説明

胚幹細胞培養のための方法

本発明は、支持マトリックス内に封入された多能性ES細胞を提供するステップと支持マトリックス構造体を形成するステップと、維持培地中の3次元培養で封入された細胞を維持するステップと、さらに、任意の分化培地中で封入された細胞を3次元培養で分化させるステップとを含む細胞培養の方法に関する。本発明は、さらに、封入された細胞の使用を組み入れるスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性(pluripotent)細胞を培養して細胞の制御された自己再生を促進する方法に関する。本発明はさらに、多能性細胞から同種の細胞集団を拡大し、分化させるための統合された方法を提供する。さらに、本発明は、多能性細胞、例えば胚幹細胞の成長および分化に影響を及ぼす条件、培地および刺激を同定するためのスクリーニング法を提供する。
【背景技術】
【0002】
用語「幹細胞」とは、複数の組織種の細胞を生じさせることができる細胞をいう。異なる種類の幹細胞が存在する。単一の全能性細胞は、精子が卵を受精させる時に形成され、この全能性細胞は生物全体を形成する能力を有する。受精後数時間以内に、この細胞は同一の全能性細胞へと分裂する。受精から約4日後および数サイクルの細胞分裂の後、これらの全能性幹細胞は特殊化し始める。全能性細胞がさらに特殊化されると、次にそれらは「多能性」と呼ばれる。多能性細胞は体のあらゆる細胞種へ分化することができるが、胎盤、または胎児の発育に必要な支持組織を生じさせることはできない。多能性細胞の分化のための能力は「完全(total)」ではないため、そのような細胞は「全能性」とは呼ばれず、これらは胚でもない。多能性幹細胞はさらに特殊化されて複能性(multipotent)幹細胞となり、複能性幹細胞は特定の機能に特殊化された特定の系統の細胞へと分化する。複能性細胞は、それらの由来する組織に見出される細胞種へ分化することができる。例えば、血液幹細胞は、赤血球、白血球および血小板にのみ分化することができる。
【0003】
多能性幹細胞、例えば胚幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞および複能性幹細胞(臍帯幹細胞および成体幹細胞など)は、それらの自己再生能力および可塑性の能力のために組織工学での使用が提案されている強力な手段である。多能性幹細胞(ES細胞など)を誘導して中胚葉、外胚葉および内胚葉細胞系統の複能性細胞へインビトロで分化させることができる。中胚葉系統の細胞、例えば骨芽細胞、軟骨細胞および心筋細胞は、それぞれ骨形成用添加剤、軟骨形成用添加剤、および筋原性用添加剤の影響を受けて生成される。現在、多能性幹細胞(ES細胞など)、および複能性細胞の医薬における使用は、組織様構造の形成に関する知識が不十分であること、さらに、異なる細胞系統へ自発的に分化する傾向があることにより、制限されている(実際に、この多系統への分化可能性は異所性組織形成のリスクを表し得る)。臨床使用のためには、高い純度の同種細胞集団が必要である。
【0004】
有効な多能性細胞を用いる臨床治療のための必要条件は、関連する臨床適用に適切な数の細胞を供給することである。未分化の胚幹細胞は、鍵となる分化細胞種の生成のための有望な供給源である;しかし、多くの未分化細胞集団にとって、現在の培養法は増殖に適していないか、または有用な収量の分化細胞を供給しない。
【0005】
ヒトES(hES)細胞を維持するための現在の方法は、hES細胞の増殖を可能にし、自発的な分化を防ぐために、フィーダー層、フィーダー馴化培地の使用、またはヒトもしくは動物細胞抽出物の培地での供給を必要とする。そのような方法は、その後、ヒトでの治療において細胞を使用することが計画されている場合には適さない。hES細胞の臨床適用には、動物の生成物の非存在下で、標準化され、十分に調節された環境(疾患伝達のリスクを排除するためのいわゆる「異物フリー」の培養環境)で細胞を培養する方法を必要とする。さらに、hES細胞治療薬がフィーダー細胞またはそれに由来する汚染物質で汚染されるリスクを排除するために、フィーダー細胞または支持細胞の非存在下でhES細胞を培養する方法が必要とされる。理想的には、十分な数のhES細胞を産生する方法は、標準化され、制御しうるものであるべきである。そのような方法は今まで利用可能でなかった上に、伝統的な方法を用いるhES細胞の単離および維持は高度な技術を要する方法であって臨床適用に適さない(1)。従って、hES細胞の増殖のための、さらに、必要に応じてその後の分化のための、改良された培養法を開発する必要性がある。
【0006】
未分化のマウス胚幹細胞(mES)からさらに分化した細胞種への移行を達成するための方法は既知である。しかし、プロセスが細分化された既存の2次元プレートまたはフラスコによる(高い維持費を伴う)培養プロトコールを用いることは、試料に破壊的な影響を与え、結果が極めて一定しない可能性がある。
【0007】
伝統的に、2次元培養での胚幹細胞培養プロトコールは3つの明確に区別できる段階を伴い、最初にESの維持(すなわち、自己再生(増殖とも呼ばれる)して幹細胞コロニーを形成する)、次に胚様体(EB)形成につながる初期分化、そして次にさらなる系統特異的な分化である。各段階は熟練した操作および発生ステップに特異的なプロトコールを必要とする。
【0008】
ESの維持のため、初めはES細胞を単離してフィーダー層で共培養した。その後、フィーダー層の代わりに馴化培地を使用できることが見出され(2;3)、mES細胞に対して、LIF(フィーダーから分泌される栄養素)が、精製された形態で供給されると多能性を維持できることが見出された(4)。
【0009】
ES細胞の多能性の評価は、オクタマー結合因子3/4(Oct−4として既知)の発現をモニターすることにより行われる。Oct−4は、初期胚、生殖系列細胞、ならびに未分化のEC(胚性癌腫)、EG、およびES細胞に限定されているPit−Oct−Unc(POU)ファミリー転写調節因子である(5)。内部細胞塊(ICM)の細胞の多能性の能力の発達のためにはインビボでのOct−4発現が必要とされ(6)、インビトロではOct−4発現は多能性の維持のために化学静力学的に(chemostatically)制御される(7)。
【0010】
伝統的な分化法において、内部細胞塊(ICM)由来の胚幹細胞は、胚様体(EB)が形成される段階を経て、様々な細胞種へと分化する。胚様体形成、すなわちES細胞の初期分化は、様々な刺激、例えばフィーダー細胞の除去、LIF(マウスES細胞に対して)への曝露の除去、またはフィーダー馴化培地への曝露の除去により開始させることができる。胎生期癌(EC)細胞のために開発された胚様体(EB)懸濁法(8)は、3つの胚葉、中胚葉、外胚葉および内胚葉の全ての形成により、着床後の胚性組織に類似する多分化構造の形成をもたらす(9)。懸濁培養で2〜4日以内に、外胚葉がICMの表面に形成され、「単層EB(simple EB)」と呼ばれる構造を生む。分化の4日前後には、基底層を有する円柱上皮が発生し、中心の空洞が形成される。これらの構造は「嚢胞EB」と呼ばれ、インビトロでの培養を継続すると、内胚葉細胞および中胚葉細胞が出現する(10)。
【0011】
外胚葉細胞は多能性であり、神経組織、上皮および歯組織へ分化することができる。内胚葉細胞は多能性であり、消化管、気道および内分泌腺へ分化することができる。中胚葉細胞は多能性であり、造血系統および骨格系統へ分化することができる(骨格系統には心筋芽細胞(cardiomyogenic cell)、軟骨形成細胞および骨形成細胞が含まれる)。中胚葉では、心原性の分化が最初のかつ優勢な分化プロセスであることが知られている。心原性の分化は、その他の分化プロセス、例えば軟骨形成細胞への分化および骨形成細胞への分化を抑止し、遅らせる可能性があると考えられている。
【0012】
インビボで形成された線維性骨の形態学的特徴、超微細構造的特徴および生化学的特徴を提示するミネラル化した小結節のインビトロでの形成である、骨形成細胞への分化は、2次元培養での機能的な骨芽細胞の分化により達成されたものである。しかし、フラスコおよびウェルプレートで行われる2次元培養は、それらの細胞外マトリックスを骨の細胞外マトリックスに似た構造に組織かすることのできる程度に、少数の細胞しか分化させることができない(11〜13)。さらに、2次元培養は、細分化されていて、大きな労力を要し、関連する様々な培養ステップの間に操作者の「判断」を必要とする。
【0013】
インビボで形成される軟骨細胞の形態学的特徴、超微細構造的特徴および生化学的特徴を提示する軟骨小結節のインビトロでの形成である軟骨形成細胞への分化は、培養における機能的な軟骨細胞の分化により達成されたものである。近年、ESCの軟骨形成系統へのインビトロでの分化を誘導するための多くの試みがなされている。様々な軟骨形成のための添加剤、例えばBMP−2およびBMP−4(Kramer et al.,(2000).Embryonic stem cell−derived chondrogenic differentiation in vitro:activation by BMP−2 and BMP−4 Mech.Dev.92,193−205)、TGF−b3(Kawaguchi et al.,(2005).Osteogenic and chondrogenic differentiation of embryonic stem cells in response to specific growth factors Bone 36,758−769.)、デキサメタゾン(Tanaka et al.,(2004).Chondrogenic differentiation of murine embryonic stem cells:effects of culture conditions and dexamethasone J.Cell Biochem.93,454−462.)などが胚様体(EB)の分化の間に添加された場合に、それらの添加剤により、ESCの軟骨形成細胞への分化が誘導されたことが報告されている。異なるアプローチとして、IGF−I、TGF−b3、BMP−4およびPDGFを供給することにより、FACSで選別された中胚葉の前駆細胞に由来するEB培養において、肉眼で見える軟骨形成が達成されたことが報告されている (Nakayama et al.,(2003).Macroscopic cartilage formation with embryonic stem−cell−derived mesodermal progenitor cells J.Cell Sci.116,2015−2028.)。しかし、ESCの軟骨形成細胞への分化のための多数の成功したアプローチにも関わらず、これらの確立された方法はEBの形成を必要とする。ESCからの軟骨形成は、これまで2次元培養系で行われてきた。ESCを軟骨組織工学に使用するためには、統合されていて、操作者の判断を必要としない3次元培養系において、インビトロで軟骨形成系統への分化を方向付けるための明確かつ効率的なプロトコールを開発することが不可避である。
【0014】
伝統的にESの維持、培養および分化に用いられる2次元法などの静置培養は、混合しないこと、制御オプションが乏しいこと、および頻繁な供給が必要であることなどのいくつかの制限を受ける。細胞を2次元で培養する実験は(2次元では細胞外マトリックスとその他の細胞との正常な3次元の関係がゆがめられる)、不規則な細胞行動をもたらし、従って誤った結論を生む可能性がある。攪拌懸濁液培養系は、特定のステップおよび種類の幹細胞の生存力および代謝回転に影響を及ぼし得る、拡張性および相対的な簡便さという魅力的な利点をもたらす(14)。しかし、懸濁細胞の攪拌培養では、細胞の損傷は攪拌に起因するかくはん力および剪断力による結果であり得る。バイオリアクターを培養細胞に用いるプロセスが、3次元環境で細胞の増殖を可能にする、制御された培養条件とともに、動的培養系を提供するために開発されている。より自然な3次元環境での細胞相互作用の分析は、生物の生活環境に近い条件をもたらすことを約束する(15;16)。hESC培養にバイオリアクターを使用することは既に文書に記載され、動的な3次元条件が、ES細胞を培養して胚様体を形成するのに適した環境をもたらすといういくつかの予備的な証拠が提供されている(17)。
【0015】
Chang et al(18)は、1960年代に先駆けてバイオカプセル化を行い、Lim et al(19)が、糖尿病を治すために、最終的にラットへの移植のために異種移植片を埋め込んだ細胞を封入した。アルギン酸封入の使用は主に成体細胞に制限されている。Magyar et al(20)は、マウスES細胞を1.1%アルギン酸マイクロビーズに封入し、組織培養皿で、2次元で、すなわち静置培養で培養した。この結果、「円盤状の」コロニーが形成され、それはビーズ内でさらに分化して嚢胞状のEBを生じ、その後自発的に拍動する領域を含有するEBを生じた。Magyar et al.がESCを1.6%のアルギン酸マイクロビーズに封入し、3次元で培養した時、嚢胞状のEBがビーズ内で形成されないように、桑実胚のような段階で分化が阻害されることが見出された;しかし、ES細胞コロニーがビーズから放出されて2次元で培養された場合、それらは拍動する心筋細胞を含む嚢胞状のEBへとさらに分化することができた。mES細胞からEBを生成するためにマウスES細胞のアルギン酸ビーズ内への封入が試みられたが、十分な軟骨形成細胞への分化をもたらすことはできなかった(21)。アルギン酸ビーズに封入された間葉系幹細胞(MSC)は、硝子軟骨をもたらす軟骨形成細胞への分化を達成するために、静置フラスコ培養に細胞ビーズを入れること、および成長培地で覆うことによって3次元で培養されているが、MSCの増殖能力がアルギン酸培養中で阻害されることが見出された(22)。軟骨形成細胞への分化は、アルギン酸またはアガロースヒドロゲルに播種されたヒト脂肪由来の成体幹(hADAS)細胞を用いる3次元培養において、さらに多孔性のゼラチン足場(Surgifoam)において実証されている(32)。
【0016】
幹細胞からの分化細胞の大量生産は、ES培養における様々な段階の統合を必要とする。多能性細胞(ES細胞など)から分化した細胞および組織を形成するための現在の方法は、細分化されていて、大きな労力を要し、高レベルの訓練を必要とする(それは必然的に操作者ごとに異なる変動性をもたらす);また、そのような方法はインビボに存在する3次元環境をシミュレートしていない2次元培養で行われる。現在の維持培養の方法および分化の方法が臨床的に関連する細胞数を産生できないので、これは臨床適用には満足ではない。
【0017】
従って、幹細胞培養のための、幹細胞、例えば胚幹細胞の増殖および統合された増殖および分化のための、改良された方法に対する必要性が存在する。そのような方法は、未分化の多能性細胞の効率的な維持成長および分化のために、ならびに部分的に分化した外胚葉、中胚葉および内胚葉系統の複能性細胞のさらなる分化のために必要である。臨床的骨組織工学の適用のため、「骨の小結節」(骨様組織)またはその他の組織種の形成を達成するための方法に対して必要性がある。本発明によれば、これは支持マトリックスに封入された単一の細胞または複数の細胞を用いて3次元培養で達成することができる。
【0018】
単一の細胞、またはクローンの培養、ならびに、単一のクローンのその後の増殖および分化を「クローン性(clonality)」という。クローンに由来するES細胞は、マウスに移植された場合、インビボで分化することが示されているが、今までインビトロで単一の未分化ES細胞を培養しようとする試みは不成功に終わっている(23;24)。報告されたこれらの研究では、単一の細胞培養は2次元で行われ、細胞は成熟細胞へ最終分化しなかった。
【0019】
現在、個々の多能性細胞または複能性細胞への細胞培養環境の効果をスクリーニングするために利用可能な方法はない。従って、個々の細胞への、細胞培養条件、培地および試験化合物(合成化学物質または天然由来物質など、例えば馴化培地、増殖因子)の効果を確認する方法に対する要望がある。さらに、多数のそのようなスクリーニング実験を同時に行う能力があれば、多数のプロセスの変数(化学物質、濃度、組合せ)のマススクリーニングが可能となる。
【発明の開示】
【0020】
本発明は、
(a)支持マトリックス内に封入されたヒト胚幹(ES)細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、および
(b)封入された細胞を維持培地中の3次元培養で維持するステップによる維持培養と
