説明

脱気デバイスとそれを用いた全有機炭素測定装置

【課題】
真空ポンプを用いずに液体中の気体を脱気する脱気デバイスを提供する。
【解決手段】
PDMSなどの円柱型の気体溶解性の脱気デバイス1に貫通穴6をあけたものを用いる。貫通穴6の一端は、シリンジとの接合を容易にするため、テーパ形状に加工する。脱気デバイス1は予め充分脱気しておき、外面には外気と触れないようにアルミニウム膜7を形成しておく。シリンジを用いて試料液体を貫通穴6に供給してその穴の内部でPDMSに接触させることにより液体中の気体を脱気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に含まれている空気を脱気する脱気デバイスと、それを用いた全有機炭素測定装置などの分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体に含まれた空気やその他の気体を除去するのに使用する脱気装置として、内部に透過膜チューブが設けられた脱気チャンバに真空ポンプを接続してなる脱気装置が知られている(例えば特許文献1参照。)。
この装置では、被脱気液体を透過膜チューブに流通させ、チューブ内の壁を通して液体に含まれる気体を脱気チャンバ内へ透過させて除去するようにしている。ガス透過性のチューブは、例えばフッ素樹脂製接合部材とフッ素樹脂製チューブを接合せしめた脱気エレメントを、プラスチック製や金属製あるいはガラス製の真空チャンバ内に固定治具を用いて固定することにより製造される。
一方、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は多量の空気を溶解することで知られ、外部動力を必要としないポンプとして研究が進められている(非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平4−203479号公報
【非特許文献1】K.Hosokawa, K.Sato, N.Ichikawa, M.Maeda; Lab Chip, 2004, 4, 181-185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の脱気装置では透過膜チューブ内に被脱気液体を連続的に流通する必要があるため、少量の被脱気液体を扱うことは困難であった。また、装置構造が複雑なために装置を小型化するのも困難であった。さらに、脱気のために高価な真空ポンプを必要とするだけでなく、脱気された気体がポンプオイルに溶解するため、定期的なメンテナンスが避けられなかった。
本発明は、真空ポンプを用いずに液体中の気体を脱気する脱気デバイスと、それを用いた全有機炭素測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の脱気デバイスは、予め脱気されることによりそれと接触した液体中の気体を溶解させて脱気する気体溶解性樹脂本体を備え、この気体溶解性樹脂本体には液体との接触部分が設けられている。
【0005】
上記樹脂本体は、例えば多量の空気を溶解する性質で知られているPDMSからなる。
【0006】
この脱気デバイスの一形態は、上記樹脂本体には接触部分として液体試料流通用の貫通穴があけられ、上記樹脂本体の外表面が気体非透過性カバーで被われているものである。
【0007】
またこの脱気デバイスは、例えば、使用前の状態では樹脂本体が脱気されており、上記貫通穴の両端の開口部は気体非透過性フィルムで封止されているものとすることができる。
【0008】
本発明の全有機炭素測定装置は、試料水中の有機炭素を二酸化炭素に変換する有機物酸化分解部、上記有機物酸化分解部で発生した二酸化炭素を純水へ抽出する二酸化炭素抽出部、及び上記二酸化炭素抽出部で抽出した二酸化炭素量を測定するために上記純水の導電率を測定する検出部を備えている。そして、上記有機物酸化分解部へ試料水を供給する流路に、試料水中の二酸化炭素を除去する無機炭素除去部を設け、この無機炭素除去部として、本発明の脱気デバイスを用いる。
【0009】
また、上記二酸化炭素抽出部は、基体と、上記基体内に形成され、それぞれ入口と出口をもつ2つの流路と、上記2つの流路間を結ぶ複数の溝とを備え、上記溝は液体が通過せずにガス成分が移動できるように、その内表面の少なくとも一部の疎水性化と、その断面積の大きさの設定がなされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
従来は気体含有液体から気体を脱気する際には真空ポンプを使用していたが、本発明の脱気デバイスは、製造現場において気体溶解性樹脂を減圧チャンバなどで予め脱気しておき、これに液体試料を接触させるようにしたので、真空ポンプを用いることなしに液体試料中の気体を脱気することができる。
