能動型振動騒音抑制装置
【課題】実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる能動型振動騒音抑制装置を提供する。
【解決手段】前回更新された振幅フィルタ係数に対して、伝達関数の推定値および残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、正弦波制御信号の振幅フィルタ係数を更新する。
【解決手段】前回更新された振幅フィルタ係数に対して、伝達関数の推定値および残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、正弦波制御信号の振幅フィルタ係数を更新する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応制御を用いて、能動的に振動や騒音を抑制することができる能動型振動騒音抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、適応制御を用いて能動的に振動や騒音を抑制する装置として、特許文献1〜4に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−051703号公報
【特許文献2】特開平5−61483号公報
【特許文献3】特開2004−354657号公報
【特許文献4】特開2000−99037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1においては、適応フィルタの更新に際して、適応信号出力から観測点までの伝達関数の推定値を用いている。この伝達関数は、振幅と位相により表している。ここで、推定伝達関数の位相と実際の伝達関数の位相とにずれが生じた場合には、振動や騒音が収束せずに発散するおそれがある。そのため、振動や騒音が発散しないようにするためには、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが許容範囲内にある場合に、適応制御を実行することにせざるを得ない。そこで、ずれの許容範囲を拡大することにより、適応制御をより実行できるようにすることが望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる能動型振動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の能動型振動騒音抑制装置は、正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタとしての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記正弦波制御信号を生成する正弦波制御信号生成部と、前記正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、前記制御振動制御音発生装置から前記評価点までの伝達関数の推定値を予め記憶する推定伝達関数記憶部と、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、前記正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される位相更新式の加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部とを備える。
【0007】
本発明により、制御が発散せずに収束することが可能な、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる。具体的には、従来においては、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが90°程度を超えた場合に、制御が発散してしまい、却って振動または騒音を大きくしてしまう状況になっていた。これに対して、本発明によれば、ずれが90°を超えたとしても、制御を収束させることができるようになる。
【0008】
また、本発明において、前記位相更新式の加減算項には、前記正弦波制御信号に基づき算出される項は含まれないようにしてもよい。
【0009】
このように、位相更新式に、正弦波制御信号に基づき算出される項を含まないとしても、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とが90°以上ずれた場合にも、発散を十分に抑制することができる。そして、位相更新式に、正弦波制御信号に基づき算出される項を含まないことにより、演算時間を短縮することができる。従って、より高速処理ができるとともに、位相のずれが大きいとしても振動または騒音を確実に抑制することができる。
【0010】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、前記ステップサイズパラメータは、予め設定した一定値としてもよい。
【0011】
このように、ステップサイズパラメータを一定値としたときにでも、振動または騒音の抑制効果を発揮できる。さらに、ステップサイズパラメータを一定値とすることで、ステップサイズパラメータの演算が不要となり、演算負荷を低減できる。
【0012】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、前記ステップサイズパラメータは、前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値に基づいて可変に設定されるようにしてもよい。
【0013】
ここで、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、位相フィルタ係数の更新値の絶対値および残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値は、制御が発散している状態や制御が収束している状態などに応じたものとなる。従って、発散判定値に基づいてステップサイズパラメータを可変にすることで、制御が発散することを抑制することができる。ここで、発散判定値として、(1)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値のみ、(2)位相フィルタ係数の更新値の絶対値のみ、(3)残留信号の絶対値のみ、(4)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と正弦波制御信号の積、(5)位相フィルタ係数の更新値の絶対値と正弦波制御信号の積、(6)残留信号の絶対値と正弦波制御信号の積、(7)(8)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と位相フィルタ係数の更新値の絶対値との和または積、(9)(10)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と残留信号の絶対値の和または積、(11)(12)位相フィルタ係数の更新値の絶対値と残留信号の絶対値の和または積などを用いることができる。
【0014】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して減算し、前記能動型振動騒音抑制装置は、前記発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定し、制御が発散状態であると判定された場合に、前記ステップサイズパラメータを大きくなるように可変に設定する発散処理部を備えるようにしてもよい。
【0015】
発散判定値が所定閾値より大きくなるということは、振動または騒音が収束しておらず、発散していると判断できる。そこで、発散処理部は、発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定して、発散状態である場合には、ステップサイズパラメータを大きな値に変更している。ここで、ステップサイズパラメータを大きくすることにより、制御振動制御音発生装置により出力される制御振動または制御音の大きさを抑制することができる。つまり、発散状態となった場合には、制御振動または制御音を抑制して、発散状態の悪化を抑制することができる。
【0016】
また、本発明において、前記発散判定値は、今回の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかと、過去の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかとに基づいて算出された調整発散判定値を適用するようにしてもよい。
【0017】
今回値(最新の振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、最新の位相フィルタ係数の更新値の絶対値および最新の残留信号の絶対値)のみであれば、意図しない外乱などにより変動量が急激に大きくなることがある。そのため、発散状態を適切にかつ安定して判断できないおそれがある。そこで、今回値のみならず過去値(過去の振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、過去の位相フィルタ係数の更新値の絶対値および過去の残留信号の絶対値)を考慮した調整発散判定値を適用することで、調整発散判定値の急激な変動を抑制することができるため、安定してかつ適切に発散状態を判断できる。調整発散判定値は、例えば、今回値および過去値を移動平均や、過去の所定期間の積分値などによって算出される値である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図2】位相ずれに対する収束、発散の可否を示す図である。
【図3】第二実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図4】経過時間に対する瞬間的な振幅フィルタ係数の更新値の絶対値の挙動を示す図である。
【図5】経過時間に対する調整発散判定値の挙動を示す図である。
【図6】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する残留信号の挙動を示す図である。
【図7】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する正弦波制御信号の挙動を示す図である。
【図8】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する調整発散判定値と振幅第二加減算項ステップサイズパラメータの挙動を示す図である。
【図9】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する残留信号の挙動を示す図である。
【図10】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する正弦波制御信号の挙動を示す図である。
【図11】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する調整発散判定値と振幅第二加減算項ステップサイズパラメータの挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
(能動型振動騒音抑制装置の概要)
能動型振動騒音抑制装置の概要について説明する。能動型振動騒音抑制装置は、種々の発生源が振動または騒音(以下、「抑制対象振動等」と称する)を発生する場合に、所望の位置において当該振動または騒音を能動的に抑制するために、制御振動または制御音(以下、「制御振動等」と称する)を発生させる装置である。つまり、抑制対象振動等に対して制御振動等を合成させることで、所定位置(評価点)において、制御振動等が抑制対象振動等を打ち消すように作用する。その結果、評価点において、抑制対象振動等が抑制されることになる。
