説明

脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法

【課題】脂肪酸モノグリセリド含有量が充分に低減又は除去された脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを、効率的かつ簡便に、しかも低コストで製造することができる方法を提供する。
【解決手段】脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法であって、該製造方法は、油脂類とアルコールとを反応させるアルコリシス工程と、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリド量を低減するための工程とを含んでなり、該モノグリセリド量低減工程は、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させる工程である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法に関する。より詳しくは、燃料、食品、化粧品、医薬品等の用途に有用な脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、植物油脂から得られるものが食用油として用いられ、その他にも、化粧品、医薬品等の分野に用いられている。また、近年では、軽油等に添加される燃料用としても注目されており、例えば、COの排出削減の目的から、植物由来のバイオディーゼル燃料として軽油に数%添加されることになる。また、グリセロールは、主にニトログリセロールの製造原料として用いられており、その他にも、アルキド樹脂等の原料、医薬品、食料品、印刷インキ、化粧品等の様々な分野に用いられている。
【0003】
このような脂肪酸アルキルエステルやグリセロール(グリセリン)の製造方法としては、均一系アルカリ触媒下で、油脂の主成分であるトリグリセリドをアルコールとエステル交換して製造する方法が知られている。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、このような均一系アルカリ触媒を用いる手法では、煩雑な触媒の分離除去工程が必要となる。また、油脂に含まれる遊離の脂肪酸がアルカリ触媒によってけん化されるため石鹸が副生することとなり、多量の水で洗浄する工程が必要であるばかりでなく、石鹸の乳化作用により脂肪酸アルキルエステルの収率が低下し、また、その後のグリセロールの精製プロセスも煩雑となる場合があるため、これらの点において工夫の余地があった。
【0006】
そこで、触媒の分離除去工程や洗浄工程等の煩雑な工程を簡略化又は省略し、効率的かつ簡便に製造するための手法として、油脂類とアルコールを不溶性固体触媒の存在下又は触媒の非存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルやグリセロールを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法は、製造におけるエネルギー消費を低減してエネルギー的に有利に高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセロールを製造できることから、工業的にも非常に有用な手法となっている。また、亜鉛アルミニウム混合酸化物、チタン、ジルコニウム又はアンチモンとアルミニウムとの複合酸化物、結晶性又は非晶質チタノシリケート、あるいは酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合酸化物等の特定構造の金属酸化物を含む不均一系触媒を用いることも開示されている(例えば、特許文献2、3、4及び5参照)。
【0007】
しかしながら、このような不均一系触媒は一般的に均一系アルカリ触媒よりも活性が低いため、通常、高温高圧下で反応を行う必要がある。そのような条件下では反応液が均一な単一層を形成する一方、均一系アルカリ触媒法ではグリセロールが相分離し、液相が2相になることから、均一系アルカリ触媒法に比べて化学平衡論的に不利となる場合がある。このため、不均一系触媒を用いる場合、未反応のトリグリセリドや反応中間体であるモノグリセリド、ジグリセリドが生成物中に残存し得るため、これらのグリセリド類の含有量を低減することができる技術が要望されている。
【0008】
反応中間体の中でも、モノグリセリドは、通常、生成物である脂肪酸アルキルエステル中に残存しているこれらのグリセリド類を分離する方法としては、化合物の沸点差を利用した蒸発や蒸留によってそれらを高沸点成分として分離除去する方法が知られている。この場合、トリグリセリド及びジグリセリドは脂肪酸アルキルエステルとの沸点差が大きいため容易に分離できるが、モノグリセリドは脂肪酸の炭素鎖長によっては脂肪酸アルキルエステルと沸点差が近接しているものがあるため、蒸発又は蒸留によって脂肪酸アルキルエステルを精製する際に精製原料中にモノグリセリドが存在すると、蒸発では分離することができなかったり、蒸留では高い段数や還流比が必要となったりすることから、モノグリセリド含有量を低減して工業上有用な製造方法とするための改善策が求められている。
【0009】
従って、脂肪酸モノグリセリドの含有量を低減して工業上更に有用な製造方法とするための改善策が種々検討されている。例えば、モノグリセリドを含有する脂肪酸エステル混合物に、酸又はアルカリを添加して蒸留を行う方法(例えば、特許文献6参照。)が提案されている。この方法では添加した酸又はアルカリが蒸留で分離される高沸点成分であるボトム液にそのまま残るので、ボトム液をエステル交換反応原料として再利用する際に不均一系触媒の活性部位を阻害するおそれがあること、また、過剰のアルコールを蒸発等の操作で留去する際に逆反応が進行するおそれがあることから、触媒の活性低下や望ましくない逆反応を充分に抑制し、反応効率を優れたものとする工夫の余地があった。
また油脂類とアルコールとを不均一系触媒を充填した固定床反応器で高温高圧下に反応させた反応液からアルコールを留去した後に相分離してグリセロールを除去し、得られたエステル相に含まれるモノグリセリド類を共存する脂肪酸アルキルエステルとエステル交換してジグリセリド又はトリグリセリドにした後、蒸留工程によって回収して原料として再利用する方法(特許文献7参照)が提案されている。この方法では製品である脂肪酸アルキルエステルをモノグリセリド又はジグリセリドと反応させてロスしてしまうことになり、効率的かつ簡便にモノグリセリドを低減又は除去できるようにするための工夫の余地があった。
【0010】
【化2】

【特許文献1】国際公開第2005/021697号パンフレット
【特許文献2】米国特許5908946号明細書(第4−5、52項)
【特許文献3】欧州特許出願公開第1505048号明細書(第2、9項)
【特許文献4】特開平07−173103号公報(第2−3項)
【特許文献5】特開2005−177722号公報(第2−3項)
【特許文献6】特開2006−1893号公報
【特許文献7】米国特許第6147196号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、脂肪酸モノグリセリドが充分に低減又は除去された脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを、効率的かつ簡便に、しかも低コストで製造することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法について種々検討したところ、油脂類とアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法が工業的に有用であることに着目し、このような製造方法を、油脂類とアルコールとを反応させるアルコリシス工程と、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリド量を低減するための工程とを含んでなるものとすると、生成物である脂肪酸アルキルエステルをロスさせることなくモノグリセリドが充分に低減又は除去された脂肪酸アルキルエステルを効率的かつ簡便に、しかも高収率に得ることができることを見いだした。具体的には、油脂類とアルコールを反応させて得られる脂肪酸アルキルエステル相を、更に油脂類と反応させることによって、脂肪酸アルキルエステル相に含まれる脂肪酸モノグリセリドが油脂類の主成分である脂肪酸トリグリセリドと反応して脂肪酸ジグリセリドに変換できるものである。
【0013】
