説明

脱硫不良判定方法

【課題】溶銑予備処理における脱硫処理直後に迅速かつ確実に脱硫不良を判定することができる、脱硫不良判定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】脱硫処理直後の溶銑鍋中にある溶銑の浴面を赤外線カメラで撮影し、撮影した画像の画像処理を行うことにより、前記溶銑の脱硫具合の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑予備処理における脱硫処理直後の脱硫不良判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材の特性向上の要求が高まっており、溶銑段階から溶鋼精錬にいたる各工程で不純物(たとえばP,S等)を低減するための処理が行なわれている。これらの不純物のうち、Sは、溶鋼の精錬に先立って溶銑段階で行なう脱硫処理(いわゆる溶銑予備処理)で除去するのが一般的である。
【0003】
溶銑予備処理における脱硫方法としては、溶銑鍋等に収容した溶銑中に脱硫剤をインジェクションする方法、あるいは脱硫剤を溶銑の浴面に投入して機械攪拌する方法が広く採用されている。
【0004】
脱硫剤を溶銑の浴面に投入して機械攪拌する方法は、脱硫剤を溶銑の浴面に投入し、溶銑中に挿入された攪拌羽根(いわゆるインペラー)を回転させることによって、脱硫剤を巻き込むとともに溶銑を攪拌するものである(例えば、特許文献1を参照)。攪拌の結果、脱硫反応界面の面積が増大するので、低S濃度域まで脱硫処理が可能となる。
【0005】
そして、脱硫処理を行った結果が目標値まで達しているかどうかの判定を行う方法として、通常操業では、処理後脱硫濃度を計測する方法を採っている。すなわち、処理後溶銑をサンプル採取し、分析装置を使用して採取したサンプルのS濃度分析を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−262212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脱硫不良判定に用いる分析装置は、装置自体が高価でありかつ定期的な校正が必要なため、分析装置を多数を保有することは現実的でない。高炉、製鋼全地区から収集したサンプルを、限られた台数の分析装置で処理しようとすると、サンプル分析待ちの待ち行列が発生する場合がある。例えば、分析完了まで15分の時間が必要になっている。
【0008】
そのため、分析の結果がでて脱硫不良であると判明した時点には、対象の溶銑は既に転炉装入直前であるという事態が多く発生してしまっている。このように装入直前に脱硫不良であると判明した場合、脱硫再処理を実施すると転炉処理開始が大きく遅れてしまい、連続鋳造装置での操業ロス(連々切れ)が発生するという問題がある。
【0009】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、溶銑予備処理における脱硫処理直後に迅速かつ確実に脱硫不良を判定することができる、脱硫不良判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の発明によって解決できる。
【0011】
[1] 脱硫処理直後の溶銑鍋中にある溶銑の浴面を赤外線カメラで撮影し、撮影した画像の画像処理を行うことにより、前記溶銑の脱硫具合の良否を判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。
【0012】
[2] 上記[1]に記載の脱硫不良判定方法において、
前記画像処理は、
前記画像を2次元メッシュに切り、各小領域毎の温度を算出し、
算出した小領域の温度をもとにしたBoxヒストグラムを作成し、
該Boxヒストグラム中の頻度が一番多い最頻温度を求め、
最頻温度に所定の温度をプラスした温度以上の高温域があれば、脱硫処理が不良に終ったと判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。
【0013】
[3] 上記[1]に記載の脱硫不良判定方法において、
前記画像処理は、
前記画像の一次元方向の所定区間を設定し、
該区間の温度分布の内、両端部分を除いた中央部分の温度分布をさらに等間隔の小区間に分割し、
分割した小区間での最大温度と最小温度の温度差を演算し、
