説明

胎児細胞を富化する方法

本発明は、妊娠した女性から胎児細胞を富化する方法に関する。本発明は、サンプルから、少なくとも1種のMHC分子を含む細胞を取り出すことに関する。本発明はまた、テロメラーゼ、そのmRNAコーディング成分、ならびにテロメアの長さを、胎児細胞のマーカーとして使用することに依存する方法にも関する。富化胎児細胞は、種々の手順において使用することができ、これらの手順としては、所定の特性(例えば、疾患特性)またはその特性に対する遺伝的素因、性別判定および親子判定が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、妊娠した女性からの胎児細胞を富化する方法に関する。富化された胎児細胞は、種々の手順において使用することができる。これらの手順としては、疾患特性または疾患に対する遺伝的素因などの所定の特性の検出、性別判定および親子識別などが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
染色体異常についての胎児検査は、多くの場合、羊水穿刺または代替的に絨毛膜サンプル採取(Chorionic Villus Sampling)(CVS)を使用して得られた細胞に対して行われる。羊水穿刺は、胎児を取り囲む流体から胎児細胞を回収するために使用される手順である。この比較的侵襲性の高い手順は、妊娠第12週の後に行われる。羊水穿刺の後に流産するリスクの増加は、約0.5%である。CVSは、染色体を試験するために胚を取り巻く細胞を採取する出産前検査である。CVSは、比較的侵襲性が低く、妊娠から10週程度の早期に実施することができる。CVSの後に流産するリスクの増加は、約1%である。
【0003】
胎児治療は、非常に早い段階においてのものであり、広い範囲の障害に対する極早期の検査の可能性は、この領域における研究の速度を明らかに大きくしている。現在の胎児の外科手術手順は改善されており、二分脊椎および口蓋裂のようないくつかの遺伝的問題についての胎児手術を可能性の高いものにしている。さらに、検出が十分早く行うことが可能でさえあれば、比較的単純で効果的な胎児処置が、他の障害についても利用可能である(例えば、21−ヒドロキシラーゼ欠損(デキサメタゾンによる処置)およびホロカルボキシラーゼシンテターゼ欠損(ビオチンによる処置))。
【0004】
少なくともいくつかの胎児細胞型(例えば、血小板、色素体、赤血球および白血球)は、胎盤を通過して、母系血液を循環することが示されている(Douglas et al., 1959; Schroder, 1975)。母系血液は、胎児細胞型の非侵襲的な供給源の一例であるが、母系血液からの胎児細胞の単離は、単に集団が小さいというよりむしろ、母系の循環においてこのような胎児細胞がまれであり、そして全ての胎児細胞を同定するマーカーがないことによって制限されている。母系血液中の胎児細胞を単離または富化するために、種々の方法が提案されている。これらの方法としては、遠心分離技術、免疫親和性技術、および蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)方法が挙げられる。しかし、これらの方法には多くの欠陥がある。
【0005】
胎児特異的抗体は、やがて同定されるであろうが、これは胎児細胞を容易に再現性よく富化するために使用することができる。この問題は、胎児細胞型および胎児細胞の数についての知識を必要としないネガティブ選択アプローチに基づくSimonsによって記載された方法(US 5,153,117(特許文献1)およびUS 5,447,842(特許文献2))を用いて克服することができる。しかし、Simonsの方法は、母親のHLA型に対する必要性と、質の高い特異的HLA抗体が市販されていないという事実に起因して、操作が困難であり、かつ実施するには費用がかかる。
【特許文献1】米国特許第5,153,117号明細書
【特許文献2】米国特許第5,447,842号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胎児細胞を富化および同定するための新規の方法が、当該分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
クラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子(ヒトクラスI MHC分子は、当該分野においてクラスIヒト白血球抗原(HLA)としても知られている)は、全てではないにしても大部分の有核細胞型で発現されていると、一般的に考えられている。特に、少なくともクラスI MHC分子のHLA−GおよびHLA−Cは、胎児栄養膜のいくつかの型で発現されていることが見出されている(Shorter et al, 1993; King et al, 1996)。しかし、驚くべきことに、MHC分子に結合する因子(agent)を使用してサンプルから除去(deplete)させると、胎児細胞の富化集団が生じることが見出された。さらに、テロメラーゼおよびテロメアを胎児細胞のマーカーとして考えることができることが決定されている。このことから、胎児細胞の検出および単離のための手順において、これらの分子を標的とすることが可能である。これらの手順は、一緒に組み合わせた場合、富化する胎児細胞集団の純度を高める。
【0008】
従って、第1の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化する方法を提供する。この方法は、
i)細胞表面上に少なくとも1種のMHC分子を発現する細胞を取り出すことによって母系細胞を除去させる工程、ならびに
ii)a)テロメラーゼを発現する細胞を選択すること、および/またはb)テロメアの長さに基づいて細胞を選択することによって、胎児細胞を選択する工程
を含む。
【0009】
工程i)およびii)は、任意の順番で行うことができる。従って、母親から得られたサンプルに対して一方の工程を行って、その残りの細胞集団に対してもう一方の工程を行ってもよい。あるいは、これらの工程を同時に行ってもよい。
【0010】
別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化する方法を提供し、この方法は、細胞表面上に少なくとも1種のMHC分子を発現する細胞を上記サンプルから取り出す工程を含む。
【0011】
好ましくは、MHC分子は、クラスI MHC分子である。
【0012】
さらに好ましい実施形態において、少なくとも1種のクラスI MHC分子を発現する全ての細胞が取り出される。
【0013】
特に好ましい実施形態において、クラスI MHC分子はHLA−Aである。別の好ましい実施形態において、クラスI MHC分子はHLA−Bである。さらに好ましい実施形態において、クラスI MHC分子はHLA−AおよびHLA−Bである。
【0014】
Simons(US 5,153,117)と比較した場合の本発明の上記局面の利点は、母親、父親および/または胎児のMHC対立遺伝子の遺伝型を決定する必要がないということである。従って、特に好ましい実施形態において、MHC対立遺伝子の遺伝子型は、母親、父親および/または胎児について決定されない。より好ましくは、MHC対立遺伝子型の遺伝型は、母親について決定されない。
【0015】
別の実施形態において、上記方法は、
i)サンプル中の細胞を少なくとも1種のMHC分子に結合する因子と接触させる工程、および
ii)上記因子によって結合された細胞を取り出す工程
を含む。
【0016】
さらに好ましい実施形態において、上記方法は、i)少なくとも1種のクラスI MHC分子に結合する因子、およびii)少なくとも1種のクラスII MHC分子に結合する因子とサンプルを接触させる工程を含む。
【0017】
別の好ましい実施形態において、上記因子は、
i)HLA−A分子の単一型の決定基、
ii)HLA−B分子の単一型の決定基、または
iii)HLA−A分子およびHLA−B分子の単一型の決定基
に結合する。
【0018】
1つの実施形態において、上記因子は、HLA−Cに結合しない。
【0019】
別の実施形態において、上記因子は、HLA−A分子、HLA−B分子およびHLA−C分子の単一型の決定基に結合する。好ましくは、HLA−A分子、HLA−B分子およびHLA−C分子の単一型の決定基に結合する因子は、飽和濃度以下の濃度で使用される。
【0020】
さらなる実施形態において、同じクラスまたはサブクラスのMHC分子の異なるアイソタイプに結合する3種以上の因子が使用される。好ましくは、上記因子は、同じクラスまたはサブクラスのMHC分子の全てのアイソタイプ(対立遺伝子)に集合的に(collectively)結合する。
【0021】
1つの実施形態において、この2つの因子は、HLA−Bw4に結合する抗体およびHLA−Bw6に結合する抗体である。
【0022】
インサイチュでMHC分子と会合する化合物が示されており、従って、これらの化合物は、本発明の方法を使用して標的とすることができる。従って、別の実施形態において、上記方法は、
i)サンプル中の細胞をMHC分子と会合する化合物に結合する因子と接触させる工程、および
ii)上記因子によって結合された細胞を取り出す工程
を含む。
【0023】
例えば、化合物は、MHC分子に結合するリガンド(例えば、タンパク質リガンド)であり得る。
【0024】
母系細胞への因子の結合は、直接的または間接的に検出することができる。直接的な検出は、その因子が検出可能な標識または単離可能な標識に結合されることによる。間接的な検出は、因子/母系細胞複合体に結合するさらなる要素(例えば、検出可能に標識された二次抗体)による。好ましくは、この標識は、蛍光標識、放射性標識、常磁性粒子(例えば、磁気ビーズ)、化学発光標識、二次酵素反応によって検出可能な標識、および分子への結合によって検出可能な標識からなる群より選択されるが、これらに限定されない。
【0025】
標識細胞は、当該分野で公知の任意の技術を使用して、サンプルから取り出すことができる。1つの実施形態において、細胞を取り出す工程は、標識を検出する工程および標識細胞を取り出す工程を含む。
【0026】
さらなる実施形態において、検出可能な標識または単離可能な標識は、蛍光標識であり、ここで上記細胞を取り出す工程は、蛍光活性化セルソーティングを行う工程を含む。
【0027】
別の実施形態において、検出可能な標識または単離可能な標識は、常磁性粒子(例えば、磁気ビーズ)であり、ここで上記細胞を取り出す工程は、標識された細胞を磁場に曝露する工程を含む。
【0028】
上記因子は、母系細胞の表面に発現されるMHCに特異的に結合する任意の化合物であり得る。代表的には、この因子は、抗体または抗体フラグメントである。
【0029】
別の実施形態において、MHC分子に結合する抗体によって結合される母系細胞は、補体依存的な溶解を使用して細胞を殺傷することによって除去される。
【0030】
別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化する方法を提供し、この方法は、サンプルからテロメラーゼを発現する細胞を選択する工程を含む。
【0031】
テロメラーゼは、タンパク質/RNA複合体である。1つの実施形態において、上記方法は、テロメラーゼのタンパク質成分を検出する工程を含む。好ましくは、このタンパク質成分は、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)である。テロメラーゼタンパク質/RNA複合体の一部を形成し得る他のタンパク質の例は、TEP−1(テロメラーゼ関連タンパク質−1)、および14−3−3タンパク質である。
【0032】
テロメラーゼのタンパク質成分は、当該分野で公知の任意の技術を使用して検出することができる。好ましくは、細胞は、テロメラーゼ、特に、TERTに結合するポリペプチド(より好ましくは、抗体)に曝される。一例として抗体を使用する場合、テロメラーゼに結合する抗体は、直接的にでも間接的にでも検出することができる。直接的な検出は、抗体が検出可能に標識されていることによる。間接的な検出は、抗テロメラーゼ抗体/テロメラーゼ複合体に結合するさらなる要素(例えば、検出可能に標識された二次抗体)による。
【0033】
別の実施形態において、上記方法は、テロメラーゼのRNA成分を検出する工程を含む。なお別の実施形態において、上記方法は、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするmRNAを検出する工程を含む。
【0034】
RNA/mRNAは、当該分野で公知の任意の技術を使用して検出することができる。代表的には、細胞は、RNA/mRNAにハイブリダイズする標識プローブに曝される。このプローブは、標的RNAまたはmRNAにハイブリダイズし得る限り、どんな長さのものであってもよいし、どんな構造のものであってもよい。
【0035】
出生前のテロメアは、最も長いと考えることができる。出生後、各細胞の分裂によって、テロメアは次第に短くなる。一般的に、テロメアは死ぬまで残存しているが、時間とともに少しずつ短くなる。テロメアは、胎児細胞の同定において使用するための魅力的な標的であると決定されている。それは、なぜならば、(1)テロメアは細胞選択のための年齢判別手段(age-discriminant)を提供する、すなわち、老いた細胞から若い細胞を(母系から胎児を)分離することが可能であり、そして(2)比較的低い変動係数および良好なシグナル:ノイズの比を有するプローブを設計することが可能だからである。
【0036】
従って、なお別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化する方法を提供し、この方法は、テロメアの長さに基づいてサンプルから細胞を選択する工程を含む。
【0037】
1つの実施形態において、上記方法は、テロメアに結合する検出可能に標識されたプローブと細胞を接触させる工程を含む。
【0038】
別の実施形態において、約1個〜約100個の細胞、より好ましくは約1個〜約20個の細胞、さらにより好ましくは約1個〜約10個の細胞が選択される。ここでこの選択細胞は、サンプル中の他の細胞よりも多くのプローブによって結合される。この実施例において、テロメアの長さに対しておおよその比率(数)で結合するプローブが使用される。従って、選択細胞は、最も強く標識された細胞である。
【0039】
胎児細胞を含む可能性のあるサンプルは、当該分野で公知の任意の供給源から得ることができる。例としては、血液、子宮頚部粘液(cervical mucous)または尿が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、上記サンプルは、母系血液である。
【0040】
サンプルが母系血液である場合、上記方法は、その母系血液サンプルから、有核細胞を含む細胞フラクションを単離する工程をさらに含むことが好ましい。
【0041】
いくつかの場合において、特に、RNAまたはDNAを検出する手順を行う場合において、上記細胞は、固定および透過処理されることが好ましい。
【0042】
本発明の方法を使用する胎児細胞の富化は、少なくとも1つの他の母系細胞マーカーを発現する細胞について負の選択をすることによって、さらに質を上げることが可能である。上記に略述したとおり、このマーカーは、MHC分子であり得る。ある実施形態において、上記方法は、サンプルから赤血球、リンパ球、および/または癌細胞を取り出す工程をさらに含む。特に好ましい実施形態において、上記方法は、サンプルから造血細胞を取り出す工程をさらに含む。好ましくは、上記方法は、サンプル中の細胞を造血細胞に結合する因子と接触させる工程をさらに含む。
【0043】
取り出され得る造血細胞の例としては、T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞および/または好塩基球が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
好ましくは、上記因子は、細胞の細胞表面タンパク質に結合する。このような細胞表面タンパク質は、当該分野で公知である。細胞表面タンパク質の例としては、CD3、CD4、CD8、CD10、CD14、CD15、CD45およびCD56が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
特に好ましい実施形態において、上記方法は、CD45に結合する因子とサンプル中の細胞を接触させる工程、およびCD45に結合する因子によって結合された細胞を取り出す工程をさらに含む。このような実施形態は、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子を使用する除去について本明細書に記載される技術と類似の技術を使用して行うことができる。
【0046】
本発明の方法は、胎児細胞によっては発現されるが、母系細胞によっては発現されない(または母系細胞のほんの小さな割合のみが発現する)分子を標的化することによって、胎児細胞について正の選択を行うさらなる方法と組み合わせて使用することもできる。従って、さらなる実施形態において、本方法は、胎児細胞に結合する因子と細胞を接触させる工程、および胎児細胞に結合する因子によって結合された細胞を選択する工程をさらに含む。このようなマーカーの例としては、栄養膜特異的なタンパク質、胎児または胚のヘモグロビン、および胎児有核赤血球特異的なタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
サンプルは、妊娠のどの段階の間でも得ることができる。上記サンプルが、その胎児が遺伝的欠陥を有するか否かを決定するためにスクリーニングされ、その検出が妊娠の終結につながり得る場合、サンプルは、妊娠の第1トリメスター(好ましくは、8週と12週との間)において母親から得られることが好ましい。