【化3】

【0014】
通常、不溶性固体触媒等の不均一系触媒下又は無触媒下で油脂類とアルコールとを反応させる場合は高温高圧条件下で行われるため、そのような条件下では反応液が均一な単一相を形成するので、化学平衡の問題により反応の転化率が充分に向上しないので反応中間体の1つであるモノグリセリドが反応液中に残存する。しかしながら、本発明のようにモノグリセリド量低減工程を、アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させる工程とすることにより、系内に残存するモノグリセリドをジグリセリドに変換してモノグリセリド量を低減することが可能となることを見いだしたものである。
【0015】
また脂肪酸ジグリセリドは脂肪酸アルキルエステルや脂肪酸モノグリセリドと比較して沸点が充分に高く、蒸留等の操作で容易に分離除去することが可能であることから、この方法により脂肪酸アルキルエステル相から脂肪酸モノグリセリドを充分に低減又は除去できることを見出した。
【0016】
更に、この方法では脂肪酸アルキルエステル相の主成分である脂肪酸アルキルエステルをロスさせることがなくモノグリセリドが充分に低減又は除去された脂肪酸アルキルエステルを効率的かつ簡便に、しかも高収率に得ることができることを見いだした。すなわち、モノグリセリド量低減工程において、脂肪酸エステル相に含まれる脂肪酸アルキルエステルが、モノグリセリドと反応させるために添加される油脂類(具体的には、油脂類の主成分である脂肪酸トリグリセリド)とエステル交換反応しても、生じる化合物は脂肪酸アルキルエステルと脂肪酸トリグリセリドなので、エステル交換反応の前後で脂肪酸アルキルエステルの物質量は変化しておらず、見かけ上は反応していないこととなる。
【0017】
【化4】

【0018】
そのため製品である脂肪酸アルキルエステルをロスすることなく脂肪酸アルキルエステル相に含まれる脂肪酸モノグリセリドを充分に低減又は除去できることから、効率的かつ簡便にモノグリセリド含有量を低減するという作用効果がより充分に発揮されることを見いだし、上記課題を見事に解決することができることに想達した。
【0019】
すなわち本発明は、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法であって、上記製造方法は、油脂類とアルコールとを反応させるアルコリシス工程と、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリド量を低減するための工程とを含んでなり、上記モノグリセリド量低減工程は、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させる工程である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0020】
本発明の製造方法は、油脂類とアルコールを反応させる工程(アルコリシス工程)と、該工程によって得られる反応液中のモノグリセリド含有量を低減するための工程(モノグリセリド低減工程、又は、モノグリセリド含有量低減工程ともいう。)とを含んでなる。
上記モノグリセリド含有量低減工程は、アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させる工程である。モノグリセリド含有量を低減するために反応させる原料として油脂類を用いることにより、アルコリシス工程によって得られる脂肪酸アルキルエステル量を低減させることなくモノグリセリド含有量を低減することができる。
【0021】
上記モノグリセリド含有量低減工程としては、アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させるものであればよい。通常、アルコリシス工程において油脂類とアルコールを反応させると、反応が進行し、反応後に未反応のアルコールを蒸発等の操作で留去することによって、アルキルエステルを主として含む相(エステル相)とグリセロールを主として含む相(グリセロール相)に反応液が相分離する。本発明においては、このような相分離により得られるエステル相にモノグリセリド含有量低減工程を行うことが好適であり、このようにすることで目的物の1つである脂肪酸アルキルエステルをロスさせることなくモノグリセリドを充分に低減又は除去できることとなる。
【0022】
上記モノグリセリド含有量低減工程としては、モノグリセリド含有量を充分に低減させるために充分な量の油脂類を用いることが好ましい。このため、モノグリセリド含有量低減工程を経た反応液には、通常、未反応の油脂類が存在することになる。本発明においては、アルコリシス工程において油脂類を原料として用いることから、モノグリセリド含有量低減工程において反応せず残存した油脂類を分離回収して、アルコリシス工程において再利用することができる。具体的には、モノグリセリド含有量低減工程の後で蒸留などの操作により脂肪酸アルキルエステルを精製分離した後のボトム液を再び油脂類とアルコールを反応させる工程へリサイクル使用することができる。このように油脂類をリサイクル使用することによって、無駄のない、製造コストを充分に低減した脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法が可能となる。
このように、上記製造方法は、モノグリセリド低減工程で得られた反応液から脂肪酸アルキルエステルを分離回収した後に残った反応液を、アルコリシス工程の原料としてリサイクル使用する脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0023】
上記モノグリセリド量低減工程は、150〜300℃の温度範囲で行われるものであることが好ましい。150℃以上で行うことでモノグリセリド含有量低減工程を充分な反応速度で行うことができる。また、300℃以下で行うことで脂肪酸アルキルエステルの分解反応等の好ましくない副反応を充分に抑制することができる。より好ましくは、170℃〜270℃であり、更に好ましくは、200℃〜250℃である。
上記モノグリセリド含有量低減工程の圧力は、特に限定されることはなく、常圧、減圧、加圧のいずれでも行うことができる。
【0024】
上記モノグリセリド含有量低減工程で使用される油脂類の量は、アルコリシス工程で得られた反応液中に含まれるモノグリセリドのモル数に対して使用する油脂類のモル数の比が1〜30であることが好適である。ここで油脂類のモル数とは次式で定義される。
油脂類のモル数=使用する油脂類の量(g)×使用する油脂類のケン化価/(56.1×3×1000)
またアルコリシス工程で得られた反応液中に含まれるモノグリセリドのモル数は、通常、反応液をガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等の分析法を用いることにより定量することができる。
モル数の比を1以上とすることでモノグリセリド含有量低減反応を充分に進行させることが可能となり、30以下とすることで油脂類とアルコールを不溶性固体触媒の存在下又は非存在下に反応させる工程へリサイクル使用するボトム液の量が多くなりすぎてプロセス全体の経済性が低下することを避けることができる。このように、上記モノグリセリド量低減工程は、供給される油脂類のモル数が、該モノグリセリド量低減工程で供給されるモノグリセリド量に対して1〜30である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。すなわち、上記モノグリセリド量低減工程は、該モノグリセリド量低減工程に供給される油脂類のモル数が、該モノグリセリド量低減工程で供給される脂肪酸アルキルエステル相中に含まれるモノグリセリド量のモル数に対して1〜30である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。上記供給される油脂類のモル数としてより好ましくは1.5〜20であり、さらに好ましくは2〜10である。
【0025】
