説明

脳卒中治療剤の製造におけるピノセンブリンラセミ化合物の使用

本発明は、脳卒中の治療剤の製造におけるピノセンブリンのラセミ化合物、ピノセンブリン塩のラセミ化合物、ピノセンブリン前駆体のラセミ化合物、ピノセンブリン水和物のラセミ化合物の使用に関する。特に、脳卒中は、虚血性脳卒中である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2008年12月11日付けで提出された中国特許出願第200810185559.0号(出願日:2008年12月11日;発明の名称:脳卒中の治療剤の製造におけるピノセンブリンの使用)に基づく優先権を主張する。また、この文献に記載された内容は参考のために本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、脳卒中の治療及び予防のための薬剤の製造におけるピノセンブリンラセミ化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
化学式(II)の(S)−ピノセンブリン(化学名:(S)-2,3-ジヒドロ-5,7-ジヒドロキシ-2-ベンジル-4H-1-ベンゾピラン-4-ケトン)は、プロポリスから抽出された天然化合物及び水不溶性フラボノン(flavonone)の一種である。また、この化合物は、ヘルヴェティア五葉の松(Helvetic five-leaved pine)、ユーカリおよびアカシアガムの葉のような様々な植物の抽出物からも見られる。
【0004】
1980年代以来、抗生、抗ウイルス、抗酸化、および、抗炎症効果を含んだ(S)−ピノセンブリンの医薬活性が次々と知られるようになった。中国医科学研究院(Chinese Academy of Medical Science)によって、(S)−ピノセンブリンが、複数のファクターによって引き起こされた血管収縮を阻害し、多種の神経細胞の損傷を保護する役割をすることが初めて明らかになった。その詳細は、CN200410037860.9に記載されている。その明細書には、 脳虚血、脳虚血の後遺症、および、神経細胞の損傷や機能的変化に関連する疾患を治療するための(S)−ピノセンブリンの使用、並びに、カルパイン(calpain)、NO,および、CRPを阻害し、かつ、脳におけるヒートショックタンパク質の発現を活性化することによって虚血性脳組織および神経細胞を保護する(S)−ピノセンブリンのメカニズムが記載されている。(S)−ピノセンブリンは、脳梗塞を治療することができる。また、中国医学科学院の瑞劉等によれば、(S)−ピノセンブリンは、脳虚血再かん流、又は、脳虚血性再かん流モデルによって引き起こされる脳組織のアポトーシス、低酸素症、および虚血の試験によってもたらされた同様の状況に基づいて、損傷された神経を保護する機能を有する。文献(Pinocembrin protects rat brain against oxidation and apoptosis induced by ischemia-reperfusion both in vivo and in vitro. Brain Res. 2008 Jun 24;1216:104-15)参照。
【0005】
Yonghao Chengには、ピノセンブリンのラセミ化合物(化)の合成法が記載されている。文献[Yonghao Cheng, Yabo Duan, Yan Qi etc., Synthesis of 5,7-dihydroxy-flavanone, Chemical Reagents. 2006, 28(7):437)]参照。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
従来から、ラセミ化合物は、薬効との直接又は一定の関係のないことが知られている。これらの関係は、次のいつくかの場合に軽減され得る:ラセミ化合物が鏡像対に比べて優れた効果を有する:鏡像体が同等又は類似の活性を有する;鏡像体が強度の異なる活性を有する;鏡像体が反対の活性を有する:鏡像体が異なる種の効果を有する。我々は、以下の実施例においてこの点を検証する。
【0009】
1.鏡像体は、相互相乗的であるので、ラセミ化合物は鏡像体に比べて優れた効果を有する
α-受容体アゴニストであるドブタミン(dobutamine)の左旋性異性体は、β−受容体に若干影響を及ぼす。同様に、β受容体アゴニストであるドブタミンの右旋性異性体はα受容体に若干影響を及ぼす。ラセミ化合物を投与すれば、心拍数や血圧を上げることなく、心筋収縮能を増加させる効果が得られる。
【0010】
抗ヒスタミンで塩酸イソチペンジルの経口投与の効果は、(−)−異性体の効果の1.4倍、および、(+)−異性体の効果の2.5倍である(いずれも経口投与)。ラセミ化合物がより優れた効果を有する理由は、おそらく、一方の異性体が他方の異性体の吸収率を変えて、後者の生体利用能を高めたからであるか、又は、一方の異性体が他方の異性体の代謝率を低下させて、後者の作用時間を延ばしたからであろう。
【0011】
2.鏡像体は同等の活性を有する
プロメタジンは、一つのキラル分子を有する抗ヒスタミンである。この受容体は医薬の鏡像体に対し選択性を有しないため、2つの鏡像体は同じ薬理作用と、同じ強度の薬理活性を有する。
【0012】
3.鏡像体は強度の異なる活性を有する
β‐受容体としてプロプラノロールは、その左旋性異性体に依存してアンタゴニスト活性を示す。それは、左旋性異性体がβ‐受容体と同じ配置(configuration)を有し、β‐受容体に選択的に結合することができるが、その右旋性異性体はそうでないからである。
【0013】
別の例を挙げると、抗血圧薬としてL−メチルドーパは薬理活性を有するが、D−メチルドーパは活性を有しない。
【0014】
4.鏡像体は、反対の活性を有する
ニフェジピン構造類似体であるBay k8644に関し、その右旋性異性体は、カルシウムアンタゴニストであるが、その左旋性異性体はカルシウムアゴニストである。これらの鏡像体は、正反対の活性を有する。
【0015】
5.鏡像体は異なる種の薬理効果を有する
プロポキシフェンのD‐鏡像体はL‐鏡像体の活性の6倍の強力な鎮痛効果を有するが、鎮咳活性は有しない。逆に、プロポキシフェンのL−鏡像体は、強力な鎮咳効果を有する。文献(Medicinal Chemistry, edited by Wensheng Ji, Anliang Li, Higher Education Press: 25-26)参照。
【0016】
以上の例からすれば、(S)−ピノセンブリンの既知の薬理効果に基づいて、ピノセンブリンのラセミ化合物又は(R)−ピノセンブリンが(S)−ピノセンブリンと同じ薬理活性および効果を有するか否かは、実験なしでは決められないことは明らかである。従来技術に関しては次の文献が見つかった。
【0017】
Xiaoming Zhuらには、ピノセンブリンが 内皮依存性メカニズムおよび内皮非依存性メカニズムによって胸部大動脈の血管を拡張することができることが記載されている。文献(Zhu XM, Fang LH, Li YJ, Du GH. Endothelium-dependent and Endothelium-independent relaxation induced by pinocembrin in rat aortic rings. Vascul Pharmacol. 2007; 46(3): 160)参照。
【0018】
Mei Gaoらには、ピノセンブリンがグルタミン酸誘発細胞傷害とアポトーシスを改善するとともに、アポトーシスの確率を減らすが、それが抗脳虚血の効果に対するピノセンブリンの神経保護作用の証拠となることが記載されている。文献(Mei Gao, Wen-cui Zhang, Qing-shan Liu, Juan-juan Hu, Geng-tao Liu, Guan-hua Du. Pinocembrin prevents glutamate-induced apoptosis in SH-S Y5Y neuronal cells via bax/bcl-2 ratio decrease. Eur J Pharmacol. 2008, 591(1-3):73-9)参照。
