説明

胃腸障害の治療

【課題】 それを必要とする対象における悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、または栄養失調を含む急性および慢性GI障害の予防および治療のための医薬組成物および方法を提供する。
【解決手段】 本発明の医薬組成物は、悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、または栄養失調を含む急性および慢性胃腸障害を治療および/または予防するための医薬組成物であって、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤または薬剤として許容されるその塩、および薬剤として許容される担体を含んで成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、および化学療法および放射線療法によってひき起こされる栄養失調を含む急性および慢性胃腸(GI)障害を治療または予防するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
A.悪心および嘔吐など化学療法および放射線療法誘発急性GI障害
化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐は、生活の質ならびに身体的および認知的機能における顕著な低下をひき起こし、結果として潜在的に治癒的療法の遅延および中断をもたらす。
【0003】
実際に、化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐は、患者がさらなる治療を拒否するほどに重症でありうる。5つの類型の悪心および嘔吐が化学療法剤および/または放射線の使用と関係がある。すなわち、(1)治療の最初の24時間以内に発生する急性型の化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐、(2)治療後24時間もしくはそれ以降に発生する遅延型の化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐、(3)治療前に開始する先行型の化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐、(4)患者が予防療法による治療開始するにもかかわらず発生する突出型の化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐、(5)制吐予防また救急療法が早期周期で失敗した場合の治療の後の周期中に発生する化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐である。
【0004】
化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐の機序は明確ではないが、証拠により、化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐が、部分的に、GI管粘膜の内側を成しているクローム親和性細胞が細胞損傷(粘膜炎)に応じてセロトニンおよび他の神経刺激剤を放出させ、GI管の求心性迷走神経におけるその受容体に結合し、脳幹の外側髄領域および中枢神経系(CNS)第4室近くの最後野における嘔吐中枢(VC)および化学受容体誘発帯(CTZ)にそれぞれ刺激を送ることが示されている(非特許文献1、非特許文献2)。CTZの活性化も神経伝達物質の放出を誘発し、これによりさらにVCが活性化される。化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐に関係があると考えられるCTZ神経伝達物質としては、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミン、およびノルエピネフリンが挙げられるが、これらに限定されない。直接の関連性が、高CNS中枢とVC/CTZとの間に存在する。次いで、第V、第VII、第IX脳神経の遠心枝のほか、迷走神経および交感神経幹が、嘔吐を特徴づける複雑に協調した一連の筋収縮、心血管反応、および逆蠕動を誘発する。
【0005】
化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐の治療のために臨床的に使用される多くの薬剤がある。これらの薬剤として挙げられるのは、抗コリン作用薬、抗ヒスタミン剤、フェノチアジン、ブチロフェノン、カナビノイド、ベンズアミド、グルココルチコイド、ベンゾジアゼピン、5−HT受容体拮抗薬、および三環系抗うつ剤である。しかし、依然として治療法を改善する必要がある。
【0006】
例えば、失調および静座不能などの錐体外路系症状、鎮静作用、抗コリン作用、および直立性高血圧により、フェノチアジンの使用は決して望ましくない療法となっている。傾眠が抗コリン作用薬の重要な副作用であり、鎮静作用および抗コリン作用が抗ヒスタミン剤の主な副作用である。ブチロフェノンの副作用としては、静座不能、失調、および低血圧が挙げられる。カナビノイドは、限定された効果、および多幸、眩暈、妄想的観念、および嗜眠を示した。ベンゾジアゼピンの副作用としては、認知障害、尿失禁、低血圧、下痢、鎮静作用、および健忘が挙げられる。ステロイドは、単一薬剤としてほとんど効果を示さず、高血糖、多幸、不眠、および直腸痛の副作用を示した。三環系抗うつ剤の抗コリン作用特性の望ましくない副作用としては、口渇、便秘、霧視、尿閉、体重減少、高血圧、動悸、および不整脈が挙げられる。オンダンセトロン、グラニセトロン、およびトロピストロンなどの5−HT受容体拮抗薬は、急性症状に対してよりも遅延型悪心および嘔吐対して効果がないことが示されている。5−HT受容体拮抗薬の効果は、シスプラチン含有療法に対してよりも適度に催吐性の化学療法に対して顕著でないようである。5−HT受容体拮抗薬による悪心のコントロールは、嘔吐のコントロールよりも顕著ではないようである。さらに、5−HT受容体拮抗薬の効果は、連日にわたって、かつ反復される化学療法周期にわたって減少するようである(非特許文献3)。
【0007】
そのようなものとして、悪心および嘔吐の予防および治療のための改善された方法が必要である。
【0008】
GI管が化学療法および/または放射線療法に暴露されると、細胞損傷(粘膜炎)に応じて、GI管の内側を成しているクローム親和性細胞が、CNSのVC/CTZへのシグナルをリレーする神経伝達物質を放出し、結果として化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐が生じる。しかし、GI管およびCNSにおける神経伝達物質の作用を遮断するだけで全類型の化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐を治療するのに無効となることが示されている。したがって、GI管およびCNSにおける活性神経伝達物質およびその受容体のターゲティングに加えて、細胞損傷(粘膜炎)を予防し、GI管の上皮の完全性を維持し、GI管からCNSの嘔吐中枢への神経伝達物質の放出を減少させうる方法または薬剤が、化学療法および放射線療法誘発悪心および嘔吐の予防および治療において有用でありうる。
【0009】
B.化学療法および放射線療法誘発粘膜炎
口腔粘膜炎およびGI粘膜炎は、消化器粘膜の要素であり、各領域の特定の必要性により局所差があると考えられている(非特許文献4)。粘膜炎は単に表皮基底幹細胞に対する化学療法および/または放射線療法の直接的な影響から生じるだけではなく、粘膜炎が粘膜下組織の結合組織(内皮および間葉細胞)において始まり、かつ上皮細胞をターゲティングする一連の生物学的事象の結果であるらしいことが明らかになった(非特許文献5)。化学療法および/または放射線療法によって誘発される粘膜炎の病因は、5段階で発生すると考えられうる。すなわち、
【0010】
第I段階―開始。化学療法および放射線療法誘発細胞損傷の開始は、二本鎖DNAを破壊する活性酸素種(ROS)産生、およびタンパク質キナーゼC(PKC)など、ROS依存シグナル経路活性化の同時発生によって特徴づけられる。
