説明

脂肪組織由来間質細胞の膵内分泌分化およびその使用

【課題】膵臓の疾患の処置および膵臓組織修復のための研究、埋め込み(implantation)、移植(transplantation)、および組織工学製品開発用の、分化し、かつ機能性の細胞、およびその利用方法の提供。
【解決手段】膵内分泌細胞の、少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する細胞への、脂肪組織由来間質細胞の分化に基づく細胞、組成物および方法。また、該細胞の培養を含む、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、もしくは膵ポリペプチド等のホルモンを産生する方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願へのクロスリファレンス】
【0001】
本願は、2001年11月9日に出願された米国第60/344,913号への優先権を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、膵臓細胞の少なくとも一つの特性を発現するように誘導された単離された脂肪組織由来間質細胞を提供する。膵臓の内分泌疾患を処置する方法もまた提供する。
【背景技術】
【0003】
膵臓ランゲルハンス島の内分泌細胞集団は、主要な調節分泌産物に基づいて分類される4種の細胞タイプからなっている。これらには、グルカゴン産生α細胞、インシュリン産生β細胞、膵ポリペプチド産生γ細胞およびソマトスタチン産生δ細胞が包含される(非特許文献1;非特許文献2)。発生中に、これらの別個の細胞集団は、膵管上皮と関連する共通の幹細胞前駆体から生じると考えられる(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。前駆細胞は、一連の段階的分化経路を通して、様々な細胞集団の特性を獲得する。初期の報告は、α細胞が島の第一の検出可能な集団であり、その後に順次β細胞、δ細胞およびγ細胞が続くことを示す(非特許文献2)。島は、αもしくはγ細胞および相互連結δ細胞で取り囲まれるβ細胞の集団として管上皮に沿って形成する。次に、未熟な島は周囲の腺房組織に移動し、そして血管が新生される(非特許文献2)。
【0004】
島細胞の主要な機能は、生理的栄養ホメオスタシスである。例えば、正常に機能するβ細胞は、血糖レベルを維持するためにインシュリンを合成し、分泌する。これは、インシュリンの制御放出の分泌経路と関連する内因性グルコースセンシング機構によって成し遂げられる。この刺激−分泌カップリングパラダイムにおいて、高い血漿グルコース(例えば食後の)はβ細胞代謝を改変し、ATP感受性K+チャネルの閉鎖による膜電位の改変をもたらす。この脱分極事象は電位感受性Ca2+チャネルを開き、そしてCa2+の流入はインシュリンの制御放出を引き起こす(非特許文献1)。次に、血漿インシュリンは、骨格筋および脂肪組織へのグルコースの取り込みを刺激するように作用し、そして肝臓グルコース生産を抑制し、血漿グルコースの低下という総合的結果を有する(非特許文献8)。
【0005】
I.インシュリン
1型(インシュリン依存性)糖尿病は、膵臓内分泌機能の喪失と関連する主要な疾患である。大部分の症例において、これは島への自己免疫性攻撃により起こる。1型糖尿病の現行の治療は、単一ないし複数の毎日のインシュリン注射を必要とする。症例の大部分において、この処方計画は、血糖レベルの適切な制御を維持するのに十分ではなく、多数の糖尿病性後期合併症をもたらし、これらは罹患個体の罹病率および死亡率を非常に上げる。毎日のインシュリン注射の代替治療は、膵臓もしくは島移植によって糖尿病を治療することであった(非特許文献9;非特許文献10)。完全な膵臓組織の移植は有効な処置であるが、この処置は3つの主要な障害:1)ドナー材料の不足;2)大きな外科的処置の必要条件および3)短期間の利益で長期間の免疫抑制療法の必要性という難点があることが研究により示される。同様に、島移植は、いくらかしか有効でない。この方法は、ドナー膵臓からの島の単離および門脈への注入を伴う。さらに、この方法は、数回の入院を必要とする多数の注入を伴う(非特許文献9;非特許文献10)。さらに、これらの患者は、集中的な免疫抑制療法も受けなければならない。さらに、膵臓組織移植におけるように、単離された島の方法もまた、非常に限られたドナー集団という難点がある。異種移植し
たブタ島を用いる研究は進行中であり、しかしながら、この方法での免疫拒絶は依然として重大な障害である(非特許文献9;非特許文献10)。
【0006】
総合すると、上記のデータは代わりの細胞治療方法の必要性を示唆する。これらの線に沿って、マウスおよびヒト由来の膵管幹細胞および胚幹細胞の両方が、膵臓内分泌経路への分化の制御誘導によって島様細胞系を生成するために用いられている(非特許文献11;非特許文献9;非特許文献12;非特許文献10)。島ホルモン産生細胞に分化するように誘導されるマウス由来の幹細胞は、糖尿病マウスモデルを再生するのに成功裡に用いられている(非特許文献9;非特許文献10)。この場合もまた、これらの方法の障害には、免疫拒絶およびヒトにおける応用のための前駆細胞系の非常に限られた供給源が包含される。
【0007】
ヒト胚幹細胞(HES)は、インシュリンを生産する細胞に成功裡に分化されている(非特許文献11)。多能性未分化HES細胞の使用は、潜在的に、糖尿病のような疾患に利用される特質的な膵ベータ細胞の供給源である。しかしながら、これらの方法は多数の不都合という難点がある。第一のものは、HES細胞自体の供給源の問題である。HES細胞の分野における研究および開発の重大な必要性を取り巻く最近の発表にもかかわらず、政治的および倫理的論争が依然としてある。結果として、適切なHES細胞を利用できることは保証されない。分化した膵島細胞の生成におけるHES細胞の使用の第二の難点は、培養した分化した細胞においてグルコース反応性を示すことの予測が不可能なことである。実際、Assady等(非特許文献11)は、HES細胞から分化した細胞がグルコース反応性を示さないことを示唆している。無反応は、培養において増殖する細胞集団の異質性の違い、タンパク質もしくはDNA含有量のようなパラメーターにインシュリン応答を正規化することの難しさまたは培養における高いグルコースレベルに長期間さらされることに帰することができ得る。従って、分化したβ−細胞を利用するためには、分化した細胞がインシュリンの刺激−分泌カップリングを有することを示すことが必要である。HES細胞治療はまた、奇形腫発症の潜在的な高い危険性の難点もある。
【0008】
膵臓自体は、島前駆細胞の供給源である。University of Florida Research Foundationへの特許文献1は、糖尿病のインビボ(in vivo)治療のための哺乳類への移植用にインビトロ(in vitro)において増やした島前駆細胞の使用を開示する。
【0009】
膵臓内分泌系統への膵管由来幹細胞もしくは単離された胚幹細胞の分化は、特異的マーカー酵素および転写因子の発現を特徴とする。興味深いことに、胚発生中に島および神経系細胞は、神経系特異的エノラーゼ、シナプトフィシン、カテコール合成酵素、チロシンヒドロキシラーゼ、ネスチン、ならびに転写因子HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、膵臓および十二指腸ホメオボックス遺伝子1(PDX−1)、Nkx6.2、Nkx2.2およびneurogenin−3(Ngn−3)を包含する多数の共通のマーカーを共有する(非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17)。さらに成熟した島細胞の機能性マーカーは、グルカゴン、ソマトスタチン、インシュリン、グルコース輸送体2(Glut2)および膵ポリペプチドの発現である。
【0010】
II.グルカゴン
グルカゴンは、ランゲルハンス島のアルファ細胞において遊離される29アミノ酸のペプチドホルモンである。グルカゴン産生アルファ細胞は、発生中の内分泌膵における検出可能な島細胞の最も初期の集団の一つである。プログルカゴンの組織特異的遊離は、プロホルモンコンバターゼ(PC)酵素の細胞特異的発現により制御される。島プログルカゴンのプロセシングにおけるPC2の重要な役割は、PC2ノックアウトマウスの研究によ
り示される。このマウスは軽度の低血糖症、高いプロインシュリンを有し、そして成熟膵臓グルカゴンへのプログルカゴンのプロセシングにおける重大な欠陥を示し、そしてマウス島α細胞は、異型分泌顆粒からプログルカゴンを分泌する(非特許文献18;非特許文献19)。
【0011】
グルカゴンの重要な生物学的作用は、肝臓におけるグルコースの高められた合成および可動化によるグルコースホメオスタシスの調節に集中する。グルカゴン受容体もまたヒト島β細胞上に発現され、そしてグルコースにより刺激されるインシュリン分泌の調節に寄与する(非特許文献20)。
【0012】
グルカゴンは、一般に、特に低血糖症にかかっている患者において、インシュリンの作用を妨害しそして血糖のレベルを保つ、逆調節ホルモンとして機能する。糖尿病にかかっている患者において、過剰のグルカゴン分泌は、高血糖症のような、糖尿病と関連する代謝摂動において主要な役割を果たす。反復性低血糖症にかかっている糖尿病患者における主要な問題は、低血糖へのグルカゴン応答の減少もしくは欠如を包含する逆調節応答障害の発生である。従って、自律神経系および島α細胞が、低血糖非感受性を引き起こすグルカゴン分泌の欠陥を生じる方法および理由を理解することは、糖尿病研究における大きな挑戦である。
【0013】
グルカゴンの投与は、血糖の急速な上昇を薬理学的に引き起こし、従って、注入可能なグルカゴンは、重大な低血糖症の危険がある糖尿病患者の薬理学的処置として用いられる。糖尿病は、高血糖症の発症に有意に寄与するグルカゴン過剰を伴う、2ホルモン障害(bihormonal disorder)と長い間考えられている。Shah等(非特許文献21)は、食事のグルコース負荷の後にヒト被験体におけるグルカゴン媒介高血糖症の発症に対する周囲インシュリン濃度の重要性を調べた。該著者等は、相対的インシュリン不足の存在下でのグルカゴン過剰がグルコース生産の抑制障害および高血糖症に明らかに寄与することを見出した。従って、グルカゴン分泌もしくはグルカゴン作用のインヒビターは、インシュリン不足および/もしくはグルカゴン過剰を伴う糖尿病の処置に有用であり得る。2型糖尿病にかかっている患者における研究は、グルカゴン抑制の欠如が、一つには加速されたグリコーゲン分解によって食後高血糖に寄与することを示唆する。経口的グルコース負荷試験(OGTT)中のソマトスタチンにより誘導されるグルカゴン抑制の有無での血糖の分析により、より高いグルカゴンレベルを有する被験体におけるグルコースの有意な増加が示された(非特許文献22を参照)。
【0014】
多数の研究により、グルカゴンは細胞調製物およびインビボの両方において脂肪の分解(リポリーシスとして知られている)を促進することが示されている。従って、グルカゴンは、ヒト脂肪組織においてリポリーシスを促進し得る。しかしながら、さらに以前の研究は矛盾しており、いくつかの論文は、ヒト脂肪細胞リポリーシスにおけるグルカゴンの役割を確認する。ヒトグルカゴンおよび血管作用性腸ポリペプチド(VIP)は、インビトロにおいてヒト脂肪組織からの遊離脂肪酸放出を刺激し、一方、他の実験は、単離されたヒト脂肪細胞におけるリポリーシスへのグルカゴンの有意な効果を示すことができなかった(非特許文献23)。インビボにおけるグルカゴンの取り消しもしくは生理的高グルカゴン血症は、正常もしくは糖尿病ヒト被験体においてリポリーシスの指標であるパルミテートフラックスの有意な変化を引き起こさなかった(非特許文献24)。最近、同様の否定的な結果が報告され、ここでは、7人の健康な男性被験体に腹壁において留置マイクロダイアリシスカテーテルを埋め込み、そして間質グリセロール、ならびに血漿グリセロールおよびFFAへのグルカゴン注入の効果を調べた。グリセロールもしくは遊離脂肪酸への効果は、外因性グルコースの有無にかかわらず、全身的グルカゴン注入で検出されなかった(非特許文献25)。同様の否定的な結果は、腹部脂肪組織に埋め込まれた留置マイクロダイアリシスカテーテルを有する正常男性被験体におけるリポリーシスの研究にお
いて得られた(非特許文献25)。従って、利用可能なデータは、リポリーシスへのグルカゴンの重要な生理的役割を裏付けない。
【0015】
グルカゴンは、ヒト被験体に薬理学的に投与した場合に胃腸管(食道、胃、ならびに小腸および大腸)への運動性抑制効果(anti−motility effects)を有する(非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28)。グルカゴンはまた、胆嚢および尿管において平滑筋を弛緩することもでき、胆嚢および腎臓の放射線研究中の時折の使用につながる。
【0016】
III.ソマトスタチン
ソマトスタチンは、体内の様々な重要な機能を果たす膵デルタ細胞において生産される内因性ペプチドである。ソマトスタチンは、非常に短い生物学的半減期を有する非常に柔軟な環状ペプチドである。視床下部下垂体系の古典的内分泌ホルモンとして作用することが最初に発見されたソマトスタチンは、それ以来、多種多様な細胞タイプへの傍分泌および自己分泌シグナリング因子としてさらに作用することが示されている。ソマトスタチンにより影響を受けると現在認識される多数の生理的プロセスには、ホルモンおよびペプチド因子分泌、神経伝達、細胞増殖、平滑筋収縮、栄養の吸収ならびに炎症が包含される。ソマトスタチンにより調節されるホルモンおよびペプチドには、成長ホルモン(GH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン(PRL)、インシュリン、およびサブスタンスP(SP)が包含される。
