説明

肺感染症の処置のための粒子

呼吸器感染(特に、慢性感染症または薬剤耐性感染、具体的には、結核症(TB)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、髄膜炎菌性髄膜炎、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、および痘瘡)を処置するため、またはこれらの呼吸器感染症の蔓延を減少させるための、処方物が開発された。処方物は、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはナノ粒子の凝集体の形態の薬物またはワクチン、および必要に応じてキャリアを含有し、この処方物は、吸入によって送達され得る。吸入器を介して上記薬物を与えることによって、胃および肝臓を迂回しかつ薬剤を肺内に直接送達することにより、経口薬物または注射可能薬物に付随する問題が回避される。1つの実施形態において、上記物質を含有する粒子は、大きい多孔性エアロゾル粒子(LPP)である。別の実施形態において、これらの粒子は、ミクロン単位の直径を有する多孔性ナノ粒子凝集体として投与され得るナノ粒子である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
米国政府は、National Institute of Allergy and Infectious DiseasesからのNIH助成金番号5 U01 AI61336−02によって、本発明に対して権利を有する。
【0002】
本願は、2004年10月29日に出願された、米国特許出願番号60/623,738に対して優先権を主張する。
【0003】
TB、すなわち、結核症は、Mycobacterium tuberculosisと呼ばれる細菌によって引き起こされる疾患である。この細菌は、身体のあらゆる部分を攻撃し得るが、通常、肺を攻撃する。TB疾患は、かつては、米国における主要な死因であった。1940年代に、科学者は、TBを処置するために現在使用されている数種の薬物のうちの最初のものを発見した。その結果、TBは、米国から次第に消滅し始めた。しかし、薬剤耐性株および危険な患者の感染は、TBの増加を生じた。1985年から1992年の間に、TBの症例の数は増加した。16,000を超える症例が、2000年に米国において報告された。TBは、毎年約200万の生命を奪う。インド、中国およびアフリカは、危険な箇所であり、そしてこの疾患は、欧州東部および以前にはソビエト連邦の一員であった国家において、気掛かりな速度で増加している。
【0004】
TBは、ある人から別の人へと、空気を介して蔓延する。この最近は、肺または咽喉のTB疾患を有する人がせきまたはくしゃみをする場合に、空気に入る。近くにいる人々は、これらの細菌を吸い込み得、そして感染し得る。
【0005】
人がTB細菌中で呼吸する場合、この細菌は、肺内に定住し得、そして増殖し始め得る。その位置から、これらの細菌は、血液を通って身体の他の部分(例えば、腎臓、脊椎および脳)へと移動し得る。肺または咽喉の中のTBは、感染性であり得る。すなわち、この細菌は、他の人々へと蔓延し得る。身体の他の部分(例えば、腎臓または脊椎)のTBは、通常、感染性ではない。TB疾患を患う人々は、TB疾患を、毎日一緒に時間を過ごす人々に蔓延させる可能性が最も高い。この人々としては、家族の構成員、友人、および同僚が挙げられる。潜在的なTBに感染している人々は、加減が悪くなく、いかなる症状も有さず、そしてTBを蔓延させ得ないが、将来のある時点で、TBを発症し得る。TB疾患を患う人々は、彼らが医学的救助を求めた場合に、処置され得、そして治療され得る。よりよいことには、潜在的なTB感染を有するがまだ病気ではない人々は、彼らがTB疾患を決して発症しないように、医療を受け得る。
【0006】
TBに対するワクチン接種は、現在、カルメット−ゲラン杆菌(BCG)の、針による注射を包含する。このワクチンは、送達前に冷蔵される必要がある。しかし、冷蔵は、特に、発展途上国においては、常に利用可能であるわけではない。分子が凍結乾燥手順の間に変性しない場合、室温で安定なワクチンを調製するために、凍結乾燥が使用され得る。しかし、BCGが凍結乾燥される場合、その活性のほとんどが失われる。従って、TBのための、より安定なワクチンを作製するための方法が必要とされている。
【0007】
現在、TBの処置または予防のための薬物およびワクチンは、経口的にか、または針による注射によって、患者に送達される。薬物およびワクチンを送達するための、疼痛が少なくかつ単純な方法が、必要とされる。患者に薬物の全クールを摂取させることは、TBを根絶させる際の大きな問題のうちの1つであると考えられる。2ヶ月〜3ヶ月の処置後、患者はより気分がよくなり、従って、彼らは、自分たちの薬物を受けることをやめる。しかし、彼らは、この疾患を治癒させるために、6ヶ月を必要とする。注射によって与えられる薬物は、疼痛を伴い、そして毒性の副作用を有する。丸剤は、摂取がより容易であるが、丸剤もまた、肝臓および胃の問題(悪心、下痢、および嘔吐が挙げられる)を引き起こし得る。
【0008】
処置における同じ欠陥から被害を被る、他の数種の主要な呼吸器感染疾患(重症急性呼吸器症候群(SARS)、髄膜炎菌性髄膜炎、インフルエンザ、RSウイルスおよび痘瘡が挙げられる)が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、結核症および他の感染性呼吸器疾患の蔓延を減少させるかまたは制限する際に使用するための、改善された方法および処方物を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、結核症および他の感染性呼吸器疾患の処置のための、注射される必要がない改善された処方物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、TBおよび他の感染性呼吸器疾患に対する、より安定なワクチン、ならびにこのワクチンを作製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
呼吸器感染(特に、慢性感染症または薬剤耐性感染、具体的には、結核症(TB)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、髄膜炎菌性髄膜炎、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、および痘瘡)を処置するため、またはこれらの呼吸器感染症の蔓延を減少させるための、処方物が開発された。
【0013】
処方物は、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはナノ粒子の凝集体の形態の薬物またはワクチン、および必要に応じてキャリアを含有し、この処方物は、吸入によって送達され得る。吸入器を介して上記薬物を与えることによって、胃および肝臓を迂回しかつ薬剤を肺内に直接送達することにより、経口薬物または注射可能薬物に付随する問題が回避される。1つの実施形態において、上記物質を含有する粒子は、大きい多孔性エアロゾル粒子(LPP)である。別の実施形態において、これらの粒子は、ナノ粒子であり、これらのナノ粒子は、ミクロン単位の直径を有する多孔性ナノ粒子凝集体として投与され得、これらの凝集体は、投与後に、ナノ粒子になるように離散する。必要に応じて、これらのナノ粒子は、例えば、界面活性剤コーティングまたはタンパク質コーティングで、コーティングされる。この処方物は、粉末として投与されても、溶液として投与されてもよく、腸内投与経路で投与されても、非肺の非経口投与経路で投与されてもよい。この処方物は、好ましくは、肺処方物として投与される。
【0014】
TBの処置についての好ましい実施形態において、ワクチンは、非常に高い百分率(好ましくは、少なくとも50重量%、より好ましくは、少なくとも80重量%)でマイクロカプセルまたはナノカプセルに充填された、室温で安定なBCGワクチンであるか、またはTBに対して有効な抗生物質(例えば、カプレオマイシンまたはPA−824)である。1つの実施形態において、患者は、抗生物質とワクチンとの両方を送達する処方物で処置される。
【0015】
実施例は、優れた空気力学的特性、薬物負荷および安全性を有する、約4.2ミクロンの直径およびナノメートル規模の厚さの壁を有する吸入可能なカプレオマイシン多孔性粒子の調製および分析を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
(I.粒子処方物)