【0011】
第II段階―損傷メッセージの発生。損傷メッセージの発生は、TNF−α、IL−1β、およびIL−6など炎症性サイトカイン発現を刺激するNF−κBなどの転写因子の活性化によって特徴づけられる。
【0012】
第III段階―損傷シグナルの増幅。NF−κBとTNF−αとの間の正のフィードバックループによる損傷シグナルの増幅は、炎症性サイトカインの数およびレベルをさらに増大させ、TNF−αはNF−κBの活性をさらに増大させるだけではなく、外因性アポトーシス経路も誘発し、結果として上皮細胞の死をもたらす。
【0013】
第IV段階―潰瘍化および感染。潰瘍化および感染(中等度ないし重度の粘膜炎)は、上皮細胞の一次喪失および細菌の二次コロニー化(疼痛、炎症、および機能喪失をひき起こす)によって特徴づけられる。
【0014】
第V段階―治癒。再上皮の治癒過程は、暴露された細胞外マトリックスからのシグナルおよび粘膜下組織における線維芽細胞から分泌される成長因子によって刺激される。
【0015】
第I〜III段階中には多少の粘膜の紅斑もありうるが、組織の完全性は依然として適切であり、患者は第IV段階における上皮細胞の死により潰瘍性粘膜炎を発生するまではほとんど症状を示さない。開始(第I段階)から治癒(第V段階)までの組織損傷の過程は、全治療単位を通じて放射線療法の各部分または化学療法の各周期後のGI管の粘膜上の異なる部位で再発すると考えられている。したがって、先に記載された5段階の各々は、化学療法および/または放射線療法によって誘発される細胞損傷または粘膜炎の予防、改善、および/または治癒の促進の潜在的なターゲットを提供する。しかし、病因の基礎にある機序は一連の治療ターゲットを提供したが、放射線療法または化学療法関連毒性を変化させることを目的としている療法の開発の重要な課題は、確実に正常な組織を効果的にターゲティングするが、放射線療法および化学療法による抗腫瘍治療の殺腫瘍効果を減少させないことである。
【0016】
潰瘍性粘膜炎の出現を予防するためには、第IV段階前に病因を停止させることがより良いかもしれない。しかし、第I段階が阻止されると、放射線および化学療法の殺腫瘍効果は、二本鎖DNAを破壊するROSの発生が放射線および化学療法による腫瘍殺傷の主要な機序であるため犠牲にされると考えられえる。したがって、第II段階(NF−κBなど)および第III段階(TNF−αなど)のみが、腫瘍コントロールを阻害することのない粘膜炎予防の良好なターゲットであるようである。
【0017】
化学療法および放射線障害後、照射組織におけるTFN−αなどのサイトカインおよびTGF−βなどの成長因子の産生は炎症性反応を持続させ、かつ増加させると同時に、線維芽補充および増殖を促進するが、上皮細胞の成長を阻害する(非特許文献6)。上皮、内皮、および結合組織細胞からのTNF−αおよびTGF−βの持続的分泌による化学療法および放射線に対する増幅障害反応は、おそらく細胞分化および増殖の遺伝的プログラミングの変化によってひき起こされるが、粘膜炎を特徴づける組織変化をもたらす(非特許文献7)。したがって、化学療法および放射線誘発細胞障害は、損傷治癒過程における遺伝障害とみなしうる。
【0018】
C.遺伝子制御剤としてのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)
多重遺伝子調節の能力を有する化合物のクラスとしてのHDAC阻害剤は、ヒストン脱アセチル化酵素を増大させることによって特定の一連の遺伝子の発現を調節しうるが、それによってクロマチン構造および転写のターゲット遺伝子の近接性を調節し、したがって疾患を治療する(非特許文献8)。HDAC阻害剤は、遺伝子発現に対して選択的に作用し、培養腫瘍細胞で発現される遺伝子の約2%のみの発現を変化させる。細胞周期阻害剤に関係した特定の遺伝子を変化させることによって、腫瘍抑制因子および腫瘍遺伝子、HDAC阻害剤は、インビトロおよびインビボでの形質転換細胞の成長停止、分化、および/またはアポトーシス細胞死の強力な誘導剤であることを示した。HDAC阻害剤の効果はバルクヒストンアセチル化を誘発し、結果として腫瘍細胞のアポトーシス細胞死、最終分化、および成長停止をもたらすが、正常細胞における毒性は生じない(非特許文献9、非特許文献10)。また、HDAC阻害剤によるクロマチン分子構造の変化はさらに、その細胞が本質的に放射線抵抗性である腫瘍を放射線増感させうる(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。クロマチン構造の後成的変化は、HDAC阻害剤が癌だけではなく遺伝性疾患に対しても治療上の候補でありうることを示す(非特許文献14、非特許文献15)。他方、HDAC阻害剤は、非ヒストンタンパク質の高アセチル化も誘発しうる。リボソームS3なその非ヒストンタンパク質またはNF−κBのRel−Aサブユニットの高アセチル化は、NF−κB活性を阻害し、炎症性サイトカイン(TNF−α、Il−1β、Il−6、IL−8、TGF−β)産生を抑制する(非特許文献16)。HDAC阻害剤は、潰瘍性結腸炎および自己免疫疾患など多くの炎症疾患における抗炎症効果を示した(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20)。
【0019】
われわれの以前の研究(非特許文献21)は、腫瘍成長の抑制に加え、HDAC阻害剤は、放射線誘発皮膚炎の予防および治療にも有効であり、TNF−αおよびTGF−βの発現をダウンレギュレートすることによって創傷治癒を促進することを示した。
【0020】
ある試験(非特許文献22)でもHDAC阻害剤が抗腫瘍剤として、TNF−αなどの炎症性サイトカインの産生を減少させ、骨髄移植後の急性移植片対宿主疾患を予防することも示した。
【0021】
HDAC阻害剤は、NF−κB活性化およびIL−8産生の抑制によって適切な腸上皮細胞調節にとって重要であり、かつ潰瘍性結腸炎に対する有効な治療であることがわかっている(非特許文献23)。
【0022】
【非特許文献1】ナバリ(Navari)RM.J.Supp.Oncol.、2003年(1)、pp.89−92
【非特許文献2】グルンベルグ(Grunberg)SM.J.Supp.Oncol.、2004年(2)、pp.1−12
【非特許文献3】モロー(Morrow)ら、Cancer、1995年(76)、pp.343−357
【非特許文献4】キーフ(Keefe)、DMK.、Supportive Care Cancer.、2004年(12)、pp.6−9
【非特許文献5】ソニス(Sonis)STら、J.Supp.Oncol.、2004年(2)、pp.21−31
【非特許文献6】ヒル(Hill)、RPら、Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.、2001年(49)、pp.353−365
【非特許文献7】チョウ(Zhou)、D.ら、Int.J.Radiat.Biol.、2001年(77)、pp.763−772
【非特許文献8】マークス(Marks)、PA.ら、J.Natl.Cancer Inst.、2000年(92)、pp.1210−1206
【非特許文献9】リチョン(Richon)、VW.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.、2000年(97)、pp.10014−10019
【非特許文献10】バン リント(Van Lint)、C.ら、1996年(5)、pp.245−243
【非特許文献11】フェランディナ(Ferrandina)、G.ら、Oncol.Res.、2001年(12)、pp.429−440
【非特許文献12】ミラー(Miller)、AC.ら、Int.J.Radiat.Biol.、1997年(72)、pp.211−218
【非特許文献13】ビアーデ(Biade)、S.ら、2001年(77)、pp.1033−1042
【非特許文献14】ヤエニッシュ(Jaenisch)、R.ら、Nat.Genet.、2003年(33)、pp.245−254
【非特許文献15】ガルバー(Garber)、K.ら、J.Natl.Cancer Inst.、2002年(94)、pp.793−795