上記モノグリセリド含有量低減工程の反応形式は、特に限定されず、回分式、半回分式、連続式のいずれでも実施可能である。また、用いられる反応器としては、例えば、攪拌槽型、長管型、塔型等が好適である。上記回分式での好ましい形態としては、脂肪酸アルキルエステル相及び油脂を攪拌槽型反応器に投入して混合攪拌する形態が好ましく、上記連続式での好ましい形態としては、連続型の攪拌槽型反応器に脂肪酸アルキルエステル相及び油脂を投入して混合攪拌する形態が好ましい。反応時間は反応温度により異なるが、例えば15分〜24時間の範囲であることが好ましい。より好ましくは、30分〜20時間の範囲である。また、上記モノグリセリド含有量低減工程を蒸留塔の内部で行うことも好ましい。具体的には、蒸留塔に脂肪酸エステル相及び油脂類の両方を供給することによって、該モノグリセリド含有量低減反応を蒸留塔の内部で生じさせることにより、該モノグリセリド含有量低減工程と、該モノグリセリド含有量低減工程によって得られた反応液から脂肪酸アルキルエステルと未反応の油脂類及びグリセリド類とを分離する工程とを1つの装置内で同時に行うことができることから設備費を節約することができる。このように上記モノグリセリド低減工程を蒸留塔の内部で行うことも、本発明の好ましい形態の1つである。
【0026】
上記モノグリセリド含有量低減工程で使用される油脂類としては、モノグリセリドと反応してジグリセリドを生成するものであれば、特に限定されないが、アルコリシス工程で使用する油脂類を用いることが好ましい。アルコリシス工程で使用する油脂類を用いることにより、モノグリセリド含有量低減工程で反応せずに残存した場合であっても、残存した油脂類を分離して、アルコリシス工程で再使用することができ、経済性に優れたものとすることができる。このようなリサイクルは、通常、モノグリセリド含有量低減工程の後で蒸留などの操作により脂肪酸アルキルエステルを精製分離した後の液(ボトム液)を用いることにより可能になる。なお、アルコリシス工程及び/又はモノグリセリド含有量低減工程において用いられる油脂類は、脱ガム処理されたものであることが好ましい。好適な油脂類については、後述する。
【0027】
上記モノグリセリド含有量低減工程においては、モノグリセリドは主に、下記式(1)のように油脂類と反応し、ジグリセリドを生成することとなるが、下記式(2)のように、モノグリセリドが不均化反応したり、下記式(3)のように、ジグリセリドと反応したりしてもよく、式(1)〜(3)のうちの少なくとも1つの反応が行われることになる。このように、上記モノグリセリド含有量低減工程においては、モノグリセリドは油脂類と反応を生じるので、モノグリセリドはアルコリシス工程によって得られる脂肪酸アルキルエステルとはほとんど反応しないため、脂肪酸アルキルエステル量をほとんど低減させることなくモノグリセリドを充分に低減又は除去することができることとなる。下記式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルキル基を表す。なお、上記式(3)の反応により生じたトリグリセリドは、更にモノグリセリドと反応してもよい。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
上記モノグリセリド含有量低減工程は触媒の非存在下で行ってもよいし、触媒の存在下で行ってもよい。上記触媒の非存在下(触媒の実質的非存在下ともいう。)とは、原料油脂類及びその反応液に含まれない他の触媒活性を有する化学成分の非存在下で実施することである。触媒の存在下に行う場合にはより短時間でモノグリセリド含有量低減工程を完結させることが可能になることから、触媒の存在下で行うことも好ましい。このように、上記モノグリセリド量低減工程は、触媒の存在下で行われるものである脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0032】
上記モノグリセリド含有量低減工程で用いることのできる触媒としては、モノグリセリドと油脂類とのエステル交換反応を促進するものであれば特に限定されないが、不溶性固体触媒であることが好ましい。不溶性固体触媒を用いることにより、活性成分が反応液中に溶出することなく反応場から容易に触媒を分離することができる。なお、不溶性固体触媒については、アルコリシス工程において詳述する。
上記モノグリセリド含有量低減工程において不溶性固体触媒を用いる場合、その触媒量としては、回分式反応の場合は、該モノグリセリド低減工程で供給される脂肪酸アルキルエステル相、油脂及び触媒の総仕込み質量100質量%に対して、0.5〜20質量%であることが好ましい。0.5質量%以上とすることで反応速度を充分に向上でき、20質量%以下とすることで触媒コストを充分に低減することができる。より好ましくは1.5〜10質量%である。また、固定床流通式反応の場合、下記式に表される単位時間あたりの触媒に対する触媒液量(LHSV)が0.1〜20hr−1であることが好ましい。
LHSV(hr−1)={1時間あたりに供給される脂肪酸アルキルエステル相の流量(ml・hr−1)+1時間あたりに供給される油脂類の流量(ml・hr−1)}/触媒容量(ml)
上記モノグリセリド含有量低減工程を触媒の存在下に行う場合は、150〜250℃の温度範囲で行われることが好ましい。モノグリセリド低減工程の主反応である前記式(1)は平衡反応であり、その平衡は低温になるほどモノグリセリド量が減少する方向に有利であるため、触媒の非存在下で行う場合よりも低温で行うことが好ましい。さらに、触媒の存在下に行うことで、該モノグリセリド低減工程で生じる反応の反応速度が増大するため、低温でも効率的に行うことができる。
【0033】
上記モノグリセリド含有量低減工程を触媒の存在下に行う場合の反応型式は、特に限定されず、回分式、半回分式、連続流通式のいずれでも実施可能である。また、用いられる反応器としては、例えば、攪拌槽型、長管型、塔型等が好適である。上記回分式での好ましい形態としては、脂肪酸アルキルエステル相、油脂及び触媒を反応釜に投入して混合攪拌する形態が好ましい。反応時間は反応温度及び使用する触媒量により異なるが、例えば10分〜20時間の範囲であることが好ましい。より好ましくは、15分〜15時間の範囲である。不溶性固体触媒を用いる場合には、触媒の分離回収工程が不要となることから、固定床流通式であることが好ましい。不溶性固体触媒の存在下に行う場合の好ましい形態としては、触媒を充填した固定床反応装置を用いて脂肪酸アルキルエステル相及び油脂を反応させて、モノグリセリド量低減工程を連続的に行う形態であり、これによって触媒の分離回収工程が不要になり、より効率的にモノグリセリド低減工程を行うことが可能となる。また上記モノグリセリド含有量低減工程を蒸留塔の内部で行うことも好ましい。具体的には、不溶性固体触媒を蒸留塔内部に充填した充填塔型蒸留塔に脂肪酸エステル相及び油脂類の両方を供給することによって該モノグリセリド量低減反応を蒸留塔の内部で生じさせることにより、該モノグリセリド含有量低減工程と、該モノグリセリド含有量低減工程によって得られた反応液から脂肪酸アルキルエステルと未反応の油脂類及びグリセリド類とを分離する工程とを1つの装置内で同時に行うことができることから設備費を節約することができる。このように上記モノグリセリド低減工程を蒸留塔の内部で行うことも、本発明の好ましい形態の1つである。
【0034】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法は、油脂類とアルコールとを反応させるアルコリシス工程を含んでなるものである。
上記アルコリシス工程において、油脂類としては、グリセロールの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共に脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれるものを使用することができる。通常では、トリグリセリド(グリセロールと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド(グリセロールと高級脂肪酸とのジエステル)、モノグリセリド(グリセロールと高級脂肪酸とのモノエステル)やその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレイン等のグリセロールの脂肪酸エステルを用いてもよい。なお、上述したように、これらの油脂類は、モノグリセリド含有量低減工程においても、好適に用いることができる。
【0035】
上記油脂としては、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ヒマシ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等が好適であり、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
