説明

脱硝装置

【課題】尿素水を尿素水供給弁から還流させる構成においても、尿素水タンク内の尿素水が昇温してしまう事態を回避する。
【解決手段】脱硝装置200は、エンジン110の排気ガス中の窒素酸化物の還元を促進する脱硝触媒210と、還元剤を貯蔵する第1還元剤貯蔵部212と、脱硝触媒の上流かつエンジンの排気路中に設けられ、還元剤を供給する還元剤供給部214と、供給された還元剤を回収する還元剤回収部216と、第1還元剤貯蔵部および還元剤供給部の間に配され、第1還元剤貯蔵部および還元剤供給部それぞれと連通し、第1還元剤貯蔵部から供給され、還元剤供給部に送出される還元剤を貯蔵し、さらに、還元剤回収部で回収された還元剤を貯蔵する第2還元剤貯蔵部218と、第2還元剤貯蔵部の熱を放熱する熱交換部228と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス中に含まれる窒素酸化物を還元する脱硝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等の排気ガスの脱硝装置には、排気ガスに還元剤を導入し、還元剤の導入位置の下流にある脱硝触媒で、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を還元して窒素を生成する選択式触媒還元方式(Selective Catalytic Reduction)がある。還元剤にはアンモニア(NH)が考えられるが、アンモニアは毒性が強いため、アンモニアの前駆物質として尿素水が広く利用されている。
【0003】
このような脱硝装置において、排気ガスに還元剤を導入する尿素水供給弁は、排気ガスの熱によって高温となり、尿素や中間生成物が析出して目詰まりを起こす等の問題が生じるおそれがある。そこで、排気ガスへ尿素水を供給しつつ、尿素水供給弁を尿素水で冷却する脱硝装置がある。この場合、尿素水供給弁の冷却に使用された尿素水は尿素水タンクに還流される。また、尿素水供給弁でリークしてしまった尿素水を回収して尿素水タンクに還流させる脱硝装置もある。
【0004】
しかし、排気ガスで高温となった尿素水供給弁に触れて温度の上昇した尿素水が尿素水タンクに戻されるため、尿素水タンク内の尿素水の温度は徐々に上昇してしまう。尿素水の温度が上昇すると、水分が蒸発して濃度が高くなり過ぎたり、アンモニアが発生したりしてしまうおそれがある。そこで、尿素水タンクへ還流する流路に尿素水を所定水位に達するまで貯水し、尿素水タンク外部に放熱させる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。また、尿素水を供給する尿素水供給弁と尿素水タンクの間に冷却装置を備える技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−221975号公報
【特許文献2】特開2008−303786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、尿素水で尿素水供給弁を冷却させたり、尿素水供給弁からリークしたりした尿素水を尿素水タンクに還流させる構成において、先行文献1、先行文献2のいずれの技術を用いたとしても、放熱が不十分な場合、還流した尿素水によって尿素水タンク内の尿素水の温度が上昇してしまう。尿素水タンクはその規模も大きいため、一端上昇してしまった尿素水タンク内の温度を下げるには非常に大がかりな冷却装置を設けなくてはならない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、尿素水を尿素水供給弁から還流させる構成においても、尿素水タンク内の尿素水が昇温してしまう事態を回避することが可能な脱硝装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の脱硝装置は、エンジンの排気ガス中の窒素酸化物の還元を促進する脱硝触媒と、還元剤を貯蔵する第1還元剤貯蔵部と、脱硝触媒の上流かつエンジンの排気路中に設けられ、還元剤を供給する還元剤供給部と、供給された還元剤を回収する還元剤回収部と、第1還元剤貯蔵部および還元剤供給部の間に配され、第1還元剤貯蔵部および還元剤供給部それぞれと連通し、第1還元剤貯蔵部から供給され、還元剤供給部に送出される還元剤を貯蔵し、さらに、還元剤回収部で回収された還元剤を貯蔵する第2還元剤貯蔵部と、第2還元剤貯蔵部の熱を放熱する熱交換部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、尿素水を尿素水供給弁から還流させる構成においても、尿素水タンク内の尿素水が昇温してしまう事態を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】脱硝システムを説明するための説明図である。
【図2】濃度32.5%の尿素水のポットライフと保存温度の関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