【0019】
Mei Gaoらには、ピノセンブリンがラットにおける永久脳虚血の脳神経血管を保護することができることが記載されている。文献(Acute neurovascular unit protective action of pinocembrin against permanent cerebral ischemia in rats. J Asian Nat Prod Res. 2008 May-Jun; 10(5-6): 551-8)参照。永久脳虚血に対するピノセンブリンの保護作用が証明されたのは初めてである。そのメカニズムについては研究がなされている。
【0020】
Hongmei Guangらは、両側頸動脈結紮による脳への不十分な血液供給のモデルを得、モリス水迷路試験によって認知機能を検査した。ピノセンブリンが不十分な脳の血液供給によって引き起こされるラットにおける認知機能障害を改善できることや、そのメカニズムがピノセンブリンがミトコンドリアの構造と機能を保護することにあることが記載されている。文献(Protections of pinocembrin on brain mitochondria contribute to cognitive improvement in chronic cerebral hypoperfused rats. Eur J Pharmacol. 2006 Aug 7; 542 (1-3): 77-83)参照。
【0021】
以上の文献には、ピノセンブリンの薬理効果がある程度記載されているが、その薬理効果は、血管拡張および神経血管保護に限られている。
【0022】
急性脳虚血性脳卒中(脳虚血性脳卒中)が、高い罹患率、死亡率、および、障害率を伴うことは従来から知られている。現時点において、最も効果的な治療法は血栓溶解(thrombolysis)である。血栓溶解がより早い段階で施されれば、より良い効果が期待できる。過去長年の臨床経験によれば、脳卒中患者の救助は時間との戦いともいえる。いったん大脳動脈がブロックされれば、虚血領域の脳細胞が、早速カスケード式電気化学的連鎖反応を起動し、豊富なフリーラジカルが生成され、カルシウムイオンの流入と細胞内カルシウムイオンの過負荷が起こり、その結果として、脳組織の不可逆的な損傷が起こる。そのため、脳卒中の救助に発症からの時間を可能な限り最小化する必要がある。
【0023】
臨床では、脳虚血性脳卒中を、発症から6時間以内の超初期段階、発症から6〜72時間の初期段階、発症から72時間〜1週間の急性後期段階(acute later stage)、発症から1週間の回復(recovery)段階に分けることができる。虚血性脳卒中の超初期段階では、脳梗塞はまだ生じていない。正常な血液供給が速やかに回復され、虚血組織の有害な代謝産物が除去されれば、患者にとって完全に回復できる絶好のチャンスとなる。このように、超初期段階の治療が最も良い結果につながる。虚血性脳卒中の初期段階までに、持続性虚血、低酸素症、特に損傷された血液脳関門によって、中央梗塞の領域が生じやすい。超初期段階の治療に比べれば、この初期段階の治療は、治療上の価値が多く失われてしまう。
【0024】
1996年には、組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)がFDAの臨床的検証を通り、急性虚血性脳卒中の発症後3時間以内の使用が承認された。これは、虚血性脳卒中の治療に有効であることが証明された唯一の薬剤である。治療時間のウィンドウの制限のため、外来の急性脳卒中患者の95%が 血栓溶解療法に時間的に間に合えず、中国で血栓溶解を受けられる患者は1%にも満たない。
【0025】
過去10年間、神経保護薬の研究は、脳卒中治療のホットスポットとなってきている。しかし、全世界における114のストローク試験(最大49の経保護薬が含まれる)の中で、成功したものはほとんどない。これは、急性虚血性脳卒中の治療に安全かつ有効に使える神経保護薬は現時点において存在しないことを意味する。
【0026】
上記分析から、tPA以外の、効果的に脳卒中を治療できる薬が臨床の現場で依然として必要とされていることが分かる。tPAはわずか3時間の治療時間ウィンドウという制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明に関する実験により、ピノセンブリンのラセミ化合物が脳卒中を治療するために用いられるという驚くべきことが明らかになった。(S)‐ピノセンブリンに比べて、ピノセンブリンのラセミ化合物は、より長い治療時間ウィンドウ(約6時間)を有し、かつ、脳卒中の発症後より長時間に亘って治療効果を維持する。治療時間ウィンドウ(therapeutic time window)の延長は、虚血性脳卒中を患う患者にとってより有利であろう。動物実験を通じて、ピノセンブリンのラセミ化合物が有意な治療効果を有することが分かった。
【0028】
本発明の目的の一つは、脳卒中の治療剤の製造におけるピノセンブリンのラセミ化合物、ピノセンブリン塩のラセミ化合物、ピノセンブリン前駆体のラセミ化合物、又は、ピノセンブリン水和物のラセミ化合物の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本明細書に使用された用語「ラセミ化合物(racemate)」は、光学活性を有するキラル分子、及び、その鏡像体の等モル混合物をいう。この混合物は、反対の回転性及び同等の回転力(rotary power)を有する2つの分子を同量混合することによって形成される。ここで、分子間のアクション(intermolecular action)に基づいて、これらの回転は中和される。
【0030】
ピノセンブリンの塩は、ピノセンブリンの医薬的に許容可能な塩(pharmaceutically acceptable salt)、例えば、塩酸塩、硫酸塩、及び、クエン酸塩等である。
【0031】
ピノセンブリンの前駆体は、ピノセンブリンのプロドラッグ(prodrug)、即ち、インビボにおける転換(変換)によりピノセンブリンに転換されてからその薬理活性を示す化合物である。
【0032】
好ましくは、脳卒中は、急性虚血性脳卒中である。
【0033】
実験によれば、次のことが明らかになった:
(1)ピノセンブリンのラセミ化合物は、脳卒中を治療するために用いられる
(2)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた行動異常(behavioral change)を改善することができる
(3)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた脳血流の減少を改善することができる
(4)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた脳梗塞の体積(volume)を減少させることができる
(5)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされる脳浮腫を改善することができる。
(6)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされるエネルギー代謝を改善することができる。
(7)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた急性炎症を改善することができる。
(8)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた損傷から神経細胞を保護することができる。
【0034】
