説明

胆道疾患を治療するためのポリヒドロキシル化胆汁酸

【課題】胆道疾患、例えば、胆汁うっ滞または門脈高血庄に起因する胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激するポリヒドロキシル化胆汁酸を提供する。
【解決手段】新規な化合物2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸および3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、その使用およびその合成を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁流量を刺激するポリヒドロキシル化胆汁酸およびその誘導体を提供する。さらに詳細には、本発明は、胆汁うっ滞または門脈高血圧の原因になる胆道疾患、またはそれを伴う胆道疾患を治療するか、または胆汁流量を刺激するポリヒドロキシル化胆汁酸およびその誘導体を提供する。
【背景技術】
【0002】
胆汁は、肝臓によって生成される複雑な分泌物である。胆汁は、胆嚢に貯蔵され、小腸に周期的に放出されて、消化を助ける。胆汁成分には、コレステロール、リン脂質、胆汁色素、および肝臓が胆汁/大便の排出によって排除する種々の毒素が含まれる。胆汁酸塩が合成され、肝毛細胆管側膜全体に活発に分泌され、胆汁の流れを引き起こす浸透力が発生する。これが胆汁形成のための律速段階である。胆汁流量は、脂溶性栄養素とビタミンの肝解毒、消化、コレステロール代謝、および吸収にとって重要である。
胆汁酸は、胆汁の分泌によって体内からコレステロールを排出する担体として、また、脂肪酸と脂溶性ビタミンの経口摂取のための界面活性剤として重要である(23)。胆汁酸は、また、肝細胞において、細胞アポトーシス/生存を調節するのに(37; 38; 39; 40; 41)、また、ファルネソイドX活性化受容体による遺伝子発現を調節するのに(42; 43; 44; 45; 46; 47)重要な役割を果たす。胆汁酸は、肝細胞においてコレステロールから合成され、グリシンまたはタウリンと結合した後に胆汁に分泌され、小腸において再吸収され、門脈によって肝細胞に再循環される。肝から胆汁へ胆汁酸の小管分泌は、胆汁酸の腸肝循環の鍵となるプロセスであり、その機能不全により異なる肝疾患が引き起こされる(23)。このプロセスが損なわれる場合には、胆汁酸の蓄積によって界面活性剤の影響のために肝障害がしばしば引き起こされる。ヒトにおいて、胆汁酸プールは24時間毎に6-10回循環し、約400ml中一日20-40gの胆汁酸塩が分泌されることになる(51 ; 49)。
選択された哺乳類の胆汁に見られた共通の胆汁酸には、以下のものが含まれる:
【0003】
【化1】

