説明

脂肪酸シンターゼ阻害剤による癌の発生を阻害する方法

脂肪酸シンターゼ(FAS)阻害剤の投与により、癌の発生を阻害または予防する方法。特に、本発明は、FASを発現する前悪性(非浸潤性)病変からの浸潤癌の発生を阻害するか、または遅延させる。さらに、FAS阻害剤を含有する組成物、ならびにFAS阻害剤および組成物を、それを必要とする患者に投与する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、脂肪酸シンターゼ(FAS)阻害剤の投与により、癌の発生を阻害または予防する方法に関する。特に、本発明は、FASを発現する前悪性(非浸潤性)病変からの浸潤癌の発生を阻害するか、または遅延させる。さらに、FAS阻害剤を含有する組成物、ならびにFAS阻害剤および組成物を必要とする患者に投与する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
脂肪酸は、細胞生理学において3つの主要な役割を有する。第1に、それらは生体膜の構成成分である。第2に、脂肪酸誘導体は、ホルモンや細胞内メッセンジャーとしての機能を果たす。第3に、脂肪酸は、中性脂肪としても知られるトリアシルグリセロールとして脂肪組織内に蓄えられうる燃料分子である。
【0003】
脂肪酸合成経路において、脂肪酸シンターゼ(FAS)、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)、リンゴ酸酵素およびクエン酸リアーゼ(citric lyase)の4種の主要な酵素が関与している。この主要な酵素は、FASであり、前駆体であるマロニル−CoAとアセチル−CoAのNADPH依存性縮合を触媒することで脂肪酸を生成する。NADPHは、脂肪酸シンターゼにおける2つのレダクターゼの段階(エノイルレダクターゼおよびβ−ケトアシルレダクターゼ)において必須の電子供与体として有用な還元剤である。残りの3種の酵素(すなわち、ACC、リンゴ酸酵素およびクエン酸リアーゼ(citric lyase))は、その必要な前駆体を生成する。その他の酵素、たとえば、NADPHを生成する酵素なども、脂肪酸合成に関与している。
【0004】
FASは、酵素委員会(E.C.)No.2.3.1.85を有し、さらに、脂肪酸シンターゼ、脂肪酸リガーゼ、ならびにその組織名がアシル−CoA:マロニル−CoA C−アシルトランスフェラーゼ(脱炭酸化、オキソアシル−およびエノイル−還元およびチオエステル−加水分解)としても知られている。脂肪酸のFAS触媒合成には、7種の相異なる酵素、すなわちアセチルトランスアシラーゼ、マロニルトランスアシラーゼ、βケトアシルシンテターゼ(縮合酵素)、βケトアシルレダクターゼ、βヒドロキシアシル脱水酵素、エノイルレダクターゼ、およびチオエステラーゼが関与している(Wakil,S.,“Fatty acid synthase,a proficient multifunctional enzyme”,Biochemistry,28:4523〜4530,1989)。これらすべての7つの酵素が、ともにFASを含有する。
【0005】
脂肪酸合成経路における4種の酵素の内、FAS以外の3種の酵素が他の細胞機能に関与する一方で、FASは脂肪酸合成経路内に限って作用するので、阻害にとっての好ましい標的である。したがって、他の3種の酵素の内の1種を阻害することで、正常細胞が影響を被る可能性が一層高まる。
【0006】
FAS阻害剤は、ある化合物の精製されたFASの酵素活性に対する阻害能によって同定可能である。FAS活性は、たとえば、マロニルCoAの存在下でのNADPHの酸化測定などの当該技術分野において周知の多くの手段によるアッセイが可能である(Dils,R.およびCarey,E.M.,“Fatty acid synthase from rabbit mammary gland”,Methods Enzymol,35:74〜83,1975)。ある化合物がFAS阻害剤か否かの判定に関する他の情報は、米国特許第5,981,575号明細書に見出されるであろう(この開示は参照により本願明細書に含まれる)。
【0007】
FASによって実行される7つの酵素段階の内で、縮合酵素(すなわち、β−ケトアシルシンターゼ)によって触媒される段階は、脂肪酸合成を低下または停止させる阻害剤にとっての好ましい候補である。FAS複合体の縮合酵素は、構造および機能の観点からよい特性を示す。縮合酵素の活性中心は、たとえば、阻害剤2,3−エポキシ−4−オキソ−7,10−ドデカジエノイルアミド(以下「セルレニン」)などの抗高脂血試薬の標的である、重要なシステインチオールを含有する。
【0008】
縮合酵素の好ましい阻害剤は、アルキル化剤、酸化剤、ジスルフィド置換されうる試薬などの広範囲の化合物を含む。上記化合物の阻害活性は、精製されたヒト脂肪酸シンターゼの活性に関する効果を測定するアッセイの際、または[14C]アセテートの総脂質への取り込みの際に、同化合物の効果を観察することで確認・証明される場合がある(Pizer,E.S.,Thupari,J.,Han,W.F.,Pinn,M.L.,Chrest,F.J.,Frehywot,G.L.,Townsend,C.A.,およびKuhajda,F.P.,“Malonyl−coenzyme−A is a potential mediator of cytotoxicity induced by fatty acid synthase inhibition in human breast cancer cells and xenografts”,Cancer Research,60:213〜218,2000)。セルレニンは、上記阻害剤の1例である。セルレニンは、FAS縮合酵素の活性部位において、重要なシステインチオール基に共有結合し、この重要な酵素段階を不活化する(Funabashi,H.,Kawaguchi,A.,Tomoda,H.,Omura,S.,Okuda,S.,およびIwasaki,S.Binding site of cerulenin in fatty acid synthetase.J.Biochem.,105:751〜755,1989)。
【0009】
