説明

腹部大動脈瘤の治療のためのトリアゾロ[4,5−d]ピリミジン化合物

本発明は、P2T(P2Y12)受容体アンタゴニストとして作用する、トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン化合物を提供する。該化合物は、腹部大動脈瘤の治療または予防に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹部大動脈瘤の治療または予防における、特定のP2Y12受容体(P2T、P2YADPまたはP2TACとしても知られる)アンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腹部大動脈瘤(AAA)は、年齢および性別に非常に関連するアテローム血栓性疾患の頻出する型である(Bengtsson Hら(1996), Ann N Y Acad Sci 800:1−24)。AAA病態生理は、細胞外マトリックスタンパク質分解(Michel JB(2001), Arterioscler Thromb Vasc Biol 21:1389−1392)、平滑筋細胞(SMC)消失(Michel JB(2003), Arterioscler Thromb Vasc Biol 23:2146−2154)、炎症細胞浸潤、ならびに細胞コロニー形成および治癒の欠如(Fontaine Vら(2004), Am J Pathol 164:2077−2087)を伴う。管腔側線維形成(Touat Zら(2006), Am J Pathol 168:1022−1030)および反管腔側線維素溶解(Carrell TWら(2006), Vascular 14:9−16; Fontaine Vら(2002), Am J Pathol 161:1701−1710)を含む壁在血栓の動的生物学が、AAA進行に重要な役割を果たすことが最近示された。これに関連して、活性化血小板凝集体および多核白血球(PMN)補充間の相互作用(Sarda−Mantel Lら(2006), Arterioscler Thromb Vasc Biol 26:2153−2159; Touatら, 2006)は、細胞性治癒の欠如(Fontaine Vら(2004), Am J Pathol 164:2077−2087)において大きな役割を果たす。
【0003】
アデノシン5’−二リン酸(ADP)が血栓症の重要な仲介因子として作用することが見出されてきている。ADP誘導性血小板凝集は、血小板膜上に位置するP2Y12受容体サブタイプによって仲介される。P2Y12受容体(P2T、P2YADPまたはP2TACとしても知られる)は、血小板活性化/凝集を仲介する際に主に関与するGタンパク質共役型受容体である。この受容体の薬理学的性質は、例えば、Humphriesら(1994), Br. J. Pharmacology, 113, 1057−1063、およびFaguraら(1998), Br. J. Pharmacology, 124, 157−164による参考文献に記載されてきている。この受容体のアンタゴニストは、他の抗血栓剤に勝る有意な改善を提供することが示されてきている(J. Med. Chem.(1999) 42, 213を参照されたい)。
【0004】
国際特許出願WO 99/05143は、P2T(P2Y12、P2YADPまたはP2TACとしても知られる)アンタゴニストとしての活性を有する、一連のトリアゾロ[4,5−d]ピリミジン化合物を一般的に開示する。近年、直接(非プロドラッグ)P2T受容体アンタゴニストの新規クラスが記載されてきており、これによって、他の抗血栓剤に勝る有意な改善が提供される。国際特許出願WO 00/34283は、式(I)の化合物を含む新規「直接」P2T受容体アンタゴニストを開示する。トリアゾロ(4,5−d)ピリミジン化合物の結晶型および無定形型が、WO 01/92262に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 99/05143
【特許文献2】WO 00/34283
【特許文献3】WO 01/92262
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bengtsson Hら(1996), Ann N Y Acad Sci 800:1−24
【非特許文献2】Michel JB(2001), Arterioscler Thromb Vasc Biol 21:1389−1392
【非特許文献3】Michel JB(2003), Arterioscler Thromb Vasc Biol 23:2146−2154
【非特許文献4】Fontaine Vら(2004), Am J Pathol 164:2077−2087
【非特許文献5】Touat Zら(2006), Am J Pathol 168:1022−1030
