説明

脂肪酸エステルの製造方法

【課題】大気中において良好に保存、使用することのできる脂肪酸エステルを生成すること。
【解決手段】油脂と、一価の低級アルコールと、アルカリ土類金属元素酸化物およびマグネシウム酸化物の少なくとも1種から成る固体触媒粉体とを、前記低級アルコールの沸点近傍の温度、若しくは摂氏50℃から80℃の温度範囲に加熱および撹拌混合して、内燃機燃料に使用可能な脂肪酸エステルを生成させる脂肪酸エステルの製造方法において、前記撹拌混合後の反応液を、得られる脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)が、8.0以下となるように、マイクロフィルターにてろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単体、若しくはその他の内燃機燃料である軽油やガソリンやエタノール等に混合して使用することのできる脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題の見地から、化石燃料の使用により排出される二酸化炭素の量を抑制するため、これら化石燃料の代替えとして、大気中の二酸化炭素が固定された植物由来の油脂、つまり植物油や、動物由来の動物油をエステル交換により脂肪酸エステルとして使用することがなされてきている。
【0003】
そして、これら油脂を脂肪酸エステルとする方法としては、アルカリ触媒法が一般的であるが、これらアルカリ触媒法では、使用するアルカリ触媒である水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが、生成する脂肪酸エステル中に残存することから、これら脂肪酸エステルを水洗する必要と、該水洗に使用した廃水を処理する必要とがあることから、これら水洗や廃水処理の必要のない、生石灰等の固体触媒を使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−35873号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法においては、固体触媒をエンジン腐食に影響のない5ppm以下に、活性炭と水酸化カルシウムを充填したカラムによりろ過することが開示されているが、この場合のように、活性炭と水酸化カルシウムを充填したカラムによるろ過では、液中の固体触媒である生石灰等の微分が良好に除去できず、5ppm以下に達することが難しいばかりか、仮に5ppm以下に達するように複数回ろ過を実施しても、該ろ過された脂肪酸エステルのpHが尚高く、その表面に膜が生成してしまう場合があり、これら脂肪酸エステルの保存中においてこれらの膜が生成すると、該生成した膜が燃料フィルターを詰まらせてしまい、最悪の場合は、走行不能となることがあるとともに、前記カラムによるろ過において、ろ過された脂肪酸エステルが白濁してしまい、良好にろ過できない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、液表面の膜形成や白濁を生じることがなく、大気中において良好に保存、使用することのできる脂肪酸エステルを生成することのできる脂肪酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の脂肪酸エステルの製造方法は、
油脂と、一価の低級アルコールと、アルカリ土類金属元素酸化物およびマグネシウム酸化物の少なくとも1種から成る固体触媒粉体とを、前記低級アルコールの沸点近傍の温度、若しくは摂氏50℃から80℃の温度範囲に加熱および撹拌混合して、内燃機燃料に使用可能な脂肪酸エステルを生成させる脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記撹拌混合後の反応液を、得られる脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)が、8.0以下となるように、マイクロフィルターにてろ過することを特徴としている。
この特徴によれば、マイクロフィルターにて、脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)を8.0以下とすることで、得られる、脂肪酸エステルの液表面に、空気中の水分が触れることにより、マグネシウム石けんやアルカリ土類金属石けんが膜状に生成することを回避できるようになり、生成した脂肪酸エステルを大気中において良好に保存、使用することができるようになる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の脂肪酸エステルの製造方法は、請求項1に記載の脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記撹拌混合後の反応物を静置して、比重差により脂肪酸エステルとグリセンリンと固体触媒粉体とを粗分離させる静置工程を含み、該静置工程にて粗分離された脂肪酸エステル層を前記マイクロフィルターにてろ過することを特徴としている。