さまざまな他の化合物がFASを阻害することが判明している。以下に記載する表1では、数種類の既知のFAS阻害剤をリストアップしている。好ましくは、本発明に記載される阻害剤は、FAS阻害に対してLD50よりも低いIC50を示すことで、適切な処理指数、安全なプロファイル、ならびに有効性を示すことになる。より好ましくは、LD50は、少なくともIC50よりも高くて大規模である。
【0010】
【表1】

【0011】
FAS阻害剤は、体重減少を誘発し、既住の癌細胞の増殖を阻害する薬剤として開示されている。たとえば、米国特許第5,981,575号明細書(「‘575特許」)は、FAS阻害剤(γで置換されたα−メチレン−β−カルボキシ−γ−ブチロラクトン化合物)の1つのクラスの投与によって、体重減少を誘発するための方法を開示している。さらに、同‘575特許は、これらの化合物が既住の癌細胞の増殖を阻害するのに有用であることを開示している。米国特許第5,759,837号明細書(「‘837特許」)は、他の種類の形質転換されていない(正常)細胞ではない癌細胞に対して選択的に細胞傷害性を有するある用量でのFAS阻害剤の投与によって既住の癌を治療するための方法について開示している。しかしながら、‘575特許も‘837特許も、癌発生以前(すなわち、癌細胞の初期出現以前)における、これらの化合物の投与について開示しておらず、ましてや前癌性病変に関与するいずれの方法についても開示していない。
【0012】
最近、患者における前癌性状態を検出する数多くの技術が開発されてきており、癌細胞の初期出現以前であっても治療を開始することが可能になっている。このような早期診断により、癌発生リスクを実質的に低減させる予防的治療を開始することが可能になる。早期スクリーニングのための既知の方法として、たとえば、胸、上部気管食道、膵臓、前立腺、結腸などのさまざまな組織タイプにおいて前癌性病変を検出するために、たとえば、光、超音波、またはX線誘導による針生検、細針吸引、および脱落細胞診断法の使用が挙げられる。
【0013】
癌罹患率および癌生存率の統計における改善は、主に、腫瘍サイズが小さい場合や癌が原発部位に限局されている場合における癌の早期検出に基づいている。過去2年における乳癌に対する死亡率の軽減は、部分的には早期発見による可能性がある(Ahmedin,J.,Thomas,A.,Murray,T.,およびThun,M.,“Cancer Statistics2002”,CA Cancer J Clin,52:23〜47,2002)。しかしながら、多くの癌に対する死亡率は、最近の早期診断における進歩にもかかわらず、それを反映した改善の様相を呈していない。浸潤癌の発生を予防する、もしくは遅延させるであろう前悪性病変の効果的治療からみると、さらに癌の罹患率および死亡率において極めて顕著な改善の可能性が浮上してくる。
【0014】
本発明は、FAS阻害剤の投与によって被験者における前癌性状態を治療する(すなわち、癌発生を阻害する)方法が提供されたことにより、最近、早期診断が進歩したことに敬意を表するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
本発明は、FAS阻害剤の投与によって癌発生を阻害する方法を提供する。本発明の方法は、特にFASを発現する前悪性病変からの乳癌発生を遅らせたり、予防するのに有用である。また、FAS阻害剤を含有する組成物、ならびにFAS阻害剤および組成物を必要とする患者に投与する方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、FAS阻害剤の有効量投与を必要とする被験者への投与に関与する癌発生を阻害する方法について提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、癌発生を阻害する、医薬品として認可された添加物を含有する薬剤組成物およびFAS阻害剤の癌発生を阻害する有効量を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、FAS阻害剤の投与によって癌発生を阻害するための方法を提供する。本発明は、特に、FAS阻害剤の有効量投与を必要とする被験者への投与に関与する癌発生を阻害する方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、癌発生を阻害するのに有用なFAS阻害剤を含有する組成物を提供する。特に、本発明は、癌発生を阻害する、医薬品として認可された添加物を含有する薬剤組成物およびFAS阻害剤の癌発生を阻害する有効量を提供する。
【0020】
本願明細書で用いられるように、用語「阻害する」とは、前癌性細胞において、たとえば、アポトーシス(すなわち、遺伝的に決定される細胞死)を刺激する、誘導する、または引き起こすことなどによって、癌発生を予防する、抑制する、阻止する、遮断する、または遅らせることを意味するものと理解される。
【0021】
本願明細書で用いられるように、用語「癌発生」とは、癌細胞の初期出現を意味するものとして理解される。ここで「癌細胞」とは、自律的増殖の特性を有し、周囲組織へ浸潤した細胞のことを示している。
【0022】
本願明細書で用いられるように、用語「投与」とは、たとえば、経口で、直腸から、鼻から、または非経口などで、当該技術分野において共通に用いられる数多くの可能な投与手段のいずれかを意味するものと理解される。ここで非経口投与として、局所性投与と同様に、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸腔内、膀胱内、髄腔内、皮下が挙げられる。くわえて、「投与」は、当該技術分野で共通に用いられる数多くの薬剤組成物の形態のいずれかを介する投与を含む。
【0023】
好ましい薬剤組成物として、たとえば、固形剤(たとえば、タブレット、カプセル、粉剤、ピル、または顆粒)または液剤(たとえば、シロップ、エマルジョンまたは懸濁液)などの経口組成物、たとえば座剤などの直腸組成物、たとえば注射または輸液に適する組成物などの非経口組成物が挙げられる。
【0024】