【0011】
樹脂本体としてPDMSからなる脱気デバイスを用いるようにすれば、その気体を溶解する性質によって、真空ポンプに代わる脱気デバイスとして用いることができる。
脱気デバイスの樹脂本体に試料流通用の貫通穴があけられ、その外表面が気体非透過性カバーで被われているようにすれば、樹脂本体を脱気して貫通穴に試料を流して試料の脱気処理を行っているときも外表面からの気体の溶解がないので、長時間にわたって使用することができるようになる。
【0012】
また、使用前に樹脂本体を脱気しておき、貫通穴部分の両端を気体非透過性フィルムで封止するようにすれば、減圧チャンバなどがない場所においてもすぐに脱気デバイスとして使用することができる。
【0013】
全有機炭素測定装置の無機炭素除去部として本発明の脱気デバイスを用いれば、従来用いていた真空ポンプを用いる必要がなくなるので、測定を簡便に行うことができる。
また、全有機炭素測定装置の二酸化炭素抽出部に、液体が通過せずにガス成分が移動できるように、その内表面の少なくとも一部が疎水性化された溝を備えたものを使用するようにすれば、ガス透過膜を使用したものに比べて二酸化炭素の抽出速度を速めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
図1は脱気デバイスの一実施例を示す斜視図である。脱気デバイス1としては、例えばPDMSを基材とした直径10mm、長さ50mmの円柱の中心に内径0.1mmの貫通穴をあけたデバイスを用いる。貫通穴の一端(図では上端)は、試料を注入する際のシリンジなどの器具との接合を容易にするため、テーパ形状に加工されている。
PDMSは空気を溶解することから、予め、脱気デバイス1を1kPa以下の真空チャンバ内で30分以上真空脱気し、測定現場まで搬送するために可搬な真空容器中に保管しておく。
【0015】
次に脱気デバイス1を用いたTOC測定方法の一例を説明する。
測定現場において試料をシリンジ2に採取した後、脱気デバイス1を真空容器から取り出して、図2に示されるように、一端(上端)をシリンジ2に装着し、さらに他端を全有機炭素測定装置4の試料導入口3に接続する。図2は脱気デバイス1がシリンジ2と試料導入部3との間に接続されたときの斜視図である。
【0016】
シリンジ2をゆっくりと押し込むことで、試料を脱気デバイス1内に通過させ、全有機炭素測定装置4へ注入して分析を行う。試料が脱気デバイス1内を通過する時、試料内に含まれる無機炭素は、二酸化炭素として脱気デバイス1内へ再溶解することにより除去される。
【0017】
[実施例2]
脱気デバイスの他の実施例を図3を参照して説明する。この脱気デバイスは図1の脱気デバイスの外面に外気遮断用皮膜を設けたものである。
実施例1の脱気デバイス1は構造が簡単で安価に作製することができるが、真空容器などの保管容器から取り出すと外部から空気の再溶解が始まるため速やかに使用しなければならない。この問題を解決するために、脱気デバイス1の外面を通気性の乏しいPET(ポリエチレンテレフタラート)などのプラスチックやアルミニウム蒸着膜などの金属からなる気体非透過性カバー(外気遮断用皮膜)5で被覆することで、脱気デバイス1への外気の再溶解を防ぐ。
【0018】
さらに、脱気デバイス1の中央の貫通穴6を塞ぐように薄いフィルム状の膜7で外気を遮断する構造にし、使用時にシリンジや全有機炭素測定装置の試料導入口でその膜7を破り接続するように設計すれば、搬送用の真空容器を必要としないために、運搬が容易で且つ簡便に使用可能な脱気デバイスとすることができる。
【0019】
気体非透過性カバー5としてアルミニウム蒸着膜を用いる場合、脱気デバイス1の中央の貫通穴6を塞ぐようにプラスチックなどの薄いフィルム膜7を予め形成する。その後、脱気デバイス1の全体を真空中で脱気した後、脱気デバイス1の外面全体にアルミニウム膜を蒸着することで、貫通穴6以外の表面がアルミニウム蒸着膜で覆われた脱気デバイスを得ることができる。
【0020】
[実施例3]
図4及び図5を参照して本発明のさらに他の実施例を説明する。チップ上に構成された全有機炭素測定装置において、流路の一部をPDMSで作製し予め脱気しておくことで、無機炭素除去を行う。図4は2流路型ガス交換チップの斜視図、図5は図4のガス交換チップを用いた全有機炭素測定装置の要部平面図である。
基板41は例えば石英ガラス基板であり、その上面に1000μm以下、好ましくは数百μm以下の幅と深さを持つ流路60が形成されている。流路60は試料水流路62と測定水流路64を含む。
【0021】
