説明

脳移行活性を有するポリペプチド、およびその利用

ランダムなアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNAを合成してファージライブラリーに組み込んだものを作製し、脳移行性を有するポリペプチドのスクリーニングを行った結果、脳移行活性を有する複数のポリペプチドを取得した。これらのポリペプチドは、共通の配列を含んでおり、脳移行活性に関与するアミノ酸モチーフ配列を同定することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、脳移行活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドを含む分子、並びに脳移行活性を付与する薬剤に関する。
【背景技術】
脳は血液脳関門が存在するため、薬物などを経口摂取しても注射などにより投与しても、ほかの臓器に比べて有効濃度が得られにくい特徴がある。一方、大量投与することにより有効な濃度を脳内で確保することが可能にはなるが、末梢血液中には大過剰の薬物を注入することになり、腎障害や肝障害などの副作用の問題が生じる。そこで、脳への選択的薬物輸送のシステムを開発することが必要となり、実際に多くの研究がなされてきている。このような研究開発の多くは、脂溶性が高い物質ほど血液脳関門を通過しやすいという脳の血管内皮細胞の性質を利用した、薬物そのものの化学修飾による脳移行性の増大をはかるものであった。このような方法論では薬物の脳移行性が最大数倍程度改善するものの、全体としてはほとんど誤差範囲に留まるにすぎないという結果である。これは、末梢臓器への物質の浸透が血管内皮細胞の細胞間隙を通過するのに対して、脳の血管内皮細胞は細胞間隙が密着帯という特殊な構造を形成し細胞間隙からの血液成分の浸透がほとんどみられないため、脳への物質輸送は脂溶性の化学修飾を行い直接細胞膜にとけ込ませて浸透させるということを行わなければならない。つまり、脳への物質輸送は末梢臓器と違って迂回路がないため、正面突破により細胞の中を浸透させるということを行う方法論である。しかしそのメカニズムが異なるため、効率が数千から数万倍低く、したがって、脳特異的な薬物輸送とはいえない。
ところが、最近の技術的な進歩により、脳血管内皮細胞に発現している膜表面タンパク質を標的化する方法論が開発されてきた。特に脳内に薬物を取り込ませるにはトランスポーター(上述のように脳は細胞間隙からの物質の浸透がないため、血液中のアミノ酸や糖分は血液脳関門上に発現するトランスポーターに結合して脳内に特異的に運搬される。トランスフェリン受容体は脳の活動に必要な金属結合型酵素に金属イオンを供給するトランスフェリンというタンパク質を脳に輸送するトランスポーター分子である。)と呼ばれるタンパク質の機能を利用することが有効であり、現在、トランスフェリン受容体を特殊な抗体で標的化することにより脳への薬物の移行性を数十倍から100倍程度増大させることができると報告された(非特許文献1参照)。
しかし、トランスフェリン受容体は脳血管内皮細胞だけに発現しているわけではなく、肝臓や腎臓にも脳血管内皮細胞より多量に発現しているため、このシステムを利用した場合、脳への輸送量の増大とともに肝臓や腎臓にも薬物導入が起こる。従って、脳特異的物質輸送とは言い難い。このほか、いくつかのトランスポーター分子やP−糖タンパク質のようなアンチポーター分子を利用するものなど報告されているが、いずれも有効性が確認できていない。
これとは別に、特殊機能性ペプチドを利用する方法が最近開発された。これはPTD配列とよばれるもので、HIV tat遺伝子産物が細胞の核に移行する場合に必要なペプチド配列として同定されていた。このペプチドは核膜を通過するだけでなくあらゆる種類の細胞膜も通過する機能があるため(非特許文献2参照)、血液中に注入すると全身の臓器に分布することができる。脳血管内皮細胞も細胞膜を通してPTDペプチドが通過するため、脳への物質輸送をはかることができる。しかし、末梢臓器の場合、PTD配列による細胞膜経由の移入と細胞間隙からの浸透の両者が有効であるのに対し、脳は後者の浸透がみられないため、脳の物質の浸透率はほかの臓器に比べて遙かに低い。この技術でも脳特異性が示すことができない。
一方、最近になって、血管内皮細胞の臓器ごとの特殊性を規定している分子について報告がされるようになった。生体の各臓器はそれぞれ役割や特殊性によって栄養要求性や血液から供給される様々な因子の必要度が異なるため、それぞれの臓器に分布する血管内皮細胞はその存在場所によって少しずつ違った特徴を持っていることが徐々に明らかなってきている。さらに、血管内皮細胞は血液中に存在する炎症細胞や免疫細胞との直接の接点になっており、炎症や病態時にそれらの細胞が浸潤することをコントロールしている。このときに、侵入する細胞は炎症時に現れる炎症性のホーミングレセプターを認識して病巣に集積することが知られていたが、それだけではなく、組織特異的な血管内皮細胞マーカー分子(cellular zip codeとよばれている)も認識していることが明らかになってきた。この細胞マーカー分子の役割はまだよくわかっていないが、すくなくともこの分子を標的化すれば臓器の血管内皮細胞までは標的化できると考えられ、注目されている(非特許文献3参照)。ただ、この方法では各臓器の血管内皮細胞までは標的化できるが、どうやって臓器の実質に目的分子を導入するかを工夫しなければならない。
【非特許文献1】Ningya Shi and William M.Pardridge,Noninvasive gene targeting to the brain.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.97,Issue 13,7567−7572,June 20,2000
【非特許文献2】Steven R.Schwarze,Alan Ho,Adamina Vocero−Akbani,and Steven F.Dowdy,In Vivo Protein Transduction:Delivery of a Biologic ally Active Protein into the Mouse.Science 1999 September 3;285:1569−1572.
【非特許文献3】Renata Pasqualini,Erkki Ruoslahti,Organ targeting in vivo using phage display peptide libraries.Nature Vol.380,28,March 1996.
【発明の開示】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、脳移行活性に関与する因子(モチーフ配列)を見出すことにある。さらに、本発明は、脳移行活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドを含む分子、並びに脳移行活性を付与する薬剤の提供を目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。細胞が組織に侵入するメカニズムには細胞間隙を通過する経路(paracellular pathway)と細胞の中を通過する経路(trans cellular pathway)があることが知られている。後者の経路は特殊な状況で起こると仮定されていた。本発明者らは、ある特殊な細胞(ミクログリア)が血液脳関門を破壊せずに脳内に侵入する現象を研究している内にその細胞にはtrans cellular pathwayを誘導する分子が存在することを見いだした(Sawada,M.,Imai,F.,Suzuki,H.,Hayakawa,M.,Kanno,T.,Nagatsu,T.FEBS Lett,433:37−40,1998.Brain−specific gene expression by immortalized microglial cell−mediated gene transfer in the mammalian brain.)。
本発明者らは、この分子の活性部位のペプチド断片を利用するとこれまで不可能であった脳特異的標的化と物質輸送が可能となるものと想到した。
本発明者らは、ミクログリアには、上記メカニズムを誘起するリガンド分子が存在しているものと考えられることから、その分子を分離同定するために、ミクログリアからmRNAを分離し、cDNAライブラリーを作製してT7ファージに組み込み、脳移行活性を発現するようになったファージをスクリーニングすることで目的分子の同定に成功した。
さらに本発明者らは、ランダムなアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNAを合成してファージライブラリーに組み込んだものを作製して、脳移行活性を有するポリペプチドのスクリーニングを行った。
その結果、脳移行活性を有する複数のポリペプチドを取得し、これらのポリペプチド配列から、脳移行活性に関与すると考えられるアミノ酸モチーフ配列、および配列の特徴を見出すことに成功した。
さらに本発明者らは、上記モチーフ配列を有する合成ポリペプチドを被検動物へ投与することにより、当該ポリペプチドが実際に脳への移行活性を有することを確認した。また、本発明のポリペプチドの脳移行のメカニズムを解明すべく鋭意研究を行い、該ポリペプチドがトランスマイグレーション(trans cellular pathway)機構によって、脳組織へ移行することを明らかにした。即ち、本発明のペプチドは、トランスマイグレーション誘導能を付与する分子としても非常に有用である。
本発明のアミノ酸モチーフ配列あるいはアミノ酸の特徴を有するポリペプチドは、脳移行活性を有するものと考えられる。また、該ポリペプチドを付加した分子は、例えば、ファージ粒子のような大きな分子であっても、脳移行活性を示すことが本発明者らによって明らかとなった。本発明者らによって見出されたモチーフ配列を含むポリペプチドは、任意の分子と結合させることにより、該分子に脳移行活性を付与することが可能であり、従って、該モチーフ配列を含むポリペプチドは、脳移行活性を付与する薬剤となるものと考えられる。
上記の如く本発明者らは、上記課題の解決に成功し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、脳移行活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドを含む分子、並びに脳移行活性を付与する薬剤に関し、より具体的には、
〔1〕 塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を10%以上含有する、脳移行活性を有するポリペプチド(脳移行性ポリペプチド)、
〔2〕 環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域において塩基性アミノ酸残基(KまたはR)が10%以上含まれる、脳移行活性を有するポリペプチド、
〔3〕 環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有する、脳移行活性を有するポリペプチド、
〔4〕 環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有し、かつ、該環状領域の残りのアミノ酸残基のうち80%以上が以下のアミノ酸残基から選択されることを特徴とする、脳移行活性を有するポリペプチド、
G、A、V、L、S、T、P、Q、H、N
〔5〕 以下のアミノ酸モチーフ配列を含むポリペプチドであって、脳移行活性を有するポリペプチド、
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、N、P、VまたはL、Xは任意のアミノ酸、XはG,S,T,C,N,L,Q,またはYを表す、
〔6〕 環状領域に〔5〕に記載のアミノ酸モチーフ配列が含まれる、〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリペプチド、
〔7〕 アミノ酸モチーフ配列が以下の配列である、〔5〕または〔6〕に記載のポリペプチド、
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、N、PまたはV、Xは任意のアミノ酸、Xは非電荷極性アミノ酸(G,S,T,C,N,Q,Y)を表す、
〔8〕 アミノ酸モチーフ配列が以下の配列である、〔5〕または〔6〕に記載のポリペプチド、
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、PまたはL、Xは任意のアミノ酸、XはS,T,C,L,またはQを表す、
〔9〕 トランスマイグレーション誘導活性を有する、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリペプチド、
〔10〕 脳の血管内皮細胞と結合する活性を有する、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリペプチド、
〔11〕 以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチド、
(a)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)前記(a)のポリペプチドの両端のシステイン同士のジスルフィド結合によって環状化されたペプチド領域を含む、ポリペプチド、