を含む、細胞培養の方法を提供する。
【0021】
本発明の培養法では、ES細胞は、支持マトリックス構造体内に封入された複数の個々の細胞および/または細胞の凝集体として、あるいはクローン増殖のために支持マトリックス構造体内に封入された単一の細胞として提供され得る。
【0022】
支持マトリックス構造体内の細胞の数を増加させるための(すなわち、細胞が細胞分裂により自己再生を行う増殖)細胞の維持成長のための維持培地の選択は、使用する細胞の種類およびそれらの成長のための要件によって決まる。細胞の成長を支持するものであれば(理想的にはミネラルを含むか細胞を分化させない)、どのような培地も本発明の方法の維持培地としての使用に適している。種々の適当な維持培地が当分野で既知である。
【0023】
好ましい実施形態では、維持培養は、フィーダー細胞、馴化培地または維持培地中のヒトもしくは動物細胞抽出物への曝露を伴わない。従って維持培養は、フィーダー細胞の非存在下およびフィーダー細胞馴化培地の非存在下で行われる。
【0024】
hES細胞を培養する現在の方法は、未分化状態のhES細胞の維持を支持するためにフィーダー細胞を用いるか、または馴化培地を用いるかのいずれかを必要とする(1)。さらに、現在の方法では、自発的に分化したhES細胞を取り除くために、細胞は定期的な継代を必要とする。さらに、培養条件は、結果として生じるhES細胞を臨床治療薬として用いるなら、疾患伝達のリスクを有する動物に由来する生成物を必要とする可能性がある。研究者らは、治療適用のために十分な数のhES細胞またはそれらの分化誘導体を供給するために大量生産に従うhES細胞の維持および増殖のための方法を開発するために努力している。本発明者らは、驚くべきことに、初期の着床前胚の物理的環境を複製すると思われる、さらに、未分化の状態で封入されたhES細胞の長期培養を継代の必要なく可能にする、単純なプロセスを開発した。驚くべきことに、本発明者らは、本発明の方法を用いて、フィーダー細胞の非存在下で、馴化していない培地中で、最大130日間、hES細胞を未分化の状態で維持することができることを見出した。本発明者らは、本発明に記載の方法においてhESを封入する支持マトリックスにより提供される物理的環境が、フィーダー細胞による支持または馴化培地への曝露の要件を否定するものと仮定している。本発明の方法は、治療適用のためのhES細胞の産生のための標準化、制御および産生拡大がされやすい。
【0025】
ヒトES細胞に適した維持培地としては、20%v/v KNOCKOUT(商標)SR、2mMのL−グルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸溶液(全てGibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK提供)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(2ME)(Sigma−Aldrich,Dorset,UK)および4ng/mlのヒト組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF−2)(157 aa)(R&D Systems,Oxon,UK)を補給したDMEM/F12培地が挙げられる。4ng/mlのヒト組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子(hrbFGF)を補給したVitroHES(商標)(Vitrolife AB,Kungsbacka,Sweden,http://www.vitrolife.com)もhES細胞を培養するために適した培地である。これらの培地の双方は通常フィーダー細胞とともに用いられるが、細胞が(カプセル)封入されている本発明の培養法では、これらの培地はフィーダー層と併用せずに使用することができる。封入されていないhES細胞のフィーダーを含まない培養は、馴化培地およびさらなる増殖因子を用いれば可能である。しかし、Xu et al(2005)(25)は、KNOCKOUT(商標)SRを含有する馴化していない培地が、封入されていないhES細胞において、BMPシグナル伝達活性をMEF馴化培地よりも大いに活性化させることを示した。従って、封入されていないhES細胞のフィーダーを含まない維持のために定義されている培地は今のところ利用できない。
【0026】
フィーダーを含まない環境での、特定の細胞シグナル伝達分子を用いる、封入されていないhES細胞の維持は、比較的短い期間に関してのみ達成されている(Sato et al.(2004)Nat.Med.,10,55−63)。驚くべきことに、本発明の方法では、特定のシグナル伝達分子は、hES細胞を未分化状態で維持するために必要とされない。それにもかかわらず、そのような研究を継続して未分化状態のhES細胞の維持および増殖を改良させる分子を同定したところ、封入されたhES細胞培養のためのインビトロ環境をさらに向上させるために、本発明の方法で用いることができる。
【0027】
本発明の方法では、封入されたES細胞を馴化していない培地中で成長させることができる。封入されていないhES細胞の維持のために現在用いられている様々な培地および増殖因子の組合せの詳細は(1)に概説されている。これらの培地は、フィーダー細胞を含まず、培地を馴化させる必要のない本発明の方法に用いることができるか、または本発明の方法での使用に適合し得る。
【0028】
好ましい態様では、本発明は、
(a)支持マトリックス内に封入されたヒトES細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)細胞維持に適した条件で、封入された細胞を維持培地中の3次元培養で維持するステップによる維持培養と、その後、
(c)細胞の分化に適した条件で、封入された細胞を分化培地中の3次元培養で分化させるステップと
を含む、細胞培養の方法を提供する。
【0029】
多能性hES細胞の分化のための分化培地の選択は、使用する細胞の種類、それらの成長のための要件および分化に必要な刺激によって決まる。分化を支持するものであれば、どのような培地も本発明の方法の分化培地としての使用に適している。実際に、分化培地は維持培地の組成と似ていてよいが、分化培地は、分化を抑制するために維持培地中に含まれる物質を含有しない。hES細胞に適した分化培地としては、培地[α改変イーグル培地(αMEM)、10%(v/v)のウシ胎児血清、100単位/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン]が挙げられる。分化培地は、分化のための刺激、例えば増殖因子を維持培地へ添加することにより作成してもよい。
【0030】
封入された多能性細胞または封入された複能性細胞の3次元培養での維持および/または分化に適した条件としては、用いる細胞種の(例えばES細胞培養のための)標準培養条件が挙げられ、適した条件にはES細胞の維持培地および/または分化培地、ならびに環境条件(37℃および5%のCO2など)の使用が含まれる。
【0031】
維持(増殖)および/または分化のための本発明の方法を用いてコロニーまたは組織形成は3次元培養で行われ、この3次元培養は静止した状態、例えば組織培養プレート中、または懸濁液中(例えばフラスコまたはバイオリアクター中)であってよい。3次元培養では、条件がインビボの状態の物理的環境により近づくにつれて、組織化された構造および多数の細胞を形成することができる。3次元培養では、細胞は3次元で成長する。
【0032】
本発明の細胞培養法を行うために適切な3次元懸濁培養条件は、低剪断、高混合の「動的」環境を用いて達成することができる。この環境により十分な栄養分およびガスが、用いられる支持マトリックス構造体へ浸透することが可能となる。3次元培養のための低剪断、高混合の動的環境をもたらすために適したバイオリアクター系としては、NASA HARVバイオリアクター(Synthecon,USA)、European Space Agency バイオリアクター(Fokker,Netherlands)、RWVバイオリアクター(Synthecon,USA)あるいはその他の模擬微小重力または潅流系、例えばエアリフトバイオリアクターが挙げられる。骨形成細胞への分化を含む方法には、NASA HARVバイオリアクターが適している。
【0033】
維持および分化の方法は、維持および分化ステップが順次単一の、すなわち同一の容器中で行われる、統合された方法として適切に行われる。維持および分化の方法が統合された方法は、フラスコまたはバイオリアクター中の懸濁培養で適切に行われる。維持成長期には、封入された多能性ES細胞が分裂し、細胞数が増加して、細胞のコロニーが支持マトリックス構造体中に形成され、次に、封入された細胞は全て3次元マトリックス構造体中で分化して、さらに分化した細胞または最終分化細胞を形成する。本発明の方法では、さらに分化した細胞または最終分化細胞はその後維持され、細胞の分裂が可能となるため細胞数が増加し、細胞のコロニーが支持マトリックス構造体内に形成される。
【0034】
完全に統合されたプロセスを使用することにより、主要な細胞シグナル伝達分子を培地に添加するか、または培地から減らすことにより誘発される時限的な、制御された分化を通じて、未分化細胞増殖からの連続的移行が可能となる。本発明の方法を用いることで細胞の取り扱い要件が減り、細胞生存力に影響を与える可能性のある汚染物質および環境への細胞の曝露が抑えられる。さらに、リアルタイムに細胞培養条件をモニタリングすることにより、臨床生成物に必要な基準の開発が可能となる。
【0035】
細胞系統の中には、特に分化が抑制されないような条件である場合に、維持成長中の細胞分裂サイクルの後に自発的な分化をするものがある。細胞分化に適した条件は、多能性ES細胞の複能性細胞への分化のための刺激を含んでよい。ES細胞の複能性細胞への分化のための刺激は、胚様体形成のための刺激、例えば分化を抑制する物質の除去、または分化を抑制する物質への曝露の減少;及び/又は、胚様体形成を促進する物質の添加、または胚様体形成を促進する物質への曝露の増加であってよい。細胞の分化に適した条件は、複能性細胞のさらなる分化のための刺激を含んでよい。例えば、その刺激は、ES細胞の分化のための刺激の前、同時、または後に与えてよい。分化を伴う本発明の方法は胚様体形成のための刺激を与えずに行ってもよく、その代わりに、分化に適した条件は、例えば外胚葉、中胚葉および内胚葉系統への分化のための刺激を単に含んでよい。
【0036】
分化のための刺激は、外胚葉、中胚葉および内胚葉系統への分化のための刺激であってよい。適した刺激は下記のように当分野で既知であり、例えば参照文献(1)において考察されている。
【0037】
好ましくは、分化のための刺激は、中胚葉の骨格系統細胞への分化のための刺激、例えば骨形成細胞への分化または軟骨形成細胞への分化のための刺激である。
【0038】
骨形成細胞への分化のための刺激は、培地に供給される添加剤、例えば1以上のアスコルビン酸、β−グリセロホスホスファートまたはデキサメタゾンであってよい。
【0039】
軟骨形成細胞への分化のための刺激は、培地に供給される添加剤、例えばモノチオグリセロール(MTG)およびIGF−1、TGFβ1、BMP2またはBMP4であってよい。
【0040】
維持および分化ステップの持続期間は、培養された細胞の種類および細胞培養の目的によって決まる。本発明者らは、本発明の方法を用いて、従来法で多能性を維持するために用いられているフィーダー細胞または馴化培地の非存在下で、封入されたヒトES細胞を未分化のまま130日間維持することができることを実証した。維持培養では、封入されたhES細胞を最大130日または所望であればそれ以上の期間培養して未分化細胞の数を増加させることが望ましい。従って、本発明は、封入されたhES細胞の長期間、例えば8日以上の期間、例えば、約14日、21日、28日、35日、42日、49日、56日、最大130日およびそれを越える期間の維持培養に用いることのできる方法を提供する。
【0041】
統合された維持および分化法において、ステップ(b)における封入された細胞の初期の維持培養は、細胞クラスターが形成されるために十分な期間、例えば1〜6日間、好ましくは2〜5日間、最も好ましくは、3日間または4日間である。分化培養は40日間までできる。本発明の培養法の中には、EB形成のための刺激の存在下での初期分化期間、続いて複能性細胞の、一段と分化した細胞系統への(例えば骨芽細胞または軟骨細胞への)分化のための刺激の存在下でのさらなる分化期間を含むものがある。適切には、初期分化期間は3〜7日間であり、好ましくは4〜6日間であり、最も好ましくは約5日間である。さらなる分化が行われる場合、さらなる分化期間は一般に14〜28日間、適切には約20〜22日間、例えば21日間である。
【0042】
本発明の方法による封入されたES細胞の骨形成細胞への分化のため、初期維持期間は一般に2〜4日間、例えば3日間である。初期分化期間は4〜6日間、例えば5日間であり、さらなる分化期間は14〜28日間、例えば20日、21日または22日間である。これらの培養時間は、一般的に骨誘導および3次元骨形成を達成するために適している。
【0043】
分化ステップを含む本発明の方法を用いて、封入された複能性細胞を、最終分化細胞などのより分化した細胞へ分化させることができる。複能性細胞の、より分化した細胞、または最終分化細胞への分化は、複能性細胞をさらに分化させるための刺激を含む細胞分化のための条件を用いて適切に達成される。
【0044】
また、本発明の方法は、例えば同種のコロニーまたは組織を得るための、支持マトリックス内に封入された単一の細胞のインビトロでの維持および/または分化に用いることができる。従って、本発明の方法のいくつかの実施形態では、ステップ(a)での支持マトリックス構造体は、単一のES細胞が支持マトリックス内に封入されて支持マトリックス構造体を形成するものである。
【0045】
ES細胞は、支持マトリックス中に封入されて、単一の細胞を含有する支持マトリックス構造体(ビーズなど)をもたらし得る。封入された単一の細胞は、次に成長して細胞コロニーとなり、任意のEB構造を形成し、部分的に分化した細胞は最終的に所望の細胞系統へと分化し得る。これは、臨床使用のための純粋な同種の細胞集団をもたらすために有用なクローンに由来する細胞集団を得るために有用である。また、これはES細胞の3次元胚様体形成、細胞分裂の検査、または、単一の多能性細胞への微小環境の影響の調査を可能にするので、スクリーニング目的のためにも有用である。また、単一のESの分化した成熟細胞種への分化も調査することができ、従ってES細胞のインビトロでの多能性の潜在能力を実証する。
【0046】
あるいは、ステップ(a)において複数の細胞が支持マトリックス構造体内に封入されて提供される。これらは複数個の単一の細胞、または細胞凝集体(すなわち凝集塊/コロニー)またはそれらの混合物として存在し得る。これらの態様は、例えば、組織工学に適用する目的、研究目的、または臨床使用目的のための大量の分化細胞の生成に特に有用であるが、スクリーニング目的のためにも用いることができる。
【0047】
一般に、本発明の細胞培養法では、ステップ(a)において複数の支持マトリックス構造体が提供される。
【0048】
本発明は、ESの維持、任意のEB形成、および分化のための統合された3次元培養法を提供する。ESに由来する中胚葉細胞は、心筋芽の刺激、軟骨形成の刺激、または骨形成の刺激の影響下で、それぞれ心筋芽細胞、軟骨形成細胞または骨形成細胞へ分化することができる。
【0049】
本発明の方法を用いて、骨形成細胞への分化が3次元培養で達成され、その結果「骨の小結節(bone nodule)」(骨様組織)の形成がもたらされるか、または臨床骨組織工学適用のためのその他の組織種を3次元培養で得ることができる。本発明の方法は、培養系の自動化に適合させることができ、分化細胞を生成させるための低い維持費の高効率系をもたらす。例えば、これらの方法は、mES細胞またはhES(ヒト胚幹)細胞からの心筋芽細胞、軟骨形成細胞または骨形成細胞の産生に用いることができる。
【0050】
従って、別の実施形態では、本発明の培養法はES細胞の骨形成細胞への分化に特に有用であり、特に好ましい細胞培養の方法は、
(a)支持マトリックス内に封入された単一のES細胞または複数のES細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)ES細胞の維持に適した条件で、封入された細胞を維持培地中の3次元培養で維持するステップと、