この特徴によれば、固体触媒粉体が静置工程にて粗分離されるので、マイクロフィルターにてろ過される固体触媒粉体量を低減でき、マイクロフィルターの交換寿命を延ばすことができる。
【0009】
本発明の請求項3に記載の脂肪酸エステルの製造方法は、請求項2に記載の脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記静置工程において反応物を静置させるタンク内の空間を、乾燥雰囲気としたことを特徴としている。
この特徴によれば、静置工程においても、反応液表面に膜が生成することを極力、防止できるようになる。
【0010】
本発明の請求項4に記載の脂肪酸エステルの製造方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記マイクロフィルター周囲の空間および/または該マイクロフィルターへの流路内の空間を、乾燥雰囲気としたことを特徴としている。
この特徴によれば、比表面積の大きなマイクロフィルターが、空気中の水分を吸着することで、これら吸着した水分と個体触媒微粉を含む反応液とが接触することで、ろ液内にアルカリ土類金属石けんが生成して、ろ液が白濁してしまうことを防止することができる。
【0011】
本発明の請求項5に記載の脂肪酸エステルの製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記マイクロフィルターが、1ミクロンフィルターであることを特徴としている。
この特徴によれば、フィルターとして、1ミクロンフィルターを用いることで、水素イオン濃度指数(pH)が、8.0以下となるろ過を、効率良く実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0013】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、先ず図1は、本発明の脂肪酸エステルの製造方法が適用された本実施例のディーゼル燃料製造装置の全体像を示す装置構成図である。
【0014】
本実施例のディーゼル燃料製造装置は、主に、植物油脂である菜種油やひまわり油やパーム油並びに廃食油等のグリセリントリエステル原料油脂を貯留する原料油脂タンク1と、該原料油脂に添加する低級アルコールであるメタノールを貯留するアルコールタンク3と、本実施例における固体触媒粉体である生石灰粉体を貯留する生石灰タンク4と、その外周にヒータ7並びに保温材を備える反応タンク6と、該反応タンク6にて反応が終了した反応液を静置して比重分離させる分離タンク8と、該分離タンク8にて比重分離された上部脂肪酸エステル層をろ過するために直列接続された各種のマイクロフィルター11〜13と、マイクロフィルター11〜13にてろ過された脂肪酸エステルを貯留するための貯留タンク14とから主に構成されている。
【0015】
本実施例の原料油脂タンク1はステンレス製とされており、その外周には、使用する原料油脂がパーム油のように、ステアリン酸等の飽和脂肪酸のグリセリントリエステルを多く含む場合には、これら原料油脂が室温が低下すると固形状となる場合があるので、これら原料油脂を加熱して溶かしたり、或いは、容易に処理が実施できるような粘度に加熱により粘度を低下させるための加熱ヒータ2が設けられている。
【0016】
これら原料油脂としては、グリセリンと脂肪酸とのエステルである植物油や動物油等を使用すれば良く、上記したように、常温において固形の油脂であっても、加熱溶解して使用することができる。
【0017】
これら原料油脂タンク1は開閉バルブV1並びにポンプP1とを介して反応タンク6に接続されており、該原料油脂タンク1内の原料油脂を反応タンク6に供給できるようになっている。
【0018】
また、アルコールタンク3には、メチルアルコール(メタノール)が貯蔵されており、該アルコールタンク3からバルブV2並びにポンプP2を通じてメチルアルコールが原料油脂タンク1に供給される。
【0019】
これら、本発明に使用するアルコールとしては、メチルアルコール(メタノール)のように、一価の低級アルコールであれば良く、これら一価の低級アルコールとしては、炭素数が多くなると、得られる脂肪酸エステルの粘度や融点が上昇することから、エチルアルコールや、ノルマルプロピルアルコールや、イソプロピルアルコールや、ノルマルブチルアルコールや、イソブチルアルコール等の、炭素数1〜5の低級アルコールを用いることが好ましい。
【0020】
また、反応タンク6の上部位置には、本発明における固体触媒粉体である生石灰粉体を貯留する生石灰タンク4が設けられており、該生石灰タンク4に貯留された、予め計量済みの生石灰粉体を原料油脂タンク1に投入できるようになっている。
【0021】