(c)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が付加、欠失、もしくは置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、脳移行活性を有するポリペプチド、
〔12〕 ポリペプチドの長さが9アミノ酸以内である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載のポリペプチド、
〔13〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
〔14〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドと結合する抗体、
〔15〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドを含有する、任意の分子に脳移行活性を付与するための薬剤、
〔16〕 任意の分子が任意のポリペプチドである、〔15〕に記載の薬剤、
〔17〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドを含む、脳移行活性を有する分子、
〔18〕 分子がファージ粒子、または該ファージ粒子の外殻タンパク質である、〔17〕に記載の分子、
〔19〕 分子が〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドとの融合タンパク質である、〔17〕に記載の分子、
〔20〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドからなる、脳送達用キャリア、
〔21〕 〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドが、ミセル、リポソームまたはマイクロカプセルと結合した構造からなる、脳送達用キャリア、
〔22〕 〔20〕または〔21〕に記載の脳送達用キャリアに薬物が担持された構造からなる、脳疾患治療剤、
〔23〕 任意の分子に〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドを結合させる工程を含む、脳移行活性を有する分子の製造方法、
〔24〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、脳移行活性を有するタンパク質分子の製造方法、
(a)発現可能な状態で任意のタンパク質分子をコードするDNAと、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNAとが結合した構造のDNAを含む発現ベクターを作製する工程
(b)前記発現ベクターを細胞へ導入する工程
(c)前記ベクターからの発現産物を回収する工程
〔25〕 以下の工程(a)および(b)を含む、任意の分子を非ヒト動物の脳へ移行させる方法、
(a)任意の分子と〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドとが結合した構造の脳移行活性を有する分子を製造する工程
(b)前記分子を非ヒト動物体内へ投与する工程
〔26〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドに対して結合活性を有する分子のスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリペプチドと被検分子とを接触させる工程
(b)前記ポリペプチドと被検分子との結合活性を検出する工程
(c)前記ポリペプチドと結合する分子を選択する工程
〔27〕 以下の工程(a)〜(d)を含む、脳移行活性を有するポリペプチドのスクリーニング方法、
(a)被検ポリペプチドをファージ外殻タンパク質上へ提示させたファージ粒子を作製する工程
(b)該ファージ粒子を、非ヒト動物へ投与する工程
(c)該非ヒト動物の脳組織からファージ粒子を回収する工程
(d)工程(c)において回収されたファージ粒子に提示された被検ポリペプチドを脳移行活性を有するポリペプチドとして選択する工程
〔28〕 被検ポリペプチドが〔5〕、〔7〕または〔8〕のいずれかに記載のアミノ酸モチーフ配列を含む、〔27〕に記載のスクリーニング方法、
〔29〕 ファージがM13ファージまたはT7ファージである、〔27〕に記載のスクリーニング方法、
〔30〕 工程(a)につづいて、さらに、脳の血管内皮細胞と結合するファージ粒子を選択する工程、を含む〔27〕に記載のスクリーニング方法、
を提供するものである。
本発明は、脳移行活性を有するポリペプチドを提供する。一般に血液から脳組織内への物質の移行は、血液脳関門(blood−brain barrier;BBB)と呼ばれる仕組みによって制限されている。これによって脳は有害物質等から守られている。本発明において「脳移行活性」とは、ポリペプチド等の分子が体内へ投与(例えば、静脈投与等)された際に、該分子が脳組織内へ移行する活性を言う。本発明のポリペプチドは、通常、脳移行活性(脳移行性)を有するポリペプチドであると表現することができるが、例えば、血液脳関門の通可能、あるいはトランスマイグレーション(トランスサイトーシス)誘導能を有するポリペプチドと表現することも可能である。また、本発明のポリペプチドは、他の物質(分子)と結合させることにより、他の分子を脳へ移行させる機能を有する。従って、本発明のポリペプチドは、「脳移行活性を付与するポリペプチド」、「脳移行ペプチドタグ」、「脳移行活性付与剤」と表現することもできる。
また、本発明者らは、9アミノ酸長のポリペプチドが、他の物質(分子)に対し、有効な脳移行活性を付与できることを明らかにした。従って、少なくとも、9アミノ酸程度の短いポリペプチドであっても、他の分子に対し有効な脳移行活性を付与する機能があるものと言える。本発明のポリペプチドの長さは、特に制限されないが、例えば100アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは9アミノ酸以内であり、最も好ましくは4〜9アミノ酸長である。
後述の実施例で示す実験によって、以下の配列を有するポリペプチドは、脳移行活性を有することが判明した。

本発明のポリペプチドの好ましい態様においては、以下の〔配列1〕に記載のアミノ酸モチーフ配列、より好ましくは〔配列2〕に記載のアミノ酸モチーフ配列、または〔配列3〕に記載のアミノ酸モチーフ配列を含むポリペプチドである。換言すれば、本発明の好ましい態様においては、以下の〔配列1〕〜〔配列3〕のいずれかのアミノ酸モチーフ配列を少なくとも有するポリペプチドを提供する。
〔配列1〕 X−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、
はS(セリン)、T(トレオニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)、V(バリン)またはL(ロイシン);
は任意のアミノ酸;
はG(グリシン)、S(セリン)、T(チロシン)、C(システイン)、N(アスパラギン)、L(ロイシン)、Q(グルタミン)、またはY(チロシン);
を表す。
〔配列2〕 X−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、
はS(セリン)、T(トレオニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)、またはV(バリン)〔ただし、Xは、さらに好ましくはSまたはT〕;
は任意のアミノ酸;
はG(グリシン)、S(セリン)、T(チロシン)、C(システイン)、N(アスパラギン)、Q(グルタミン)、またはY(チロシン)〔ただし、X4は、さらに好ましくはT、QまたはC〕;
を表す。また、上記(RまたはK)は、さらに好ましくはRである。
一般的に、これらアミノ酸(G、S、T、C、N、Q、Y)は、非電荷極性アミノ酸に分類される。
〔配列3〕 X−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、
はS(セリン)、T(トレオニン)、P(プロリン)、またはL(ロイシン);
は任意のアミノ酸;
はG(グリシン)、S(セリン)、T(チロシン)、C(システイン)、L(ロイシン)、またはQ(グルタミン);
を表す。
なお、本明細書におけるアミノ酸は、一般的に使用される一文字表記にならって記載した(例えば、Rはアルギニン、Kはリシン)。また、一般的な記載方法にならい、N末からC末方向の順にアミノ酸配列を記載した。
本発明者は、上記ペプチドが環状化された(より具体的には、上記ペプチドにおける両端のシステイン間でジスルフィド結合(S−S結合)が形成され環状化された)構造を有するポリペプチドは、さらに高い脳移行活性を有することを見出した。
従って本発明のポリペプチドの好ましい態様においては、環状構造を有するポリペプチドである。本発明においては、この環状領域を構成するポリペプチドについて、上記モチーフ配列を見出すことができる。該モチーフ配列を構成するアミノ酸は、互いに隣接する4アミノ酸残基から構成される。これら隣接するアミノ酸同士は、通常、ペプチド結合を形成するが、隣接するアミノ酸がシステイン残基同士である場合には、ジスルフィド結合を形成し得る。本発明のモチーフ配列における上記「隣接する4アミノ酸残基」とは、互いにペプチド結合を形成している場合に制限されず、隣接するアミノ酸がシステインである場合には、ジスルフィド結合を形成している場合であってもよい。即ち、本明細書における上記〔配列1〕〜〔配列3〕の、「−」は、通常、ペプチド結合を意味するが、隣接するアミノ酸がシステインである場合には、該「−」はジスルフィド結合(S−S結合)であってもよい。例えば、直鎖上のポリペプチドのアミノ酸配列において、本発明のモチーフ配列が見出されない場合であっても、環状構造を形成することにより隣接するようになったアミノ酸によって、本発明のモチーフが形成される場合がある。
また、本発明の好ましい態様においては、上記の4アミノ酸からなるモチーフ配列を含むようなポリペプチドであれば、上記のモチーフ配列以外のアミノ酸配列の種類は特に制限されない。
また、(表1)に記載した脳移行活性を有するポリペプチドは、以下の特徴を有する。
環状構造を形成し得るポリペプチド領域(即ち、両端のシステインを除くアミノ酸配列)において、(1)全てのポリペプチドには塩基性アミノ酸のKまたはRが含まれ、(2)残りのアミノ酸残基は、10種のアミノ酸〔G、A、V、L、S、T、P、Q、H、N〕のいずれかから構成される。
従って、本発明の好ましい態様においては、環状領域を有するポリペプチドであって、該環状領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有し、かつ、該環状領域の残りのアミノ酸残基がアミノ酸残基〔G、A、V、L、S、T、P、Q、H、N〕から選択される(通常、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)ことを特徴とする(この特徴を、本明細書において「特徴1」と記載する場合あり)、脳移行活性ポリペプチドを提供する。本発明のさらに好ましい態様においては、上記「特徴1」を有するポリペプチドであって、本発明のモチーフ配列(〔配列1〕〜〔配列3〕)を含むポリペプチドである。
また、上記「特徴1」において記載したように、本発明の全てのポリペプチドには、塩基性アミノ酸(KまたはR)が含まれるという特徴が見出された。例えば、実施例に使用された9アミノ酸のポリペプチドにおいては、少なくとも1つの塩基性アミノ酸が見出された(全アミノ酸に対する含有率は、1/9=0.11(11%)以上)。
従って、本発明の一つの態様として、以下のポリペプチドを提供する。
(a)塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を10%以上含有する、脳移行活性を有するポリペプチド。
(b)環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域において塩基性アミノ酸残基(KまたはR)が10%以上含まれる、脳移行活性を有するポリペプチド。
(c)環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有する、脳移行活性を有するポリペプチド。
本発明のポリペプチドの長さの上限についても、特に制限されるものではないが、通常、上記4アミノ酸配列のモチーフあるいは前記「特徴1」を有する7アミノ酸もしくはそれ以上の長さのポリペプチドであれば、効率的な脳移行活性を有するものと考えられる。長さの上限についても特に制限されないが、一般に50アミノ酸長以下、好ましくは35アミノ酸長以下のポリペプチドについては、十分に脳移行活性を有するものと考えられる。また、該ポリペプチドを含むさらに長いポリペプチドであっても、通常、脳移行活性を有することから、本発明のポリペプチドは、その長さを制限されない。
本発明の好ましい態様において環状化されるポリペプチド領域の長さは、特に制限されない。本発明者は環状化されるペプチドの一例として、末端にシステイン残基を配する9アミノ酸残基のポリペプチドを実験に供した。即ち、例えば、10アミノ酸あるいはそれ以上の長さの環状構造を有するポリペプチドであっても、本発明のモチーフ配列もしくは上述の「特徴1」を有するポリペプチドであれば、脳移行活性を有するものと考えられる。従って、本発明のポリペプチドにおける環状ペプチド領域の長さは、特に制限されないが、例えば100アミノ酸以内であり、好ましくは50アミノ酸以内であり、より好ましくは4〜30アミノ酸であり、さらに好ましくは4〜15アミノ酸であり、さらに好ましくは4〜9アミノ酸であり、最も好ましくは4〜7アミノ酸である。