【非特許文献16】チェン(Chen)、L.ら、2001年(293)、pp.1653−1657
【非特許文献17】セガイン(Segain)、JP.ら、Gut、2000年(47)、pp.397−403
【非特許文献18】ミシュラ(Mishra)、N.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、2001年(98)、pp.2628−2633
【非特許文献19】レオーニ(Leoni)、F.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2002年(99)、pp.2995−3000
【非特許文献20】チャン(Chung)、YL.ら、Mol.Ther.、2003年(8)、pp.707−717
【非特許文献21】チャン(Chung)、YLら、Mol.Cancer Ther.、2004年(3)、pp.317−325
【非特許文献22】レディ(Reddy)Pら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、2004年(101)、pp.3921−3926
【非特許文献23】イン(Yin)Lら、J.Biol.Chem.、2001年(276)、pp.44641−44646、ファング(Huang)Nら、Cytokine、1997年(9)、pp.27−36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、免疫不全であり、または化学療法および/または放射線療法の計画的治療単位を受ける対象における悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、および栄養失調を含む急性および慢性胃腸障害を治療または予防するための組成物および方法が提供される。この方法は、対象の口腔、咽頭、食道、または胃腸組織に治療有効量のHDAC阻害剤のみ、または第2の薬剤および薬剤として許容される担体または薬剤として許容されるその塩を投与し、細胞損傷を治療または予防し、GI管の上皮の完全性を維持し、GI管から中枢神経(CNS)の嘔吐中枢への求心性迷走神経入力を減少させるステップを含んで成る。癌治療における腫瘍保護のリスクなしに化学療法および/または放射線療法誘発障害から正常組織を保護するための組成物および方法も提供される。サイトカイン放出、GI障害、および腫瘍成長がHDAC阻害剤を用いることによって抑制されうるため、悪液質、癌関連性疲労、または慢性疲労症候群を治療または予防する医薬組成物および方法がさらに提供される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
HDAC阻害剤は、腫瘍抑制因子をアップレギュレートし、腫瘍遺伝子をダウンレギュレートし、かつ腫瘍成長および炎症反応を阻害するための炎症性サイトカインを抑制することが示されている。この化合物は、経口、腹腔内、髄腔内、動脈内、鼻腔内、実質内、皮下、筋内、静脈内、経皮、直腸内、および局所的に投与されうる。投与量は、インビトロおよびインビボ試験で確認される有効濃度に基づく。化合物の多様かつ有効な効用は、それらが第2のHDAC阻害剤、5−ヒドロキシトリプタミン3(5−HT)受容体拮抗薬、ドーパミン受容体拮抗薬、DOPA−5−HT受容体拮抗薬、ニューロキニン(NK)−1受容体拮抗薬、抗ヒスタミン剤、抗コリン作用薬、非ステロイド抗炎症薬、ステロイド、成長因子、サイトカイン、抗酸化剤、三環系抗うつ剤、鎮痛剤、カンナビノイド、ビタミン、または抗生物質と同時または併用投与もされうる所見によって、さらに説明される。
【発明の効果】
【0025】
化学療法および放射線療法誘発GI障害の管理に使用されている薬物としては、抗コリン作用薬、抗ヒスタミン剤、フェノチアジン、ブチロフェノン、カナビノイド、ベンズアミド、グルココルチコイド、ベンゾジアゼピン、5−HT受容体拮抗薬、および三環系抗うつ剤が挙げられる。これらのうち化学療法および放射線療法誘発GI障害の全類型を有効に抑制しうるものはない。化学療法および放射線療法における腫瘍保護のリスクなしに正常な組織を保護する薬剤を見出すことが、癌治療における長く求められている目標である。しかし、粘膜炎を保護し、GI管の完全性を維持し、化学療法および放射線療法誘発急性および慢性GI障害の治療または予防のためにGI管からCNSのVC/CTZへの求心性迷走神経入力を減少させるHDAC阻害剤の使用もしくは上記または他の薬剤との併用は、それ以前は提案または開示されていない。化学療法および/または放射線療法における腫瘍保護のリスクなしに正常組織の保護のためのHDAC阻害剤の使用も、それ以前は提案または開示されていない。さらに、サイトカイン放出、GI障害、および腫瘍成長はHDAC阻害剤を用いることによって抑制されうるため、化学療法および/または放射線療法の計画的治療単位を受ける患者における悪液質、癌関連性疲労、または慢性疲労症候群を治療または予防する医薬組成物および方法がさらに提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
それを必要とする対象における悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、または栄養失調を含む急性および慢性GI障害の予防および治療のための医薬組成物および方法が提供される。対象は、免疫不全であり、または化学療法および/または放射線療法の計画的治療単位を受けている。放射線療法は、電離放射線、外照射、気管支腔内照射、放射性医薬品、放射性共役剤、または放射性標識抗体である。方法は、対象の口腔、咽頭、食道、または胃腸組織に治療有効量のHDAC阻害剤または第2の薬剤と併用して投与するステップを含んで成る。医薬組成物は、細胞損傷を予防し、GI管の完全性を維持するとともに、GI管からCNSのVC/CTZへの求心性迷走神経入力を減少させ、結果として急性および慢性GI障害の予防および治療をもたらすための治療有効量のHDAC阻害剤または第2の薬剤との組合せを含んで成る。癌治療における腫瘍保護のリスクなしに化学療法および/または放射線療法誘発障害から正常組織を保護するための医薬組成物も提供される。HDAC阻害剤を用いるサイトカイン放出、GI障害、および腫瘍成長の抑制に基づき、悪液質、癌関連性疲労、または慢性疲労症候群を治療または予防するための方法がさらに提供される。
【0027】
化学療法剤および放射線によってひき起こされる急性組織障害は、活性酸素の形成からの酸化的損傷と関係があると考えられている。したがって、化学療法および放射線療法誘発急性GI障害の病因は、活性神経伝達物質を放出し、悪心および嘔吐を誘発するGI管からCNSのVC/CTZへの求心性迷走神経入力の減少をひき起こす細胞損傷またはGI粘膜炎と直接関連していると考えられている。急性GI障害の程度または強度および持続期間は、化学療法剤、放射線源、蓄積量、投与量、罹患した腸の体積、および患者の特性、すなわち、女性、若年齢、乗り物酔い歴、および最低限のアルコール消費と密接に関係がある。
【0028】
他方、化学療法および放射線療法によってひき起こされる慢性GI粘膜炎は、癌治療の晩発性合併症であり、口腔、食道、胃、膵臓、肝臓、胆管、直腸、前立腺、および骨盤の悪性腫瘍に最も一般的である。しばしば進行性であり、障害の程度によって、乳糖不耐性、閉塞症状、慢性下痢、GI出血、体重減少、および栄養失調を含む各種臨床結果をもたらしうる。これは通常、治療後6か月以上で発生する(平均約5年、2か月ないし30年もの長い間の範囲)(ワッデル(Waddell)BE.ら、J.Am.Coll.Surg.、1999年(189(6))、pp.611−624)。これは、治療中またはその直後に発生し、2〜6週間以内に消散する急性GI粘膜炎(悪心、嘔吐、水様性下痢、および腹痛によって特徴づけられる)のタイミングと対照的である。
【0029】