【0017】
ソマトスタチンは、中枢および末梢神経系に加えて内分泌系、胃腸系、血管系および免疫系のような多数の重要な生物学的系の機能に影響を与える。内分泌系において、ソマトスタチンは、成長ホルモン、インシュリンおよびグルカゴン分泌を制御するのに重要な役割を果たす(非特許文献29)。胃腸および血管の生物学的系へのソマトスタチンの効果は、これらの領域の両方におけるソマトスタチン治療への臨床応用につながっている。中枢神経系(CNS)において、ソマトスタチンは認知機能の重要な調節因子であるように思われ(非特許文献30)、そして脳の特定領域において、神経伝達物質としてもしくはアセチルコリン(非特許文献31)およびドーパミン(非特許文献32)のような神経伝達物質の放出を調節する神経調節因子として作用するように思われる。末梢神経系(PNS)において、ソマトスタチンは、カテコールアミン含有繊維にそしてサブスタンスPと一緒に感覚終末に存在し(非特許文献33)、そしてそれらの放出および媒介効果を抑制するように作用する。
【0018】
ソマトスタチン自体のように、ソマトスタチン受容体は、内分泌系、胃腸系、血管系、免疫系、CNSおよびPNSに属するものを包含する多種多様な組織および細胞タイプに局在化されている。ソマトスタチン受容体の高発生率はまた、様々なヒト腫瘍においても示されている。神経内分泌腫瘍は、高密度の機能的に活性のソマトスタチン受容体を示す腫瘍の一つのクラスである。機能的に活性の神経内分泌腫瘍は、腫瘍細胞からの過剰のホルモン放出のためにガストリノーマおよびグルカゴノーマ症候群のような臨床症状を示す。そのような症状は、ソマトスタチン受容体活性化によって処置することができる。
【0019】
IV.膵ポリペプチド
膵ガンマ細胞は、タンパク質の神経ペプチドYファミリーのメンバーである膵ポリペプチド(PP)を分泌することが既知である。このペプチドの正確な生理的メカニズムに関してはほとんど知られていない。PPは、迷走神経刺激に対する阻害によって膵臓消化酵素の分泌を抑制することにより膵臓において直接的に効果を示すことが既知である。PPのこの効果は、迷走神経への直接作用ならびに背側迷走神経群および弓状核における中枢神経系媒介作用の両方によって生じると考えられる(非特許文献34)。PPはまた、その迷走神経作用によって、インシュリン放出を抑制すると考えられる。PPはまた、イン
シュリン非依存性糖尿病症状において認められる島細胞肥大を抑制するようにも思われる。PPの循環レベルはまた肝臓への効果も示し、そして肝臓グルコース生産の減少をもたらす。従って、PPの投与は、インシュリン非依存性糖尿病の処置において役割を有し得る。
【0020】
V.幹細胞の非胚供給源
成人細胞は、分化の能力を示している。例えば、最近の研究により、インビトロにおいてニューロン分化を受ける骨髄由来間質細胞の特異的能力が示されている(非特許文献35;非特許文献36)。これらの研究において、酸化防止剤、上皮細胞増殖因子(EGF)、もしくは脳由来神経栄養因子(BDNF)での骨髄間質細胞の処理は、ニューロン分化と一致する形態学的変化、すなわち、成長円錐および糸状足で終わる長い神経突起の伸長を受けるように細胞を誘導した(非特許文献35;非特許文献36)。さらに、これらの作用因子は、ネスチン、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、神経フィラメントM(NF−M)、NeuN、および神経成長因子受容体trkAを包含するニューロン特異的タンパク質の発現を誘導した(非特許文献35;非特許文献36)。
【0021】
分化の能力を有する成人細胞の他の例は、下記の特許に記述されている:
Osirisへの特許文献2は、1種より多くの結合組織タイプの細胞に分化することができるヒト間葉幹細胞の単離された均質な集団に関する。該特許は、培養において、すなわち、インビトロにおいてこれらの細胞を単離し、精製し、そして大幅に複製する方法を開示する。
【0022】
Case WesternおよびOsirisへの特許文献3は、ヒト間葉幹細胞および単一の特定の系統への間葉幹細胞の分化を誘導する1種もしくはそれ以上の生理活性因子を含む、単一の特定の間葉系統への単離されたヒト間葉幹細胞の系統指定分化を誘導する組成物を記述する。
【0023】
Case Westernへの特許文献4は、間葉幹細胞を生理活性因子と接触させてそれにより単一の特定の間葉系統へのそのエクスビボ(ex vivo)分化を誘導することを含む単離されたヒト間葉幹細胞のエクスビボ系統指定分化を誘導する方法を記述する。該特許はまた、生理活性因子と接触させてそれにより単一の特定の間葉系統へのそのような細胞のエクスビボ分化を誘導することによりエクスビボで分化するように誘導されている単離されたヒト間葉幹細胞を含んでなる組成物を処置を必要とする個体に投与することを含む、特定の間葉系統の間葉細胞を必要とする個体を処置する方法も記述する。
【0024】
Case Westernへの特許文献5は、ヒト間葉前駆細胞のインビトロ軟骨形成およびそれからのヒト軟骨細胞のインビトロ形成のための組成物を開示し、この組成物は、充填細胞ペレットとして近接して濃縮された単離されたヒト間葉幹細胞およびそれと接触している少なくとも一つの軟骨誘導因子を含む。該特許はまた、間葉幹細胞をインビトロにおいて軟骨誘導因子と接触せることにより間葉幹細胞における軟骨形成を誘導する方法も記述し、ここで、幹細胞は充填細胞ペレットとして近接して濃縮される。
【0025】
Advanced Tissue Sciences,Inc.への特許文献6は、軟骨生成間質細胞および間質細胞により架橋される間質腔を有する3次元構造に形成される生体適合性の非生体材料からなる3次元のフレームワークに結合しそしてそれを実質的に包む間質細胞により生来分泌される結合組織タンパク質を含む、インビトロにおいて製造される生体軟骨組織を開示する。該特許はまた、軟骨への細胞の増殖および分化に適当なポリマー担体に間葉幹細胞を含んでなる新しい軟骨を成長させる組成物も開示する。
【0026】
Advanced Tissue Sciences,Inc.への特許文献7は、間
質細胞および間質細胞により架橋される間質腔を有する生体適合性の非生体材料からなる3次元の管状フレームワークに結合しそしてそれを実質的に包む間質細胞により生来分泌される結合組織タンパク質を含んでなる、インビトロにおいて製造される管状生体間質組織を開示する。
【0027】
Advanced Tissue Sciences,Inc.への特許文献8は、生体間質組織フレームワーク上の膵臓実質細胞培養物から得られる間質細胞に基づく3次元培養系を記述する。該間質細胞には、臍帯細胞、胎盤細胞、間葉幹細胞もしくは胎児細胞を包含することができる。従って、該培養系は、機能する膵臓組織および臓器材料を提供するために用いられる。
【0028】
Osirisへの特許文献9は、ヒト骨髄から回収されそして血液細胞を実質的に含まないヒト間葉幹細胞を含有する細胞調製物を個体に投与することによりそれを必要とする個体において結合組織を生成することを含む結合組織を生成する方法を記述する。
【0029】
Thiede et alへの特許文献10は、造血幹細胞の少なくともいくらかがそれらの幹細胞表現型を維持するように造血幹細胞とヒト間葉幹細胞とを共培養することを含んでなるインビトロにおいてヒト造血幹細胞を維持する方法を記述する。
【0030】
Torok−Storb et alへの特許文献11は、ヒト造血前駆細胞との組み合わされたインビトロ培養における放射線照射した不死化ヒト間質細胞系を記述する。
【0031】
Torok−Storb et alへの特許文献12および特許文献13は、造血を持続するヒト骨髄間質細胞系を記述する。
【0032】
Morphogenへの特許文献14は、多核筋原性系統決定細胞を実質的に含まずそして主に星型の形をした精製された多能性間葉幹細胞を記述し、ここで、該間葉幹細胞は、10%のウシ胎仔血清を含有する組織培養培地において筋肉形成タンパク質と接触させる場合に繊維芽細胞性細胞を主に形成し、そして10%のウシ胎仔血清を含有する培地での組織培養において筋肉形成タンパク質および瘢痕抑制因子(scar inhibitory factor)と接触させる場合に自発的に収縮する分岐した多核構造を主に形成する。
【0033】
Hahnemann Universityへの特許文献15は、中枢神経系を処置するための間葉幹細胞の使用および骨髄間質細胞の分化を導く方法を記述する。
【0034】
Osirisへの特許文献16は、間葉性巨核球前駆体組成物および巨核球を単離することにより単離された巨核球と関連するMSCを単離する方法を記述する。
【0035】
Osirisへの特許文献17は、ヒトCD45および/もしくは繊維芽細胞および間葉幹細胞を記述する。
【0036】
Ixion Technologyへの特許文献18は、培養しそしてインビトロにおいて膵臓様細胞に分化させる骨髄および血液由来幹細胞の使用を記述する。University of Texasへの特許文献19は、膵臓疾患の処置のための膵臓に埋め込む神経幹の使用を記述する。
【0037】
しかしながら、前節に記述する技術は、入手するのが困難であり同時にドナーにとって痛みを伴う骨髄のような前駆細胞の供給源に依存する。従って、本発明の目的は、膵臓の内分泌疾患の処置に役立つように細胞、材料および方法を提供することである。
【0038】
【特許文献1】WO01/23528明細書
【特許文献2】米国特許第5,486,359号明細書
【特許文献3】米国特許第5,942,225号明細書
【特許文献4】米国特許第5,736,396号明細書
【特許文献5】米国特許第5,908,784号明細書
【特許文献6】米国特許第5,902,741号明細書
【特許文献7】米国特許第5,863,531号明細書
【特許文献8】米国特許第6,022,743号明細書
【特許文献9】米国特許第5,811,094号明細書
【特許文献10】米国特許第6,030,836号明細書
【特許文献11】米国特許第6,103,522号明細書
【特許文献12】WO 9602662A1明細書
【特許文献13】米国特許第5,879,940号明細書
【特許文献14】米国特許第5,827,735号明細書
【特許文献15】WO 99/43286号明細書
【特許文献16】WO 98/20731号明細書
【特許文献17】WO 99/61587号明細書
【特許文献18】WO 01/079457号明細書
【特許文献19】WO 01/78752号明細書
【非特許文献1】Henquin,2000,Diabetes 49,1751−1760
【非特許文献2】Slack,1995,Development 121,1569−1580
【非特許文献3】Rao et al.,1989,Am.J.Pathol.134,1069−1086
【非特許文献4】Rosenberg and Vinik,1992,Adv.Exp.Med.Biol.321:95−104
【非特許文献5】Swenne,1992,Diabetologia 35,193−201
【非特許文献6】Hellerstrom,1984,Diabetologia,26,393−400
【非特許文献7】Gu and Sarvetnick,1993,Development 118,33−46
【非特許文献8】Cheatham and Kahn,1995,Endocr.Rev.16,117−142
【非特許文献9】Serup et al.,2001,BMJ 322,29−32
【非特許文献10】Soria et al.,2001,Diabetologia 44,407−415
【非特許文献11】Assady et al.,2001,Diabetes 50,1691−1697
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【非特許文献16】Zulewski et al.,2001,Diabetes 50,521−533
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【非特許文献36】Sanchez−Ramos et al.(2000)Exp Neurology 164:247
【発明の開示】
【0039】
本発明は、膵臓細胞および好ましくは膵内分泌細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように誘導されたヒトもしくは他の哺乳類から単離される、単離された脂肪組織由来間質細胞を提供する。該細胞は、グルカゴン産生α細胞、インシュリン産生β細胞、膵ポリペプチド産生γ細胞もしくはソマトスタチン産生δ細胞の性質を示すことができる。好ましい態様として、インシュリン産生β細胞が生成される。本発明の細胞は、インビトロにおいてもしくは患者への移植後に分化するように誘導することができる。
【0040】