【0048】
標識された胎児細胞は、当該分野で公知の任意の方法を使用して選択することができる。多くの例において、選択のために手順は標識の性質に関連する。例えば、使用した標識が蛍光シグナルを発する場合、その細胞は、蛍光活性化セルソーティング、蛍光顕微鏡、またはレーザーマイクロダイセクション(これらに限定されない)によって検出することができる。
【0049】
別の局面において、本発明は、サンプル中の胎児細胞を検出する方法を提供し、この方法は、テロメラーゼの発現について候補細胞を分析する工程を含む。
【0050】
さらなる局面において、本発明は、サンプル中の胎児細胞を検出する方法を提供し、この方法は、テロメアの存在について候補細胞を分析する工程および/または候補細胞中のテロメアの長さを分析する工程を含む。
【0051】
さらなる局面において、本発明は、本発明に従う方法によって得られる胎児細胞の富化集団を提供する。
【0052】
別の局面において、本発明は、本発明の胎児細胞およびキャリアを含有する組成物を提供する。
【0053】
なお別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化するための、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子の使用を提供する。
【0054】
別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化するためのテロメラーゼに結合する因子の使用を提供する。
【0055】
なおさらなる局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化するためのテロメアに結合する因子の使用を提供する。
【0056】
本発明の方法を使用して富化/検出された胎児細胞は、胎児の遺伝子型を分析するために使用することができる。従って、別の局面において、本発明は、所定の遺伝子座における胎児細胞の遺伝子型を分析するための方法を提供し、この方法は、
i)本発明の方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または本発明の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、ならびに
ii)所定の遺伝子座における少なくとも1つの胎児細胞の遺伝子型を分析する工程
を含む。
【0057】
胎児の遺伝子型は、当該分野で公知の任意の技術を使用して決定することができる。例としては、核型分析(karyotyping)、ハイブリダイゼーションベースの手順、および/または増幅ベースの手順が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
胎児細胞の遺伝子型は任意の目的のために分析することができる。代表的には、遺伝子型は、その子孫が所定の特性を有する可能性を検出するために分析される。好ましくは、胎児細胞は、疾患状態またはそれに対する素因に関連する遺伝性異常について分析される。1つの実施形態において、上記遺伝性異常は、染色体の構造および/または数の異常である。別の実施形態において、この遺伝性異常によって、異常なタンパク質がコードされる。別の実施形態において、この遺伝性異常は、遺伝子の発現レベルの低下または上昇をもたらす。
【0059】
少なくともいくつかの例において、本発明の富化方法によって、純粋な胎児細胞集団は生じない。つまり、一部の母系細胞は残存する場合がある。従って、好ましい実施形態において、診断(決定、分析など)の方法は、細胞を胎児細胞と同定する工程をさらに含む。この分析によって、母系細胞または胎児細胞は正に同定することができる。母系細胞の正の同定の場合においては、非標識細胞が胎児細胞である。あるいは、異なる選択可能なマーカーを用いて母形細胞と胎児細胞との両方が正に同定され、または母系細胞と胎児細胞との間で異なるレベルのシグナルを生じさせるマーカーが使用される。これらの手順は、当該分野で公知の任意の技術を使用して実施することができる。例えば、男性(雄性)胎児細胞のためには、Y染色体特異的なプローブを使用することができる。別の例において、テロメアの長さが分析される。さらなる実施形態において、クラスI MHC分子に結合する因子(例えば、抗体)を使用して、母系細胞が同定される。この実施形態を行うのに適切な他の方法は、本明細書において記載される。
【0060】
富化/検出された胎児細胞は、その胎児の性別を決定するために使用することができる。結果として、さらなる局面において、本発明は胎児の性別を決定する方法を提供する。この方法は、
i)本発明に従う方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または本発明の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、ならびに
ii)その胎児の性別を決定するために少なくとも1つの胎児細胞を分析する工程
を含む。
【0061】
胎児の性別を決定するための胎児細胞の分析は、当該分野で公知の任意の方法を使用して行うことができる。例えば、Y染色体特異的なプローブを使用することもできるし、および/または細胞を核型分析することもできる。
【0062】
富化された胎児細胞はまた、その胎児の父親を同定するためにも使用することができる。従って、さらなる局面において、本発明は、胎児の父親を決定する方法を提供し、この方法は、
i)本発明に従う方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または本発明の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、
ii)1以上の遺伝子座において候補父親の遺伝子型を決定する工程、
iii)1以上のその遺伝子座において胎児の遺伝子型を決定する工程、ならびに
iv)ii)およびiii)の遺伝子型を比較して、上記候補父親がこの胎児の生物学的父親である可能性を決定する工程
を含む。
【0063】
いくつかの場合において、母親の遺伝子型も分析されることは本質的ではない場合があるが、正確性のために、この方法は、上記1以上の上記遺伝子座において母親の遺伝子型を決定する工程をさらに含むことが好ましい。
【0064】
候補父親、胎児、または母親の遺伝子型の分析は、当該分野で公知の任意の技術を使用して行うことができる。1つの好ましい技術は、ゲノムのタンデムリピート領域(tandemly repeated region)にハイブリダイズするプローブ/プライマーを使用してDNAフィンガープリント分析を行うことである。別の技術は、ゲノムのHLA/MHC領域を分析することである。
【0065】
さらなる局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化するためのキットを提供し、このキットは、
i)少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子、および/または造血細胞に結合する因子、ならびに
ii)テロメラーゼに結合する分子、および/または上記テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、および/またはテロメアにハイブリダイズする分子
を含む。
【0066】
なお別の局面において、本発明は、サンプルから胎児細胞を富化するためのキットを提供し、このキットは、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子、および/または造血細胞に結合する因子を含む。
【0067】
好ましくは、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子は、抗体である。
【0068】
別の実施形態において、上記キットは、
i)全てのHLA−A分子に結合する因子、
ii)全てのHLA−B分子に結合する因子、および/または
iii)全てのHLA−A分子およびHLA−B分子に結合する因子
を含む。
【0069】
好ましくは、少なくとも1つの因子は、磁気ビーズに結合される。
【0070】
なお別の局面において、本発明は、胎児細胞を検出するためのキットを提供し、このキットは、テロメラーゼに結合する分子、および/または上記テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、および/またはテロメアにハイブリダイズする分子を含む。
【0071】
好ましくは、上記分子は、抗テロメラーゼ抗体、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするmRNAにハイブリダイズするポリヌクレオチド、テロメラーゼのRNA成分にハイブリダイズするポリヌクレオチド、または染色体上のテロメアDNAにハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる群より選択される。
【0072】
好ましくは、この分子は検出可能に標識される。
【0073】
さらなる局面において、本発明は、胎児細胞において遺伝性異常を検出するためのキットを提供し、このキットは、
i)胎児細胞を検出するための分子であって、この分子は、テロメラーゼ、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、またはテロメアにハイブリダイズする分子、ならびに
ii)上記遺伝性異常を検出するための少なくとも1種の試薬
を含む。
【0074】
明らかであるように、本発明の1つの局面の好ましい特色および特徴は、本発明の多くの他の局面に適用することができる。
【0075】
本明細書全体を通じて、用語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などのバリエーションは、述べられた要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群を包含するが、任意の他の要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群を除外しないことを意味することが理解される。
【0076】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって、添付の図への参照と共に以下に記載される。
【0077】
(配列表のキー)
配列番号1:ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(Genbank登録番号 AAC51724)
配列番号2:ヒトテロメラーゼ逆転写酵素をコードするmRNA(Genbank登録番号 NM _003219)
配列番号3:ヒトテロメラーゼのRNA成分(Genbank登録番号 AF047386の799〜1248番目のヌクレオチド)
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
(発明の詳細な説明)
(一般的技術)
特に別に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、(例えば、細胞培養、胎児細胞生物学、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、核酸ハイブリダイゼーション、フローサイトメトリーおよび生化学の)当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有すると考えられるべきである。
【0079】
別に示されない限り、本発明において利用される組換えタンパク質、細胞培養、および免疫学的な技術は、標準的な手順であり、当業者に周知である。このような技術は以下のような供給源の文献全体にわたって記載および説明されており、これらの文献は本明細書において参考として援用される: J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984),J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989),T. A. Brown (編者), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volume 1 およびVolume 2, IRL Press (1991), D.M. GloverおよびB.D. Hames (編者), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996),ならびにF.M. Ausubel et al. (編者), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley- Interscience (1988, 現在までの全ての更新を含む), Ed HarlowおよびDavid Lane (編者) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988),ならびにJ.E. Coligan et al. (編者) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までの全ての更新を含む)。
【0080】
(主要組織適合遺伝子複合体)
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)は、少なくとも3つのクラスの遺伝子を含む。クラスI遺伝子およびクラスII遺伝子は、細胞表面上に発現される抗原をコードし、一方、クラスIII遺伝子は、補体系のいくつかの構成要素をコードする。クラスI抗原およびクラスII抗原は糖タンパク質であり、Tリンパ球にペプチドを提示する。ヒトMHC分子は、ヒト白血球抗原(HLA)としても当該分野で公知である。従って、用語「HLA」と「MHC」とは、多くの場合、本明細書において交換可能に使用される。
【0081】
ヒトおよびマウスのクラスI分子は、ヘテロダイマーであり、重鎖α(45kD)および軽鎖β2グロブリン(12kD)からなる。クラスI分子は、全てではないが大部分の有核細胞において見出される。このα鎖は、3つの細胞外ドメイン(α1、α2およびα3)、さらに膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに分けることができる。α3ドメインは、β2ミクログロブリンと同様に、保存性が高い。α3ドメインおよびβ2ミクログロブリンの両方は、ヒト免疫グロブリンのCH3ドメインに対して相同的である。
【0082】
クラスII分子は、ヘテロダイマー糖タンパク質(α鎖(34kD)およびβ鎖(29kD))である。各鎖は、2つの細胞外ドメインを、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインと一緒に有する。膜に近いα2ドメインおよびβ2ドメインは、免疫グロブリンCHドメインに対して相同的である。クラスII分子は、クラスIと比較して発現の程度は一般的でなく、代表的には、樹状細胞、Bリンパ球、マクロファージおよびいくつかの他の細胞型で見出されている。
【0083】
ヒト第6番染色体の短腕には3つのクラスI遺伝子座(B、C、A)、そしてマウス第17番染色体には4つの遺伝子座(K、D(L)、Qa、Tla)が存在する。これらの遺伝子座は、多型性の程度が高い。変動性の残基は、7つの部分配列中(3つはαドメイン、そして4つはα2ドメイン)に集まっている。3つの主要なヒトクラスII遺伝子座(HLA−DR、HLA−DO、HLA−DP)および2つのマウス遺伝子座(H−2I−A、H−2I−E)が存在する。全てのクラスIIβ鎖は多型性である。ヒトHLA−DQα鎖もまた多型性である。
【0084】
好ましくは、本発明の少なくともいくつかの方法は、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子(好ましくは、抗体)を利用する。好ましくは、上記因子は、MHC分子の細胞外部分に結合する。これは、i)本発明の方法を使用して、生胎児細胞を富化することができる、およびii)その因子が細胞膜を通過することを確認する追加工程(例えば、細胞を固定して透過処理する工程)が必要とされないという、少なくとも2つの利点を有する。
【0085】
好ましくは、上記因子は、少なくとも1種のクラスI HLA分子に結合することができる。1つの実施形態において、この因子は、HLA−A分子、HLA−B分子およびHLA−C分子に結合することができる。好ましい実施形態において、この因子は、HLA−A分子および/またはHLA−B分子に結合することができる。さらなる実施形態において、MHC分子の同じクラスもしくはサブクラス、または異なるクラスもしくはサブクラスに結合する少なくとも2種の異なる因子を使用することができる。
【0086】
本明細書において使用される場合、「単一型の決定基」とは、抗体などの適切な結合因子によって認識され得る基のうちで、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、そしてさらにより好ましくは100%の間で高度に保存されるグループタンパク質(group protein)の領域をいう。この領域は、一続きのアミノ酸である場合もあるし、および/またはタンパク質の折りたたみにおいて密接に関連する保存性の高いアミノ酸の基である場合もある。例えば、クラスI MHC分子の「単一型の決定基」は、このクラスの異なるタンパク質の間で高度に保存されており、かつ同じ抗体によって結合され得る、クラスI MHC遺伝子の異なる遺伝子座によってコードされるタンパク質(アイソタイプ)の領域である。
