説明

脱臭素子とそれを用いた脱臭方法および調理器具

【課題】金属微粒子による触媒機能を利用して、臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することができる脱臭素子と、前記脱臭素子を用いた脱臭方法と、前記脱臭素子を組み込んだ、炊飯器等の調理器具とを提供する。
【解決手段】脱臭素子は、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層と、対向電極層とを、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層した。脱臭方法は、脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整しながら、臭気成分を分解する。調理器具は、脱臭素子と、前記脱臭素子に印加する電圧を調整するための制御手段とを組み込んだ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気成分を分解して脱臭するための脱臭素子と、前記脱臭素子を用いた脱臭方法と、前記脱臭素子を組み込んだ調理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炊飯器の分野においては、主として加熱手段や加熱方式の改良を行うことで、ご飯を、よりおいしく炊き上げることが研究されてきたが、ご飯を炊き上げる際や、炊き上げたご飯を保温する際等に発生する臭気については、あまり考慮されていなかった。ご飯を炊き上げる際に発生する臭気は、例えば、炊飯器の通気孔を通して、水蒸気と共に外部に拡散したり、炊飯器の蓋を開いた際に外部に放散したりするが、人によっては、この特有の臭気により不快感を生じるおそれがあった。また、炊飯器中で長時間保温する程、臭気が強くなって、ご飯がおいしくなくなるという問題もあった。
【0003】
そこで、活性炭等の、物理的吸着機能を有する多孔質体に、ご飯の臭気成分を吸着させて脱臭したり(特許文献1参照)や、白金族等の金属が、ナノメーターレベルの金属微粒子にすると触媒機能を発揮することを利用して、前記臭気成分を、前記触媒機能によって分解させて脱臭したり(特許文献2参照)することが提案された。また、前記物理的吸着機能によって多孔質体に吸着させた臭気成分を、加熱して、前記多孔質体から脱着させる際に、金属微粒子による触媒機能によって分解させることも提案された(特許文献3参照)。
【特許文献1】実開平6−11623号公報
【特許文献2】特開2000−316713号公報
【特許文献3】特開平4−166112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1、3に記載された、多孔質体による物理的吸着機能には限界があり、一定量の臭気成分を吸着した後は、前記機能が著しく低下するため、多孔質体を定期的に交換したり、あるいは特許文献3に記載されているように、定期的に、多孔質体を加熱する等して、臭気成分を脱着させる操作を行ったりしなければならず、保守が面倒であるという問題があった。一方、特許文献2に記載された、金属微粒子による触媒機能には、多孔質体による物理的吸着機能のような限界はなく、前記金属微粒子の表面が、例えば触媒毒によって汚染されて触媒機能が失われない限り、殆ど保守をすることなく、長期間に亘って、臭気成分を分解し続けることができると考えられる。
【0005】
しかし、例えば特許文献2に記載されているように、単に、金属微粒子を担持させた触媒体を、炊飯器の、内釜を閉じる内蓋の内側面等に配設して、炊飯時あるいは保温時の熱によって加熱するだけでは、前記金属微粒子に触媒機能を発揮させて、臭気成分を、効率良く分解させることができず、脱臭の効率が低いという問題があった。また、特許文献3に記載されているように、多孔質体による物理的吸着機能と、金属微粒子による触媒機能とを組み合わせた場合には、金属微粒子のみの場合に比べて、脱臭の効率を、ある程度は向上できるものの、先に説明したように、多孔質体から臭気成分を脱着させる操作を定期的に繰り返す必要があって、保守が面倒であり、金属微粒子の触媒機能を利用することの主な利点である、保守の手間を省く効果が得られないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、多孔質体による物理的吸着機能のような限界がないため、保守の手間を省くことができる、金属微粒子による触媒機能を利用して、臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することができる脱臭素子と、前記脱臭素子を用いた脱臭方法と、前記脱臭素子を組み込んだ、炊飯器等の調理器具とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層と、対向電極層とが、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層されたことを特徴とする脱臭素子である。