【非特許文献6】Carrell TWら(2006), Vascular 14:9−16
【非特許文献7】Fontaine Vら(2002), Am J Pathol 161:1701−1710
【非特許文献8】Sarda−Mantel Lら(2006), Arterioscler Thromb Vasc Biol 26:2153−2159
【非特許文献9】Humphriesら(1994), Br. J. Pharmacology, 113, 1057−1063
【非特許文献10】Faguraら(1998), Br. J. Pharmacology, 124, 157−164
【非特許文献11】J. Med. Chem.(1999) 42, 213
【発明の概要】
【0007】
本発明は、腹部大動脈瘤の治療または予防のための、式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(I)
[式中:
Rは、CHOHまたはO(CHOHであり;
は、3つのハロゲン原子により置換されていてもよいC3−4アルキルであり;
は、フェニルまたは3,4−ジフルオロフェニルである]
の化合物、またはその薬学的に許容されうる誘導体の使用に関する。
【0010】
式(I)の化合物の薬学的に許容されうる誘導体には、塩(例えば、薬学的に許容されうる非毒性有機または無機酸付加塩、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸または酢酸の塩)、溶媒和物および塩の溶媒和物が含まれる。
【0011】
本発明の1つの態様は、腹部大動脈瘤の治療または予防のための式(I)の化合物である。
本発明の1つの態様は、腹部大動脈瘤の治療または予防のための薬剤製造のための、式(I)の化合物の使用である。
【0012】
本発明の1つの態様は、腹部大動脈瘤の治療方法または予防方法であって、薬学的および薬理学的に有効な量の式(I)の化合物をこうした治療または予防が必要な被験体に投与する、前記方法である。
【0013】
本発明のさらなる態様は、腹部大動脈瘤の治療方法または予防方法であって、式(I)の化合物をこうした治療または予防が必要な被験体に投与する、前記方法である。
1つの態様において、Rは、n−プロピル、3,3,3−トリフルオロプロピルまたはn−ブチルである。1つの態様において、Rは、3,4−ジフルオロフェニルである。1つの態様において、式(I)の化合物は、化合物(A):
【0014】
【化2】

【0015】
(A)
である。上記化合物(A)は、慣用的に、{1S−[1α,2α,3β(1S,2R),5β]}−3−(7−{[2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ}−5−(プロピルチオ)−3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル)−5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン−1,2−ジオールと命名される。
【0016】
式(I)の化合物を投与するのに適した配合物が当該技術分野に知られ、そしてこれには、WO00/34283、WO2008/024044およびWO2008/024045から知られるものが含まれる。化合物(I)の薬学的配合物は、当該技術分野に知られる多様な他の成分、例えば保存剤、安定化剤、粘性制御剤、乳化剤または緩衝剤を含有してもよいし、そして実際、通常、含有するであろう。したがって、化合物(I)の薬学的配合物は、典型的には、0.05〜99%w(重量パーセント)、例えば0.10〜70%wの範囲、または0.10〜50%wの範囲で、式(I)の化合物の総量を含み、ここで、すべての重量パーセントは、総配合物に基づく。
【0017】
式(I)の化合物の適切な用量を開業医または他の当業者が決定してもよく、そしてこの用量は、状態の重症度、および治療しようとするヒト、ならびに使用している化合物(単数または複数)に応じるであろう。哺乳動物患者、特にヒト患者の療法的および/または予防的治療における活性化合物の適切な用量には、関連する状態の治療経過に渡って、最大10μmol/L、例えば0.001〜10μmol/Lの範囲の平均血漿濃度を生じるものが含まれる。いずれにしても、医師または当業者は、個々のヒトに最も適切であろう実際の投薬量を決定可能であり、これは治療しようとする状態、ならびに治療しようとする特定のヒトの年齢、体重、性別および応答によって多様である可能性が高い。上述の投薬量は、平均的な症例の典型である。もちろん、より高いまたはより低い投薬量範囲が適当である個々の例もありうるし、そしてこうしたものが本発明の範囲内である。
【0018】