したがって、本発明は、ピノセンブリンのラセミ化合物の医薬組成物に関する。この医薬組成物は、ピノセンブリンのラセミ化合物、ピノセンブリン塩のラセミ化合物、ピノセンブリン前駆体のラセミ化合物、ピノセンブリン水和物のラセミ化合物と、医薬的に許容可能な賦形剤と、からなる。
【0035】
本発明の組成物は、経口、経皮、静脈内、又は、粘膜投与に適している。
【0036】
本発明の組成物は、従来の方法によって製造され得る、個体又は液体製剤であっても良い。
【0037】
本発明の組成物は、液体製剤、好ましくは、注射剤であっても良い。この注射剤は、シクロデキストリン又はその誘導体でピノセンブリンのラセミ化合物をカプセル化し、適当な賦形剤を加えることで製造される。
【0038】
本発明は、脳卒中(ここで、脳卒中は、虚血性又は出血性脳卒中である。)の治療及び予防のための医薬の製造における(R)−ピノセンブリン、その塩、その前駆体、又は、その水和物の使用を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明に用いられるピノセンブリンのラセミ化合物は、低毒性を有し、かつ、急性虚血性脳卒中を治療するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、梗塞の体積(volume)に対するピノセンブリンのラセミ化合物の効果を示す。
【図2】図2は、24時間のMACO後、虚血性組織におけるTNF-α、IL-1β、ICAM-1、VCAM-1、iNOS、及び、AQP-4の発現に対するピノセンブリンのラセミ化合物の効果を示す。ここで、(A)は、TNF-α、IL-1β、ICAM-1、VCAM-1、iNOS、及び、AQP-4の発現に対するDL0108の効果を示し、(B)は、内部標準としてβ‐アクチンを用いて、TNF-α、IL-1β、ICAM-1、VCAM-1、iNOS、及び、AQP-4の発現を定量化した統計チャートである。
【図3】図3は、皮質及び海馬におけるCA1領域のNissl染色像(200×)である。ここで、「A」は、見かけ手術(sham operation)グループであり、「B」は、モデルグループであり、「C」は、ニモジピン(nimodipine)3mg/kgのグループであり、「D」は、DL0108(ピノセンブリンのラセミ化合物)1mg/kgのグループであり、「E」は、DL0108(ピノセンブリンのラセミ化合物)3mg/kgのグループであり、「F」は、DL0108(ピノセンブリンのラセミ化合物)10mg/kgのグループである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、次の実施例に基づいて具体的に説明することとする。
【実施例1】
【0042】
脳卒中易発性高血圧ラット(SHRSP)における脳卒中(stroke)に対する予防および治療効果
1.テスト薬
注射用ピノセンブリンラセミ化合物、注射用(R)−ピノセンブリン、および、注射用(S)−ピノセンブリンは、New Drug Development Laboratory of Drug Research Institute of the Chinese Academy of Medical Sciencesから入手し(バッチ番号:20050601、含量:2.36%)、CN200810084682.3に記載した方法、即ち、ピノセンブリンラセミ化合物又はピノセンブリン鏡像体とシクロデキストリン又はその誘導体との包接錯体を形成し、使用の際にその包接錯体を生理食塩水に溶かすことで製造した。バイエル社(ドイツ)から陽性対照群としてのニモジピン(Nimodipine)を購入した。
【0043】
2.実験動物およびグループ分け
実験動物:110匹のSHRSPラットおよび10匹の正常なウィスターラット(6週齢)
実験グループ分け:ウィスターラットを正常グループに、SHRSPラットをモデルグループ、ニモジピングループ(3mg/kg)、ピノセンブリンラセミ化合物の低、中、高容量グループ(それぞれ3、10、および、30mg/kg/d)、(R)―ピノセンブリンの低、中、高容量グループ(その容量は、それぞれピノセンブリンラセミ化合物の容量と一致する)、および、(S)―ピノセンブリンの低、中、高容量グループ(その容量は、それぞれピノセンブリンラセミ化合物の容量と一致する)に分けた。
【0044】
3.実験方法
正常グループのマウスを除く、すべてのSHRAPラットには、1%塩化ナトリウム溶液を毎日飲ませた。ニモジピングループのラット(3mg/kg)、ピノセンブリンンラセミ化合物の低、中、高容量のグループ(それぞれ3,10、および30mg/kg/d)、(R)−ピノセンブリンンの低、中、高容量のグループ(それぞれ3,10、および30mg/kg/d)、および、(S)−ピノセンブリンンの低、中、高容量のグループ(それぞれ3,10、および30mg/kg/d)には所定量の薬を投与した。モデルグループには同量の生理食塩水を投与した。投与は、脳卒中の発症後14日間続いた。
【0045】
4.脳卒中発症の基準(Standard of stroke onset)
(1)一方の肢、両方の前肢、又は、全身におけるけいれんの現れ
(2)片麻痺(hemiplegia)または進行麻痺(general paralysis)の現れ、腹部を地面に当ててからでないと立ち上がれない
(3)より深刻には、全身の微小振戦(fine tremor)、はう(groveling)、弛緩性麻痺(flaccid paralysis)が現れ、ひいては死に至る。上記症状のほかに、一部の動物では過敏(ジャンプしたり、飛び跳ねたりする)が見られた。上記いずれかの症状が現れたら、脳卒中の発症と判断し(決定し)、各動物における発症時刻を記録した。
【0046】
5.標本の収集
(1)最後に投与した後、ラットを6時間禁食させ、眼底における血液サンプリングによって血液サンプルを収集した。ラットを致死させて、使用のために製氷皿にラットの全脳を分離した。
(2)0.074%ヘパリン1mlを含んだキュベットに血液3mlを迅速に滴下して、混合した。血液レオロジー検出器を用いて、全血粘度、血漿粘度、赤血球(RBC)凝集指数、および、RBC変形指数を決定した。
(3)0.13mol/Lのクエン酸ナトリウム0.2mLを含んだキュベットに血液2mLを迅速に滴下した。その混合物を1000rpmにて10分間遠心分離にかけて、 血小板凝集メーターを用いて、血小板凝集を決定した。
(4)1mlの血液を、0.109mol/Lのクエン酸ナトリウム0.1mlを含んだキュベットに迅速に滴下して、混合した。その混合物を3000rpmにて15分間遠心分離にかけ、 ELISAによって上澄み中血漿フィブリノゲンを決定した。
(5)7.5%EDTA−2Na30μLおよびアプロチニン(aprotinin)40μLを含んだキュベットに血液2mlを迅速に滴下して、混合した。3000rpmにて15分間遠心分離にかけた後、 放射免疫測定によって上澄み中血漿ET−1を決定した。
(6)全脳組織の重量を一つずつ量り、110±5℃にて48時間真空下で乾燥させ、再度量った。
【0047】
6.観察指数(observable index)
(1)身体の外観、精神状態、応答性、運動の姿勢、自発活動、水や食料の量、および、体重等を含めてモデリング後の各グループの動物の身体状態(body status)を観察する
【0048】
【表1】

【0049】
脳卒中の発症後、14日間のスコアを各々の動物に対し記録し、治療グループのスコアと対照群のスコアとを比較する。
(2)血液レオロジー:全血の粘度、血漿粘度、赤血球凝集指数、赤血球変形指数、血小板凝集率などを含む。
(3)血漿フィブリノゲン
(4)血漿ET-1
(5)脳の水分含有量(脳水分含量):真空オーブンに入れ前後の全脳組織の重量に基づいて、そのデータは次の式に当てはめて計算した:脳の水分含有量=(湿重量−乾重量)/湿重量×100%
【0050】
6.統計方法
結果は、平均±標準偏差として表し、データ間の比較は一元配置分散分析(one-way analysis of variance (ANOVA))によって分析・評価された。