前記本発明の脱臭素子によれば、例えば、炊飯器等の調理器具の場合には炊飯時や保温時に発生する水分の存在下、触媒電極層をアノード、対向電極層をカソードとして、前記両電極間に直流電圧を印加することで、前記水分を、絶縁層中でプロトンの輸送媒体として機能させながら、ご飯の臭気の主成分であるアセトアルデヒド等を、触媒電極層におけるアノード分解反応によって、これまでよりも効率良く分解させることができる。
【0008】
また、前記水分の存在下、逆に、触媒電極層をカソード、対向電極層をアノードとして、前記両電極間に直流電圧を印加することで、前記水分を、絶縁層中でプロトンの輸送媒体として機能させて、前記ご飯の臭気成分の、もう一つの主成分である二硫化メチル等を、触媒電極層におけるカソード分解反応によって、これまでより効率良く分解させることもできる。そのため、多孔質体による物理的吸着機能のような限界がないため、保守の手間を省くことができる、前記金属微粒子による触媒機能を利用しながら、臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することが可能となる。
【0009】
前記本発明の脱臭素子においては、対向電極層が、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層であっても良い。その場合には、一方の触媒電極層をアノード、他方の触媒電極層をカソードとして、両電極間に直流電圧を印加することで、先に説明したアノード分解反応とカソード分解反応とを、それぞれの触媒電極層において、同時に進行させることができるため、臭気成分を、より一層、効率良く分解させて脱臭することができる。なお、対向電極層は、金属微粒子が担持されていない単なる電極層でも良く、その場合には、前記対向電極層と触媒電極層に印加する電圧の極性を、例えば炊飯中や保温中に、定期的に入れ替えることで、前記1つの触媒電極層によって、先に説明したアノード分解反応とカソード分解反応とを交互に進行させることができる。
【0010】
本発明は、前記本発明の脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御しながら、臭気成分を分解することを特徴とする脱臭方法である。前記本発明の脱臭方法によれば、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、前記触媒電極層の金属微粒子による触媒機能、ひいては、前記触媒電極層による、臭気成分を分解させて脱臭する機能を、任意に制御することができる。そのため、例えば炊飯時に、印加する電圧を、触媒電極層による、臭気成分を分解させて脱臭する機能を最大限に発揮させることができる電圧と、前記機能を殆ど発揮させない電圧との間で任意に調整する等して、ご飯中の臭気成分の量を、任意に調整すること等が可能となる。
【0011】
炊飯時に発生する臭気成分は、少量であれば、ご飯の旨みを増進するために機能するとの知見があり、本発明の脱臭方法を実施して、臭気成分の量を適度に調整することで、ご飯を、より一層、おいしく炊くことができる。本発明は、前記本発明の脱臭素子と、前記脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整して、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御するための制御手段とを組み込んだことを特徴とする調理器具である。本発明によれば、以上で説明した脱臭素子の機能によって、炊飯時や保温時に発生する臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することができる上、本発明の脱臭方法を実施して、臭気成分の量を適度に調整することで、ご飯を、より一層、おいしく炊くことが可能となる。
【0012】
脱臭素子は、例えば、被調理物を収容するための調理容器と、前記調理容器を閉じるための内蓋と、調理容器を収容するための器具本体と、前記器具本体を閉じるための外蓋とを備えると共に、前記外蓋に通気孔が設けられた本発明の調理器具の、前記通気孔に、触媒金属層を露出させた状態で配設することができる。その場合には、例えば炊飯時に、前記通気孔を通して、水蒸気と共に外部に拡散する臭気成分を、脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加することで、効率良く分解して除去することができる。そのため、前記通気孔を通して、水蒸気と共に外部に拡散したり、炊飯器の蓋を開いた際に外部に放散したりする臭気を抑制することができる。