【0004】
胆汁酸塩搬出タンパク質(BSEP、ABCBl 1またはP-糖タンパク質シスター(SPGP))、胆汁小管ATP-結合カセット(ABC)タンパク質が胆汁酸の胆汁分泌のための主輸送システムとして確認された(50; 13)。ヒトにおけるBSEP突然変異は、胆汁酸塩分泌障害および重篤な肝疾患、進行性家族性肝内胆汁うっ滞2型(PFIC2)につながる(1、2)。PFIC2患者の胆汁酸分泌は、通常は正常の1%未満である(2)。BSEPは、胆汁うっ滞が生じる薬剤の標的であるとしても意味づけられた(3-6)。BSEP突然変異は、また、慢性肝内性胆汁うっ滞、良性再発性肝内性胆汁うっ滞2型(BRIC 2)(7、8)および妊娠の肝内性胆汁うっ滞を伴った(9、10)。マウスBsepは、以下の優先順位で胆汁酸を輸送する:タウロケノデオキシコール酸塩>タウロウルソデオキシコール酸塩 = タウロコレート>グリココール酸塩 = コール酸塩(11-16)。ラット肝形質膜小胞も同様の優先を示す(17)。胆汁酸の優先およびBSEPの活性は、ヒト、ラットおよびマウスの間で同様である。
bsepノックアウト(KO)マウスは、子の死亡率が増加し、成体の受精率が低下し、かつ胆汁流量が正常量のわずか1/4を胆汁うっ滞性疾患を起こす(18)。bsep KOマウスにおける残留胆汁流量は、PFIC2患者の流量より多く、そのbsep KOマウスにおける重篤でない表現型は、乳児期を生存することができかつ正常な寿命を有し得る(18)。bsep KOマウスの肝臓は、高レベルのP-糖タンパク質(Mdrla/lb)を発現し、その胆汁は、新しい種類の胆汁酸を含有し、マウスまたはヒト胆汁に通常は存在しないテトラヒドロキシル化胆汁酸(THBAs)が含まれる(16、18)。0.5%コール酸塩の食餌が与えられた場合、bsep KOマウスは、ひどい胆汁うっ滞性になるが、同時に胆汁に多量の胆汁酸塩を分泌する。この明らかに矛盾している結果を説明するために、‘レインバレル’モデルが提案され、肝細胞における封じ込めレベルの胆汁酸塩が胆汁酸のための輸送体の親和性(Km)および胆汁酸排出量の速度の双方に依存することが示された(19)。bsep KOマウスは、Kmが毒性レベルより低い肝内胆汁酸塩の蓄積を減少させるほど低くない輸送体によって高胆汁流速と胆汁酸排出量が仲介されるので、コール酸塩を豊富にした食餌について重篤な胆汁うっ滞を示す。レインバレルモデルによって、別の胆汁酸塩輸送体がBSEPより低いコール酸塩に対する親和性を有することが予測される。
【0005】
高レベルのP糖タンパク質を含有する、ハムスターB30細胞系由来の形質膜小胞(Mdrl、Abcbla)を調べた場合に、Bsepより約7倍高い、Kmが69μMのATP依存型タウロコール酸塩輸送(20)が観察され、P糖タンパク質が比較的低い親和性を有するタウロコール酸塩を輸送することが示された。bsepKOマウスにおける胆管胆汁酸塩組成物の分析は、ヒトおよびマウス双方においてP糖タンパク質がより疎水性でないムリコール酸塩およびTHBAをより疎水性の一次胆汁酸より支持することを示している(18、21)。このことにより、bsep KOマウスにおける胆汁うっ滞性表現型およびヒトにおけるPFIC2の異なっている重症度が説明され得る。bsep KOマウスにおいて、ほぼ正常な胆汁流量を維持する小管膜全体に、マウスP糖タンパク質が肝内ムリコール酸塩およびTHBAを輸送し、軽症表現型が生じる。ヒトは通常ムリコール酸またはTHBAを合成しないので、この選択は、ヒトMDRlに有用でなく、胆汁流量が正常の1%まで減少するPFIC2の重篤な胆汁うっ滞が引き起こされる(2)。
bsepノックアウトマウスにおけるMdrla/lb発現のアップレギュレート(16、20)、およびABCB/P糖タンパク質族ファミリーの既知の機能多重度によって、胆汁流量を仲介する際のMdrlの役割が示された。しかしながら、bsepノックアウトマウスが一生を通じて非常に軽症の胆汁うっ滞を示し、mdrld-/-mdrlb-/-mdrldダブルノックアウトマウスが健康であり、明らかな表現型がないが、Mdrl基質であることが既知である注入薬剤の胆汁中排泄に特異的欠損を有する(22)。
ある胆汁うっ滞状態、例えば、原発性胆汁性肝硬変は、通常はヒト胆汁に見られない低毒性胆汁酸、ウルソデオキシコール酸塩を補給することによって治療する。ウルソデオキシコール酸塩による食餌補給は、bsep KOマウスにおいて胆汁流量が多くならず、毒性でさえある場合があり、BSEPがウルソデオキシコール酸塩自然輸送の大部分に関与するので、ウルソデオキシコール酸塩がPFIC2患者または遺伝性か、妊娠を伴うか、または有害な薬剤または食餌にさらされることから生じるBSEP機能不全を起こしているだれをも助けることができないことが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一つには、胆道疾患、例えば、胆汁うっ滞または門脈高血庄に起因する胆道疾患を治療するか、または、例えば、正常な被検者または胆道疾患と診断されていない被検者において胆汁流量を刺激するためのポリヒドロキシル化胆汁酸を提供する。
一態様において、本発明は、それを必要としている被検者において胆道疾患を治療するかまたは被検者において胆汁流量を刺激するための方法であって、有効量の下記式Iの化合物またはその誘導体を投与することを含む、前記方法を提供する:
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであるが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
別の態様において、本発明は、下記式Iの化合物またはその誘導体を医薬的にまたは生理的にまたは栄養的に許容され得る担体と共に含む医薬組成物または栄養組成物を提供する:
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであるが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
別の態様において、本発明は、胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激するための薬剤を調製するための本発明の医薬組成物または栄養組成物の使用を提供する。
別の態様において、本発明は、下記式Iの化合物またはその誘導体を、胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激するのに用いるための説明書と共に含む製品を提供する:
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであるが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
別の実施態様において、化合物は、コール酸塩より高い親水性を有する。
別の実施態様において、化合物は、テトラヒドロキシル化胆汁酸、ペンタヒドロキシル化胆汁酸、またはその誘導体からなる群より選ばれる。
テトラヒドロキシル化胆汁酸は、3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、1,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、3,7,16,24-テトラヒドロキシコラン酸、または3,7,15,24-テトラヒドロキシコラン酸、またはこれらの誘導体であり得る。
3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸は、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6α,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6α,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、または3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、またはこれらの誘導体であり得る。
3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸は、3β,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24酸、3β,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3β,6α,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3β,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3β,6α,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3β,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、または3β,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、またはこれらの誘導体であり得る。
【0013】
2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸は、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはこれらの誘導体であり得る。
3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸は、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはこれらの誘導体であり得る。
別の実施態様において、例えば、化合物は、BSEPと比較した場合にMDRlに対して優先的な親和性を有する。例えば、化合物は、MDRlに対して高親和性を有する。
別の実施態様において、化合物は、共役化合物、例えば、タウリンまたはグリシン結合体、例えば、3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、3α,6β,7β,12β -テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシン結合体、3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体、または3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体であり得る。
別の実施態様において、方法は、少なくとも1つの他の治療剤または予防剤、例えば、BSEPに対して優先的親和性を有する薬剤、または少なくとも1つの他の栄養補給剤を投与することを含んでもよい。治療剤または予防剤または栄養補給剤は、ウルソデオキシコール酸またはその変形体または誘導体であり得る。
別の実施態様において、胆道疾患は、良性胆管狭窄、良性膵臓病嚢胞、憩室炎、肝線維症、肝障害、総胆管結石、膵炎、膵臓がんまたは偽嚢胞、乳頭部周囲がん、胆管癌、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性胆管炎、壁外性胆管圧迫(例えば、近接器官についての腫瘤または腫瘍による圧迫)、ウイルス性肝炎、敗血症、細菌性膿瘍、薬剤の使用、例えば、薬剤誘発性の特異体質性肝毒性、リンパ腫、結核、転移性がん、サルコイドーシス、アミロイドーシス、静脈栄養摂取、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変の有無による慢性肝炎、妊娠性肝臓内胆汁うっ滞、胆管結石症、胆道ジスキネジー、シェーグレン症候群、ウイルソン病、虚血、毒素、アルコール、急性肝不全、αl-アンチトリプシン欠損、PFIC2、良性反復性肝内胆汁うっ滞、肝細胞がん、門脈高血圧、静脈閉塞性疾患、または肝静脈血栓症であり得る。胆道疾患は、胆汁うっ滞から起こるかまたは潜在的に起こり得る。
別の実施態様において、被検者は、ヒトであり得る。
この発明の概要では、必ずしも本発明のすべての特徴を説明しているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、トリプルノックアウト(mdrl1-/-/mdr1a-/-/lb-/-)マウスの胆汁うっ滞表現型を示す写真である: a) TKOマウスの肝肥大を示している b)野生型マウスと比較した腹部の図; c)生後2ヶ月の雄のTKOマウスの肝臓における門脈周囲性線維化(マッソントリクローム染色)、4O×; d)毛細胆管腔拡張、微絨毛の喪失(矢印)、遺残胆管材料を示している肝細胞における超微細構造的変化。
【図2】図2は、0.5%コール酸(CA)を与えた後の“トリプルノックアウト”(bsep-/-/mdrla-/-/lb-/-)マウスの生存率(a)と体重変化(b)を示すグラフである。
【図3】図3は、“トリプルノックアウト(bsep-/-lmdrla-/-/mdrlb-/-)マウス”の生成を示す図である: a) TKOマウスを生成するための交雑スキーム。mdrla-/-/mdrlb-/-ダブルノックアウトおよびbsep-/-マウスを用いて、三異種ヘテロ接合bsep+/-/mdrla+/-/mdrlb+/-マウスを生成した(子孫の100%は、三ヘテロ接合体である)。三ヘテロ接合体を用いて、bsep+/-/mdrla-/-/mdrlb-/-マウスを得たマウスにおけるmdrlaおよびmdrlb遺伝子が密接に結合されるので子孫のほぼ1/8)、次に、これを用いて、TKOホモ接合体(bsep-/-/mdrla-/-/mdrlb-/-)を生成した。b) TKOマウスに対するPCRスクリーニング結果。レーン1、5および6はトリプルノックアウトマウスであり、突然変異対立遺伝子からのバンドのみ増幅した。
【図4】図4は、TKO(bsep-/-/mdrla-/-/Ib-/-)マウスおよび超微細構造肝異常を示さないmdrla-/-/lb-/-対照の肝細胞を示す図である。a)左側には、正中線を交差していない小レッジで片側に押されているクリステを有する可変サイズの異常ミトコンドリアを示している。これらのミトコンドリア基質は均一であり、顆粒は存在しない。右側のこの画像は、密度の高い物質(矢印)で充填された多くの肥大したゴルジ小胞を示す。b)超微細構造異常を示していないmdrla-/-/lb-/-マウスの肝臓。矢印は、正常な細管を示している。
【図5】図5は、以下を示す図である。a)半定量的リアルタイムPCRによって求めた野生型、bsep-/-およびTKOマウスにおけるいくつかの主要な肝発現遺伝子の相対mRNA発現。mRNAレベルをリボソームタンパク質S15対して基準化した。雌の野生型mRNAのレベルを1に設定した。すべての数字が雌の野生型mRNAの比率として表される、平均±標準偏差(n = 4)(16)。b) TKOマウスにおける交互にスプライスした主要なMdrl(Abcblb)転写物。この転写物は、エキソン4欠失を有し、最初の38アミノ酸の翻訳に続いて、フレームシフト、6つの新しいアミノ酸および中途終止コドンが得られる。c) TKOマウスにおける重要でないMdrl(Abcblb)転写物。この転写物は、38の最初のアミノ酸の翻訳に続いてフレームシフト、12の新しいアミノ酸および中途終止コドンが得られるエキソン4、5および6の遺伝子欠失を有する。
【図6】図6は、MDRlまたはBSEPのために免疫染色される共焦点顕微鏡画像を示す写真である。MDRl発現は、強い小管の分布を示す。左側パネルは、対照、黄疸または胆汁うっ滞がなかった有機酸血症をもつ小児からの肝生検である。右パネルは、PFIC2患者から肝生検試料からのものである。
【図7】図7A-図7Bは、その3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸が野生型マウスにおいて胆汁流量(BFR)を刺激することを示す。(A)3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6α、7αTHBA)の注入後のマウスにおける体重の関数としてのBFR。(B)コール酸(CA)(3α,7α,12α-トリヒドロキシ-5β-コラン-24-酸)の注入後のマウスにおける体重の関数としてのBFR。
【図8】図8A-図8Bは、非結合型3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6α,7αTHBA、体重の関数としての100μモル/kg)の注入前(A)後(B)の雄の野生型マウスの胆汁における胆汁酸のHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)プロファイルを示す図である。(C)は、コール酸(3α,7α,12α-トリヒドロキシ-5β-コラン-24-酸)の注入(100μモル/kg)前(上の追跡)、2-4分後(下の追跡)に野生型マウスから集めた胆汁画分のHPLCプロファイルを示す図である。胆汁試料は、胆管カニューレ挿入によって野生型マウスから集めた。同量の胆汁を装填した。
【図9】図9は、コール酸から3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸(6α,7αTHBA)の生成のための合成工程を示すスキームである。
【図10】図10は、タウリン結合3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の生成のための合成工程を示すスキームである。
【図11】図11は、図10に示される方法によって得られた、タウリン結合3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ5β-コラン酸(18)の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図12】図12 A-図12 Cは、野生型マウスにおけるTHBAによる胆汁流量(BFR)の誘発を示すグラフである。(A) 65(o、白丸)、250(*星型)、350(▲、黒三角)および400(■、黒四角)μモル/kg BWの3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6β,7αTHBA)の注入前後の体重(BW)の関数としてのBFR。(B)65(o、白丸)および200(■、黒四角)μモル/kg BWの3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6α,7αTHBA)の注入前後の体重の関数としてのBFR。(C) 65μモル/kg体重の6β,7αTHBA(■、黒四角)、6α,7αTHBA(▲、黒三角)およびウルソデオキシコール酸(UDC)(o、白丸)の注入前後の体重の関数としてのBFR。結果を3匹のマウスの平均±標準偏差として示す。65μモル/kg体重のUDCは、マウスにおける最大耐量(MTD)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、一つには、胆道疾患をもつ被検者において胆汁分泌を促進または改善させるための胆汁酸塩治療の薬剤としてポリヒドロキシル化胆汁酸を提供する。本発明の化合物は、肝機能を改善しかつ/または胆道疾患を改善させるために、既存の化合物、例えば、ウルソデオキシコール酸塩またはその変形体または誘導体と組み合わせて使用し得る。本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸は、被検者、例えば、肝移植待機中の子供に投与される場合の胆汁分泌促進薬(胆汁流量刺激特性を有する)である。別の実施態様において、本発明は、被検者、例えば、胆道疾患をもつと診断されていない被検者において胆汁流量を刺激するためのポリヒドロキシル化胆汁酸を提供する。“胆汁流量を刺激する”とは、標準(例えば、生物体における胆汁酸の標準レベル)に対して、または本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸の投与前に被検者において測定された胆汁レベルに対して被検者における胆汁流量の増加を意味する。増加は、5%と95%の間、または10%と90%の間、30%と60%の間の整数値の変化であってもよく、100%を超えてもよい。本明細書に用いられる被検者は、ヒトの、ヒト以外の霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコであり得る。被検者は、臨床患者、臨床試験志願者、実験動物等であり得る。被検者は、胆道疾患をもつことまたはそれをもつリスクが疑われるか、胆道疾患と診断されるか、または胆道疾患をもたないことを確認する被検者であり得る。胆道疾患の診断法および胆汁流量の測定法、ならびに胆道疾患診断の臨床的記述は、当業者に既知である。
【0016】
胆道疾患
胆道疾患には、ポリヒドロキシル化胆汁酸の投与によって改善、治療または予防され得るいかなる疾患または状態も含まれる。典型的な胆道疾患には、胆汁不足、胆汁毒性、消化不良、肝機能障害、胆汁うっ滞、門脈高血圧が含まれ得るがこれらに限定されない。
胆汁うっ滞とは、肝からの胆汁の流れが減少または遮断されるかまたは胆汁流量の不足がある状態を意味する。胆汁流量不足は、肝胆系のとこでも起こり得る。一般に、胆汁うっ滞は、肝細胞の外側で起こる肝外胆汁うっ滞であり得るかまたは肝細胞の内側で起こる肝内胆汁うっ滞であり得る。
肝外胆汁うっ滞は、良性胆管狭窄、良性膵臓病嚢胞、憩室炎、肝障害、総胆管結石、膵炎、膵臓がんまたは偽嚢胞、乳頭部周囲がん、胆管癌、原発性硬化性胆管炎、壁外性胆管圧迫、例えば、近接器官についての腫瘤または腫瘍による圧迫に起因し得る。
肝内性胆汁うっ滞は、B型およびC型肝炎を含むがこれに限定されないウイルス性肝炎、敗血症、細菌性膿瘍、薬剤、例えば、薬剤誘発性の特異体質性肝毒性、リンパ腫、結核、転移性がん、サルコイドーシス、アミロイドーシス、静脈栄養摂取、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、妊娠、シェーグレン症候群等によって起こり得る。薬剤誘発性胆汁うっ滞は、投薬によって起こる肝からの胆汁流の遮断であり、以下によって起こり得る: 金塩、ニトロフラントイン、アナボリックステロイド、経口避妊薬、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、スリンダク、シメチジン、エリスロマイシン、トブタミド、イミプラミン、アンピシリン、他のペニシリンベースの抗生物質等。薬剤誘発性胆汁うっ滞および肝毒性は、クリニックにおける薬剤治療に対する共通の障害であり、薬剤開発に、また、承認医薬品の新規な用途に大きな課題を提起する。薬剤誘発性胆汁うっ滞は、また、黄疸の入院患者の2-5%、急性肝炎の全例の〜10%、および急性肝不全の50%を超えるとみなしている。
【0017】
胆汁うっ滞は、また、遺伝性胆汁うっ滞性肝疾患、ある薬剤のBSEP阻害活性から起こる薬剤誘発性胆汁うっ滞、および肝機能にを影響する薬剤および炎症状態によってもたらされる急性肝毒性反応に起因し得る。
門脈高血圧とは、腸から肝臓に血液を送る静脈である門脈の圧力増加として現れる障害を意味する。門脈圧の増加は、炎症、線維症、脾動静脈瘻、脾臓または門脈の血栓症、巨脾、サルコイドーシス、住血吸虫症、結節性再生性過形成、原発性胆汁性肝硬変、肝炎、自己免疫疾患等を含む種々の原因による場合がある。
本発明の胆道疾患は、胆汁うっ滞、門脈高血圧、または本明細書に記載されるポリヒドロキシル化胆汁酸の投与によって恩恵を受けるいかなる障害からも起こるか、または潜在的に起こるいかなる障害でもある。胆道疾患としては、良性胆管狭窄、良性膵臓病嚢胞、憩室炎、肝繊維症、肝障害、総胆管結石、膵炎、膵臓がんまたは偽嚢胞、乳頭部周囲がん、胆管癌、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性胆管炎、壁外性胆管圧迫(例えば、近接器官についての腫瘤または腫瘍による圧迫)、ウイルス性肝炎(例えば、肝炎A、B、C、D、E、単純ヘルペス、サイトメガロウィルス、エプスタイン・バー、アデノウィルス)、敗血症、細菌性膿瘍、薬剤の使用、例えば、薬剤誘発性の特異体質性肝毒性、リンパ腫、結核、転移性がん、サルコイドーシス、アミロイドーシス、静脈栄養摂取、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変の有無による慢性肝炎、妊娠性肝臓内胆汁うっ滞、胆管結石症、胆道ジスキネジー、シェーグレン症候群、ウイルソン病、虚血、毒素、アルコール、急性肝不全、αl-アンチトリプシン欠損、PFIC2、良性反復性肝内胆汁うっ滞(BRIC)、肝細胞がん(HCC)、門脈高血圧、静脈閉塞性疾患、肝静脈血栓症等が挙げられるがこれらに限定されない。胆道疾患は、胆汁うっ滞から起こるかまたは潜在的に起こり得る。
【0018】
ポリヒドロキシル化胆汁酸およびその誘導体
胆汁酸は、コレステロールに由来する両親媒性化合物であり、ステロイドのサブクラスである。胆汁酸および胆汁アルコールは、構造がコランまたはコレスタンに関連があるステロイドである; したがって、胆汁酸および胆汁アルコールは、胆汁コラノイドと呼ばれることがある(51)。用語“胆汁酸”は、カルボキシル基を有するコラノイドの総称であり、電離状態を示していない。
用語“胆汁酸塩”は、アニオンが抱合胆汁酸、非抱合胆汁酸、または胆汁アルコールの結合体である塩に用いることができ、または水溶性アニオンとして事実上存在する抱合胆汁酸と胆汁アルコール結合体双方を含む総称として用いることができる(51)。例えば、胆汁酸塩は、ナトリウム塩としてグリシンまたはタウリンと結合した胆汁酸であり得る。
本明細書で用いられる胆汁酸骨格の炭素原子の番号体系は、以下の通りである。
【0019】
【化5】