【0020】
ここで、自動車を例にあげて説明する。自動車において、エンジン(内燃機関)が振動騒音発生源となり、エンジンによって発生した振動や騒音が車室内に伝達されないようにすることが望まれる。そこで、エンジンによって発生した振動や騒音(抑制対象振動等)を能動的に抑制するために、制御振動制御音発生装置によって制御振動等を発生させることとしている。なお、以下において、能動型振動騒音抑制装置は、自動車に適用し、エンジンによって発生される振動または騒音を抑制する装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。抑制すべき振動や騒音を発生するものであれば、全てに適用できる。
【0021】
(能動型振動騒音抑制装置の詳細説明)
次に、第一実施形態の能動型振動騒音抑制装置100の詳細について、図1を参照して説明する。図1に示すように、能動型振動騒音抑制装置100は、エンジン10によって発生される抑制対象振動等が伝達系Cを介して評価点20に伝達する場合に、評価点20における振動または騒音を低減するための装置である。
【0022】
能動型振動騒音抑制装置100は、角周波数算出部110と、正弦波制御信号生成部120と、発生装置130と、残留信号検出部140と、推定伝達関数記憶部150と、フィルタ係数更新部160とを備えている。
【0023】
角周波数算出部110は、エンジン10の回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力する。そして、角周波数算出部110は、入力されたパルス信号に基づき、該パルス信号の角周波数ωを算出する。このパルス信号の角周波数ωは、エンジン10によって発生される抑制対象振動等の主成分の角周波数ωに相当する。
【0024】
正弦波制御信号生成部120は、角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに基づいて、式(1)に従って得られる正弦波制御信号ynを適応制御によって生成する。ここで、添字のnは、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(1)より明らかなように、正弦波制御信号ynは、角周波数ωと、適応フィルタWnとしての振幅フィルタ係数anおよび位相フィルタ係数φnとを構成成分に含む、時刻tnにおける信号である。そして、振幅フィルタ係数anおよび位相フィルタ係数φnは、後述するフィルタ係数更新部160により適応的に更新される。
【0025】
【数1】
【0026】
発生装置130は、実際に振動や音を発生する装置である。この発生装置130は、正弦波制御信号生成部120によって生成された正弦波制御信号ynに基づいて駆動する。例えば、制御振動を発生させる発生装置130としては、例えば、駆動系につながるフレームやサブフレーム(図示せず)などに配置される振動発生装置である。また、制御音を発生させる発生装置130としては、例えば、スピーカー等である。発生装置130が例えば磁力を用いて制御振動や制御音を発生させる装置の場合には、コイル(図示せず)に供給する電流、電圧または電力を、各時刻tnにおける正弦波制御信号ynに応じるように制御することで、発生装置130が正弦波制御信号ynに応じた制御振動または制御音を発生する。
【0027】
そうすると、評価点20においては、発生装置130によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して伝達された振動騒音Znと、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が伝達系Cを介して伝達された振動騒音fnとが合成される。そこで、残留信号検出部140は、評価点20に配置されており、評価点20における残留振動または残留騒音(本発明における「残留信号」に相当する)enを検出する。この残留振動enは、式(2)で表される。例えば、残留振動enを検出する残留信号検出部140としては、加速度センサなどを適用できる。また、残留音enを検出する残留信号検出部140としては、吸音マイクなどを適用できる。残留信号検出部140によって検出される残留信号enがゼロになることが理想状態である。なお、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。つまり、伝達関数Gは、発生装置130そのものの伝達関数と、発生装置130と評価点20との間の伝達系Bの伝達関数とを含む。
【0028】
【数2】
【0029】
推定伝達関数記憶部150は、伝達関数を取得する際にはエンジン10の信号を使用せずに角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに基づいて、伝達関数Gの推定値「Gハット」を予め記憶している。ここで、図1および数式において、Gの上部に「^(ハット)」を付した記号は、推定値を意味する。ただし、記載の都合上、以下の説明において、伝達関数Gの推定値「Gハット」は、推定伝達関数「Gh」と記載する。ここで、上述したように、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。そして、伝達関数Gは、角周波数ωに応じた振幅成分Aと位相成分Φとにより表される。
【0030】
そこで、式(3)に示すように、推定伝達関数Ghとしては、角周波数ωに応じた推定振幅Aハット(以下、「Ah」と記載する)と推定位相Φハット(以下、「Φh」と記載する)とにより表される。なお、式(3)においては、推定伝達関数Gh、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、角周波数ωに応じたものとなるため、ωの関数であることを明記するために、それぞれGh(ω)、Ah(ω)およびΦh(ω)と記載している。
【0031】
【数3】
【0032】
例えば、推定伝達関数記憶部150には、角周波数ωに応じた推定振幅Ahおよび推定位相Φhのマップが記憶されている。この推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、例えば、自動車の製造初期段階、車検時、その他任意の時に、伝達関数の同定処理を行うことで算出される。ここで、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、実際の伝達関数Gの振幅Aおよび位相Φと一致することが理想ではあるが、外乱や経年変化などの種々の要因によって、両者にずれが生じることがある。
【0033】
ところで、ある瞬間において、評価点20における抑制対象振動等を抑制するためには、評価点20において抑制対象振動等fnと制御振動等Znとが逆位相であって同振幅である必要がある。しかし、例えば、実際の伝達関数Gの位相成分Φと推定位相Φhとが、180°ずれているとすると、評価点20において、抑制対象振動等fnと制御振動等Znとが同位相になるため、抑制対象振動等fnが抑制されることなく増大することになる。そのため、推定位相Φhは、非常に重要である。しかし、外乱や経年変化によって実際の伝達関数Gの位相成分Φが変化することがある。そのため、抑制対象振動等fnを抑制するためには、位相のずれの許容範囲を拡大することは有効である。これを実現するために、後述するようにフィルタ係数を設定している。
【0034】
フィルタ係数更新部160は、上述した正弦波制御信号ynを構成するための適応フィルタWnを適応的に更新する。適応フィルタWnは、式(4)に示すように、振幅フィルタ係数anと位相フィルタ係数φnとにより構成される。
【0035】
【数4】
【0036】
このフィルタ係数更新部160は、推定伝達関数記憶部150に記憶されている推定伝達関数Ghと、残留信号検出部140により検出される残留信号enと、正弦波制御信号生成部120により前回生成された正弦波制御信号ynとに基づいて適応フィルタWnを更新する。
【0037】
適応フィルタWnのうち振幅フィルタ係数anの更新は、式(5)に従って行う(振幅フィルタ係数更新部)。つまり、式(5)に示すように、振幅フィルタ係数anの更新式は、前回更新された振幅フィルタ係数anに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号enに基づき算出される振幅更新式の第一加減算項[{μaensin(ωtn+φn+Φh)}/Ah]を加減算すると共に、正弦波制御信号ynに基づき算出される振幅更新式の第二加減算項[{μyynsin(ωtn+φn)}]を加減算することにより、正弦波制御信号ynの振幅フィルタ係数の更新値an+1を算出する。ここで、加減算項とは、振幅フィルタ係数anに対する加減算項を意味しており、振幅フィルタ係数anより後の加減算項を順に第一加減算項、第二加減算項と定義している。つまり、振幅フィルタ係数anは、本明細書における加減算項の中から除外している。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、式(5)において、振幅更新式の第一加減算項および第二加減算項は、前回更新された振幅フィルタ係数anから減算した式として表している。また、振幅更新式の第一加減算項は、振幅第一加減算項ステップサイズパラメータμaを乗算した項としている。この振幅第一加減算項ステップサイズパラメータμaは、予め決定された固定値としている。また、振幅更新式の第二加減算項は、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを乗算した項としている。この振幅更新式の第二加減算項は、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyも、本実施形態においては予め決定された固定値としている。
【0040】
また、適応フィルタWnのうち位相フィルタ係数φnの更新は、式(6)に従って行う(位相フィルタ係数更新部)。つまり、式(6)に示すように、位相フィルタ係数φnの更新式は、前回更新された位相フィルタ係数φnに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号enに基づき算出される位相更新式の加減算項[μφencos(ωtn+φn+Φh)]を加減算することにより、正弦波制御信号ynの位相フィルタ係数の更新値φn+1を算出する。この位相フィルタ係数φnの更新式には、振幅フィルタ係数anの更新式とは異なり、正弦波制御信号ynに関する加減算項を含まない。
【0041】
【数6】
【0042】
ここで、式(6)において、位相更新式の加減算項は、前回更新された位相フィルタ係数φnから減算した式として表している。また、位相更新式の加減算項は、位相ステップサイズパラメータμφを乗算した項としている。この位相ステップサイズパラメータμφは、予め決定された固定値としている。
【0043】
(解析結果)
ここで、上述したように、外乱や経年変化などによって、実際の伝達関数Gの位相Φと推定伝達関数Ghの推定位相Φhとにずれ(以下、単に「位相ずれ」と称する)が生じている場合には、評価点20において抑制対象振動等fnを抑制せずに、発散することがある。そこで、実際の伝達関数Gの位相Φと推定伝達関数Ghの推定位相Φhとのずれを変化させた場合に、抑制対象振動等fnを収束させることができるか、それとも発散するかについて解析を行った。