コンテナ船やタンカー等の大型船舶では、熱効率がよく、低質燃料油(重油)が使用できるためコスト面で有利である、ユニフロー型の2サイクルエンジン(2ストロークエンジン)が広く使用されている。このようなエンジンにおいて、化石燃料、例えば、ガソリン、軽油、重油、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)、および液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)等の燃料を燃焼させると、その結果生じる排気ガスには、NOxが含まれる。
【0013】
近年、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)が、船舶から排出される排気ガス中のNOx(窒素酸化物)の排出量規制を制定しており、一般海域において2次規制、ECA(Emission Control Areas)においては、やがて3次規制が適用されることとなる。そのため、船舶は、排気ガスに含まれるNOxを還元するための脱硝装置を用いる必要がある。
【0014】
以下、エンジンから排出される排気ガス中のNOxを還元する脱硝システム100について説明する。なお、以下の実施形態において、脱硝システム100に用いるエンジンとしてユニフロー型の2ストロークエンジンを例に挙げて説明するが、他の形式のエンジンに脱硝システム100を採用することもできる。
【0015】
(脱硝システム100)
図1は、脱硝システム100を説明するための説明図である。図1に示すように、脱硝システム100は、エンジン110と、過給機120と、脱硝装置200とを含んで構成される。図1中、物質(排気ガス、還元剤)の流れを実線の矢印で示し、信号の流れを一点鎖線の矢印で示す。
【0016】
エンジン110は、シリンダ110aと、ピストン110bと、排気弁110cと、排気集合管112とを含んで構成される。エンジン110は、掃気、圧縮、燃焼、排気といった行程を通じて、クロスヘッド(図示せず)に連結されたピストン110bがシリンダ110a内を摺動自在に、図1中白抜き矢印に示す方向に往復移動する。このようなクロスヘッド型のピストン110bでは、シリンダ110a内でのストロークを比較的長く形成することができ、ピストン110bに作用する側圧をクロスヘッドが受けるため、2ストロークエンジンの高出力化を図ることができる。さらに、シリンダ110aとクロスヘッドが収まるクランク室とが隔離されるので、低質燃料油を用いる場合においても汚損劣化を防止することができる。排気集合管112は、エンジン110に設けられた複数の排気弁110cそれぞれを通じてシリンダ110aと連通する複数の排気路を集約する。
【0017】
過給機120は、タービン122と、タービン122と同軸の圧縮機124とを含んで構成される。タービン122は、エンジン110から排出された排気ガスX1によって回転し、圧縮機124は、タービン122の回転を利用し、外部から導入される活性ガス(酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気))を圧縮してエンジン110への掃気圧を高める。こうすることで、エンジン110の出力を向上させることができる。
【0018】
脱硝装置200は、排気ガスX1にアンモニアを作用させることで、排気ガスX1中に含まれるNOxを窒素に還元する。このように、エンジン110から排出された排気ガスX1は、脱硝装置200に導入され、NOxが還元されて、排気ガスX2として外部に排出される。
【0019】
従来、脱硝装置において、排気ガスに還元剤(尿素水)を導入する尿素水供給弁は、排気ガスの熱によって高温となる。そこで、脱硝装置は、排気ガスへ尿素水を供給しつつ、尿素水供給弁を尿素水で冷却する。そして、尿素水供給弁の冷却に使用され温度が上昇した尿素水は尿素水タンクに還流されていた。また、尿素水供給弁でリークしてしまった尿素水を回収し、尿素水タンクに還流させる脱硝装置もあった。いずれにしても、尿素水タンク内の尿素水の温度は還流される尿素水によって徐々に上昇してしまう。
【0020】
図2は、濃度32.5%の尿素水のポットライフと保存温度の関係を説明するための説明図である。ここで、ポットライフは、尿素水の可使時間である。図2に示すように、濃度32.5%の尿素水は、保存温度が低いとポットライフが長く、保存温度が上がるにつれてポットライフが短くなり、60℃を超えるとポットライフは1週間にも満たなくなる。そのため、尿素水タンク内の尿素水の温度上昇を抑制する手段が望まれる。
【0021】
本実施形態では、尿素水を尿素水供給弁から還流させる構成であっても、尿素水供給弁で昇温した尿素水によって、尿素水タンク内の尿素水が昇温してしまう事態を回避することができる。
【0022】
(脱硝装置200)
本実施形態にかかる脱硝装置200では、排気ガスX1に還元剤を導入し、還元剤の導入位置の下流にある、脱硝触媒210で、排気ガスX1中に含まれるNOxを還元して窒素を生成する選択式触媒還元方式を採用している。
【0023】
図1に示すように、脱硝装置200は、脱硝触媒210と、第1還元剤貯蔵部212と、還元剤供給部214と、還元剤回収部216と、第2還元剤貯蔵部218と、第1ポンプ220と、第2ポンプ222と、液面計224と、流量制御部226と、熱交換部228とを含んで構成される。
【0024】
脱硝触媒210は、バナジウム、タングステン、モリブデン等の金属またはその酸化物と酸化チタン等で構成され、過給機120のタービン122を通過した排気ガス中のNOxの還元を促進する。
【0025】