本願明細書で用いられるように、用語「必要とする被験者」とは、前癌性と診断されている被験者、または遺伝的あるいは他の要因で同疾患を発症する素因を有する可能性がある被験者を含むものと理解される。好ましい様式において、本発明は、たとえば、体重減少などの前癌性状態を治療すること以外で、なんらかの目的でFAS阻害剤を服用中の被験者の治療を目的とするものではない。
【0025】
好ましくは、被験者は治療法が研究される種類の癌を発症していない。くわえて、被験者は、1つ以上の前癌性病変を有していてもよい。前癌性病変は、好ましくはFAS、またはFASおよびneuタンパクを発現してもよい。前癌性病変が任意の組織で発生することがあるとはいえ、本発明は、特にFASを発現する、胸、口腔、肺、胆管、胃、前立腺、またはこれらのいずれかの組み合わせにおける病変を対象とする治療法を提供する。好ましくは、被験者は哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0026】
本願明細書で用いられるように、用語「癌発生を阻害する有効量」とは、癌発生を阻害する所望の結果を得るのに必要なFAS阻害剤の量を意味するものと理解される。また、その有効量が通常、処方医師によって決められ、同量は、各被験者の年齢、体重および反応、ならびに(被験者が前癌性病変由来の症状を呈する場合の)被験者の症状の重症度と投与される特定化合物の効力によって変化することが理解される。好ましくは、有効量は、週に約60mg/kg〜約7.5mg/kgの範囲にあり、より好ましくは、週に約30mg/kg〜約7.5mg/kgの範囲にあり、最も好ましくは、週に約15mg/kg〜約7.5mg/kgの範囲にある。有効量は、単回もしくは分割で投与してもよい。
【0027】
本願明細書で用いられるように、用語「FAS阻害剤」とは、FAS酵素を直接阻害する化合物を意味するものと理解される。直接阻害とは、たとえば、すべての細胞活性における低下などの、化合物が有するなんらかの他の作用の二次的な結果ではなく、阻害剤が酵素上に直接作用することでFAS活性を低下させることを意味している。FAS阻害は、米国特許第5,981,575号明細書に記載される手段によって判定可能である。
【0028】
好ましくは、FAS阻害剤は、以下の化合物の1種である。つまり、C75(すなわち、テトラヒドロ−3−メチレン−2−オキソ−5−n−オクチル−4−フランカルボン酸);セルレニン(すなわち、2,3−エポキシ−4−オキソ−7,10−ドデカジエノイルアミド);1,3−ジブロモプロパノン;エルマン(Ellman)試薬(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)、DTNB);4−(4’−クロロベンジロキシ)ベンジルニコチン酸(KCD−232);4−(4’−クロロベンジロキシ)安息香酸(MII);2(5(4−クロロフェニル)ペンチル)オキシラン−2−カルボキシラート(POCA)およびそのCoA誘導体;エトキシギ酸無水物;チオラクトマイシン(thiolactomycin);フェニオセルレニン(phenyocerulenin);メラルソプロール;ヨードアセテート;フェニルアルシネオキシド(phenylarsineoxide);ペントスタム;メリチン;またはメチルマロニルCoAである。1つの好ましいFAS阻害剤はC75である。他の好ましいFAS化合物は、米国特許出願第60/394,585号明細書に開示されている以下に示す化合物である(この開示は参照により本願明細書に含まれる)。
【化1】

(式中、
1=H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール、−CH2OR5、−C(O)R5、−CO(O)R5、−C(O)NR56、−CH2C(O)R5、または−CH2C(O)NHR5であり、ここで、R5およびR6は、各々独立して、H、C1−C10アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり、場合により1つ以上のハロゲン原子を含有しており;
2=−OH、−OR7、−OCH2C(O)R7、−OCH2C(O)NHR7、−OC(O)R7、−OC(O)OR7、−OC(O)NR78であり、ここで、R7およびR8は、各々独立して、H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり、R7およびR8は、各々場合によりハロゲン原子を含有することが可能であり;
互いに同一または異なるR3およびR4は、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールである)
【0029】
好ましいFAS阻害剤の別の基は、米国特許出願第60/392,809号明細書に開示されているものである(この開示は参照により本願明細書に含まれる)。
【化2】

(式中、
9=H、またはC1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール、=CHR11、−C(O)OR11、−C(O)R11、−CH2C(O)OR11、−CH2C(O)NHR11であり、ここで、R11は、HまたはC1−C10アルキル、シクロアルキル、またはアルケニルであり;
10=C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり;
X=−OR12、または−NHR12であり、ここで、R12は、H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり、該R12基は、場合によりカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシアミド基、アルコール基、またはエーテル基を含有し、さらに該R12基は、場合により1つ以上のハロゲン原子を含有しており;
但し、R9が=CH2の場合にXは−OHではない。)
【0030】