処方物は、薬物の粒子、および必要に応じて、賦形剤、任意の賦形剤または薬学的キャリアを含有する。これらの処方物は、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはナノ粒子の微小凝集体であり得る。これらの凝集体は、コーティングされ得る。これらの処方物は、吸入用の粉末の形態であり得るか、または肺以外の経路(例えば、鼻、口腔内(buccal)、口、または注射)を介する送達のための溶液内に分散され得るかもしくは封入され得るが、肺経路が好ましい。
【0017】
(粒子、ナノ粒子およびナノ粒子の凝集体)
粒子は、好ましくは、賦形剤と組み合わせて、薬物と賦形剤との溶液をスプレー乾燥させることによって、送達されるべき薬物から形成される。このスプレー乾燥条件は、この粒子のサイズおよび密度を決定する。このサイズおよび密度は、その粒子が肺内に吸入されるか否かを決定する。サンプル中の粒子の直径は、粒子の組成および合成の方法のような要因に依存する。サンプル中の粒子または凝集体のサイズの分布は、気道内の標的部位内での最適な沈着を可能にするように選択され得る。3.3μm未満のFPFTDは、下気道内に沈着するエアロゾルの百分率を表し、一方で、5.8μm未満のFPFTDは、中気道から下気道内に沈着するエアロゾルの百分率を表す。他に言及されない限り、本明細書中に記載される粒子または凝集体は、5.8μm未満のFPFTDを有する。
【0018】
好ましい実施形態において、粒子または粒子凝集体は、空気力学的に軽く、好ましいサイズ(例えば、少なくとも約5ミクロンの体積中央幾何学的直径(volume median geometric diameter)(VMGDまたは幾何学的直径))を有する。別の実施形態において、VMGDは、約5ミクロン〜約15ミクロンである。以下の実施例中の粒子は、約4.2ミクロンの直径を有する。別の実施形態において、これらの粒子は、約10μm〜約15μmの範囲のVMGDを有し、従って、貪食細胞の細胞質ゾルの空間からのその粒子のサイズ排除に起因して、肺胞のマクロファージによる貪食細胞の飲み込みおよび肺からの除去をより首尾よく回避する。肺胞のマクロファージによる粒子の貪食作用は、粒子の直径が約3μmを超えて増加する場合、および約1μm未満になる場合に、急激に低下する(Kawaguchiら、Biomaterials 7:61−66,1986;KrenisおよびStrauss,Proc.Soc.Exp.Med.,107:748−750,1961;ならびにRudtおよびMuller,J.Contr.Rel.,22:263−272、1992)。他の実施形態において、凝集体は、少なくとも5μm(例えば、約5μ〜約30μm)の中央直径(MD)、MMD、質量中央エンベロープ直径(mass median envelope diameter)(MMED)または質量中央幾何学的直径(MMGD)を有する。
【0019】
凝集体に含まれるナノ粒子は、約1μm未満(例えば、約25ナノメートル〜約1μm)の幾何学的直径を有する。このような幾何学的直径は、マクロファージによる身体からの除去を逃れるために充分に小さく、従って、長期間にわたって身体内に存在し得る。
【0020】
適切な粒子または凝集体は、例えば、濾過または遠心分離によって製造または分離されて、予め選択されたサイズ分布を有する粒子サンプルを提供し得る。例えば、サンプル中の粒子または凝集体のうちの約30%、50%、70%、または80%より多くが、少なくとも約5μmの選択された範囲内の直径を有し得る。粒子または凝集体のうちの特定の百分率が入らなければならない選択された範囲は、例えば、約5μm〜約30μm、または最適には、約5μm〜約25μmであり得る。1つの好ましい実施形態において、粒子または凝集体のうちの少なくとも一部は、約5μm〜約15μmの直径を有する。必要に応じて、少なくとも約90%、または最適には、約95%または約99%が選択された範囲内の直径を有する、粒子サンプルもまた製造され得る。
【0021】
粒子または凝集体の直径(例えば、それらのVMGD)は、電気的検知帯機器(例えば、Multisizer IIe(Coulter Electronic,Luton,Beds,England))またはレーザー回折機器(例えば、Sympatec,Princeton,N.J.により製造されるHelos)を使用して、あるいはSEM可視化によって、測定され得る。粒子の直径を測定するための他の機器は、当該分野において周知である。実験的に、空気力学的直径は、重力沈降法を使用することによって決定され得る。この方法によって、粒子集団が特定の距離を沈降するための時間が、これらの粒子の空気力学的直径を直接判断するために使用される。質量中央空気力学的直径(MMAD)を測定するための間接的な方法は、多段液体インピンジャー(MSLI)である。
【0022】
空気力学的直径daerは、以下の等式:
aer=d√ρtap
から計算され得る。この等式において、dは、幾何学的直径(例えば、MMGD)であり、そしてρは、粉末のタップ密度によって近似された、粒子の質量密度である。
【0023】
粒子は、好ましくは、スプレー乾燥技術を使用して形成される。このような技術において、スプレー乾燥混合物(本明細書中で、「供給溶液」または「供給混合物」ともまた称される)は、1種の生物活性薬剤、および必要に応じて、スプレー乾燥機に供給される1種以上の添加剤を含有するナノ粒子を含むように形成される。
【0024】
スプレー乾燥は、食品産業、製薬産業、および農業産業において使用される、標準的なプロセスである。スプレー乾燥において、水分は、スプレーされる液滴を乾燥媒体(例えば、空気または窒素)と混合することによって、噴霧される供給物(スプレー)から蒸発させられる。このプロセスは、それらの揮発性物質から液滴を乾燥させ、そしてこの乾燥プロセスによって制御されたサイズ、形態、密度、および揮発性物質含有量の、「乾燥」粒子の不揮発性成分を残す。スプレーされる混合物は、溶媒、エマルジョン、懸濁物、または分散物であり得る。この乾燥プロセスの多くの要因が、乾燥粒子の特性に影響を与え得、これらの要因としては、ノズルの型、ドラムのサイズ、揮発性溶液および循環気体の流量、ならびに環境条件が挙げられる(SacchettiおよびVan Oort,Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques,Glaxo Wellcome Inc.,1996)。
【0025】
代表的に、スプレー乾燥のプロセスは、4つのプロセスを包含する。これらの4つのプロセスは、小さい液滴の状態である混合物の分散、スプレーと乾燥媒体(例えば、空気)との混合、スプレーからの水分の蒸発、ならびに乾燥媒体からの乾燥生成物の分離である(SacchettiおよびVan Oort,Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques,Glaxo Wellcome Inc.,1996)。
【0026】
小さい液滴の状態である混合物の分散は、乾燥させられるべき体積の表面積を大いに増加させ、その結果、乾燥プロセスをより迅速にする。代表的に、より高い分散エネルギーは、より小さい液滴を得られるようにする。分散は、当該分野において公知である任意の手段によって達成され得、これらの手段としては、加圧ノズル、2流体ノズル、回転噴霧器、および超音波ノズルが挙げられる(Hinds,Aerosol Technology,第2版、New York,John Wiley and Sons,1999)。
【0027】
混合物の分散(スプレー)に続いて、得られたスプレーは、乾燥媒体(例えば、空気)と混合される。代表的に、この混合は、加熱空気の連続流中で行われる。熱空気は、スプレーの液滴への熱移動を改善し、そして蒸発速度を高める。この空気のストリームは、乾燥後に大気中に排出されても、再生および再使用されても、いずれでもよい。空気流は、代表的に、正圧および/または負圧をストリームのいずれかの端部に提供することによって、維持される(SacchettiおよびVan Oort,Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques,Glaxo Wellcome Inc.,1996)。
【0028】
液滴が乾燥媒体と接触すると、これらの液滴の高い比表面積および小さいサイズに起因して、蒸発が迅速に起こる。乾燥システムの特性に基づいて、残留レベルの水分が、乾燥生成物中に保持され得る(Hinds,Aerosol Technology,第2版、New York,John Wiley and Sons,1999)。
【0029】