他方の基板42も例えば石英ガラス基板であり、両流路62,64の流路端に対応する位置に、流路62から試料水を排出するための穴45、流路64に測定水を導入するための穴46、及び流路64から測定水を排出するための穴47が形成されている。また両基板41,42の少なくとも一方には、両流路62,64間を結ぶように、図6,7で詳細に後述する疎水性を有する複数の溝66が形成されている。
【0022】
43はPDMS基板であり、試料水流路62の導入口に対応する位置には、試料水を試料水流路62に導入するための穴44が形成されている。基板42及びPDMS基板43は、流路62,64が形成されている面と溝68が形成されている面が内側になるように基板41と対面させた状態で接合され、一体化された基体となっている。
【0023】
試料導入穴44につながる試料水流路62の一部はPDMS基板43と接触して無機炭素除去部51を構成しており、無機炭素除去部51は、試料水に最初から溶け込んでいる二酸化炭素などの気体成分を除去するものである。無機炭素除去部51の下流には試料水中の有機物を紫外線ランプ54からの紫外線エネルギーにより、さらには酸化剤の添加や触媒(例えば酸化チタン)の作用も加わって、酸化する有機物酸化分解部52が設けられている。有機物酸化分解部52のさらに下流には、導電率を測定するために試料水中の二酸化炭素を測定水側に抽出するための二酸化炭素抽出部53が設けられている。
【0024】
図6は上記で説明した二酸化炭素抽出部53の一例を詳細に示す図であり、(A)は流路と溝の配置を示す平面図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
基板41の片面に流路62,64が形成されている。他方の基板42にはその片面に流路62,64間を結ぶ位置に疎水性の表面を有する複数の溝66が形成され、流路62,64の端に対応する位置には基板42を貫通して液体の導入や排出に利用する穴45,46,47が形成されている。
【0025】
基板41,42は流路62,64が形成されている面と溝66が形成されている面が内側になるように対面させ、流路62,64の端に穴45,46,47が配置され、溝66が流路62,64間を結ぶように位置決めされた状態で接合されて、一体化された基体となっている。
溝66はその長さと幅が数百μm以下、好ましくは幅と高さが10μm以下である。流路62,64に液体を流したとき、溝66には液体が浸入せず、溝66を通じてガスが移動する。
【0026】
このような流路62,64及び溝66は、例えばフォトリソグラフィとエッチングを用いた微細加工技術により、穴45,46,47は例えばサンドブラスト法により形成することができる。溝66の内面の疎水性化は、例えばCHF3ガスやCF4ガスなどのフッ素化合物ガスを流しながらRIE(反応性イオンエッチング)処理を施したり、エキシマレーザなどの光照射により分解させることにより、溝の内面をフッ素化することにより行なうことができる。
基板41,42が石英ガラスなどのガラス基板の場合はフッ酸接合法により接合することができる。フッ酸接合法では、例えば1%のフッ酸水溶液を基板41,42の界面に介在させ、必要に応じて1MPa程度に荷重しつつ、室温で24時間程度放置する。
【0027】
図7は二酸化炭素抽出部53の他の例を詳細に示す図であり、(A)は流路と溝の配置を示す平面図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
基板70,72はシリコン基板である。シリコン基板70の片面には流路62,64と、流路62,64間を結ぶ疎水性の表面を有する複数の溝66が形成されている。他方のシリコン基板72には流路62,64の端に対応する位置に液体の導入や排出に利用する貫通穴45,46,47が形成されている。
【0028】
シリコン基板70,72は流路62,64と溝66が形成されている面が内側になるように対面させ、流路62,64の端に穴45,46,47が配置されるように位置決めされた状態で接合されて、一体化された基体となっている。
【0029】
流路62,64と溝66の寸法は図6の実施例に示されたものと同様であり、流路62,64、溝66及び穴45,46,47の形成及び溝66内表面の疎水性化処理は図6の実施例と同様に行なうことができる。この例では溝66は断面形状がV字形状をもっている。このような溝は(100)面をもつシリコン基板をアルカリエッチング液でエッチングすることにより形成される。しかし、溝66の形状はこれに限られない。シリコン基板70,72の接合はシリコン基板表面に酸化膜を形成し、その酸化膜を利用してフッ酸接合により行なうことができる。
【0030】
図4,図5の実施例に戻ってその使用方法を説明する。