【0013】
また、前記通気孔にファンが配設されている場合には、例えば保温時に、前記ファンを駆動させると共に、脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加して、調理容器内で発生する臭気成分を、通気孔を通して外部に排出しながら、分解させて除去することができる。そのため、保温したご飯の臭気が強くなって、おいしくなくなるのを抑制することができる。また、脱臭素子は、前記調理器具の内蓋の、調理容器の内側面に配設することもできる。その場合には、炊飯時や保温時に、調理容器内で発生する臭気成分を、脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加することで、前記調理容器内で分解させて除去することができる。
【0014】
また、内蓋が金属によって形成され、前記内蓋の、調理容器の内側面に撥水性コーティングが施されていると共に、前記撥水性コーティングの表面の少なくとも一部に、金属微粒子が担持された触媒電極層が形成されて、前記撥水性コーティングを、プロトン透過性を有する絶縁層、内蓋を対向電極層として、前記内蓋の、調理容器の内側面に、脱臭素子が、前記内蓋と一体化させて構成されている場合には、調理器具の構造を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多孔質体による物理的吸着機能のような限界がないため、保守の手間を省くことができる、金属微粒子による触媒機能を利用して、臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することができる脱臭素子と、前記脱臭素子を用いた脱臭方法と、前記脱臭素子を組み込んだ、炊飯器等の調理器具とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《脱臭素子》
本発明の脱臭素子は、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層と、対向電極層とが、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層されたことを特徴とするものである。前記のうち、触媒電極層を構成する導電性基体としては、導電性を有し、かつ金属微粒子を担持させることができる、層状の、種々の導電性基体が使用可能であるが、例えばカーボンペーパーやカーボンフェルト等の、カーボン繊維からなる多孔質のシートが好ましい。前記カーボン繊維からなる多孔質のシートは、分解反応によって発生するプロトンによる、強酸性雰囲気に対する耐性に優れている上、多孔質ゆえに、多数の金属微粒子を担持させることができるため、臭気成分を分解させて脱臭する効率を、さらに向上できるという利点を有している。
【0017】
カーボンペーパーとしては、例えば、単繊維状のカーボン繊維を、湿式または乾式抄紙する等して製造される、任意の厚みや坪量を有するものが、いずれも使用可能である。また、カーボンフェルトとしては、単繊維状のカーボン繊維をカーディング等した後、積層し、ニードルパンチ加工等によって互いに結合させる等して製造される、任意の平均繊維径や目付け量を有するものが、いずれも使用可能である。ただし、脱臭素子を、できるだけ薄型化することを考慮すると、導電性基体としては、カーボンペーパーが好適に使用される。
【0018】
前記カーボンペーパー等の導電性基体に金属微粒子を担持させた触媒電極層としては、種々の構造を有するものを採用することができる。すなわち、前記触媒電極層としては、(1) 導電性基体の表面に、直接に、金属微粒子を担持させたものの他、(2) 前記金属微粒子を、例えばカーボンブラック等の導電性粉末の表面に担持させた複合粒子を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂中に分散させた膜を、導電性基体の表面に積層した積層構造を有するもの等を採用することもできる。前記(1)の触媒電極層は、例えば、金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む溶液中に、導電性基体を浸漬した状態で、還元剤の作用によって、前記金属のイオンを還元させて、微粒子状に析出させると共に、導電性基体の表面(前記カーボンペーパー等の、多孔質の導電性基体の場合は、孔の内表面も含む)に直接に担持させることによって構成される。