本発明の細胞は、以下にさらに詳細に記述するように、埋め込み可能なもしくは埋め込み型マトリックスを作製するために2次元もしくは3次元構造に導入することができる。本発明は、例えば、哺乳類、好ましくはヒトへの移植に適合する生体材料に分化した脂肪由来成人幹細胞もしくは分化した細胞をカプセル封入する方法を提供する。カプセル封入材料は、脂肪由来成人幹細胞もしくは分化した細胞により分泌されるタンパク質もしくはホルモンの放出を妨げない。使用する材料には、コラーゲン誘導体、ヒドロゲル、アルギン酸カルシウム、アガロース、ヒアルロン酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸誘導体およびフィブリンが包含されるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の細胞はまた、外因性遺伝物質を含むように遺伝子操作することもできる。一つの態様として、ホスト細胞染色体に所望の遺伝子配列を組込むことができるベクターを用いる。好ましい態様として、導入される核酸分子を、宿主細胞において自律複製のできるプラスミドもしくはウイルスベクターに導入する。多種多様なベクターのいずれもこの目的に用いることができる。好ましい真核生物ベクターには、例えば、ワクシニアウイルス、SV40、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび当業者によく知られている様々な市販されているプラスミドに基づく哺乳類発現ベクターが包含される。いったんベクターもしくは核酸分子が発現用に準備されると、DNA構築物(1つもしくは複数)を様々な適当な手段、すなわち、形質転換、トランスフェクション、ウイルス感染、接合、プロトプラスト融合、電気穿孔、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接微量注入などのいずれかにより適切な宿主細胞に導入することができる。ベクターの導入の後、ベクターを含有する細胞の増殖に関して選択する選択培地においてレシピエント細胞を培養する。クローン化された遺伝子分子(1つもしくは複数)の発現は、異種タンパク質の生産をもたらす。
【0042】
本発明はまた、単離された脂肪組織由来間質細胞を膵臓誘導物質、好ましくは膵内分泌誘導物質と接触させることの工程を含んでなる、膵臓細胞、例えば、グルカゴン産生α細胞、インシュリン産生β細胞、膵ポリペプチド産生γ細胞もしくはソマトスタチン産生δ細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように単離された脂肪組織由来間質細胞を分化させる方法も提供する。この物質は、少なくとも一つの膵内分泌細胞マーカーを発現するように単離された脂肪組織由来間質細胞を誘導するのに十分な濃度で増殖因子、サイトカイン、化学物質および/もしくはホルモンを含むことができる以下にさらに詳細に記述するような化学的に特定される細胞培養培地中にある。
【0043】
本発明はさらに、ホストにとって治療的に有益である膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように単離された脂肪組織由来間質細胞を誘導すること;および次に誘導した細胞をホストに移植することを含む、ホストにおいてグルカゴン産生α細胞、インシュリン産生β細胞、膵ポリペプチド産生γ細胞もしくはソマトスタチン産生δ細胞の膵臓機能により媒介される疾患を処置する方法を提供する。本発明の利点は、脂肪組織由来間質細胞をホストから直接単離し、分化させ、そして次に自家的に再移植できることである。あるいはまた、治療を同種的に行うことができる。
【0044】
処置するために本発明を用いることができる膵内分泌疾患もしくは変性症状の限定されない例には、I型糖尿病、II型糖尿病、脂肪異栄養症関連疾患、化学的に誘発される疾患、膵炎関連疾患、もしくは外傷関連疾患が包含される。
【0045】
本発明の細胞は、均質なもしくは実質的に均質な細胞集団としてあるいは他の細胞が内分泌膵様細胞の増殖もしくは分化を助ける物質を分泌するかまたは他の所望の治療因子を分泌するかもしくは展示する他の細胞との細胞集団の一部として用いることができる。
【0046】
本発明はまた、処理した脂肪由来間質細胞によってホルモンを生産する方法も包含する
。本発明の細胞に細胞培養培地をさらすことにより培養培地を調整する方法もまた包含する。該培地は、次に他の脂肪由来細胞を培養するために用いることができる。
【0047】
本発明はまた、膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように誘導されている脂肪由来間質細胞を生成するキットも意図し、これは脂肪組織の残りから間質細胞もしくは幹細胞を分離するための使用説明書を含むことができ、そして幹細胞を分化させるための培地を含み、ここで、該培地は、細胞を膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するようにするか、もしくは一般に膵臓原性である(pancreogenic)。本発明の組織を作り出すための全ての必要な成分を含むキットもまた開示する。そのようなキットは、本発明の細胞もしくは細胞集団、生物学的に適合する格子(lattice)、ならびに水和剤、細胞培養基質、細胞培養培地、他の細胞、抗生物質化合物およびホルモンからなる成分を含む。
【0048】
本発明の他の目的および特徴は、下記の開示からさらに十分に明らかになる。
[発明の詳細な記述]
本発明は、膵臓細胞および好ましくは膵内分泌細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように誘導されたヒトもしくは他の哺乳類からの単離された脂肪組織由来間質細胞を提供する。該細胞は、グルカゴン産生α細胞、インシュリン産生β細胞、膵ポリペプチド産生γ細胞もしくはソマトスタチン産生δ細胞の性質を示すことができる。好ましい態様として、インシュリン産生β細胞が生成される。本発明の細胞は、インビトロにおいてもしくは患者への移植後に分化するように誘導することができる。
【0049】
本発明の方法により生成される細胞は、動物疾患、好ましくはヒト疾患の処置、組織修復もしくは改善、および生活を変えるかもしくは生命にかかわる代謝疾患の補正のための研究、移植、および細胞治療製品の開発用に成熟膵臓細胞の特性を有する部分的にもしくは完全に分化した機能性細胞の供給源を提供することができる。そのような細胞を生成する方法もまた包含する。
【0050】
I.定義
「発生表現型」は、分化のプロセスを通して特定の物理的表現型を獲得する細胞の潜在能力である。
【0051】
「遺伝子型」は、分化経路と関連する遺伝子の少なくとも一つのメッセンジャーRNA転写産物の発現である。
【0052】
「膵ベータ島細胞」は、好ましくは調節される形で、より好ましくはグルコース濃度に依存する形で、インシュリン、インシュリン類似物、インシュリン前駆体もしくはインシュリン様因子を分泌することができる任意の細胞を意味するものとする。
【0053】
「膵アルファ細胞」は、好ましくは調節される形で、グルカゴン、グルカゴン類似物、グルカゴン前駆体もしくはグルカゴン様因子を分泌することができる任意の細胞を意味するものとする。
【0054】
「膵デルタ細胞」は、好ましくは調節される形で、ソマトスタチン、ソマトスタチン前駆体もしくはソマトスタチン様因子を分泌することができる任意の細胞を意味するものとする。
【0055】
「膵PP細胞」もしくは「ガンマ細胞」は、好ましくは調節される形で、膵ペプチド、類似物、前駆体もしくは同様の因子を分泌することができる任意の細胞を意図する。
【0056】
「インシュリン」は、既知である様々なインシュリン、インシュリン類似物もしくはインシュリン様因子のいずれかを意図する。これには、プロホルモンもしくはインシュリン前駆体タンパク質、完全にプロセシングされたタンパク質、またはこれらの存在のいずれかの代謝産物が包含される。
【0057】
「糖尿病」は、循環グルコースレベルに対する応答性の喪失があるように膵ベータ島細胞機能が機能不全である任意の疾病状態を意味するものとする。該疾病状態は、先天的代謝障害、外傷性損傷、化学的損傷、感染症、慢性アルコール摂取、内分泌障害、ダウン症候群のような遺伝病、または膵臓内分泌に直接的もしくは間接的に損傷を与える任意の他の病因の結果であることができる。
【0058】
「若年者の成人発症型糖尿病」は、1型もしくは2型糖尿病表現型のいずれかにはっきりと分類されないわずかな割合の糖尿病患者を含むものとする。これは、通常は25歳より前に、早期に発症するベータ細胞機能の遺伝的欠損を特徴とする。
【0059】
「自己免疫疾患」は、宿主の膵臓内分泌の拒絶および破壊をもたらす体液性もしくは細胞性の任意の免疫媒介プロセスを包含するものとする。このプロセスの病因は、コクサッキーウイルスもしくはマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のような因子による感染への免疫応答、自己免疫性機能不全への先天的代謝傾向、または化学物質にさらされることであるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)。サイズに基づくポリペプチドの分画を行う最も一般的に使用される技術(唯一のものではないが)は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動である。この方法の原理は、最も大きい分子の移動を最大限にそして最も小さい分子の移動を最小限に遅らせるふるいであるかのようにポリペプチド分子がゲルを通って移動することである。ポリペプチドフラグメントが小さいほど、ポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動下の移動度は大きくなる。電気泳動の前および最中の両方で、ポリペプチドは典型的に洗剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に絶えずさらされ、この条件下でポリペプチドは変性される。非変性ゲルは、SDSなしに泳動される。ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分画されるポリペプチドは、染色方法により直接視覚化することができる。
【0061】
ウェスタントランスファー法。ウェスタントランスファー法(免疫ブロッティングとも呼ばれる)の目的は、分画方法から得られるポリペプチドの相対的な位置を保ちながら、ニトロセルロースフィルターもしくは別の適切な表面上にポリアクリルアミドゲル電気泳動により分画されるポリペプチドを物理的に移すことである。次に、対象のポリペプチド(1つもしくは複数)に特異的に結合する抗体でブロットを調べる。
【0062】
「精製された」タンパク質もしくはホルモンは、細胞成分から分離されているタンパク質もしくはホルモンである。「精製された」タンパク質もしくはホルモンは、天然で見出されない純度のレベルまで精製されている。「実質的に純粋な」タンパク質もしくはホルモンは、ホルモンもしくはタンパク質の性質に実質的に影響を与えない他の成分のみを含有する調製物であるタンパク質もしくはホルモンである。
【0063】
「内分泌膵の遺伝子」は、内分泌膵の分化中のもしくは分化したアルファ、ベータ、デルタもしくはPP細胞の表現型と関連する遺伝子のいずれも包含するものとするが、これらに限定されるものではない。これらの遺伝子には、pdx1、pax4、pax6、neurogenin 1、neurogenin 2、neurogenin 3、neuro D、GLUT2、インシュリン、Isl1、Hlxb9、Nkx2.2が包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
II.脂肪由来の幹細胞もしくは間質細胞
脂肪幹細胞もしくは「脂肪間質細胞」は、脂肪組織に由来する細胞をさす。「脂肪」は、任意の脂肪組織を意味する。脂肪組織は、皮下、大綱/内臓、乳房、性腺、もしくは他の脂肪組織部位から得られる褐色もしくは白色脂肪組織であることができる。好ましくは、脂肪は皮下白色脂肪組織である。そのような細胞は、初代細胞培養物もしくは不死化細胞系を含んでなることができる。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物体からであることができる。好ましくは、脂肪組織は哺乳類であり、最も好ましくは脂肪組織はヒトである。脂肪組織の都合の良い供給源は脂肪吸引手術からであり、しかしながら、脂肪組織の供給源もしくは脂肪組織の単離の方法は、本発明にとって重大ではない。脂肪吸引は、患者の大部分にとって許容しうる、美容効果を有する比較的非侵襲性の方法である。脂肪細胞が補充可能な細胞集団であることは十分に立証されている。脂肪吸引もしくは他の方法による外科的除去の後でさえ、同じ部位で時間とともに個体における脂肪細胞の発生を認めることは一般的である。これは、脂肪細胞に自己再生することができる間質幹細胞を脂肪組織が含有することを示唆する。
【0065】
病理学的証拠は、脂肪由来間質細胞が多数の系統経路に沿って分化できることを示唆する。最も一般的な軟組織腫瘍、脂肪肉腫は、脂肪細胞様細胞から発生する。混合起源の軟組織腫瘍は比較的よく見られる。これらは、脂肪組織、筋肉(平滑筋もしくは骨格筋)、軟骨、および/もしくは骨の要素を包むことができる。進行性骨異形成として知られている稀な症状を有する患者において、皮下脂肪細胞は未知の理由によって骨を形成する。
【0066】
ヒト脂肪組織由来成人間質細胞は、エクスビボにおいて増やし、独特の系統経路に沿って分化させ、遺伝子操作し、そして自家もしくは同種移植のいずれかとして個体に再導入することができる。
【0067】
University of PittsburghおよびThe Regents of the University of CaliforniaへのWO 00/53795ならびにUniversity of Pittsburghに譲渡された米国特許出願第2002/0076400号は、脂肪由来幹細胞ならびに脂肪細胞および赤血球および結合組織幹細胞のクローン集団を実質的に含まない格子(lattice)を開示する。該細胞は、インビボおよびインビトロの両方において、分化した組織および構造を生成せしめるために単独でもしくは生物学的に適合する組成物内で用いることができる。さらに、該細胞は、ホルモンを生産するためにそして他の細胞集団の成長および増殖を助けるためのならし培養培地を提供するために増やしそして培養することができる。別の態様として、これらの公開は、脂肪組織からの細胞外マトリックス物質を含む、細胞が実質的にない脂肪由来の格子を開示する。該格子は、インビボであろうとインビトロであろうと、原基または成熟組織もしくは構造への細胞の増殖および分化を促進するために基質として用いることができる。いずれの公開も、膵内分泌細胞の少なくとも一つの表現型もしくは遺伝子型特性を発現するように誘導されている脂肪組織由来間質細胞を開示していない。