これら固体触媒粉体として、本実施例では生石灰である酸化カルシウムを使用してるが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら固体触媒としては、カルシウム以外のアルカリ土類金属であるバリウムやストロンチウムやラジウムや、カルシウムと同様の2属元素であるマグネシウムの酸化物を使用することができ、特に、酸化バリウムや、酸化マグネシウムは、酸化カルシウムとほぼ同様の触媒特性を得ることができ、これらを単体または混合して使用することができる。
【0022】
また、これら生石灰粉体の粒度としては、これが大きすぎると、原料油脂との接触面積が少なくなって、良好な触媒効果が得られず、反応時間が長くなってしまう場合がある一方、これが小さすぎると、取り扱いが難しくなるとともに、そのろ過に要する時間やコストが大きくなってしまうので、粒径としては50μmから1ミリのものを使用すれば良い。
【0023】
これら原料油脂と、メタノールと、生石灰とが供給される反応タンク6には、これら供給された原料油脂とメタノールと生石灰とから成る混合液を、メタノールの大気圧沸点である64.7℃近傍の温度、具体的には、61℃に加温するためのヒータ7と保温材とが、その外周に設けられているとともに、これら混合液を撹拌するための撹拌装置5が設けられている。
【0024】
そして、該反応タンク6には、バルブV3並びにポンプP3を通じて分離タンク8に接続されており、該反応タンク6にて反応が終了した混合液は、該分離タンク8に移送されて比重分離される。
【0025】
尚、この本実施例の分離タンク8は、略密閉タンクとされているとともに、その上部には、窒素ボンベ9から導出された窒素供給管がバルブV4、V5を介して接続されており、分離タンク8内の空気を、窒素ボンベ9から供給される乾燥した窒素ガスにて置換できるようになっている。
【0026】
また、分離タンク8の上部には、上下動自在とされた吸引管15が設けられており、該吸引管15の下端部より、分離タンク8において比重分離により分離された上部脂肪酸エステル層を、ポンプP4と供給管10を介して直列接続された各マイクロフィルター11〜13に供給できるようになっており、マイクロフィルター11〜13にてろ過された脂肪酸エステルが、貯留タンク14に排出されて貯留されるようになっている。
【0027】
そして、供給管10には、窒素ボンベ9から導出された窒素供給管がバルブV4、V6を介して接続されており、分離タンク8と同様に、供給管10内の空気並びに各マイクロフィルター11〜13内部と、これらマイクロフィルター11〜13を連結している連結管の内部の空気を、窒素ボンベ9から供給される乾燥した窒素ガスにて置換できるようになっている。
【0028】
この本実施例に使用するマイクロフィルターとしては、貯留タンク14に排出される脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)が、夏季の高温・高湿度の大気中の保存においても膜形成を生じない、後述する8.0以下となるようにろ過できるものであれば良く、これら水素イオン濃度指数(pH)を8.0以下とするには、反応タンク6における撹拌により生じた微細な生石灰微粒子や反応により生じた消石灰微粒子等をろ過により除去すれば良く、これらpH8.0以下とするためのろ過として、本実施例においては、第1段目となるマイクロフィルター11として5μmのろ過能力(孔径)を有するフィルターを使用し、第2段目となるマイクロフィルター12並びに第3段目となるマイクロフィルター13として、1μmのろ過能力(孔径)を有するフィルターを使用している。
【0029】
また、本実施例では、これらマイクロフィルター11〜13としては、生成される、脂肪酸メチルエステル(ステアリン酸メチルエステル)に対して溶解することのない、耐油性を備えたものを使用することが好ましいとともに、その廃棄において、これを、分離タンク8内にて回収した生石灰とともに燃焼処理して、生石灰を再生する燃料としても使用できるようにするためにも、燃焼により塩素系ガス等の有害ガス等を生じない、ポリオレフィン系やセルロース系のものが好ましく、本実施例では、ポリプロピレン製のものを使用している。
【0030】
また、本実施例では、第1段目となるマイクロフィルター11と、第2段目となるマイクロフィルター12には、糸巻型または不織布等のメディアからなり、比較的安価なデプス型フィルターを使用し、第3段目となるマイクロフィルター13には、孔径よりも大きなものを通過させ難いメンブレン型フィルターを使用しており、このようにすることで、ほぼ確実に1μm以上の微粒子を除去できるようにしている。
【0031】