次いで、この生成物は、乾燥媒体から分離される。代表的に、この生成物の一次分離は、乾燥チャンバの基部において行われ、次いで、この生成物が、例えば、サイクロン、静電集塵器、フィルタ、またはスクラバーを使用して、取り出される(Mastersら、Spray Drying Handbook,Harlow,UK,Longman Scientific and Technical,1991)。
【0030】
最終生成物の特性(粒子サイズ、最終湿度、および収量が挙げられる)は、乾燥プロセスの多くの要因に依存する。代表的に、入口温度、空気流量、液体供給の流量、液滴サイズ、および混合物の濃度のようなパラメータが、所望の生成物を作製するために調節される(Mastersら、Spray Drying Handbook,Harlow,UK,Longman Scientific and Technical,1991)。
【0031】
入口温度とは、乾燥チャンバに流入する前に測定された場合の、加熱された乾燥媒体(代表的には、空気)の温度をいう。代表的に、入口温度は、所望されるように調節され得る。生成物回収部位における乾燥媒体の温度は、出口温度と称され、そして入口温度、乾燥媒体の流量、およびスプレーされる混合物の特性に依存する。代表的に、より高い入口温度は、最終生成物中の水分の量の減少を与える(SacchettiおよびVan Oort,Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques,Glaxo Wellcome Inc.,1996)。
【0032】
空気の流量とは、システムを通る乾燥媒体の流れをいう。空気の流れは、スプレー乾燥システムのいずれかの端部または内部に、正圧および/または負圧を維持することによって、提供され得る。代表的に、より高い空気の流量は、乾燥デバイス内での粒子のより短い滞留時間(すなわち、乾燥時間)をもたらし、そして最終生成物中のより多くの量の残留水分をもたらす(Mastersら、Spray Drying Handbook,Harlow,UK,Longman Scientific and Technical,1991)。
【0033】
液体供給の流量とは、1単位時間当たりに乾燥チャンバに送達される液体の量をいう。液体のスループットが高いほど、液滴を蒸発させて粒子にするために、より大きなエネルギーが必要とされる。従って、より高い流量は、より低い排出温度をもたらす。代表的に、入口温度および空気の流量を一定に維持しながら、流量を低下させることによって、最終生成物の水分含有量が減少する(Mastersら、Spray Drying Handbook,Harlow,UK,Longman Scientific and Technical,1991)。
【0034】
液滴のサイズとは、スプレーノズルから分散される液滴のサイズをいう。代表的に、より小さい液滴は、最終生成物中のより低い水分含有量を、より小さい粒子サイズとともに提供する(Hinds,Aerosol Technology,第2版、New York,John Wiley and Sons,1999)。
【0035】
スプレー乾燥されるべき混合物の濃度もまた、最終生成物に影響を与える。代表的に、より高い濃度は、最終生成物のより大きい粒子サイズをもたらす。なぜなら、スプレーされる1つの液滴において、より多い物質が存在するからである(SacchettiおよびVan Oort,Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques,Glaxo Wellcome Inc.,1996)。
【0036】
スプレー乾燥のためのシステムは、例えば、Armfield,Inc.(Jackson,NJ)、Brinkmann Instruments(Westbury,NY)、BUCHI Analytical(New Castle,DE)、Niro Inc(Columbia,MD)、Sono−Tek Corporation(Milton,NY)、Spray Drying Systems,Inc.(Randallstown,MD)、およびLabplant,Inc.(North Yorkshire,England)から市販されている。
【0037】
スプレー乾燥された粉末の最終水分含有量は、当該分野において公知である任意の手段によって(例えば、熱重量分析によって)決定され得る。水分含有量は、粉末を加熱し、そして水分の蒸発の間に失われる質量を測定することによって、熱重量分析によって決定される(Maaら、Pharm.Res.,15:5,1998)。代表的に、細胞性物質(例えば、細菌)を含有するサンプルについては、水は、2段階で蒸発されられる。第一の段階(自由水と称される)は、主として、乾燥賦形剤の水含有物である。第二の段階(結合水と称される)は、主として、細胞性物質の水含有物である。自由水と結合水との両方が測定されて、その粉末が望ましい水分含有量を、賦形剤中に含有するのか細胞性物質中に含有するのかいずれであるかを決定し得る(Snyderら、Analytica Chimica Acta,536,283−293,2005)。
【0038】
粒子を形成するために使用されるスプレー乾燥機は、遠心噴霧アセンブリを使用し得、このアセンブリは、流体を破壊して液滴にするための回転ディスクまたはホイールを備える(例えば、24枚羽根噴霧器または4枚羽根噴霧器)。回転ディスクは、代表的に、1分間当たり約1,000回転(rpm)〜約55,000rpmの範囲内で作動する。
【0039】
あるいは、液圧ノズル噴霧器、2流体空気噴霧器、音波噴霧器または当該分野において公知である他の噴霧技術もまた、使用され得る。供給業者から市販されているスプレー乾燥機(例えば、Niro,APV Systems,Denmark(例えば、APV Anhydro Model)およびSwenson,Harvey,Ill.)、ならびに産業用能力の製造ラインのために適切なスケールアップしたスプレー乾燥機を使用して、本明細書中に記載されるような粒子を生成し得る。市販のスプレー乾燥機は、一般に、約1kg/時間〜約120kg/時間の範囲の水蒸発能力を有する。例えば、Niro Mobile Minor(登録商標)スプレー乾燥機は、約7kg/時間の水蒸発能力を有する。このスプレー乾燥機は、2流体外部混合ノズル、または2流体内部混合ノズルを有する(例えば、NIRO Atomizer Portableスプレー乾燥機)。
【0040】
適切なスプレー乾燥技術は、例えば、K.Mastersによって、「Spray Drying Handbook」,John Wiley & Sons,New York,1984に記載されている。一般に、スプレー乾燥の間、熱気体(例えば、加熱された空気または窒素)からの熱が使用されて、溶媒を、連続的な液体供給から噴霧することによって形成された液滴から蒸発させる。他のスプレー乾燥技術は、当業者に周知である。好ましい実施形態において、回転噴霧器が使用される。回転噴霧を使用する、適切なスプレー乾燥機の例は、Niro,Denmarkによって製造される、Mobile Minor(登録商標)スプレー乾燥機である。熱気体は、例えば、空気、窒素またはアルゴンであり得る。
【0041】
好ましくは、粒子は、約90℃〜約400℃の入口温度、および約40℃〜約130℃の出口温度を使用するスプレー乾燥により、得られる。
【0042】
スプレー乾燥される混合物中に存在し得る適切な有機溶媒としては、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど)が挙げられるが、これらに限定されない。他の有機溶媒としては、パーフルオロカーボン、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、メチルtert−ブチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されない。有機溶媒の別の例は、アセトンである。供給混合物中に存在し得る水性溶媒としては、水および緩衝化溶液が挙げられる。有機溶媒と水性溶媒との両方が、スプレー乾燥機に供給されるスプレー乾燥混合物中に存在し得る。1つの実施形態において、約20:80〜約90:10の範囲のエタノール:水の比を有する、エタノール水溶媒が好ましい。この混合物は、酸性またはアルカリ性のpHを有し得る。必要に応じて、pH緩衝剤が含有され得る。好ましくは、このpHは、約3〜約10の範囲であり得る。別の実施形態において、このpHは、約1〜約13の範囲である。
【0043】
スプレー乾燥される混合物において使用される溶媒の総量は、一般に、約97重量%より多い。好ましくは、スプレー乾燥される混合物において使用される溶媒の総量は、約99重量%より多い。スプレー乾燥される混合物中に存在する固形物(生物活性剤、添加剤、および他の成分を含有する、ナノ粒子)の量は、一般に、約3.0重量%未満である。好ましくは、スプレー乾燥される混合物中の固形物の量は、約0.05重量%〜約1.0重量%の範囲である。
