説明

脂肪蓄積抑制剤

【課題】脂肪蓄積抑制剤、あるいは脂肪蓄積抑制用飲食品の提供。
【解決手段】乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪細胞への脂肪蓄積抑制剤、あるいは乳由来リン脂質を配合した脂肪細胞への脂肪蓄積抑制用飲食品。乳由来リン脂質によって脂肪細胞への脂質の取込みを抑制し、脂肪の過剰な蓄積を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪細胞への脂肪蓄積抑制剤に関する。詳しく言うと、本発明は、乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪細胞への脂肪蓄積抑制剤に関するものであって、ヒトを含む哺乳動物等の組織細胞のうち、脂肪細胞への脂質の取込みを抑制する作用をもつ、脂肪蓄積抑制剤、あるいは乳由来リン脂質を配合して脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用を付してなる飲食品などの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の乱れや慢性的な運動不足、過度のストレスなどにより、肥満や高血圧、高脂血、糖尿病などの生活習慣病に対するリスクの増加が問題となっている。これらの生活習慣病の症状が進行すると動脈硬化や心筋梗塞など、より重篤な病気を引き起こすことになる。生活習慣病の原因のうち、食生活の乱れについては、日本人の食生活が肉類中心の欧米的なものに変化し、従来の日本食に比べ非常に高カロリーなものとなっていることが大きな要素となっている。こういった高カロリーな食事による生活習慣病の予防としては、大きく二つの方法が考えられる。一つは血中の悪玉コレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)の濃度を下げる、つまり、脂質代謝を改善することであり、もう一つは脂肪の蓄積そのものを抑制して肥満を防ぐというものである。一般に、両者は同じものとして捉えられがちであるが、実際にはそのメカニズムは異なり、脂質代謝は改善するものの体重増加は抑制しない薬剤(特許文献1)、体重増加を抑制するが脂質代謝の改善には関与しない薬剤(特許文献2)がそれぞれ存在する。後者の脂肪の蓄積抑制については、健康上の理由だけではなく、美容的な目的からも肥満の予防や解消がクローズアップされており、その治療として、薬物療法や運動療法、食事制限などが試みられている。しかし、薬物療法は効果が期待できる反面、副作用を考慮に入れる必要が生じ、一般に行われている運動療法や食事制限は、継続して実施するには時間的あるいは精神的な困難を伴い、成功率が低いというのが現状である。また、過度の食事制限は栄養障害や拒食症につながるといった危険性を含むことも無視できない。このよう状況のもと、日常の食生活において簡単かつ安全に摂取することができる脂肪蓄積抑制剤、あるいは脂肪蓄積抑制作用をもつ飲食品が望まれている。