【0020】
C24胆汁酸は、コラン酸またはコラン酸塩と呼ばれ、C27胆汁酸は、コレスタン酸またはコレスタン酸塩と呼ばれる。一般に、側鎖の配置は、5β水素を有する、17βである(シス配置でのA/B環結合)。“アロ”胆汁酸は、5α水素を有する胆汁酸である(51)。
胆汁酸は、ポリヒドロキシル化され得る。本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物としては、テトラヒドロキシル化胆汁酸、ペンタヒドロキシル化胆汁酸、ヘキサヒドロキシル化胆汁酸等、可能な最大レベルのヒドロキシル化まで挙げられるが。これらに限定されない。
ある実施態様において、ポリヒドロキシル化胆汁酸は、下記式Iで表される化合物またはその誘導体であり得る:
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであるが、R1〜R9の少なくとも4つは、-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
ある実施態様において、R1〜R9のいずれか1つは、-H、-OH、-F、-Cl、-Br、アルキル(例えば、-CH3、-CH2-CH3)、-SO4、またはグルコースであり得るが、R1〜R9の少なくとも4つは、-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る。
いくつかの実施態様において、本発明の胆汁酸は、少なくともテトラヒドロキシル化される。すなわち、4つまたは4つを超える水酸基を有する。ある実施態様において、水酸基は、ステロイド核に存在する。ある実施態様において、水酸基は、また、アルキル側鎖に存在し得る。
本発明のテトラヒドロキシル化胆汁酸としては、3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸; 3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸; 1,2,7,12-テトラヒドロキシコラン酸; 1,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸; 2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸; 3,7,16,24-テトラヒドロキシコラン酸;または3,7,15,24-テトラヒドロキシコラン酸、またはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸としては、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸; 3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸; 3α,6α,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸; 3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸; 3α,6α,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸; 3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、または3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、またはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸としては、3α,4β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の1,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸としては、lβ,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸またはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸としては、2β,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸またはこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の3,7,16,24-テトラヒドロキシコラン酸としては、3α,7α,16α,24-テトラヒドロキシ-5β-コランまたはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の3,7,15,24-テトラヒドロキシコラン酸としては、3α,7β,15α,24-テトラヒドロキシ-5β-コランまたはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
別の実施実施態様において、本発明の化合物ポリヒドロキシル化胆汁酸としては、3α,7α,12α,24-テトラヒドロキシ-5β-コレスタン-26-酸; 3α,7α,12α,24-テトラヒドロキシ-5β-コレスタ-25-エン; 3α,7α,24,26-テトラヒドロキシ-5β-コレスタン; または3α,7α,12α,24,26-ペンタヒドロキシ-5β-コレスタンまたはこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
別の実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、特に、β-ムリコール酸塩およびトリヒドロキシ胆汁酸を除外する。別の実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、例えば、ステロイド環に沿った極性[OH-]および無極性(H+)残基の分布および配置によって、または逆相HPLCの保持時間によって測定されるように、コール酸塩(23、24)より親水性である(60)。いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、タウロコール酸塩(1.0値を割り当てられている; 例えば、Asamoto et al. (21)を参照のこと)に対して0.45、0.40、0.35、0.30、0.25、0.20、0.15、0.10、または0.05未満の疎水性を有する。
【0024】
いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、BSEPと比較した場合、MDRlに対して優先的親和性を有する。いくつかの実施態様において、本発明の本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、MDRlに対して高親和性、例えば、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM以上より小さいKmを有する。
用語“抱合胆汁酸”は、分子に追加の親水性または電荷を与える基に結合される胆汁酸を示すために用い得る。別の実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物には、タウリンおよび/またはグリシン結合体が含まれる。別の実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物には、他の適切なアミノ酸との結合体が含まれる。別の実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物としては、硫酸塩、リン酸塩、コエンザイムA、グルクロン酸塩、グルコース、キシロース、および他の糖類、N-アセチルグルコサミン等との結合体が挙げられる。例えば、本発明の結合ポリヒドロキシル化化合物としては、3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体、3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体、エタンスルホン酸、2-[(3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル)アミノ]、例えば、エタンスルホン酸、2-[[(3α,5β,6α,7α,12α)-3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]アミノ]、Glycine、N-(3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル)、例えば、グリシン、N-[(3α,5β,6β,7β,12α)-3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]、グリシン、N-[(3α,5β,6β,7α,12α)-3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]、グリシン、N-[(3α,5β,6α,7β,12α)-3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]、グリシン、N-[(3α,5β,6α,7α、12α)-3,6,7,12-テトラヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物には、異性体、例えば、立体異性体が含まれる。例えば、立体異性体配置およびその組み合わせである、3βおよび5αヒドロキシテトラヒドロキシコラン酸が含まれる。
本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物には、本明細書に記載される化合物の生理的にまたは医薬的に許容され得る誘導体、例えば、塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、溶媒和物、水和物およびプロドラッグが含まれる。医薬的に許容され得る塩としては、アミン塩、例えば、これらに限定されないが、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、アンモニア、ジエタノールアミンおよび他のヒドロキシアルキルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、l-パラ-クロロベンジル-2-ピロリジン-1'-イルメチルベンズイミダゾール、ジエチルアミンおよび他のアルキルアミン、ピペラジンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン; アルカリ金属塩、例えば、これらに限定されないが、リチウム、カリウムおよびナトリウム; アルカリ土類金属は、例えば、これらに限定されないが、バリウム、カルシウムおよびマグネシウム; 遷移金属、例えば、これらに限定されないが、亜鉛、アルミニウム、および他の金属塩、例えば、これらに限定されないが、リン酸ナトリウム水素およびリン酸二ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されず; 更に、鉱酸の塩、例えば、これらに限定されないが、塩酸塩および硫酸塩; および有機酸の塩、例えば、これらに限定されないが、酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、酪酸塩、吉草酸塩およびフマル酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の化合物およびその塩ならびに本発明に用いるための化合物およびその塩は、一般的には、実質的に精製された形で提供される。化合物または塩(天然に存在する場合)は、それが当然それを伴っている成分(例えば、供給源生物体の細胞または組織)から分離される場合、“実質的に純粋”であるかまたは“単離”される。実質的に細胞汚染物質を含まない場合に、すなわち、生体外でおよび供給源生物体、組織、または他の天然供給源における化合物より大きい濃度で存在する化合物は、実質的に純粋であり得るかまたは分離され得る。典型的には、試料中の全材料の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、または60%、より一般的には70%、75%、80%、または85%、または90%、95%、または99質量%を超える化合物は、実質的に純粋であるかまたは単離される。従つて、例えば、化学的に合成される化合物は、一般的には、天然に関連する成分を実質的に含まない。実質的に純粋な化合物は、例えば、天然源から抽出によってまたは化学合成によって得ることができる。実質的に純粋な化合物は、立体異性体または差別的にヒドロキシル化された混合物を含めることができる。純度は、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーまたは質量分析のような適切な方法を用いて測定され得る。
本発明の別の実施態様において、テトラヒドロキシル化胆汁酸のラセミ混合物を含む組成物が提供される。ラセミ混合物は、テトラヒドロキシル化胆汁酸の化学合成の結果として製造ことができる; あるいは、2つ以上の立体化学的に純粋なエナンチオマーを併用することができる。他の実施態様において、組成物は、2つ以上のテトラヒドロキシル化胆汁酸を含むことができる。
【0027】
テトラヒドロキシル化胆汁酸の調製
本発明の化合物、または本発明にしたがって用いるための化合物、またはその医薬的に許容され得る塩または誘導体は、本明細書に例示されるかまたは当該技術において既知の一般の手順を使う合成によって得ることができる。本発明にに従って用いることができるいくつかの化合物は、天然源から得ることができる。例えば、ポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、一部または全部、天然源から、例えば、生物学的抽出物を分別することによって(例えば、bsep KOマウスから)調製することができる。胆汁酸は、例えば、50-100匹bsep KOマウスから約10-20mlの胆汁を集めるために胆管カニューレ挿入を用いることにより、bsep KOマウスから得ることができる。HPLCを用いて、約10-20μモル(5-10mg)のテトラヒドロキシル化胆汁酸を単離することができる。いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、全合成によって調製することができる。その合成化合物は、必要により、分析または薬剤開発のために標識されてもよくまたは誘導体化されてもよい。
化合物は、Tohma et al., 1985 (52); Iida et al, 1991a (53); Iida et al., 1991b (54); Aggarwal et al., 1992 (55); Iida et al., 1993 (56); Kurosawa et al, 1995 (57); Kurosawa et al., 1996 (58); Iida et al, 2002 (59); Tserng KY and Klein PD (1977), Leppik RA (1983), or Iida T. et al. (1990)等に記載されている標準技術を用いて合成することができ、これらの文献のすべてが特に引用により組み込まれる。例えば、テトラヒドロキシ胆汁酸は、Tohma et al., 1985 (52); Iida et al., 1991b (54); Aggarwal et al., 1992 (55); Iida et al., 1993 (56); Kurosawa et al., 1996 (58); Iida et al, 2002 (59)に示されるように調製することができる; ペンタヒドロキシ胆汁酸は、Kurosawa et al., 1996 (58)に示されるように調製することができる。
【0028】
医薬組成物または栄養補助組成物、用量、およびポリヒドロキシル化胆汁酸の投与
本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸化合物は、単独でまたは他の化合物(例えば、核酸分子、小分子、ペプチド、またはペプチド類縁体)と組み合わせて、リポソーム、補助剤または医薬的にまたは生理的に許容され得る担体の存在下に、ヒトまたは動物への投与に適している形で供給することができる。所望される場合には、本発明の化合物による治療は、胆道疾患または肝毒性を引き起こすかまたは潜在的に引き起こす疾患のためのより従来のおよび既存の治療と、または胆汁流量を刺激する既存の栄養補助剤と組み合わせてもよい。いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸は、胆汁流量を刺激するために胆道疾患と診断されていない被検者(例えば、正常な被検者)に投与される。いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸は、BSEPが阻害されかつ胆汁うっ滞のための承認治療薬、ウルソデオキシコール酸の効果がない状態下で投与される。いくつかの実施態様において、本発明のポリヒドロキシル化胆汁酸は、ウルソデオキシコール酸塩またはその変形体または誘導体(例えば、硫酸化のウルソデオキシコール酸塩、ニトロデオキシコール酸塩、タウロデオキシコール酸塩等)、リファンピシン、または胆汁うっ滞または門脈高血圧を治療するのにまたは胆汁流量を刺激するのに有効な化合物と共に投与される。
従来の医薬製剤または栄養補助製剤実施は、胆汁うっ滞を起こしているかまたは前駆症状の患者にまたは胆汁流量を刺激する正常な被検者に化合物を投与するのに適切な製剤または組成物を提供するために使うことができる。適切な投与経路は、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼、心室内、嚢内、脊椎内、大槽内、腹腔内、鼻腔内、エアゾール、経口投与を使うことができる。治療製剤は、溶液または懸濁液の形であり得る; 経口投与については、製剤は、錠剤またはカプセル剤の形; 鼻腔内製剤については、粉末、点鼻剤、またはエアゾール剤の形であり得る。
【0029】
製剤をするための当該技術において周知の方法は、例えば、“Remington's Pharmaceutical Sciences”(19th edition), ed. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, イーストン、ペンシルバニア州に見られる。非経口投与のための製剤は、例えば、賦形剤、滅菌水、または生理食塩液、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物由来の油、または水素化ナフタレンを含有し得る。生体適合性、生物分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーは、化合物の放出を制御するために用いることができる。モジュレーター化合物に潜在的に有効な他の非経口送達手段には、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、植込み型注入システム、およびリポソームが含まれる。吸入用製剤は、賦形剤、例えば、ラクトースを含有してもよく、または、例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココール酸塩、デオキシコール酸塩を含有する水溶液でもよく、または点鼻剤の形で、またはゲルとしての投与する油性溶液でもよい。
治療組成物または予防組成物に対して、化合物は、胆汁うっ滞を停止または遅延させるかまたは胆汁流量を維持または増加させるかまたは門脈高血圧を改善させるのに充分な量で被検者に投与される。栄養補助剤に対して、化合物は、胆汁流量を刺激するのに充分な量で被検者に投与される。
本明細書に述べられるように、著しいMDRl発現アップレギュレーションがPFIC患者の肝臓に見られ、MDRlがPFIC2のような胆汁うっ滞性疾患や本明細書において示される他の胆道疾患のための薬剤治療において標的にされ得ることが示された。BSEPおよびMDRlは、ヒト集団において著しい多型の遺伝子座であり、いくつかのBSEP変異株が肝疾患に対する感受性と関連している。例えば、BSEPにおけるV444A多型は、人口の約半分に存在し、〜60%の高リスクの妊娠性肝臓内胆汁うっ滞と関連している。高MDRl発現に現れる胆道疾患の他の形もまた、本発明の化合物を用いて治療され得る。本発明の化合物は、また、遺伝性胆汁うっ滞性肝疾患、BSEP阻害活性から生じる薬剤誘発性胆汁うっ滞、または他の胆道疾患を起こしている患者に治療効果を与えることができ、胆道機能に影響する薬剤および炎症状態によって引き起こされる急性肝毒性反応の改善を助けることができる。
【0030】
本発明の化合物の“有効量”には、治療的に有効な量または予防的に有効な量または栄養的に有効な量が含まれる。“治療的に有効な量”とは、必要な用量と時間で、血清肝生化学指標、例えば、ビリルビンのレベル、ALP(アルカリホスファターゼ)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、γ-GT(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)等の標準化によって示される、所望の治療結果、例えば、胆汁流量の増加、黄疸の軽減、または肝機能の改善を達成するのに有効な量を意味する。化合物の治療的に有効な量は、疾患状態、年齢、性別、個体の体重、個体において所望の応答を誘発する化合物の能力のような要因に従って変化することができる。投与計画は、最適治療応答を得るように調節され得る。治療的に有効な量は、また、化合物の毒性または有害な作用が治療的に有益な効果によって無効にされる量である。“予防的に有効な量”とは、必要な用量と時間で、所望の予防結果、例えば、血清肝生化学指標によって示される胆汁流量の増加または肝機能の改善、血清肝生化学指標、例えば、ビリルビンのレベル、ALP(アルカリホスファターゼ)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、γ-GT(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)等の標準化によって示される胆汁流量の増加、黄疸の軽減、または肝機能の改善を達成するのに有効な量を意味する。典型的には、予防的用量は病気の前にまたは初期の段階で被検者に用いられるので、予防的に有効な量は、治療的に有効な量より少なくてもよい。治療的にまたは予防的に有効な量の化合物の例示的な範囲は、5-50mg/日/kg被検者、例えば、ヒトの体重であり得る。“栄養的に有効な量”とは、必要な用量と時間で、所望の結果、例えば、肝生化学指標によって示される胆汁流量の増加または肝機能の改善を達成するのに効果的な量を意味する。