【0087】
本明細書において使用される場合、MHC分子の「サブクラス」は、特定のクラスのMHC分子の別個の型である。例えば、HLA−A分子およびHLA−B分子は、本明細書において、各々、クラスI MHC分子のサブクラスとみなされる。
【0088】
(テロメアおよびテロメラーゼ)
テロメアは、真核細胞染色体の末端に位置するDNA−タンパク質複合体からなり、例えば、染色体の末端領域の分解、テロメアと別のテロメアもしくは分解DNA末端との融合、または不適切な組換えなどの事象を促進するゲノムの不安定性に対する保護を提供するために機能する。出生前のテロメアは、最大の長さであると考えることができる。出生後、各細胞の分裂に伴って、テロメアは次第に短くなる(Vaziri et al, 1994)。テロメアDNAは、テロメアタンパク質に対する結合部位を含む分子骨格を形成するDNAのタンデムリピート(ヒトでは6塩基対配列TTAGGG)を含み、テロメアにおいて動的なDNA−タンパク質複合体を生じる。
【0089】
テロメラーゼは、染色体の末端においてテロメアの形成、維持および修復に関係する酵素である。テロメラーゼは、テロメアDNA配列を合成するRNA依存性DNAポリメラーゼとして作用し、2種の必須成分からなる。1つ目は機能的RNA成分であり(ヒトにおいて、hTRとしても公知である−配列番号3を参照のこと)、もう一つは触媒タンパク質である(ヒトにおいて、hTERTとしても公知である−配列番号1を参照のこと)。従って、テロメラーゼはリボ核タンパク質である。テロメラーゼは、細胞の増殖能を調節する。テロメラーゼは、現在、腫瘍関連抗原と分類されている。テロメラーゼは、ウイルス感染への応答の際にリンパ球のクローン増殖にも役割を果たすことができる。
【0090】
生化学用語において、テロメラーゼは、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)として作用する。テロメラーゼはRNAをDNAに転写し、テロメア配列に特異的な逆転写酵素である。テロメラーゼは2つの特有の特徴を有する:テロメラーゼは、一本鎖(Gリッチ)テロメアプライマーを認識することができ、テロメラーゼは、RNA部分を鋳型として使用することによって、テロメアの末端に複数のテロメアリピートを追加することができる。
【0091】
テロメラーゼ活性、テロメアの長さ、および細胞複製能の間の相互関係から、テロメラーゼによってテロメアの長さを維持することは、複製能および老化を制御するための分子時計として作用するという理論が導かれている。
【0092】
ヒトおよび他のテロメラーゼのRNA成分は、クローニングされており、特徴付けされている(WO 96/01835)。しかし、テロメラーゼの全てのタンパク質成分を特徴付けすることは困難である。それにもかかわらず、TERTと相互作用し得る多くのタンパク質が同定されており、それらのタンパク質としては、TEP−1(テロメラーゼ関連タンパク質1)(Harrington et al, 1997)および14−3−3タンパク質(Seimiya et al, 2000)が挙げられる。
【0093】
本明細書において使用される場合、用語「テロメラーゼ」とは、少なくとも、機能的RNA成分および逆転写酵素を含むリボ核タンパク質をさす。しかし、少なくともいくつかの例において、この用語は、テロメラーゼ複合体の部分を形成し得る他のタンパク質(例えば、TEP−1および14−3−3タンパク質)も包含し得る。
【0094】
(因子)
本発明は、母系細胞または胎児細胞によって発現される分子を結合する種々の因子の使用に依存する。これらの因子は、それらが標的分子に結合し得る限り、どんな構造のものでもよいし、どんな組成物であってもよい。1つの実施形態において、本発明に有用な因子は、タンパク質である。好ましくは、上記タンパク質は、抗体またはそのフラグメントである。
【0095】
ある実施形態において、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子を使用することが好ましく、この因子は抗MHC抗体であることが好ましい。好ましくは、上記抗体は、MHC分子の細胞外部分に結合する。別の実施形態において、上記抗体は、テロメラーゼのタンパク質成分(好ましくは逆転写酵素)に特異的に結合する。
【0096】
本発明の方法に有用な抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。本発明の方法に有用な抗体は、当該分野で公知の技術を使用して容易に産生することができる。あるいは、少なくとも数種類の抗MHC抗体は、US Biological (Massachusetts, USA)およびChemicon International Inc. (California, USA)などの商業的供給源から入手することができる。さらに、少なくとも数種類の抗テロメラーゼ抗体は、Abcam Ltd (Cambridge, UK)およびCalbiochem (California, USA)などの商業的供給源から入手することができる。
【0097】
用語「特異的に結合する」とは、抗体が標的リガンド(例えば、テロメラーゼまたはMHC分子)には結合するが、サンプル中の他のタンパク質には結合しない能力をさす。
【0098】
ポリクローナル抗体が所望される場合、適切な免疫原性ポリペプチドによって選択哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫化する(例えば、抗MHC抗体が所望される場合、HLA−Aの細胞外ドメインを使用することができ、または抗テロメラーゼ抗体が必要とされる場合、配列番号1に提供される配列を含むタンパク質を使用することができる)。免疫された動物由来の血清を収集して、公知の手順に従って処理する。ポリクローナル抗体を含む血清が、他の抗原に対する抗体を含む場合、そのポリクローナル抗体は、免疫親和性クロマトグラフィーによって精製することができる。ポリクローナル抗血清を生成および処理するための技術は、当該分野で公知である。
【0099】
モノクローナル抗体は、当業者によって容易に製造することができる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製するための一般的方法論は、周知である。不死化抗体産生細胞株は、細胞融合によって、および腫瘍形成DNAによるBリンパ球の直接の形質転換、またはエプスタイン−バーウイルスによるトランスフェクションなどの他の技術によっても、作製することができる。生成したモノクローナルのパネルは、種々の特性について、すなわち、アイソタイプおよびエピトープの親和性についてスクリーニングすることができる。
【0100】
代替的技術としては、ファージディスプレイライブラリのスクリーニングが挙げられ、このライブラリでは、例えば、ファージは、膜の表面上に多種多様な相補性決定領域(CDR)を含む一本鎖抗体(scFv)フラグメントを発現する。この技術は当該分野で周知である。
【0101】
本発明の目的について、用語「抗体」は、逆であることが明記されない限り、標的抗原に対する結合活性を保持する、抗体のフラグメント全体を包含する。このようなフラグメントとしては、Fv、F(ab’)およびF(ab’)2のフラグメント、ならびにscFvが挙げられる。さらに、抗体およびそのフラグメントは、例えばEP-A-239400に記載されたようなヒト化抗体であってもよい。
【0102】
好ましくは、本発明の方法において使用される因子は、検出可能な標識または単離可能な標識に結合される。あるいは、上記因子は、直接的には標識されないが、例えば、その因子に特異的に結合する検出可能に標識された二次抗体を使用する間接的方法を用いて検出される。
【0103】
用語「検出可能」な標識および「単離可能」な標識は、大体において本明細書中で交換可能に使用される。本発明の方法に有用ないくつかの標識は、容易には可視化する(検出可能である)ことができなくてもよいが、それにもかかわらず胎児細胞を富化(単離)するために使用することができる(例えば、常磁性粒子)。
【0104】
抗体結合の直接的な測定を可能にする例示的標識としては、放射性標識、発蛍光団、色素、磁気ビーズ、化学発光物質(chemiluminescer)、コロイド状粒子などが挙げられる。結合の間接測定を可能にする標識の例としては、基質が有色生成物または蛍光生成物を提供し得る酵素が挙げられる。さらなる例示的標識としては、適切な基質の添加の後に、検出可能な生成物シグナルを提供し得る共有結合性酵素が挙げられる。結合体に使用するのに適切な酵素の例としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼなどが挙げられる。市販されていない場合は、このような抗体−酵素結合体は、当該分野で公知の技術によって容易に生成することができる。さらなる例示的な検出可能な標識としては、アビジンまたはストレプトアビジンに高い親和性で結合するビオチン;蛍光色素(例えば、フィコビリタンパク質、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン;フルオレセインおよびテキサスレッド)(これらは、蛍光活性化セルソーティングにより使用することができる);ハプテンなどが挙げられる。
【0105】
抗体を標識するために使用することができる発蛍光団の例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、R−フィコエリトリン(R-PE)、AlexaTM、色素、Pacific BlueTM、アロフィコシアニン(APC)、およびPerCPTMが挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
上記標識は、量子ドット(quantum dot)であってもよい。抗体標識の文脈において、それらは、蛍光色素と全く同じ方法で使用される。量子ドットは、Quantum Dot Corporation (USA)およびEvident Technologies (USA)を含むいくつかの会社によって開発され販売されている。量子ドットによって標識された抗体の例は、Michalet et al. (2005) ならびにTokumasuおよびDvorak (2003)に記載されている。
【0107】
上記に示されるように、いくつかの実施形態において、因子は直接的には標識されていない。この例において、細胞は、別の要素(代表的には、検出可能に標識された二次抗体)を使用して同定される。所定のマーカーを検出する方法において、検出可能に標識された二次抗体を使用することは、当該分野で周知である。例えば、抗MHC抗体または抗テロメラーゼ抗体がウサギから産生される場合、二次抗体は、マウスから産生された抗ウサギ抗体であり得る。
【0108】
本明細書において使用される場合、抗体などの因子についての用語「飽和以下の濃度」とは、因子の分子数が、サンプル中の標的分子(例えば、MHCクラスI分子)の数よりも少なく、好ましくは顕著に少ないことを意味する。従って、この状況においては、細胞1個あたりごくわずかな標的抗原のみが、因子を標的抗原に結合させる。例えば、いくつかの実施形態において、標的に対する因子の比は、1:10未満、1:100未満、1:1000未満または1:10000未満である。因子の飽和以下の濃度は、標準的技術を使用して、当業者が容易に決定することができる。
【0109】
抗体によって結合された母系細胞は、補体依存的な溶解によって殺傷することが可能であり、従ってサンプルから除去させることが可能である。例えば、抗体標識した細胞を、ウサギ補体と共に37℃で2時間インキュベートすることができる。適切な補体系の商業的供給源としては、Calbiochem、Equitech-Bio およびPel Freez Biologicalsが挙げられる。補体依存的な溶解に使用するために適切な抗MHC抗体は当該分野で公知であり、例えば、本実施例中で言及されているW6/32抗体を、この手順のために使用することができる。
【0110】
(テロメラーゼのRNA成分、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするmRNAまたはテロメアに結合するプローブを使用した胎児細胞の標識)
本発明の方法において使用するプローブは、代表的には、DNAでもRNAでもそれらの混合物でもよい。しかし、上記プローブは、分解の可能性を低減するために通常設計される改変を含み得る。このような改変は、代表的には、ヌクレオチドアナログおよび/または変更リンカー基を使用することである。本発明のプローブに使用することができる核酸アナログとしては、ホスホロアミデート結合、ホスホロチエート結合、ホスホロジチオエート結合、O−メチルホスホロアミデート結合、ならびにペプチド核酸の骨格および結合が挙げられる。他のアナログ核酸としては、正電荷骨格、非イオン性骨格および非リボース骨格を有するものが挙げられる。1つ以上の炭素環式糖を含むプローブもまた、本発明の方法において有用である。
【0111】
好ましくは、本発明の方法において使用されるプローブは、少なくとも15ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも25ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも50ヌクレオチド長、およびさらにより好ましくは少なくとも100ヌクレオチド長である。
【0112】
1つの実施形態において、上記プローブは、ヒトTERTをコードするmRNA(配列番号2)またはヒトテロメラーゼのRNA成分(配列番号3)にハイブリダイズすることができる。これらの実施形態のプローブは十分な長さおよび特異性のものであり、分析されるサンプル中の細胞の非標的のDNAまたはRNAへのバックグラウンドのハイブリダイゼーションが(たとえあったとしても)ほとんどない。このようなプローブは、当業者によって容易に設計することができる。
【0113】
別の実施形態において、上記プローブはテロメアにハイブリダイズする。上記に概説されるように、ヒトのテロメアは、TTAGGGのリピートである。従って、本発明のこの実施形態に有用なプローブは、この配列の複数リピートまたはその逆方向相補体を含む。代表的には、テロメアとハイブリダイズするプローブは、適度な長さのものであり、その長さは、少なくとも1kb、少なくとも5kb、少なくとも20kb、少なくとも50kb、少なくとも100kb、または少なくとも200kbである。非胎児細胞もテロメアを含むが、テロメアプローブとのハイブリダイゼーションにおいてより大きなシグナルを生じる細胞を選択することによって、胎児細胞を依然として検出することができる。
【0114】
ペプチド核酸(PNA)アナログを含むペプチド核酸プローブが特に好ましい。天然に存在する核酸のホスホジエステル骨格の帯電性が高いのとは対照的に、これらの骨格は、中性条件下で実質的に非イオン性である。このPNA骨格は、ハイブリダイゼーション反応速度の改善を示す。PNAは、完全にマッチした塩基対と比較して、ミスマッチの塩基対に対して融点(Tm)をより大きく変化させる。DNAおよびRNAは、代表的に、一つの内部ミスマッチに対して2〜4℃のTmの低下を示す。非イオン性PNA骨格に関しては、この低下は、7〜9に近い。同様に、それらが非イオン性の性質であることに起因して、これらの骨格に結合する塩基のハイブリダイゼーションは、塩濃度に対して比較的影響を受けない。さらに、PNAは、細胞酵素によっては分解されず、従って、より安定であり得る。
【0115】
プローブは、標的核酸配列(ゲノムDNA、mRNAまたはテロメラーゼのRNA成分のいずれか)にハイブリダイズする場合、プローブの検出を容易にする任意の検出部分を含み得る。有効な検出部分としては、以下に記載される直接標識および間接標識の両方が挙げられる。
【0116】
プローブは、検出可能な標識を用いて直接標識することができる。検出可能な標識の例としては、蛍光化合物または化学発光化合物(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミンまたはルシフェリン)、または酵素(例えば、ELISAにおいて一般的に使用される酵素)、ビオチン、ジゴキシゲニン、および放射性同位体(例えば、32Pおよび3H)が挙げられるが、これらに限定されない。この検出可能な標識は、量子ドットであってもよい。発蛍光団は、ニックトランスレーション、ランダムプライミング(random priming)、およびPCR標識などの標準的な技術を用いて標識ヌクレオチドをプローブに組み込むことによって、ヌクレオチドに共有結合させた後に、直接的に標識することができる。あるいは、プローブ内のヌクレオチドは、リンカーによってアミノ基転移することができる。次いで、上記発蛍光団(fluoropore)は、アミノ基転移されたヌクレオチドに共有結合することができる。有用なプローブ標識の技術は、Molecular Cytogenetics: Protocols and Applications, Y.-S. Fan, Ed., Chap. 2, "Labeling Fluorescence In Situ Hybridization Probes for Genomic Targets", L. Morrison et. al., p. 21-40, Humana Press, 2002に記載されており、これは本明細書において参考として援用される。
【0117】
