説明

腫瘍組織選択性及び生分解性のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体抗腫瘍剤、及びその製法

式(1)


(式中、xはポリエチレンオキシド繰り返し単位の数を示し、7、12又は16であり、yは0、1又は2であり、zは0.5〜1.5の範囲における、ポリエチレングリコールのモル含量を示し、nは、30〜100の範囲における、ポリホスファゼンの重合度を示し、A−Aはジアミンを示す。)
で表される、新しいクラスのポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体抗腫瘍剤(該抗腫瘍剤は、その強められる透過性及び保持性効果により、高い腫瘍組織選択性を有する)、及びその製法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍組織選択性及び生分解性のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体抗腫瘍剤、及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金(II)系抗腫瘍剤、例えば、シスプラチン又はカルボプラチンは、全世界的に、最も広く使用されている抗癌剤の1つであり、特に、睾丸癌、卵巣癌、膀胱癌などに優れた坑腫瘍活性を示すことが知られている。
【0003】
第1世代の白金系抗腫瘍剤であり、単純な構造を有するシスプラチンは、腎臓、骨髄及び神経系統に対する強い副作用により、その外に長期使用時に獲得される薬剤耐性及び水に対する低い溶解度により、癌治療の使用に限界がある点で、不利である(D. Lebwohl, R. Canetta, Eur. J. Cancer., 34, 1522(1998))。
【0004】
従って、低毒性及び水に対する高い溶解度を有し、その外に、薬剤耐性を克服できる、新しい白金錯化合物の開発のための、多くの研究が全世界的に活発に行われている。その結果、第2世代の白金系抗腫瘍剤として、カルボプラチンが開発され、現在臨床で使用されている(E. Wong, C. M. Giandomenico, Chem. Rev., 99, 2451(1999))。カルボプラチンにおいて、クロリド陰イオンがジカルボキシラート陰イオンに置換され、それにより、水中の溶解度を改善し、毒性を下げる。
【0005】
しかしながら、毒性が減少されたにもかかわらず、カルボプラチンは、シスプラチンに比べ、骨髄により強い有害な効果を示し、抗腫瘍活性が低く、そのスペクトルが狭い。それ故、腎臓障害のある卵巣癌又は肺癌患者のみに使用されている。従って、低毒性、高水溶性、高腫瘍組織選択性などを有する次世代抗腫瘍剤の開発が緊急に求められている。
【0006】
一方、適切な分子量を有する高分子が、固形腫瘍組織における、優先的に強められる浸透性及び保持性を示す発見(L.W. Seymour, Y. Miyamoto, H. Maeda, M. Brereton, J. Strohalem, K. Ulbrich and R. Duncan, Eur. J. Cancer, 31A, 766 (1995))以来、高腫瘍組織選択性を示す、新たな高分子物質の開発のため、多くの研究が全世界的に行われている。
【0007】
適切な分子量を有する高分子が、高い腫瘍組織選択性を示すことに、多分2つ理由がある。第1の理由は、高分子の、ナノ粒子などの巨大分子が、通常に配列する細胞からなる正常組織の血管壁は通過できないが、腫瘍組織内の粗悪な血管壁により、その外に、腫瘍組織内の高い血圧により、それが、腫瘍組織内の血管壁を通過できることである。第2の理由は、腫瘍組織には生体高分子及び高分子体の排出路であるリンパ管がないことである。従って、腫瘍組織では、組織の内部に浸透される高分子粒子が正常細胞に比べて、放出され難く(R. Duncan, Parm. Sci. Technol. Today., 2, 441(1999))、結果的に、血管壁を通して浸透される高分子粒子は腫瘍組織内に選択的に蓄積され(H. Maeda, J. Fang, T. Inutsuka, Inter Immun 3, 319(2003))、腫瘍組織に対して、高分子の高い選択性を得る。
【0008】
高分子粒子の、そのような強められる浸透性と保持性(EPR)の効果の程度は、血液と組織内の残留時間に密接に依存する。長い血液循環時間を有する高分子は、その強められる浸透性と保持性効果により、潜在的な腫瘍組織選択性を有する高分子とみなし得る。腫瘍組織内の、高分子粒子の長残留時間は、腫瘍組織選択性の必須条件であることが知られている(E. Marecos, R. Weissleder, Bioconjugate Chem. 9, 184 (1998))。上記効果は特定の高分子において知られており、このことは、ヒトの腫瘍組織における最近の臨床試験から、これら高分子が腫瘍組織に対する高い選択性を有し、それ故、選択的腫瘍治療剤に応用され得ることを提示した。
【0009】
