説明

脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及び乳化剤

【課題】反応時間が短く、かつ色調が良好で、例えば、乳化剤として用いた場合に良好な乳化性能を示す脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及びこれにより得られる脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物を含有する乳化剤の提供。
【解決手段】脂肪族第1級アミン1モルに対してアルキレンオキサイド0.5〜1.8モルを無触媒で付加させる無触媒付加工程と、該脂肪族第1級アミンに残部のアルキレンオキサイドをアルカリ触媒の存在下で付加させるアルカリ触媒下付加工程とを含むことを特徴とする脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応時間が短く、かつ色調が良好で、例えば、乳化剤として用いた場合に良好な乳化性能を示す脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及びこれにより得られる脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を含有する乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族第1級アミンのエチレンオキサイド付加体は、通常、脂肪族第1級アミンにアルカリ触媒、アミン触媒、金属触媒等の触媒を用いて、エチレンオキサイドを付加させて得られる(特許文献1参照)。しかし、反応当初から触媒を用いてエチレンオキサイドを付加反応させると、1モルのエチレンオキサイドが付加して2級アミンとなった後、2級アミンのままOH基末端の付加反応が進行する。その結果、2級アミンのままエチレンオキサイド付加反応が進行した成分、及び3級アミンでエチレンオキサイド付加反応が進行した成分のそれぞれが幅広い付加モル分布を持ち、最終生成物の外観や形態が悪化する。また、乳化剤として用いた場合、乳化性能が不良となる。
【0003】
無触媒でエチレンオキサイドを付加させて3級アミンの含有率を高める技術も提案されているが(特許文献2参照)、分岐構造をもつ3級アルキル基とアミンとが結合した、高度に分岐した脂肪族第1級アミンの場合、エチレンオキサイドの付加モル数が2モルに近づくにつれ付加反応が著しく遅くなり、製品色調が劣化するという問題や、反応時間が長時間を要して製造コストが高くなるという問題があった。色調の劣化に対しては、原料アミンを蒸留処理した後にエチレンオキサイドを付加する方法も提案されているが、工程数が増えることによりコストが高くなるという問題があった(特許文献3及び4参照)。更に、100℃以下の低温でエチレンオキサイドを付加させることにより色調を改善する方法も提案されているが(特許文献5参照)、分岐構造をもつ3級アルキル基とアミンの結合した高度に分岐した脂肪族第1級アミンの場合、100℃以下の低温ではエチレンオキサイド付加反応は非常に進行しにくいという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平2−104567号公報
【特許文献2】特開2003−238503号公報
【特許文献3】特開平11−228509号公報
【特許文献4】特開平11−158125号公報
【特許文献5】特開2003−96186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、反応時間が短く、かつ色調が良好で、例えば、乳化剤として用いた場合に良好な乳化性能を示す脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及びこれにより得られる脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物を含有する乳化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表される脂肪族第1級アミン1モルに対してアルキレンオキサイド0.5〜1.8モルを無触媒で付加させる無触媒付加工程と、該脂肪族第1級アミンに残部のアルキレンオキサイドをアルカリ触媒の存在下で付加させるアルカリ触媒下付加工程とを含むことを特徴とする脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。
【化2】

但し、前記構造式(1)において、Rは炭素原子数が5〜18のアルキル基又はアルケニル基を表し、R、Rはそれぞれ炭素原子数が1〜5のアルキル基を表す。
該<1>に記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法によれば、分岐脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイドの付加に際し、まず該アルキレンオキサイドを無触媒で付加させることで3級アミンの含有率を高め、かつ、その付加を該アミン1モルに対して0.5〜1.8モルで止めることにより、反応時間が短く、かつ色調が良好で、例えば、乳化剤として用いた場合に良好な乳化性能を示す脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を得ることができる。
<2> 無触媒工程で付加されるアルキレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるアルキレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して2〜50モルである前記<1>に記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。
<3> 無触媒工程で付加されるアルキレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるアルキレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して3〜20モルである前記<1>から<2>のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。