【0068】
Artecel Sciencesに譲渡された米国特許第6,391,297号は、骨を修復しそして骨疾患を処置するためにインビボにおいて用いることができる骨芽細胞の少なくとも一つの特性を示すように分化されている単離されたヒト脂肪組織由来間質細胞の組成物を開示する。この脂肪由来の骨芽細胞様細胞は、場合により遺伝子操作するかもしくはマトリックスと組み合わせることができる。
【0069】
BioHoldings Internationalに譲渡された米国特許第6,426,222号は、グルココルチコイドを含有しなければならない液体栄養培地において
脂肪組織細胞をインキュベーションすることによりヒト髄外脂肪組織から骨芽細胞分化を誘導する方法を開示する。
【0070】
発明者としてHalvorsen et alを記載するWO 00/44882および米国特許第6,153,432号は、単離された初代脂肪細胞において認められるものと同様の生化学的、遺伝的および生理的特性を有する脂肪細胞への脂肪組織から単離されたヒト前駆脂肪細胞の分化のための方法および組成物を開示する。
【0071】
Artecel SciencesへのWO 01/62901および公開された米国特許出願第2001/0033834号は、ニューロン細胞、大グリア細胞、造血前駆細胞もしくは肝細胞の少なくとも一つの表現型特性を発現するように誘導されている単離された脂肪組織由来間質細胞を開示する。さらに、脂肪細胞表現型マーカーの欠如があるように脱分化されている単離された脂肪組織由来間質細胞もまた開示される。
【0072】
Artecel Sciencesに譲渡された米国特許第6,429,013号は、軟骨細胞の少なくとも一つの特性を発現するように誘導されている単離された脂肪組織由来間質細胞に関する組成物を開示する。これらの細胞を分化させる方法もまた開示される。
【0073】
Peterson et alへの米国特許第6,200,606号は、骨もしくは軟骨を生成する潜在能力を有する前駆細胞を末梢血、骨髄および脂肪組織を包含する様々な造血および非造血組織から単離できることを開示する。
【0074】
本発明の方法に有用な脂肪組織由来間質細胞は、University of Pittsburgh et al.へのWO 00/53795ならびにZen−Bio,IncへのWO 00/44882および米国特許第6,153,432号に記述されているような当業者に既知である様々な方法により単離される。好ましい方法として、脂肪組織は哺乳類被験体、好ましくはヒト被験体から単離される。脂肪組織の好ましい供給源は、皮下脂肪である。ヒトにおいて、脂肪は典型的に脂肪吸引により単離される。本発明の細胞がヒト被験体に移植される場合、脂肪組織は、自家移植を図るために同じ被験体から単離されることが好ましい。あるいはまた、移植される組織は同種であることができる。
【0075】
限定されない例として、脂肪組織由来間質細胞を単離する一つの方法として、脂肪組織を25°〜50℃の間、好ましくは33°〜40℃の間の温度で、最も好ましくは37℃で、10分〜3時間の間、好ましくは30分〜1時間の間、最も好ましくは45分の期間にわたって、0.01〜0.5%の間、好ましくは0.04〜0.2%、最も好ましくは0.1%の濃度のコラゲナーゼ、0.01〜0.5%の間、好ましくは0.04〜0.4%、最も好ましくは0.2%の濃度のトリプシンで処理する。細胞を20ミクロン〜800ミクロンの間、より好ましくは40〜400ミクロンの間、最も好ましくは70ミクロンのナイロンもしくはチーズクロスメッシュフィルターに通す。次に、細胞を培地中で直接またはフィコールもしくはパーコールもしくは他の粒子勾配上で分画遠心分離に供する。細胞は、4°〜50℃の間、好ましくは20°〜40℃の間の温度で、最も好ましくは25℃で、1分〜1時間の間、より好ましくは2〜15分、最も好ましくは5分の期間にわたって、100〜3000Xgの間、より好ましくは200〜1500Xgの速度で、最も好ましくは500Xgで遠心分離する。
【0076】
脂肪由来間質細胞を単離するさらに別の方法として、Katz et alへの米国5,786,207に記述されているような機械的系を用いる。自動装置に脂肪組織サンプルを導入し、それを洗浄相および解離相(ここで、組織は、得られる細胞懸濁液が遠心分離の用意ができている容器に集められるように攪拌され、回転される)に供する系を用い
る。そのようにして、所望の細胞の細胞完全性を保ちながら、脂肪由来細胞を組織サンプルから単離する。
【0077】
III.膵臓細胞の少なくとも一つの特性を示す脂肪由来間質細胞の誘導
本発明は、膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する細胞の形成を誘導するための脂肪由来間質細胞の処理を包含する。脂肪由来間質細胞の分化を誘導する方法の限定されない例には:1)細胞培地の使用;2)支持細胞の使用;3)患者の組織への未分化細胞の直接移植;および4)細胞工学技術が包含される。
【0078】
A)細胞培地誘導
本発明は操作のいかなる理論によっても拘束されずに、2次元もしくは3次元の微小環境における、血清、胚抽出物、精製されたもしくは組換えの増殖因子、サイトカイン、ホルモン、および/または化学物質の組み合わせを含有する培地での脂肪由来間質細胞の処理が分化を誘導すると考えられる。
【0079】
さらに特に、本発明は、単離された脂肪由来成人幹細胞を約1,000〜約500,000細胞/cmの密度が包含されるがこれに限定されるものではない所望の密度で平板培養すること;増殖因子、ホルモン、サイトカイン、血清因子、核ホルモン受容体液、もしくは任意の他の特定の化学物質よりなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含んでなる化学的に特定される培養培地において細胞をインキュベーションすることを含んでなる、膵臓細胞の遺伝子型もしくは表現型特性を有する細胞に脂肪由来細胞を分化させる方法を提供する。
【0080】
本発明の方法に有用な基本培地には、培地199、CMRL 1415、CMRL 1969、CMRL 1066、NCTC 135、MB 75261、MAB 8713、DM 145、ウィリアムG、ニューマン・タイテル、ヒグチ、MCDB 301、MCDB 202、MCDB 501、MCDB 401、MCDB 411、MDBC153を包含する、多数の他のものの中で、NeurobasalTM(ウシ胎仔血清もしくは塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を補足するかもしくは補足しない)、N2、B27、最小必須培地イーグル、ADC−1、LPM(ウシ血清アルブミンを含まない)、F10(HAM)、F12(HAM)、DCCM1、DCCM2,RPMI1640、BGJ培地(フィットン・ジャクソン改変を有するおよび有さない)、基本培地イーグル(BME−アール塩ベースを添加する)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM−血清なし)、ヤマネ、IMEM−20、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、リーボビッツL−15倍地、マッコイ5A培地、培地M199(M199E−アール塩ベースを有する)、培地M199(M199H−ハンクス塩ベースを有する)、最小必須培地イーグル(MEM−E−アール塩ベースを有する)、最小必須培地イーグル(MEM−H−ハンクス塩ベースを有する)および最小必須培地イーグル(MEM−NAA−非必須アミノ酸を有する)が包含されるが、これらに限定されるものではない。本発明における使用に好ましい培地は、DMEMである。これらおよび他の有用な培地は、とりわけ、GIBCO,Grand Island,N.Y.,USAおよびBiologial Industries,Beth Aemek,Israelから入手可能である。多数のこれらの培地は、Methods in Enzymology,Volume LVIII,“Cell Culture”,pp.62−72(ed.Jakoby and Pastan,Academic Press,Inc)に要約されている。
【0081】
膵ベータ細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する細胞への脂肪由来間質細胞の分化に有用な培地は、Ontogeny,Inc.et alへのWO 00/47721に開示されているようなインシュリン分泌ベータ細胞への前駆細胞の分化において重要であることが示されているセクレチンまたは任意のセクレチン類似物もし
くはアゴニストを含む。本発明の方法に有用な培地は、少なくとも1%〜約30%、好ましくは少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは約10%の濃度でウシもしくは他の種由来の胎児血清を含有する。ニワトリもしくは他の種由来の胚抽出物は、約1%〜30%、好ましくは少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは約10%の濃度で存在する。
【0082】
本発明に用いる増殖因子、サイトカイン、ホルモンには、ピコグラム/ml〜ミリグラム/mlレベルの間の濃度の成長ホルモン、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インターロイキン3、インターロイキン6、インターロイキン7、マクロファージコロニー刺激因子、c−kitリガンド/幹細胞因子、オステオプロテゲリンリガンド、インシュリン、インシュリン様増殖因子、上皮細胞増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、血小板由来増殖因子、および骨形成タンパク質が包含されるが、これらに限定されるものではない。例えばそのような濃度で、本発明の方法に有用な増殖因子、サイトカインおよびホルモンは、コロニー形成単位(CFU)アッセイにおいて脂肪由来間質細胞から血液細胞(リンパ系、赤血球系、骨髄系もしくは血小板系統)の形成を100%まで誘導することができる。(Moore et al.(1973)J.Natl.Cancer Inst.50:603−623;Lee et al.(1989)J.Immunol.142:3875−3883;Medina et al.(2993)J.Exp.Med.178:1507−1515)。
【0083】
インシュリン産生細胞を生成するのを補助できることが示されている増殖因子には、ペプチド、GLP−1、extendin−4並びにEgan et alへのWO 00/09666に開示されているような実質的に相同なアミノ酸配列を有する類似物が包含される。
【0084】
さらに、培養培地に追加成分を添加できることが認識される。そのような成分は、抗生物質、アルブミン、アミノ酸、および細胞の培養用に当該技術分野に既知である他の成分であることができる。さらに、分化プロセスを増強するために成分を加えることができる。他の化学物質には、ステロイド、レチノイド、および脂肪由来間質細胞の分化を陽性コントロールに対して少なくとも25〜50%誘導する他の化学的化合物もしくは因子を包含することができるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
上記の細胞培地条件は、膵臓細胞、すなわち、膵臓アルファ、ベータ、デルタもしくはPP細胞の単一タイプの少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する細胞をもたらすと認識される。特定の細胞タイプは、当業者に既知である任意の手段により分離される。特に有用であるのは、分化した細胞により発現される遺伝子型もしくは表現型特性を利用する手段である。以下に記載するような所望の細胞の表現型マーカーは当業者に周知であり、そして文献に豊富に公開されている。追加の表現型マーカーは引き続き開示されるか、もしくは過度の実験なしに同定することができる。脂肪由来成人幹細胞が分化した状態に誘導されていることを確かめるためにこれらのマーカーのいずれかを用いる。
【0086】
系統特異的表現型特性には、細胞表面タンパク質、細胞骨格タンパク質、細胞形態、および/もしくは分泌産物を包含することができるが、これらに限定されるものではない。膵アルファ細胞は、他のマーカーの中で、グルカゴンを発現する。膵ベータ島細胞特性には、ネスチン、pdx1(IDX−1、IPF−1およびSTF−1としても知られている)、GLUT2、NeuroD、neurogenin、およびインシュリンが包含されるがこれらに限定されるものではないマーカーの発現が包含される。さらに、膵ベータ細胞は、多量の亜鉛を含有する。無毒の亜鉛感受性蛍光プローブの使用は、生存ベータ細胞における不安定な亜鉛を選択的に標識し、そして可視スペクトルにおける励起および発光波長を示し、この技術を標準器具類により利用可能する(Lukowiak B et
al.,J Histochem Cytochem.2001 Apr;49(4)
:519−28)。解離したNewport Green標識細胞の細胞選別は、DNA当たりのインシュリン含有量および免疫細胞化学分析により判断した場合に、ベータ細胞の明らかな分離をもたらした。フローサイトメトリーもしくは同様の細胞選別手段の使用により、当業者は、これもしくは類似の技術を用いてベータ細胞を高純度で精製することができる。