誤解を避けるために、用語「治療」には、療法的および/または予防的治療が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】化合物(A)治療による動脈瘤拡大の予防。動脈瘤誘導の10日後(a)および42日後(b)の動脈瘤外径の測定値。外径は、10日後(a)、対照(白抜きの正方形)および化合物(A)治療(黒塗りの正方形)ラットで同様であったが、治療の42日後(b)、化合物(A)群で有意に低かった。(c)第10日、動脈瘤直径増加は、2つの群に関して同様であったが、第42日、化合物(A)治療ラット(黒塗りのバー)で有意に減少した。実際、化合物(A)治療ラットに関しては、第10日〜第42日の間に、動脈瘤直径増加はまったく観察されなかった。**、P<0.001。
【図2−1】化合物(A)治療による壁在血栓発展の阻害。(a)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の代表的な動脈瘤のピクロシリウスレッド染色。化合物(A)治療ラットに比較した際、対照由来の動脈瘤において、大動脈直径および血栓(T)面積が、より大きかった。血栓内のコラーゲン沈着(赤色染色)は、化合物(A)群でのみ観察されることに注目されたい。(b)血栓面積/壁面積は、両群のラットにおいて、第10日〜第42日の間に増加したが、第10日および第42日の両方で、化合物(A)治療(黒塗りのバー)によって有意に減少した。(c)群内分析によって、第42日のより大きい動脈瘤直径は、より大きい血栓面積と関連することが示された(対照(白抜きの円)および化合物(A)治療ラット(黒塗りの円)に関して、それぞれ、R=0.13およびR=0.40、P<0.05)。
【図2−2】(d)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤の壁在血栓内のCD41(インテグリンαIib、血小板マーカー)の免疫染色。L:大動脈管腔。染色定量化によって、化合物(A)での42日間の治療が、対照群で見られるものに比較した際、壁在血栓内のCD41陽性面積の相対サイズを有意に減少させたことが示される。元来の倍率、x200。、P<0.05;**、P<0.01。
【図3−1】化合物(A)治療による炎症性浸潤の阻害。(a)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤の壁在血栓内のPMNの免疫染色。第10日(中央のパネル)および第42日(下部のパネル)、壁在血栓内および壁内のPMN浸潤の定量化。10日後および42日後、PMNは、大部分、対照動脈瘤の壁在血栓(白抜きのバー)内に見られた。化合物(A)治療(黒塗りのバー)は、どちらの時点でも、血栓内部へのPMNの浸潤を阻害した。
【図3−2】(b)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤の壁在血栓内のマクロファージの免疫染色。第10日(中央のパネル)および第42日(下部のパネル)の壁在血栓内および壁内へのマクロファージ浸潤の定量化。マクロファージは、対照動脈瘤の壁在血栓内ならびに壁中に見られた(白抜きのバー)。42日後、より多くのマクロファージが、血栓中よりも壁内に存在した。化合物(A)治療(黒塗りのバー)は、どちらの時点でも、血栓内へのマクロファージの浸潤を阻害した。化合物(A)治療の10日後または42日後の壁内のマクロファージ含量の減少は、統計的有意性には到達しなかった。L:大動脈管腔。元来の倍率、x200。、P<0.05;**、P<0.01。
【図4】化合物(A)治療でのMMP−9発現減少。(a)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤の壁在血栓内のMMP−9免疫染色。第42日のMMP−9染色の定量化によって、対照動脈瘤において、壁面積に比較した、MMP−9染色によって占められる面積が、壁内よりも血栓内でより大きいことが示された(白抜きのバー)。化合物(A)治療は、血栓内および壁内の両方で、MMP−9陽性面積のサイズを非常に減少させた(黒塗りのバー)。L:大動脈管腔。元来の倍率、x200。**、P<0.001;***、P<0.0001。(b)第42日、すべてのラットを考慮した際、血栓内のMMP−9陽性面積および総血栓面積のサイズの間に正の相関があった(対照、白抜きの円;化合物(A)治療、黒塗りの円、R=0.79、P<0.0001)。
【図5−1】化合物(A)治療での動脈瘤壁内の壁在血栓のSMCコロニー形成および弾性層板の保持。(a)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤のオルセイン染色。矢印は、弾性層板を示す。弾性層板面積の定量化によって、第10日および第42日の両方で、化合物(A)治療(黒塗りのバー)の有益な効果が示された。
