝質量に統計的に有意な変化は認められなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Li, B., et al., J. Biol. Chem., 2000, Vol. 275, No. 38, pp. 29823-8
【発明の概要】
【0026】
本発明は、対象に対して有効量のVEGFR調節剤を投与する工程を含む、対象における肝成長を促進させるための方法を提供する。本発明に用いられるVEGFR調節剤とは、Flt−1アゴニストなどのVEGFレセプターの一つに対して特異的なアゴニストである。Flt−1アゴニストとしては、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)、P1GF又はVEGF−BなどのFlt−1と結合してこれを活性化させる成長因子、抗Flt−1アゴニスト抗体、あるいは、小分子アゴニストであることが好ましい。一つの好ましい実施態様では、Flt−1アゴニストは、そのVEGF又はそのKDR選択的変異体と併用して投与される。
【0027】
別の態様では、本発明は、対象の病的肝状態を治療する方法であって、病的肝状態を軽減するのに効果的な形で、対象に対してVEGFR調節剤を投与する工程を含む方法を提供する。本発明により治療可能な病的肝状態として、限定はされないが、肝不全、肝炎、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死が挙げられる。好ましくは、VEGFR調節剤はFlt−1アゴニストを含むが、場合によってはFlt−1アゴニストを血管形成剤と組み合わせて含む。
【0028】
加えて、本発明は、対象の肝臓を肝毒性剤への曝露による障害から保護する方法であって、対象に対してVEGFR調節剤を投与する工程を含み、そのVEGFR調節剤が肝臓を障害から効果的に保護する方法を提供する。好ましくは、VEGFR調節剤はFlt−1アゴニストを含むが、場合によってはFlt−1アゴニストを血管形成剤と組み合わせて含む。一態様では、VEGFR調節剤は、対象が肝毒性剤に曝露される以前に、又は、曝露と同時に投与され、該肝毒性剤は、癌治療用の化学療法薬又は放射線治療薬などの治療剤である。しかして、本方法は、高用量の治療剤に対して対象の許容性をもたらすことによって治療効果を向上させるのに役立つ。別の態様では、VEGFR調節剤は、対象が肝毒性剤に曝露された後で、対象内において検出可能な肝臓障害が生じる前に投与される。このような方法は、対象が偶発的に肝毒性剤に曝露されて生じる肝臓障害を治療するのに特に役に立つものである。
【0029】
本発明の様々な方法において、主題の薬剤は、主題薬剤の遺伝子組換え形態を発現する哺乳類細胞(例えば、CHO細胞)を含有する細胞製剤などの全身送達系を通じて対象に投与することが可能である。全身送達系には、精製薬剤とポリマーマトリックスを含有する徐放製剤が含まれる。あるいは、本発明の主題薬剤は、その主題薬剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与することが可能である。本発明による肝標的遺伝子運搬ベクターとして、遺伝子治療用として確立されたウイルスの、又は非ウイルスのベクターを使用することができる。
【0030】
更に、VEGFR調節剤を含む製造品とキットまたも提供される。
【0031】
[好適な実施態様の詳細な説明]
概要
本発明は、全身に送達されたVEGFR調節剤がパラ分泌の形で作用して、肝成長を促進させる協奏系を初めて提供するものである。本発明の協奏系は、特定の作用機序に拘束されることなく、VEGFレセプター活性化後に類洞内皮細胞から生じるシグナル事象の局部カスケードを形成し、このカスケードは、肝細胞増殖や肝成長を促進させる点で、肝臓の主な分裂促進因子であるHGFの全身性送達と比べて遥かに有効で有利である。脈管構造は、栄養物と酸素の運搬や分解物の除去を通して、増殖過程に対して十分ではないが必要であると長年に亘って考えられてきた。本発明により立証されたことは、適切な指示シグナル伝達後は、血管内皮が成長/生存過程を開始させ増幅させるのに十分であって、最終の器官サイズの目標点を打開し、実質を損傷から保護できることである。
【0032】
特に注目に値するのは、LSECの重要なパラ分泌活性の調節におけるVEGFR−1(Flt−1)RTKの新規な機能についての驚くべき発見であり、その新規機能は肝臓を増殖させ保護する。目覚しいことに、VEGFR−1は活性化されると、血管新生の刺激を欠いても、肝臓の実質組織を中毒性損傷から実質的に保護するのに十分である。実際に、本発明は、内皮により媒介された実質細胞に対する保護作用と、血管新生の刺激とを切り離して考えることが可能なことの証拠を初めて提示する。
【0033】
VEGFに関する既知の用量制限作用(例えば、低血圧、水腫)(ヤングら(Yanget al.)著、1998年、「ジェイ・ファーマコル・エクスプ・セル(J. Pharmacol. Exp. Ther.)」、284、p. 103−10)がKDRの活性化と関連するならば(クライチェ(Kliche)とウォルテンバーガー(Waltenberger)共著、2001年、「アイユービーエムビー・ライフ(IUBMB Life)」、52、p. 61−6)、Flt−1選択的VEGF変異体などのFlt−1アゴニストを基に、肝保護向けの治療計画を立てることができると考えられる。KDRアゴニストや他の血管新生因子を一層低い比率で添加することにより、血管新生を刺激すれば、最大の治療効果が達成される。また別法として、KDRに対してFlt−1を優先的に活性化させるVEGF変異体は、安全性と有効性の最適特性を兼備するかもしれない。潜在的適応症として、様々な薬物、化学療法又は毒素から生じる急性肝臓障害、並びに、肝硬変を含めた慢性損傷が挙げられる。
【0034】
発明の組成物とその製造
本発明は、肝臓内でVEGFRの活性を調節することが可能な種々の薬剤を使用することに関する。本明細書中での「VEGFレセプター」又は「VEGFR」という用語は、VEGFのための細胞性レセプター、通常は、血管内皮細胞上に見出される細胞表面レセプター、並びに、VEGFを結合する能力を保持している当該レセプターの断片や変異体(細胞外ドメインの断片又は切断型)を意味する。VEGFRの数例を挙げると、文献中でFlt−1やKDR/Flk−1と呼ばれているタンパク質キナーゼレセプターがある。ドフリ−スら(DeVries et al.)著、「サイエンス(Science)」、255、p. 989、1992年;シブヤら(Shibuya et al.)著、「オンコジーン(Oncogene)」、5、p. 519、1990年;マシュウズら(Matthews et al.)著、「プロク・ナト・アカド・サイ(Proc. Nat. Acad. Sci.)」、88、p. 9026、1991年;ターマンら(Terman et al.)著、「オンコジーン(Oncogene)」、6、p. 1677、1991年;並びに、ターマンら(Terman et al.)著、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コミュン(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」、187、p.1579、1992年。Flt−1(fms様チロシンキナーゼ)やKDR(キナーゼドメイン領域)のレセプターは、高い親和性でVEGFと結合する。KDRのマウスホモログのFlk−1(胎児肝キナーゼ−1)では、配列の85%がヒトKDRと同一である。フェラーラ(Ferrara)著、1999年、「キドニー・イント(Kidney Intl.)」、56、p. 794−814。Flt−1とKDR/Flk−1は、両方とも細胞外ドメイン(ECD)に7つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインと、1つの膜貫通領域と、キナーゼ挿入ドメインにより遮断された1つのチロシンキナーゼ(TK)コンセンサス配列を有している。Flt−1はrhVEGF165に対して最も高い親和性を有し、そのKdは約10〜20pMである。KDRのVEGFに対する親和性は一層低く、そのKdは約75〜125pMである。
【0035】
その他のVEGFレセプターとして、VEGFで架橋標識できるもの、あるいはKDR又はFlt−1と共免疫沈降できるものが挙げられる。VEGF121には結合しないがVEGF165に結合する別のVEGFレセプターが同定されている。ソーカーら(Soker et al.)著、1998年、「セル(Cell)」、92、p. 735−45。アイソフォーム特異的VEGF結合部位は、神経細胞の誘導を媒介するコラプシン/セマホリンファミリーのレセプターであるヒトニューロピリン−1と相等しい。
Flt−1レセプターやKDRレセプターは非内皮細胞中にも存在するが、主として血管内皮細胞の表面に結合レセプターとして存在する。また、数種の可溶型のVEGFRも見出されている。例えば、Flt−1の選択的スプライシング可溶型(sFlt−1)をコードするcDNAであって、7番目のIg様ドメインと、膜貫通配列と、細胞質ドメインとが欠如しているcDNAがヒトの臍静脈内皮細胞(HUVEC)で同定されている。ケンダルら(Kendall et al.)著、1996年、「バイオケム・バイオフィズ・リス・コム(Biochem. Biophys. Res. Comm.)」、226、p. 324−328。
【0036】
本明細書中の「薬剤」、あるいは、代替の「化合物」という用語は、広義に、同定し得る分子構造と生理化学特性を有するいかなる物質をも指す。VEGFR活性を調節することが可能な薬剤の非限定的な例を挙げると、抗体、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、多糖類、オリゴ糖、核酸、生物有機化学分子、ペプチドミメティック、薬理学的薬剤とその代謝産物、転写及び翻訳調節配列等がある。
【0037】
本発明に含まれるVEGFR調節剤はVEGFRのアゴニスト又はアンタゴニストである。「アゴニスト」とは、その標的の生物活性を媒介又は活性化させる薬剤である。例えば、VEGFRアゴニストは、VEGFRの細胞外ドメインに結合し、シグナル伝達活性を惹起させる成長因子リガンド又は抗体でありうる。その代替として、VEGFRアゴニストは、VEGFRの細胞質ドメインに結合し、そのチロシンリン酸化を媒介する小分子化合物である。他方、「アンタゴニスト」とは、その標的の生物活性を阻止し、抑制し、又は減少させるものである。このような抑制作用は、例えば、レセプターに対するリガンド結合、レセプター複合体生成、レセプター複合体内でのチロシンキナーゼレセプターのチロシンキナーゼ活性、及び/又は、レセプター内での、又はレセプターによるチロシンキナーゼ残基のリン酸化を、阻害するような、任意の手段で生じうる。
【0038】
一つの好ましい実施態様では、本発明のアゴニスト又はアンタゴニストは、Flt−1に対して「選択的」であるか、又は「特異的」である。即ち、当該アゴニスト又はアンタゴニストは、KDRなどの他のレセプターチロシンキナーゼではなくてFlt−1を専ら又は好ましくは調節する。別の実施態様では、本発明のアゴニスト又はアンタゴニストは、KDRに対して「選択的」であるか、又は「特異的」である。即ち、当該アゴニスト又はアンタゴニストは、Flt−1などの他のレセプターチロシンキナーゼではなくてKDRを専ら又は好ましくは調節する。
【0039】
一つの態様では、本発明のVEGFRアゴニストは、Flt−1(以下、「Flt−1選択的VEGF変異体」、又は「Flt−sel」、又は「Fltsel」と呼ぶ)に選択的に結合可能なVEGF変異体ポリペプチドを含む。本明細書中での「VEGF」という用語は、ロイングら(Leung et al.)著、「サイエンス(Science)」、246、p. 1306、1989年、並びに、フックら(Houck et al.)著、「モル・エンドクリン(Mol. Endocrin.)」、5、p. 1806、1991年に記載されているように、165−アミノ酸の血管内皮細胞成長因子と、関連する121−、189−、206−アミノ酸の血管内皮細胞成長因子と、それらの自然発生的なアレル形態や加工形態を意味する。また、「VEGF」という用語は、アミノ酸8〜109個、又は165−アミノ酸ヒト血管内皮細胞成長因子1〜109個を含むポリペプチドの切断形態を示すのに用いられている。本発明では、このような形態のVEGFは、例えば、「VEGF(8〜109)」、「VEGF(1〜109)」又は「VEGF165」として確認できる。「切断型」天然VEGFのアミノ酸の位置には、天然VEGF配列に示されている通りに番号が付される。例えば、切断型天然VEGFのアミノ酸の位置17(メチオニン)は天然VEGFの場合も位置17(メチオニン)である。切断型天然VEGFは、KDRレセプターやFlt−1レセプターに対して、天然VEGFに匹敵した結合親和性を有する。
【0040】
本明細書中での「VEGF変異体」という用語は、天然VEGF配列内に1個又はそれ以上のアミノ酸の突然変異を含むVEGFポリペプチドを意味する。場合によっては、上記の1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異にはアミノ酸置換(群)が含まれる。ここに記載されるVEGF変異体を手短に表示する目的で、番号は、推定天然VEGFのアミノ酸配列に沿ったアミノ酸残基位置を意味することに留意されたい(前記のロイングら(Leung et al.)、並びに、前記のフックら(Houck et al.)に記載されている)。
【0041】
本発明に使用されるVEGFとその変異体は、当該分野でよく知られた様々な方法により調製することが可能である。好ましくは、本発明の方法に用いられるVEGFには、組換えVEGF165が含まれる。VEGFのアミノ酸配列変異体は、VEGF DNAの突然変異により調製できる。例えば、これらの変異体として、前記のロイングら(Leung et al.)、並びに、前記のフックら(Houck et al.)に示されているように、アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入、又は置換が挙げられる。欠失と挿入と置換とを組み合わせれば、所望の活性を有する最終コンストラクトに到達できる。明白なことに、変異体をコード化するDNA中でなされる変異は、配列をリーディングフレームから外してはならず、また二次mRNA構造を産生することもある相補領域を作り出さないことが好ましい。欧州特許出願公開公報第75,444A。
【0042】
場合によっては、VEGF変異体は、天然VEGFをコード化するDNA中でのヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により、又はファージディスプレイ法によって、変異体をコードするDNAを産生し、そのDNAを組換え細胞培養物中で発現させることにより、調製される。
【0043】
アミノ酸配列の変異を導入する部位は予め決められるが、突然変異それ自体を事前に決定する必要はない。例えば、所定部位での突然変異の性能を最適化するために、ランダムな突然変異誘発を標的コドン又は領域で実施することができ、発現されたVEGF変異体をスクリーニングして所望の活性の最適な組み合わせを得る。既知の配列を有するDNA中で置換変異を予め定められた部位で行う技術は周知であり、例えば部位特異的突然変異誘発が知られている。
【0044】
好ましくは、ここに記載のVEGF変異体の調製は、PCT公報WO00/63380号に記載されているもののような、ファージディスプレイ法により達成される。
【0045】
このようなクローンを選択した後、変異せしめられたタンパク質領域が除去され、タンパク質の生産に適したベクター中、一般には、適切な宿主の形質転換に用いうるタイプの発現ベクター中に配される。
【0046】
アミノ酸配列欠失は一般には約1〜30個の残基、より好ましくは1〜10個の残基であり、典型的には近接したものである。
【0047】
アミノ酸配列挿入は、一残基から本質的に非制限長のポリペプチドのアミノ-及び/又はカルボキシル-末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。配列内挿入(つまり、天然VEGF配列内への挿入)は一般には約1から10残基、より好ましくは1から5残基の範囲でありうる。末端への挿入の例は組換え宿主からの分泌を容易にするためにN末端へ、宿主細胞に異種であろうと相同であろうと、シグナル配列を融合させることを含む。
【0048】
更なるVEGF変異体は、天然VEGFの少なくとも一のアミノ酸残基が取り除かれ、その場所に異なった残基が挿入されたものである。そのような置換は表1に示されたものに従ってなすことができる。
【0049】
表1
元の残基 例示的置換
Ala (A) gly; ser
Arg (R) lys
Asn (N) gln; his
Asp (D) glu
Cys (C) ser
Gln (Q) asn
Glu (E) asp
Gly (G) ala; pro
His (H) asn; gln
Ile (I) leu; val
Leu (L) ile; val
Lys (K) arg; gln; glu
Met (M) leu; tyr; ile
Phe (F) met; leu; tyr
Ser (S) thr
Thr (T) ser
Trp (W) tyr
Tyr (Y) trp; phe
Val (V) ile; leu
【0050】
機能又は免疫学的同一性のある変化は、表1のものより少ない保存性の置換を選択することにより、つまり(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩を維持するのにその効果が有意に異なる残基を選択することにより、なされる。一般にVEGF変異体特性に最も大きな変化をもたらすことが期待される置換は、(a)グリシン及び/又はプロリン(P)を、他のアミノ酸に置換し又は欠失又は挿入し;(b)親水性残基、例えばセリル又はスレオニルを、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、又はアラニルに(又はそれによって)置換し;(c)システイン残基を、任意の他の残基に(又はそれによって)置換し;(d)電気陽性側鎖を持つ残基、例えばリジル、アルギニル又はヒスチジルを、電気陰性電荷を有する残基、例えばグルタミル又はアスパルチルに(又はそれによって)置換し;(e)電気陰性側鎖を有する残基を、電気陽性電荷を有する残基に(又はそれによって)置換し;又は(f)嵩のある側鎖を持つ残基、例えばフェニルアラニンを、そのような側鎖を持たないもの、例えばグリシンに(又はそれによって)置換するものである。
【0051】
置換、欠失又は挿入の効果は常套的なスクリーニングアッセイ法を使用して当業者が即座に評価することができる。例えば、ファージディスプレイ選択VEGFは組換え細胞培養中に発現され、場合によっては細胞培養物から精製することができる。ついで、VEGF変異体について、KDR又はFlt-1レセプター結合親和性及び本出願に開示されたもののような他の生物学的活性を評価することができる。細胞可溶化物又は精製VEGF変異体の結合特性又は活性は、所望される特性についての適切なスクーニングアッセイでスクリーニングすることができる。例えば、与えられた抗体の親和性のような、天然VEGFと比較した場合のVEGF変異体の免疫学的特性の変化が望ましいものでありうる。そのような変化は当該分野で知られている技術に従って実施することができる競合タイプの免疫アッセイによって測定することができる。VEGF変異体の各レセプター結合親和性は、当該分野で知られ以下の実施例に更に記載されているELISA、RIA及び/又はBIAコアアッセイによって決定することができる。本発明の好適なVEGF変異体はまたKDRレセプターのリン酸化を誘導する能力を反映するKIRAアッセイ(例えば実施例に記載のもの)において活性を示す。本発明の好適なVEGF変異体は(例えば実施例のHUVEC増殖アッセイのような既知の方法によって決定することができる)内皮細胞増殖を付加的に又は別に誘導する。ここに開示された特異的VEGF変異体に加えて、キ−トら(Keyt et al.)著、1996年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、271、p. 5638−5646に記載のVEGF変異体も、本発明で使用できると考えられる。
【0052】
