説明

肝疾患用栄養組成物

【課題】 慢性肝疾患等の肝疾患患者の栄養管理や肝疾患の改善、予防等に適し、かつ分岐鎖アミノ酸やペプチドによる食味の低下がない肝疾患用栄養組成物を提供することである。
【解決手段】 100gあたり、少なくとも
蛋白アミノ酸 1〜10g
食物繊維 0〜10g
カロテノイド 0.5〜10mg
を有効成分として含有し、前記蛋白アミノ酸のうち分岐鎖アミノ酸が1〜3.9gであり、前記分岐鎖アミノ酸のうちイソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/0.5〜3/0.5〜2の割合であることを特徴とする肝疾患用栄養組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝疾患用栄養組成物に関し、詳しくは分岐鎖アミノ酸を含む蛋白アミノ酸と共に、食物繊維、カロテノイドを含有した肝疾患用栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりに伴い、食品中の成分と健康との関わりが注目を浴び、種々の医薬品や食品が開発され上市されている。例えば、アミノ酸やペプチドは、そうした成分の好例であり、特に、分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、主として筋肉で分解され、運動時等において筋グリコーゲンが減少した際には、重要な筋肉のエネルギー源になること、骨格筋蛋白質の合成促進や分解抑制作用を持つことなどが知られている。さらに、分岐鎖アミノ酸を含有した栄養組成物による栄養療法が、術後侵襲期の蛋白質栄養状態の改善に有用であること、肝疾患患者の脳症や栄養状態の改善、予後の改善に有用であることが知られている(非特許文献1)。
しかしながら、分岐鎖アミノ酸を含有した栄養組成物は、分岐鎖アミノ酸に由来した特有の苦みや風味があり、摂取しにくいという問題がある。また、上記したペプチドにも、分岐鎖アミノ酸と同様の問題がある。
【0003】
特許文献1には、所定の分岐鎖アミノ酸を有機酸および/または無機酸の存在下に所定のpHで水に溶解させた分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする液剤の製造方法が記載されている。これによると、分岐鎖アミノ酸に由来した特有の苦みや風味が所定の酸でマスキングされるので、服用しやすくなると記載されている。しかしながら、慢性の肝疾患患者の栄養管理については、分岐鎖アミノ酸のみでは十分な栄養素であるとは言えず、必要な栄養素が偏りなくバランスよく含有された肝疾患用栄養組成物の開発が望まれている。
【0004】
一方、近年のライフスタイルの多様化と共に、生活リズム・バランスが損なわれ、栄養状態の偏りや、栄養の取り過ぎに起因すると考えられる生活習慣病が増加している。そこで、食品の体調調節機能に注目し、生活習慣病を予防する目的で、厚生労働省により特定保健用食品の制度が作成され、保健の用途・効果を表示することが許可されている。特定保健用食品はオリゴ糖、乳酸菌、食物繊維を関与成分とした整腸関連食品を中心に推移してきたが、糖尿病の疑いがある人の増加を背景に、関与成分として食物繊維を中心とした、血糖値に配慮した食品も増加している(非特許文献2)。加えて、活性酸素やフリーラジカルが、きわめて広範囲の疾患に関与することが明らかにされ、抗酸化物質による予防治療や健康維持にも注目が集まっている(非特許文献3)。
【0005】
特許文献2には、大豆蛋白質を加水分解して得られる分岐鎖アミノ酸を含有した所定のオリゴペプチド混合物と、ラクトシュクロースとを所定の割合で含有した肝疾患患者用組成物が記載されている。特許文献3には、1日につき、少なくとも所定の油ブレンドと、アミノ−窒素源として所定の分岐鎖アミノ酸と、β−カロチン、ビタミンC、ビタミンE、セレニウム、およびそれらの混合物から成る郡から選択される少なくとも1種の栄養剤とを含んで成る抗酸化剤成分を、ヒトの小腸内に投与することを含んでなる、ヒトにおける悪液質および/または食欲不振の兆候を予防、治療する方法が記載されている。特許文献4には、エタノールなどの毒性化合物の消費により惹起、悪化する症状の1つ以上を予防、治療する際に使用する、所定のオリゴ糖を含み、分岐鎖アミノ酸、α−リポ酸とB郡のビタミンとの混合物などから選ばれる少なくとも一種を更に含む組成物が記載されている。
しかしながら、これらの文献に記載されている組成物は、分岐鎖アミノ酸やペプチドによる食味の低下のおそれがある。さらに、慢性肝疾患患者の栄養管理に必要な栄養素がバランスよく含有された組成物ではない。
【0006】
【特許文献1】特許第3368897号公報
【特許文献2】特許第3111237号公報
【特許文献3】特表平11−508282号公報
【特許文献4】特表2004−534094号公報