【0051】
7.実験結果
(1)ラットの死亡
総24匹のラットは、実験中に死に至った。病理解剖の解析の結果、24匹のうち4匹は出血性脳卒中で死亡し、その他の20匹は虚血性脳卒中で死亡したことが分かった。詳細については、表2を参照されたい。
【0052】
【表2】

【0053】
(2)ラットの精神状態:
正常グループのラットは、身体の状態、摂食、及び、運動の観点から正常であった。第4週目の初めのころから、高、中容量のピノセンブリンラセミ化合物及びニフェジピングループを除く他のグループのラットには、過敏(irritation)、発作性痙攣、麻痺、重い頭、食欲不振、尿失禁、毛幹、痩せといった症状を特徴とする脳卒中が絶え間なく現れた。前述した脳卒中発症後の神経学的症状に関するスコアの基準に基づけば、脳卒中を発症した日から、高及び中容量のピノセンブリンラセミ化合物グループのスコアは著しく減少された。発症から2〜14日内に、そのスコアは、それぞれお1.6及び2.3未満と安定していた。これは、高、中容量のピノセンブリンラセミ化合物は神経学的機能に有意な改善効果を有していることを示唆する。低容量のピノセンブリンラセミ化合物グループ及び高容量の(R)−ピノセンブリングループのスコアは、当初数日間は比較的に高かったが、前述した14日間で2.5以上に維持された。これは、低容量のピノセンブリンラセミ化合物、及び、高容量の(R)−ピノセンブリンが改善効果を有しないことを示唆する。脳卒中の発症後、ニモジピングループのスコアは、比較的に低く、6日後2.2を下回る水準で安定していた。
(3)血液レオロジーの分析
【0054】
【表3】

【0055】
結果から、正常グループに比べて、モデルグループは血液レオロジー指数において有意な差(P<0.01)を示すことが分かる。それは、モデルグループの血液のほうがより粘度が高く、かつ、より凝集している状態であることを表す。モデルグループに比べて、高、中、低容量のピノセンブリンラセミ化合物グループ及び高容量の(R)−ピノセンブリングループは、異なる程度の血液凝集減少を示し(P<0.01、P<0.05)、特に、血液粘度、及び、RBC凝集指数減少を示した(P<0.01)。しかしながら、(S)−ピノセンブリンは、一切活性を示さなかった。ニモジピンは、血液粘度を下げる効果を示した。その結果を表4にまとめた。
【0056】
そこで、ピノセンブリンラセミ化合物は、容量依存的に血液粘度を下げることができ、そして、高容量の(R)−ピノセンブリンも同様の効果を有するものと考えられる。
【0057】
(4)血小板凝集
表4に示した血小板凝集に対する抵抗性(resistance)の結果から、モデルグループの血小板凝集率が正常グループの血小板凝集率に比べて高いことが分かる(P<0.01)。モデルグループに比べて、高、中容量のピノセンブリンラセミ化合物及び高容量の(R)−ピノセンブリンは血小板凝集率に有意な減少を示したが(P<0.01、P<0.05)、(S)−ピノセンブリンは全く活性を示さなかった。
そこで、ピノセンブリンラセミ化合物は容量依存的に血小板凝集を妨げるが、(R)−ピノセンブリンは高容量で同様の効果を有するといえる。
【0058】
(5)血漿フィブリノゲン分析
モデルグループにおける血漿フィブリノゲンの含量は正常グループに比べて高かった(P<0.01)。モデルグループに比べて、高、中、低容量のピノセンブリンラセミ化合物グループ及び高容量の(R)−ピノセンブリングループでは血漿フィブリノゲンの含量に著しい減少が見られた(P<0.01)。それによって、凝固性亢進(hypercoagulability)状態が変わったが、(S)−ピノセンブリンは全く活性を示さなかった。結果の詳細については表4を参照されたい。
【0059】
【表4】

【0060】
(6)血漿ET-1
表4に示したように、モデルグループでは血漿ET-1が急速に増加し、正常グループと比較すれば有意な差が見られた(P<0.01)。モデルグループに比べて、高、中、低容量のピノセンブリンラセミ化合物グループ及び高容量の(R)−ピノセンブリングループにおける血漿ET-1の含量は有意に減少した(P<0.01、P<0.05)。別の容量のピノセンブリンラセミ化合物や(R)−ピノセンブリン、及び(S)−ピノセンブリンは全く活性を示さなかった。
【0061】
(7)腫れた脳における水分の含量
表4に示したように、モデルグループにおける脳水分量は著しく増加し、正常グループとは有意な差を示した(P<0.05)。モデルグループに比べて、高容量のピノセンブリンラセミ化合物グループにおける脳水分量は有意に減少した(P<0.05)。その他のグループにおいては、注目すべき活性は見られなかった。
【0062】
(8)結論
モデルグループに比べて、ピノセンブリンラセミ化合物は、容量依存的に脳卒中の発症時期を遅らせることができる(P<0.01)。低容量のピノセンブリンラセミ化合物及び高容量の(R)−ピノセンブリンも、脳卒中の発症時期を遅らせることができる(P<0.05)。ニモジピンは、脳卒中の発症時期を遅延することができる(P<0.01)。ピノセンブリンンが脳卒中の予防効果を有し、かつ、ピノセンブリンラセミ化合物のほうが(R)−ピノセンブリンよりその効果に優れ、そして、(S)−ピノセンブリンは全く効果を示さないといえる。結果の詳細については表2を参照されたい。
【0063】
ピノセンブリンラセミ化合物は、脳卒中後の生存率を容量依存的に増加させるが、それは、ピノセンブリンラセミ化合物がSHRSPラットにおいて脳卒中を治療する活性を有することを意味する。
【0064】
(R)−ピノセンブリンは、高容量で投与されたときにのみ同様の活性を有するが、その活性は、ニモジピンに匹敵するものである。つまり、ピノセンブリンラセミ化合物は(R)−ピノセンブリンよりも優れた活性を有するが、(S)−ピノセンブリンは有意な活性を有さない。
【0065】
そこで、1)ピノセンブリンラセミ化合物は、脳卒中の治療及び予防効果を有し、2)(R)−ピノセンブリンも脳卒中の治療及び予防効果を有するものの、その効果はピノセンブリンラセミ化合物より多少劣り、3)ピノセンブリンラセミ化合物の治療効果は、一般的に(R)−ピノセンブリンよりも優れているが、それは、効果を有さない(S)−ピノセンブリンが(R)−ピノセンブリンの効果を向上するからである。
【実施例2】
【0066】
中大脳動脈閉塞(MCAO)によって引き起こされた急性虚血性脳卒中に対する効果
1.テスト薬:注射用ピノセンブリンラセミ化合物、注射用(R)−ピノセンブリン、および、注射用(S)−ピノセンブリンは、New Drug Development Laboratory of Drug Research Institute of the Chinese Academy of Medical Sciencesから入手し(バッチ番号:20050601、含量:2.36%)、CN200810084682.3に記載した方法、即ち、ピノセンブリンラセミ化合物又はピノセンブリン鏡像体とシクロデキストリン又はその誘導体との包接錯体を形成し、使用の際にその包接錯体を生理食塩水に溶かすことで製造した。バイエル社(ドイツ)から陽性対照群としてのニモジピンを購入した。
【0067】
実験動物:雄のSDラット(体重250〜280g)100匹をExperimental Animals Institute of the Chinese Academy of Medical Science社から入手した。これらのラットを、見かけ手術(sham operation)グループ、モデルグループ、ピノセンブリングループ、及び、ニモジピングループ(3mg/kg)にランダムに分けた。
【0068】
実験モデル:中大脳動脈閉塞(middle cerebral artery occlusion、MCAO)によって急性虚血脳卒中のモデルを作製した。
【0069】
