説明

脱臭乾燥機

【課題】光触媒を利用して効果的に脱臭を行い、且つ光触媒の活性化のための光の照射で被乾燥物の樹脂を劣化させることのない、簡便な脱臭乾燥機を提供すること。
【解決手段】本発明の脱臭乾燥機10は、被乾燥物14に対向して連続の壁を形成するよう配置した、回転式の複数の壁部材16と、この壁部材16により形成した連続壁の背後に位置する光照射手段20とを含み、壁部材16の表面に、光触媒活性と高温での吸着特性を併せ持つ光触媒を有することを特徴とする。光触媒としては、カルシウムヒドロキシアパタイトのカルシウムの一部をチタンに置換した光触媒アパタイトを好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭機能を有する乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば樹脂をフィラーなどと混練する際などには、それぞれの吸着水分を除去するため予備乾燥を行うが、その際に、樹脂から異臭が発生し、作業環境を著しく悪化させると同時に、乾燥機内に充満した臭いがフィラーなどに吸着する問題がある。また、終了後、乾燥機内に臭いが残り、次回に使用する際にも影響を及ぼす。
【0003】
このような場合に異臭を除去する方法としては、排気設備を用いたり、もしくは排気設備と脱臭剤を併用する方法がある。しかし、排気設備は一般に大掛かりとなり、脱臭剤は吸着能力が飽和する、もしくは高温時に吸着した成分を放出する問題がある。そこで、光触媒を併用して臭い成分の分解を行い、脱臭する方法が考えられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、集塵フィルターと、酸化チタン、チタンアパタイト等の光触媒フィルターとを併用する空調装置が記載されている。光触媒フィルターに付着した臭い成分を分解するため、紫外線照射ユニットが用いられている。光触媒フィルターは固定されており、そして室温で使用される。
【0005】
特許文献2には、熱風中の汚染物質を除去する装置が記載されており、二酸化チタン等を光触媒として用いることが示されている。特許文献2に記載された光触媒は、付着した汚染物質を分解するものであり、高温で吸着作用を示すものは記載されていない。
【0006】
特許文献3には、脱臭目的ではなく、レンジフードの付着油の分解に光触媒を用いる技術が記載されている。光触媒は、調理中などの油煙発生時に付着した油を、調理終了後に紫外線の照射で活性化されることにより分解する。
【0007】
【特許文献1】特開2005−334162号公報
【特許文献2】特開平11−333860号公報
【特許文献3】特開平10−185265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二酸化チタンに代表される通常の光触媒は、付着又は接触した物質しか分解することができない。また、光触媒による分解には光(紫外線や可視光)の照射が必須だが、そうした光、特に紫外線が、光触媒以外の有機樹脂に当たることは、樹脂の劣化の問題もあり好ましくない。そのため、乾燥機での乾燥の際に、光触媒に照射する光が乾燥中の樹脂に当たることは、避けなくてはならない。
【0009】
そこで、本発明は、光触媒を利用して効果的に脱臭を行い、且つ光触媒の活性化のための光の照射で被乾燥物の樹脂を劣化させることのない、簡便な脱臭乾燥機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、光触媒の中には、光触媒アパタイトとして知られるもののように、高温時に吸着した臭い成分の放出が少ないものがあることを発見した。本発明の脱臭乾燥機においては、このような特異な特性を示す光触媒を活用する。
【0011】
光触媒活性と高温での吸着特性を併せ持つ光触媒を利用する本発明の脱臭乾燥機は、被乾燥物に対向して連続の壁を形成するよう配置した、回転式の複数の壁部材と、この壁部材により形成した連続壁の背後に位置する光照射手段とを含み、壁部材の表面に、光触媒活性と高温での吸着特性を併せ持つ光触媒を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被乾燥物に対向する連続壁にある高温での吸着特性を持つ光触媒が、被乾燥物から発生する臭い成分を吸着することにより、脱臭効果を高めることができる。回転により連続壁の背後の光照射手段に面する側に移動した壁部材の面に吸着されている臭い成分は、光照射手段からの光により触媒作用を示す光触媒により分解され、その際、光照射手段からの光は連続壁に遮られて、被乾燥物に当たることはない。脱臭乾燥中に光照射手段を運転することにより、脱臭と吸着した臭い成分の分解を同時に行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の脱臭乾燥機は、被乾燥物を加熱することによりその乾燥を行う装置であり、その加熱方式は特に限定されず、炉内雰囲気をセラミックヒータや電熱器にて加熱するなどの通常の加熱方式を採用することができる。