【0044】
(薬学的に活性な薬剤)
送達されるべき薬剤としては、呼吸器感染性疾患(例えば、TB、重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザ、および痘瘡)の処置のための、治療剤、予防剤および/または診断剤(まとめて、「生物活性薬剤」)が挙げられる。適切な生物活性薬剤としては、局所的に作用し得る薬剤、全身に作用し得る薬剤またはこれらの組み合わせが挙げられる。用語「生物活性薬剤」とは、本明細書中で使用される場合、インビボで放出される場合に、望ましい生物学的活性(例えば、インビボでの治療特性、診断特性および/または予防特性)を有する、薬剤またはその薬学的に受容可能な塩である。生物活性薬剤の例としては、治療活性、予防活性または診断活性を有する、合成無機化合物および合成有機化合物、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、DNA核酸配列およびRNA核酸配列、またはこれらの任意の組み合わせもしくは模倣物が挙げられるが、これらに限定されない。広範な分子量を有する化合物(例えば、1モル当たり100グラム〜500,000グラム以上の重量を有する化合物)が使用され得る。
【0045】
1つの好ましい実施形態において、生物活性薬剤は、結核症のような呼吸器感染の処置のための抗生物質(例えば、カプレオマイシン、PSA−824、リファピシン(rifapicin)、リファペンチン、キノロン(例えば、Moxifloxacin(BAY 12−8039)、アパルフロキサシン(aparfloxacin)、ガチフロキサシン(gatifloxacin)、CS−940、Du−6859a、シタフロキサシン(sitafloxacin)、HSR−903、レボフロキサシン(levofloxacin)、WQ−3034)、シプロフロキサシン、およびレボフロキサシン)である。カプレオマイシンは、比較的親水性の抗生物質分子である。カプレオマイシンは、TBの予防において、第二線の防御分子として、現在使用されている。カプレオマイシンは、Heifetsら、Ann.Clin.Microbiol.Antimicrobiol.4(6)(2005)によって報告されるように、1ヵ月後に、非呼吸性TBに対してインビトロでコロニー形成ユニット(「CFU」)の1log〜2logの低下を示し、従って、潜在性TB処置についての可能性がある。PA−824は、フラベノイド(flavenoid)F420を標的とし、そしてまた、ミコール酸の合成および脂質の生合成を防止する、殺菌性の抗生物質である。リファペンチンは、RNAポリメラーゼのβサブユニットに結合することによって、RNAポリメラーゼを阻害し、そして殺菌性の抗生物質として働く。
【0046】
別の好ましい実施形態において、生物活性薬剤は、TBに対して有効なワクチン(例えば、BCGワクチン)またはインフルエンザ抗原に対して有効なワクチンである。
【0047】
ウイルス性呼吸器感染の処置のために、生物活性薬剤は、好ましくは、抗ウイルス剤単独であるか、またはワクチンと組み合わせた抗ウイルス剤である。4種の抗ウイルス医薬(アマンタジン、リマンタジン、ザナマビル(zanamavir)および広く備蓄されているオセルタミビル(oseltamivir))が、インフルエンザウイルスのAカテゴリーについて現在処方されている。これらは、ウイルスが複製することを遮断するノイラミニダーゼインヒビターである。疾病の発生の2日以内に摂取された場合、これらの医薬は、いくつかの症状の重篤度を和らげ得、そして病気の持続時間を短縮し得る。
【0048】
多剤耐性結核症(MDR−TB)は、重大な公衆衛生の脅威として発生しており、新たな処置アプローチの開発を必要とする、未だ満たされていない医学的要求を生じている。好ましい実施形態において、肺粘膜の迅速な滅菌およびMDR−TB治療の持続時間の短縮のために、非常に高い薬物用量が、肺感染症の部位に送達される。薬剤耐性形態の感染症の処置のための処方物は、非常に高い負荷の1種以上の抗生物質、または抗生物質とワクチンとの組み合わせを含有し得る。
【0049】
ナノ粒子は、約100%(w/w)までの生物活性薬剤を含有し得る。好ましい実施形態において、これらの粒子は、少なくとも50.00%、60.00%、75.00%、80.00%、85.00%、90.00%、95.00%、99.00%、またはこれより多く(組成物の乾燥重量)の生物活性薬剤を含有する。カプレオマイシンおよび他の類似の薬物の場合、好ましい投薬負荷は、少なくとも50重量%、より好ましくは、80重量%である。使用される性物活性薬剤の量は、望ましい効果、計画される放出レベル、およびその生物活性薬剤が放出される時間の間隔に依存して変動する。
【0050】
(賦形剤および薬学的に受容可能なキャリア)
本明細書中で使用される場合、添加剤とは、主要な物質の望ましい効果の生じさせるため、または主要な物質と一緒になって望ましい効果を生じさせるために、別の物質に添加される任意の物質である。本明細書中で一般的に使用される場合、「賦形剤」とは、適切なコンシステンシーを与える目的で、薬学的処方物に添加される化合物を意味する。例えば、粒子は、界面活性剤を含有し得る。本明細書中で一般的に使用される場合、用語「界面活性剤」とは、2つの非混和性相の間の界面(例えば、水と有機ポリマー溶液との間の界面、水/空気界面、水/油界面、水/有機溶媒界面または有機溶媒/空気界面)に優先的に吸収される任意の薬剤をいう。界面活性剤は、一般に、親水性部分および親油性部分を有し、その結果、微粒子に吸収されると、これらの界面活性剤は、部分を、同様にコーティングされた粒子を引き付けない外部環境に曝す傾向があり、これによって、粒子の凝集を減少させる。界面活性剤はまた、治療剤または診断剤の吸収を促進し得、そしてこの薬剤のバイオアベイラビリディを増加させ得る。
【0051】
これらの粒子およびその成分は、薬物であり得るか、薬物および賦形剤であり得るか、またはポリマー中の薬物であり得、これらの物質は、生分解性であっても非生分解性であってもよく、またはシリカ、ステロール(例えば、コレステロール、スチグマステロール、β−シトステロール、およびエストラジオール);コレステリルエステル(例えば、ステアリン酸コレステリル);C12〜C24脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸);C18〜C36モノアシルグリセリド、C18〜C36ジアシルグリセリド、およびC18〜C36トリアシルグリセリド(例えば、モノオレイン酸グリセリル、モノリノール酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノドコサン酸グリセリル、モノミリスチル酸グリセリル、モノデセン酸グリセリル(glyceryl monodicenoate)、ジパルミチン酸グリセリル、ジドコサン酸グリセリル、ジミリスチン酸グリセリル、ジデセン酸グリセリル、トリドコサン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリデセン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセロール、およびこれらの混合物);スクロース脂肪酸エステル(例えば、ジステアリン酸スクロースおよびパルミチン酸スクロース);ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、およびトリステアリン酸ソルビタン);C16〜C18脂肪アルコール(例えば、セチルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、およびセトステアリルアルコール);脂肪アルコールと脂肪酸とのエステル(例えば、パルミチン酸セチルおよびパルミチン酸セテアリール(cetearyl palmitate));脂肪酸の無水物(例えば、ステアリン酸無水物);リン脂質(ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、およびこれらの溶解誘導体(lysoderivative)が挙げられる);スフィンゴシンおよびその誘導体;スフィンゴミエリン(spingomyelin)(例えば、ステアリルスフィンゴミエリン、パルミトイルスフィンゴミエリン、およびトリコサニルスフィンゴミエリン);セラミド(例えば、ステアリルセラミドおよびパルミトイルセラミド);グリコスフィンゴリピド;ラノリンおよびラノリンアルコール;ならびにこれらの組み合わせおよび混合物のような材料であり得る。好ましい実施形態において、スプレー乾燥されるべき脂質は、必要に応じて、1種以上のリン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、またはこれらの組み合わせ)を含有する。1つの実施形態において、リン脂質は、肺に内因的である。リン脂質の具体的な例は、表1に示される。リン脂質の組み合わせもまた、使用され得る。