【0003】
リン脂質は、日常摂取される脂質の一種であり、大豆または卵黄由来のリン脂質には脂肪蓄積抑制作用があることが報告されている(特許文献3)。しかし、リン脂質の組成はその由来によって大きく異なり、乳由来のリン脂質については、脂質代謝改善作用を持つことのみが報告されている(特許文献4)。つまり、乳由来リン脂質の脂肪蓄積抑制作用についてはこれまで何ら知られていない。なお、特許文献4には乳由来リン脂質の肝臓における中性脂肪の蓄積抑制作用が開示されているが、肝臓における脂肪の蓄積は、血中の中性脂肪濃度の増加によって肝臓がそれらを処理しきれず、結果、余剰となった脂肪がそのまま蓄積されるものである。一方、本発明で開示しているのは、脂肪細胞への脂質の取込み抑制作用であり、上記した作用とはまったく異なるものである。
【特許文献1】特開2002−326946号公報
【特許文献2】特開2004−99539号公報
【特許文献3】特開平10−84880号公報
【特許文献4】特開2001−275614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、これを摂取することで脂肪細胞への脂質の取込みを抑制することができる乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤、あるいは脂肪蓄積抑制用飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、日常的に摂取が可能である食品素材によって生体の種々の機能異常を予防や改善できないかという観点で、乳または乳素材に着目し、鋭意検討を進めたところ、乳に由来するリン脂質に脂肪細胞への脂質の取込みを抑制する作用を見出し、本発明を完成するに至った。つまり、乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪細胞への脂肪蓄積抑制剤、あるいは、乳由来リン脂質を配合した脂肪細胞への脂肪蓄積抑制用飲食品を提供することにより、課題を解決することができた。
【0006】
本発明では、有効成分として乳由来リン脂質を使用するが、バターセーラムやバターミルクなどの乳素材から調製される、脂質を全固形中20〜90重量%含有し、かつ全脂質中40〜55重量%がリン脂質であるリン脂質含有組成物を乳由来リン脂質として使用して同様の効果を発揮させることもできる。
【0007】
本発明の脂肪蓄積抑制剤の剤形としては、乳由来リン脂質、あるいは乳由来リン脂質含有組成物に、安定剤、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合した錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の製剤を例示することができる。また、脂肪蓄積抑制用飲食品としては、食品素材との混合物として、あるいはパン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等に、乳由来リン脂質、あるいは乳由来リン脂質含有組成物を配合して調製することができる。
【0008】
なお、本発明の脂肪蓄積抑制剤の投与量は、治療や予防の目的、症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、摂取する脂質の約1%程度以上を乳由来リン脂質にすることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂肪蓄積抑制剤や脂肪蓄積抑制用飲食品は、これらを摂取することにより、脂肪細胞への脂質の取込みを抑制することで脂肪の過剰な蓄積を抑制し、種々の生活習慣病の治療及び予防に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の脂肪蓄積抑制剤や脂肪蓄積抑制用飲食品は、乳由来リン脂質を有効成分とする。また、乳素材から調製し、少なくとも、脂質を全固形中20〜90重量%含有し、かつ全脂質中40〜55重量%がリン脂質である乳由来リン脂質含有組成物を乳由来リン脂質として使用することもできる。そして、本発明の脂肪蓄積抑制剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等とし、また、脂肪蓄積抑制用飲食品は、パン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等とする。
【0011】
なお、脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用を発揮させるためには、成人の場合、通常摂取する脂質の1%程度以上を乳由来リン脂質で摂取するようにする。
【0012】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
バターセーラム粉(SM2、Corman社製)の20%溶液を調製し、5M塩酸を添加してpHを4.5に調整した。この溶液を50℃で1時間静置し、カゼインタンパク質を沈殿させた。フィルタープレスを用いてこの沈殿を除去し、得られた水溶液を孔径1.4μmのMF膜(SCT社製)で処理して濃縮液画分を得た。この濃縮液画分を凍結乾燥処理し、乳由来リン脂質含有組成物を得た。この乳由来リン脂質含有組成物は全固形当たり脂質を56%、タンパク質を25%、糖質を13%、灰分を6%含有しており、全脂質中48%がリン脂質であった。
【実施例2】
【0014】
バターミルク粉(雪印乳業社製)の15%溶液を調製し、1M塩酸を添加してpHを4.5に調整した。この溶液を40℃で30分間静置してカゼインタンパク質を沈殿させた。クラリファイヤーを用いてこの沈殿を除去した後、得られた上清を孔径0.1μmのMF膜(SCT社製)で処理し、濃縮液画分を得た。この濃縮液画分を凍結乾燥処理し、乳由来リン脂質含有組成物を得た。この乳由来リン脂質含有組成物は固形当たり脂質を50%、タンパク質を27%、糖質を16%、灰分を7%含有しており、全脂質中40%がリン脂質であった。
【0015】
[試験例1]
(脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用の確認)
実施例1、2で得た乳由来リン脂質含有組成物を使用して、脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用を確認した。実験はマウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を脂肪細胞へと分化させ、脂肪細胞中の中性脂肪量を比較することで行った。10%牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に懸濁した3T3−L1細胞を6ウェルプレートに播種し、37℃で10日間培養した。その後、0.25μMデキサメタゾン、0.5mMイソブチルメチルキサンチン及び10nMインスリンを含む培地で2日間培養し、3T3−L1細胞を脂肪細胞へと分化させた。得られた脂肪細胞は、デキサメタゾン及びイソブチルメチルキサンチンを除去し、10nMインスリンだけを含む培地にリン脂質含有組成物(最終リン脂質濃度5〜25μg/ml)を添加した培地で約1週間培養し、中性脂肪量を測定した。また、コントロールは10nMインスリンだけを含む培地で約1週間培養したものとした。
【0016】
結果を表1に示す。本発明である実施例1及び2では、コントロールと比較して有意に脂肪の蓄積抑制作用が見られた。また、市販の乳由来リン脂質であるα−Lipid及びβ−Lipidにおいても脂肪の蓄積抑制作用は見られたが、その効果は実施例1及び2よりも低かった。また、この脂肪蓄積抑制作用は乳由来リン脂質濃度に依存することが明らかとなった。一方、大豆、卵黄由来のリン脂質である大豆レシチン、卵黄レシチンを添加した場合においても脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用は見られるが、実施例1及び2の乳由来リン脂質添加時よりも効果は低かった。これは、乳由来リン脂質の脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用が他のリン脂質の脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用よりも優れていることを示す。
【0017】
【表1】