化学療法および放射線療法によってひき起こされる慢性粘膜炎の顕著な組織病理学的特徴は、びまん性コラーゲン沈着および線維症を有する閉塞性脈管炎である(ハスレトン(Hasleton)PS.ら、Histopathology、1985年(9(5))、pp.517−534)。細動脈壁は、ヒアリンリング状肥厚および脈管内膜の下の大きな泡状細胞を示しする。毛細血管拡張症が確認されうる。腸部分およびその関連漿膜は著しく肥厚性のように見える。粘膜潰瘍、壊死、およびせん孔が、疾患の進行とともに発生しうる。進行性線維症は、近位部分の膨張とともに狭窄をもたらす。生理的結果は、腸通過の変化、胆汁酸吸収の減少、腸浸透性の増大、細菌の異常増殖、および乳糖吸収不良を含みうる(ヨー(Yeoh)E.ら、Am.J.Med.、1993年(95(4))、pp.397−406)。
【0030】
したがって、化学療法および放射線療法によってひき起こされる急性および慢性GI障害における結果として生じる臨床症状としては、悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、体重減少、栄養失調、および出血が挙げられる。
【0031】
以前の試験では、晩発性合併症が初期粘膜障害からどのようにして発生するかについて示されている(ドル(Dorr)W.ら、Radioth.r Oncol.、2001年(61(3))、pp.223−231)。化学療法および/または放射線療法が粘膜炎などの組織障害を誘発すると、罹患組織における炎症性サイトカイン(TNF−αおよびTGF−β)の放出が炎症反応を存続させ、増加させると同時に、線維芽細胞の補充および増殖を促進するが、上皮細胞の成長を阻害する。特に、増幅された障害は、上皮細胞、内皮細胞、および結合組織細胞からのTNF−αおよびTGF−βの持続的分泌によって反応されるが、これはおそらく細胞分化および増殖の遺伝的プログラミングにおける変化によってひき起こされる。TGF−β経路の慢性活性化は、晩発性腫瘍形成をも刺激する。したがって、サイトカインにおける異常な遺伝子過剰発現の結果生じる化学療法および放射線療法誘発細胞損傷または粘膜炎は、不良な創傷治癒、進行性線維症、および晩発性腫瘍形成をもたらす遺伝性疾患とみなしうる。
【0032】
遺伝子制御剤のクラスである、HDAC阻害剤は、ヒストンアセチル化における状態の変化によってクロマチン構造をリモデリングすることで遺伝子の一部を活性化し、かつ抑制する(マークス(Marks)、PA.ら、J.Natl.Cancer Inst.、2000年(92)、pp.1210−1206、クラマー(Kramer)ら、Trends Endocrinol.Mrtab.、2001年(12)、pp.294−300)。ヒストン高アセチル化は、結果として細胞周期阻害剤(p21Cip1、p27Kip1、およびp16INK4)のアップレギュレーション、腫瘍遺伝子(MycおよびBcl−2)のダウンレギュレーション、炎症性サイトカイン(インターロイキン(IL)−1、IL−8、TNF−α、およびTGF−β)の抑制、または無変化(GAPDHおよびγ−アクチン)をもたらす(ラガー(Lagger)ら、EMBO J.、2002年(21)、pp.2672−2681、リチョン(Richon)ら、Clin.Cancer Res.、2002年(8)、pp.662−667、リチョン(Richon)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、2000年(97)、pp.10014−9、バン リント(Van Lint)ら、Gene Expr.、1996年(5)、pp.245−3、ファング(Huang)ら、Cytokine、1997年(9)、pp.27−36、ミシュラ(Mishra)、N.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、2001年(98)、pp.2628−2633、ストックハマー(Stockhammer)ら、J.Neurosurg.、1995年(83)、pp.672−681、セガイン(Segain)ら、Gut、2000年(47)、pp.397−403、レオーニ(Leoni)、F.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2002年(99)、pp.2995−3000)。ヒストン高アセチル化の誘発に加えて、HDAC阻害剤は、リボソームS3、p53、またはNF−κBのRel−Aサブユニットなどの非ヒストンタンパク質の高アセチル化をも誘発し、タンパク質キナーゼC(PKC)活性を変化させ、タンパク質イソプレニル化を阻害し、DNAメチル化を減少させ、かつ核受容体に結合する(ウェブ(Webb)ら、J.Biol.Chem.、1999年(274)、pp.14280−7、チェン(Chen)ら、Science、2001年(293)、pp.1653−7)。ますます多くの異なる機序が、HDAC阻害剤による治療後にNF−κB転写活性の阻害も示した。HDAC阻害剤は、腫瘍細胞における細胞周期の停止、細胞分化、およびアポトーシス細胞死の誘発、および炎症性疾患における炎症および線維症の減少の特性を示した(ワレル(Warrell)ら、J.Natl.Cancer Inst.、1998年(90)、pp.1621−5、ビグシン(Vigushin)ら、Clin.Cancer Res.、2001年(7)、pp.971−6、サウダース(Sauders)ら、Cancer.Res.、1999年(59)、pp.399−404、ゴットリヒャー(Gottlicher)ら、EMBO J.、2001年(20)、pp.6969−78、ロンバウツ(Rombouts)ら、Acta Gastroenterol.Belg.、2001年(64)、pp.239−46)。HDAC阻害剤の効果は、バルクヒストンアセチル化を誘発し、結果として腫瘍細胞におけるアポトーシス細胞死、最終分化、および成長停止をもたらすが、しかし、これらは、HDAC阻害剤によるアポトーシス誘発に対する感度が細胞分化の最初の状態およびアセチル化ヒストン状態に依存するため、正常な細胞には出現することはない(ガルバー(Garber)ら、J.Natl.Cancer Inst.、2002年(94)、pp.793−5)。また、HDAC阻害剤によるクロマチン構造の変化はさらに、その細胞が本質的に放射線抵抗性である腫瘍を放射線増感させうるとともに、腫瘍細胞を化学療法に対して敏感にする(フェランディナ(Ferrandina)ら、Oncol.Res.、2001年(12)、pp.429−40、ミラー(Miller)ら、Int.J.Radiat.Biol.、1997年(72)、pp.211−218、ビアーデ(Biade)ら、2001年(77)、pp.1033−1042)。
【0033】
クロマチンを差別的にリモデリングし、正常および腫瘍細胞におけるNF−κB活性を阻害することによって腫瘍抑制因子、腫瘍遺伝子、および炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−1、IL−6)および線維形成誘導性成長因子(TGF−β)の発現を同時に、協調的に、選択的に、かつ後成的に操作する潜在的な可能性に基づき、HDAC阻害剤はおそらく、化学療法および放射線療法誘発粘膜炎の病因の第II段階(NF−κB活性化)/第III段階(TNF−α産生)を妨げることによってGI管の細胞損傷または粘膜炎の抑制に対するその効果を発揮しうる(ソニス(Sonis)STら、J.Supp.Oncol.、2004年(2)、pp.21−31)とともに依然として、癌治療における抗腫瘍効果および腫瘍放射線感受性を示す。
【0034】
細胞間情報伝達を仲介する炎症性サイトカインおよび神経伝達物質は、癌を有し、または化学療法もしくは放射線療法を受ける患者において大量に放出される。癌、化学療法、または放射線療法によって誘発されるサイトカイン放出は、内分泌系および神経伝達物質に対する影響を与える(アニスマン(Anisman)Hら、Can.Med.Assoc.J.、1996年(155)、pp.1075−1082)が、これは例えば、慢性疲労症候群で示される(モス(Moss)RBら、J.Clin.Immunol.、1999年(19)、pp.314−316)。癌、化学療法、または放射線療法によって誘発される高濃度のTNF−α、IL−1、およびIL−6は、発熱、体重減少、発汗、および貧血のほか、疲労の原因になることがわかっている(クルツロック(Kurzrock)R.、Cancer 92、2001年(92)、pp.1684−1688、ベツラー(Wetzler)Mら、Blood、1994年(84)、pp.3142−3147)。したがって、炎症性サイトカインの放出を抑制し、GI障害を予防するとともに、腫瘍成長を阻害するHDAC阻害剤の効果はさらに、悪液質、癌関連性疲労または慢性疲労症候群の発生を減少させうる。