【図5−2】(b)第42日、対照(左)および化合物(A)治療ラット(右)由来の動脈瘤の壁在血栓内のSMC免疫染色。矢印は、血栓内のSMCを示す。第10日(中央のパネル)および第42日(下部のパネル)の壁在血栓内および壁内のSMCの密度は、どちらの群でも、第10日〜第42日の間に増加した。化合物(A)治療(黒塗りのバー)は、対照(白抜きのバー)に比較した際、42日後、SMCによる血栓コロニー形成を改善する一方、壁内では化合物(A)の効果はまったく観察不能であった。L:管腔;M:中膜;A:外膜。元来の倍率、x100。**、P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0020】
生物学的評価
血小板凝集
健康な雄Lewisラット(Iffa Credo、フランス・リヨン)に、化合物(A)(10mg/kg体重)の単回経口用量を投与した。2匹のラットから新鮮な静脈血を、化合物(A)投与前、ならびに投与2時間後、10時間後、および24時間後に試料採取し、そして周囲温度で、250gで3分間遠心分離した。先に記載されるように(Ecklyら、2001)、血小板リッチ血漿を調製した。450μlの血小板懸濁物を1100rpmで攪拌し、そして最終体積500μl中、5μM ADP(Sigma、フランス・サンカンタンファラビエ)の添加によって活性化した。二重チャネル血小板凝集計(Chrono−Log、米国ペンシルバニア州ウェストハーバータウン)中、比濁法によって、周囲温度で凝集を測定した。ベースラインを超える最大曲線高を測定することによって、凝集の度合いを概算した。
【0021】
AAAモデル
ラット大動脈において、ドデシル硫酸ナトリウム脱細胞化モルモット大動脈(異種マトリックス)のセグメントを移植することによって、実験的大動脈瘤を誘導した(Allaire E.ら(1994), J Vasc Surg 19:446−456)。このAAAモデルは、異種細胞外マトリックスの免疫炎症性損傷によって特徴付けられる(Allaire Eら(1997), Surgery 122:73−81; Allaire Eら(1996), Transplantation 62:794−803)。簡潔には、欧州連合によって策定された実験動物管理方針にしたがって、46匹の雄Lewisラット(250g)および46匹のモルモット(280g)(Iffa Credo、フランス・リヨン)を飼育した。ベントバルビタール(5mg/100g体重)の腹腔内注射によって、動物を麻酔した。モルモット腎臓下大動脈(1.5cm)を試料採取し、そしてドデシル硫酸ナトリウム処理によって脱細胞化して、損なわれていない(intact)細胞外マトリックスの管を得て、これを、10/0ナイロン結節縫合で、Lewisラットの大動脈内に同所性に移植した(異種移植)(Allaireら、1997; Allaireら、1996)。クランプを外した直後、双眼顕微鏡下で、移植片の最初の直径をin situで測定した。24時間後、ラットをランダムに2つの等しい群に分け、化合物(A)(10mg/kg体重、経口投与によって1日2回)または化合物(A)の希釈液(水中の1%カルボキシメチルセルロース/0.1%Tween−80)を10日間(第10日、各群に関してn=9)または6週間(第42日、各群に関してn=14)治療した。屠殺時、ラットを深く麻酔し、移植片直径を再び測定し、そして大動脈を切り出して、そして4%パラホルムアルデヒド中で固定した。大動脈試料をパラフィン中に包埋し、そして5μmでカットした。
【0022】
組織学的および免疫組織化学的分析
切片をピクロシリウスレッドで染色してコラーゲンおよびフィブリンを視覚化し、そしてオルセインで染色してエラスチンを視覚化した。一次抗体として、抗ヒトα−アクチン(希釈1:500、Dako、フランス・トラップ)、抗CD68(マクロファージ、希釈1:1000、Serotec、フランス・セルジーサンクリストフ)、抗ラット多核白血球(希釈1:3000、Cedarlane、カナダ・オンタリオ)、抗CD41(インテグリンαIIb、血小板、希釈1:50、Santa Cruz Biotechnologies)および抗MMP−9(希釈1:50、Calbiochem、ドイツ・ダルムシュタット)を、そして検出のため、ペルオキシダーゼVector ABCキット(Vector Labs、米国カリフォルニア州バーリンゲーム)を用いて、免疫組織化学を行った。顕微鏡接眼レンズ中のグリッドを用いて細胞を計数し、そして同じスライド上の4つの対称視野において平均した。Histolabソフトウェア(Microvision Instruments、フランス・エブリー)を用いた形態計測的分析によって、血栓、弾性線維、AAA壁、ならびにMMP−9およびCD41陽性染色に相当する面積サイズを測定した。シリウスレッドスライド上で、血栓面積を決定した。内部血栓および外部壁において、コンピュータプログラムの色検出モードによって、陽性染色によって占められる面積を定量化した。