また好ましい態様においては、本発明のポリペプチドは以下の(A)および/または(B)の機能(活性)を有することを特徴とする。
(A)トランスマイグレーション(トランスサイトーシス)誘導活性
(B)脳の血管内皮細胞と結合する活性
上記(A)における「トランスマイグレーション」とは、ある分子が脳へ侵入する際に、血管内皮細胞の細胞間隙を通過するのではなく、血管内皮細胞内を通過する現象を言う。これは「trans−endothelial cell migration」、「trans cellular pathway」、もしくは「トランスサイトーシス」とも呼ばれ、このメカニズムによって血管内皮細胞を通過する分子(細胞等)は、その表面にシグナル分子を持ち、血管内皮細胞表面上にある受容体を介して血管内皮細胞に上記現象を誘導するものと考えられる(図1)。
本発明のポリペプチドは、血管内皮細胞に上記トランスマイグレーションを誘導する活性を有するものと考えられる。即ち、本発明のポリペプチドは、トランスマイグレーションを誘導するためのシグナル分子としての役割を担うものと考えられる。
また、上記シグナル分子は、トランスマイグレーションの初期段階において脳の血管内皮細胞と(例えば、該細胞上の受容体と)結合するものと考えられる。従って、好ましい態様においては、本発明のポリペプチドは、脳の血管内皮細胞と結合する活性を有することを特徴の一つとする。
任意の被検分子について、上記(A)のトランスマイグレーション誘導活性を有するか否か、あるいは、上記(B)の脳の血管内皮細胞と結合するか否かは、当業者においては公知の方法を利用して適宜評価することができる。一例を示せば、蛍光標識を施した被検分子を血管内に投与し、脳の血管内皮細胞の凍結切片を蛍光顕微鏡によって観察することにより評価することができる。例えば、蛍光標識された分子が付着した血管内皮細胞が観察されれば、被検分子は上記(B)の活性を有するものと判定され、また、蛍光標識された被検分子が血管内皮細胞内において観察されれば、被検分子は上記(A)の活性を有するものと判定される。
また、上記蛍光標識方法以外にも、アイソトープ標識、PETリガンドによる標識、マグネタイトなどと結合させてMRIで検出する方法等が挙げられる。上記in vivo法以外のその他の態様としては、例えば、血管内皮細胞の培養系にBBBを誘導して、上記被検分子を投与することによっても、トランスマイグレーション誘導活性を評価することができる。透過が確認できれば、上記(A)の活性を有するものと判定され、また、洗浄後に血管内皮細胞に接着していれば、上記(B)の活性を有するものと判定される。
また本発明における「脳の血管内皮細胞」とは、例えば、マウスMBEC4、市販のヒト由来脳血管内皮細胞BBEC、牛脳由来の一時培養血管内皮細胞等の細胞、また末梢血管由来血管内皮細胞とアストロサイトを共培養しBBB様機能を誘導したもの等を示すことができる。
当業者においては任意のポリペプチド(合成ペプチド)、あるいは、該ペプチドを有する分子について、これらの細胞を利用して、上記(A)または(B)の活性の評価を行うことが可能である。具体的には、後述の実施例に記載の方法により、適宜、活性を評価することができる。
本発明のポリペプチドとしては、より具体的には、例えば、上述の表1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドを挙げることができるが、これらは本発明のポリペプチドの一例であり、本発明のポリペプチドはこれらに限定されない。表1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、もしくは該ポリペプチドを外殻タンパク質上に発現させたファージ分子は、後述の実施例で示すように、実際に脳移行活性を有することが本発明者によって示された。
従って本発明は、以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチドを提供する。
(a)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)前記(a)のポリペプチドの両端のシステイン同士のジスルフィド結合によって環状化されたペプチド領域を含む、ポリペプチド
(c)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が付加、欠失、もしくは置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、脳移行活性を有するポリペプチド
上記(c)においては、本発明のモチーフ配列(〔配列1〕〜〔配列3〕)以外のアミノ酸残基において付加、欠失、もしくは置換されることが好ましい。および/または、本発明の上記「特徴1」を有するようにアミノ酸が付加、欠失、もしくは置換されることが好ましい。また、一般的に「数個」とは、2〜9の範囲の数を意味する。
本発明のポリペプチドが脳移行活性を示す対象となる生物は、血液脳関門を有する動物であれば特に制限されないが、通常、哺乳動物であり、好ましくは、マウス、ラット、スナネズミ、ネコ、ウシ、サル、もしくはヒトである。
また本発明のポリペプチドは、天然タンパク質由来ポリペプチド、組換えタンパク質由来ポリペプチド、または化学合成ポリペプチド等のいずれのポリペプチドであってもよい。当業者においては、任意のアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成することが可能である。例えば、上記のモチーフ配列を含む、および/または上記「特徴1」を有するようなポリペプチドの合成は、当業者に公知の方法、例えば、市販のポリペプチド合成機等を利用して適宜実施することができる。
さらに本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明に含まれる。上記ポリヌクレオチドとは、通常、DNAまたはRNAの双方が含まれる。即ち、本発明のポリヌクレオチドをコードするDNA、および該DNAの転写産物であるRNAは、本発明に包含される。
本発明は、本発明のポリヌクレオチドが挿入されたベクター、本発明のポリヌクレオチドまたは該ベクターを保持する宿主細胞、および該宿主細胞を利用した本発明のポリペプチドの製造方法を提供する。
本発明のベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましい。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S−FL3ベクター(GenBank Accession No.AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol.8:466−472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley & Sons.Section 11.4−11.11)。
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley & Sons.Section 9.1−9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO−BRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
本発明のポリペプチドの回収は、本発明のポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明のポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
組換え細胞培養物から本発明のポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
本発明のポリペプチドは脳移行活性を有することから、本発明のポリペプチドが結合した分子は脳移行活性を有することが期待される。本発明者らは、通常脳移行活性を有しないファージ粒子が、その外殻タンパク質に本発明のポリペプチドを含むことにより、実際に脳移行活性を獲得することを示した。従って、本発明のポリペプチドは、任意の分子に対し結合することにより、任意の分子について脳移行活性を付与させる機能を有するものと考えられる。即ち本発明のポリペプチドは、他の分子に脳移行活性を付与し得る有用な用途を持つ。本発明は、本発明のポリペプチドを含む、任意の分子に脳移行活性を付与するための薬剤を提供する。好ましい態様においては、上記のアミノ酸モチーフ配列、および/または上記「特徴1」を有するポリペプチドを含む、脳に任意の分子を移行させるためのペプチドタグを提供する。
本発明の上記ペプチドタグの一例としては、後述の実施例に記載の本発明のペプチドとビオチンとのコンジュゲート分子を挙げることができる。該コンジュゲート分子は、アビジンと結合した任意の分子と、適宜結合させることができる。即ち、図8で示されるような構造を有する脳移行性ペプチドコンジュゲート分子、あるいは、後述の実施例によって具体的に使用されたコンジュゲート分子は、好ましい態様として本発明に含まれる。該コンジュゲート分子を用いることにより、アビジンと結合させた所望の分子を、脳へ移行させることが可能である。該コンジュゲート分子を用いた、任意の分子を脳へ移行させる方法もまた、本発明に含まれる。さらに本発明には、本発明の上記薬剤によって脳移行活性を付与された分子も含まれる。
本発明のポリペプチド(薬剤)によって脳移行活性を付与される分子は、特に制限されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、糖鎖、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物、微生物産生物、ファージ、抗原、抗体、ミセル(高分子ミセル等)、リポソーム、マイクロカプセル、ペプチド核酸(PNA)、医薬化合物等を挙げることができる。本発明のポリペプチドもしくは上記分子は必要に応じて適宜標識することも可能である。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識、酵素標識等を挙げることができる。
また、本発明のポリペプチドによって脳移行活性を付与される分子の大きさは、特に制限されないが、通常は、物理的に血液脳関門を通過しうる程度の大きさを上限とする。後述の実施例で示すように、通常のファージ程度の大きさの分子も、本発明のポリペプチドの作用によって血液脳関門を通過することが可能である。従って、上記の付与される分子は、ファージと同等の大きさを呈する程度の分子(物質)であってもよい。例えば、上記の付与される分子がアミノ酸で構成される場合には、10万程度のアミノ酸を含有する分子であってもよい。
上記分子と本発明のポリペプチドとは、当業者においては、該分子の種類を考慮して適宜、公知の方法を利用して結合させることが可能である。
一例を示せば、市販のカップリング試薬(N−結合型、COOH−結合型、アミノ酸残基修飾型、S−S結合型等)を用いる方法、クロラミンTを用いる方法、イソチアネート基を導入する方法等により、該分子と本発明のポリペプチドとを結合させることができる。
また、該分子がタンパク質である場合には、該タンパク質と本発明のポリペプチドとの融合タンパク質をコードするDNAを用いて、本発明のポリペプチドが結合した分子を作製することも可能である。
より具体的には、以下の工程を含む方法によって作製することができる。
(a)発現可能な状態で任意のタンパク質分子をコードするDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとが結合した構造のDNAを含む発現ベクターを作製する工程
(b)前記発現ベクターを細胞へ導入する工程
(c)前記ベクターからの発現産物を回収する工程
また本発明は、本発明の脳移行活性を有するポリペプチドからなる脳送達用キャリアを提供する。該キャリアは、「担体」あるいは「運搬体」と表現することも可能である。本発明の脳移行活性を有するポリペプチド自体も、上記キャリアの例として挙げることができる。即ち、本発明のポリペプチドと、脳へ移行させるべき分子とを直接結合させることによって、該分子を脳へ送達させることができる。また、本発明の上記キャリアの好ましい態様としては、例えば、本発明のポリペプチドが、ミセル(高分子ミセル)、リポソームまたはマイクロカプセルと結合した構造からなるキャリアを挙げることができる。
さらに、本発明のキャリアを利用することにより、所望の薬剤を脳へ移行させることが可能である。例えば、脳疾患に対して治療効果を有する化合物(医薬組成物)を、上記キャリアに担持させることにより、該化合物を効率的に脳へ送達させ、有効な治療効果を発揮させることが可能である。該化合物(医薬組成物)を担持させたキャリア自体は、脳疾患治療剤として期待される。従って本発明は、本発明の上記脳送達用キャリアに薬物が担持された構造からなる、脳疾患治療剤を提供する。なお、上記「担持された」とは、薬物をキャリアと直接結合させた状態でもよいし、薬物(医薬組成物)をキャリアに内包させた状態でもよい。
また本発明は、本発明の脳移行活性を有する分子の製造方法を提供する。本発明の製造方法の好ましい態様においては、任意の分子に本発明のポリペプチドを結合させる工程を含む、脳移行活性を有する分子の製造方法である。また、該分子がタンパク質である場合には、本発明は好ましい態様として、上記工程(a)〜(c)を含む製造方法を提供する。