【0014】
図1に、本発明の脱臭乾燥機を模式的に示す。この脱臭乾燥機10は、閉鎖容器12内の被乾燥物14に対向するように配置した複数の光触媒壁部材(以下、簡単のために単に「壁部材」と呼ぶ)16と、この壁部材16により形成した連続壁の背後に、好ましくは閉鎖容器12の内壁18に固定して、位置する光照射手段20を含む。連続壁は、図1において三角形の断面を持つ壁部材16の、被乾燥物14に面する面16aによって形成されている。この連続壁に遮られて、光照射手段20から照射した光は被乾燥物14には達しない。
【0015】
壁部材16の表面には、光触媒活性と高温での吸着特性を併せ持つ光触媒(図示せず)があり、加熱により被乾燥物14から発生した臭い成分は、壁部材16の面16aの光触媒に吸着される。壁部材16は、例えば一定時間ごとに、回転軸17を中心に回転する機構を備え、臭い成分を吸着した面16aと光照射側の面16bの入れ替えを可能にする。その作用を、図2を参照して、壁部材16の一つについて説明すると、それは被乾燥物14(図1)側の面16aで乾燥時に樹脂から発生する臭い成分30を吸着し、吸着能力が飽和する前に、光照射手段20(図1)からの光22の照射側の面16bと入れ替わり、吸着した臭い成分30を光触媒活性により分解する。同時に、それまで光照射され、表面が清浄化された面16bが臭い成分をよく吸着する。壁部材16の被乾燥物に面する面の光触媒は、光照射手段20(図1)からの光にさらされず、この一連の動作を繰り返すことができ、常に清浄化された面で臭い成分を吸着し、臭い成分を吸着した面は光により清浄化される。光照射手段は常時点灯し、臭い成分の付着した面を常に清浄化する。これにより、乾燥機の起動中にも臭い成分の吸着と分解をすることができるため効率が良い。
【0016】
発明者らは、光触媒活性を持つことが知られた物質の中には、高温で吸着特性を示すものがあることを見いだした。本発明では、光触媒としては、そのような特性を示すものを使用する。
【0017】
本発明で使用する光触媒の代表例は、光触媒アパタイトとして知られるものである。光触媒アパタイトは、再表2004/026470号公報に記載されたように、アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属原子であるアパタイトであり、光触媒性金属原子とは、酸化物の状態で光触媒中心として機能し得る金属原子である。光触媒アパタイトにおいて、その基本骨格を構成するアパタイトは、次のような一般式によって表すことができる。
x(BOyzs (1)
式(1)におけるAは、Ca、Co、Ni、Cu、Al、La、Cr、Fe、Mgなどの各種の金属原子を表す。Bは、P、Sなどの原子を表す。Xは、水酸基(−OH)やハロゲン原子(例えば、F、Cl)などである。より具体的には、光触媒アパタイトの基本骨格を構成するアパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。そのうち、本発明において特に好適に用いることのできる光触媒アパタイトは、カルシウムヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)を構成する10個のCaの一部、典型的には1個が、Tiに置換された結晶構造をもつものである。
【0018】
回転により被乾燥物14に面する各面16a〜16c(図1)に光触媒アパタイトを有する複数の壁部材16は、その面の一つ(図1では16a)が被観測物14に面し、且つ隣接した壁部材の被乾燥物14に面した面とともに、被乾燥物14に面した連続壁を形成するように配列される。本発明では、こうして形成される吸着作用を有する連続壁を1つ以上提供するように、壁部材16を配列することができる。
【0019】
壁部材16は、図1に例示したような三角柱状の部材、あるいは円柱状もしくは多角柱状の部材として作製することができる。このような柱状構造の部材の中心を軸に、部材を回転させることができる。特に図1、2のような三角柱構造の回転部材では、吸着時間よりも分解時間を長く取ることができ、吸着した臭い成分を確実に分解し、吸着面を清浄化することが可能である。吸着特性を兼ね備えた光触媒は、そのような柱状構造の壁部材の表面にあればよい。
【0020】