本明細書において記載される方法で使用され得る発蛍光団の例としては、7−アミノ−4−メチルクマリン−3−酢酸(AMCA)、Texas RedTM(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.);5−(および−6)−カルボキシ−X−ローダミン、リサミンローダミンB、5−(および−6)−カルボキシフルオレセイン;フルオレセイン−5−イソチオシアネート(FITC);7−ジメチルアミノクマリン−3−カルボン酸、テトラメチルローダミン−5−(および−6)−イソチオシアネート;5−(および−6)−カルボキシテトラメチルローダミン;7−ヒドロキシクマリン−3−カルボン酸;6−[フルオレセイン5−(および−6)−カルボキサアミド]ヘキサン酸;N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a ジアザ−3−インダセンプロピオン酸;エオシン(cosin)−5−イソチオシアネート;エリトロシン−5−イソチオシアネート;5−(および−6)−カルボキシローダミン6G;およびCascadeTM ブルーアセチルアジド(aectylazide)(Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg.)が挙げられるが、これらに限定さない。
【0118】
複数のプローブが使用される場合、異なる色の発蛍光団を、1セット中の各プローブが別個に可視化できるように選択することが可能である。例えば、活性化された母系リンパ球は、このような複数プローブのアプローチを使用して胎児細胞から識別することができる。
【0119】
蛍光部分で標識されたプローブは、蛍光顕微鏡および各発蛍光団について適切なフィルターを使用して、または複数の発蛍光団を観察するための二重もしくは三重のバンドパス(band-pass)フィルターを使用することによって調べることができる。任意の適切な顕微鏡画像化方法を使用してハイブリダイズしたプローブを可視化することが可能であり、これらの方法としては、自動化デジタル画像化システム(例えば、MetaSystemsまたはApplied Imagingから利用可能なシステム)が挙げられる。あるいは、フローサイトメトリーなどの技術を使用して、プローブのハイブリダイゼーションパターンを調査することもできる。
【0120】
当該分野で周知の手段によって、例えばビオチンまたはジゴキシゲニン(digoxygenin)を用いてプローブを間接的に標識することもできる。しかし、二次検出分子またはさらなる処理工程は、次いで標識されたプローブを可視化することを必要とする。例えば、ビオチンで標識したプローブは、検出可能なマーカー(例えば、発蛍光団)に結合体化したアビジンによって検出することが可能である。さらに、アビジンは、アルカリホスファターゼまたはホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素マーカーに結合体化することができる。このような酵素マーカーは、その酵素に対する基質を使用して、標準的な熱量測定反応(calorimetric reaction)において検出することができる。アルカリホスファターゼに対する基質としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(indolylphosphate)およびニトロブルーテトラゾリウムが挙げられる。ジアミノベンゾエートは、ホースラディッシュペルオキシダーゼの基質として使用することができる。
【0121】
ジゴキシゲニンPNAプローブは、DAKO Cytomationによるテロメアの長さのフローサイトメトリー測定のために市販されている。ジゴキシゲニン結合体化ハイブリダイゼーションは、抗ジゴキシゲニンの蛍光標識された抗体を使用して検出することができる。ジゴキシゲニン含有核酸プローブは、Dig-RNAラベリングキット(Roche)を使用しても作製することができる。
【0122】
例えば、蛍光標識したPNAプローブを使用するテロメアの長さの検出に関して、本発明の好ましい実施形態は、最もはっきりと標識された細胞を選択することである。例えばある実施形態において、胎児細胞は、代表的には、母系細胞よりも約1.3〜約1.5倍の大きさのシグナルを有する。フローサイトメトリーを使用して、De Pauw et al. (1998)およびNarath et al (2005)によって記載されるような解析アルゴリズムによりテロメアの長さを測定することができる(例えば、Schmid et al, 2002; Baerlocher et al, 2002; Baerlocher et al, 2003; Cabuy et al, 2004によって記載されている)。このアルゴリズムは、標識の程度が低い母系細胞から標識の程度の高い胎児細胞を識別するのに適切である。
【0123】
(標識胎児細胞の検出および単離)
本明細書において使用される場合、用語「富化(enriching)」および「富化された(enriched)」は、その最も広い意味で使用され、処置サンプル中の非胎児細胞に対する胎児細胞の相対濃度が、同等の未処置サンプルよりも高いように胎児細胞を単離することを包含する。好ましくは、富化胎児細胞は、母親から得られたサンプル中の非胎児細胞の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、そしてさらにより好ましくは少なくとも99%から分離される。より好ましくは、この富化細胞集団は、母系細胞を含まない(すなわち、純粋である)。用語「富化する」およびそのバリエーションは、本明細書において用語「単離する」およびそのバリエーションと交換可能に使用する。さらに、本発明の方法を使用して富化された細胞の集団は、単一の胎児細胞のみを含み得る。さらに、本発明の富化方法は、単一の胎児細胞を単離するために使用することができる。
【0124】
当該分野で周知の種々の技術(セルソーティング(特に、蛍光活性化セルソーティング(FACS))が挙げられる)によって、基質(例えば、パンニングする場合、プラスチック表面)に結合する親和性試薬を使用することによって、またはビーズの特性に基づいて単離することができる固相粒子(例えば、有色ラテックス粒子または磁気粒子)に結合する親和性試薬を使用することによって、少なくとも1つの型のMHC分子を発現する母系細胞をサンプルから除去させることができる。これらの同じ手順を使用して、テロメラーゼおよび/またはテロメアの長さをマーカーとして使用して、細胞を富化することができる。当然、母系細胞を取り出すために使用される手順は、細胞を標識した方法に依存する。
【0125】
セルソーティングによって母系細胞を取り出すために、細胞は、セルソーターにより検出することができる基質(好ましくは、色素)を用いて直接的または間接的に標識される。好ましくは、上記色素は蛍光色素である。数多くの異なる色素が当該分野で公知であり、これらとしては、フルオレセイン、ローダミン、Texas red、フィコエリトリンなどが挙げられる。セルソーティングに適切な特性を有する任意の検出可能な物質を使用することができる(例えば、蛍光色素の場合、ソーターの光源によって励起することができる色素、および細胞ソータの検出器によって検出することができる放出スペクトル)。さらに、テロメラーゼおよびまたはテロメアの長さをマーカーとして使用する同様の技術を使用して、細胞を富化することもできる。
【0126】
フローサイトメトリーにおいては、レーザー光のビームが、細胞または他の粒子を含む液体の流れを通して投射される。この細胞または他の粒子は、焦点に収束された光と衝突したときに、検出器によって収集される出力シグナルを発する。次いで、これらのシグナルは、コンピュータに記憶してデータを分析するために変換され、種々の細胞特性に関する情報を提供することができる。適切な色素で標識した細胞は、レーザービームによって励起されて特徴的な波長において光を発する。この発光を検出器によって収集し、これらのアナログシグナルをデジタルシグナルに変換し、それらの記憶、分析および表示が可能になる。
【0127】
多くのより大規模フローサイトメーターは、例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)などの「細胞ソーター」でもあり、特定の細胞集団からチューブもしくは他の収集容器へと細胞を選択的に入れる能力を有する機器である。特に好ましい実施形態において、細胞はFACSを使用して単離される。この手順は当該分野で周知であり、例えば、以下に記載されている: Melamed, et al. (1990) Flow Cytometry and Sorting Wiley-Liss, Inc., New York, N. Y.; Shapiro (2003) Practical Flow Cytometry, 4 ed, Wiley-Liss, Hoboken, NJ.;およびRobinson, et al. (1993) Handbook of Flow Cytometry Methods Wiley-Liss, New York, N. Y.。
【0128】
細胞をソーティングするために、電子機器は、レーザービームによって信号を送られた場合に各細胞について収集されるシグナルを翻訳し、コンピュータに設定されたシグナルをソーティング基準と比較する。細胞が要求される基準を満たす場合、電荷が液体流に適用される。この液体流は、細胞を含む液滴に正確に分かれる(break)。所定の細胞がその流れからまさに分かれる正確な瞬間に、この電荷が流れに適用され、次いで荷電した液滴が流れから分かれたときに適用をやめる。液滴が落ちると、その液滴は2つの金属板(強く正または負に荷電しているもの)の間を通過する。荷電した液滴は、逆の極性の金属板に向かって移動し、さらなる試験のための収集容器または顕微鏡スライドに入れられる。
【0129】
これらの細胞は、例えばレーザー(例えばアルゴンレーザー(488nm))を使用して、および例えば自動クローニングユニット(Autoclone unit)を取り付けたフローサイトメーター(Coulter EPICS Altra, Beckman- Coulter, Miami, FIa., USA)を用いて、単一の細胞として、または複数の細胞として収集容器に自動的に入れることができる。本発明の方法に有用な適切なFACS機器の他の例としては、MoFloTM高速細胞ソーター(Dako-Cytomation ltd)、FACS AriaTM (Becton Dickinson)、ALTRATM ハイパーソート(Beckman Coulter)およびCyFlowTMソーティングシステム(Partec GmbH)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
固相粒子を使用してサンプルから母系細胞を取り出すために、所望の特性を有する任意の粒子を利用することができる。例えば、より大きな粒子(例えば、直径約90〜100μmを超える粒子)を使用して、沈降を促進することができる。好ましくは、上記粒子は、「磁気粒子」(すなわち、磁場を使用して収集することができる粒子)である。代表的には、磁気プローブで標識した母系細胞を、磁場内に保たれたカラムを通して通過させる。標識細胞をカラム内(磁場に保たれている)に保持し、一方、未標識細胞を素通りさせて、他の末端で溶出する。磁気粒子は、現在、Dynal Biotech (Oslo, Norway)およびMilteni Biotech GmbH (Germany)を含む種々の製造業者から市販されている。磁気セルソーティング(MACS)の例は、Al- Mufti et al. (1999)によって提供されている。なおさらに、テロメラーゼおよび/またはテロメアの長さをマーカーとして使用する細胞富化の同様の技術を使用することができる。
【0131】
レーザーキャプチャーマイクロダイセクションをまた、本発明の方法を使用して、スライド上で標識された母系細胞を選択的に取り出すために使用することができる。レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを使用する方法は、当該分野で公知である(例えば、U.S. 20030227611およびBauer et al, 2002を参照のこと)。
【0132】
当業者に認識されるように、母系細胞を1つの型の標識で標識し、胎児細胞を別の型の標識で標識し、異なる標識に基づいて、それぞれの細胞型を同定および/または除去/選択することができる。例えば、本明細書に記載されるように、母系細胞が蛍光緑色シグナルを生じるようにそれらを標識することができ、そして本明細書に記載されるように、母系細胞が蛍光赤色シグナルを生じるようにそれらを標識することができる。
【0133】
富化の後、当業者に公知の技術を使用して、細胞をインビトロで培養して胎児細胞の数を増加させることができる。例えば、RPMI 1640培地(Gibco)での培養が挙げられる。
【0134】
(サンプルおよび細胞の調製)
本明細書において使用される場合、用語「サンプル」とは、妊娠している女性から直接的に採取された物質(例えば、血液)および既に部分的に精製されたそのような物質をさす。このような部分的精製の例としては、少なくとも一部の非細胞物質の除去、母系赤血球の除去、および/または母系リンパ球の除去が挙げられる。従って、用語「サンプル」は、本明細書において、例えば、抗MHC抗体を使用した母系細胞の除去の後であるがテロメラーゼの発現またはテロメアの長さに基づいて選択する前に得られるサンプル(逆もまた同様)を含むように広く使用される。いくつかの実施形態において、サンプル中の細胞は、本発明の方法が行われる前にインビトロで培養される。
【0135】
本発明の方法は、全ての種の全ての妊娠している雌性(女性)に対して行うことが可能であり、この方法において、その種のゲノムは、主要組織適合遺伝子複合体を含み、および/またはその生物の胎児細胞は、テロメラーゼを産生する。好ましくは、上記雌性は、哺乳動物である。好ましい哺乳動物としては、ヒト、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシおよびウマ)、ならびに愛玩用動物(例えば、ネコおよびイヌ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
好ましい実施形態において、胎児細胞を含むサンプルは、妊娠している雌性から妊娠の第1トリメスターに得られる。1つの実施形態において、サンプルは、ヘパリンまたは好ましくはACD溶液を含有するサンプルなどの、凝固を防止されている血液サンプルであってもよい。このサンプルは、好ましくは、死細胞、細胞破片および細胞凝集の数を最小限にするために、使用するまで0〜4℃で保存される。サンプル中の胎児細胞の数は、胎児の胎齢(age)を含む要素に依存して変動する。代表的には、7〜20mlの母系血液は、母系細胞からの分離において十分な胎児細胞を提供する。好ましくは、30ml以上の血液が採取されると、さらなるサンプルを採取する必要なく十分な細胞が確保される。
【0137】
別の実施形態において、例えば、WO 03/020986、WO 2004/076653またはWO 2005/047532に一般的に記載されるように、胎児細胞は、母親の子宮頚部粘液(cervical mucous)から得られる。
【0138】
好ましい実施形態において、母系血液を含むサンプルまたは母系血液に由来するサンプルから、赤血球が取り出される。赤血球は、当該分野で公知の任意の技術を使用してことができる。赤血球(Red blood cell)(erythrocyte)は、例えば、Percoll、Ficollまたは他の適切な勾配上での密度勾配遠心分離によって除去することができる。赤血球は、市販の溶解溶液(例えば、FACSlyseTM, Becton Dickinson)、塩化アンモニウムベースの溶解溶液、または他の浸透性溶解因子を使用した選択的溶解によって除去させることもできる。
【0139】
胎児の有核赤血球(nucleated red cell)は、サンプル中に存在する可能性がある場合、アセタゾールアミドによる塩化アンモニウム溶解(Orskoff lysis)から保護することができる。
【0140】
回収した胎児細胞の純度は、MHC分子以外の母系細胞マーカーに結合する助剤を使用して母系細胞のサンプルを除去させることによって高めることができる。この目的のためのこのようなマーカーの選択についての本質的な特徴は、それらが少なくとも大部分の胎児細胞で発現されていないということである。この補助的な除去は、本発明の工程の前、工程の間または工程の後に行う。当業者は、母系血液中の有核母系細胞の型としては、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞および幹細胞が挙げられ、それぞれが除去のために標的となり得る特異的セットの表面マーカーによって特徴付けられることを理解している。好ましくは、抗体−母系細胞複合体を形成するのに十分な時間かつ条件で、母系サンプルまたはその有核細胞画分を母系細胞上の細胞マーカーに結合する抗体に曝し、そして抗体−母系細胞複合体を単離することによって、母系細胞集団または母系細胞を、さらに除去させる。本明細書に記載される他の実施形態と同様に、抗体−母系細胞複合体は、好ましくは、容易に検出可能な標識および/または容易に単離可能な標識と上記複合体を接触させることによって単離される。サンプルから母系細胞をできる限りさらに除去させるために標的化することができる非MHC分子の例としては、CD3、CD4、CD8、CD10、CD14、CD15、CD45、CD56およびBlaschitz et al (2000)に記載されたタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。このようなさらなる母系細胞特異的抗原は、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子と組み合わせて、容易に使用することができる。例えば、抗MHC抗体および抗CD45抗体の両方を結合した磁気ビーズを作製することができる。