予め、全有機炭素測定チップを1kPa以下の真空チャンバ内で30分以上真空脱気しておく。測定試料を穴44より供給すると、試料水中に最初から溶け込んでいる二酸化炭素は、無機炭素除去部51においてPDMS43へと溶解除去される。この二酸化炭素の除去を容易に行なうために、試料水中に酸の添加を行ってもよい。
【0031】
次に、試料水は有機物酸化分解部52に送られ、二酸化炭素が除去された試料水中の有機物は、紫外線ランプ54の照射により与えられた紫外線エネルギーにより酸化され、二酸化炭素になる。有機物の酸化分解により生じた二酸化炭素が溶存している試料水は、二酸化炭素抽出部53へと送られ、試料水中に含まれる二酸化炭素が測定水である純水へ移動する。純水は検出・精製部55へ送られ、純水の導電率を測定することで、二酸化炭素の濃度が定量される。純水は検出・精製部55で精製され二酸化炭素を除去された後、測定水流路64を介して循環して使用することができる。
【0032】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、請求項の記載範囲内において実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
液体に含まれている空気や二酸化炭素などの気体成分を脱気する脱気デバイスや、それを用いた全有機炭素測定装置などの分析装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の脱気デバイスの一実施例を示す斜視図である。
【図2】同実施例の使用方法の一例を示す斜視図である。
【図3】他の実施例を示す断面図である。
【図4】全有機炭素測定装置の一実施例を示す斜視図である。
【図5】同実施例の要部平面図である。
【図6】同実施例における二酸化炭素抽出部の一例を詳細に示す図であり、(A)は流路と溝の配置を示す平面図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
【図7】同実施例における二酸化炭素抽出部の他の例を詳細に示す図であり、(A)は流路と溝の配置を示す平面図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 脱気デバイス
2 シリンジ
3 試料導入口
4 全有機炭素測定装置
5 気体非透過性カバー
6 貫通穴
7 フィルム状の膜
41,42 基板
43 PDMS
44,45,46,47 穴
51 無機炭素除去部
52 有機物酸化分解部
53 二酸化炭素抽出部
54 紫外線ランプ
55 検出・精製部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め脱気されることによりそれと接触した液体中の気体を溶解させて脱気する気体溶解性樹脂本体を備え、
該気体溶解性樹脂本体には液体との接触部分が設けられている脱気デバイス。
【請求項2】
前記樹脂本体はPDMSからなる請求項1に記載の脱気デバイス。
【請求項3】
前記樹脂本体には前記接触部分として液体試料流通用の貫通穴があけられ、前記樹脂本体の外表面が気体非透過性カバーで被われている請求項1又は2に記載の脱気デバイス。
【請求項4】
使用前の状態では前記樹脂本体が脱気されており、前記貫通穴の両端の開口部は気体非透過性フィルムで封止されている請求項3に記載の脱気デバイス。
【請求項5】
試料水中の有機炭素を二酸化炭素に変換する有機物酸化分解部、前記有機物酸化分解部で発生した二酸化炭素を純水へ抽出する二酸化炭素抽出部、及び前記二酸化炭素抽出部で抽出した二酸化炭素量を測定するために前記純水の導電率を測定する検出部を備えた全有機炭素測定装置において、
前記有機物酸化分解部へ試料水を供給する流路に、試料水中の二酸化炭素を除去する無機炭素除去部を設け、この無機炭素除去部として、請求項1又は2に記載の脱気デバイスを用いることを特徴とする全有機炭素測定装置。
【請求項6】
前記二酸化炭素抽出部は、
基体と、
前記基体内に形成され、それぞれ入口と出口をもつ2つの流路と、
前記2つの流路間を結ぶ複数の溝と、を備え、
前記溝は液体が通過せずにガス成分が移動できるように、その内表面の少なくとも一部の疎水性化と、その断面積の大きさの設定がなされている請求項5に記載の全有機炭素測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−105708(P2007−105708A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302152(P2005−302152)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】