本願明細書で用いられるように、用語「添加剤」とは、たとえば、基材、賦形剤、希釈剤、充てん剤、またはこれらの組み合わせなどの、当該技術分野において共通に使用可能な数多くの有望な添加剤の内のいずれかを意味するものと理解される。好ましい添加剤の例は、水、アルコール、ゼラチン、サッカロース、ペクチン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、動物または植物由来のさまざまな油、グリコール、デンプンおよびデンプン誘導体、シリカ、ラクトース、ラクトース一水和物、セルロースおよびセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、PVPまたはポビドン、マンニトール、ソルビトール、ゼラチン、糖アルコール、ステアリン酸、アクリル誘導体、アルギン酸、α−オクタデシル−オメガ−ヒドロキシポリ−(オキシエチレン)−5−ソルビン酸−H2O、アラビアゴム、香味物質、アスコルビン酸、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、カルメロース・ナトリウム、セルロース、セルロース誘導体、ジメチコーン、着色剤、ゼラチン、グルコース・シロップ、極めて分散したシリカ、安息香酸カリウム、ラクトース一水和物、マクロゴール(Macrogol)、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム(軽質)、ステアリン酸マグネシウム、コーンスターチ、膨潤したコーンスターチ、マンニット、マンニトール、食用脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、モンタングリコールワックス、安息香酸ナトリウム、(無水)炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ポリ(ブチルメタクリレート)−co−(2−ジメチル・アミノ・エチル・メタクリレート)、ポリビドンK25、ポビドン、精製されたキャスター・オイル、スクロース、スクロース・モノステアレート、セラック、ソルビトール、滑石粉、二酸化チタン、酒石酸、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールまたはマクロゴール、スタビライザー、酸化防止剤、さまざまな天然乳化または合成乳化された分散剤または湿潤剤、着色剤、芳香剤、バッファ、崩壊剤、さらに当該技術分野で既知であり、活性剤の生物的可用性を促進する他の物質である。
【0031】
驚くべきことに、多くの研究により、前癌性ヒト胸部病変、ならびに他の臓器からの前癌性病変に、FAS発現が高度であることが証明されている。以下に示す表2は、癌前駆体病変におけるFAS発現の有病率および浸潤癌へのその進行速度、あるいは浸潤癌との関連について示している。
【0032】
前癌性病変の命名は、臓器毎に異なることがあるため、各用語を簡単に定義することが同表の解釈に役立つであろう。胸部では、in situ癌すなわち管内癌およびin situ小葉癌(列1および2)として定義される2種類の前浸潤性(前癌性)病変がある。in situ癌なる用語は、前癌性細胞がまだ周囲組織に浸潤していない病変を説明するのに用いられる。これらの病変は、浸潤癌の発生にとっての最高のリスクと関連しており、さらにFAS免疫反応性の最高の有病率を有する。さらに、癌発生に対して中間的リスクを有する胸部病変も存在する(列3)。これらのいわゆる「非定型の管状または小葉状の肥厚」は、in situ癌の組織学的な特徴のすべてを示すものではない。これらの胸部病変は、in situ癌に対して約半分に相当する乳癌の発生リスクを示し、FAS陽性の頻度は低めである。
【0033】
前立腺において、前立腺上皮内新生組織形成(PIN)は、腺における他の部位での浸潤癌の存在に関連する病変である。PINは、低グレードまたは高グレードとして説明される。低グレードの病変が癌と有意な関連がないとはいえ、高グレードPINは、約3分の1の場合に、浸潤性前立腺癌とともに発生する(列4)。PINの真の自然暦または未治療のPINについては、未知のままである。一般に、FASは高グレードPINにおいて発現される。
【0034】
一般に、癌は腺腫の中で、または腺腫と関連して発生することが判明していることから、腺腫は結腸直腸癌に対して共通に認識されている前駆体病変である(列5)。増加するサイズ、絨毛形態学、および(組織学的かつ細胞学的特徴の両方によって定義される)高グレードの異形成の存在は、癌発生に対するリスクの増加と関連している。「異形成」なる用語は、前癌性病変への進行を示す組織内の組織学的かつ細胞学的変化を示すのに用いられる。ある研究では、FASは結腸直腸癌の中の至るところに存在した。一方、別のグループは、腺腫において異形成の度合いが増加するにつれてFASの発現が増加したことを発見した。
【0035】
肺では、扁平上皮癌は、異型扁平上皮粘膜から発生する。喫煙などの肺への慢性的障害により、まず気道における繊毛腺性粘膜からより耐障害性のある扁平上皮粘膜に変化するに至る。この過程は、化生と呼ばれる。時間がたてば、煙中の発癌物質により、前癌性病変の発生を示す、異形成と呼ばれる組織学的かつ細胞学的変化が誘引される。いったん高グレードの異形成が見られると、浸潤癌の発生に対するリスクが有意になる。FASの発現が異型気管支上皮で増加することが見出されている。
【0036】
胃における癌前駆体病変は腺腫であり、結腸直腸腺腫と類似しているものの同一ではない。結腸では、同病変は癌発生のリスクを抱えており、FASは共通して発現される。
【0037】
口腔内における浸潤癌に対する前駆体は、口の内側を覆う扁平上皮粘膜の異形成であり、肺癌を誘発する気管支扁平上皮の異形成に類似している。さらに、FASの発現は、これらの異型病変においても増加する。
【0038】
一般に、胆管癌は、異型腺性粘膜から発生する。この組織では、気管支におけるように、上皮は腺から扁平上皮にかけて変化しない。それにもかかわらず、FASの発現は、胆管異形成において至るところで見られる。
【0039】
【表2】

【0040】
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34.Owen,D.A.およびKelly,J.,Pathology of the gallbladder,biliary tract,and pancreas.,p.337.Philadelphia:W.B.Saunders Company,2001。
【0041】