【0023】
統計分析
結果を平均±S.D.で表す。直径増加パーセントを以下のように計算する:(回収時の直径−移植時の直径)x100/移植時の直径。ノンパラメトリックMann−Whitney U検定(Statview、バージョン4.5)を用いて、2つの群間の比較を行った。異なる群において直径が大きい動脈瘤の頻度を、Χ検定によって分析した。単純回帰分析を用いて、多様なパラメータ間の相関に関して検定した。P<0.05を有意と見なした。
【0024】
結果
動脈瘤直径
移植10日後(204.6±71.2%、n=9)および42日後(359.1±113.3%、n=14)、未治療対照ラットで観察される動脈瘤外径の増加によって示されるように、脱細胞化細胞外マトリックス異種移植片は動脈瘤に発展した(図1)。10日間の化合物(A)治療は、未治療ラットに比較した際、動脈瘤外径の増加を修飾しなかった(197.3±52.8%、n=9);平均動脈瘤外径は、2つの群間で同様であった(化合物(A)治療および対照ラットにおいて、それぞれ、2.22±0.56mm対2.22±0.70mm)(図1a、c)。しかし、治療42日後、平均動脈瘤外径は、化合物(A)治療群において、有意により低く(化合物(A)治療および対照ラットにおいて、それぞれ、3.61±1.46mm、n=14対5.21±1.22mm、n=14)、そして外径のパーセント増加は有意に減少した(図1b、c)。したがって、第10日〜第42日の間で、対照ラットにおいて動脈直径パーセント増加が観察されるが、化合物(A)群では減少しているような相違によって示されるように、化合物(A)治療は動脈瘤拡大を予防した(図1c)。さらに、化合物(A)治療群に比較した際に、第42日のより大きい動脈瘤(直径>4mm)の発生率は、対照群で優位であった(Χ=11.6、P<0.001)。
【0025】
壁在血栓形成
脱細胞化細胞外マトリックス異種移植片から発展する実験的動脈瘤は、先に記載されるように(Touatら、2006)、壁在血栓の存在によって特徴付けられる(図2a)。対照群において、血栓面積/壁面積の率は、第10日で0.22±0.14によって示され、そして第42日には0.78±0.89に増加した(図2b)。化合物(A)での治療は、第10日および第42日の両方で、血栓/壁面積を有意に減少させた(それぞれ、0.07±0.05および0.35±0.44)(図2b)。血栓面積中のこの相対的減少は、第42日の血栓内のCD41陽性面積(インテグリンαIIb、血小板マーカー)の有意な減少と関連した(化合物(A)治療および対照群ラットに関して、それぞれ、0.13±0.16および0.68±1.36、P=0.005)(図2c)。最後に、第42日、すべてのラットを考慮した際、血栓面積および動脈瘤直径間には有意な相関があった(R=0.25、P=0.0003)。群内分析によって、化合物(A)治療は、対照群と比較した際、相関の傾斜を有意に減少させることが示された(化合物(A):s=0.17、R=0.40;対照s=0.30、R=0.13)(図2c)ことから、化合物(A)による血小板活性化の阻害が実験的AAA進行を制限する証拠が提供された。
【0026】
炎症性浸潤
動脈瘤発展は、多核白血球(PMN)およびマクロファージを伴う炎症プロセスに関連する。どちらの炎症細胞も、壁在血栓内および動脈瘤壁内に存在した(図3)。しかし、PMNは壁在血栓内で見られるものがほとんどであり、ここではこれらが主な炎症細胞タイプであった。対照的に、マクロファージは壁内で優位であった。PMN密度は第10日〜第42日の間で減少したが、マクロファージ密度は増加した(図3)。化合物(A)治療は、第10日および第42日、壁在血栓内へのPMNおよびマクロファージの浸潤を有意に阻害した(図3)。動脈瘤壁内へのマクロファージ浸潤には変化はまったくなかった。
【0027】
動脈瘤におけるMMP−9発現および中膜において保持される弾性線維
MMP−9発現は、免疫染色によって明らかになり、血栓および動脈瘤壁両方において、対照ラットで検出された(図4a)。第42日、MMP−9陽性面積は、壁におけるよりも血栓内でより大きかった。化合物(A)治療は、血栓および壁両方において、MMP−9陽性面積を顕著に減少させた(図4a)。さらに、第42日、すべてのラットを考慮した際、血栓面積および血栓内のMMP−9発現間には有意な正の相関があった(R=0.79、P<0.0001)(図4b)。どちらの時点でも、化合物(A)治療に伴って、MMP−9発現減少を反映して、中膜の弾性線維の有意な保持が観察された(図5a)。第10日〜第42日の間、対照ラットにおいて、弾性線維によって占められる相対面積は一定のままであったが、化合物(A)治療ラットにおいては、弾性線維面積が非常に増加した(図5a)。
【0028】