【0035】
本発明を実施するために使用される活性化合物は、一般に、HDAC阻害剤などのヒストン高アセチル化剤(histone hyperacetylating agents)である。多くのかかる化合物が知られている。例えば、P.デュルスキー(Dulski)、抗原虫薬のターゲットとしてのヒストン脱アセチル化酵素、PCT出願WO97/11366(1997年3月27日)を参照。かかる化合物の例としては、以下の化合物が挙げられる、これに限定されない。すなわち、
【0036】
A.トリコスタチンAおよびその類似体、例えば、トリコスタチンA(TSA)、およびトリコスタチンC(コーエ(Koghe)ら、Biochem。Pharmacol.、1998年(56)、pp.1359−1364)。(トリコスタチンBは単離されているが、HDAC阻害剤であることは示されていない)。
【0037】
B.ペプチド、例えば、オキサムフラチン[(2E)−5−[3−[(フェニルスルホニル)アミノフェニル]−ペント−2−エン−4−イノヒドロキサム酸(キムら、Oncogene、1999年(18)、pp.2461−2470)、トラポキシンA(TPX)−−環状テトラペプチド(シクロ−(L−フェニルアラニル−L−フェニルアラニル−D−ピペコリニル−L−2−アミノ−オキソ−9,10−デカノイル))(キジマ(Kijima)ら、J.Biol.Chem.、1993年(268)、pp.22429−22435)、FR901228、デプシペプチド(ナカジマ(Nakajima)ら、Ex.Cell Res.、1998年(242)、pp.126−133)、FR225497、環状テトラペプチド(H.モリ(Moli)ら、PCT出願WO00/08048(2000年2月17日)、アピシジン、環状テトラペプチド[シクロ(N−−O−メチル−L−トリプトファニル−L−イソロイシニル−D−ピペコリニル−L−2−アミノ−8−オキソデカノイル)](ダーキン・ラットレイ(Darkin−Rattray)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1996年(93)、pp.13143−13147)、アピシジン1a、アピシジンIb、アピシジンIc、アピシジンIIa、およびアピシジンIIb(P.デュルスキー(Dulski)、PCT出願WO97/11366)、HC−トキシン、環状テトラペプチド(ボシュ(Bosh)ら、Plant Cell、1995年(7)、pp.1941−1950)、WF27082、環状テトラペプチド(PCT出願WO98/48825)、およびクラマイドシン(ボシュ(Bosh)ら、上掲誌)。
【0038】
C.ヒドロキサム酸ベースのハイブリッド極性化合物(HPC)、例えば、サリチルヒドロキサム酸(SBHA)(アンドリュース(Andrews)ら、International J.Parasitology、2000年(30)、pp.761−8)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)(リチョン(Richon)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1998年(95)、pp.3003−7)、アゼラインビスヒドロキサム酸(ABHA)(アンドリュース(Andrews)ら、上掲誌)、アゼライン−1−ヒドロキサマート−9−アニリド(AAHA)(ジョー(Qiu)ら、Mol.Biol Cell、2000年(11)、pp.2069−83)、M−カルボキシ経皮酸ビスヒドロキシアミド(CBHA)(リチョン(Ricon)ら、上掲誌)、6−(3−クロロフェニルウレイド)カルポヒドロキサム酸(3Cl−UCHA)(リチョン(Richon)ら、上掲誌)、MW2796(アンドリュース(Andrews)ら、上掲誌)、およびMW2996(アンドリュース(Andrews)ら、上掲誌)、ピロキサミド、スクリプタイド、PXD−101、およびLAQ−824。ここで留意すべきは、HDAC阻害剤として有効でない類似体は、ヘキサメチレンビスアセタミド(HBMA)(リチョン(Richon)ら、PNAS、1998年(95)、pp.3003−7)、およびジエチルビックス(ペンタメチレン−N,N−ジメチルカルボキサミド)マロネート(EMBA)(リチョン(Richon)ら、PNAS、1998年(95)、pp.3003−7)である。
【0039】
D.脂肪酸化合物、例えば、酪酸ナトリウム(カウセンス(Cousens)ら、J.Biol.Chem.、1979年(254)、pp.1716−23)、イソ吉草酸(マクベイン(McBain)ら、Biochem.Pharm.、1997年(53)、pp.1357−68)、バルプロ酸、吉草酸(マクベイン(McBain)ら、上掲誌)、4−フェニル酪酸(4−PBA)(リー(Lea)とツルシヤン(Tulsyan)、Anticancer Research、1995年(15)、pp.879−3)、フェニル酪酸(PB)(ワング(Wang)ら、Cancer Research、1999年(59)、pp.2766−99)、プロピオン酸塩(マクベイン(McBain)ら、上掲誌)、ブチルアミド(リー(Lea)とツルシヤン(Tulsyan)、上掲誌)、イソブチルアミド(リー(Lea)とツルシヤン(Tulsyan)、上掲誌)、フェニル酢酸塩(リー(Lea)とツルシヤン(Tulsyan)、上掲誌)、3−ブロモプロピオン酸塩(リー(Lea)とツルシヤン(Tulsyan)、上掲誌)、トリブチリン(グアン(Guan)ら、Cancer Research、2000年(60)、pp.749−55)、酪酸アルギニン、イソブチルアミド、およびバルプロ酸塩。
【0040】
E.ベンズアミド誘導体、例えば、MS−27−275[N−(2−アミノフェニル)−4[N−(ピリジン−3−イル−メトキシカルボニル)アミノメチル]ベンズアミド](サイトウ(Saito)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999年(96)、pp.4591−7)、およびMS−27−275の3’−アミノ誘導体(サイトウ(Saito)ら、上掲誌)。
【0041】
F.他の阻害剤、例えば、デプデシン[その類似体(モノ−MTM−デプデシンおよびデプデシン−ビスエーテル)はHDACを阻害することはない](クォン(Kwon)ら、PNAS、1998年(95)、pp.3356−61)、およびスクリプタイド(スー(Su)ら、Cancer Research、2000年(60)、pp.3137−42)。
【0042】
ここで使用されるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、ヌクレオソームコアヒストンのアミノ末端テールにおけるリシン残基からアセチル基の除去を触媒する酵素である。そのようなものとして、HDACはヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とともにヒストンのアセチル化状態を調節する。ヒストンアセチル化は遺伝子発現に影響を及ぼし、ヒドロキサム酸ベースのハイブリッド極性化合物スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)などのHDACの阻害剤は、インビトロで形質転換細胞の成長の停止、分化および/またはアポトーシスを誘発し、インビボで腫瘍の成長を阻害する。HDACは、構造的相同性にもとづき3つのクラスに分類されうる。クラスIのHDAC(HDAC1、2、3、および8)は、酵母RPD3タンパク質との類似点を有し、細胞核に位置しており、転写コレプレッサーと関連した錯体において見られる。クラスのIIのHDAC(HDAC4、5、6、7、および9)は、酵母HDA1タンパク質と類似しており、核および脂肪質の細胞内局在性を有する。クラスIおよびIIのHDACは、SAHAなどのヒドロキサム酸ベースのHDAC阻害剤によって阻害される。クラスIIIのHDACは、酵母SIR2タンパク質に関係している構造的に離れたクラスのニコチンアミド(NAD)依存酵素を形成し、ヒドロキサム酸ベースのHDAC阻害剤によって阻害されない。