従って、特定の生体親和性高分子物質を利用する薬物送達システムの開発のための、多くの研究が、全世界的に活発に行われている(A. S. Lundberg and R. A. Weinberg, Eur, J, Cancer, 35, 531-539(1999))。その試みの幾つかの例は、日本で開発されたSMANCS(neocarzinostatin bound to styren-maleinanhydride copolymer)(K. Tsuchia, H. Maeda, Urology, 55, 495(2000))及びN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)とドキソルビシンの抱合錯体(P. A. Vasey, C. Twelves, Clin. Cancer Res., 5, 83(1999))を含む。前者のSMANCSは、最近日本で承認されたが、まだ広く使用されておらず、後者は、まだ臨床での使用について、承認されていない。このような従来の有機高分子の主な不利な点は、これらが生分解性がなく、腫瘍組織に対する選択性が低いということである。
【0010】
ポリホスファゼンは、米国のオールコックグループ(H. R. Allcock, R. L. Kugel, J. Am. Chem. Soc., 87, 4216(1965))により最初に合成された、新しいクラスの無機/有機ハイブリッド高分子である。ポリホスファゼンは、高分子の主要要素が燐原子と窒素原子とから相互になり、有機置換基が側鎖として燐原子に結合してなる線状高分子であり、側鎖基の分子構造によって多様に異なる物理的性質を示す。ポリホスファゼン類は、有機高分子が有していない良好な物理的性質を有するが、高価であるために広く使用されず、限定された目的にのみ、使用されてきた。特に、薬物送達物質としてのポリマーは、生体適合性のために50,000〜70,000ダルトンの最大分子量を有することを求められる一方で、ポリホスファゼン類は、通常の方法で製造される場合、高分子量(Mw>106ダルトン)のため、薬物送達システムとして開発されなかった。
【0011】
本発明者らは、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(N33Cl6)を出発原料とし、熱重合して、ポリ(ジクロロホスファゼン)、(NPCl2)nを製造するため、触媒として使用される塩化アルミニウムの量により、ポリホスファゼンの分子量が調節されることを発見した(Youn Soo Sohn, et al., Macromolecules, 28, 7566 (1995))。この発見に基づいて、本発明者らは、種々の、新規な薬物伝達物質を開発する研究をしている。特に、最近、本発明者らは、ポリホスファゼンの水溶性及び生分解性が、ポリ(ジクロロポリホスファゼン)の求核置換により、ポリホスファゼンの主要要素に、親水性ポリ(エチレングリコール)と親脂肪性アミノ酸を導入することにより、調節され得ることを発見した(Youn Soo Sohn, et al., Macromolecules, 32, 2188(1999))。本発明者らは、種々の目的のため、それらを応用する研究を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、その強められる透過性及び保持性効果により、高い腫瘍組織選択性を有する高分子薬物伝達物質を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、高い腫瘍組織選択性及び抗腫瘍効果の能力を有する高分子白金抱合錯体(conjugate)抗腫瘍剤を提供し、そこでは、白金錯体抗腫瘍剤が、前記高分子薬物伝達物質に化学的につながっており、そしてそれらの製法を提供する。
【0014】
明細書に具体的に記載され、広く記述されている、本発明の上記の及びその他の目的は、ナノサイズ(10〜100nm)のポリホスファゼンに白金錯体抗腫瘍剤を抱合させて(conjugate)、高い腫瘍組織選択性を有する、新しいクラスのポリホスファゼン−白金抱合錯体抗腫瘍剤を提供することにより達成される。
【0015】
本発明の上記の及びその他の目的、特徴、態様(aspect)及び有利な点は、以下の発明の詳細な説明からより明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明により、高い腫瘍組織選択性を有する、新しい高分子抗腫瘍剤が提供され、そこには、白金錯体抗腫瘍剤がナノサイズ(10〜100nm)のポリホスファゼンに抱合している(conjugated)。より詳細には、高い腫瘍選択性及び抗腫瘍活性を有するポリホスファゼン−白金抱合錯体が提供され、ここで、白金(II)錯化合物は、ポリジクロロホスファゼンの塩素イオン(Youn Soo Sohn, et al. Macromolecules, 28, 7566 (1995))をポリ(エチレグリコール)及びジペプチドエチルエステルで置換することにより得られる水溶性の、ナノサイズのポリホスファゼンに化学的につながっている。
【0017】
従って、本発明は、腫瘍組織に対し、優れた透過性と保持性効果を有し、その外に顕著な抗腫瘍活性を有する新しいクラスのポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体抗腫瘍剤及びその製法に関し、ここで、親水性ポリ(エチレングリコール)と疎水性ジペプチドエチルエステルのモル比が、ポリホスファゼンにおいて最適化されており、スペーサーとして、加水分解されるジペプチドを用いて、このポリホスファゼンに抱合している(conjugated)。
【0018】
特に、本発明は、下記化学式(1)で表される、腫瘍組織選択性及び生分解性を有するポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体抗癌剤、並びにその製法に関する。
【化4】