【0141】
テロメアーゼ活性が癌細胞において検出される場合があることが示されている(例えば、Satyanarayana et al, 2004を参照のこと)。従って、テロメラーゼの存在またはテロメアの長さに関して細胞を選択する場合、サンプルは、癌細胞を含まないことが好ましい。本発明の方法が行われる前に癌について個体をスクリーニングすることによって、このような細胞を避けることができる。このようなスクリーニングは、当該分野で公知の任意の方法によって行うことが可能であり、これらとしては、癌マーカーについて患者またはそのサンプルを分析することが挙げられる。当業者は、このような癌マーカーを、サンプルから癌細胞を取り出す方法においても使用することができることを理解する。
【0142】
癌マーカーは、癌細胞によって発現および/または過剰発現されていることが示されている分子である。癌マーカーの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CA 15−3(乳癌を含む多くの癌に対するマーカー)、CA 19−9(膵臓癌および胆管腫瘍を含む多くの癌に対するマーカー)、CA 125(卵巣癌を含む種々の癌に対するマーカー)、カルシトニン(甲状腺髄様癌を含む種々の腫瘍に対するマーカー)、カテコールアミンおよび代謝産物(phaeochromoctoma)、CEA(結腸直腸癌および他の胃腸管癌を含む種々の癌に対するマーカー)、上皮増殖因子(EGF)および/または上皮増殖因子レセプター(EGFR)(両方とも結腸癌に関連する)、A33結腸上皮抗原(結腸癌)、hCG/βhCG(生殖細胞腫瘍および絨毛癌を含む種々の癌に対するマーカー)、尿中の5HIAA(カルチノイド症候群)、PSA(前立腺癌)、セロトニン(sertonin)(カルチノイド症候群)、NY−ESO−1(食道癌のマーカー)、サイログロブリン(甲状腺癌)、ならびにCT抗原、例えばMAGE(多くの肝臓癌および黒色腫に関連)、GAGE(肝細胞癌)、SSX2(肉腫)、分化抗原(例えば、Melan A/MART1、GP100およびチロシナーゼ)、変異抗原(例えば、CDK4、β−カテニン)、増幅抗原(amplification antigen)(例えば、P53およびHer2)、およびスプライシング変異体抗原(splice variant antigen)(例えば、ING1)。
【0143】
多くの研究から、患者が癌を有するか否かを調査する場合、リンパ球中のテロメラーゼ活性が偽陽性となる場合があるということが確認されている(例えば、Kavaler et al., 1998; Matthews et al., 2001; Seki et al, 2001; Sidransky, 2002; Trulsson et al., 2003を参照のこと)。従って、テロメラーゼの存在またはテロメアの長さについて細胞を選択する場合、少なくともいくつかの環境において、サンプル中のそのような細胞を避けること、および/または区別的にリンパ球を標識するための手段をとることは有用である。さらに、テロメラーゼの存在またはテロメアの長さに基づいて細胞を選択する場合、妊娠している女性が活性化リンパ球のレベルの上昇を引き起こし得る感染を有していないことを確実にすることも有用である場合がある。リンパ球は、当該分野で公知の任意の技術を使用して取り出すことおよび/または標識することができる。例えば、Seki et al. (2001)は、癌細胞を検出するため、テロメラーゼアッセイを行う前にFicoll-Isopaque勾配遠心分離を行うことによって、末梢血リンパ球を取り出した。本発明の例において、同様の手順を使用することができる。別の例において、適切な抗体を用いてリンパ球上の細胞表面マーカーを標的化し、結合した細胞を分離することによって、細胞は予備ソーティング(pre-sort)される。代替的には、リンパ球に特異的な抗体は、胎児細胞を検出するために使用する標識とは異なる標識を用いて標識することができ、これにより、母系リンパ球は二重に標識される一方で、胎児細胞は、例えば、テロメラーゼに結合する抗体でのみ標識されるので、2つの細胞型を区別することが可能である。母系リンパ球の偽検出を避けるために使用することができる多くのリンパ球マーカーが存在する。適切なT細胞マーカーとしては、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD25、CD56、CD94およびCD158aが挙げられるが、これらに限定されない。適切なB細胞マーカーとしては、CD19およびCD20が挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
本発明の方法は、サンプル中の細胞を固定および透過処理する工程を含んでもよい。このような手順は、当該分野で公知である。例えば、固定は、最初のパラホルムアルデヒド固定、続いて界面活性剤(例えば、Saponin、TWEENベースの界面活性剤、Triton X-100、Nonidet NP40、NP40代用物、または他の膜破壊界面活性剤)での処理を含み得る。透過処理は、アルコール(エタノールまたはメタノール)での処理も含み得る。最初の固定は、エタノール中の固定であってもよい。固定/透過処理の組合せは、市販のキットを使用して行うこともできる。これらのキットとしては、DAKO-IntrastainTM、CaltagのFix & Perm試薬、Ortho DiagnosticのPermeafixTMが挙げられる。
【0145】
他の実施形態において、例えば、エレクトロポレーションまたは量子ドットが、検出可能に標識された抗テロメラーゼ抗体を細胞に送達するのに使用される場合、その細胞を固定および透過処理することは必ずしも必要ではない。結果として、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、生細胞を検出および/または単離することができる。このような単離生細胞は、当該分野で公知の技術を使用してインビトロで培養されて胎児細胞の数を増加させることができる。例えば、RPMI 1640培地(Gibco)中での培養が挙げられる。
【0146】
エレクトロポレーションを使用して標識抗体を生細胞に送達するための方法は、当該分野で公知である(例えば、BerglundおよびStarkey, 1989を参照のこと)。
【0147】
(胎児細胞の正の選択のための追加手順)
本発明の方法は、テロメラーゼまたはテロメアの長さに基づいた選択以外に、胎児細胞の正の選択を行う追加工程を含み得る。このような正の選択は、(ほんの少ない量の)残存する母系細胞によってではなく、胎児細胞によって産生された分子を標的化することに依存している。当業者は、少なくとも1種のMHC分子を発現する母系細胞を取り出すための上記に記載の手順は、特定の細胞マーカーを発現する胎児細胞の正の選択のために容易に適合することを理解する。
【0148】
例えば、胎児細胞は、ほとんど全ての栄養膜型のマーカーであるサイトケラチン−7を使用して選択される。胎児栄養膜の多くの型をカバーする別のマーカーは、HLA−Gである。栄養膜特異的なさらなる抗体が市販されているが、栄養膜の全ての型をカバーする抗体はない。
【0149】
さらなる実施形態において、胎児/胚ヘモグロビンは、胎児の有核赤血球に対するマーカーとして使用することができる。存在する胎児細胞型に依存して、そのようなマーカーを組み合わせることができる。
【0150】
(使用)
富化胎児細胞は、胎児の体細胞を構成する同一の遺伝性DNAを含み、従って、本発明の方法を使用して単離された胎児細胞は、当該分野で公知の技術を使用して所定の特性および/または異常性について分析することが可能である。このような分析は、特徴またはそれに対する素因を検出することを可能にする任意の細胞物質に対して行うことができる。好ましくは、この物質は核DNAであるが、しかし、少なくともいくつかの例において、単離された胎児細胞由来のRNAまたはタンパク質を分析することが有益であり得る。さらに、上記DNAは、遺伝子をコードしてもよいし、翻訳されない機能的RNAをコードしていてもよいし、または、分析されるDNAは、有益な非転写配列またはマーカーであってさえよい。
【0151】
1つの好ましい実施形態において、染色体異常が検出される。「染色体異常」によって、染色体または染色体番号における任意の異常全体が含まれる。例えば、これらとしては、ダウン症候群を示す第21番染色体のトリソミー、トリソミー18、トリソミー13、性染色体異常(例えば、クラインフェルター症候群(47、XXY)、XYYまたはターナー症候群)、染色体転座および染色体欠損の検出、ならびにそれぞれの遺伝子中の変異(例えば、欠失、挿入、転位、転換および他の変異)の検出が挙げられる。ごく一部のダウン症候群患者は転座を有し、そして染色体欠失症候群としては、アンジェルマン症候群およびプラーダー−ヴィリ症候群(これらの両方とも、15番染色体の部分的な欠損に関係する)が挙げられる。他の型の染色体の問題は、ぜい弱X症候群、血友病、脊髄性筋ジストロフィ、筋緊張性ジストロフィ、メンケズ疾患、および神経線維腫症などとしても存在し、これらはDNA分析によって検出することができる。
【0152】
語句「遺伝性異常」とは、単一ヌクレオチドの置換、欠失、挿入、微小欠失(micro-deletion)、微小挿入(micro-insertion)、短腕欠失(short deletion)、短腕挿入(short insertion)、複数ヌクレオチドの置換(multinucleotide substitution)、ならびに異常なDNAメチル化および刷り込み消失(loss of imprint)(LOI)もさす。このような遺伝性異常は、例えば、単一遺伝子障害(例えば、嚢胞性線維症、キャナヴァン病、テイ−サックス病、ゴーシェ病、家族性自律神経障害、ニーマン−ピック病、ファンコーニ貧血、毛細血管拡張性運動失調、ブルーム症候群、家族性地中海熱(FMF)、X連鎖遅発性脊椎骨端異形成症、第XI因子)、刷り込み障害[例えば、アンジェルマン症候群、プラーダー−ヴィリ症候群、ベックウィズ−ヴィーデマン症候群、ミオクローヌス−ジストニー症候群(MDS)]などの遺伝性の遺伝疾患、または種々の疾患に対する素因(例えば、BRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子中の変異)に関する場合がある。DNA分析によって検出することができる他の遺伝的障害は、例えば以下のものが公知である:サラセミア(thalassaemia)、
デュシェーヌ筋ジストロフィ、コネキシン26、先天性副腎発育不全、X連鎖水頭症、オルニチントランスカルバモイラーゼ(transcarbamlyase)欠損症、ハンチントン病、ミトコンドリア病、I型またはIV型のムコ多糖症、ノリエ病、レット症候群、スミス−レムリ−オピッツ症候群、21-水酸化酵素欠損症またはホロカルボキシラーゼシンテターゼ欠損症、褶曲性骨形成異常(diastrophic displasia)、ガラクトシアリドーシス(galactosialidosis)、ガングリオシドーシス、遺伝性感覚性ニューロパシー、低ガンマグロブリン血症ビナエミア(hypogammaglobulinaemia)、低ホスファターゼ血症、リー症候群、アスパルチングルコミン尿症(aspartylglucosaminuria)、異染性白質萎縮ウィルソン病、ステロイドスルファターゼ欠損症、X連鎖副腎脳白質ジストロフィ、ホスホリラーゼキナーゼ欠損症(VI型グリコゲン蓄積症)および縮鎖酵素欠損症(III型グリコゲン蓄積症)。これらの遺伝疾患および他の遺伝疾患は、The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 8th Edition, Volumes I, II, IIIおよびIV, Scriver, C. R. et al. (編者), McGraw Hill, 2001において言及されている。明らかに、遺伝子をクローニングして、変異が検出されている任意の遺伝疾患を分析することができる。
【0153】
本発明の方法は、胎児の性別を決定するためにも使用することができる。例えば、Y染色体特異的マーカーを用いて単離した胎児細胞を染色すると、その胎児が男性(雄性)であることが示され、一方染色できない場合は、その胎児が女性(雌性)であることが示される。
【0154】
本発明のなお別の使用において、本明細書で記載される方法は、父子検査のために使用することができる。子供の父親が争われる場合、本発明の手順によって妊娠期間の早期にこの問題を解決することができる。適切な多型マーカーの分析による、親子検査のための多く手順が記載されている。本明細書において使用される場合、語句「多型マーカー」とは、任意の核酸変化(例えば、置換、欠失、挿入、逆位)、縦列リピートの変数(VNTR)、短縦列リピート(STR)、ミニサテライト変異体リピート(MVR)などをさす。代表的には、親子検査は、DNAフィンガープリントの有用リピート領域の標的化、または多型性の高いゲノム領域(例えば、HLA遺伝子座)の分析を含む。
【0155】
(胎児細胞の分析)
本発明の方法を使用して富化/検出された胎児細胞は、種々の手順によって分析することができるが、代表的には、遺伝的アッセイが行われる。遺伝的アッセイの方法としては、染色体分析の標準的技術、メチル化パターンの分析、制限フラグメント長の多型アッセイ(restriction fragment length polymorphism assay)、配列決定およびPCRベースのアッセイ、ならびに下に記載される他の方法が挙げられる。
【0156】
染色体異常は、構造または数の異常のいずれも、当該分野で周知である染色体分析によって検出することができる。染色体分析の分析は、例えばコルヒチンなどの有糸分裂紡錐体インヒビターを添加することによって、有糸分裂の間に停止された細胞に対して一般的に行われる。好ましくは、ギームザ染色した染色体分布を調製して、染色体数の分析および染色体転座の検出を行うことができる。
【0157】
遺伝アッセイとしては、変異または多型を同定するための任意の適切な方法が挙げられるが、これらは例えば以下のものである:1以上の会合位置におけるDNAの配列決定;野生型配列または変異配列のいずれかの会合位置にハイブリダイズするように設計されたオリゴヌクレオチドプローブの区別的なハイブリダイゼーション;(好ましくは会合したDNA領域の増幅の後の)適切な制限酵素による消化の後の変性ゲル電気泳動;S1ヌクレアーゼ配列分析;好ましくは会合したDNA領域の増幅後の非変性ゲル電気泳動;従来のRFLP(制限フラグメント長多型)アッセイ;野生型配列にはマッチし、変異配列にはマッチしないオリゴヌクレオチド(または逆もまた同じ)を使用する選択的DNA増幅;あるいは、野生型または変異遺伝子型に対してマッチするPCR(または類似の)プライマーを使用した制限部位の選択的導入とその後の制限消化。このアッセイは、間接的であってもよい。すなわち、1以上の変異位置に結合することが知られている別の位置また別のは遺伝子において変異を検出することができるアッセイであってもよい。これらのプローブおよびプライマーは、天然から単離されたDNAのフラグメントであってもよいし、合成されたものであってもよい。
【0158】
非変性ゲルを使用して、適切な制限酵素による消化から生じる異なる長さのフラグメントを検出することができる。このDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)方法およびその改変法を使用して、通常は消化の前に増幅される。
【0159】
DNAの増幅は、確立されたPCR方法によって達成することもできるし、あるいはその進化方法(development)または代替法、例えばリガーゼ連鎖反応、QBレプリカーゼおよび核酸配列ベースの増幅などのによって達成することもできる。
【0160】
「適切な制限酵素」とは、野生型配列を認識して切断するが変異配列は切断しない(逆もまた同様)酵素である。制限酵素によって認識され切断される配列(また場合によってはそうでない配列)は、変異の結果として存在してもよいし、またはそれらの配列は、PCR反応でマッチしないオリゴヌクレオチドを使用して正常遺伝子座もしくは変異遺伝子座に導入することもできる。酵素が低頻度でのみDNAを切断すること、言い換えれば、めったにしか存在しない配列を認識することが都合がよい。
【0161】
別の方法において、野生遺伝子型または変異遺伝子型のいずれかにはハイブリダイズするが、両方にはハイブリダイズしないPCRプライマーのペアが、使用される。次いで、増幅DNAが産生されたか否かということが、野生型遺伝子型または変異遺伝子型(およびこれによる表現型)であることを示す。
【0162】
好ましい方法は、類似のPCRプライマーの使用であるが、野生型配列または変異配列のうちの一方のみにハイブリダイズするPCRプライマーを使用する。これらは、野生型配列または変異配列のいずれかに本来存在しない制限部位を導入する。
【0163】
増幅した配列のその後のクローニングを容易にするために、プライマーは、その5’末端に付随した制限酵素部位を有することができる。従って、上記プライマーの全てのヌクレオチドは、所定の遺伝子配列に由来するか、または制限酵素部位を形成するために必要とされる数個のヌクレオチドの除いて、その所定の遺伝子に隣接した配列に由来する。このような酵素および部位は、当該分野で周知である。プライマーそれ自体は、当該分野で周知の技術を使用して合成することができる。一般的に、これらのプライマーは、市販の合成機器を使用して作製することができる。
【0164】