用量値が改善される状態の重症度によって変動し得ることは留意すべきである。具体的な被検者について、個々の投与計画は、個体の要求および組成物の投与を管理するかまたは監督している人の専門の判断に従って経時調整され得る。本明細書に示される用量範囲は、単に例示的であり、開業医によって選ぶことができる用量範囲を制限しない。組成物中の活性化合物の量は、疾患状態、年齢、性別、および個体の体量のような要因に従って変動し得る。投与計画は、最適治療応答を与えるように調整され得る。例えば、単一のボーラスが投与され得るか、いくつかの分割量が経時投与され得るか、治療状況の緊急性によって必要とされるように投与量が比例して減少あるいは増加され得る。非経口組成物を投与の容易さおよび用量の均一性のために単位剤形で配合することは有利であり得る。
ワクチン製剤の場合には、免疫原性的に有効な量の本発明の化合物を単独でまたは他の化合物と組み合わせて、アジュバント、例えば、フロインド不完全アジュバントまたは水酸化アルミニウムと与えることができる。化合物を、担体分子、例えば、免疫原性を高めるウシ血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニンと結合させてもよい。
【0031】
栄養補助剤に対しては、以下に示されるものを含む少なくとも1つの添加剤が、本発明の栄養補助剤と摂取するために含まれてもよく、例えば、抗酸化性、分散特性、抗微生物性、または可溶化特性を有することになる。適切な抗酸化剤は、例えば、ビタミンC、ビタミンEまたはローズマリーエキスである。適切な分散剤は、例えば、レシチン、アルキルポリグリコシド、ポリソルベート80またはラウリル硫酸ナトリウムである。適切な抗菌剤は、例えば、亜硫酸ナトリウムまたは安息香酸ナトリウムである。適切な可溶化剤は、例えば、ヒマワリ油、ヤシ油等の植物油、またはモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセライドである。添加剤には、ビタミン、例えば、ビタミンA( レチノール、レチニルパルミテートまたはレチノールアセテート)、ビタミンBl(チアミン、チアミン塩酸塩またはチアミン硝酸塩)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン、ニコチン酸またはナイアシンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸、パントテン酸カルシウム、d-パンテノールまたはd-パントテン酸カルシウム)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンまたはピリドキシン塩酸塩)、ビタミンBl2(コバラミンまたはシアノコバラミン)、葉酸、葉酸塩、ホラシン、ビタミンH(ビオチン)、ビタミンC(アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウムまたはアスコルビルパルミテート)、ビタミンD(コレカルシフェロール、カルシフェロールまたはエルゴカルシフェロール)、ビタミンE(d-α-トコフェロール、d-β-トコフェロール、d-γ-トコフェロール、d-δ-トコフェロールまたはd-α-トコフェリルアセテート)およびビタミンK(フィロキノンまたはフィトナジオン)が含まれる。
【0032】
他の添加剤には、ミネラル、例えばホウ素(四ホウ酸ナトリウム十水和物)、カルシウム(炭酸カルシウム、カゼインカルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウムまたは第三リン酸カルシウム)、クロム(酵母由来のGTFクロム、酢酸クロム、塩化クロム、塩化クロムおよびピコリン酸クロム)、銅(グルコン酸銅または硫酸銅)、フッ素(フッ化物およびフッ化カルシウム)、ヨウ素(ヨウ化カリウム)、鉄(フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄または硫酸第一鉄)、マグネシウム(炭酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウム)、マンガン(グルコン酸マンガンおよび硫酸マンガン)、モリブデン(モリブデン酸ナトリウム)、リン(第二リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム)、カリウム(アスパラギン酸カリウム、クエン酸カリウム、塩化カリウムまたはグルコン酸カリウム)、セレン(亜セレン酸ナトリウムまたは酵母由来のセレン)、ケイ素(メタケイ酸ナトリウム)、ナトリウム(塩化ナトリウム)、ストロンチウム、バナジウム(硫酸バナジウム)および亜鉛(酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛または硫酸亜鉛)が含まれる。他の添加剤には、アミノ酸、ペプチドおよび関連した分子、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、カルニチン、シトルリン、システイン、シスチン、ジメチルグリシン、γ-アミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、グルタチオン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、オルニチン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、タウリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが含まれる。他の添加剤には、動物性エキス、例えば、タラ肝油、海洋脂質、サメ軟骨、牡蠣、ビーポーレンおよびd-グルコサミン硫酸塩が含まれる。
【0033】
他の添加剤には、不飽和遊離脂肪酸、例えば、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸が含まれ、これらはエステル(例えば、エチルエステルまたはトリグリセリド)の形であってもよい。他の添加剤には、ハーブおよび植物エキス、例えば、ケルプ、ペクチン、スピルリナ、繊維、レシチン、小麦胚芽油、ベニバナ種子油、アマの種、マツヨイグサ、ルリチシャ油、ブラックカレンド、カボチャ種子油、ブドウエキス、ブドウ種子エキス、皮抽出物、松樹皮抽出物、フランス海岸松樹皮エキス、ムイラプアマエキス、フェンネルシードエキス、ドンクワイエキス、チェストツリーベリー、アルファルファ、ソーパルメット ベリーエキス、緑茶エキス、アンジェリカ、キャトニップ、カイエン、コンフリー、ガーリック、ジンジャー、チョウセンニンジン、ゴールデンシール、ジュニパーベリー、カンゾウ、オリーブ油、パセリ、ペパーミント、ローズマリーエキス、バレリアン、ホワイトウィロー、イエロードックおよびヤーバマテが含まれる。他の添加剤には、エンザイム、例えば、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、パパインだけでなく、その他の物質、例えば、メナキノン、コリン(重酒石酸コリン)、イノシトール、カロチノイド(β-カロテン、α-カロテン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチンまたはルテイン)、p-アミノ安息香酸、ベタインHCl、遊離ω-3脂肪酸またはこれらのエステル、チオクト酸(α-リポ酸)、1,2-ジチオラン-3-ペンタン酸、1,2-ジチオラン-3-吉草酸、アルキルポリグリコシド、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、フラバノイド、フラバノン、フラボン、フラボノール、イソフラボン、プロアントシアニジン、オリゴマープロアントシアニジン、ビタミンAアルデヒド、ビタミンA2の成分の混合物、混合物として処理し得るビタミンD(D1、D2、D3、D4)、アスコルビルパルミテート、ビタミンK2が含まれる。本発明の栄養補助剤は、典型的には、粘性油であり、食品を加工する間に食品組成物に添加することができる。その食品組成物は、機能性食品としばしば呼ばれ、栄養補助剤の生理化学的性質を許容する食品、例えば、マーガリン、料理用油、ショートニングまたはマヨネーズであり得る。それは、ソフトジェル、カプセル、錠剤または液体の形で摂取するために包装され得る。それは、食用多糖類ガム、例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアー、トラガカント、セルロース、カルボキシメチルセルロース中に供給され得る。
【0034】
一般に、本発明の化合物は、毒性をほとんど引き起こさずに用いなければならない。本発明の化合物の毒性は、標準的な方法を用いて、例えば、細胞培養または実験動物において試験し、治療指数、すなわち、LD50(集団の50%までの致死量)とLDlOO(集団の100%までの致死量)間の比率を求めることによって、決定することができる。本発明の化合物の毒性を求めるために用いることができる他の方法としては、H&E染色、トリクローム染色等による組織学的異常; 胆汁流量の変化、および/または他の胆汁物質のクリアランス(例えば、胆管カニューレ挿入によって求められる); HPLC分析、酵素分析等; 肝臓指標プロファイル、例えば、ビリルビンレベル、ALP(アルカリホスファターゼ)レベル、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)レベル、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)レベル、γ-GT(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)レベル等が挙げられるが、これらに限定されない。最大耐性量(MTD)は、被検者研究において時間が経つにつれて顕性毒性を引き起こさない(例えば、許容し得ない副作用を引き起こさない)化合物または組成物の定期的に投与された最大量である。被検者は、例えば、ヒト、または動物、例えば、マウスまたはラットであり得る。定期的に投与された用量は、単一ボーラスとして投与される一日量でもよい; あるいは被検者が経時合計一日量を投与されるように一日量が2回以上の部分投与量に分割されてもよい。研究の期間は、数日から数ヶ月、例えば、10、20、30、60、90または120日間、またはその間の量に変えてもよい。顕性毒性の例としては、明らかな細胞死または臓器不全のかなりの死因、被検者の寿命を物質的に短くすることが予測される毒性症状、または体重増加の10%以上の遅れが挙げられるが、これらに限定されない。
しかしながら、ある状況においては、例えば、重篤疾患状態においては、かなりの過剰量の組成物を投与することが必要であり得る。いくつかの実施態様において、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸または3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸が、他の胆汁酸、例えばウルソデオキシコール酸より低い毒性であり得る。栄養補助剤として用いられる場合、適切な用量はほとんど毒性を生じない。
【0035】
製品
包装材料、包装材料の中に、胆汁流量を刺激するのにまたはMDRlの活性をモジュレートするのに、または胆汁うっ滞またはMDRlが関係している胆道疾患の1つ以上の症状の治療、予防または改善に効果的である、本明細書に提供される、ポリヒドロキシル化胆汁酸化合物または組成物、またはその医薬的にまたは生理的に許容され得る誘導体、および化合物または組成物、またはその医薬的に許容され得る誘導体が、胆汁流量を刺激するのにまたはMDRlの活性をモジュレートするのに、または胆汁うっ滞またはMDRlが関係している胆道疾患の1つ以上の症状の治療、予防または改善に用いられることを示すラベルを含有する製品が提供される。
【0036】
キット
胆汁流量を刺激するのにまたはMDRlの活性をモジュレートするのに、または胆汁うっ滞またはMDRlが関係している胆道疾患の1つ以上の症状の治療、予防または改善に効果的である、本明細書に提供される、ポリヒドロキシル化胆汁酸化合物、またはポリヒドロキシル化胆汁酸化合物、またはその医薬的または生理的に許容され得る誘導体を含む組成物を、化合物または組成物の使用説明書とともに含むキットが提供される。キットは、被検者の胆道疾患を治療するのに有効である場合があり、説明書には、例えば、投与濃度、投与間隔、好適な投与法等が含まれ得る。
他の態様において、キットは、薬剤の調製に有効である場合があり、説明書は、薬剤の調製のための指示を含むことになる。キットは、さらに、胆汁うっ滞またはMDRlが関係している胆道疾患の1つ以上の症状の治療、予防または改善のための治療において薬剤の使用説明書を含むことができ、例えば、投与濃度、投与間隔、好適な投与法等を含む。
他の実施態様において、キットは、医薬組成物または栄養組成物の調製に有効である場合があり、説明書は、医薬組成物または栄養組成物の調製のための指示を含むことになる。キットは、さらに、胆汁うっ滞またはMDRlが関係している胆道疾患の1つ以上の症状の治療、予防または改善のための医薬組成物または栄養組成物の使用説明書を含むことができ、例えば、投与濃度、投与間隔、好適な投与法等を含む。
以下の実施例において本発明をさらに具体的に説明する。
【0037】
実施例 1: 胆汁うっ滞のための動物モデル
方法
動物
上記のように、FVB/NJ遺伝的背景(16)によるbsep KOマウスをこの実験室において維持し、mdrla/lb KOマウス(22)はTaconic(ハドソン、ニューヨーク州12534)から入手した。マウスを、食糧と水の摂取を自由にして、22℃において、12時間の明暗サイクルに維持した。結果に指定される場合を除いてマウスに普通食を与えた。カナダ動物管理協会のガイドラインに準じる、ブリティッシュコロンビア大学、動物管理委員会の承認された手順を用いて実験を行った。
光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡
光学顕微鏡に対して、マウスを2-4時間の絶食後CO2で死なせた。肝臓を直ちに取り出し、10%中性緩衝ホルマリンに移し、パラフィン切片およびヘマトキシリン-エオシン染色またはマッソントリクローム染色を続けた(Wax-it Histology Services Inc、バンクーバー)。透過型電子顕微鏡法に対して、肝臓を、氷冷2.5%のグルタルアルデヒドを用いてその場で潅流固定し、2.5%グルタルアルデヒド中で保持した。以前に記載されているように、脱水、プラスチック包埋および切片作製を行った(25)。厚さ1ミクロンのプラスチック包埋切片を得、フィリップスEM400T透過型電子顕微鏡(Eindhoven、オランダ)で調べた。
ヒト肝試料
年齢が生後5ヵ月から1.5歳までの遺伝子的に確認したPFIC 1型および2型の患者1から5つの針生検または外科的生検肝試料を得た。2人のPFIC-2患者は、ヌクレオチド位置1273にヘテロ接合のV284L突然変異とlbp欠失を有する同胞ペアであった。他のPFIC-2患者は、G1004Dミスセンス突然変異を有した。3人のPFIC-3患者は、MDR3遺伝子において1つの確認された欠失突然変異を含む高γ-GT PFICを有することによって含まれた(73)。他の6人の同齢の対照(0.5〜1.5歳)は、非黄疸性非胆汁うっ滞性の代謝性肝疾患または肝炎患者であった。試料をインフォームドコンセントのもとで集めた。
【0038】
定量的逆転写PCR
マウスおよび患者からの肝臓試料を用いて、以前に記載されているようにRNAを調製した(16)。概要としては、全RNAをRNAeasyキット(Qiagen GmbH、ヒルデン、ドイツ)によって凍結した肝から抽出した。1-10μgの全RNAを、200ピコモルのランダム六量体(Promega Corp.、マディソン、ウィスコンシン州)および逆転写酵素(スーパースクリプトII、Invitrogen Life Technologies、ブレーダ、オランダ)で42℃において50分間逆転写し、72℃で15分間不活性化した。マウス試料に対して得られた相補的DNA(cDNA)については、PCR反応を、“標準曲線法”(ABI PRISM User Bulletin 2)を用いて、PRISM 7900HT Sequence Detection System(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州)のSYBR Green PCRMaster Mix(フォスターシティ、カリフォルニア州)で行った。以前に報告されたようにプライマーを用いた(16)。各試料に対して、総リボ核酸のアリコート(5-10ng)の全RNAを各RT-PCR反応に用い、結果をリボソームタンパク質Sl 5(Rpsl5)の発現レベルに対して標準化した。患者試料に対して、Taqmanシステムを用いてPCR反応を行った。アリコート(5ng)の全RNAを各RT-PCR反応に用いた。TATAボックス-結合タンパク質(TBP)と関連するMDRの発現レベルを、dCT法(ABI PRISM User Bulletin 2)を用いて算出した。以下のプライマーとプローブを用いた: MDR(HsOOl 84500ml、ABI)およびTBP(センス: 5'-CACGAACCACGGCACTGTT-3(配列番号1); アンチセンス: 5'-TTTTCTTGCTGCCAGTCTGGAC-3'(配列番号2); プローブ5'-JOE TGTGC AC AGGAGCC AAGAGTGAAGA-3'(配列番号3))。
免疫蛍光染色
新鮮な肝組織試料を直ちにO.C.T.化合物(組織-Tek; SAKURA)に埋め込んだ。凍結組織切片(〜5-7μm)をクリオスタットで切断し、ポリL-リシン被覆ガラススライド上に置き、次に冷却アセトン中で10分間固定した。前に報告されたように、ヒトBSEPに対するウサギポリクローナル抗体(1:500)を用いた(26)。1:500に希釈したを有するヒトMDRに対する単クローン抗体(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を用いた。PBSですすいだ後、組織切片をウサギまたはマウスIgG(Alexa Fluor 594およびAlexa Fluor 488、Life Technologies)に対する蛍光結合二次抗体と室温で1時間インキュベートし、続いてPBS洗浄した。切片をVectaShieldで封入した(Life Technologies)。ニコンCl共焦点顕微鏡を用いて画像を得、Photoimpact 8.0ソフトウェア(Ulead)を用いて処理した。
【0039】
結果
bsep-/-マウス(18)とmdrld-/-/mdrlb-/-ダブルノックアウトマウス(22)との多段交叉によるmdrlaとmdrlb(ヒトMDRlのcoオルソログ)のヌル変異およびbsep遺伝子をもつトリプルノックアウト(TKO)マウスによって、生成された図3a)が作成された。TKOマウスにおける3つの突然変異遺伝子のヌル発現を、ゲノムPCR(図3b)、リアルタイムRT-PCR(図5)、およびウェスタンブロッティングによって確認した。
TKOマウスは、いずれの親株よりも重篤な胆汁うっ滞を示し、重篤な黄疸、一生の間、例えば、体壁と足に、肝拡張(図1a)、小管分裂(図1d)、胆管閉塞、成長遅延および非常に高い死亡率として現れた。緊密な保護のもとで、若干のTKOマウス、大部分は雌が成体期まで生存するが、TKO雄の約80%が2-6ヶ月以内に突然死を引き起こす。雄の成体は、稔性であり、TKO子孫をつくるために使用し得る。我々は、さらに、雌TKOマウスに0.5%コール酸食餌を与えることによってTKOマウスが胆汁うっ滞のストレスに対する耐性が低下すること、bsep-/-雌およびmdrld1-/-/Ib-/-ダブルKOマウスが充分耐え得る条件を証明した。0.5%CA食餌による雌TKOマウスは、末期症状になるかまたは3-7日間の給餌後に死んだ(図2)。これは、bsep-/-マウスと著しく異なり、その雌は末期症状を示さずに同様の給餌条件を105日間維持することができる(16)。
TKOマウスの組織学的症状は、また、bsep-/-マウスよりTKOマウスにおいてかなり重篤な胆汁うっ滞を示す。顕微鏡下で、TKOマウスの肝細胞は、容易に目で見える門脈周囲の線維化(図Ic)および胆管の欠乏(TKOマウスにおける91の門脈に対して17の胆管と野生型マウスにおいて計数された165に対して68)を示す。電子顕微鏡を用いて、さらに、原形質膜と細胞質双方において重大な肝障害が観察された(図1d)。TKOマウスは、ほとんどすべての微絨毛を失った小管の重篤な障害および高密度胆汁物質で充填された小管空間の膨張によって明らかにされるより重篤な欠損を示した。TKOマウスの肝細胞は、また、ミトコンドリアの変形、ゴルジ装置の肥大、滑面小胞体の増加、過剰な脂肪滴、およびペルオキシソーム数の増加を有する肝毒性に典型的な細胞質内異常を示す(図4)。
【0040】
Mdrlがほかにより重篤な胆汁うっ滞性表現型を改善するのを助ける生理的に適切な小管胆汁酸塩輸送体であるか否か求めるために、我々は、bsep-/-マウスにおけるP-糖タンパク質遮断薬シクロスポリンA(CsA)でMdrl(P-糖タンパク質)を選択的に遮断し、主要小管胆汁酸塩輸送体Bsepが不活性化されている。25mg/kg/日CsAの腹膜注射によって、PFIC2と同様の黄疸、急速な体重減少および肝指標の典型的な胆汁うっ滞性肝生化学的プロファイルを含む、より重篤な胆汁うっ滞性表現型が誘導された(表1)。bsep-/-ノックアウト(KO)マウスにおけるCsA誘発胆汁うっ滞のこの所見は、Mdrlが実際に生理的に適切な胆汁酸塩輸送体であることを示している。しかしながら、bsep-/-マウスに対するCsAの胆汁うっ滞性作用がMdrl仲介胆汁塩輸送体の特異的阻害よりはむしろ化合物の非特異的毒性によるものである可能性が残されたままである。CSA処理野生型マウスは、処理によってほとんど影響を受けなかった。
TKOマウスの肝機能に対する血清生化学的プロファイルは、PFIC2に似ており、その異常が見られなかったbsep-/-マウスとは異なる(18)。TKOマウスの血漿肝指標プロファイルの試験は、低γ-GT、約2倍の高いアルカリホスファターゼ(表1)およびヒトのPFIC2の症状に匹敵する重篤な胆汁うっ滞を示した。TKOマウスは、野生型対照の平均約13倍の血清ビリルビンレベルを有した。ALTおよびASTの変化は比較的小さく、通常は高アルカリホスファターゼとビリルビンを有する胆汁酸塩の胆汁分泌が非常に不充分であり、血清中のγ-GTが低いか正常である、PFIC2患者に見られるものと一致する(27、28)。それ故、TKOマウスは、ヒトPFIC2に見られるような完全に消滅した胆汁酸塩分泌の生理学的な結果の良好なモデルである。
表1. シクロスポリンAで2週間処理したbsep-/-、および野生型雌マウス、普通食を与えたまたは0.5%CA補足食餌を与えたbsep-/-mdrla/b-/-トリプルノックアウトマウス、bsep-/-、mdrla/b-/-および野生型雌マウスにおける肝生化学指標(n = 4)
【0041】
【表1】

