説明

育苗ポット及び苗床

【課題】本発明は、野菜や花木等の苗を育てる場合に、発根の状態やポット内の土の湿り具合、病害虫の有無などを容易に確認できる育苗ポット及びその集合体である苗床を提供する。
【解決手段】上端側が開口する筒状の側壁と、該側壁に上下に連続して延びる内方向に窪んだ複数の条溝と、中央部が内方向に窪んだ傾斜面と該側壁の下端部から該傾斜面近くまで延びる複数の排水溝を有する底壁と、を有する育苗ポットであって、内側で、かつ、透明なプラスチック材からなる該育苗ポットと、外側で、かつ、不透明なプラスチック材からなる該育苗ポットとをそれぞれの該条溝の位置を合わせて重ね合わせた二つの該育苗ポットから構成されていることを特徴とする育苗ポット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜や花木等の苗を育てる場合に、発根の状態やポット内の土の湿り具合、病害虫の有無などの確認が容易にできる育苗ポット及びその集合体である苗床に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜や花木等の苗を育てる場合に、有色のプラスチック製ポットや平型又は鶏卵容器型などの育苗容器に播種や挿し木したりして苗を育てることが行なわれている。とりわけ、定植までの育苗期間において、苗の発根および根の成長が重要であって、通常、根が成長しやすいように、遮光できる有色の育苗容器や不透光性の育苗容器が用いられ、更に、根の成長を適切にして、根詰まりや根巻きが生じないことが大切である。これらの根詰まりや根巻きが防止できる育苗容器の先行技術が開示されている(文献1,2)。
【特許文献1】特開2000−188962号公報(〔0010〜0011〕)
【特許文献1】特開2000−300083号公報(〔0013〕、〔0028〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前述の先行技術は、育苗において苗や苗木の根詰まりや根巻きを生じさせない点では有効であるが、苗や苗木の発根の状態やポット内の土の湿り具合、病害虫の有無などを視認して確認するためには、苗や苗木を育苗容器であるポットから抜いて取り出さなくてはならず、そのために挿し穂や苗が弱るおそれがある。また、出荷時期や植え替え時期に、ポットから苗や苗木を取り出さないで地下根の発育状態を見極めるには、ある程度の経験や勘を必要とするなど難しいものである。特に、素人には苗の地上部はよく伸びていても、地下部の根量が少なかったり、土の湿り具合や病害虫などのポット内の状態の見極めが非常に難しい。
【0004】
本発明は、前述の課題を解決するために試行を繰り返して完成させたものであって、野菜や花木等の苗を育てる場合に、発根の状態の確認が容易にできる育苗ポット及びその集合体である苗床を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための本発明の請求項1に係る育苗ポットは、上端側が開口する筒状の側壁と、該側壁の下端部に連なる底壁からなる育苗ポットであって、内側で、かつ、透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットと、外側で、かつ、不透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットとを重ね合わせた二つの該育苗ポットから構成されていることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、透明な育苗ポットに培土を入れ、播種やさし穂して苗を育成するが、その発根状態、特に根巻きや根詰りの状態やポット内の土の湿り具合、病害虫の有無などを容易に視認できる。また、不透明な育苗ポットを外側に重ね合わせているので、日光が当たることなく地下部の状況が再現でき、自然な状態で苗の根の育成が可能である。また、育苗ポットを重ね合わせることによる保温効果も期待できる。
【0007】
また、請求項2に係る育苗ポットは、上端側が開口する筒状の側壁と、該側壁に上下に連続して延びる内方向に窪んだ複数の条溝と、中央部が内方向に窪んだ傾斜面と該側壁の下端部から該傾斜面近くまで延びる複数の排水溝を有する底壁と、を有する育苗ポットであって、内側で、かつ、透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットと、外側で、かつ、不透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットとをそれぞれの該条溝の位置を合わせて重ね合わせた二つの該育苗ポットから構成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ポット底部に潅水が溜まりにくく、排水が良いので根ぐされを防止できる。また、側壁の条溝を合わすことにより、育苗ポットの重ね合わせの位置決めが正確に行え、内外の育苗ポットの排水溝が合うので、排水溝が塞がることなく根ぐされの防止を可能にする。
【0009】