【0019】
上記式中、xは、ポリ(エチレングリコール)中のエチレンオキシド繰り返し単位の数を示し、7、12又は16であり、yは、0〜2の整数であり、zは、0.5〜1.5の範囲における、ポリ(エチレングリコール)のモル含量を示し、nは、30〜100の範囲における、ポリホスファゼンの重合度を示し、A−Aは、トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン及びエチレンジアミンからなる群から選択される、ジアミンを示す。
【0020】
前記化学式(1)で表されるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体は、水溶液中で、10〜100nmの直径の流体力学体積を有する。
【0021】
また、本発明は、腫瘍の治療のための、前記化学式(1)で表されるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の使用に関する。
【0022】
前記化学式(1)で表される高分子型ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体は、以下のように、製造され得る:
【0023】
本発明による高分子型ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を製造する全ての反応工程は、好ましくは、反応系から水分を排除するため、シュレンク管(schlenk line)を使用して、不活性ガス雰囲気で、グローブボックス内で行われ、使用される全ての溶媒は、微量の水分を除去するため、使用前に完全に乾燥される。
【0024】
第1段階では、下記化学式(2)で表わされるホスファゼン3量体が、既知の方法(Youn Soo Sohn、et al. Macromolecules, 28、7566(1995))に従い、熱重合され、104〜105の平均分子量を有する、化学式(3)で表される、線形のポリ(ジクロロホスファゼン)を得る。
【0025】
【化5】


ここで、nは、30〜100の範囲における重合度を表わす。
【0026】
前記の熱重合反応は、前記化学式(2)で表わされるヘキサクロロシクロトリホスファゼン(N=PCl23と、3〜100重量%の塩化アルミニウム(AlCl3)を、パイレックス(登録商標)反応管中で、混合し、密封し、反応オーブン中、230〜250℃で3〜5時間、溶融反応に付すことにより行われ、ここで、反応管は、10〜20rpmで回転される。
【0027】
一方、70〜80℃の油浴中で、1〜2日間真空乾燥された、化学式(4)で表わされるポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルを、1.5当量の金属ナトリウムと、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン又はトルエンような溶媒中で、反応させ、化学式(5)で表されるポリ(エチレングリコール)のナトリウム塩を得る。
【0028】
【化6】

【0029】
上記式中、xは、7、12又は16の、(CH2CH2O)の繰り返し数を示す。
【0030】
第2段階では、化学式(5)で表されるナトリウム塩の溶液を、−60〜−78℃の温度範囲で、トリエチルアミンの存在下に、化学式(3)で表されるポリ(ジクロロホスファゼン)の溶液に加え、その後、得られる溶液混合物を、室温で、15〜20時間攪拌する。使用されるポリ(エチレングリコール)のナトリウム塩の量は、ポリ(ジクロロホスファゼン)のモルあたり、0.5〜1.5当量である。
【0031】
第3段階では、前記の反応からの部分置換生成物を、1.5〜2.0当量の化学式(6)で表されるジペプチドエステル及び置換されずに残っている塩素1原子当たり3当量のトリエチルアミンと、クロロホルム中、室温で反応させ、化学式(7)で表されるポリホスファゼン誘導体を得る。
【0032】
【化7】


