説明

腹式呼吸習熟度判定装置

【課題】 伴奏音に合せて被験者が歌うときの発声音を周波数解析し腹式呼吸の習熟度を数量化して判定することにより、誤嚥性肺炎を予防するために最適なシステムを構築する
【解決手段】 被験者の発声音から腹式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号でかつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出し、それを演算することによって一回の測定結果の傾向を単一の数値で提示し、時間経過を分析して腹式呼吸の習熟度を判定可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹式呼吸の評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
誤嚥性肺炎を防止するために腹式呼吸が有効であることが知られており、この腹式呼吸評価技術として、特開2009−28298号公報(特許文献1)が知られている。
【0003】
上記特許文献1は、人の発する音声信号を骨伝導により取得し、該取得された音声信号を周波数解析し、基準となる周波数信号と比較することにより、該音声の腹式呼吸度合を評価し、評価結果を表示するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2009−28298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが前記特許文献1では、 周波数解析した音声信号の基準信号との比較結果を数量化するという点が十分に解決されていないため、
提示される周波数信号波形から腹式呼吸習熟度を判定するのに熟練を要し判定者による判定結果に差異が生じるという問題があることが本発明者によって見いだされた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、伴奏音に合せて被験者が歌うときの発声音を周波数解析し腹式呼吸の習熟度を数量化して判定することにより、誤嚥性肺炎を予防するために最適なシステムを構築することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、被験者の発声音から腹式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号でかつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出し、それを演算することによって一回の測定結果の傾向を単一の数値で提示し、時間経過を分析して腹式呼吸の習熟度を判定可能とした。
【0008】
具体的には、本発明の請求項1は、被験者の発声音を入力する発声音入力手段と、前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出する抽出手段と、前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理する演算手段と、前記演算手段による一回毎の数値を時系列的に表示する表示手段とからなる腹式呼吸習熟度判定装置である。
【0009】
本発明の請求項2は、発声音入力手段により、被験者の発声音を入力するステップと、抽出手段により、前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出するステップと、演算処理手段により、前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理するステップと、表示手段により、前記で得られた一回毎の数値を時系列的に表示するステップとからなるコンピュータを用いた腹式呼吸習熟度判定方法である。
【0010】
さらに、本発明の請求項3は、コンピュータで実行可能な腹式呼吸習熟度判定プログラムであって、発声音入力手段により、被験者の発声音を入力するステップと、抽出手段により、前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出するステップと、演算処理手段により、前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理するステップと、表示手段により、前記で得られた一回毎の数値を時系列的に表示するステップとからなるコンピュータで実行可能な腹式呼吸習熟度判定プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腹式呼吸習熟度判定において単一数値によるスコアを提示することにより、判定者の労力を低減するとともに、判定者間の判定結果の差異をなくすことが可能となる。また、被験者自身がシステムを操作し自己診断できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】システム全体の構成図を示した図である。
【図2】発声音から腹式呼吸習熟度を算出する処理のフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の通り、端末システムから演奏音を被験者に提示し、その演奏音に合わせて被験者が歌っているときの発声音を収録する。演奏音は遠隔管理サーバから配信することが可能で、被験者が好みの楽曲を選択することができる。収録した発声音の中で予め設定された対象曲の注目部分での発声状況から腹式呼吸を正しく行えているかどうかを数量化する。発声状況は収録音声の小区間(例えば20ミリ秒程度)をフレームとしそれを単位として、演奏音ごとで設定された注目時刻周辺での極大音圧を与える小区間の周波数係数を演算することで腹式呼吸の習熟度を数量化するものである。
【0014】
本実施形態は、汎用のパーソナルコンピュータで実現することができ、発声音入力手段としてはマイクロホンを用いることができる。当該発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数の信号を抽出する処理および音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出する処理を行う抽出手段と、抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理する演算手段は、パーソナルコンピュータのハードディスク装置等にインストールされたプログラムによって実現される。さらに、演算手段による一回毎の数値を時系列的に表示する表示手段はディスプレイ装置によって実現されている。
【実施例】
【0015】
次に図2を用いて具体的な腹式呼吸の習熟度の数量化の例を説明する。
【0016】
発声音は演奏音と同期して収録される。発声音を入力しそれをデジタル化したあと処理する。このデジタル化のためのサンプリング周波数をS[Hz]、小区間処理単位のフレームF(p)のサンプル数をsとする。演奏音の開始位置を時刻0とした時の時刻TiのPi番目のフレームF(Pi)の時間的な位置関係は、以下の式で表現される。