該温度差が予め決めた閾値より大きければ、脱硫処理が不良に終ったと判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱硫処理直後ただちに脱硫処理良否判定ができ、脱硫不良の場合には即座に再脱硫処理を実施でき、連続鋳造装置での操業ロス(連々切れ)発生防止ならびに成分外れによる溶銑スクラップ化の削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用する装置例を示す図である。
【図2】赤外線カメラで撮影した溶銑浴面画像の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る脱硫不良判定方法の処理手順の一例を示す図である。
【図4】脱硫直後の溶銑浴面画像および処理結果(脱硫良好)の一例を示す図である。
【図5】脱硫直後の溶銑浴面画像および処理結果(脱硫不良)の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る脱硫不良判定方法の処理手順の他の一例を示す図である。
【図7】脱硫直後の溶銑浴面画像および処理結果(脱硫良好)の一例を示す図である。
【図8】脱硫直後の溶銑浴面画像および処理結果(脱硫不良)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明を適用する装置例を示す図である。1は溶銑鍋、2は溶銑、3は脱硫剤、4は予備処理スラグ、5は回転駆動装置、6は回転軸、7はインペラー、8は赤外線カメラ、および9は判定装置をそれぞれ表す。
【0017】
回転軸6に設置したインペラー7を溶銑鍋1内の溶銑2に挿入して、回転駆動装置5によりインペラー7を回転させることにより溶銑2と脱硫剤3の接触促進を行う、機械攪拌による溶銑予備処理における脱硫の様子を模式的に示している。そして、脱硫処理後の予備処理スラグ4が浮かんでいる溶銑2の浴面を、赤外線カメラ8で撮影し、撮影した画像は判定装置9に送られ画像処理を行うことによって脱硫処理が不良かどうかの判定を行う。
【0018】
図2は、赤外線カメラで撮影した溶銑浴面画像の一例を示す図である。図2(a)は脱硫効率が良い(脱硫効率 1.09)、図2(b)は脱硫効率が悪い(脱硫不良)(脱硫効率 0.34)場合の画像をそれぞれ示している。
【0019】
脱硫剤(石灰)は溶銑と良く反応し脱硫が良好に行われると、直径10mm程度のボール状の細かい粒状のスラグとなって処理後に溶銑面に浮遊する。このため、図2(a)の画像に観られるように溶銑より温度の低い、細かな粒状のスラグが浴面全体に亘って観察できる。
【0020】
これに対して、脱硫剤(石灰)と溶銑との反応が上手く行われず脱硫不良に終った場合には、スラグの粘度が高く、粒径が大きい塊となってしまう。図2(b)の画像に観られるように、塊となったスラグの間からは温度の高い溶銑(中央部のひび割れのように色の濃い部分)が直接観察できる。このような脱硫の良し悪しによって画像のパタ−ンが異なる(浴面での温度分布が異なる)という知見から、本発明を想到したものである。
【0021】
図3は、本発明に係る脱硫不良判定方法の処理手順の一例を示す図である。先ず、Step01にて、赤外線カメラ8で脱硫直後の溶銑浴面を撮影する。そして、撮影された画像は、判定装置9に送られて次に説明をする一連の処理が行われる。
【0022】
Step02では、受取った画像の内、判定に用いる画像範囲を設定する。設定にあたっては、撮像した画像のうち溶銑浴面が写っている範囲を選ぶようにする。図4および図5は、脱硫直後の溶銑浴面画像および以下に説明を行う処理の結果の一例を示す図であり、それぞれ脱硫が良好に行われた場合および脱硫が不良に終った場合の例を示している。図4および図5のそれぞれの上段に示す図は、溶銑浴面画像であり、図中の白枠で囲った部分が判定に用いる画像範囲を示している。
【0023】
次のStep03では、設定した画像範囲を2次元メッシュに切り、小領域に区切る。そして、小領域の画像の色情報から小領域の温度を算出する。温度の算出に当たっては、例えば、小領域内の各画素色情報を平均化するようにする。
【0024】
そしてStep04にて、算出した小領域の温度をもとにしてBoxヒストグラムを作成する。図4および図5のそれぞれの下段に示す図が、横軸に温度、縦軸に頻度をとったBoxヒストグラムである。
【0025】
次にStep05にて、頻度が一番多い温度域(最頻温度)を求める。図4および図5では、丸印にてそれぞれの場合の最頻温度を示している。
【0026】