【0087】
膵デルタ細胞は、他のマーカーの中で、ソマトスタチンを発現し、一方、膵PP細胞は膵ポリペプチドを発現する。これらの細胞タイプの他のマーカーには:コレシストキニン(CCKA)の受容体およびKIT受容体チロシンキナーゼが包含される(Schweiger et al Anat Histol Embryol.2000 Dec;29(6):357−61;Rachdi et al Diabetes 2001 Sep;50(9):2021−8)。
【0088】
代わりの方法は、当業者に既知である多数の十分に立証された技術によって精製のために様々な細胞タイプ上に存在するマーカーに特異的に向けられる抗体を使用する。これらの技術には、免疫化学フローサイトメトリーおよび細胞選別および免疫磁気精製が包含されるが、これらに限定されるものではない。免疫磁気精製の限定されない例は、特定の抗体(すなわち、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチンもしくは膵ポリペプチド)で被覆された均一な常磁性粒子であるdynabeadの使用を含む。
【0089】
当業者は、既知の熱量測定、蛍光、免疫化学、ポリメラーゼ連鎖反応、化学もしくは放射化学方法により系統特異的マーカーの有無を容易に確認できることを認識する。
【0090】
別の態様として、本発明は、膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現するようにそのような分化が可能な培養培地内で誘導することができる脱分化した単離された脂肪由来成人幹細胞を提供する。脱分化した脂肪由来成人幹細胞は、成熟脂肪細胞マーカーの欠如により同定される。
【0091】
B)脂肪由来間質細胞の分化を促進する支持細胞の使用
本発明の別の態様として、脂肪由来間質細胞の分化を促進するために支持細胞を用いる。支持細胞は、ヒトもしくは非ヒト動物由来の細胞であることができる。非ヒト動物支持細胞を用いる場合、得られる分化した細胞は異種移植によって移植される。
【0092】
本発明の脂肪由来細胞を単離し、そして細胞の集団内で培養し、最も好ましくは、該集団は特定の集団である。細胞の集団は異種であり、そして本発明の細胞に因子を供給する支持細胞を含む。支持細胞には、所望の細胞の分化、増殖および維持を促進する他の細胞タイプが包含される。限定されない例として、膵ベータ細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する脂肪由来間質細胞が所望される場合、最初に脂肪由来間質細胞を上記の手段のいずれかによって単離し、そして他の支持細胞の存在下で培養して増やす。例えば、これらの支持細胞は、好ましくは、他の膵臓細胞タイプ、すなわち、アルファ、デルタ、ガンマ、PPの特性を保有する。別の態様として、支持細胞は、培養した膵臓組織から採取されるこれらの細胞タイプの初代培養物から得られる。さらに別の態様として、支持細胞は不死化細胞系から得られる。ある態様として、支持細胞は自家的に得られる。他の態様として、支持細胞は同種的に得られる。
【0093】
所望の細胞の分化を助けるために用いる細胞は、支持細胞であるように遺伝子操作できることもまた、本発明によって意図される。該細胞は、以下に記述するかもしくは当業者に既知である任意の方法により外因性遺伝子を発現するかもしくは内因性遺伝子の発現を抑制するように遺伝子操作される。
【0094】
C)移植
別の態様として、本発明は、自家および同種移植に有用な膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する脂肪由来間質細胞および分化した細胞を提供する。分化は、生来環境にある因子もしくは導入因子を用いてインビボにおいて行われる。一つの態様として、移植の部位は罹病膵臓である。他の態様として、移植の部位は皮下もしくは腹腔内である。好ましくは、被験体は哺乳類であり、より好ましくは、被験体はヒトである。別の態様として、細胞は、追加の増殖因子と共にもしくはそれらなしにグルカゴン、膵ポリペプチド、ソマトスタチンもしくはインシュリンを必要とする領域に移植される。本発明の細胞は、インビトロにおいてもしくは患者への移植後に分化するように誘導することができる。
【0095】
従って、さらに別の態様として、本発明は:
a)脂肪組織由来間質細胞を単離すること;
b)細胞の分化に適切な培地において該細胞を平板培養し、そしてインキュベーションすること;
c)分化した細胞を被験体に導入すること
を含んでなる、被験体に膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する分化した細胞を提供する方法を開示する。
【0096】
本発明の別の態様として:
a)脂肪組織由来間質細胞を単離すること;
b)未分化の細胞を被験体に導入すること
を含んでなる、被験体に未分化の脂肪由来間質細胞を提供する方法を開示する。
【0097】
未分化の脂肪由来間質細胞が被験体に導入される場合、一つの特定の態様として、追加の増殖もしくは分化因子と共にもしくはそれらなしに罹病膵臓に直接導入されることが本発明において意図される。本発明のさらに別の態様として、未分化の脂肪由来間質細胞は、間質細胞のインビボ分化に適当な環境を提供する本明細書に記述するような支持細胞もしくは分化因子のいずれかと一緒に導入される。例えば、これらの支持細胞は、好ましくは、他の膵臓細胞タイプ、すなわち、アルファ、ベータ、デルタ、ガンマ、PPの特性を保有する。別の態様として、支持細胞は、培養した膵臓組織から採取されるこれらの細胞タイプの初代培養物から得られる。さらに別の態様として、支持細胞は不死化細胞系から得られる。ある態様として、支持細胞は自家的に得られる。他の態様として、支持細胞は同種的に得られる。
【0098】
別の態様として、脱分化した脂肪由来細胞が、組織修復、再生、再建もしくは増強が包含されるがこれらに限定されるものではない治療用途のために製薬学的に許容しうる担体と組み合わせて提供される。脂肪由来細胞は、脱分化した成人幹細胞を次に脂肪組織由来細胞以外の細胞の遺伝子型もしくは表現型特性を発現するように誘導できるように細胞を脱分化させるために米国特許第6,153,432号(引用することにより本明細書に組み込まれる)に開示されている方法により培養する。脱分化した脂肪由来細胞は、所望のタンパク質もしくはペプチドの生産のための非内因性遺伝子配列を含むように改変される。脱分化した脂肪由来細胞は、代わりの態様として、所望の治療目的のために2次元もしくは3次元マトリックスにおいて宿主に投与することができる。一つの態様として、脱分化した細胞は、患者の自己細胞から自家的に得られる。あるいはまた、脱分化した細胞は、同種的に得られる。
【0099】
本発明のさらに別の態様として、膵臓組織由来幹細胞からの機能性ランゲルハンス島のインビトロ増殖の方法を開示するUniversity of Florida Research FoundationへのWO 97/15310に開示されている方法と
同様に、本発明の分化した細胞を解離し、そして懸濁した細胞培養懸濁液に転換し、そして島細胞クラスター形成の証拠が認められるまで培養する。次に、クラスターを含有する培地は、膵臓内分泌機能を示すインシュリンもしくは他のホルモンの存在に関して当業者に既知である標準的な生化学分析技術により分析することができる。次に、クラスターもしくは集合体を組織生成もしくは再生目的のために宿主組織に注入するかもしくは移植することができる。
【0100】
カプセル封入
本発明は、哺乳類、好ましくはヒトへの移植に適合する生体材料に分化した脂肪由来細胞をカプセル封入する方法を提供する。カプセル封入材料は、脂肪由来成人幹細胞により分泌される所望のタンパク質の放出を妨げないように選択されるべきである。使用する材料には、コラーゲン誘導体、ヒドロゲル、アルギン酸カルシウム、アガロース、ヒアルロン酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸誘導体およびフィブリンが包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
D)本発明の脂肪由来細胞の遺伝子操作
さらに別の態様として、膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する脂肪組織由来細胞は、外因性遺伝子を発現するかもしくは内因性遺伝子の発現を抑制するように遺伝子操作される。本発明は、そのような細胞および集団を遺伝子操作する方法を提供する。
【0102】
プロモーターおよび対象の配列を含んでなる核酸構築物は、線状分子もしくはより好ましくは閉鎖共有結合環状分子のいずれかであることができる非複製DNA(もしくはRNA)分子としてレシピエント原核もしくは真核細胞に導入することができる。そのような分子は、複製起点なしに自律複製することができないので、遺伝子の発現は導入配列の一過性発現によって起こることができる。あるいはまた、永続発現は、宿主染色体への導入DNA配列の組込みによって起こることができる。
【0103】
一つの態様として、宿主細胞染色体に所望の遺伝子配列を組込むことができるベクターを用いる。染色体に導入DNAを安定に組込んでいる細胞は、所望の核酸配列を含有する宿主細胞の選択を可能にする1種もしくはそれ以上のマーカーも導入することにより選択することができる。マーカーは、必要に応じて、栄養要求性宿主への原栄養、殺生剤耐性、例えば抗生物質に対する耐性、もしくは銅のような重金属などを提供することができる。選択可能なマーカー遺伝子配列は、発現するDNA遺伝子配列に直接連結するか、もしくは共トランスフェクションにより同じ細胞に導入することができる。好ましくは、マーカーの発現は、定量しそして直線的にプロットすることができる。
【0104】
好ましい態様として、導入核酸分子は、レシピエント宿主において自律複製することができるプラスミドもしくはウイルスベクターに導入される。多種多様なベクターのいずれもこの目的のために用いることができる。特定のプラスミドもしくはウイルスベクターを選択することにおける重要な因子には:ベクターを含有するレシピエント細胞をベクターを含有しないレシピエント細胞から見分けそして選択することができる容易さ;特定の宿主において所望されるベクターのコピー数;および異なる種の宿主細胞間でベクターを「往復」できることが望ましいかどうかが包含される。
【0105】
好ましい真核生物ベクターには、例えば、ワクシニアウイルス、SV40、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび当業者によく知られている様々な市販されているプラスミドに基づく哺乳類発現ベクターが包含される。
【0106】
いったん構築物(1つもしくは複数)を含有するベクターもしくは核酸分子が発現のた
めに準備されると、DNA構築物(1つもしくは複数)を様々な適当な手段、すなわち、形質転換、トランスフェクション、ウイルス感染、接合、プロトプラスト融合、電気穿孔、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接微量注入などのいずれかにより適切な宿主細胞に導入することができる。ベクターの導入の後、ベクターを含有する細胞の増殖に関して選択する選択培地においてレシピエント細胞を培養する。クローン化された遺伝子分子(1つもしくは複数)の発現は、異種タンパク質の生産をもたらす。
【0107】
細胞において「維持される」導入DNAは、細胞が成長および増殖し続ける場合に問題の細胞の本質的に全てにおいて存在し続ける導入DNAとして理解されるべきである。すなわち、導入DNAは、複数回の細胞分裂にわたって細胞の大部分から希釈されない。むしろ、それは細胞増殖中に複製し、そして導入DNAの少なくとも1コピーはほとんど全ての娘細胞に残る。導入DNAは、2つの方法のいずれかで細胞において維持されることができる。第一に、それは細胞のゲノムに直接組込むことができる。これはかなり低い頻度で起こる。第二に、それは染色体外要素、もしくはエピソームとして存在することができる。エピソームが細胞増殖中に希釈されないように、選択可能なマーカー遺伝子を導入DNAに含み、そしてマーカー遺伝子の発現が必要とされる条件下で細胞を増やすことができる。導入DNAがゲノムに組込んでいる場合でさえ、染色体からのDNAの切除を防ぐために選択可能なマーカー遺伝子を含むことができる。
【0108】
遺伝子的に改変された細胞は、導入遺伝子がインビボにおいて発現される条件下で様々な方法により生物体に導入することができる。従って、本発明の好ましい態様として、導入遺伝子はインシュリンの生産をコードすることができる。次に、インシュリンの導入遺伝子を含有する細胞は、所望のヒトもしくは他の哺乳類の膵臓に導入することができる。あるいはまた、導入遺伝子を含有する細胞は、腹腔内にもしくはいくつかの他の適当な臓器貯蔵部位に注入される。
【0109】
E)細胞特性化