尚、本実施例では、第1段目のろ過フィルターとして5μmのマイクロフィルターを使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら第1段目のろ過フィルターは、比較的ろ過される生石灰微粒子や消石灰微粒子の量が多くなるので、最終のマイクロフィルター13よりも粗いマイクロフィルターを使用しておき、最終段において、水素イオン濃度指数(pH)を8.0以下とするのに必要なマイクロフィルターを使用することで、比較的高価な1μmのマイクロフィルター13が、不必要に大きな粒子をろ過することで目詰まりを短期間に生じて、使用寿命が低下してしまうことを防止できることから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらマイクロフィルターの大きさや組み合わせ等は適宜に選択すれば良い。
【0032】
また、これらpH8.0以下とするのに必要なマイクロフィルターとしては、マイクロフィルターとして1μm以下のろ過能力を有するマイクロフィルターを使用しないと、何段も繰返してろ過する必要が生じる等のように、pH8.0以下の状態を、なかなか得ることができない一方、ろ過能力がサブミクロンのものになると、得られる脂肪酸エステルのpHは、ほぼ7.0(中性)となるものの、ろ過に時間を要するとともに、マイクロフィルターの価格が高価となって、ランニングコストに直接影響するので、これらマイクロフィルターのろ過能力としては、1μm程度のものを使用することが好ましい。
【0033】
尚、これらフィルターとしては、従来技術のように、活性炭等の高い吸着性を有するフィルターを使用すると、これら活性炭に空気中の水分が吸着され、これら吸着された水分にろ液が接触することで、液表面における膜と同様に、微小なカルシウム石けんが生成して、ろ液が白濁しやすいことから、これら活性炭等の吸着性フィルター以外の、比較的、吸着性の低い低吸着性のマイクロフィルターを使用することが好ましい。
【0034】
尚、本実施例では、処理量の増加並びにろ過精度の向上の観点から、1μmのマイクロフィルターを2つ使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらマイクロフィルターの段数や数等は、希望する処理量等から適宜に選択すれば良い。
【0035】
以下、本実施例のディーゼル燃料製造装置において、脂肪酸エステルの製造工程について、図2のフロー図に基づいて説明すると、まず、原料油脂タンク1内に貯留されている原料油脂を計量(予め、原料油脂タンク1内に計量済みの原料油脂を貯留しておいても良い)して反応タンク6内に投入する。尚本実施例では、原料油脂としてパームステアリン15kgを、移送経路中の温度低下を考慮して約70℃に加熱して溶融させて、反応タンク6内に投入した。
【0036】
そして、該反応タンク6のヒータ7に通電して、該反応タンク6内のパームステアリンを加熱するとともに、該パームステアリンの液温が反応温度である61℃になるように、ヒータ7の通電を制御する。
【0037】
尚、本実施例では、使用するアルコールがメタノールであるので、反応タンク6内の液温を61℃としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、より沸点の高いアルコールを使用する場合には、その沸点近傍の温度としても良いが、沸点近傍の温度が80℃を超える場合には、これらの加熱に多くのエネルギーを必要として、本来の代替えエネルギーとしての価値が損なわれてしまうので、これら沸点の高いアルコールであっても、反応温度を摂氏50℃から80℃の温度範囲にとどめることが好ましい。
【0038】
また、本実施例では、反応温度を61℃と、メタノールの大気圧沸点以下の温度としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、反応タンク6を耐圧タンクとして、内部の圧力を加圧して大気圧より上昇させることで、メタノールの大気圧沸点以上の温度、例えば65℃等の温度にて反応を実施するようにしても良い。
【0039】
次に、アルコールタンク3内に貯留されているメタノールを計量(予め、アルコールタンク3に計量済みのメタノールを貯留しておいても良い)して反応タンク6内に投入する。尚本実施例では、室温のメタノール、4.8kgを投入した。
【0040】
そして、これらメタノールの投入後に、撹拌装置5を稼働させて、反応タンク6内のパームステアリンとメタノールとの撹拌を開始した後、予め生石灰タンク4に貯留されている、計量済みの生石灰粉体、具体的には、3.6kgを、反応タンク6内に投入した。尚、該投入の再、一度に全量の生石灰粉体を投入すると、生石灰の大きな塊が生成されてしまう場合があるので、本実施例では、図1に示すように、下方が小径となるホッパを使用することで、ある程度の時間をかけて、徐々に生石灰粉体を投入するようにした。
【0041】
尚、本実施例では、予め計量した生石灰粉体を投入するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、投入時において、生石灰を計量して投入するようにしても良い。
【0042】
そして、これら生石灰を投入した後、該反応タンク6内の液温を約62℃に4時間保持して反応を進行させた後、加温と撹拌を終了するとともに、ポンプP3を稼働させて、反応タンク6内の反応液を分離タンク8内に移送した。