【0043】
ここで使用されるHDAC阻害剤は、インビボ、インビトロ、またはその両方でヒストンの脱アセチル化を阻害する能力がある化合物である。そのようなものとして、HDAC阻害剤は少なくとも1つのヒストンの脱アセチル化の活性を阻害し、アセチル化ヒストンの増大が生じ、アセチル化ヒストンの蓄積がHDAC阻害剤の活性を評価するために適切な生物学的マーカーである。したがって、アセチル化ヒストンの蓄積を測定する手順を用いて当該化合物のHDAC阻害活性を測定することができる。ヒストン脱アセチル化活性を阻害する化合物は、他の基質にも結合し、酵素または非ヒストンタンパク質など他の生物学的に活性な分子を阻害しうる。
【0044】
HDAC阻害剤は、薬剤として許容される塩の形でもたらされうる。薬剤として許容される塩は、それらが化合物の所望の薬理効果に悪影響を与えることがない限り使用されうる。選択および製造は、当業者によって実行されうる。薬剤として許容される塩の例としては、ナトリウム塩またはカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩またはマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの有機塩基を有する塩、またはトリエチルアミンもしくはエタノールアミン塩など有機塩基を有する塩が挙げられる。
【0045】
HDAC阻害剤は、経口または非経口投与されうる。経口投与の場合、これらの薬剤は軟硬カプセル、タブレット、ピル、顆粒、粉末、溶液、懸濁液、うがい薬、または同様のものの形で投与されうる。非経口投与の場合、これらの薬剤は、クリーム、軟膏、ゲル、ペースト、ローション、パッチ、坐剤、ナノ粒子、リポソーム製剤、注射液、点滴製剤、浣腸剤などの形で投与され、それによって継続的な膜吸収が固体、粘稠液、生体接着物質または懸濁液の形で維持されうる。これらの製剤および賦形剤または担体、崩壊薬または懸濁剤は、当業者によって容易に製造されうる。HDAC阻害剤は、第2に薬剤および薬剤として許容される担体または薬剤として許容されるその塩を含有しうる。
【0046】
ここで使用される、薬剤として許容される担体としては、逆熱ゲル化性を有する生体適合性ポリマー、ポリマー樹脂、粘性ポリマーゲル、ヒドロゲル、または生体接着性物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
当業者によって認められているように、有効な投与量は、投与経路、賦形剤の利用、および第2の薬剤、例えば、第2のHDAC阻害剤、5−ヒドロキシトリプタミン3(5−HT)受容体拮抗薬、ドーパミン受容体拮抗薬、DOPA−5−HT受容体拮抗薬、ニューロキニン(NK)−1受容体拮抗薬、抗ヒスタミン剤、抗コリン作用薬、非ステロイド抗炎症薬、ステロイド、成長因子、サイトカイン、抗酸化剤、三環系抗うつ剤、鎮痛剤、カンナビノイド、ビタミン、または抗生物質の使用など他の治療処置との同時使用の可能性によって変動する。
【0048】
ドーパミン受容体拮抗薬は、フェノチアジン、またはブチロフェノンでありうる。5−HT受容体拮抗薬の例は、ドラステロン、グラニセトロン、オンダンセトロン、パロノセトロン、またはトロピストロンである。DOPA−5HT受容体拮抗薬は、メトクロプラミドでありうる。NK−1受容体拮抗薬の例は、ボホピタント、CP−122,721、CJ−11,794、L−758,298、またはアプレピタントである。また、抗生物質としては、ガンシクロビル、アシクロビル、ファムシクロビル、またはテトラサイクリンが挙げられるが、これらに限定されない。成長因子は、ケラチノサイト成長因子(KGF)、または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)でありうる。抗酸化剤は、アミフォスチン、ベンジダミン、またはN−アセチルシステインでありうる。ビタミンとしては、ニコチンアミド、ビタミンB複合体、ビタミンC、またはビタミンEが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
特定の対象(例えば、ヒト、イヌ、またはネコ)に対する有効量および治療計画も使用される特定化合物の活性、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、排出率、疾患の重症度および経過、および患者の疾患傾向を含む各種の他の因子によって左右されるが、通常、投与の方法にかかわりなく組成物の0.001ないし100重量%である。場合により、細胞損傷または粘膜炎の予防に有用である第2の薬剤といっしょに活性化合物を投与し、免疫不全であり、または化学療法および/または本発明の計画された治療単位を受ける対象におけるGI管の完全性を維持し、かつGI管からCNSのVC/CTZへの求心性迷走神経入力を減少させ、悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、および栄養失調を含む急性および慢性GI障害を予防および治療することができる。第2の薬剤は、経口、腹腔内、髄腔内、動脈内、鼻腔内、実質内、皮下、筋内、静脈内、経皮、直腸内、または局所的に投与されうる。また、第2の薬剤は、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、うがい薬、粉末、タブレット、ピル、顆粒、カプセル、ローション、懸濁液、リポソーム製剤、ナノ粒子、パッチ、坐薬、浣腸剤、点滴剤、または注射液として調製されうる。第2の薬剤は、場合により、並行して、または連続的に投与されうる。ここで用いられる「並行して」なる語は、複合効果を生じる時間が十分に接近していることを意味する(すなわち、並行しては同時であってよく、または互いの前後の短時間内に発生する2つもしくはそれ以上のイベントでありうる)。ここで用いられる2つもしくはそれ以上の化合物を「並行して」または「併用して」投与することは、2つの化合物が時間が十分に接近して投与され、1つの化合物の存在が他の化合物の生物学的効果を変化させることを意味する。2つの化合物は、同時に、または連続的に投与されうる。同時の投与は、投与の前に化合物を混合することによって、または同時点であるが異なる解剖学的部位で、または異なる投与経路を用いて実施されうる。
【0050】
ここで説明された本発明がより容易に理解されうるために、以下の実施例が記載されている。これらの実施例は説明目的のみのためであり、本発明をいかなる方法によっても限定するものとして考えられていないことが理解されるできである。ここで引用された参考文献は、その全体が参照することによって明確に組み込まれている。
【0051】
実施例1
化学療法および放射線療法誘発粘膜炎を治療および予防するためのHDAC阻害剤を含有する組成物
化学療法および放射線療法の腫瘍殺傷効果を犠牲にすることなく粘膜の病的状態を選択的に削減する方法が、癌治療における長く求められている目標である。本実施例は、粘膜炎を治療するための生物学的に基づく局所的に適用される治療法を開示する。粘膜における賦形剤の受容性および医薬品の接触時間は、粘膜炎を治療するための薬剤の成果に絶対不可欠である。しかし、かかる方法のために利用可能な賦形剤または担体はきわめて少ない。
【0052】
HDAC阻害剤、フェニル酪酸塩は、食品用の甘味香味料とともに水溶性樹脂中の経口ゲルとして調製されている。水溶性樹脂の重要要素は、米国薬局方国民医薬品集の規格すべてを満たす結合、潤滑性、接着、および軟化性能のための非イオンポリエチレンオキシドポリマーである。水溶性樹脂は、制御放出固体用量マトリックスシステム、経皮薬物送達システム、および粘膜生体接着剤などの用法に適用されている。この特徴は、経口ゲルが、経口摂取時の液体から体内の体温に達した際のゲルへ相転移を受けることを可能にする。この相転移は、全接触面上の薄い被覆の沈殿を通じて活性化合物のフェニル酪酸塩の粘膜との接触時間を増大させるために役立つ。経口ゲル製剤は、その使いやすさ、粘膜の広い被覆、および患者の受容性/親しみやすさという点で選択されうる。