上記式中、yは、0、1又は2である。
【0033】
前記化学式(6)で表されるジペプチドエチルエステルは、y=0の場合、グリシルアミノマロナートであり、y=1の場合、グリシルアスパルタートであり、y=2の場合、グリシルグルタマートである。
【0034】
【化8】


上記式中、n、x、y及びzは、化学式(1)で定義されたものと同じである。
【0035】
第4段階では、化学式(7)で表されるポリホスファゼン誘導体のジペプチドエチルエステルを、メタノール中で、アルカリを使用して、加水分解し、ジペプチドのアルカリ金属塩を得る。アルカリとして、水酸化バリウム又は水酸化ナトリウムを、化学式(7)で表されるポリホスファゼン誘導体中に存在するジペプチドのモル当たり2.4〜3.0当量の量で、使用することが好ましい。
【0036】
最後に、上記で得られたジペプチドの金属塩を、水溶液中で、光を遮断し、ジペプチドのモル当たり1.2〜1.5モル量で、下記化学式(8)で表される白金錯体と反応させ、化学式(1)で表される本発明のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を得る。
【0037】
(A−A)PtL
(8)
【0038】
上記式中、A−Aは、化学式(1)で定義されたものと同じであり、Lは、好ましくは、スルファートイオン(SO42−)及びナイトラートイオン(NO3)から選択される、1つ又は2つの陰イオンリガンドを示す。
【0039】
前述したポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の製法は、下記反応スキーム(1)に示され得る。
【0040】
反応スキーム(1):
【化9】

【0041】
下記反応スキーム(2)は、ジペプチドエチルエステルの加水分解に、水酸化バリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用する反応工程を示す。
【0042】
反応スキーム(2):
【化10】


上記反応スキーム(1)及び(2)において、n、x、y、z及びA−Aは、化学式(1)で定義されたものと同じである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明は、次の実施例及び実施態様(embodiment)に言及して、より詳しく説明される。しかしながら、本発明は、それらに限定されない。
以下の実施例において、本発明の化合物の炭素、水素及び窒素の元素分析は、Perkin-Elmer C、H及びN分析機を用いて行われた。一方、水素核磁気共鳴スペクトルはBruker DPX-250 NMR分光機を用いて測定され、白金(リン)核磁気共鳴スペクトルはVarian Gemini-300 NMR分光機を用いて測定された。赤外線吸収スペクトルはNicolet Impact 400 FT-IR分光機を用いて測定された。
【0044】
実施例1
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.5[(GlyGlu)Pt(dach)]0.5)}nの製造
【0045】
平均分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(8.80g、25.9mmol)及びナトリウム片(0.7g、30.0mmol)を、乾燥したテトラヒドロフランに加え、得られた混合物をアルゴン気流下で24時間還流させ、メトキシポリ(エチレングリコール)のナトリウム塩を得た。
【0046】
触媒として、10%AlCl3を用いて、製造されたポリ(ジクロロホスファゼン)(2.00g、17.2mmol)を、乾燥したテトラヒドロフラン(80ml)に溶解させ、ドライアイス−アセトン浴(−78℃)中の、得られた溶液に、上記のメトキシポリ(エチレングリコール)のナトリウム塩溶液を30分間かけて滴下した。30分後、ドライアイス−アセトン浴を除去し、反応溶液をさらに、室温で、8時間攪拌させた。この溶液に、トリエチルアミン(8.4g、84.4mmol)とグリシルグルタミン酸ジエチルエステル(4.5g、15mmol)のクロロホルム(100ml)溶液を加えた。得られた溶液混合物を、室温で12時間攪拌させ、その後、さらに、70℃で、48時間反応させた。
【0047】
反応混合物中に生成された沈殿物(Et3N・HCl/NaCl)を濾過して除去し、濾液を減圧濃縮した。この濃縮液をテトラヒドロフランに溶解させ、それに過剰のエーテル又はヘキサンを加え、沈殿を誘発させた。この工程を2回繰り返した後、沈殿物を少量の水(100ml)に溶解させ、透析膜(MWCO:3500)を用いて、18時間透析し、その後、凍結乾燥して、油状のポリホスファゼン誘導体[NP(MPEG)1.5(GlyGluEt20.5]を得た(収率80%)。
【0048】
得られたポリホスファゼン誘導体(2.00g、3mmol)をメタノール(50ml)に溶解させ、それに、Ba(OH)2・8H2O(0.79g、2.5mmol)のメタノール溶液を加え、加水分解を行った。反応混合物を減圧で濃縮し、メタノールと過剰のエーテルを加え、ポリホスファゼン誘導体のバリウム塩の沈殿を誘発させた。このバリウム塩を少量の水(50ml)に溶解させ、それに、トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサンの白金(II)スルファート、(Pt(dach)SO4 (1.1g、2.5mmol)の水溶液(30ml)を、0℃で、10分間かけて、pH7を維持しながら、滴下した。得られた溶液を4〜6時間攪拌させた後、沈殿物(BaSO4)を減圧濾過して除去した。濾液を透析膜(MWCO:3500)を用いて、蒸留水中で、8時間透析した後、1日間、凍結乾燥して、求める最終生成物、ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体[NP((OCH2CH27OCH31.5−(NHCH2CONHCH(COO)CH2CH2COO(Pt(dach))0.5)]を1.90g(収率74%)得た。
【0049】
組成式:C2958314PPt
元素分析値:C(40.48),H(8.18),N(6.33),Pt(13.20)
理論値:C(41.16),H(7.08),N(6.07),Pt(12.80)
H−核磁気共鳴スペクトル:
【化11】