(c)骨形成細胞への分化に適した条件で、封入された細胞を分化培地中の3次元培養で分化させるステップによる骨形成細胞への分化と
を含む。
【0051】
ES細胞は、マウスもしくはヒトES細胞であることが好ましいが、本発明の骨形成細胞への分化の方法は、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、魚類、げっ歯類、マウス、または鳥類起源のES細胞に適用できる。
【0052】
好ましい支持マトリックスはアルギン酸を含み、アルギン酸とゼラチンを含むものが特に好ましい。支持マトリックス構造体は、ビーズの形態であることが好ましい。本発明の方法は静的な懸濁培養で行うことができるが、例えばNASA HARVバイオリアクターなどのバイオリアクターによりもたらされる、低剪断、高混合の動的環境で行うことが好ましい。
【0053】
ES細胞を2次元で培養するために通常用いられる維持培地は、上記のその他の培地のように、本発明の方法での使用に適している。適した条件は37℃、5%のCO2である。維持培養は、1〜6日間、好ましくは2〜4日間、より好ましくは約3日間行われる。
【0054】
封入された細胞の骨形成細胞への分化は、
(i)封入されたES細胞を分化培地中の3次元培養でインキュベートするステップと、胚様体形成のための刺激を与えるステップと、その後、
(ii)(i)で作成した封入された細胞を分化培地中でインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップと
によって適切に行われる。
【0055】
分化培地は、例えば、2次元培養でのES細胞の骨形成細胞への分化に通常使用される任意の培地であってよい。胚様体形成およびその後の骨形成細胞への分化に適した条件に用いられる分化培地は異なっていてよい。マウス細胞にとって胚様体形成のための刺激はLIFに対する曝露を取り除くこと、または、維持ステップが共培養として行われている場合には、LIFを分泌する細胞に対する曝露を取り除くことであり得る。
【0056】
骨の小結節を形成するための骨形成細胞への分化には、ステップ(i)のインキュベートは、一般に約1〜6日間、好ましくは約2〜5日間、最も好ましくは約3日または4日間行われ、ステップ(ii)のインキュベートは、一般に21〜28日間、好ましくは20〜22日間、例えば21日間行われる。
【0057】
本発明の分化の方法では、胚様体形成ステップは必ずしも必要でない。従って、いくつかの実施形態では、胚様体形成のための刺激への曝露が省略される。本態様では封入された細胞の骨形成細胞への分化は
(i)封入されたES細胞を分化培地中の3次元培養でインキュベートするステップと、その後
(ii)(i)で作成した封入された細胞を分化培地中でインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップと
によって適切に行われる。
【0058】
適切には、ES細胞は、ステップ(i)において約1〜6日間、好ましくは約2〜5日間、最も好ましくは約3日または4日間分化培地に曝露され、その後ステップ(ii)において骨形成細胞への分化のための刺激を与えられ、インキュベートは一般に21〜28日間、好ましくは20〜22日間、例えば21日間行われる。
【0059】
あるいは、封入された細胞の骨形成細胞への分化を、分化培地中で、封入された細胞をインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップとにより行ってもよい。
【0060】
この場合、細胞は、分化培地中で、21〜28日間の骨形成細胞への分化のための刺激の存在下でインキュベートしてよい。
【0061】
既知の骨形成細胞への分化のインビトロ誘導物質を、好ましくは、ステップ(ii)で複能性細胞をさらに分化させるために用いることができる。手短に言えば、血清、アスコルビン酸塩(アスコルビン酸)、またはL−アスコルビン酸−2−リン酸(長時間作用するアスコルビン酸類似体)、β−グリセロリン酸、およびデキサメタゾンが、骨形成細胞への分化のインビトロ誘導物質として作用するとして各々既知である。現在の技術では、血清、アスコルビン酸、およびデキサメタゾンは小結節形成の絶対条件であるのに対し、β−グリセロリン酸はミネラル化を促進または増強する(26)。骨芽細胞に特異的な唯一の形態学的特徴は、ミネラル化した細胞外マトリックスの形態で細胞の外側に位置していることである。インビトロでの骨の小結節形成は、3つのステップ:(i)増殖、(ii)ECM分泌/成熟および(iii)ミネラル化に細分される。
【0062】
本発明の方法は、特定の分化細胞種の産生のために工業的なプロセス規模で運用することができる。例えば、骨の形成は、アルギン酸またはアルギン酸に基づくビーズ中に封入されたhES細胞で出発し、バイオリアクターで培養を行って達成することができる。この自動化され、統合されたプロセスは、先行技術の2次元法および3次元法と比較して、効率的で制御が容易であり、骨組織形成に要する時間を有意に減少させる。
【0063】
ES細胞の支持マトリックス中の(例えばビーズを形成するための)カプセル封入は、ES細胞の維持、分化(任意のEB形成による分化)、およびさらなる分化(例えば骨形成細胞への分化)を助長する環境をもたらす。本発明の方法は、プロセスの自動化、制御、最適化、および強化を許容し、臨床的に関連する数の細胞、例えば臨床適用に必要な骨形成細胞の産生を可能にする。
【0064】
本発明の骨形成方法は、任意の起源の多能性細胞、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、魚類、げっ歯類、マウス、または鳥類起源の多能性細胞に適用できる。
【0065】
hES細胞の維持のための本発明の方法は、細胞環境(培養条件、培地、試験刺激、化合物)の維持成長および/または分化への効果を評価するためのスクリーニング方法を提供するように適合させることができる。従って、本発明は、試験化合物または刺激の細胞維持および/または分化への効果を評価するための、支持マトリックス内に封入されたhES細胞の使用を提供する。本発明はさらになお、細胞維持および/または分化への培地および/または条件の効果を評価するための、支持マトリックス内に封入されたhES細胞の使用を提供する。
【0066】
また、
(a)支持マトリックス内に封入されたhES細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)試験化合物の存在下、封入されたhES細胞を維持培地中でインキュベートするステップと、
(c)試験化合物のhES細胞の維持および/または分化への効果を評価するステップと
を含む、hES細胞の維持および/または分化を調節することのできる化合物を同定する方法が提供される。
【0067】
本発明のスクリーニング方法を用いると、多能性細胞または複能性細胞の分化を抑制することにより細胞維持を促進する化合物を同定すること、および、分化を促進する化合物を同定することが可能である。試験化合物、または化合物の混合物は、自然に産生されるか、または化学的に合成されてよい。
【0068】
さらに、
(a)支持マトリックス内に封入されたhES細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)細胞維持および/または分化に適した培地および条件で、試験刺激の存在下で封入されたhES細胞をインキュベートするステップと、
(c)試験刺激のhES細胞の分化の効果を評価するステップと
を含む、hES細胞分化を調節することのできる刺激を同定する方法が提供される。
【0069】
本発明の方法を用いると、分化を抑制または促進する刺激、例えば化合物および/または条件を同定することが可能である。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、
(a)支持マトリックス内に封入されたhES細胞を提供するステップと支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)試験培地および/または試験条件の存在下で、封入されたhES細胞をインキュベートするステップと、
(c)試験培地および/または試験条件のhES細胞の維持および/または分化への効果を評価するステップと
を含む、培地および/または培養条件のhES細胞の維持および/または分化への効果を評価する方法を提供する。
【0071】
本発明の方法は、細胞の維持、分化の抑制、または分化の促進を強化するための培養条件の最適化に有用である。本発明の評価方法では、任意の細胞を試験化合物/刺激の存在下でインキュベートし、試験化合物/刺激の細胞の維持および/または分化への効果を評価することができる。
【0072】
スクリーニング法は、ステップ(a)において複数の細胞が各支持マトリックス構造体内に封入されるように、または、ステップ(a)において単一の細胞が各支持マトリックス構造体内に封入されるように行うことができる。
【0073】
本発明の好ましいスクリーニング法では、封入された単一の細胞は、例えば、各ビーズが単一の細胞(ES細胞など)を含有するビーズの形態で用いられる。単一の細胞を含有するビーズを個別に、適切には複数のウェルプレート(アレイ形式、例えば96ウェルプレートなどの複数のウェルプレートであってよい)またはマイクロバイオリアクター中で培養することによる。複数のスクリーニングを同時に行って、培地および条件を評価および最適化し、化学的に合成した化合物、様々な増殖因子、細胞外マトリックスタンパク質などを細胞の成長および分化へそれらが有する効果についてスクリーニングすることが可能である。
【0074】
スクリーニング法は、封入された細胞が培養容器のアレイ中に、例えばマルチウェルまたはマルチチャンバーアレイに提供されるように設定することができる。ステップ(a)では、複数の封入された細胞は各々の培養容器に存在することが好ましいが、これは複数の細胞を含有する単一の支持マトリックス構造体(例えばビーズ)を提供することにより達成される。または、ステップ(a)において、複数の支持マトリックス構造体を各々の培養容器中に提供することにより達成されることがより好ましい。この2番目のアプローチでは、各支持マトリックス構造体(例えばビーズ)には単一の細胞または複数の細胞を含有することができる。別のスクリーニング法では封入された1個の細胞が各培養容器に存在する。
【0075】
本明細書に記載される方法を用いると、単一のhES細胞を制御された環境で迅速に培養することができる。このことは、多くの異なる培養環境を並行して、または同じ培養環境の多くの異なる細胞種を並行してハイスループットスクリーニングすることを可能にする。適切には各々が単一のhES細胞を含有する5〜20個のビーズを、単一の培養容器、例えばマルチウェルプレートの1つのウェルに提供することができる。ビーズ内の単一の細胞は隣接するビーズ内に封入された単一の細胞と直接接触しないため、各ビーズは個別の成長環境を構成する。複数のビーズを単一のウェルに設置することにより、各ビーズが同一の条件に曝されることになるので、タイムスタディ分析を行うことができる。マルチウェルプレートで培養することにより、複数条件のスクリーニングが可能となり、結果の統計分析を容易にする。ロボット工学の使用によりプロセスの自動化を(例えば培養物へ栄養を供給することにより)促進することができる。単一の細胞のビーズ内へのカプセル封入は、個々の培養物が供給または他の操作中に乱されないことを確保する。
【0076】
本発明のスクリーニング法は、培養容器中での2次元培養(静置または懸濁液)で行うことも、またはバイオリアクター、例えばHARVバイオリアクター中での3次元培養で行うこともできる。マイクロチャネルを有するマイクロバイオリアクターを用いることにより、3次元培養の一定な潅流供給が可能となり、さらにより複雑なスクリーニング実験および自動化を容易にする。本発明のスクリーニング法は、ハイスループット形式で行うことができる。
【0077】
本発明のスクリーニングの使用またはスクリーニング法に従って、試験化合物、試験刺激、培地および/または条件の細胞維持および/または分化への効果を、顕微鏡検査、発生ステップに特異的な抗原の検出、および遺伝子発現レベルの検出(例えばRT−PCRによるか、またはDNAもしくはRNAマイクロアレイを用いる)からなる群から選択される1以上の方法により評価することができる。
【0078】
カプセル封入に利用される支持マトリックスは透過性であり、栄養分、代謝産物、および増殖因子の拡散および物質輸送が可能である。支持マトリックス内に封入された細胞は、ビーズ(例えば一般的に球形のビーズ)の形態で提供され得る。「封入された」とは、細胞が支持マトリックスの内部に完全に埋め込まれていることを意味する。容積に対する面積(例えば表面積)比が、栄養分、代謝産物、サイトカインなどが容易にビーズへ/から拡散してビーズ内に埋め込まれた細胞に到達することができるようであれば、ビーズの形状は特に関係がない。
【0079】
支持マトリックス構造体(例えばビーズ)は、培養期間中、無傷のままである支持マトリックス剤から構成されることが特に好ましい(培養期間は維持のためには3〜4ヶ月以上であり得ってよい。または骨形成細胞への分化培養法の場合のように最大30〜40日間であり得る)。支持マトリックス内に封入された細胞は、3次元培養容器(RWVバイオリアクター(Synthesis,USA)またはその他の模擬微小重力もしくは潅流バイオリアクターなど)に入れ、維持培地および/または分化培地中で長期間有意な損傷なくインキュベートすることができる。
【0080】
好ましくは、支持マトリックス剤は、水素材料からなるかまたは水素材料を含み、例えばアガロースもしくはアルギン酸などのゲル形成ポリ糖類である(一般に約0.5〜約2%w/vの範囲、好ましくは約0.8〜約1.5%w/v、より好ましくは約0.9〜1.2%v/vで含む)。マトリックスはアルギン酸のみからなってもよいし、ゼラチンなどの構成物質をさらに含んでもよい(一般に約0.05〜約1%w/v、好ましくは約0.08〜約0.5%v/vで含む)。ゼラチンの包含は、均一なビーズ径の産生を助け、構造の完全性を維持するのに役立つ。このことは、アルギン酸ヒドロゲルが、長期培養の後にCa2+陽イオンを失い、そのことがビーズの構造上の完全性を弱めるために重要である。アルギン酸支持マトリックスビーズ中にゼラチンを包含することは、細胞を介した収縮および足場材料の充填を可能にする。
【0081】
アルギン酸は、褐色の海藻から抽出された水溶性の直鎖状多糖類であり、1−4結合のα−L−グルクロン酸とβ−D−マンヌロン酸残基との交互のブロックからなる。アルギン酸は、大部分の2価および多価の陽イオンでゲルを形成するが、Ca2+が最も広く用いられている。カルシウム陽イオンは、Gブロック間の鎖間結合に関与し、ゲルの形態中に3次元のネットワークを生み出す。Gブロック間の結合域は、「エッグボックスモデル」と称されることが多い(27)。
【0082】
適切には、ビーズの形態のアルギン酸およびアルギン酸に基づく支持マトリックス(例えばアルギン酸とゼラチンのビーズ)は、用いる培養条件でその完全性を維持しているため、本発明の方法での使用に特に適していることが見出された。
【0083】
支持マトリックスは、種々のシグナル(ラミニン、コラーゲン、または増殖因子など)で改変して所望の細胞挙動を高めることができる。従って、支持マトリックスは、ラミニン、バイオガラス(商標)、ヒドロキシアパタイト、細胞外マトリックス、細胞外マトリックスタンパク質、増殖因子を含む群から選択される1以上の物質;別の細胞培養抽出物、および骨形成細胞への分化のために、骨芽細胞培養抽出物を含み得る。
【0084】
細胞外マトリックス(ECM)は、2次元培養においてES細胞の骨形成細胞への分化を達成するための刺激として用いられている(Hausemann & Pauken,2003,Differentiation of embryonic stem cells to osteoblasts on extracellular matrix,10th Annual Undergraduate research Poster Symposium,Arizona State University:http://lifesciences.asu.edu/ubep2003/participants/hausmann)。ES細胞などの多能性幹細胞の分化を刺激する多数の増殖因子、例えば、中胚葉形成および骨形成も強化する骨形態形成タンパク質4(BMP4)Nakayama et al.(2003)J Cell Sci 116 (10):2015.(http://jcs.biologists.org/cgi/reprint/116/10/2015);中胚葉形成を刺激するレチノイン酸、中胚葉を刺激して骨前駆細胞を分化させるソニックヘッジホッグなどのヘッジホッグタンパク質、ならびに骨誘導を刺激する骨形態形成タンパク質BMP1〜3および5〜9、が当分野で既知である。