【0017】
Pi=Ti・S/s
【0018】
このとき小数点以下は切り捨てる。
【0019】
声楽家など腹式呼吸をうまく行える人が演奏音に併せて歌った時の発声音に基づいて、発声音圧が高まる時刻Ti(1≦i≦n)などを注目時刻とし、その演奏音に関連付けられた制御情報として保存しておく。
【0020】
被験者が同じ演奏音に対して歌った結果の発声音のフレームF(x)における音圧をV(x)としたとき、V(Pi)を以下で定義する。
【0021】
V(Pi)←max{V(p)} (Pi−d≦p≦Pi+d)
【0022】
つまり、V(Pi)は時刻Tiに対応するF(Pi)の前後d個のフレームを含むなかで極大の音圧である。そして、V(Pi)を与えるpに対するフレームF(p)を注目時刻の検査対象フレームとする。このときdは、被験者の歌の個性により生ずる発声音と演奏音のずれや声量を高めるべき区間のずれの影響を排除するために、検査対象フレームの時間方向のずれを許容するためのものである。dは2〜3に設定するとよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
そして、F(p)をポリフェーズのフィルタバンクなどを用いてm個のサブバンドに分割する。このときの各周波数成分をB(p,b)(1≦b≦m)とし、データ変換部へ出力する。
【0024】
データ変換部では、各サブバンドの代表値をC(p,b)として、B(p,b)の音圧を単位時間当たりに正規化した数値などにまず変換する。任意の組み合わせで複数のサブバンドをたたみこんだ波形に対して求めた音圧を求めても良い。
【0025】
腹式呼吸の習熟度は、発声音の歌い始めから終りまでの特定周波数帯bsの持続度から判定することが明らかになっている。特定周波数帯bsは1.4[kHz]〜5.5[kHz]の比較的高音域を使うことが望ましいが、それに限定されるものではない。そこで、習熟度スコアA1を以下の式を用いて習熟度の一つの値として算出する。
【0026】
A1=sqrt(Σ{C(Pi,bs)}^2)
ただし、Σは1≦i≦nの区間で加算する。^2は二乗を示している。sqrt(・)は平方根である。このスコアA1は一回の測定で腹式呼吸が継続しているかどうかを判定するのに使用する。
【0027】
さらに、過去からの改善度も習熟度判定の一つの指標になることが知られている。そこで、改善の度合いを習熟度スコアA2として算出する。具体的には、過去に記録した発声音から得られる基準のサブバンド代表値をCo(Pi,bs)として、以下の式を用いてまず差分値dC(Pi,bs)を算出する。
【0028】
dC(Pi,bs)=C(Pi,bs)−Co(Pi,bs)
【0029】
ただし、この差分値が負になる場合は、以下の通りゼロに置き換える。
【0030】
dC(Pi,bs)=0
【0031】
こうして、1≦i≦nに対して算出した後、A2を以下の通り算出する。
【0032】
A2=sqrt(Σ{dC(Pi,bs)}^2)
【0033】
習熟度スコアA2は注目点毎に比較対象とする測定データからどの程度改善したかを算出し、一回の測定全体での改善度を表している。
【0034】
このように求めた、A1,A2の指標はすべての注目時刻Tiに対して腹式呼吸の習熟度を表すスコアとなっている。そして、対象とする発声音フレームの注目時刻毎のレベル値C(P,b)のグラフと共に提示して習熟度を判定するのに効果的である。
【0035】
また、被験者が定期的に行う測定結果の経過を記録しておけば、腹式呼吸トレーニングの効果を経過から判断することも可能となる。
【0036】
以上から、発声音を周波数解析し特定周波数の代表値から注目点について数値演算することによって、腹式呼吸習熟度を数量化できる。これにより、特別な知識を持たない判定者や被験者自身でも、容易に腹式呼吸習熟度を判定できるシステムを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上記で説明した機能は専用の端末装置で実現し看護や介護の現場に導入し、腹式呼吸の習熟度を用いて健康状態を確認する方法に応用できる。また、発声音を取得する機能を備えた既存機器(例えば携帯電話など)に適用し、話し言葉の状況から腹式呼吸の習熟度判定し、健康状態を遠隔から確認するというシステムを構築できる。
【符号の説明】
【0038】
1腹式呼吸の習熟度判定端末システム
2被験者
3伴奏音
4発声音
5遠隔管理サーバ
6端末からサーバへの制御データ
7サーバから端末への制御データ
11サブバンド分割処理機能
12データ変換機能
13スコア演算・判定機能
14特徴抽出制御
15結果表示部
16サブバンドデータ
17周波数特徴データ
18制御データ
19履歴管理DB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の発声音を入力する発声音入力手段と、
前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出する抽出手段と、
前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理する演算手段と、
前記演算手段による一回毎の数値を時系列的に表示する表示手段とからなる腹式呼吸習熟度判定装置
【請求項2】
発声音入力手段により、被験者の発声音を入力するステップ、
抽出手段により、前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出するステップと、
演算処理手段により、前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理するステップと、
表示手段により、前記で得られた一回毎の数値を時系列的に表示するステップとからなるコンピュータを用いた腹式呼吸習熟度判定方法。
【請求項3】
コンピュータで実行可能な腹式呼吸習熟度判定プログラムであって、
発声音入力手段により、被験者の発声音を入力するステップと、
抽出手段により、前記で得られた発声音から複式呼吸の差異を捉える特定周波数帯の信号で、かつ音圧が高まるべき注目区間の周波数成分情報を抽出するステップと、
演算処理手段により、前記で抽出された周波数成分情報に対して一回の測定結果の傾向を単一の数値で出力できるよう演算処理するステップと、
表示手段により、前記で得られた一回毎の数値を時系列的に表示するステップとからなるコンピュータで実行可能な腹式呼吸習熟度判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24527(P2012−24527A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178050(P2010−178050)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510216027)株式会社エモヴィス (1)
【Fターム(参考)】