【0042】
ALP-アルカリホスファターゼ
γGT-γ-グルタミルトランスペプチダーゼ
ALT-アラニンアミノトランスフェラーゼ
AST-アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
CA-コール酸
CsA-シクロスポリンA
すべての数字は、平均±標準偏差(P値)として表されている(n = 3-6)。星印は、同じグループのノックアウトマウスと野生型マウスの間に両側スチューデントt検定によって求めた統計的有意性を示す。
TKOマウスの肝細胞の分子変化の程度を評価するために、我々は、半定量的なリアルタイムPCRを用いて遺伝子発現プロファイルを測定した。TKOマウスは、bsep KOマウスで見られたものと同様の、典型的な胆汁うっ滞応答を示した(図5)。我々は、主要胆汁酸塩ヒドロキシラーゼとして機能し易い遺伝子、Cyp3al1であるように、Mrp3およびMrp4、肝細胞から洞様毛細血管の血液循環へ胆汁酸塩のクリアランスのための主要側底胆汁酸塩輸送体が、非常にアップレギュレートされることを見出した。Cyp3a41およびCyp3a44のダウンレギュレーションもわかった。驚くべきことに、リアルタイムPCRは、また、高mdrl転写を検出した。我々は、残留mdrl転写物を配列決定し、これらは、2つの交互にスプライスされたイソ型、38アミノ酸のN末端フラグメントの翻訳を特定する、エキソン4欠失を有する主要なもの(配列番号4)に続いて、フレームシフト、7つの新しいアミノ酸のためのコーディング配列および中途終止コドン(配列番号: 5)からなる; より豊富でない転写物は、エキソン4、5および6の欠失を有し(配列番号: 6)、38の最初のアミノ酸の翻訳に続いて、フレームシフト、12の新しいアミノ酸および中途終止コドン(配列番号7)が得られる。
【0043】
我々は、また、すべてのサブタイプのPFIC患者において、MDR 1の発現をいくつかの他のABC輸送体にと共に調べた。我々は、MDRlが実際にヒトにおいて生理的に適切な胆汁酸塩輸送体である場合には、PFIC患者における肝内胆汁酸塩蓄積によってMDRlアップレギュレーションが生じると結論した。それが症例であった場合には、臨床的にMDRlによって仲介される胆汁酸塩輸送体活性を刺激することができ、胆汁うっ滞が改善される。我々は、糖原病、尿素サイクル異常症、肝炎、および肝芽腫患者の非腫瘍肝臓試料を含む、非胆汁うっ滞性肝疾患をもつ6人の同齢の対照の小児PFIC患者の肝生検を比較した。対照は、胆管分泌異常を有することが予想されなかった。生検試料の定量的リアルタイムPCRによる分析から、平均対照より約4回にPFIC患者のMDRl発現の著しい増加が示された(表2)。MDRlのこの発現増加は、さらに、ヒトBSEPタンパク質の著しい増加がPFIC患者の小管膜に検出された免疫蛍光染色によって確認された(図6)。結果から、マウスおよび人双方において胆管胆汁酸塩分泌に対する生理的冗長システムの存在が示される。
表2. 同齢の対照と比較したPFIC患者における小管輸送体の相対発現レベル
【0044】
【表2】