Flt−1とその製造方法は既知であって、後の実施例に記載されている。Flt−1に関する更なる開示は、PCT公報WO00/63380と、リーら(Li et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 29823−29828に見出せる。好ましいFlt−1突然変異体は、1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異体を含み、Flt−1レセプターに対する結合親和性を発現する。その結合親和性は、天然VEGFのFlt−1レセプターに対する結合親和性に等しいか、大きい(≧)。より好ましくは、このようなVEGF変異体は、天然VEGFのKDRに対して示される結合親和性に比較し、KDRに対して小さい(<)結合親和性を示す。そのVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べほぼ等しいか(変化なし)、大きい場合(増加)、またVEGF変異体のKDRレセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べて小さいか、ほぼ除去されている場合、VEGF変異体の結合親和性は本発明の目的では、Flt−1レセプターに対して「選択的」と見なされる。本発明の好ましいFlt−1選択的VEGF変異体は、KDRに対して少なくとも10倍以下の結合親和性を有し(天然VEGFに比べて)、より好ましくは、KDRに対して少なくとも100倍以下の結合親和性を有する(天然VEGFに比べて)。VEGF変異体の各結合親和性は、当該分野で知られPCT公報WO00/63380に記載されているELISA、RIA、及び/又はBIAコアアッセイによって決定することができる。
【0053】
本発明の幾つかの態様では、様々な肝臓治療方法は、KDR活性を調節することが可能な薬剤を投与する工程を更に含む。例えば、KDRアゴニストをFlt−1アゴニストと併用して投与し、肝成長又は肝再生を促進させることができる。KDRは、内皮細胞増殖でのVEGFの活性を媒介する主要なレセプターチロシンキナーゼとして同定されている。よって、KDRとFlt−1のアゴニストは、SECと肝細胞の双方の協奏的な増殖を誘発し、その結果、協調的肝成長を促進させる。
【0054】
一態様によると、KDRアゴニストは、KDRに選択的に結合可能なVEGF変異体ポリペプチドを含む(以下、「KDR選択的VEGF変異体」、又は「KDR−sel」、又は「KDRsel」と呼ぶ」。KDR−selVEGF変異体と、その製造方法は後の実施例中に詳述してある。KDR−selに関する更なる開示は、PCT公報WO00/63380と、リーら(Li et al.)著、2000年、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、275、p. 29823−29828に見出せる。好ましいKDR−selは、1個又はそれ以上のアミノ酸突然変異を含み、KDR−selレセプターに対する結合親和性を示し、その結合親和性は、天然VEGFのKDR−selレセプターに対する結合親和性に等しいか、大きい(≧)。より好ましくは、VEGF変異体は、天然VEGFのFlt−1に対して示される結合親和性に比較し、KDRに対して小さい(<)結合親和性を示す。そのVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べほぼ等しいか(変化なし)、大きい場合(増加)、またVEGF変異体のFlt−1レセプターに対する結合親和性が、天然VEGFに比べて小さいか、ほぼ除去された場合、VEGF変異体の結合親和性は本発明の目的では、KDRレセプターに対して「選択的」と見なされる。本発明の好ましいKDR−sel選択的VEGF変異体は、Flt−1レセプターに対して少なくとも10倍以下の結合親和性を有し(天然VEGFに比べて)、より好ましくは、Flt−1レセプターに対して少なくとも100倍以下の結合親和性を有する(天然VEGFに比べて)。VEGF変異体の各結合親和性は、当該分野で公知のELISA、RIA及び/又はBIAコアアッセイにより決定される。本発明の好適なKDR−selはKDRレセプターのリン酸化を誘導する能力を反映するKIRAアッセイにおいて活性をまた示す。更には、又は代替的に、本発明の好ましいKDR−sel選択的VEGF変異体は、内皮細胞の増殖を誘発する(実施例に記載のHUVEC増殖検査法などの当該分野で公知の方法で測定される)。
【0055】
一態様では、本発明において使用されるVEGFとその変異体は組換え法によって製造される。これらの方法で使用される単離されたDNAはここでは化学的に合成されたDNA、cDNA、染色体、又は染色体外DNAで、3'-及び/又は5'-フランキング領域を持つか持たないものを意味するものと理解される。好ましくは、ここに記載されるVEGF及びその変異体は組換え細胞培養での合成によって作製される。
【0056】
そのような合成においては、VEGF又はVEGF変異体をコードする核酸を確保することが先ず必要である。VEGF分子をコードするDNAは、ウシ下垂体濾胞上皮細胞から、(a)これらの細胞からcDNAライブラリーを調製し、(b)相同性配列を含むライブラリー中のクローンを検出するためにVEGF又はその断片をコードする標識DNA(100塩基対長まで又はそれ以上)を用いてハイブリダイゼーション分析を行い、(c)制限酵素分析及び核酸配列決定によってクローンを分析して完全長クローンを同定することによって、得ることができる。完全長クローンがcDNAライブラリーに存在しないならば、そのときは、初めてここに開示された核酸配列情報を使用して様々なクローンから適切な断片を回収し、クローンに共通の制限部位でライゲーションさせて、VEGFをコードする完全長クローンを構築することができる。別法では、ゲノムライブラリーが所望のDNAを提供する。
【0057】
このDNAがライブラリーからひとたび同定され単離されたならば、それを更なるクローニングのため又は発現のために複製可能ベクター中にライゲートさせる。
【0058】
組換え発現系の一例では、VEGFコード化遺伝子はVEGFをコードするDNAを含む発現ベクターでの形質転換によって細胞系中に発現される。培養培地又は宿主細胞のペリプラズム中にVEGFを得るように、つまり分泌分子を得るように、そのようなプロセシングを達成可能な宿主細胞を形質転換させることが好ましい。
【0059】
「形質移入」とは、任意のコード化配列が実際に発現されるかどうかにかかわらず、宿主細胞が発現ベクターを取り込むことを意味する。例えばCaPO4及びエレクトロポレーションのように、数多くの形質移入法が当業者に知られている。このベクターの作用の任意の徴候が宿主細胞内に生じた場合に成功裡の形質移入が一般に認められる。
【0060】
「形質転換」とは、染色体外成分として又は染色体全体によってDNAが複製可能であるように、生物体中にDNAを導入することを意味する。使用される宿主細胞に応じて、そのような細胞に適した標準的な方法を使用して形質転換はなされる。コーヘン(Cohen)著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA))」、69、p. 2110、1972年、並びに、マンデルら(Mandel et al.)著、「ジェイ・モル・バイオル(J. Mol. Biol.)」、53、p. 154、1970年に記載されたような塩化カルシウムを用いるカルシウム処理が原核生物又は実質的な細胞壁障壁を含む他の細胞に一般的に使用される。そのような細胞壁を持たない哺乳動物細胞に対しては、グラハム(Graham)とファン・デル・エブ(van der Eb)共著、「ウィロロジー(Virology)」、52、p. 456−457、1978年に記載されたカルシウムリン酸沈降法が好ましい。哺乳動物細胞の宿主系の形質転換の一般的観点は、1983年8月16日に発行の米国特許第4,399,216号にアクセル(Axel)により記載されている。酵母菌中への形質転換は、典型的には、ファン・ゾーリンゲンら(Van Solingen)著、「ジェイ・バクト(J. Bact.)」、130、p. 946、1977年、並びに、シャオら(Hsiao et al.)著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA))」、76、p. 3829、1979年の方法に従って実施される。しかしながら、核注入又はプロトプラスト融合のようなDNAを細胞に導入する他の方法もまた使用することができる。
【0061】
ここに開示したベクターと方法は、広範囲の原核生物や真核生物の宿主細胞に適用できる。
【0062】
一般には、もちろん、原核生物が本発明に有用なDNA配列の初期クローニング及びベクターの構築に好適である。例えば、大腸菌K12株MM294(ATCC番号31446) が特に有用である。使用することができる他の微生物株には、大腸菌株、例えば大腸菌B及び大腸菌X1776(ATCC番号31537)が含まれる。これらの例はもちろん限定ではなく例示のためのものである。
【0063】
原核生物もまた発現に使用することができる。上述の株、並びに大腸菌株W3110(F-、ラムダ-、原栄養菌、ATCC番号27325)、K5772(ATCC番号53635)、及びSR101、桿菌、例えば枯草菌、及び他の腸内細菌科、例えばネズミチフス菌又はセラチア・マルセセン(Serratia marcesans)、及び様々なシュードモナス種を使用することができる。
【0064】
一般に、宿主細胞と適合性のある種から取り出されたレプリコン及びコントロール配列を含むプラスミドベクターがこれらの宿主との関連で使用される。ベクターは、通常、複製部位並びに形質転換細胞中において表現型の選択を提供可能であるマーキング配列を担持する。例えば大腸菌は、典型的には、大腸菌種から誘導されたプラスミドのpBR322を使用して形質転換される(例えば、ボリバーら(Bolivar et al.)著、「ジーン(Gene)」、2、p.95、1977年を参照)。pBR322はアンピシリン及びテトラサイクリン耐性の遺伝子を含み、よって形質転換された細胞を同定するための容易な手段を提供する。pBR322プラスミド又は他の微生物プラスミド又はファージは、それ自身のタンパク質の発現のために微生物が使用することができるプロモーターをまた含まなければならず、あるいはこれを含むように改変されなければならない。
【0065】
組換えDNAの構築に最も一般的に使用されるプロモーターには、β−ラクタマーゼ(ぺニシリナーゼ)とラクトースのプロモーター系が含まれ(チャンら(Chang etal.)著、「ネイチャー(Nature)」、375、p. 615、1978年;イタクラら(Itakura et al.)著、「サイエンス(Science)」、198、p. 1056、1977年;ゲーデルら(Goeddel et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、281、p. 544、1979年」、更にトリプトファン(trp)のプロモーター系が含まれる(ゲーデルら(Goeddel et al.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、8、p.4057、1980年;欧州特許公開公報第0,036,776号)。これらは最も一般的に使用されるプロモーターであるが、他にも微生物プロモーターが発見されて利用されている。そのヌクレオチド配列の詳説が公表されているので、当業者であれば、上述の微生物プロモーターをプラスミドベクターに機能的に結合させることができる(例えば、シーベンリストら(Siebenlist et al.)著、「セル(Cell)」、20、p. 269、1980年を参照)。
【0066】
原核生物に加えて、酵母菌培養物のような、真核微生物もまた使用することができる。多くの他の株が一般的に入手可能であるが、出芽酵母又は一般的なパン酵母が、真核微生物のなかで最も一般的に使用されている。酵母菌属での発現に対しては、例えばプラスミドYRp7(スチンヒコムら(Stinchcome et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、282、p. 39、1979年;キングスマンら(Kingsman et al.)著、「ジーン(Gene)」、7、p. 141、1979年;ツヘンパーら(Tschemper et al.)著、「ジーン(Gene)」、10、p. 157、1980年)が一般的に使用される。このプラスミドは、例えばATCC番号44076又はPEP4-1のような、トリプトファン中で成長する能力を欠く酵母変異株に対して選択マーカーを提供するtrp1遺伝子を既に含んでいる(ジョーンズ(Johnes)著、「ジェネティックス(Genetics)」、85、p. 12、1977年)。酵母宿主細胞ゲノムに特徴的なものとしてのtrp1破壊の存在は、ついでトリプトファンの不存在下での成長による形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。
【0067】
酵母ベクターにおける好適なプロモーター配列には、3-ホスホグリセレートキナーゼ (ヒッツェマンら(Hitzeman et al.)著、「ジェイ・バイオル・ケム(J. Biol. Chem.)」、255、p. 2073、1980年) 又は他の糖分解酵素(ヘスら(Hess et al.)著、「ジェイ・アドブ・エンザイム・リグ(J. Adv. Enzyme Reg.)」、7、p. 149、1968年;ホーランドら(Holland et al.)著、「バイオケミストリー(Biochemistry)」、17、p. 4900、1978年)、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-ホスファートイソメラーゼ、3-ホスホグリセラートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのプロモーターが含まれる。適切な発現プラスミドの構築では、これらの遺伝子に関連する終結配列がまた発現が望まれる配列の発現ベクター3’中に結合されて、mRNAのポリアデニル化及び終結がもたらされる。成長条件によって制御される転写の更なる利点を有する他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解性酵素、及び上述のグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用の原因酵素のプロモーター領域である。酵母適合性プロモーター、複製起点及び終結配列を含む任意のプラスミドベクターが適している。
【0068】
微生物に加えて、多細胞生物から誘導された細胞の培養物もまた宿主として使用することができる。原理的には、脊椎動物か無脊椎動物の培養物かによらず、任意のそのような細胞培養物が作用可能である。しかし、脊椎動物細胞が最も興味深く、培養(組織培養)中の脊椎動物細胞の増殖が近年において常套的な手順となっている (「ティッシュ・カルチャー(Tissue Culture)」、出版社:アカデミック・プレス(Academic Press)、編集者:クル−ス(Kruse)とパターソン(Patterson)、1973年)。そのような有用な宿主細胞株の例はVERO及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、及びW138、BHK、COS−7、293、及びMDCK細胞株である。そのような細胞に対する発現ベクターは、通常は(必要ならば)複製起点、発現される遺伝子の前に位置するプロモーターを、任意の必要なリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結因子配列と共に含む。
【0069】
哺乳動物細胞での使用に対しては、発現ベクター上のコントロール機能はしばしばウイルス材料によってもたらされる。例えば、一般的に用いられるプロモーターはポリオーマ、アデノウイルス2、そして最も頻繁にはサルウイルス40(SV40)から誘導される。SV40の初期及び後期プロモーターは、双方ともSV40ウイルス複製起点を含む断片としてウイルスから簡単に得られるから、特に有用である(ファイヤースら(Fiers et al.)著、「ネイチャー(Nature)」、273、p. 113、1978年)。ウイルス複製起点に位置するBg1I部位に向けてHindIII部位から伸展するおよそ250塩基対の配列が含まれているならば、より小さい又は大きいSV40断片をまた使用することができる。更に、そのようなコントロール配列が宿主細胞系と適合性があるならば、所望の遺伝子配列に通常は関連したプロモーター又はコントロール配列を利用することがまたでき、しばしばそれが望ましい。
【0070】
複製起点は、例えばSV40又は他のウイルス(例えばポリオーマ、アデノ、VSV、BPV)源から誘導することができるもののような、外因性起点を含ませるベクターの構築によってもたらされるか、又は宿主細胞染色体複製メカニズムによってもたらされうる。ベクターが宿主細胞染色体中に組み込まれたならば、後者がしばしば十分である。
【0071】
満足できる量のタンパク質が細胞培養によって産生される;しかしながら、二次コード化配列を使用する精製は生産量を更に向上させるのに役立つ。一つの二次コード化配列は、例えばメトトレキセート(MTX)のような、外部から制御されるパラメーターによって影響を受けるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を含み、よってメトトレキセート濃度の制御によって発現の制御が可能になる。
【0072】
VEGF及びDHFRタンパク質双方をコードするDNA配列を含む本発明のベクターによる形質移入のための好適な宿主細胞を選択する場合、用いられるDHFRタンパク質のタイプに応じて宿主を選択することが適切である。野生型DHFRタンパク質が用いられる場合、DHFRに欠損がある宿主細胞を選択することが好ましく、よってヒポキサンチン、グリシン及びチミジンを欠く選択培地中での成功裏の形質移入のためのマーカーとしてDHFRコード化配列を使用することが可能になる。この場合の適切な宿主細胞は、ウルローブ(Urlaub)とチャシン(Chasin))共著、「プロク・ナトル・アカド・サイ・(ユーエスエー)(Pro. Natl. Acd. Sci. (USA))」、77、p. 4216、1980年によって調製され記載されたDHFR活性を欠くチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。
【0073】
他方、MTXに対する結合親和性が低いDHFRタンパク質が調節配列として使用されるならば、DHFR欠失細胞を使用する必要はない。変異体DHFRはメトトレキセートに耐性があるので、宿主細胞がそれ自体でメトトレキセート感受性であると仮定して、MTX含有培地を選択手段として使用することができる。MTXを吸収可能な殆どの真核生物細胞はメトトレキセート感受性であると思われる。そのような有用な細胞株の一つはCHO株のCHO-K1(ATCC番号CCL61)である。
【0074】
所望のコード化及びコントロール配列を含む適切なベクターの構築には標準的なライゲーション技術を用いる。単離されたプラスミド又はDNA断片は切断され、仕立てられ、必要とされるプラスミドを調製するのに望ましい形態に再結合される。
【0075】
平滑末端が必要とされる場合は、調製物は、10ユニットのポリメラーゼI(クレノー)で15℃にて15分間処理し、フェノール-クロロホルムで抽出し、エタノール沈殿されうる。
【0076】
切断された断片のサイズ分離は、例示すると、ゲーデルら(Goeddel etal.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、8、p. 4057、1980年に記載された6パーセントのポリアクリルアミドゲルを使用して、実施することができる。
【0077】
正しい配列がプラスミドに作製されたかを確認するために、典型的にはライゲーション混合物を用いて大腸菌K12株294(ATCC31446)又は他の適切な大腸菌株を形質転換し、成功裏の形質転換体を適当な場合はアンピシリン又はテトラサイクリン耐性によって選択する。形質転換体からのプラスミドを調製し、メシングら(Messing et al.)著、「ヌクレイック・アシッズ・リス(Nucleic Acids Res.)」、9、p. 309、1981年に記載の方法又はマキサムら(Maxam et al.)著、「メソッズ・オブ・エンザイモロジー(Methods of Enzymology)」、65、p. 499、1980年に記載の方法によって、制限酵素マッピング及び/又はDNA配列決定をして分析する。
【0078】
哺乳動物細胞宿主中へのDNAの導入と安定な形質移入体の培地中での選択後に、DHFR-タンパク質-コード化配列の増幅を、DHFR活性の競合インヒビターであるおよそ20000−500000nM濃度のメトトレキセート(MTX)の存在下で宿主細胞培養物を成長させることによって実施する。効果的な濃度範囲は、もちろんDHFR遺伝子の性質と宿主の特性に非常に依存する。明らかに、一般的に定まる上限及び下限は確認できない。適した濃度の他の葉酸類似体又はDHFRを阻害する他の化合物もまた使用できる。しかし、MTX自体が簡便で、直ぐに利用でき、効果的である。
【0079】
本発明の幾つかの態様では、Flt−1アゴニストは、Flt−1に選択的に結合してFlt−1を活性化させる成長因子を含む。Flt−1に特異的に結合するが、KDRには結合しない何種類かの天然に生じるVEGF相同体が同定されており、その相同体には、限定はされないが、胎盤成長因子(P1GF)とVEGF−Bが含まれる。P1GFのアミノ酸配列はその53%までがVEGFの血小板由来成長因子様ドメインと同一である。パークら(Park et al.)著、1994年、「ジェイ・バイオ・ケム(J. Bio. Chem.)」、269、p. 25646−54;マグリオンら(Maglione et al.)著、1993年、「オンコジーン(Oncogene)」、8、p.925−31。VEGFの場合と同様に、mRNAの選択的スプライシングにより、P1GFの別種が誘導でき、そのタンパク質は二量体形態で存在する。前記のパークら(Park et al.)。P1GF−1とP1GF−2は、両方とも高い親和性でFlt−1に結合するが、両方ともKDRと相互作用することはできない。前記のパークら(Park et al.)。