【非特許文献1】日本必須アミノ酸協会、「アミノ酸セミナー」、(株)工業調査会、2003年11月25日、p30-1、96-146
【非特許文献2】日本健康・栄養食品協会、「厚生労働省許可 特定保健用食品 2003年版[トクホ]ごあんない」、2003、p1-7、18-9、42-3
【非特許文献3】井上 正康、「活性酸素と医食同源 分子論的背景と医食の接点を求めて」、1996年7月30日、p30-1、96-146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、慢性肝疾患等の肝疾患患者の栄養管理や肝疾患の改善、予防等に適し、かつ分岐鎖アミノ酸やペプチドによる食味の低下がない肝疾患用栄養組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す栄養組成物は、肝疾患患者の栄養管理について必要な栄養素が偏りなくバランスよく含有されているので、肝疾患患者の栄養管理に最適であり、さらに肝疾患の改善または予防効果も期待でき、またカロテノイドを所定量含有することにより、分岐鎖アミノ酸やペプチドによる食味の低下が低減されるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の肝疾患用の栄養組成物は、以下の構成からなる。
(1)100gあたり、少なくとも
蛋白アミノ酸 1〜10g
食物繊維 0〜10g
カロテノイド 0.5〜10mg
を有効成分として含有し、前記蛋白アミノ酸のうち分岐鎖アミノ酸が1〜3.9gであり、前記分岐鎖アミノ酸のうちイソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/0.5〜3/0.5〜2の割合であることを特徴とする肝疾患用栄養組成物。
(2)100gあたりビタミンCを35〜1000mgおよびビタミンEを3〜150mg含有する前記(1)記載の肝疾患用栄養組成物。
(3)100gあたり亜鉛を0〜10mgおよびセレンを0〜30μg含有する前記(1)または(2)記載の肝疾患用栄養組成物。
(4)100gあたりオリゴ糖を0〜3g含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の肝疾患用栄養組成物。
(5)100gあたり、少なくとも
蛋白アミノ酸 2〜7g
食物繊維 3〜7g
カロテノイド 2〜6mg
を有効成分として含有し、前記蛋白アミノ酸のうち分岐鎖アミノ酸が2〜3.5gであり、前記分岐鎖アミノ酸のうちイソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/1〜2/0.5〜1.5の割合であることを特徴とする肝疾患用栄養組成物。
(6)100gあたりビタミンCを50〜500mgおよびビタミンEを3〜50mg含有する前記(5)記載の肝疾患用栄養組成物。
(7)100gあたり亜鉛を1〜5mgおよびセレンを0〜15μg含有する前記(5)または(6)記載の肝疾患用栄養組成物。
(8)100gあたりオリゴ糖を0.5〜2.5g含有する前記(5)〜(7)のいずれかに記載の肝疾患用栄養組成物。
(9)肝疾患患者の栄養管理に使用する前記(1)〜(8)のいずれかに記載の栄養組成物。
(10)肝疾患の改善または予防に使用する前記(1)〜(8)のいずれかに記載の栄養組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る肝疾患用栄養組成物によれば、肝疾患患者の栄養管理について必要な栄養素が偏りなくバランスよく含有されているので、肝疾患患者の栄養管理を行う上で最適である。さらに、本発明に係る肝疾患用栄養組成物は、肝疾患に対して改善または予防効果が期待できるものである。しかも、本発明に係る肝疾患用栄養組成物は、カロテノイドを所定量含有することにより、分岐鎖アミノ酸やペプチドによる食味の低下が低減されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の肝疾患用栄養組成物は、少なくとも肝疾患患者の脳症や栄養状態の改善、予後の改善に有用な分岐鎖アミノ酸を含有した蛋白アミノ酸を所定量含有すると共に、病態の改善に有用な食物繊維、カロテノイドを含有する。
【0012】
本発明における蛋白アミノ酸は、少なくとも分岐鎖アミノ酸を含有しており、さらにペプチド等の状態で他のアミノ酸を含有していてもよい。この蛋白アミノ酸は栄養組成物100gあたり1〜10g、好ましくは2〜7g含有されている。そして、分岐鎖アミノ酸が前記栄養組成物のうち1〜3.9g、好ましくは2〜3.5gの割合で含有されている。
【0013】