なお、上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法においては、アルコリシス工程により油脂類とアルコールとを反応させた後であって、エステル相とグリセロール相とに相分離する前に、触媒の非存在下で、該反応後の反応液からアルコールを留去することが好適である。これにより、脂肪酸アルキルエステルを主に含む上層とグリセロールを主に含む下層との相互溶解度が低下して、脂肪酸アルキルエステルとグリセロールとの分離を向上できることになり、これらの回収率を向上することが可能となる。また、触媒の活性金属成分が溶出していると、エステル交換反応が可逆反応であることに起因して、反応液から未反応のアルコールを除去するアルコール留去工程において逆反応が進行して脂肪酸アルキルエステルの収率が充分とはならないおそれがあるが、触媒の非存在下に反応液からアルコールを留去した後に相分離を行うことにより、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法において精製が容易になり、収率を充分に向上することが可能となる。
また反応後液をエステル相とグリセロール相との2相に相分離した後に、それぞれの相からアルコールを留去する形態とすることも可能である。
【0037】
上記アルコリシス工程において、アルコールとしては、反応後の反応液から容易に留去可能とするためには、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜6のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が好適であり、特にメタノールが好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
上記アルコール留去工程における操作温度としては、300℃以下であることが好ましい。300℃を超えると、目的生成物の留去を充分に抑制してアルコールを充分に留去できなくなるおそれがある。より好ましくは280℃以下であり、更に好ましくは250℃以下である。また、操作圧力としては、通常、減圧条件又は常圧条件であるが、加圧条件であってもよい。製造システムのエネルギー消費を軽減する観点から減圧条件が好ましく、また、設備コストを軽減する観点から常圧条件が好ましい。
【0039】
また上記アルコール留去工程後に、留去したアルコールを回収し、回収したアルコールの少なくとも一部を、連続反応する場合等の反応原料として用いることが好適であり、これにより、製造コストを更に充分に低減することが可能となる。より好ましくは、経済的な面から回収したアルコールの全量を原料として用いることである。また、回収したアルコールを、蒸留等の方法によって不純物を除去して精製し、反応に用いることも好適である。原料として再使用するアルコール中に水分が含まれると、反応工程において脂肪酸アルキルエステル類の加水分解反応が進行して脂肪酸アルキルエステル類の収率が充分とはならない場合があるためである。アルコールに含まれる水分濃度としては、5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、脂肪酸アルキルエステル類が遊離脂肪酸に加水分解する割合が増加するため、収率が充分とはならないだけでなく、遊離脂肪酸の除去工程が必要になるため工業的に充分有利なものにできないおそれがある。より好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下である。
【0040】
上記アルコールの精製・回収工程では、上述したアルコールの留去工程より低温度での操作が可能であり、操作温度としては、250℃以下であることが好ましい。より好ましくは220℃以下であり、更に好ましくは210℃以下である。また、操作圧力としては、上述したアルコールの留去工程と同様である。
【0041】
本発明の製造方法におけるアルコリシス工程は、触媒の存在下又は触媒の非存在下で行うことができる。上記触媒の非存在下(触媒の実質的非存在下ともいう。)とは、原料油脂類及びアルコールに含まれない他の触媒活性を有する化学成分の非存在下で実施することである。このように、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法であって、上記製造方法は、不溶性固体触媒の存在下又は触媒の非存在下で油脂類とアルコールを反応させる工程によって得られる脂肪酸アルキルエステル相を油脂類と反応させることによって、該脂肪酸アルキルエステル相中に含まれるモノグリセリド含有量を低減する工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0042】
このような反応工程において、不溶性固体触媒としては、原料である油脂類、アルコール、生成物(脂肪酸アルキルエステル類やグリセロール)等に不溶性を示すものであれば特に限定されない。不溶性とは触媒の活性成分の溶出が1000ppm以下であり、好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは600ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以下である。特に好ましくは、実質的に活性成分が含有されないことである。
上記活性金属成分の溶出量は、反応後の反応液を、溶液状態のまま蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することが好ましい。
【0043】
上記触媒が限定されない理由としては、触媒は化学平衡を変え得ないからである。また、不溶性固体触媒は、油脂類中に含まれる遊離脂肪酸のエステル化反応に対して活性を持つ触媒、すなわち油脂類中に含まれるグリセリドのエステル交換反応と、遊離脂肪酸とアルコールとで脂肪酸アルキルエステル類が得られるエステル化反応との両反応に対して活性を持つ触媒であることが好ましい。このような形態とすることにより、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応とエステル化反応とを行うことができるので、エステル交換反応工程と別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステル類の収率を向上することができることになる。上記不溶性固体触媒としては、例えば、亜鉛アルミニウム混合酸化物やチタン、ジルコニウム又はアンチモンとアルミニウムとの複合酸化物、結晶性又は非晶質チタノシリケート、酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合酸化物、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、イルメナイト構造を有する金属酸化物、スリランカイト構造を有する金属酸化物などが挙げられる。
なお、上記不溶性固体触媒に他の触媒を併用して用いてもよいし、上記触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよい。
【0044】
上記不溶性固体触媒としては、金属酸化物触媒であることが好ましく、中でも、(1)ジルコニウムと、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素とを必須成分とする金属酸化物触媒、(2)イルメナイト構造及び/又はスリランカイト構造を有する金属酸化物触媒、(3)アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを必須成分とする金属酸化物触媒等が好適である。これらの(1)〜(3)の金属酸化物触媒は、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができるとともに、油脂中に含まれる鉱酸や金属成分の影響を受けず、かつアルコールが分解しない等の作用効果を発揮する触媒であることから、従来の方法で使用されている均一系触媒と比較して触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とすることができ、より高効率かつ高選択的に脂肪酸アルキルエステル類及び/又はグリセロールを製造することが可能となる。
【0045】
上記(1)の金属酸化物触媒としては、上記必須成分を有するものである限り特に限定されず、例えば、単一の酸化物の混合体又は複合酸化物の形態であってもよいし、担体上に活性成分を坦持又は固定化した形態であってもよい。また、必須成分のいずれか1つを担体として用い、他を活性成分として坦持又は固定化した形態も好ましい形態の1つである。