31P−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ20.91,18.2
分子量(Mw):36,213。
【0050】
実施例2
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.2[(GlyGlu)Pt(dach)]0.8nの製造
【0051】
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(7.24g、25.3mmol)、ナトリウム金属片(0.69g、30mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(10%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、及びグリシルグルタミン酸エチルエステル(6.0g、20.33mmol)を用いて、ポリホスファゼン誘導体のエチルエステルを製造した。ポリホスファゼン誘導体のエチルエステル(2.0g、2.97mmol)をNaOH(0.2g、5.0mmol)で加水分解させ、実施例1の記載の方法により、加水分解物をPt(dach)SO4(1.01g、2.5mmol)と反応させ、目的の生成物であるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0052】
組成式:C2854513PPt
元素分析値:C(38.45),H(6.86),N(6.68),Pt(13.4)
理論値:C(39.56),H(6.08),N(6.83),Pt(17.81)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化12】


31P−核磁気共鳴スペクトル:δ18.2,22.3 ppm
分子量(Mw):35,213。
【0053】
実施例3
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.0[(GlyGlu)Pt(dach)]1.0nの製造
【0054】
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(6.35g、17.3mmol)、ナトリウム金属片(1.0g、25mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(10%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(6.10g、20.8mmol)、Ba(OH)2・8H2O(1.11g、3.5mmol)及びPt(dach)SO4(1.42g、3.5mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率78.0%で得た。
【0055】
組成式:C2955513PPt
元素分析値:C(37.58),H(6.08),N(7.83),Pt(21.1)
理論値:C(38.37),H(6.11),N(7.71),Pt(21.49)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化13】