なお、本発明のポリペプチドは、脳移行活性を付与したい分子の外側に配置するように該分子と結合させることが好ましい。即ち、本発明のポリペプチドは、該分子の表面上へ配置されるように該分子と結合させることが望ましい。
本発明の好ましい態様においては、本発明のポリペプチドとして上記モチーフ配列を挟むようにシステイン残基(C)を配置させた配列を含むポリペプチドを挙げることができる。ポリペプチド中の2つのシステイン残基のSH基は、通常、自動酸化により架橋結合(ジスルフィド結合)することが知られている。このように2つのシステイン間で架橋結合が形成されることにより、その間に位置するモチーフ配列を含むポリペプチド鎖はループ状に突出することが期待される。即ち、本発明のポリペプチドに上記のようなシステイン残基を導入することにより、効率的に本発明のポリペプチドを分子表面(外側)へ効率的に配置させることが可能となる。その他に、本発明のポリペプチドを外側へ配置させる方法として、例えば、ポリペプチド鎖を導入するタンパク質分子の外側に露出するドメインに本発明のポリペプチドを配置させるように組換え体を作成する方法、PEGのような架橋剤をタンパク質、脂質、人工担体などに結合させ、PEG鎖の末端にポリペプチド鎖を結合させる方法、ポリペプチド鎖を担体表面に化学結合させる方法等が挙げられる。
本発明のポリペプチドと結合させる分子として、例えば、脳疾患の治療のために脳組織へ直接移行させることが望ましい化合物等を挙げることができる。該化合物は、本発明のポリペプチドによって脳移行活性が付与され、その結果、体内へ投与された際に効率的に脳組織へ移行し、治療効果を発揮することが期待される。
本発明には、上記のような脳疾患に対して治療効果が期待される脳移行活性を有する分子、または該分子を含む薬剤が含まれる。
本発明の脳移行活性を有するポリペプチドを用いた脳神経疾患の治療に対する治療戦略としては、例えば以下の場合に、本発明を適用することが可能である。
1) 欠損または変異などによって量や活性が低下した酵素や生理活性タンパク質を補う補充療法:
遺伝子欠損や遺伝子変異により特定の酵素またはタンパク質が脳内で欠乏することによって生じる様々な脳疾患に対し、欠乏するタンパク質や酵素の遺伝子を導入した細胞を注入することにより行われる。また、特定の神経細胞が変性脱落するパーキンソン病やアルツハイマー病に対し、神経の変性脱落により欠乏する神経伝達物質の合成を促進するような遺伝子、たとえばパーキンソン病におけるチロシン水酸化酵素やビオプテリン合成酵素などのドーパミン生合成系の酵素遺伝子が考えられる。
2) 変性などで脱落する神経細胞を保護し機能を強化する保護療法:
変性疾患や脳虚血など色々な原因で生じる神経細胞死を抑制し、神経突起の再生を促す神経栄養因子(NGF,BDNF,GDNF,NT3など。特にパーキンソン病ではBDNFやGNNFが有効であることが近年示されている。)遺伝子を発現する細胞を注入することにより行われる。また多発性硬化症のように免疫細胞が関与する疾患では免疫抑制作用があるTGFβやIL−10遺伝子を発現する細胞を導入することにより行われる。
3) 腫瘍や血栓などを除去するような方法:
抗腫瘍作用を持つ因子を発現させたり、抗がん剤を導入した細胞を脳に移入したりすることにより行なわれる。血栓除去については、線溶系の酵素を発現させることが考えられる。
4) 有効な薬物を脳にだけ導入するような方法:
神経系に作用する薬物は末梢毒性が高かったり、末梢神経系に作用を持つ物、血液脳関門を通過しにくい物など色々あり、脳への特異的なドラッグデリバリーシステムが必要とされていた。本発明のポリペプチドを用いることにより、末梢臓器にあまり影響を与えず脳に特異的に薬物投与ができると考えられる。
5) 脳疾患予防システムとしての利用法:
もともとミクログリアはその細胞の性質として変性や炎症部位に集まり死細胞を取り除き損傷修復にも関わったり、抗腫瘍作用や抗ウィルス作用を持つ、いわば脳内防御システムともいうべき細胞であることから、その性質を遺伝子操作などで強化することによって、単一疾患の治療だけでなく、脳内防御システムそのものの強化を行うことによってあらゆる疾患に対する予防措置にも応用しうると考えられる。
本発明の上記薬剤は、本発明のポリペプチドもしくは該ポリペプチドを含む脳移行活性を有する分子のみを成分とするものであってもよいし、また、公知の製剤学的製造法によって、製剤化することもできる。例えば、薬剤として一般的に用いられる適当な担体、または媒体、例えば滅菌水や生理食塩水、植物油(例、ゴマ油、オリーブ油等)、着色剤、乳化剤(例、コレステロール)、懸濁剤(例、アラビアゴム)、界面活性剤(例、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤)、溶解補助剤(例、リン酸ナトリウム)、安定剤(例、糖、糖アルコール、アルブミン)、または保存剤(例、パラベン)、等と適宜組み合わせて、生体に効果的に投与するのに適した注射剤、経鼻吸収剤、経皮吸収剤、経口剤等の医薬用製剤、好ましくは注射剤に調製することができる。例えば、注射剤の製剤としては、凍結乾燥品や、注射用水剤等で提供できる。
また体内への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、または経口的に当業者に公知の方法により行うことができるが、好ましくは動脈内投与である。
また本発明には、本発明の上記薬剤によって脳移行活性を付与された分子も含まれる。その一例を示せば、本発明のポリペプチドを外殻タンパク質上へ発現させたファージを好適に挙げることができる。
上記ファージは、特に制限されないが、例えば、T7ファージ、M13ファージ等を好適に示すことができる。T7ファージを用いる場合には、キャプシド(Capsid)と呼ばれる外殻タンパク質の外側に本発明のポリペプチドを提示させることができる。
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する(好ましくは特異的に結合する)抗体に関する。ここで「抗体」には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、さらにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFabフラグメントが含まれる。
本発明のポリペプチド、またはそれらを発現する細胞は、本発明のポリペプチドに結合する抗体を産生するための免疫原としても使用することができる。抗体は、好ましくは、本発明のポリペプチドに免疫特異的である。「免疫特異的」とは、その抗体が他のポリペプチドに対するその親和性よりも本発明のポリペプチドに対して実質的に高い親和性を有することを意味する。
本発明のポリペプチドに結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。本発明のポリペプチドあるいはそのGSTとの融合タンパク質をウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、本発明のポリペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、マウスミエローマ細胞とポリエチレングリコールなどの試薬により融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、本発明のポリペプチドに結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
本発明の抗体は、本発明のポリペプチドやこれを発現する細胞の単離、同定、および精製に利用することができる。また本発明のポリペプチドは、後述の本発明のポリペプチドに対し結合活性を有する分子のスクリーニング方法において好適に使用することができる。
本発明は、本発明のポリペプチドに対し結合活性を有する分子のスクリーニング方法を提供する。本発明の上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)〜(c)を含む方法である。
(a)本発明のポリペプチドと被検分子とを接触させる工程、
(b)前記ポリペプチドと被検分子との結合活性を検出する工程、
(c)前記ポリペプチドと結合する分子を選択する工程
本発明の上記スクリーニング方法によって、例えば、本発明のポリペプチドをリガンドとする受容体を取得することが可能である。該受容体は、脳の血管内皮細胞におけるトランスマイグレーションに関与することが期待される。本発明のスクリーニング方法によって取得される受容体の機能を解析することにより、トランスマイグレーションのメカニズムの解明が大いに期待される。また、内皮細胞の細胞接着に関わる分子を取得することも可能であり、本発明のスクリーニング方法は非常に有用なものである。
上記工程(a)における「接触」は、通常、本発明のポリペプチドの状態に応じて適宜、実施される。例えば、本発明のポリペプチドが精製された状態であれば、精製標品に被検分子(試料)を添加することにより行うことができる。また、本発明のポリペプチドが細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被検分子(試料)を添加することにより行うことができる。被検分子がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、本発明のポリペプチドが発現している細胞へ導入する、または該ベクターを本発明のポリペプチドが発現している細胞抽出液に添加することによって行うことも可能である。
また、上記スクリーニング方法に用いる被検分子、もしくは本発明のポリペプチドは、必要に応じて適宜標識して用いられる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識、酵素標識等が挙げられる。
上記結合活性の測定は、当業者においては周知の方法、例えば、酵母ツーハイブリッドシステムを利用した方法、免疫沈降を利用した方法等により、適宜実施することができる。タンパク質間の相互作用(結合活性)の測定方法としては、種々の方法が知られており、本発明の結合活性の測定についても、特定の方法に限定されるものではない。
一例を示せば、本発明のポリペプチドとの結合活性を評価する被検分子を含む試料、例えば、細胞の培養上清や細胞抽出物等を接触させ、その後、本発明の抗体を添加して、本発明のポリペプチドとともに該分子を免疫沈降させることが可能である。そして免疫沈降した産物の電気泳動度が本発明のポリペプチドのみの場合と比較して変化しているか否かに基づいて、被検分子と本発明のポリペプチドとの結合を検出することができる。また、結合が検出された試料からの被検分子の回収は、本発明のポリペプチドとの結合を利用した方法、例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどを用いて実施することができる。
さらに、本発明のポリペプチドと結合し得るタンパク質等の被検分子を発現していることが予想される組織もしくは細胞より、ファージベクターを用いたcDNAライブラリーを作製し、これをアガロース上で発現させてフィルターにタンパク質を転写後、標識した本発明のポリペプチドを反応させ、結合する被検分子を発現しているプラークを検出する「ウエストウエスタンブロッティング法」によっても、本発明の方法を実施することができる。
また、固相などに固定させた本発明のポリペプチドに、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリー等を作用させ、結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニングにより候補化合物を単離する方法も、当業者においては通常行い得る技術である。
被検化合物としては、特に制限はなく、例えば、種々の公知化合物やペプチド、あるいはファージディスプレイ法等を応用して作成されたランダムペプチド群を用いることができる。本発明のポリペプチドを提示させたファージと、上記ランダムペプチド群を提示させたファージを用いた、所謂「ダブルファージディスプレイ法」(J.Castillo,B.Goodson and J.Winter:T7 displayed peptides as targets for selecting peptide specific scFvs from M13 scFv display libraries:J Immunol Methods:257:1−2:117−22:2001)も本発明のスクリーニング方法に好適に利用することができる。
また、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分などもスクリーニングの対象となる。その他、生体組織抽出物、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物などが挙げられるが、これらに特に制限されない。
また、通常遺伝子産物であるポリペプチドは、二本鎖DNAの一方の鎖によってコードされている。このとき、他方の鎖によってコードされると仮定したときのアミノ酸配列のペプチドはアンチセンスペプチドと呼ばれる。このアンチセンスペプチドは、本来のペプチド(センスペプチド)と相互反応をするという仮説がBlalock(1984)らにより提唱され、それ以後センスペプチドとアンチセンスペプチドが相互反応をするとする報告が多数知られている。従って、本発明のポリペプチドをコードするDNAの相補鎖配列に基づくアンチセンスペプチドを被検分子として、本発明のスクリーニング方法に供することにより、効率的に本発明のポリペプチドと結合する分子を取得することが可能である。