【0045】
* 病理学的および生化学的な症状によって診断されるPFIC-3患者。
輸送体の相対mRNAレベルは、各試料におけるTBP mRNAレベルに対する倍率変化として表される(対照に対する平均±SD)。
突然変異マウスの特性をPFIC2患者と比較した(表3)。
【0046】
【表3】

【0047】
BSEP発現の顕著なアップレギュレーションは、PFIC患者の肝臓で見つかった。
【0048】
実施例 2: タウリン結合3α,6β,7β,12α-ヒドロキシ胆汁酸の合成
タウリン結合3α,6β,7β,12α-ヒドロキシ胆汁酸、本質的にβ-ムリコール酸塩の12α-ヒドロキシル化変形例を(29-31)に述べられるように合成した。合成において異性体が同時に得られ、同様の活性を有ようであった。それ故、少なくとも5つの追加の誘導体、特に上記の化合物の3α,6α,7α,12α-; 3α,6β,7α,12α-; 3α,6α,7β,12α-; 3α,6β,7β,12α-; 3α,6α,7α,12β-ヒドロキシ誘導体が単離された。単離した化合物を3H-標識化を用いてトリチウムを多く含む水溶液中で水素交換により胆汁酸塩を標識し、標識した胆汁酸塩を再単離した(例えば、Perkin-Elmerから入手可能なサービス) (32)。単離した化合物について、本明細書に記載されているように、試験管内でMDRlを介する輸送に対する相対親和性を試験した。試験管内で最も有効な化合物をより多量に単離し、本明細書において記載されているかまたは当該技術において既知の毒性および効力の生体内試験にリード化合物として用いた。
1. タウリン結合3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の合成
図10を参照すると、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸(7)をアセテート(16)として保護した。N2雰囲気下で、タウリンを有機塩基およびアセテート(16)の存在下にN-ヒドロキシスクシンイミドで活性化し、0.1N NaOHで処理し、SerdolitTM-1で洗浄し、アミド(17)を得た。アミド(17)を1N NaOHで8O℃において40分間、続いて5O℃において20分間、25℃において1.5時間処理した; SerdolitTM-1で洗浄後にタウリン結合体(18)を得た。タウリン結合3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸(18)の1H-NMRスペクトルを図11に示す。
【0049】
実施例 3 : 輸送速度論および交互作用の評価
本明細書に記載されるように得られた化合物とその輸送体MDRlとの輸送速度論および交互作用を、タウロコール酸塩と同様に広く用いられている治療的胆汁酸ウルソデオキシコール酸だけでなくタウロコール酸、ヒトおよびマウスにおける一次胆汁酸およびβ-ムリコール酸塩、通常はヒトに見られないトリヒドロキシ胆汁酸と比較して評価する。CHO B30細胞膜、Mdrl遺伝子座の大量増幅および対応する薬剤耐性に選ばれるチャイニーズハムスター卵巣細胞系に由来する膜小胞系だけでなく、MDRl過剰発現に選ばれるヒトのSKOVシリーズの細胞系に由来する小胞を用いる。この実験システムは、確立されている。このシステムを用いて、3H標識胆汁酸の小胞へのATP依存性取り込みを、単独であるいはタウロコール酸塩またはウルソデオキシコール酸塩のような相互作用する化合物と併用して測定する。ヒトおよびげっ歯類は、それぞれのMDRl P糖タンパク質によって仲介される薬剤耐性プロファイルがほとんど異ならないので、ヒトおよびげっ歯類双方の細胞由来小胞を用いることにより、種間の新規な胆汁酸輸送速度論の差も予想される効用をほとんど変えないことが確認される。タウロコール酸塩より疎水性でない(したがってより毒性でない)が、MDRlによる輸送に対してタウロコール酸塩より親和性が大きい(Kmが低い)胆汁酸は、強力な治療効果を有する。例えば、テトラヒドロキシル化胆汁酸は、低毒性とMDRlによる輸送に対する高い能力の適切な調和を示す。
胆汁酸塩に対する輸送体親和性のモジュレーションは、ムリコール酸およびテトラヒドロキシル化胆汁酸が胆汁うっ滞を克服するメカニズムである。本発明の胆汁酸は、アロステリックにコール酸塩に対するMDRlのKmを低下させることができるので、胆汁分泌促進薬としての価値をさらに上げることができる。MDRlに対するその効果は、単離された膜小胞を用いて種々の胆汁酸、さらに別々の部位でMdrlと相互作用することが知られるローダミン123、Hoechst 33342またはプラゾシンのような強力な刺激物質の存在下に調べられる(33-35)。種々の濃度の強力なモジュレーターの存在下に市販の14C-タウロコール酸塩のB30膜小胞への取り込み速度論が比較される。正のモジュレーションが取込み速度を増加させる。Mdrl基質であることが知られる薬剤がスクリーニングされる。タウロコール酸塩輸送に対してKmが低下したかを求めるために薬剤-胆汁酸および胆汁酸-胆汁酸の相互作用が確認される。
【0050】
実施例 4: 生体内最大耐性量の定量
本発明の胆汁酸の最大耐量を求めた。この試験は、2つの方法で実施される。最初に、胆管カニューレ挿入のパイロット実験として、胆汁酸ボーラスを麻酔下にマウスに注入して、動物に対する急性毒性を測定した。呼吸速度、胆汁流量、H&E染色による組織学的変化等のマウスの応答を記録した。タウロコール酸塩に対して、我々の試験は、静脈内に送達される167μモル/kg体重が最大耐性量であることを示した。基準点としてこの耐性レベルを用いて、胆汁酸の急性毒性を測定した。静脈内に投与されたウルソデオキシコール酸塩に対する最大耐性量(MTD)が、65μモル/kg体重であることがわかった。これは、それがより毒性でない胆汁酸塩であることと一致している。マウスにおいて静脈内に投与されたウルソデオキシコール酸塩に対するLD50が〜600μモル/kgであることが報告されている。
ヒトにおける治療量のウルソデオキシコール酸塩は、通常は経口投与され、典型的には40μモル/kg体重/日を超えない。さらに、経口投与された胆汁酸は、それが静脈内投与によって生じるより遅い速度で血流に、したがって肝臓に入るのでより毒性でないことになる。げっ歯類においてウルソデオキシコール酸塩に対する経口LD50は、静脈内に投与される場合より少なくとも15倍多く、過剰投与に対してかなりの安全域が得られる。ムリコール酸塩またはコール酸塩よりMdrlに対してさらに大きな親和性を示す胆汁酸は、所定の用量でより低い毒性を示しつつ、Bsep機能不全の状態下で胆汁流量を強化することに対してより用量特異的効果を有する。
マウス(野生型だけでなく高感受性bsep KOマウス)の食餌を0.1%-0.5%のβ-ムリコール酸塩または本発明の胆汁酸で補足することによって慢性毒性を試験する。対照給餌実験は、コール酸塩だけでなくウルソデオキシコール酸塩を用いる。野生型マウスは、0.5%コール酸塩の追加の胆汁酸塩負荷に無期限に耐えることができ、同じ食餌によって雌bsep KOマウスは体重が減少し、雄bsep KOマウスは10日以内に死ぬ(16、18)。0.5%コール酸塩の食餌は、雌TKOマウスさえ1週間以内に死ぬ(36)。動物に対照および胆汁酸補足食餌を与え、体重減少を毎日および肝機能の血清指標を毎週監視して、胆汁うっ滞の症状、例えば、血中の肝酵素上昇、並びに胆汁酸塩またはビリルビンの上昇を検出する(表1)。l4C-タウロコール酸塩のボーラスをマウスの尾静脈に、単独でまたは新規な胆汁酸と共に注入する胆管カニューレ挿入を行い、測定した胆汁中の14C-タウロコール酸塩出現の速度論およびMdrおよび/またはBselによるタウロコール酸輸送の新規な各胆汁酸の生体内効果を評価する。
【0051】
実施例 5: 生体内胆汁うっ滞の改善
本発明の胆汁酸の有効性は、胆汁塩輸送および胆汁流量に影響を及ぼす分子的および生理的事象の影響を可能にする全動物系において評価する。ユニークなノックアウトマウス系の組み合わせを用いて、新規な胆汁酸塩がMdrl仲介胆汁流量を促進させることによって胆汁うっ滞性ストレスを改善することができるかを試験する。3つのKOマウス系を用いる。本明細書に記載されるbsep KOマウスは不活性化bsep遺伝子をもつが、高mdrla/lb発現を有する; mdrla/mdrlbダブルKOマウスは、正常なbsep発現を有するが、不活性化mdrla/lb遺伝子を有する; bsep/mdrla/mdrlbトリプルKOマウス(TKO)は、すべて不活性化された3つの遺伝子を有する。これらの3系の動物を用いて、胆汁うっ滞性圧力を改善するのに新規な胆汁酸の生体内胆汁分泌促進機能を証明する。
本明細書に記載されているように調製される各種異性体の3H標識THBAの少量を突然変異マウス株(プラス野生型対照)に注入し、本明細書に記載されているように、新規なTHBAの生体内速度論を同じ化合物に対して試験管内で得られたものと比較するために血液、尿、胆汁および肝細胞中に回収される放射能を測定する。上記の速度論実験に基づいて選ばれる、高用量の本発明の胆汁酸をマウスに抗原投与する。同量のタウロコール酸塩(Bsepによって好ましい基質)が野生型マウスによって無期限に耐えることができるとすれば、0.5% - 1.5%の濃度を食餌に用いる。以前に報告されたように体重、罹患率、死亡率、肝指標プロファイルおよび肝組織学に従ってマウスを監視する(16、18、37)(表1)。さらに、本発明の胆汁酸を与えられている動物の胆汁を集め、HPLCによって分析する。胆汁流量の増加は、本発明の胆汁酸の 胆汁分泌促進可能性の直接基準であり、3つKOマウス株における胆汁の胆汁酸組成物の変化は、本発明の胆汁酸が生体内でMdrlとBsepとによって輸送される程度を示す。本発明の胆汁酸自体以外の胆管胆汁酸の割合の変化は、実測される場合には、従来の胆汁酸プールの輸送または合成に対する本発明の胆汁酸のモジュレーター効果を示す。
高用量給餌は、bsep KOマウスに対してタウロコール酸塩よりわずかに負の効果、mdrla/lbマウスに対して中程度の毒性およびTKOマウスに対して高い毒性を有する。以前、我々は、bsep KOおよびTKOマウスがタウロコール酸塩給餌に高感受性であることがわかった。本発明の新規な胆汁酸を有する給餌がタウロコール酸塩給餌よりbsep KOマウスに毒性でない場合には、我々は、本発明の胆汁酸の治療値の直接の生体内証拠を示すために、本発明の胆汁酸とコール酸塩またはウルソデオキシコール酸塩との混合物を突然変異体マウスに抗原投与する。
【0052】
実施例 6: 3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸および3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の合成
3つの形の胆汁酸を合成した: 3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸および3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸。以下の合成は、Iida et al.およびAggarwal et al.(61、62、およびその中で引用された参考文献)、また、Gouin et al.、Fieser et al.、Putz et al.、Narasimhan et al.およびOrnatein et al.(66-70およその中で引用された参考文献)によって報告されたものに基づく。この化学はマルチグラムスケールで行われ、収率を最適化するために実験手順と精製手順に重要でない変性が行われている。最終化合物をフラッシュクロマトグラフィによって精製し、純度が95%を超えた(NMR分析によって示されるように)。これらは、また、HPLC法によって均一であることが示された。
3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の合成
【0053】
【化7】