【0018】
[試験例2]
(生体内における脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用の確認)
動物実験は6週齢のWistar系ラットを1群5匹とし、ラードとコーン油にて脂肪カロリー比を約10%とした群(通常食群)と、脂肪カロリー比を50%として、高脂肪の油脂を与えた群(対照群)、さらに高脂肪の油脂の一部を各リン脂質に置換した群(本発明群、α−Lipid群、大豆レシチン群、卵黄レシチン群)として行った。1週間の予備飼育後、それぞれの条件に基づいて食事を自由に与え、水を毎日自由摂取させて4週間飼育した。その後、体重増加量、飼料効率、副睾丸脂肪における脂肪組織重量、腎周囲脂肪における脂肪組織重量を測定した。
【0019】
結果を表2に示す。飼料摂取量は各群間で優位な差はみられなかった。本発明群では対照群と比較して、体重増加量、腎周辺、精巣周辺の脂肪組織重量において有意に低い値を示した。また、他のリン脂質群との比較においても本発明群はそれぞれの指標において低い値を示した。これは、実施例1において得られた乳由来リン脂質含有組成物に優れた脂肪細胞への脂肪蓄積抑制作用があることを示している。
【0020】
【表2】

【実施例3】
【0021】
実施例1の乳由来リン脂質含有組成物50gを4950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6000rpmで30分間撹拌混合して乳由来リン脂質含有組成物含量250mg/100gの乳由来リン脂質含有組成物溶液を得た。この乳由来リン脂質含有組成物溶液4.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS−4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の脂肪蓄積抑制用液状栄養組成物50kgを製造した。
【実施例4】
【0022】
実施例1の乳由来リン脂質含有組成物10gを700gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明の脂肪蓄積抑制用ゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られた脂肪蓄積抑制用ゲル状食品は、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この脂肪蓄積抑制用ゲル状食品には、100gあたり、乳由来リン脂質含有組成物が100mg含まれていた。
【実施例5】
【0023】
酸味料2gを700gの脱イオン水に溶解した後、乳由来リン脂質含有組成物10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、脂肪蓄積抑制用飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた脂肪蓄積抑制用飲料は、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この脂肪蓄積抑制用飲料には、100gあたり、乳由来リン脂質含有組成物が250mg含まれていた。
【実施例6】
【0024】
実施例1の乳由来リン脂質含有組成物を98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社製)にて、3600rpmで40分間撹拌混合して乳由来リン脂質含有組成物含量80mg/100gの乳由来リン脂質含有組成物溶液を得た。この乳由来リン脂質含有組成物溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の脂肪蓄積抑制用イヌ飼育飼料100kgを製造した。なお、この脂肪蓄積抑制用イヌ飼育飼料には、100gあたり、乳由来リン脂質含有組成物が8mg含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来リン脂質を有効成分とする脂肪細胞への脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
乳素材から調製して得られる、脂質を全固形中20〜90重量%含有し、かつ全脂質中40〜55重量%の乳由来リン脂質含有組成物を乳由来リン脂質として使用する請求項1記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
乳由来リン脂質含有組成物が、乳または乳素材を孔径0.1〜2.0μmの精密濾過(MF)膜処理または分画分子量5〜500kDaの限外濾過(UF)膜処理することにより得られるものである請求項2記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項4】
乳由来リン脂質含有組成物が、乳または乳素材に酸を加えてpHを4.0〜5.0に調整し、カゼインタンパク質を沈殿として除去した後、孔径0.1〜2.0μmのMF膜処理または分画分子量5〜500kDaのUF膜処理することにより得られるものである請求項2記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項5】
乳または乳素材が、バターセーラムまたはバターミルクである請求項2〜4のいずれかに記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項6】
乳由来リン脂質を配合した脂肪細胞への脂肪蓄積抑制用飲食品。


【公開番号】特開2007−277172(P2007−277172A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106164(P2006−106164)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】