本発明のポリペプチドと結合する分子は、例えば、脳移行活性阻害剤、脳移行性活性の増大や修飾の誘導剤、受容体本体(トランスマイグレーションを起こす分子)として有用である。
また本発明は、脳移行活性を有するポリペプチドの取得方法に関する。本発明の好ましい態様においては、以下の工程(a)〜(d)を含む、脳移行活性を有するポリペプチドのスクリーニング方法(取得・単離方法)を提供する。
(a)被検ポリペプチドをファージ外殻タンパク質上へ提示させたファージ粒子を作製する工程、
(b)該ファージ粒子を、非ヒト動物へ投与する工程、
(c)該非ヒト動物の脳組織からファージ粒子を回収する工程
(d)工程(c)において回収されたファージ粒子に提示された被検ポリペプチドを脳移行活性を有するポリペプチドとして選択する工程
上記方法における被検ポリペプチドの配列は特に制限されず、任意のアミノ酸配列からなるポリペプチドを用いることができる。通常、本発明の被検ポリペプチドは、ランダムなアミノ酸配列からなる、複数種のポリペプチドである。また、本発明の上記方法においては、上記アミノ酸モチーフ配列もしくは該モチーフ配列の一部を含むようなポリペプチド、または上記「特徴1」を有するポリペプチドを被検ポリペプチドとして本発明のスクリーニング方法に供することにより、効率的に本発明の方法を実施することも可能である。
また、被検ポリペプチドの長さは、ファージ外殻タンパク質上へ提示させるのに許容される長さであれば特に制限されず、当業者においては、ファージの種類等を考慮して、被検ポリペプチドの長さを適切に設定することができる。
任意のアミノ酸配列からなるポリペプチドの作製は、当業者においては公知の技術を用いて容易に行い得ることである。例えば、市販のペプチド合成機等を利用して被検ポリペプチドを作製することができる。
上記工程(a)において、任意のポリペプチドをファージ外殻タンパク質上へ提示させる方法は、所謂ファージディスプレイ法として当業者においては一般的に公知の技術である。ファージの生活環を利用して、任意のポリペプチドをファージ外殻タンパク質上に提示させて、通常、ライブラリー化した分子群を調製する。一例を示せば、ランダム化したDNAを化学合成し、遺伝子工学技術を用いてファージDNAに挿入する。このDNAを大腸菌等の宿主細胞へ導入することにより、ファージ分子が生合成され、ウィルス粒子の外殻タンパク質上へ上記ランダム化DNAによってコードされるポリペプチドが提示される。
より具体的には、被検ポリペプチドをファージ外殻タンパク質上へ提示させたファージ粒子を作製する工程の一例として、後述の実施例に記載の方法(手順)を示すことができる。
本発明のスクリーニング方法に用いられるファージとしては、例えば、M13、T7、f1、fd等の公知のファージを好適に用いることができる。ファージ外殻タンパク質としては、例えば、pIII、10A、10B、Capcid等を挙げることができる。pIIIタンパク質上へ提示するライブラリー等は市販されており、本発明のスクリーニング方法においては、これらの市販のライブラリーを適宜使用することができる。
また、本発明の好ましい態様においては、工程(a)によって作製されたファージ粒子に対し、工程(b)の前に予め、脳の血管内皮細胞と結合し得るファージ粒子をパンニングによって選択することができる。この操作により、本発明のスクリーニングを効率的に行うことが可能である。
パンニング法は、タンパク質の相互作用を利用した選択方法であり、当業者においては、そのファージの種類等を考慮して適宜実施することができる。本発明のスクリーニング方法におけるパンニング法の利用例を示せば、まず、脳の血管内皮細胞に結合しやすいファージを培養下で濃縮するために、対照細胞(マウスグリオーマ細胞)と反応して非特異的に結合するファージを吸収除去し、さらにマウス脳由来の血管内皮細胞(例えば、MBEC4)に特異的に接着するファージを濃縮する。より具体的には、後述の実施例に記載の手順によってパンニングを実施することができる。
上記工程(b)において、ファージ粒子を投与する非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、スナネズミ、ネコ、ウシ、サル等を挙げることができる。その他、家畜動物あるいはペット動物等を挙げることができる。
また、上記工程(b)において投与されるファージは必ずしもファージ粒子全体である必要はなく、例えば、被検ポリペプチドを提示させた外殻タンパク質のみを非ヒト動物へ投与することによっても、本発明のスクリーニングを行うことが可能である。
非ヒト動物体内への投与は、通常、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、経皮投与、経口投与等により行うが、好ましくは動脈内注射である。
上記工程(c)において、脳組織からのファージ粒子の回収は、通常、以下のように行うことが可能である。非ヒト動物の脳を摘出し、脳のホモジネートの希釈シリーズを作製する。続いて、該希釈液を寒天培地上へ撒き、ファージのプラークを形成させた後、該プラークをピックアップし、ファージ粒子の回収を行う。ただし、この方法は一例であって、当業者においては、ファージの種類等を考慮して、適宜、脳組織からファージ粒子の回収を行うことができる。
次いで、上記工程(d)において選択されたポリペプチドは、当業者に公知の方法によってそのアミノ酸配列を決定することができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、trans−endothelial cell migrationのメカニズムを模式的に示した図である。
図2は、T7 Select Systemを用いたファージライブラリー構築を示す図および写真である。なお、写真は、cDNA断片をアガロースゲル上で分離したものである。インサートが無い場合、約120bpの断片が増幅されるが、ここでは200bpから1kb近いインサートが確認できた。これは70−300アミノ酸に相当する。
図3は、T7 Select Systemを用いたファージライブラリーの構築(ランダムペプチド)を示す図である。
図4は、T7 Select Systemについて示す図である。
図5は、パンニング方法について示す図である。
図6は、配列番号:23または24の配列を有するファージの脳移行活性を示す写真である。
図7は、脳におけるファージの力価ならびに、脳/血漿比を示すグラフである。
図8は、本発明の脳移行性ペプチドコンジュゲートの構造を模式的に示す図である。
図9は、マウス脳における本発明のペプチド−金コロイドコンジュゲートの存在を示す電顕写真である。
左(上下):コントロール群(アビジン−金コロイド):神経細胞内に金コロイドの標識は観察されない。(上):海馬錐体細胞(CA1〜CA2領域) (下):小脳プルキンエ細胞領域 中央(上下):ビオチンコンジュゲートT2J002+アビジン(Av)−金粒子(gold)を投与。 右(上下):ビオチンコンジュゲートT2J004+アビジン(Av)−金粒子(gold)を投与。ペプチドコンジュゲートにより金コロイドを脳実質に運び込むことができた。
図10は、錐体細胞層(pyramidal cell layer)CA1−CA2における、本発明のペプチド−金コロイドコンジュゲートの存在を示す電顕写真である。
左:対照(control)群、(アビジン金コロイドのみ投与)血管内皮に反応が見られない。中央:Biotin+peptide(1)群:biotin−conjugated T2J002+Av−gold投与したもの。Biotin+peptide(2)群:pre−embedding method(biotin−conjugated T2J002を投与し、超薄切片作成後Av−goldで検出して観察)による免疫反応のEM像。Control群(左)では血管内皮に反応が見られないのに対し、実験群では内皮細胞に免疫反応を示すDABの沈着が認められる(矢印)。内皮細胞から、さらに血管外(脳実質)にもその反応が見られる。
図11は、本発明のペプチドコンジュゲートを用いた、MBEC4に対する透過性の評価実験の概略を模式的に示す図である。
図12は、本発明のペプチドコンジュゲート(T2J004)のMBEC4に対する透過性を示す図である。アビジン−FITC 0.4nmol/insertに対して、1:4の割合でペプチドを結合させMBEC4に対する透過性の経時的変化について検討した。
図13は、血液脳関門モデルでのペプチドコンジュゲートによる透過性の増大と非標識ペプチドによる阻害活性を示す図である。
MBEC4を用いた血液脳関門モデルにAv−FITCおよびビオチンコンジュゲートT2J004Y+Av−FITCを添加して下層の蛍光強度を測定したところ、約3倍の透過性の増大が観察できた。この効果は環状化T2J004および直鎖状T2J004によって有意に阻害されることがわかった。
図14は、MBEC4におけるミクログリアまたはマクロファージの透過性の評価実験の概略を示す図である。
図15は、本発明の種々のペプチドコンジュゲートを用いた、MBEC4における透過性を示す図である。
図16は、4F11抗M13ファージ抗体によるリコンビナント脳移行性ファージの脳内検出を示す写真である。
脳移行性ファージ(上段)とコントロールファージ(下段)を血管内投与して30分後の摘出脳を4F11抗M13ファージ抗体で染色したところ、脳移行性ファージを投与したものでは脳内にファージ粒子を検出することができた。
左:NIBAフィルターによる特的結合の蛍光写真
中央:WIGフィルターによる非特異的結合の検出
右:Hoechst 23384による核染色(細胞の同定)
図17は、共焦点顕微鏡によるミクログリアのトランスサイトーシスの検出を示す写真である。
MBEC4を用いた血液脳関門モデルにおいてミクログリアを添加して4時間後、トランスサイトーシスが検出できた。写真上に黄色−橙色に見えるミクログリアが緑色の血管内皮細胞を通過している像が観察できる。
図18は、血管内皮細胞にミクログリアを添加し1時間経過したときの位相差顕微鏡像(左)と蛍光顕微鏡像(右)の写真である。
図19は、トルイジンブルー染色後の光顕観察の結果の写真である。ミクログリア(左)とマクロファージ(右)したときのMBEC4血液脳関門モデルの垂直断面のトルイジンブルー染色を行った。
図20は、MBEC4の電子顕微鏡観察の結果を示す写真である。中央に見える黒い帯状の部分が密着帯(tight junction:血液脳関門に特徴的に見られるバリア構造)。
図21は、ミクログリアが血液脳関門モデルを通過する際の電子顕微鏡像を示す写真である。
図22は、ミクログリアが血液脳関門モデルを通過する電子顕微鏡像を示す写真である。ミクログリアの突起が血液脳関門を形成するMBEC4細胞内へはっきり陥入する像が見られる。
図23は、マクロファージ株化細胞Raw264.7のMBEC4に対する接着を示す写真である。マクロファージは血液脳関門を形成するMBEC4に対して緩く接着するのみである。細胞層への透過は見られなかった。
図24は、マクロファージ株化細胞Raw264.7のMBEC4に対する接着を示す写真である。マクロファージは血液脳関門を形成するMBEC4に対して緩く接着するのみである。細胞層への透過は見られなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、PEG6000はWakoより、トリプシンEDTA、ルリアブロスベース(Luria broth base)、ペニシリンストレプトマイシンはGIBCOより購入した。また、EDTA 2Naはナカライより、Agarose 36Gはフナコシより、T7Select1−1Cloning kitはNovagenより購入した。
〔実施例1〕 細胞の培養
(1)マウス203グリオーマ細胞
203グリオーマ細胞は10%のFCS(GIBCO)と5μg/mlインスリン(SIGMA)、0.22%グルコース(片山)を加えたMEM(SIGMA)中で、37℃で5%COの条件下で培養した。継代は10cmシャーレ(Falcon)に2x10cells/7mlで撒き、7日毎に継代を行った。パンニング(panning)に使用する203グリオーマ細胞は、10cmシャーレに2x10cells/7mlで撒き、4日後にパンニングに使用した。
(2)マウス血管内皮END−D細胞
END−D細胞は10%の非働化したFCSと100unit/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシンを加えたDMEM(SIGMA)を用い、37℃で5%COの条件下で培養した。継代はPBS(−)により1回洗浄した後、5mlの0.25%トリプシン/1mM EDTA 4Naを添加して3分静置し、5mlの培地でフラッシングすることにより細胞を剥がした。続いて1200r.p.m.5分の遠心により細胞を沈殿させ、上清を除いて培地により1回洗浄した後10cmシャーレに3x10cells/7mlで撒き、3−4日毎に継代を行った。パンニングに使用するEND−Dは、コラーゲンコートを行った10cmシャーレに7mlの培地中に3x10cellsで撒き、4日後にパンニングに使用した。コラーゲンコートは10cmシャーレに、5μg/cmのコラーゲン(新田ゼラチン(株)、cellmatrix type I−C)を加え1時間静置した後PBS(−)で2回洗浄することで行った。
(3)マウス脳由来血管内皮MBEC4細胞