得られる分化した細胞の「特性化」は、特定の最終的分化状態への間質細胞の系統決定を示す表面および細胞内タンパク質、遺伝子、および/もしくは他のマーカーの同定を意図する。これらの方法には、(a)フローサイトメトリー法の使用を包含する、二次蛍光標識を用いて連結されるタンパク質特異的モノクローナル抗体を用いる免疫蛍光法による細胞表面タンパク質の検出;b)フローサイトメトリー法の使用を包含する、二次蛍光標識を用いて連結されるタンパク質特異的モノクローナル抗体を用いる免疫蛍光法による細胞内タンパク質の検出;(c)ポリメラーゼ連鎖反応、in situハイブリダイゼーション、および/もしくはノーザンブロット分析による細胞遺伝子の検出を包含することができるが、これらに限定されるものではない。最終的に分化した細胞は、特定の最終的分化状態への間質細胞の系統決定を示す表面およ細胞内タンパク質、遺伝子、および/もしくは他のマーカーの同定により特性化することができる。上記のこれらの方法には、(a)アルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン(Gronthos et al.1994 Blood 84:4164−4173)、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、neuroD、およびneurogeninのような脂肪由来間質細胞表面タンパク質のフローサイトメトリーもしくはin situ免疫染色のような免疫蛍光アッセイによる細胞表面タンパク質の検出;(b)特異的モノクローナル抗体を用いる脂肪組織由来間質細胞のフローサイトメトリーもしくはin situ免疫染色のような免疫蛍光法による細胞内タンパク質の検出;(c)ポリメラーゼ連鎖反応、in situハイブリダイゼーション、および/もしくは他のブロット分析(Gimble et al.1989 Blood 74:303−311を参照)のような方法によるHNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3、インシュリンおよびGlut−
2のような系統選択的mRNAの発現の検出が包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
F)治療薬としての本発明の細胞の使用
本発明の細胞および集団は、治療薬として用いることができる。一般に、そのような方法は、所望の組織もしくは貯蔵所に細胞を導入することを含む。細胞は、一般に組織タイプによって異なる適切な任意の方法により所望の組織に導入する。例えば、細胞を含有する培養培地に移植片を浸すかもしくはそれを移植片に注入することにより細胞を移植片に導入することができる。あるいはまた、細胞は、集団を定着させるように組織内の所望の部位上に接種することができる。細胞は、当業者に周知である装置、例えば、カテーテル、トロカール、カニューレ、もしくは細胞を接種したステントなどを用いてインビボの部位に導入することができる。
【0111】
本発明の細胞は、様々な疾患の治療に用途を見出す。特に、膵臓の内分泌機能障害と関連する疾患、またはグルカゴン、インシュリン、膵ポリペプチドもしくはソマトスタチンで処置することができる疾患が対象である。
【0112】
i)インシュリン関連疾患
形質転換した細胞は、糖尿病、特にI型糖尿病、II型糖尿病および若年者の成人発症型糖尿病(MODY)のような任意のインシュリン関連疾患を処置するために用いることができる。処置するために本発明の細胞を用いる糖尿病症状は、遺伝的、感染、外傷もしくは化学的が包含されるがこれらに限定されるものではない任意の病因に起因することができる。本発明の細胞により処置する他の疾患には、脂肪異栄養症関連疾患、化学的に誘発される疾患、膵炎関連疾患、もしくは外傷関連疾患が包含される。疾患状態は、例えば、自己免疫性機能障害またはウイルスもしくはいくつかの他の感染性因子による感染の結果であることができる。
【0113】
ii)グルカゴン関連疾患
グルカゴン産生細胞は:グルカゴンを全身的にもしくは要求に応じて放出する移植片として慢性的低血糖症患者の;平滑筋弛緩を必要とする過敏性腸症候群もしくは同様の症状の;ならびに脂肪組織塊を減らす脂肪細胞におけるグルカゴンによるリポリーシスの刺激により肥満症の処置に用いることができる。
【0114】
iii)膵ポリペプチド関連疾患
膵ポリペプチドを分泌する細胞は、インシュリン非依存性糖尿病、肥満症、または膵ベータ島細胞の肥大、インシュリン抵抗性、もしくは肝臓による異常なグルコース生産をもたらす任意の症状の処置のために移植し、用いることができる。
【0115】
iv)ソマトスタチン関連疾患
形質転換した細胞は、ソマトスタチン投与が有益である任意の疾患を処置するために用いることができる。従って、本発明は、膵デルタ(すなわち、ソマトスタチン産生)細胞の少なくとも一つの特性を発現する分化した細胞をソマトスタチン自体もしくはそれが調節する生理的プロセスが関与する疾患の処置および予防に用いることを意図する。これらには、内分泌系、胃腸系、CNS、PNS、血管系および免疫系の疾患ならびに癌が包含される。従って、分化したソマトスタチン産生細胞は、1)哺乳類における様々なホルモン分泌および栄養因子を抑制するため;2)例えば、乳房、脳、前立腺および肺(小細胞および非小細胞類表皮の両方)の癌、ならびに肝臓癌、神経芽細胞腫、結腸および膵臓腺癌(管状タイプ)、軟骨肉腫および黒色腫を包含する栄養因子の自己分泌および傍分泌分泌を伴う疾患を処置するために用いる。一つの態様として、本発明のソマトスタチン産生細胞は、癌を直接処置するかまたは放射線療法もしくは化学療法を包含する他の処方計画
を用いる併用療法に対して癌細胞を敏感にするために用いる。
【0116】
また、これらの細胞の他の用途には、インシュリン、グルカゴン、プロラクチンおよびGHのようなある種の内分泌性分泌を抑制することも包含され、これは次にIGF−1のような様々な栄養因子の分泌をさらに抑制することができる。従って、本発明の細胞は、過剰のGHおよび栄養因子分泌を含んでなるかもしくはそれと関連する病因を有する疾患の処置における使用に適応される。これらの分泌を抑制する能力は、末端肥大症のような疾患の処置に有用である。この活性はまた、カルチノイド、VIP産生腫瘍、膵島細胞腫およびグルカゴン産生腫瘍のような神経内分泌腫瘍の処置にも有用である。本発明のソマトスタチン産生細胞はまた、血管障害、曙現象、神経障害、腎症および網膜症を包含する、糖尿病および糖尿病関連病状を処置するためにも有用である(Grant et al.,Diabetes Care 2000,23,504−509)。
【0117】
別の態様として、本発明のソマトスタチン産生細胞は、肝硬変のような疾患と関連する内臓血流および食道静脈瘤を伴うもののような、胃腸系の出血性疾患を包含する血管障害を処置するために用いる。血管収縮を媒介するソマトスタチンの能力はまた、ソマトスタチン産生細胞を群発性頭痛および片頭痛の処置にも有用にする。
【0118】
本発明のソマトスタチン産生細胞はまた、血管内皮細胞の増殖を抑制するために用いることもでき、従って、血管形成術のような血管損傷後の再狭窄もしくは血管閉塞、同種もしくは異種移植血管症、移植血管アテローム性動脈硬化症のような移植血管疾患を処置することにおけるそして臓器の移植(例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓もしくは膵臓移植)における使用に適応される(Weckbecker et al.,Transplantation Proceedings 1997,29,2599−2600)。本発明のソマトスタチン産生細胞はまた、血管新生を抑制するために用いることもでき、そして創傷治癒ならびに肺癌、乳癌および前立腺癌が包含されるがこれらに限定されるものではない転移性ステージ癌を処置することにおける使用に適応される。
【0119】
本発明のソマトスタチン産生細胞はまた、胃ならびに膵臓外分泌および内分泌性分泌ならびに胃腸管の様々なペプチドの放出を抑制するために用いることもできる。従って、ソマトスタチン産生細胞は胃腸疾患を処置することにおいて、例えば、消化性潰瘍、NSAID誘発性潰瘍、潰瘍性大腸炎、急性膵炎(例えば、ERCP後の患者における)、腸皮膚および膵皮膚瘻、GI運動性障害、腸閉塞、慢性萎縮性胃炎、非潰瘍性消化不良、強皮症、過敏性腸症候群、クローン病、ダンピング症候群、水様性下痢症候群、およびエイズもしくはコレラのような疾患と関連する下痢の処置において有用である(O’Dorisio et al.,Advances in Endocrinology Metabolism 1990,1:175−230を参照)。
【0120】
特定の態様として、本明細書に開示するソマトスタチン産生細胞はまた、ソマトスタチンが中枢神経系における神経調節物質として必要とされる場合にも有効であり、脳卒中、多発性硬化症、アルツハイマー病および痴呆の他の形態、メンタルヘルス疾患(不安、鬱病および統合失調症のような)のような神経変性疾患の処置において、ならびに疼痛および癲癇のような他の神経疾患において有用な用途を有する(A.Vezzani et al.,European Journal of Neuroscience 1999,11,3767−3776)。
【0121】
ソマトスタチン産生細胞はまた、他の治療薬と組み合わせて用いることもできる。例えば、臓器移植を処置する場合、他の治療薬の例には、シクロスポリンおよびFK−506が包含される。腫瘍の処置では、他の因子の例には、タモキシフェンおよびアルファ−インターフェロンが包含される。糖尿病では、他の化合物の例には、メトホルミンおよび他
のビグアニド、アカルボース、スルホニル尿素、チアゾリジンジオンもしくはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPAR−ガンマ)に対するアゴニストとして機能する化合物が包含されるがこれらに限定されるものではない他のインシュリン感受性増強薬(sensitizer)、インシュリン、インシュリン様増殖因子I、グルカゴン様ペプチドI(glp−I)ならびにデクスフェンフルラミンもしくはレプチンのような利用可能な満腹促進剤が包含される。
【0122】
III.組織工学
本明細書に記述する細胞は、組織工学において用いることができる。本発明は、本発明の細胞が所望のように増殖および分化するのに十分な条件下でそれらを維持することを含んでなる動物質を生成する方法を提供する。該物質には、例えば膵臓の一部もしくは全膵臓さえ包含することができる。そのようなものとして、本明細書に記述する細胞は、下記:Advanced Tissue Sciences,Inc.への米国特許第5,902,741号および第5,863,531号;米国特許第6,139,574号、Vacanti et al.;米国特許第5,759,830号、Vacanti et al.;米国特許第5,741,685号、Vacanti;米国特許第5,736,372号、Vacanti et al.;米国特許第5,804,178号、Vacanti et al.;米国特許第5,770,417号、Vacanti et al.;米国特許第5,770,193号、Vacanti et al.;米国特許第5,709,854号、Griffith−Cima et al.;米国特許第5,516,532号、Atala et al.;米国特許第5,855,610号、Vacanti et al.;米国特許第5,041,138号、Vacanti et al.;米国特許第6,027,744号、Vacanti et al.;米国特許第6,123,727号、Vacanti et al.;米国特許第5,536,656号、Kemp et al.;米国特許第5,144,016号、Skjak−Braek et
al.;米国特許第5,944,754号、Vacanti;米国特許第5,723,331号、Tubo et al.;ならびに米国特許第6,143,501号、Sittinger et alに記述する技術が包含されるがこれらに限定されるものではない組織工学の任意の既知の技術と組み合わせて用いられる。
【0123】
そのような構造を生成するために、本発明の細胞および集団は、それらが臓器を形成するように増殖および分裂するのに適当な条件下で維持される。これは、典型的には新しい物質が所望される部位でそれらを動物に導入することにより成し遂げることができる。従って、本発明は動物内で膵臓の再生を促進することができ、ここで、細胞はそのような組織に移植される。
【0124】
さらに他の態様として、細胞は、インビトロにおいて組織に分化および増殖するように誘導される。そのようなものとして、細胞は、組織発生を誘導する3次元構造の形成を促進する基質上で培養される。従って、例えば、細胞を細胞外マトリックス物質、合成ポリマー、サイトカイン、増殖因子などを含むもののような、生体適合性の格子上で培養するかもしくはそれに接種する。そのような格子は、組織タイプの発生を促進する所望の形状に形作ることができる。
【0125】
従って、本発明は、細胞および集団ならびに生物学的に適合する格子を含んでなる組成物を提供する。格子は、典型的にはおよそ100μm〜約300μmの間のスペースで、メッシュもしくはスポンジのような繊維を有する、ポリマー材料から形成することができる。そのような構造は、細胞がその上で成長および増殖することができる十分な領域を提供する。望ましくは、格子は時間とともに生体分解可能であり、従って、それが発生するにつれて動物質に吸収される。適当なポリマーは、グリコール酸、乳酸、フマル酸プロピル、カプロラクトンなどのようなモノマーから形成することができる。他のポリマー材料
には、タンパク質、多糖、ポリヒドロキシ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリホスホゼン(polyphosphozene)、もしくは合成ポリマー、特に生体分解性ポリマー、またはその任意の組み合わせを包含することができる。また、格子には、所望に応じて、増殖因子のようなホルモン、サイトカイン、モルフォゲン(例えばレチノイン酸など)、所望の細胞外マトリックス物質(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなど)もしくは他の物質(例えば、DNA、ウイルス、他の細胞タイプなど)を含むことができる。
【0126】