【0044】
このとき、振幅更新式の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適宜変化させた。振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大、小の二種類について解析を行った。また、比較のため、式(5)の振幅第二加減算項を含まない振幅更新式の場合についても解析を行った。解析結果を示す図2において、縦軸は、制御効果比率(%)を示しており、式(5)の振幅第二加減算項を含まない振幅更新式で位相ずれ0°の時の制御効果を100%とし、制御効果が無い場合を0%として図示する。
【0045】
まず、比較例としての振幅第二加減算項を含まない振幅更新式の場合を(a)にて示す。この場合、位相ずれが0°以上90°未満の範囲であれば、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが90°を超えると、抑制対象振動等が発散している。次に、式(5)に示す振幅第二加減算項を含む振幅更新式を適用し、かつ、小さな振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適用した場合には、図2の(b1)に示す。この場合、位相ずれが0°以上95°付近までの範囲において、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが95°を超えると発散している。さらに、振幅第二加減算項を含まない場合と比較すると、位相ずれが大きくなるにつれて制御効果比率が小さくなっていることが分かる。
【0046】
次に、式(5)に示す振幅第二加減算項を含む振幅更新式を適用し、かつ、大きな振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適用した場合には、図2の(c1)に示す。この場合、位相ずれが0°以上115°付近までの範囲において、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが115°を超えると発散している。さらに、(b1)と比較すると、位相ずれが大きくなるにつれて制御効果比率が小さくなっていることが分かる。
【0047】
このように、振幅フィルタ係数anの更新式に振幅第二加減算項を含ませることにより、位相ずれが90°を超えたとしても、制御を収束させることができるようになる。特に、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大きくするほど、位相ずれの許容範囲(制御が収束する範囲)を拡大することができる。ただし、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大きくするほど、制御効果比率が小さくなる。すなわち、発生装置130によって出力される制御振動または制御音が小さくなってしまう。そこで、位相ずれの許容範囲と出力される制御振動または制御音の低減との関係を考慮して、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適宜設定すればよい。
【0048】
また、位相フィルタ係数φnの更新式には、正弦波制御信号ynに関する加減算項を含まないため、正弦波制御信号ynを含む場合と比較すると、演算時間を短縮できる。これにより、より高速処理ができるようになる。
【0049】
(適応フィルタの更新式の導き方)
上述した式(5)(6)に、振幅フィルタ係数anの更新式および位相フィルタ係数φnの更新式を示した。これらの更新式の導き方について、以下に説明する。
【0050】
まず、評価関数Jを式(7)のように定義する。つまり、評価関数Jは、残留信号検出部140により検出される残留信号eの二乗と、正弦波制御信号生成部120により生成される正弦波制御信号yの二乗との和とする。この評価関数Jが最小となるような正弦波制御信号yを求める。
【0051】
【数7】
【0052】
勾配ベクトル▽nを式(8)に従って算出する。勾配ベクトル▽nは、評価関数Jnを適応フィルタWnで偏微分して得られる。そうすると、勾配ベクトル▽nは、右辺のように表される。
【0053】
【数8】
【0054】
このようにして算出した勾配ベクトル▽nにステップサイズパラメータμを乗じた項を、前回更新された適応フィルタWnから減算することにより、適応フィルタWn+1を導き出す。このようにして、式を展開すると、式(9)のように表される。
【0055】
【数9】
【0056】
ここで、適応フィルタWnは、式(4)にて示したように、振幅フィルタ係数anと位相フィルタ係数φnとにより構成される。つまり、振幅フィルタ係数anの更新式は式(10)のように表され、位相フィルタ係数φnの更新式は式(11)のように表される。ここで、式(10)のAh−1は、振幅フィルタ係数anの更新に対して正規化処理を加えたものである。
【0057】
【数10】
【0058】
そして、式(10)(11)を考慮して、最終的に、振幅フィルタ係数anの更新式は式(12)に示すものとし、位相フィルタ係数φnの更新式は式(13)に示すものとした。ここで、振幅フィルタ係数anの更新式である式(12)は、上述した式(10)と同一である。しかし、位相フィルタ係数φnの更新式である式(13)は、式(11)と異なる。式(13)は、式(11)における正弦波制御信号ynに関する項を削除した式としている。
【0059】
【数11】
【0060】
ところで、式(10)(11)にて表される更新式を用いて適応制御を行った場合に、図2に示した結果とほぼ同様の効果を得ることができた。つまり、式(12)(13)にて表される更新式を用いて適応制御を行う場合には、式(10)(11)にて表される更新式を用いて適応制御を行う場合に比べて、正弦波制御信号ynに関する減算項が存在しない分、演算負荷が少なくなる。従って、演算処理の高速化を図ることができる。つまり、式(12)(13)にて表される更新式を用いて適応制御を行うことで、位相ずれの許容範囲を拡大しつつ、演算処理の高速化を図ることができる。
【0061】
<第二実施形態>
第二実施形態の能動型振動騒音抑制装置200について、図3〜図11を参照して説明する。ここで、本実施形態の能動型振動騒音抑制装置200において、第一実施形態の能動型振動騒音抑制装置100と同一構成については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。本実施形態の能動型振動騒音抑制装置200は、図3に示すように、角周波数算出部110と、正弦波制御信号生成部120と、発生装置130と、残留信号検出部140と、推定伝達関数記憶部150と、フィルタ係数更新部260と、発散処理部270とを備えている。
【0062】
フィルタ係数更新部260は、式(5)に従って振幅フィルタ係数anを更新し、式(6)に従って位相フィルタ係数φnを更新する。ただし、第一実施形態においては、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを固定値としたが、本実施形態においては、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを可変させる。
【0063】
この振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは、発散処理部270により設定される。発散処理部270は、今回更新しようとする振幅フィルタ係数an+1の更新値の絶対値Δaw1n+1を算出する。振幅フィルタ係数an+1の更新値の絶対値Δaw1n+1は、式(14)に示すように、振幅フィルタ係数an+1の更新式における振幅第一加減算項[{μaensin(ωtn+φn+Φh)}/Ah]および振幅第二加減算項[{μyynsin(ωtn+φn)}]の和の絶対値である。
【0064】
【数12】
【0065】
そして、発散処理部270は、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1を用いて、制御が発散状態であるか否かを判定する。振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が大きな値の状態を継続する場合には、制御が発散状態であると判定する。反対に、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が小さな値の状態を継続する場合には、制御が収束した状態またはほぼ収束した状態であると判定する。また、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が、中間値の場合には、制御が収束に向かっている状態であると判定する。
【0066】
ただし、図4に示すように、瞬間的な振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1は、非常にばらつきが大きい。そのため、発散状態か否かの判定が容易ではない。そこで、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1の移動平均値を用いる。具体的には、今回更新される振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1と、過去に更新された振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n等を用いて、調整発散判定値Δawmn+1を算出する。調整発散判定値Δawmn+1は、式(15)により算出される。そして、今回更新値に対する重み係数を過去更新値に対する重み係数より小さく設定することで、図5に示すように、調整発散判定値Δawmn+1を今回更新値の影響を受けつつ滑らかに変化させることができる。
【0067】
【数13】
【0068】
そして、調整発散判定値Δawmn+1が大きな値になると、制御が発散状態であると判定する。このとき、式(16)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1より大きい場合には、式(17)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ大きくする。つまり、振幅第二加減算項を大きくする。そうすると、振幅フィルタ係数an+1は、小さくなるように変化していく。ただし、式(18)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が上限値μy−maxを超えた場合には、当該上限値μy−maxとなる。つまり、発散状態が継続されると、振幅フィルタ係数an+1は、最小値を継続する。つまり、この場合、正弦波制御信号ynは最小値となり、振動または騒音の抑制効果を発揮しない。
【0069】
【数14】
【0070】
一方、調整発散判定値Δawmn+1が小さな値になると、制御が収束状態またはほぼ収束状態であると判定する。このとき、式(19)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。つまり、振幅第二加減算項を小さくする。そうすると、振幅フィルタ係数an+1は、大きくなるように変化していく。ただし、式(21)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が下限値μy−minを超えた場合には、当該下限値μy−minとなる。つまり、収束状態が継続されると、振幅フィルタ係数an+1は、最大値を継続する。つまり、この場合、正弦波制御信号ynは最大値となり、振動または騒音の抑制効果を最大限発揮する。