【0053】
例えば、経口ゲル1mlにつき、フェニル酪酸ナトリウム50mg、生体接着性物質として1.0%水溶性樹脂、保存剤としてメチルパラベン、甘味料としてサッカリンナトリウム、香料、および純水を含有する。この製品は、透明、無色、および香料を有するゲル状粘性溶液である。
【0054】
実施例2
HDAC阻害剤を用いる放射線誘発粘膜炎の治療および栄養失調および疲労の予防
放射線誘発粘膜炎の治療用の水溶性樹脂中に調製された5%フェニル酪酸塩を含有する経口ゲル(ASN−02)の効果を評価するために、スティーブ・ソニス(Steve Sonis)博士(ハーバード大学歯学部、ブリガム・アンド・ウィメンズ(Brigham and Women’s)病院(マサチューセッツ州、ボストン))によって開発されたハムスターの動物モデルを使用した。
【0055】
雄ゴールデンシリアン(Golden Syrian)ハムスター、5〜6週齢、体重約90gを試験開始時にペントバルビタールナトリウム(80mg/kg)の腹腔内注射で麻酔した。鉛遮蔽体を用いて左頬嚢を反転させ、固定し、単離した。標準化急性放射線プロトコールを用いて粘膜炎を誘導した。1回線量(40gy/線量)を0日目に全動物の左頬嚢粘膜に投与した。放射線は、300cGy/分の速度で100cmのSSDの6MeV電子ビームを供給するリニアアクセレータで発生させた。この放射線プロトコールにより、照射後14日〜18日目に「ピーク」口腔粘膜炎が誘発される。動物には1日〜28日目にASN−02または賦形剤50μlを適用毎に左(照射)頬嚢へ適用することによって1日3回局所投与した。6日目から28日目まで毎日、臨床的粘膜炎、体重、食欲、および活動を評価した。視覚スコアリングシステムによって粘膜炎を評価した。視覚スコアリング後、各動物の粘膜の写真を比較のために撮影した。
【0056】
臨床的粘膜炎スコアリングの説明:1−2のスコアは、粘膜炎の軽度の段階であるとみなされるが、3−5のスコアは中等度ないし重度の粘膜炎を示すとみなされる。
【表1】

【0057】
粘膜炎の視覚スコアリングのデータおよびピーク粘膜炎の発生を示す代表的な写真がそれぞれ、図1および図2A−2Fに示されている。粘膜炎の重症度はスコアとともに増大する。1−2のスコアは粘膜炎の軽度段階を示すと考えられるが、3−5のスコアは中等度ないし重度の粘膜炎を示すと考えられる。各値は、製剤治療または対照群当りの平均臨床的粘膜炎スコア±SEMである(ブランク対照群のN=9ハムスター、賦形剤群のN−9ハムスター、およびASN−02群のN=11ハムスター)。賦形剤およびブランク対照群は予想された臨床的粘膜炎スコア(すなわち、3ないし4のスコア)を予想されたピーク粘膜炎時間(すなわち、照射後14ないし18日)で示した。ASN−02群の11匹中5匹のスコアはピーク(18日)で2.0〜3.0であり、ASN−02群には全経過中にスコアが3.0を超える動物はいなかった。ブランク対照群の全動物(n=9)の粘膜炎スコアはピーク(18日)で3.0を超えたが、そのうち6匹のスコアは4.0以上であった。賦形剤群の全動物(n=9)の粘膜炎スコアはピークで3.0を超えたが、そのうち5匹のスコアは4.0以上であった。平均ピーク粘膜炎スコアは、ASN−02群の2.3に対して賦形剤およびブランク対照群の3.75であった。中等度および十度の粘膜炎の予防に加えて、ASN−02はピークでの軽度の粘膜炎を2日で正常の外観まで改善した。体重、活動、および食欲の喪失は各群の粘膜炎の重症度と相関した。総合すれば、ASN−02(フェニル酪酸塩)経口ゲルは、放射線誘発口腔粘膜炎の発生、重症度、および継続期間における賦形剤およびブランク対照に対して平均臨床的粘膜炎スコアを減少させ、疲労症候群および栄養失調の臨床的徴候を予防した。
【0058】
実施例3
HDAC阻害剤による放射線誘発以上炎症性サイトカインの長期抑制
放射線誘発粘膜炎の発生は、TNF−αなどの炎症性サイトカインの放射線誘発持続的アップレグレーションが原因とされている。主な炎症性サイトカイン、TNF−αのmRNAのレベルは、ターゲットTNF−α mRNAおよび内部対照GAPDHでハイブリダイズした32P標識アンチセンスRNAプローブセットの発生を可能にするテンプレートセットを含む、多重サイトカインRNase保護アッセイキット(リボクワント(Riboquant)、ファルミンゲン(Pharmingen)、カリフォルニア州(CA)、サンディエゴ)を用いて評価された。ターゲットRNAへの標識プローブのハイブリダイゼーション後、非保護RNAをリボヌクレアーゼ(RNase)によって消化し、保護RNA断片を6%ポリアクリルアミドゲル上に溶解し、蛍光イメージング(モレキュラーダイナミックス(Molecular Dynamics)社、カリフォルニア州(CA)、サニーベール)によって記録した。デンシトメトリーを用いて各mRNAの量を定量し、内部対照GAPDHに標準化した。照射粘膜(左頬)および非照射粘膜(右頬)を示されているように同時にアッセイのために除去した。
【0059】
放射線によって誘発されたTNF−αアップレグレーションのピーク出現のタイミングは、図3に示されているように全群における粘膜炎の発生と相関した。ASN−02(フェニル酪酸塩)群においては、TNF−αの最高の急増は照射後1日目に出現したが、レベルはその後の14日後に抑制された。抑制は12か月の時点で依然として持続した。ブランクおよび賦形剤対照群においては、照射粘膜におけるTNF−αのmRNAレベルが増大し、1年間にわたって非照射粘膜レベルを超えて変動し、照射後1日目に非照射粘膜レベルの2−3倍の最初のピークに達し、照射後約14−28日に10.5−16倍の第2のピーク、照射後9か月の時点で13−14倍の第3のピークに達したが、次いで、レベルは照射後12ヶ月までに正常レベルの2−3倍に低下した。
【0060】
この結果は、HDAC阻害剤がTNF−αの長期アップレグレーションを抑制し、放射線によって誘発される急性および慢性の副作用を減少させうることを示す。
【0061】
他の実施形態
上記の説明から、当業者であれば、本発明の実質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲を逸脱することなく、種々の用法および条件に適合するように本発明の種々の変更および修正をなしうる。例えば、上記のHDAC阻害剤に構造的および機能的に類似した化合物を用いて本発明を実施することもできる。したがって、他の実施形態の請求の範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、それを必要とする対象における悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、または栄養失調を含む急性および慢性GI障害の予防および治療のための医薬組成物および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】賦形剤およびブランク対照群が、照射後14日ないし18日における予想されたピーク粘膜炎時間で予想された臨床的に重度の放射線誘発粘膜炎スコアを示し、かつASN−02(フェニル酪酸塩)経口ゲルが、放射線誘発粘膜炎の発生、重症度、および継続時間における賦形剤およびブランク対照に対する平均臨床粘膜炎スコアを減少させることを示す図である。
【図2】照射後14日におけるブランクおよび賦形剤対照群とASN−02(フェニル酪酸塩)治療群との間のきわめて大きな差を示す全体図である。潰瘍性粘膜炎がブランクおよび賦形剤群で出現し、対照的に、頬粘膜はASN−02(フェニル酪酸塩)治療群において依然として無傷である。図2Aおよび2BはASN−02−治療群であり、図2Cおよび2Dはブランク対照群であり、図2Eおよび2Fは賦形剤対照群である。図2A、2C、および2Eは6日目であり、図2B、2D、および2Fは14日目である。