蛍光色素を利用するPCR技術は、本発明の方法によって単離された胎児細胞からDNAの遺伝的欠損を検出するためにも使用することができる。これらとしては、以下の5つの技術が挙げられるが、これらに限定されない:
i)蛍光色素を使用して、特異的なPCRで増幅された二重鎖DNA産物を検出することができる(例えば、エチジウムブロマイドまたはSYBRグリーンI)。
ii)5’ヌクレアーゼ(TaqMan)アッセイを使用することができる。このアッセイは、PCR産物が伸長する間にTaq DNAポリメラーゼのヌクレアーゼ活性によって放出されるまで蛍光がクエンチされているような特別に構築されたプライマーを利用する。
iii)セルフハイブリダイゼーションした場合に蛍光がクエンチされる(蛍光色素およびクエンチャー分子が隣接している)特別に構築されたオリゴヌクレオチドに依存する分子ビーコン技術をベースにしたアッセイを使用することができる。特異的に増幅されたPCR産物へのハイブリダイゼーションの際に、蛍光分子からのクエンチャーの分離に起因して蛍光が増す。
iv)特別に調製したプライマーを利用するAmplifluor (Intergen)技術をベースにしたアッセイを使用することができる。このアッセイにおいて蛍光は、やはりセルフハイブリダイゼーションに起因してクエンチされる。この場合において、蛍光は、プライマー配列を用いた伸長によるPCR増幅(これは、蛍光分子とクエンチャー分子との分離をもたらす)の間に放出される。
v)蛍光共鳴エネルギー転移の増加に依存するアッセイを使用することができる。このアッセイは、2つの特別に設計された隣接プライマー(それらの末端に異なる蛍光色素を有する)を利用する。これらのプライマーが特異的なPCR増幅産物に対してアニーリングする場合、その2つの蛍光色素が、一緒にされる。一方の蛍光色素の励起によって、もう一方の蛍光色素の蛍光の増加がもたらされる。
【0165】
必要とされる場合には、遺伝的分析のために固定サンプルからDNAを抽出するための方法がまた、当該分野で公知である。例えば、米国特許出願第20040126796号は、組織および他のサンプル(例えば、ホルマリン固定組織)からDNAを抽出するための方法を開示している。PCRで使用するための固定サンプルからのDNAの単離は、LehmanおよびKreipe (2001)およびFitzgerald et al. (1993)によっても記載される。
【0166】
本発明の方法を使用して得られる胎児細胞または胎児細胞の富化細胞集団は、マイクロタイタープレートのウェルに配置して(ウェルあたり1つの細胞)、独立に分析することができる。好ましくは、各細胞は、所定の特性についてスクリーニングされるだけではなく、特定のウェル中の細胞が胎児細胞であることを確認/検出するためにスクリーニングされる。この例において、多重分析は、Finlay et al. (1996, 1998および2001)によって一般に記載されているように行うことができる。
【0167】
(キット)
本発明はまた、サンプルから胎児細胞を富化するためのキットも提供する。1つの例において、このキットは、i)少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、MHC分子と会合する化合物に結合する因子、および/または造血細胞に結合する因子、ならびにii)テロメラーゼに結合する分子、および/または上記テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、および/またはテロメアにハイブリダイズする分子を含む。他の例は、本明細書おいて記載されている。
【0168】
1つの実施形態において、本発明のキットは、少なくとも1つの富化/検出手順のために十分な量で単一の因子を含む。複数の因子を含むキットもまた、本発明によって企図される。複数の因子は、同じクラスの異なるMHC分子に結合する場合もあるし、および/または無関係な分子に結合する場合もある(例えば、HLA−A分子の単一型の決定基に結合するある因子およびCD45に結合する別の因子)。このような因子は、検出可能な標識または単離可能な標識に結合することができる。使用の簡便さのために、複数の因子は、代表的に同じ検出可能な標識または単離可能な標識に結合される。
【0169】
1つの実施形態において、上記因子は、磁気ビーズに各々結合される。単一型のビーズが異なる型の因子を備えるように異なる因子が異なるビーズに結合してもよいし、またはビーズは、単一の型の因子のみを備え、これらのビーズが単一の型であるが異なる因子に結合された他のビーズと混合されるように産生されてもよい。
【0170】
上記キットは、胎児細胞の遺伝子型の分析、胎児の父親の決定、および/または胎児の性別の決定のための成分をさらに含み得る。
【0171】
代表的には、このキットは、例えば、サンプルから胎児細胞を富化するためのパッケージされた因子を使用するための、有形の形態(例えば、紙媒体または電子媒体を含む)で記録された指示を備える。これらの指示は、代表的に、試薬および/または試薬の濃度、ならびに少なくとも1つの富化方法パラメータを示す。このパラメータは、例えば、サンプル量あたりの使用する因子の相対量である場合がある。さらに、例えば、維持、時間、温度、および緩衝液の条件などの詳細が含まれている場合もある。
【実施例】
【0172】
(実施例1 マウス抗ヒトHLAクラス1抗原抗体を使用する胎児細胞の富化)
(材料および方法)
(血液)
民間の中絶医院およびRoyal Children's Hospital (RCH) (Melbourne, Australia)から、血液サンプルを得た。サンプル収集は、ドナーを同定せず匿名で行った。中絶医院からのサンプルは、中絶前であることを詳細に記載されたが、胎児細胞数が多く得られた一部のサンプルが中絶後に得られたことを後に決定した。
【0173】
抗凝固剤としてEDTAを含む真空収集チューブに血液サンプル(8〜16ml)を回収した。このサンプルを回収してすぐ(fresh)または4℃で一晩保存した後のいずれかで処理した。
【0174】
(磁気細胞分離)
密度勾配(Ficoll 1.077)遠心分離によって単核細胞を単離し、すべてのサンプルを以下の3つの手順のいずれかを用いて磁気的に標識した:
1.HLA−A、HLA−BおよびHLA−C全てに共通のHLAクラス1エピトープに対する、飽和量のビオチン化抗体(US Biological;カタログ番号H6098-39F2; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC/ビオチン;IgG2a;クローン3H2211)に細胞を曝した。次いで、細胞を洗浄し、飽和量のストレプトアビジンでコーティングした常磁性粒子(Molecular Probes/Invitrogen;カタログ番号C-21476 「Captivate」)で標識した。
2.CD45に対する抗体でコーティングした飽和量の常磁性粒子(Miltenyi カタログ番号130-090-872;濃縮「全血」抗ヒトCD45ビーズ)に、細胞を曝した。
3.手順1および手順2を組み合わせた:細胞をHLA抗体に対してまず標識し、次いでCaptivateおよびCD45磁気ビーズに同時に曝した。
【0175】
磁気的に標識した細胞サンプルを磁化カラム(Miltenyi, LS columns カタログ番号130-042-401)に通して、全ての標識細胞を保持した。非付着フラクションおよび付着フラクションを収集してペレット化し、さらに使用するまで−80℃で凍結した。
【0176】
(定量PCR(Q−PCR)による胎児細胞の検出)
市販のキット(Qiagen カタログ番号51204 "FlexiGene DNA kit)を使用してDNAを調製し、Y染色体特異的な多重コピー配列を標的にして、リアルタイムPCR機器(StrataGene MX3000)でQ−PCRを行った。性別非特異的な配列を標的にする並行反応を行って、サンプル中のDNAの総量を定量した。全てのPCR試薬は、Qiagenから入手した。既知量の純粋な男性(雄)由来のDNAから得た標準と比較することによって、磁気的に分離された調製物中の男性(=胎児)細胞と全ての細胞との総数を計算した。
【0177】
(結果および考察)
HLAクラス1細胞除去により処理した30サンプルのうち、14サンプルが男性細胞を含んでいた。全ての胎児のうちの約半分が女性であるので、男性細胞の検出率がほぼ50%であることは、ほぼ全ての母系サンプル中の胎児細胞が回収されることを示している。
【0178】
CD45細胞除去により処理した9サンプルのうち、5サンプルが男性細胞を含んでいた。この場合もまた、これも検出率はおよそ50%であり、胎児細胞がいつも回収されることを示している。
【0179】
10ml血液サンプル中の男性胎児細胞の総数の統計値を、図1に提供する。男性細胞を含有しているサンプルのみをプロットしている。胎児細胞数は、細胞約1個から100個を超えるまで変動している。
【0180】
図2は、HLA除去についての在胎齢に対する胎児細胞数の依存性を示す。
【0181】
図3は、磁気カラムの保持されなかったフラクション中で見出された総細胞数と合わせた胎児細胞数を提供する。この数は、1000未満〜約100,000まで変動する。出発集団の単核細胞中のおよそ1千万個の細胞に関して、この数は劇的な富化である。1%の保持細胞フラクションが胎児細胞について試験されるコントロールも示す。1%のコントロール中に、時折いくつかの胎児細胞が存在することから、これらの手順で全ての胎児細胞が回収されるわけではなく、一部は、CD45+かつHLA Cl.1+であることが示される。
【0182】
(実施例2 マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABCクローン39−F2またはクローンW6/32を抗CD45抗体と組み合わせて使用した胎児細胞の富化)
そうでないことが述べられない限り、使用した手順は、上記の実施例1について記載した手順と同一であった。
【0183】
異なる在胎齢の血液を勾配遠心分離に供して、赤血球を取り出し、次いでビオチン化モノクローナル抗体の2つのクローン(39−F2およびW6/32)[US Biological, USA]のうちのいずれかで標識した。各抗体は、HLA−A、HLA−B、HLA−Cの異なる単一型の決定基に対する抗体である。その後、ストレプトアビジンでコーティングされた常磁性ビーズ(「Captivate」、Moleculare Probes, USA)とCD45抗原に対する抗体でコーティングされた常磁性ビーズ[Miltenyi, Germany]とを用いて、同時に細胞を標識した。
【0184】
標識した細胞を磁気カラム[Miltenyi]を通過させ、非接着細胞をY染色体特異的配列を標的にする定量PCRに供した。
【0185】
図4および図5は、10mlの血液あたりの合計の胎児(男性)細胞数を示し、在胎齢(GA)の関数としてプロットしている。全ての血液サンプル(胎児の性別は不明)のほぼ半分が、Yシグナルを生じた。(少なくとも1つの男性細胞を含む)陽性サンプルのみを示す。
【0186】
これらの結果は、実施例1に提供された結果の補足となる。これらは、以下の追加情報を提供する:
a.この方法によって達成される胎児細胞の富化は、1つの特定のHLA−ABC抗体クローンによって標的とされる特別なHLA−ABCエピトープに依存せず、クラス1抗原上の異なるエピトープを標的とする異なる抗体を用いて達成することができる。
b.胎児細胞の富化の促進は、MHC分子に結合する抗体と造血細胞に結合する抗体との組合せを使用することによって得られる(この場合、抗CD45抗体)(図5)。
c.同様の数の胎児細胞は、在胎齢7週および8週において見出され、6週目という早期でさえ胎児細胞が見出される。
【0187】
(実施例3 マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC抗体を使用した胎児細胞の富化を示すさらなる研究)
(材料および方法)
(血液)
妊娠した女性の血液を、民間の中絶医院およびRoyal Children's Hospital (RCH) (Melbourne, Australia)から得た。妊娠安定期において母系血液サンプルを回収し、その後任意の検査または胎児細胞を母系循環中に放出する流産手順を行った。モデル系として使用するために、妊娠中絶(termination of pregnancy)の間またはその後に他のサンプルを回収し(中絶後サンプル)、胎児の出血に起因して胎児細胞の数が増加した血液サンプルを得た。サンプル収集は、ドナーを同定せず匿名で行った。
【0188】
抗凝固剤としてEDTAを含む真空収集チューブに血液サンプル(8〜16ml)を回収した。このサンプルを回収してすぐまたは4℃で一晩保存した後のいずれかで処理した。
【0189】
(磁気細胞分離)
密度勾配(Ficoll 1.083)遠心分離によって単核細胞を単離し、すべてのサンプルを以下の3つの手順のいずれかを用いて磁気的に標識した:
1.HLA−A、HLA−BおよびHLA−C全てに共通のHLAクラス1エピトープに対する、飽和量の以下のビオチン化抗体の1つに細胞を曝した:
a.US Biological;カタログ番号H6098-39F2; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;(データコード:F2)
b.US Biological;カタログ番号H6098-60B; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;(データコード:60B)
c.EBioscience;カタログ番号13-9983-82; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;クローンW6/32(データコード:W6)、または
HLA−B遺伝子座上のエピトープに対する抗体:1種のλ型(one Lambda);マウス抗ヒトBw4(カタログ番号BIH0007; マウス抗ヒトIgG2a);マウス抗ヒトBw6(カタログ番号BIH0038; マウス抗ヒトIgG3)(データコード:Bw4/6)。
【0190】
次いで、細胞を洗浄し、飽和量のストレプトアビジンでコーティングした常磁性粒子(Molecular Probes/Invitrogen;カタログ番号C-21476 「Captivate」)で標識した。
【0191】
2.CD45に対する抗体でコーティングした飽和量の常磁性粒子(Miltenyi カタログ番号130-090-872;濃縮「全血」抗ヒトCD45ビーズ)に、細胞を曝した。
【0192】
3.手順1および手順2を組み合わせた:細胞をHLA抗体に対してまず標識し、次いでCaptivateおよびCD45磁気ビーズに同時に曝した。
【0193】
磁気的に標識した細胞サンプルを磁化カラム(Miltenyi, LS columns カタログ番号130-042-401)に通して、全ての標識細胞を保持した。非付着フラクションおよび付着フラクションを収集してペレット化し、さらなる使用まで−80℃で凍結した。
【0194】
(定量PCR(Q−PCR)による胎児細胞の検出)
市販のキット(Qiagenカタログ番号51204 "FlexiGene DNA kit)を使用してDNAを調製し、Y染色体特異的な多重コピー配列を標的にして、リアルタイムPCR機器(StrataGene MX3000)でQ−PCRを行った。性別非特異的な配列を標的にする並行反応を行って、サンプル中のDNAの総量を定量した。全てのPCR試薬は、Qiagenから入手した。既知量の純粋な男性由来のDNAから得た標準と比較することによって、磁気的に分離された調製物中の男性(=胎児)細胞と全ての細胞との総数を計算した。胎児細胞数が少ない場合(<10)、この方法は、胎児細胞数を見積もるには不十分である(under-estimate)ことが見出された。
【0195】
(結果および考察)
表1は、妊娠の7週目と14週目との間に収集された安定期母系血液サンプル中の胎児細胞の検出率を示す。HLAクラス1およびCD45の細胞除去によって101サンプルを処理した。43ものサンプルが、はっきりしたY染色体特異的シグナルを生じ、このことからそのサンプルが少なくとも1個の胎児細胞を含んでいることが示された。すべての胎児の約半分が女性であるので、男性細胞の検出率がほぼ50%であることは、ほぼ全ての母系サンプルにおいて胎児細胞が回収されたことを示す。PCR方法が1〜10個の範囲の胎児細胞数を見積もるには不十分であることが見出されたことを考えると、本発明者らは、正確な胎児細胞の回収は検出率よりも高く、おそらく100%であることを提言する。
【0196】
【表1】

【0197】
このデータから、胎児細胞は在胎齢7週もの早期に見出される場合があるという、他のいずれの刊行された結果をも超える劇的な改善と思われる結果が示される。
【0198】
実施例2と同様に、図6は、中絶後の血液サンプルを使用した、HLAクラスI抗体による細胞除去に加えてCD45除去を補助的に使用することの効果を示す。これは、胎児細胞の数が増加するモデル系として役立つ。HLAクラスI抗原に対するビオチン化抗体(Bw4+6)と共に有核血液細胞をインキュベートし、次いでストレプトアビジン鉄流体(streptavidin ferrofluid)と共にインキュベートした。サンプルの半分をCD45抗原に結合する常磁性ビーズと共に同時にインキュベートし、残りの半分をコントロールとして役立てた。残りの細胞の総数、および男性細胞の数をQ−PCRによって決定した。HLA+CD45除去後の細胞数の比率を、HLA除去のみの後の細胞数で割り、コントロールの%として示した。各サンプルに対するALL 対 Y値のプロット(図6の挿入グラフ)から、2つの値の間で相関がないことが示される。このグラフは、CD45ビーズによる補助的な除去が1%のコントロール(HLA除去のみ)に対して残りの総細胞数を減少させ、その一方で胎児細胞の数は、約50%だけ減少されるのみであることを示す。