【0019】
また、(2)の触媒電極層は、例えば、前記と同様の方法で、カーボンブラック等の導電性粉末の表面に、金属微粒子を担持させた複合粉末を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂の液中に配合して塗布液を調製した後、前記塗布液を、導電性基体の表面に塗布し、乾燥させて、複合粉末が分散されたバインダ樹脂の膜を形成することによって構成される。前記(2)の触媒電極層においては、導電性基体として、先に説明したカーボンペーパー、カーボンフェルト等の、多孔質で、通気性を有するものを用いると共に、バインダ樹脂の膜が、プロトン透過性を有する絶縁層と接するように、前記絶縁層と積層して使用される。
【0020】
前記積層状態においては、多孔質の導電性基体によって、金属微粒子と臭気成分との接触を維持しながら、前記金属微粒子を含む複合粒子を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂からなる膜中に分散させたことと、前記膜を、導電性基体と絶縁層とで挟んだこととの相乗効果によって、金属微粒子の脱落等を防止して、より長期間に亘って、触媒機能を発揮させることができるという利点がある。金属微粒子のもとになる金属としては、例えばルテニウム、パラジウム、オスミウム、白金等の白金族の金属や、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族の金属、あるいはバナジウム、マンガン、銀、金等の、金属微粒子にすると触媒機能を発揮する種々の金属、前記金属の2種以上の合金、あるいは、前記金属の1種または2種以上と、他の金属との合金等が挙げられる。
【0021】
なお、特に、カソード分解反応によって二硫化メチル等を分解させる場合は、分解によって発生する硫黄イオンが触媒毒として作用して、金属微粒子の触媒機能を阻害するおそれがある。ただし、ご飯を炊く際に発生する二硫化メチルの量は、きわめて微量であって、メインは、アノード分解反応によるアセトアルデヒド等の分解であるため、実用上は差し支えないが、前記金属微粒子の、触媒毒に対する耐性を高めて、触媒機能を、より一層、良好に維持することを考慮すると、金属微粒子を合金化しておくのが好ましい。前記合金としては、例えば白金とパラジウムの、質量比Pt/Pd=7/3〜9/1程度の合金等が挙げられる。
【0022】
金属微粒子の粒径は、良好な触媒機能を発揮させることを考慮すると100nm以下、特に0.5〜50nmであるのが好ましい。(2)の触媒金属層に用いる、プロトン透過性を有するバインダ樹脂としては、プロトン透過性を有する種々の高分子電解質等が使用可能である。前記高分子電解質としては、例えばパーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの(H+)型の共重合体〔イー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニー(E.I.du Pont de Nemours & Company)製の登録商標NAFION(ナフィオン)〕の溶液や水分散液が好適に使用される。前記溶液や水分散液中に複合粉末を配合することで、先に説明した塗布液を、簡単に調整することができる。
【0023】
触媒金属層における、金属微粒子の担持量は、例えば導電性基体としてカーボンペーパーを用いた触媒金属層の場合、前記触媒金属層における、先に説明したアノード分解反応、カソード分解反応を、できるだけ効率良く進行させることを考慮すると、単位面積あたりの担持量で表して0.01〜5000mg/m2、特に1〜500mg/m2であるのが好ましい。なお、担持量は、合金からなる金属微粒子の場合、合金のうち、触媒として機能しうる金属の担持量を示すこととする。前記触媒電極層と、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層される対向電極としては、導電性を有する種々の材料からなるものが使用可能である。前記対向電極としては、例えば各種金属の板材や、触媒金属層の導電性基体として使用するのと同じ、カーボンペーパーやカーボンフェルト等の、カーボン繊維からなる多孔質のシート等が挙げられる。
【0024】
