説明

脱臭装置及び脱臭方法

【課題】 脱臭能力を飛躍的に向上させ、かつ、処理後の臭気濃度のバラつきを抑制しうる脱臭装置を提供する。
【解決手段】 臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭装置を複数備える脱臭システムであり、複数の脱臭装置が直列的に連設されており、塩基性成分脱臭装置10は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を6.5以下に調整するイオン濃度調整手段を備えており、酸性成分脱臭装置20は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5以上に調整するイオン濃度調整手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水に臭気成分を吸着させて電気分解により脱臭する脱臭装置及び脱臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臭気成分を含むガスを無臭化するための脱臭装置として、電気分解を用いる脱臭装置が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、食塩水溶液供給部、食塩水溶液を電気分解して電解水を生成する電解水生成部、外部から吸引された揮発性有機化合物を含む気体と電解水を接触させて気体を脱臭処理する脱臭部等を備えた脱臭装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−42353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アルミニウム鋳造工場等では、主としてシェルマシン(中子造型機)と低圧鋳造機とから臭気が発生し、低圧鋳造機からの臭気成分にはフェノールやクレゾール等の酸性成分が多く含まれ、シェルマシンからの臭気成分にはアンモニアやアミン等の塩基性成分が多く含まれている。
【0006】
しかしながら、上記のような従来の脱臭装置では、電解水への臭気成分の吸着性が各々異なるため、処理後の臭気濃度にバラつきが見られるといった問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題点に鑑みなされたものであり、脱臭能力を飛躍的に向上させ、かつ、処理後の臭気濃度のバラつきを抑制しうる脱臭装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る脱臭装置は、臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭装置であって、被処理ガスに含まれる臭気成分に応じて、洗浄水の水素イオン濃度指数を調整するイオン濃度調整手段を備えることを特徴とする。
【0009】
これによって、対象となる臭気に含まれる臭気成分に応じて吸着体となる水の水素イオン濃度指数を調整するので、脱臭能力を飛躍的に向上させ、かつ、処理後の臭気濃度のバラつきを抑制しうる脱臭装置が実現される。
【0010】
ここで、前記イオン濃度調整手段は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5以上に調整する、又は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を6.5以下に調整するのが好ましい。
【0011】
これによって、酸性成分又は塩基性成分をそれぞれ多く含む臭気成分に対して適切な水素イオン濃度指数に調整し、脱臭能力を向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記イオン濃度調整手段は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5〜8.5に調整する、又は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を5.5〜6.5に調整するとしてもよい。
【0013】
これによって、酸性成分又は塩基性成分を多く含みながら、それぞれ塩基性成分又は酸性成分を若干含む臭気成分に対しても適切な水素イオン濃度指数に調整し、処理後の臭気濃度のバラつきを抑制することができる。
【0014】
さらに、臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭装置を複数備える脱臭システムであって、一方の脱臭装置は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5以上に調整するイオン濃度調整手段を備え、他方の脱臭装置は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を6.5以下に調整するイオン濃度調整手段を備え、前記複数の脱臭装置が直列的に連設されていることを特徴とする脱臭システムとして構成することもできる。
【0015】
これによって、酸性成分と塩基性成分とをほぼ均等に含んでいる臭気に対しても優れた脱臭能力を発揮しうる脱臭システムが実現される。
【0016】
また、本発明は脱臭方法として実現することも可能である。すなわち、臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭方法であって、被処理ガスに含まれる臭気成分に応じて、洗浄水の水素イオン濃度指数を調整するイオン濃度調整ステップを含むことを特徴とする脱臭方法としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る脱臭装置によれば、脱臭の対象となる臭気に含まれる成分に応じて、吸着体となる水の水素イオン濃度指数を調整するので、脱臭能力を飛躍的に向上させ、かつ、脱臭処理後の臭気濃度のバラつきを抑制しうる脱臭装置が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】脱臭装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本実施の形態に係る脱臭装置は、シェルマシンや低圧鋳造機から発生するガス、すなわち、被処理ガスを取り込んで無臭化し、無臭化されたガス、すなわち清浄ガスとして排出する装置である。
【0021】
脱臭装置は、シェルマシン等で発生しブロア等によって送風されてくる被処理ガスを吸引ファンにより装置内に取り入れ、散水ノズルにより洗浄水を被処理ガスに散水し、被処理ガスに含まれる臭気成分や粉塵や砂などの固形成分を水に吸着させて除去する。無臭化された被処理ガス(清浄ガス)は、送風ファンにより外気に排出される。
【0022】
一方、散水されることで、臭気成分等を含んで汚れた水は、タンク等に滞留され、ここで電気分解により浄化されて洗浄水として再利用される。ここで、散水される洗浄水は、イオン濃度調整手段によって水素イオン濃度指数(pH)が調整されている。例えば、フェノールやクレゾール等の酸性成分が多く含まれる臭気が対象となる場合には、電解質として硫酸ナトリウム(Na2SO4)を添加して、吸着体となる水のpHが7.5以上となるように調整する。一方、アンモニアやアミン等の塩基性成分が多く含まれる臭気が対象となる場合には、電解質として硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)を添加して、吸着体となる水のpHが6.5以下となるように調整する。なお、イオン濃度調整手段としては、装置内のpHを検出するセンサと、センサが検出した値に基づいて投与する電解質とその量を調整する自動投与装置等を用いることができる。
【0023】
水素イオン濃度指数調整前後における脱臭後の臭気濃度の差異を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
水素イオン濃度指数調整をしない場合における脱臭後の臭気濃度の平均値は300となっているのに対して、水素イオン濃度指数調整をした場合における脱臭後の臭気濃度の平均値は100となっており、脱臭能力の飛躍的な向上をこの表1から読み取ることができる。また、水素イオン濃度指数調整をしない場合の臭気濃度は200〜400とバラつきがあるのに対して、水素イオン濃度指数調整をした場合の臭気濃度は70〜130の範囲に留まり、処理後の臭気濃度のバラつきも抑制されていることがわかる。
【0026】
このように、対象となる臭気に含まれる臭気成分に応じて吸着体となる水の水素イオン濃度指数を調整することにより、脱臭能力の向上を実現しつつ、処理後の臭気濃度のバラつきを抑制しうる脱臭装置が実現される。
【0027】
なお、吸着体となる水のpHを7.5未満とすると、水の酸性成分に対する吸着力が低下するので、酸性成分が多く含まれる臭気に対しては吸着体となる水のpHを7.5以上に調整するのが好ましい。また、吸着体となる水のpHが6.5を超えると、水の塩基性成分に対する吸着力が低下するので、塩基性成分が多く含まれる臭気に対しては吸着体となる水のpHを6.5以下に調整するのが好ましい。
【0028】
また、対象となる臭気が、主として酸性成分を含み、かつ、若干の塩基性成分を含む場合には、吸着体となる水のpHを7.5〜8.5に調整するのが好ましい。一方、対象となる臭気が、主として塩基性成分を含み、かつ、若干の酸性成分を含む場合には、吸着体となる水のpHを5.5〜6.5に調整するのが好ましい。
【0029】
前者の場合における臭気濃度とpHの関係を表2に示し、後者の場合における臭気濃度とpHの関係を表3に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
例えば、低圧鋳造機からの臭気のように酸性成分中に若干の塩基性成分が含まれている場合、吸着体となる水のpHが7.5未満となると、実線で示されているように酸性成分の臭気が上昇している。また、吸着体となる水のpHが8.5を超えると、破線で示されているように塩基性成分の臭気が上昇している。このことから、酸性成分中に若干の塩基性成分が含まれている場合には、吸着体となる水のpHを7.5〜8.5に調整するのが好ましいことがわかる。
【0032】
【表3】