分岐鎖アミノ酸を投与することにより、肝疾患患者の脳症や栄養状態の改善、予後の改善が得られることが知られている。詳しくは、肝疾患患者においては、分岐鎖アミノ酸の消費量が増えてアミノ酸バランスの異常が生じやすく、また亜鉛も欠乏していることが知られている。特に、慢性肝疾患患者では、持続的な肝臓の炎症から酸化ストレスが生じ、これが発癌の要因となる可能性もある。さらに、肝臓の糖取り込み能力が低下して食後に高血糖が生じることもある。分岐鎖アミノ酸は、骨格筋で代謝される際にアンモニアを解毒する作用を示し、また、たんぱく質の合成促進作用を持っている。したがって、肝疾患患者に対して分岐鎖アミノ酸を投与することにより、アミノ酸バランス異常が改善され、たんぱく質栄養状態の改善、脳症の改善、ひいては予後の改善が得られるのである。
分岐鎖アミノ酸はイソロイシン、ロイシンおよびバリンからなり、本発明においては、イソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/0.5〜3/0.5〜2、好ましくは1/1〜2/0.5〜1.5の割合で使用し得る。
【0014】
ペプチドとしては、例えば小麦蛋白加水分解物、乳蛋白加水分解物、大豆蛋白加水分解物、コラーゲン加水分解物(ゼラチン分解物)などが挙げられる。本発明では、特にコラーゲン加水分解物(ゼラチン分解物)が、そのアミノ酸組成において芳香族アミノ酸が少なく、また分岐鎖アミノ酸と組み合わせることにより、フィッシャー比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸モル比)を高くすることができ、慢性肝疾患等の肝疾患患者に補給するペプチドとしては特に好適である。
【0015】
食物繊維は、整腸作用を示すと共に、ビフィズス菌等の増加を通じて腸内バクテリアのバランスを改善し、アンモニア等の有害物質の生成を抑制するので、肝硬変患者の肝性脳症を予防する上で含有している。すなわち、本発明の栄養組成物は100gあたり食物繊維を0〜10g、好ましくは3〜7g含有する。前記食物繊維としては、特に限定されるものではなく、例えばポリデキストロース、サイリウム種皮由来の食物繊維、難消化性デキストリン、グアーガム分解物、低分子化アルギン酸ナトリウム、寒天由来の食物繊維等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
また、食物繊維の含有は、生活習慣病や大腸癌の予防が期待できると共に、小腸内ではゲル状になり、余分な栄養素(糖・コレステロール等)が体内に吸収されるのを抑制、遅延させることができるので、食後の血糖値の急激な上昇を抑制することができる。さらに、食物繊維の一日の目標摂取量に近づけることができる。
【0017】
カロテノイドは、動植物に広く分布する色素の総称である。本発明の栄養組成物は100gあたりカロテノイドを0.5〜10mg、好ましくは2〜6mg含有する。これにより、分岐鎖アミノ酸やペプチド配合による栄養組成物の食味の低下を軽減することができる。これに対し、カロテノイドが100gあたり0.5mg未満であると、食味低下の軽減が十分ではなく、また、過剰量のカロテノイドは発癌率を高くする可能性があり、好ましくない。前記カロテノイドは、特に限定されるものではなく、例えばカロテン(α−カロテン、β−カロテン、δ−カロテン)、リコペン、フィトエン、フィトフルエンのような炭化水素系カロテノイド;ルテイン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、ラクツカキサンチン、フコキサンチン、アスタキサンチンのようなキサントフィル類等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
また、カロテノイドは、ビタミンAの前駆体となるほか、抗酸化活性を有すると共に、癌をはじめ、動脈硬化疾患、眼疾患、皮膚疾患などにおける予防的役割が注目され、肝癌予防効果も示唆されているので(特開2004−196782号公報)、抗酸化作用、肝癌の予防も期待できる。
【0019】
ビタミンC(アスコルビン酸)は、水溶区画で効果的な抗酸化物質として作用し、ビタミンEは、脂溶性区画におけるフリーラジカルの消去に効果的に作用し、ラジカル反応の結果生じたビタミンEラジカルは、水溶性区画に存在するビタミンC(アスコルビン酸)により、還元再生される。一方、慢性肝疾患患者は、酸化ストレスの亢進が認められる[谷川 久一、「酸化ストレスは肝障害の基本病変」、肝胆膵47(4)、2003、p449−452]。
【0020】
そこで、本発明では抗酸化作用を改善するために、ビタミンC、ビタミンEを含有しているのが好ましい。すなわち、本発明の栄養組成物は100gあたりビタミンC(アスコルビン酸)を35〜1000mg、好ましくは50〜500mg含有し、ビタミンEを3〜150mg、好ましくは3〜50mg含有するのがよい。ビタミンC、ビタミンEの組み合わせ投与は、非アルコール性脂肪肝炎患者の肝線維化を抑制すると報告されている点からも有用である[Harrison SA et al., Am J Gastroenterol, 98(11), 2003, p2348-50 ]。