【0085】
アルギン酸カルシウムまたはアルギン酸カルシウムに基づく支持マトリックスは、骨形成培養および分化に好ましい。カルシウムイオンはビーズの形成の際にキレート化剤として用いられ、骨形成のミネラル化を助ける局所的なカルシウム源をもたらし得る。
【0086】
ゼラチンを支持マトリックス剤として含むアルギン酸を封入して支持マトリックス構造体を形成する(例えばビーズを形成する)ために使用することは、単一の細胞を封入して、1個のビーズに単一の細胞を含むビーズを形成し、次に培養してコロニーを形成する方法において特に好ましい。
【0087】
適切には、単一の細胞を含有するビーズは、直径約20〜150ミクロン、好ましくは約40〜約100ミクロンである。複数の細胞を含有するビーズは一般に直径約2.0〜約2.5ミリメートル、好ましくは約2.3ミリメートルである。
【0088】
本発明のいくつかの態様では、用いる支持マトリックスがトリプシン処理を用いずに容易に溶けて細胞を放出できることが好ましい。支持マトリックスを除去して細胞を分離させることが望ましい場合には、クエン酸ナトリウムおよび塩化ナトリウム溶液を用いて容易に溶けるヒドロゲルマトリックス、例えばアルギン酸およびアルギン酸に基づくマトリックスが好ましい。
【0089】
細胞は、得られた封入された細胞(例えば骨形成細胞)を、封入の材料から細胞を回収する必要なく被験患者に直接投与できるように、生体適合性材料に封入することができる。この目的のため、アルギン酸材料は生体適合性であり、アルギン酸はFDA認可されているので、アルギン酸またはアルギン酸に基づく支持マトリックスを用いて細胞を封入することが好ましい。封入された細胞、および特にアルギン酸またはアルギン酸に基づく材料に封入された細胞は、例えば注射または内視鏡により直接患者へ投与することができる。
【0090】
本発明の方法または使用は、保存用に、封入された細胞を凍結するステップをさらに含んでよい。封入された細胞は、標準的なプロトコールを用いて乾燥させることができ、その細胞を培養する維持培地または分化培地中で凍結させてもよい。封入された細胞を凍結させるために適した方法は、Stensvaag et al.(2004)Cell Transplantation 13 (1):35−44に記載されるような緩慢凍結手順を用いるジメチルスルホキシド(DMSO)中の凍結保存を含む。
【0091】
本発明の方法は、細胞の支持マトリックスからの分離をさらに含んでよい。従って、本発明はこのようにして得られた細胞を提供する。アルギン酸またはアルギン酸に基づくマトリックスを封入に用いる場合、細胞の分離はアルギン酸の溶解により達成される。そのような穏やかな溶解方法は、標準的な酵素法、例えば長期培養において細胞の挙動に影響を及ぼし得るトリプシン処理と比較して有利であり得る。
【0092】
また、本発明は、本発明の細胞培養法により得られる、または得られた封入された細胞を提供する;封入された細胞は、複能性である(例えば骨形成細胞、軟骨形成細胞または心筋芽細胞である)か、あるいは、最終分化していてよい(例えば成熟骨芽細胞または軟骨細胞)。
【0093】
さらに、本発明の封入された細胞の薬剤としての使用が提供される。本発明の方法により得られる封入された骨形成細胞は、骨の再構築、例えば治療のための顎顔面外科手術、または美容整形において有用である。また、本発明は、封入された骨形成細胞の、骨粗鬆症、骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures)、骨癌、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病、骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、および歯周病(歯肉疾患)から選択される、疾患または状態の治療のための薬剤としての使用を提供する。
【0094】
さらに、本発明の封入された軟骨形成細胞の、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、美容のための再建手術から選択される疾患または状態の治療のための薬剤としての使用が提供される。軟骨疾患には、慢性関節リウマチおよび特に関節軟骨の骨関節炎が含まれる;疾患には、先天性欠損症または遺伝的欠損症(例えば鼻腔および鼻中隔の軟骨の顔面の再建による治療を必要とするもの)が含まれる。
【0095】
またさらに、例えば骨粗鬆症、骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures)、骨癌、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病、骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、および歯周病(歯肉疾患)から選択される、骨の再構築を必要とする疾患または状態の治療のための薬剤の製造における、本発明の封入された骨形成細胞の使用が提供される。
【0096】
加えて、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、再建手術、美容のための再建手術、関節リウマチおよび変形性関節炎から選択される疾患もしくは障害の治療のための薬剤の製造における、封入された軟骨形成細胞の使用が提供される。
【0097】
さらなる態様では、本発明は、本発明の封入された細胞の投与を含む、被験体を治療する方法を提供する。本発明の封入された骨形成細胞は、骨の再構築を必要とする疾患または状態、骨粗鬆症;骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures);骨癌、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病;骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、および歯周病(歯肉疾患)を治療するために被験体へ投与され得る。本発明の封入された軟骨形成細胞は、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、関節リウマチおよび変形性関節炎から選択される疾患または状態を治療するために被験体へ投与され得る。
【0098】
また、本発明は、封入された細胞、好ましくは本発明の封入された骨形成細胞または軟骨形成細胞の投与を含む、治療的手術または美容整形であり得る再建手術の方法を提供する。
【0099】
本発明の封入された細胞は、封入された細胞と、製薬的に許容可能な担体または希釈液とを含む医薬組成物を提供するために処方され得る。医薬組成物は、注射または内視鏡による投与用に処方されることが好ましい。
【0100】
また、細胞足場上または細胞足場中に適切に提供された、本発明の封入された細胞に由来する骨または軟骨組織も本発明の範囲内にある。封入された細胞は細胞足場上に播種および/または細胞足場に含浸させることができ、次に細胞足場を移植して身体のインサイチューで細胞を成長させることができる。そのような足場は骨および軟骨組織再建手術に特に有用である。
【実施例】
【0101】
実施例1:アルギン酸ビーズ中のヒトESCの封入
1.1細胞培養
1.1.1フィーダー層
一次マウス胚性線維芽細胞(MEF)
手短に言えば、スケジュールIの屠殺により雌マウス(Swiss系MF1)をマウスの妊娠13日に犠牲にした。次に胚を取り出し、内臓を取り除いた。トリプシン/EDTA溶液(カルシウムまたはマグネシウムを含まない0.1M PBS中、0.05%トリプシン/0.53mM EDTA;Gibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK)中で胚屠殺体を細かく刻み、培養フラスコ中の10%v/v熱失活FBS、0.1mM MEM非必須アミノ酸溶液、100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンを補給した高グルコースDMEM(全てGibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK製)に播種した。細胞がコンフルエントに達したら、線維芽細胞を回収し、60%v/v高グルコースDMEM、20%v/v熱失活FBS(全てGibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK製)および20%v/vジメチルスルホキシド Hybri−Max(登録商標)(DMSO)(Sigma−Aldrich,Dorset,UK)を含有するMEF凍結培地中で凍結させた。hESCを培養するためには、MEFは3回または4回以下の継代が好ましい。
【0102】
解凍したMEF細胞を、ペニシリンおよびストレプトマイシンを除く上述の同一の培地のゼラチンコートされた培養表面で成長させた。MEF細胞を、フィーダー層として用いる前にマイトマイシンCで有糸分裂的に失活させた。失活させた細胞を次にトリプシン処理し(カルシウムまたはマグネシウムを含まない0.1M PBS中、0.05%トリプシン/0.53mM EDTA;Gibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK)、凍結させるか、またはhESC成長のフィーダー層として6ウェルプレートに移した。MEF凍結培地中でMEFを凍結させた(2000年7月、WiCell Research Institute Inc,Madisonのプロトコール)。
【0103】
ヒト胚幹細胞の培養
1.1.2.1未分化細胞の培養
失活させた一次MEF細胞を、未分化ヒトES細胞を解凍する少なくとも1日前に上記の培地に播種した。次の日、未分化ヒトH1細胞(WiCell Research Institute Inc,Madison)を完全に解凍し、MEF細胞に播種し、供給業者の提案するプロトコールを用いて細胞を未分化状態で成長させた。培地は、20%v/v KNOCKOUT(商標)SR、2mM L−グルタミン、0.1mM非必須アミノ酸溶液(全てGibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(2ME)(Sigma−Aldrich,Dorset,UK)および4ng/mlヒト組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF−2)(157 aa)(R&D Systems,Oxon,UK)を補給したDMEM/F12培地からなった。2日に1回細胞に供給した。
【0104】
これらの細胞の成長率は、マウスESCのものよりも非常に遅かった。失活させたMEF細胞が培養中で7〜10日後に死滅したので、7〜10日おきにhESCを新しいフィーダー層に移動させた。細胞を解凍した後、サブコンフルエントな培養ウェルを得て、細胞を分割するまでに約4〜6週かかる。細胞はコロニーの中にいた時だけ成長し、その未分化状態を維持した。単一の細胞は成長しなかった。時々自発的な分化を起こしたコロニーもあった。
【0105】
1.2アルギン酸ビーズ中のhESCの封入
1.2.1カプセル封入方法
4〜5日目の未分化のhESCをトリプシン処理し、1.1% (w/v)低粘度アルギン酸*(Sigma,UK)および0.1% (v/v)ブタゼラチン(Sigma,UK)(全てPBS、pH7.4に溶解した)溶液中に室温で再懸濁した。低粘度アルギン酸は、主に1−4結合の無水−β−D−マンヌロン酸残基からなるコロイド状の、親水性の直鎖ポリウロン酸である。Pharmacia蠕動ポンプ[Amersham Biosciences,UK(モデルP−1)]、流速×20、落高30mm[(チューブはオートクレーブした後1M NaOHで30分間滅菌し、滅菌PBSで3回洗浄した)]で細胞−ゲル溶液を蠕動ポンプに通し、25ゲージ針(Becton Dickinson,UK)を用いて、室温の滅菌CaCl2溶液[蒸留水中100mM 塩化カルシウム(CaCl2)(Sigma,UK)および10mM N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)(Sigma,UK)、pH7.4]に滴下した。ゲル状の細胞−ゲル溶液は直ちにCaCl2溶液と接触し、球状のビーズを形成した(膨潤後の直径2.3mm)。ビーズは、室温にて6〜10分間穏やかに攪拌したCaCl2溶液中に残った。ビーズをPBS中で3回洗浄し、維持培地に入れた。
【0106】
アルギン酸ビーズに封入された未分化hESCを、hESC維持培地である、20%v/v KNOCKOUT(商標)SR、2mM L−グルタミン、0.1mM非必須アミノ酸溶液(全てGibco Invitrogen,Life Technologies,Paisley,UK製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(2ME)(Sigma−Aldrich,Dorset,UK)および4ng/mlヒト組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF−2)(157 aa)(R&D Systems,Oxon,UK)を補給したDMEM/F12培地中で培養した。成長のための条件は加湿インキュベーター中、37℃、5% CO2であり、静的条件下、標準的な組織培養プラスチック皿でビーズを培養した。3〜4日おきに細胞に供給した。何らかの構造および形態の変化を評価し、カラーCoolPix 950 デジタルカメラ(Nikon,Kingston−upon−Thames,UK)の付属する倒立顕微鏡(Olympus,Southall,UK)を用いて記録した。ビーズはhESCの凝集体と単一のhESCの双方を含有し、ビーズ内の単一のhESC細胞はコロニーを形成した。
【0107】
維持培養の130日後、ビーズをPBS中で2回洗浄し、細胞/コロニーを放出するために溶解した。
【0108】
1.2.2アルギン酸ビーズの溶解
滅菌脱重合バッファーを用いてビーズを溶解し、[(Ca2+−枯渇)(50mM クエン酸三ナトリウム二水和物(Fluka,UK)、77mM 塩化ナトリウム(BDH Laboratory supplies,UK)および10mM HEPES)](20)を、15〜20分間穏やかに攪拌しながらPBS洗浄したビーズに添加した。溶液を400gで10分間遠心分離し、ペレットをPBSで洗浄し、再び300gで3分間遠心分離した。
【0109】
1.3組織学
1.3.1パラフィン包埋
ビーズからの130日齢のヒトESC凝集体を室温にて1時間4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、短期または長期保存のために0.1%アジ化ナトリウム中に保存した(4℃)。脱水処理の前に、hESC凝集体を15分間PBS中に置いた。次に、hESC凝集体を逐次的な一連の濃度が次第に増加していくエタノールにとり、全ての水を除去した。次に、エタノールをキシレンの原液で完全に置換してエタノールのあらゆる痕跡を除去した。次に、キシレンを室温にて一晩パラフィン飽和キシレンで置換した。パラフィン飽和キシレン中のhESC凝集体を次に、20分間オーブン(60℃)に入れた。次に、キシレンを完全に液体パラフィンに置き換えた。次に、試料を包埋し、分割し(4μm)、室温にて一晩放置してVectabonded(商標)(Vector Laboratories,UK)ガラススライドに接着させた。
【0110】
1.3.2免疫細胞化学
パラフィンワックスを、キシレン、濃度を低減させたエタノール、そして次に水道水中の浸漬により切片から除去した。次に、切片をクエン酸三ナトリウム二水和物バッファー(10mM、pH6.0)中に浸漬しながらオートクレーブし、抗原を取り出すために冷却し乾燥させた。次に、一次希釈液として、PBS中の0.05%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)、0.01%(w/v)NaN3(Sigma)中で室温にて30分間3%(v/v)ブロッキングヤギまたはウサギ血清(Vector Laboratories)とともに試料をインキュベートした。
【0111】