31P−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ21.8,18.1
分子量(Mw):24,193。
【0056】
実施例4
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}
、{NP(MPEG350)1.2[(GlyGlu)Pt(dach)0.8]}nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(7.25g、20.7mmol)、ナトリウム金属片(1.0g、25mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(5%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(6.15g、20.7mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.79g、2.5mmol)及びPt(dach)SO4(1.1g、2.5mmol)を用いて、目的の生成物である標記のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率76%で得た。
【0057】
組成式:C2854514PPt・3H2
元素分析値:C(36.45),H(6.36),N(6.68),Pt(13.7)
理論値:C(37.16),H(6.93),N(7.78),Pt(17.01)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化14】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.3,18.3
分子量:66,584。
【0058】
実施例5
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.4[(GlyGlu)Pt(dach)0.6nの製造
【0059】
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(7.25g、20.7mmol)、ナトリウム金属片(10g、25mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(5%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(6.10g、20.7mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.7g、2.2mmol)及びPt(dach)SO4(0.89g、2.2mmol)を用いて、目的の生成物であるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率69%で得た。
【0060】
組成式:C2957513PPt・6H2
元素分析値:C(35.66),H(6.18),N(5.66),Pt(10.6)
理論値:C(36.39),H(7.08),N(6.09),Pt(12.32)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化15】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.0,18.9
分子量:46,527。
【0061】
実施例6
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.12[(GlyGlu)Pt(dach)0.88nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(6.78g、19.3mmol)、ナトリウム金属片(0.57g、24.8mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(3%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(9.0g、29.0mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.63g、2.0mmol)及びPt(dach)SO4(0.81g、2.0mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0062】
組成式:C2854513PPt
元素分析値:C(39.46),H(6.56),N(7.06)
理論値:C(39.56),H(6.45),N(6.83)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化16】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ23.0,18.9
分子量(Mw):78,119。
【0063】
実施例7
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)550][(グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.12[(GlyGlu)Pt(dach)]0.88nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量550のメトキシポリ(エチレングリコール)(6.78g、19.3mmol)、ナトリウム金属片(0.9g、22.5mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(3%AlCl3、2.00g、17.3mmol)、トリエチルアミン(18.9g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(8.4g、27.0mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.79g、2.5mmol)及びPt(dach)SO4(1.1g、2.5mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0064】
組成式:C3773517PPt
元素分析値:C(40.86),H(6.64),N(6.46),Pt(19.25)
理論値:C(40.17),H(6.64),N(8.33),Pt(19.46)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化17】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.3,18.4
分子量(Mw):88,304。
【0065】
実施例8
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルアスパルタート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.1[(GlyAsp)Pt(dach)0.9]]nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(5.70g、19.0mmol)、ナトリウム金属片(1.0g、25mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(3%AlCl3、2g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.9g、186.3mmol)、グリシルアスパラギン酸エチルエステル(6.10g、20.7mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.79g、2.5mmol)及びPt(dach)SO4(1.1g、2.5mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0066】
組成式:C2855513PPt・6H2
元素分析値:C(32.79),H(5.22),N(6.48)
理論値:C(33.31),H(6.56),N(7.35),Pt(20.04)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化18】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.5,18.5
分子量(Mw):171,230。
【0067】
実施例9
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350)[グリシルアミノマロナート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、[NP(MPEG350)1.0(GlyMalPt(dach)1.0)]nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(6.35g、17.3mmol)、ナトリウム金属片(1.0g、25mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(10%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、ジエチルアミノマロン酸(4.2g、20.8mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.79g、2.5mmol)及びPt(dach)SO4(1.1g、2.5mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率78.0%で得た。
【0068】
組成式:C2955513PPt
元素分析値:C(37.58),H(6.08),N(7.83),Pt(21.1)
理論値:C(38.37),H(6.11),N(7.71),Pt(21.49)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化19】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ21.8,18.1
分子量(Mw):24,193。
【0069】
実施例10
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)750][グリシルグルタマート−トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG750)1.0[(GlyGlu)Pt(dach)]1.0nの製造
【0070】
実施例1の記載と同一の方法により、分子量750のメトキシポリ(エチレングリコール)(12.95g、17.3mmol)、ナトリウム金属片(0.8g、20mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(10%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.86g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(7.63g、25.9mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.95g、3.0mmol)及びPt(dach)SO4(1.21g、3.0mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0071】
組成式:C4690522PPt・6H2
元素分析値:C(39.781),H(6.66),N(5.61)
理論値:C(40.73),H(7.21),N(6.1),Pt(15.46)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化20】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.3,19.2
分子量(Mw):33,433。
【0072】
実施例11
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350)[グリシルグルタマート−(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン)白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.0[(GlyGlu)Pt(dmpda)]1.0nの製造
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(5.01g、14.30mmol)、ナトリウム金属片(0.8g、20mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(5%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.9g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(7.6g、25.9mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.63g、2.0mmol)及び2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン(dmpda)の白金(II)硫酸塩、((dmpda)PtSO4、(0.81g、2.0mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0073】
組成式:C2854514PPt・4H2
元素分析値:C(35.41),H(5.352),N(7.831)
理論値:C(35.46),H(6.80),N(7.64)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化21】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.4,18.4
分子量(Mw):32,559。
【0074】
実施例12
ポリ{[メトキシポリ(エチレングリコール)350][グリシルグルタマート−エチレンジアミン白金(II)]ホスファゼン}、{NP(MPEG350)1.0[(GlyGlu)Pt(en)]1.0nの製造
【0075】
実施例1の記載と同一の方法により、分子量350のメトキシポリ(エチレングリコール)(5.01g、14.3mmol)、ナトリウム金属片(0.8g、20mmol)、ポリ(ジクロロホスファゼン)(5%AlCl3、2.00g、17.2mmol)、トリエチルアミン(18.9g、186.3mmol)、グリシルグルタミン酸エチルエステル(7.6g、25.9mmol)、Ba(OH)2・8H2O(0.92g、2.9mmol)及びエチレンジアミン(en)の白金(II)硫酸塩(Pt(en)SO4、1.13g、2.9mmol)を用いて、目的の生成物である標記ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を収率70%で得た。
【0076】
組成式:C2554413PPt・4H2
元素分析値:C(33.41),H(5.35),N(7.831)
理論値:C(33.92),H(6.953),N(7.88)
H−核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):
【化22】