米国特許出願第5,759,837号明細書では、in vitroでのFAS阻害がヒト乳癌細胞株においてアポトーシスを誘発することが開示されている。この知見は、in vitroでのFAS阻害剤であるセルレニンとC75によるNT5癌細胞増殖の阻害を例証する実施例2と図2によって支持されている。また、in vivoでのFAS阻害により、ヒト乳癌およびヒト前立腺癌の異種移植の増殖が低下することも知られている(Owen,D.A.およびKelly,J.,Pathology of the gallbladder,biliary tract,and pancreas.,p.337.Philadelphia:W.B.ソンダーズ・カンパニー(Saunders Company),2001; Pizer,E.,Pflug,B.,Bova,G.,Han,W.,Udan,M.およびNelson,J.,“Increased fatty acid synthase as a therapeutic target in androgen−independent prostate cancer progression”、Prostate,47:102〜110、 2001)。この知見は、FAS阻害剤のC75によるマウスでのNT5腫瘍細胞の同種移植の増殖における低減を例証する実施例3と図3によって支持されている。したがって、FAS阻害剤は、既住の癌細胞の増殖を阻害することが可能であることは既知であったが、FAS阻害剤による処理が癌発生を阻害する可能性があることは、これまで知られていなかった。
【0042】
FAS阻害剤が癌発生を阻害する可能性を明らかにするために、HER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスモデルが用いられた。FVB/N株由来のneu−Nトランスジェニックマウスは、乳房特異性プロモーターのコントロール下で、形質転換していないラットのneu cDNAを発現する。結果として、マウスは、約125日目から自然に乳腺癌を発症し、300日にかけてほとんどすべてのマウスが腫瘍を保持する(Guy,C.,Webster,M.,Schaller,M.,Parsons,T.,Cardiff,R.およびMuller,W.,“Expression of the neu protooncogene in the mammary epithelium of transgenic mice induces metastatic disease”,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10578〜10582,1992)。このモデルは、活性化(突然変異)neu遺伝子を有していない。活性化neuモデルは、より急速な腫瘍発生の利点を有しているとはいえ(Guy,C.,Cardiff,R.およびMuller,W.,“Activated neu induces rapid tumor progression”, Journal of Biological Chemistry,271:7673〜7678,1996)、この点突然変異は、ヒト乳癌では同定されていない(Lofts,F.およびGullick,W.,“C−erbB2 amplification and overexpression in human tumors”,Cancer Treat Res.,61:161〜179,1992)。したがって、HER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスモデルは、neuが過剰発現されて突然変異されていないヒト疾患により酷似している。さらに、neuは、ヒト腺管内癌の25%に発現される(DCIS)(Glockner,S.,Lehmann,U.,Wilke,N.,Kleeberger,W.,Langer,F.およびKriepe,H.,“Amplification of growth regulatory genes in intraductal breast cancer is associated with higher nuclear grade but not with progression to invasiveness”, Laboratory Investigation,81:565〜571,2001)。これは、neuの過剰発現がヒト発癌における早期イベントであることを証明していることから、neuNモデルをさらに立証している。FAS(Milgraum,L.Z.,Witters,L.A.,Pasternack,G.R.およびKuhajda,F.P.,“Enzymes of the fatty acid synthesis pathway are highly expressed in in situ breast carcinoma”,Clin Cancer Res,3:2115〜2120,1997)とneuは、共にヒト乳房組織におけるin situ癌において同定され、FAS阻害はneuの過剰発現を伴って乳癌細胞のアポトーシスを誘引するために、neu−Nモデルは、FAS阻害剤は癌発生を阻害可能であることを示すのに用いられた。
【0043】
代表的なFAS阻害剤として、C75が用いた。FAS阻害剤としてのC75の合成と有効性は、米国特許第5,981,575号明細書において証明された。
【0044】
実施例4と図4は、3匹の動物が寿命である約1.5年近くにわたって腫瘍が出現しないままであったことで、HER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスのFAS阻害剤C75による処理が癌の発生を有意に阻害したことを示している。他のFAS阻害剤は、C75と同様な機序で作用することが予測可能である。
【0045】
以下に示す実施例は、本発明の方法および組成物をさらに例証するために提供されている。これらの実施例は、単なる例証であって、決して本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
NT5細胞における、2,3−エポキシ−4−オキソ−7,10−ドデカジエノイルアミド(すなわち、セルレニン)およびテトラヒドロ−3−メチレン−2−オキソ−5−n−オクチル−4−フランカルボン酸(すなわち、C75)による脂肪酸合成阻害