【0033】
例えば、シェルマシンからの臭気のように塩基性成分中に若干の酸性成分が含まれている場合、吸着体となる水のpHが5.5未満となると、実線で示されているように酸性成分の臭気が上昇している。また、吸着体となる水のpHが6.5を超えると、破線で示されているように塩基性成分の臭気が上昇している。このことから、塩基性成分中に若干の酸性成分が含まれている場合には、吸着体となる水のpHを5.5〜6.5に調整するのが好ましいことがわかる。
【0034】
さらに、対象となる臭気が、酸性成分と塩基性成分とをほぼ均等に含んでいる場合には、図1に示すように、吸着体となる水のpHが6.5以下となるように水素イオン濃度指数が調整される塩基性成分脱臭装置10と、吸着体となる水のpHが7.5以上となるように水素イオン濃度指数が調整される酸性成分脱臭装置20とを直列に配置した一連の脱臭装置とすることにより、効率的な脱臭処理を実現することが可能である。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る脱臭装置によれば、脱臭対象の臭気に含まれる臭気成分に応じて、吸着体となる水の水素イオン濃度指数を調整することで、脱臭能力を飛躍的に向上させるとともに、脱臭処理後の臭気濃度のバラつきを抑制することが可能となる。また、薬品ではなく塩の添加で調整するので、水素イオン濃度指数の調整コストも安価なものとなる。
【0036】
以上、本発明に係る脱臭装置及び脱臭方法について、実施の形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0037】
例えば、上記実施の形態では、電解質として硫酸ナトリウムや硫酸アンモニウムを添加するとしているが、このほかの塩であってもよいことはいうまでもない。
【0038】
また、塩基性成分脱臭装置と酸性成分脱臭装置とを直列に配列する例を示したが、逆の配列であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る脱臭装置は、臭気ガスを発生させる工業関連装置の脱臭装置として有用であり、特に、鋳造工場等の低圧鋳造機やシェルマシンの脱臭装置として好適である。
【符号の説明】
【0040】
10 塩基性成分脱臭装置
20 酸性成分脱臭装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭装置であって、
被処理ガスに含まれる臭気成分に応じて、洗浄水の水素イオン濃度指数を調整するイオン濃度調整手段を備える
ことを特徴とする脱臭装置。
【請求項2】
前記イオン濃度調整手段は、
吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5以上に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。
【請求項3】
前記イオン濃度調整手段は、
吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を6.5以下に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。
【請求項4】
前記イオン濃度調整手段は、
吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5〜8.5に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。
【請求項5】
前記イオン濃度調整手段は、
吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を5.5〜6.5に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。
【請求項6】
臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭装置を複数備える脱臭システムであって、
一方の脱臭装置は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を7.5以上に調整するイオン濃度調整手段を備え、
他方の脱臭装置は、吸着体となる洗浄水の水素イオン濃度指数を6.5以下に調整するイオン濃度調整手段を備え、
前記複数の脱臭装置が直列的に連設されている
ことを特徴とする脱臭システム。
【請求項7】
臭気成分を含む被処理ガスに洗浄水を散水して、被処理ガスの臭気成分を洗浄水に吸着させることで臭気を除去して清浄ガスを排出し、臭気成分が吸着された水を電気分解により浄化する脱臭方法であって、
被処理ガスに含まれる臭気成分に応じて、洗浄水の水素イオン濃度指数を調整するイオン濃度調整ステップを含む
ことを特徴とする脱臭方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−183515(P2012−183515A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49852(P2011−49852)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000225027)特殊電極株式会社 (26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】