【0080】
VEGF−Bは、またFlt−1に特異的に結合するように思われる2種のアイソフォーム(167と185残基)として生産される。ペッパーら(Pepper et al.)著、1998年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、95、p. 11709−11714。VEGFの長鎖型のように、VEGF−Bは、ヘパリン添加後に可溶形態で放出され得る膜結合タンパク質として発現される。また、VEGF−BとVEGFは、同時発現されるとヘテロ二量体を形成することができる。オロフッソンら(Olofsson et al.)著、1996年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、93、p. 2576−2581。
【0081】
本発明において有用な化合物には、RTKの細胞内チロシンキナーゼドメインにおいてその調節機能を作用させる小有機分子が含まれる。ある好適な実施態様では、小分子アゴニストを使用してチロシンリン酸化を刺激することで、対応するシグナル伝達経路を活性化させる。別の実施態様では、小分子インヒビター又はアンタゴニストを使用することで、RTKの活性を阻止及び/又は失活させている。本発明の目的では、多数の小分子化合物を使用することができる。これらには、限定されるものではないが、ビス単環式、二環式、又は複素環式アリール化合物、ビニレン-アザインドール誘導体(PCT公報WO94/14808)、1−シクロプロピル−4−ピリジル−キノロン類(米国特許第5330992号)、スチリル化合物(米国特許第5217999号)、スチリル置換ピリジル化合物(米国特許第5302606号)、ある種のキナゾリン誘導体(欧州特許出願公開第0566266A1号)、セレノインドール類及びセレン化物(PCT公報WO94/03427号)、三環式ポリヒドロキシ化合物(PCT公報WO92/21660号)、並びにベンジルホスホン酸化合物(PCT公報WO91/15495号)が含まれる。
【0082】
本発明に使用される化合物は、アゴニスト抗体又はアンタゴニスト抗体を含む。本発明の抗体は、それが必要なアゴニスト又はアンタゴニスト活性を発揮する限り、レセプター(Flt−1など)に対して特異的であるか、又はレセプターのリガンドに対して特異的なものである。本発明の好ましい抗体には、抗Flt−1抗体が含まれる。更に好ましくは、抗Flt−1抗体が、KDR機能に影響を及ぼすことなく、Flt−1に選択的に結合してそれを調節する。
【0083】
「抗体」という用語は広義で使用され、モノクローナル抗体(完全長の、又は無傷のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、並びに、所望の生物活性を発揮する限り抗体断片を含む。本発明の目的では、非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいは、ヒト抗体も使用できることが考慮される。本発明に適した様々な抗体を製造する方法は、当業者にとって周知である。
【0084】
天然に生じる抗体は、4本のポリペプチド鎖と、ジスルフィド結合により相互に接続された2本の同一重鎖(H)と2本の同一の軽鎖(L)を含んでいる。各重鎖は、1つの重鎖可変領域(VH)と1つの重鎖定常領域で構成されている。その重鎖定常領域は、天然形状では3つの領域CH1、CH2、CH3で構成されている。各軽鎖は、1つの軽鎖可変領域(VL)と1つの軽鎖定常領域で構成されている。その軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成されている。VHとVLの領域を更に、一段と保存的であるフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域と共に散在した、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に分割することができる。VHとVLのそれぞれは、次の順、即ち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRと4つのFRで構成されている。任意の脊椎動物種に由来した抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれて峻別される2つのタイプの一方に割り当てることができる。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)を種々のクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5つの主要クラスがあり、その中の幾つかは、例えば、IgG−1、IgG−2、IgA−1、IgA−2等のサブクラス(アイソタイプ)に更に分割される。異なったクラスの免疫グロブリンに相当する重鎖定常領域はそれぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。免疫グロブリンの異なったクラスのサブユニット構造や三次元立体構造は周知であり、例えば、アバスら(Abbas et al.)著、「セルラー・アンド・モル・イムノロジー(Cellular and Mol. Immunology)」、4版、2000年に概説されている。抗体は、抗体又は抗体部分と、1つ又はそれ以上の別のタンパク質又はペプチドとの共有結合又は非共有結合により形成されたより大きな融合分子の一部分でありうる。そのような融合タンパク質の例として、ストレプトアビジンのコア領域を使用し、四量体scFv分子を形成すること(キプリヤノフら(Kipriyanov et al.)著、1995年、「ヒューマン・アンチボディズ・アンド・ハイブリドマス(Human Antibodies and Hybridomas)」、6、p. 93−101)、並びに、システイン残基と、マーカーペプチドと、C末端ポリヒスチジンタグとを使用し、二価のビオチン化scFv分子を形成すること(エス・エム・キプリヤノフら(S. M. Kipriyanov et al.)著、1994年、「モル・イムノル(Mol. Immunol.)」、31、p. 1047−1058)を挙げることができる。
【0085】
Flt−1又はKDRの活性を調節し得る他の薬剤には、限定はされないが、例えば、Flt−1又はKDRの可溶性細胞外ドメインペプチド、Flt−1又はKDR結合ペプチド、Flt−1又はKDR特異的リボザイム、アンチセンスポリヌクレオチド、並びに、RNAリガンドがある。例えば、アンタゴニストとしてのFlt−1の可溶型細胞外断片が米国特許第6100071号に記載されている。
【0086】
発明のアッセイ方法
一態様では、本発明は、肝作用の調節に重要な因子の遺伝子発現を上方制御するために、VEGFRアゴニストを使用する方法を提供する。一つの好ましい実施態様では、非実質細胞中でのHGFの発現が上方制御される。標的細胞/組織中でのmRNA発現やタンパク質発現のレベルを検出するための方法及び技術は、当業者には既知である。例えば、HGF遺伝子発現レベルは、ハイブリダイゼーションと、その後に続く検出と測定に適した条件の下で、HGFポリヌクレオチドにハイブリダイズし得るプローブを使用し、既知の核酸ハイブリダイゼーションアッセイ法により検出することができる。HGF遺伝子発現の検出に使用される方法としては、限定はされないが、サザンハイブリダイゼーション(サザン(Southern)著、1975年、「ジェイ・モル・バイオル(J. Mol. Biol.)」、98、p. 503−517)、ノーザンハイブリダイゼーション(例えば、フリーマンら(Freeman et al.)著、1983年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、80、p. 4094-4098を参照)、制限エンドヌクレアーゼマッピング(サムブルークら(Sambrook et al.)、1989年、「モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリ・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、RNアーゼ保護アッセイ法(カレント・プロトコルス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・ニューヨーク出版(John Wiley and Sons,New York)、1997年)、DNA配列分析、並びに、ポリメラーゼ連鎖反応増幅(ピーシーアール(PCR);米国特許第4683202号、第4683195号及び第4889818号;ギィレンスタインら(Gyllenstein et al.)著、1988年、「プロク・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」、85、p. 7652-7657;オーキマンら(Ochman et al.)著、1988年、「ジェネティックス(Genetics)」、120、p. 621-623;ローら(Loh et al.)著、1989年、「サイエンス(Science)」、243、p. 217−220)で、引き続いて、様々な細胞型中で、HGF遺伝子に対して特異的なプローブを使用してのサザンハイブリダイゼーションを行う方法が挙げられる。また、当該分野で一般に知られているその他の増幅法を用いてもよい。ノーザン又はサザンブロット分析のためのハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、使用する特異的プローブに対して所望の度合いの関連性を持つ核酸を確実に検出することができるように操作できる。加えて、例えば、(カレント・プロトコルス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・ニューヨーク出版(John Wiley and Sons,New York)、1997年)に基づくインサイツハイブリダイゼーション技術を用い、細胞又は組織試料中でのHGFの発現を検出して定量することもできる。
【0087】
HGFに対して特異的な抗体を用いたイムノアッセイ法により、HGFタンパク質レベルを検出することができる。当該分野で既知の様々なイムノアッセイ法を使用することができ、その中には、限定はされないが、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応法、免疫拡散法、インサイツイムノアッセイ(コロイド状金、酵素又は放射性同位元素の標識を使用)、ウェスタンブロット分析法、沈降反応法、凝集アッセイ(例えば、ゲル凝集アッセイ、赤血球凝集アッセイ)、補体結合アッセイ、免疫蛍光アッセイ、プロテインAアッセイ、免疫電気泳動アッセイ等のような技術を用いた競合的又は非競合的アッセイが含まれる。一実施態様では、一次抗体上の標識を検出することにより、抗体結合が検出される。別の実施態様では、一次抗体に対する二次抗体又は試薬の結合を検出することにより、一次抗体が検出される。更に別の実施態様では、二次抗体が標識される。イムノアッセイにおいて結合を検出する多数の手段が当該分野で知られており、それらの手段も本発明の範囲内である。
【0088】
本発明は、有効量のVEGFRアゴニストを投与することにより、肝成長と肝細胞増殖を促進させる方法を提供する。本発明による促進効果は、当該分野で知られている方法を使用し、インビトロ又はインビボのいずれかで評価できる。ドレイクスら(Drakes et al.)著、1997年、「ジェイ・イムノル(J. Immunol.)」、159、p. 4268;オモリら(Omori et al.)著、1997年、「ヘパトロジー(Hepatology)」、26、p. 720;米国特許第5227158号。
【0089】
本発明の一実施態様では、肝細胞と他の非実質肝細胞を標的肝臓から単離した後、適切な組織培養培地中に再懸濁させて細胞付着を誘導する。必要ならば、速度と時間を変動させた遠心分離により、異なった細胞画分を更に分離することができる(例えば、非実質細胞から実質細胞を)。限定はされないが、DNA合成速度の測定(例えば、前記のナカムラら(Nakamura et al.)、1984年を参照)、トリパンブルー染料排除/血球計計数(例えば、前記のオミリら(Omiri et al.)、1997年を参照)、あるいは、フローサイトメトリー(例えば、前記のドレイクス(Drakes)、1997年を参照)を含む、当該分野で既知の技術を使用し、培養時に細胞増殖を評価する。
【0090】
別の実施態様では、例えば、肝組織試料の組織化学アッセイ法を使用して、肝細胞と肝臓器官全体に対するVEGFRアゴニストの増殖効果がインビボで測定される。一つの好ましい態様では、肝細胞のインビボ増殖は、非増殖細胞中におけるよりも増殖している細胞中に高濃度で存在することが知られているタンパク質、例えば、増殖性細胞核抗原(PCNA又はサイクリン)に対する抗体に対する反応性から評価される。ロジャースら(Rodgers et al.)著、1997年、「ジェイ・バーン・ケアー・リハビル(J. Burn Care Rehabil.)」、18、p. 381−388。より好ましい方法は、前記のガーバーら(Gerber et al.)著、1999年、「デベロップメント(Development)」、126、p.1149−1159に記載されているBrdU免疫組織化学アッセイである。
【0091】
病的肝臓状態の治療
一実施態様によると、本発明は、対象体の病的肝臓状態を治療する方法を提供する。ここで使用されるところの「治療」は、治療されている個体又は細胞の天然の過程を改変するための臨床的介入を意味し、予防のため又は臨床的病理の過程中に実施することができる。治療の望ましい効果には、疾病の発生又は再発の防止、症状の軽減、疾病の任意の直接的又は間接的病理的結果の低減、転移の防止、疾病の進行速度の低減、疾病状態の回復又は緩和、及び寛解又は改善された予後が含まれる。
【0092】
「有効量」とは所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。抗体の「治療的有効量」は、例えば個体の疾病状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体に所望の応答を誘発する抗体の能力のような因子に従って変わりうる。治療的有効量はまた抗体の任意の毒性又は有害な効果よりも治療的に恩恵のある効果が上回るものである。「予防的有効量」とは所望の予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。典型的には、予防的量は疾患の初期段階又はその前において患者に用いられるので、予防的有効量は治療的有効量よりも少ないであろう。
【0093】
「病的肝状態」という語句は「肝疾患」又は「肝臓疾病」と置き換え自在に用いられ、構造上及び/又は機能的なあらゆる肝臓の異常を示している。病的肝臓状態の非限定的な例には、肝不全、肝炎(急性、慢性又はアルコール性)、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死に関連した状態が含まれる。
【0094】
肝臓障害からの保護
一態様では、本発明は、肝臓障害を引き起こす状態又は要因に曝露され易い対象において肝臓を障害から保護する方法を提供する。ここでは、「肝臓障害」という語句は広義に用いられ、内的又は外的因子、あるいはその組み合わせから直接的又は間接的に生じる構造上又は機能的な肝臓損傷を示す。肝臓障害は、限定はされないが、肝毒性化合物への暴露、放射線暴露、機械的肝臓損傷、遺伝的素因、ウイルス感染、自己免疫慢性肝炎などの自己免疫疾患を含む様々な要因によって、またアクチビンやTGF−βのようなタンパク質のインビボでのレベルの上昇による結果として誘発される。
【0095】
肝毒性化合物によって誘発される肝臓障害として、薬物超過敏反応、胆汁鬱滞、血管内皮細胞損傷を含む直接的な細胞毒性を挙げることができる。
【0096】
多数の肝毒性化合物が細胞毒性を招くが、その化合物にはある種の治療薬が含まれる。肝毒性化合物は、直接的な化学的攻撃により、あるいは、毒性代謝産物の生成により肝毒性を生じる。肝毒性の正確な機構は明らかではないが、還元性代謝産物は細胞性高分子に結合する高い反応性種であり、脂質の過酸化を生じ、薬物代謝や他の酵素を失活させる。膜の損傷により、ミトコンドリアと平滑な小胞体からカルシウムが放出され、カルシウムの細胞質ゾルの蓄積を通常は防止するカルシウムイオンポンプを妨害すると思われる。細胞代謝に及ぼす悪影響が、それに伴うカルシウムの蓄積、細胞質からのカリウムと酵素の消失、ミトコンドリアの損傷に起因した必須エネルギーの損失と一体となって肝組織の壊死を引き起こす。
【0097】
予測は不可能であるが、多様の肝毒性化合物がレシピエントの少数で肝臓障害を生じさせる。何人かの患者では、その肝臓障害は超過敏反応と呼ばれ、患者が発熱、発疹、好酸球増加症兆候を呈し、薬物を再服用すると、兆候を再発する薬物反応に似ている。別の事例では、損傷の機構は不明であるが、敏感な患者は異常なメタボリズムを呈し、肝毒性代謝産物の生成又は蓄積を招いている。
【0098】
直接の化学的攻撃により細胞毒性を誘発する薬物は次の物質、即ち、エンフルラン、フルオキセン、ハロタン、メトキシフルランなどの麻酔薬;コカイン、ヒドラジド、メチルフェニデート、三環系剤などの神経向精神薬;フェニトイン、バルプロ酸などの抗痙攣薬;アセトアミノフェン、クロルゾキサゾン、ダントロレン、ジクロフェナック、イブプロフェン、インドメタシン、サリチル酸塩、トルメチン、ゾキザゾラミンなどの鎮痛剤;アセトヘキサミド、カルブタミド、グリピジド、メタへキサミド、プロピルチオウラシル、タモキシフェン、ジエチルスチルベストロ−ルなどのホルモン;アンホテリシンB、クリンダマイシン、ケトコナゾール、メベンダゾール、メトロニダゾール、オキサシリン、パラアミノサリチル酸、ペニシリン、リファンピシン、スルホンアミド、テトラサイクリン、ジドブジンなどの抗菌剤;アミオダロン、ジリチアゼム、a−メチルドーパ、メキシレチン、ヒドラザリン、ニコチン酸、パパベリン、ペルへキシリン、プロカインアミド、キニジン、トカインアミドなどの心血管作動薬;アスパラキナーゼ、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、メトトレキセート、ミトラマイシン、6−MP、ニトロソ尿素、タモキシフェン、チオグアニン、ビンクリスチンなどの免疫抑制剤;ジスルフィラム、ヨウ素イオン、オキシフェニサチン、ビタミンA、パラアミノ安息香酸などのその他の薬剤を含む。
【0099】
肝臓内で超過敏応答を引き起こす肝毒性化合物は次の物質、即ち、フェニトイン、パラアミノサリチル酸、クロルプロマジン、スルホンアミド、エリスロマイシンエストレート、イソニアジド、ハロタン、メチルドーパ、バルプロ酸を含む。
【0100】
胆汁鬱滞、つまり、胆汁流の停止を含む肝毒性化合物は幾通りかの形を取る。中枢管状胆汁鬱滞には門脈炎症性変化を伴う。エリスロマイシンなどの何種かの薬剤を使った場合、胆管に変化を来すことが報告されている一方、純然たる細管状胆汁鬱滞は、同化ステロイドホルモンなどの他の薬剤に対して特徴的な性質を示す。慢性胆汁鬱滞は、メチルテストステロンやエストラジオールなどの薬剤に関連している。
【0101】
胆汁鬱滞障害を含む肝毒性化合物は次の物質、即ち、避妊用ステロイド、男性ホルモン性ステロイド、同化ステロイド、アセチルサリチル酸、アザチオプリン、ベンゾジアゼピン、ケノデオキシコール酸、クロルジアゼポキシド、エリスロマイシンエストレート、フルフェナジン、フロセミド、グリセオフルビン、ハロペリドール、イミプラミン、6−メルカプトプリン、メチマゾール、メトトレキセート、メチルドーパ、メチレンジアミン、メチルテストステロン、ナプロキセン、ニトロフラントイン、ペニシルアミン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、プロマジン、チオベンダゾール、チオリダジン、トルブタミド、トリメトプリムスルファメトキサゾール、砒素、銅、パラコートを含む。
【0102】
主として胆汁鬱滞性であるが、何種かの薬剤も肝毒性を誘発することがあるので、それらが引き起こす肝臓損傷が混ざり合う。混合肝臓損傷を起こす薬剤には、例えば、次の物質、即ち、クロルプロマジン、フェニルブタゾン、ハロタン、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、アロプリノール、フェノバルビタール、ナプロキセン、プロピルチオウラシル、クロラムフェニコール、トリメトプリムスルファメトキサゾール、アムリノン、ジソピラミド、アザチオプリン、シメチジン、ラニチジンが含まれる。
【0103】