中大脳動脈の閉塞方法(string occlusion method)は、ジー・ロンガ(Zea Longa)によって確立され、適切な改善を施して採択された。ラットの腹腔内に400mg/kgの10%抱水クロラールを注射した。外頸動脈(ECA)を分離して、その動脈が約0.8センチメートル位放出される部位に連結した。心臓に近いECAの端部を動脈クリップでクリップした。ECA連結部からECA分岐まで2ミリメートルのV字型の切開を作った。動脈のクリップを緩め後、ナイロン糸を、ECAとICAの分岐部を介してCCAへ、その後内頸動脈(ICA)へ挿入した。抵抗がわずかに感じられたときに、ナイロンのラインを、ICAを介して脳の内部へ押して、18.5±0.5mmの深さに挿入した。ナイロン糸は、中大脳動脈の始まり(MCA)を通して小さな前大脳動脈に到達しなければならないが、ICAは連結して縫合することができる。ナイロン糸の切り株は、皮膚の外側1センチメートルとする必要があった。
【0070】
見かけ手術グループのラットには、ラインを連結・導入することなく、術前麻酔と血管解剖を行った。
【0071】
統計方法: 結果は、平均±標準偏差として表し、データ間の比較は一元配置分散分析(one-way analysis of variance (ANOVA))によって分析・評価された。
【0072】
観察された指数及び結果:
1.神経行動学的検査(ベッダーソンスコア)
神経行動学的検査は、動物を致死させる前に行った。ラットは、2つの前肢の状態を観察するために約1カイ(1χ= 1/3メートル)だけ地面から持ち上げられた。ラットは地面に置かれ、その抵抗の違いを観察するためにラットを押した。ラットは地面に置かれ、その歩行を観察された。4段階スコア法(0〜5スコア)を採択した。スコアが高ければ高いほど、その神経行動の面からより深刻な損傷を受けていることを意味する。
【0073】
<ベッダーソンスコア基準>
(1)スコア0:正常、異常なし
(2)スコア1:尾を持って動物を持ち上げたとき,前肢(手術対側)が屈曲する
(3)スコア2:地面におかれたラットを手で押圧することで両側の抵抗を調べたとき、手術対側の抵抗が弱い
(4)スコア3:地面におかれたラットの歩行を観察したとき、手術対側を中心に回転行動あり
(5)スコア4:ラットに損傷が大きく、歩けない
【0074】
その結果を表5に示す。見かけ手術グループのラットの神経行動学的スコアは、0であった。モデル手術グループの平均神経行動学的スコアは3.4±0.6であった。ここで、ほとんどの動物は、押す力に対して抵抗が弱く、(手術対側での)前肢屈曲があり、回転運動があったので、スコア3と記録された。小数の動物は、押す力に対して抵抗が弱く、前肢屈曲があったので、スコア2と記録された。一部の動物は、損傷がひどくて歩けない状態だったので、スコア4と記録された。
【0075】
ピノセンブリンラセミ化合物グループ(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)では、動物の虚血によって引き起こされた神経損傷の症状は、容量依存的に、有意に改善された(P<0.05、P<0.01)。
【0076】
【表5】

【0077】
2.脳梗塞の体積
神経行動額的なスコアを求めたら、そのラットを致死させ、その脳組織を速やかに回収して、−20℃の冷蔵庫に入れた。10分後、その脳組織を室温雰囲気に移した。嗅球(olfactory bulb)、小脳、および、下位脳幹を切除した後、脳組織を、2mmの間隔で5個の連続的な冠状スライスに切断し、第一に脳前極(brain anterior pole)と視神経交叉(optic decussation)の接続中間部を、第二に視神経交叉を、第三に漏斗ハンドル(funnel handle)を、第四に漏斗ハンドルと尾状核の厚い葉(thick leaves caudate nucleus)の中間部を切った。その後、脳スライスを迅速に4%TTC及び0.1mlの1mo1・L-1K2HPO4を含む5ミリリットル溶液に加えて、37℃の一定温度にて30分間インキュベートした(暗闇の状態)。その間、脳スライスを5分ごとにひっくり返した。TTC染色後、梗塞組織が染色されず白く示されたのに対し、正常組織は、バラのような赤色で示された。脳スライスのすべてのグループを順番に入れて撮影した。写真は、画像解析システムによって処理され、各スライスにおける梗塞領域が計算された。全スライスの梗塞体積は、スライス(2ミリメートル)の厚さによって梗塞面積を乗じて計算し、梗塞体積は、すべてのスライスの梗塞体積の和であった。梗塞体積は、脳浮腫の影響を排除するように半球の割合(%)で示した。
【0078】
梗塞の体積(%)=(手術対側半球の体積−手術同側半球の梗塞体積)/手術対側半球の体積×100%
【0079】
この結果によれば、脳虚血が起こると、見かけ手術グループでは脳梗塞は見られなかったが、モデルグループにおける脳梗塞の体積は(33.6±4.3)%であった(P<0.01)。モデルグループに比べて、ピノセンブリンのラセミ化合物グループ(3、10、30mg/kg) における脳梗塞の体積は、有意に減少され(P<0.01)、そして、その梗塞の体積はそれぞれ (23.1±3.4)%、(21.4±2.1)%および(14.6±1.1)%であった。ニモジピングループにおける梗塞の体積は、(16.7±1.3)%であり、モデルグループ(P<0.01)とは有意に異なっていた。その結果を表5及び図1にて示す。
【0080】
その結果によれば、ピノセンブリンラセミ化合物は、虚血性脳卒中により引き起こされた脳梗塞の体積を減らすことができた。
【0081】
3.局所の脳血流の決定
定位装置の上にラットをうつ伏せに固定し、開頭を行った。手術視野のために洗浄した後、原点(起点)としてブレグマ(bregma)を用いて、ブレグマから後方に2mm、右方向に3mmの部位を測定点として選択した。その部位を取り巻く領域2〜3cmをデンタル・ドリルを用いて薄くした。その過程において、軽膜は完全に維持され、かつ、大きい血管は回避された。プローブ・ホルダー(probe holder)を配置し、固定した。
【0082】
ラットをあおむけにして手術台に固定し、MCAO手術を行った。ICAにナイロン線を挿入するとき、LDF値が安定するまでは、頭蓋内へ挿入しなかった。10分間の血流を記録し、その平均値を脳血流の基準値として用いた。MCAO手術が終わったら、ナイロン線を頭蓋内へ挿入した。血流が急に基準値の20〜30%に落ちたときに、MCAにおける血流をブロックした。各グループにおいてMCAO前の血流値がそのグループの基準値(100%)として用いられた。手術後の血流値を基準値の割合(%)で示した。動物を致死させる前にLDF値も同時に測定した。
【0083】
ラットにおける脳虚血後30分が経過した時点において、モデルグループのrCBF値は基準値の(31.09±5.35)%であった。ピノセンブリンラセミ化合物グループ(3、10、30mg/kg)およびニモジピングループ(3mg/kg)のrCBF値は、それぞれ基準値の(40.76±6.58)%、(50.09±7.09)%、(53.28±8.03)% 及び(55.58±6.09)%であった。すべての投与群における脳血流は、モデルグループに比べて有意に増加され、かつ、急速に回復された。この中でピノセンブリンラセミ化合物(10、30mg/kg)およびニモジピングループ(3mg/kg)は、モデルグループに比べて有意な差を示した(P<0.05)。補償側副循環(compensatory of collateral circulation)のため、虚血が起きてから局所脳血流の範囲が徐々に減少したが、モデルグループに比べて高い水準を維持できた。
【0084】
【表6】

【0085】
4.脳浮腫およびエバンス・ブルー(EB)およびフルオレセインナトリウム(NF)の決定