組成物を形成するために、細胞が格子内の格子間スペースに浸透するように細胞を格子に導入する。例えば、細胞を含有する溶液もしくは懸濁液にマトリックスを浸すことができ、またはそれらをマトリックスに注入もしくは注射することができる。好ましくは、ポリマーを含みそしてまた本発明の細胞を中に分散した懸濁液の架橋により形成されるヒドロゲルを用いる。この形成方法は、細胞が格子の全体にわたって分散されることを可能にし、細胞での格子のいっそう均一な浸透を促進する。もちろん、組成物はまた、特に格子内での本発明の細胞の誘導を可能にするためにまたは格子内でのインシュリンもしくはグルカゴンのようなホルモンの生産を促進するために、所望の表現型の成熟細胞もしくはその前駆体を含むこともできる。
【0127】
当業者は、組成物に含めることに適当な格子を任意の適当な供給源から得ることができ(例えばマトリゲル)、そしてもちろん適当な格子の商業的供給源を包含できることを認識する。別の適当な格子は、脂肪組織の無細胞部分、例えば細胞が実質的にない脂肪組織細胞外マトリックスから得ることができる。典型的には、そのような脂肪由来の格子は、プロテオグリカン、糖タンパク質、ヒアルロニン(hyaluronin)、フィブロネクチン、コラーゲンなどのようなタンパク質を含み、これらは全て細胞増殖の優れた基質として働く。さらに、そのような脂肪由来の格子は、ホルモン、サイトカイン、増殖因子などを含むことができる。当業者は、引用することにより本明細書に組み込まれる、University of PittsburghへのWO 00/53795に開示されているもののようなそのような脂肪由来の格子を単離する方法を認識する。
【0128】
本発明のさらに別の態様として、組織再生および増殖を可能にする立体自由造形製造(solid free−form fabrication)法を用いて膵臓様組織が作り出される。そのような技術は、例えば、Vacanti et alへの米国6,138,573に開示されており、そして臓器を必要とするヒトへの移植用の部分もしくは全臓器の作製を可能にする。特に、これらの技術は、移植用の部分もしくは全膵臓の作製を可能にする。そのような部分もしくは全臓器の作製は、自家的に得られる本発明の細胞で成し遂げられる。あるいはまた、そのような部分もしくは全臓器は、同種的に得られる本発明の細胞から作製される。当業者に既知である任意の方法は、本発明の細胞から組織を設計するのに有用であると考えられる。例えば、Naughton et al(Advanced Tissue Sciences)への米国6,022,743および5,516,681は、膵臓様組織の培養用の3次元細胞培養系の方法を開示する。これらの技術は、生物活性因子の制御放出をさらに与えることができる臓器組織および構造成分を形成するためのマトリックス上への細胞の接種および移植を含む。マトリックスは、移植細胞により形成される組織の天然に存在する血管系と機能的に同等でありそしてさらに内皮細胞で内側を覆われる内腔のネットワークを特徴とする。マトリックスはさらに、マトリックスの全体にわたる血管もしくは導管ネットワークを形成するために移植の時点で血管もしくは他の導管に連結される。自由造形製造技術は、一連の2次元の層として複雑な3次元の物体を構築する当該技術分野において既知である任意の技術をさす。該方法は、特定の組成、強度および密度を有する構造を作り出すために様々なポリマー、無機および複合材料での使用に適応させることができる。従って、そのような方法を利用して、特定の機能を有する1種もしくはそれ以上の細胞タイプのマトリックス内で後の細胞成長およ
び増殖を制御するためにマトリックス内に正確なチャネルおよび孔を作製することができる。そのようにして、膵臓細胞の様々なタイプ(すなわち、膵アルファ、ベータ、ガンマもしくはデルタ細胞の少なくとも遺伝子型もしくは表現型特性を保有する細胞)に対応する本発明の分化した細胞は、部分もしくは全臓器を形成するように組み合わせることができる。そのような細胞は、細胞の全体にわたって点在する内皮細胞で内側を覆われる血管ネットワークを与えるようにマトリックスにおいて組み合わせる。臓器内のリンパ管、胆管および他の外分泌もしくは排出管としての使用のために他の構造を形成することもできる。
【0129】
本発明の細胞、集団、格子および組成物は、組織工学および再生に用いられる。従って、本発明は、開示する本発明の特徴のいずれかを取り入れる移植可能な構造に関する。移植片の正確な性質は、所望の用途によって異なる。移植片は成熟組織を含んでなることができ、または未熟組織もしくは格子を含むことができる。従って、例えば、移植片は、場合により適当なサイズおよび次元の格子内に接種する、膵臓分化を受けている本発明の細胞の集団を含んでなることができる。そのような移植片は、患者内の成熟膵臓組織の生成もしくは再生を促進するために宿主内に注入もしくは移植される。
【0130】
脂肪由来の格子は、細胞培養キットの一部として都合よく用いられる。従って、本発明は、本発明の脂肪由来の格子および水和剤(例えば、水、生理的に適合する食塩水溶液、調合された細胞培養培地、血清、またはその組み合わせもしくは誘導体)、細胞培養基質(例えば、皿、プレート、バイアルなど)、細胞培養培地(液体であろうと粉末形態であろうと)、抗生物質、ホルモンなどのような1種もしくはそれ以上の他の成分を含むキットを提供する。キットは任意のそのような成分を含むことができるが、好ましくは、適切な組み合わせで所望の細胞の培養および増殖を助けるのに必要な全ての成分を含む。所望のキットはまた、記述するような格子に接種する細胞を含むこともできる。
【0131】
今回、本発明は、以下の実施例によりさらに十分に記述される。しかしながら、本発明は、多数の異なる形態で具体化することができ、そして本明細書に示す態様に限定されると解釈されるべきではなく;むしろ、これらの態様は、本開示が十分で且つ完全であり、そして当業者に本発明の範囲を十分に伝えるために提供される。
【実施例1】
【0132】
インビトロ誘導方法
脂肪由来幹細胞は、記述されているように(Sen et al.,2001,J.Cell Biochem.81,312−319)脂肪吸引廃棄物から単離する。これらの細胞は、以下の培地(しかしこれに限定されるものではない):ウシ胎仔血清(FBS)を補足するかもしくは補足しないNeurobasalTM(InVitrogen)、N2、B27(InVitrogen)、もしくは塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の存在下で培養し続ける。培地のグルコースレベルの調節を行う。細胞を様々な密度で接種し、そして3〜6日ごとの間隔で供給する。最も好ましくは、約1000〜約500,000細胞/cmの密度で接種する。
【0133】
培養期間中、膵内分泌ホルモンインシュリン(American Laboratory Products)、グルカゴン、ソマトスタチンおよび膵ポリペプチド(Peninsula Labs Inc)の市販されている放射免疫測定法もしくは酵素免疫測定法を用いてならし培地を分析する。
【0134】
様々な膵内分泌細胞系の分化と関連する表現型マーカーの発現は、以下の(しかし、これらに限定されるものではない)遺伝子:HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6.2、Nkx
2.2、Ngn−3、インシュリンおよびGlut2の特異的プライマーを用いてRT−PCRによるmRNAの分析により評価する。これらのマーカーの存在および膵内分泌細胞とのそれらの関連は、以前に記述されている(Ramiya et al.,2000,Nat.Med.6,278−282;Schwitzgebel et al.,2000,Development 127,3533−3542;Fernandes et al.,1997,Endocrinology 138,1750−1762;Zulewski et al.,2001,Diabetes 50,521−533;Gradwohl et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 97,1607−1611)。免疫組織化学(IHC)分析もまた、上記の表現型マーカーのいずれか(しかし、これらに限定されるものではない)に対する抗体を用いて行う。
【実施例2】
【0135】
遺伝子治療方法
この方法は、膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する細胞に分化するように成人幹細胞の誘導をもたらす任意の遺伝子の挿入および発現を含む。これらの遺伝子には、転写因子HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6.2、Nkx2.2およびNgn−3の制御発現を包含することができるが、これらに限定されるものではない。細胞に核酸を導入する可能な方法には、上記に詳細に記述するような電気穿孔、リン酸カルシウム、レトロウイルス、アデノウイルスもしくは脂質媒介送達が包含されるが、これらに限定されるものではない。上記および実施例1に詳細に記述するように細胞を分化に関して分析する。
【実施例3】
【0136】
インビボ移植
本発明の細胞は、動物における治療用途のためにそして1型糖尿病のような膵内分泌組織の機能障害に起因するヒト疾患の処置においてインビボで移植される。これらの用途の既存のげっ歯類モデルには、インシュリン依存性非肥満糖尿病(NOD)マウス、およびストレプトゾトシンでの処理による島の破壊によって糖尿病にしたマウスもしくはラット(Lumelsky et al.,2001,Science 292,1389−1394;Soria et al.,2001,Diabetologia 44,407−415)が包含される。NODマウスは、膵島および膵管幹細胞から生成される島の移植に用いられている(Soria et al.,2001,Diabetologia 44,407−415;Lumelsky et al.,2001,Science 292,1389−1394;Stegall et al.,2001)。膵臓細胞の少なくとも一つの遺伝子型もしくは表現型特性を発現する本発明の分化した細胞を、通常は生存のために毎日のインシュリン注射で維持されなければならないNOD動物への移植に用いる。移植用の動物の準備は、以前に記述されているような(Ramiya et al.,2000,Nat.Med.6,278−282)27ゲージ針を用いて腎臓被膜の被膜下領域に小さなチャネルを作る外科的処置を含む。ヒト成人幹細胞から得られる10〜10の膵内分泌細胞の開始範囲を小さなカテーテルを用いて移植し、そしてチャネルへの開口部を焼灼する。肩上の皮下部位を準備しそして細胞を移植する代わりの方法を調べることができる(Ramiya et al.,2000,Nat.Med.6,278−282)。これらの移植モデルの両方において、模擬操作したNODマウスおよびいかなる処置も受けていないNODマウスをコントロールとして用いる。外科的処置の後2〜7日の期間にわたって動物から毎日のインシュリン注射をやめる。機能性インシュリン産生細胞の指標として、AccuChek−EZグルコースモニター(Roche)を用いて動物を様々な段階で血糖レベルに関してモニターする。ヒトインシュリンおよび他の膵内分泌ホルモンのELISAアッセイを行う。さらに、移植部位の免疫組織
化学分析をインシュリンおよび移植片から潜在的に生産される他のタンパク質に対するヒト特異的抗体を用いて行う。
【実施例4】
【0137】
カプセル封入
上記のように移植する細胞は、免疫拒絶され得る。これに対処しようとして、カプセル封入した組織からの分泌ホルモンの通過を可能にするが宿主免疫攻撃に対する防護壁として働くカプセル封入材料を用いる方法が考案されている。Ramiya et al.,2000,Nat.Med.6:278−282を参照。そのような防壁には、ヒアルロン酸に基づくゲルRestalyneTM(Q−Med Sweden,Uppsala,Sweden)を包含することができる。この方法では、ヒト成人幹細胞から得られる10〜10の膵内分泌細胞の開始範囲をゲルにカプセル封入する。移植片を皮下部位に置き、動物からインシュリンをやめ、そして実施例3の上記のように分析する。
【実施例5】
【0138】
同種移植
同種移植を調べるための動物モデルの一つの例は、記述されている(Stegall et al.,2001,Transplantation 71,1549−1555)。マウスの2つの系統(系統Aおよび系統B;例えばCBA(H−2k)およびBALB/c(H2−d))を成人幹細胞ドナーとしてそして成人幹細胞から得られる膵内分泌細胞のレシピエントとして用いる。ドナー膵内分泌細胞は、ヒト脂肪由来幹細胞に関する上記と同様の方法でマウス性腺脂肪細胞のドナー集団から単離される系統Aもしくは系統B成体幹細胞から生成される。系統Aもしくは系統Bのレシピエントは、ストレプトゾトシンでの処理により糖尿病にする(Stegall et al.,2001,Transplantation 71,1549−1555)。移植は、ドナー/レシピエントの組み合わせが:1)同系、系統Aから系統Aおよび系統Bから系統B;2)同種異系、系統Aから系統Bおよび系統Bから系統A;3)系統Aもしくは系統Bからのドナー細胞のレシピエントとしてストレプトゾトシンで誘発した糖尿病ヌード(免疫不全)マウスを用いる第三のモデルであるように定める。移植を受ける動物を実施例3に記述するようにモニターし、分析する。
【実施例6】
【0139】
インシュリン検出アッセイ
本発明の細胞培養物のいずれにおいても、インシュリンの生産を以下のように検出する。簡潔に言えば、上記実施例のいずれかにおけるように培養した細胞を5〜25mmol/lのグルコースを含有する無血清培地で3回洗浄し、そして3mlの無血清培地において少なくとも2時間インキュベーションする。次にならし培地を集め、そしてプロインシュリンもしくはCペプチドに対する交差反応性なしにヒトインシュリンを検出する微粒子酵素免疫測定法(AXSYMTMシステムインシュリンキットコードB2D010;Abbott Laboratories)を用いてインシュリンレベルを測定する。