腫瘍発生時におけるFAS阻害剤であるセルレニンおよびC75が有する脂肪酸合成に対する阻害能が、トランスジェニックマウスの中で発生した腫瘍から樹立されたNT5癌細胞において実証された(図1参照)。5×104 NT5細胞を24ウェルプレート中に播種した。接着から1晩経た後、5mg/ml、4時間、DMSO中で希釈されたセルレニンとC75によって細胞を処理した。その際、対照細胞には、単独で賦形剤を投与した。薬剤処理の残り2時間に、細胞を1μCi[14C]アセテートで処理した。つぎに、総脂質を抽出し、計数した。その結果を図1に示す。同結果の統計解析(すなわち、両側t−検定)を以下に示す。対照−C75 5μg/ml、p=0.116;対照−C75 10μg/ml、p=0.018;対照−セルレニン5μg/ml、p=0.002;対照−セルレニン10μg/ml、p=0.002。
【0047】
図1は、NT5癌細胞におけるセルレニンおよびC75による脂肪酸合成の阻害を示す。NT細胞株は、トランスジェニックマウスで発生した腫瘍から樹立される。(Reilly,R.,Gottlieb,M.,Ercolini,A.,Machiels,J.,Kane,C.,Okoye,F.,Muller,W.,Dixon,K.およびJaffee,E.,“HER−2/neu Is a Tumor Rejection Target in Tolerized HER−2/neu Transgenic Mice”,Cancer Research,60:3569〜3576,2000 ; Reilly,R.,Machiels,J.,Emens,L.,Ercolini,A.,Okoye,F.,Lei,R.,Weintraub,D.およびJaffee,E.,“The Collaboration of Both Humoral and Cellular HER−2/neu−targeted Immune Responses Is Required for the Complete Eradication of HER−2/neu−expressing Tumors”,Cancer Research,61:880〜883,2001)、FAS阻害剤であるC75およびセルレニンの試験のために、in vitroモデルを提供している。図に示すように、セルレニンとC75は、共にヒト細胞株による先行試験に匹敵するレベルで、NT5細胞における脂肪酸合成を阻害する(Pizer,E.S.,Thupari,J.,Han,W.F.,Pinn,M.L.,Chrest,F.J.,Frehywot,G.L.,Townsend,C.A.,およびKuhajda,F.P.,“Malonyl−coenzyme−A is a potential mediator of cytotoxicity induced by fatty acid synthase inhibition in human breast cancer cells and xenografts”,Cancer Research,60:213〜218,2000; Pizer,E.,Pflug,B.,Bova,G.,Han,W.,Udan,M.,およびNelson,J.,“Increased fatty acid synthase as a therapeutic target in androgen−independent prostate cancer progression”,Prostate,47:102〜110,2001)。さらに、図1は、これらの細胞が脂肪酸合成活性を有することから、これらの阻害剤の標的酵素であるFASを発現することを証明している。
【0048】
実施例2
FAS阻害剤によるIn vitroでのNT5癌細胞増殖の阻害
FAS阻害剤のNT5癌細胞増殖に対する阻害能は、in vitroで証明された(図2参照)。1×104細胞を24ウェル・プレートに播種した。接着から1晩経た後、5mg/mlでDMSO中で希釈されたC75またはセルレニンで細胞を処理した。その際、対照細胞には単独で賦形剤を投与した。72時間後、細胞をクリスタルバイオレットで染色し(10%メタノール中で0.2%)、1% SDSに可溶化し、また外径を490nmで測定した。両側t−検定:対照−C75 5μg/ml、p=0.0003;対照−C75 10μg/ml、p<0.0001;対照−セルレニン 5μg/ml、p<0.0001;対照−セルレニン 10μg/ml、p<0.0001
【0049】
図2は、in vitroでのFAS阻害剤によるNT5癌細胞増殖の阻害を示す。図に示すように、FAS阻害剤であるセルレニンおよびC75による処理は、(減少した外径490nmによって示されるように)癌細胞の増殖を有意に低減した。
【0050】
実施例3
FAS阻害剤によるマウスでのNT5癌細胞同種移植の増殖における低減
FAS阻害剤がマウスでのNT5癌細胞同種移植の増殖に対する阻害能を有することが、FVB/Nマウスを用いて証明された(図3参照)。14匹の動物に、0.1mlの培養NT5細胞をまとめて側腹部に投与した。測定可能な腫瘍の出現時、7匹の動物を、6日毎にC75(0.1ml RPMI中30mg/kgで腹腔内注射)で処理し、7匹の動物に賦形剤対照を投与した。図3におけるエラーバーは、その標準誤差を示している。
【0051】
図3は、FAS阻害剤C75によるマウスでのNT5癌細胞同種移植の増殖における低下を示している。図に示すように、C75での処理により、FVB/NマウスにおいてNT5腫瘍細胞同種移植の増殖が有意に低減した。
【0052】
実施例4
FAS阻害剤による癌発生の阻害
FAS阻害剤が癌発生に対する阻害能を有することが、HER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスモデルを用いて証明された(図4参照)。この試験では、30匹のHER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスを用いた。15匹のマウスに、5週齢から3ヶ月の間、週単位でC75を投与し(0.1ml RPMI中30mg/kg)、15匹のマウスに単独で賦形剤を投与した。マウスは、毎日観察し、胸部腫瘍の初期出現を記録した。同試験中、対照群マウスの2匹と処理群マウスの6匹が死亡した。データのLog−rank解析によると、C75で処理された動物における腫瘍の発生が有意に遅延したことが判明した。50%の対照マウスに腫瘍が発生したのは約200日後であったのに対し、C75で処理された動物では約300日後であった。さらに、3匹の処理された動物は、その寿命である18ヶ月近くの間、腫瘍が発生しないままであった。