上記担体上に活性成分を坦持等した形態において、担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化すず、酸化鉛等が挙げられるが、酸化ジルコニウムを担体とすることが特に好適である。中でも、酸化ジルコニウムを担体とし、活性成分として4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の単一又は複合酸化物を用い、該担体にこのような活性成分を坦持又は固定化した形態であることが好ましい。このように酸化ジルコニウムを担体とすることにより、高活性となり、また、一般に触媒寿命が短いバナジウム系触媒を長寿命化させることが可能となることから、本発明の製造方法において、上記触媒のリサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高収率かつ高選択的に脂肪酸アルキルエステル類及び/又はグリセロールを製造することが可能となる。
上記酸化ジルコニウムとしては、単斜晶構造のものが好適であり、これにより、触媒活性が更に向上し、また、活性金属成分である上記金属元素の溶出を更に充分に抑制することが可能となる。
【0046】
上記(1)の金属酸化物触媒において、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素としては、上述したように単一又は複合酸化物の形態で存在することが好適である。なお、複合酸化物としては、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、それ以外の金属元素との複合酸化物であってもよい。単一又は複合酸化物としては、Ti、V及びFeのうち少なくとも1種の金属元素を必須とするものであることがより好ましく、中でも、Tiを必須とするものであることが好適である。具体的には、例えば、アナターゼ型TiOやルチル型TiO等の酸化チタン、チタニアシリカ、チタニアジルコニア、チタニアマグネシア、チタニアカルシア、チタニアイットリア、チタニアボリア、チタニア−酸化スズ等、TiVO等のチタンバナジウム複合酸化物;バナジウム酸化物、FeVO等の鉄バナジウム複合酸化物、Co等のコバルトバナジウム複合酸化物、CeVO等のセリウムバナジウム複合酸化物、亜鉛バナジウム複合酸化物、ニッケルバナジウム複合酸化物、銅バナジウム複合酸化物、スカンジウムバナジウム複合酸化物、イットリウムバナジウム複合酸化物、ランタンバナジウム複合酸化物、スズバナジウム複合酸化物、鉛バナジウム複合酸化物、アンチモンバナジウム複合酸化物、ビスマスバナジウム複合酸化物、セレンバナジウム複合酸化物、テルルバナジウム複合酸化物;酸化鉄等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。中でも、アナターゼ型TiO、ルチル型TiO、鉄バナジウム複合酸化物が好ましい。更に、ルチル型TiO、三斜晶系FeVOが特に好ましい。
なお、複合酸化物を形成する形態としては特に限定されないが、例えば、酸素原子を介して第1原子と第2原子とが共有結合した形態;第1原子と第2原子とが結合したものと、酸素原子とが共有結合した形態;第1原子の酸化物と第2原子の酸化物との複合物及びそれらの固溶体等が挙げられる。
【0047】
上記(1)の金属酸化物触媒がジルコニウムと上記金属元素との複合酸化物である場合には、該複合酸化物は、Zr0.5Ti0.5(スリランカイト)であることも好適である。スリランカイト構造に関しては、上記(2)の金属酸化物触媒について後述するとおりである。
【0048】
上記(1)の金属酸化物触媒としてはまた、活性成分として三斜晶構造の金属酸化物を含有することが好適である。三斜晶系とは、3つの結晶軸が全て斜交し、各結晶軸の長さが互いに異なる結晶系であり、三斜格子を有するものである。中でも、鉄、バナジウム及びジルコニウムからなる酸化物であって、酸化ジルコニウム上に三斜晶系のFeVO複合酸化物を坦持又は固定化した形態のものが好適である。
ここで、鉄、バナジウム及びジルコニウムからなる酸化物としては、上述したものの他、三斜晶系でない鉄とバナジウムの複合酸化物が酸化ジルコニウム上に坦持又は固定化されたものや、鉄、バナジウム及びジルコニウムの三元系複合酸化物等が挙げられ、これらもまた、本発明の好適な形態の1つである。このように鉄及びバナジウムに更にジルコニウムを用いることにより、通常の鉄及びバナジウムからなる酸化物に比較して、活性成分の溶出がより抑制され、触媒寿命を更に向上することが可能となる。
【0049】
上記(1)の金属酸化物触媒において、ジルコニウムの含有量としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。1質量%未満であると、高活性化及び原料や生成物への不溶化をより充分に達成することができないおそれがあり、80質量%を超えても、高活性化を更に図ることができないおそれがある。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。
また上記4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の含有量としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。1質量%未満であると、触媒活性が充分とはならず、反応効率を向上させることができないおそれがあり、80質量%を超えると、上記金属元素の酸化物等が担体上で凝集し、高活性をより充分に発揮できないおそれがあり、また、ジルコニウムに起因する作用効果を充分に発揮することができないおそれがある。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。
上記金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0050】
上記(2)の金属酸化物触媒としては、イルメナイト構造及び/又はスリランカイト構造を有するものである限り特に限定されず、例えば、単一の酸化物の混合体又は複合酸化物の形態であってもよいし、担体上に活性成分(例えば、金属元素の単一又は複合酸化物)を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
【0051】
上記イルメナイト構造とは、化学式ABX(A及びBは陽イオンであり、Xは陰イオンである)で表され、Xが少し歪んだ六方最密充填をつくり、その八面体間隙にA及びBが6配位で規則配列をする菱面体格子をいう。例えば、FeTiOに代表される複合酸化物があり、該複合酸化物の構造は、α−アルミナ(コランダム型)のAlの位置を規則的にFeとTiとに置き換えた構造である。このような構造を有することにより、本発明の原料である油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステル類やグリセロール等)とのいずれにも充分に不溶性となるとともに、触媒寿命が格段に向上することから、本発明の製造方法において、触媒のリサイクル性がより向上されるうえに、触媒の分離除去工程を著しく簡略化又は不溶とすることができ、ユーティリティーコストや設備費を充分に削減することが可能となる。
【0052】
このようなイルメナイト構造を有する金属酸化物としては、上記化学式中のA及びBのうち少なくとも1種がチタンであることが好適であり、例えば、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiO、ZnTiO等が挙げられる。中でも、チタンと、7族、8族、9族及び10族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素とを含んでなるイルメナイト構造を有する金属酸化物であることが好ましい。この場合、活性成分の溶出が更に充分に抑制され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、上記金属酸化物が、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiOであることである。
【0053】
上記スリランカイト構造とは、1983年にA.Willgallisらによって発見されたTi0.67Zr0.33に代表される主としてチタンとジルコニウムとの複合酸化物及び/又は固溶体であり、斜方晶のα−PbOと同じ構造を有するものである。すなわち、α−PbOのPb4+イオンの位置にランダムにTi4+とZr4+とが配置した構造を有する特徴がある。具体的には、Ti4+とZr4+との合計原子数と酸素との原子比が1:2で表される複合酸化物及び/又は固溶体である。本発明では、TiとZrとの原子比が1〜0.2:0〜0.8が好適であり、0.8〜0.3:0.2〜0.7が好ましく、0.7〜0.4:0.3〜0.6がより好ましい。