手術後、すぐに(即ち、投与グループへ投与直後)動物の尾静脈にEB/NF (0.5%, dissolved in normal saline)の混合溶液0.25mlを注射した。24時間後、生理食塩水をラットの心臓にかん流して、結合していない色素を除去した。そのラットを致死させ、迅速に脳組織を回収し、虚血性半球と非虚血性半球に分離した。2つの半球の重量をそれぞれ量り、7.5% (w/v) トリクロロ酢酸(TCA)を用いて均質化した。 そのホモジネートを2つの部分に分け、この中の1mlのホモジネーにNaOH(5N)52μlを用いて調整して、中性(pH)にした。その中から200μlを取り出して蛍光強度決定した(励起485nm、放射535nm)。そのNFは、一連の濃度のNF溶液で作成された標準曲線に基づいて決定された。ホモジネーとの他の部分を遠心分離にかけた(12000g、4℃、20分)。上澄み200μlをマイクロプレートのほうに取り出して、620nmにてその吸光度を測定し、かつ、一連の濃度のEB溶液を用いて作成された標準曲線に基づいてそのEBを測定した。その結果をμg EB (又は NF)/g (脳の湿重量) で表した。脳浮腫の割合(パーセント)を次のように表した:(虚血半球の脳重量−非虚血半球の脳重量)/非虚血半球の脳重量×100%
【0086】
表7によれば、モデルグループにおける脳浮腫の割合が(8.3±1.9)%であるに対し、ピノセンブリンラセミ化合物グループ(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg, iv) における脳浮腫の割合がそれぞれ(5.5±1.7)%、(4.1±1.5)%、および(3.2±2.1)%である。これは、モデル―グループに対し有意な差である(p<0.05、p<0.01)。ピノセンブリンラセミ化合物(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg、iv) は、組織におけるEB/NF漏れを有意に減少させた。これらの結果は、ピノセンブリンが、脳虚血によって引き起こされた組織浮腫を和らげることができることを示す。
【0087】
【表7】

【0088】
5.ラットの脳虚血組織のエネルギー代謝指数の測定
その結果を表7に示す。24時間の脳虚血後、モデルグループにおけるエネルギー代謝指数は手術前の42.6%に減少した(P<0.05)。モデルグループに比べて、ピノセンブリンラセミ化合物グループ(3mg/kg、10mg/kg, 30mg/kg)のエネルギー指数は、モデルグループに基づいてそれぞれ34.6%及び45.8%(P<0.05)までに有意に増加した。それは、容量依存的であった。
【0089】
回収実験(recovery test)及び再現性(repeatability)テストによれば、ATP、ADP、及び、AMPの注射容積(injection volume)はピーク面積と直線関係を有していた。得られたr値は、それぞれrATP=0.9897、rADP=0.9896、rAMP=0.9893、rCrP=0.9981であった。4種の標準物質の回収率(recovery rate)はそれぞれ(86.6±5.6)%、(94.45±7.5)%、(83.4±6.1)%、(78.69±7.3)%であった。
【0090】
【表8】

【0091】
6.脳虚血の急性期における炎症に対するピノセンブリンラセミ化合物の効果(虚血後24時間)
6.1 血清中NO及びTNF-αの含量
表9によれば、モデルグループにおける血清中NO及びTNF-αの含量は、有意に増加したが、ピノセンブリンラセミ化合物グループ(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)では、ラットの血清中NO及びTNF-αの含量(虚血後24時間の時点)が有意に減少した(P<0.05、P<0.01)。
【0092】
【表9】

【0093】
6.2 脳虚血組織におけるTNF-α、IL-1βのようなサイトカイン類の発現に対するピノセンブリンラセミ化合物の影響
図2によれば、虚血後24時間の時点における組織ではサイトカイン(TNF-α及びIL-1β)の発現が有意に増加され、そして、虚血の初期段階(early stage)からピノセンブリンラセミ化合物を投与すると(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)、TNF-α、IL-1βの発現がある程度阻害された。
【0094】
6.3 脳虚血組織におけるICAM-1、VCAM-1のような接着分子の発現に対するピノセンブリンラセミ化合物の影響
図2によれば、組織におけるICAM-1及びVCAM-1の接着分子の発現が虚血後24時間の時点で有意に減少され、虚血の初期段階からピノセンブリンラセミ化合物を投与すると(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)TNF-α及びIL-1βの発現がある程度阻害された。
【0095】
6.4 iNOS及びAQP-4たんぱく質の発現に対するピノセンブリンラセミ化合物の効果
図2によれば、虚血後24時間の時点で組織におけるiNOS及びAQP-4の発現が有意に減少され、虚血の初期段階からピノセンブリンラセミ化合物を投与すると(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)、iNOS及びAQP-4の発現がある程度阻害された。
【0096】
内部標準としてβ-アクチンを用いて、TNF-α、IL-1β、ICAM-1、VCAM-1、iNOS、AQP-4の発現を定量化することによって、これらのたんぱく質に対するピノセンブリンラセミ化合物の阻害効果がいっそう明確になった。10mg/kg及び30mg/kgのピノセンブリンラセミ化合物でより良い結果が得られた。
【0097】
上記結果から、ピノセンブリンラセミ化合物により、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた急性炎症が減少されることが分かった。
【0098】
7.ラットの脳虚血性組織におけるニューロン形状の観察
24時間の脳虚血の後、ラットに10%抱水クロラールを腹腔内注射することによって麻酔させた。ヘパリン添加生理食塩水(10分)および4%パラホルムアルデヒド(30分)を使って心臓を経由してかん流させた後、脳組織を取り出し、4%パラホルムアルデヒドへ移して、固定し、その後、凍結切片器によって冠状切片(6μm)に切断し、各20切片の中から一つの切片を取り出して、染色した。染色した断片を、ポリリシンで処理したスライドガラス上で膨張させ、−40℃の冷蔵庫に保存した。
【0099】
ニッスル染色:(1)冷蔵庫から凍結切片を取り出し、室温にて乾燥させた、(2)アセトンに浸して30分間固定し、PBSで3回洗浄した(1回につき3分間)、(3)トルイジンブル・ブルー色素に20〜30分間浸し、水で15分間洗浄した、(4)勾配によってエタノールによって脱水して、キシレンによってガラス状にし、中性ガムを添加した、(5)光学顕微鏡下で観察し、分析のため写真を撮った、(6)各ラットの大体同じ部位の凍結切片4枚を取り出して、200×光学顕微鏡下で各断片の海馬の5個の視野(視界)を観察した(1匹のラットあたり20個の視野)、視野の細胞を数えた。統計分析のために、モデルグループにおける数に対する投与グループにおける数の比率の平均を求めた。
【0100】
その結果を図3に示す。海馬は、脳虚血に敏感な領域である。ニッスル染色結果によれば、脳組織を虚血状態にすると、海馬ニューロンに深刻な損傷が見られ、細胞の不在や神経細胞のルーズな配列が見られた。定量的に、神経細胞は、見かけ手術グループに比べて、79.5±9.7%減少し、この差は有意なものであった(P<0.01)。ピノセンブリン(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg)は、虚血性神経細胞の形状を改善するとともに、神経細胞の損失を減少することができた。そのうち、神経細胞は、モデルグループに比べて、11.5±8.9%、36.8±4.9%、および、51.7±6.6%まで増加した。その結果は、モデルグループに比べて有意な差(P<0.05)であり、容量依存的であった。それは、急性脳虚血後の神経保護活性を意味するものであった。