【0054】
コール酸(1)を保護して、メチルエステル(2)を得、これをN-ブロモスクシンイミド(NBS)で対応するケトン(3)に酸化した。次に、この化合物をジアセテート(4)として保護して、分子臭素との反応時に鍵となる中間体(5)に変換した。次に、このブロミドをヒドロキシルケトン(6)に加水分解した。続いて、アセテートとメチルエステル部分を還元、完全脱保護して、標的化合物(7)を得た。
3α,6β,7α,12αの合成-テトラヒドロキシ5β-コラン酸。
【0055】
【化8】

【0056】
中間体(5)、上記参照のこと、を水素化ホウ素亜鉛で還元し、得られたブロムヒドリンを金属亜鉛でさらに還元して、対応するアルケン(8)を得た。後者の化合物をメタクロロ過安息香酸(m-CPBA)で処理して、エポキシド(9)を得た。この化合物をルイス酸仲介開環して、ジオール(10)を得た。引き続き完全脱保護して、標的化合物(11)を得た。
3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の合成の別法
図9を参照すると、コール酸(1)をNBSで酸化して、対応するケトン(12)を得、続いて保護して、対応するメチルエステル(3)を得た。次に、この化合物をアセテート(4')、その後、アセテート(4)として保護さして、分子臭素と反応させて中間体(5)に変換した。ブロミドをヒドロキシルケトン(13)に加水分解した。引き続き、還元、脱保護して、標的化合物(7)を得た。
【0057】
実施例 7. 3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸は、野生型マウスにおいて胆汁流量(BFR)を刺激する
胆管カニューレ挿入に対して、FVB/NJの遺伝的背景による野生型マウスの体重を量り、2-4時間絶食後にケタミン(112.5mg/kg)およびキシラジン(11.3mg/kg)を腹腔内投与によって麻酔した。腹部を開き、遠位総胆管結紮後にPE-IOカテーテルを用いて胆嚢にカニューレを挿入した[63、64]。20分の胆汁流平衡化後、胆汁を5分間隔で10分間予め重さを量ったチューブに集めた。次に、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6a,7α THBA、pH.7.4-7.6)、3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(6β,7αTHBA、pH.7.4-7.6)、ウルソデオキシコール酸(UDC、pH.7.4-7.6)またはコール酸(100μモル/kg体重)を、20秒間隔で尾静脈に注入した。次に、胆汁をカニューレによって2分間隔で10または20分間、続いて10分間隔で30分間集めた。胆汁流量を、収集した胆汁を含有するチューブの重さを量ることによって算出した。集めた胆汁をHPLC分析に用いた。
実験の2時間前までに注入用のUDC溶液を新たに調製し、以下の通り行った: 100mM UDC溶液の各ミリリットルに対して、39.62mgのUDC(Sigma U5127)を、86.6μlの100%エタノール、86.6μlの1N NaOH、および826μlの0.9% NaCl溶液と順に渦流混合した。異なる使用溶液を10OmM溶液から希釈した。溶液のpHは、7.4-7.6であった。
図7は、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸が野生型マウスにおいて胆汁流量(BFR)を刺激することを示すグラフである。(A) 3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(THBA)の注入後のマウスにおける体重の関数としてのBFR。(B) コール酸(CA)(3α,7α,12α-トリヒドロキシ-5β-コラン-24-酸)の注入後のマウスにおける体重の関数としてのBFR。THBAまたはCA(100μモル/kg体重)のボーラスを、20秒間隔で10分間尾静脈に注入した。結果は、平均(μl/lOOg体重)±標準偏差として表されている。
【0058】
胆汁流量(BFR)を、3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシコラン酸(6β,7αTHBA)を65、250、350および400μモル/kg体重(BW)の用量で注入する前後に求めた(図12A); または3α,6α,7α,12α-THBA(6α,7αTHBA)の65および200μモル/kg BWの注入(図12B)。図12Cは、6β,7αTHBA、6a,7αTHBAおよびウルソデオキシコール酸(UDC)の65μモル/kg体重の注入前後の体重の関数としてのBFRを示すグラフである。結果は、3匹のマウスの平均±標準偏差をとして表されている。
胆管カニューレ挿入実験の間、我々は、70μモル/kg体重以上の濃度で尾静脈に注入したUDCが麻酔(ケタミン、112.5mg/kgおよびキシラジン、11.3mg/kg)下で野生型マウスの死を引き起こすことがわかった。したがって、我々は、ボーラス尾静脈注入によって投与される65μモル/kg体重のUDCがマウスにおける最大耐性量(MTD)であると決定した。しかしながら、野生型マウスは、500μモル/kg体重(試験した最高用量)での6β,7αTHBA注入および400μモル/kg体重(試験した最高用量)での6α,7αTHBA注入を死亡することなく耐えることができる。6β,7αTHBA(MTD>500μモル/kg体重の)および6α,7αTHBA(MTD>400μモル/kg体重)の最大耐性量は、UDCより数倍高かった。
65μモル/kg体重のUDCは、マウスにおける最大耐性量(MTD)であり、同様の量の6β,7αTHBAまたは6α,7αTHBAの注入によって実測されるものと同様の胆汁流量が得られる。増加量の6β,7αTHBAまたは6α,7αTHBAの注入によって、胆汁流量の対応する増加が得られる(図12 A、B)。
図8は、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸の注入(100μモル/kg)前(A)、および2-4分後(B)に野生型マウスから集めた胆汁画分のHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)プロファイルを示す図である。図8Cは、コール酸の注入(100ミリモル/kg)前に(上の追跡)、および2-4分後に(下の追跡)野生型マウスから集めた胆汁画分のHPLCプロファイルを示す図である。
【0059】
Waters 600ポンプおよびコントローラおよび486 UV検出器でHPLCを実施した。Spherisorb S5 ODS2 C-18(5mmの粒径、250mm×4mm、Waters)逆相分析カラムの前に、ガードカラム(Nova Pack、Waters)によって分離を行った。ピークの統合をMillennium 2010ソフトウェアを用いて行った。胆汁酸塩対照を、0.6mL/分の流速、3200psi(220bar)において周囲温度で48分かけて分離した。移動層は、溶媒A(MeOH)および溶媒B(60:40のMeOH: 0.01Mリン酸カリウム、0.02Mのリン酸ナトリウム) 、(pH 5.35(Rossi et al. 1987 J Lipid Res 28(5): 589-95 (71); Hagey et al. 1998. J Lipid Res 39(11): 2119-24, (72)から変更した)からなった。初期条件を最初の25分間100% Bに保持した。次の10分にわたって、直線勾配が30% Bであり、条件をさらに5分間保持した。次に、条件を8分にわたって直線勾配によって100% Aに減少した。系を100% MeOHで流し、続いて初期条件に平衡化した。溶出物を210nmで監視した。
3α,6α,7α,12α-THBAを視覚化するために、4μlの胆汁を20μlのメタノールに溶解し、緩衝液流に0.6mL/分で注入し、210nmの波長における吸光度によって読み込んだ。緩衝液は、60%メタノール、40% 0.1M KH2PO4、0.02M NaH2PO4 pH5.35であった[65]。コール酸を視覚化するために、手順は、はじめは3α,6α,7α,12α-THBAと同じであったが、5分後に、緩衝液を20%メタノール:80%緩衝液の混合物に4分以内に直線的に進め、さらに10分間一定に保持し、2分以内に30%メタノール:70%緩衝液に直線的に進めた。
それ故、テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸(3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸)は、野生型マウスにおいて胆汁流量を促進させる。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって示されるように、3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸を生体内でタウリン結合によって代謝させて、マウス尾静脈に注入された数分後に胆汁に分泌される(図8A、図8B)。これは、未変性胆汁酸を代謝させかつ小管膜全体にその分泌を仲介する同じ経路によってこの胆汁酸を代謝させかつ解毒させることができることを示している。
【0060】
実施例 8: 2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸および3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の合成
2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸を、以下の通りコール酸から合成した:
【0061】
【化9】