【0071】
【数15】
【0072】
また、式(22)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以下で収束判定用閾値Th2より大きい場合には、式(23)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyと同値とする。つまり、制御が収束に向かうようになり、振動または騒音の抑制効果を発揮する。
【0073】
【数16】
【0074】
(解析結果)
次に、位相ずれを90°とした場合と、位相ずれを120°とした場合について、解析を行った。位相ずれが90°の場合について、図6〜図8を参照して説明する。図6に示すように、初期において、残留信号検出部140により検出される残留信号enが大きくなっている。このとき、図7に示すように、正弦波制御信号ynが大きくなる。その結果、図6に示すように、残留信号enが低減されていく。ここで、図8に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は0からスタートし、収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。
【0075】
そして、調整発散判定値Δawmn+1が収束判定用閾値Th2を超えると、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1は前回のμyと同値とする。ただし、この瞬間において、図8に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は、徐々に大きくなっている。しかし、図6に示すように、残留信号enは徐々に低減しているため、調整発散判定値Δawmn+1は、発散判定用閾値Th1以上になることなく、徐々に低減していく。このようにして、最終的には、残留信号enは収束する。
【0076】
一方、位相ずれが120°の場合について、図9〜図11を参照して説明する。図9に示すように、初期において、残留信号検出部140により検出される残留信号enが大きくなっている。このとき、図10に示すように、正弦波制御信号ynが大きくなる。その結果、図9に示すように、残留信号enが低減されていく。ここで、図11に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は0からスタートし、収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。そうすると、ここでは、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1が下限値μy−minに到達するため、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1は下限値μy−minとなる。
【0077】
このように振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1が下限値μy−minの間も、図9に示すように、残留信号enは収束に向かっていない。そのため、図11に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以上となる。そうすると、式(17)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ大きくする。図11に示すように、徐々に、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは大きくなっていく。
【0078】
この間も、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以上の状態を継続する。そのため、図11に示すように、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは上限値μy−maxに到達し、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは上限値μy−maxとなる。つまり、位相ずれが120°の場合には、制御が発散状態となり、正弦波制御信号ynを最小値とし、実質的に振動騒音抑制制御を行わない状態となる。このようにすることで、制御が発散状態になった場合に、残留信号enは振動発生源による抑制対象振動よりも大きな振動等になることを防止できる。
【0079】
なお、本解析において、位相ずれが120°の場合に制御が発散したが、これは、発散判定用閾値Th1および収束判定用閾値Th2の設定に応じて、適宜異なる状態となる。第一実施形態にて図2を参照して説明したように、振幅フィルタ係数anの更新式の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyの大きさによって、位相ずれの許容範囲が異なる。つまり、第二実施形態においても、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyの範囲を変更することで、位相ずれの許容範囲が変化する。
【0080】
<その他>
第二実施形態の発散処理部270において、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1により発散判定を行ったが、この他に、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値により発散判定を行うこともでき、さらには、残留信号enの絶対値により発散判定を行うこともできる。
【0081】
特に、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値×位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値×残留信号enの絶対値]、[位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値×残留信号enの絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値+位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値+残留信号enの絶対値]、[位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値+残留信号enの絶対値]の何れかを適用できる。
【0082】
振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値としては、上述したように移動平均値を適用するとよい。また、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値としては、上述した振幅フィルタ係数anを用いて説明した方法と同様の方法により算出した移動平均値を適用するとよい。また、残留信号enについても、同様に移動平均値を適用するとよい。
【0083】
また、振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値、残留信号enの絶対値について、移動平均値の他に、横軸を更新回数とし、縦軸を各1回値として、現在から過去に遡った所定期間における積分値を用いることもできる。例えば、発散判定用の振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値として、横軸を更新回数とし、縦軸を振幅フィルタ係数anの1回更新値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。また、発散判定用の位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値として、横軸を更新回数とし、縦軸を位相フィルタ係数φnの1回更新値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。また、発散判定用の残留信号enの絶対値として、横軸を検出回数(更新回数に相当)とし、縦軸を残留信号enの1回検出値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。
【符号の説明】
【0084】
10:エンジン、 20:評価点
100,200:能動型振動騒音抑制装置、 110:角周波数算出部
120:正弦波制御信号生成部、 130:発生装置、 140:残留信号検出部
150:推定伝達関数記憶部、 160,260:フィルタ係数更新部
270:発散処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応制御を用いて、能動的に振動や騒音を抑制することができる能動型振動騒音抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、適応制御を用いて能動的に振動や騒音を抑制する装置として、特許文献1〜4に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−051703号公報
【特許文献2】特開平5−61483号公報
【特許文献3】特開2004−354657号公報
【特許文献4】特開2000−99037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1においては、適応フィルタの更新に際して、適応信号出力から観測点までの伝達関数の推定値を用いている。この伝達関数は、振幅と位相により表している。ここで、推定伝達関数の位相と実際の伝達関数の位相とにずれが生じた場合には、振動や騒音が収束せずに発散するおそれがある。そのため、振動や騒音が発散しないようにするためには、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが許容範囲内にある場合に、適応制御を実行することにせざるを得ない。そこで、ずれの許容範囲を拡大することにより、適応制御をより実行できるようにすることが望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる能動型振動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の能動型振動騒音抑制装置は、正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタとしての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記正弦波制御信号を生成する正弦波制御信号生成部と、前記正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、前記制御振動制御音発生装置から前記評価点までの伝達関数の推定値を予め記憶する推定伝達関数記憶部と、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、前記正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される位相更新式の加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部とを備える。
【0007】