また、先に説明したように、炊飯器等の調理器具の、調理容器の内蓋の内側面に、前記内蓋と一体化させて、脱臭素子が構成される場合には、内蓋自体を、例えばステンレス鋼やアルミニウム等の、内蓋の形成材料として常用されている金属によって形成して、対向電極として機能させることもできる。また、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層を、対向電極層として用いることもできる。すなわち、本発明の脱臭素子は、2層の触媒電極層が、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層された構成とすることも可能である。前記構成によれば、一方の触媒電極層をアノード、他方の触媒電極層をカソードとして、両電極間に直流電圧を印加することで、アノード分解反応とカソード分解反応とを、それぞれの触媒電極層において、同時に進行させることができる。
【0025】
プロトン透過性を有する絶縁層としては、プロトン透過性を有すると共に絶縁性であり、しかも、プロトンの輸送媒体として機能させる水分を含ませることができる、種々の高分子化合物からなる膜が使用可能である。前記膜としては、例えば、先に説明した、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの(H+)型の共重合体〔イー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニー製のナフィオン〕等の、プロトン透過性を有する高分子電解質の膜が挙げられる。
【0026】
また、炊飯器等の調理器具の、調理容器の内蓋の内側面に、前記内蓋と一体化させて、脱臭素子が構成される場合には、内蓋の内側面に、撥水性付与のために形成される、フッ素コーティング等撥水性コーティングを、プロトン透過性を有する絶縁層として利用することもできる。その場合には、前記撥水性コーティングの、少なくとも触媒電極層が形成される領域を親水化しておくのが、プロトンの輸送媒体として機能させる水分を含ませやすくして、絶縁層としてのプロトン透過性を高める上で好ましい。
【0027】
例えば、触媒電極層として、(2)の積層構造を有するものを用いた本発明の脱臭素子は、先に説明したように、前記触媒電極層の、プロトン透過性を有するバインダ樹脂からなり、複合粒子を分散させた膜が、プロトン透過性を有する絶縁層と接するように、前記絶縁層の片面に重ね合わせ、かつ、絶縁層の反対面に対向電極層を重ね合わせた状態で、前記各層の積層体を固定すると共に、前記触媒電極層、および対向電極層に、電圧印加のための配線を接続することで構成される。対向電極層が触媒電極層である場合には、先の触媒電極層と同様に、プロトン透過性を有するバインダ樹脂からなり、複合粒子を分散させた膜が、絶縁層と接するように、前記絶縁層の片面に重ね合わせれば良い。
【0028】
《脱臭方法》
本発明の脱臭方法は、前記本発明の脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御しながら、臭気成分を分解することを特徴とするものである。金属微粒子による触媒機能は、電圧を印加しない状態から、印加する電圧値に応じて一方的に上昇するのではなく、例えば、前記金属微粒子を形成する金属や合金の種類、粒径等に応じて異なるものの、触媒機能を、電圧を印加しない場合よりも低下させて、殆ど機能させない状態にできる固有の電圧を、それぞれの金属微粒子は有している。
【0029】
そのため、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を、前記固有の電圧と、金属微粒子による触媒機能を最大限に発揮させることができる電圧との間で任意に調整するようにすると、触媒電極層による、臭気成分を分解させて脱臭する機能を、任意に制御することができる。したがって、例えば炊飯時に、印加する電圧を、触媒電極層による、臭気成分を分解させて脱臭する機能を最大限に発揮させることができる電圧と、前記機能を殆ど発揮させない電圧との間で任意に調整する等して、ご飯中の臭気成分の量を、任意に調整すること等が可能となる。先に説明したように、炊飯時に発生する臭気成分は、少量であれば、ご飯の旨みを増進するために機能するとの知見があり、本発明の脱臭方法を実施して、臭気成分の量を適度に調整することで、ご飯を、より一層、おいしく炊くことができる。
【0030】
《調理器具》
本発明の調理器具は、前記本発明の脱臭素子と、前記脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整して、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御するための制御手段とを組み込んだことを特徴とするものである。本発明によれば、先に説明した脱臭素子の機能によって、炊飯時や保温時に発生する臭気成分を、これまでよりも効率良く分解させて脱臭することができる上、本発明の脱臭方法を実施して、臭気成分の量を適度に調整することで、ご飯を、より一層、おいしく炊くことが可能となる。図1は、本発明の調理器具としての炊飯器1の、実施の形態の一例を示す概略図である。