【0052】
表1:リン脂質
ジラウリロイルホスファチジルコリン(C12;0) DLPC
ジミリストイルホスファチジルコリン(C14;0) DMPC
ジパルミトイルホスファチジルコリン(C16;0) DPPC
ジステアロイルホスファチジルコリン(C18;0) DSPC
ジオレオイルホスファチジルコリン(C18;1) DOPC
ジラウリロイルホスファチジル−グリセロール DLPG
ジミリストイルホスファチジルグリセロール DMPG
ジパルミトイルホスファチジルグリセロール DPPG
ジステアロイルホスファチジルグリセロール DSPG
ジオレオイルホスファチジルグリセロール DOPG
ジミリストイルホスファチジン酸 DMPA
ジミリストイルホスファチジン酸 DMPA
ジパルミトイルホスファチジン酸 DPPA
ジパルミトイルホスファチジン酸 DPPA
ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン DMPE
ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン DPPE
ジミリストイルホスファチジルセリン DMPS
ジパルミトイルホスファチジルセリン DPPS
ジパルミトイルスフィンゴミエリン DPSP
ジステアロイルスフィンゴミエリン DSSP。
【0053】
荷電リン脂質もまた、生物活性薬剤を含有するナノ粒子を含む粒子を生成するために、使用され得る。荷電リン脂質の例は、米国特許出願第20020052310号に記載されている。
【0054】
肺の界面活性剤(例えば、上で議論されたリン脂質)に加えて、適切な界面活性剤としては、コレステロール、脂肪酸、脂肪酸エステル、糖、ヘキサデカノール;脂肪アルコール(例えば、ポリエチレングリコール(PEG));ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル;表面活性脂肪酸(例えば、パルミチン酸またはオレイン酸);グリココーレート;サーファクチン(surfactin);ポロキサマー;ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、トリオレイン酸ソルビタン(Span 85)、Tween 80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン));チロキサポール、ポリビニルアルコール(PVA)、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤(特に、リン脂質)を含有する粒子を調製する方法および投与する方法は、Hanesらに対する米国特許第5,855,913号、およびEdwardsらに対する米国特許第5,985,309号に開示されている。
【0055】
粒子は、アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、グリシンおよびトリプトファンが挙げられるが、これらに限定されない)をさらに含有し得る。アミノ酸の組み合わせもまた、使用され得る。天然には存在しない適切なアミノ酸としては、例えば、β−アミノ酸が挙げられる。疎水性アミノ酸の、D配置とL配置との両方、およびラセミ混合物が、使用され得る。適切なアミノ酸としてはまた、アミノ酸の誘導体またはアナログが挙げられ得る。本明細書中で使用される場合、アミノ酸アナログは、式−NH−CHR−CO−を有するアミノ酸のD配置またはL配置を包含し、この式において、Rは、脂肪族基、置換された脂肪族基、ベンジル基、置換されたベンジル基、芳香族基または置換された芳香族基であり、そしてRは、天然に存在するアミノ酸の側鎖に対応しない。本明細書中で使用される場合、脂肪族基としては、直鎖、分枝鎖または環式の、C1〜C8炭化水素であって、完全に飽和であり、1個もしくは2個のヘテロ原子(例えば、窒素、酸素または硫黄)を含有し、そして/または1個以上の不飽和単位を含む、炭化水素が挙げられる。芳香族基またはアリール基としては、炭素環式芳香族基(例えば、フェニルおよびナフチル)ならびに複素環式芳香族基(例えば、イミダゾリル、インドリル、チエニル、フラニル、ピリジル、ピラニル、オキサゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、キノリニル、イソキノリニル、およびアクリジニル)が挙げられる。多数の適切なアミノ酸、アミノ酸アナログおよびこれらの塩が、市販されている。他のものは、当該分野において公知の方法によって、合成され得る。合成技術は、例えば、GreenおよびWuts,「Protecting Groups in Organic Synthesis」,John Wiley and Sons,第5章および第7章、1991に記載されている。
【0056】
アミノ酸またはその塩は、粒子中に、約0重量%〜約60重量%、好ましくは、約5重量%〜約30重量%の量で存在し得る。アミノ酸を含有する粒子を形成する方法および送達する方法は、米国特許第6,586,008号に記載されている。
【0057】
スプレー乾燥された粒子は、1種以上の生物活性薬剤または他の物質を含有する、ナノ粒子を含み得る。ナノ粒子は、当該分野において公知の方法に従って製造され得る。これらの方法は、例えば、連続的な水相中での乳化重合、連続的な有機相中での乳化重合、製粉、沈殿、昇華、界面重縮合、スプレー乾燥、ホットメルトマイクロカプセル封入、相分離技術(溶媒除去および溶媒蒸発)、A.L.Le Roy Boehm、R.ZerroukおよびH.Fessi(J.Microencapsulation,2000,17:195−205)により記載されるようなナノ沈殿(nanoprecipitation)、ならびに転相技術である。生成のためのさらなる方法としては、蒸発沈殿(evaporated precipitation)(Chenら(International Journal of Pharmaceutics,2002,24,pp3−14)によって記載されるような)およびアンチソルベントとしての超臨界二酸化炭素の使用(例えば、J.−Y.Leeら、Journal of Nanoparticle Research,2002,2,pp53−59により記載されるような)が挙げられる。ナノ粒子は、F.Dalencon,Y.Amjaud,C.Lafforgue,F.DerouinおよびH.Fessi(International Journal of Pharmaceutics,1997,153:127−130)の方法によって、生成され得る。米国特許第6,143,211号、同第6,117,454号、および同第5,962,566号;Amnoury(J.Pharm.Sci.,1990,pp763−767);Julienneら、(Proceed.Intern.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.,1989,pp 77−78);Bazileら(Biomaterials 1992,pp 1093−1102);Grefら(Science 1994,263,pp1600−1603);Colloidal Drug Delivery Systems(編者Jorg Kreuter,Marcel Dekker,Inc.,New York,Basel,Hong Kong,pp219−341);ならびにWO 00/27363は、ナノ粒子の製造、およびナノ粒子中への生物活性薬剤(例えば、薬物)の組み込みを記載する。
【0058】
インタクトな(予備形成された)ナノ粒子は、スプレー乾燥されるべき溶液に添加され得る。あるいは、混合および/またはスプレー乾燥プロセスの間にナノ粒子を形成し得る薬剤が、スプレー乾燥されるべき溶液に添加され得る。
【0059】
賦形剤/キャリアは、粒子中に、約5重量%〜約95重量%の範囲の量で存在し得る。好ましくは、賦形剤/キャリアは、粒子中に、約20重量%〜約80重量%の範囲の量で存在し得る。
【0060】
必要に応じて、粒子または凝集体は、コーティングされる。適切なコーティングとしては、タンパク質および界面活性剤が挙げられる。コーティングは、特定の組織または細胞を標的化するため、あるいは生体接着を増加させるために、使用され得る。粒子または凝集体はまた、他の添加剤(例えば、緩衝塩)を含有し得る。