本発明により、制御が発散せずに収束することが可能な、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる。具体的には、従来においては、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが90°程度を超えた場合に、制御が発散してしまい、却って振動または騒音を大きくしてしまう状況になっていた。これに対して、本発明によれば、ずれが90°を超えたとしても、制御を収束させることができるようになる。
【0008】
また、本発明において、前記位相更新式の加減算項には、前記正弦波制御信号に基づき算出される項は含まれないようにしてもよい。
【0009】
このように、位相更新式に、正弦波制御信号に基づき算出される項を含まないとしても、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とが90°以上ずれた場合にも、発散を十分に抑制することができる。そして、位相更新式に、正弦波制御信号に基づき算出される項を含まないことにより、演算時間を短縮することができる。従って、より高速処理ができるとともに、位相のずれが大きいとしても振動または騒音を確実に抑制することができる。
【0010】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、前記ステップサイズパラメータは、予め設定した一定値としてもよい。
【0011】
このように、ステップサイズパラメータを一定値としたときにでも、振動または騒音の抑制効果を発揮できる。さらに、ステップサイズパラメータを一定値とすることで、ステップサイズパラメータの演算が不要となり、演算負荷を低減できる。
【0012】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、前記ステップサイズパラメータは、前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値に基づいて可変に設定されるようにしてもよい。
【0013】
ここで、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、位相フィルタ係数の更新値の絶対値および残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値は、制御が発散している状態や制御が収束している状態などに応じたものとなる。従って、発散判定値に基づいてステップサイズパラメータを可変にすることで、制御が発散することを抑制することができる。ここで、発散判定値として、(1)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値のみ、(2)位相フィルタ係数の更新値の絶対値のみ、(3)残留信号の絶対値のみ、(4)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と正弦波制御信号の積、(5)位相フィルタ係数の更新値の絶対値と正弦波制御信号の積、(6)残留信号の絶対値と正弦波制御信号の積、(7)(8)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と位相フィルタ係数の更新値の絶対値との和または積、(9)(10)振幅フィルタ係数の更新値の絶対値と残留信号の絶対値の和または積、(11)(12)位相フィルタ係数の更新値の絶対値と残留信号の絶対値の和または積などを用いることができる。
【0014】
また、本発明において、前記振幅更新式の第二加減算項は、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して減算し、前記能動型振動騒音抑制装置は、前記発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定し、制御が発散状態であると判定された場合に、前記ステップサイズパラメータを大きくなるように可変に設定する発散処理部を備えるようにしてもよい。
【0015】
発散判定値が所定閾値より大きくなるということは、振動または騒音が収束しておらず、発散していると判断できる。そこで、発散処理部は、発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定して、発散状態である場合には、ステップサイズパラメータを大きな値に変更している。ここで、ステップサイズパラメータを大きくすることにより、制御振動制御音発生装置により出力される制御振動または制御音の大きさを抑制することができる。つまり、発散状態となった場合には、制御振動または制御音を抑制して、発散状態の悪化を抑制することができる。
【0016】
また、本発明において、前記発散判定値は、今回の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかと、過去の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかとに基づいて算出された調整発散判定値を適用するようにしてもよい。
【0017】
今回値(最新の振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、最新の位相フィルタ係数の更新値の絶対値および最新の残留信号の絶対値)のみであれば、意図しない外乱などにより変動量が急激に大きくなることがある。そのため、発散状態を適切にかつ安定して判断できないおそれがある。そこで、今回値のみならず過去値(過去の振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、過去の位相フィルタ係数の更新値の絶対値および過去の残留信号の絶対値)を考慮した調整発散判定値を適用することで、調整発散判定値の急激な変動を抑制することができるため、安定してかつ適切に発散状態を判断できる。調整発散判定値は、例えば、今回値および過去値を移動平均や、過去の所定期間の積分値などによって算出される値である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図2】位相ずれに対する収束、発散の可否を示す図である。
【図3】第二実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図4】経過時間に対する瞬間的な振幅フィルタ係数の更新値の絶対値の挙動を示す図である。
【図5】経過時間に対する調整発散判定値の挙動を示す図である。
【図6】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する残留信号の挙動を示す図である。
【図7】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する正弦波制御信号の挙動を示す図である。
【図8】位相ずれ90°の場合における経過時間に対する調整発散判定値と振幅第二加減算項ステップサイズパラメータの挙動を示す図である。
【図9】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する残留信号の挙動を示す図である。
【図10】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する正弦波制御信号の挙動を示す図である。
【図11】位相ずれ120°の場合における経過時間に対する調整発散判定値と振幅第二加減算項ステップサイズパラメータの挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
(能動型振動騒音抑制装置の概要)
能動型振動騒音抑制装置の概要について説明する。能動型振動騒音抑制装置は、種々の発生源が振動または騒音(以下、「抑制対象振動等」と称する)を発生する場合に、所望の位置において当該振動または騒音を能動的に抑制するために、制御振動または制御音(以下、「制御振動等」と称する)を発生させる装置である。つまり、抑制対象振動等に対して制御振動等を合成させることで、所定位置(評価点)において、制御振動等が抑制対象振動等を打ち消すように作用する。その結果、評価点において、抑制対象振動等が抑制されることになる。
【0020】
ここで、自動車を例にあげて説明する。自動車において、エンジン(内燃機関)が振動騒音発生源となり、エンジンによって発生した振動や騒音が車室内に伝達されないようにすることが望まれる。そこで、エンジンによって発生した振動や騒音(抑制対象振動等)を能動的に抑制するために、制御振動制御音発生装置によって制御振動等を発生させることとしている。なお、以下において、能動型振動騒音抑制装置は、自動車に適用し、エンジンによって発生される振動または騒音を抑制する装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。抑制すべき振動や騒音を発生するものであれば、全てに適用できる。
【0021】
(能動型振動騒音抑制装置の詳細説明)
次に、第一実施形態の能動型振動騒音抑制装置100の詳細について、図1を参照して説明する。図1に示すように、能動型振動騒音抑制装置100は、エンジン10によって発生される抑制対象振動等が伝達系Cを介して評価点20に伝達する場合に、評価点20における振動または騒音を低減するための装置である。
【0022】
能動型振動騒音抑制装置100は、角周波数算出部110と、正弦波制御信号生成部120と、発生装置130と、残留信号検出部140と、推定伝達関数記憶部150と、フィルタ係数更新部160とを備えている。
【0023】
角周波数算出部110は、エンジン10の回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力する。そして、角周波数算出部110は、入力されたパルス信号に基づき、該パルス信号の角周波数ωを算出する。このパルス信号の角周波数ωは、エンジン10によって発生される抑制対象振動等の主成分の角周波数ωに相当する。
【0024】
正弦波制御信号生成部120は、角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに基づいて、式(1)に従って得られる正弦波制御信号ynを適応制御によって生成する。ここで、添字のnは、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(1)より明らかなように、正弦波制御信号ynは、角周波数ωと、適応フィルタWnとしての振幅フィルタ係数anおよび位相フィルタ係数φnとを構成成分に含む、時刻tnにおける信号である。そして、振幅フィルタ係数anおよび位相フィルタ係数φnは、後述するフィルタ係数更新部160により適応的に更新される。
【0025】
【数1】
【0026】
発生装置130は、実際に振動や音を発生する装置である。この発生装置130は、正弦波制御信号生成部120によって生成された正弦波制御信号ynに基づいて駆動する。例えば、制御振動を発生させる発生装置130としては、例えば、駆動系につながるフレームやサブフレーム(図示せず)などに配置される振動発生装置である。また、制御音を発生させる発生装置130としては、例えば、スピーカー等である。発生装置130が例えば磁力を用いて制御振動や制御音を発生させる装置の場合には、コイル(図示せず)に供給する電流、電圧または電力を、各時刻tnにおける正弦波制御信号ynに応じるように制御することで、発生装置130が正弦波制御信号ynに応じた制御振動または制御音を発生する。
【0027】