【0031】
図1を参照して、この例の炊飯器1は、被調理物を収容するための調理容器としての内釜2と、前記内釜2を閉じるための内蓋3と、内釜2を収容するための器具本体4と、前記器具本体4を閉じるための外蓋5とを備えている。外蓋5は、図示しないヒンジによって、器具本体4に開閉自在に接続されており、内蓋3は、前記外蓋5に取り付けられて、その開閉に伴って、内釜2を開閉する。外蓋5には、調理時等に発生する水蒸気を外部に拡散させるための通気孔6が設けられており、前記通気孔6内に、本発明の脱臭素子7と、ファン8とが配設されている。図において符合9は、内釜2を加熱するためのヒータである。
【0032】
脱臭素子7は、通気孔6に、触媒金属層を露出させた状態で配設される。例えば、平板状の脱臭素子7の場合は、前記板の面方向である触媒金属層の表面を、通気孔6の、水蒸気の流通方向と略平行に向けた状態で、通気孔6内に配設すればよい。また、脱臭素子7を、触媒電極層が通気孔6を構成する内壁面と一致する、円弧状、筒状等となるように湾曲形成して、前記内壁面に組み込んでもよい。図2は、図1の例の炊飯器1の、電気的な構成を示すブロック図である。図2を参照して、脱臭素子7、ファン8、およびヒータ9は、制御手段10によって、ドライバ11を介して駆動制御される。制御手段10には、炊飯器の操作部としてのコントロールパネル12が接続されている。コントロールパネル12からの入力は、制御手段10へ与えられる。
【0033】
制御手段10内には、各種動作のタイミングを規定するためのタイマ13と、あらかじめ設定された各種動作、具体的には、幾種類か設定された炊飯動作や、それに応じた脱臭動作の手順、あるいは、前記各種動作の基準となる初期値等を登録したメモリ14が設けられている。制御手段10は、コントロールパネル12からの入力、タイマ13によって規定したタイミング、ならびにメモリ14に登録した動作の手順やその初期値等に基づいて、種々の演算を行い、それに基づいて、制御信号をドライバ11へ与える。そうするとドライバ11は、与えられる制御信号に基づいて、脱臭素子7、ファン8、ヒータ9の駆動制御を行う。
【0034】
前記各部を備えた、図1、図2の例の炊飯器1においては、例えば炊飯時に、所定のタイミングで、脱臭素子7の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加することで、通気孔6を通して、水蒸気と共に外部に拡散する臭気成分を、効率良く分解して除去することができる。そのため、前記通気孔6を通して、水蒸気と共に外部に拡散したり、炊飯器1の外蓋5と内蓋3とを開いた際に外部に放散したりする臭気を抑制することができる。また、先に説明したように、脱臭素子7の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、臭気成分の量を適度に調整して、ご飯を、より一層、おいしく炊くことも可能となる。
【0035】
また、特に保温時にファン8を駆動させると共に、脱臭素子7の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加することで、内釜2内で発生する臭気成分を、通気孔を通して外部に排出しながら、分解させて除去することができ、保温したご飯の臭気が強くなって、おいしくなくなるのを抑制することもできる。図3は、本発明の調理器具としての炊飯器1の、実施の形態の他の例を示す概略図である。図3を参照して、この例の炊飯器1は、脱臭素子7を、内蓋3の、内釜2の内側面(図において下側面)に配設すると共に、ファン8を省略した点が、先の図1の例と相違している。その他の構成は、図1の例と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して、説明を省略する。
【0036】
また、電気的な構成は、図2の例からファン8を除いただけで、他は同様であるので、やはり説明を省略する。前記図3の例によれば、例えば炊飯時や保温時に、所定のタイミングで、脱臭素子7の、触媒電極層と対向電極層との間に電圧を印加することで、内釜2内で発生する臭気成分を、前記内釜2内で分解させて除去することができる。そのため、通気孔6を通して、水蒸気と共に外部に拡散したり、炊飯器1の外蓋5と内蓋3とを開いた際に外部に放散したりする臭気を抑制することができる。また、脱臭素子7の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、臭気成分の量を適度に調整して、ご飯を、より一層、おいしく炊くことも可能となる。さらに、保温したご飯の臭気が強くなって、おいしくなくなるのを抑制することもできる。