【0101】
<要約>
(1)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされた行動異常を軽減することができる
(2)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされた脳血流の減少を軽減することができる
(3)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされた脳梗塞の体積(volume)を減少させることができる
(4)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされる脳浮腫を軽減することができる。
(5)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされるエネルギー代謝異常を軽減することができる。
(6)ピノセンブリンのラセミ化合物は、虚血性脳卒中によって引き起こされた急性炎症を軽減することができる。
(7)ピノセンブリンのラセミ化合物は、急性虚血性脳卒中によって引き起こされた神経細胞の損傷を軽減することができる。
【実施例3】
【0102】
急性毒性研究および評価
実験結果によれば、SDラットに一回静脈注射すると、ピノセンブリンラセミ化合物のLD50値が490.9 (367.6〜746.7)mg/kgであり、(S)−ピノセンブリンのLD50値は、375.3(271.2〜538.5)mg/kgであり、そして、(R)−ピノセンブリンのLD50値は347.8 (257.4〜466.3)mg/kgであった。上記結果に基づけば、ピノセンブリンラセミ化合物は、ピノセンブリンラセミ化合物のほうが安全に使用できるより広い範囲を有するということになる。これらの薬物すべては動物の重量に影響を及ぼさず、そして、毒性の観点から主に四肢まひが見られ、かつ、肝および肺におけるマイルドな鬱血が見られた。
【実施例4】
【0103】
局所の脳虚血‐再潅流ラットにおけるピノセンブリンの治療時間ウィンドウに関する研究
1.テストにおいて、一過性中大脳動脈閉塞(transient middle cerebral artery occlusion(tMCAO))モデルのラットを採用した。2時間の局所脳虚血後、再かん流(reperfusion)を行って、局所の脳虚血後の治療時間ウィンドウを調べた。そのラットに、1時間、4時間、及び、6時間の再かん流後(即ち、1時間の虚血、3時間の虚血、及び、8時間の虚血)ピノセンブリンラセミ化合物(1mg/kg、5mg/kg、静脈注射)を投与した。1時間及び4時間の再かん流後(即ち、3時間及び6時間の虚血後)、(R)−ピノセンブリン、及び、(S)−ピノセンブリン(1mg/kg、5mg/kg、静脈注射)を投与した。局所性脳虚血におけるこれらの薬剤の治療時間ウィンドウは、tMCAO後24時間に亘っての神経学的症状のスコア、梗塞の大きさ、及び、脳水分含量に対するこれらの影響を研究することで評価した。
【0104】
2.材料および方法
2.1 実験動物
100匹の雄SDラット(240-280g)をBeijing Weitong Lihua Experimental Animal Technology Co., Ltd.(Certificate of Conformity: SCXK(JING)2007-0001)から入手した。これらの動物を、手術前後を通して23〜25℃で通常通り育てた(餌及び水は特に制限なく与えた)。
【0105】
2.2 薬剤及び試薬
注射用ピノセンブリンラセミ化合物、注射用(R)−ピノセンブリン、および、注射用(S)−ピノセンブリンは、New Drug Development Laboratory of Drug Research Institute of the Chinese Academy of Medical Sciencesから入手し(バッチ番号:20050601、含量:2.36%)、CN200810084682.3に記載した方法、即ち、ピノセンブリンラセミ化合物又はピノセンブリン鏡像体とシクロデキストリン又はその誘導体との包接錯体を形成し、使用の際にその包接錯体を生理食塩水に溶かすことで製造した。バイエル社(ドイツ)から陽性対照群としてのニモジピン(Nimodipine)を購入した。ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンは、New Drug Development Laboratory in the Drug Research Institute of the Chinese Academy of Medical Sciencesから入手した。TTCは、シグマ社製であった。その他の試薬は、分析等級の市販されている試薬を用いた。
【0106】
2.3 tMCAOモデルの作製
ラットの麻酔:ラットの腹腔内に400mg/kgの10%抱水クロラールを注射したら、立ち直り反射(righting reflex)が消失した。ラットを仰向けにして手術台に固定し、前頸部(anterior neck)を切断し、組織層を分離して、右総頸動脈(common carotid artery、CCA)を露出した。内頸動脈(ICA)及び外頸動脈(ECA)の分岐後、CCAをセグメントに分離した。迷走神経と機関への損傷は回避された。スタンドバイ使用(standby use)に備えて、CCA及びECAの下にライン(line)を配置した。
【0107】
CCA及びICAを、動脈クリップを用いてクリップした。2〜3mm間隔のECA末端上において2つのNo.0手術ラインを結紮し、これらの2つの手術ライン間の血管を切断した。ECAの末端を、それがICAと直線を形成するまで引っ張った。ECAを切開し、ECAを通してICAの内部へナイロン糸を挿入した。動脈クリップを緩み、ICAを通して脳の内部へナイロン糸を押圧し、抵抗がわずかに感じられるまで深さ18.5±0.5mmまで挿入した。ナイロン糸は、MCAの先頭を通じて小さな前大脳動脈に達し、その後、右MCAの血流障害(blood flow obstruction)が確立された。動物は、その血流障害(閉塞)時に麻酔状態であった。障害の2時間後、ナイロン糸は、再灌流を形成するためにECAのスタブ(stub)に軽く引き抜かれた。手術中、動物は体温を維持できるよう、100Wのテーブルランプの下に置かれていた。室温は23〜25℃の範囲内で維持された。
【0108】
見かけ手術グループのラットは、結紮(ligation)及びラインを取り込むことなく、手術前麻酔及び血管解剖のみに供された。
【0109】
2.4 実験のグループ分け及び投与方法
見かけ手術グループ(3時間の虚血後通常の食塩水を静脈注射する)
モデルグループ(3時間の虚血後50mg/kgのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを静脈注射する)
ニモジピングループ(1 mg/kg、3時間の虚血後投与する)
ピノセンブリンラセミ化合物グループ(1mg/kg、5mg/kg、3、6、及び8時間の虚血後に投与する)
(R)−ピノセンブリングループ(1mg/kg、5mg/kg、3及び6時間の虚血後に投与する)
(S)−ピノセンブリングループ(1mg/kg、5mg/kg、3及び6時間の虚血後に投与する)
最初は静脈注射によって投与し、12時間後静脈注射の1.5の容量で腹腔内投与を行った(1回)。
【0110】
2.5 神経行動学的検査
動物が手術後起きている間に(動物を致死させる前に)神経行動学的検査を繰り返し行った。ベッダーソンスコアを採用した(詳細については、実施例2.1の項を参照されたい)
【0111】
2.6 梗塞体積の決定