【図3】照射後の粘膜におけるTNF−αのmRNAレベルの一時的な変動を示し、内部対照GAPDHに標準化され、非標準化粘膜試料におけるレベルに対する比で表現されている図である。各点は、ブランク、賦形剤、またはASN−02(フェニル酪酸塩)の同じ群における5つの試料のmRNAレベルの平均を表す。TNF−αアップレグレーションのピーク出現のタイミングは、粘膜炎の発生と相関した。HDAC阻害剤は、ブランクおよび阻害剤対照と比較すると、TNF−αの長期の異常な発現を効果的に抑制した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪心、嘔吐、乳糖不耐性、閉塞症状、下痢、粘膜炎、出血、体重減少、または栄養失調を含む急性および慢性胃腸障害を治療および/または予防するための医薬組成物であって、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤または薬剤として許容されるその塩、および薬剤として許容される担体を含んで成る医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が、免疫不全であり、または化学療法および/または放射線療法の計画的治療単位を受ける対象の口腔、咽頭、食道、または胃腸組織に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記HDAC阻害剤が、ヒドロキサム酸誘導体、脂肪酸、環状テトラペプチド、ベンズアミド誘導体、または求電子ケトン誘導体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキサム酸誘導体が、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、ピロキサミド、M−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキシアミド(CBHA)、トリコスタチンA(TSA)、トリコスタチンC、サリチルヒドロキサム酸(SBHA)、アゼラインビスヒドロキサム酸(ABHA)、アゼライン−1−ヒドロキサマート−9−アニリド(AAHA)、6−(3−クロロフェニルウレイド)カルポヒドロキサム酸(3Cl−UCHA)、オキサムフラチン、A−161906、スクリプタイド、PXD−101、LAQ−824、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド(CHAP)、MW2796、およびMW2996より成る群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記環状テトラペプチドが、トラポキシンA、FR901228(FK228またはデプシペプチド)、FR225497、アピシジン、CHAP、HC−トキシン、WF27082、およびクラミドシンより成る群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が、酪酸ナトリウム、イソ吉草酸、吉草酸、4−フェニル酪酸(4−PBA)、4−フェニル酪酸ナトリウム(PBS)、酪酸アルギニン、プロピオン酸塩、ブチルアミド、イソブチルアミド、フェニル酢酸塩、3−ブロモプロピオン酸塩、トリブチリン、バルプロ酸、およびバルプロ酸塩より成る群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ベンズアミド誘導体が、CI−994、MS−27−275(MS−275)、およびMS−27−275の3’−アミノ誘導体より成る群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記求電子ケトンが、トリフルオロメチルケトンおよびα−ケトアミドより成る群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記HDAC阻害剤がデプデシンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記薬剤として許容される担体が、逆熱ゲル化性を有する生体適合性ポリマー、ポリマー樹脂、粘性ポリマーゲル、ヒドロゲル、および生体接着性物質より成る群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
第2のHDAC阻害剤、5−ヒドロキシトリプタミン3(5−HT)受容体拮抗薬、ドーパミン受容体拮抗薬、DOPA−5−HT受容体拮抗薬、ニューロキニン(NK)−1受容体拮抗薬、抗ヒスタミン剤、抗コリン作用薬、非ステロイド抗炎症薬、ステロイド、成長因子、サイトカイン、抗酸化剤、三環系抗うつ剤、鎮痛剤、カンナビノイド、ビタミン、および抗生物質より成る群から選択される第2の薬剤をさらに含んで成る、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記第2の薬剤が並行して投与される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記第2の薬剤が連続的に投与される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記第2の薬剤が第1のHDAC阻害剤の異なる経路で投与される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ドーパミン受容体拮抗薬が、フェノチアジン、またはブチロフェノンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記5−HT受容体拮抗薬が、ドラステロン、グラニセトロン、オンダンセトロン、パロノセトロン、およびトロピストロンより成る群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記DOPA−5HT受容体拮抗薬がメトクロプラミドである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記NK−1受容体拮抗薬は、ボホピタント、CP−122,721、CJ−11,794、L−758,298、およびアプレピタントより成る群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記抗生物質が、ガンシクロビル、アシクロビル、ファムシクロビル、およびテトラサイクリンより成る群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記成長因子が、ケラチノサイト成長因子(KGF)、または顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記抗酸化剤が、アミフォスチン、ベンジダミン、およびN−アセチルシステインより成る群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記ビタミンが、ニコチンアミド、ビタミンB複合体、ビタミンC、およびビタミンEより成る群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項23】
悪液質、癌関連性疲労または慢性疲労症候群を治療および/または予防するための医薬組成物であって、ヒストン脱アセチル化酵素または薬剤として許容されるその塩、および薬剤として許容される担体を含んで成る医薬組成物。
【請求項24】
前記医薬組成物が、免疫不全であり、または化学療法および/または放射線療法の計画的治療単位を受ける対象の口腔、咽頭、食道、または胃腸組織に投与される、請求項23に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−290863(P2006−290863A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218682(P2005−218682)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(505285180)安成製藥科技股▲ふん▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】