【0021】
前記ビタミンC(アスコルビン酸)は、例えばレモン、アセロラ等から抽出し、精製されたものを好適に使用できる。なお、アスコルビン酸は、溶解性を変化させる上で、その誘導体であってもよい。上記ビタミンEは、例えばα−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロールのようなトコフェロール;α−トリトコエノール、β−トリトコエノール、γ−トリトコエノール、δ−トリトコエノールのようなトリトコエノール等のビタミンE群化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用でき、化学合成、天然物由来のいずれであってもよいが、天然物由来のものが好ましい。
【0022】
亜鉛およびセレンは、抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼやアンモニア代謝酵素に含まれる微量元素であり、肝硬変患者においては、これらの微量元素が減少している。このため、これらの微量元素を補充する上で、本発明の栄養組成物は亜鉛およびセレンを含有しているのが好ましい。すなわち、本発明の栄養組成物は100gあたり亜鉛を0〜10mg、好ましくは1〜5mg含有し、セレンを0〜30μg、好ましくは0〜15μg含有するのがよい。
【0023】
特に、肝硬変患者の亜鉛欠乏はよく知られており、その補充はアンモニア低下作用、潜在性脳症の改善、窒素代謝の改善、味覚の改善および肝機能の改善をもたらすと報告されている(渡辺 明治、外3名、「肝疾患における栄養評価と治療のコンセンサス」、栄養評価と治療、vol.20、no.2、2003年、p181-196)。
【0024】
前記亜鉛は、例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酢酸亜鉛、酒石酸亜鉛、乳酸亜鉛等の亜鉛塩;亜鉛(含有)酵母などの形態であってもよく、前記セレンとしては、例えば亜セレン酸、亜セレン酸ナトリウム、セレン(含有)酵母などの形態であってもよい。
【0025】
オリゴ糖は、ウェルシュ菌等を減少させ、大腸内におけるアンモニア等の有害物質の生成を抑制する効果があり、肝硬変患者の肝性脳症を予防する上で、本発明の栄養組成物はオリゴ糖を含有しているのが好ましい。すなわち、本発明の栄養組成物は100gあたりオリゴ糖を0〜3g、好ましくは0.5〜2.5g含有するのがよい。前記オリゴ糖としては、特に限定されるものではなく、例えばキシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラクチュロース、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、ゲンチオリゴ糖、キチン・キトサンオリゴ糖、大豆オリゴ糖等の1種又は2種以上を用いることができる。また、オリゴ糖を含有することは、腸内においてビフィズス菌等を増やして腸内環境を改善すること、便性を改善すること等も期待できる。
【0026】
本発明の栄養組成物は、糖質や甘味料による甘味付けをしてもよい。前記糖質としては、例えばデキストリン、蔗糖、グルコース、ガラクトース、マルトースなどが挙げられる。また、血糖値の上昇の起こりにくい果糖、キシリトール、パラチノース、糖アルコールなどを一部配合することも可能である。これらの糖質は単独でまたは2種以上をブレンドして用いてもよい。前記甘味料としては、例えばスクラロース、ステビオサイド、サッカリン、アスパルテーム、グリシン、ソーマチン、羅漢果抽出物、アセサルファムK等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
本発明では、上記の有効成分以外にも各種の栄養成分を配合することができる。このような栄養成分としては、例えば上記以外のミネラル類やビタミン類などが挙げられる。ミネラルとしては、上記亜鉛、セレン以外に、例えばNa、K、Mg、P、Cl、Fe、Cu、Mn、I、Cr、Moなどの有機塩又は無機塩を配合することができる。ビタミンとしては上記ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE以外に、ビタミンB1 、B2 、B6 、B12、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、葉酸などの水溶性ビタミンを配合することができる。
【0028】
さらに、骨代謝に有用とされるイソフラボン、関節痛等に有用とされるグルコサミン、酸味料や疲労回復等に有用とされるクエン酸を配合することができる。クエン酸は100gあたり0.01〜5.0g程度配合するのが好ましい。また、必要に応じてカテキン類又はポリフェノールを配合してもよく、香料を100gあたり0.01〜0.5g程度配合してもよい。