MBEC4細胞は10%のFCSと5μg/mlヘパリン(SIGMA)、30μg/ml ECGS(Endothelial cell Growth Supplement;Upstate biotechnology)を加えたDMEM中で、37℃で5%COの条件下で培養した。継代は0.2%ゼラチン(片山)でコートした10cmシャーレに2x10cells/7mlで撒き、3−4日毎に継代を行った。パンニングに使用するMBEC4は、コラーゲンコートした10cmシャーレに2x10cells/7mlで撒き、4日後にパンニングに使用した。
〔実施例2〕 M13ファージディスプレイライブラリー
1. 大腸菌ER2738の培養
Ph.D.−c7cTMPhage Display Peptide Library Kit(New England Biolabs,E8120S)に附属のホスト大腸菌ER2738を、20μg/mlテトラサイクリン(片山)を含むLB培地にて37℃で一晩振盪培養し、20μg/mlテトラサイクリンを含むLBプレートにストリークしたものをER2738のワーキングストック(Working stock)とし、2週間毎に新たなワーキングストックを作製した。
ファージの増幅や力価測定に使用したER2738はこのストリークしたワーキングストックよりシングルコロニーをピックアップし、20μg/mlテトラサイクリンを含むLB培地にて37℃で一晩振盪培養した物を用いた。
2. In vitroパンニング
2−1. 細胞の固定
パンニングに使用する203グリオーマ細胞(対照として使用)、END−D細胞、MBEC4細胞のシートが形成された10cmシャーレ各1枚ずつはそれぞれ、当日に以下のように固定を行った。各細胞は培地を除去して5ml PBS(−)により1回洗浄し、4%PFA(片山)/PBS(−)を3ml添加して10分静置した後、5ml PBS(−)により3回洗浄することで固定した。続いて、5mlの2%BSA(SIGMA)/PBS(−)を加え4℃で1時間静置してブロッキングを行った。各細胞はファージ溶液を添加する前に、3mlの0.1%Tween20/PBS(−)で6回洗浄してから使用した。
2−2. 1回目のパンニング
1回目のパンニングでは、1011pfuのM13−c7cファージライブラリー(10μl)を2mlのPBS(−)へ溶解し、全量を203グリオーマ細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。続いて上清をEND−D細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。続いて上清をMBEC4細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。各細胞は10分間の吸着処理後、5mlの0.1%Tween20/PBS(−)で10回洗浄した後、1mg/ml BSAを含んだ0.2M Glycine(Wako)−HCl(pH2.2)を2ml添加して室温で緩やかに揺する事で抽出を行った。抽出液の回収後、直ちに0.2M Glycine−HCl(pH2.2)2mlでリンスして、抽出液と共に1M Tris−HCl(pH9.1)を1.6ml加えることで中和を行った。TrisはBoeringerより購入した。
各細胞からのファージ抽出液及び、各ステップでのファージの力価は、下記の「2−2−1.ファージの力価測定」に示した方法により求めた。
さらに、MBEC4細胞より抽出されたファージ溶液は、下記の「2−2−2.ファージの増幅と精製」に示した方法により増幅して2回目のパンニングに使用した。
2−2−1. ファージの力価測定(Titration)
ファージ溶液の力価(Titer)は以下のように測定した。
14mlスナップキャップチューブ(Falcon)にER2738の終夜培養液を250μlとIPTG(片山)/X−gel(ナカライ)mixture(50μg/ml IPTG/40μg/ml X−gel)を3μl加え、溶解したTop Agarose(6μg/ml Agarose/LB培地)を2.5ml添加して混合した。直ちに、LB/IPTG/X−gel plateに広げ、ER2378 laund plateを作製した。力価を測定するファージ溶液はTBSにて希釈シリーズを作製し、ER2378 laund plateへ10μlずつブロットして、流れない程度まで乾燥させた後、37℃で一晩培養した。青く発色したプラークをカウントすることでファージ溶液の力価を算出した。
2−2−2. ファージの増幅と精製
バッフル付き三角フラスコを用いて、ER2738の終夜培養液を1/100量添加した20μg/mlテトラサイクリンを含むLB培地に増幅するファージ溶液を加えて37℃で4.5から5時間振盪培養した。続いて、10000r.p.m.10分、4℃で遠心して上清を回収した。上清を10000r.p.m.10分、4℃で遠心する事でER2738を完全に除いた。この上清に1/6量の30%PEG/3M NaCl(SIGMA)を添加して氷上で一晩静置してファージを沈殿させた。続いて10000r.p.m.45分4℃で遠心して、上清をデカンテーションにより除去し、更に10000r.p.m.10分4℃で遠心して、ファージの沈殿を集めた。ファージの沈殿は2mlのTBS/0.02%NaN(SIGMA)で完全に溶解し、10000r.p.m.5分、4℃で遠心して上清を回収した。上清に0.467g/mlになるようにCsCl(Wako)を添加して80000r.p.m.18時間15℃で密度勾配遠心を行い、精製されたファージのバンドを回収した。回収した精製ファージはTBSで透析してCsClを除去し、0.02%になるようにNaNを加えて4℃で保存した。
2−3. 2回目のパンニング
2回目のパンニングでは、1010pfuのM13−c7cファージ混合液を2mlのPBS(−)へ溶解し、全量を203グリオーマ細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。続いて上清をEND−D細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。続いて上清をMBEC4細胞へ添加し、室温で10分間緩やかに振盪して吸着させた。各細胞は10分間の吸着処理後、5mlの0.3%Tween20/PBS(−)で10回洗浄した後、1mg/ml BSAを含んだ0.2M Glycine−HCl(pH2.2)を2ml添加して室温で緩やかに揺する事で抽出を行った。抽出液は回収し、直ちに0.2M Glycine−HCl(pH2.2)2mlでリンスして、抽出液と共に1M Tris−HCl(pH9.1)を1.6ml加えることで中和を行った。
各細胞からのファージ抽出液及び、各ステップでのファージの力価は、上記「2−2−1.ファージの力価測定」に示した方法により求めた。
MBEC4細胞より抽出されたファージ溶液は、上記「2−2−2.ファージの増幅と精製」に示した方法により増幅してIn vivoパンニングに使用した。
3. In vivoパンニング
3−1. ファージの注入
In vivoパンニングには8週令のマウス雄のC57BLを使用した。1011pfu/300μlPBSの、上記の精製ファージをエーテル麻酔下のマウス左頸動脈より単回投与した。1分後に15mg/ml EDTAでコートしたツベルクリン用シリンジ(26G)を用いて心臓より採血し、直ちに0.2g/ml EDTA/PBS、400mlにて灌流を行った。灌流終了時に心臓内の灌流液を回収した。灌流後、脳を摘出し、各臓器より力価測定用と組織切片作成用に一部をサンプリングした。力価測定用には左脳を切片作製用には右脳を使用した。
3−2. 組織サンプルの調製
力価測定用の組織は秤量し、2倍量のホモジナイズ溶液(20mM HEPES(SIGMA)/0.25Mスクロース/1mM EDTAに使用直前に10μg/mlアプロチニン(Wako)、5μg/mlロイペプチン(SIGMA)、1mM PMSF(Wako)を添加)を加え氷上でホモジナイズした。続いてホモジナイズ溶液と等量の100mM LiCl(片山)/PBSを添加して混合した。
血液は15000r.p.m.10分4℃で遠心し、血漿として回収し力価を測定した。
各組織のホモジネート、血漿、灌流液は、上記「2−2−1.ファージの力価測定」に示した方法でファージの力価を決定した。
脳のホモジネートは全て、上記「2−2−2.ファージの増幅と精製」に示した方法で増幅および精製を行い、次のIn vivoパンニングに使用した。
4. ファージのクローニングおよび配列決定
4−1. クローニング
In vitroパンニングを2回とIn vivoパンニングを1回行った脳のホモジネートもしくは、In vivoパンニングを3回行った脳のホモジネートよりファージのクローニングを行った。
脳のホモジネートの希釈シリーズをTBSで作製し、上記「2−2−1.ファージの力価測定」に記載の方法に従って、ファージのプラークを形成させ、シングルプラークを1mlのTBS中にピックアップした。この操作をもう一度行ってファージのクローニングを行った。
4−2. 配列決定(sequencing)
14mlスナップキャップチューブに1mlのLB培地と10μlのER2738終夜培養液とファージクローン溶液を100μl添加し、37℃で4.5時間振盪培養した。
5000r.p.m.5分、4℃で遠心してER2738を沈殿させ、上清を1.5mlエッペンドルフチューブへ移し、10000r.p.m.1分、4℃で遠心し上清を新しい1.5mlエッペンドルフチューブに移した。続いて、30%PEG/3M NaClを400μl添加して転倒攪拌した後、4℃で一晩静置した。
13000r.p.m.30分、4℃で遠心して上清をデカンテーションによって除き、更に13000r.p.m.30分、4℃で遠心して、残った上清をアスピレートにより完全に除去した。
沈殿したファージに100μlのIodidedバッファー(4M NaI(SIGMA)/1mM EDTA/10mM Tris pH8.0)を添加してサスペンドする事で、完全にファージを溶解させた。続いて250μlのエタノールを添加して転倒攪拌し、室温で10分間静置した。これを15000r.p.m.10分室温で遠心して上清を除去して、沈殿を1mlの70%エタノールで緩やかに洗浄し15000r.p.m.5分、室温で遠心した。上清をデカンテーションにより除去して、沈殿をデシケーターにて5分間乾燥させた。この沈殿に30μlのTEを添加して溶解し、これを配列のテンプレートとして使用した。配列決定はPh.D.−c7cTMに附属の−28gIIIシーケンシングプライマー(5’−GTA TGG GAT AAA CAA C−3’/配列番号:13)とThermoSequance Cy5.5 Dyterminator kit(アマシャム)を用いてGeneRapid SEQ4x4(アマシャム)で決定した。
5. ファージクローンの評価
得られたファージクローンは、上記の「2−2−2.ファージの増幅と精製」記載の方法に従って、増幅と精製を行った。精製したファージクローンはファージの投与量を1010pfu/300μlに変え、上記「3.In vivoパンニング」記載の方法に従って脳への移行性を力価を用いて評価した。コントロールファージとしてM13−KE(New England Biolabs,E8101S)(クローンナンバー1148)を使用した。
〔実施例3〕 T7ファージディスプレイライブラリー
1. T7ファージディスプレイライブラリーの構築
ランダムな配列を含み、両端にEcoRIおよびHindIIIの制限酵素サイトを加え、T7ファージ10B遺伝子配列に組み込めるようにした81bp(415−15:GAATCCATGCAGAATTTC(XXK)15AAGCCTGCTACAGACCAT/配列番号:14)または86bp(415−C15C:GATCCATGCAGAATTCCTGC(XXK)15TGCAAGCTTGCTACAGACCAT/配列番号:15)のオリゴヌクレオチドを合成し、その約1.3μg(50pmol)をテンプレートとして、5’および3’側のプライマー約1.9μg(300pmol)を用いてPCRを行い、ランダムな配列を含むT7ファージディスプレイライブラリー組み込み用インサートを作製した。作製したインサートを制限酵素EcoRIおよびHindIIIで消化してアガロースゲルで分離、精製し、pQE−TriSystemベクターのEcoRIおよびHindIIIサイトに組み込み、大腸菌で増幅して、ランダムな配列の確認を行った。確認後、大腸菌よりランダムな配列を含むプラスミドを精製してEcoRIおよびHindIIIで消化し、目的の断片をアガロースゲルで分離、精製し、同様にEcoRIおよびHindIIIで消化したT7ファージの10B遺伝子配列に組み込んだ(図2および3)。10B遺伝子配列への組み込み、ファージへのin vitroパッケージングはNovagenのT7 select Cloning kitのマニュアルに従い行った。なお、上記プライマー配列を下記に示す。
415−15 5’側プライマー

415−15 3’側プライマー

415−C15C 5’側プライマー

415−C15C 3’側プライマー

2. 大腸菌BL21、BLT5403の培養
T7 Select415−1 Cloning kit(Novagen,70015−3)に附属のホスト大腸菌BL21もしくはBLT5403をLB培地にて37℃で一晩振盪培養し、LBプレートにストリークした物をBL21もしくはBLT5403のワーキングストックとし、2週間毎に新たなワーキングストックを作製した。ファージの増幅や力価測定に使用したBL21、BLT5403はこのストリークしたワーキングストックよりシングルコロニーをピックアップし、LB培地にて37℃で一晩振盪培養した物を用いた。
3. In vitroパンニング
3−1. 細胞の固定