そうすると、評価点20においては、発生装置130によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して伝達された振動騒音Znと、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が伝達系Cを介して伝達された振動騒音fnとが合成される。そこで、残留信号検出部140は、評価点20に配置されており、評価点20における残留振動または残留騒音(本発明における「残留信号」に相当する)enを検出する。この残留振動enは、式(2)で表される。例えば、残留振動enを検出する残留信号検出部140としては、加速度センサなどを適用できる。また、残留音enを検出する残留信号検出部140としては、吸音マイクなどを適用できる。残留信号検出部140によって検出される残留信号enがゼロになることが理想状態である。なお、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。つまり、伝達関数Gは、発生装置130そのものの伝達関数と、発生装置130と評価点20との間の伝達系Bの伝達関数とを含む。
【0028】
【数2】
【0029】
推定伝達関数記憶部150は、伝達関数を取得する際にはエンジン10の信号を使用せずに角周波数算出部110にて算出された角周波数ωに基づいて、伝達関数Gの推定値「Gハット」を予め記憶している。ここで、図1および数式において、Gの上部に「^(ハット)」を付した記号は、推定値を意味する。ただし、記載の都合上、以下の説明において、伝達関数Gの推定値「Gハット」は、推定伝達関数「Gh」と記載する。ここで、上述したように、伝達関数Gは、発生装置130から評価点20までの伝達系の伝達関数である。そして、伝達関数Gは、角周波数ωに応じた振幅成分Aと位相成分Φとにより表される。
【0030】
そこで、式(3)に示すように、推定伝達関数Ghとしては、角周波数ωに応じた推定振幅Aハット(以下、「Ah」と記載する)と推定位相Φハット(以下、「Φh」と記載する)とにより表される。なお、式(3)においては、推定伝達関数Gh、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、角周波数ωに応じたものとなるため、ωの関数であることを明記するために、それぞれGh(ω)、Ah(ω)およびΦh(ω)と記載している。
【0031】
【数3】
【0032】
例えば、推定伝達関数記憶部150には、角周波数ωに応じた推定振幅Ahおよび推定位相Φhのマップが記憶されている。この推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、例えば、自動車の製造初期段階、車検時、その他任意の時に、伝達関数の同定処理を行うことで算出される。ここで、推定振幅Ahおよび推定位相Φhは、実際の伝達関数Gの振幅Aおよび位相Φと一致することが理想ではあるが、外乱や経年変化などの種々の要因によって、両者にずれが生じることがある。
【0033】
ところで、ある瞬間において、評価点20における抑制対象振動等を抑制するためには、評価点20において抑制対象振動等fnと制御振動等Znとが逆位相であって同振幅である必要がある。しかし、例えば、実際の伝達関数Gの位相成分Φと推定位相Φhとが、180°ずれているとすると、評価点20において、抑制対象振動等fnと制御振動等Znとが同位相になるため、抑制対象振動等fnが抑制されることなく増大することになる。そのため、推定位相Φhは、非常に重要である。しかし、外乱や経年変化によって実際の伝達関数Gの位相成分Φが変化することがある。そのため、抑制対象振動等fnを抑制するためには、位相のずれの許容範囲を拡大することは有効である。これを実現するために、後述するようにフィルタ係数を設定している。
【0034】
フィルタ係数更新部160は、上述した正弦波制御信号ynを構成するための適応フィルタWnを適応的に更新する。適応フィルタWnは、式(4)に示すように、振幅フィルタ係数anと位相フィルタ係数φnとにより構成される。
【0035】
【数4】
【0036】
このフィルタ係数更新部160は、推定伝達関数記憶部150に記憶されている推定伝達関数Ghと、残留信号検出部140により検出される残留信号enと、正弦波制御信号生成部120により前回生成された正弦波制御信号ynとに基づいて適応フィルタWnを更新する。
【0037】
適応フィルタWnのうち振幅フィルタ係数anの更新は、式(5)に従って行う(振幅フィルタ係数更新部)。つまり、式(5)に示すように、振幅フィルタ係数anの更新式は、前回更新された振幅フィルタ係数anに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号enに基づき算出される振幅更新式の第一加減算項[{μaensin(ωtn+φn+Φh)}/Ah]を加減算すると共に、正弦波制御信号ynに基づき算出される振幅更新式の第二加減算項[{μyynsin(ωtn+φn)}]を加減算することにより、正弦波制御信号ynの振幅フィルタ係数の更新値an+1を算出する。ここで、加減算項とは、振幅フィルタ係数anに対する加減算項を意味しており、振幅フィルタ係数anより後の加減算項を順に第一加減算項、第二加減算項と定義している。つまり、振幅フィルタ係数anは、本明細書における加減算項の中から除外している。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、式(5)において、振幅更新式の第一加減算項および第二加減算項は、前回更新された振幅フィルタ係数anから減算した式として表している。また、振幅更新式の第一加減算項は、振幅第一加減算項ステップサイズパラメータμaを乗算した項としている。この振幅第一加減算項ステップサイズパラメータμaは、予め決定された固定値としている。また、振幅更新式の第二加減算項は、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを乗算した項としている。この振幅更新式の第二加減算項は、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyも、本実施形態においては予め決定された固定値としている。
【0040】
また、適応フィルタWnのうち位相フィルタ係数φnの更新は、式(6)に従って行う(位相フィルタ係数更新部)。つまり、式(6)に示すように、位相フィルタ係数φnの更新式は、前回更新された位相フィルタ係数φnに対して、推定伝達関数Ah,Φhおよび残留信号enに基づき算出される位相更新式の加減算項[μφencos(ωtn+φn+Φh)]を加減算することにより、正弦波制御信号ynの位相フィルタ係数の更新値φn+1を算出する。この位相フィルタ係数φnの更新式には、振幅フィルタ係数anの更新式とは異なり、正弦波制御信号ynに関する加減算項を含まない。
【0041】
【数6】
【0042】
ここで、式(6)において、位相更新式の加減算項は、前回更新された位相フィルタ係数φnから減算した式として表している。また、位相更新式の加減算項は、位相ステップサイズパラメータμφを乗算した項としている。この位相ステップサイズパラメータμφは、予め決定された固定値としている。
【0043】
(解析結果)
ここで、上述したように、外乱や経年変化などによって、実際の伝達関数Gの位相Φと推定伝達関数Ghの推定位相Φhとにずれ(以下、単に「位相ずれ」と称する)が生じている場合には、評価点20において抑制対象振動等fnを抑制せずに、発散することがある。そこで、実際の伝達関数Gの位相Φと推定伝達関数Ghの推定位相Φhとのずれを変化させた場合に、抑制対象振動等fnを収束させることができるか、それとも発散するかについて解析を行った。
【0044】
このとき、振幅更新式の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適宜変化させた。振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大、小の二種類について解析を行った。また、比較のため、式(5)の振幅第二加減算項を含まない振幅更新式の場合についても解析を行った。解析結果を示す図2において、縦軸は、制御効果比率(%)を示しており、式(5)の振幅第二加減算項を含まない振幅更新式で位相ずれ0°の時の制御効果を100%とし、制御効果が無い場合を0%として図示する。
【0045】
まず、比較例としての振幅第二加減算項を含まない振幅更新式の場合を(a)にて示す。この場合、位相ずれが0°以上90°未満の範囲であれば、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが90°を超えると、抑制対象振動等が発散している。次に、式(5)に示す振幅第二加減算項を含む振幅更新式を適用し、かつ、小さな振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適用した場合には、図2の(b1)に示す。この場合、位相ずれが0°以上95°付近までの範囲において、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが95°を超えると発散している。さらに、振幅第二加減算項を含まない場合と比較すると、位相ずれが大きくなるにつれて制御効果比率が小さくなっていることが分かる。
【0046】
次に、式(5)に示す振幅第二加減算項を含む振幅更新式を適用し、かつ、大きな振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適用した場合には、図2の(c1)に示す。この場合、位相ずれが0°以上115°付近までの範囲において、抑制対象振動等を収束させることができるが、位相ずれが115°を超えると発散している。さらに、(b1)と比較すると、位相ずれが大きくなるにつれて制御効果比率が小さくなっていることが分かる。
【0047】
このように、振幅フィルタ係数anの更新式に振幅第二加減算項を含ませることにより、位相ずれが90°を超えたとしても、制御を収束させることができるようになる。特に、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大きくするほど、位相ずれの許容範囲(制御が収束する範囲)を拡大することができる。ただし、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを大きくするほど、制御効果比率が小さくなる。すなわち、発生装置130によって出力される制御振動または制御音が小さくなってしまう。そこで、位相ずれの許容範囲と出力される制御振動または制御音の低減との関係を考慮して、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを適宜設定すればよい。
【0048】
また、位相フィルタ係数φnの更新式には、正弦波制御信号ynに関する加減算項を含まないため、正弦波制御信号ynを含む場合と比較すると、演算時間を短縮できる。これにより、より高速処理ができるようになる。
【0049】
(適応フィルタの更新式の導き方)
上述した式(5)(6)に、振幅フィルタ係数anの更新式および位相フィルタ係数φnの更新式を示した。これらの更新式の導き方について、以下に説明する。
【0050】
まず、評価関数Jを式(7)のように定義する。つまり、評価関数Jは、残留信号検出部140により検出される残留信号eの二乗と、正弦波制御信号生成部120により生成される正弦波制御信号yの二乗との和とする。この評価関数Jが最小となるような正弦波制御信号yを求める。
【0051】
【数7】
【0052】
勾配ベクトル▽nを式(8)に従って算出する。勾配ベクトル▽nは、評価関数Jnを適応フィルタWnで偏微分して得られる。そうすると、勾配ベクトル▽nは、右辺のように表される。