<4> アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドである請求項1から3のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。
【0007】
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法により得られた脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を含有することを特徴とする乳化剤である。
該<5>に記載の乳化剤は、本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法により得られた脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を含有するため、良好な乳化性能を示すことができる。
<6> 金属加工油に用いられる前記<5>に記載の乳化剤である。
<7> 金属加工油が金属圧延油である前記<6>に記載の乳化剤である。
<8> 金属加工油が金属切削油である前記<6>に記載の乳化剤である。
【0008】
<9> 前記<5>に記載の乳化剤を含むことを特徴とする金属加工油である。
<10> 金属圧延油である前記<9>に記載の金属加工油である。
<11> 金属切削油である前記<9>に記載の金属加工油である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、反応時間が短く、かつ色調が良好で、例えば、乳化剤として用いた場合に良好な乳化性能を示す脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及びこれにより得られる脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を含有する乳化剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法)
本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法は、脂肪族第1級アミン1モルに対してアルキレンオキサイド0.5〜1.8モルを無触媒で付加させる無触媒付加工程と、該脂肪族第1級アミンに残部のアルキレンオキサイドをアルカリ触媒の存在下で付加させるアルカリ触媒下付加工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0011】
−脂肪族第1級アミン−
前記脂肪族第1級アミンは、下記構造式(1)で表される。
【0012】
【化3】

前記Rは、炭素原子数が5〜18のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、前記炭素原子数は8〜16であることが好ましい。前記炭素原子数が5未満であると乳化性能が劣り、18を超えると高粘度或いは固体となり、乳化剤として使用する際のハンドリング性が低下する。
具体的には、n-ペンチル、n-オクチル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル、n-ステアリル、n-オレイル、などが好適に挙げられる。
前記R、Rは、いずれも炭素原子数が1〜5のアルキル基であることが必要であり、前記炭素原子数は1〜3であることが好ましい。前記炭素原子数が5を超えると立体障害が大きくなるためアミノ基へのアルキレンオキサイド付加反応が進行しにくくなる。
前記構造式(1)で表される脂肪族第1級アミンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ターシャリーオクチルアミン、ターシャリードデシルアミン、ターシャリーステアリルアミン、などが好適に挙げられる。
【0013】
−アルキレンオキサイド−
前記アルキレンオキサイドとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でもエチレンオキサイドが好ましい。
【0014】
−アルカリ触媒−
前記アルカリ触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ナトリウム金属、などが挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0015】
−無触媒付加工程−
前記無触媒付加工程において、脂肪族第1級アミン1モルに付加させるアルキレンオキサイドの量は、上述のように、該脂肪族第1級アミン1モルに対してアルキレンオキサイド0.5〜1.8モルであることが必要であり、1.2〜1.8モルが好ましい。前記アルキレンオキサイドの量が0.5モル未満であると、最終的に得られた脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の外観や形態、乳化性能が劣るなど品質面で問題を生じる。前記アルキレンオキサイドの量が1.8モルを超えると、前記脂肪族第1級アミンに結合した分岐構造をもつ3級アルキル基の立体障害により付加反応速度が著しく遅くなり、製品色調の劣化が生じたり、反応時間が長時間を要して製造コストが高くなる弊害がある。
【0016】
前記無触媒付加工程において、脂肪族第1級アミン1モルにアルキレンオキサイドを付加させる方法としては、アルキレンオキサイドの量以外は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該脂肪族第1級アミンをオートクレーブに仕込み、該オートクレーブの釜内を窒素で置換した後、攪拌しながら昇温して、アルキレンオキサイドを徐々に添加して系内に仕込みながら付加反応させることが好ましい。
前記昇温時の温度は、100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
前記付加反応させる際の圧力は、特に制限はなく、常圧であってもよいし、加圧下であってもよいが、例えば、0.6MPa以下が好ましい。
【0017】
−アルカリ触媒下付加工程−