【0043】
尚、該移送に際して、分離タンク8内には、バルブV4、V5を開いて、窒素ボンベ9内の窒素ガスが供給されて、分離タンク8内の湿度を含む空気が、乾燥された窒素ガスに置換されることで、反応タンク6から移送された反応液の上部空間を、乾燥した窒素ガスが占めるようになり、これら上部空間に水分を含んだ空気が存在することで、反応液の液面に、膜が形成することが防止される。
【0044】
そして、これら反応液は、分離タンク8内にて約24時間、室温にて静置されることで、図1に示すように、最上部に最も比重の軽い脂肪酸エステル層が、中層にグリセリン層が、下層に生石灰層(消石灰を含む)が比重分離される。
【0045】
そして、バルブV4、V6を開いて、供給管10に窒素ガスを供給して、該供給管10内部並びにマイクロフィルター11〜13と、連結管内の空気を、乾燥した窒素ガスにて置換した後、ポンプP4を稼働させて、分離タンク8内の脂肪酸エステル層をマイクロフィルター11〜13に供給してろ過した後、マイクロフィルター13から貯留タンク14に排出された脂肪酸エステルのpHを、pH測定装置(PH B−211型 株式会社 堀場製作所製商品名)にて測定したところ、pH6.9であり、非常に透明度が高い淡琥珀色の脂肪酸エステルが得られた。
【0046】
ここで、比較例として、バルブV5を閉じたままとし、窒素ガスを分離タンク8内に導入しなかった場合において、室内温度、28℃、湿度75%の環境下においても、分離タンク8内の液表面に、膜形成が見られたのに対し、窒素ガスを導入した置換を実施した場合においては、29℃、湿度80%の環境下においても、分離タンク8内の液表面には、膜形成が見られなかった。
【0047】
また、比較例として、図1に示すディーゼル燃料製造装置において、マイクロフィルター12、13をろ過能力2ミクロンのマイクロフィルターを使用した場合には、得られる脂肪酸エステルのpHは、8.2であり、その表面には、25℃、湿度77%の環境下において、乳白色の薄い膜が形成されたのに対し、マイクロフィルター13をろ過能力1ミクロンのマイクロフィルターを使用した場合には、得られる脂肪酸エステルのpHは、8.0であり、同様の25℃、湿度77%の環境下においては、薄い膜の形成は確認できなかった。
【0048】
つまり、得られる脂肪酸エステルのpHは、8.0とすることで、カルシウム石けんの生成による膜の形成は、ほぼ回避できると思われるが、脂肪酸エステルの燃料タンク等での保管中に、何らかの理由で水が直接混入する可能性もあるので、これら水の混入によるカルシウム石けんの生成等を考慮する場合には、より低いpHである7.5以下となるように、マイクロフィルターにてろ過することが好ましい。
【0049】
また、比較例として、バルブV6を閉じたままとし、供給管10内部並びにマイクロフィルター11〜13と、連結管内の空気を窒素ガスに置換しなかった場合には、脂肪酸エステル層の供給を開始したろ過の初期段階において、白濁したろ液が貯留タンク14に排出される場合があり、良好に脂肪酸エステルを製造できない場合があったのに対し、窒素ガスによる置換を実施した場合には、これら脂肪酸エステル層の供給を開始したろ過の初期段階において白濁を生じるトラブルは、見られなかった。
【0050】
以上、本実施例によれば、マイクロフィルター11〜13にて、脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)を8.0以下とすることで、得られる、脂肪酸エステルの液表面に、空気中の水分が触れることにより、マグネシウム石けんやアルカリ土類金属石けんが膜状に生成することを回避できるようになり、生成した脂肪酸エステルを大気中において良好に保存、使用することができるようになる。
【0051】
また、前記実施例によれば、固体触媒粉体である生石灰粉体が静置工程にて粗分離されるので、マイクロフィルター11〜13にてろ過される生石灰粉体量を低減でき、マイクロフィルター11〜13、特には、マイクロフィルター11の交換寿命を延ばすことができる。
【0052】
また、前記実施例によれば、分離タンク8内に窒素ガスを導入することで、静置工程においても、反応液表面に膜が生成することを極力、防止できるようになる。
【0053】
また、前記実施例によれば、供給管10内部並びにマイクロフィルター11〜13の内部と連結管内部を、乾燥した窒素ガスにて置換しているので、比表面積の大きなマイクロフィルターが、空気中の水分を吸着することで、これら吸着した水分と個体触媒微粉を含む反応液とが接触することで、ろ液内にアルカリ土類金属石けんが生成して、ろ液が白濁してしまうことを防止することができる。
【0054】
また、前記実施例によれば、フィルターとして、1ミクロンフィルターを用いることで、水素イオン濃度指数(pH)が、8.0以下となるろ過を、効率良く実施できる。
【0055】