31P核磁気共鳴スペクトル(D2O,ppm):δ22.4,18.4
分子量(Mw):18,182。
【0077】
実施例13
ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の強められる透過性及び保持性効果の評価
オスのC57 BL/6Nマウス(8−9週令、25−27g)を12時間の間隔の明暗で、4日間順応させ、B16F10メラノーマ細胞(PBSに懸濁させた1x106細胞)を背部に皮下的に接種した。2週間経過後、腫瘍が直径10mmに成長した時に、生理食塩に溶かした薬剤(20mg/kg)を尾静脈に注射した。薬剤投与後、2時間及び24時間に、動物を犠牲にした。シリンジで、心臓細孔(puncture)により、血液サンプルを採取した。腫瘍組織及び筋肉(正常組織)を動物から除去し、分析のため、−80℃で保存した。生物サンプル中の薬剤の分析は白金(II)の測定に基づいた。c−H2SO4,c−HNO3及び最後に王水で処理した後、白金の含量をICP−MSで測定した(モデルELAN5000,Perkin Elmwer, Norwalk, CT)。
【0078】
表1は、TTR((腫瘍組織/正常組織の分布)を示す。表1から、ポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の分子量が80,000〜100,000の範囲のときに、最良の腫瘍選択性が達成されたことが分かる。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例14
白血病L1210細胞に対するポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の抗腫瘍活性の評価
白血病L1210細胞に対する、本発明のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の抗腫瘍活性を、公知の方法(S. S. Lee, O. -S. Jung, C. O. Lee, S. U. Choi, M. -J. Jun, Y. S. Sohn, Inorg. Chim. Acta, 239, 133(1995))にしたがって、評価した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例15
胃腫瘍細胞(YCC−3)に対するポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の抗腫瘍活性の生体内(in vivo)異種移植(xenograft)
胃腫瘍細胞(YCC−3)に対する本抱合錯体薬剤の生体内感受性を、nu/nuマウス(6−8週令、20−25g)を用いて、評価した。0.25%のトリプシン−EDTAで処理した後、培養された腫瘍細胞を、PBS溶液で5分間遠心分離した。この工程を3回以上繰り返した後、腫瘍細胞を単一浮遊腫瘍細胞にした。PBS溶液中の腫瘍細胞の濃度を血球計により測定された細胞数から計算した。100μlのPBS溶液中の単一浮遊腫瘍細胞(4x107)を、1mlのシリンジを用いて、各」マウスの右側に、皮下的に注射した。
【0083】
腫瘍が0.5cm3の大きさになるように成長したときに、試験薬剤を、100μlのPBS溶液中の2つの投与量(60mg/kg及び30mg/kg)で、腹腔内注射で、投与した。対照群の場合には、同一量のPBS溶液のみを注射した。2日毎に、マウスの体重と腫瘍の大きさを測定した。腫瘍の大きさは、長さ×広さ×広さ/2の式により計算した。
【0084】
その結果を表3に示す。表から、従来のシスプラチンの場合、腫瘍組織の成長速度は、対照群のそれと大きな差がなく、一方、本発明の実施例3の化合物の場合、腫瘍組織の成長速度の阻害効果が、試験薬剤の注射から60日後において、シスプラチンのそれと比べて、優れていた。したがって、本発明の化合物の抗腫瘍活性が従来の抗腫瘍剤のそれより優れていることが発見された。
【0085】
【表3】