前記アルカリ触媒下付加工程において、脂肪族第1級アミンに付加させるアルキレンオキサイドの量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記無触媒工程で付加されるアルキレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるアルキレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して2〜50モルであることが好ましく、乳化性能とハンドリング性の両立の観点から、3〜20モルであることがより好ましい。該モル数が2モル未満であると、乳化性能が十分に発現されないことがあり、50モルを超えると、ハンドリング性が悪化してワックス状の固体になることがある。
【0018】
前記アルカリ触媒下付加工程において、脂肪族第1級アミンにアルキレンオキサイドを付加させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、上述した無触媒付加工程の昇温時の温度により、所定時間熟成してから、冷却した後、アルカリ触媒を添加して、必要に応じて減圧脱水を行い、昇温して、アルキレンオキサイドを付加反応させることが好ましい。
前記熟成させる時間は、30分〜2時間が好ましい。前記冷却した際の温度は、100℃以下が好ましい。
前記アルカリ触媒の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して100〜2,000ppmが好ましい。
前記昇温時の温度は、100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
【0019】
−その他の工程−
本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法は、前記無触媒付加工程及びアルカリ触媒下付加工程以外に、必要に応じて適宜その他の工程を含んでいてもよい。
前記その他の工程としては、例えば、前記アルカリ触媒下付加工程における昇温時の温度で30分〜2時間熟成した後、50〜100℃で未反応のアルキレンオキサイドを2〜20kPaの圧力で蒸留後、100℃以下に冷却して付加させる工程などが挙げられる。
また、前記脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物は、後処理として、例えば、酢酸、硫酸、等の酸による中和処理や、無機系吸着剤により吸着をした後、濾過を行う吸着濾過処理、などを行ってもよい。
前記無機系吸着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ・アルミナ系吸着剤などが挙げられる。前記シリカ・アルミナ系吸着剤の、具体的な市販品としては、例えば、キヨーワードシリーズ(協和化学製)が好適に挙げられる。
また、本発明の効果を阻害しない範囲で酸化防止剤、抗菌剤等の添加剤を必要に応じて配合することもできる。
【0020】
−用途−
本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法は、反応時間が短く、また、得られる脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物が、色調が良好で、かつ各種天然油・合成油と水との乳化性に優れるので、例えば、金属加工時の加工油用乳化剤等に好適に用いられ、中でも、圧延油用乳化剤、切削油用乳化剤に特に好適に用いられる。また、その他の工業用各種乳化剤、家庭品化粧品の各種乳化剤としても有用である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
−脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の調製−
内容積4lのオートクレーブに、脂肪族第1級アミン(以下、単に「原料アミン」ともいう。)としての下記構造式(1)で表されるターシャリードデシルアミン(ローム&ハース(株)製、プライメン81−R、平均分子量190)1,630gを仕込み、窒素置換後、160℃まで昇温した。その後、同温度でエチレンオキサイド635g(原料アミン1モルに対して1.67モル)を圧力0.2〜0.5MPaに保ちながら導入して無触媒でエチレンオキサイド付加反応を行なった(無触媒付加工程)。
【0022】
【化4】

但し、前記構造式(1)において、Rはn−デシル基、R、Rはいずれもメチル基である。
【0023】
エチレンオキサイドの導入終了後、前記無触媒付加工程の昇温時の温度で1時間熟成した後、60℃に冷却した。次いで、アルカリ触媒としての30%水酸化ナトリウム水溶液6g(原料アミン1モルに対して500ppm)を添加した。窒素置換後、110℃まで昇温し、圧力3kPa以下に1時間保って水分を系内より除去した。次いで160℃まで昇温した後、エチレンオキサイド1,335g(原料アミン1モルに対して3.53モル)を圧力0.2〜0.5MPaに保ちながら導入してエチレンオキサイド付加反応を行なった(アルカリ触媒下付加工程)。
エチレンオキサイドの導入終了後、同温度で30分熟成した後、80℃で未反応エチレンオキサイドを3kPaの圧力で蒸留後、60℃に冷却して付加させ、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド5.2モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物3600gを得た。
【0024】
(実施例2)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を513g(原料アミン1モルに対して1.35モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を5162g(原料アミン1モルに対して13.65モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド15モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物7,305gを得た。
【0025】