肝臓静脈血栓症、肝臓小静脈閉塞症、つまり肝内性肝静脈閉塞症(VOD)、肝臓紫斑病を含む肝臓血管障害は薬物により引き起こされうる。更に、類洞膨張、類洞周囲線維症、肝門硬化症を含む病変も発生する。中央帯状類洞膨張や中心静脈周囲類洞膨張は、経口避妊治療の合併症として初めて報告された。肝臓紫斑病とは、内皮障壁から赤血球が漏れ出し、ついで類洞周囲線維症を起こした大きな血液充満の空洞からなる状態を指す。肝臓紫斑病は、経口避妊薬や男性ホルモン性ステロイド、アザチオプリン、ダナゾールを服用した患者について記述されている。中心肝臓小静脈の損傷や閉塞も、マリファナ茶葉などのピロリジジンアルカロイドの摂取に関係することが知られている。その初期の病変は、小静脈の径が次第に縮小する中心壊死である。これらの病変は全て、投薬を停止した場合に部分的にだけ可逆的であって、肝硬変に進行することがある。
【0104】
良性及び悪性肝腫瘍の幾つかのタイプは肝毒性化合物の投与の結果、生じうる。出産可能年齢の女性に限られた病変である腺腫は避妊用ステロイドの使用と関連し、使用期間が長くなれば危険率も高まる。形成不全貧血又は下垂体機能低下が原因で男性ホルモンを服用した患者には、肝細胞癌も見受けられる。
【0105】
肝臓の病変を引き起こすことが知られている肝毒性化合物は次の物質、即ち、避妊用ステロイド、ピリオリジジンアルカロイド、ウレタン、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、マイトマイシン、BCNU、ビンクリスチン、アドリアマイシン、点滴用ビタミンE、同化ホルモン−男性ホルモンステロイド、アザチオプリン、メドロキシプロゲステロン酢酸塩、硫酸エストロン、タモキシフェン、無機砒素剤、二酸化トリウム、ビタミンA、メトトレキセート、メチルアンフェタミン塩酸塩、ビタミンA、コルチコステロイド、二酸化トリウム、ラジウム療法を含む。
【0106】
その他の要因から生じる肝臓障害も同様の形態を取るのが通常である。肝臓障害は、それが化合物の肝毒性、放射線治療、遺伝的素因、機械的損傷又は当該要因と他の要因の任意の組み合わせに起因していても、幾つかの手段により検出することができる。生化学的検査が、肝毒性の標準手段として長年に亘り臨床上使用されている。一般に、大部分の生化学的検査は二つの部類の範疇に収まる。一つは、例えば、プロトロンビン凝固時間、及び/又は、肝臓血流などの特異的肝臓マーカーを測定する試験である。別の一つは、壊死や胆汁鬱滞、進行性腺維神経膠症又は肝臓癌を検出するための血清マーカーを分析する試験である(シー・コルネリウス(C. Cornelius)著、「ヘパトトキシコロジー(Hepatotoxicology)」、ミークスら(Meeks et al.)編、p.181−185、1991年)。上記の試験の重要性は簡便なことと非侵襲性にある。肝臓障害を評価する際に血清酵素を使用することの理論的根拠は、通常は肝細胞中に含まれるその酵素が、肝細胞に損傷が生じた時点で、全身循環するためである。
【0107】
血清酵素活性の上昇は壊死及び/又は胆汁鬱滞を示唆する。血清ビリルビン結合物のレベル上昇は肝臓内又は肝臓外の胆汁鬱滞を示唆する。しかし、肝臓損傷を診断するための単一の手段として血清酵素レベルを使用するには、ある種の制約を受ける。血清酵素レベルは、化学薬品に起因した特異的肝臓損傷よりは、むしろ薬物の全身作用により透過性が改変されて細胞から漏洩する結果として上昇する。肝臓を組織病理学的に検査することが、肝臓損傷の性状と範囲を同定かつ定量するに当っての次の論理的ステップである。
【0108】
肝臓損傷のマーカーとしての血清酵素は、肝臓損傷に対する特異性と感受性に基づいて4グループに分類することができる(前記のコダバンチら(Kodavanti etal.))。
【0109】
グループI:このグループの酵素は上昇した場合、より選択的な肝胆汁鬱滞を示す。例えば、アルカリホスファターゼ(AP)、5´−ヌクレオチダーゼ(5´−ND)、a−グルタミルトランスペプチダーゼ(G−GT)、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)。
【0110】
グループII:このグループの酵素は上昇した場合、実質性損傷を示す。例えば、アスパルテートトランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、フラクトース−1,6−ジホスフェートアルドラーゼ(ALD)、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(ICDH)、オルニチン−カルバモイル−トランスフェラーゼ(OCT)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SDH)アルギナーゼ及びグアナ―ゼ。
【0111】
グループIII:このグループの酵素は上昇した場合、その他の組織の損傷を示す。例えば、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)。
【0112】
グル−プIV:このグループの酵素は肝損傷に抑圧される。例えば、コリンステアラーゼ(ChE)。
【0113】
その他の血清マーカーには、肝線維形成が活性かどうか、肝胆汁性脳症におけるアンモニア血中濃度;壊死と肝臓癌におけるリガンドレベル;肝内皮細胞障害によるヒアルロン酸塩レベルを評価するためのプロコラーゲンIII型ペプチドレベル(PIIIP)、肝臓癌検出のためのa−1−フェトプロテイン(AFP)レベル;肝臓への癌転移を検出するための癌胎児抗原(CEA)レベル;ミトコンドリアや、細胞核の特異的肝臓膜タンパク質などの各種の細胞成分に対する抗体の上昇;アルブミン、グロビン、アミノ酸、コレステロール、その他の脂質などのタンパク質の検出が含まれる。加えて、肝臓バイオプシーから得た各種の無機質、代謝産物、酵素についての生化学分析も、先天的、後天的、及び実験的に導き出した肝臓疾患における特定の生化学上の欠陥を研究するのに役に立つ。
【0114】
肝機能検査により、肝損傷を評価することができる。肝機能検査には、次の事項が含まれる。
【0115】
ビリルビン、インドシアニングリーン(ICG)、スルホブロモフタレイン(BSP)、胆汁酸などの有機陰イオンの肝クレアランスに関するグループIの評価と、
ガラクトースとICGのクレアランス測定による肝血流に関するグループIIの評価と、
アミノピリン吸気試験とカフェインクレアランス試験による肝ミクロソーム機能に関するグループIIIの評価。例えば、血清ビリルビンを測定することで、実質肝臓疾患に見られるような黄疸の存否と重症度を確認し、高ビリルビン血症の程度を決定する。アミノトランスフェラーゼ(トランスアミラーゼ)の上昇は活性な肝細胞障害の重症度を示す一方、アルカリホスファターゼの上昇は胆汁鬱滞と肝浸潤物について見出される(ケイ・イッセルバッハー(K. Isselbacher)とディー・ポドルスキー(D. Podolsky)共著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1301−1308、1991年)。血清酵素分析を実施する方法は当該分野で知られており、例えば、前記のコダバンチら(Kodavanti et al.)に記載されている。
【0116】
肝損傷が大きい場合、アルブミン、プロトロンビン、フィブリノーゲン、肝細胞で専ら合成される他のタンパク質の血中濃度が低くなるため、これらのタンパク質を肝臓障害の指標として測定することができる。血清酵素の測定とは対照的に、血清タンパク質のレベルは細胞障害そのものよりは、むしろ肝臓の総合的な機能を反映する(ディー・ポドルスキー(D. Podolsky)著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1308−1311、1991年)。
【0117】
多くの患者において、肝臓疾患の性状を決定するために、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波、シンチスキャン又は肝臓生検が必要である(前記のケイ・イッセルバッハー(K. Isselbacher)とエル・フリードマン(L. Friedman)とエル・ニードルマン(L. Needleman)共著、「ハーティンソンズ・プリンシプルス・オブ・インターナル・メディシン(Hartinson’s Principles of Internal Medicine)」、12版、ウイルソンら(Wilson et al.)編、2、p. 1303−1307、1991年)。
【0118】
本発明は、対象における癌の化学療法効果を向上させる方法を提供し、当該方法は、対象の肝臓を肝毒性化合物によって引き起こされる障害から保護するのに効果的な形で、化学療法の前段階又はその療法と同時に、対象に対してVEGFR調節剤を投与し、それによって化学療法に対する対象の許容度を増大させる工程を含む。化学療法時に使用される化学療法薬は、肝細胞に対して細胞毒性作用を及ぼしうるので、患者に対して投与される化学療法薬の投与量及び/又は投与期間を制限しなければならない。肝臓をVEGF、Flt−1又はKDR−selなどのVEGFRアゴニストを含有する組成物に暴露させることにより、上記毒性作用を防止又は低減することができる。しかして、化学療法薬の投与量を増加させることができるから、癌治療効果の向上が可能になる。
【0119】
「化学療法薬」とは、癌治療に有用な化学的化合物である。化学療法薬の例としては、チオテパ、シクロホスファミド(CYTOXAN(商標))などのアルキル化剤と、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファンなどのスルホン酸アルキルと、ベンゾドーパ、カルボクオン、メツレドーパ(meturedopa)、ウレドーパなどのアジリジンと、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスファオラミド、トリメチロールメラミンを含むメチルアメラミンとエチレンイミン、アセトゲニン(特に、ブラタシン、ブラタシノン)と、カンプトセシン(合成類似体トポテカンを含む)と、ブリオスタチンと、カリスタチンと、CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、ビゼレシン合成類似体を含む)と、クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1、クリプトフィシン8)と、ドラスタチンと、デュオカルマイシン(合成類似体のKW−2189、CBI−TMIを含む)と、エレウテロビンと、パンクラティスタチン(pancratistatin)と、サルコジクチン(sarcodictyin)と、スポンジスタチンと、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタードと、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素と、エネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ11、カリケアマイシンθ11、例えば、「アグニュウ・ケミストリー・インターナショナル・エデション(Agnew Chemistry, International Edition)、英語版、33、p.183−186、1994年、ダイネミシンAを含むダイネミシン、エスペラミシン、並びに、ネオカルチノスタチン発色団と関連する色素蛋白エネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、デオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、プロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメックス、チノスタチン、ゾルビシンと、メトトレキセート、5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗剤と、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレセキセートなどの葉酸類似体と、フルダルアビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体と、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、5−FUなどのピリミジン類似体と、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲンと、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗アドレナルと、フローリー酸などの葉酸補充物と、アセグラトンと、アルドホスファミドグリコシドと、アミノレブリン酸と、アムサクリンと、ベストラブシルと、ビサントレンと、エダトラキセートと、デホファミンと、デメコルシンと、ジアジクオンと、エルフォルニチン(elfornithine)と、酢酸エリプチニウムと、エポチロンと、エトグルシドと、硝酸ガリウムと、ヒドロキシ尿素と、レンチナンと、ロニダミンと、メイタンシン、アンサミトシンなどのメイタンシノイドと、ミトグアゾンと、ミトキサントロンと、モピダモールと、ニトラクリンと、ペントスタチンと、フェナメトと、ピラルビシンと、ポドフィリン酸と、2−エチルヒドラジドと、プロカルバジンと、PSK(商標)と、ラゾキサンと、リゾキシンと、シゾフィランと、スピロゲルマニウムと、テヌアゾン酸と、トリアジクオンと、2,2′,2″−トリクロロトリエチレンアミンと、トリコテセン(特に、T−2トキシン、フェラクリンA、ロリジンA、アングイジン(anguidine))と、ウレタンと、ビンデシンと、デカルバジンと、マンノムスチンと、ミトブロニトールと、ミトラクトールと、ピポブロマンと、ガシトシンと、アラビノシド(″Ara−C″)と、シクロホスファミドと、チオテパと、例えばパクリタキセル(TAXOL (商標)、Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)、ドキセタキセル(TAXOTERE (商標)、Rhone−Poulenc Rorer, Anthony, France)などのタキソイドと、クロラムブシルと、ゲムシタビンと、6−チオグアニンと、メルカプトプリンと、メトトレキセートと、シスプラチン、カルボプラチンなどの白金類似体と、ビンブラスチンと、白金と、エトポシド(VP−16)と、イフォスファミドと、ミトマイシンCと、ミトキサントロンと、ビンクリスチンと、ビノレルビンと、ナベルビンと、ノバントロンと、テニポシドと、ダウノマイシンと、アミノプテリンと、キセローダと、イバンドロネートと、CPT−11と、トポイソメラーゼ抑制剤RFS2000と、ジフルオロメチルオルニチン(DMFO)と、レチノイン酸と、カペシタバインと、上記の何れかの医薬的に許容される塩、酸又は誘導体が含まれる。ここに規定したなかには、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は抑制する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ抑制4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、トレミフェン(Fareston)を含む抗エストロゲンと、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、ゴセレリンなどの抗アンドロゲンと、上記物質の医薬的に許容される塩、酸又は誘導体も含まれる。
【0120】
医薬組成物及び治療的/予防的投与
本発明の方法によるインビボ用途のために、本発明の治療化合物は当該分野で知られ特定の用途に適した方法及び技術を使用して患者に投与される。好適な実施態様では、化合物は医薬的に許容可能な用量で医薬組成物の形態で投与される。
【0121】
一態様では、本発明は、治療用タンパク質剤(VEGF、Flt−sel、KDR−selなど)を投与するために、哺乳動物の細胞製剤を使用することを意図としている。ここで使用される哺乳動物細胞は、前段で詳述した通り、タンパク質をコード化する異種遺伝子で形質転換したものである。好ましい実施態様では、投与のために使用される宿主細胞はCHO細胞である。
【0122】
本発明の別の態様によれば、治療剤は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合により調製されるマイクロカプセル中、コロイド薬物送達系(例えば、ミクロスフェアやマイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)、又はマクロエマルジョンに封入される。そのような技術は、当該分野で知られており、ジェイ・レミントン(J. Remington)編、「ザ・サイエンス・アンド・プラクテス・ファマシー(The Science and Practice of Pharmacy)」、20版、2000年に開示されている。
【0123】
本発明の一つの局面によると、治療剤は徐放製剤によりインビボ投与され得る。徐放製剤の好適な例には、多価抗体を含む固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは成形物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態である。徐放マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸のようなポリマーは100日にわたる分子の放出を可能にするが、ある種のヒドロゲルはより短時間の間、タンパク質を放出する。カプセル化抗体は長い間体内に残るが、37℃の水分に暴露される結果、それらは変性し又は凝集する可能性があり、生物学的活性の消失及び免疫原性の変化のおそれが生じる。関与するメカニズムに応じて安定化のために合理的な方策を考案できる。例えば、凝集メカニズムがチオ-ジスルフィド交換を通しての分子間S-S結合の形成であることが発見された場合には、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分量を制御し、適切な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することにより、達成することができる。
【0124】
本発明の治療用組成物は任意の適切な手段を通して投与されるが、その手段には、限定はされないが、非経口、皮下、腹腔内、肺内、鼻腔内投与が含まれる。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下投与を含む。更に、治療用組成物は、特に抗体用量を減少させての、パルス注入によって好適に投与される。投与が短期か長期かをある程度考慮し、治療用組成物の投与は注射によるのが好ましく、静脈又は皮下注射によるのが最適である。
【0125】
更に、本発明の治療用タンパク質剤(VEGF、Flt−sel、KDR−selなど)を遺伝子療法により、対象に導入することができると考えられる。遺伝子療法とは、対象に対して核酸を投与することによって実施される治療法を指す。遺伝子療法の方法に関する概説としては、例えばゴールドスピルら(Goldspiel)著、1993年、「クリニカル・ファマシー(Clinical Pharmacy)」、12、p. 488−505、ウー(Wu)とウー(Wu)共著、1991年、「バイオセラピー(Biotherapy)」、3、p.87−95と、トルストシェブ(Tolstoshev)著、1993年、「アニュアル・レビュウ・オブ・ファマコロジー・トキシコロジー(Annual Review of Pharmacology, Toxicology)」、32、p. 573−596と、ムリガン(Mulligan)著、1993年、「サイエンス(Science)」、260、p. 926−932と、モルガン(Morgan)とアンダーソン(Anderson)共著、1993年、「アニュアル・レビュウ・オブ・バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」、62、p. 191−217と、メイ(May)著、1993年、「チブテク(TIBTECH)」、11、p. 155−215を参照のこと。使用可能な組換えDNA技術の当該分野で一般に知られている方法は、オースベルら(Ausubel et al.)編、1993年、「カレント・プロトコル・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocol in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons NY出版と、クリーグラー(Kriegler)著、1990年、「ジーン・トランスファー・アンド・エクスプレション・ラボラトリー・マニュアル(Gene Tranfer and Expression, A Laboratory Manual)」、Stockton Press NY出版に記載されている。
【0126】