【実施例7】
【0140】
島クラスター形成
例えば、Lumelsky et al(2001,Science 1389−1394)の方法に従って、3次元の島クラスターを構築する。簡潔に言えば、本明細書に記述する実施例1において概説する方法に従って細胞を培養する。最初に、懸濁したネスチン陽性細胞の非常に濃縮された集団をもたらすように細胞を培養し、そして無血清ITSFn培地を補足する。これらの条件は、ネスチン陽性細胞の割合を増すことが示されている。次に、細胞をN2無血清培地においてbFGFの存在下で増やす。インシュリンを分泌する島クラスターの分化および形態形成を誘導するために、ニコチンアミドを補足したB27培地を含有する培地から次にbFGFを取り去る。次に、得られる集合体もしくはクラスターを、当業者に既知である任意の手段によってインシュリンを産生すると同定し、確認する。
【実施例8】
【0141】
脂肪由来間質細胞から分化する特定の膵臓細胞タイプの単離
単一のラット島細胞を最初にベータ細胞表面特異的抗体(K14D10マウスIgG)と20〜60分間インキュベーションした。二次抗体(抗マウスIgG)を被覆したDynabeadの懸濁液をさらに15分間加え、その後、チューブと磁石(Dynal MPC)間の接触によりDynabead被覆細胞を瞬時にペレットにした。Dynabead被覆細胞がインシュリンを含有することを確かめるためにそして該方法の効率を定量するために免疫細胞化学を用いた。Dynabead被覆および非被覆細胞をインシュリンおよびグルカゴンに関して染色する。
【0142】
Dynabead免疫精製は、イソブチルメチルキサンチンおよびグルカゴン様ポリペプチド1に応答してインシュリンを放出する、95%純粋なインシュリン含有ベータ細胞をもたらした。Dynabead被覆ベータ細胞のインシュリン含有量は、非被覆細胞のものより有意に高い。成功した分離は、出発材料としてわずか30の島を用いて成し遂げられる。「コメット」アッセイを用いて、Dynabead被覆ベータ細胞は、非被覆細胞と同等のサイトカイン誘発性DNA損傷に対する感受性を示す(Hadjivassiliou et al Diabetologia.2000 Sep;43(9):1170−7)。
【0143】
本発明の改変および他の態様は、前述の説明において示す教示の利益を有する本発明が関係する当業者に明らかである。従って、本発明は開示する特定の態様に限定されないことならびに改変および他の態様が添付の請求項の範囲内に含まれるものとすることが理解されるべきである。特定の用語が本明細書において用いられるが、それらは一般的なそして説明的な意味でのみ用いられ、そして限定する目的のためではない。
【0144】
以下に本発明の主な特徴と態様を列挙する。
1. 内分泌膵由来細胞の少なくとも一つの特性を発現するように誘導された単離された脂肪組織由来間質細胞。
2. 細胞がインビトロにおいて分化するように誘導された1項の細胞。
3. 細胞がインビボにおいて分化するように誘導された1項の細胞。
4. 外因性遺伝物質が細胞に導入されている1項の細胞。
5. 細胞がヒトのものである1項の細胞。
6. 細胞がホルモンを分泌する1項の細胞。
7. ホルモンがインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、もしくは膵ポリペプチドよりなるホルモンの群から選択される6項の細胞。
8. ホルモンがインシュリンである7項の細胞。
9. 単離された脂肪組織由来間質細胞を膵内分泌誘導物質と接触させることを含んでなる、単離された脂肪組織由来間質細胞を少なくとも一つの膵内分泌細胞マーカーを展示するように分化させる方法。
10. 膵内分泌誘導物質が、化学的に特徴付けられる細胞培養培地中にある9項の方法。
11. i)単離された脂肪組織由来間質細胞を少なくとも一つの膵内分泌細胞マーカーを発現するように誘導すること;および
ii)誘導した細胞をホストに移植すること
を含んでなるホストにおける膵内分泌疾患もしくは変性症状を処置する方法。
12. 脂肪組織由来間質細胞が宿主から単離される11項の方法。
13. 膵内分泌疾患もしくは変性症状がI型糖尿病、II型糖尿病、脂肪異栄養症関連疾患、化学的に誘発される疾患、膵炎関連疾患、もしくは外傷関連疾患である11項の方法。
14. 1〜8項のいずれかの細胞を含んでなる移植片。
15. 生体適合性ポリマーをさらに含んでなる14項の移植片。
16. 生体適合性ポリマーがヒドロゲルである15項の移植片。
17. 生体適合性ポリマーがコラーゲン誘導体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/ポリ乳酸、ヒアルロン酸塩もしくはフィブリンである15項の移植片。
18. (a)細胞が培地中にホルモンを分泌するのに十分な条件下で1〜8項のいずれかの細胞を培地内で培養することおよび(b)培地からホルモンを単離することを含んでなる、ホルモンを生産する方法。
19. 生産されるホルモンがインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチンもしくは膵ポリペプチドよりなる群から選択される18項の方法。
20. 生産されるホルモンがインシュリンである19項の方法。
21. インビトロにおいて脱分化され、そして次に膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するように誘導された単離された脂肪組織由来間質細胞。
22. 膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するようにインビボにおいて誘導された21項の脱分化された細胞。
23. 膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するように培養において誘導された単離された脂肪組織由来細胞であって、
a)解離され、そして懸濁細胞培養物に転換され;
b)懸濁細胞培養物は、島細胞クラスター形成の証拠が認められるまで培養され:そしてc)得られた島細胞クラスターがホストに移植される、
誘導細胞。
24. ホストへの移植に適合する生体材料中にさらにカプセル封入された1項の細胞。25. カプセル封入材料がコラーゲン誘導体、ヒドロゲル、アルギン酸カルシウム、アガロース、ヒアルロン酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸誘導体およびフィブリンよりなる群から選択される24項の細胞。
26. ホストに移植される1〜8項もしくは21〜25項のいずれかの細胞の使用。
27. ホストに移植される14〜17項のいずれかの移植片の使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵内分泌細胞の少なくとも一つのタンパク質特性を発現するように分化された単離された脂肪組織由来間質細胞であって、上記特性がアルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、NeuroD、neurogenin、HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3およびGlut2からなる群から選択される、上記細胞。
【請求項2】
細胞がインビトロにおいて分化されている請求項1の細胞。
【請求項3】
細胞がインビボにおいて分化されている請求項1の細胞。
【請求項4】
外因性遺伝物質が細胞に導入されている請求項1の細胞。
【請求項5】
細胞がヒトのものである請求項1の細胞。
【請求項6】
細胞がホルモンを分泌する請求項1の細胞。
【請求項7】
ホルモンがインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、もしくは膵ポリペプチドよりなるホルモンの群から選択される請求項6の細胞。
【請求項8】
ホルモンがインシュリンである請求項7の細胞。
【請求項9】
単離された脂肪組織由来間質細胞を膵内分泌誘導物質と接触させることを含んでなる、単離された脂肪組織由来間質細胞を少なくとも一つの膵内分泌細胞マーカーを展示するように分化させる方法であって、上記細胞マーカーがアルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、NeuroD、neurogenin、HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3およびGlut2からなる群から選択される、上記方法。
【請求項10】
膵内分泌誘導物質が、細胞培養培地中にある請求項9の方法。
【請求項11】
ホストにおける膵内分泌疾患もしくは変性症状を処置するための医薬の製造のための単離された脂肪組織由来間質細胞の使用であって、間質細胞が少なくとも一つの膵内分泌細胞マーカーを発現するように分化され、更に上記マーカーがアルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、NeuroD、neurogenin、HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3およびGlut2からなる群から選択される、上記使用
【請求項12】
脂肪組織由来間質細胞が宿主から単離される請求項11の使用。
【請求項13】
膵内分泌疾患もしくは変性症状がI型糖尿病、II型糖尿病、脂肪異栄養症関連疾患、化学的に誘発される疾患、膵炎関連疾患、もしくは外傷関連疾患である請求項11の使用。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかの細胞を含んでなる移植片。
【請求項15】
生体適合性ポリマーをさらに含んでなる請求項14の移植片。
【請求項16】
生体適合性ポリマーがヒドロゲルである請求項15の移植片。
【請求項17】
生体適合性ポリマーがコラーゲンの誘導体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/ポリ乳酸の誘導体、ヒアルロン酸塩およびフィブリンからなる群から選択される請求項15の移植片。
【請求項18】
(a)細胞が培地中にホルモンを分泌するのに十分な条件下で請求項1〜8のいずれかの細胞を培地内で培養することおよび(b)培地からホルモンを単離することを含んでなる、ホルモンを生産する方法。
【請求項19】
生産されるホルモンがインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチンもしくは膵ポリペプチドよりなる群から選択される請求項18の方法。
【請求項20】
生産されるホルモンがインシュリンである請求項19の方法。
【請求項21】
インビトロにおいて脱分化され、そして次に膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するように誘導された単離された脂肪組織由来間質細胞であって、上記間質細胞が、アルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、NeuroD、neurogenin、HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3およびGlut2からなる群から選択される少なくとも1つの特性を示す、上記細胞。
【請求項22】
膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するようにインビボにおいて誘導された請求項21の脱分化された細胞。
【請求項23】
膵内分泌細胞の少なくとも一つの特性を発現するように培養において誘導された単離された脂肪組織由来細胞であって、該誘導された細胞が、
a)解離され、そして懸濁細胞培養物に転換され;
b)懸濁細胞培養物は、島細胞クラスター形成の証拠が認められるまで培養され:そしてc)得られた島細胞クラスターがホストに移植され、
ここで、脂肪組織由来細胞が、アルカリホスファターゼ、CD44、CD146、インテグリンベータ1もしくはオステオポンチン、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド、ネスチン、PDX1、GLUT2、NeuroD、neurogenin、HNF3β、Isl−1、Brain−4、Pax−6、Pax−4、Beta2/NeuroD、PDX−1、Nkx6−2、Ngn−3およびGlut2からなる群から選択される少なくとも1つの特性を示す、上記細胞。
【請求項24】
ホストへの移植に適合する生体材料中にさらにカプセル封入された請求項1の細胞。
【請求項25】
カプセル封入材料がコラーゲンの誘導体、ヒドロゲル、アルギン酸カルシウム、アガロース、ヒアルロン酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸の誘導体およびフィブリンよりなる群から選択される請求項24の細胞。
【請求項26】
ホストに移植するための請求項1〜8もしくは21〜25のいずれかの細胞。
【請求項27】
ホストに移植するための請求項14〜17のいずれかの移植片。

【公開番号】特開2008−194044(P2008−194044A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33005(P2008−33005)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【分割の表示】特願2003−541781(P2003−541781)の分割
【原出願日】平成14年11月12日(2002.11.12)
【出願人】(504179532)アーテセル・サイエンシズ・インコーポレーテツド (1)
【Fターム(参考)】