【0061】
(II.粒子送達)
(投与のための方法およびデバイス)
好ましくは、生物活性薬剤は、標的部位(例えば、組織、器官または身体全体であり、好ましくは、肺)に、有効量で送達される。本明細書中で使用される場合、用語「有効量」とは、望ましい治療効果または治療効力、あるいは望ましい診断効果または診断効力を達成するために必要とされる量を意味する。生物活性薬剤の実際の有効量は、利用される具体的な生物活性薬剤またはそれらの組み合わせ、処方される特定の処方物、投与の様式、ならびに患者の年齢、患者の体重、患者の状態、ならびに処置される症状または状態の重篤度に従って変動し得る。特定の患者に対する投薬量は、当業者によって、従来の考慮事項を使用して(例えば、適切な従来の薬理学的プロトコルによって)、決定され得る。1つの実施形態において、生物活性薬剤は、ナノ粒子上にコーティングされる。
【0062】
主に、肺への投与を参照して記載されたが、これらの粒子は、経鼻投与されても、経口投与されても、経膣投与されても、直腸投与されても、局所投与されても、注射によって投与されてもよいことが、理解される。
【0063】
処方物は、処置、予防または診断を必要とする患者に投与される。呼吸器系への粒子の投与は、当該分野において公知であるような手段により得る。例えば、粒子(凝集体)は、吸入デバイスから送達され得る。好ましい実施形態において、粒子は、乾燥粉末吸入器(DPI)を介して投与される。定量吸入器(MDI)、噴霧器、または点滴注入技術もまた、使用され得る。好ましくは、送達は、肺系の肺胞領域へか、中心気道へか、または上気道への送達である。
【0064】
粒子を患者の気道に送達するために使用され得る、種々の適切な吸入デバイスおよび吸入方法が、当該分野において公知である。例えば、適切な吸入器は、Valentiniらに対する米国特許第4,995,385号、および同第4,069,819号、ならびにPattonに対する米国特許第5,997,848号に記載されている。他の例としては、当業者に公知である、Spinhaler(登録商標)(Fisons,Loughborough,U.K.)、Rotahaler(登録商標)(Glaxo−Wellcome,Research Triangle Technology Park,North Corolina)、FlowCaps(登録商標)(Hovione,Loures,Portugal)、Inhalator.RTM.(Boehringer−Ingelheim,Germany)、Aerolizer(登録商標)(Novartis,Switzerland)、ディスクヘラー(Glaxo−Wellcome,RTP,NC)などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、粒子は、乾燥粉末吸入器を介して、乾燥粉末として投与される。1つの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、息で起動される単純なデバイスである。使用され得る適切な吸入器の例は、米国特許第6,766,799号に記載されている。
【0065】
容器が、粒子および/またはこれらの粒子を含有する呼吸可能な薬学的組成物を引き続く投与のために収容または貯蔵するために、使用される。この容器には、これらの粒子が、当該分野において公知であるような方法を使用して満たされる。例えば、減圧充填または突き固め技術が、使用され得る。一般に、この容器にこれらの粒子を満たすことは、当該分野において公知である方法によって実施され得る。1つの実施形態において、容器内に収容または貯蔵される粒子は、少なくとも約5ミリグラムから約100ミリグラムまでの質量を有する。別の実施形態において、容器内に貯蔵または収容される粒子の質量は、少なくとも約1.5mg〜少なくとも約20ミリグラムの質量の生物活性薬剤を含有する。1つの実施形態において、吸入器容器の容量は、約0.37cm〜約0.95cmである。あるいは、これらの容器は、カプセル(例えば、特定のカプセルサイズ(例えば、2、1、0、00または000)を有するように設計されたカプセル)であり得る。適切なカプセルは、例えば、Shionogi(Rockville,Md.)から得られ得る。ブリスターは、例えば、Hueck Foils(Wall,N.J.)から得られ得る。本発明において使用するために適切な他の容器およびその他の容量はまた、当業者に公知である。
【0066】
好ましくは、気道に投与された粒子は、上気道(口腔咽頭部および喉頭)を通り、下気道(これは、気管に続いて分岐を含む)を通り、気管支および細気管支に入り、そして終末細気管支を通って移動し、この終末細気管支は、次に、呼吸細気管支に分裂し、次いで、最終呼吸ゾーン(肺胞または肺の深部)に到る。好ましい実施形態において、粒子の質量のほとんどが、肺の深部に沈着する。別の実施形態において、送達は、主として、中心気道への送達である。上気道への送達もまた、得られ得る。
【0067】
エアロゾル投薬、処方物および送達システムもまた、例えば、Gonda,I.「Aerosols for delivery of therapeutic and diagnostic agents to the respiratory tract」、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,6:273−313,1990;およびMoren,「Aerosol dosage forms and formulations」、Aerosols in Medicine.Principles,Diagnosis and Therapy,Morenら編、Elsvier,Amsterdam,1985に記載されるような特定の治療用途のために選択され得る。
【0068】
生物活性薬剤の、粒子からの放出速度は、放出定数の観点で記載され得る。一次放出定数は、以下の等式:
(t)=M(∞)×(1−e−k×t) (1)
を使用して表現され得る。この等式において、kは、一次放出定数である。M(∞)は、生物活性薬剤送達システム中の生物活性薬剤(例えば、乾燥粉末)の総質量であり、そしてM(t)は、乾燥粉末から時刻tに放出される生物活性薬剤の質量の量である。
【0069】
等式(1)は、放出される生物活性薬剤の量(すなわち、質量)で表現されても、特定の体積の放出媒体中の放出される生物活性薬剤の濃度で表現されても、いずれでもよい。
【0070】
例えば、等式(1)は、以下のように表現され得る:
(t)=C(∞)×(1−e−k×t)または放出(t)=放出(∞)×(1−e−k×t) (2)
この等式において、kは、一次放出定数である。C(∞)は、放出媒体中の生物活性薬剤の最大理論濃度であり、そしてC(t)は、乾燥粉末から放出媒体へと、時刻tに放出される生物活性薬剤の濃度である。
【0071】
一次放出定数の観点での薬物放出速度は、以下の等式:
k=−1 n(M(∞)−M(t))/M(∞)/t (3)
を使用して計算され得る。
【0072】
粒子からの生物活性薬剤の放出速度は、粒子の熱特性または物理的状態遷移を調節することによって、制御または最適化され得る。これらの粒子は、それらのマトリックス遷移温度によって特徴付けられ得る。本明細書中で使用される場合、用語「マトリックス遷移温度」とは、これらの粒子がガラス相または剛性相(分子の移動度が低い)から、より不定形のゴム様相もしくは溶融相、または流体様相へと転移する温度である。本明細書中で使用される場合、「マトリックス転移温度」とは、粒子の構造的一体性が、粒子からの生物活性薬剤のより迅速な放出を与える様式で低下する温度である。マトリックス転移温度より高温では、粒子構造が変化して、生物活性薬剤分子の移動度が増加し、その結果、放出がより速くなる。逆に、マトリックス転移温度未満では、生物活性薬剤粒子の移動度が制限され、その結果、放出がより遅くなる。「マトリックス転移温度」は、次数の変化および/または固体中での分子の移動度を表す、種々の相転移温度(例えば、融点(T)、結晶化温度(T)、およびガラス転移温度(T))に関連し得る。
【0073】
実験的には、マトリックス転移温度は、当該分野において公知である方法によって、具体的には、示差走査熱量測定法(DSC)によって、決定され得る。粒子または乾燥粉末のマトリックス転移挙動を特徴付けるための他の技術としては、シンクロトロンX線回折フリーズフラクチャー電子顕微鏡分析が挙げられる。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「見かけの用量」とは、投与の標的とされる粒子の質量中に存在する生物活性薬剤の総質量を意味し、そして投与のために利用可能な生物活性薬剤の最大量を表す。