対象の細胞中に核酸(場合によってはベクターに含まれる)を導入する二つの主要なアプローチ法がある;インビボとエキソビボである。インビボ送達では、核酸は、対象の、通常はタンパク質が必要とされている部位に、直接注射される。エキソビボ治療では、対象の細胞が除去され、これらの単離された細胞中に核酸が導入され、改変された細胞が対象に直接的に投与されるか、又は例えば対象に移植される多孔性膜内に封入される(例えば米国特許第4892538号及び第5283187号を参照)。生存細胞中に核酸を導入するために利用できる様々な技術が存在する。その技術は、核酸がエキソビボで培養された細胞中に移されるか、又は意図された宿主の細胞にインビボで移されるかどうかに応じて変わる。エキソビボでの哺乳動物細胞中への核酸の移動に好適な方法には、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法等々の使用が含まれる。遺伝子のエキソビボ送達のために一般的に使用されるベクターはレトロウイルスである。
【0127】
現在好ましいインビボ核酸トランスファー法には、脂質ベース系(遺伝子の脂質媒介トランスファーのために有用な脂質は例えばDOTMA、DOPE及びDC−Cholである)及びウイルスベクター(例えばアデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、又はアデノ随伴ウイルス)での形質移入が含まれる。遺伝子療法におけるウイルスベクターの使用例は、クロウスら(Clowes et al.)著、1994年、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスチゲーション(Journal of Clinical Investigations)」、93、p. 644−651と、キームら(Kiem et al.)著、1994年、「ブラッド(Blood)」、83、p.1467−1473と、サーモンズ(Salmons)とグンズバーグ(Gunzberg)共著、1993年、「ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)」、4、p. 129−141と、グロスマン(Grossman)とウイルソン(Wilson)1993年、「カレント・オピニオンズ・イン・ジェネティックス・デベッロプメンンツ(Current Opinions of Genetics Developments)」、3、p. 110−114と、ボウトら(Boutet al.)著、1994年、「ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)」、5、p. 3−10と、ロゼンフェルドら(Rosenfeld etal.)著、1991年、「サイエンス(Science)」、252、p. 431−434、ローゼンフェルドら(Rosenfeld et al.)著、1992年、「セル(Cell)」68:p143−155;マストランゲリら(Mastrangeli et al.)著、1993年、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスチゲーション」Journal of Clinical Investigations)」、91,p. 225−234と、ワルシュら(Walsh et al.)著、1993年、「プロシーデングス・オブ・ソサエテー・オブ・エックスペリメンタル・バイオロジカル・メディスン(Proceedings of Society of Experimental Biological Medicine)」、204、p. 289−300に見出すことができる。
【0128】
ある状況では、標的細胞上の細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターのためのリガンド等々のような、標的細胞を標的とする薬剤を核酸源に提供することが望ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、例えばキャプシドタンパク質又は特定の細胞タイプに対して向性のあるその断片、循環中にインターナリゼーションを受けるタンパク質及び細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を増大させるタンパク質のための抗体を標的とし、及び/又はその取り込みを容易にするために使用することができる。レセプター媒介エンドサイトーシスの方法は例えばウーら(Wu et al.)著、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」、262、p. 4429−4432、1987年と、ワグナーら(Wagner et al.)著、「プロシーデングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science,USA)」、87、p. 3410−3414、1990年に記載されている。既知の遺伝子マーキングや遺伝子療法のプロトコルの概説については、アンダーソンら(Anderson et al.)著、「サイエンス(Science)」、250、p. 808−813、1992年を参照できる。
【0129】
更に、本発明は医薬用組成物を提供する。そのような組成物は、治療的に有効な量のVEGFR調節剤と、医薬的に許容された担体とを含む。特定の実施態様では、「医薬的に許容可能」という用語は、動物、より詳細にはヒトへの使用について、連邦又は州政府の規制機関によって承認されるか、アメリカ合衆国薬局方又は他の一般的に認められた薬局方に掲載されることを意味する。「担体」という用語はそれと共に治療剤が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを意味する。このような医薬担体は、滅菌液、例えば限定しないがピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等を含む、石油系、動物、植物又は合成由来のものを含む油及び水でありうる。水は医薬組成物が経口投与される場合の好適な担体である。生理食塩水及び水性デキストロースは医薬組成物が静脈内投与される場合の好適な担体である。生理食塩水溶液及び水性デキストロース及びグリセロール溶液は、好適には注射可能な溶液のための液体担体として用いられる。好適な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、粉乳(chalk)、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等々が含まれる。組成物は、所望されるならば、少量の湿潤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含みうる。これらの組成物は溶液懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放製剤等々の形態をとりうる。組成物は、伝統的なバインダーとトリグリセリドのような担体を用いて座薬として処方できる。経口製剤は、標準的な担体、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等々を含みうる。適切な医薬担体の例は、マーチン(E. W. Martin)著、「レミントンズ・ファーマセテュカル・サイエンセス(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。そのような組成物は、好ましくは精製形態の治療的有効量の治療剤を、患者への適切な投与のための形態となるように好適な量の担体と共に含む。製剤は投与態様に適応しなければならない。
【0130】
好ましい実施態様では、組成物は、常套的な手法により、人体に静脈投与するための医薬組成物として処方される。一般に、静脈投与用組成物は、滅菌した等張水性緩衝液の溶液である。必要ならば、組成物に可溶化剤と、注射部位の痛みを和らげるために、リグノカインなどの局部麻酔剤を加えてもよい。通常、成分は個別に、あるいは、投薬単位形態として混合された状態で、例えば、凍結乾燥粉末又は無水濃縮物をアンプルなどの密封容器、又は活性剤の数量を示した袋物などに収めた状態で供給される。注入による投与の場合、組成物は、医薬品等級の無菌水又は生理食塩水を入れた注入瓶を使用して分配される。組成物が注射により投与される場合は、注射用無菌水又は生理食塩水入りアンプルが提供され、投与前に成分を混合する。
【0131】
本発明の治療剤は中性又は塩形態として処方することができる。医薬的に許容可能な塩には、遊離のカルボキシル基で形成されたもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等々から誘導されたもの、遊離のアミン基で形成されたもの、例えばイソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等々から誘導されたもの、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、及び水酸化第二鉄等々から誘導されるものが含まれる。特定の疾患又は症状の治療に効果的である本発明の治療剤の量は疾患又は症状の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定することができる。また、インビトロアッセイ法を場合によっては用いて、最適な用量範囲を特定するのに役立てることができる。製剤に用いられる正確な用量はまた投与経路、及び疾病又は疾患の重篤度に依存し、 実務者の判断及び各患者の環境に従って決定されなければならない。しかしながら、静脈内投与のための好適な用量範囲は一般には1キログラム体重当たり約20−500マイクログラムの活性化合物である。鼻腔内投与のための好適な用量範囲は一般には約0.01pg/kg体重からImg/kg体重である。効果的な用量はインビトロ又は動物モデル試験系から得られた用量応答曲線から外挿することができる。座薬は一般には0.5重量%から10重量%の範囲の活性成分を含み、経口製剤は好ましくは10%から95%の活性剤を含む。
【0132】
本発明はまた本発明の医薬組成物の一又は複数の成分が満たされた一又は複数の容器を含んでなる医薬パック又はキットを提供する。場合によってそのような容器に付随させることができるものは、医薬又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって指示された形態の注意書きで、ヒトへの投与のために製造し、使用し、又は販売することに対する機関の承認を反映する注意書きである。
【0133】
下記の実施例は、本発明の実施を例示したもので、限定を意図とするものではない。本明細書中で引用した全ての特許明細書並びに科学技術文献による開示を、出典明示により全体を明示的に取り込む。
【実施例】
【0134】
実施例1:VEGFのVEGFR選択的変異体
特定のVEGFレセプター(KDR又はFlt−1など)に選択的に結合して、それを活性化するVEGF変異体の生成と特徴付けは、当該分野で既知であり、例えばLi et al.,(2000), Journal of Biological Chemistry,275:29823と、Gille et al.,(2001),Journal of Biological Chemistry 276:3222−3230と、PCT公報第WO00/63380号とPCT公報第WO97/08313号と米国特許第6057428号に記載されており、その開示内容は、本明細書に出典明示によりここに取り込む。
【0135】
具体的には、Flt−1レセプターに対して高い選択性を有するVEGF変異体は、KDRに大きな影響を及ぼすが、Flt−1との結合には影響を及ぼさない4つの突然変異を組み合わせて生成した。Ile43、Ile46、Gln79、Ile83のアラニンへの突然変異は、これらの残基の側鎖がKDRに緊密に結合するのに重要であるが、Flt−1結合には重要でないことが判明した。前記のLi et al.,(2000)。Flt−sel変異体を、Kunkel et al.(1991),Methods Enzymology,204:125−139に記載の部位特異的突然変異誘発法を使用して、Ile43、Ile46、Gln79、Ile83の位置にアラニン置換を有するように構築した。この特定のFlt−sel変異体は、I43A/I46A/Q79A/I83Aの標示でも表すことができる。43、46、79、83の位置でのこれら4つのアラニン置換に対応するコドンはそれぞれGCC/GCC/GCG/GCCである。
【0136】
様々なアッセイを行い、I43A/I46A/Q79A/I83AのFlt−sel変異体の性質と生物学活性を調べた。前記のLi et al.,(2000)。例えば、可溶性放射免疫レセプター結合測定法(RIA)を使用し、定量的結合アッセイを行った。このアッセイにおいて、天然VEGF(8−109)は、KDRとFlt−1に対してそれぞれ0.5nMと0.4nMの親和性を有していた。このアッセイで、Flt−selの親和性は、KDR結合親和性より少なくとも470倍も低いことが分かった。多少の驚きは、ELISAでの個別の点突然変異から、Flt−1結合における低下が少ないことが認められたので、Flt−1に対するFlt−sel変異体の親和性は天然タンパク質の親和性と本質的に同じであったことである。
【0137】
実施例2:肝成長の促進
方法と材料
ヒトVEGF165をコード化する完全長cDNA(Leung et al.(1989),Science,246:1306−9)を、バイシストロン性ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)イントロン発現ベクターSV.DI(Lucas et al.(1996),Nucleic Acids Researches,24:1774−9)に挿入し、SV.DI.VEGF165.H8のコンストラクトを得た。挿入物としてハカタ抗原(HAg)をコード化するcDNAを使用して、対照コンストラクトSV.DI.HAg.H8を同様にして構築した。HAgは、全身性狼蒼紅斑患者における自己抗原として最近になって判明した血清糖タンパク質である。Sugimotoetal.(1998),Journal of Biological Chemistry,273:20721−7。このタンパク質は、Tie−2レセプターと相互作用を起こすことはないが、アンジオポエチンファミリーと構造的な相同性を有している。
【0138】
上記のいずれかのコンストラクトを使用して、バイシストロン性mRNAを、SV40初期遺伝子プロモーターで制御しながら転写させ、DHFRと対象の挿入遺伝子の双方をコード化し、それにより、双方を一定の等モル比で発現させた。また、両方のオープンリーディングフレームを、8つのヒスチジン残基からなる短いカルボキシル末端ペプチドタグをコード化するDNA配列と融合させ、検出と精製を簡便に行うことができるようにした。直鎖状にした発現プラスミドSV.DI.VEGF165.H8と、SV.DI.HAg.H8と、空きベクターSV.DI.H8を、DHFR―CHO細胞中に電気穿孔させた。形質移入を行う前に、これらの細胞を、高濃度のアミノ酸、10%FBS補充インスリン、L−グルタミン(2mM)、グリシン(10μg/ml)、ヒドロキサンチン(15μg/ml)、チミジン(5μg/ml)(GHT)を含んだF12/DMEM主体の媒体からなる増殖培地中で増殖させた。安定に形質移入させたDHFR+CHO細胞のプールを導き出し、GHTを含まず栄養分の培地中に選択的に保持させた(Lucas et al.(1996),Nucleic Acids Researches,24:1774−9)。VEGF165を形質移入したCHO細胞(CHO−VEGF165)によるVEGF165タンパク質の発現を、免疫ブロット法とELISAにより確認した。VEGF165モノマーの期待分子量に相当する〜23kDaバンドを、CHO−VEGF165細胞の馴化培地から免疫沈降させた。このバンドは、CHO−DHFR対照細胞の培養上澄液中には存在しなかった。
【0139】
CHO−HGF細胞を生成するために、HGFをコード化する完全長cDNAを、過去に記載された通りにして(Zioncheck et al.(1955),Journal of Biological Chemistry,270:16871−8)、pRK5発現ベクター中に挿入し、CHO細胞中に形質移入させた。HGFは、肝細胞のための重要な分裂促進因子であって、プラスミノーゲンと配列類似性を有する。Nakamura et al.(1987),FEBS Letters,224:311−6。HGFを、短鎖82−84kDaプロマイトジェンとして分泌させる。そのプロマイトジェンは内部タンパク質分解的な処理により、69kDaのα鎖と32kDaのβ鎖からなる生物活性ヘテロ二量体とされる。Nakamura et al.(1987),FEBS Letters,224:311−6。69kDaのHGFα鎖と分子量の点で一致したバンドを、CHO−DHFR対照中ではなく、CHO−HGF細胞の馴化培地中で検出できた。対照コンストラクトSV.DI.HAg.H8を使用したところ、安定に形質移入された別のCHO細胞プールも生成できた。そのプールは、HAgを多量に分泌するものである。還元条件下で、HAgモノマーは〜32kDaバンドとして、CHO−HAg馴化培地中で検出された。
【0140】
VEGF−PLGAミクロスフェアを、VEGFの徐放製剤として使用した。VEGF−PLGAは、VEGF165タンパク質を生物分解性のポリ(乳酸・グリコール酸)ポリマー(J. Cleland and A. Daugherty,Genentechにより提供)中にカプセル化することで生成した。そのミクロスフェアに含有の約10%のVEGFタンパク質が、循環中に放出された。
【0141】
未成体(3〜4週齢)又は成体胸腺欠損ベージュのヌードxidマウス(Hsd:NIHS-bg-nu-xid, Harlan Sprague Dawley(Indianapolis, IN))を、イソフルオラン吸気により麻酔させた。5匹のマウスで、1つのグループを構成した。完全培養培地中で安定に形質移入された又は対照のCHO細胞の懸濁液を、各動物の両脚に筋肉内注射した。約3×106の細胞を含む全容量100μlの懸濁液を、各脚部の前大腿部筋肉の3つの異なった部位に注射した。注入14日目に、マウスを屠殺し、血清試料を単離して分析した。
【0142】
VEGF−PLGA処理動物には、各脚部にPLGA−VEGFミクロスフェア100μlを1、7、10日目に合計で3回の筋肉内注射を施した。各注射当り、放出されたVEGFの用量は約4.5mg/kgであった。VEGF−PLGA注入後15日目に、動物を屠殺した。屠殺1時間前に、100mg/kgのブロモデオキシウリジン(BrdU)(Sigma,St.Louis,MO))を腹腔内注射した。肝臓、腎臓、心臓、脚部、脳を取り出し、秤量した。収集した組織を、組織学評価の目的でホルマリンに浸漬した。
【0143】
増殖を検討するために、動物を屠殺する1時間前に、BrdU(100mg/kg)を注射した。パラフィン包理前、組織を10%中性緩衝ホルマリン中に12〜16時間固定した。過去に記載されたようにして、BrdU免疫組織化学測定を行った。Gerber et al.(1999)。F4/80(Serotec,Raleigh,NC)に対するモノクローナルラット抗マウス抗体を、10μg/ml(1:1000希釈)の量で5μmのパラフィン包理肝臓切片上に使用した。4℃で一晩、インキュベーションを行った。この抗体は、マウスマクロファージにより発現された160kD糖タンパク質を認識する。Leenen et al.(1994), Journal of Immunological Methods,174:5−19。この抗原は、リンパ球又は多形球細胞によっては発現されない。特異性を証明するために、負の対照としてマウスIgG2B(Pharmingen,San Diego,CA)を使用した。二次抗体として、ビオチン化ウサギ抗ラットIgGを使用した。その抗体を、Vectastain Elite ABC試薬(Vector Labs,Burlingame,CA)を使用し、次に金属強化DAB(Pierce,Rockford,IL)を使用して検出した。この切片を、マイヤーのヘマトキシリンを使用して対比染色させた。
【0144】
CHO細胞が筋肉内注射されたヌードマウスに、100μlのネンブタール(Abbott Laboratories,Chicago,IL)を腹腔内注射し、10mlの灌流緩衝液(NaCl 142mM、KCl 6.7mM、HEPES 10mM)で灌流した。動物を解剖した後、肝臓を取り出して細かく切り刻んだ。50μg/mlのLiberase RH(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)を補填した消化緩衝液(67mM NaCL、6.7mM KCl、HEPES 100mM、CaCl2 5mM)中で、組織片のコラゲナーゼ消化を37℃で30分間行った。消化肝臓懸濁液を70μm細胞ストレーナー(Falcon,Bedford,MA)に通過させた後、単一細胞の懸濁液を得た。BrdU染色後、製造メーカー(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)の推奨に従い、インサイツ細胞増殖キットを使用した。要するに、細胞を洗浄し、エタノールで固定し、DNAをHCl処理により変性させた。DNA組み込みBrdUを、抗BrdU−FLUOS抗体(抗BrdU−F(ab′)2−FITC結合物)で染色して検出した。フローサイトメトリーのために、光輝の自己蛍光単球細胞を、前方/側面分散ゲイテングにより分析から除外した。10,000ゲイトの細胞が得られ、Becton Dickinson(San Jose,CA)のFACS Calilburフローサイトメトリーを使用して分析した。