【0054】
このような上記(2)の金属酸化物を含有する触媒を用いることにより、酸化チタンやシリカ坦持酸化チタン等よりも高活性となるため、本発明の製造方法において、該触媒のリサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高収率かつ高選択的に脂肪酸アルキルエステル類及び/又はグリセロールを製造することが可能となる。なお、上記触媒が、イルメナイト構造やスリランカイト構造を有することは、粉末X線回折測定(XRD)により確認することができる。
【0055】
上記(3)の金属酸化物触媒としては、上記必須成分を有するものである限り特に限定されないが、該金属酸化物触媒100質量%に対し、チタンの含有量は、金属換算で下限が0.5質量%、上限が60質量%であることが好適である。より好ましくは下限が1質量%、上限が45質量%であり、更に好ましくは下限が2質量%、上限が30質量%である。
上記アナターゼ構造及びルチル構造とは、共に正方晶系に属し、ABで表される化合物(A:陽性原子、B:陰性原子)により形成される結晶構造である。このような結晶構造においては、A原子がB原子によって八面体的に配位されるが、アナターゼ構造は各八面体が隣接八面体と4稜を共有して骨格構造を形成し、ルチル構造は各八面体が隣接八面体と2稜を共有して骨格構造を形成することになる。ルチル構造の化合物は、アナターゼ構造の化合物を焼成することにより得ることが可能である。
なお、上記触媒がアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含むことは、粉末X線回析(XRD)により確認することができる。
【0056】
上記(3)の金属酸化物触媒としてはまた、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンの他に、更に単一の酸化物又は複合酸化物を含む形態であってもよいし、上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、上記酸化チタンの他、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
【0057】
上記(3)の金属酸化物触媒の好ましい形態としては、更に、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有する形態であり、例えば、該酸化物と上記酸化チタンとの混合体や、該酸化物又は上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持等した形態が挙げられる。中でも、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を担体とし、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを活性成分とする形態であることが好適であり、これにより、活性成分であるチタン成分の溶出をより充分に抑制でき、更に高活性かつ長寿命の触媒となるため、本発明の製造方法に特に好適な触媒とすることが可能となる。
【0058】
上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、これらの金属元素の単一酸化物若しくはその混合体又は複合酸化物の形態であることが好ましく、複合酸化物としては、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、それ以外の金属元素との複合酸化物であってもよい。上記金属元素の単一又は複合酸化物としては、Si、Zr及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を必須とするものであることがより好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
なお、上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、非晶性の酸化チタンや、チタンとチタン以外の金属とにより構成される複合酸化物を含んでもよいが、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンは含まないものとする。
【0059】
上記(3)の金属酸化物触媒において、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の含有量(該含有量には、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを構成するチタン元素の含有量は含まないものとする。)としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。このような範囲に設定することにより、触媒活性や反応効率が更に向上され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。なお、金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0060】
上記(3)の金属酸化物触媒としてはまた、触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下であることが好適である。700ppmを超えると、触媒活性や触媒寿命が充分には向上されないため、触媒の分離除去・回収工程を著しく簡略化又は不要とするとともに、触媒を用いて連続的に反応を行うことができるという本発明の作用効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは500ppm以下であり、更に好ましくは200ppm以下である。なお、触媒中の硫黄成分は、蛍光X線(XRF)や高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。例えば、XRFでは触媒粉体のまま、あるいはガラスビード法により測定することができ、ICPでは、例えば、フッ化水素酸水溶液で触媒粉体を溶解させて測定することができるが、測定の簡便さの点からガラスビード法によるXRFで測定することが好ましい。
このように触媒中に含まれる硫黄成分を低減する方法としては、例えば、触媒の原料として硫酸塩を用いずに触媒を調製したり、硫酸塩の使用量を充分に低減させて調製したり、触媒を充分な量の水等の溶媒で洗浄することによって行うことが可能である。
【0061】
上記(1)〜(3)の金属酸化物触媒としてはまた、焼成したものを用いてもよく、これにより、活性金属成分の溶出を更に抑制することができる。焼成温度としては、触媒表面積と結晶構造とを考慮して設定することが好適であり、例えば、下限を280℃、上限を1300℃とすることが好ましい。280℃未満であると、溶出を充分に抑制することができないおそれがあり、1300℃を超えると、充分な触媒表面積を得られず、脂肪酸アルキルエステル類及び/又はグリセロールを高効率で製造できないおそれがある。より好ましくは、下限を400℃、上限を1200℃とすることである。また、焼成の時間は、下限が30分、上限が24時間であることが好適である。より好ましくは、下限が1時間、上限が12時間である。焼成中の気相雰囲気は、空気、窒素、アルゴン、酸素、水素等が好ましく、またそれらの混合ガスであってもよい。より好ましくは、空気中で焼成することである。
【0062】
なお、上述したように、担体上に金属元素の単一又は複合酸化物等から構成される活性成分を坦持又は固定化した形態の触媒を製造する場合には、担体となる化合物に含浸法や混練法等によって該活性成分を混合担持させた後、上記焼成条件にて焼成することにより製造することが好適である。これにより、担体表面に活性成分を充分に分散することができ、また、固体触媒として作用させることが可能となる。
【0063】