免疫蛍光染色のため、ESCマーカー試料キット(Chemicon,International;カタログ番号SCR002)を製造業者のプロトコールに従って用いた。使用したモノクローナル抗体は、抗SSEA−4、抗TRA−1−60および抗TRA−1−81(キットに含まれている)である。Oct−4抗体(Santa Cruz Biotechnology)には、試料を一次希釈液(1:300)に希釈した一次抗体とともに4℃にて一晩インキュベートした後2回洗浄し、PBS中0.05%(w/v)BSAからなる二次希釈液に希釈した二次抗体(ヤギ抗ウサギ 1:300)(Santa Cruz,International)とともに暗所にて室温で1時間インキュベートした。その後、試料をPBS中で2回洗浄し、Vectashield(商標)を用いてマウントした。調製物をIX70蛍光倒立顕微鏡(Olympus,Southall,UK)で観察した。
【0112】
1.3.2.1ネガティブコントロール
ネガティブコントロール試料は、間接的な2層の蛍光標識などで用いられているならば二次抗体のバックグラウンド蛍光のチェックのために、一次抗体を除外することにより得ることができる。次に、ポジティブ試料をこれらのデータに関して正確に解釈することができる。ネガティブコントロールを用いて、蛍光ヒストグラムでのマーカーの位置決めをしてネガティブ集団の正確な位置の同定を可能にし、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の細胞表面抗原との非特異的結合の量を推定する。
【0113】
ポジティブコントロール
ポジティブコントロールには、hESCをMEFで成長させ、ESCマーカーキットを用いて免疫染色した。ポジティブコントロールを用いて、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の細胞表面抗原との特異的結合をポジティブ試料上で同定した。
【0114】
RNA抽出および逆転写
全RNAを、TRIzol試薬(Life Technologies,UK)およびRNeasy Miniキット(Qiagen,UK)を製造業者の説明書に従って用いて、アルギン酸ビーズ中に形成された175日および260日のhES細胞凝集体から抽出した。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Invitrogen,UK)を用いて1μgの全RNAから最終容積20μlのcDNAを合成した。オリゴ(dt)20を用いてRT反応を刺激し、それによって遺伝子特異的なプライマーの異なる位置で同じcDNAをPCR増幅することが可能となった。cDNA鋳型の非存在下でネガティブコントロールを行った。Primer Express 2ソフトウェア(Applied Biosystems,UK)を用いてプライマーを設計した。
【0115】
RT−PCR配列は以下の通りであった。
【0116】
【表1】

【0117】
ハウスキーピングmRNAに関して、ES細胞培養を分化させる際にGAPDH mRNAの方が他のハウスキーピングmRNA配列より安定していることが見出されたので、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用いた。他のヒトDNAおよびcDNA配列に対するプライマーアニーリング部位およびアンプリコン配列の類似性をBLASTでチェックした(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)。対になったプライマーアニーリング部位、およびアンプリコン配列が標的ヒト配列に特有のものであることが見出された。
【0118】
50μlのPCR反応混合物中の、MgCl2およびdNTPの最終濃度は、それぞれ3mMおよび10mMであった。Mastercycler(登録商標)ep(Eppendorf AG,Germany)でDNA増幅を行った。二本鎖DNA変性およびAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼの活性化を94℃にて10分間実施し、続いて94℃にて40サイクルの鋳型変性(5秒)、55℃にてプライマーアニーリング(Oct4およびGAPDHに関して;Nanogに関して55℃)および72℃にてプライマー伸張(30秒)を実施した。PCR産物を3%(w/v)アガロースゲルで分離し、臭化エチジウム蛍光により視覚化し、生成物のサイズを、100bpラダー(Fermentas)を用いて概算した。
【0119】
臭化エチジウム染色したゲルのデジタル画像を、コンピュータに接続された封入フラットベッド紫外線スキャナーおよびCCDカメラからなるFluor−S MultiImager system(Bio−Rad,UK)を用いて捕捉した。個別バンドの検出およびバックグラウンドノイズの除去を可能にし、遺伝子特異的増幅産物だけに起因する強度を得ることのできる、Bio−Rad Quantity Oneソフトウェア(Bio−Rad,UK)を用いて画像を解析した。
【0120】
RT−PCR分析(図7)は175日および260日の双方のhES細胞凝集体での多能性マーカー、Oct4およびNanogsの発現を示す。レーンAは175日齢のhES細胞凝集体、レーンBは260日齢のhES細胞凝集体、レーンCはネガティブコントロールである。GAPDH発現を内部対照として用いた。これらの結果は、hES細胞の多能性が、継代せずに100日を越える期間、hES細胞凝集体になお維持されていることを証明する。また、これらの結果は多能性マーカーについての前の免疫細胞化学的知見を支持する。
【0121】
結論および考察
得られた結果は、hES細胞がフィーダー細胞の非存在下およびフィーダー細胞馴化培地の非存在下で少なくとも130日間未分化状態で維持される能力を証明する。hES細胞カプセル封入のプロセスは、そのようなフィーダー細胞による支持の必要性をなくす物理的環境をもたらす。開発されたプロセスは、マウスES細胞の培養に用いられる方法に匹敵する方法を用いてhES細胞の培養を可能にする。hESのためにここに開発された培養手順は、マウスES細胞を用いて現在有効なプロトコールに基づくhES分化プロトコールを可能にするものであり、それは、そのような実験に十分な数の未分化ES細胞を利用できないことに起因してhES細胞で研究されてこなかったものである。開発されたhES細胞培養系は、hES細胞を用いる治療薬の開発のための、標準化された、調節可能な培養系に価値のあるプラットフォームを提供する。
【0122】
実施例2:単一のmES細胞の分化
単一のmES細胞をヒドロゲルビーズ(直径40〜100μm)内に封入し、維持培地、M2[ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10%(v/v)ウシ胎児血清、100単位/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン(全てinvitrogen,UK提供)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Sigma,UK)および1000単位/mLのEsgro(商標)(LIF)(Chemicon,UK)]中で10日間成長させた。10日前後で、単一のES細胞は分裂を起こして小さな細胞コロニーを形成した(図8)。これらの細胞は、確立された系統特異的シグナルでの刺激によって異なる系統の成熟細胞へ分化させるようにすることができる。例えば、骨形成細胞への分化の場合、後に記載するプロトコールに従う。
【0123】
実施例3:比較法、伝統的な2次元mES細胞の日常的維持および継代(参照文献番号2および3)
E14Tg2aマウス胚幹(mES)細胞系統を、37℃および5%のCO2(h37/5)に設定された加湿インキュベーター中の0.1%ゼラチンコート組織培養プラスチック上で日常的に継代した。未分化mES細胞(<p20)を2日または3日おきに継代し、新鮮なM2培地[ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10%(v/v)ウシ胎児血清、100単位/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン(全てinvitrogen,UK提供)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Sigma,UK)および1000単位/mL Esgro(商標)(LIF)(Chemicon,UK)]を毎日供給した。mES細胞を切り離すため、所望の量のトリプシン−エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)(TE)(Invitrogen,UK)を、培地の吸引および予熱PBSでの単一回洗浄後、mES細胞に3〜5分間投与した(h37/5)。
【0124】
2次元EB形成
胚様体形成は懸濁培養の前にmES細胞を注意深く調製することを必要とし、文書で十分に裏付けられている(8;9;24;28〜30)。しかし、懸濁の前の正確な条件の経験的な決定を、E14Tg2a細胞系統を用いてここに確立した。単層培養中の細胞は約80%集密的(confluent)であるべきであり、培養の2日目または3日目であるべきであり、形態的な未分化の分化に対する比が非常に高くなくてはならない。mES細胞は通常トリプシン処理されるが、5分のトリプシン処理をしなくても、2〜3分後に100〜200個の細胞の凝集塊が目に見えた。次に、細胞を300gで3分間、室温にて(22℃、(RT))遠心分離した。M2培地での成長の2日または3日後、コンフルエントなT75フラスコは、一般的に約5〜7×106細胞をもたらし、それを30mLのM1培地[α改変イーグル培地(αMEM)、10%(v/v)ウシ胎児血清、100単位/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン]に再懸濁し、直径90mmの細菌学的品質等級の2枚のペトリ皿(Bibby Sterilin,UK)に均一に分配した。単一の細胞懸濁液または数千個の細胞からなる大きな凝集塊が間違った3次元凝集をもたらすので、10〜20個の細胞の群れは本発明の方法による正確なEB形成に必須である。必須増殖因子(例えばL−グルタミン)が枯渇するようになり、有毒代謝物(例えばアンモニア)が堆積し始めたので、EB形成(h37/5)の3日目に培地が交換された。培養5日目に、EBを細菌学的プレートからの吸引により回収し、66gで4分間遠心分離した。培地を吸引し、予熱したPBSと交換して微量の血清を洗い落とした。細胞を再び66gで4分間遠心分離し、PBSを吸引した。3〜5分間洗浄した後、1mLのTEをEBに添加した(h37/5)。次に、予熱したM1培地(1mL)を添加して、トリプシン処理を停止させ、細胞を骨小結節形成アッセイのための単一の細胞懸濁液として所望の培地に再懸濁した。
【0125】
2次元骨小結節アッセイ
既に記載したように(31)、標準的な骨小結節形成アッセイを、8日目から29日目まで、βadex[10mMのβ−グリセロリン酸塩、50μg/mlのアスコルビン酸および1μM(いずれも終濃度)のデキサメタゾン]を継続的に補給したM1培地を用いて行った。脱凝集したEB(dEB)を、2日または3日おきに組織培養プラスチックもしくはガラススライド上の培地交換を行って21日間培養した(h37/5)。dEBのプレーティング密度は1cm2あたり5.208×103細胞であり、細胞25個につき培地1μLであった。
【0126】
実施例4:mESアルギン酸ビーズ封入
未分化マウスESC(mESC)を、1.1%(w/v)低粘度アルギン酸および0.1%(v/v)ブタゼラチンヒドロゲルビーズ(d=2.3mm)に封入した。ビーズ1個に10,000個のmESCを含有する、約600個のビーズを50mLの水平アスペクト比血管(HARV)バイオリアクターで培養した。バイオリアクター培養は回転速度17.5rpmに設定し、白血病阻害因子(LIF)を含有する維持培地で3日間培養し、それを次に、5日間、EB形成培地に交換した後、L−アスコルビン酸−2−リン酸塩(50μg/mL)、β−グリセロリン酸塩(10mM)およびデキサメタゾン(1μM)を含有する骨形成培地でさらに21日間培養した。培養29日後、ビーズあたりの細胞数の84倍の増加が観察され、アルギン酸ビーズ中にミネラル化したマトリックスが形成された。von KossaおよびアリザリンレッドS染色、アルカリ性ホスファターゼ活性、オステオカルシンのための免疫細胞化学、OB−カドヘリンおよびI型コラーゲン、RT−PCRおよびマイクロコンピュータ断層撮影法(マイクロCT)により骨形成を評価した。これらの知見は、臨床適用の可能性のあるmESCから、3次元(3D)でミネラル化した組織を再現可能な方法で産生するための、単純かつ統合されたバイオプロセスを提供する。
【0127】
材料および方法
マウスESC培養および胚様体形成
E14Tg2a細胞の培養およびEBの形成を、既に記載されるように行った(32)。手短に言えば、未分化mESC(<p20)を2〜3日おきに継代し、10%(v/v)のウシ胎児血清(FCS;Invitrogen)、100単位/mLのペニシリン(Invitrogen)、100μg/mLのストレプトマイシン(Invitrogen)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Sigma、UK)、および1000単位/mLのLIF(Chemicon,Chandlers Ford,UK)を補給した「ダルベッコ改変イーグル培地」(DMEM;invitrogen,Paisley,UK)からなる維持培地を毎日供給した。EBを分断し、凝集塊(10〜20個の細胞)を、α改変イーグル培地(αMEM;Invitrogen)、10%(v/v)FCS(Invitrogen)、100単位/mL ペニシリン(Invitrogen)、および100μg/mL ストレプトマイシン(Invitrogen)からなるEB分化培地に懸濁状態で5日間入れた。
【0128】
ミネラル化した組織および骨小結節アッセイ
既に記載したように(13)、50μg/mLのL−アスコルビン酸−2−リン酸塩(Sigma)、10mMのβ−グリセロリン酸塩(Sigma)、および1μMのデキサメタゾン(Sigma)を補給したα−MEM(Invitrogen)を用いて、37℃および5%のCO2で維持される組織培養プラスチックまたはガラススライドで8日〜29日まで培養し、ミネラル化した組織の形成を行った。プレーティング密度は5.2×103細胞/cm2であり、2日または3日おきに培地を交換した。
【0129】
カプセル封入およびバイオリアクター培養
未分化mESCを滅菌1.1%(w/v)低粘度アルギン酸(Sigma)、0.1%(v/v)ブタゼラチン(Sigma)、リン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS;pH7.4)中に1.56×106細胞/mLで懸濁した。細胞−ゲル溶液を蠕動ポンプ(モデルP−1;Amersham Biosciences,Amersham,UK)に通し、25ゲージ針を用いて30mmから100mM CaCl2、10mMのN−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N−(2−エタンスルホン酸)(HEPES;pH7.4)(全てSigma製)の滅菌溶液に滴下した。室温にて6〜10分間のゲル化の間に生じたビーズは球形であった(膨潤後の直径=2.3mm)。封入されたmESCを、50mLの水平アスペクト比血管バイオリアクター(Cellon,Bereldange,LUX)中の維持培地中で毎日培地交換をして3日間培養した。各リアクターには600個のビーズが含有され、培養の0〜21日目は17.5rpmで、培養の22〜29日目は20rpmで回転させた。回転速度を上げてアルギン酸ビーズ中のミネラル化した組織の形成を補い、その結果ビーズが重くなった。3日目から8日目まで、バイオリアクター培養にEB分化培地(前述の通り、αMEM)が供給され、その培地は6日目に補充され、続いて以前に記載したように8日目に骨形成添加剤を加えて骨形成誘導された(2〜3日おきに補充された)。
【0130】
生細胞/死細胞アッセイ
懸濁した細胞またはアルギン酸ビーズを、PBS中4μMのEthD−1および2μMのカルセインAM溶液(Invitrogen)とともに、暗所で室温にて30分間インキュベートし、続いてPBS洗浄した。死細胞をネガティブコントロールとして用いた。
【0131】