本発明における壁部材を作製する方法は、特に限定されず、例えば、三角柱状の支持材表面に光触媒をコーティング液等で固定する方法や、スパッタリングで被着する方法などを挙げることができる。粉体の光触媒を型に入れ、圧粉して所定の形状に成形したものが、光触媒粉末が部材表面全体に剥き出しのため吸着能力が高く、特に望ましい。
【0021】
また、表面に光触媒層を形成したエンドレスベルト状の部材を作製し、ベルトの輪の両端にローラーを設けて回転させるようにしてもよい。
【0022】
本発明の脱臭乾燥機における光照射手段としては、光触媒に吸着した臭い成分を分解するのに有効な光触媒活性作用を生じさせることができる、紫外線、あるいは可視光などを発生することができる任意の手段を使用することができる。例えば図1に示したように断面三角形の壁部材16を配列して光照射手段からの光を遮断する連続壁を構成した場合には、壁部材16を回転する際に部材間に生じる間隙を通して、光照射手段からの光が被乾燥物14に当たる可能性があるが、その時間は極めて短時間であり、被乾燥物を劣化させるなどの悪影響は無視することができる。
【実施例】
【0023】
光触媒アパタイト(太平化学製PHOTOHAP)粉末を型に入れ、9tf(約90kN)の荷重をかけて100×150mmの光触媒アパタイト平板を圧粉成形した。次に、三角柱の支持材の各側面に光触媒アパタイト平板を貼り合わせ、三角柱の中心部に回転軸を通した光触媒アパタイト部材を作製した。汎用の乾燥機の内壁に紫外線光源を設け、光源と被乾燥物との間に連続の光触媒壁を構成するように三角柱の部材を配列して、図1に模式的に示したような本発明の脱臭乾燥機を作製した。
【0024】
この脱臭乾燥機にABS樹脂のサンプルを入れ、70℃に加熱して、その評価を、人間の嗅覚による6段階臭気強度表示法によって行った。この6段階臭気強度表示法では、対象となる臭いを5人がそれぞれ直接嗅いで、0〜5の6段階(0:無臭、1:やっと感知できる臭い、2:何の臭いであるか分かる弱い臭い、3:容易に感知できる臭い、4:強い臭い、5:強烈な臭い)で評価し、5人の評点の平均値により評価した。
【0025】
この評価結果を、光触媒壁を用いない比較の評価結果とともに、図3に示す。この図より、光触媒壁なしの場合には、運転開始間もなくから8時間後の実験終了時に至るまで、絶えず最大強度の強烈な臭いが認められたのに対し、光触媒壁を設けた場合には、運転開始後間もない時点で強度3の臭いが感知された以降、臭いの強度は低下して、4時間以降ではほぼ無臭近くの臭気強度であり、高い脱臭効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の脱臭乾燥機を模式的に説明する図である。
【図2】本発明の脱臭乾燥機で使用する壁部材の作用を説明する模式図である。
【図3】本発明の脱臭乾燥機の評価結果を、光触媒壁を使用しない乾燥機の評価結果とともに示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
10 脱臭乾燥機
14 被乾燥物
16 光触媒壁部材
20 光照射手段
30 吸着した臭い成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物に対向して連続の壁を形成するよう配置した、回転式の複数の壁部材と、この壁部材により形成した連続壁の背後に位置する光照射手段とを含み、壁部材の表面に、光触媒活性と高温での吸着特性を併せ持つ光触媒を有することを特徴とする脱臭乾燥機。
【請求項2】
前記光触媒が、カルシウムヒドロキシアパタイトのカルシウムの一部をチタンに置換した光触媒アパタイトである、請求項1記載の脱臭乾燥機。
【請求項3】
前記光触媒アパタイトが、カルシウムヒドロキシアパタイトを構成するカルシウムの1つをチタンに置換したものである、請求項2記載の脱臭乾燥機。
【請求項4】
前記壁部材が三角柱状であり、その3つの側面のそれぞれが前記光触媒を有する、請求項1から3までのいずれか一つに記載の脱臭乾燥機。
【請求項5】
前記回転式の壁部材の被乾燥物に面する面への被乾燥物からの臭い成分の吸着と、当該壁部材の被吸着物に面しない面に吸着している当該臭い成分の分解を同時に行う、請求項1から4までのいずれか一つに記載の脱臭乾燥機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−263486(P2007−263486A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90389(P2006−90389)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】