上記アルコリシス工程において不溶性固体触媒を用いる場合、その触媒量としては、バッチ式の場合、油脂、アルコール及び触媒の総仕込み質量100質量%に対し、下限が0.5質量%、上限が20質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、20質量%を超えると触媒コストを充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が1.5質量%、上限が10質量%である。また、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.1hr−1、上限が20hr−1であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.2hr−1、上限が10hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの油脂の流量(mL・hr−1)+1時間あたりのアルコールの流量(mL・hr−1)}/触媒容量(mL)
【0064】
上記アルコリシス工程において不溶性固体触媒を用いる場合の反応条件に関し、反応温度としては、例えば、180℃以上、300℃以下であることが好ましい。180℃未満であると、反応速度を充分には向上できないおそれがあり、300℃を超えると、アルコールが分解する等の副反応を充分には抑制できないおそれがある。より好ましくは、185℃以上、290℃以下であり、更に好ましくは、190℃以上、280℃以下である。
なお、上記アルコリシス工程に用いる触媒としては、上記範囲内の反応温度で用いる場合に、活性金属成分が溶出しないものであることが好ましい。これにより、反応温度が高温であっても触媒の活性を充分に維持することができ、反応を良好に行うことができる。
【0065】
また反応圧力としては、例えば、0.1MPa以上、10MPa以下であることが好ましい。0.1MPa未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、10MPaを超えると、副反応が進行しやすくなるおそれがある。また、高圧に耐え得る特殊な装置が必要になり、ユーティリティーコストや設備費を充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、0.2MPa以上、9MPa以下であり、更に好ましくは、0.3MPa以上、上限が8MPa以下である。
【0066】
上記反応工程において、触媒の非存在下ないし触媒の実質的非存在下とは、原料油脂類及びアルコールに含まれない他の触媒活性を有する化学成分の非存在下で実施することである。この場合には、油脂類とアルコールとを、アルコールの超臨界状態で反応させることが好適である。超臨界状態とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を示す。好ましい温度範囲としては下限が250℃であり、上限が350℃である。より好ましくは下限が260℃、上限が330℃である。更に好ましくは、下限が270℃、上限が320℃である。また、好ましい圧力範囲としては下限が8.0MPa、上限が15.0MPaである。好ましい反応時間としては5秒〜30分であり、より好ましくは30秒〜15分であり、更に好ましくは50秒〜5分である。なお、上記反応工程に不溶性固体触媒を用いる場合にも、このような超臨界状態で反応を行ってもよい。
【0067】
上記製造方法において、アルコリシス工程の形態としては、バッチ式(回分式)又は連続流通式が好ましく、中でも、触媒の分離回収工程が不要となることから、固定床流通式であることがより好適である。また、用いられる反応器としては、例えば、長管型、撹拌槽型、反応釜型等が好適である。
上記製造方法の特に好ましい形態としては、触媒を充填した固定床反応装置を用いて油脂類とアルコールとの反応を行い、脂肪酸アルキルエステル類及び/又はグリセロールを連続的に製造する形態であり、これにより、触媒の分離回収工程が不要となり、より工業的に製造することが可能となる。
上記バッチ式における好ましい形態としては、触媒を油脂類とアルコールとの混合系に投入する形態であり、反応時間としては、使用する触媒量及び反応温度により異なるが、例えば、15分以上、30時間以下であることが好ましい。より好ましくは、30分以上、24時間以下である。
【0068】
本発明の製造方法においては、アルコリシス工程後(又はアルコール留去工程等を行った後)、最終の反応器の反応後液においてエステル相とグリセロール相とを相分離することにより、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを分離することになるが、相分離は、静置する方法、遠心分離する方法、セトラー方式や液体サイクロン方式等により行うことが好ましい。
【0069】
本発明の製造方法では更に、エステル相とグリセロール相との相分離後(又は、更にモノグリセリド含有量低減工程後)に、該エステル相及び/又はグリセロール相の少なくとも一方を精製する蒸留工程を行うことが好ましい。また、連続反応においては、このようにして得られる精製残分(ボトム液)の少なくとも一方を反応原料の1つに用いる形態とすることが好適である。このような形態とすることにより、製造コストを更に充分に低減することが可能となる。より好ましくは、エステル相の精製時に得られたボトム液を反応に用いることである。なお、上述したように、エステル相の精製時に得られたボトム液についてモノグリセリド含有量低減工程を行い、該工程によりモノグリセリド含有量が低減された液を連続反応等において再度反応に用いることとしてもよい。この場合には、ボトム液中に、精製された脂肪酸アルキルエステルを少量含んでいてもよい。
【0070】
本発明の製造方法の形態としては、バッチ式(回分式)又は連続流通式が好ましく、中でも、触媒の分離回収工程が不要となることから、固定床流通式であることがより好適である。また、用いられる反応器としては、例えば、長管型、撹拌槽型、反応釜型等が好適である。上記製造方法の特に好ましい形態としては、触媒を充填した固定床反応装置を用いて油脂類とアルコールとの反応(アルコリシス工程)を行い、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを連続的に製造する形態であり、これにより、触媒の分離回収工程が不要となり、より工業的に製造することが可能となる。
【0071】
上記固定床反応装置を用いる場合、該反応装置内における反応液の平均滞留時間としては、1分以上、5時間以下であることが好ましい。1分未満であると、充分に反応させることができないおそれがあり、5時間を超えると、反応装置が大型になるおそれがある。より好ましくは、2分以上、4時間以下であり、更に好ましくは、5分以上、3時間以下である。
また上記バッチ式における好ましい形態としては、触媒を油脂類とアルコールとの混合系に投入する形態であり、油脂類とアルコールとの反応時間としては、使用する触媒量及び反応温度により異なるが、例えば、15分以上、30時間以下であることが好ましい。より好ましくは、30分以上、20時間以下である。
【0072】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルは、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途に好適に用いられることとなる。中でも、上記製造方法により、植物性油脂や廃食油を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルを用いたディーゼル燃料は、その製造工程においてユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、触媒の分離回収工程が不要で触媒を繰り返し利用できるため、製造段階から環境保全効果を充分に発揮することが可能となり、各種の燃料として好適に利用することができる。このような上記製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルを含有するディーゼル燃料もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。また、上記製造方法により得られるグリセロールもまた、化学原料として各種の用途に好適に用いることが可能である。
【0073】
以下に本発明の製造方法における好ましい形態について、図1を用いて説明するが、本発明は、これらの形態に限られるものではない。
図1は、固定床連続流通式反応装置により、アルコールとしてメタノール、油脂として脱ガム処理されたものを用い、これらを接触させることにより、脂肪酸メチルエステル(FAME)及び/又はグリセロールを製造する形態の1例を示す模式図である。
【0074】