第1還元剤貯蔵部212は、従来の脱硝装置の尿素水タンクに相当し、還元剤を貯蔵する。還元剤供給部214は、脱硝触媒210の上流かつエンジンの排気路中に設けられ、還元剤を供給(噴霧)する。還元剤回収部216は、例えば、配管で構成され、還元剤供給部214に供給された余剰分の還元剤を回収し、第2還元剤貯蔵部218に還流させる(戻りライン)。
【0026】
第2還元剤貯蔵部218は、サブタンクであり、第1還元剤貯蔵部212および還元剤供給部214の間に配され、第1還元剤貯蔵部212および還元剤供給部214それぞれと連通し、第1還元剤貯蔵部212から供給され、還元剤供給部214に送出される還元剤を貯蔵する。
【0027】
さらに、第2還元剤貯蔵部218は、還元剤回収部216で回収された還元剤を貯蔵する。すなわち、第2還元剤貯蔵部218において、第1還元剤貯蔵部212から供給された還元剤と、還元剤回収部216で回収された還元剤とが混合することとなる。本実施形態において、第2還元剤貯蔵部218は、例えば、20リットル程度の容量とする。
【0028】
第1ポンプ220は、第1還元剤貯蔵部212に貯蔵されている還元剤が流通する配管に配され、配管内に圧力をかけて還元剤を第2還元剤貯蔵部218に送出する。
【0029】
第2ポンプ222は、第2還元剤貯蔵部218に貯蔵されている還元剤が流通する配管に配され、配管内に圧力をかけて還元剤を還元剤供給部214に送出する。
【0030】
液面計224は、例えば、第2還元剤貯蔵部218内部に配され、第2還元剤貯蔵部218内の還元剤の液量(液位)を検出し、液量を示す信号を流量制御部226に出力する。
【0031】
流量制御部226は、液面計224から出力された信号を受け、第2還元剤貯蔵部218内の還元剤が所定量未満とならないように、第1ポンプ220に送出させる還元剤の流量を制御する。また、流量制御部226は、例えば、排気ガスの流量や排気ガス中に含まれるNOxの濃度等を検出する検出部(図示せず)の検出値に応じ、第2ポンプ222に送出させる還元剤の流量を制御する。
【0032】
熱交換部228は、例えば、水冷式、空冷式の冷却装置、またはペルチェ素子を利用する方式の電子チラー等で構成され、第2還元剤貯蔵部218の熱を、媒体を通じて外部(例えば海水や外気)に放熱する。
【0033】
本実施形態の脱硝装置200は、第1還元剤貯蔵部212とは別に、第2還元剤貯蔵部218を備える。そして、還元剤供給部214の冷却に用い昇温した還元剤は、第2還元剤貯蔵部218まで還流されるのみで、第1還元剤貯蔵部212には流入しない。そのため、脱硝装置200は、第1還元剤貯蔵部212が還元剤供給部214の熱によって昇温する事態を確実に回避できる。
【0034】
特に、第1還元剤貯蔵部212の尿素水残量が少ない場合、第2還元剤貯蔵部218を備えない従来の脱硝装置では尿素水の温度が急激に上昇してしまうが、脱硝装置200においては、尿素水の温度はまったく上昇しない。
【0035】
また、第2還元剤貯蔵部218の容量は比較的小さいため、攪拌装置を備えない構成であっても、熱交換部228は、第2還元剤貯蔵部218内の尿素水を効率的に冷却できる。
【0036】
さらに、例えば、エンジンルーム等には第1還元剤貯蔵部212を配置するには配置制限があり、還元剤供給部214により近いものの、第1還元剤貯蔵部212では配置できない場所に、第2還元剤貯蔵部218が配置できる場合がある。このとき、脱硝装置200は、還元剤回収部216の長さを比較的短くでき、還元剤回収部216における圧力損失を抑制し、第2ポンプ222の消費電力を抑えることが可能となる。さらに配管の工費を抑えることもできる。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、エンジンの排気ガス中に含まれる窒素酸化物を還元する脱硝装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
110 …エンジン
200 …脱硝装置
210 …脱硝触媒
212 …第1還元剤貯蔵部
214 …還元剤供給部
216 …還元剤回収部
218 …第2還元剤貯蔵部
228 …熱交換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガス中の窒素酸化物の還元を促進する脱硝触媒と、
還元剤を貯蔵する第1還元剤貯蔵部と、
前記脱硝触媒の上流かつ前記エンジンの排気路中に設けられ、前記還元剤を供給する還元剤供給部と、
供給された前記還元剤を回収する還元剤回収部と、
前記第1還元剤貯蔵部および前記還元剤供給部の間に配され、該第1還元剤貯蔵部および該還元剤供給部それぞれと連通し、該第1還元剤貯蔵部から供給され、該還元剤供給部に送出される前記還元剤を貯蔵し、さらに、前記還元剤回収部で回収された該還元剤を貯蔵する第2還元剤貯蔵部と、
前記第2還元剤貯蔵部の熱を放熱する熱交換部と、
を備えることを特徴とする脱硝装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−29053(P2013−29053A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164840(P2011−164840)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】