【0029】
このようにして得られた栄養組成物は、その形態は特に限定されないが、例えば上記した各有効成分および各栄養成分を粉状で混合して得られる粉末のもの、および水に溶解して得られる液状のもの、液状のものを乾燥させて得られる粉末のもの、ゲル状およびゼリー状などの各種形態で使用される。
【0030】
液状の栄養組成物の調製に当たっては、必要に応じ、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどの乳化剤を用いてもよい。
【0031】
また、本発明の栄養組成物は、必要に応じて糊料(増粘剤、ゲル化剤)を添加し、ゲル状またはゼリー状に調製することもできる。その際に使用する糊料としては、例えば寒天、ゼラチン、カラギーナン、アラビアガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、その他糊料として通常使用し得る多糖類などがあげられ、これらの1種または2種以上を組み合わせたものを用いる。これら糊料の配合割合は、ゲル状またはゼリー状に調製した栄養組成物100重量部に対して5重量部以下の割合が好ましい。
【0032】
このようにして得られた本発明の栄養組成物は、肝疾患患者の栄養管理に好ましく使用されるものである。また、肝疾患の改善または予防に好ましく使用されるものである。肝疾患としては、例えば肝硬変(ウイルス性)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、脂肪肝、アルコール性肝障害、ヘモクロマトーシス、ヘモジデローシス、Wilson病、ウイルス肝炎(B型肝炎、C型肝炎)等が挙げられる。その投与形態としては、状況に応じて経口または経管にて投与することができるが、食味の低下がないという本発明の効果を有効に活用するならば、経口投与が望ましい。また、本発明の栄養組成物は、上記した肝疾患患者への栄養補給以外に、高齢者の栄養補給、スポーツ時の栄養補給、健康飲料用等としても好適に用いることができる。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明の栄養組成物について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
<液状栄養組成物の調製>
分岐鎖アミノ酸などを表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、約60℃の温水700gにイソロイシン、ロイシン、バリン、カロテノイド、リコペン、乳果オリゴ糖、難消化性デキストリン、亜鉛酵母、セレン酵母、ビタミンC、ビタミンE、蔗糖、スクラロース、クエン酸および香料をそれぞれ加えて攪拌溶解し、得られた混合液に水を加えて正確に1kgにメスアップした。ついで、メスアップした混合液をパウチに充填後、105℃で5分間の加熱滅菌をし、冷却して液状栄養組成物を得た。
【0035】
<栄養組成物の摂取のしやすさ、および食用の可否の評価方法>
上記で得られた液状栄養組成物について、摂取のしやすさ、および食用の可否を5名のパネラー(健常成人)による官能試験で評価した。結果を表2に示す。
【0036】
[実施例2および3]
ゼラチン分解質などを表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、約60℃の温水700gにゼラチン分解質、イソロイシン、ロイシン、バリン、カロテノイド、リコペン、乳果オリゴ糖、難消化性デキストリン、亜鉛酵母、セレン酵母、ビタミンC、ビタミンE、蔗糖、スクラロース、クエン酸および香料をそれぞれ加えて攪拌溶解し、得られた混合液に水を加えて正確に1kgにメスアップした。ついで、実施例1と同様にして、液状栄養組成物を得た。得られた液状栄養組成物について、実施例1と同様にして、摂取のしやすさ、および食用の可否の評価を行った。その結果を表2に併せて示す。
【0037】
[比較例1]
カロテノイドおよびリコペンを配合しない以外は、実施例2と同様にして、液状栄養組成物を得た。ついで、得られた液状栄養組成物について、実施例1と同様にして、摂取のしやすさ、および食用の可否の評価を行った。その結果を表2に併せて示す。
【0038】
【表1】

【表2】

その結果、表2から明らかなように、実施例1〜3の栄養組成物は、苦みがなくかつ摂取しやすく、食用に適しているのがわかる。
【0039】
[実施例4]
ゼラチン分解質などを表3に示す組み合わせで用いた。すなわち、約60℃の温水700gにゼラチン分解質、イソロイシン、ロイシン、バリン、カロテノイド、リコペン、ビタミンC、ビタミンE、難消化性デキストリン、亜鉛酵母、蔗糖、スクラロース、クエン酸および香料をそれぞれ加えて攪拌溶解し、得られた混合液に水を加えて正確に1kgにメスアップした。ついで、実施例1と同様にして、液状栄養組成物を得た。