図1においては、まずメタノールは脱ガム処理された油脂と反応させ(アルコリシス工程)て、得られた反応液からメタノールを蒸留等の操作により留去した後にセトラー等でエステル相とグリセロール相に分離している。その後、上層のエステル相に対して脱ガム処理された油脂を添加してモノグリセリド含有量低減工程を行った後、蒸留等の操作により精製し、高純度の脂肪酸アルキルエステルが留分として得られる。ボトム成分は主として反応中間体のグリセリド類を含むことから、アルコリシス工程の原料としてリサイクル使用される。上記セトラー等で分離される下層のグリセロール相は適宜蒸留等の操作により精製を行うことで高純度のグリセロールが留分として得られる。
【発明の効果】
【0075】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法は、上述の構成よりなり、モノグリセリドが充分に低減又は除去された脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを簡便に高効率に製造することができる。特にアルコリシス工程で得られた脂肪酸アルキルエステルを逆反応によってロスされることが無いため、経済性が高く工業的に非常に有用な製造法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0077】
実施例1
工程1(アルコリシス工程)
けん化価が198の精製パーム油60.0g、メタノール20.0g及び触媒としてMnTiO(Alfa Aeasr社製)2.5gを容量200mLのオートクレーブ内に仕込み、窒素置換後にオートクレーブ内を撹拌しながら反応温度200℃で24時間反応させた。なお、ここで用いたMnTiO触媒はXRD分析の結果イルメナイト型結晶構造を有していた。反応終了後、メタノールをエバポレーターで留去してから静置して相分離を行い、上層の脂肪酸メチルエステル相を回収した。分析の結果を表1に示す。
【0078】
工程2(モノグリセリド量低減工程)
工程1で得られた脂肪酸メチルエステル相30.1gと精製パーム油29.9gを容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。仕込時におけるモノグリセリドに対する油脂のモル比は2.6であった。窒素置換後にオートクレーブ内を撹拌しながら反応温度250℃で2時間反応させた。得られた反応液を分析した結果を表1に示す。表中の減少率は、次式で表される。
減少率(%)=(化合物の工程2での仕込み時の重量−化合物の工程2反応後の重量)/(化合物の工程2での仕込み時の重量)
結果から明らかなように、トリグリセリドとモノグリセリド量が減少している一方で、脂肪酸メチルエステルは減少しておらず、油脂とモノグリセリドを反応させたことによって製品をロスさせることなくモノグリセリド量を低減できていることがわかる。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例2
工程2(モノグリセリド量低減工程)での反応温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた反応液を分析した結果を表2に示す。結果から明らかなように、モノグリセリド量が減少している一方で、脂肪酸メチルエステルは減少しておらず、油脂とモノグリセリドを反応させたことによって製品をロスさせることなくモノグリセリド量を低減できていることがわかる。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例3
工程1(アルコリシス工程)
実施例1と同様の方法で行った。
工程2(モノグリセリド量低減工程)
工程1で得られた脂肪酸メチルエステル相30.1g、精製パーム油29.9g、MnTiO 3.6gをオートクレーブ内に仕込み、窒素置換後にオートクレーブ内を撹拌しながら反応温度250℃で2時間反応させた。濾過により触媒を除去して得られた反応液を分析した結果を表3に示す。結果から明らかなように、トリグリセリドとモノグリセリド量は減少している一方で、脂肪酸メチルエステルは減少しておらず、油脂とモノグリセリドを反応させたことによって製品をロスさせることなくモノグリセリド量を低減できていることがわかる。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例4
工程1(アルコリシス工程)
実施例1と同様の方法で行った。
工程2(モノグリセリド量低減工程)
工程1で得られた脂肪酸メチルエステル相30.1g、精製パーム油114.9gをオートクレーブ内に仕込んだ。仕込み時におけるモノグリセリドに対する油脂のモル比は9.9であった。窒素置換後にオートクレーブ内を撹拌しながら反応温度200℃で6時間反応させた。得られた反応液を分析した結果を表4に示す。結果から明らかなように、トリグリセリドとモノグリセリド量は減少している一方で、脂肪酸メチルエステルは減少しておらず、油脂とモノグリセリドを反応させたことによって製品をロスさせることなくモノグリセリド量を低減できていることがわかる。
【0085】
【表4】

【0086】
比較例1
工程1(アルコリシス工程)
実施例1と同様の方法で行った。
工程2
工程1で得られた脂肪酸メチルエステル相30.1gのみをオートクレーブ内に仕込み、窒素置換後にオートクレーブ内を撹拌しながら反応温度200℃で6時間反応させた。得られた反応液を分析した結果を表5に示す。結果から、モノグリセリド量は減少している一方で、脂肪酸メチルエステルが減少していることから、製品をロスしていることがわかる。
【0087】
【表5】

【0088】
比較例2
工程2(モノグリセリド量低減工程)での反応温度を125℃とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた反応液を分析した結果を表6に示す。結果から明らかなように、モノグリセリド量低減反応は進行していない。
【0089】
【表6】

【0090】
比較例3
工程1(アルコリシス工程)
実施例1と同様の方法で行った。
工程2
工程2(モノグリセリド量低減工程)での反応温度を325℃とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた反応液を分析した結果を表7に示す。結果から、モノグリセリド量は減少している一方で、脂肪酸メチルエステル量が減少していることから、製品をロスしていることがわかる。
【0091】
【表7】

【0092】
実施例及び比較例の結果を表8にまとめた。
【0093】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールを製造する方法であって、
該製造方法は、油脂類とアルコールとを反応させるアルコリシス工程と、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリド量を低減するための工程とを含んでなり、
該モノグリセリド量低減工程は、該アルコリシス工程によって得られる反応液中のモノグリセリドと油脂類とを反応させる工程である
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、モノグリセリド低減工程で得られた反応液から脂肪酸アルキルエステルを分離回収した後に残った反応液を、アルコリシス工程の原料としてリサイクル使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。
【請求項3】
前記モノグリセリド量低減工程は、150〜300℃の温度範囲で行われるものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。
【請求項4】
前記モノグリセリド量低減工程は、供給される油脂類のモル数が、該モノグリセリド量低減工程で供給されるモノグリセリド量に対して1〜30である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。
【請求項5】
前記モノグリセリド量低減工程は、触媒の存在下で行われるものである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセロールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254305(P2007−254305A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77522(P2006−77522)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】