また、請求項3に係る苗床は、請求項1又は2記載の育苗ポットにおいて、複数の前記外側のポットと、該複数の外側ポットの上端部にそれぞれ繋がって該外側ポットを一体化するプラスチック材料の平板と、該複数の外側ポットのそれぞれに挿入されて重ね合った複数の前記内側ポットと、から構成されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る苗床は、請求項3記載の苗床において、前記複数の内側ポットの上端部にそれぞれ繋がって前記内側ポットを一体化するプラスチック材料の平板が形成されていることを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、外側の育苗ポットの上部を平板を介して一体に繋げているので、育苗ポットの配置が整然と行われ、育苗作業において潅水や発根状態などの育成管理がし易い。また、内側の育苗ポットも個々に又は一体化して外側の苗床に挿入及び取出しができるので、苗床として前述のような育苗の管理がし易い。したがって、大量に苗を生産する場合には、透明と不透明な育苗ポットを組み合わせて一体化した苗床の使用が適切であり、大量生産でも育成の難しい品種のときは、透明な育苗ポットと不透明な苗床とを組み合わせるのがよく、苗の生長がバラツク時に簡単に育苗ポットを差し替えることも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る請求項1〜2記載の育苗ポットによれば、育成状態、発根状態の確認が容易であるから、不必要に育苗ポットから苗を抜かないですむので、苗が傷まないのと、抜く作業が不要で作業が軽減できる。また、発根量などの状態が視認できるので、出荷や定植のタイミングが分かり易いから育苗―出荷のサイクルを短縮することができる。また、育苗ポットを重ね合わせているから保温効果も発揮できる。また、本発明に係る請求項3〜4記載の苗床によれば、透明な育苗ポットの苗床と不透明な育苗ポットの苗床との組み合わせは、育苗の大量生産に適しており、前述の効果をスケールアップすることが可能である。また、大量生産時でも育苗の難しい品種の場合には、透明な育苗ポットと不透明な育苗ポットの苗床とを組み合わせることで、育成状態がバラツイても簡単に育苗ポットを差し替えできるので、安定した育苗の管理ができ、良品質の苗を市場に出荷することができ、これによりユーザの信用を得て市場の評価につなげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る育苗ポットの一実施形態を示す底面から見た模式的斜視図である。図2は、本発明に係る育苗ポットの一実施形態であって、(a)は底面図、(b)はA−A矢視の断面図である。図3は、本発明に係る育苗ポットの一実施形態であって、育苗ポットを重ね合わせた状態の断面図である。図4は、本発明に係る苗床の一実施形態であって、(a)は苗床を重ね合わせたもの、(b)は苗床に育苗ポットを挿入したものである。図5は、〔図4〕において、(a)は〔図4a〕のA−A矢視の断面図、(b)は〔図4b〕のA−A矢視の断面図である。
【0014】
図1,2,3に基づいて、本発明に係わる育苗ポット1を説明すると、育苗ポット1は透明なプラスチック材料からなる育苗ポット1aを内側に、不透明なプラスチック材料からなる育苗ポット1bを外側にして重ね合わせて構成される。これらの育苗ポット1a,1bは、苗と培土を保持するためと、重ね合わせ易く又は取外し易いために、薄肉であって、強度があり、かつ、ある程度弾性があり、変形し難いプラスチック材料、いわゆる高分子材料からなり、成型加工により製作される。このプラスチック材料としては、安価なポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックが適しているが、ゴミを少なくするなど環境に配慮するならば、不透明な有色育苗ポット、苗床は繰り返し使うのがよく、内側の透明な育苗ポットはそのまま定植できる生分解性プラスチックが望ましい。
【0015】
また、内側の育苗ポット1aは透明で、いわゆるクリアな育苗ポットであって、側壁4、底壁2や傾斜底面3に接するポット内部の状況を視認できる。そして、外側の育苗ポット1bは不透明で、いわゆる赤色を代表例とする有色の育苗ポットであって、プラスチック原料に色素を混ぜて製造されたプラスチック材料を用いて製作される。この不透明さは、地上に育苗ポット1を地上に置いて日光に曝しても内部の根や培土に日光が当たらない程度の濃さであるとよい。また、播種やさし穂して苗を育成する育苗ポット1aは全体が透明で、クリアであるので、培土での育成のみならず、その発根状態が視認できるから、育成状況の管理や定植及び出荷のタイミングの決定に貢献するし、また、根巻きや根詰りの状態になる前に処置をすることもでき、病害虫が発生した場合の対処も早期にでき、潅水のムラなども把握し易い。
【0016】
育苗ポット1を構成する内側の育苗ポット1aと外側の育苗ポット1bとは略同形であるが、外側の育苗ポット1bを若干小さ目に作ると、育苗ポット1a,1bを重ね合わせたときに底壁2間と傾斜底面3間にそれぞれ隙間が取れ、潅水の排水を円滑にすることができる。この育苗ポット1a、1bの代表的な寸法は、上部外径が7〜8cmで下部外径を6〜7cmとして若干抜き勾配を持たせており、深さは10cm前後である。前述のように、育苗ポット1a,1bは略同形であって、コップ形状を呈し、側壁4には複数の、即ち4〜8個所に(本図では4箇所)内部側に凸状の条溝5を形成し、育苗ポット1a,1bを重ね合わせるときに条溝5同士を合わせて断面方向の位置決めとする。これにより後述する排水溝6同士が正しく重なる位置を取り、育苗ポット1の排水を円滑にする一助となる。また、この条溝5の存在により、育苗ポット1a内で苗や苗木が生育するときに側壁4内壁に沿って周方向に伸長する根を深さ方向に方向転換するので、根詰まりや根巻きの発生を防止することができる。
【0017】
育苗ポット1a,1bの底部は、中央部が内部に凸状に盛り上がった傾斜底面3と、該傾斜底面3の裾部から側壁4の下端に連なる水平な底壁2とから構成される。また、側壁4の下端部から底壁2にかけて縦長の開口部を形成する複数の排水溝6が設けられる。この構成により育苗ポット1に潅水された排水が育苗ポット1aの底部に溜まることなく、円滑に排水溝6を通して排水することができて、苗や苗木の根ぐされを防止する。また、側壁の下端から上部方向へかけて排水溝6が若干延びているので、培土下部の過剰な含水状態を回避することが可能である。