【0040】
【表3】

得られた液状栄養組成物を四塩化炭素誘発肝障害モデルに対して投与し、肝障害改善効果を評価した。すなわち、本発明の栄養組成物を投与する「組成物」用と、本発明の栄養組成物に代えて生理食塩液を投与する「対照」用の2群のウイスター系雄性ラット(7週齢)を各群10匹ずつ用意し、各ラットに対して、四塩化炭素とオリーブ油の等量混合物を1mL/kgで週2回、6週間にわたって皮下投与し、四塩化炭素により肝障害を誘発させた。そして、後半の3週間は、「組成物」用のラットには上記液状栄養組成物を、「対照」用のラットには生理食塩水液を、それぞれ10mL/kg/dayで連日経口投与した。最終の四塩化炭素投与の2日後に各ラットから採血して、ALT(GPT)およびAST(GOT)を測定した。ALTおよびASTは、各々試薬として、和光純薬製「LタイプワコーGPT・J2」、和光純薬製「LタイプワコーGOT・J2」を用い、生化学自動分析装置((株)日立ハイテクノロジーズ製「7170」)にて測定した。生理食塩液を投与したラットに関する結果を「対照」とし、液状栄養組成物を投与したラットに関する結果を「組成物」として、図1に示す。なお、図1において、各結果はそれぞれ10匹のラットから得られた値の平均値±標準偏差で示した。
【0041】
図1から、四塩化炭素によって誘発された肝障害によりALTおよびASTの値は「対照」のレベルにまで上昇するが、ALT、ASTともに本発明の栄養組成物を投与することによって有意に抑制されることがわかり、本発明の栄養組成物は肝障害に対して改善効果を発揮することが確認できた。このことから、本発明の栄養組成物は肝疾患に対する予防効果をも有すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例4における肝障害改善効果に関する評価結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100gあたり、少なくとも
蛋白アミノ酸 1〜10g
食物繊維 0〜10g
カロテノイド 0.5〜10mg
を有効成分として含有し、
前記蛋白アミノ酸のうち分岐鎖アミノ酸が1〜3.9gであり、前記分岐鎖アミノ酸のうちイソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/0.5〜3/0.5〜2の割合であることを特徴とする肝疾患用栄養組成物。
【請求項2】
100gあたりビタミンCを35〜1000mgおよびビタミンEを3〜150mg含有する請求項1記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項3】
100gあたり亜鉛を0〜10mgおよびセレンを0〜30μg含有する請求項1または2記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項4】
100gあたりオリゴ糖を0〜3g含有する請求項1〜3のいずれかに記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項5】
100gあたり、少なくとも
蛋白アミノ酸 2〜7g
食物繊維 3〜7g
カロテノイド 2〜6mg
を有効成分として含有し、
前記蛋白アミノ酸のうち分岐鎖アミノ酸が2〜3.5gであり、前記分岐鎖アミノ酸のうちイソロイシン/ロイシン/バリンの重量比が1/1〜2/0.5〜1.5の割合であることを特徴とする肝疾患用栄養組成物。
【請求項6】
100gあたりビタミンCを50〜500mgおよびビタミンEを3〜50mg含有する請求項5記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項7】
100gあたり亜鉛を1〜5mgおよびセレンを0〜15μg含有する請求項5または6記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項8】
100gあたりオリゴ糖を0.5〜2.5g含有する請求項5〜7のいずれかに記載の肝疾患用栄養組成物。
【請求項9】
肝疾患患者の栄養管理に使用する請求項1〜8のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項10】
肝疾患の改善または予防に使用する請求項1〜8のいずれかに記載の栄養組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241140(P2006−241140A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13113(P2006−13113)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】