【0199】
さらなる実験において、母系血液(10〜12ml)を密度勾配(1.083)によって処理し、抗HLA Bw4+Bw6/ビオチンによって有核細胞を標識し、次いでストレプトアビジン鉄流体+/−抗CD45常磁性ビーズを用いて除去させた。残りの総細胞数(もちろん、大部分が母系)をQ−PCRによって決定した。この結果を中央値および示された近似範囲と共に図7に提供する。このデータから、HLA+CD45での除去は、平均で約100個の細胞という合計細胞数を提供することが示される。これは、胎児細胞が存在するときはいつでも、平均の胎児細胞の純度が>1%であることを意味する(図7)。母系細胞のコンタミが比較的少ないこと、および結果として胎児細胞の純度が高いということから、陽性胎児細胞マーカーが顕微鏡または単一細胞のPCR技術によって胎児細胞を正(ポジティブ)に同定することが可能である。
【0200】
図8は、胎児細胞回収率および除去総細胞数に関して、異なるHLA−クラスI抗体の間の比較を提供する。3つの抗体(F2、60BおよびW6/32)は、HLA−A、HLA−BおよびHLA−C全ての抗原に共通な3つの異なるエピトープに対するものである。Bw4/6は、Bw4およびBw6に対する特異的な抗体の混合物である。ヒトの場合は、Bw4、Bw6または両方であるので、両方の組合せが各血液ドナーへの抗体結合を確実にする。これらのデータは、異なる抗体の間で差はほとんどないことを示し、この方法についての市販の抗体の幅広い選択性を示す。
【0201】
(実施例4 モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体によるヒトテロメラーゼ逆転写酵素タンパク質(hTERT)の検出)
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体によってヒトテロメラーゼ逆転写酵素タンパク質(hTERT)を検出するための2つのプロトコルを以下に提供する。当業者は、以下に記載される別々の手順の多くが、2つのプロトコルの間で交換可能であることを認識する。
【0202】
(プロトコル1)
妊娠した女性の血液由来の細胞を、遠心分離によって血漿から分離する。Percoll密度勾配で赤血球を除去させる。市販キット(DAKO-Intrastain)を使用して、細胞を固定し透過処理する。PBS中でこの細胞を再度洗浄し、次いで抗テロメラーゼモノクローナル抗体(Abcam Ltd, Cambridge, UK)と共に1時間室温でインキュベートする。
【0203】
次いで、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(150mM NaCl、10mMリン酸緩衝液)中で細胞を洗浄し、モノクローナル抗体に結合するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光的に標識した二次抗体を1時間室温で添加する。0.5%BSAを含むPBS中で細胞を洗浄する。
【0204】
MoFIo高速細胞ソーター(Dako-Cytomation, Ltd)での蛍光活性化セルソーティングを使用して、細胞を分析し、標識細胞を分離する。
【0205】
(プロトコル2)
妊娠した女性の血液由来の細胞を、遠心分離によって血漿から分離する。Becton Dickinson FACSLyse溶液を使用した選択的溶解によって、赤血球を除去させる。細胞をパラホルムアルデヒド(約1.5%)で24時間4℃で固定する。PBS中で細胞を洗浄し、0.05% Triton X-100(PBS中)を使用して30分間室温で透過処理する。
【0206】
再度細胞をPBS中で洗浄し、次いで磁気ビーズ(Dynal Biotech)で標識した抗テロメラーゼ抗体(Calbiochem, California, USA)を含むポリクローナル抗血清と共に、1時間室温でインキュベートする。
【0207】
次いで、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで細胞を洗浄し、分析し、そして磁気活性化セルソーティング(magnetic activated cell sorting)を使用して、標識細胞を分離する。
【0208】
(実施例5 ハイブリダイゼーションによるhTERT mRNAの検出)
妊娠した女性の血液由来の細胞を遠心分離によって血漿から分離する。70% Percoll密度勾配で赤血球を除去させる。市販キット(Caltag Fix & Perm)を使用して細胞を固定して透過処理する。
【0209】
細胞懸濁液を遠心分離し(1000g、5分)、500μlの氷冷メタノール中に細胞を再び懸濁し、そして10分間4℃でインキュベートする。この細胞を1000gで5分間遠心分離し、500μlの0.2% Triton X-100/TE緩衝液(TE=Tris/EDTA緩衝液(10mM Tris/1mM EDTA pH7.2))に再び懸濁する。この細胞を再度1000gで5分間遠心分離し、上清を注意深く除去する。500μlのTEで細胞を一旦洗浄し、1000gで5分間遠心分離する。細胞を5μlのTEに再び懸濁する(泡立つのを避ける)。
【0210】
フルオレセイン−UTPを含む20μlのリボプローブをハイブリダイゼーション緩衝液(50%ホルムアミド、10mM Tris(pH7.0)、5mM EDTA、10%硫酸デキストラン、1μg/μl tRNA)に添加する。このリボプローブは、hTERTをコードするmRNAに相補的である配列を有し、これは、当該分野で公知の技術(Sambrook et al、上述)を使用して生成することができる。ハイブリダイゼーションを12時間45℃で進行させる。2×SSC緩衝液で細胞を洗浄し、ペレット化する(1000g、5分間)。できる限り多くの上清を取り出し、200μlの2×SSC/0.3% NP40に細胞を再び懸濁する。
【0211】
この細胞を37℃で30分間インキュベートする。次いで、細胞を1000gで5分間遠心分離し、注意深く上清を除去する。次いで、200μlの2×SSC/0.3% NP40に細胞を再び懸濁し、室温で30分間インキュベートする。次いで、細胞を1000gで5分間遠心分離し、注意深く上清を除去する。次いで、細胞を2.5μlのTEに再び懸濁する。
【0212】
MoFIo高速細胞ソーター(Dako-Cytomation, Ltd)での蛍光活性化セルソーティングを使用して、細胞を分析し、標識細胞を分離する。
【0213】
(実施例6 PNAハイブリダイゼーションプローブを使用したテロメアの長さの決定)
血液由来の細胞を遠心分離によって分離する。Percoll密度勾配で赤血球を除去させる。市販キット(Caltag Fix & Perm)を使用して細胞を固定し透過処理する。得られる固定細胞の100μlをエッペンドルフチューブに配置し、遠心分離する(1000g、5分)。
【0214】
500μlの氷冷メタノール中に細胞を再懸濁し、10分間4℃でインキュベートし、そして1000gで5分間遠心分離する。500μlの0.2% Triton X-100/TE緩衝液にこの細胞を再懸濁し、1000gで5分間遠心分離し、次いで上清を注意深く除去する。
【0215】
500μlのTEで細胞を一旦洗浄し、1000gで5分間遠心分離する。細胞を5μlのTEに再懸濁する(泡立ちを避ける)。20μlのPNA(Dako Telomere PNA kit/FITC, Dako-Cytomation)(ハイブリダイゼーション緩衝液中)を添加し、サーマルサイクラー中で80℃で20分間同時に変性する(co-denature)。
【0216】
12時間37℃でハイブリダイゼーションを進行させる。次いで、2×SSC緩衝液でこの細胞を洗浄し、ペレット化する(1000g、5分間)。できる限り多くの上清を取り出し、細胞を200μlの2×SSC/0.3% NP40に再懸濁する。細胞を37℃で30分間インキュベートし、1000gで5分間遠心分離し、できる限り多くの上清を取り出す。次いで、細胞を200μlの2×SSC/0.3% NP40中に再懸濁し、室温で30分間インキュベートする。次いで、細胞を1000gで5分間遠心分離する。できる限り多くの上清を取り出し、細胞を2.5μlのTEに再懸濁する。
【0217】
細胞を分析し、MoFIo高速細胞ソータ(Dako-Cytomation, Ltd)での蛍光活性化セルソーティングを使用して、標識細胞を分離する。
【0218】
(実施例7 抗テロメラーゼ抗体を使用した胎児細胞の標識)
妊娠の第1トリメスターの間の女性ボランティアから、静脈穿刺(venupuncture)によって末梢血の10mlサンプルを得た。
【0219】
70%Percollの勾配上での密度勾配遠心分離によって、赤血球を除去させた。5%BSAを含有するPBSで収集した細胞を洗浄し、次いで、2%パラホルムアルデヒド中で4℃で一晩固定した。
【0220】
PBSで細胞を洗浄し、次いで、0.05% Triton X-100(PBS中)を使用して30分間4℃で透過処理した。PBSで一旦細胞を洗浄し、500μlのPBSに再懸濁した。抗テロメラーゼポリクローナル抗体(Abcam Ltd, Cambridge, UK)(100μl H2O中10μg)を細胞に添加し、4℃で4時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、500μlのPBSに再懸濁した。100μlのヤギ抗ウサギIgG−FITCを添加し、細胞を1時間4℃でインキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、5mlのPBSに再懸濁した。
【0221】
次いで、Dako-Cytomation MoFIo高速細胞ソーターを使用して、細胞を分析し、ソーティングした。この初期実験において、ソーティングゲートを、上位5%の蛍光値を発する細胞に対して設定した。
【0222】
RED (Spectrum OrangeTM) Y-FISHプローブ (Vysis, USA)およびGreen (Spectrum GreenTM) X-FISHプローブ(Vysis, USA)で、男性細胞を標識する。男性胎児細胞は、1つのRed FISHシグナルおよび1つのGreen FISHシグナルを発現する細胞である。
【0223】
図9から理解できるように、男性胎児細胞は、X染色体マーカーおよびY染色体マーカーについて二重染色され、このことから、抗テロメラーゼ抗体を使用して、母系細胞から胎児細胞を単離することができることが示される。
【0224】
さらなる実験において、全血サンプル(10ml)を、密度勾配遠心分離によって赤血球について除去させ、抗テロメラーゼポリクローナル抗体で標識し、FACSによって分析した。蛍光強度の上位5%を含む領域中の細胞をソーティングし(図10)、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションによって胎児細胞の含有量を評価した。
【0225】
10サンプルの研究から、胎児細胞数が1〜10個の範囲である50%のケースにおいて男性細胞が得られた。これらの図は、実施例3に記載されたHLAネガティブ選択アプローチを使用して得た図と類似している。
【0226】
(実施例8 MHCを発現する母系細胞の除去とテロメラーゼの発現および/またはテロメアの長さに基づいた細胞の選択との組合せ)
以下に2つの手順を提供するが、当業者は、以下に記載された別々の手順の多くが2つのプロトコルの間で交換可能であることを認識する。本開示を考慮すると、他のプロトコルは容易に考案することが可能である。
【0227】
(プロトコル1)
妊娠した女性の血液由来の細胞を、遠心分離によって血漿から分離する。Percoll密度勾配で赤血球を除去させる。市販キット(DAKO-Intrastain)を使用して、細胞を固定し透過処理する。細胞をPBSで再度洗浄し、次いで抗テロメラーゼモノクローナル抗体(Abcam Ltd, Cambridge, UK)と共に1時間室温でインキュベートする。
【0228】
次いで、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS(150mM NaCl、10mMリン酸緩衝液)で細胞を洗浄し、モノクローナル抗体に結合するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識した二次抗体を1時間室温で添加する。0.5%BSAを含有するPBSで細胞を洗浄する。
【0229】
MoFIo高速細胞ソーター(Dako-Cytomation, Ltd)での蛍光活性化セルソーティングを使用して、細胞を分析し、標識細胞を分離する。
【0230】
上記の正の選択の後、富化した胎児細胞集団からMHC分子を発現する残りの母系細胞の少なくとも一部を除去する。この目的を達成するために、HLA−A、HLA−BおよびHLA−C全てに共通のHLAクラス1エピトープに対する、飽和量の以下のビオチン化抗体の1つに細胞を曝した:
a.US Biological;カタログ番号H6098-39F2; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;(データコード:F2)
b.US Biological;カタログ番号H6098-60B; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;(データコード:60B)および
c.EBioscience;カタログ番号13-9983-82; マウス抗ヒトHLAクラス1抗原ABC;クローンW6/32(データコード:W6)。
【0231】
次いで、細胞を洗浄し、飽和量のストレプトアビジンでコーティングした常磁性粒子(Molecular Probes/Invitrogen;カタログ番号C-21476 「Captivate」)で標識した。磁気的に標識した細胞サンプルを磁化カラム(Miltenyi, LS columns カタログ番号130-042-401)に通して、全ての標識細胞を保持した。カラムを通過した細胞は、さらなる富化胎児細胞集団を含み、これをさらなる分析のために収集する。
【0232】
胎児細胞の存在を確認するための分析は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションによるものであってもよいし、定量PCRによるものであってよい。
【0233】
(プロトコル2)
抗凝固剤としてEDTAを含む真空収集チューブに母系血液サンプル(8〜16ml)を回収する。このサンプルを回収してすぐまたは4℃で一晩保存した後のいずれかで処理する。
【0234】
単核細胞を密度勾配(Ficoll 1.083)遠心分離によって単離し、全サンプルをHLA−B遺伝子座上のエピトープに対する以下の抗体で磁気的に標識する:1種のλ型;マウス抗ヒトBw4(カタログ番号BIH0007;マウス抗ヒトIgG2a);マウス抗ヒトBw6 (カタログ番号BIH0038;マウス抗ヒトIgG3) (データコードBw4/6)。
【0235】
次いで、細胞を洗浄し、飽和量のストレプトアビジンでコーティングした常磁性粒子(Molecular Probes/Invitrogen;カタログ番号C-21476「Captivate」)で標識する。磁気標識した細胞サンプルを、磁化カラム(Miltenyi, LS columns カタログ番号130-042-401)に通して通過させ、全ての標識細胞を保持する。カラムを通して通過させた細胞を、テロメアの長さについてのさらなる処理のために収集する。
【0236】
上記の負の選択の後、富化した胎児細胞集団中の胎児細胞を、テロメアの長さに基づいて選択する。この目的を達成するために、細胞を500μlのTEで一旦洗浄して1000gで5分間遠心分離する。細胞を5μlのTEに再懸濁する(泡立ちを避ける)。20μlのPNA(Dako Telomere PNA kit/FITC, Dako-Cytomation)(ハイブリダイゼーション緩衝液中)を添加し、サーモサイクラー中で80℃で20分間同時に変性する。
【0237】
12時間37℃でハイブリダイゼーションを進行させる。次いで、2×SSC緩衝液でこの細胞を洗浄し、ペレット化する(1000g、5分間)。できる限り多くの上清を取り出し、細胞を200μlの2×SSC/0.3% NP40に再懸濁する。次いで、細胞を37℃で30分間インキュベートし、1000gで5分間遠心分離して、できる限り多くの上清を取り出す。次いで、細胞を200μlの2×SSC/0.3% NP40中に再懸濁し、室温で30分間インキュベートする。次いで、細胞を1000gで5分間遠心分離する。できる限り多くの上清を取り出し、細胞を2.5μlのTEに再懸濁する。
【0238】
MoFIo高速細胞ソータ(Dako-Cytomation, Ltd)での蛍光活性化セルソーティングを使用して、細胞を分析し、標識細胞を分離する。
【0239】
胎児細胞の存在を確認するための分析は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションによるものであってもよいし、定量PCRによるものであってよい。
【0240】
多くのバリエーションおよび/または改変が、広く記載された本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態において示された本発明に対してなされ得ることが、当業者によって理解される。従って、本実施例は、全ての局面において例示として考えられるべきであり、限定として考えられるべきではない。
【0241】