そして、Step06にて、先に求めた最頻温度に所定の温度(ΔT)をプラスした温度以上の高温である小領域があるかどうかをBoxヒストグラムから判断する。所定の温度(ΔT)については、これまでの操業実績などを考慮して設定するようにする。これは、脱硫が不良に終った場合には、温度の高い溶銑部分を直接撮影することとなり、高温の小領域の存在が確認できるためである。脱硫が良好に行われた図4では、最頻温度に所定の温度(ΔT)をプラスした温度以上の高温はみられないのに、脱硫が不良に終った図5では、楕円形で囲った高温部が存在する。
【0027】
Step06でYesと判断した場合には、「脱硫不良」と判定(Step07)し、反対にNoと判断した場合には、「脱硫良好」と判定(Step08)して処理を終了する。
【0028】
続いて、他の脱硫不良判定処理手順を説明する。図6は、本発明に係る脱硫不良判定方法の処理手順の他の一例を示す図である。そして、図7および図8は、脱硫直後の溶銑浴面画像および処理結果の一例を示す図であり、それぞれ脱硫が良好に行われた場合および脱硫が不良に終った場合の例を示している。前述した処理手順と同様に、図7および図8のそれぞれの上段に示す図は、溶銑浴面画像であり、それぞれの下段に示す図は、これから説明する処理結果を示す図である。
【0029】
先ず、Step11にて、赤外線カメラ8で脱硫直後の溶銑浴面を撮影する。そして、撮影された画像は、判定装置9に送られて次に説明をする一連の処理が行われる。
【0030】
Step12では、受取った画像の内、判定に用いる画像範囲を設定する。この場合は、一次元方向の区間を設定し、例えば図7および図8の上段図に示す縦方向のA−B区間とする。なお、この区間は画像の端に取るのでなく、画像のうちの溶銑、スラグと確認できる範囲のできるだけ中央部に設定することが好ましい。
【0031】
次のStep13では、設定A−B区間での温度分布図を作成する。図7および図8の下段図に示すような、横軸に位置、縦軸に温度をそれぞれとった、A−B区間での温度分布図ができる。
【0032】
そしてStep14にて、A−B区間での温度分布の内、両端部分を除いた中央部分の温度分布を判定対象とし、対象とした中央部分の温度分布をさらに等間隔の小区間(例えば、図7および図8の場合は5区間)に分割する。分割する間隔については、スラグ径、画像条件などを考慮して適宜選択するものとする。
【0033】
Step15にて、分割した小区間での最大温度と最小温度の温度差ΔTmax-minを演算し、演算したΔTmax-minが予め決めた閾値より大きいかどうかを判断する(Step16)。Tmax-minの閾値については、これまでの操業実績などを考慮して設定するようにする。
【0034】
図8のように、ΔTmax-minが大きい場合(Step16でYesと判断した場合)には、「脱硫不良」と判定(Step17)し、反対にNoと判断した場合には、「脱硫良好」と判定(Step18)して処理を終了する。
【符号の説明】
【0035】
1 溶銑鍋
2 溶銑
3 脱硫剤
4 予備処理スラグ
5 回転駆動装置
6 回転軸
7 インペラー
8 赤外線カメラ
9 判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱硫処理直後の溶銑鍋中にある溶銑の浴面を赤外線カメラで撮影し、撮影した画像の画像処理を行うことにより、前記溶銑の脱硫具合の良否を判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の脱硫不良判定方法において、
前記画像処理は、
前記画像を2次元メッシュに切り、各小領域毎の温度を算出し、
算出した小領域の温度をもとにしたBoxヒストグラムを作成し、
該Boxヒストグラム中の頻度が一番多い最頻温度を求め、
最頻温度に所定の温度をプラスした温度以上の高温域があれば、脱硫処理が不良に終ったと判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の脱硫不良判定方法において、
前記画像処理は、
前記画像の一次元方向の所定区間を設定し、
該区間の温度分布の内、両端部分を除いた中央部分の温度分布をさらに等間隔の小区間に分割し、
分割した小区間での最大温度と最小温度の温度差を演算し、
該温度差が予め決めた閾値より大きければ、脱硫処理が不良に終ったと判定することを特徴とする脱硫不良判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97344(P2012−97344A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248153(P2010−248153)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】