【0145】
マウス血清試料中で組換えヒトVEGFを検出するために、過去に記載されたようにして、蛍光定量抗VEGF酵素結合免疫吸着測定(ELISA)を行った。Rodriguez et al.(1998),Journal of Immunological Methods,219:45−55。マウス血清の存在下での、測定感度の限度は200pg/mlであった。この測定法はヒトVEGFに対して特異的であって、マウスVEGFと交差反応を起こさない。
【0146】
組換えヒトHGFを検出するために、過去に記載されたELISA(Koch et al.(1996),Arthr.Rheum.,39:1566−75)に多少の変更を加えて使用した。簡単に述べると、抗ヒトHGFモノクローナル抗体を使用して、96ウェルマイクロタイタープレートを被覆した。室温で1時間インキュベーション後、ウェルを洗浄し、血清試料の連続希釈液を添加した。rHGFを、参照標準として使用した。2時間インキュベーションし、洗浄した後、ビオチン化ヒツジ抗HGFを加えて1時間インキュベーションした。洗浄後、西洋わさびペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Amdex)を加え、30分間のインキュベーションを行った。洗浄後、基質溶液であるテトラメチルベンジジン(Sigma)を添加した。マイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices)を用いて、650nmを減算ブランクにした状態で450nmでプレートを読み取った。4−パラメーター曲線適合プログラムを使用して、標準曲線を作成し、標準曲線範囲での補間を介し、試料濃度を引き出した。
【0147】
動物全体に対して、殺処分する1時間前に、BrdU(100mg/kg)を注射した。パラフィン包理に先立ち、組織を、中性緩衝化した10%ホルマリン中で12〜16時間固定した。Flt−1を発現させるためのH&E染色と免疫組織化学測定を、過去に記載されたようにして行った(Gerber et al.(1999))。手短に言えば、Trilogy抗原回収溶液(Cell Marque,Austin,TX)を使用して、組織切片を99℃で1時間予備処理し、ついでラット抗マウスFlk−1(mAb MALK−1,Genentech)の3.9mg/mlで4℃で一晩培養した。Vectastain Elite ABCキット(Vector Laboratories,Burlingame,CA)と、原色体としてジアミノベンジジンとを使用し、アビジン−ビオチン錯体により、免疫反応性を可視化した。対比染色剤として、ヘマトキシリンを使用した。過去に記載された通りにして、BrdU免疫組織化学測定を行った(Gerber et al.(1999))。
【0148】
結果
CHO−VEGF細胞の移植がインビボ肝成長を誘引する
マウスでのVEGFタンパク質の持続レベルの効果を検討するために、CHO−VEGF細胞を3〜4週齢、6〜8週齢、12〜14週齢のベージュのヌードマウスの両脚部に筋肉内注射した。対照動物に、同数のCHO−DHFR細胞、CHO−HAg細胞、又はCHO−HGF細胞を注射した。2週間後の、CHO−VEGF動物体内でのヒトVEGFの血清濃度は3.3±1.7ng/ml(0.8〜5.4ng/mlの範囲)であった。hVEGFは、CHO−DHFRやCHO−HAgの対照動物での血清中では検出不可能であった。CHO−HGF動物について、血清中でのHGFのレベルは1.25±0.87ng/ml(0.50〜2.00の範囲)であった。
【0149】
図1A〜1Dに示したように、CHO−VEGFのグループにおいて、実質的に増大した肝臓サイズが認められた。2つの週齢グループで、酷似した結果が得られた。従って、3〜4週齢のグループで得たデータのみを示した。処理グル−プでの脳重量は不変であったので(図1D)、他の器官重量を脳重量基準で標準化した。CHO−VEGFグループ(4.73±0.39)での肝臓/脳の比、つまり、相対肝質量は、CHO−DHFR(3.18±0.25、p<0.0001)の対照、並びに、CHO−HAg(3.00±0.45、p<0.0001)の対照(図1A、B)と比べて極めて大幅に増加した。この結果により、相対肝質量がそれぞれ49、59%増加することが示された。CHO−VEGFグループでの心臓/脳の比も大幅に増加した(0.376±0.052:CHO−DHFRの0.304±0.022と、CHO−HAgの0.304±0.017と対比して。即ち、CHO−VEGF対CHO−DHFRはp<0.05である)。同様にして、腎臓/脳の比も大幅に増大した(0.976±0.071:CHO−DHFRグループの0.860±0.070、p<0.05と、CHO−HAgグループの0.822±0.097、p<0.02と対比して)(図1C)。しかし、これらの効果は、肝寸法の増大と比べればさほど顕著とは言えなかった。VEGF処理動物での絶対肝質量と相対肝質量の極めて大幅な増加は、5通りの独立した実験で首尾一貫して観察された。これらの各種の実験の中で、CHO−VEGFグループでの相対肝質量は、CHO−DHFRグループと比べて30〜69%増加した。肝質量の更なる増加は、CHO−VEGF細胞移植後の3週間目に認められた。しかし、この場合、苦痛の兆候や死亡を伴うことが多かった。興味を惹いた点は、CHO−HGFグループでは感知できるほどの肝成長効果が認められなかったことである(図1B)。
【0150】
徐放製剤中のVEGFもまた肝成長を促進する
上記の効果は、徐放製剤とした高精製ヒト組換えVEGF165タンパク質の注射によって再現された。マウスの足にVEGF−PLGAミクロスフェアを、1日目,7日目,および10日目に筋肉内注射した。放出型VEGFタンパク質の投与量は、約4.5mg/kg/個体であった。CHO−VEGF処理したマウスで認められたように、VEGF−PLGAを注射されたマウスにおける肝/脳の比(4.057±0.274,n=3)は、対照群(3.396±0.302,n=4)に比べ、有意(p<0.05)に増大した(図1E)。ここで認められた肝成長の増強は、CHO−VEGF細胞移植において得られたものほど顕著なものではなかった。しかしながら、VEGF−PLGA処置した動物の血清中のヒトVEGF濃度は、屠殺時において、200pg/mlであった。この知見から、精製した組換えVEGFも肝成長を促進しうることが示された。
【0151】
全身性VEGFは肝臓中に多数の分裂細胞を出現させる
CHO−VEGF注射を施した動物の肝臓の標準組織分析を行ったところ、BrdU免疫組織化学分析において認められたものと同様に、多数の肝細胞が有糸分裂像を示したことが判明した。有糸分裂活動は、CHO−VEGF処置した肝臓の、実質細胞および非実質細胞の両方で認められた。CHO−DHFR対照群の動物の肝臓においては、ただ1つの有糸分裂肝細胞が、合計10箇所の高倍率(40倍)顕微鏡検査によって、5個体中1個体にのみ認められただけであった。それに対し、CHO−VEGF群においては、100%の肝臓で、10箇所の高倍率鏡検あたり少なくとも5個(5〜11個の範囲)の有糸分裂像が認められた。さらに、増殖中の肝細胞の区画は、BrdU注射したCHO−VEGFマウスから単離した肝細胞をFACS分析によって定量したところ、6.44±0.96%を占めた(CHO−DHFRでは1.02±0.74%,およびCHO−HGFでは1.55±1.48%)。
【0152】
VEGFは、血管透過性を亢進しうることが判っている〔ドボラクら(Dvorak et. al.)著、1995年、「アメリカン ジャーナルオブ パソロジー(Am.J.Pahol)」、146、p.1029−39〕ので、肝臓の大きさが増大したのは、幾分かは、体液が鬱滞した結果として肝細胞が膨張したことによるものである可能性が存在する。しかしながら、肝細胞の面密度の分析結果からはCHO−DHFR群とCHO−VEGF群との間に全く相違は認められなかったので、その増大効果は、全て肝細胞の有糸分裂に帰するものであることが示された。
【0153】
VEGFへの曝露後の肝臓における類洞内皮細胞のより複雑な分岐
肝細胞の有糸分裂活動の亢進、類洞細胞の過形成、および骨髄外造血活性の亢進が、CHO−VEGF細胞を注入した全ての動物において認められた。しかしながら、血管腫の形跡や他の異常な血管増殖が認められた例は無かった。CHO−DHFR、CHO−HAgおよびCHO−HGFが注入された動物の肝臓は、正常範囲内であった。末端肝細静脈の回りのFlk−1を調べる免疫組織化学分析では、CHO−DHFR動物の肝臓において、類洞内皮についても非類洞内皮細胞についても正常な染色パターンが得られた。CHO−VEGF動物の肝臓においては、類洞は、より複雑な分岐構造を有しているようであり、内皮染色において著明な増幅が認められた。
【0154】
実施例3:肝細胞の有糸分裂の刺激
方法
過去に記載された手法により、肝臓の逆方向潅流を施したヌードマウスから、肝細胞を分離した。ハーマンら(Harman et al.)著、1987年、「ジャーナル オブ ファーマコロジカル メソッズ(J.Phamacol.Methods)」、17、p.157−63。下大静脈に、22ゲージのアボカテTカテーテル〔アボット ラボ(Abbott Lab)社製〕を挿入し、門脈を切断した。肝臓をインサイツにて、0.1%コラゲナーゼ、2mMCaCl2を含むPBS溶液を用いて、3ml/分の流速で、10〜15分間潅流した。肝細胞は、24ウェルプレートに、10%の熱不活化したウシ胎児血清(GIBCO BRL社製),1μg/mlのインシュリン,10μg/mlのトランスフェリン,1μg/mlのアプロチニン(Sigma社製),2mMのl−グルタミン,100U/mlペニシリン,および100μg/mlのストレプトマイシンを補填したウィリアムのE培養液(GIBCO BRL社製)中で、5×104個/ウェルの密度となるように播種し、一晩吸着させた。次に、培養液を注意深く各ウェルから除去し、成長因子(ネズミEGF,ネズミHGF,組換えヒトVEGF,ネズミPlGF,VEGF−E,KDRselもしくはFltsel)を含有する培養液を加えた。24時間インキュベーションした後、細胞を1μCi/ウェルのメチル−3H−チミジン(47Ci/mmol,Amersham Pharmacia Biotech社製)でパルスし、一晩インキュベーションした。翌日、プレートは、冷却PBS中でリンスし、続いて15分間冷却10%TCAでインキュベーションして回収した。次に、ウェルを水で洗い流し、200μlの0.2N NaOH溶液を加えた。それから、これをシンチレーション液に加え、Beckman社製液体シンチレーションシステムによって分析した。
【0155】
トランスウェル培養物を得るために、予め0.002%フィブロネクチン溶液(F1141,Sigma社製)でコートした24ウェルプレートに孔径0.4μmポリエステルメンブレン(Costar社製)を置き、5×104の肝細胞を上室に、1×105LSECを下室に播種し、細胞を一晩吸着させた。培養液を除去し、成長因子を、0.2%FCSおよび0.1%BSAで補填したCSC培養液(Cell Systems社製)と共に加えた。24時間インキュベーションした後、細胞を1μCi/ウェルのメチル−3H−チミジンでパルスし、一晩インキュベーションした。結合にあずかったものの計数は、上述の方法で行った。
【0156】
類洞内皮細胞は、ヌードマウスもしくはC57Bl6マウスから分離した。上述した逆方向灌流を施した後、肝臓を取り出し、細分化し、2度の低速遠心分離を行って実質細胞の含量を低減させた。残った非実質細胞は、ビオチンを結合させた内皮細胞特異性抗CD31抗体(Pharmingen社製 MEC13.3)の2mM EDTAおよび0.5%BSAを含むPBS溶液で、氷上にて5〜10分間インキュベーションし、洗浄した後、25μlのストレプトアビジンを結合させたマグネティックマイクロビーズ液(Milteny biotech社製)と共にインキュベーションした。それから、ストレプトアビジン修飾された内皮細胞を、LS+/VS+カラムに供し、Variro MACS分離装置(Milteny biotech社製)で磁場を印加することにより回収した。細胞を洗浄した後、カラムを磁場から取り出すことにより溶離した。内皮細胞の同定と純度測定は、CD31,CD34(Pharmingen社製)およびFlk−1(Genentech社製)についてのFACS分析、およびDiI標識したAc−LDL(Biomedical Technologies Inc.,社製,Stoughton,MA)の取り込みの計測により行った。精製した内皮細胞は、予め0.002%フィブロネクチン溶液でコートされ、血清と成長因子(Cell Systems社製)を含み、さらに5ng/mlの組換えヒトVEGFを加えてあるCSC培養液を入れた、6ウェルプレートおよび24ウェルプレートにプレーティングした。
【0157】
初代培養LSECの継代物1を6ウェルプレート中に1×106/ウェルの密度でプレーティングした。一晩インキュベーションした後、細胞を、0.2%FCS,0.1%BSAを含むCSC培養液中に12から18時間置いて飢餓状態とした。培養液を、0.1%BSAを含むCSC培養液に交換して90分置き、それから因子(20ng/ml)を加えて5分間インキュベーションした。試料を素早く冷却PBSですすぎ、プロテアーゼインヒビター混合物(Roche社製 MB1836145)およびホスファターゼインヒビター混合液(Sigma社製)を含む0.8mlRIPA緩衝液(150mm NaCl,1%Nonidet P−40,0.5%オルトバナジン酸ナトリウム,50mM Tris pH8.0)に溶解した。抗ホスホERK抗血清は、Cell Signaling Technology社より購入し、汎ERK抗血清は、Signal Transduction Laboratoriesから購入した。
【0158】
結果
VEGFは肝細胞の分裂促進因子ではない
VEGFは、その標的選択性が血管内皮細胞に強く限定される分裂促進因子として特徴づけられてきた〔コンら(Conn et al.)、1990年、フェラーラとヘンツェル(Ferrara and Henzel)、1989年、プロウエトら(Plouet et al.)1989年〕。しかしながら、最近の研究では、VEGFの有糸分裂作用はある種の非内皮細胞にも認められることが報告されており、そのような細胞には、網膜色素細胞や〔グエリンら(Guerrin et al.)、1995年〕シュワン細胞〔ソンデルら(Sondell et al.)、1999年〕が含まれる。従って、VEGFが肝細胞に何らかの直接的な分裂促進的作用を有するかどうかを試験することは重要であった。図2Aに示す通り、新鮮な単離マウス肝細胞においては、VEGFを広範な濃度範囲について検査したが、何ら3H−チミジンの取り込み増強を誘導することはなかった。同様に、VEGFR選択的VEGF変異体であるFltselおよびKDRselや、天然のVEGFR選択的アゴニストPlGF(VEGFR−1に作用)及びVEGF−E(VEGFR−2に作用)は、いずれも肝細胞の増殖を誘発しなかった。これに対して、HGFは、用量依存性の刺激を誘発し、〜50ng/mlで最大の増強を示した。EGFも、10ng/mlの濃度での試験において、3H−チミジン取り込みの有意な増強を誘発した。このことは、インサイツでのリガンド結合の研究結果と合致しており、それらの研究では、肝臓部においては、VEGF結合部位は、肝細胞ではなく内皮細胞に局在していることが示されている。ジェイクマンら(Jakeman et al.)著、1992年、「ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(J.Clin.Invest.)」、89、p.244。従って、VEGFの肝細胞増殖促進作用は、内皮細胞由来のパラ分泌メディエータ活性を必要としている。
【0159】
肝細胞と類洞内皮細胞の共培養
肝細胞の有糸分裂の分子メカニズムをさらに探究するために、肝細胞および類洞内皮細胞(LSEC)の初代培養を、単離で、もしくはトランスウェル方式による共培養系で確立させた。
【0160】
単離及びトランスウェル共培養の両方において、VEGF,KDRselおよびVEGF−Eは、初代培養LSEC培養物に対して、2−2.4倍に増強された3H−チミジン取り込みを誘導し(図2Bおよび2C)、また、リン酸特異的抗体を用いた測定によれば、ERK1/2リン酸化の強い活性化も誘導していた(図3上)。これに対して、FltselやPlGFでは、LSEC増殖においても(図2Bおよび2C)ERK1/2リン酸化反応(図3上)においても、陰性対照との差異は認められなかった。HGFは、LSEC増殖に殆ど影響を及ぼさなかった(図2B)。このことは、HGFがLSECのような非実質細胞と比べて肝細胞に対してより分裂促進能力を持つ〔パティンら(Patijn et al.)、1998年、「ヘパトール(Hepatol.)」28:p707−16〕一方、別の生物学的状況ではHGFは強い効力を有する内皮細胞の分裂促進因子である〔ローゼンとゴールドベルグ(Rosen and Goldberg)著、1997年、ローゼン(Rosen),E、ゴールドベルグ(Goldberg),ID編、Springer出版社 p.193−208〕ことを示すこれまでの研究と合致する。
【0161】
しかしながら、トランスウェル培養においては、wt−VEGF,Fltsel,もしくはPlGFは、組換えmHGFによって誘導されたものと同等の肝細胞増殖を示した(図2D)。これらの分子は、肝細胞に対する直接的な分裂促進作用を持たない(図2A)ため、これらの知見は、それらのリガンドに反応してLSECが刺激されてパラ分泌因子を放出することを示している。KDRselもVEGF−Eも何ら有意な肝細胞刺激作用を示さなかったことから、VEGFR−2活性化は、少なくともLSECにおいては、そのようなパラ分泌効果を誘導するのには効率的ではないものと思われる(図2D)。
【0162】
HGFは、肝細胞に対する重要な分裂促進因子であり、初めの実験においては、CHO−VEGFを移植したマウスの類洞内皮細胞でのインサイツハイブリダイゼーションにおいて、対照に比し、HGFmRNA発現を強力に上方制御することが認められた。このことから、HGFがVEGF効果に対するパラ分泌メディエータである可能性を持つかどうか、LSEC−肝細胞共培養物において試験した。50μg/mlの濃度で50ng/mlの組換えマウスHGFの活性を〜50%中和する能力を有する、ヒトHGFに対して産生させたポリクローナル抗体は、共培養物において、その添加により、VEGF,Fltsel,もしくはPlGFが誘導した3H−チミジン取り込みを有意に阻害した(それぞれ30±2%,29±2.4%,および30±1.3%)。このように完全な阻害ではなかったのは、HGF中和が部分的だったことだけではなく、LSECによって産生された付加的なパラ分泌因子が存在したことを反映しているものと思われる。
【0163】
実施例4:向肝性因遺伝子の差次的誘導
過去に記載されたようにおそらくパラ分泌作用に寄与している内皮細胞内で誘発される因子をさらに特定するために、多くのサイトカインやレセプターについて、RNA転写レベルを、初代培養LSECを用いて調べた。集密の初代内皮細胞培養物を、トリプシン処理して解離し、6ウェルプレートに、2.5%FBSを含み成長因子を含まないCSC培養液中に2×106個/ウェルの密度となるように播種した。10−12時間後、培養液を交換し、細胞を24時間、rhVEGF,KDRsel,Fltsel,mPlGFおよびVEGF−Eをそれぞれ10ng/mlの濃度で含む組換え因子を加えてインキュベーションした。細胞を、氷冷PBSで2度洗浄し、RNeasyキット(Qiagen社製)を用い、製造会社の使用説明書に準拠して、全RNAを分離した。1反応当り50ngの全RNAをPerkin−Elmer社のRT−PCRキットを用い、製造会社(PE Applied Biosystems,Foster City,CA)の使用説明書に則って分析した。反応は、96ウェルプレートを用い、モデル7700シークエンス検出器(PE Applied Biosystems社製)において実行し、反応生成物を、シークエンス検出ソフト(PE Applied Biosystems社製)を用いて分析した。RT−PCRの条件は、48℃30分,95℃10分と、95℃30秒と58℃90秒を40サイクルであった。データは、GAPDHレベルについて標準化し、全肝RNAを全ての検量線を得るために用いた。各試料につき2重に分析を行い、実験は、遺伝子のフルセットついては2回、HGFについては5回行った。
【0164】
用いたプライマーおよびプローブは以下の通りである:
表2
【0165】