【0018】
図4,5には育苗ポット1を平面的に縦、横方向に多列に配置した苗床10を示しており、図4a、5aの苗床10は、育苗ポット1a,1b群について、それぞれの育苗ポット上部を平板11で繋げて各育苗ポット1a,1b群を一体化して配列した苗床10a,10bであって、不透明な育苗ポット1b群を配列した苗床10bに、透明な育苗ポット1a群を配列した苗床10aが重なり合うように挿入することで苗床10を構成させる。一方、図4b、5bの苗床10は、外側の不透明な育苗ポット1b群について、それぞれの育苗ポット上部を平板11で繋げて育苗ポット1b群を一体化して配列した苗床10bを形成し、その苗床10bの各育苗ポット1b内に、単独の透明な育苗ポット1aを重ね合わせるように挿入することで形成した苗床10である。
【0019】
図4a、5aの苗床10は、大量生産の場合に適し、苗や苗木を育成する育苗ポット1群を整然と多列に配置できるので、設置場所をコンパクトに有効に使うことができる。また、肥料遣りや水遣りなどの作業がし易く、特に同一品種であれば育成の管理もし易い。また、定植等の出荷時には、苗床のまま運搬等のハンドリングができるので作業効率がよい。図4b、5bの苗床10も、大量生産の場合に適するが、前者の苗床と違ったところは、育成の難しい品種の時は、育成の程度に応じて育苗ポット1aの差し替えができるので、苗床全体の育成程度を合わせることができるし、ひいては、定植等の出荷のタイミングを合わせることもできる。
【0020】
また、保管に関しては、育苗ポット1a,1b又は重なり合った育苗ポット1を空で保管する時には、重ね合わせて積層できるので、在庫時に取り扱いやすいし、保管もしやすい。同様に苗床10においても、透明苗床10aと不透明苗床10bとは重ねて積層して保管できるし、透明苗床10a同士又は不透明苗床10b同士も重ねて積層して保管できる。以上のように、育苗容器としても保管性、作業性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0021】
野菜や花木等の苗を育てる育苗の分野で、特に育苗ポット又は苗床に関して利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る育苗ポットの一実施形態を示す底面から見た模式的斜視図である。
【図2】本発明に係る育苗ポットの一実施形態であって、(a)は底面図、(b)はA−A矢視の断面図である。
【図3】本発明に係る育苗ポットの一実施形態であって、育苗ポットを重ね合わせた状態の断面図である。
【図4】本発明に係る苗床の一実施形態であって、(a)は苗床を重ね合わせたもの、(b)は苗床に育苗ポットを挿入したものである。
【図5】〔図4〕において、(a)は〔図4a〕のA−A矢視の断面図、(b)は〔図4b〕のA−A矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1:育苗ポット 1a:透明育苗ポット 1b:不透明育苗ポット
2:底壁 3:傾斜底面 4:側壁 5:条溝
6:排水溝
10:苗床 10a:透明苗床 10b:不透明苗床 11:平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端側が開口する筒状の側壁と、該側壁の下端部に連なる底壁からなる育苗ポットであって、内側で、かつ、透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットと、外側で、かつ、不透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットとを重ね合わせた二つの該育苗ポットから構成されていることを特徴とする育苗ポット。
【請求項2】
上端側が開口する筒状の側壁と、該側壁に上下に連続して延びる内方向に窪んだ複数の条溝と、中央部が内方向に窪んだ傾斜面と該側壁の下端部から該傾斜面近くまで延びる複数の排水溝を有する底壁と、を有する育苗ポットであって、内側で、かつ、透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットと、外側で、かつ、不透明なプラスチック材料からなる該育苗ポットとをそれぞれの該条溝の位置を合わせて重ね合わせた二つの該育苗ポットから構成されていることを特徴とする育苗ポット。
【請求項3】
請求項1又は2記載の育苗ポットにおいて、複数の前記外側のポットと、該複数の外側ポットの上端部にそれぞれ繋がって該外側ポットを一体化するプラスチック材料の平板と、該複数の外側ポットのそれぞれに挿入されて重ね合った複数の前記内側ポットと、から構成されることを特徴とする苗床。
【請求項4】
請求項3記載の苗床において、前記複数の内側ポットの上端部にそれぞれ繋がって前記内側ポットを一体化するプラスチック材料の平板が形成されていることを特徴とする苗床。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−20482(P2007−20482A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207995(P2005−207995)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(505272559)
【Fターム(参考)】