パンニングに使用する203グリオーマ細胞(対照として使用)のシートが形成された10cmシャーレ3枚と、MBEC4細胞1枚は、当日に以下のように固定を行った。各細胞は培地を除去して5ml PBS(−)により1回洗浄し、4%PFA/PBS(−)を3ml添加して10分間静置した後、5ml PBS(−)により3回洗浄することで固定した。続いて、5mlの2%BSA/PBS(−)を加え4℃で30分間静置してブロッキングを行った。ブロッキング溶液はファージの添加直前にアスピレートにより除いた。
3−2. パンニング
T7 Select415−1 Cloning kit(Novagen)に両端をシステインで挟んだ15残基のランダムペプチドを提示するようにインサートを組み込んだ物を作製し、これをT7 Select415−c15cライブラリーとした(図4)。In vitroパンニングでは、2x10pfuのT7 select415−c15cライブラリーを2mlのPBS(−)へ溶解し、4cmシャーレに添加して全体に広げた後、全量回収して再度新しい4cmシャーレに添加して全体に広げた。続いて全量回収した内の1.1mlを新しいチューブに移し、2%Skim milk/PBS(−)を1.1ml添加して室温で緩やかに10分間攪拌した。これを10000r.p.m.10分、4℃で遠心して得られた上清より2mlを、上記「3−1.細胞の固定」で示した方法により固定、ブロッキングを行った1枚目の203グリオーマ細胞へ添加して室温で20分間緩やかに振盪して吸着させた。続いて、上清を2枚目、3枚目の203グリオーマ細胞へも同様に処理した。続いて、上清をMBEC4細胞へ添加し、室温で30分間緩やかに振盪して吸着させた。上清をアスピレートにより除き、10mlのPBS(−)で3回洗浄した。続いて、2mlの0.01%NP−40/PBS(−)で10分間緩やかに振盪する洗浄を3回行った。次に0.1%NP−40/PBS(−)に変え1回洗浄し、0.4mlの0.1%SDS/SMバッファーで10分緩やかに振盪して、弱く結合しているファージを除去した。0.6mlのSMバッファーによりリンスした後、0.4mlの0.5%SDS/SMバッファーで10分緩やかに振盪して抽出し、0.6mlのSMバッファーでリンスした物と合わせて、親和性の低いファージ抽出液とし、続いて1%SDS/SMバッファーで10分緩やかに振盪して抽出し、0.6mlのSMバッファーでリンスした物と合わせて親和性の高いファージ抽出液とした。パンニングの概略を図5に示す。
各ファージ抽出液及び、各ステップでのファージの力価は、下記「3−2−1.ファージの力価測定」に示した方法により求めた。力価測定には100倍以上の希釈倍率のファージ希釈溶液を元に力価を算出している。
さらに、MBEC4細胞より抽出されたファージ溶液は、下記「3−2−2.ファージの増幅と精製」に示した方法により増幅して次のパンニングに使用した。
In vitroパンニングを8回行った後ファージのクローニングを行った。
3−2−1. ファージの力価測定
ファージ溶液の力価は以下のように測定した。
14mlスナップキャップチューブにBL21もしくはBLT5403の終夜培養液を250μl加え、溶解したTop Agarose(6μg/ml Agarose/LB培地)を2.5ml添加して混合した。直ちに、LB plateに広げ、BL21 laund plateおよびBLT5403 laund plateを作製した。力価を測定するファージ溶液はSMバッファーにて希釈シリーズを作製し、BL21 laund plateおよびBLT5403 laund plateへ10μlずつブロットして、流れない程度まで乾燥させた後、37℃で2−4時間培養して生じたプラークをカウントすることでファージ溶液の力価を算出した。上記実施例2の「3.In vivoパンニング」で内部標準として使用しているT7 rRNA:T7 select 1−1 kit(NEB,70010−3)にrRNAのcDNAの一部(5’−CAC CAA GCG TTG GAT TGT TCA CCC ACT AAT AGG GAA CGT GAG CTG GGT TTA GAC CGT CGT GAG ACA GGT TAG TTT TAC CCT ACT GAT GAT GTG TTG TTG CCA TGG TAA TCC TGC TCA GTA CGA GAG GAA CCG CAG GTT CAG ACA TTT GGT GTA TGT GCT TGG CTG AGG AGC CAA TGG GGC GAA GCT ACC ATC TGT GGG ATT ATG ACT GAA CGC CTC TAA GTC AGA ATC CCG CCC AG−3’/配列番号:20)が組み込まれたファージは、BL21では増殖できず、ホストにBLT5403を用いた場合のみプラークを形成する。
3−2−2. ファージの増幅と精製
バッフル付き三角フラスコを用いて、BL21の終夜培養液を1/100量添加したLB培地を37℃で2−3時間振盪培養して、増幅するファージ溶液を加えて更に1−3時間振盪培養した(溶菌した大腸菌のデブリスの量と濁度の低下で判断)。続いて、10000r.p.m.10分、4℃で遠心して上清を回収した。
この上清に1/2量の30%PEG/3M NaClを添加して氷上で一晩静置してファージを沈殿させた。続いて10000r.p.m.45分、4℃で遠心して上清をデカンテーションにより除去し、更に10000r.p.m.10分、4℃で遠心してファージの沈殿を集めた。ファージの沈殿は2mlのSMバッファーで完全に溶解し、10000r.p.m.5分、4℃で遠心して上清を回収した。上清に0.5g/mlになるようにCsClを添加して80000r.p.m.18時間15℃で密度勾配遠心を行い、精製されたファージのバンドを回収した。回収した精製ファージはSMバッファーで透析してCsClを除去し、Chloroformを数滴加えて4℃で保存した。
4. クローニング
8回目のIn vitroパンニングのファージ抽出液の希釈シリーズをSMバッファーで作製し、上記「3−2−1.ファージの力価測定」の方法に従って、ファージのプラークを形成させ、シングルプラークを1mlのSMバッファー中にピックアップした。この操作をもう一度行ってファージのクローニングを行った。
5. 配列決定
上記ファージクローンの一部をMilliQ水で100倍希釈して95℃で5分加熱後、直ちに氷冷した物をPCRのテンプレートとした。このテンプレートを1μl加え、プライマーとして5’−GCT CTG CGG TAG GTA CTG TT−3’(配列番号:21)と5’−CGG TGC CCC AAA GAA TCG GT−3’(配列番号:22)を1μMで添加して、30μlのサイズで以下のようにPCRを実施した。94℃1分、60℃1分、72℃2分で40サイクル反応を行った。続いてエタ沈によりPCR産物を沈殿させ、10μlのTEに溶解した。続いてCHROMA SPLIN+TE30 Colulmn(Clontec,K1321−2)を用いてカラム精製したPCR産物を配列のテンプレートとした。
配列サンプルはThermoSequence Cy5.5 Dyterminator Kit(アマシャム)を用いて調製し、GeneRapid SEQ4x4にて配列を決定した。
ファージのクローンは、上記「3−2−2.ファージの増幅と精製」に示したように精製してIn vivoでの評価に用いた。
6. ファージクローンの評価
6−1. ファージの注入
In vivoパンニングには8週令のマウス雄のC57BLを使用した。1時間のUV照射により滅菌した精製T7 select415−c15c library 4x10pfu/200μl PBSをエーテル麻酔下のマウス左頸動脈より投与してマスキングを行った。続いて5分後に精製T7 select415−c15cクローンと内部標準としてT7 rRNAを4x10pfuずつ含んだファージ混合液を200μl投与した。1分後に15mg/ml EDTAでコートしたツベルクリン用シリンジ(26G)を用いて心臓より採血し、直ちに0.2g/mlEDTA/PBS、400mlにて灌流を行った。灌流終了時に心臓内の灌流液を回収した。灌流後、脳を摘出し、各臓器より力価測定用と組織切片作成用に一部をサンプリングした。力価測定用には左脳を切片作製用には右脳を使用した。
6−2. 組織サンプルの調製
力価測定用の組織は秤量し、2倍量のホモジナイズ溶液(20mM HEPES/0.25Mスクロース/1mM EDTAに使用直前に10μg/mlアプロチニン、5μg/mlロイペプチン、1mM PMSFを添加)を加え氷上でホモジナイズした。続いてホモジナイズ溶液と等量の100mM LiCl/PBSを添加して混合した。
血液は15000r.p.m.10分4℃で遠心し、血漿として回収し、力価を測定した。
各組織のホモジネート、血漿、灌流液は、上記「3−2−1.ファージの力価測定」に示した方法でファージの力価を決定した。
上記の組織サンプルより、各臓器に親和性を有する組み換えファージを分離した。このうち、脳より回収されるファージを増殖させ、再度マウスの尾静脈から注入し、上記同様の分析を行った。その結果として、いくつかの陽性クローンが分離できた。代表的な配列を以下に示す。

これらの配列を有するファージクローンを、マウスに注入した。その結果、脳に局在化させることができた(図6、7)。以上の方法で、脳特異的に侵入する分子の候補が単離できた。
さらに同様の方法で、脳以外の臓器を特異的に標的化できる分子も単離できると考えられる。実際に図7に示すように、脳以外の臓器に親和性を有するファージが分離できた。
〔実施例4〕 脳移行性ペプチドコンジュゲート
本発明者は、脳移行性ペプチドコンジュゲートの作製を行った。該コンジュゲートは、本発明のペプチド分子中のシステイン残基同士のジスルフィド結合によって、環状構造をとり得るものであり、さらにビオチンが付加された分子である。より具体的には、図8に示す構造を例示することができる。該コンジュゲートは、アビジン化合物と結合能を有する。
上記コンジュゲートは、金コロイドと結合させてマウスへ投与し、本発明のペプチドの脳移行活性を評価する実験(透過電子顕微鏡による脳組織切片の観察)に供した。透過電子顕微鏡試料作成プロトコールを表2に示す。


本実験においては、本発明のペプチドとして、T2J002(配列番号:2)およびT2J004(配列番号:4)を用いた。マウス脳組織(細胞)の電子顕微鏡写真を図9、10に示す。矢印が金粒子と結合した本発明のペプチド分子の存在位置を表す。その結果、本発明のペプチドコンジュゲートにより、金コロイドを脳実質に運び込むことに成功した。即ち、本発明のペプチドは、脳移行活性を有することが確認された。
〔実施例5〕 T2J004Y−Biotin透過実験
試薬は以下のものを用いた;ストレプトアビジン(Streptavidin),FITCコンジュゲート(ベクター1.0mg/ml)、T2J004Y−Biotin、DMEM(SIGMA)10%FBS(GIBCO lot.1077859)MBEC4実験用、DMEM 10%FBS(GIBCO lot.1077859:65℃30分inactivated)END−D実験用。(上記「T2J004Y−Biotin」は、配列番号:4に示すポリペプチドを有する。)
まず、MBEC4(1.26×10/insert)、END−D(2×10/insert)をFALCON[35]3096 cell culture inserts 3.0μm pore sizeに播き込み、37℃、5%CO下で4日間培養した。
ストレプトアビジン,FITCコンジュゲート(25μl/insert)とT2J004Y−Biotin(1.6nmol/insert)を混合し、室温で30分間インキュベートした。その後、各培養液で250μlに調製し、insert中の培養液と置き換え、well(FALCON 24wellセルカルチャーインサート用プレート)には750μlの培養液を加えた。3時間、6時間、24時間後にwell中から100μlサンプリングし、Fluorskan Asent(Thermo Labsystems)を用いて、蛍光強度を測定した。図11に、本実験の概略を示す。
その結果、FITCのみの場合に比べ、T2J004Y−BiotinとconjugateさせたものはMBEC4では約8倍、END−Dでは約4倍の透過が見られた。また、ペプチドがMBEC4において、END−Dに比べ2倍量以上透過していることがわかり、透過量は経時的に増加していた。
〔実施例6〕 MBEC4におけるT2J004Y−Biotin添加量と透過量の相関
アビジン(Avidin)とビオチン(Biotin)は1:4の割合で結合する。そこで、ストレプトアビジンFITCと反応させるT2J004Y−Biotinの割合を変え、MBEC4における透過量を検討した。
試薬は以下のものを用いた;ストレプトアビジン,FITCコンジュゲート(VECTOR 1.0mg/ml)、T2J004Y−Biotin、DMEM 10%FBS。
まず、MBEC4(1.26×10/insert)で播き込み、37℃、5%CO下で4日間培養した細胞に、Streptavidin,FITC conjugate(25μl/insert)に対し、1.6(nmol/insert)、0.4(nmol/insert)、0.2(nmol/insert)の量のT2J004Y−Biotinを混合し、室温で30分間インキュベートし、混合液を培養液で250μlに調製し、insert中の培養液と置き換えた。wellには750μlの培養液を加え、3時間、6時間後にFluorskan Asentを用いて、蛍光強度を測定した。