図4は、VEGFもしくはVEGFR選択的アゴニストによる向肝性遺伝子の差次的な誘導を示す。分析に供した中で、可能性のある遺伝子標的のパネルは、HGF,ヘパリン結合EGF(HB−EGF),IL−6,結合組織成長因子(CTGF),TGFα,TGFβ,aFGF,bFGF,PlGF,Flt−1,Flk−1,およびc−Metであった。特筆すべきは、VEGF処理した培養物とFlt選択的VEGF処理した培養物中おける、再現性のある特異的な5.5±2.3倍ものHGFの誘導であり、これは、HGFがFlt−1媒介性のシグナル伝達過程における標的遺伝子であることを示している。IL−6も、無処理LSEC培養物に比べ、3.3±0.6倍の誘導を示したことから、Flt−1シグナル伝達の選択的な標的であると思われた。HB−EGFとCTGFは、VEGF,Fltsel,またはKDRselによって同程度の誘導が認められたことから、VEGFR−1およびVEGFR−2シグナルの重複標的であることを示すものと考えられる。2つの独立した実験では、TGFα,PlGF,およびFlk−1は、KDRsel処理した培養物中で高い値を示した。従って、これらの遺伝子は、VEGFR−2反応性標的であると考えられる。TGFαや酸性および塩基性FGFなどの他の転写物の発現レベルはどの処理によっても増加を示さなかったが、これらの転写物のレベルは、培養LSECにおいては高いものであった(すなわち、Taqman法の閾値の濃度は23未満)。
【0166】
実施例5:VEGFRアゴニストの遺伝子送達
肝成長に及ぼすVEGFの効果がVEGFの産生様式及び/又は部位に依存しないことを確認するため、また、VEGF活性のメカニズムをさらに探究するため、アデノウィルスベクターが、wt−VEGF(Av−VEGF)やレセプター選択的アゴニスト(Av−KDRselもしくはAv−Fltsel)を導入するために使用された〔ジルら(Gille et al.)、2001年〕。肝臓は、アデノウィルスの血中からの除去を担う主要な器官であり、経IV投与による感染の自然な部位でもある。
【0167】
Ad−VEGF,Av−FltselとAv−KDRsel,およびAd−lacZを、本質的に製造者によって記載されたようにしてAdEasyアデノウィルスベクター系(Stratagene社製)を用いて生成した。コード領域は、pShuttleCMVベクターのNotIとHindIII部位の間にクローン化した。これらのベクターを、提供されたpShuttleCMV−lacZと一緒に、BJ5183エレクトロコンピテントバクテリア(Stratagene社製)中で、E1およびE3領域を欠損させたAd5ゲノムを含むAdEasyベクターでの組換えに供した。初代培養のウィルス株は、組換えAdEasyプラスミドを宿主HEK293細胞に一過性に形質移入することにより調製した。アデノウィルス株は、HEK293細胞中でさらに増幅し、Virakitアデノ精製キット(Virapur社製;Carlsbad,CA)を用いて精製した。アデノウィルス力価は、アガロースオーバーレイプラークアッセイにより求めた。
【0168】
アデノウィルスは、直接マウスの尾静脈に注入した。ウィルスは、Virapur社製キット製剤緩衝液に保存し、PBSで適当な濃度に希釈した。注入したウィルスとPBSの容量は、各動物につき、100μlであった。投与されたウィルスの用量は、次の通りであった:Av−VEGF 107,Av−LacZ 5×108,Av−Fltsel 5×108,およびAv−KDRsel 5×108。実験、すなわち、7日から14日をウィルスのみとし、そして6日から10日をCCl4で処置する後述の実験が終了した際に血清を回収した。殺処分する1時間前に、全ての動物について100mg/kgのブロモデオキシウリジン(BrdU)(Sigma社製,St.Louis,MO)を腹腔内注入した。肝臓,腎臓,心臓,足,および脳を取り出して計量した。回収した組織は、組織学的評価に供するためホルマリンに浸漬した。統計学的分析はANOVAによって行った。
【0169】
Av−VEGF注入後1週間以内に、肝質量は、平均33.5+/−18.1%(23%から54%)増加した。明確な血管形成応答が、107pfuという低い用量において認められた。しかしながら、107を超えるAv−VEGFの用量ではわずかな増量に対しても耐性が十分ではなく、毒性に結びつき、多くの場合、注入後4日で病態を呈した。
【0170】
Av−VEGFに加えて、KDRsel又はFltselをコード化するアデノウィルスも、動物への注入に用いた。各アデノウィルスの導入で、同等レベルの組換えタンパク質が認められた。108pfu導入7日後、KDRselやFltselの血漿濃度は、それぞれ15±8ng/mlおよび31±18ng/mlであった(n=6)。Av−KDRselウィルスは、1週間以内に肝質量の22.3±7.6%(15%−30%の範囲)の増加を惹起した。質量の増加は小規模なものであったが、Av−KDRselによって誘発された形態学的変化は、Av−VEGFによって誘発された変化と定性的な差は認められず、類洞の巣状膨張を伴った、大静脈や類洞の内張りとなっている内皮細胞の過形成を特徴としていた。さらに、肝細胞板の再複製、すなわち肝細胞再生が最近活性化したことを示す指標、が認められ、また、Av−VEGF投与群では、多少の骨髄外造血が認められた。Av−FltselVEGFでは、少量ながら再現性のある(平均5%)肝質量の増加が認められた。しかしながら、これらの動物では、組織学的評価においては、血管形成の形跡は認められなかった。従って、Fltselは、インビトロでの肝細胞増殖は刺激し得るが、インビボにおける血管区画化の増加を伴わないため、全体的な器官成長は実質的に減弱もしくは制約されており、血管形成を刺激することが成体肝を最大限成長させるために必要である可能性があることを示している。対照ウィルスであるAv−LacZの尾静脈注入では、試験したどの用量(最高109pfu)においても肝成長には結びつかず、また肝組織像は、基本的に正常であった。
【0171】
肝成長の根本的なメカニズムをさらに調べるため、増殖している細胞の数を、Av−KDRselもしくはAv−Fltsel導入10日後の肝臓切片について、ブロモデオキシウリジン(BrdU)免疫組織化学的評価法により求めた。図5Aおよび図5Bに示されたように、Av−Fltselは、肝細胞増殖において、Av−KDRselやAv−LacZに比べて有意な増強を示した(図5A)。これに対して、Av−KDRselは、類洞細胞について最も強く増殖を誘導した(図5B)。Av−Fltsel処置肝臓では、類洞細胞の増殖は殆ど認められず、この点では、Av−LacZ対照群と殆ど相違がなかった(図5B)。
【0172】
実施例6:肝障害からの保護
初めの肝保護実験として、成体ヌードマウスに上述の方法でCHO−DHFRもしくはCHO−VEGF細胞を移植した。10日後、動物に与えられた物質に基づいて、両群をさらに2つのサブグループ(n=7)に分けた:すなわち、ビヒクル(オリブオイル)もしくは強力な肝毒性剤である四塩化炭素CCl4である。ビヒクルやCCl4は共に、経口胃管投与(gauvage)により4ml/kg与えられた。48時間後、動物を殺処分し、血液を集め、組織を回収して上述の方法で固定した。5μmパラフィン切片を、CCl4処置CHO−DHFR群(n=7)及びCHO−VEGF群(n=7)の動物のホルマリン固定肝臓から得た。切片は、ギルのヘマトキシリンのみで染色し、盲検分析を行うまでかぶせガラスを施した。ニコン社製Eclipse TE300顕微鏡に取り付けた浜松ホトニクス社製デジタルカメラで明視野像を撮影し、各試料の全組織面積と壊死面積を、MetaMorph画像診断ソフト(Universal Imaging社製,West Chester,PA)により測定した。全組織面積は、分析した切片の合計面積から静脈洞面積を差し引いたものと定義され、分析に供した各試料において、おおよそ20mm2であった。データは、全組織面積に対する壊死面積の比+/−SEで表した。
【0173】
CHO−DHFR動物は、典型的なCCl4中毒の特徴を呈しており、末端肝細静脈の周囲に広範な肝細胞壊死が認められた。CHO−VEGF動物では、壊死の程度は大幅に低く抑えられていた。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清濃度、すなわち肝障害の程度の主要な指標は、CHO−DHFR群に比べてCHO−VEGF群では、それぞれ85.3%および66.3%減少していた(表3)。
【0174】
表3 CCL4急性肝毒性モデルにおけるVEGFおよびVEGFR選択的変異体による保護効果
a:%減少度は、対照群に対する各実験の割合である。Iでは、CHO−DHFRを対照とし、IIやIIIではAv−LacZを対照群とした。
b:アデノウィルスは、IIにおいてはCCl4処置の4日前に投与し、IIIでは、CCl4の8日前に投与した。各グループとも、少なくとも6匹のマウスからなる。
【0175】
CCl4実験は、幾つかの研究において、アデノウィルス処置マウスについて繰り返し行った。アデノウイルスベクターの構築と形質移入は、前述の通りである。アデノウィルスは、CCl4を投与する4日又は8日前に与えられた。Av−VEGF処置肝臓においては、ALT濃度は、一つの実験ではAv−LacZに比べ、平均36.5%低減していた。しかしながら、この知見を再現することは困難であり、一つの実験ではCCl4処置Av−VEGF群のALT濃度が、Av−LacZよりも高い場合もあった。この場合では、VEGF送達は深刻な血管変化を導き、甚大な類洞の拡張につながり、高死亡率を伴うものであった。これらの実験や関連実験から、Av送達野生型VEGFは肝細胞へ保護メカニズムをもたらし得るが、非常に狭い用量反応を示し、ウィルス力価の小さな変化で毒性障害や効果無しという結果になるため、少なくともVEGFがこの様式で導入される場合には、治療応用的には魅力に乏しく狭い展望しかないことが示されたものと考えられる。
【0176】
インビトロで観察された差次的反応の観点から、Av−KDRselやAv−FltselがCCl4処置マウスの肝機能を回復させる能力を調べるために、さらに実験を行った。Av−KDRselをCCl4処置の4日前に投与した場合、ALT濃度は、Av−LacZの場合に比べ、約45%減少していた(表3)。保護効果は、Av−KDRselが毒性障害の8日前に導入されていた場合により大きなものとなり、トランスアミナーゼ濃度については85%減少まで達した。Av−Fltsel投与群の動物でも著明な保護効果が認められ、血清ALT濃度は、CCl4処置Av−LacZ群に比べ、約64%減少していた。Av−FltselがCCl4処置の4日前に投与されたかあるいは8日前に投与されたかに関しては、有意な差異は認められなかった(表3)。
【0177】
CCl4処理の8日前にアデノウィルスベクターを投与した群について肝臓の形態学的観察を行ったところ、Av−LacZ投与群では広範囲の集密的な静脈周囲壊死が認められ、それは全肝細胞質量の30%〜50%に及んでいた。Av−KDRsel投与群では、静脈周囲壊死は、重度なものではなく、単一の細胞壊死や、限られた領域での集密的な壊死に留まっていた。門脈周辺の領域では、CCl4処理を受けていない動物と同様の変化しか認められなかった。Av−Fltsel投与群では、肝細胞の壊死は同様に低減されており、末端肝細静脈における中等度の混合炎症性細胞の浸潤と、軽度の内皮細胞過形成が認められた。内皮細胞の変化は、KDRsel投与群で認められたものより、まったく著明なものではなかった。
【0178】
従って、Av−Fltselは、成体動物において内皮細胞の増殖や肝臓質量の実質的な増加は誘発しなかったが、急性肝障害時の肝機能維持について、本質的にKDRselと同等の効果を有していた。さらに、Av−Fltselは、109の用量でウイルスを投与した場合にも、動物の14日を超える経過観察において、明かな毒性を示すことは無かった。
【0179】
CCl4を用いた肝毒性実験により、KDRselとFltselには、その作用態様に、明かな差異があることが確認された。両方の分子とも、その導入によって同等の肝保護作用を示したが、病変は形態学的に全く異なった様相を呈しており、このことは保護メカニズムが異なっていることと合致するものである。興味深いことに、KDRselによる保護効果には時間依存性が認められ、ウィルスが毒性障害の8日前に導入された場合、最大の保護効果を示した。このことは、KDRselによる保護効果が、パラ分泌生存因子カスケードを増幅すると思われる内皮細胞の増殖に主として依存しているという仮説と合致するものである。これに対して、Fltselは、両方の時点の投与でも等しく効果的で、非増殖LSECからの生存/分裂促進因子の放出に基づく保護メカニズムと整合性があり、血管新生や非増殖LSECからの生存因子の放出に対する依存性は非常に低いかもしくは非依存性であった。
【0180】
アデノウィルスを用いたこの実験により、Av送達VEGFは、血管新生や肝成長を強く誘導することができるが、非常に厳しい用量応答性/毒性を有するので、ウィルス力価によっては、肝機能に対する穏やかな救助作用を呈したり、横ばいの変化しかもたらさずむしろ有害な影響を与えてしまうことも示唆された。1/2−1/4倍低い用量では効果を示さないが、2−4倍高い用量は、毒性や罹患率を惹起してしまう。VEGFの全身毒性や厳しい用量応答特性については、既に指摘されている〔サーストンら(Thurston et al.)著、2000年、「ネイチャー メディスン(Nat.Med.)」、6、p.460−63、ウォンら(Wong et al.)著、2001年、「プロシーディングス オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ USA(Proc.Natl.Acd.Sci.USA)」、98、p.7481−6〕。
【0181】
Av−KDRselは、最も高用量(109)で付与されると毒性を示すが、それはVEGFよりも良好な安全性特性を示し、Av−VEGFによるよりも有意に高い血漿中濃度であっても、より低い毒性しか惹起しなかった。KDRselがIL−6のような炎症性サイトカインを含むVEGF標的遺伝子の完全相補鎖を誘導することができないことが、そのような相違を生じさせているのではないかと考えられる。逆に、Fltselは、急性肝毒性モデルにおいて目覚しい程度にまで肝細胞や肝機能を救助したが、血管新生や有意な肝成長を誘導することはなかった。実際、この実験で最も特筆すべき結論の一つは、適切なシグナルを受けると、静止期の内皮細胞が、障害から実質組織を強く保護することができる因子を産生するように指示されうることである。これは、内皮細胞によって媒介される実質組織の細胞に対する保護効果が、血管新生の刺激とは切り離して考え得ることを最初に証明するものである。
【0182】
VEGFの既知の用量制約作用(例えば低血圧や水腫)〔ヤングら(Yang et al.)、1998年〕がVEGFR−2の活性化に関連している〔クリシェとウォルテンベルガー(Kliche and Waltenberger)、2001年〕とすれば、FltselのようなVEGFR−1アゴニストは、肝臓保護を目的とした治療計画の基礎づくりに有用であると考えられる。VEGFR−2アゴニストや他の血管新生因子を低い割合で加えることで、血管新生刺激が付与されるので、最大の治療効果をもたらすことができる。あるいは、VEGFR−2に対してVEGFR−1を優先的に活性化するVEGF変異体は、安全性と効能を最適に合わせ持つものになるかも知れない。考えられる適応症としては、肝硬変を含む慢性障害の他に、様々な薬物、化学療法、毒素によって誘発される急性肝障害が挙げられる。
【0183】
興味深いことに、心臓や腎臓などの器官の重量は、VEGFを発現させた動物では、対照群よりも重かったが、この効果は肝臓で認められたよりも小さく、重要と思われたのは、肝臓組織のみがDNA合成にあずかった細胞の比率について有意な上昇を呈したことが示されたことである。注目すべきことは、本研究で明かとなったHGF、IL−6、および他の幾つかの遺伝子のVEGF又はVEGFR−1アゴニストによる誘導は、内皮細胞の全てについて認められる反応ではないと言うことであり、HUVEC又はマウス肺内皮細胞では、このような遺伝子の誘導が全く認められなかった。従って、このような、VEGFのような遍在分子に反応する内皮細胞依存性パラ分泌成長促進メカニズムは、少なくとも部分的には、LSECに限定され、器官の多様性に対する「微小環境」の影響という別の側面であると思われる〔デリアンら(Dellian et al.)著、1996年、「アメリカン ジャーナル オブ パソロジー(Am.J.Pathol.)」、149、p.59−71〕。以前には、特定の種類の内皮細胞に対して選択性を持つ血管新生分裂促進因子の存在が報告されている〔ルコーターら(LeCouter et al.)著、2001年、「ネイチャー(Nature)」、412、p.877−884〕。他の器官の血管内皮細胞は、VEGFよりもより選択的な「カギ」に反応して惹起されて組織特異的成長因子を放出するのではないかと考えられる。
【0184】
最後に、最近の研究によれば、肝臓器官形成は、血流や血管機能の確立に先立つ、内皮細胞を起源とする潜在的な誘導シグナルと関連づけられている〔松本ら(Matsumoto et al.)、2001年〕。ここに記載したメカニズムは、少なくとも部分的には、そのような誘導事象についての説明になり得るものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1A】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Aは、DHFR,VEGF165,HGF,もしくはHAg(Hakata抗原)を発現するCHO細胞を移植された動物における、肝臓/脳比の比較である。
【図1B】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Bは、DHFR,VEGF165,HGF,もしくはHAg(Hakata抗原)を発現するCHO細胞を移植された動物における、肝臓/脳比の比較である。
【図1C】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Cは、DHFR,VEGF165,もしくはHGFを発現するCHO細胞を移植された動物における、腎臓/脳比を示す。
【図1D】全身性VEGFが肝臓質量の増加に及ぼす効果を示す。1Dは、1Cと同じ群における脳重量を示す。誤差バーは、平均値の標準誤差を表している。
【図2A】種々のタンパク質剤が、単独で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Aは、EGF,HGF,VEGF,もしくはVEGFR選択的アゴニストが、単独培養の初代肝細胞における3H−チミジンの取り込みに及ぼす効果を示す。EGF(10ng/ml)およびHGF(50ng/ml)は、3H−チミジンの取り込みを刺激したが、VEGF,KDRsel,VEGF−E,Fltsel及びPlGFは、そこに示した濃度(ng/ml)での試験では、肝細胞における3H−チミジンの取り込みを誘発しなかった。
【図2B】種々のタンパク質剤が、単独で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Bでは、野生型のVEGFとKDRアゴニストであるKDRsel及びVEGF−Eが、LSEC初代培養物において3H−チミジンの取り込みを誘発したことが示されている。一方、Flt−1選択性アゴニストであるFltselおよびPlGFは、LSECの増殖を促進しなかった。50ng/mlであったHGF以外では、リガンドは10ng/mlの濃度で添加された。
【図2C】種々のタンパク質剤が、トランスウェル方式で培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Cは、トランスウェルによるLSEC/肝細胞共培養物において、VEGF,KDRsel及びVEGF−Eが、LSECでの3H−チミジンの取り込みを誘発し、一方、Flt−1アゴニストでは効果が無かったことを示す。リガンドの濃度は2Bにおけるものと同じである。
【図2D】種々のタンパク質剤が、トランスウェル方式で、培養した肝細胞やLSECへ及ぼす効果を示す。2Dは、トランスウェルによるLSEC/肝細胞共培養物において、PlGFもしくはFltselが、HGF処理した細胞と同等のレベルで初代培養肝細胞での3H−チミジンの取り込みを誘発したことを示す。一方、KDRselもしくはVEGF−Eとインキュベーションした場合には、殆どもしくは全く、肝細胞の増殖刺激は認められなかった。リガンドの濃度は2Bにおけるものと同じである。誤差バーは、標準偏差を表している。
【図3】VEGF及びVEGFR選択的アゴニストが、LSECにおけるMAPキナーゼ活性化に及ぼす効果を示す。上部パネルは、野生型のVEGF(V)とKDRsel及びVEGF−E(V−E)のERK活性化能を示し、リン酸化されたERK1/2が免疫ブロット法で表されている。Fltsel及びPlGFは、図の下部パネルに汎ERK免疫ブロット法で示すように同等レベルのERK1/2は存在したものの、ERKのリン酸化を誘発しなかった。リガンドは全て20ng/mlで添加された。