【0075】
(処置されるべき患者;有効投薬量)
本明細書中に記載される処方物は、呼吸器疾患(例えば、TB、SARS、髄膜炎菌性髄膜炎、RSV、インフルエンザ、および痘瘡)の処置のために特に適している。好ましい実施形態において、処置されるべき患者は、慢性的感染または長期感染、あるいは薬剤耐性感染を有する。
【0076】
カプレオマイシンのような抗生物質の場合、経口投与される30mg〜100mg、より好ましくは、30mg〜60mgの範囲の投薬量と等価な投薬量が、高速放出については1日に1回または2回、そして低速放出については1週間に1回、投与される。
【0077】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって、さらに理解される。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
(カプレオマイシンを含む大きい多孔性粒子)
多剤耐性結核菌(MDR−TB)が、顕著な公衆衛生上の脅威として出現しており、新たな処置アプローチの開発が必要な、未だ満たされていない医学的な必要性を生み出している。感染した肺への抗生物質の直接的な局所送達を用いて、肺粘膜の迅速な滅菌およびMDR−TB治療の持続時間の減少のために主要感染部位に対して高薬物用量を標的化するという主要目標を達成する。
【0079】
50%〜80%のカプレオマイシンを含む乾燥粉末エアロゾル(類似の物理的特性およびエアロゾル化の特性を示す)を、作製した。2μm〜10μmの範囲の幾何学的直径および5μm〜6μmの範囲の空気力学的直径のエアロゾルを、スプレー乾燥により形成した。巨大バッチスケールアップの前に、加工パラメータの最適化により、粉末の収率を60%にまで上昇させた。上記エアロゾルは、冷蔵条件下、室温条件下ならびに加速条件下(40℃)条件下において、優れた貯蔵能力を示し、化学的特性および物理的特性の両方とも、2ヶ月間までの貯蔵の間、安定したままであった。
【0080】
(実験方法)
(乾燥粉末エアロゾルの調製)
エアロゾルを、80:20のカプレオマイシン:ロイシン溶液(50%エタノール5000mL中36g)を60℃まで加熱し、そしてNiroスプレー乾燥器を供給流量80mL/分、噴霧器流量28g/分〜31g/分およびプロセスガス流量79kg/時間〜82kg/時間で用いて、上記溶液をスプレー乾燥することにより、調製した。入口温度を、約65℃の出口温度を達するように189℃から192℃まで変化させた。
【0081】
第二の実施例において、2500mLのMilli―Q水ならびに200proofエタノール(PharmCo 111ACS200,Batch 04259―14,Lot 0409144)2500mL中に28.8gの硫酸カプレオマイシン(Lilly,Control No.7RT71R)および7.2gのL―ロイシン(Sigma L―8912,Lot 044K0381)を含む溶液を、60℃まで加熱し、Niro噴霧乾燥器を供給流量80mL/分、噴霧装置流量28g/分〜31g/分およびプロセスガス流量79kg/時間〜82kg/時間で用いて、噴霧乾燥した。入口温度を、約65℃の出口温度を達するように189℃から192℃まで変化させた。
収率:17.5149g→48.7%
(エアロゾルの物理的な特徴決定)
各スプレー乾燥粉末を、形態、幾何学的なサイズおよびエアロゾル化の特性に関して、初めに特徴付けた。粒子の形態を、LEO 982 Field Emission Scanning Electron Microscope(SEM)(Zeiss)を用いた走査型電子顕微鏡検査により、観察した。粒子の寸法を、0.5バール、1バール、2バールおよび4バールのレギュレーター付与圧力で、HELOS回折計およびRODOS可変剪断乾燥粉末分散器(Sympatec)を用いたレーザー回折により、測定した。インヘイラーデバイスから分散された粉末の空気力学的な性質を、全用量の微粒子の画分(FPFTD)を測定するために、8段階Mark II Andersen Cascade Impactor(ACI―8,Thermo Electron,Waltham,MA)を介する重量分析を使ったカスケードインパクションを用いて、評価した。報告された上記FPFTDは、空気力学的直径3.3μm未満あるいは空気力学的直径5.8μm未満のエアロゾルの百分率を判定する。FPFTD<3.3μmは、下気道へ沈着するエアロゾルの百分率を示すのに対し、FPFTD<5.8μmは、中気道から下気道へ沈着するエアロゾルの百分率を示す。
【0082】
粒子のかさ密度を、タップ密度測定法により、決定した。手短に言えば、粒子を、1mlプラスチック製ピペットの0.3mlセクションに充填し、NMRチューブのキャップで蓋をし、粉末の体積が変わらなくなるまで、およそ300回〜500回軽く叩いた。上記タップ密度を、充填前後間のピペットの重量の差を軽く叩いた後の粉末の体積で割って決定した。
【0083】
(エアロゾルの化学的な特徴決定)
粉末中のカプレオマイシンの含有量を、HPLCにより決定した。各粉末中のカプレオマイシンの含有量を、0.3重量%ヘプタフルオロ酪酸を含む22:78のメタノール:リン酸緩衝液を使って、1.0mL/分、25℃でC18逆相カラム(Agilent ZORBAX(登録商標)Eclipse XDB―C18)を用いる、HPLC解析により、決定した。
【0084】
(安定性試験)
10.5%相対湿度のグローブボックス内で、15個のガラスのシンチレーションバイアル(各々およそ200mg)に上記粉末のアリコートを取り、その後堅く蓋をした。乾燥剤を含む4つのプラスチック製の乾燥チャンバに、各3個ずつバイアルを入れた。上記チャンバを、暗所条件下における室温、日光に当てられた室温、4℃(冷蔵下)、および過酷な安定性条件下として40℃かつ75%相対湿度で、湿気チャンバ内に貯蔵した。最後の3個のバイアルを、40℃かつ75%相対湿度で湿気チャンバ内に、蓋を取って入れた。時点は0週間、1週間、2週間、6週間、2ヶ月、3ヶ月である。各時点で、粉末の物理的性質および化学的性質を特徴付けた。
【0085】
(結果および考察)
カプレオマイシンおよびロイシンを様々な百分率で含む乾燥粉末エアロゾルを、スプレー乾燥により形成した。1.0バールのレギュレーター圧力でHELOS/RODOSレーザー回折システムを用いて決定される場合の、各処方物の質量平均直径を、表2に示す。レギュレーター圧力の変化に伴う、直径の有意な差異は、見られなかった。このことは、これらの粉末に関するエアロゾルの飛行の特徴は、患者の吸息流量とは無関係であることを示唆している。
【0086】
80%のカプレオマイシンを含有する乾燥粉末エアロゾルおよび90%のカプレオマイシンを含有する乾燥粉末エアロゾルのSEM画像は、乾燥粉末エアロゾル中のカプレオマイシンの百分率が80%まで増加すると、平均直径の減少が見られたことを実証する(表2)。90%カプレオマイシンにおいて、2つの直径の球を含有するエアロゾルが、レーザー回折およびSEMによって観察された。この二重の集団は、粉末の平均直径の増加をもたらした。
【0087】
50%〜80%のカプレオマイシンを含有するエアロゾルについてのFPFTDは、有意には異ならなかった。しかし、90%カプレオマイシンのエアロゾルは、FPFTDの約30%の低下を示した。可能な限り最大量のカプレオマイシンを含有するが良好な飛行特性を有するエアロゾルが必要とされるので、80%のカプレオマイシンを含有するエアロゾルを、さらなる研究のために使用した。
【0088】
表2:カプレオマイシンを含有する乾燥粉末エアロゾルの平均サイズおよびFPFTD
【0089】
【表2】

粉末生成の初期スケールアップの結果は、48.7%の収率であった。安定性の研究および薬物速度論的研究のために使用したこれらのエアロゾルは、4.2μmの平均幾何学的直径を有し、空気力学的直径は、4ミクロン〜6ミクロンの範囲であった。1.8μmの幾何標準偏差(GSD)が、W.C.Hinds.Aerosol Technology.John Wiley & Sons,Inc.,New York,1999:
GSD=(d84%/d16%0.5 等式(1)
から決定された。この等式において、dは、累積分布のnパーセント点における直径である。そのエアロゾルは、ほぼ単分散であることを示した。
【0090】
規則的な圧力の変化によって、直径の有意な差は見られなかった。このことは、これらの粉末についてのエアロゾル飛行特徴が、患者の吸息流量とは無関係であることを示唆する。
【0091】
得られた粒子は、高い薬物負荷を有した。異なる日における繰り返しのスプレー乾燥は、粒子のサイズおよび形態に関して、良好な再現性を示した。4℃、室温および40℃での肉眼での視覚的安定性試験は、2.5週間後に、サイズ変化も形態変化も示さなかった。