上記で議論された全ての刊行物は、本明細書においてその全体が援用される。
【0242】
本明細書中に含まれている全ての文書、作用、材料、デバイス、物品などの考察は、単に、本発明のための背景を提供する目的ものである。任意または全てのこれらの事柄が、先行技術に基づくものの一部を形成することも、本出願の各クレームの優先日前に存在したので本発明に関連する分野における共通の一般的知識であったということも、承認すると考えられるべきではない。
【0243】
(参考文献)
【0244】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0245】
【図1】図1は、10ml血液サンプル中の男性胎児細胞の合計数の統計値を示す。男性サンプルを含む細胞のみをプロットする。胎児細胞の数は、約1個〜100個を超える範囲である。
【図2】図2は、HLA除去についての在胎齢に対する胎児細胞数の依存性を示す。
【図3】図3は、磁気カラムの保持されなかったフラクション中で見出された総細胞数と合わせた胎児細胞数を示す。
【図4】図4は、抗HLA抗体と抗CD45抗体との組合せを用いた胎児細胞の富化を示す。
【図5】図5は、図4を作成するために使用したデータである。
【図6】図6は、CD45常磁性ビーズを用いた補助除去の効果である。
【図7】図7は、抗HLA抗体+/−CD45抗体を用いた除去後の母系血液細胞のコンタミネーションの合計を示す。
【図8】図8は、異なる抗HLAクラスI抗体の間の比較を示す。
【図9】図9は、RED Y−FISHプローブを使用した男性胎児細胞の除去を示す。
【図10】図10は、抗テロメラーゼ抗体の使用した胎児細胞の選択を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルから胎児細胞を富化する方法であって、
i)少なくとも1種のMHC分子を細胞表面で発現する細胞を取り出すことによって母系細胞を除去させる工程;ならびに
ii)a)テロメラーゼを発現する細胞を選択すること、および/またはb)テロメラーゼの長さに基づいて細胞を選択することによって胎児細胞を選択する工程
を含む、方法。
【請求項2】
サンプルから胎児細胞を富化する方法であって、
少なくとも1種のMHC分子を細胞表面で発現する細胞を該サンプルから取り出す工程
を含む、方法。
【請求項3】
前記MHC分子がクラスI MHC分子である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記クラスI MHC分子がHLA−Aおよび/またはHLA−Bである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
i)前記サンプル中の細胞を少なくとも1種のMHC分子に結合する因子と接触させる工程、およびii)該因子によって結合された細胞を取り出す工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記MHC分子がクラスI MHC分子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記クラスI分子がHLA−Aおよび/またはHLA−Bである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
i)少なくとも1種のクラスI MHC分子を結合する因子、およびii)少なくとも1種のクラスII MHC分子を結合する因子と、前記サンプルを接触させる工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記因子が、
i)HLA−A分子の単一型の決定基、
ii)HLA−B分子の単一型の決定基、または
iii)HLA−A分子およびHLA−B分子の単一型の決定基
に結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記因子がHLA−Cに結合しない、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記因子がHLA−A分子、HLA−B分子およびHLA−C分子の単一型の決定基に結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記因子が飽和濃度以下の濃度で使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
同じクラスのMHC分子の異なる対立遺伝子に結合する3種以上の因子が使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記因子が、同じクラスのMHC分子の全ての対立遺伝子に集合的に結合する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、
i)サンプル中の細胞をMHC分子と会合する化合物に結合する因子と接触させる工程、および
ii)該因子によって結合された細胞を取り出す工程
を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
MHC対立遺伝子の遺伝子型は、母系、父系および/または胎児について決定されない、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記因子が抗体または抗体フラグメントである、請求項5〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記因子が、検出可能な標識または単離可能な標識に結合される、請求項5〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、前記因子に検出可能な標識または単離可能な標識を結合させる工程をさらに含む、請求項5〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記標識が、蛍光標識、放射性標識、常磁性粒子、化学発光標識、二次酵素反応によって検出可能な標識、および分子への結合によって検出可能な標識からなる群より選択される、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞を取り出す工程が、標識を検出する工程および標識された細胞を取り出す工程を含む、請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記検出可能な標識または単離可能な標識が蛍光標識であり、かつ前記細胞を取り出す工程が、蛍光活性化セルソーティングを行う工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記検出可能な標識または単離可能な標識が常磁性粒子であり、かつ前記細胞を取り出す工程が、標識された細胞を磁場に曝露する工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、細胞を胎児細胞に結合する因子と接触させる工程、および胎児細胞に結合する因子によって結合された細胞を選択する工程をさらに含む、請求項2〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
サンプルから胎児細胞を富化する方法であって、該サンプルからテロメラーゼを発現する細胞を選択する工程を含む、方法。
【請求項26】
前記方法がテロメラーゼのタンパク質成分を検出する工程を含む、請求項1〜25に記載の方法。
【請求項27】
前記テロメラーゼのタンパク質成分が、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、テロメラーゼ関連タンパク質−1(TEP−1)、または14−3−3タンパク質である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞をテロメラーゼのタンパク質成分に特異的に結合する抗体に曝露する工程を含む、請求項26または請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体が検出可能に標識される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、前記抗体に結合する検出可能に標識された二次抗体に細胞を曝露する工程を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、テロメラーゼのRNA成分を検出する工程を含む、請求項1または請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするmRNAを検出する工程を含む、請求項1または請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が、前記RNAまたはmRNAにハイブリダイズする標識されたプローブに細胞を曝露する工程を含む、請求項31または請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記プローブがPNAプローブである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
サンプルから胎児細胞を富化する方法であって、テロメアの長さに基づいて細胞を選択する工程を含む、方法。
【請求項36】
前記方法が、細胞をテロメアに結合する検出可能に標識されたプローブと接触させる工程を含む、請求項1または請求項35に記載の方法。
【請求項37】
約1個〜約100個の細胞が選択され、かつ該選択細胞が、サンプル中の他の細胞よりも多くのプローブによって結合される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記サンプルが、母系の血液、子宮頚部粘液、または尿である、請求項1〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記方法が、前記サンプルから赤血球、リンパ球、および/または癌細胞を取り出す工程をさらに含む、請求項1〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記方法が、前記サンプルから造血細胞を取り出す工程をさらに含む、請求項1〜39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、前記サンプル中の細胞を造血細胞に結合する因子と接触させる工程を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記造血細胞が、T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞および好塩基球からなる群より選択される、請求項40または請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記因子が、CD3、CD4、CD8、CD10、CD14、CD15、CD45およびCD56からなる群より選択される細胞の細胞表面タンパク質に結合する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記サンプルが、妊娠の第1トリメスターにおいて母親から得られる、請求項1〜43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
サンプル中の胎児細胞を検出する方法であって、テロメラーゼの発現について候補細胞を分析する工程を含む、方法。
【請求項46】
サンプル中の胎児細胞を検出する方法であって、テロメアの存在について候補細胞を分析する工程および/または候補細胞中のテロメアの長さを分析する工程を含む、方法。
【請求項47】
請求項1〜44のいずれかに記載の方法によって得られる胎児細胞の富化集団。
【請求項48】
請求項47に記載の胎児細胞およびキャリアを含有する組成物。
【請求項49】
サンプルから胎児細胞を富化するための、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子の使用。
【請求項50】
サンプルから胎児細胞を富化するための、テロメラーゼに結合する因子の使用。
【請求項51】
サンプルから胎児細胞を富化するための、テロメアに結合する因子の使用。
【請求項52】
所定の遺伝子座における胎児細胞の表現型を分析するための方法であって、
i)請求項1〜44のいずれかに記載の方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または請求項45もしくは請求項46に記載の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、ならびに
ii)所定の遺伝子座における少なくとも1つの胎児細胞の遺伝子型を分析する工程
を含む、方法。
【請求項53】
前記方法が、核型分析、ハイブリダイゼーションベースの手順、および/または増幅ベースの手順を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記胎児細胞が、疾患状態またはそれに対する素因に関連する遺伝性異常について分析される、請求項52または請求項53に記載の方法。
【請求項55】
胎児の性別を決定する方法であって、
i)請求項1〜44のいずれかに記載の方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または請求項45もしくは請求項46に記載の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、ならびに
ii)胎児の性別を決定するために少なくとも1つの胎児細胞を分析する工程
を含む、方法。
【請求項56】
胎児の父親を決定する方法であって、
i)請求項1〜44のいずれかに記載の方法を使用して富化胎児細胞を得る工程、および/または請求項45もしくは請求項46に記載の方法を使用して胎児細胞を検出する工程、ならびに
ii)1以上の遺伝子座において候補父親の遺伝子型を決定する工程、
iii)該1以上の遺伝子座において胎児の遺伝子型を決定する工程、ならびに
iv)ii)およびiii)の遺伝子型を比較して、該候補父親が該胎児の生物学的父親である可能性を決定する工程
を含む、方法。
【請求項57】
請求項1〜35のいずれかに記載の方法を使用して得られた細胞を胎児細胞と同定する工程をさらに含む、請求項52〜56のいずれかに記載の方法。
【請求項58】
サンプルから胎児細胞を富化するためのキットであって、
i)少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子、および/または造血細胞に結合する因子、ならびに
ii)テロメラーゼに結合する分子、および/または該テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、および/またはテロメアにハイブリダイズする分子
を含む、キット。
【請求項59】
サンプルから胎児細胞を富化するためのキットであって、少なくとも1種のMHC分子に結合する因子、および/またはMHC分子と会合する化合物に結合する因子、および/または造血細胞に結合する因子を含む、キット。
【請求項60】
前記少なくとも1種のMHC分子に結合する因子が抗体である、請求項58または請求項59に記載のキット。
【請求項61】
前記キットが、
i)全てのHLA−A分子に結合する因子、
ii)全てのHLA−B分子に結合する因子、および/または
iii)全てのHLA−A分子およびHLA−B分子に結合する因子
を含む、請求項60に記載のキット。
【請求項62】
少なくとも1種の因子が磁気ビーズに結合される、請求項58〜61のいずれかに記載のキット。
【請求項63】
胎児細胞を検出するためのキットであって、テロメラーゼに結合する分子、および/または該テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、および/またはテロメアにハイブリダイズする分子を含む、キット。
【請求項64】
前記分子が、抗テロメラーゼ抗体、テロメラーゼのタンパク質成分をコードするmRNAにハイブリダイズするポリヌクレオチド、テロメラーゼのRNA成分にハイブリダイズするポリヌクレオチド、または染色体上のテロメアDNAにハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる群より選択される、請求項58または請求項64に記載のキット。
【請求項65】
胎児細胞において遺伝性異常を検出するためのキットであって、
i)胎児細胞を検出するための分子であって、該分子は、テロメラーゼ、該テロメラーゼのタンパク質成分をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする分子、またはテロメラーゼにハイブリダイズする分子、ならびに
ii)該遺伝性異常を検出するための少なくとも1種の試薬
を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−543277(P2008−543277A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510361(P2008−510361)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000617
【国際公開番号】WO2006/119569
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(503009948)ジェネティック テクノロジーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】