【図4】Flt−1とKDR選択的アゴニストが、LSECにおいて、独立的な、及び重なった遺伝子の発現を誘発することを示す。LSEC内における12の独立的な遺伝子の転写産物をTaqman分析した典型的な実験では、10ng/mlのVEGF,KDRsel,もしくはFltselで24時間処理し、非処理の細胞を任意に値1として、対照に対して正規化した。発現特性から、VEGFによって誘発されたHGFおよびIL−6は、Flt−1によって選択的に媒介されたものであり、また、HB−EGFやCTGFは、Flt−1とKDRの両方に反応性があることが示されている。TGFαやPlGFは、KDR活性化に対してより高い反応性を示している。棒グラフの符号については右上角の凡例を参照のこと。
【図5】図5Aおよび5Bは、選択的VEGFR活性化に応答して生じるインビボでの増殖を肝細胞と類洞内皮細胞で対比して示したものである。増殖肝細胞(5A)及び類洞細胞(5B)の定量分析は、Av−LacZ,AV−KDRsel,もしくはAV−Fltselで処理した動物の、AV投与10日後の肝臓切片をBrdU免疫組織化学処理した後に実行した。値は平均値±標準誤差で示している。有意性レベルは、不対t検定で検証し、P値を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において肝成長を促進させる方法であって、有効量のVEGFR調節剤を対象に投与し、これによって対象の肝質量を増大させる方法。
【請求項2】
VEGFR調節剤が、Flt−1アゴニストである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項2に記載の方法。
【請求項6】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項2に記載の方法。
【請求項7】
肝臓内での非実質細胞の増殖を促進させるのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項2に記載の方法。
【請求項8】
血管新生剤が、KDRアゴニストである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
VEGFR調節剤を、全身送達系を通じて対象に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含む細胞製剤を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対象における病的肝状態を治療する方法であって、病的肝状態の軽減に有効な形でVEGFR調節剤を対象に投与する工程を含む方法。
【請求項19】
病的肝状態が、肝不全、肝炎、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
VEGFR調節剤がFlt−1アゴニストである請求項18に記載の方法。
【請求項21】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項20に記載の方法。
【請求項24】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項20に記載の方法。
【請求項25】
肝臓内において非実質細胞の増殖を促進させるのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項20に記載の方法。
【請求項26】
血管新生剤がKDRアゴニストである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
VEGFR調節剤を全身送達系を通じて対象に投与する請求項18に記載の方法。
【請求項29】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項28に記載の方法。
【請求項32】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項18に記載の方法。
【請求項34】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項33に記載の方法。
【請求項36】
対象の肝臓内で肝細胞増殖を促進させる方法であって、肝細胞の増殖を促進するのに効果的な形でFlt−1アゴニストを対象に投与する工程を含む方法。
【請求項37】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項37に記載の方法。
【請求項39】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項36に記載の方法。
【請求項40】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項36に記載の方法。
【請求項41】
Flt−1アゴニストを、肝臓の非実質細胞へ送達する請求項36に記載の方法。
【請求項42】
非実質細胞が、類洞の内皮細胞である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
Flt−1アゴニストを全身送達系を通じて対象に投与する請求項36に記載の方法。
【請求項44】
全身送達系が、遺伝子組換えFlt−1アゴニストを発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項44に記載の方法。
【請求項46】
全身送達系が、精製Flt−1アゴニスト及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項43に記載の方法。
【請求項47】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項46に記載の方法。
【請求項48】
Flt−1アゴニストを、そのFlt−1アゴニストをコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項36に記載の方法。
【請求項49】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項48に記載の方法。
【請求項50】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項48に記載の方法。
【請求項51】
対象において肝臓を、肝毒性剤への曝露による障害から保護する方法であって、VEGFR調節剤を対象に投与する工程を含み、そのVEGFR調節剤が肝臓を障害から有効に保護する方法。
【請求項52】
VEGFR調節剤がFlt−1アゴニストである請求項51に記載の方法。
【請求項53】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項52に記載の方法。
【請求項54】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項53に記載の方法。
【請求項55】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項52に記載の方法。
【請求項56】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項52に記載の方法。
【請求項57】
Flt−1アゴニストを、血管新生因子と併用して投与する請求項52に記載の方法。
【請求項58】
血管新生因子がKDRアゴニストである請求項57に記載の方法。
【請求項59】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗性抗KDR抗体又は小分子である請求項58に記載の方法。
【請求項60】
VEGFR調節剤を、対象が肝毒性剤に曝露される以前に、又は曝露と同時に投与する請求項51に記載の方法。
【請求項61】
肝毒性剤が、疾病の治療に有効な治療剤である請求項60に記載の方法。
【請求項62】
治療剤が、癌治療用の化学療法薬である請求項61に記載の方法。
【請求項63】
治療剤が、癌治療用の放射線治療薬である請求項61に記載の方法。
【請求項64】
VEGFR調節剤を、対象が肝毒性剤に曝露された後であって対象内で検知可能な肝障害が生じる前に投与する請求項51に記載の方法。
【請求項65】
前記対象が、前記肝毒性剤に偶発的に曝露される請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記VEGFR調節剤としてのFlt−1アゴニストを、偶発的な曝露後の約10〜約20時間以内に投与する請求項65に記載の方法。
【請求項67】
肝臓内において非実質細胞の増殖を促進するのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項52に記載の方法。
【請求項68】
前記血管新生剤がKDRアゴニストである請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項68に記載の方法。
【請求項70】
VEGFR調節剤を、対象に対して全身送達系を通じて投与する請求項51に記載の方法。
【請求項71】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項70に記載の方法。
【請求項72】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項71に記載の方法。
【請求項73】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項70に記載の方法。
【請求項74】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項73に記載の方法。
【請求項75】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項51に記載の方法。
【請求項76】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項75に記載の方法。
【請求項77】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項75に記載の方法。
【請求項78】
a)容器と、
b)その容器内に収容された組成物と、
c)肝成長を促進するための前記組成物の使用法を指図する、前記容器上のラベルと
を含む製造品であって、前記組成物が、肝成長促進に有効な量でVEGFR調節剤を含有する製造品。
【請求項79】
a)第1の容器と、該第1の容器上のラベルと、該第1の容器内に収容された組成物であって、肝成長を促進するのに有効な量でVEGFR調節剤を含有する組成物と、
b)医薬的に許容されるバッファーを含む第2の容器と、
c)肝成長促進用キットの使用を説明する取扱説明書と
を具備してなるキット。
【請求項1】
対象において肝成長を促進させる方法であって、有効量のVEGFR調節剤を対象に投与し、これによって対象の肝質量を増大させる方法。
【請求項2】
VEGFR調節剤が、Flt−1アゴニストである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項2に記載の方法。
【請求項6】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項2に記載の方法。
【請求項7】
肝臓内での非実質細胞の増殖を促進させるのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項2に記載の方法。
【請求項8】
血管新生剤が、KDRアゴニストである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
VEGFR調節剤を、全身送達系を通じて対象に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含む細胞製剤を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対象における病的肝状態を治療する方法であって、病的肝状態の軽減に有効な形でVEGFR調節剤を対象に投与する工程を含む方法。
【請求項19】
病的肝状態が、肝不全、肝炎、肝硬変、中毒性肝臓障害、薬物性肝臓障害、肝性脳症、肝性昏睡又は肝性壊死である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
VEGFR調節剤がFlt−1アゴニストである請求項18に記載の方法。
【請求項21】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項20に記載の方法。
【請求項24】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項20に記載の方法。
【請求項25】
肝臓内において非実質細胞の増殖を促進させるのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項20に記載の方法。
【請求項26】
血管新生剤がKDRアゴニストである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
VEGFR調節剤を全身送達系を通じて対象に投与する請求項18に記載の方法。
【請求項29】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項28に記載の方法。
【請求項32】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項18に記載の方法。
【請求項34】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項33に記載の方法。
【請求項36】
対象の肝臓内で肝細胞増殖を促進させる方法であって、肝細胞の増殖を促進するのに効果的な形でFlt−1アゴニストを対象に投与する工程を含む方法。
【請求項37】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項37に記載の方法。
【請求項39】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項36に記載の方法。
【請求項40】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項36に記載の方法。
【請求項41】
Flt−1アゴニストを、肝臓の非実質細胞へ送達する請求項36に記載の方法。
【請求項42】
非実質細胞が、類洞の内皮細胞である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
Flt−1アゴニストを全身送達系を通じて対象に投与する請求項36に記載の方法。
【請求項44】
全身送達系が、遺伝子組換えFlt−1アゴニストを発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項44に記載の方法。
【請求項46】
全身送達系が、精製Flt−1アゴニスト及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項43に記載の方法。
【請求項47】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項46に記載の方法。
【請求項48】
Flt−1アゴニストを、そのFlt−1アゴニストをコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項36に記載の方法。
【請求項49】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項48に記載の方法。
【請求項50】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項48に記載の方法。
【請求項51】
対象において肝臓を、肝毒性剤への曝露による障害から保護する方法であって、VEGFR調節剤を対象に投与する工程を含み、そのVEGFR調節剤が肝臓を障害から有効に保護する方法。
【請求項52】
VEGFR調節剤がFlt−1アゴニストである請求項51に記載の方法。
【請求項53】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合するFlt−1選択的VEGF変異体(Flt−sel)を含む請求項52に記載の方法。
【請求項54】
Flt−selVEGF変異体が、野生型VEGFに対して次のアミノ酸置換:I43A、I46A、Q79A及びI83Aを含む請求項53に記載の方法。
【請求項55】
Flt−1アゴニストが、P1GF又はVEGF−Bを含む請求項52に記載の方法。
【請求項56】
Flt−1アゴニストが、Flt−1に選択的に結合して活性化させる小分子体である請求項52に記載の方法。
【請求項57】
Flt−1アゴニストを、血管新生因子と併用して投与する請求項52に記載の方法。
【請求項58】
血管新生因子がKDRアゴニストである請求項57に記載の方法。
【請求項59】
KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗性抗KDR抗体又は小分子である請求項58に記載の方法。
【請求項60】
VEGFR調節剤を、対象が肝毒性剤に曝露される以前に、又は曝露と同時に投与する請求項51に記載の方法。
【請求項61】
肝毒性剤が、疾病の治療に有効な治療剤である請求項60に記載の方法。
【請求項62】
治療剤が、癌治療用の化学療法薬である請求項61に記載の方法。
【請求項63】
治療剤が、癌治療用の放射線治療薬である請求項61に記載の方法。
【請求項64】
VEGFR調節剤を、対象が肝毒性剤に曝露された後であって対象内で検知可能な肝障害が生じる前に投与する請求項51に記載の方法。
【請求項65】
前記対象が、前記肝毒性剤に偶発的に曝露される請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記VEGFR調節剤としてのFlt−1アゴニストを、偶発的な曝露後の約10〜約20時間以内に投与する請求項65に記載の方法。
【請求項67】
肝臓内において非実質細胞の増殖を促進するのに有効な量で血管新生剤を投与する工程を更に含む請求項52に記載の方法。
【請求項68】
前記血管新生剤がKDRアゴニストである請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記KDRアゴニストが、VEGF、KDR選択的VEGF変異体(KDR−sel)、拮抗的抗KDR抗体又は小分子である請求項68に記載の方法。
【請求項70】
VEGFR調節剤を、対象に対して全身送達系を通じて投与する請求項51に記載の方法。
【請求項71】
全身送達系が、遺伝子組換えVEGFR調節剤を発現する哺乳類細胞を含有する細胞製剤を含む請求項70に記載の方法。
【請求項72】
哺乳類細胞がCHO細胞である請求項71に記載の方法。
【請求項73】
全身送達系が、精製VEGFR調節剤及びポリマーマトリックスを含有する徐放性製剤を含む請求項70に記載の方法。
【請求項74】
ポリマーマトリックスが、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセルからなる群から選ばれたマイクロカプセルである請求項73に記載の方法。
【請求項75】
VEGFR調節剤を、そのVEGFR調節剤をコード化する核酸を含んだ肝標的遺伝子運搬ベクターを介して投与する請求項51に記載の方法。
【請求項76】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである請求項75に記載の方法。
【請求項77】
肝標的遺伝子運搬ベクターが、カチオン性リポソームを含んだ非ウイルスベクターである請求項75に記載の方法。
【請求項78】
a)容器と、
b)その容器内に収容された組成物と、
c)肝成長を促進するための前記組成物の使用法を指図する、前記容器上のラベルと
を含む製造品であって、前記組成物が、肝成長促進に有効な量でVEGFR調節剤を含有する製造品。
【請求項79】
a)第1の容器と、該第1の容器上のラベルと、該第1の容器内に収容された組成物であって、肝成長を促進するのに有効な量でVEGFR調節剤を含有する組成物と、
b)医薬的に許容されるバッファーを含む第2の容器と、
c)肝成長促進用キットの使用を説明する取扱説明書と
を具備してなるキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−159266(P2010−159266A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−38622(P2010−38622)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2004−510702(P2004−510702)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38622(P2010−38622)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2004−510702(P2004−510702)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
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