【0053】
実施例5
作用機序の究明
15匹の8〜10週齢のneu−Nトランスジェニックマウスを、C75の週に30mg/kg、腹腔内(ip)への投与によって処理し、それとともに、15匹に賦形剤対照を投与した(RPMI)。処理群および対照群から3匹のマウスを、2週目から2週間の間隔を設けた時点(8〜10週齢時での最初のC75による処理の2週間後)で、二酸化炭素窒息で殺害した。すべての動物は、犠牲になる2時間前に1mgのBrdU注射を受けた。肉眼で識別可能であった乳房内リンパ節とともに、鼠径乳腺全部を除去した。さらに、腎臓、肝臓および皮膚サンプルを各動物から採取した。片側からの乳腺、肝臓と、腎臓、肝臓および皮膚サンプルを中性緩衝ホルマリンで固定し、それ以外は全載標本のためにカルノア(Carnoy)固定剤で固定した。さらに、同様の解析を行うために、非トランスジェニックで年齢をマッチングしたFVB/N対照マウス由来の乳腺を10週目(18〜20週齢)で除去した。
【0054】
24時間、10%中性緩衝ホルマリン中に固定後、乳腺をパラフィン中に組み込んだ。ヘマトキシリンとエオシンで染色した第1のスライドとともに、各組織画分から6つの4ミクロンのスライドを調製した。残りの染色されない画分は、以下の抗体、すなわちFAS、BrdUおよびp21/Waf−1(Dako、Carpinteria、CA)、AktおよびPhospho−Akt(セル・シグナリング・テクノロジーズ・インコーポレーティッド(Cell Signaling Technology、ビバリー(Beverly)、MA)、およびneu(サンタクルーズ バイオテクノロジー・インコーポレーティッド(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)、 サンタクルーズ(Santa Cruz)、CA)アポトーシス(アポタグ(ApopTag) Peroxidase In situ Oligo Ligation Kit、セロロジカル・コーポレーション(Serologicals Corporation)、テメクラ(Temecula)、CA)とともに、腫瘍発生前病変や周囲の胸部組織の免疫組織化学解析に利用した。染色は、400倍における管状構造および小葉状構造における500の総細胞当たりの陽性細胞数を計数することによって評価した。Prism3ソフトウェア上でt−検定を用いて統計解析を実施した。上述のように、カルノア(Carnoy)の固定組織はカルミンレッドで染色し、グラススライド上に全載標本にした。賦形剤対照およびFVB/N動物と比較すると、neu−N動物における乳管構造の数、その厚みおよび新生する上皮構造の数いずれもが、C75処理の8〜10週後に有意に低下した。
【0055】
図5は、対照(写真C、DおよびE)に対し、C75で処理したN−neuトランスジェニックマウス(写真A、BおよびF)における異常な乳腺の発生を示している。写真Aは、管の数と口径における有意な低下および上皮構造の数の減少を示すC75で処理された動物の全載標本を示す。この拡大版を写真Bに示す。写真Aおよび写真Bの各々は、標準的な数、口径、および管状構造の新生を有する対照標本を示す写真Cおよび写真Dと比較されうる。これらの変化は、写真Eおよび写真Fにおける組織切片に反映される。A、C、EおよびFにおける黒い矢印はリンパ節を意味し、両標本タイプにおける類似の画像撮像領域を示している。
【0056】
図6および図6に示されるように、対照およびFVB/Nマウスと比較すると、アポトーシス変化が増加し、DNA合成が減少し、さらにFAS、neu、Akt、Phospho−Aktおよびp21/Waf1の発現がすべて減少した。図8は、C75で処理したneu−NトランスジェニックマウスおよびFVB/N対照マウス中の賦形剤対照における、FASとneu(ヘマトキシリン対比染色)の免疫組織化学染色を示す。賦形剤対照動物では、濃い拡散染色(写真A)によって、導管、脂肪細胞の両方で高レベルのFAS発現が認められた(図5の写真はすべて200倍の倍率である)。C75で処理された動物は、薄くて部分的な染色とともに胸管と脂肪細胞の両方でFAS発現が有意に低かった(写真B)。FVB/N対照動物におけるFAS発現は稀で弱かった(写真C)。neuからの免疫組織化学染色は、賦形剤対照動物(写真D)と比較して、C75動物(写真E)では低下した。FVB/N対照動物において、neu発現は部分的で弱かった(写真F)。
【0057】
重要なことに、これらの作用は、neuを過剰発現する胸部上皮細胞に限局され、皮膚、肝臓または腎臓における他の正常な管状構造に限局されなかった。FVB/N動物において、C75で処理した動物と対照との間に、乳腺構造に有意な形態的な差異は生じなかった。このことは図9に認められる。同図は、対照(写真Aおよび写真C)に対するC75で処理したFVB/N対照マウス(写真Bおよび写真D)において、正常な乳腺の発生を示している。乳腺構造には、なんらの有意な形態的な差異は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、NT5癌細胞におけるセルレニンおよびテトラヒドロ−3−メチレン−2−オキソ−5−n−オクチル−4−フランカルボン酸(以下「C75」)による脂肪酸合成阻害を例証する。
【図2】図2は、in vitroでNT5癌細胞の成長を、FAS阻害剤が阻害可能であることを例証する。
【図3】図3は、マウスにおいてNT5癌細胞同種移植の成長を、FAS阻害剤が低減可能であることを例証する。
【図4】図4は、HER−2/neu乳癌トランスジェニックマウスモデルにおける癌発生を、FAS阻害剤が阻害可能であることを例証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸シンターゼ阻害剤の有効量を、癌発生の阻害を必要とする被験者に投与することを含む、癌発生を阻害する方法。