細胞試料の処理
ガラス製Flasketteスライド(Nalgene,Hereford,UK)で成長させた対照2次元細胞培養を20分間4%(w/v)パラホルムアルデヒド(PFA;BDH Laboratory Supplies)中で固定し、PBS中で洗浄した。アルギン酸ビーズを室温にて30分間4%(v/v)パラホルムアルデヒド(PFA;BDH Laboratory Supplies,Poole,UK)で固定し、パラフィンで包埋する前に次第に濃度が増加するエタノール、続いてキシレン(BDH Laboratory Supplies)で脱水した。包埋した試料をVectabond(商標)コートされたガラススライド(Vector Laboratories,Orton Southgate,UK)上で連続的に分割した(4μm)。免疫細胞化学のため、加熱により抗原を取り出す前に、脱水した切片を10mMクエン酸三ナトリウム二水和物バッファー(pH6.0;Sigma)に浸漬した。Balb/cマウス骨をアルギン酸ビーズと同じ方法で処理し、対照として用いた。
【0132】
組織学
アルギン酸ビーズ中で成長させた細胞の水和した2次元細胞培養または脱パラフィン処理した切片の組織学を、従来のヘマトキシリン/エオシン染色に従って調査した。
【0133】
アリザリンレッドSおよびvon Kossa染色
水和した2次元細胞培養およびパラフィン切片を、別の場所に記載されるように(33)、アリザリンレッドSまたはvon Kossa染色のいずれかで染色した。Von Kossa染色した切片をヌクレアーファーストレッドで対比染色し、連続的に脱水し、キシレン中で洗浄し、DPXにマウントした。Balb/cマウス骨を対照として用い、アルギン酸ビーズと同じ方法で処理した。
【0134】
免疫細胞化学
水和した2次元細胞培養またはパラフィン切片を10mMのクエン酸三ナトリウム二水和物バッファー(pH6.0;Sigma)に浸漬し、オートクレーブして抗原を取り出し、続いて室温にて45分のインキュベーションを0.2%(v/v)Triton−X−100(BDH Laboratory Supplies)とともに行った。表1に列挙されるように、試料を順次:a)室温にて30分間、一次希釈液としてPBS中、0.05%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)、0.01%(w/v)NaN3(Sigma)中で3%(v/v)ブロッキングヤギまたはウサギ血清(Vector Laboratories)とともに;b)4℃にて一晩、一次希釈液に希釈した幹細胞および骨芽細胞の一連のマーカーに対する一次抗体とともに;c)暗所で室温にて1時間、二次希釈液[PBS中0.05%(w/v)BSA]に希釈した二次抗体とともにインキュベートした。次に、試料をPBSで洗浄し、Vectashield(商標)を用いて、1.5μg/mLの4’,6ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)とともにマウントした。Balb/cマウス骨を対照として用い、アルギン酸ビーズと同じ方法で処理した。
【0135】
逆転写PCR
全RNAを、全RNA単離キット(Qiagen Ltd,Crawley,UK)を用いて抽出した。1μgの全RNA、ランダムプライマー、およびRNase阻害剤(Promega,UK)を含むAMV逆転写酵素を用いて一本鎖cDNA合成を行った。PCR反応バッファーは、1×Amplitaq Gold Buffer、2mM MgCl2、200μM dNTP、1.25単位のAmplitaq Gold DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems,Warrington,UK)、および各々500nMのプライマー(Invitrogen)で構成された。既に記載されるように(32)、RT−PCR分析を(20μLから)2μLのcDNAを用いて行った;プライマー配列は表1に列挙されている。MC−3T3−E1細胞を用いるポジティブコントロールを骨形成培地で10日間培養した。ネガティブコントロールのために逆転写酵素を除去した。
【0136】
【表2】

【0137】
MTSアッセイ
【0138】
CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagentアッセイ(Promega,Southampton,UK)を用いて培養期間中の代謝活性を評価した。フラスコ培養(2次元)で成長したmESCまたはアルギン酸ビーズに封入された(3次元)mESCの既知の数を用いて標準曲線を作成した。ネガティブコントロール(細胞を含まない)も行った。全てのアッセイは3つの別々の時に2回ずつ行い、各アッセイについて測定値を4重にとった。手短に言えば、2次元で培養したmESCを、24ウェルプレート中で、40μLのMTS試薬を加えた200μLのフェノールレッドを含まない維持培地で37℃にて2時間インキュベートした。50μLの10%(v/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の添加によって2次元反応のみが停止した。同様に、無作為に3個のアルギン酸ビーズを選択し、24ウェルプレートの個別のウェルに入れ、300μLのフェノールレッドを含まない維持培地および60μLのMTS試薬とともに37℃にて4時間インキュベートした。各反応物から100μLを96ウェルプレートのウェルに移し、MRX IIプレートリーダー(Dynex Technologies,Worthing,UK)を用いて450nmで測定した。
【0139】
DNAの定量
プロテイナーゼKで消化された試料の全DNA含量を、アルギン酸ビーズ中の細胞数を評価する間接的な方法として、DNA特異的染料のHoechst 33258(Sigma)を用いて、測定した。手短に言えば、ビーズを室温にて20分間脱重合バッファー(20)に溶かし、400gで10分間の遠心分離後に細胞ペレットを回収し、続いてPBSで洗浄した。ペレットを液体窒素中で瞬間冷凍し、分析まで−80℃で保存した。DNA分析のため、ペレットを、50μg/mL プロテイナーゼK(Sigma)を含有する100mMのリン酸水素二カリウム(Sigma)溶液中で37℃にて一晩消化した。プロテイナーゼKの熱不活化および12,000gで10分間の遠心分離の後、100μLの上清を100μLのHoescht 33258溶液(2μg/mL)と混合した。最後に、100μLのアリコートを、MFXマイクロタイタープレート蛍光光度計(Dynex Technologies)を用いて365nmで始まる励起波長および460nmの蛍光で測定した。高度に重合した仔ウシ胸腺DNA(Sigma)を用いて較正曲線を作成した。試料は、培養の0日目および29日目に行われた3回の独立した実験で2組用いた。
【0140】
ミネラル化のアリザリンレッド定量分析
封入されたmESCのミネラル化のアリザリンレッドS(ARS)アッセイを、Gregory et al.の方法(34)を適合させて培養を通して定量した。手短に言えば、100個のビーズを10%(v/v)ホルムアルデヒドで30分間固定し、20分間脱重合バッファー(20)に溶かした。400gで10分間の遠心分離により細胞ペレットを回収し、次に、2次元培養と同一の方法で染色した。
【0141】
アルカリ性ホスファターゼ(ALPase)活性
フラスコ培養で、または封入されたアルギン酸ビーズ(n=6)中で培養されたmESCのアルカリ性ホスファターゼ活性を、細胞またはビーズを150μLのアルカリ性ホスファターゼバッファー(pNPP;Sigma)および150μLのρ−ニトロフェノールリン酸溶液とともに暗所で37℃にて30分間インキュベートすることにより測定した。各ウェルに100μLの0.5N NaOH溶液を添加して反応を停止させ、各反応物から100μLを96ウェルプレートのウェルに移し、MRX IIプレートリーダー(Dynex Technologies)を用いて410nmで測定した。
【0142】
画像化
CoolPix 950デジタルカメラ(Nikon,Kingston−upon−Thames,UK)を備えたIX70倒立顕微鏡(Olympus,Southall,UK)またはAxiocam(Zeiss)を備えたBX60 直立型(Olympus)顕微鏡を用いて画像を捉えた。画像の人工的な強調は行わなかった。しかし、Adobe Photoshop 7.0を用いて画像を切り取った。生細胞/死細胞染色した試料を、Bio−Rad MRC600共焦点顕微鏡(Bio−Rad/Zeiss,Welwyn−Garden−City,UK)を用いて調製の30分以内に画像化し、COMOSソフトウェア(Bio−Rad,UK)を用いて処理した。
【0143】
マイクロCT
アルギン酸ビーズ内に形成された3次元のミネラル化した凝集体を再構築するために、70kV、160μAに設定し、それに従って較正されたphoenix|x−ray v|tome|x コンピュータ断層撮影機(Phoenix x−ray 3D Imaging System,Fareham,UK)を用いてマイクロCT解析を行った。1つの検出器を用いて、360°回転して画像を撮影し、各切片は6.75μm離れていた。本来はSiemens,Germanyにより開発されたSixtosソフトウェアを用いて、3次元再構築物を作成した。封入された細胞を含まないアルギン酸ビーズのネガティブコントロールおよびBalb/cマウス仔骨片のポジティブコントロールを用いた。
【0144】
統計分析
結果を、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表し、分散分析(ANOVA)を用いて分析した。統計的有意性をP<0.05とした。
【0145】
結果
アルギン酸ヒドロゲルに封入され、HARVバイオリアクターで培養されたmESCからの3次元ミネラル化組織を、形態学的に、表現型的に(表面および分子)、かつ機能的に(ミネラル化の程度)評価した。対照として、本発明者らは、骨形成細胞への分化が起こったことを確認するために(データは示さず)既に示された結果(31)を反復して、フラスコ(2次元)培養での骨小結節形成の伝統的なプロトコールに従ってmESCを培養した。
【0146】
封入されたmESCの形態学的特徴
分散した未分化mESCを、平均径2.3mmのアルギン酸ヒドロゲルビーズ内に封入した(ビーズ1個あたり細胞約10,000個)。維持培地での培養の3日後、アルギン酸ビーズ内で最初に分散しているmESCは、直径20〜50μmの4〜10個の細胞からなるコロニーを形成した(図1a)。これらのコロニーは球形、円盤状または紡錘状であり、ビーズの周囲に均一に分布していたが、稀にビーズ表面のすぐ外側の近くに位置していた(図1a)。3日目にLIFを除去し、EB形成培地で5日間培養した後、大部分のコロニーの外見は均一であり、アルギン酸マトリックス内の別個の「ポケット」の細胞数および全体のサイズは増加しているように見え(図1b)、コロニーのサイズは直径50〜400μmの範囲であった。培養の22日目までに、コロニーは非常に密集していた。大きなコロニーの大部分はビーズの中心に向かって位置し(図1c)、細胞物質を何ら含まない区域が辺縁に見られた。培養の29日後、コロニーの直径は500μmより大きかった。
【0147】
細胞の成長および代謝活性
封入されたmESCの細胞生存力は、コロニーの大きさが増してゆくにつれて、培養時間に伴って顕著に低下することはなかった。3日目に、赤血球の不足に示されるように、限られた細胞死の跡があった(図2)。しかし、大多数の細胞は、別個の生細胞コロニーを形成し始めた。コロニーサイズは培養時間が長くなるとともに大きくなるが、コロニーの数は、培養の最初の3週間は生存力が非常に高いという事実にもかかわらず顕著に増加しなかった(図2)。最後に、培養の29日後、生細胞コロニーは、22日よりも大きな数ではっきりと眼に見え、また、培養の初期よりも大きくなっていた。0日目の、単一のビーズ中のDNAの量を測定することにより評価した、代謝的に活性な未分化mESCのビーズ1個あたりの数は、ビーズあたり細胞10,287±228個であることが見出された(平均値±SE;n=2、各複製について150個のビーズを測定)。HARVバイオリアクター中の培養の29日後、ビーズあたり細胞859,716±13,492個(平均値±SE;n=6)であり、培養の開始から84倍増加したことが示された。代謝活性の変化は、培養のステップ、用いる培地の種類および供給の時期に関係するものと思われる。0日目から3日目まで、ビーズを維持培地で培養し、ビーズあたりの代謝活性は変化していないままであった(図2)。3日目に維持培地をEB形成培地と交換し、図2に示されるように、ビーズあたりの代謝活性に有意な増加(p<0.05)が観察された。8日目に分化培地を導入し、ビーズあたりの代謝活性は15日目までにかなり低下し、図2に示されるように、ようやく29日目までに実質的に増大した(p<0.05)。しかし、培養の29日目までにアルギン酸ビーズ内の細胞数が84倍に増加したことに起因して、細胞あたりの代謝活性は増大しなかった。
【0148】
ALPase活性およびミネラル化の量を、骨形成培地での骨形成期間(培養の15〜29日目)中の骨形成細胞への分化の指標として用いた。ALPase活性は、培養の15〜29日目の間に3倍低下した(p<0.05)(図2)。対照的に、ビーズあたりのミネラル化の量(410nmでの吸光度に基づく)は、図2に示されるように、15日目の0.0021±0.0003から29日目の0.0999±0.0035(平均値±SE)へ大幅に増加した(p<0.05)。吸光度の測定値をビーズにより規準化したが、実際の測定値は、測定値あたり100個のビーズのミネラル化した含量を用いて行った。
【0149】
未分化mESCおよびEBの特徴づけ
維持培地での培養の最初の3日間の、封入されたmESCによる未分化の表現型の保持を、培養の3日目にOct−4(核内)およびCD9(表面)の発現により確認した(図3a〜c)。さらに、EB形成ステップの間に、封入されたmESCは8日目に中胚葉のマーカーであるFlk−1の発現を示した(図3d)。
【0150】
3次元ミネラル化組織形成
アルギン酸ヒドロゲル中で封入されたmESCから形成された3次元ミネラル化組織を、アルギン酸ビーズの連続する切片を調べることにより培養の骨形成ステップ(15〜29日)の間に広範囲にわたって特徴付けた。図4a〜hは、濃いアリザリンレッドSおよびvon Kossa染色によって示すように、3次元ミネラル化組織がアルギン酸ビーズ内で早くも22日目に著しく形成され、29日までにさらに発達したことを実証する。明らかなように、試料には切片全体に広がるミネラル化した組織の大部分が含有されていた。培養の22日目〜29日目の間に染色の強さの変化を観察した。具体的に言えば、骨形成の中間ステップで(22日目)、アリザリンレッドSで染色した組織は均一な赤色であったが(図4c〜d)、マウス骨ポジティブコントロール(図4a〜b)に見出される赤/黒の強度には届かなかった。さらに、22日目の試料には幅50〜100μmのミネラル化した範囲を含む、直径100〜300μmの範囲の組織が含有された。対照的に、ヘマトキシリン/エオシン染色が示すように(図4e〜f)、骨形成期間の終わりに(29日)、アルギン酸ビーズにはより大きな組織の凝集が含まれた。最も大きな組織切片の大きさは500×500μmを上回った。形成された組織の特定の領域は壊死しているかに見えたが、生存染色で判定されるように、大部分は一様に生存していた(図2)。その上、生じた組織はビーズの中心を占有する傾向があり、円柱状の細胞の縁で高度に整えられていた(図4e)。最終的に、29日目に(図4g〜h)、形成されたミネラル化組織は、ポジティブコントロールに見られる赤/黒アリザリンレッドS染色強度を達成した(図4a〜b)。
【0151】
また、アルギン酸ヒドロゲルにおけるミネラル化組織形成も、免疫細胞化学によって骨特異的マーカーであるOB−カドヘリン、I型コラーゲンおよびオステオカルシンの発現を評価することにより調査した。骨芽細胞を識別する(35)OB−カドヘリンの発現は、培養の15日目、22日目および29日目に検出され(図4i〜k)、形成された組織の大きな切片全体にわたって広範に分布していた。染色の大部分は、細胞が円柱状に組織化されている組織の境界部分に限定されていた。オステオカルシン染色は、OB−カドヘリンポジティブ染色の同じ組織試料のミネラル化した切片の辺縁で検出された。(図4m)。最後に、マウス骨ポジティブコントロールと比較して低いレベルではあるが、I型コラーゲンも検出され、29日目にようやく目に見えた(図4p)。これは、用いるポリクローナル抗体の感受性が低いことに起因する可能性があり得る。免疫細胞化学反応の結果を遺伝子発現の分析により確認した。具体的に言えば、RT−PCRにより、ビーズ内で15日目、22日目および29日目にCbfa−1およびI型コラーゲンの発現が実証された(図5)。一時的な胚型である(21)IIA型コラーゲンおよびオステオカルシンの発現は15日目、22日目および29日目に見出された。29日目のビーズ内のオステオカルシン発現は、ポジティブコントロール(MC−3T3−E1細胞)と類似の強度であるように思われた。