【0053】
【数8】
【0054】
このようにして算出した勾配ベクトル▽nにステップサイズパラメータμを乗じた項を、前回更新された適応フィルタWnから減算することにより、適応フィルタWn+1を導き出す。このようにして、式を展開すると、式(9)のように表される。
【0055】
【数9】
【0056】
ここで、適応フィルタWnは、式(4)にて示したように、振幅フィルタ係数anと位相フィルタ係数φnとにより構成される。つまり、振幅フィルタ係数anの更新式は式(10)のように表され、位相フィルタ係数φnの更新式は式(11)のように表される。ここで、式(10)のAh−1は、振幅フィルタ係数anの更新に対して正規化処理を加えたものである。
【0057】
【数10】
【0058】
そして、式(10)(11)を考慮して、最終的に、振幅フィルタ係数anの更新式は式(12)に示すものとし、位相フィルタ係数φnの更新式は式(13)に示すものとした。ここで、振幅フィルタ係数anの更新式である式(12)は、上述した式(10)と同一である。しかし、位相フィルタ係数φnの更新式である式(13)は、式(11)と異なる。式(13)は、式(11)における正弦波制御信号ynに関する項を削除した式としている。
【0059】
【数11】
【0060】
ところで、式(10)(11)にて表される更新式を用いて適応制御を行った場合に、図2に示した結果とほぼ同様の効果を得ることができた。つまり、式(12)(13)にて表される更新式を用いて適応制御を行う場合には、式(10)(11)にて表される更新式を用いて適応制御を行う場合に比べて、正弦波制御信号ynに関する減算項が存在しない分、演算負荷が少なくなる。従って、演算処理の高速化を図ることができる。つまり、式(12)(13)にて表される更新式を用いて適応制御を行うことで、位相ずれの許容範囲を拡大しつつ、演算処理の高速化を図ることができる。
【0061】
<第二実施形態>
第二実施形態の能動型振動騒音抑制装置200について、図3〜図11を参照して説明する。ここで、本実施形態の能動型振動騒音抑制装置200において、第一実施形態の能動型振動騒音抑制装置100と同一構成については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。本実施形態の能動型振動騒音抑制装置200は、図3に示すように、角周波数算出部110と、正弦波制御信号生成部120と、発生装置130と、残留信号検出部140と、推定伝達関数記憶部150と、フィルタ係数更新部260と、発散処理部270とを備えている。
【0062】
フィルタ係数更新部260は、式(5)に従って振幅フィルタ係数anを更新し、式(6)に従って位相フィルタ係数φnを更新する。ただし、第一実施形態においては、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを固定値としたが、本実施形態においては、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyを可変させる。
【0063】
この振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは、発散処理部270により設定される。発散処理部270は、今回更新しようとする振幅フィルタ係数an+1の更新値の絶対値Δaw1n+1を算出する。振幅フィルタ係数an+1の更新値の絶対値Δaw1n+1は、式(14)に示すように、振幅フィルタ係数an+1の更新式における振幅第一加減算項[{μaensin(ωtn+φn+Φh)}/Ah]および振幅第二加減算項[{μyynsin(ωtn+φn)}]の和の絶対値である。
【0064】
【数12】
【0065】
そして、発散処理部270は、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1を用いて、制御が発散状態であるか否かを判定する。振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が大きな値の状態を継続する場合には、制御が発散状態であると判定する。反対に、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が小さな値の状態を継続する場合には、制御が収束した状態またはほぼ収束した状態であると判定する。また、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1が、中間値の場合には、制御が収束に向かっている状態であると判定する。
【0066】
ただし、図4に示すように、瞬間的な振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1は、非常にばらつきが大きい。そのため、発散状態か否かの判定が容易ではない。そこで、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1の移動平均値を用いる。具体的には、今回更新される振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1と、過去に更新された振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n等を用いて、調整発散判定値Δawmn+1を算出する。調整発散判定値Δawmn+1は、式(15)により算出される。そして、今回更新値に対する重み係数を過去更新値に対する重み係数より小さく設定することで、図5に示すように、調整発散判定値Δawmn+1を今回更新値の影響を受けつつ滑らかに変化させることができる。
【0067】
【数13】
【0068】
そして、調整発散判定値Δawmn+1が大きな値になると、制御が発散状態であると判定する。このとき、式(16)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1より大きい場合には、式(17)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ大きくする。つまり、振幅第二加減算項を大きくする。そうすると、振幅フィルタ係数an+1は、小さくなるように変化していく。ただし、式(18)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が上限値μy−maxを超えた場合には、当該上限値μy−maxとなる。つまり、発散状態が継続されると、振幅フィルタ係数an+1は、最小値を継続する。つまり、この場合、正弦波制御信号ynは最小値となり、振動または騒音の抑制効果を発揮しない。
【0069】
【数14】
【0070】
一方、調整発散判定値Δawmn+1が小さな値になると、制御が収束状態またはほぼ収束状態であると判定する。このとき、式(19)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。つまり、振幅第二加減算項を小さくする。そうすると、振幅フィルタ係数an+1は、大きくなるように変化していく。ただし、式(21)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が下限値μy−minを超えた場合には、当該下限値μy−minとなる。つまり、収束状態が継続されると、振幅フィルタ係数an+1は、最大値を継続する。つまり、この場合、正弦波制御信号ynは最大値となり、振動または騒音の抑制効果を最大限発揮する。
【0071】
【数15】
【0072】
また、式(22)に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以下で収束判定用閾値Th2より大きい場合には、式(23)に示すように、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyと同値とする。つまり、制御が収束に向かうようになり、振動または騒音の抑制効果を発揮する。
【0073】
【数16】
【0074】
(解析結果)
次に、位相ずれを90°とした場合と、位相ずれを120°とした場合について、解析を行った。位相ずれが90°の場合について、図6〜図8を参照して説明する。図6に示すように、初期において、残留信号検出部140により検出される残留信号enが大きくなっている。このとき、図7に示すように、正弦波制御信号ynが大きくなる。その結果、図6に示すように、残留信号enが低減されていく。ここで、図8に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は0からスタートし、収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。
【0075】
そして、調整発散判定値Δawmn+1が収束判定用閾値Th2を超えると、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1は前回のμyと同値とする。ただし、この瞬間において、図8に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は、徐々に大きくなっている。しかし、図6に示すように、残留信号enは徐々に低減しているため、調整発散判定値Δawmn+1は、発散判定用閾値Th1以上になることなく、徐々に低減していく。このようにして、最終的には、残留信号enは収束する。
【0076】
一方、位相ずれが120°の場合について、図9〜図11を参照して説明する。図9に示すように、初期において、残留信号検出部140により検出される残留信号enが大きくなっている。このとき、図10に示すように、正弦波制御信号ynが大きくなる。その結果、図9に示すように、残留信号enが低減されていく。ここで、図11に示すように、調整発散判定値Δawmn+1は0からスタートし、収束判定用閾値Th2以下の場合には、式(20)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ小さくする。そうすると、ここでは、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1が下限値μy−minに到達するため、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1は下限値μy−minとなる。
【0077】
このように振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1が下限値μy−minの間も、図9に示すように、残留信号enは収束に向かっていない。そのため、図11に示すように、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以上となる。そうすると、式(17)に従って、今回の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμy+1を前回のμyに対して調整量αの分だけ大きくする。図11に示すように、徐々に、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは大きくなっていく。
【0078】