(実施例3)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を635g(原料アミン1モルに対して1.67モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を380g(原料アミン1モルに対して1モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド2.67モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物2,645gを得た。
【0026】
(実施例4)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を635g(原料アミン1モルに対して1.67モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を10,772g(原料アミン1モルに対して28.33モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド30モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物13,037gを得た。
【0027】
(実施例5)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を635g(原料アミン1モルに対して1.67モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を50g(原料アミン1モルに対して0.13モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド1.8モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物2,315gを得た。
【0028】
(実施例6)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を635g(原料アミン1モルに対して1.67モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を22,179g(原料アミン1モルに対して58.33モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド60モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物24,444gを得た。
【0029】
(実施例7)
実施例1において、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイドの代わりに、プロピレンオキサイドを使用し、該プロピレンオキサイドを、無触媒付加工程において837g導入(原料アミン1モルに対して1.67モル)し、更に、アルカリ触媒下付加工程において1,760g(原料アミン1モルに対して3.53モル)導入した以外は実施例1と同様にして、プロピレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりプロピレンオキサイド5.2モルの脂肪族第1級アミンプロピレンオキサイド付加物4,227gを得た。
【0030】
(比較例1)
実施例1において、無触媒付加工程を行わず、かつエチレンオキサイド導入量を1,970g(原料アミン1モルに対して5.2モル)にした以外は、実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド5.2モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物3,600gを得た。
【0031】
(比較例2)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を113g(原料アミン1モルに対して0.3モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を1,857g(原料アミン1モルに対して4.9モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド5.2モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物3,600gを得た。
【0032】
(比較例3)
実施例1において、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量を750g(原料アミン1モルに対して1.96モル)に、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド導入量を1,945g(原料アミン1モルに対して5.04モル)にした以外は実施例1と同様にして、エチレンオキサイド付加反応を行ない、原料アミン1モル当たりエチレンオキサイド7モルの脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物4,325gを得た。
【0033】
〔評価〕
実施例1〜7及び比較例1〜3の、脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物又は脂肪族第1級プロピレンオキサイド付加物(以下、アルキレンオキサイド付加物ともいう。)について、無触媒付加工程及びアルカリ触媒下付加工程で要した時間(反応所要時間)を測定すると共に、以下に示す方法で、各例で得られた脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物の乳化性及び色調を評価した。その結果を表1に示す。
【0034】
<乳化性の評価方法>
−圧延油乳化性−
各実施例及び比較例で得られたアルキレンオキサイド付加物を1ml、水93ml、及びトリメチロールプロパントリカプリレート(ライオン(株)製、加工油ルビノールF−310N)6mlを100mlトールビーカー内に配合した。ホモミキサーに取りつけたタービン羽にてこの液を500rpmで3分間攪拌した。攪拌後、混合液を24時間静置し、外観を観察した。該外観は、白濁した乳化層が底部に生成した状態を乳化状態とみなし、「◎:均一な乳化状態」、「○:上層部に一部、不均一な箇所がある乳化状態」、「×:2層が分離し、乳化していない状態」の3段階に分けて評価を行った。