【0037】
図4は、前記脱臭素子7を、内蓋3と一体化させた変形例を示す拡大断面図である。図の例では、内蓋3が金属によって形成され、前記内蓋3の、内釜2の内側面(図において下側面)に撥水性コーティング15が施されていると共に、前記撥水性コーティング15の表面の少なくとも一部に、金属微粒子が担持された触媒電極層16が形成されて、前記撥水性コーティング15を、プロトン透過性を有する絶縁層、内蓋3を対向電極層として、前記内蓋3の、内釜2の内側面に、脱臭素子7が、前記内蓋3と一体化させて構成されている。
【0038】
図の例によれば、炊飯器1の構造を簡略化することができる。また、内蓋3を洗う際等に、脱臭素子7が脱落したりするのを防止することもできる。なお、撥水性コーティング15は、少なくとも触媒電極層16が形成される領域を親水化しておくのが、プロトンの輸送媒体として機能させる水分を含ませやすくして、絶縁層としてのプロトン透過性を高める上で好ましい。本発明の構成は、以上で説明した例には限定されない。例えば、本発明の脱臭素子は、炊飯器等の調理器具の脱臭用には限定されず、例えば空気清浄機、エアコン、自動車等の、各種機器類における脱臭用として使用することができる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を施すことができる。
【実施例】
【0039】
《実施例1》
複合粒子として、導電性粒子としてのカーボンブラックの表面に、粒径50nmの白金−パラジウム合金の微粒子(質量比Pt/Pd=9/1)が、前記複合粒子の総量の30質量%の割合で担持されたものを用意した。前記複合粒子を、バインダ樹脂としての、プロトン透過性を有する高分子電解質〔前出のイー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニー製のナフィオン〕の2%溶液に加えて塗布液を調整し、前記塗布液を、厚み50μmのカーボンペーパーの片面に塗布し、乾燥させて膜を形成した後、縦5cm×横5cmの矩形状に切り出して、単位面積あたりの、白金の担持量が1mg/m2である触媒電極層を2枚、作製した。
【0040】
また、絶縁層としては、前記プロトン透過性を有する高分子電解質〔前出のイー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニー製のナフィオン〕のフィルム(厚み50μm)を用意した。そして、前記2枚の触媒電極層を、複合粒子を分散させた膜が、それぞれ、前記フィルムと接するように、前記フィルムの両面に重ね合わせた状態で、治具を用いて固定して、実施例1の脱臭素子を構成した。
【0041】
《比較例1》
ステンレス鋼(SUS304)製の、厚み1mmの板材の片面に、スパッタリング法によって、厚み10nmの、白金−パラジウム合金膜(質量比Pt/Pd=9/1)を形成したものを、比較例1の脱臭素子とした。
【0042】
《脱臭試験I》
前記実施例1の脱臭素子の絶縁層に、2mlのイオン交換水を滴下すると共に、両触媒電極層を、それぞれ、電源としての、外部直流型整流器と結線した状態で、ビニール製の袋中に入れて、前記袋を密閉した。また、比較例1の脱臭素子は、そのままの状態で、同じ袋中に入れて密閉した。そして、袋に設けた接続口に、吸引ポンプからの配管を接続し、吸引ポンプを作動させて、袋内を真空吸引した後、配管を切り替えて、前記袋中に、アセトアルデヒド濃度約50ppmの試験ガス2.8リットルを注入して接続口を閉じた状態で、70℃の恒温槽中に入れて、定期的に、前記接続口から試験ガスを抜き取って、ガス検知管を用いて、アセトアルデヒド濃度を測定した。なお実施例1の脱臭素子は、両触媒電極層に印加する電圧を1.0V、または0.3Vに設定して試験を行った。結果を、図5に示す。
【0043】
図より、実施例1の脱臭素子を用いた場合には、アセトアルデヒドを、比較例1のものに比べて短時間で、効率よく分解させて脱臭できること、印加電圧を高くするほど、分解速度を向上できることが判った。ちなみに、比較例1の脱臭素子の場合は、360分経過後においても45ppmのアセトアルデヒドが残留していたのに対し、実施例1の脱臭素子では、いずれの印加電圧においても、60分後にはアセトアルデヒドの濃度を0ppmとすることができた。
【0044】
《脱臭試験II》