【請求項2】
前記被験者は、哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者は、前癌性病変を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前癌性病変は、脂肪酸シンターゼを発現する、請求項5に記載の方法。
【請求項6】
前記前癌性病変は、neuタンパクを発現する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記前癌性病変は、脂肪酸シンターゼおよびneuタンパクを発現する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記前癌性病変は、胸と、前立腺と、結腸と、肺と、胃と、口と、胆管とからなる群から選択される組織タイプ内に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記組織タイプは、胸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組織タイプは、前立腺である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記組織タイプは、結腸である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記組織タイプは、肺である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組織タイプは、胃である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記組織タイプは、口である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記組織タイプは、胆管である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記有効量は、1日当たり約60mg/kg〜約7.5mg/kgの範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記脂肪酸シンターゼ阻害剤は、前記脂肪酸シンターゼの酵素を直接阻害する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記脂肪酸シンターゼ阻害剤は、以下の化学式:
【化1】

(式中、
1=H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール、−CH2OR5、−C(O)R5、−CO(O)R5、−C(O)NR56、−CH2C(O)R5、または−CH2C(O)NHR5であり、ここで、R5およびR6は、各々独立して、H、C1−C10アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキルまたはアルキルアリールであり、場合により1つ以上のハロゲン原子を含有しており;
2=−OH、−OR7、−OCH2C(O)R7、−OCH2C(O)NHR7、−OC(O)R7、−OC(O)OR7、−OC(O)NR78であり、ここで、R7およびR8は、各々独立して、H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキルまたはアルキルアリールであり、ここで、R7およびR8は、各々場合によりハロゲン原子を含有することが可能であり;
互いに同一または異なるR3およびR4は、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールである。)
を有する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記脂肪酸シンターゼ阻害剤は、以下の化学式:
【化2】

(式中、
9=H、またはC1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール、=CHR11、−C(O)OR11、−C(O)R11、−CH2C(O)OR11、−CH2C(O)NHR11であり、ここで、R11は、HまたはC1−C10アルキル、シクロアルキルまたはアルケニルであり;
10=C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり;
X=−OR12、または−NHR12であり、ここで、R12は、H、C1−C20アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリールであり、前記R12基は、場合によりカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシアミド基、アルコール基、またはエーテル基を含有し、前記R12基は、場合により1つ以上のハロゲン原子をさらに含有しており;
但し、R9が=CH2の場合、Xは−OHではない。)
を有する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記脂肪酸シンターゼ阻害剤は、テトラヒドロ−3−メチレン−2−オキソ−5−n−オクチル−4−フランカルボン酸である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−507306(P2006−507306A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550328(P2004−550328)
【出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2003/034658
【国際公開番号】WO2004/041189
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(505003207)ファスゲン,インク. (2)
【出願人】(505005016)ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】