上述のように、良好な腫瘍選択性及び抗癌活性を有する、本発明のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体が提供された。本発明のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体は高い腫瘍選択性を示し、よって、それは、高い応答速度と低い不利な効果をともなう新しい抗腫瘍剤として、広く使用され得る。
【0086】
本発明は、それの特質又は本質的な特徴から外れることなく、種々の形態で、実施態様化されているから、他に特定されないなら、上述の実施態様が前記の記述の詳細により限定されないと理解され、むしろ、添えられているクレームで定義されているように、その特質及び範囲内で、広く解釈されるべきである。ゆえに、クレームの境界及び領域内入るすべての変更及び修飾、又はそのような変更及び修飾の均等物は、添えられているクレームに包含されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】


(式中、xは、エチレンオキシド繰り返し単位の数を示し、7、12又は16であり、yは、0、1又は2であり、zは、0.5〜1.5の範囲における、ポリエチレングリコールのモル含量を示し、nは、30〜100の範囲における、ポリホスファゼンの重合度を示し、A−Aはジアミンを示す。)
で表されるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体。
【請求項2】
水溶液中で、10〜100nmの直径の流体力学体積を有し、腫瘍組織選択性を示す、請求項1記載のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体。
【請求項3】
前記ジアミンが、トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン及びエチレンジアミンからなる群から選択される、請求項1記載のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体
【請求項4】
腫瘍の治療のための、下記化学式(1)
【化2】


(式中、xは、エチレンオキシド繰り返し単位の数を示し、7、12又は16であり、yは、0、1又は2であり、zは、0.5〜1.5の範囲における、ポリエチレングリコールのモル含量を示し、nは、30〜100の範囲における、ポリホスファゼンの重合度を示し、A−Aはジアミンを示す。)
で表されるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の使用。
【請求項5】
化学式(1)で表されるポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体の製法であって、
(a)化学式(3)のポリ(ジクロロホスファゼン)を、化学式(5)のメトキシポリ(エチレングリコール)のナトリウム塩及び化学式(6)のジペプチドエステルと連続的に反応させて、化学式(7)のポリホスファゼン誘導体を得る工程、
(b)化学式(7)のポリホスファゼン誘導体中に存在するエステル基をアルコール溶液中のアルカリを用いて加水分解し、化学式(7)のポリホスファゼン誘導体の加水分解物を得る工程および
(c)工程(b)で得られる加水分解物を化学式(8)の白金(II)錯化合物と反応させ、化学式(1)のポリホスファゼン−白金(II)抱合錯体を得る工程:
【化3】


(式中、xは、エチレンオキシド繰り返し単位の数を示し、7、12又は16であり、yは、0、1又は2であり、zは、0.5〜1.5の範囲における、ポリエチレングリコールのモル含量を示し、nは、30〜100の範囲における、ポリホスファゼンの重合度を示し、A−Aはジアミンを示し、Lは1つ又は2つの陰イオンリガンドを示す。)
を含む、製法。
【請求項6】
前記アルカリが、水酸化バリウム又は水酸化ナトリウムである請求項5記載の製法。
【請求項7】
前記陰イオンリガンドが、スルファート又はナイトラートである請求項5記載の製法。
【請求項8】
前記ジアミンが、トランス(±)−1,2−ジアミノシクロヘキサン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン及びエチレンジアミンからなる群から選択される、請求項7記載の製法。
【請求項9】
メトキシポリ(エチレングリコール)の分子量が、350、550又は750である、請求項5記載の製法。
【請求項10】
化学式(6)のジペプチドエチルエステルが、グリシルグルタマート、グリシルアスパルタート及びグリシルアミノマロナートからなる群から選択される、請求項5記載の製法。
【請求項11】
工程(b)及び工程(c)が、化学式(7)のポリホスファゼン誘導体中に存在するエステル基を水酸化バリウムで加水分解し、加水分解物を、Lがスルファートである、化学式(8)の(ジアミン)白金(II)錯化合物と反応させ、硫酸バリウム沈殿物を濾過により除去することを含む、請求項6記載の製法。

【公表番号】特表2006−525224(P2006−525224A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571355(P2004−571355)
【出願日】平成15年12月30日(2003.12.30)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002901
【国際公開番号】WO2004/096820
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505405928)ボード・オブ・トラスティーズ・イファ・ウーマンズ・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF TRUSTEES,EWHA WOMANS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】