壁在血栓のVSMCコロニー形成
SMCは、壁内および血栓内のα−アクチン陽性染色によって明らかになるように、脱細胞化移植片および壁に近接して発展する壁在血栓の部分にコロニー形成した(図5b)。さらに、SMCの密度は、壁内および血栓内の両方で、第10日から第42日に増加し、このモデルが、経時的な自発的治癒プロセスを開始する傾向がある証拠を提供した。10日間の化合物(A)治療では、対照に比較して、血栓内のSMC密度は修飾されなかったが、42日間の治療は、血栓のSMCコロニー形成を有意に改善した(図5b)。これは、シリウスレッド染色によって示されるように、コラーゲンの沈着と関連した(図2a)。対照的に、化合物(A)での治療は、10日後または42日後のいずれでも、壁のSMCコロニー形成に影響を及ぼさなかった(図5b)。
【0029】
結論
化合物(A)による血小板活性化の阻害を通じたAAA壁在血栓形成の予防によって、実験的AAA進行が制限された。血小板活性化を遮断し、そして壁在血栓形成を減少させることによって、化合物(A)は、血栓における白血球の補充およびそれに続くプロテアーゼの濃縮を減少させ、壁完全性の保持、および間葉細胞コロニー形成の増進によって明らかになるような治癒の開始を導いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹部大動脈瘤の治療方法または予防方法であって、薬学的および薬理学的に有効な量の式(I)
【化1】

(I)
[式中:
Rは、CHOHまたはO(CHOHであり;
は、3つのハロゲン原子により置換されていてもよいC3−4アルキルであり;
は、フェニルまたは3,4−ジフルオロフェニルである]
の化合物、
またはその薬学的に許容されうる誘導体、
またはその薬学的に許容されうる塩もしくは光学異性体
を前記治療または予防が必要な対象に投与する、前記方法。
【請求項2】
が、n−プロピル、3,3,3−トリフルオロプロピルまたはn−ブチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、3,4−ジフルオロフェニルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(I)の化合物が、{1S−[1α,2α,3β(1S,2R),5β]}−3−(7−{[2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ}−5−(プロピルチオ)−3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル)−5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン−1,2−ジオールである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
腹部大動脈瘤の治療または予防のための薬剤製造のための、式(I)
【化2】

(I)
[式中:
Rは、CHOHまたはO(CHOHであり;
は、3つのハロゲン原子により置換されていてもよいC3−4アルキルであり;
は、フェニルまたは3,4−ジフルオロフェニルである]
の化合物、またはその薬学的に許容されうる誘導体の使用。
【請求項6】
が、n−プロピル、3,3,3−トリフルオロプロピルまたはn−ブチルである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
が、3,4−ジフルオロフェニルである、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
式(I)の化合物が、{1S−[1α,2α,3β(1S,2R),5β]}−3−(7−{[2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ}−5−(プロピルチオ)−3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル)−5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン−1,2−ジオールである、請求項5に記載の使用。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公表番号】特表2011−505417(P2011−505417A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536888(P2010−536888)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051386
【国際公開番号】WO2009/072967
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】