実施例1の脱臭素子の、メチルメルカプタンに対する分解効果を調べるため、袋中に、メチルメルカプタン濃度約50ppmの試験ガス2.8リットルを注入すると共に、実施例1の脱臭素子の、両触媒電極層に印加する電圧を1.2V、または0.3Vに設定したこと以外は、前記脱臭試験Iと同様にして試験を行った。結果を、図6に示す。図より、実施例1の脱臭素子を用いると、メチルメルカプタンをも、短時間で、効率よく分解させて脱臭できることが判った。
【0045】
《脱臭試験III》
袋体に代えて、容器内のガスを循環させるためのファンを有する外部配管を接続した、内容量8リットルの容器を用意し、前記容器内に、実施例1の脱臭素子を収容すると共に、アセトアルデヒド濃度約100ppmの試験ガス8リットルを注入して、前記脱臭素子の、両触媒電極層に印加する電圧を1.0Vとしたこと以外は、前記脱臭試験Iと同様にして試験を行った。結果を、図6に示す。図より、実施例1の脱臭素子を用いると、高濃度のアセトアルデヒドをも、短時間で、効率よく分解させて脱臭できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の調理器具としての炊飯器の、実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1の例の炊飯器の、電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の調理器具としての炊飯器の、実施の形態の他の例を示す概略図である。
【図4】脱臭素子を、炊飯器の内蓋と一体化させた変形例を示す拡大断面図である。
【図5】実施例1、比較例1の脱臭素子について行った、脱臭試験Iの結果を示すグラフである。
【図6】実施例1の脱臭素子について行った、脱臭試験IIの結果を示すグラフである。
【図7】実施例1の脱臭素子について行った、脱臭試験IIIの結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 炊飯器(調理器具)
2 内釜(調理容器)
3 内蓋
4 器具本体
5 外蓋
6 通気孔
7 脱臭素子
8 ファン
10 制御手段
15 撥水性コーティング
16 触媒電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層と、対向電極層とが、プロトン透過性を有する絶縁層を挟んで積層されたことを特徴とする脱臭素子。
【請求項2】
対向電極層が、導電性基体に、触媒機能を有する金属微粒子を担持させた触媒電極層である請求項1に記載の脱臭素子。
【請求項3】
請求項1に記載の脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整することで、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御しながら、臭気成分を分解することを特徴とする脱臭方法。
【請求項4】
請求項1に記載の脱臭素子と、前記脱臭素子の、触媒電極層と対向電極層との間に印加する電圧を調整して、触媒電極層の金属微粒子による触媒機能を制御するための制御手段とを組み込んだことを特徴とする調理器具。
【請求項5】
被調理物を収容するための調理容器と、前記調理容器を閉じるための内蓋と、調理容器を収容するための器具本体と、前記器具本体を閉じるための外蓋とを備えると共に、前記外蓋に通気孔が設けられており、前記通気孔に、触媒金属層を露出させた状態で、脱臭素子が配設されている請求項4に記載の調理器具。
【請求項6】
通気孔にファンが配設されている請求項5に記載の調理器具。
【請求項7】
被調理物を収容するための調理容器と、前記調理容器を閉じるための内蓋と、調理容器を収容するための器具本体と、前記器具本体を閉じるための外蓋とを備えると共に、前記内蓋の、調理容器の内側面に脱臭素子が配設されている請求項4に記載の調理器具。
【請求項8】
内蓋が金属によって形成され、前記内蓋の、調理容器の内側面に撥水性コーティングが施されていると共に、前記撥水性コーティングの表面の少なくとも一部に、金属微粒子が担持された触媒電極層が形成されて、前記撥水性コーティングを、プロトン透過性を有する絶縁層、内蓋を対向電極層として、前記内蓋の、調理容器の内側面に、脱臭素子が、前記内蓋と一体化させて構成されている請求項7に記載の調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−272210(P2008−272210A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119405(P2007−119405)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】