この間も、調整発散判定値Δawmn+1が発散判定用閾値Th1以上の状態を継続する。そのため、図11に示すように、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは上限値μy−maxに到達し、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyは上限値μy−maxとなる。つまり、位相ずれが120°の場合には、制御が発散状態となり、正弦波制御信号ynを最小値とし、実質的に振動騒音抑制制御を行わない状態となる。このようにすることで、制御が発散状態になった場合に、残留信号enは振動発生源による抑制対象振動よりも大きな振動等になることを防止できる。
【0079】
なお、本解析において、位相ずれが120°の場合に制御が発散したが、これは、発散判定用閾値Th1および収束判定用閾値Th2の設定に応じて、適宜異なる状態となる。第一実施形態にて図2を参照して説明したように、振幅フィルタ係数anの更新式の振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyの大きさによって、位相ずれの許容範囲が異なる。つまり、第二実施形態においても、振幅第二加減算項ステップサイズパラメータμyの範囲を変更することで、位相ずれの許容範囲が変化する。
【0080】
<その他>
第二実施形態の発散処理部270において、振幅フィルタ係数の更新値の絶対値Δaw1n+1により発散判定を行ったが、この他に、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値により発散判定を行うこともでき、さらには、残留信号enの絶対値により発散判定を行うこともできる。
【0081】
特に、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値×位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値×残留信号enの絶対値]、[位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値×残留信号enの絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値+位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値]、[振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値+残留信号enの絶対値]、[位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値+残留信号enの絶対値]の何れかを適用できる。
【0082】
振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値としては、上述したように移動平均値を適用するとよい。また、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値としては、上述した振幅フィルタ係数anを用いて説明した方法と同様の方法により算出した移動平均値を適用するとよい。また、残留信号enについても、同様に移動平均値を適用するとよい。
【0083】
また、振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値、位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値、残留信号enの絶対値について、移動平均値の他に、横軸を更新回数とし、縦軸を各1回値として、現在から過去に遡った所定期間における積分値を用いることもできる。例えば、発散判定用の振幅フィルタ係数anの更新値の絶対値として、横軸を更新回数とし、縦軸を振幅フィルタ係数anの1回更新値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。また、発散判定用の位相フィルタ係数φnの更新値の絶対値として、横軸を更新回数とし、縦軸を位相フィルタ係数φnの1回更新値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。また、発散判定用の残留信号enの絶対値として、横軸を検出回数(更新回数に相当)とし、縦軸を残留信号enの1回検出値の絶対値として、所定期間の積分値を算出し、算出された値を適用する。
【符号の説明】
【0084】
10:エンジン、 20:評価点
100,200:能動型振動騒音抑制装置、 110:角周波数算出部
120:正弦波制御信号生成部、 130:発生装置、 140:残留信号検出部
150:推定伝達関数記憶部、 160,260:フィルタ係数更新部
270:発散処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、
振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタとしての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記正弦波制御信号を生成する正弦波制御信号生成部と、
前記正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、
前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、
前記制御振動制御音発生装置から前記評価点までの伝達関数の推定値を予め記憶する推定伝達関数記憶部と、
前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、前記正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、
前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される位相更新式の加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部と、
を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記位相更新式の加減算項には、前記正弦波制御信号に基づき算出される項は含まれない能動型振動騒音抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、
前記ステップサイズパラメータは、予め設定した一定値である能動型振動騒音抑制装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、
前記ステップサイズパラメータは、前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値に基づいて可変に設定される能動型振動騒音抑制装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して減算し、
前記能動型振動騒音抑制装置は、前記発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定し、制御が発散状態であると判定された場合に、前記ステップサイズパラメータを大きくなるように可変に設定する発散処理部を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記発散判定値は、今回の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかと、過去の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかとに基づいて算出された調整発散判定値を適用する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項1】
正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、
振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタとしての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記正弦波制御信号を生成する正弦波制御信号生成部と、
前記正弦波制御信号に応じた制御振動または制御音を出力する制御振動制御音発生装置と、
前記評価点において前記発生源による振動または騒音と前記制御振動または制御音との干渉による残留信号を検出する残留信号検出部と、
前記制御振動制御音発生装置から前記評価点までの伝達関数の推定値を予め記憶する推定伝達関数記憶部と、
前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される振幅更新式の第一加減算項を加減算すると共に、前記正弦波制御信号に基づき算出される振幅更新式の第二加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、
前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記伝達関数の推定値および前記残留信号に基づき算出される位相更新式の加減算項を加減算することにより、前記正弦波制御信号の前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部と、
を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記位相更新式の加減算項には、前記正弦波制御信号に基づき算出される項は含まれない能動型振動騒音抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、
前記ステップサイズパラメータは、予め設定した一定値である能動型振動騒音抑制装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前記正弦波制御信号にステップサイズパラメータを乗じた項であり、
前記ステップサイズパラメータは、前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかに基づいて算出される発散判定値に基づいて可変に設定される能動型振動騒音抑制装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記振幅更新式の第二加減算項は、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して減算し、
前記能動型振動騒音抑制装置は、前記発散判定値が所定閾値を超えた場合に制御が発散状態であると判定し、制御が発散状態であると判定された場合に、前記ステップサイズパラメータを大きくなるように可変に設定する発散処理部を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記発散判定値は、今回の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかと、過去の前記振幅フィルタ係数の更新値の絶対値、前記位相フィルタ係数の更新値の絶対値および前記残留信号の絶対値の少なくとも何れかとに基づいて算出された調整発散判定値を適用する能動型振動騒音抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−119800(P2012−119800A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265891(P2010−265891)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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