【0152】
組織のミネラル化をマイクロCT解析により評価した。維持培地中に置かれた、封入されたmESCを含まないアルギン酸ビーズからなるネガティブコントロールのマイクロCT画像は、非常にコントラストの小さい画像をもたらし、X線を減衰させることのできる高密度物質が存在していないことを示した(図6)。対照的に、アルギン酸ビーズ内でmESCから形成されたミネラル化した組織は適当なコントラストをもたらした。密集した骨凝集の他に、アルギン酸ビーズの表面の「クラスト(crust)」も、15日目、22日目(データは示さず)および29日目のアルギン酸ビーズの辺縁の輪郭を表すマイクロCTで検出された(図6)。ビーズのクラストには、低いレベルの高密度物質(紫色)およびミネラル化した骨凝集体が(ビーズ自体の内部に)含有され、骨凝集体の中核からの距離が増加するにつれて減衰が減少している、それらの中心(黄色)の高レベルな減衰を示した。マウス大腿骨のポジティブコントロールを画像化してミネラル化の程度を比較した(図6)。無作為に選択されたアルギン酸ビーズの完全な走査を行うことにより、アルギン酸ビーズ内のミネラル化した組織領域の3次元の再構築がもたらされた。15日目に、ミネラル化した組織凝集体は目に見えなかったが、22日までに14個の別個の直径50μm未満の小さな凝集体が見えた。しかし、29日目に、50〜250μmのサイズ範囲の44±7(平均値±SE;n=2)のミネラル化した組織凝集体が存在した(図6)。これらのミネラル化した凝集体は、図4に見られるように軟組織で周りを囲まれ、図6(赤色矢印)でミネラル化した凝集の周りを囲んでいる暗い領域として微かに認識することができる。
【0153】
考察
胚幹細胞培養は、訓練を積んだ操作者と操作者に依存する判断を必要とする細分化された方法であるので、維持に手がかかることが妨げになる。現在、ESCは組織培養プラスチックで単層として培養され、培養がバッチ型であること、使用者が頻繁に介入すること、さらに培養域が迅速に消耗するという理由から微小環境で変動を受けやすい。近年、他者もまた、伝統的なESC培養の問題点を強調し、統合的な解決方法を提供した(36)。この報告書において、本発明者らは、干渉および培養操作の必要のないHARVバイオリアクターを用いる統合された方法で、未分化mESCがアルギン酸ビーズ中で3次元ミネラル化組織を形成する、新規なバイオプロセスを実証する。
【0154】
mESC培養の維持ステップの間、LIFの存在により達成される多能性および細胞生存力を維持することが必須である(4)。従って、LIFが、「半固体」であると考えられ、それらのカルシウム分布と多糖ブロックの配置の双方において異質であるアルギン酸ビーズへ確実に浸透することが非常に重要であった。カルシウムおよびアルギン酸の勾配はビーズ中に存在し、表面のクラスト(最大濃度)からビーズの中心(ゲル化の弱い区域)へと広がっている(37)。これらの濃度勾配は、なぜコロニーがビーズのクラストから500μmに成長すると思われるのかを説明する。例えば、調製されたアルギン酸ビーズは、分子量68kDaのタンパク質に浸透性であり(38)、LIFの拡散を容易に可能にするものであった(39;40)。600個のビーズからなる各バッチを、塩化カルシウム溶液中での6〜10分間のゲル化により作成した。アルギン酸のゲル化は、カルシウムおよびアルギン酸が互いに一定の構成境界の方へ拡散して、安定した構造、つまりCa++−アルギン酸ゲルネットワークを形成する反応拡散プロセスである。ビーズの表面クラストは常に形成され(全てのビーズが無傷で残っていることから)、従って、塩化カルシウム溶液に触れる時間の短いビーズはカルシウム−アルギン酸勾配を形成する時間が短く、ビーズの中心部により大きな弱いゲル化区域を有する(37)と仮定することが理に適っていると思われる。
【0155】
EB形成培地中で5日間の培養の後、アルギン酸ビーズ中のコロニーサイズは劇的に増大し、場合によっては直径400μmに達したが、生存力には何ら有意な低下はなかった。コロニーは、成長に対してより伝導力を有することが報告されているビーズ内の別個の「ポケット」で均一に成長した(37)。本発明者らが未分化mESCを封入し、伝統的な懸濁法を用いてEBを形成しなかったにもかかわらず、培養の3日目〜8日目の間のFlk−1抗原の発現は中胚葉の発達を確認した(23;41)。
【0156】
骨形成の間の早期に(15日目)OB−カドヘリンが発現したことは、3次元培養での骨芽細胞の存在を示した(42)。これらの骨芽細胞は、15日目に生存していて(エステラーゼ活性)、かつ代謝的に活性であった(デヒドロゲナーゼ活性)。代謝活性は培養時期の間、変動した。骨形成細胞への分化の開始時(8日目)、ビーズあたりの代謝活性は高かったが、15日目に低くなった。これはALPase活性が最高レベルであったが、ミネラル化がほぼ最低であったこと関連がある。骨形成が進行するにつれて(15日目〜29日目)、他の骨芽細胞分化および成長のモデルに見られるように、ALPase活性(ビーズあたりの)の低下およびミネラル化の増加が観察された(43)。骨格組織でのALPase活性は、その他の機能の中でも、局所の無機リン酸塩レベルを増加させ、ヒドロキシアパタイト結晶の成長の阻害剤を破壊し、さらにリン酸塩輸送に役立つと考えられる(44)。骨形成の後半部分は、骨芽細胞が分泌されたマトリックス内に閉じ込められ、それらの資源をミネラル化へ転用するためにそれらの代謝活性を劇的に低下させるステップであり得る。22日目および29日目のALPase活性の低下、ミネラル化の増加、および細胞あたりの低い代謝活性は、この期間中の細胞の表現型が成熟した骨芽細胞のものであり得ることを示唆する。このことは、骨形成の終わりまでに(29日目に)、オステオカルシン、OB−カドヘリンおよびI型コラーゲンタンパク質が検出されたという事実によってさらに実証される。Shimko et al(45)は、mESCがEB形成をせずに骨に分化するように誘導し、その結果ミネラル化がもたらされたが、彼ら自身が認めるように、従来型の骨形成と見なされなかった。彼らはオステオカルシンとI型コラーゲンの双方の産生が遅延し、ALPase活性が通常の骨形成と一致しなかったことを報告した。対照的に、本発明者らのデータは、ALPaseのレベル低下および骨特異的タンパク質の発現に示されるように、OB−カドヘリンについては早くても15日目に、従来型の3次元骨形成が起こることを実証する。
【0157】
オステオカルシンの発現は胚性骨において一時的なものであるが、それは成体骨で最も豊富なタンパク質のうちの1つであり、カルシウム依存的にヒドロキシアパタイトと結合する(46;47)。線維性骨は、不規則なコラーゲン線維の束、大きく多数の骨細胞、および不規則に分散するパッチに起こる、遅延型の無秩序なカルシウム沈着を特徴とする(48)。本研究において、22日目と29日目の両日にオステオカルシンが3次元組織凝集体の環および縁に存在することは、マイクロCTの結果に一致する。これらの所見は、アルギン酸ビーズ中のミネラル化した組織がアパタイト結晶の凝縮(骨の発達)により、さらに場合によっては類骨前方の前縁で(成体層状骨)形成されることを示唆する。本発明者らのデータから、細胞が主に増殖能を有する骨芽細胞であったこと(49)およびヒドロキシアパタイトが沈着していたことが推論される。複能性を有する前駆細胞から成熟骨細胞への分化の後には増殖、細胞外マトリックスの発達およびミネラル化ステップが続き、多少のアポトーシスが成熟小結節に見られることが認められている(50)。
【0158】
RT−PCR分析により、骨形成のエンドポイントで、Cbfa−1、I型コラーゲン、およびオステオカルシンを発現する、有糸分裂的に活性のある、成熟骨芽細胞の明白な表現型を有する、最終分化し、ミネラル化した骨組織の存在をさらに確認した(49;51)。胚のII型コラーゲン(スプライス変異体A)の発現は、mESCの骨形成細胞への分化の間は正常であり(21;52)、同様に、オステオカルシンの発現も既に骨形成細胞への分化の7日目から21日目(本研究の15日目から29日目に相当する)に報告されている(53)。成熟II型コラーゲン(スプライス変異体B)の発現が全くないことは、成体軟骨が存在せず、骨組織が主にI型コラーゲンからなることを示している。
【0159】
本発明の方法をhESCに適用すると、hESCの臨床での実現をもたらす可能性がある。具体的に言えば、海綿骨移植片に3〜4mmの溶解を修復する必要のある腰部の脊椎分離症などの外科手術には(54)、10,000個のESCから44±7(平均値±SE、n=2)個のミネラル化した凝集体を含有する単一のアルギン酸ビーズ(直径=2.3mm)が、そのような欠陥を修復するために十分な材料を提供し得る。さらに、ミネラル化した組織を充填したアルギン酸ヒドロゲルを欠陥部分に直接注射することも可能である(55〜57)。本発明の方法は、伝統的なESC培養の魅力的かつ有益な代替法を提供し、臨床適用のための大規模の3次元組織を提供することの障害を取り除く。手短に言えば、本発明者らは、操作者の介入によるところを最低限にし、再現性のある結果が得られ、スケールアップおよびオンラインモニタリングを受け入れやすい、未分化mESCからの3次元ミネラル化組織の生成のための、単純な、統合された方法を提示する。
【0160】
実施例5:封入された細胞の凍結保存
Stensvaag et al(2004)に記載される方法を用いて(59)、凍結手順の前にDMSO濃度を徐々に増加させた。クリオチューブをさらに−7.5d℃まで過冷却して核とした。その後、試料を0.25℃/分の速度で冷却し、液体窒素中に保存した。共焦点顕微鏡定量化(CLSM)技術およびNITSアッセイを用いて封入された細胞の生存力を評価した。
【0161】
[参考文献リスト]
【表3A】

【表3B】

【表3C】

【表3D】

【表3E】

【表3F】

【表3G】

【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1.2】Oct4の抗体で染色した免疫蛍光 130日パラフィン包埋/切片hESC凝集体は、Oct−4ポジティブの免疫染色を示した。(挿入図−ネガティブコントロールおよびポジティブコントロール)
【図3.4】抗TRA−1−81で染色した免疫蛍光 130日パラフィン包埋/切片hESC凝集体の免疫染色はこの抗体に対する強い免疫活性を提示し、多能性が保持されていることを示す。(挿入図−ネガティブコントロールおよびポジティブコントロール)
【図5.6】抗SSEA−4で染色した免疫蛍光 未分化hESC凝集体は、SSEA−4抗体ポジティブの免疫染色を示した。(挿入図−ネガティブコントロールおよびポジティブコントロール)
【図7】RT−PCR分析 RT−PCR分析は、多能性マーカーの発現を示す。175日および260日の双方でのOct4およびNanogのhES細胞凝集体。レーンAは175日齢のhES細胞凝集体、レーンBは260日齢のhES細胞凝集体、レーンCはネガティブコントロールである。GAPDH発現を内部対照として用いた。
【図8】M2培地中での静的3次元培養で10日間、ヒドロゲル1.1%w/vアルギン酸、0.1%v/vゼラチンビーズ内に封入された単一のmES細胞の成長。スケールバーは50μmである。単一のES細胞は分裂を起こし、10日前後で小さな細胞のコロニーが形成される。
【図9】統合された維持および骨形成細胞への分化戦略の模式図。ステップは、 a)アルギン酸とゼラチンマイクロビーズ中への未分化mESCの封入および3次元バイオリアクターへの導入; b)mES細胞数を増加させ、適した細胞クラスターを形成して3次元の多重前駆細胞(multiprogenitors)の形成を可能にするための、維持培地(M2)での3日間の培養; c)EB形成培地(M1)での5日間の培養; d)骨誘導および3次元骨形成を可能にするための骨形成培地(Buttery)での21日間の培養であった。
【図10】アルギン酸ビーズ中の組織形態。アルギン酸ビーズはその球形の形状を保ち、細胞クラスター形成が明らかとなる:(a)3日目(スケールバーの長さ=1000μm);(b)7日目(スケールバーの長さ=500μm);(c)21日目(スケールバーの長さ=500μm)。ヘマトキシリン/エオシン染色した様々な時点でのヒドロゲルの薄片は組織の発達を示す:(d)3日目(スケールバーの長さ=20μm);(e)8日目(スケールバーの長さ=20μm);(f)22日目(スケールバーの長さ=20μm)。
【図11】生細胞/死細胞染色(緑色は生細胞を示し、赤色は死細胞を示す;スケールバーの長さ=100μm)により証明されるアルギン酸ビーズ内部の細胞生存力(挿入図)。3次元培養でのビーズごとの生化学的能力を、代謝活性についてMTSアッセイ(黒三角;n=24)およびアルカリ性ホスファターゼアッセイ(黒丸;n=6)を用いて、さらにミネラル化した組織形成についてアリザリンレッドによる定量化(黒四角;n=6)を用いて評価した。エラーバーは標準誤差を表す。*/# 有意な増加/減少(p<0.05)。
【図12】封入されたmESCの特性決定。免疫細胞化学的方法により、3日目の未分化状態の維持:(a)DAPI(青色)およびCD9(赤色)、(b)DAPI(青色)、(c)Oct−4(緑色)を確認する。3次元培養がEB形成培地(3〜8日目)中で成長した場合、中胚葉組織の生成は8日目に明らかとなった:(d)DAPI(青色)およびFlk−1(緑色)。挿入図は組織培養プラスチックで(2次元)培養したmESCから得たネガティブコントロールを表す。スケールバーの長さ=20μm。
【図13】ミネラル化した組織形成の特性決定。(a)Balb/cマウス骨アリザリンレッドSポジティブコントロールおよび(b)Balb/cマウスvon Kossaポジティブコントロール。22日目のアルギン酸ビーズ中のミネラル化した組織形成が、(c)アリザリンレッドSおよび(d)von Kossa染色により証明された。アルギン酸ビーズの中央部分のヘマトキシリン/エオシン染色は、29日目にヒドロゲルの中心での組織形成を明らかにした(e〜f)。29日目の骨形成のための同じ切片の検査は、アリザリンレッドS(g)およびvon Kossa(h)に対してさらに顕著な染色を示した。29日目に免疫細胞化学的方法により、最終分化した骨芽細胞の存在を確認した:(i)DAPI(青色)で染色し、オステオカルシン(緑色)について免疫染色した29日目の切片であり、挿入図(j)は同様に染色したBalb/cマウスの骨ネガティブコントロールを示す;(k)高い倍率でDAPI(青色)染色し、オステオカルシン(緑色)について免疫染色した29日目の切片であり、挿入図(l)はBalb/cマウス骨ポジティブコントロールを示す;(m)DAPI(青色)で染色し、OB−カドヘリン(緑色)について免疫染色した29日目の切片であり、挿入図は(n)Balb/cマウス骨ポジティブコントロールおよび(o)Balb/cマウス骨ネガティブコントロールを示す;(p)DAPI(青色)で染色し、コラーゲン−I(緑色)について免疫染色した29日目の切片であり、挿入図は(q)Balb/cマウス骨ポジティブコントロールおよび(r)Balb/cマウス骨ネガティブコントロールを示す。スケールバーの長さは、(a〜f)について100μmであり、(g〜j)について20μmである。
【図14】骨形成期間中の15日目(d15)、22日目(d22)、および29日目(d29)の骨形成マーカーの遺伝子発現解析。L=100bp DNAラダー。RT−ve=GapDHプライマーを含む、29日目の逆転写酵素の非存在下でのRT−ネガティブコントロール。−ve=GapDHプライマーとともに、鋳型の代わりに水を用いるPCRネガティブコントロール。+ve=骨形成培地で10日間培養したMC−3T3−E1細胞を用いるポジティブコントロール。