【0092】
40℃で6週間貯蔵したエアロゾルのFPFTDは、40%低下した。しかし、他の貯蔵条件下でのFPFTDは、2ヶ月目まで安定なままであった。
【0093】
閉鎖バイアル内で、4℃、室温および40℃で貯蔵した処方物中の、カプレオマイシンの含有量は、3ヶ月目まで安定なままであった。40℃および75%相対湿度の雰囲気に直接接触させて配置すると、これらのエアロゾルは、かなりの量の水を吸収し、エアロゾルの質量あたりのカプレオマイシンの含有量の低下をもたらした。
【0094】
80%のカプレオマイシンを含有するエアロゾルの、3ヶ月目の物理的安定性分析および化学的安定性分析を、冷蔵条件下(4℃)、室温条件(RT、約25℃)、および加速条件下(40℃)で、実施した。図1A、図1B、および図1Cは、エアロゾルの幾何学的直径、微細粒子画分(FPFTD)、および化学物質含有量の、経時的な安定性を示す。
【0095】
全ての条件下で、幾何学的直径には、有意な変化が見られなかった(図1A)。40℃で6週間貯蔵したエアロゾルのFPFTDは、40%低下した(図1B)。しかし、他の貯蔵条件下でのFPFTDは、3ヶ月目まで安定なままであった。閉鎖バイアル内で4℃、室温、および40℃で貯蔵された処方物中のカプレオマイシンの含有量は、3ヶ月目まで安定なままであった(図1C)。40℃および75%相対湿度の雰囲気に直接接触させて配置すると、これらのエアロゾルは、かなりの量の水を吸収し、エアロゾルの質量あたりのカプレオマイシンの含有量の低下をもたらした。
【0096】
要約すると、注射可能な親水性TB薬物分子であるカプレオマイシンが、吸入のための乾燥粉末エアロゾルに処方された。処置のために必要とされる抗生物質の大きな用量に起因して、優れたエアロゾル化特性を示す高い薬物負荷(80%カプレオマイシン)を有する乾燥粉末エアロゾル(48%がFPFTD<5.8μmである)が、調製された。付与される規則的な圧力を変化させて、幾何学的直径の有意な差は見られなかった。このことは、これらの粉末についてのエアロゾル飛行特徴が、患者の吸息流量に無関係であることを示唆する。重大なことに、これらのエアロゾルは、冷蔵条件下、室温条件下、および加速条件下(40℃)で、優れた貯蔵能力を示し、化学特性と物理特定との両方が、3ヶ月目までの貯蔵について、安定なままである。
【0097】
開示される本発明は、記載される特定の形態、プロトコル、および試薬に限定されないことが理解される。なぜなら、これらは変化し得るからである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載するためだけを目的とし、添付の特許請求の範囲のみによって限定される範囲を限定することは、意図されないこともまた、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1A】図1Aは、最初に80%のカプレオマイシンを含有し、種々のストレス条件下で貯蔵されたエアロゾル粉末の幾何学的直径の、時間に依存する安定性のグラフである。凡例の解説:黒菱形4℃;黒四角室温暗所;黒四角室温明所;黒三角40℃/75%相対湿度閉鎖;米印40℃/75%相対湿度開放。
【図1B】図1Bは、最初に80%のカプレオマイシンを含有し、種々の応力条件下で貯蔵されたエアロゾル粉末の粒子の5.8μm未満の微細粒子画分(FPFTD)の、時間に依存する安定性のグラフである。凡例の解説:黒菱形4℃;黒四角室温暗所;黒四角室温明所;黒三角40℃/75%相対湿度閉鎖;米印40℃/75%相対湿度開放。
【図1C】図1Cは、最初に80%のカプレオマイシンを含有し、種々の応力条件下で貯蔵されたエアロゾル粉末のカプレオマイシン含有量の、時間に依存する安定性のグラフである。凡例の解説:黒菱形4℃;黒四角室温暗所;黒四角室温明所;黒三角40℃/75%相対湿度閉鎖;米印40℃/75%相対湿度開放。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器感染の処置のための処方物であって、該処方物は、
乾燥した肺内への吸入による投与のために適切な乾燥粉末の形態の、呼吸器感染の処置のための治療剤、診断剤または予防剤であって、該乾燥粉末は、マイクロ粒子またはナノ粒子凝集体を含有し、該マイクロ粒子またはナノ粒子凝集体は、1ミクロン〜30ミクロンの粒子直径または凝集体直径を有し、そして下気道内に沈着する粒子または凝集体については3.3μm未満のFPFTDを有し、そして中気道から下気道内に沈着する粒子または凝集体については5.8μm未満のFPFTDを有する、治療剤、診断剤または予防剤、
を含有する、処方物。
【請求項2】
結核症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、髄膜炎菌性髄膜炎、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、および痘瘡からなる群より選択される疾患の処置のための薬剤を含有する、請求項1に記載の処方物。
【請求項3】
慢性呼吸器感染または薬剤耐性呼吸器感染の処置のための、請求項1に記載の処方物。
【請求項4】
結核症、特に、多剤耐性結核症の処置のための、請求項1に記載の処方物。
【請求項5】
ナノ粒子の凝集体を含有する、請求項1に記載の処方物。
【請求項6】
抗生物質、抗ウイルス物質およびワクチンからなる群より選択される生物活性剤を含有する、請求項1に記載の処方物。
【請求項7】
カプレオマイシン、PA−824、リファピシン、リファペンチン、キノロン、アパルフロキサシン、ガチフロキサシン、CS−940、Du−6859a、シタフロキサシン、HSR−903、レボフロキサシン、WQ−3034、シプロフロキサシン、およびレボフロキサシンからなる群より選択される抗生物質を含有する、請求項6に記載の処方物。
【請求項8】
50重量%より高く、より好ましくは60重量%〜80重量%より高い高負荷用量で、カプレオマイシンを含有する、請求項7に記載の処方物。
【請求項9】
賦形剤としてロイシンを含有する、請求項8に記載の処方物。
【請求項10】
アマンタジン、リマンタジン、ザナマビルおよびオセルタミビルからなる群より選択される抗ウイルス物質を含有する、請求項6に記載の処方物。
【請求項11】
ワクチンを、単独でか、または抗生物質もしくは抗ウイルス物質と組み合わせて含有する、請求項6に記載の処方物。
【請求項12】
肺送達のためのデバイスまたは投薬形態である、請求項1に記載の処方物。
【請求項13】
吸入による送達のための乾燥粉末である、請求項11に記載の処方物。
【請求項14】
前記粒子が、4ミクロン〜6ミクロンの空気力学的範囲を有する、請求項1に記載の処方物。
【請求項15】
前記粒子が、カプレオマイシンおよびロイシンを含有する、請求項14に記載の処方物。
【請求項16】
錠剤、カプセル、ロゼンジ、粉末、エマルジョン、エアロゾル、懸濁物、および溶液からなる群より選択される形態である、請求項1に記載の処方物。
【請求項17】
処置の方法であって、患者に、有効量の請求項1〜16のうちのいずれか1項に記載の処方物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項18】
前記処方物が、1日に1回または1日に2回投与され、そして高速放出処方物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記処方物が、1週間に1回投与され、そして低速放出処方物である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記処方物が、カプレオマイシンを含有し、そして経口送達される30mg〜100mgのカプレオマイシンに等価な投薬量でのカプレオマイシンの投与を必要とするヒトに投与される、請求項17に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公表番号】特表2008−518007(P2008−518007A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538989(P2007−538989)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/037484
【国際公開番号】WO2007/011396
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(592257310)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (31)
【Fターム(参考)】