【0035】
−切削油乳化性−
JISK2241に基づき調製した硬水(塩化カルシウム2水塩0.757gを蒸留水1Lに溶解させた水)に、流動性パラフィン(関東化学製)と、各実施例及び比較例で得られたアルキレンオキサイド付加物とを、各1質量%ずつ配合し、混合液100mlを、100mlトールビーカー内に調製した。得られた混合液を、ホモミキサーに取りつけたタービン羽にて、500rpmで3分間、攪拌した。攪拌後、混合液を24時間静置して、ビーカーの背後に印刷物を置いた時の混合液の透明性を観察し、下記の3段階に分けて評価を行った。
「◎:印刷物の文字が判読できる」
「○:印刷物の文字は判読できないが、色は判断できる」
「×:乳白色に濁り、印刷物が全く見えない」
【0036】
<色調の評価方法>
各例で得られたアルキレンオキサイド付加物の試料をガードナー・ホルト試料管(内径10.65mm、外径12.3mm、長さ114mmの平底硬質ガラス管)に入れ、測定用器具にセットして、試料と標準色を比較し、試料に最も近似したガードナー標準色番号を色調の値とする、いわゆるガードナー・ヘーリゲ法により、20℃における色調(G/H)を評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、本発明の製造方法によって製造された実施例1〜7の脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物は、比較例1〜3の脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物に比して、短い反応時間で、良好な色調、及び良好な乳化性が得られた。特に、無触媒工程で付加されるエチレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるエチレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して3〜20モルである実施例1及び2では非常に優れた乳化性が得られた。
本発明の製造方法により、乳化性能が良好となる原因は定かではないが、実施例1〜6では、無触媒付加工程のエチレンオキサイド付加において、アミンの2個の水素にエチレンオキサイドが各々1モルずつ付加した3級アミンが大部分を占めるため、アルカリ触媒下付加工程のエチレンオキサイド付加において、この3級アミンの末端の、2つのオキシエチレン基の水酸基にほぼ均等に付加した構造の化合物が得られ、良好な乳化性能を示すものと思われる。一方、比較例1及び2では、2級アミンのままエチレンオキサイド付加反応が進行した成分が多く生成したものと考えられ、その結果、最終生成物はワックス状の固体となった。また、比較例3の場合は、無触媒付加工程のエチレンオキサイド導入量が1.96モルと多いため、無触媒付加工程において付加反応を完結するのに要する時間が長すぎてしまい、乳化性能は良好であるが色調が劣化してしまう結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法は、反応時間が短く、また、得られる脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物が、色調が良好で、かつ各種天然油・合成油と水との乳化性に優れるので、例えば、金属加工時の加工油用乳化剤等に好適に用いられ、中でも、圧延油用乳化剤、切削油用乳化剤に特に好適に用いられる。また、その他の工業用各種乳化剤、家庭品化粧品の各種乳化剤としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される脂肪族第1級アミン1モルに対してアルキレンオキサイド0.5〜1.8モルを無触媒で付加させる無触媒付加工程と、該脂肪族第1級アミンに残部のアルキレンオキサイドをアルカリ触媒の存在下で付加させるアルカリ触媒下付加工程とを含むことを特徴とする脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【化1】

但し、前記構造式(1)において、Rは炭素原子数が5〜18のアルキル基又はアルケニル基を表し、R、Rはそれぞれ炭素原子数が1〜5のアルキル基を表す。
【請求項2】
無触媒工程で付加されるアルキレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるアルキレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して2〜50モルである請求項1に記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項3】
無触媒工程で付加されるアルキレンオキサイドのモル数、及びアルカリ触媒下付加工程で付加させるアルキレンオキサイドのモル数の合計が、前記脂肪族第1級アミン1モルに対して3〜20モルである請求項1から2のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項4】
アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドである請求項1から3のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法により得られた脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物を含有することを特徴とする乳化剤。
【請求項6】
金属加工油に用いられる請求項5に記載の乳化剤。
【請求項7】
金属加工油が金属圧延油である請求項6に記載の乳化剤。
【請求項8】
金属加工油が金属切削油である請求項6に記載の乳化剤。

【公開番号】特開2007−9173(P2007−9173A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368222(P2005−368222)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】