【図15】マイクロコンピュータ断層撮影法(マイクロCT)を用いる組織ミネラル化の評価。アルギン酸ビーズを、29日目に骨凝集体のミネラル化の程度について評価した。(a〜b)擬似色、29日目の、無作為に選択された単一のアルギン酸ビーズの3次元部分の再構築。挿入図は、Balb/cマウス大腿骨を用いる擬似色ポジティブコントロールを表す。擬似色画像の色度は、最高(黄色)から紫色へ、そして最低(黒色)へ減衰するレベルを示し、それぞれ硬組織から軟組織を表す。(c)は、29日目のアルギン酸ビーズのグレースケール透過画像を示す(赤色の矢印は、ミネラル化した凝集体を取り巻く軟組織を示す)。挿入図は細胞を含まないアルギン酸ビーズを用いるネガティブコントロールのグレースケール透過画像を示す(破線はビーズの縁を示す)。(d)擬似色、29日目のアルギン酸ビーズの2次元断面図。スケールバーの長さ=100μm。
【図1】

【図3】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持マトリックス内に封入されたヒト胚幹(ES)細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)封入された細胞を維持培地中の3次元培養で維持するステップによる維持培養と
を含む、細胞培養の方法。
【請求項2】
前記維持培養が、フィーダー細胞の非存在下およびフィーダー細胞馴化培地の非存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞の分化に適した条件で、前記封入された細胞を分化培地中の3次元培養で分化させるステップをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記維持するステップと分化させるステップとが同一の容器中で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
分化のための刺激が与えられる、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
分化のための前記刺激が胚様体形成のための刺激を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
胚様体形成のための前記刺激が、分化を抑制する物質の除去、または分化を抑制する物質への曝露の減少;及び/又は、胚様体形成を促進する物質の添加、または胚様体形成を促進する物質への曝露の増加である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
外胚葉、内胚葉または中胚葉系統への分化のための刺激が与えられる、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
中胚葉の骨格系統への分化のための刺激が与えられる、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
骨形成細胞への分化または軟骨形成細胞への分化のための刺激が与えられる、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(a)支持マトリックス内に封入された単一のES細胞または複数のES細胞を提供するステップと、支持マトリックス構造体を形成するステップと、
(b)ES細胞の維持に適した条件で、前記封入された細胞を維持培地中の3次元培養で維持するステップによる維持培養と、
(c)骨形成細胞への分化に適した条件で、前記封入された細胞を分化培地中の3次元培養で分化させるステップによる、骨形成細胞への分化と
を含む、細胞培養の方法。
【請求項12】
前記封入された細胞の骨形成細胞への分化が、
(i)前記封入されたES細胞を分化培地中の3次元培養でインキュベートするステップと、胚様体形成のための刺激を与えるステップと、次に、
(ii)(i)で産生された前記封入された細胞を分化培地中でインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記封入された細胞の骨形成細胞への分化が、
(i)前記封入されたES細胞を分化培地中の3次元培養でインキュベートするステップと、次に
(ii)(i)で産生された前記封入された細胞を分化培地中でインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記封入された細胞の骨形成細胞への分化が、前記封入されたES細胞を分化培地中でインキュベートするステップと、骨形成細胞への分化のための刺激を与えるステップとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ES細胞が、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、魚類、げっ歯類、マウス、または鳥類起源のものである、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各支持マトリックス構造体内に複数の細胞が封入されて提供される、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
各支持マトリックス構造体内に単一の細胞が封入されて提供される、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)において、複数の支持マトリックス構造体が提供される、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記支持マトリックス構造体がビーズの形態である、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
細胞の維持および/または分化への試験刺激の効果を評価するための、支持マトリックス内に封入されたヒトES細胞の使用。
【請求項21】
細胞の維持および/または分化への培地および/または条件の効果を評価するための、支持マトリックス内に封入されたヒトES細胞の使用。
【請求項22】
試験化合物の存在下で前記封入された細胞を維持培地中でインキュベートするステップと、細胞の維持および/または分化への試験化合物の効果を評価するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
細胞の維持および/または分化に適した培地および条件において、試験刺激の存在下で前記封入された細胞をインキュベートするステップと、細胞分化への試験刺激の効果を評価するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
試験培地および/または試験条件の存在下で、前記封入された細胞をインキュベートするステップと、細胞の維持および/または分化への前記試験培地および/または試験条件の効果を評価するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞に試験刺激を与え、該細胞の維持および/または分化への試験刺激の効果を評価する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(a)において、各支持マトリックス構造体内に複数の細胞が封入される、請求項22〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(a)において、各支持マトリックス構造体内に単一の細胞が封入される、請求項22〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
封入された細胞が一連の培養容器に提供される、請求項22〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記一連の培養容器がマルチウェルまたはマルチチューブアレイである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップ(a)において、複数の封入された細胞が各培養容器に提供される、請求項22〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(a)において、複数の支持マトリックス構造体が各培養容器に提供される、請求項22〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(a)において、単一の封入された細胞が各培養容器に存在している、請求項22〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記支持マトリックス構造体がビーズの形態である、請求項22〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
細胞維持および/または分化への前記効果が、顕微鏡検査、ステップに特異的な抗原または複数の抗原の検出、および遺伝子発現の検出からなる群から選択される1以上の方法により評価される、請求項20〜33のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項35】
前記支持マトリックスがヒドロゲルからなるまたはヒドロゲルを含む、請求項1〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記支持マトリックスがアルギン酸からなるかまたはアルギン酸を含む、請求項1〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記支持マトリックスがゼラチンをさらに含む、請求項36または請求項37に記載の方法。
【請求項38】
前記支持マトリックスが、ゼラチン、ラミニン、バイオガラス(商標)、ヒドロキシアパタイト、細胞外マトリックス、細胞外マトリックスタンパク質、増殖因子;別の細胞培養からの抽出物、骨芽細胞培養からの抽出物を含む群から選択される1以上の物質をさらに含む、請求項35〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記封入された細胞を凍結させるステップをさらに含む、請求項1〜38のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項40】
前記支持マトリックスからの細胞の分離をさらに含む、請求項1〜19または39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法により得られた細胞。
【請求項42】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、または得られた封入された細胞。
【請求項43】
請求項1に記載の方法により得られる封入されたヒトES細胞。
【請求項44】
請求項3〜19のいずれか一項に記載の方法により得られた、封入された複能性細胞。
【請求項45】
請求項3〜19のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、または得られた、封入された骨形成細胞、軟骨形成細胞または心筋芽細胞。
【請求項46】
請求項3〜19のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、または得られた、封入された最終分化細胞。
【請求項47】
請求項42〜46のいずれか一項に記載の封入された細胞、または請求項41に記載の細胞の薬剤としての使用。
【請求項48】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の、骨の再構築を必要とする疾患または状態の治療のための薬剤としての使用。
【請求項49】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の、骨粗鬆症、骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures)、骨がん、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病、骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、歯周病(歯肉疾患)、および再建手術(治療のための顎顔面外科手術、または美容整形など)から選択される、疾患または状態の治療のための薬剤としての使用。
【請求項50】
請求項45に記載の封入された軟骨形成細胞の、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、美容再建手術;関節リウマチおよび変形性関節炎から選択される疾患または状態の治療のための薬剤としての使用。
【請求項51】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の、骨の再構築を必要とする疾患または状態の治療のための薬剤の製造における使用。
【請求項52】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の、骨粗鬆症、骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures)、骨癌、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病、骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、および歯周病(歯肉疾患)から選択される、疾患または状態の治療のための薬剤の製造における使用。
【請求項53】
請求項45に記載の封入された軟骨形成細胞の、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、再建手術;美容再建手術、関節リウマチおよび変形性関節炎から選択される疾患または状態の治療のための薬剤の製造における使用。
【請求項54】
請求項42〜46のいずれか一項に記載の、封入された細胞の被験体への投与を含む、被験体の治療方法。
【請求項55】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の被験体への投与を含む、骨の再構築を必要とする疾患または状態の治療方法
【請求項56】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞の投与を含む、骨粗鬆症;骨折(bone breaks)、骨折(bone fractures);骨癌、骨がん腫、骨形成不全症、パジェット病、線維性骨異形成症、聴力損失に関連する骨疾患、低ホスファターゼ血症、骨髄腫骨疾患、大理石骨病;骨の使いすぎ障害、骨のスポーツ障害、および歯周病(歯肉疾患)から選択される疾患または状態の治療方法。
【請求項57】
請求項45に記載の封入された細胞の被験体への投与を含む、関節炎、軟骨疾患もしくは軟骨障害、軟骨修復、関節リウマチおよび変形性関節炎から選択される、疾患または状態の治療方法。
【請求項58】
請求項45に記載の封入された細胞の被験体への投与を含む、治療的手術または美容整形から選択される再建手術の方法。
【請求項59】
請求項45に記載の封入された骨形成細胞または軟骨形成細胞の被験体への投与を含む、治療的手術または美容整形から選択される再建手術の方法。
【請求項60】
請求項42〜46のいずれか一項に記載の封入された細胞と、製薬的に許容可能な担体または希釈液とを含む医薬組成物。
【請求項61】
注射による投与、または内視鏡検査による投与のために処方される、請求項60に記載の医薬組成物。
【請求項62】
請求項42〜46のいずれか一項に記載の封入された細胞に由来する骨組織または軟骨組織。
【請求項63】
請求項42〜46のいずれか一項に記載の封入された細胞が播種された、または封入された細胞を含浸させた細胞足場。
【請求項64】
請求項62または請求項63に記載の医薬組成物を含有する、シリンジなどの充填済みの投与装置。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−538276(P2008−538276A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552734(P2007−552734)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050026
【国際公開番号】WO2006/079854
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(507256463)ノヴァセラ・リミテッド (1)
【出願人】(507256474)インペリアル・カレッジ・イノヴェイションズ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】