【0062】
さらに、例えば、Tserng KY and Klein PD (1977) (74), Leppik RA (1983) (75), Iida T. et al. (1990) (76)またはIida T. et al. (1991) (77)に記載される方法を用いて、ポリヒドロキシル化胆汁酸が合成される。合成スキームは、以下の通りであり、化合物Aは、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸であり、化合物Bは、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸である:
【0063】
【化10】

【0064】
3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸の別の合成スキームは、以下の通りである:
【0065】
【化11】

【0066】
参考文献






【0067】
他の実施態様
本発明は、1つ以上の実施態様に関して記載されてきた。しかしながら、多くの変更および修正が特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく行われ得ることは、当業者に明らかである。それ故、本発明の種々の実施態様が本明細書に開示されるにもかかわらず、多くの変更および修正が当業者の共通一般知識に従って本発明の範囲内で行われ得る。その修正には、同じ結果を実質的に同じ方法で達成するために本発明の態様を既知の等価物に置き換えることも含まれる。数値範囲は、範囲を定めている数字を含む。明細書において、語“含んでいる”は、制限のない用語として、句“を含むが、これに限定されない”と実質的に等価に用いられ、語“含む”は対応する意味を有する。本明細書における参考文献の引用は、その参考文献が本発明に対する先行技術であるという認めることとして解釈されない。すべての文献は個々の文献が各々本明細書に組み込まれるように詳細にかつ個々に示されたかのように、また完全に本明細書に記載されたかのように本明細書に組み込まれるものとする。本発明は、上文に記載されているようにかつ実施例および図面に関して実質的にすべての実施態様および変形例を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要としている被検者において胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激する方法であって、治療的に有効な量の下記式の化合物、またはその誘導体を投与することを含む、前記方法
【化1】

(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであり得るが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
【請求項2】
前記化合物が、コール酸塩より高い親水性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、テトラヒドロキシル化胆汁酸およびペンタヒドロキシル化胆汁酸、またはこれらの誘導体からなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記テトラヒドロキシル化胆汁酸が、
3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
1,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
3,7,16,24-テトラヒドロキシコラン酸、および
3,7,15,24-テトラヒドロキシコラン酸、または
これらの誘導体からなる群より選ばれる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、
3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6α,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6α,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、および
3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、または
これらの誘導体からなる群より選ばれるか、または
前記2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体であるか、または
前記3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、BSEPと比較した場合に、MDRlに対して優先的親和性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、MDRlに対して高親和性を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、共役化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記共役化合物が、タウリンまたはグリシン結合体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、
3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、
3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、および
3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体
からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が、3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの他の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記他の治療剤が、BSEPに対して優先的親和性を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記他の治療剤が、ウルソデオキシコール酸塩である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記胆道疾患が、良性胆管狭窄、良性膵臓病嚢胞、憩室炎、肝繊維症、肝障害、総胆管結石、膵炎、膵臓がんまたは偽嚢胞、乳頭部周囲がん、胆管癌、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性胆管炎、壁外性胆管圧迫(例えば、近接器官についての腫瘤または腫瘍による圧迫)、ウイルス性肝炎、敗血症、細菌性膿瘍、薬剤の使用、例えば、薬剤誘発性の特異体質性肝毒性、リンパ腫、結核、転移性がん、サルコイドーシス、アミロイドーシス、静脈栄養摂取、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変の有無による慢性肝炎、妊娠性肝臓内胆汁うっ滞、胆管結石症、胆道ジスキネジー、シェーグレン症候群、ウイルソン病、虚血、毒素、アルコール、急性肝不全、αl-アンチトリプシン欠損、PFIC2、良性反復性肝内胆汁うっ滞、肝細胞がん、門脈高血圧、静脈閉塞性疾患、および肝静脈血栓症からなる群より選ばれる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記胆道疾患が、胆汁うっ滞から起こるかまたは潜在的に起こる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記被検者が、ヒトである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
下記式Iの化合物、またはその誘導体を医薬的に許容され得る担体と共に含む、医薬組成物または栄養組成物
【化2】

(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであり得るが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
【請求項19】
前記化合物が、コール酸塩より高い親水性を有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記化合物が、テトラヒドロキシル化胆汁酸、ペンタヒドロキシル化胆汁酸、またはこれらの誘導体からなる群より選ばれる、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記テトラヒドロキシル化胆汁酸が、
3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
1,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸、
3,7,16,24-テトラヒドロキシコラン酸、および
3,7,15,24-テトラヒドロキシコラン酸、または
これらの誘導体からなる群より選ばれる、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記3,6,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、
3α,6α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6α,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6α,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、
3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、および
3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸、または
これらの誘導体からなる群より選ばれるか、または
前記2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体であるか、または
前記3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記化合物が、BSEPと比較した場合に、MDRlに対して優先的親和性を有する、請求項18〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
前記化合物が、MDRlに対して高親和性を有する、請求項18〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記化合物が、共役化合物である、請求項18〜24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記共役化合物が、タウリンまたはグリシン結合体である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記化合物が、
3α,6β,7α,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、
3α,6β,7β,12β-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリルまたはグリシル結合体、および
3α,6β,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体
からなる群より選ばれる、請求項18に記載の組成物。
【請求項28】
前記化合物が、3α,6β,7β,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン-24-酸のタウリル結合体である、請求項18に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも1つの他の治療剤をさらに含む、請求項18〜28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項30】
前記他の治療剤が、BSEPに対して優先的親和性を有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記他の治療剤が、ウルソデオキシコール酸塩である、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激する薬剤の調製のための請求項18〜31のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項33】
前記胆道疾患が、良性胆管狭窄、良性膵臓病嚢胞、憩室炎、肝繊維症、肝障害、総胆管結石、膵炎、膵臓がんまたは偽嚢胞、乳頭部周囲がん、胆管癌、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性胆管炎、壁外性胆管圧迫(例えば、近接器官についての腫瘤または腫瘍による圧迫)、ウイルス性肝炎、敗血症、細菌性膿瘍、薬剤の使用、例えば、薬剤誘発性の特異体質性肝毒性、リンパ腫、結核、転移性がん、サルコイドーシス、アミロイドーシス、静脈栄養摂取、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変の有無によるアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変の有無による慢性肝炎、妊娠性肝臓内胆汁うっ滞、胆管結石症、胆道ジスキネジー、シェーグレン症候群、ウイルソン病、虚血、毒素、アルコール、急性肝不全、αl-アンチトリプシン欠損、PFIC2、良性反復性肝内胆汁うっ滞、肝細胞がん、門脈高血圧、静脈閉塞性疾患、および肝静脈血栓症からなる群より選ばれる、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記胆道疾患が、胆汁うっ滞から起こるかまたは潜在的に起こる、請求項28に記載の使用。
【請求項35】
前記被検者が、ヒトである、請求項28〜34のいずれか1項に記載の使用。
【請求項36】
下記式Iの化合物、またはその誘導体を、胆道疾患を治療するかまたは胆汁流量を刺激するのに用いる説明書と共に含む製品:
【化3】

(式中、R1〜R9のいずれか1つは、-Hまたは-OHであり得るが、R1〜R9の少なくとも4つは-OHであり; R10は、-COOHまたは-CH2OHであり得る)。
【請求項37】
前記2,3,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体である、請求項4に記載の方法または請求項20に記載の組成物。
【請求項38】
前記3,4,7,12-テトラヒドロキシコラン酸が、3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸、またはその誘導体である、請求項4に記載の方法または請求項20に記載の組成物。
【請求項39】
2α,3α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸。
【請求項40】
3α,4α,7α,12α-テトラヒドロキシ-5β-コラン酸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2013−502442(P2013−502442A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525830(P2012−525830)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001338
【国際公開番号】WO2011/022838
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512048550)
【出願人】(512048561)
【出願人】(512048583)
【Fターム(参考)】