その結果、透過してきたペプチドの量は、添加したペプチドの量と相関していたが、0.4nmol/insertのペプチドを添加した場合に対し、4倍の1.6nmol/insertのペプチドを加えても、透過したペプチドの量は約2倍程度であった。このことから1.6nmol/insertのペプチドは、insertの有効培養面積(0.3cm)のMBEC4のシートを6時間で透過するペプチドの量としては十分量であることが示唆される(図12)。
〔実施例7〕 ペプチドによるT2J004Y−Biotin透過の阻害
ビオチン標識のないペプチドの前処理によって、T2J004Y−Biotin−FITCの透過が阻害されるか検討した。
試薬は以下のものを用いた;Streptavidin,FITC conjugate(VECTOR 1.0mg/ml)、T2J004Y−Biotin、DMEM 10%FBS MBEC4実験用、CT2J004Y、LT2J004Y。(「CT2J004Y」は環状を、「LT2J004Y」は直鎖状の構造の分子を表す。なお、該環状は、該分子に含まれるシステイン残基同士のジスルフィド結合による)
まず、Biotin標識のないペプチド各10nmol/insertを培養液(200μl/insert)に混合し、上記の条件で4日間培養しておいたinsertの培養液と置き換えた。30分後に、先ほどと同様にして混合しておいたペプチド−FITCの混合液を、培養液で50μlに調製し、insertに添加した。6時間後に24well内をよく攪拌し、Fluorskan Asenで蛍光強度を測定した。
その結果、CT2J004Y、LT2J004Yで、どちらも其々およそ25%T2J004Y−Biotin□FITCの透過を抑えていた(図13)。
〔実施例8〕 ファージの前処理によるミクログリアの透過阻害
試薬は以下のものを用いた;PKH67 Green Fluorescent Cell Linker Kit For general cell membrane labeling(SIGMA)、DMEM 10%FBS。
まず、MBEC4(1.26×10cells/insert)を播き込み、37℃、5%CO下で4日間培養したinsertに、コントロール及び、脳移行性ペプチドを提示したファージ(1013pfu/ml)5μlを添加し、1時間前処理をした。ミクログリアの細胞膜をPKH26で染色した後、2×10(cells/insert)づつ、DMEM 10%FBSで250μlに調製し、加えた。wellには750μlの培養液を加え、24時間後に、wellの底、および培養液中のミクログリアの数をカウントした。図14は、本実験の概略を示す。
その結果、コントロールファージに比べ、脳移行性ペプチドを提示しているファージでは、MBEC4におけるミクログリアの透過を、若干阻害しているようであった。明確な差が得られなかったのは、MBEC4側のレセプターの数に対し、リガンドであるファージやミクログリアの数が少なかった可能性が考えられる。
〔実施例9〕 他のペプチドとT2J004Y−Biotinの透過性の比較
試薬は以下のものを用いた;ストレプトアビジン,FITCコンジュゲート(VECTOR 1.0mg/ml)、T2J004Y−Biotin、T2J002Y−Biotin、T2J003Y−Biotin、DMEM 10%FBS MBEC4。
まず、MBEC4(1.26×10/insert)をinsertに播き込み、37℃、5%CO下で4日間培養した。ストレプトアビジン,FITCコンジュゲート(25μl/insert)とT2J004Y−Biotin、T2J002Y−Biotin、T2J003Y−Biotin(各々1.6nmol/insert)を混合し、室温で30分間インキュベートした。その後、各培養液で250μlに調製し、insert中の培養液と置き換え、well(FALCON 24wellセルカルチャーインサート用プレート)には750μlの培養液を加えた。3時間、6時間、24時間後にwell中から100μlサンプリングし、Fluorskan Asentを用いて、蛍光強度を測定した。
その結果、MBEC4におけるT2J004Y−Biotinの透過性を100とした場合の、T2J002Y−Biotin、T2J003Y−Biotinの透過する割合を示した。T2J002Y−Biotinは、T2J004Y−Biotinの20〜40%程しか透過しなかったが、T2J003Y−Biotinはおよそ1.4倍多く透過していた(図15)。
〔実施例10〕 本発明のペプチドを発現するファージの脳移行活性
本発明のペプチドを発現するファージと、コントロールファージを血管内に投与し、脳移行活性の検討を行った。
その結果、本発明のペプチドを発現するファージ粒子を脳内に検出することができた(図16)。
〔実施例11〕 ミクログリアの細胞のトランスサイトーシス活性
MBEC4を用いた血液脳関門モデルにおいて、ミクログリアのトランスサイトーシス活性を観察した。
その結果、ミクログリアを添加して4時間後、トランスサイトーシスが検出できた(図17)。
また、ミクログリアが血液脳関門モデルを通過する際のトランスサイトーシス活性を電子顕微鏡を用いて観察した。
その結果、ミクログリアの突起が血液脳関門を形成するMBEC4細胞内へはっきり陥入する像が観察された(図21、22)。
さらに対照実験として、マクロファージについて同様の実験を行った。その結果、マクロファージは血液脳関門を形成するMBEC4に対して緩く接着するのみであり、細胞層への透過は見られなかった(図23、24)。
産業上の利用の可能性
本発明者らによって、脳移行活性に関与するアミノ酸モチーフ配列が初めて見出され、該モチーフ配列を含むポリペプチドは脳移行活性を有することが新たに見出された。本発明のポリペプチドは脳の血管内皮細胞に特異的に結合し、さらに、trans celluar pathwayを誘導することにより、物質を脳実質に送り込むことが可能になった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を10%以上含有する、脳移行活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域において塩基性アミノ酸残基(KまたはR)が10%以上含まれる、脳移行活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有する、脳移行活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
環状ペプチド領域を有するポリペプチドであって、該環状ペプチド領域に少なくとも1以上の塩基性アミノ酸残基(KまたはR)を有し、かつ、該環状領域の残りのアミノ酸残基のうち80%以上が以下のアミノ酸残基から選択されることを特徴とする、脳移行活性を有するポリペプチド。
G、A、V、L、S、T、P、Q、H、N
【請求項5】
以下のアミノ酸モチーフ配列を含むポリペプチドであって、脳移行活性を有するポリペプチド。
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、N、P、VまたはL、Xは任意のアミノ酸、XはG,S,T,C,N,L,Q,またはYを表す。
【請求項6】
環状領域に請求項5に記載のアミノ酸モチーフ配列が含まれる、請求項2〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項7】
アミノ酸モチーフ配列が以下の配列である、請求項5または6に記載のポリペプチド。
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、N、PまたはV、Xは任意のアミノ酸、Xは非電荷極性アミノ酸(G,S,T,C,N,Q,Y)を表す。
【請求項8】
アミノ酸モチーフ配列が以下の配列である、請求項5または6に記載のポリペプチド。
−(RまたはK)−X−X、または
−X−(RまたはK)−X
式中、XはS、T、PまたはL、Xは任意のアミノ酸、XはS,T,C,L,またはQを表す。
【請求項9】
トランスマイグレーション誘導活性を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項10】
脳の血管内皮細胞と結合する活性を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項11】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のポリペプチド。
(a)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)前記(a)のポリペプチドの両端のシステイン同士のジスルフィド結合によって環状化されたペプチド領域を含む、ポリペプチド。
(c)配列番号:1〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が付加、欠失、もしくは置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、脳移行活性を有するポリペプチド。
【請求項12】
ポリペプチドの長さが9アミノ酸以内である、請求項1〜11のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドと結合する抗体。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドを含有する、任意の分子に脳移行活性を付与するための薬剤。
【請求項16】
任意の分子が任意のポリペプチドである、請求項15に記載の薬剤。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドを含む、脳移行活性を有する分子。
【請求項18】
分子がファージ粒子、または該ファージ粒子の外殻タンパク質である、請求項17に記載の分子。
【請求項19】
分子が請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドとの融合タンパク質である、請求項17に記載の分子。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドからなる、脳送達用キャリア。
【請求項21】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドが、ミセル、リポソームまたはマイクロカプセルと結合した構造からなる、脳送達用キャリア。
【請求項22】
請求項20または21に記載の脳送達用キャリアに薬物が担持された構造からなる、脳疾患治療剤。
【請求項23】
任意の分子に請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドを結合させる工程を含む、脳移行活性を有する分子の製造方法。
【請求項24】
以下の工程(a)〜(c)を含む、脳移行活性を有するタンパク質分子の製造方法。
(a)発現可能な状態で任意のタンパク質分子をコードするDNAと、請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNAとが結合した構造のDNAを含む発現ベクターを作製する工程
(b)前記発現ベクターを細胞へ導入する工程
(c)前記ベクターからの発現産物を回収する工程
【請求項25】
以下の工程(a)および(b)を含む、任意の分子を非ヒト動物の脳へ移行させる方法。
(a)任意の分子と請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドとが結合した構造の脳移行活性を有する分子を製造する工程
(b)前記分子を非ヒト動物体内へ投与する工程
【請求項26】
以下の工程(a)〜(c)を含む、請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドに対して結合活性を有する分子のスクリーニング方法。
(a)請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドと被検分子とを接触させる工程
(b)前記ポリペプチドと被検分子との結合活性を検出する工程
(c)前記ポリペプチドと結合する分子を選択する工程
【請求項27】
以下の工程(a)〜(d)を含む、脳移行活性を有するポリペプチドのスクリーニング方法。
(a)被検ポリペプチドをファージ外殼タンパク質上へ提示させたファージ粒子を作製する工程
(b)該ファージ粒子を、非ヒト動物へ投与する工程
(c)該非ヒト動物の脳組織からファージ粒子を回収する工程
(d)工程(c)において回収されたファージ粒子に提示された被検ポリペプチドを脳移行活性を有するポリペプチドとして選択する工程
【請求項28】
被検ポリペプチドが請求項5、7または8のいずれかに記載のアミノ酸モチーフ配列を含む、請求項27に記載のスクリーニング方法。
【請求項29】
ファージがM13ファージまたはT7ファージである、請求項27に記載のスクリーニング方法。
【請求項30】
工程(a)につづいて、さらに、脳の血管内皮細胞と結合するファージ粒子を選択する工程、を含む請求項27に記載のスクリーニング方法。

【国際公開番号】WO2005/014625
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513027(P2005−513027)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011668
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(503287867)株式会社ティッシュターゲティングジャパン (2)
【Fターム(参考)】