尚、本発明では、脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)は、基本的に7.0であるので、pH7.0以下の酸性領域については、考慮していないが、反応処理後において、遊離脂肪酸等の影響で、水素イオン濃度指数(pH)が7.0以下に低下する場合もあるので、この場合の酸性領域においては、少なくとも6.0以上としておくことが好ましい。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0057】
例えば、上記実施例では、乾燥雰囲気を形成するのに圧縮された高圧の窒素ガスを使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら乾燥雰囲気としては、その他の高圧ガス、例えば炭酸ガス等を用いても良いし、あるいは、分離タンク8内や、供給管10内部並びにマイクロフィルター11〜13と、連結管内の空気を真空ポンプにて吸引して、乾燥雰囲気を形成するようにしても良い。
【0058】
また、前記実施例では、反応タンク6内の液温を61℃とし、反応時間を4時間としてが、これら反応温度や処理時間等はこれに限定されるものではなく、使用する固体触媒の量や粒度、種類等により、適宜に選択すれば良い。
【0059】
また、前記実施例では、ろ過を全てマイクロフィルター11〜13にて実施しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらろ過の一部に、遠心分離等によるマイクロフィルターに依らないろ過を組み入れるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の活用例として、上記した実施例では、主に脂肪酸エステルについて記述したが、同時にグリセンリンも生成するので、グリセンリンの製造方法としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の脂肪酸エステルの製造方法が適用されたディーゼル燃料製造装置の構成を示す図である。
【図2】本実施例のディーゼル燃料製造装置における脂肪酸エステルの製造工程を示す工程フロー図である。
【符号の説明】
【0062】
1 原料油脂タンク
2 加熱ヒータ
3 アルコールタンク
4 生石灰タンク
5 撹拌装置
6 反応タンク
7 ヒータ
8 分離タンク
9 窒素ボンベ
10 供給管
11 マイクロフィルター
12 マイクロフィルター
13 マイクロフィルター
14 貯留タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と、一価の低級アルコールと、アルカリ土類金属元素酸化物およびマグネシウム酸化物の少なくとも1種から成る固体触媒粉体とを、前記低級アルコールの沸点近傍の温度、若しくは摂氏50℃から80℃の温度範囲に加熱および撹拌混合して、内燃機燃料に使用可能な脂肪酸エステルを生成させる脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記撹拌混合後の反応液を、得られる脂肪酸エステルの水素イオン濃度指数(pH)が、8.0以下となるように、マイクロフィルターにてろ過することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記撹拌混合後の反応物を静置して、比重差により脂肪酸エステルとグリセンリンと固体触媒粉体とを粗分離させる静置工程を含み、該静置工程にて粗分離された脂肪酸エステル層を前記マイクロフィルターにてろ過することを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記静置工程において反応物を静置させるタンク内の空間を、乾燥雰囲気としたことを特徴とする請求項2に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記マイクロフィルター周囲の空間および/または該マイクロフィルターへの流路内の空間を、乾燥雰囲気としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記マイクロフィルターが、1ミクロンフィルターであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸エステルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−88137(P2008−88137A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273730(P2006−273730)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(304065640)株式会社CBE (4)
【出願人】(506337644)
【出願人】(502314089)
【Fターム(参考)】