神経行動学的スコアを求めた後、ラットは首をはねることによって致死させ、その脳組織を速やかに取り出して、−20℃の冷蔵庫に入れた。10分後、脳組織を室温の環境に移した。嗅球(olfactory bulb)、小脳、および、下位脳幹を切除した後、脳組織は、2mmの間隔で6個の連続冠状スライスに切断した。その後、脳スライスを素早く2%TTCを含む5mlの溶液中に入れ、37℃の一定温度、及び、暗闇の条件下で30分間インキュベートした。この間、脳スライスは5分ごとにひっくり返した。TTC染色後、正常組織はバラ色(赤色)を示したが、梗塞組織は、染色されず、白色を示した。脳スライスのすべてのグループを順番に入れて撮影した。写真は、画像解析システムにより処理され、各スライスの梗塞領域を算出した。各スライスの梗塞体積は、スライスの厚さ(2mm)×梗塞面積によって算出され、梗塞体積は、すべてのスライスの梗塞体積の和であった。梗塞体積の比率は、[病巣側(sick-side)梗塞の体積/総病巣側脳体積]として表すことができる。
【0112】
2.7 脳内水分含量の決定
スライスする前に、各動物の脳の湿重量(wet weight)を量った。染色後、脳スライスを105℃にて24時間乾燥させてから、各動物の脳の乾燥重量を量った。各グループの動物の脳の水分含有量を比較した。脳の水分含有量=(脳湿重量 - 脳乾燥重量)/脳湿重量×100%
【0113】
2.8 データ処理
定量的な測定値のデータは、tテストに対し平均値±標準偏差として表した。カウント数は、X2テストに対し%として表した。
【0114】
3.実験結果
3.1tMCAOラットにおけるベッダーソン(Bederson)値に対するピノセンブリンの影響
見かけ手術グループでは、神経行動学的スコアが0であった。溶媒対照群のラットの平均スコアは、3.4±0.6であった。ここで、ほとんどの動物は、押す力に対して抵抗が弱く、前肢屈曲があり、回転運動があったので、スコア3と記録された。小数の動物は、押す力に対して抵抗が弱く、前肢屈曲あったので、スコア2と記録された。一部の動物では、損傷がひどくて歩けない状態だったので、スコア4と記録された。
【0115】
ピノセンブリンラセミ化合物グループ(1mg/kg、5mg/kg)の場合、動物における3時間、及び6時間の虚血後の神経損傷の症状は、有意に改善されたが(P<0.05,P<0.01)、8時間の虚血後の症状に対する改善は有意なものでなかった(ある程度容量依存的である)。(R)−ピノセンブリングループ及び(S)−ピノセンブリングループ(1mg/kg、5mg/kg)の場合、3時間の虚血後の神経損傷の症状は有意に改善されたが(P<0.05)、6時間の虚血後の症状への改善効果は有意なものではなかった。また、ニモジピン(1mg/kg)の場合、3時間の虚血後の症状に対し改善効果は見られなかった。
【0116】
3.2 tMCAOラットにける梗塞体積に対するピノセンブリンの効果
ラットにおける24時間のtMCAO後、その結果得られた脳冠状スライスをTTCによって染色した。各グループに属する動物では一定の割合で染色されない梗塞領域(白色)が存在していたが、それは、24時間の再かん流以内に多少自然と回復されたことを意味する。統計的プロセスにおいては、梗塞体積が5%未満であるサンプルは各グループから取り除いた。3時間の脳虚血後に初めて投与されたピノセンブリンラセミ化合物(1mg/kg)は、梗塞体積を減少させ、そして、6時間の脳虚血後に初めて投与されたときその活性は有意ではなかった。
【0117】
ピノセンブリンラセミ化合物(5mg/kg)は、3時間及び6時間の脳虚血後に初めて投与されたときに梗塞体積を減らしたが(P<0.05、P<0.01)、8時間の脳虚血後に初めて投与されたときには有意な活性を示さなかった。これらの効果は、ある程度容量依存的であった。(R)−ピノセンブリン及び(S)−ピノセンブリン(1mg/kg、5mg/kg)は、3時間の脳虚血後梗塞体積を減らしたが(P<0.05)、6時間の脳虚血後に初めて投与されたときには有意な活性を示さなかった。また、ニモジピン(1mg/kg)は、3時間の脳虚血後に初めて投与されたとき、改善効果を示さなかった。
【0118】
3.3 tMCAOラットにおける脳浮腫に対するピノセンブリンの効果
モデルグループにおいて、ラットの脳水分含量は有意に減少した。ピノセンブリンラセミ化合物(1mg/kg、5mg/kg)は、3時間及び6時間の脳虚血後の脳水分量を有意に減少させたが(P<0.05、P<0.01)、その活性は、8時間の脳虚血後に初めて投与されたときには有意なものではなかった。これらの活性は、ある程度容量依存的であった。(R)−ピノセンブリン及び(S)−ピノセンブリン(1mg/kg、5mg/kg)は3時間の脳虚血後の脳水分量を減らしたが(P<0.05)、6時間の脳虚血後に初めて投与されたときにはその効果は有意なものではなかった。また、ニモジピン(1mg/kg)は3時間の脳虚血後に初めて投与されると有意な改善を示さなかった。この結果を表10にまとめた。
【0119】
【表10】

【0120】
4.結論
以上の結果によれば、3時間及び6時間の虚血後にピノセンブリンラセミ化合物を注射すると(1mg/kg、5mg/kg)、神経行動学的損傷が減少し、梗塞の体積も減少し、かつ、脳浮腫が軽減した。その活性は、有意であり、容量依存的なものであった。(R)−ピノセンブリン及び(S)−ピノセンブリンは、(ラットの)3時間の虚血後に初めて注射された場合に有意な効果を示したが、6時間の虚血後に初めて注射された場合には効果的なものではなかった。ニモジピンは実験条件において有意な効果は示さなかった。ピノセンブリンラセミ化合物(1mg/kg、5mg/kg、iv)は、ラットの急性虚血性脳卒中の治療に有効であり、その治療時間ウィンドウは約6時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中の治療剤の製造におけるピノセンブリンのラセミ化合物、ピノセンブリン塩のラセミ化合物、ピノセンブリン前駆体のラセミ化合物、又は、ピノセンブリン水和物のラセミ化合物の使用。
【請求項2】
前記脳卒中が、急性虚血性脳卒中である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ピノセンブリンのラセミ化合物、ピノセンブリン塩のラセミ化合物、ピノセンブリン前駆体のラセミ化合物、又は、ピノセンブリン水和物のラセミ化合物と、医薬的に許容可能な賦形剤と、を含む脳卒中の治療用医薬組成物。
【請求項4】
脳卒中の予防及び治療用薬剤の製造における(R)‐ピノセンブリン、(R)ピノセンブリンの塩、(R)‐ピノセンブリンの前駆体、又は、(R)‐ピノセンブリンの水和物の使用。
【請求項5】
前記脳卒中が、急性虚血性脳卒中である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
(R)‐ピノセンブリン、(R)‐ピノセンブリンの塩、(R)ピノセンブリンの前駆体、又は、(R)‐ピノセンブリンの水和物と、医薬的に許容可能な賦形剤と、を含む脳卒中の予防及び治療のための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【公表番号】特表2012−511518(P2012−511518A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539884(P2011−539884)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/CN2009/075456
【国際公開番号】WO2010/066199
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(506417359)石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司 (8)
【出願人】(504466591)中国医学科学院薬物研究所 (7)
【Fターム(参考)】